(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744198
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】基板上に超電導層を形成するための方法及び装置
(51)【国際特許分類】
H01B 13/00 20060101AFI20150618BHJP
C01B 35/04 20060101ALI20150618BHJP
C01G 1/00 20060101ALI20150618BHJP
H01B 12/06 20060101ALN20150618BHJP
【FI】
H01B13/00 565Z
C01B35/04 CZAA
C01G1/00 S
!H01B12/06
【請求項の数】13
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2013-520016(P2013-520016)
(86)(22)【出願日】2011年5月16日
(65)【公表番号】特表2013-539157(P2013-539157A)
(43)【公表日】2013年10月17日
(86)【国際出願番号】EP2011057875
(87)【国際公開番号】WO2012010339
(87)【国際公開日】20120126
【審査請求日】2013年6月6日
(31)【優先権主張番号】102010031741.1
(32)【優先日】2010年7月21日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】390039413
【氏名又は名称】シーメンス アクチエンゲゼルシヤフト
【氏名又は名称原語表記】Siemens Aktiengesellschaft
(74)【代理人】
【識別番号】100075166
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 巖
(74)【代理人】
【識別番号】100133167
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 浩
(72)【発明者】
【氏名】アルント、タベア
【審査官】
井原 純
(56)【参考文献】
【文献】
特開2004−300572(JP,A)
【文献】
特開2004−063128(JP,A)
【文献】
特開2010−180436(JP,A)
【文献】
特表2005−515299(JP,A)
【文献】
特開平04−077302(JP,A)
【文献】
特開2002−235181(JP,A)
【文献】
Jun AKEDO,日本セラミック協会秋季シンポジウム講演予稿集,2003年,第16巻,第53頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01B 13/00
C01B 35/04
C01G 1/00
H01B 12/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MgB2粉末又はMg粉末及びB粉末の混合粉末とキャリアガスとから形成されるエアロゾルを用いたエアロゾル蒸着により基板(15)上にMgB2から成る超電導層を形成する、基板(15)上に超電導層を形成するための方法であって、
第1工程で、キャリアガスが、ガス透過性支持体(3)を通って、エアロゾルチャンバー(2)内に入り、ここで、この支持体(3)には粉末(4)が配置されており、この粉末は、キャリアガスが支持体(3)を通流する際に、微粒子状に吸収され、第2工程で、キャリアガス−粉末混合物が調整又は制御可能なノズル(9)を介して層被覆チャンバー(11)に導入され、その際、粉末(4)が、エアロゾル蒸着プロセスにより、層被覆チャンバー(11)内を連続的に移動する基板(15)に、析出されること、並びに、基板(15)をロール(16)から連続的に供与することを特徴とする方法。
【請求項2】
MgB2粉末又はMg粉末及びB粉末の混合粉末とキャリアガスとから形成されるエアロゾルを用いたエアロゾル蒸着により基板(15)上にMgB2から成る超電導層を形成する、基板(15)上に超電導層を形成するための方法であって、基板(15)をロール(16)から連続的に供与すること、並びに、MgB2粉末(4)又はMg粉末及びB粉末の混合粉末(4)がシャント材料と混合されたものであること、を特徴とする方法。
【請求項3】
帯状の基板(15)が用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
金属製の基板(15)が用いられることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
