特許第5744291号(P5744291)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5744291
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】エレベータの調速機
(51)【国際特許分類】
   B66B 5/04 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
   B66B5/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2014-131603(P2014-131603)
(22)【出願日】2014年6月26日
【審査請求日】2014年6月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100117787
【弁理士】
【氏名又は名称】勝沼 宏仁
(74)【代理人】
【識別番号】100091982
【弁理士】
【氏名又は名称】永井 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100150717
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 和也
(72)【発明者】
【氏名】飯 田 寛 之
【審査官】 筑波 茂樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/179336(WO,A1)
【文献】 国際公開第2012/032558(WO,A1)
【文献】 特開2000−327241(JP,A)
【文献】 特開昭51−5749(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
調速機ロープが巻き掛けられるガバナシーブと、前記調速機ロープを把持するロープ掴機構を備えた調速機を備え、前記調速機ロープの一端を乗りかごに設けた非常停止装置を作動させるセフティーリンクと接続し、乗りかごの速度が所定の過速度を超えた場合に前記乗りかごを非常停止させるエレベータの調速機において、
乗りかごが上昇するときの過速度が設定される上昇側のガバナシーブと、
前記上昇側のガバナシーブと同軸に設けられ前記乗りかごが下降するときの過速度が設定される下降側のガバナシーブと、
前記上昇側のガバナシーブに巻き掛けられる上昇側調速機ロープを前記セフティーリンクに連結する第1のくさび型連結対と、前記下降側のガバナシーブに巻き掛けられる下降側調速機ロープを前記セフティーリンクに連結する第2のくさび型連結対と、からなるガバナヒッチ手段とを備え、
前記第1くさび型連結対と前記第2くさび型連結対とを互いに逆の姿勢にして、前記上昇側調速機ロープと下降側調速機ロープをそれぞれ前記セフティーリンクと連結し、下降側のガバナシーブと、上昇側のガバナシーブとで異なる動作速度を設定するようにしたことを特徴とするエレベータの調速機。
【請求項2】
前記第1くさび型連結対および第2くさび型連結対は、いずれも調速機ロープに同心に固定される円すい形のくさび連結体と、前記セフティーリンクに取り付けられ、前記くさび連結体が同軸に嵌合する円すい筒形の受け部材と、を組み合わせた同形のくさび連結対からなることを特徴とする請求項1に記載のエレベータの調速機。
【請求項3】
前記第1くさび型連結対では、前記くさび連結体はその円すい頂部が下に向くように前記上昇側調速機ロープに固定され、前記受け部材はその円すい頂部が下に向くように前記セフティーリンクに取り付けられ、
前記第2くさび型連結対では、前記くさび連結体はその円すい頂部が上に向くように前記下降側調速機ロープに固定され、前記受け部材はその円すい頂部が上に向くように前記セフティーリンクに取り付けられたことを特徴とする請求項2に記載のエレベータの調速機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、エレベータの調速機に関する。
【背景技術】
【0002】
エレベータにおいては、安全装置として、調速機を備えた非常停止システムを設けることが法令で義務づけられている(建築基準法施行令第129条の10)。この調速機は、乗りかごの移動速度が規定された値を超えたときに作動して、乗りかごを自動的に停止させる装置である。
【0003】
ここで、図5は、一般的なエレベータにおける従来の調速機を用いた非常停止システムの概略構成を示す図である。
【0004】
