(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
さらに、前記高周波インバータの出力を制御する高周波インバータ制御部、前記高周波インバータに設けられている計測機器の何れか又は双方から出力された一以上のモニター信号を受ける入出力制御部を備え、
入出力部により上記一以上のモニター信号、上記電流センサ及び上記電圧センサの各検出信号、前記算出部で求めた負荷インピーダンスのうち一又は複数を選択して、前記判定部により焼入れ処理の異常を検知可能とする、請求項1に記載の高周波焼入れシステム。
軸方向に外径が変化するワークを加熱コイルの中空に挿通して上記ワークを搬送しながら、高周波インバータに加熱コイルとコンデンサとを接続してなる高周波回路を用いて上記ワークに対し高周波焼入れ処理を行う際、
上記高周波インバータから流れる出力電流と上記加熱コイルに生じるコイル電圧とをそれぞれ計測し、計測した各値から負荷インピーダンスを算出し、負荷インピーダンスの変化がワークの形状データと符合しているかを判定する、高周波焼入れ異常判定方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明する。
図1は、本発明の実施形態に係る高周波焼入れ異常判定装置を組み込んだ高周波焼入れシステムを模式的に示す図である。高周波焼入れシステム1は、高周波焼入れ装置10と高周波焼入れ異常判定装置20とを備える。
【0014】
本発明の実施形態に係る高周波焼入れ異常判定装置20を説明するために、高周波焼入れ装置10について先ず説明する。高周波焼入れ装置10は、電気回路的に、高周波インバータ11と、高周波インバータ11にケーブルにより接続される整合用のコンデンサ12と、ワーク15を誘導加熱する加熱コイル14と、整合用のコンデンサ12と加熱コイル14との間に介在される電流変成器13と、で構成されている。つまり、高周波焼入れ装置10は、等価回路的に、整合用のコンデンサ12と加熱コイル14とが並列共振回路を含んで構成されている。高周波焼入れ装置10は、図示したものに限らず、等価回路的に、整合用のコンデンサと加熱コイルとが直列共振回路を含んで構成されていてもよい。
【0015】
高周波インバータ11は例えば電流型インバータであって、高周波インバータ制御部11aにより高周波の出力電圧及び出力電力の何れかが一定となるよう駆動制御される。電流変成器13は、高周波インバータ11に対して整合用のコンデンサ12と並列接続される一次コイル13aと、加熱コイル14に並列接続される二次コイル13bと、で構成されている。
【0016】
高周波焼入れ装置10は、例えば加熱コイル14を内蔵した受け部(図示せず)にワーク15を配置した状態で、高周波インバータ11から加熱コイル14に対して高周波電流を供給することで、ワーク15の表面近傍に渦電流を発生させてワーク15を誘導加熱して焼入れ処理を行う。
図1では加熱コイル14及びワーク15は模式的にしか示していないが、加熱コイル14はワーク15の形状や焼入れ領域などに応じた構造を有している。
【0017】
次に高周波焼入れ異常判定装置20について詳細に説明する。高周波焼入れ異常判定装置20は、高周波インバータ11からの出力電流を検出する電流センサ21と、加熱コイル14に生じる電圧を検出する電圧センサ22と、電流センサ21及び電圧センサ22からの各検出信号に基づいて制御する制御部23と、を有する。
【0018】
電流センサ21は、高周波インバータ11と整合用のコンデンサ12との配線、例えばケーブルに電気的に接続され、高周波インバータ11の出力電流I
oを検出する。電圧センサ22はその端子22a,22bで加熱コイル14に並列接続され、加熱コイル14に生じる電圧V
coilを検出する。
【0019】
制御部23は、電流センサ21からの検出信号の入力を受ける電流検出部23aと、電圧センサ22からの検出信号の入力を受ける電圧検出部23bと、電流検出部23a及び電圧検出部23bからの入力、即ち、電流センサ21の検出信号及び電圧センサ22の検出信号に基づいて出力電流I
0、電圧V
