特許第5744517号(P5744517)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5744517マイクロニードルデバイスおよびマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏功性を上昇させる方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744517
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】マイクロニードルデバイスおよびマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏功性を上昇させる方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/12 20060101AFI20150618BHJP
   A61K 47/34 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 47/36 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 9/70 20060101ALI20150618BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20150618BHJP
   A61M 37/00 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   A61K39/12
   A61K47/34
   A61K47/36
   A61K39/39
   A61K9/70 401
   A61P31/12
   A61M37/00
【請求項の数】6
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2010-522676(P2010-522676)
(86)(22)【出願日】2009年7月16日
(86)【国際出願番号】JP2009062887
(87)【国際公開番号】WO2010013601
(87)【国際公開日】20100204
【審査請求日】2012年3月12日
(31)【優先権主張番号】特願2008-197064(P2008-197064)
(32)【優先日】2008年7月30日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000160522
【氏名又は名称】久光製薬株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173555
【氏名又は名称】一般財団法人化学及血清療法研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100098110
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 みどり
(74)【代理人】
【識別番号】100090583
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 清
(72)【発明者】
【氏名】野崎 周英
(72)【発明者】
【氏名】上仲 一義
(72)【発明者】
【氏名】松田 純一
(72)【発明者】
【氏名】寺原 孝明
(72)【発明者】
【氏名】桑原 哲治
(72)【発明者】
【氏名】徳本 誠治
【審査官】 安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−074763(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/012114(WO,A1)
【文献】 特表2008−519042(JP,A)
【文献】 国際公開第01/076624(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/015441(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/116959(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/12
A61K 9/70
A61K 39/39
A61K 47/34
A61K 47/36
A61M 37/00
A61P 31/12
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板に二次元状に配置され、皮膚を穿孔可能なポリ乳酸からなる、複数のマイクロニードルを備え、該マイクロニードルに、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原がコーティングされたマイクロニードルデバイスであって、
前記マイクロニードルは円錐型または角錐型であり、前記マイクロニードルの高さは200〜500μmであり、前記マイクロニードルは400〜1000本/cmの密度で配置されており、
前記コーティングは、コーティング液がコーティングの厚さ50μm未満、かつ高さ(H)30μm〜500μmでマイクロニードルに留まり固着した状態であり、
前記コーティングは、室温での相対湿度70.0〜100%RHにて行われることを特徴とするマイクロニードルデバイス。
【請求項2】
前記コーティングが、コーティング担体としてプルランを含む、請求項1に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項3】
前記コーティングが、アジュバント活性を有する物質を含む、請求項1または2に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項4】
前記アジュバント活性を有する物質が、ラウリルアルコールである、請求項3に記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項5】
前記マイクロニードルデバイスの基板が、日本脳炎ウイルス抗原液または日本脳炎ウイルス抗原溶解液を伝達可能な複数の開口部を有するものである、請求項1から4のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
【請求項6】
マイクロニードルデバイスにより日本脳炎ウイルス抗原を投与後、更にアジュバント活性を有する物質を含有する貼付剤を貼付して、日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法において、当該方法に用いられるマイクロニードルデバイスであって、
基板に二次元状に配置され、皮膚を穿孔可能なポリ乳酸からなる、複数のマイクロニードルを有し、当該マイクロニードルは、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原がコーティングされており、
前記マイクロニードルは円錐型または角錐型であり、前記マイクロニードルの高さは200〜500μmであり、前記マイクロニードルは400〜1000本/cmの密度で配置されており、
前記コーティングは、コーティング液がコーティングの厚さ50μm未満、かつ高さ(H)30μm〜500μmでマイクロニードルに留まり固着した状態であり、
