(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B含有量(原子%)に対するFe含有量(原子%)の比(Fe/B)が13〜16であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
B/TRE(Bはボロン元素の濃度(原子%)、TREは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。)が0.355〜0.38であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載のR−T−B系希土類焼結磁石用合金。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
〔第1の実施形態〕
「R−T−B系希土類焼結磁石用合金」
本実施形態のR−T−B系希土類焼結磁石用合金(以下、「R−T−B系合金」と略記する)は、成形して焼結することにより、R
2Fe
14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、粒界相が、Rリッチ相と、Rリッチ相よりも希土類元素濃度が低く遷移金属元素濃度が高い粒界相である遷移金属リッチ相とを含む、本発明のR−T−B系希土類焼結磁石(以下、「R−T−B系磁石」と略記する。
)が得られるものである。
本実施形態において、Rリッチ相は、希土類元素であるRの合計原子濃度が70原子%以上の相である。遷移金属リッチ相は、希土類元素Rの合計原子濃度が25〜35原子%の相である。遷移金属リッチ相は、Feを必須とする遷移金属であるTを50〜70原子%含むものであることが好ましい。
【0020】
本実施形態のR−T−B系合金は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属を含む金属元素Mと、Bおよび不可避不純物からなり、Rを13〜15原子%含み、Bを4.5〜6.2原子%含み、Mを0.1〜2.4原子%含み、Tが残部であるR−T−B系合金であって、下記(式1)を満たすものである。また、本実施形態のR−T−B系合金は、全希土類元素中のDyの割合が0〜65原子%である合金である。
【0021】
0.0049Dy+0.34≦B/TRE≦0.0049Dy+0.36・・(式1)
(式1)において、DyはDy元素の濃度(原子%)、Bはボロン元素の濃度(原子%)、TREは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。
【0022】
R−T−B系合金に含まれるRの含有量が13原子%未満であると、これを用いて得られたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる。また、Rの含有量が15原子%を超えると、これを用いて得られたR−T−B系磁石の残留磁化が低くなり磁石として不適合になる。
R−T−B系合金の全希土類元素中のDyの含有量は0〜65原子%とされている。本実施形態においては、遷移金属リッチ相を含むことにより、保磁力を向上させているので、Dyを含まなくても良いし、Dyを含む場合でも65原子%以下の含有量で充分に高い保磁力向上効果が得られる。
【0023】
R−T−B系合金のDy以外の希土類元素としては、Sc、Y、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Ho、Er、Tm、Yb、Luが挙げられ、中でも特に、Nd、Pr、Tbが好ましく用いられる。また、R−T−B系合金のRは、Ndを主成分とすることが好ましい。
【0024】
また、R−T−B系合金に含まれるBは、ホウ素であり、一部をCまたはNで置換できる。B含有量は4.5原子%以上、6.2原子%以下であり、かつ上記(式1)を満たしている。Bの含有量は、4.8原子%以上であることがより好ましく、5.5原子%以下であることがより好ましい。R−T−B系合金に含まれるBの含有量が4.5原子%未満であると、これを用いて得られたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる。Bの含有量が上記(式1)の範囲を超えると、遷移金属リッチ相の生成量が不十分となり、保磁力が十分に向上しない。
【0025】
本実施形態のR−T−B系合金は、R
2Fe
14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む合金粒界相とを備えている。合金粒界相は、電子顕微鏡の反射電子像で観測できる。合金粒界相には、実質的にRのみからなるものと、R−T−Mを含むものとが存在する。
本実施形態のR−T−B系合金において、合金粒界相の間隔を3μm以下とするには、R−T−B系合金に含まれるB含有量を、5.0原子%以上、6.0原子%以下とする。
B含有量を上記範囲とすることで、合金組織の粒径が微細化されて粉砕性が向上し、これを用いて製造されたR−T−B系磁石において粒界相が均一に分布され、優れた保磁力が得られる。より粉砕性に優れ、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が得られるようにするためには、Bの含有量を5.5原子%以下とすることが好ましい。しかし、R−T−B系合金に含まれるBの含有量が5.0原子%未満である場合、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が急激に広くなり、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が得られにくくなる。また、R−T−B系合金に含まれるBの含有量が増大するのに伴って、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が広くなり、合金粒子が大きくなる。また、Bが過剰となることで焼結磁石中にBリッチ相が含まれる。このため、Bの含有量が6.0原子%を超えた場合、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる恐れがある。
【0026】
また、合金組織の粒径を微細化し、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力を向上させるために、R−T−B系合金に含まれるB含有量に対するFe含有量の比(Fe/B)は13〜16であることが好ましい。また、Fe/Bが13〜16である場合、R−T−B系合金の製造工程および/またはR−T−B系磁石の製造工程において遷移金属リッチ相の生成が効果的に促進されるものとなる。しかし、Fe/Bが16を超えると、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が急激に広くなり、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が得られにくくなる。
また、Fe/Bが13未満になると、Fe/Bが減少するのに伴って、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が広くなり、合金粒子が大きくなる。このため、Fe/Bが13未満である場合、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる恐れがある。
【0027】
また、合金組織の粒径を微細化して、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力を向上させるために、B/TREが0.355〜0.38とされていることが好ましい。より粉砕性に優れ、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が得られるように、B/TREは0.36以下であることがより好ましい。B/TREが0.355未満である場合、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が急激に広くなり、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が得られにくくなる。また、B/TREが増大するのに伴って、R−T−B系合金の隣接する合金粒界相間の間隔が広くなり、合金粒子が大きくなる。このため、B/TREが0.38を超えた場合、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力が不十分となる恐れがある。
【0028】
また、R−T−B系合金に含まれるTは、Feを必須とする遷移金属である。R−T−B系合金のTに含まれるFe以外の遷移金属としては、種種の3〜11族元素を用いることができる。R−T−B系合金のTがFe以外にCoを含む場合、Tc(キュリー温度)を改善することができ好ましい。
【0029】
図1は、Dy=0原子%の合金を用いて作製した焼結磁石の、B/TRE(希土類元素合計の濃度)とHcj(保磁力)との関係をプロットしたものである。
図1では、B/TRE=0.35のときに保磁力が最大となっている。
図2は、Dy=3.8原子%の合金を用いて作製した焼結磁石の、B/TRE(希土類元素合計の濃度)とHcj(保磁力)との関係をプロットしたものである。
図2では、B/TRE=0.37のときに保磁力が最大となっている。
図3はDy=8.2原子%の合金を用いて作製した焼結磁石の、B/TRE(希土類元素合計の濃度)とHcj(保磁力)との関係をプロットしたものである。
図3では、B/TRE=0.39のときに保磁力が最大となっている。
【0030】
保磁力が最大になる点のDy濃度とB/TREとの関係をプロットすると、
図4のようになる。
図4の直線から、下記の式が導かれる。
B/TRE=0.0049Dy+0.35・・・(式2)
保磁力が最大値から最大値の90%未満に低下するB/TREの幅は、
図2及び
図3から、最大値の±0.01の外側の範囲であることがわかる。つまり、上記(式2)の−0.01以上、+0.01以下の範囲内であれば、最大保磁力の90%以上の保磁力が得られることになる。この範囲を適正なB/TREとすれば、適正なB/TREの範囲は次式(式1)となる。
0.0049Dy+0.34≦B/TRE≦0.0049Dy+0.36・・(式1)
【0031】