coilの実効値をそれぞれ算出する信号処理部23cと、信号処理部23cで求めた各値に基づいて負荷インピーダンスを算出する算出部23dと、負荷インピーダンスの値から焼入れ処理の異常を検知する判定部23eと、を備える。この判定部23eは、判定結果を表示する表示部23fや、高周波インバータ制御部11aやワーク搬送機構(図示せず)への制御信号や焼入れ処理管理部25への焼入れ処理データを出力する入出ポート(図示せず)などを備えていてもよい。
【0020】
電流センサ21と電流検出部23aとは、検出した電流I
oを電圧に変換するカレントトランスファー(変流器)で構成してもよい。このとき、電流センサ21にはロゴスキーコイルを用いることができ、電流検出部23aはロゴスキーコイルに生じる電圧から所定の範囲の電圧に変換する。カレントトランスファーは、例えば、出力電流500A
rmsを0.5V
rmsに変換する。
【0021】
電圧センサ22と電圧検出部23bとは、検出した電圧を所定範囲の電圧に変換するポテンシャルトランスファー(変圧器)で構成してもよい。このとき、電圧センサ22には加熱コイル14の端子間に接続可能なプローブを用いることができる。電圧検出部23bはプローブで抽出した電圧V
coilを所定範囲の電圧に変換する。ポテンシャルトランスファーは、例えばコイル電圧200V
rmsを10V
rmsに変換する。
【0022】
信号処理部23cは、電流検出部23a及び電圧検出部23bからの信号を、それぞれ整流して実効値を算出すると共にフィルターでノイズを除去し、電流信号S
i及び電圧信号S
vを算出部23dに出力する。これにより、カレントトランスファーからの信号、例えば0.5V
rmsの信号を5Vの電圧信号に変換する一方、ポテンシャルトランスファーからの信号、例えば10V
rmsの信号を5Vの電圧信号に変換する。信号処理部23cの具体的な構成については後述する。
【0023】
算出部23dは、信号処理部23cから入力された電流信号S
i及び電圧信号S
vに基づき、コイル電圧V
coilを出力電流I
oで割ることにより、負荷インピーダンスを算出する。例えば、高周波インバータ11を制御する高周波インバータ制御部11aから加熱同期信号S
sが入力されることにより、信号処理部23cから入力された電流信号S
i及び電圧信号S
vの値をサンプリングする。
【0024】
図2は、出力電流I
o、コイル電圧V
coilの波形を模式的に示す図である。波形は一周期だけ示しているが実際には繰り返しの連続波形となる。高周波インバータ11から高周波電力が出力されると、コンデンサ12及び加熱コイル14の並列共振回路に対して出力電流I
oが流れ、加熱コイル14にコイル電圧V
coilが生じる。よって、例えば
図2に示すように、高周波インバータ11から高周波が出力される毎に、出力開始から時間t
dだけ経過したときの出力電流I
o、コイル電圧V
coilをサンプリングする。次に、サンプリングした電圧値をサンプリングした電流値で割り、所定の比例定数を乗算することで、コイル電圧に対する出力電流、即ち負荷インピーダンスを算出する。算出部23dは求めた値を判定部23eに出力する。
【0025】
判定部23eは、算出部23dから負荷インピーダンスの算出値が入力される毎に、又は、ワーク15を所定回数だけ加熱処理する毎に、負荷インピーダンスの値が所定の範囲内にあるか否かを判定する。判定部23eには予め高周波焼入れ処理に負荷インピーダンスの基準範囲が設置されており、判定部23eは、負荷インピーダンスの値が基準範囲内であった場合には焼入れ処理がOKと判断する一方、負荷インピーダンスの値が基準範囲外であった場合には、加熱コイル14とワーク15との相対的な位置関係、加熱コイル14それ自体、ワーク15それ自体の少なくとも何れかが異常であることを含めて焼入れ処理がNGであると判断し、警告部24に対して警告信号を出力する。
【0026】
なお、判定部23eは、高周波インバータ制御部11aから加熱同期信号S
sが入力されることで波形から切り出した電流信号S
i及び電圧信号S
vの何れかの波形を表示部23fに出力するようにしてもよい。その際、判定部23eは予め設定されている上限下限のしきい値も表示する。これにより、判定部23eは、高周波焼入れ装置10が動作中の下で、電流信号S
i及び電圧信号S
vが上限のしきい値を上回ったり下限のしきい値を下回ったりした場合には、判定がNGであると判定し、当該波形を異常波形として記録し、焼入れ処理管理部25に出力してもよい。
【0027】