図5において、参照番号2は、エレベータの乗りかごを示している。この乗りかご2は、主ロープ4で吊られており、図示しない巻上機に駆動されて、昇降路に設けられたガイドレール6に案内されながら昇降路内を昇降する。
【0005】
機械室には、調速機8が設置されている。この調速機8は、ガバナシーブ10を備えるほか、乗りかご2の移動速度が設定された値を超える速度以上になったときに作動するリミットスイッチ13や、乗りかご2の移動速度が設定された過速度を超えると、乗りかご2と一体的に走行する調速機ロープ14を把持するロープ掴み機構16が設けられている。
【0006】
乗りかご2には、乗りかご2を非常停止させる非常止め装置18が設けられている。この非常止め装置18は、主ロープ4が切断したり、あるいは巻上機の回転速度が異常になり、エレベータの乗りかご2の速度が設定された過速度以上になったときに、ガイドレール6を掴み、乗りかご2を機械的に非常停止させるための装置である。
【0007】
調速機ロープ14は、調速機本体8のガバナシーブ10と、昇降路4の下部に配置されているガバナテンショナーのシーブ20とに無端状に巻き掛けられている。ガバナテンショナーのシーブ20には、調速機ロープ14にテンションを与えるため錘21が吊り下げられている。
【0008】
調速機ロープ14は、ガバナヒッチ22を介して、非常止め装置18を作動させるセフティーリンク35と連結されており、調速機ロープ14は乗りかご2の昇降する方向と同方向でかつ同速度で走行するようになっている。なお、参照番号24は、調速機ロープ14の振れ止めを示す。
【0009】
乗りかご2が下降しているときに、ガバナシーブ10の回転から所定の過速度を超えたことが検知されると、リミットスイッチ13が作動して、巻上機の電源が遮断され巻上機のブレーキ装置によって乗りかご2は停止する。
【0010】
通常、この段階で乗りかご2は停止するが、万一、主ロープ4の切断した場合など、巻上機が停止しても乗りかご2が下降を続ける場合がある。乗りかご2の下降速度が増し、あらかじめ設定された過速度になると、今度は調速機8のロープ掴み機構16が調速機ロープ14掴み、調速機ロープ14が強制的に止められる。その結果、乗りかご2の下降に伴い、セフティーリンク35が引き上げられるとともに、連結リンク37を介してセフティーリンク36が引き下げられてすべての非常止め装置12を作動させるので、乗りかご2を非常停止させることができる。
【0011】
ところで、近年、超高層ビルに設置されるエレベータでは高速化が著しく進んでいる。超高層ビルのエレベータでは、乗りかごを高速に運転することで、乗りかご内に急激な圧力変動が生じる。その結果、乗客は、鼓膜内外の圧力差に起因して、耳に不快感を覚えることが多い。
【0012】
とりわけ、超高速エレベータともなると、上昇運転時よりも下降運転時に、耳に不快感をより激しく感じることになるので、上昇時の定格速度よりも下降時の定格速度を遅くして、これに伴い、上昇用の調速機と下降用の調速機との2台の調速機を用いて、上昇時と下降時とで異なる動作速度を設定する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2000−327241号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
従来のエレベータの調速機では、一台の調速機に対しては、1つの定格速度に対応した動作速度の設定しかできない。乗りかごの上昇時の定格速度と、下降時の定格速度とが異なる超高速エレベータの場合では、速度の速い方の定格速度に対して、動作速度を設定している。このため、上昇、下降のどちらか片方は、本来の望ましい動作速度の設定で動作されないという問題があった。
【0015】
本発明は、前記従来技術の有する問題点に鑑みなされたものであって、乗りかごの上昇時の定格速度と、下降時の定格速度とが、異なるエレベータにおいても、一台の調速機でも、上昇方向と下降方向とで異なる動作速度の設定をして動作させることができるようにしたエレベータの調速機を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0016】