上記(式1)を満たす合金は、従来のR−T−B系合金よりもFe濃度が高くB濃度が低いものとなる。
図5はR-T-B系3元状態図である。
図5において、縦軸はBの濃度を示し、横軸はNdの濃度を示しており、
図5におけるBおよびNdの濃度が低いほど、Fe濃度が高くなることを示している。通常は塗り潰された領域内の組成(例えば、
図5において黒塗りの符号△で示される組成)で合金を鋳造し、主相とRリッチ相とからなるR−T−B系磁石を作製している。しかし、上記(式1)を満たす本発明のR−T−B系合金の組成は、
図5において○で示すように、上記の領域から低B濃度側にはずれた領域にある。
【0032】
上記(式1)を満たすR−T−B系合金を作製するとR
2T
17相が合金中に生成しやすくなる。R
2T
17相は、R−T−B系磁石の保磁力や角形性を低下させる原因となることが知られており、通常、R
2T
17相が生成しない条件でR−T−B系合金が製造される。しかしながら、本発明においては、R
2T
17相は、R−T−B系合金の製造工程および/またはR−T−B系磁石の製造工程において遷移金属リッチ相の原料となるものと考えられる。
【0033】
本発明のR−T−B系合金は、R
2T
17相を含む領域の面積率が0.1〜50%のものであることが好ましく、0.1〜25%のものであることがより好ましい。R
2T
17相を含む領域の面積率が上記範囲である場合、遷移金属リッチ相の生成が効果的に促進され、遷移金属リッチ相を十分に含む保磁力の高いR−T−B系磁石が得られる。R
2T
17相を含む領域の面積率が50%以上であると、R−T−B系磁石の製造工程においてR
2T
17相を完全に消費することができず、R−T−B系磁石の保磁力や角形性が低下する場合がある。
さらに、本実施形態のR−T−B系合金では、R
2T
17相を含む領域の面積率が0.1〜50%である場合、非常に優れた粉砕性が得られる。R
2T
17相は、R
2T
14B相と比較して脆いものであるため、本発明のR−T−B系合金がR
2T
17相を含む領域を面積率で0.1〜50%含む場合、容易に粉砕されて粒径2μm程度の微粒子とすることができる。
【0034】
R
2T
17相を含む領域の面積率は、R−T−B系合金となる鋳造合金薄片の断面を顕微鏡観察することによって求められる。具体的には次のような手順で求められる。
鋳造合金薄片を樹脂に埋込み、鋳造合金薄片の厚さ方向に削りだし、鏡面研磨した後、導電性を付与するために金あるいは炭素を蒸着して観察試料とする。この試料を走査電子顕微鏡で倍率を300倍あるいは350倍として反射電子像を撮影する。
【0035】
図6に一例として表1に示す合金Fの断面の350倍で撮影した反射電子像を示す。この像には、灰色のR
2T
14B相と、白い線状のRリッチ相とが観察されている。このほかに、点状のRリッチ相が観察される領域がある(白線で囲まれた領域)。本願ではこの領域をR
2T
17相を含む領域と称する。この面積が断面写真中のどれだけの比率を占めるかをR
2T
17相を含む領域の面積率と称する。
図7はR
2T
17相生成領域の高倍率の写真である。ここでコントラストを強調すると上記R
2T
17相生成領域には、黒い点状のR
2T
17相(2−17相)、白色のRリッチ相および灰色の主相(2−14−1相)が生成していることが分かる。
【0036】
本実施形態のR−T−B系合金に含まれる金属元素Mは、R−T−B系合金の製造時に行われる鋳造合金薄片の冷却速度を一時的に遅くする工程(後述する鋳造合金の温度保持工程)や、R−T−B系磁石を製造するための焼結および熱処理の際に、遷移金属リッチ相の生成を促進するものであると推定される。金属元素Mは、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属を含むものであり、R−T−B系合金に0.1〜2.4原子%含まれている。
本実施形態のR−T−B系合金は、金属元素Mが0.1〜2.4原子%含まれているものであるので、これを焼結することで、Rリッチ相と遷移金属リッチ相とを含むR−T−B系磁石が得られる。
【0037】
金属元素Mに含まれるAl、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属は、他の磁気特性に支障を来たすことなく、鋳造合金の温度保持工程の際や、R−T−B系磁石の焼結および熱処理の際に遷移金属リッチ相の生成を促進させて保磁力(Hcj)を効果的に向上させる。
【0038】
金属元素Mが0.1原子%未満であると、遷移金属リッチ相の生成を促進させる効果が不足して、R−T−B系磁石に遷移金属リッチ相が形成されず、R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)を十分に向上させることができない恐れがある。また、金属元素Mが2.4原子%を超えると、R−T−B系磁石の磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性が低下する。金属元素Mの含有量は0.7原子%以上であることがより好ましく、1.4原子%以下であることがより好ましい。
【0039】
R−T−B系合金中にCuが含まれる場合、Cuの濃度は、0.07〜1原子%であることが好ましい。Cuの濃度が0.07原子%未満の場合は、磁石が焼結しにくくなる。
また、Cuの濃度が1原子%を超える場合は、R−T−B系磁石の磁化(Br)が低下するので好ましくない。
【0040】
本実施形態のR−T−B系合金は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属を含む金属元素Mと、Bの他に、さらにSiを含むものであってもよい。R−T−B系合金中にSiが含まれる場合、Si含有量は0.7〜1.5原子%の範囲であることが好ましい。Siを上記範囲内で含有させることにより、保磁力がより一層向上する。Si含有量が0.7原子%未満であっても1.5原子%を超えても、Siを含有させることによる効果が低下する。
【0041】
また、R−T−B系合金中に含まれる酸素と窒素と炭素の合計濃度が高いと、後述するR−T−B系磁石を焼結する工程において、これら元素と希土類元素Rとが結合して希土類元素Rが消費される。このため、R−T−B系合金中に含まれる希土類元素Rのうち、焼結してR−T−B系磁石とした後の熱処理において、遷移金属リッチ相の原料として利用される希土類元素Rの量が少なくなる。その結果、遷移金属リッチ相の生成量が少なくなり、R−T−B系磁石の保磁力が不十分となる恐れがある。したがって、本実施形態においては、R−T−B系合金中に含まれる酸素と窒素と炭素の合計濃度は0.5wt%以下であることが好ましい。上記の合計濃度を上記の濃度以下にすることで、希土類元素Rが消費されるのを抑制して保磁力(Hcj)を効果的に向上させることができる。
【0042】
「R−T−B系合金の製造方法」
本発明のR−T−B系合金は、例えば、SC(ストリップキャスト)法により、例えば、1450℃程度の温度の所定の組成の合金溶湯を鋳造して鋳造合金薄片を製造する。この時、鋳造後の鋳造合金薄片の冷却速度を700〜900℃で一時的に遅くして合金内の成分の拡散を促す処理(温度保持工程)を行っても良い。
その後、得られた鋳造合金薄片を、水素解砕法などにより解砕し、粉砕機により粉砕することによってR−T−B系合金が得られる。
【0043】
本実施形態においては、本発明のR−T−B系合金を製造する方法の一例として、
図11に示す製造装置を用いて製造する方法について説明する。
(合金の製造装置)
図11は、合金の製造装置の一例を示す正面模式図である。
図11に示す合金の製造装置1は、鋳造装置2と、破砕装置21と、破砕装置21の下方に配置された加熱装置3と、加熱装置3の下方に配置された貯蔵容器4とを備えている。
【0044】
破砕装置21は、鋳造装置2によって鋳造された鋳造合金塊を破砕して鋳造合金薄片にするものである。
図11に示すように、破砕装置21と開閉式ステージ群32との間には、鋳造合金薄片を加熱装置3の開閉式ステージ群32上に案内するホッパ7が備えられている。
【0045】
加熱装置3は、加熱ヒータ31とコンテナ5とから構成されている。コンテナ5は、貯蔵容器4と、貯蔵容器4の上部に設置された開閉式ステージ群32とを備えている。開閉式ステージ群32は、複数の開閉式ステージ33からなるものである。開閉式ステージ33は、「閉」のときに破砕装置21から供給された鋳造合金薄片を載置させ、「開」のときに鋳造合金薄片を貯蔵容器4に送出させるものである。
また、製造装置1にはコンテナ5を可動自在にするベルトコンベア51(可動装置)が備えられており、ベルトコンベア51によってコンテナ5が
図11中の左右方向に移動できるようになっている。
【0046】
また、
図11に示す製造装置1には、チャンバ6が備えられている。チャンバ6は、鋳造室6aと、鋳造室6aの下方に設置されて鋳造室6aと連通する保温・貯蔵室6bとを備えている。鋳造室6aには鋳造装置2が収納され、保温・貯蔵室6bには加熱装置3が収納されている。
【0047】
本実施形態においてR−T−B系合金を製造するには、まず、図示しない溶解装置において1450℃程度の温度の所定の組成の合金溶湯を調製する。次いで、得られた合金溶湯を、図示しないダンディッシュを用いて鋳造装置2の水冷銅ロールからなる冷却ロール22に供給して凝固させ、鋳造合金とする。その後、鋳造合金を冷却ロール22から離脱させ、破砕装置21の破砕ロールの間を通して破砕することにより、鋳造合金薄片とする。
破砕された鋳造合金薄片は、ホッパ7を通過して、ホッパ7の下に配置された開閉式ステージ群32の「閉」の状態とされた開閉式ステージ33上に堆積される。開閉式ステージ33上に堆積された鋳造合金薄片は、加熱ヒータ31によって加熱される。
【0048】
本実施形態においては、製造された800℃超の鋳造合金が500℃未満の温度となるまでの間に、10秒〜120秒間一定の温度で維持する温度保持工程を行う。本実施形態では、開閉式ステージ33上に800℃〜500℃の温度範囲内の鋳造合金薄片が供給され、鋳造合金薄片が開閉式ステージ33上に堆積された時点から加熱ヒータ31による加熱が開始される。このことによって、鋳造合金を一定の温度で10秒〜120秒間維持する温度保持工程が開始される。
【0049】