判定部23eは、警告部24、高周波インバータ制御部11a、焼入れ処理管理部25の少なくとも何れかに対して警告信号を出力する。その際、判定部23eが警告信号を出力する際、表示部23fに、「NG」として警告表示を行ってもよい。
【0028】
警告部24は、判定部23eからの警告信号に基づいて警告表示を行ったり、警告音を外部に発生したりする。判定部23eは警告信号として高周波インバータ制御部11aに対して高周波電力の出力を停止するように出力する。
【0029】
図1の信号処理部23c内部の回路構成について説明する。信号処理部23cには、電流検出部23aからの信号を処理する電流測定回路と、電圧検出部23bからの信号を処理する電圧測定回路とが別々に含まれている。電流測定回路も電圧測定回路も同様の回路構成であるので、以下では電圧測定回路について説明する。
【0030】
図3は、
図1における信号処理部23c内の電圧測定回路30を示す図である。電圧測定回路30は、第1の演算増幅器31と第2の演算増幅器32が縦続接続され、出力側にフィルター回路33が接続されている。第1の演算増幅器31には、入力抵抗34と、入力端子と出力端子に接続される第1のダイオード35と、出力端子に一端が接続される第2のダイオード36と、入力端子に一端が接続され他端が第2のダイオード36の他端に接続される抵抗37と、が接続されている。第1の演算増幅器31は、所謂理想ダイオードであり、入力信号電圧の半波整流を行う。第1の演算増幅器31での第2のダイオード36の他端における抵抗37の接続点と第2の演算増幅器32とは、抵抗38で接続されている。第2の演算増幅器32は、入力端子と出力端子との間に抵抗39が接続された反転増幅器である。第2の演算増幅器32の入力端子は、抵抗40を介して、入力抵抗34の入力信号側と接続されている。第2の演算増幅器32の出力は、入力電圧信号の両波整流波形となる。この両波整流波形が、抵抗41及びコンデンサ42からなるローパス型のフィルター回路33に入力され、両波整流波のリップルが除去されて直流電圧に変換される。フィルター回路33の抵抗41及びコンデンサ42の値を設定することで、第2の演算増幅器32から出力される両波整流波の実効値が得られる。
【0031】
本発明の実施形態による高周波焼入れ異常判定方法を含め、高周波焼入れシステム1を用いて焼入れ処理を行う際の焼入れ監視について説明する。高周波焼入れ装置10において、高周波インバータ11から整合用のコンデンサ12及び電流変成器13を介して加熱コイル14に高周波電力を投入する。これにより、加熱コイル14の近傍に配置されたワーク15が加熱され、高周波焼入れされる。その際、高周波焼入れ異常判定装置20において、電流センサ21が高周波インバータ11の出力電流I
oを検出し、電圧センサ22が加熱コイル14の電圧V
coilを検出する。
【0032】
制御部23の電流検出部23a、電圧検出部23bは、電流センサ21、電圧センサ22からのそれぞれの検出信号をレベル調整し、電流信号S
i及び電圧信号S
vを信号処理部23cに出力する。よって、信号処理部23cが、電流検出部23a、電圧検出部23bからそれぞれ入力された電流信号、電圧信号を整流して実効値を求め、電流、電圧の各実効値を電流信号S
i及び電圧信号S
vとして算出部23dに出力する。
【0033】
算出部23dは、信号処理部23cからの電流信号S
iと電圧信号S
vとの入力を受け、電流信号S
i及び電圧信号S
vについて加熱同期信号S
Sにより同期を取って波形を取得する。そして、判定部23eは、各波形において
図2で示すように、各波形の立ち上がりから時間t
d経過した時の電流の実効値と電圧の実効値とのデータ列を得、その後、出力電流の実効値をコイル電圧の実効値で割って負荷インピーダンスを算出して、判定部23eに出力する。
【0034】
判定部23eは、算出部23dから入力された負荷インピーダンスの値が規定の範囲内か範囲外かの判定を行う。判定部23eは、負荷インピーダンスがしきい値から外れた場合には、そのデータ列を取得して記録し、警告信号を警告部24に出力する。警告信号を受けた警告部24は、警告を表示したり警告音を発生させたりする。よって、焼入れ作業者は、警告の表示や警告音を認知したとき、高周波焼入れに異常が発生したことを知ることができる。また、警告部24は、高周波インバータ制御部11aやワーク搬送機構(図示しない)に制御信号を出力し、高周波インバータ11の出力動作を停止させてもよい。