キャリアガスとして、ヘリウム、窒素又は空気が用いられることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
室温で実施されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
超電導層が1μm以上の層厚で作製されることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
層被覆チャンバー(11)内で実施されることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法であって、該層被覆チャンバーが、該層被覆チャンバー(11)の内部空間を該層被覆チャンバー(11)の周囲雰囲気から分離するための、少なくとも1つのエアロック(13,14)を有する方法。
【請求項9】
装置(1)内で実施され、該装置(1)が、装置(1)の周囲雰囲気に対し方法を気密に密閉するために、周囲に対し完全にカプセル化されていることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
エアロゾル蒸着に続いて、別の層被覆工程が行なわれることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
エアロゾル蒸着の直後に絶縁工程が実施されることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
時間的に前記第1の工程と前記第2の工程との間に、第3の工程が行われ、この第3の工程で、粉末(4)とキャリアガスとから成るエアロゾルがコンディショナー(8)内を流れ、このコンディショナー内で蒸着のために大きすぎる粉末粒子(4)が濾過されるか又は粉末粒子(4)の運動エネルギーの調和が行なわれることを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれか1項に記載の方法によって基板(15)上に超電導層を形成するための装置(1)であって、帯状基板(15)用の少なくとも1つの入口、超電導層で層被覆された帯状基板(15)用の少なくとも1つの出口、及び基板(15)をMgB2で層被覆するためのエアロゾル供給装置を備えた装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に超電導層を形成するための方法及び装置に関し、ここで、エアロゾル蒸着により基板上にMgB
2からなる超電導層が形成される。
【背景技術】
【0002】
超電導線材の技術的又は工業的使用に際しては、大抵の応用分野において長尺のものが必要とされる。この長さは、技術的のみならず費用的にも製作可能なものでなければならない。このことは、MgB
2材料から成る高温超電導体(HTS導体)の場合に、まさに難しいことである。
【0003】
本質的に、HTS導体に対しては2つの製作工程があり、その1つは、いわゆるパウダーインチューブ(PIT)法であり、もう1つは、例えば、化学蒸着(CVD)、金属有機化学蒸着(MOCVD)、パルスレーザー蒸着(PLD)、スパッタリング、熱蒸発法等の、薄膜蒸着法である。全ての薄膜蒸着法に共通することは、基板が高温状態にあることである。この高温状態は、方法自体、即ち、キャリア媒体の必要な反応速度論により規定されるか、又は層の成長反応速度論、例えば層における組織形成のための温度窓、により規定される。
【0004】
PIT法は、MgB
2に対しては、いわゆるEx−situ−又はIn−situ−ヴァリエーション法で適用される。Ex−situ法では、MgB
2相形成を線材の外側で行なう。In−situ−ヴァリエーション法では、成分が混合され線材内で初めて反応してMgB
2に成る。この場合にも、ヴァリエーション法は、例えば300〜700℃の、高温を必要とする。
【0005】
高温の故に、線材における銅(Cu)の使用を禁止するか又は拡散バリアを組み込むことが必要となる。銅は最も早く拡散する金属の1つであり、また、MgB
2はCuドーピングに対して、極めて鋭敏に反応する、即ち、劣化する、ので、銅は、超電導層では好ましくない。付加的に拡散バリアを設けることは、全体の電流密度を低下させ、超電導体からシャント材料への電流の移行を困難にする。しかし、エネルギー技術及び磁石技術の多くの応用分野では、十分良好に導電性のある連結されたシャント材料が求められている。
【0006】