前記の目的を達成するために、実施形態によるエレベータの調速機は、調速機ロープが巻き掛けられるガバナシーブと、前記調速機ロープを把持するロープ掴機構を備えた調速機を備え、前記調速機ロープの一端を乗りかごに設けた非常停止装置を作動させるセフティーリンクと接続し、乗りかごの速度が所定の過速度を超えた場合に前記乗りかごを非常停止させるエレベータの調速機である。この調速機は、乗りかごが上昇するときの過速度が設定される上昇側のガバナシーブと、前記上昇側のガバナシーブと同軸に設けられ前記乗りかごが下降するときの過速度が設定される下降側のガバナシーブと、前記上昇側のガバナシーブに巻き掛けられる上昇側調速機ロープを前記セフティーリンクに連結する第1のくさび型連結対と、前記下降側のガバナシーブに巻き掛けられる下降側調速機ロープを前記セフティーリンクに連結する第2のくさび型連結対と、からなるガバナヒッチ手段とを備えている。そして、前記第1くさび型連結対と前記第2くさび型連結対とを互いに逆の姿勢にして、前記上昇側調速機ロープと下降側調速機ロープをそれぞれ前記セフティーリンクと連結し、下降側のガバナシーブと、上昇側のガバナシーブとで異なる動作速度を設定するように構成される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明によるエレベータの調速機の実施形態を示す図である。
図2】実施形態によるエレベータの調速機が備えるガバナヒッチ手段を示す斜視図である。
図3】乗りかごが上昇するときのガバナヒッチ手段の動作を示す側面図である。
図4】乗りかごが下降するときのガバナヒッチ手段の動作を示す側面図である。
図5】従来のエレベータの調速機の側面図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明によるエレベータの調速機の一実施形態について、添付の図面を参照しながら説明する。
図1は、本発明の第1実施形態によるエレベータの調速機の構成を示す図である。図1において、参照番号2は、エレベータの乗りかごを示している。この乗りかご2は、主ロープ4で吊られており、図示しない巻上機に駆動されて、昇降路に設けられたガイドレール6に案内されながら昇降路内を昇降する。
【0019】
昇降路の頂部に設置されている機械室には、調速機8が設置されている。この実施形態の調速機8は、2つのガバナシーブ9、10を同軸に備えている。このうち、一方のガバナシーブ9は、乗りかご2が上昇する運転での過速度を検知するガバナシーブである(以下、上昇側ガバナシーブ9という。)。これに対して、他方のガバナシーブ10は、乗りかご2が下降する運転での過速度を検知するガバナシーブである(以下、下降側ガバナシーブ10という)。
【0020】
これら上昇側ガバナシーブ9と下降側ガバナシーブ10は、回転するときの遠心力で開く速度検知のための図示しない回転錘が設けられている。この回転錘の調整を行うことで、過速度を設定することができる。
【0021】
この実施形態のエレベータでは、乗りかご2が上昇するときの定格速度Vuの方が下降するときの定格速度Vdよりも大きな速度に設定され、上昇する方がより高速に設定されている。これは、下降したときに気圧の変動により乗客に与える耳の不快感を緩和するためである。
【0022】
また、上昇側ガバナシーブ9と下降側ガバナシーブ10では、それぞれ別々に調速機ロープが巻き掛けられている。この場合、上昇側ガバナシーブ9と、昇降路4の下部に配置されているガバナテンショナーのシーブ20には、上昇側の調速機ロープ15が無端状に巻き掛けられている。下降側ガバナシーブ9と、シーブ20と同軸のシーブ22には、下降側の調速機ロープ14が巻き掛けられている。参照番号21は、下降側調速機ロープ14および上昇側調速機ロープ15に適当なテンションを与えるためにガバナテンショナーにつり下げられる錘を示している。
【0023】
なお、調速機8の上昇側ガバナシーブ9には、設定された過速度が検知されたときに、上昇側調速機ロープ15を把持するロープ掴み機構11が設けられ、同様に、下降側ガバナシーブ10にも、下降側の調速機ロープ14を把持するロープ掴み機構12が設けられている。
【0024】
乗りかご2には、下降運転時に調速機8が作動し、下降側ガバナシーブ10のロープ掴み機構12が下降側調速機ロープ14を掴んだときに、あるいは、上昇運転時に調速機8が作動し、上昇側ガバナシーブ9のロープ掴み機構11が上昇側調速機ロープ15を掴んだときに、ガイドレール6を挟み付けて乗りかご2を非常停止させる非常止め装置18がそれぞれガイドレール6ごとに設けられている。この非常止め装置18を作動させるセフティーリンク35は、それぞれ他の非常止め装置18と接続されているセフティーリンク36と、リンク37を介して連結されている。
【0025】
乗りかご2の上昇運転と下降運転とでの定格速度の違いに対応して、下降側ガバナシーブ10では、下降時の定格速度Vdを基準して、非常止め装置18を作動させる過速度が定格速度Vdの1.4倍程度に設定されている。同様にして、高速な方の上昇側のガバナシーブ9では、上昇の定格速度Vuを基準して、非常止め装置18を作動させる過速度が設定されている。