【0035】
以上のように、電流センサ21を用いて高周波インバータ11からの出力電流を検出し、電圧センサ22を用いて加熱コイル14に生じる電圧を検出し、電流センサ21の検出信号と電圧センサ22の検出信号とから負荷インピーダンスを算出して、算出した負荷インピーダンスに基づいて焼入れ及び加熱コイル14の管理を行う。
【0036】
ここで、負荷インピーダンスをモニタリングすることで、加熱コイル14とワーク15との相対位置関係、加熱コイル14、ワーク15についての異常を検知することができる理由について説明する。
図4は、加熱コイル14とワーク15との相対位置関係、加熱コイル14、ワーク15についての異常を負荷インピーダンスの変動として観測できる理由を説明するための模式的な回路図である。高周波誘導加熱装置における電気回路のうち、
図1に示す高周波インバータ11から加熱コイル14までの電気回路については、高周波インバータ11とコンデンサ12とを接続するケーブルの伝送損失R
xを省略すると、コンデンサ12と加熱コイル14との部分は抵抗R1と自己インダクタンスL1との直列接続に対し整合用コンデンサCpが並列接続されていることで示され、ワーク15が自己インダクタンスL2と抵抗R2との並列接続で示され、加熱コイル14とワーク15との配置関係が相互インダクタンスとしてモデル化することができる。ここで、R1とはコイル導線の抵抗成分、R2はワークの抵抗成分、L1は加熱コイル14のインダクタンス成分、L2は加熱対象のインダクタンス成分、Mは相互インダクタンスであり、加熱コイル14とワーク15とのギャップにより変化する。なお、相互インダクタンスMは、自己インダクタンスL1と自己インダクタンスL2との結合係数をkとすると、k=M/(L1×L2)
1/2の関係を満たす。このとき整合用コンデンサCpの両端から見た負荷インピーダンスは、リアクタンス成分ωLeと抵抗成分Reとの和で示される。なお、Le=L1(1−k
2)、Re=R1+A・R2である。ここで、Aは前述の結合係数k、負荷形状、加熱周波数で定まる係数である。
【0037】
以上のように、整合用コンデンサCpの両端から見た負荷インピーダンスは、ωL1(1−k
2)+Reで示される。つまり、負荷インピーダンスは加熱コイル14のインダクタンス成分の一次関数と近似できることになるから、加熱コイル14のインダクタンス成分が変化すると負荷インピーダンスもそれに伴い変化することになる。また、負荷インピーダンスは結合係数の2乗の関数となることから、加熱コイルとワークとの相対的な距離を示す指標となり、加熱コイルとワークとの相対的な距離の変化により負荷インピーダンスも変化することになる。特に、ワークの外形寸法が軸方向に変化する場合には、ワークを加熱コイルに搬送しながら加熱処理すると時間的に負荷インピーダンスも変化することになり、この変化によりワークの大まかな形状をモニターすることもできる。
【0038】
次に、本発明の実施形態の変形例を説明する。
図5は
図1に示す実施形態の変形例を模式的に示す図である。
図1と異なる点は制御部123の構成である。制御部123は、
図1と同様に電流検出部23a,電圧検出部23b,電流検出部23,信号処理部23c及び算出部23dを備えるほか、焼入れ監視部124を備えている。焼入れ監視部124は、タッチパネル式などの入出力部123aと判定部123bと入出力制御部123cとを含んで構成されている。制御部123は、高周波焼入れ装置10に設けられているセンサや計測器具からのデータの入力を受ける。
センサや計測機器は幾つかの組み合わせが考えられ、以下、具体的に説明する。
【0039】
センサとして、例えば、加熱コイル14の近傍には配置されている測位センサ14aが挙げられる。この測位センサ14aから制御部123の入出力制御部123cに対して、加熱コイル14の所定の部位とワーク15の所定部位との距離に関するデータが入力される。
【0040】
計測機器としては、例えば、高周波インバータ11に内蔵されている計測機器11bが挙げられ、この計測機器11bから制御部123の入出力制御部123cに対して、高周波インバータ11の出力電力、出力電流、出力電圧などのパラメータに関するデータが入力される。また、高周波インバータ制御部11aからインバータの出力に同期した信号、所謂同期信号が、入出力制御部123cに入力される。高周波インバータ制御部11aから焼入れの設定条件に関するデータ、計測機器11bから出力電圧、出力電流、出力電力、出力時間等の検出データが入出力制御部123cに入力される。