そして、開閉式ステージ33上に堆積された鋳造合金薄片は、所定の時間が経過した時点で、開閉式ステージ33が「開」の状態とされて貯蔵容器4に落下される。このことにより、加熱ヒータ31の熱が鋳造合金薄片に到達しなくなり、鋳造合金薄片の冷却が再開され、温度保持工程が終了する。
【0050】
温度保持工程を行った場合、鋳造合金に含まれる元素が鋳造合金内で移動する元素の再配置により、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属を含む金属元素Mと、Bとの成分の入れ替えが促されると推定される。このことにより、合金粒界相となる領域に含まれていたBの一部が主相へと移動し、主相となる領域に含まれていた金属元素Mの一部が合金粒界相へと移動すると推定される。これにより、主相本来の磁石特性を発揮することができるので、これを用いたR−T−B系磁石の保磁力が高くなると推定される。
【0051】
温度保持工程における鋳造合金の温度が800℃超である場合、合金組織が粗大化する恐れがある。また、一定の温度で維持する時間が120秒を超える場合、生産性に支障を来す場合がある。
また、温度保持工程における鋳造合金の温度が500℃未満である場合や一定の温度で維持する時間が10秒未満である場合、温度保持工程を行うことによる元素の再配置の効果が充分に得られない場合がある。
【0052】
なお、本実施形態においては、800℃〜500℃の温度範囲内で開閉式ステージ33上に堆積された鋳造合金薄片を加熱ヒータ31で加熱する方法により温度保持工程を行ったが、温度保持工程は、800℃超の鋳造合金が500℃未満の温度となるまでの間に、10秒〜120秒間一定の温度で維持することができればよく、この方法に限定されない。
【0053】
また、本実施形態のR−T−B系合金の製造方法においては、R−T−B系合金を製造するチャンバ6内を不活性ガスの減圧雰囲気とすることが好ましい。さらに、本実施形態においては、鋳造工程の少なくとも一部を、ヘリウムを含む雰囲気中で行うことが好ましい。ヘリウムはアルゴンと比較して鋳造合金から抜熱する能力が高く、鋳造合金の冷却速度を容易に速くすることができる。
【0054】
鋳造工程の少なくとも一部を、ヘリウムを含む雰囲気中で行う方法としては、例えば、チャンバ6の鋳造室6a内に所定の流量で不活性ガスとしてヘリウムを供給する方法が挙げられる。この場合、鋳造室6a内がヘリウムを含む雰囲気となるので、鋳造装置2によって鋳造され、冷却ロール22によって急冷されている鋳造合金における冷却ロール22と接触していない面を効率よく冷却できる。したがって、鋳造合金の冷却速度が速くなり、合金組織の粒径が微細化され、粉砕性に優れるものとなり、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が容易に得られ、これを用いて製造されたR−T−B系磁石の保磁力を向上させることができる。また、鋳造室6a内を、ヘリウムを含む雰囲気とした場合、鋳造合金の冷却速度が速くなるので、開閉式ステージ33上に堆積される鋳造合金薄片の温度を、容易に800℃以下にすることができる。
【0055】
また、本実施形態のR−T−B系合金の製造方法においては、温度保持工程後の鋳造合金薄片を、ヘリウムを含む雰囲気中で冷却することが好ましい。このことにより、温度保持工程後の鋳造合金である鋳造合金薄片の冷却速度が速くなるので、より一層合金組織が微細化され、粉砕性に優れ、合金粒界相の間隔が3μm以下の微細な合金組織が容易に得られる。温度保持工程後の鋳造合金薄片を、ヘリウムを含む雰囲気中で冷却する方法としては、例えば、開閉式ステージ33から落下された鋳造合金薄片の収容される貯蔵容器4内に所定の流量でヘリウムを供給する方法が挙げられる。
【0056】
なお、本実施形態においては、SC法を用いてR−T−B系合金を製造する場合について説明したが、本発明において用いられるR−T−B系合金は、SC法を用いて製造されるものに限定されるものではない。例えば、R−T−B系合金は、遠心鋳造法、ブックモールド法などを用いて鋳造してもよい。
【0057】
水素解砕法は、例えば、室温で鋳造合金薄片に水素を吸蔵させ、300℃程度の温度で水素中で熱処理した後、減圧して水素を脱気し、その後、500℃程度の温度で熱処理して鋳造合金薄片中の水素を除去するという手順で行われる。水素解砕法において水素が吸蔵された鋳造合金薄片は、体積が膨張するので、合金内部に容易に多数のひび割れ(クラック)が発生し、解砕される。
また、水素解砕された鋳造合金薄片を粉砕する方法としては、ジェットミルなどが用いられる。水素解砕された鋳造合金薄片をジェットミル粉砕機に入れ、例えば0.6MPaの高圧窒素を用いて平均粒度1〜4.5μmに微粉砕して粉末とする。粉末の平均粒度を小さくした方が、焼結磁石の保磁力を向上させることができる。しかし、粒度をあまり小さくすると、粉末表面が酸化されやすくなり、逆に保磁力が低下してしまう。
【0058】
「R−T−B系希土類焼結磁石の製造方法」
次に、このようにして得られた本実施形態のR−T−B系合金を用いてR−T−B系磁石を製造する方法を説明する。
本実施形態のR−T−B系磁石を製造する方法としては、例えば、本実施形態のR−T−B系合金の粉末に、潤滑剤として0.02質量%〜0.03質量%のステアリン酸亜鉛を添加し、横磁場中成型機などを用いてプレス成形して、真空中で焼結し、その後、熱処理する方法などが挙げられる。
【0059】
焼結を800℃〜1200℃、より好ましくは900℃〜1200℃で行った後、400℃〜800℃で熱処理を行った場合、R−T−B系磁石に遷移金属リッチ相がより一層生成されやすくなり、より一層保磁力の高いR−T−B系磁石が得られる。
本実施形態においては、上記(式1)を満たすことによってR−T−B系合金中にR
2T
17相が生成されている。R
2T
17相は、R−T−B系合金を焼結してR−T−B系磁石とした後の熱処理において、遷移金属リッチ相の原料として使用されると推測される。
【0060】
焼結を800℃〜1200℃、より好ましくは900℃〜1200℃で行った後、400℃〜800℃で熱処理を行った場合、R−T−B系磁石に遷移金属リッチ相がより一層生成されやすくなり、より一層保磁力の高いR−T−B系磁石が得られる。
本実施形態においては、上記(式1)を満たすことによってR−T−B系合金中にR
2T
17相が生成されている。R
2T
17相は、R−T−B系合金を焼結してR−T−B系磁石とした後の熱処理において、遷移金属リッチ相の原料として使用されると推測される。
【0061】
本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法では、R−T−B系合金として、B含有量が上記(式1)を満たし、金属元素Mを0.1〜2.4原子%含むものを用いているので、R
2Fe
14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%の遷移金属リッチ相とを含む本発明のR−T−B系磁石が得られる。
【0062】
さらに、本実施形態のR−T−B系合金に含まれる金属元素の種類や使用量、R
2T
17相を含む領域の体積率、R−T−B系合金の組成を本発明の範囲で調節するとともに、焼結温度や焼結後の熱処理などの条件を調整することにより、R−T−B系磁石における遷移金属リッチ相の体積率を0.005〜3体積%の好ましい範囲に容易に調節できる。
そして、R−T−B系磁石における遷移金属リッチ相の体積率を調整することによって、Dyの含有量を抑制しつつ、用途に応じた所定の保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。
【0063】
また、本発明のR−T−B系磁石において得られる保磁力(Hcj)を向上させる効果は、粒界相中にFeを高濃度で含む遷移金属リッチ相が形成されていることによるものと推定される。本発明のR−T−B系磁石に含まれる遷移金属リッチ相の体積率は、0.005〜3体積%であることが好ましく、0.1%〜2体積%であることがより好ましい。
遷移金属リッチ相の体積率が上記範囲内であると、粒界相中に遷移金属リッチ相が含まれていることによる保磁力向上効果が、より一層効果的に得られる。これに対し、遷移金属リッチ相の体積率が0.1体積%未満であると、保磁力(Hcj)を向上させる効果が不十分となる恐れが生じる。また、遷移金属リッチ相の体積率が3体積%を超えると、残留磁化(Br)や最大エネルギー積((BH)max)が低下するなど磁気特性に悪影響を及ぼすため、好ましくない。
【0064】
遷移金属リッチ相中のFeの原子濃度は、50〜70原子%であることが好ましい。遷移金属リッチ相中のFeの原子濃度が上記範囲内であると、遷移金属リッチ相が含まれていることによる効果が、より一層効果的に得られる。これに対し、遷移金属リッチ相のFeの原子濃度が上記範囲未満であると、粒界相中に遷移金属リッチ相が含まれていることによる保磁力(Hcj)向上効果が、不十分となる恐れが生じる。また、遷移金属リッチ相のFeの原子濃度が上記範囲を超えると、R
2T
17相あるいはFeが析出して磁気特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0065】
本発明においては、R−T−B系磁石の遷移金属リッチ相の体積率は、以下に示す方法により調べる。まず、R−T−B系磁石を導電性の樹脂に埋込み、配向方向に平行な面を削りだし、鏡面研磨する。次いで、鏡面研磨した表面を反射電子像にて1500倍程度の倍率で観察し、そのコントラストにより主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相を判別する。その後、遷移金属リッチ相について断面あたりの面積率を算出し、さらにこれが球状であると仮定して体積率を算出する。
【0066】
本実施形態のR−T−B系磁石は、B/TRE含有量が上記(式1)を満たし、金属元素Mを0.1〜2.4原子%含むR−T−B系合金を成形して焼結してなるものであり、粒界相が、Rリッチ相と遷移金属リッチ相とを含み、遷移金属リッチ相は、Rリッチ相より希土類元素の合計原子濃度が低く、Rリッチ相よりFeの原子濃度が高いものであるので、Dyの含有量を抑制しつつ、高い保磁力を有し、モーターに好適に用いられる優れた磁気特性を有するものとなる。
【0067】
