【実施例】
【0057】
以下に、実施例および比較例を挙げて、本発明を更に詳しく説明するが、本発明は、これらの例に限定されるものではない。
実施例および比較例で用いる原料および試験方法は下記のとおりである。
【0058】
原料
(A)フッ素樹脂(I)
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体(PFA)、MFR:30−40g/10分
(B)フッ素樹脂(II)
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体(PFA)、MFR:11−18g/10分
(C)フッ素樹脂(III)
テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)共重合体(PFA)、MFR:1−3g/10分
(D)フッ素樹脂(IV)
MP−102、三井・デュポンフロロケミカル社製、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体塗料
(E)フッ素樹脂(V)
MP−501、三井・デュポンフロロケミカル社製、ポリフェニレンサルファイド含有テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体塗料
(F)フッ素樹脂(VI)
MP−502、三井・デュポンフロロケミカル社製、充填材含有テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体塗料
(G)フッ素樹脂(VII)
MP−505、三井・デュポンフロロケミカル社製、充填材含有テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体塗料
(H)フッ素樹脂(VIII)
MP−630、三井・デュポンフロロケミカル社製、充填材含有テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)共重合体(PFA)粉体塗料
(I)反応性官能基含有フッ素樹脂
特開2005−212318号の実施例に記載される、テトラフルオロエチレン/パーフルオロ(エチルビニルエーテル)共重合体/トリフルオロビニルエーテル基含有リン酸エステル化合物共重合体(PEVEを12重量%、EVE−Pを0.6重量%含有)
(J)有機チタネート
オルガチックスTC−400(マツモトファインケミカル製)
【0059】
試験方法
(1)耐食性
試験片をオートクレーブにて170℃で0.8メガパスカルの水蒸気中に50時間放置した後、常温までゆっくり冷却した。その後、薬液として10重量%食塩水を用い、試験片を浸漬し100℃に保温して、1週間毎4週間まで、膨れ、ブリスター(湿疹状の膨れ)の発生状況、及び腐食の有無を目視によって観察し、膨れが2mm以上で、ブリスターが3個以上あり、腐食が認められる状態を接着不良と判定し、接着不良に到るまでの時間で表示した。
【0060】
(2)密着力
密着力試験片を、10mm幅に形成した積層体をカットし、マスキング部分(プライマー層の無いフッ素樹脂積層体部分)から、プライマー層のあるフッ素樹脂積層体部分に向かって、マスキング部分を剥離し、剥離したマスキング部分(プライマー層の無いフッ素樹脂積層体部分)をマスキングテープにて保護した。
密着力の測定:
テンシロン万能試験機(エイ・アンド・デイ社製)を用い、JIS K6854に規定される接着剤の剥離強さ(90度剥離試験法)の測定方法に準拠し、マスキングテープにて保護した部分を試験機のチャックに挟み、速度50mm/分で引っ張り、プライマー層のあるフッ素樹脂積層体部分の密着力を測定した。単位はkgf/cmである。
【0061】
(3)耐スチーム密着力
試験片を170℃、0.8メガパスカルの水蒸気中に100時間放置した後、常温までゆっくり冷却し、上記の方法で密着力を測定した。単位はkgf/cmである。
(4)耐熱性
試験片を電気炉にて380℃で1時間加熱した後、常温までゆっくり冷却した。これを11サイクル行い、上記の方法で密着力を測定した。単位はkgf/cmである。
【0062】
(調製例1)
表1に示したフッ素樹脂水分散体、有機チタネート、増粘剤、水を混合することによって、塗料組成物(1)〜(5)を調製した。表1中、各成分の配合量の単位は重量部である。
【0063】
【表1】
【0064】
(実施例1)
三層被膜体の調製:
基材にSUS304を用いて#60番アルミナによるショットブラストを施した。基材に前記調整例1で得られた塗料組成物(1)をスプレー塗装した後、120℃で10分間乾燥後、250℃にて60分焼き付けを行い膜厚10μmのプライマー層を形成した。
次に、プライマー層の上にフッ素樹脂(V)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼き付けた後、さらにその上にフッ素樹脂(V)を塗装して350℃で60分間焼き付けて厚さ100μmの中間層を形成した。
最後にフッ素樹脂(IV)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼付け50μmのトップコート層を形成した。
【0065】
耐食性および密着力の試験:
得られた三層被膜を有する被膜体(三層被膜体)から試験片を得て耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0066】
(実施例2)
実施例1において、塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(2)を用いるほかは同様にして三層被膜体を調製して、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0067】
(実施例3)
実施例2において、プライマー層を形成させるときの焼成温度を250℃から350℃に変えるほかは同様にして、三層被膜体を調製し耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0068】
(実施例4)
実施例1において、塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(3)を用い、プライマー層を形成させるときの焼成温度を250℃から300℃に変えるほかは同様にして、三層被膜体を調製し耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0069】
(実施例5)
実施例1において、塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(4)を用い、プライマー層を形成させるときの焼成温度を250℃から300℃に変えるほかは同様にして、三層被膜体を調製し耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0070】