超電導体材料における拡散バリア又は銅ドーピングは、望ましくない物理的影響をもたらすだけでなく、良好な超電導特性を有する線材の製造に対する技術的労力を大きくし、経費も増加させることになる。拡散バリアの使用により、線材又はケーブル製造における付加的な製造工程が必要となり、銅ドーピングは、運転中に電気的損失を大きくすることになり、或いは、多大な技術的労力により補償しなければならない。高い蒸着温度や析出温度は、製造工程のエネルギー消費をより高め、従って、より高価なものにさせる。
【0007】
エアロゾル蒸着法の使用により、室温近く又はほぼ室温で、即ち、25℃前後の温度で、超電導層の析出が可能になる。従来技術からは、マイクロメカニカルシステム、ディスプレイ、燃料電池、光学部品及び高周波応用装置に層被覆を形成するためのエアロゾル蒸着法が知られている。例えば非特許文献1には、マイクロエレクトロメカニカルシステム(MEMS)を製造するために、非連続基板上にエアロゾル蒸着を行なう方法が記載されている。上述の方法の欠点は、非連続基板の層被覆用に真空チャンバーを使用することである。この場合、基板は、チャンバー内で、加熱装置を備えた基板ホルダー上に載置され、場合によっては、基板の一部がマスクで覆われる。チャンバーは、真空密に密閉され、チャンバー内はポンプにより真空にされる。続いて、マスクとともに基板ホルダー上に取り付けられた基板が、エアロゾル蒸着法で、層被覆される。層被覆の終了後、層被覆された基板がチャンバーから取り出されるが、その際、基板は、層の特性を改良するために、予め加熱装置によって加熱されてもよい。
【0008】
上述の方法の欠点は、上述の構成によっては、非連続な基板を順次、即ち、時間間隔を置いて、層被覆することしかできず、基板のチャンバーへの装入、真空形成及び層被覆された基板のチャンバーからの取り出しに多大の時間とエネルギーを消費しなければならず、従って経費が高くなることである。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Journal of Thermal Spray Technology,第17巻(2)2008年6月、181頁以降 Jun Akedo “Room Temperature Impact Consolidation(RTIC) of Fine Ceramic Powder by Aerosol Deposition Method and Application to Microdevices”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
それ故、本発明の課題は、非連続に時間間隔を置いて次々と超電導材料を析出することを必要とせずに、僅かな労力と少ない費用で実施することが可能な、基板上に超電導層を形成するための方法及び装置を提供することにある。更なる課題は、僅かなエネルギー消費で確実に、例えば高温での銅の増幅された拡散による、超電導材料の汚染なしに、例えば帯状の材料の上に、超電導層を連続的に析出できることである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
この提示された課題は、基板上に超電導層を形成するための方法に関しては、
エアロゾル蒸着により基板(15)上にMgB2から成る超電導層を形成する、基板(15)上に超電導層を形成するための方法であって、1つの連続工程として実施されることを特徴とする方法により、上述の方法により基板上に超電導層を形成するための装置に関しては、
基板(15)上に超電導層を形成するための装置(1)であって、帯状基板(15)用の少なくとも1つの入口、及び超電導層で層被覆された帯状基板(15)用の少なくとも1つの出口、及び基板(15)をMgB2で層被覆するためのエアロゾル供給装置を備えた装置により、解決される。
【0012】
基板上に超電導層を形成するための方法及び上述の方法により基板上に超電導層を形成するための装置の、有利な形態は、従属請求項に明らかにされている。この場合、従属請求項の特徴は、互いに組み合わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、エアロゾル蒸着により基板15上に超電導層を形成するための本発明装置1の概略断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す装置1を完全にカプセル化した概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
基板上に超電導層を形成するための本発明による方法では、エアロゾル蒸着により、基板上にMgB
2から成る超電導層が形成される。この方法は、1つの連続工程として実施される。
【0015】