なお、本実施形態においては、焼結後のR−T−B系磁石の表面に、Dy金属もしくはDy化合物を付着させて熱処理し、Dyを焼結磁石内部に拡散させることにより、焼結磁石表面のDy濃度が内部のDy濃度よりも高いR−T−B系磁石とし、さらに保磁力を向上させてもよい。
焼結磁石表面のDy濃度が内部のDy濃度よりも高いR−T−B系磁石を製造する方法としては、具体的には、以下に示す方法が挙げられる。例えば、エタノールなどの溶媒とフッ化ジスプロシウム(DyF3)とを所定の割合で混合してなる塗布液中に、焼結後のR−T−B系磁石を浸漬させることにより、R−T−B系磁石に塗布液を塗布する。その後、塗布液の塗布されたR−T−B系磁石に対して、2段階の熱処理を行う拡散工程を行う。具体的には、塗布液の塗布されたR−T−B系磁石を、アルゴン雰囲気中で900℃の温度で一時間程度加熱する第1熱処理を行い、第1熱処理後のR−T−B系磁石を一旦室温まで冷却する。その後、再びR−T−B系磁石を、アルゴン雰囲気中で500℃の温度で一時間程度加熱する第2熱処理を行って、室温まで冷却する。
上記方法以外の焼結後のR−T−B系磁石の表面に、Dy金属もしくはDy化合物を付着させる方法として、金属を気化させて磁石表面にこれらの膜を付着させる方法、有機金属を分解させて表面に膜を付着させる方法などを用いても良い。
【0068】
なお、焼結後のR−T−B系磁石の表面には、Dy金属もしくはDy化合物に代えて、Tb金属もしくはTb化合物を付着させて熱処理してもよい。この場合、例えば、焼結後のR−T−B系磁石の表面にTbのフッ化物を含む塗布液を塗布して熱処理し、Tbを焼結磁石内部に拡散させることにより、焼結磁石表面のTb濃度が内部のTb濃度よりも高いR−T−B系磁石とすることができ、さらに保磁力を向上させることができる。
【0069】
また、R−T−B系磁石の表面に、金属Dyや金属Tbを蒸着させて熱処理し、DyやTbを焼結磁石内部に拡散させることにより、さらに保磁力を向上させてもよい。本実施形態のR−T−B系磁石には、このような技術を何ら支障なく使用することができる。
【0070】
R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)は、高いほど好ましいが、自動車などの電動パワーステアリングのモーター用の磁石として用いる場合、20kOe以上であることが好ましく、電気自動車のモーター用の磁石として用いる場合、30kOe以上であることが好ましい。電気自動車のモーター用の磁石において保磁力(Hcj)が30kOe未満であると、モーターとしての耐熱性が不足する場合がある。
【0071】
〔第2の実施形態〕
第1の実施形態では、金属元素を含有するR−T−B系合金を用いてR−T−B系磁石を製造したが、第2の実施形態では、第1の実施形態とは異なり、金属元素を含有しない粉末のR−T−B系合金と添加金属とを含むR−T−B系希土類焼結磁石用合金材料(以下、「R−T−B系合金材料」と略記する)を用いてR−T−B系磁石を製造する。
本実施形態のR−T−B系合金材料は、上述した第1の実施形態と同様に成形して焼結することにより、上述した第1の実施形態のR−T−B系磁石が得られるものである。
【0072】
本実施形態のR−T−B系合金材料は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Bおよび不可避不純物からなり、Rを13〜15原子%含み、Bを4.5〜6.2原子%含み、Tが残部であり、全希土類元素中のDyの割合が0〜65原子%であり、かつ下記(式1)を満たすR−T−B系合金と、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mまたは前記金属元素Mを含む合金からなる添加金属とを含むR−T−B系合金材料であって、R−T−B系合金材料中に金属元素Mを0.1〜2.4原子%含むものである。
0.0049Dy+0.34≦B/TRE≦0.0049Dy+0.36・・(式1)
(式1)において、DyはDy元素の濃度、Bはボロン元素の濃度、TREは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。
【0073】
本実施形態のR−T−B系合金材料においては、R−T−B系合金として、金属元素Mを含まないこと以外は第1の実施形態のR−T−B系合金と同じものが用いられ、第1の実施形態のR−T−B系合金と同様にして製造できる。したがって、本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれるR−T−B系合金についての説明を省略する。
【0074】
本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれるR−T−B系合金おいても、第1の実施形態のR−T−B系合金と同様に、R
2T
17相を含む領域の面積率が0.1〜50%のものであることが好ましく、0.1〜25%のものであることがより好ましい。R
2T
17相を含む領域の面積率が上記範囲である場合、遷移金属リッチ相の生成が効果的に促進され、遷移金属リッチ相を十分に含む保磁力の高いR−T−B系磁石が得られる。R
2T
17相を含む領域の面積率が50%以上であると、R−T−B系磁石の製造工程においてR
2T
17相を完全に消費することができず、R−T−B系磁石の保磁力や角形性が低下する場合がある。
【0075】
さらに、本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれるR−T−B系合金においても、R
2T
17相を含む領域の面積率が0.1〜50%である場合、非常に優れた粉砕性が得られるため、容易に粉砕されて粒径2μm程度の微粒子とすることができる。
なお、本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれるR−T−B系合金のR
2T
17相を含む領域の面積率は、第1の実施形態のR−T−B系合金と同様にして求められる。
【0076】
本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれる添加金属は、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属元素Mまたは前記金属元素Mを含む合金からなるものである。
金属元素Mは、R−T−B系磁石を製造するための焼結および熱処理の際に、遷移金属リッチ相の生成を促進するものであると推定される。
【0077】
金属元素Mは、R−T−B系合金材料中に0.1〜2.4原子%含まれている。金属元素Mの含有量は0.7原子%以上であることがより好ましく、1.4原子%以下であることがより好ましい。本実施形態のR−T−B系合金材料は、金属元素Mが0.1〜2.4原子%含まれているので、これを焼結することで、Rリッチ相と遷移金属リッチ相とを含むR−T−B系磁石が得られる。
【0078】
金属元素Mに含まれるAl、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属は、他の磁気特性に支障を来たすことなく、R−T−B系磁石の焼結および熱処理の際に遷移金属リッチ相の生成を促進させて保磁力(Hcj)を効果的に向上させる。
金属元素Mが0.1原子%未満であると、遷移金属リッチ相の生成を促進させる効果が不足して、R−T−B系磁石に遷移金属リッチ相が形成されず、R−T−B系磁石の保磁力(Hcj)を十分に向上させることができない恐れがある。また、金属元素Mが2.4原子%を超えると、R−T−B系磁石の磁化(Br)や最大エネルギー積(BHmax)などの磁気特性が低下する。
【0079】
R−T−B系合金材料中にCuが含まれる場合、Cuの濃度は、0.07〜1原子%であることが好ましい。Cuの濃度が0.07原子%未満の場合は、磁石が焼結しにくくなる。また、Cuの濃度が1原子%を超える場合は、R−T−B系磁石の磁化(Br)が低下するので好ましくない。
【0080】
本実施形態のR−T−B系合金材料は、R−T−B系合金と、添加金属の他に、さらにSiを含むものであってもよい。R−T−B系合金材料中にSiが含まれる場合、Si含有量は0.7〜1.5原子%の範囲であることが好ましい。Siを上記範囲内で含有させることにより、保磁力がより一層向上する。Si含有量が0.7原子%未満であっても1.5原子%を超えても、Siを含有させることによる効果が低下する。
【0081】
「R−T−B系合金材料の製造方法」
本発明のR−T−B系合金材料に含まれるR−T−B系合金は、第1の実施形態のR−T−B系合金と同様にして製造できる。そして、得られたR−T−B系合金の粉末と、添加金属の粉末とを混合することにより、R−T−B系合金材料が得られる。
「R−T−B系希土類焼結磁石の製造方法」
このようにして得られた本実施形態のR−T−B系合金材料を用いて、第1の実施形態のR−T−B系合金を用いた場合と同様にして、R−T−B系磁石を製造できる。
【0082】
なお、R−T−B系磁石の保磁力を向上させるため、通常はR−T−B系合金の粉末の粒度をd50で4〜5μmとするが、この大きさをさらに小さくしてR−T−B系磁石中の粒子の大きさを小さくするとさらに保磁力を向上させることができる。
【0083】
なお、本実施形態においても、第1の実施形態と同様に、R−T−B系磁石の表面に、DyやTbのフッ化物を塗布して熱処理し、DyやTbを焼結磁石内部に拡散させることにより、さらに保磁力を向上させてもよい。また、R−T−B系磁石の表面に、金属Dyや金属Tbを蒸着させて熱処理し、DyやTbを焼結磁石内部に拡散させることにより、さらに保磁力を向上させてもよい。
【0084】
本実施形態のR−T−B系磁石の製造方法では、R−T−B系合金材料として、B含有量が上記(式1)を満たし、金属元素Mを0.1〜2.4原子%含むものを用いているので、R
2Fe
14Bを主として含む主相と、主相よりRを多く含む粒界相とを備えた焼結体からなり、粒界相が、希土類元素の合計原子濃度が70原子%以上のRリッチ相と、希土類元素の合計原子濃度が25〜35原子%の遷移金属リッチ相とを含む本発明のR−T−B系磁石が得られる。
【0085】
さらに、本実施形態のR−T−B系合金材料に含まれる金属元素Mの種類や使用量、R
2T