【0041】
変形例では、高周波焼入れの正常性を判断する際の項目を任意に一又は複数指定することができるよう、入出力制御部123cがタッチパネル式の入出力部123aにリストの画面を表示する。作業者は、焼入れ対象となるワーク、焼入れ処理に応じて、高周波焼入れの正常性を判定するための項目を一以上リストから選択し、入出力部123aに入力する。入出力部123aに入力された項目が、高周波インバータ制御部11aから出力される同期信号などをトリガーとして、時系列変化の監視対象となる。
【0042】
高周波焼入れの正常性を判断する項目としては、加熱コイルの両端に生じる電圧、高周波インバータから加熱コイル側に流れる電流、加熱コイルの両端の電圧と高周波インバータから流れる電流との比で求まる負荷インピーダンス、加熱コイルとワークとの相対的な位置のほか、高周波インバータから出力される高周波電力、高周波電圧、高周波電流又は高周波の周波数の何れか又はそれらの組み合わせが挙げられる。
【0043】
入出力制御部123cは、入出力部123aからの入力を受けてその入出力部123aに対して必要なデータ等を出力する。例えば、高周波焼入れの正常性を判断する項目を入出力部123aに表示して作業者に選択させる。入出力部123aは、作業者からの選択に係る入力を受けると、入出力制御部123cにその入力に係る情報を入力し、判定部123cに伝達する。これにより、作業者のニーズに応じて複数の項目から焼入れ監視を行うことができる。
【0044】
この変形例では、入出力制御部123cには、高周波インバータ制御部11aから焼入れ条件に関するデータ信号、計測機器11bを含んだ各種計測機器からの検出信号その他の各種モニター信号、電流センサ21及び電圧センサ22の各検出信号、算出部23dで求めた負荷インピーダンスのデータが取り込まれる。そのため、焼入れ監視部124では、この取り込んだデータ類のうち一又は複数を、作業者の焼入れ監視のニーズに応じて入出力部123aにより選択し、判定部123bにより焼入れ監視することができる。入出力制御部123cには、取り込まれたデータ類をその焼入れ開始からの時間単位で一時的に確保しておくことにより、焼入れ異常が判断された場合に、異常判定項目として選択しなかったデータ類を入出力部123aに表示したり、図示しない記録媒体に一旦格納して別途コンピュータ上に表示したりして、焼入れ異常の原因を追究することができる。
【0045】
図6は、入出力部123aの一例を模式的に示す図である。入出力部123aはタッチパネル表示器などで構成されており、
図6に示すように、時系列表示領域A1と項目データ表示領域A2と、を含んで構成されている。時系列表示領域A1は、選択した項目の時系列変化を表示する領域であり、項目データ表示領域A2には項目名、選択ボタン、現在値、平均値、最大値、最小値からなる項目データが表示される。時系列表示領域A1には、点線で示すように焼入れ開始により取り込んだデータの波形を基準値として表示しておき、実線で示すように実際の監視対象となる焼入れの波形を同じ座標軸上に重ねて表示する。作業者は、例えば、時系列表示領域A1に表示される焼入れの波形を基準値と比較し、項目データ表示領域A2に示される項目データを参照して、選択した項目の時間的変化をモニタリングして焼入れ処理に異常がないか判断することができる。
【0046】
次に、どのような項目を選択したら適切に焼入れ処理の異常を判定できるかについて説明する。
【0047】
具体的な例を説明すると、加熱コイル中に磁性体でなるコアが含まれている場合と含まれてない場合とでは、インダクタンスが異なる。よって、加熱コイルからコアが欠落したか否かを容易に察知することができる。例えば、コアが加熱コイルから外れているような場合には、コアに集中していた磁束が広がることにより、加熱範囲が広がる。すると、ワーク表面近傍に流れる領域も広がる。その結果、負荷インピーダンスが変化すると考えられる。同様な現象は加熱コイルのコアが欠けたり、ひび割れなどが生じたりしたような場合でも生じ、加熱コイルのインダクタンス成分が変化する。その結果として、負荷インピーダンスも変化することになる。