この方法により、長尺の超電導線材又はケーブルの製造が可能になる。エアロゾル蒸着には高真空が不要なので、労力及び経費を低く抑えることができる。室温範囲の低温により、僅かなエネルギー消費のもとに、また、例えば高温での銅の増幅された拡散による、超電導材料の汚染なしに、析出が可能になる。
【0016】
連続工程は、特に1つのロールから連続的に供給される基板を用いた、一貫工程として行なうことができる。ロールの代わりに、材料を別の形態の担体から繰り出してもよく又は担体なしにコイル状に供給してもよい。ロールの使用により、エアロゾル蒸着のための基板を、こんがらがったり縺れたりせずに、スムーズに導入することができる。
【0017】
基板は、帯の形態で供給されてもよく、極めて長い帯状基板では、例えば1つのロールから良好に繰り出すことができる。これにより、析出工程のための基板の連続的な供給が保証される。ここで、帯とは、特に矩形断面を有する、長尺のストライプ状の基板を指す。このような帯は、超電導材料を析出することのできる平坦な上面を有する。この上面は、特に側面よりも、非常に大きく広がっていてよい。
【0018】
金属製の基板、特に銅又は鋼から成る基板、を使用することができる。銅は、例えば超電導材料の欠陥個所をバイパスとして橋絡するために、良好な電気特性を有する。これに対し、鋼はより高い機械的安定性を有する。また、特に積層体又は合金として、材料を組み合わせることも可能である。
【0019】
超電導層は、MgB
2粉末から合成することができる。代替法として、超電導層は、Mg粉末とB粉末との混合粉末から作り、後で、即ち、エアロゾル蒸着後に、反応させてMgB
2にすることもできる。この場合、エアロゾル蒸着後、例えば800℃を超える温度範囲での、温度後処理が有効である。出発材料としてMgB
2を使用する場合にも、上述の温度後処理は、析出層の超電導特性又は電気的特性の改善に役立つ。例えば800℃を超える高温の温度工程を用いない製造は、同様に、エアロゾル蒸着法の使用により、可能であり、これにより、例えば超電導材料への銅の拡散による汚染なしに、銅と超電導材料との間に拡散バリア層を用いない銅基板の使用が可能となる。超電導層は、また、シャント材料、特にFeCr−Ni又はCu−Ni合金、と混合したMgB
2粉末並びに/又はMg粉末及びB粉末から作ることもできる。シャント材料は、超電導材料の欠陥個所の良好な電気的橋絡のために又は超電導結晶間の良好な電気的結合を保証する。
【0020】
エアロゾル形成及びエアロゾル蒸着用のキャリアガスとしては、ヘリウム、窒素又は空気が使用できる。この場合、窒素は、費用が安く、空気に比べて、方法に関与する物質の酸化の危険性を生じない。
【0021】
本発明方法は、基本的に、室温、特に25℃、で実施することができる。これにより、低廉な費用、僅少なエネルギー消費及び銅などの物質の超電導材料への拡散が僅かであるか皆無であり、従って、超電導材料の汚染がないなどの、上述の利点が生じる。これにより、例えば拡散バリア層を用いない基板として銅を使用することが初めて可能となる。
【0022】
超電導層は、1μm以上の層厚で形成できる。エアロゾル蒸着法は、スパッタリングなどの他の析出法と比較して、より厚い層を、特に短時間で低廉な費用で形成することができる。
【0023】
本発明方法は、少なくとも1つのエアロック、特に基板導入用のエアロック及び基板送出用のエアロック、即ち、層被覆チャンバーの内部空間を層被覆チャンバーの周囲雰囲気から分離するための2つのエアロック、を有する層被覆チャンバー内で実施することができる。これにより、所望の圧力下で、そして、例えば保護ガス雰囲気中で、作業を行なうことができ、及び/又は例えば周囲からの汚染物若しくは塵埃による汚染を回避することができる。エアロックによって、層被覆チャンバーは環境に対し密閉され、層を汚染なしに形成することができる。
【0024】
代替法として、本発明方法は、また、周囲に対して、特に装置の周囲雰囲気から方法を気密に密閉するために、完全にカプセル化された装置内で、実施することができる。この場合、装置は、基板の供給ロール及び/又は層被覆基板の巻取りロールをカプセル化された空間内に既に有していてもよく、これにより、基板及び層被覆基板のための連続的に駆動されるエアロックを省略することができる。しかし、また、エアロックは、例えば基板ロールを装置に装填するため、そして、完成した層被覆基板をロールから取外すために、使用することもできる。これらのロールは、上述の例で述べた連続的に機能するエアロックよりも、技術的に簡単に構成可能である。他の利点は上述の例と同様である。
【0025】