17相を含む領域の体積率、R−T−B系合金の組成を本発明の範囲で調節するとともに、焼結温度や焼結後の熱処理などの条件を調整することにより、R−T−B系磁石における遷移金属リッチ相の体積率を0.005〜3体積%の好ましい範囲に容易に調節できる。そして、R−T−B系磁石における遷移金属リッチ相の体積率を調整することによって、Dyの含有量を抑制しつつ、用途に応じた所定の保磁力を有するR−T−B系磁石が得られる。
【0086】
本実施形態のR−T−B系磁石は、B/TRE含有量が上記(式1)を満たし、金属元素Mを0.2〜5原子%含むR−T−B系合金材料を成形して焼結してなるものであり、粒界相が、Rリッチ相と遷移金属リッチ相とを含み、遷移金属リッチ相は、Rリッチ相より希土類元素の合計原子濃度が低く、Rリッチ相よりFeの原子濃度が高いものであるので、Dyの含有量を抑制しつつ、高い保磁力を有し、モーターに好適に用いられる優れた磁気特性を有するものとなる。
【0087】
〔第3の実施形態〕
第2の実施形態では、金属元素を含有しない粉末のR−T−B系合金と添加金属とを含むR−T−B系合金材料について説明したが、本実施形態においては、金属元素を含有するR−T−B系合金と添加金属とを含むR−T−B系合金材料について説明する。すなわち、本発明において、R−T−B系合金材料に金属元素を含有させるのは、R−T−B系合金を鋳造する段階であってもよいし、R−T−B系合金を焼結する前の段階であってもよく、双方の段階で金属元素を添加してもよい。
【0088】
第3の実施形態では、R−T−B系合金材料に含有させる金属元素の一部をR−T−B系合金に含有させ、このR−T−B系合金の粉末と残りの金属元素とを混合することにより、R−T−B系合金材料とし、これを用いてR−T−B系磁石を製造する。
本実施形態のR−T−B系合金材料は、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態と同様に成形して焼結することにより、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態のR−T−B系磁石が得られるものである。
【0089】
本実施形態のR−T−B系合金材料は、希土類元素であるRと、Feを必須とする遷移金属であるTと、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の第1金属と、Bおよび不可避不純物からなり、Rを13〜15原子%含み、Bを4.5〜6.2原子%含み、Tが残部であり、全希土類元素中のDyの割合が0〜65原子%であり、かつ下記(式1)を満たすR−T−B系合金と、Al、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の第2金属または前記第2金属を含む合金からなる添加金属とを含むR−T−B系合金材料であって、前記R−T−B系合金材料は、前記第1金属と前記第2金属とを合計で0.1〜2.4原子%含むものである。
0.0049Dy+0.34≦B/TRE≦0.0049Dy+0.36・・(式1)
(式1)において、DyはDy元素の濃度、Bはボロン元素の濃度、TREは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。
【0090】
第1金属および第2金属は、いずれもAl、Ga、Cuのうちから選ばれる1種以上の金属であり、第1金属と第2金属との合計で、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態における金属元素Mと同じ組成となるものである。
また、第1金属と第2金属との合計のR−T−B系合金材料中の含有量は、上述した第1の実施形態及び第2の実施形態における金属元素Mと同じである。
【0091】
本実施形態のR−T−B系合金材料は、R−T−B系合金が第1金属を含有していること以外は第2の実施形態と同じであり、R−T−B系磁石は第1の実施形態及び第2の実施形態と同様である。したがって、説明を省略する。
【0092】
ここで、本発明のR−T−B系磁石に含まれる遷移金属リッチ相を生成させる方法について詳細に説明する。
本発明においては、製造途中のR−T−B系合金および/または製造途中のR−T−B系磁石に含まれるR
2T
17相が、R−T−B系合金の製造工程および/またはR−T−B系磁石の製造工程において行われる一回または複数回の熱処理において、R−T−B系磁石の遷移金属リッチ相の原料として使用され、遷移金属リッチ相が生成されると考えられる。
【0093】
遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の条件は、遷移金属リッチ相の原料としてR
2T
17相とともに使用される金属元素Mの種類や使用量、R−T−B系合金中および/または焼結後のR−T−B系磁石中に含まれるR
2T
17相の生成量、R−T−B系磁石の組成、必要とされる遷移金属リッチ相の生成量などに応じて決定される。
【0094】
遷移金属リッチ相を生成させる熱処理は、具体的には、製造途中のR−T−B系合金および/または製造途中のR−T−B系磁石に対して、好ましくは400〜800℃の温度で、より好ましくは、450〜650℃の温度で一回または複数回行うことができ、R−T−B系合金の製造工程および/またはR−T−B系磁石の製造工程において合計で0.5〜5時間行うことが好ましく、1〜3時間行うことがより好ましい。
遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の温度が400℃未満であると、熱処理時における希土類元素Rと2−17相(R
2T
17相)と金属元素Mとの反応が不十分となり、遷移金属リッチ相が十分に生成されない場合がある。遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の温度が800℃を超えると、原子の再配置が生じて、遷移金属リッチ相が十分に生成されない場合がある。
【0095】
また、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の合計時間が、0.5時間未満であると、熱処理時における希土類元素Rと2−17相(R
2T
17相)と金属元素Mとの反応が不十分となり、遷移金属リッチ相の生成量が不十分となる場合がある。遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の合計時間が5時間を越えると、熱処理時間が長時間であることにより生産性に支障を来すため好ましくない。
【0096】
遷移金属リッチ相を生成させる熱処理は、R−T−B系合金の製造工程および/またはR−T−B系磁石の製造工程において一回または複数回行われるものであり、遷移金属リッチ相を生成させることのみを目的とする熱処理であってもよいし、焼結など他の目的で行われる熱処理が遷移金属リッチ相を生成させる熱処理を兼ねてもよい。遷移金属リッチ相を生成させる熱処理の回数は、特に限定されるものではないが、遷移金属リッチ相を十分に生成させるために、複数回行うことが好ましい。
【0097】
具体的には、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理として、R−T−B系合金を製造する際に行われる鋳造後の鋳造合金薄片の冷却速度を一時的に遅くして合金内の成分の拡散を促す処理(温度保持工程)や、R−T−B系磁石を製造する際に行われるR−T−B系磁石を焼結するための熱処理、焼結後のR−T−B系磁石に遷移金属リッチ相を生成させるための熱処理、焼結後のR−T−B系磁石の内部にDyやTbを拡散させるための熱処理から選ばれる1以上の処理などが挙げられる。
【0098】
なお、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理は、400〜800℃の温度で行うことが好ましいが、上記範囲内での最適温度は、熱処理されるR−T−B系合金またはR−T−B系磁石の組織の状態によって異なるものであるため、例えば、焼結前と焼結後とでは異なっており、R−T−B系合金を鋳造する工程からR−T−B系磁石が完成するまでの間のどの工程において行われる熱処理であるかによって適宜決定される。
また、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理によって得られる遷移金属リッチ相の生成量は、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理時間の増大に伴って増加する傾向にある。しかし、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理を行った後の工程において、R−T−B系合金またはR−T−B系磁石が、遷移金属リッチ相の分解温度以上の高温とされた場合には、生成された遷移金属リッチ相の一部または全部が分解されて減少する可能性がある。
【0099】
遷移金属リッチ相を生成させる熱処理においては、下記の(式3)および/または(式4)に示す反応が進行するものと推測される。
より詳細には、熱処理において遷移金属リッチ相の原料として使用される金属元素Mが、被熱処理材料であるR−T−B系合金中またはR−T−B系磁石中に単独で存在しているものである場合、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理において下記の(式3)に示す反応が進行すると推定される。
【0100】
R(希土類元素)+R
2T
17(R
2T
17相)+M(金属元素)→R
6T
13M(遷移金属リッチ相) ・・・(式3)
金属元素Mが、被熱処理材料中に単独で存在している場合としては、例えば、金属元素を含有しないR−T−B系合金と添加金属とを含むR−T−B系合金材料を用いてR−T−B系磁石を製造する際に行う、焼結するための熱処理などが挙げられる。
【0101】
また、金属元素Mが、被熱処理材料中の合金粒界相内または粒界相内に含有されている場合、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理において下記の(式4)に示す反応が進行すると推定される。
RM(金属元素を含む希土類元素)+R
2T
17(R
2T
17相)→R
6T
13M(遷移金属リッチ相) ・・・(式4)