【0026】
この実施形態では、セフティーリンク35と、下降側調速機ロープ14および上昇側調速機ロープ15との接続のために、次のようなガバナヒッチ手段38が設けられている。
【0027】
ここで、図2は、ガバナヒッチ手段38の構成を示す。このガバナヒッチ手段38では、円すい形のくさび連結体42、43と、円すい筒形の受け部材40、41を組み合わせて、2組のくさび型連結対が構成されている。
【0028】
この場合、受け部材40とこれに同軸に嵌合するくさび連結体42との組み合わせにより、上昇側調速機ロープ15とセフティーリンク35を連結する第1のくさび連結対が構成されている。また受け部材41とこれに同軸に嵌合するくさび連結体43を組み合わせて、下降側調速機ロープ14とセフティーリンク35を連結する第2のくさび連結対が構成されている。
【0029】
図2に示されるように、上昇側調速機ロープ15には、くさび連結体42がその円すい頂部を下向きにしてロープと同心に固定されている。受け部材40はセフティーリンク35の先端部に、ブラケット39を介してその円すい頂部が下向きになる姿勢で取り付けられている。
【0030】
これに対して、下降側調速機ロープ14には、くさび連結体43がその円すい頂部を上向きにしてロープと同心に固定されている。受け部材41はセフティーリンク35の先端部に、その円すい頂部が上向きになる姿勢で取り付けられている。このように、下降側調速機ロープ14と、上昇側調速機ロープ15とでは、くさび型連結対は、くさび部材と受け部材の関係が反転した逆の姿勢になっている。
【0031】
本実施形態によるエレベータの調速機は、以上のように構成されるものであり、次に、その作用並びに効果について説明する。
【0032】
図1において、乗りかご2が上昇するときには、上昇側調速機ロープ15が乗りかご2と同じ速度で上方に走行する。すなわち、定格速度での上昇運転の場合には、図3に示されるように、乗りかご2の上昇とともに第1くさび型連結対を構成している受け部材40と、くさび連結体42と、が嵌まり合っている状態となる。これによって、上昇側調速機ロープ15は乗りかご2の移動に追従して同じ速度で上方に走行する。この間、調速機8では、上昇側調速機ロープ15とともに上昇側ガバナシーブ9が回転し、乗りかご2の速度を上昇側ガバナシーブ9に正確に伝達することができる。なお、下降側ガバナシーブ10も上昇側ガバナシーブ9といっしょに回転して、下降側調速機ロープ14も上方に走行する。
【0033】
乗りかご2の上昇中に、過速状態が調速機8でのガバナシーブ10の回転から検知されると、調速機8に設けられている図示しないリミットスイッチが作動して、巻上機の電源が遮断される。これと同時に、巻上機のブレーキ装置が効いて乗りかご2は停止する。
【0034】
巻上機に何らかの故障が発生したような状況では、乗りかご2は停止せずに、速度を増しながら上昇をそのまま続ける事態に至ることがある。乗りかご2の速度がさらに増し、上昇側ガバナシーブ9で設定された過速度が検知されると、調速機8のロープ掴み機構11が上昇側調速機ロープ15を掴み、この上昇側調速機ロープ15を強制的に止めることになる。図3に示されるように、このとき乗りかご2が上方へ動こうとすると、くさび連結体42が受け部材40に嵌まり込んでくさびが効いた状態になり、セフティーリンク35が矢印A方向に引き下げられる。この結果、非常止め装置18が作動するので、乗りかご2を非常停止させることができる。
【0035】
この間、下降側調速機ロープ14の方では、くさび連結体43と受け部材41が、上昇側調速機ロープ15のくさび連結体42と受け部材40とは逆向きに反転しているため、くさび作用が働くことがなく、非常止め装置18の作動には全く関与することがない。このようにして、エレベータの上昇時には、上昇側調速機ロープ15の方だけを利用して、上昇時の定格速度Vuに基づいて設定した過速度で調速機8を機能させることが可能になる。
【0036】
次に、エレベータの下降運転時の本実施形態の動作について説明する。
図1において、エレベータの下降運転では、乗りかご2の定格速度Vdは上昇時の定格速度Vuよりも遅い速度に設定されているものとする。下降運転では、下降側調速機ロープ14が乗りかご2と同じ速度で下方に走行する。すなわち、定格速度での下降運転の場合には、図4に示されるように、乗りかご2の下降とともに第2くさび型連結対を構成している受け部材41と、くさび連結体43と、が嵌まり合っている状態となる。これによって、下降側調速機ロープ14は乗りかご2の移動に追従して同じ速度で下方に走行する。この間、調速機8では、下降側調速機ロープ14とともに下降側ガバナシーブ10が回転し、乗りかご2の速度を下降側ガバナシーブ10に正確に伝達することができる。