エアロゾル蒸着後に、別の層被覆工程、特に銅層及び/又はアルミニウム層を形成するための層被覆、を行なうことができる。この層は、超電導の崩壊時に通常の導電性を維持するために及び/又は超電導層の欠陥個所を電気的に橋絡するために、バイパスとして役立ちうる。この層は、また、更なる機械的安定性にも役立つ。これに続いて、絶縁工程が実施される。
【0026】
代替法として、エアロゾル蒸着の直後に絶縁工程を実施することも可能である。これにより、超電導ケーブル又は超電導線材は、更なる工程なしに仕上げられ、そして、周囲に対し電気絶縁される。
【0027】
基板上に超電導層を形成するための本発明方法の第1工程において、キャリアガスは、ガス透過性の支持体を通って、エアロゾルチャンバーに入るが、支持体上には、粉末が載置されており、粉末は、キャリアガスが支持体を通流する際に、粒子状に連行される。第2の工程において、キャリアガス−粉末混合物は、特に調整又は制御可能なノズル、特にスリット状のノズル、を通って、層被覆チャンバー内に導入され、粉末は、層被覆チャンバー内を連続的に移動する基板上に、エアロゾル蒸着法により、析出される。
【0028】
第1工程と第2工程の間に、時間的に、第3の工程を行なうことができ、この工程では、粉末とキャリアガスとから成るエアロゾルがコンディショナーを通流し、ここで蒸着用には大きすぎる粉末粒子がろ過され及び/又は粉末粒子の運動エネルギーの調和が行なわれる。これにより、形成された超電導層は、より均質な構造を有し、より良好な電気特性を有する。
【0029】
基板上に超電導層を形成するための本発明装置は、帯状基板のための少なくとも1つの入口と超電導層で層被覆された帯状基板のための少なくとも1つの出口とを有する層被覆チャンバーを備える。更に、この装置は、基板をMgB
2で層被覆するためのエアロゾルを供給するための装置を備えていてもよい。このような装置により、上述の方法が実施でき、その際、本発明方法の上述の利点が、同様に、装置に対しても当てはまる。
【0030】
本発明の有利な実施形態を、従属請求項の特徴による有利な構成とともに、以下図面に基づいて詳細に説明するが、これに限定されるものではない。
【0031】
図1には、エアロゾル蒸着により基板15上に超電導層を形成するための本発明装置1の概略断面図が示されている。この装置1により、前述の本発明の方法を実施することができる。
【0032】
装置1は、粉末4とキャリアガスとからエアロゾルを作るためのエアロゾルチャンバー2を有する。キャリアガスは、エアロゾルチャンバー2のキャリアガス導管5を介して導入される。キャリアガスとしては、例えば窒素が使用される。キャリアガスの流入量、従って、その圧力及び入口側の質量流量は、キャリアガス導管5に組み込まれたガス調節器6により調整又は制御される。キャリアガスは、入口7を通ってエアロゾルチャンバー2に流入する。入口7は、エアロゾルチャンバー2の下端に配置されている。エアロゾルチャンバー2内では、キャリアガスは、粉末を載置したガス透過性の支持体3を通って、下から上に流れる。粉末は、例えばMgB
2粒子からなる。キャリアガスは、ガス透過性の支持体3から、粉末を通って流れ、この通流によって粉末粒子を連行する。これにより、エアロゾルが形成される。キャリアガスと粒子とからなるエアロゾルは、エアロゾルチャンバー2から、上端から出口8を通って、出る。導管を介して連結されるか又はエアロゾルチャンバー2に直接的に、特に流密に、接続されて、コンディショナー9が配置される。エアロゾルは、コンディショナー9を通って流れ、このとき、大きすぎる粒子がろ過され、エアロゾル中に残る粒子の運動エネルギーの調和が行なわれる。本発明装置は、しかし、また、コンディショナー9なしでも構成可能である。これにより構造が簡単になるが、析出層は、この場合には均質性が低下し、電気特性、特に超電導特性、が劣る。
【0033】
エアロゾルは、コンディショナー9から、出口端がスリット状に形成されていてもよいノズル10を通って、層被覆チャンバー11内を、層被覆すべき基板15に向かって流れる。基板15は、例えば厚さがμm範囲で幅がmm範囲の鋼帯とすることができる。基板15は、しかし、また、例えば円形断面を有する線材などの、別の形状にすることも可能である。矩形断面を有する帯状の基板15(以下、単に「帯状基板15」と称する。)では、ノズル10の出口が帯状基板15の表面に向けられており、その表面の幅は数mmに拡がっているのに対し、帯状基板15の側面の幅は、μmの範囲にある。基板15のこの広い平坦な面は、エアロゾルの粒子が当たると、粒子材料、例えばMgB
2結晶粒子、で層被覆される。粉末粒子は、基板15に「粘着」又は付着して残り、基板15の一方の面に、連続的な超電導層を形成する。