金属元素Mが、被熱処理材料中の合金粒界相内または粒界相内に含有されている場合としては、例えば、金属元素を含有するR−T−B系合金を用いてR−T−B系磁石を製造する際に行う、焼結するための熱処理などが挙げられる。
【0102】
金属元素Mが、被熱処理材料中に単独で存在しているものと、合金粒界相内または粒界相内に含有されているものの両方を含む場合、遷移金属リッチ相を生成させる熱処理において上記の(式3)に示す反応と(式4)に示す反応とが同時に進行すると推定される。
この場合としては、例えば、金属元素を含有するR−T−B系合金と添加金属とを含むR−T−B系合金材料を用いてR−T−B系磁石を製造する際に行う、焼結するための熱処理などが挙げられる。
【0103】
R−T−B系合金中のR
2T
17相の大きさは小さい方がよい。R
2T
17相の大きさが大きいと、(式3)あるいは(式4)に示す反応が生じても完全にR
2T
17相を消失させることができず、R−T−B系磁石内にR
2T
17相が残留して保磁力あるいは角形性が悪化する場合がある。具体的には、R
2T
17相の大きさは10μm以下であることが好ましく、3μm以下であることがより好ましい。なお、ここでのR
2T
17相の大きさとは、R
2T
17相単体の大きさであり、R
2T
17相の存在領域の大きさではない。
【0104】
このように本発明においては、上記の遷移金属リッチ相を生成させる熱処理を行うことで、(式3)および/または(式4)に示すように、R
2T
17相と、金属元素Mを含む希土類元素R(または金属元素Mと希土類元素R)とを原料として、R−T−B系磁石の遷移金属リッチ相が生成されるものと推測される。
【実施例】
【0105】
「実験例1〜17、41〜46」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、鉄塊(純度99%wt以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%)を表1に示す合金A〜L、N〜Q及びT〜Zの合金組成になるように秤量し、さらに、Coメタル(純度99wt%以上)を2.3原子%秤量し、アルミナるつぼに装填した。
【0106】
なお、表1に示す合金組成に記載のSi含有量は、合金に積極的に含有させたものではなく、合金中に不純物として含まれるSi含有量である。また、合金Nは金属元素Mを意図的に含有させずに作製したものであり、合金Oは金属元素MとしてAlのみを、合金Pは金属元素MとしてGaのみを、合金Qは金属元素MとしてCuをのみを意図的に添加して作製したものである。また、合金N、P及びQに含まれるAlは意図的に添加したものではなく、アルミナルツボから混入したものである。
【0107】
その後、アルミナるつぼの入れられた高周波真空誘導炉の炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して溶融させて水冷銅ロールに溶湯を注ぎ、ロール周速度1.0m/秒、平均厚み0.3mm程度となるようにSC(ストリップキャスト)法により、鋳造合金薄片を得た。
【0108】
次に、鋳造合金薄片を以下に示す水素解砕法により解砕した。まず、鋳造合金薄片を直径5mm程度になるように粗粉砕し、室温の水素中に挿入して水素を吸蔵させた。続いて、粗粉砕して水素を吸蔵させた鋳造合金薄片を300℃まで水素中で加熱する熱処理を行った。その後、減圧して水素を脱気し、さらに500℃まで加熱する熱処理を行って鋳造合金薄片中の水素を放出除去し、室温まで冷却する方法により解砕した。
次に、水素解砕された鋳造合金薄片に、潤滑剤としてステアリン酸亜鉛0.025wt%を添加し、ジェットミル(ホソカワミクロン100AFG)により、0.6MPaの高圧窒素を用いて、水素解砕された鋳造合金薄片を平均粒度(d50)4.5μmに微粉砕してR−T−B系合金粉末を得た。
【0109】
このようにして得られた合金A〜L、N〜Q及びT〜ZのR
2T
17相の面積率を以下に示す方法により調べた。
鋳造合金薄片のうち平均厚みの±10%以内の厚みのものを樹脂に埋込み、厚さ方向に断面を削りだし、その断面を鏡面研磨して、その後導電性を付与するために金あるいは炭素を蒸着して観察試料とした。この試料を走査電子顕微鏡(日本電子JSM−5310)で倍率を350倍として反射電子像にて撮影した。
図6に一例として合金Fの反射電子像を示す。また、合金A〜L、N〜Q及びT〜Zのうち、測定した合金のR
2T
17相の面積率を表4に示す。表4中、−は未測定を表す。
【0110】
次に、このようにして得られたR−T−B系合金粉末を、横磁場中成型機を用いて成型圧力0.8t/cm
2でプレス成型して圧粉体とした。その後、得られた圧粉体を真空中で900〜1200℃の温度で焼結した。その後800℃と500℃の2段階の温度で熱処理して冷却することにより、実験例1〜実験例17、実験例41〜実験例46のR−T−B系磁石を作製した。
【0111】
そして、得られた実験例1〜実験例17、実験例41〜実験例46のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性をBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表4に示す。
【0112】
「実験例18〜33」
実験例1〜17で得られたR−T−B系合金からなる粉末(合金A〜H、J〜L、N〜Q)及び合金Rの粉末と、平均粒度(d50)4.35μmのSi粉末とを準備し、表2に示す焼結磁石の組成となるように両者を混合して実験例18〜実験例33のR−T−B系合金材料を製造した。なお、Si粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0113】
次に、このようにして得られたR−T−B系合金材料を用いて、実験例1〜実験例15と同一手順でR−T−B系磁石を作製した。
そして、得られた実験例18〜実験例33のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性を、実験例1〜実験例17と同様にして、BHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表5に示す。
【0114】
「実験例34」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、鉄塊(純度99%wt以上)、Siメタル(純度99%wt以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%)を表3に示す合金Sの成分組成になるように秤量し、さらに、Coメタル(純度99wt%以上)を2.3原子%秤量し、アルミナるつぼに装填し、実験例1〜17と同一手順により、R−T−B系合金粉末を得、これを用いて実験例1〜17と同一手順により、R−T−B系磁石を作製した。
【0115】
そして、得られた実験例34のR−T−B系磁石の磁気特性を、実験例1〜実験例17と同様にして、BHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を表6に示す。
【0116】
【表1】
【0117】
【表2】
【0118】
【表3】
【0119】
【表4】
【0120】
【表5】
【0121】
【表6】
【0122】
表4〜表6において「Hcj」とは保磁力であり、「Br」とは残留磁化であり、「Sq」とは角形性であり、「BHmax」とは最大エネルギー積である。また、これらの磁気特性の値は、それぞれ5個のR−T−B系磁石の測定値の平均である。
【0123】
また、実験例3〜実験例28、実験例34のR−T−B系磁石の遷移金属リッチ相の体積率を以下に示す方法により調べた。
R−T−B系磁石を導電性の樹脂に埋込み、配向方向に平行な面を削りだし、鏡面研磨した。この表面を反射電子像にて1500倍程度の倍率で観察し、そのコントラストにより主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相を判別した。
【0124】
例えば、
図9、
図10(a)は、それぞれ、実験例6、23で得られたR−T−B系磁石の反射電子像である。
図9、
図10(a)から、灰色のR
2T
14B相の粒界に白色のRリッチ相、薄い灰色の遷移金属リッチ相が存在していることが分かる。
このような反射電子像から遷移金属リッチ相について断面あたりの面積率を算出し、さらにこれが球状であると仮定して、各実験例の体積率を算出した。
その結果を表4〜表6に示す。表4〜表6中、−は未測定を表す。
【0125】
また、FE−EPMA(電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて主相および粒界相の組成を調べることにより、実験例18〜実験例34のR−T−B系磁石が、R
2Fe
14Bを主として含む主相と、Rリッチ相、遷移金属リッチ相からおもに構成されていることを確認した。
【0126】
表1および表4に示すように、Bが(式1)を満たしていない実験例8及び9では、Dyの含有量が同程度であって、Bが(式1)を満たしている実験例6と比較して、保磁力(Hcj)が低くなっている。
Siの添加量が0.7〜1.5原子%の範囲である実験例23では、添加金属の含有量が本発明の上限を超える実験例29と比較して、保磁力(Hcj)が高くなっている。
【0127】
また、
図1は、実験例1〜4、18〜21のB/TRE(希土類元素合計の濃度)と保磁力(Hcj)との関係を示したグラフである。実験例1〜4、18〜21のR−T−B系磁石は、Dyを含有しないものであるが、実験例18〜21に示すように添加金属であるSiを添加させる(実験例18〜21)ことで、保磁力(Hcj)が高くなっている。
このとき、最適なB/TREの幅はピークに対して±0.1程度と見積もれる。
【0128】
また、
図2は、実験例5〜9、22〜25のB含有量(希土類元素合計の濃度)と保磁力(Hcj)との関係を示したグラフである。実験例5〜9、22〜25のR−T−B系磁石は、Dyを3.8原子%程度含有するものである。B含有量が異なっているため、保磁力が異なっているが、B/TREが0.37で保磁力が最大になっている。また、実験例22〜25に示すように添加金属であるSiを添加させる(実験例22〜25)ことで、保磁力が高くなっていることが分かる。このとき、最適なB/TREの幅はピークに対して±0.1程度と見積もれる。