【0048】
別の例を挙げると、加熱コイルの中には、冷却媒体を流すための第1の中空と、ワーク15に対して焼入れ液を流すための第2の中空を設けたものがある。第1の中空は冷却媒体を出し入れするものであり、冷却媒体は導通部の熱を吸収する。第2の中空は焼入液を流してワーク15に向けて噴射するためのものである。加熱コイルは温度変化が繰り返しその変化が大きいため、加熱コイル自体に変形などが生じる。そのため、加熱コイルを使用し続けると負荷インピーダンスが変化する。
【0049】
別の例を挙げる。
図7は、加熱コイルの使用経過に伴う負荷インピーダンスの変化を模式的に示す図である。横軸は時間軸であり、縦軸は負荷インピーダンスである。加熱コイルの使用回数が増すと、実線で示すように負荷インピーダンスが増加し、逆に点線で示すように負荷インピーダンスが減少する。負荷インピーダンスが増加するか減少するかは加熱コイルの形状などに依存する。焼入れ条件は、高周波回路、高周波インバータの出力、ワークの材質及び形状、要求される仕様などによって決定される。そこで、理想的な負荷インピーダンスの値に基づき負荷インピーダンスの許容幅を
図7に示すΔZとして予め設定しておくことで、負荷インピーダンスの確認回数として決めた回数だけ焼入れ処理を行った後に、負荷インピーダンスが許容幅に入っていることを確認して、加熱コイルが正常であることを確認することができる。熱処理回数に対する確認処理の頻度は、焼入れ条件や加熱コイルの使用頻度に応じて決定すればよい。
図7に示すように、負荷インピーダンスが許容幅ΔZからずれると加熱コイルを交換することになり、加熱コイルの交換周期が
図7に示すΔTとなる。
【0050】
別の例を挙げる。ワークと加熱コイルとの距離が変化することで負荷インピーダンスが変化することを説明する。
図8は、ワークを移動しながら焼入れを行うに当たり、軸方向に外径が変化するようなワークの場合負荷インピーダンスが変化することを説明するための模式図であり、(A)はワークと加熱コイルとの関係を模式的に示し、(B)はワークの移動距離に伴う負荷インピーダンスの変化を模式的に示している。ワーク50は、
図8(A)に示すように、軸方向に沿って外形が異なっており、ワーク50は中径部51と小径部52と大径部53とがこの順序で接続されているとする。図示しないワーク搬送機構は、加熱コイル55の中空に対しワーク50の軸方向に沿ってワーク50を搬送するとする。すると、ワーク50は中空を有する加熱コイル55に挿通される。ワーク50がワーク搬送機構により加熱コイル55の中空に挿通されると、加熱コイル55により焼入れされるワークの所定の部位に対して焼入れ処理が施される。
【0051】
ワーク搬送機構によりワーク50を矢印の方向に移動させながら、
図1に示す高周波焼入れシステム1によりワーク50に焼入れを行う。ワーク50を移動するので、加熱コイル55とワーク50表面との距離、つまりギャップdが変化する。ワーク50のうち、先ずは中径部51が加熱コイル55の内周面に対向し、次に小径部52が加熱コイル55の内周面に対向し、最後に大径部53が加熱コイル55の内周面に対向する。このように、ワーク50の搬送に伴い、ギャップdが変化して、ワーク50と加熱コイル55との相互インピーダンスが変化する。つまり、ワーク50の搬送に伴い、負荷インピーダンスが変動する。加熱コイル55とワーク50との間が広くなると負荷インピーダンスが大きくなり、逆に加熱コイル55とワーク50との間が狭くなると負荷インピーダンスが小さくなる。加熱コイル55とワーク50との相互誘導結合の程度が変化するからである。
図8(B)に示すように、加熱コイル55の内表面に対向するワーク50の部位が中径部51から小径部52に変わると負荷インピーダンスがZ1からZ2に増加し、加熱コイル55の内表面に対向するワーク50の部位が小径部52から大径部53に変わると、負荷インピーダンスがZ2からZ3に減少する。なお、負荷インピーダンスZ1、Z2、Z3の大小関係はZ3<Z1<Z2を満たす。
【0052】
このことから、