【0037】
乗りかご2の下降中に、過速状態が調速機8での下降側ガバナシーブ10の回転から検知されると、調速機8に設けられている図示しないリミットスイッチが作動して、巻上機の電源が遮断される。これと同時に、巻上機のブレーキ装置が効いて乗りかご2は停止する。
【0038】
万一、主ロープ4が切断した場合など、巻上機が停止しても乗りかご2は速度を増しながら下降をそのまま続ける事態に至ることがある。乗りかご2の下降速度がさらに増し、下降側ガバナシーブ10で設定された過速度が検知されると、調速機8のロープ掴み機構12が下降側調速機ロープ14を掴み、これを強制的に止めることになる。図4に示されるように、このとき乗りかご2が下方へ動こうとすると、くさび連結体43が受け部材41に嵌まり込んでくさびが効いた状態になる。セフティーリンク35は矢印B方向に引き上げられ、この結果、非常止め装置18が作動するので、乗りかご2を非常停止させることができる。
【0039】
この間、上昇側調速機ロープ15の方では、くさび連結体42と受け部材40が、下降側調速機ロープ14のくさび連結体43と受け部材41とは逆向きに反転しているため、くさび作用が働くことがなく、非常止め装置18の作動には全く関与することがない。このようにして、エレベータの下降時には、下降側調速機ロープ14の方だけを利用して、高速な上昇時の定格速度Vuに合わせることなく、下降時の定格速度Vdに基づいて設定した過速度で調速機8を機能させることが可能になる。
【0040】
また、図1において、昇降路の最下部のピットには、乗りかご2の衝突緩衝のために、バッファ25が設けられている。上述のように、下降時の調速機動作速度を下降時の定格速度Vdに合わせて設定できるので、バッファ25の設定についても、高速な方の上昇時に合わせる必要はなくなる利点がある。
【0041】
以上のようにして、本実施形態によれば、エレベータの上昇運転時には、上昇側調速機ロープ15を使用し、下降運転時には下降側調速機ロープ14を使用するというように、一台の調速機で乗りかご2の走行する方向によって調速機ロープを使い分けることができるので、上昇運転と下降運転とで定格速度が異なる場合に、その定格速度に応じて調速機を動作させることが可能になる。
【0042】
なお、実施形態では、上昇運転時の定格速度Vuの方が下降時の定格速度Vdより高速なエレベータを例にして説明したが、必ずしもこれに限定されるものではない。
【0043】
以上、本発明によるエレベータの調速機について、好適な実施形態を挙げて説明したが、これらの実施形態は、例示として挙げたもので、発明の範囲の制限を意図するものではない。もちろん、明細書に記載された新規な装置、方法およびシステムは、様々な形態で実施され得るものであり、さらに、本発明の主旨から逸脱しない範囲において、種々の省略、置換、変更が可能である。請求項およびそれらの均等物の範囲は、発明の主旨の範囲内で実施形態あるいはその改良物をカバーすることを意図している。
【符号の説明】
【0044】
2…乗りかご、4…主ロープ、6…ガイドレール、8…調速機、9…上昇側ガバナシーブ、10…下降側ガバナシーブ、11…ロープ掴み機構、12…ロープ掴み機構、14…下降側調速機ロープ、15…上昇側調速機ロープ、18…非常止め装置、35…セフティーリンク、38…ガバナヒッチ手段、40、41…受け部材、42、43…くさび連結体
【要約】
【課題】乗りかごの上昇時の定格速度と、下降時の定格速度とが、異なるエレベータにおいて、一台の調速機でも、上昇方向と下降方向とで異なる動作速度の設定をして動作させることができるようにする。
【解決手段】上昇側のガバナシーブ9と同軸に設けられ乗りかご2が下降するときの過速度が設定される下降側のガバナシーブ10と、上昇側のガバナシーブ9に巻き掛けられる上昇側調速機ロープ15をセフティーリンク35に連結する第1のくさび型連結対と、下降側のガバナシーブ10に巻き掛けられる下降側調速機ロープ14をセフティーリンク35に連結する第2のくさび型連結対と、からなるガバナヒッチ手段38とを備えている。そして、第1くさび型連結対と第2くさび型連結対とを互いに逆の姿勢にして、上昇側調速機ロープ15と下降側調速機ロープ14をそれぞれセフティーリンク35と連結し、下降側のガバナシーブ10と、上昇側のガバナシーブ9とで異なる動作速度を設定するように構成される。
【選択図】図1
図1
図2
図3
図4
図5