【0129】
また、
図3は、実験例10〜12、26〜28のB含有量(希土類元素合計の濃度)と保磁力(Hcj)との関係を示したグラフである。実験例10〜12、26〜28のR−T−B系磁石は、Dyを8.3原子%程度含有するものである。B含有量が異なっているため、保磁力が異なっているが、B/TREが0.39で保磁力が最大になっている。また、添加金属であるSiを添加させる(実験例24〜26)ことで、保磁力が高くなっていることが分かる。このとき、最適なB/TREの幅はピークに対して±0.1程度と見積もれる。
【0130】
実験例14はCu、Al、Ga、Siを添加せずに作製したものであり、最も近い組成である実験例6と比較して保磁力が大幅に低くなっている。実験例14の成分にAlのみを添加した実験例15、実験例14の成分にGaのみを添加した実験例16、実験例14の成分にCuのみを添加した実験例17では実験例14と比較して保磁力が高くなっている。保磁力を高めるために、Al、Ga、Cuのいずれかが必須であることが示されている。
さらに、合金N〜QにSiを添加した実験例30〜33では保磁力が高くなっており、金属Mを2種類以上添加することが好ましいことを示している。特に合金QにSi粉末を添加した実験例33では大幅な保磁力の向上が見られた。また、実験例33は、組成が近い実験例24と比較しても保磁力は2kOe以上高くなっており、CuとSiを添加することが特に好ましいことが示されている。
【0131】
Dy濃度がほぼ等しい実験例14〜17を比較すると、金属元素Mの濃度が0.08原子%の実験例14では保磁力が低いが、金属元素Mの濃度が0.1原子%以上である実験例15〜17では保磁力が高くなっている。
また、Dyを含有していない実験例41〜実験例46を比較すると、実験例43(金属元素Mの濃度は2.43原子%)では、実験例41(金属元素Mの濃度は0.75原子%)実験例42(金属元素Mの濃度は1.00原子%)に比べて保磁力が低下している。
以上のことから、金属元素Mの含有量は、0.1〜2.4原子%が好ましいことが示されている。
Dyを含有していない実験例1〜4、実験例41〜46の中で、高い保磁力を有しているのは、実験例41、42、44〜46(金属元素Mの濃度が0.72〜1.34原子%)である。このことから、金属元素Mの含有量が0.7〜1.4原子%の範囲にあることがより好ましいことが示されている。
【0132】
表3および表6に示す実験例34は、合金鋳造の段階で全ての金属元素を添加させたものである。Dyの含有量が同程度である表1および表4の実験例5と実験例34とを比較すると、実験例34は実験例5よりも高い保磁力を示すことが分かる。
表1〜表6の結果から、金属元素を合金鋳造した場合であっても、合金と添加金属とを混合した場合であっても、磁石の保磁力を向上させる効果が得られることが分かる。
【0133】
図8〜
図10(a)は、R−T−B系磁石の顕微鏡写真であり、
図8は実験例9、
図9は実験例6、
図10(a)は実験例23の反射電子像である。また、
図10(b)は、
図10(a)に示したR−T−B系磁石の顕微鏡写真を説明するための模式図である。
図8〜
図10(a)に示す反射電子像および
図10(b)に示す模式図において、灰色の部分はR
2T
14B相であり、白色の部分はRリッチ相であり、薄い灰色の部分は遷移金属リッチ相である。
【0134】
表1および表2に示すように、実験例6、9、23のR−T−B系磁石は、Dyの含有量が同程度である。実験例9のB/TREは本願発明の範囲よりも高いものである。一方、実験例6のB/TREは本願発明の範囲内の値であり、実験例23は実験例6にSiを添加したものである。
図8では遷移金属リッチ相の生成がほとんど見られなかった。
図9ではわずかに遷移金属リッチ相の生成が見られ、
図10(a)ではさらに多くの遷移金属リッチ相が生成していることが分かる。
図8〜
図10(a)より、B/TREを適切に選定し、さらに添加金属を適切に添加することで、遷移金属リッチ相の生成を増加させることが可能なことが分かる。
【0135】
図8では、数個の粉砕した粒子が融合して主相を形成している。
図9では、粉砕した粒子が融合せずに個々に主相を形成している。
図10(a)では、粉砕した個々の粒子が形成する主相を、粒界相が取り囲んでいる様子が、明確に観察できる。
【0136】
「実験例35」
Ndメタル(純度99wt%以上)、Prメタル(純度99wt%以上)、Dyメタル(純度99wt%以上)、Alメタル(純度99wt%以上)、フェロボロン(Fe80%、B20w%)、鉄塊(純度99%wt以上)、Gaメタル(純度99wt%以上)、Cuメタル(純度99wt%)、Coメタル(純度99wt%以上)を表7に示す合金組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填した。
【0137】
【表7】
【0138】
その後、
図11に示す合金の製造装置1を用いて、鋳造合金薄片を製造した(鋳造工程)。まず、アルミナるつぼの入れられた高周波真空誘導炉(溶解装置)の炉内をArで置換し、1450℃まで加熱して合金溶湯とした。次いで、得られた合金溶湯を、ロール周速度1.0m/秒で回転する水冷銅ロールに供給して凝固させ、鋳造合金とした。その後、鋳造合金を冷却ロール22から離脱させ、破砕装置21の破砕ロールの間を通して破砕することにより、平均厚み0.3mmの鋳造合金薄片を得た。なお、鋳造工程は、アルゴン雰囲気で行った。
【0139】
破砕された鋳造合金薄片を、ホッパ7を通過して「閉」の状態とされた開閉式ステージ33上に堆積させて加熱ヒータ31によって加熱し、800℃の鋳造合金を60秒間一定の温度で維持する温度保持工程を行い、開閉式ステージ33を「開」の状態とすることにより温度保持工程を終了した。
【0140】
このようにして得られた実験例35の鋳造合金薄片を樹脂に埋込み、鏡面研磨した断面を反射電子像にて350倍の倍率で観察し、そのコントラストにより主相と合金粒界相とを判別し、以下に示すようにして、隣接する合金粒界相間の距離を調べた。すなわち、実験例35の鋳造合金薄片の350倍の倍率の反射電子像の各画像上に鋳造面と平行に10μm間隔で直線を引き、その直線を横切った合金粒界相の間隔をそれぞれ測定し、その平均値を算出した。隣接する合金粒界相間の距離が短いほど、粉砕性に優れている。
【0141】
また、表7に示す合金組成のB元素およびFe元素の濃度を変化させたこと以外は、実験例35の鋳造合金薄片と同様にして複数の鋳造合金薄片を作成し、実験例35の鋳造合金薄片と同様にして隣接する合金粒界相間の距離を調べた。その結果を
図12(a)〜
図12(c)、
図13(a)、
図13(b)に示す。
【0142】
図12(a)は、鋳造合金薄片の合金粒界相間の距離とB濃度との関係を示したグラフであり、
図12(b)は、鋳造合金薄片の合金粒界相間の距離とB/TRE(Bはボロン元素の濃度(原子%)、TREは希土類元素合計の濃度(原子%)を表す。)との関係を示したグラフであり、
図12(c)は、鋳造合金薄片の合金粒界相間の距離とFe/B(B含有量に対するFe含有量の比(Bはボロン元素の濃度(原子%)、Feは鉄元素の濃度(原子%))との関係を示したグラフである。
【0143】
図12(a)より、B含有量が5.0原子%以上、6.0原子%以下である場合、合金粒界相間の距離が短く、微細になることが分かる。また、B含有量が5.0原子%未満になると、合金粒界相間の間隔が急激に広くなることが分かる。
【0144】
図12(b)より、B/TREが0.355〜0.38である場合、合金粒界相間の距離が短く、微細になることが分かる。また、B/TREが0.355未満になると、合金粒界相間の間隔が急激に広くなることが分かる。
【0145】
図13(a)はFe/Bが15.5である鋳造合金薄片の断面の顕微鏡写真であり、
図13(b)はFe/Bが16.4である鋳造合金薄片の断面の顕微鏡写真である。
図13(a)および
図13(b)に示す反射電子像おいて、灰色の部分は主相であり、白色の部分は合金粒界相である。
図13(a)に示す鋳造合金薄片では、合金粒界相が細かい網目状に形成されていることが分かる。これに対し、
図13(b)に示す鋳造合金薄片では、針状の合金粒界相と島状の主相が観察される。
【0146】
図12(c)より、Fe/Bが13から増えるにつれて合金粒界相の間隔が狭くなっており、15〜16である場合、合金粒界相間の距離が特に短くなっていることが分かる。
また、
図12(c)、
図13(a)および
図13(b)より、Fe/Bが13〜16である場合、Fe/Bが16を超える場合と比較して、合金粒界相間の距離が短く、微細になることが分かる。また、
図12(c)より、Fe/Bが16を超えると、合金粒界相間の間隔が急激に広くなることが分かる。
【0147】
「実験例36」
表7に示す合金組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填し、
図11に示す合金の製造装置1を用いて、鋳造工程中の雰囲気を以下の雰囲気としたこと以外は、実験例35と同様にして、鋳造合金薄片を製造した(鋳造工程)。
すなわち、鋳造工程は、アルゴン雰囲気中にヘリウムを供給しながら行い、ヘリウムを含む雰囲気中で冷却ロール22によって鋳造合金を冷却するとともに、温度保持工程後、貯蔵容器4内に収容された鋳造合金薄片を、ヘリウムを含む雰囲気中で冷却した。
【0148】
このようにして得られた実験例36の鋳造合金薄片について、実験例35と同様にして、隣接する合金粒界相間の距離を調べた。実験例35と実験例36の合金粒界相間の距離を調べた結果を
図14に示す。
図14において、黒△は実験例35の結果であり、○は実験例36の結果である。
【0149】
図14に示すグラフは、実験例35および実験例36の鋳造合金薄片をそれぞれ5枚用意し、上記と同様にして合金粒界相の間隔をそれぞれ測定して、各合金粒界相の間隔の測定値を0.2μm毎の範囲に分類し、合金粒界相の間隔の全測定数に対し、各範囲の測定値が出現する割合((各範囲の測定値の出現数/全測定数)×100(%))を算出した結果を示したものである。
【0150】
図14に示すように、鋳造工程をヘリウムを含む雰囲気中で行った鋳造合金薄片である実験例36では、鋳造工程をアルゴン雰囲気中で行った鋳造合金薄片である実験例35と比較して、合金粒界相間の間隔が狭くなっている。このことから、鋳造工程をヘリウムを含む雰囲気中で行うことにより、合金組織の粒径が微細化され、粉砕性に優れるものとなることがわかる。