図1に示す高周波焼入れ異常判定装置20において、外形が軸方向に変化するワーク50に対し高周波焼入れ処理を施す場合には、算出部23dで求まる負荷インピーダンスが変化する。そこで、判定部23eにワークの形状データを格納しておく。すると、判定部23eは、算出部23dから入力される負荷インピーダンスの値の変化がワークの形状データに符合しているかを判断し、ワークの外形が規定と異なる場合を判定することができる。このように、高周波焼入れ異常判定装置20は、ワークの形状をある程度認識することができ、形状不良を発見することができる。
【0053】
別の例を挙げる。一度焼入れ処理を行ったワークは、焼入れされた領域の組成が変形する。そのため、一度焼入れ処理されたワークにおいては、焼入れされた領域の透磁率等が変化する。よって、加熱コイルに対するワークの位置が同一の範囲であっても、加熱コイルとワークとの相互誘導の状況が異なり、負荷インピーダンス、高周波インバータから出力される電流、加熱コイルの両端に生じる電圧が変化しうる。
後述する実施例においては、一度焼入れ処理を行ったワークに対して同一の要領で誘導加熱処理を行うと、高周波誘導加熱開始から加熱終了までの所定の時間のうち、加熱開始から加熱時間の約半分までの時間帯では出力電流が増加する一方、加熱コイルの両端に生じる電圧には変化がなかった。これにより、加熱開始から所定の時間だけ、負荷インピーダンスが通常よりも低くなっている場合や、高周波インバータからの出力電流が通常よりも高くなっている場合には、そのワークは既に焼入れ処理がなされていると判断し、そのワークを生産ラインから外すなどの適切な処置をとることができる。
【実施例1】
【0054】
実施例に基づいて本発明をさらに説明する。
図9は実施例1でのワークと加熱コイルとの関係を模式的に示す端面図であり、(A)はコアを取り付けた場合、(B)はコアを意図的に取り外した場合を、それぞれ示している。加熱コイル60は導線(図示しない)がループ状に巻かれ、加熱コイル60には上下端から等距離にコア設置部61が設けられており、コア設置部61に磁性体でなるコア62が配置されている。ワーク65の焼入れ面65aに対してコア62が対向するよう加熱コイル60を設定した。
【0055】
このワーク65に対し、
図1に示す高周波焼入れシステム1を用いて焼入れ処理を行った。その際、加熱コイル60とワーク65との相対位置は不変となるようにした。高周波焼入れ異常判定装置20により負荷インピーダンスを測定した。
図9(A)に示すように、コア付きの加熱コイル60を用いて高周波焼入れシステム1によりワーク65に焼入れ処理を施した。加熱コイル60でワーク65を加熱したとき、負荷インピーダンスは約5.71Ωであった。次に、
図9(B)に示すようにコア62を取り外して同様のワーク65を加熱したとき、負荷インピーダンスは約5.62Ωまで低下した。即ち、負荷インピーダンスは、(5.62−5.71)/5.71×100=1.54%減少した。さらに、図示を省略するが、コアの輪郭を一部切削した後に加熱コイル中に戻して、同様のワークを加熱した。すると、負荷インピーダンスは5.66Ωであった。正常の場合と比べて、負荷インピーダンスは、0.85%減少した。
【0056】
これらの結果について考察する。
図9(A)に示すように、磁性体からなるコア62が加熱コイル60に含まれている場合には、加熱コイル60に流れる高周波電流によりワーク65に生じる渦電流はワーク65の内部には伝わらず、焼入れ深さが浅くなる。これは磁性体からなるコア62が加熱コイル60に設置されていることで、ワーク65の表面近傍の透磁率が見かけ上大きくなっているためと推察される。符号66は焼入れされた領域を示している。逆に、
図9(B)に示すように、加熱コイル60にコア62が含まれていない場合には、加熱コイル60に流れる高周波電流によりワーク65に生じる渦電流はワーク65の内部に伝わり易くなり、焼入れ深さが深くなる。これは加熱コイル60にコア62がないため、ワーク65の表面近傍の透磁率が素材固有の値となる。よって、コア62が在る場合と比較すると、ワーク65の焼入れ面から深い位置まで渦電流が伝達し、より深く焼入れされることになる。つまり、コア62の有無により焼入れの深さを調整するわけである。よって、加熱コイル60中のコア62の有無により負荷インピーダンスが変化し、前述の実施例のように、コア62がない場合にはコア62がある場合と比べて負荷インピーダンスが低下したと推察される。
【0057】