(比較例1)
実施例1において、塗料組成物(1)に代えて塗料組成物(5)を用いるほかは同様にして三層被膜体を調製して、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0071】
(比較例2)
実施例1において、塗料組成物(1)に代えて、クロム酸、リン酸の混合物を用いるプライマー850−7799(DuPont社製)を、850N−314(DuPont社製)と1:3の割合で混合したものをプライマー組成物として用いるほかは同様にして三層被膜体を調製して、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表2に示した。
【0072】
【表2】
【0073】
(調製例2)
表3に示したフッ素樹脂水分散体、反応性官能基含有フッ素樹脂、有機チタネート、増粘剤、水を混合することによって、塗料組成物(6)〜(10)を調製した。表3中、各成分の配合量の単位は重量部である。
【0074】
【表3】
【0075】
(実施例6)
三層被膜体の調製:
基材にSUS304を用いて#60番アルミナによるショットブラストを施した。基材に前記調整例2で得られた塗料組成物(7)をスプレー塗装した後、120℃で10分間乾燥後、250℃にて60分焼き付けを行い膜厚10μmのプライマー層を形成した。
次に、プライマー層の上にフッ素樹脂(V)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼き付けた後、さらにその上にフッ素樹脂(V)を塗装して350℃で60分間焼き付けて厚さ100μmの中間層を形成した。
最後にフッ素樹脂(IV)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼付け50μmのトップコート層を形成した。
【0076】
耐食性および密着力の試験:
得られた三層被膜体から試験片を得て耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表4に示した。
【0077】
(実施例7〜10)
実施例6において塗料組成物(7)に代えて、それぞれ塗料組成物(6)、(8)〜(10)を用いるほかは同様にして三層被膜体を調製して、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表4に示した。
【0078】
【表4】
【0079】
(実施例11)
二層被膜体の調製:
基材にSUS304を用いて#60番アルミナによるショットブラストを施した。基材に前記調整例2で得られた塗料組成物(9)をスプレー塗装した後、120℃で10分間乾燥後、250℃にて60分焼き付けを行い膜厚10μmのプライマー層を形成した。
次に最後にフッ素樹脂(IV)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼付け50μmのトップコート層を形成した。
【0080】
耐食性および密着力の試験:
得られた二層被膜体から試験片を得て耐食性および密着力の試験を行った。耐食性は、前記の試験方法における(1)耐食性の4週間後の試験片について、試験面積に対する不良発生面積の割合で評価した。その結果を表5に示した。
【0081】
(実施例12〜15)
実施例11において、塗料組成物(9)に代えて調整例2で得られた(7)を用い、トップコート層を形成するのに用いたフッ素樹脂(IV)を、それぞれフッ素樹脂(V)〜(VIII)に代えるほかは同様にして二層被膜体を得て、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表5に示した。
【0082】
(実施例16)
実施例11において、塗料組成物(9)に代えて調整例2で得られた塗料組成物(7)を用いるほかは同様にして二層被膜体を得て、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表5に示した。
【0083】
(実施例17)
実施例11において、塗料組成物(9)に代えて調整例2で得られた塗料組成物(6)を用いるほかは同様にして二層被膜体を得て、耐食性および密着力の試験を行った。その結果を表5に示した。
【0084】
【表5】
【0085】
(実施例18)
二層被膜体の調製:
基材にSUS304を用いて#60番アルミナによるショットブラストを施した。基材に前記調整例2で得られた塗料組成物(7)をスプレー塗装した後、120℃で10分間乾燥後、250℃にて60分焼き付けを行い膜厚10μmのプライマー層を形成した。
次に、プライマー層の上にフッ素樹脂(VII)を静電粉体塗装によって塗装し、350℃で60分間焼き付けた後、さらにその上にフッ素樹脂(VII)を塗装して350℃で60分間焼き付けて厚さ50μmのトップコート層を形成した。
【0086】
スチーム暴露試験:
得られた二層被膜を有する被膜体(二層被膜体)をオートクレーブにて120℃で60分間スチーム暴露し、暴露後の密着力を描画試験(JIS K6894)にて評価した。評価は暴露前および1〜5回の暴露後に行った。評価はJIS K6894に規定される1(悪い)〜5(良い)の5段階で評価する方法にて実施した。その結果を表6に示した。
【0087】
(比較例3)
実施例18において、塗料組成物(7)に代えて前記調整例2で得られた塗料組成物(5)を用いるほかは同様にして二層被膜体を調製して、スチーム暴露試験を行った。その結果を表6に示した。
【0088】
(比較例4)
実施例18において、塗料組成物(7)に代えて、クロム酸、リン酸の混合物を用いるプライマー850−7799(DuPont社製)を、850N−321(DuPont社製)と1:3の割合で混合したものをプライマー組成物として用いるほかは同様にして二層被膜体を調製して、スチーム暴露試験を行った。その結果を表6に示した。
【0089】
【表6】
【0090】
以上のようにMFRが30−40g/10分のフッ素樹脂をプライマー組成物として用いたもの(実施例1)、及びMFRが30−40g/10分のフッ素樹脂と官能基含有フッ素樹脂をプライマー組成物として用いたもの(実施例6)はクロム酸、リン酸の混合物を用いたプライマー(比較例2)よりも優れた性能を発揮しており、さらにその他の実施例においても、クロム酸、リン酸の混合物を用いたプライマー(比較例2)と同程度の性能を発揮していることがわかる。
【0091】
また、本発明の塗料組成物に含まれる有機チタネートは水溶性塗料として使用する場合は、水中である程度安定であるかあるいは分解しても接着性に影響を及ぼさないことが必要である。本発明の実施例に用いた有機チタネートを含む塗料組成物は1液塗料として用いても1年間冷蔵保存や3ヶ月室温放置を行った後も接着性、耐食性の性能には問題が無かった。よって、1液塗料として十分使用が可能である。