【0151】
「実験例37」
表1に示す合金Fの組成になるように秤量し、アルミナるつぼに装填し、
図11に示す合金の製造装置1を用い、製造した鋳造合金の1200℃から50℃となるまでの間の冷却温度の履歴を
図15(a)〜
図15(c)および表8に示す(a)条件としたこと以外は、実験例35と同様にして、鋳造合金薄片を製造した(鋳造工程)。なお、鋳造工程は、アルゴン雰囲気で行った。
【0152】
【表8】
【0153】
次に、鋳造合金薄片を実験例1と同様にして水素解砕法により解砕して実験例37のR−T−B系合金粉末を得た。
なお、R−T−B系合金粉末の平均粒度(d50)は、4.5μmであった。
【0154】
このようにして得られた実験例37のR−T−B系合金粉末を、横磁場中成型機を用いて成型圧力0.8t/cm
2でプレス成型して圧粉体とした。その後、得られた圧粉体を真空中で900〜1200℃の温度で焼結した。その後800℃と500℃の2段階の温度で熱処理して冷却することにより、複数の実験例37のR−T−B系磁石を作製した。
得られた複数の実験例37のR−T−B系磁石の磁気特性をそれぞれBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を
図16(a)〜
図16(c)に示す。
【0155】
「実験例38」
製造した鋳造合金の1200℃から50℃となるまでの間の冷却温度の履歴を
図15(a)〜
図15(c)および表8に示す(b)条件としたこと以外は、実験例37と同様にして、鋳造合金薄片を製造し、これを用いて実験例37と同様にして実験例38のR−T−B系合金粉末を得た。
なお、R−T−B系合金粉末の平均粒度(d50)は、4.5μmであった。
【0156】
このようにして得られた実験例38のR−T−B系合金粉末を用いて、実験例37と同様にして、複数の実験例38のR−T−B系磁石を作製し、磁気特性をそれぞれBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を
図16(a)〜
図16(c)に示す。
【0157】
「実験例39」
実験例37で得られたR−T−B系合金からなる粉末と、平均粒度(d50)4.35μmのSi粉末とを準備し、表2に示す実験例23の組成となるように両者を混合して実験例39のR−T−B系合金材料を製造した。なお、Si粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0158】
「実験例40」
実験例38で得られたR−T−B系合金からなる粉末と、平均粒度(d50)4.35μmのSi粉末とを準備し、表2に示す実験例23の組成となるように両者を混合して実験例40のR−T−B系合金材料を製造した。なお、Si粉末の粒度は、レーザ回析計によって測定した。
【0159】
次に、このようにして得られた実験例39および実験例40のR−T−B系合金材料を用いて、実験例37と同様にして、それぞれ複数の実験例39および実験例40のR−T−B系磁石を作製した。
そして、得られた複数の実験例39および実験例40のR−T−B系磁石それぞれの磁気特性を、実験例37と同様にして、BHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を
図16(a)〜
図16(c)に示す。
【0160】
図16(a)は、実験例37〜実験例40のR−T−B系磁石の保磁力(Hcj)を示したグラフであり、
図16(b)は、実験例37〜実験例40のR−T−B系磁石の磁化(Br)を示したグラフであり、
図16(c)は、実験例37〜実験例40のR−T−B系磁石の磁化(Br)と保磁力(Hcj)との関係を示したグラフである。なお、
図16(c)に示す点線は、等価ラインである。また、
図16において、△は実験例37の結果であり、○は実験例38の結果であり、黒△は実験例39の結果であり、●は実験例40の結果である。
【0161】
図16(a)に示すように、800℃の鋳造合金を60秒間一定の温度で維持する温度保持工程を行った実験例38および実験例40は、温度保持工程を行わない実験例37および実験例39と比較して、保磁力(Hcj)が高くなった。また、Siを添加したR−T−B系合金材料を用いた実験例40のR−T−B系磁石では、Siを添加しないR−T−B系合金を用いた実験例38のR−T−B系磁石と比較して、保磁力(Hcj)が高くなった。
【0162】
図16(b)に示すように、温度保持工程を行った実験例38および実験例40と、温度保持工程を行わない実験例37および実験例39とを比較しても、Siを添加したR−T−B系合金材料を用いた実験例39および実験例40のR−T−B系磁石と、Siを添加しないR−T−B系合金を用いた実験例37および実験例38のR−T−B系磁石とを比較しても、磁化(Br)の差は小さかった。
【0163】
図16(c)に示すように、温度保持工程を行った実験例38および実験例40は等価ラインよりも右側に位置しており、温度保持工程を行わない場合と比較して保磁力が高いことが分かる。
【0164】
「実験例47」
表9に示す実験例47の焼結磁石の組成となるように製造したR−T−B系合金の粉末を、横磁場中成型機を用いて成型圧力0.8t/cm
2でプレス成形して圧粉体とした。
その後、得られた圧粉体を真空中で900℃〜1200℃の温度で焼結した。その後、800℃と500℃の2段階の温度で熱処理して冷却することにより、実験例47のR−T−B系磁石を得た。
【0165】
【表9】
【0166】
「実験例48」
実験例47と同様にして製造した熱処理後のR−T−B系磁石の表面に、Dyを含む塗布液を塗布した。Dyを含む塗布液としては、エタノールとフッ化ジスプロシウム(DyF3)とを重量比1:1で混合した混合物を用いた。また、R−T−B系磁石の表面への塗布液の塗布は、容器中に入れられた塗布液を超音波分散させながら、焼結後のR−T−B系磁石を容器中に1分間浸漬させることにより行った。
【0167】
続いて、塗布液の塗布されたR−T−B系磁石を、アルゴンを流量100ml/minで供給するアルゴン雰囲気中で900℃の温度で一時間加熱する第1熱処理を行い、室温まで冷却した。その後、第1熱処理と同じ雰囲気中で500℃の温度で一時間加熱する第2熱処理を行なって室温まで冷却し(拡散工程)、実験例48のR−T−B系磁石を得た。
【0168】
「実験例49」
表9に示す実験例49の焼結磁石の組成となるように製造したR−T−B系合金の粉末を用いたこと以外は、実験例47と同様にして実験例49のR−T−B系磁石を得た。
「実験例50」
実験例49と同様にして製造した熱処理後のR−T−B系磁石の表面に、実験例48と同様にしてDyを含む塗布液を塗布して熱処理する拡散工程を行い、実験例50のR−T−B系磁石を得た。
【0169】
このようにして得られた実験例47〜50のR−T−B系磁石の組成を、希土類、鉄、銅、コバルト、アルミニウム、ガリウム、ホウ素については蛍光X線分析(XRF)、炭素、窒素、酸素についてはガス分析装置、それ以外の微量不純物元素についてはプラズマ発光分析(ICP)を用いて測定した。その結果を表9に示す。
表9に示す実験例47と実験例48とを比較すると、Dyを含む塗布液を塗布して熱処理する拡散工程を行うことにより、R−T−B系磁石に含まれるDy濃度が高くなっている。また、表9に示す実験例49と実験例50とを比較すると、上記の拡散工程を行うことにより、R−T−B系磁石に含まれるDy濃度が高くなっている。
また、表9に示す実験例47および実験例48の磁石組成は、本発明の範囲内であり、実験例49および実験例50の磁石組成は、「B/TRE」の値が本発明の範囲外である。
【0170】
また、実験例47および実験例48のR−T−B系磁石を、それぞれ導電性の樹脂に埋込み、配向方向に平行な面を削りだし、鏡面研磨した。この表面を反射電子像にて1500倍程度の倍率で観察し、そのコントラストにより主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相を判別した。
さらに、実験例47および実験例48のR−T−B系磁石について、それぞれFE−EPMA(電子プローブマイクロアナライザー(Electron Probe Micro Analyzer)を用いて主相および粒界相(Rリッチ相、遷移金属リッチ相)の組成を確認した。
【0171】
その結果、本発明の実施例である実験例47と実験例48のR−T−B系磁石は、主相、Rリッチ相、遷移金属リッチ相が存在していた。
【0172】
また、実験例47〜実験例50のR−T−B系磁石の磁気特性をそれぞれBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)で測定した。その結果を
図17(a)、
図17(b)、表10および表11に示す。
【0173】
【表10】
【0174】
【表11】
【0175】
表10および表11において「Hcj」とは保磁力であり、「Br」とは残留磁化である。また、これらの磁気特性の値は、それぞれ5個のR−T−B系磁石の測定値の平均である。
図17(a)は、実験例47と実験例48のヒステリシス曲線の第二象限を示したグラフであり、
図17(b)は、実験例49と実験例50のヒステリシス曲線の第二象限を示したグラフであり、縦軸は磁化Jであり、横軸は磁界Hである。
図17(a)および
図17(b)に示すヒステリシス曲線はBHカーブトレーサー(東英工業TPM2−10)にて測定した。
図17(a)および
図17(b)において、曲線が横軸と交わる点が保磁力「Hcj」の値を示しており、曲線が縦軸と交わる点が残留磁化「Br」を示している。
【0176】
図17(a)および表10に示すように、拡散工程を行った実験例48では、実験例47と比較して保磁力が大幅に改善されている。また、実験例47と実験例48とを比較すると、残留磁化の変化はわずかである。
図17(b)および表11に示すように、拡散工程を行った実験例50では、実験例49と比較して保磁力が改善されているが、
図17(a)および表10に示す実験例47と実験例48との差よりも変化が小さく、保磁力改善効果が小さくなっている。また、実験例50と実験例49とを比較すると、残留磁化の変化はわずかであった。