実施例1の結果から、加熱コイル中のコアが破損したり、部分的に欠けると、負荷インピーダンスが変化している。よって、加熱コイルとワークとの位置関係が変化しない場合であっても、負荷インピーダンスをモニタリングすることで、加熱コイルの異常を検知することが可能である。その際、負荷インピーダンスの変動は、加熱コイルの異常のみならず、加熱コイルとワークとの相対距離などにも依存する。よって、加熱コイルがワークに対して所定の関係になるよう配置されていることを、測位センサを用いて加熱コイルとワークとの位置をそれぞれ求めて、相対距離が変化していないことを確認する必要がある。また、加熱コイル、ワークが熱処理毎にずれないよう、加熱コイル、ワークの各位置を固定する必要がある。
【実施例2】
【0058】
実施例2として、
図10に示す円筒形のワーク75内周面に設けられたリング状の溝75aに対して
図1に示す高周波焼入れシステム1を用いて焼入れ処理を行った。その際、加熱コイル70とワーク75との相対位置は不変となるようにした。高周波焼入れ異常判定装置20により、出力電流、コイル電圧及び負荷インピーダンスを測定した。ワーク75に対して一回焼入れをした場合と、二回焼入れをした場合とで、それぞれ測定した。
【0059】
図11〜
図13は実施例2の結果を示しており、
図11は出力電流、
図12はコイル電圧、
図13は負荷インピーダンスについての時間推移を示す図である。
図11〜
図13において、一回焼入れを「標準」、二回焼入れを「再焼」として凡例を示している。何れの波形も加熱開始とともに立ち上がって一定や所定のカーブを描いて立ち下がる。二回焼入れを行った場合、一回の焼入れを行った場合と比較すると、加熱開始から所定の時間、具体的には1〜2.5秒経過したときの負荷インピーダンスは1.45%低下し、出力電流は1.27%増加した。それに対し、焼入れ回数によりコイル電圧は変化がなかった。
【0060】
これにより、ワークが既に焼入れされているか否かは、負荷インピーダンスと出力電流の時間的変化をモニターすればよいことが分かった。
【0061】
実施例2の結果から、ワークと加熱コイルとの位置関係が正常であっても、負荷インピーダンスが低下し、出力電流が増加し、コイル電圧が変化しないようであれば、既にそのワークに対し焼入れ処理がなされていると判断することができる。
【0062】
本発明の実施形態の一つは、高周波インバータに加熱コイルとコンデンサとを接続してなる高周波回路に対して取り付けられる高周波焼入れ異常判定装置であって、上記高周波インバータからの出力電流を検出する電流センサと、上記加熱コイルに生じる電圧を検出する電圧センサと、上記電流センサと上記電圧センサとの検出信号に基づいて負荷インピーダンスを求める算出部と、上記算出部で求めた負荷インピーダンスと上記電流センサからの検出信号との時間的変化から、ワークに対し既に高周波焼入れ処理がなされているかを判定する判定部と、を備える。
好ましくは、前記判定部は、前記電圧センサからの検出信号が時間的に変化しないことを確認してから上記ワークに対し既に高周波焼入れ処理がなされているかを判定する。
本発明の他の実施形態に係る高周波焼入れ異常判定方法では、高周波インバータに加熱コイルとコンデンサとを接続してなる高周波回路を用いてワークに対し高周波焼入れ処理を行う際、上記高周波インバータから流れる出力電流と上記加熱コイルに生じるコイル電圧とをそれぞれ計測し、計測した各値から負荷インピーダンスを算出し、算出した負荷インピーダンスと上記電流センサからの検出信号との時間的変化から上記ワークに対し既に高周波焼入れ処理がなされているかを判定する。
好ましくは、前記ワークに対して既に高周波焼入れ処理がなされているかを判定する際、前記加熱コイルに生じるコイル電圧が時間的に変化しないことを確認する。
これにより、高周波インバータから流れる出力電流と加熱コイルに生じる負荷インピーダンスとをモニタリングし、ワークに対して既に高周波焼入れ処理がなされているかを判定することができ、焼入れ処理の品質を維持管理することができる。
本発明の実施形態による高周波焼入れ異常判定装置及び方法は前述したものに限定されず、加熱コイルとワーク表面との相対的な距離の違いや変化、加熱コイルの磁界特性の違いや変化、ワークの外形などを判断することができるので、高周波焼入れ処理の質を維持し、また、焼入れ処理ラインでの連続的な焼入れ処理に伴い発生しうる不良品の混入を未然に防止することができる。