【0034】
帯状基板15は、ロール16、即ち供給ロール、から連続的に繰り出され、入口エアロック13を通って層被覆チャンバー11内を移動し、ノズル10を通過して出口エアロック14を通って層被覆チャンバー11から出て、ロール17、即ち、巻取りロールに再び巻き取られる。両ロール16,17は同じように駆動され、同じ回転方向及び同じ回転速度で動かすことができる。代替法として、一方のロール、例えば巻取りロール17、だけを駆動し、帯状基板15を引張力により供給ロール16から繰り出すか、又は、供給ロール16を駆動してその加圧力により、基板15を巻取りロール17に巻き取らせることも可能である。
【0035】
均質な超電導層、即ち、基板15の一方の面全体に亘って均一の厚さを有する超電導層、を形成するためには、基板15の送り速度、即ち、ロール16,17の周回速度、を全層被覆工程中、一定にする必要がある。ノズル10は、エアロゾルを均一流速で放出しなければならず、エアロゾル中の粒子の数及び大きさを、変動しないように又は著しく変動しないようにする必要がある。また、スリット状のノズル10を使用することも有利であり、この場合には、スリットの長手方向は、基板15の層被覆すべき面の幅方向及び表面に平行になるように配置される。また、均質層の形成は、エアロゾルをスリットの全長に亘って均一に放出し、スリットに対向する帯状基板15の表面に均一に析出させることによっても、促進される。
【0036】
所望ならば、
図1に示すように、層被覆チャンバー11に排気口12を設け、これを介してチャンバー11及び/又はエアロック13,14を排気することができる。代替法として、開口12を介して保護ガス、例えば窒素、を導入することもできる。これにより、層被覆チャンバー11内に、負圧から真空まで作ることも、又は保護ガス雰囲気を作ることもできる。周囲空気の粒子又は成分による超電導層の汚染は、このようにして排除することができる。また、エアロゾル中の粒子成分の酸化、従って超電導層の酸化、を回避することもできる。
【0037】
しかし、また、排気口12及び/又はエアロック13,14を設けない、より簡単な構造も可能である。エアロゾルの析出及び超電導層の形成に際し、周囲空気の影響が障害とならなければ、層被覆チャンバー11自体も、場合によっては、必要ではない。真空化は、勿論、有利であるが、高真空化は不要である。本方法は、大気圧又は周囲圧のもとでも適用可能である。
【0038】
図2には、本発明装置1の代替的な実施形態が示されている。装置1は、
図1に示した装置1と同様に構成されているが、それに加えて、供給ロール16及び巻取りロール17が完全にカプセル化されている。従って、装置全体の内部空間は気密に密閉可能であり、例えば排気エアロック12を介して、前述のように排気可能に又は保護ガス充填可能にされている。超電導層で層被覆された基板15の塵埃及び汚染粒子による酸化又は汚染は、カプセル18により、供給及び巻取りの際にも排除される。ロール16,17全体を装置に取り込み又は装置から取外しするために別のエアロック(図示していない)を設けることもできる。
【0039】
上述した実施態様は、組み合わせることも可能である。例えばロール17だけをカプセル化し、帯状基板15を、ロール16からエアロックを介して、層被覆チャンバー11に導入することもできる。装置の完全カプセル18を用いる場合には、基板15を層被覆チャンバー11に導入及び導出するためのエアロック13、14を省略することも可能である。
【0040】
上述の本発明方法及びこの方法を実施するための装置は、例えば帯状の基板を、MgB
2の超電導層で、かなりの長さに亘って、均質に層被覆することを可能にする。例えば帯状基板は、数cmから数百mの範囲の長さを有することができる。帯状基板の全長に亘って均一な厚さで均一の電気特性を有する析出層を、室温で製造することができる。また、例えば銅から成り、帯状基板と超電導層との間に拡散バリアとしての中間層を必要としない、超電導層を有する帯状基板の新しい構造も可能である。低い析出温度及び析出時の圧力比が殆ど要求されない(高真空を必要としない)ことから、例えばスパッタリングのような従来の工程に比して、エネルギーの節約を図ることができる。この方法により、厚い層を高生産性で、即ち、短時間で、製造することができる。
【符号の説明】
【0041】
1 本発明装置
2 エアロゾルチャンバー
3 ガス透過性支持体
4 超電導粒子粉末
5 キャリアガス導管
6 ガス調節器
7 入口
8 出口
9 コンディショナー
10 ノズル
11 層被覆チャンバー
12、13、14 エアロック
15 帯状基板
16 供給ロール
17 巻取りロール
18 カプセル