前記コーティングは、室温での相対湿度70.0〜100%RHにて行われることを特徴とするマイクロニードルデバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マイクロニードルデバイスによる免疫原性増強方法に関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は、最外層の角質層、表皮、真皮、および皮下結合組織からなる。通常、死細胞層および脂質二重層からなる角質層は、多くの物質に対して強力なバリア機能を示す。真皮層には、ランゲルハンス細胞と呼ばれる抗原提示細胞が存在し免疫機能を担っている。ランゲルハンス細胞は、皮膚内に侵入したタンパク質抗原を補足し、内部で分解し、MHC分子上にペプチド断片を表出する。MHC−ペプチド複合体は、輸入リンパ管から所属リンパ節の皮質下層へと移動し、T細胞と指状突起細胞とを介して接触する。ランゲルハンス細胞が、このように移動することによって、抗原が皮膚からリンパ節内に存在するT細胞へと伝えられる。ランゲルハンス細胞は、抗原をT細胞へ提示するために必要なMHCクラスII分子を有している。
【0003】
このように皮膚の角質層による強力なバリア機能のため真皮層へのウイルス抗原は有効であることは知られていたが、300〜2000μmと限られた真皮層への注射針による投与は技術的難しさから精度上の問題があった。
【0004】
これを解決するための手段として、マイクロニードルが開発されている。これらは、最外層である角質層を穿刺することを目的とし、様々なサイズや形状(高さ数十〜数百マイクロメートル程度の非常に小さな突起物)が考案されており、特に非侵襲的なウイルス抗原投与方法として期待されている。
【0005】
また、マイクロニードルを備えたデバイスを利用した場合の薬剤の適用方法についても様々な方法が考案されており、薬剤をマイクロニードル表面にコーティングして投与する方法や、針に薬剤あるいは生体成分を透過させるための穴(中空針)や溝を形成する方法、針自身に薬剤を混合する方法等が提案されている。これらのマイクロニードルデバイスは、何れも高さ数十〜数百マイクロメートル程度の非常に小さな突起物(マイクロニードル)を備えたものであるため、薬剤の適用方法によっては薬剤の経皮吸収性や吸収効率も大きく異なると考えられる。
【0006】
例えば、マイクロニードルを用いて抗原(ワクチン)の経皮吸収性を効率的に促進させる方法として、マイクロニードル表面の一部分に薬剤をコーティングする方法があり、例えば非特許文献1に開示されている。これは、マイクロニードルの一部分(特に針部分のみ)に抗原(ワクチン)をコーティングした場合、適用した抗原(ワクチン)の全てまたはそのほとんどが体内へ移行し、正確な真皮への投与手段として有用であることを示している。
【0007】
ところで、診断薬や薬剤のような医薬物質を効率的かつ安全に投与することの重要性が最近認識されてきている。特に最近は日本脳炎ウイルス抗原において急性散在性脳脊髄炎(ADEM)の問題が指摘されている通り(非特許文献2)であり、そのリスクを低減するために、サルの腎細胞由来のベロ細胞を用いた日本脳炎ウイルス抗原の開発が行われていて、いかに少ないウイルス抗原でいかに多くの人に免疫を惹起させるかという、ウイルス抗原の効率的で簡便な投与方法の開発が望まれる。
【0008】
特許文献1には、治療用物質の量を低減させ治療効果を達成する目的で中空針を持ったマイクロニードルによる投与が開示されているが、免疫の惹起についての記載はない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2006−506103号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Pharma.Res.19(1),63−70(2002)
【非特許文献2】ウイルス 第55巻 第2号,307−312(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述のように日本脳炎ウイルス抗原をマイクロニードルにコーティングして真皮への正確な投与を行うことにより、効率的で簡便な日本脳炎ウイルス抗原の投与の可能性があるにもかかわらず、これまで日本脳炎ウイルス抗原のマイクロニードルによる投与についての具体的な検討がなされていない。
本発明の目的は、日本脳炎ウイルス抗原の免疫原性を増強させるマイクロニードルデバイスによる免疫原性増強方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者は以上を技術背景として日々検討を重ねた結果、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原をコーティングしたマイクロニードルを用いて日本脳炎ウイルス抗原を経皮投与することで、抗体性が上昇することを見いだした。更に日本脳炎ウイルス抗原をコーティングしたマイクロニードルを経皮投与後、ラウリルアルコールを含有する貼付剤を貼付することで、更なる効率的な抗体価の上昇が確認できた。
【0013】
すなわち、本発明に係るマイクロニードルデバイスによる免疫原性増強方法は、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原をコーティングしたポリ乳酸からなるマイクロニードルを備えたマイクロニードルデバイスを皮膚に当接し前記日本脳炎ウイルス抗原を経皮投与するものである。ここで、前記日本脳炎ウイルス抗原の経皮投与後、アジュバント効果を有するラウリルアルコールを含む貼付剤の貼付によりさらに免疫原性が増強される。その他にも皮膚浸透が可能なアジュバント活性を有する物質の塗布は免疫原性の増強効果が期待できる。
【0014】
本発明に係るマイクロニードルデバイスは、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原をコーティングしたポリ乳酸からなるマイクロニードルを備える。ここで、前記コーティングは、コーティング担体としてプルランを含むことが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原を、注射より簡便な操作で免疫原性を上昇させることができる。経皮的免疫賦活用のマイクロニードルデバイスを用いることにより、日本脳炎ウイルス抗原により誘発される免疫応答を刺激し、ウイルス抗原内の抗原の有効用量を減らすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明に係るマイクロニードルデバイスの一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−B断面図である。
図2】日本脳炎ウイルス抗原特異的IgG抗体価の測定結果の一例を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1は本発明に係るマイクロニードルデバイスの一例を示す図であり、(a)は斜視図、(b)は(a)のA−B断面図である。図1(a)に示すように、本発明に係るマイクロニードルデバイス(インターフェイス)5は、マイクロニードル基板8と、皮膚又は粘膜を穿孔可能な二次元状に配置された複数のマイクロニードル6とを有する。マイクロニードル基板8は、各マイクロニードル6に対応して配置された複数の開口部7を備える。本例では、マイクロニードル6の形状は円錐状であるが、本発明はこれに限定されず、四角錐等の多角錐でもよく、また別の形状でもよい。また、複数のマイクロニードル6と複数の開口部7とが交互にそれぞれ正方格子状に配置されているが、本発明はこれに限定されない。さらに、マイクロニードル6と開口部7の数は図では1:1であるが、本発明はこれに限定されることなく、開口部7を含まないものも含む。
【0018】
本例では、マイクロニードル6の一部又は全面が、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原でコーティングされている。コーティング1は、例えば、図1(b)に示すように、各マイクロニードル6の表面に配置される。コーティング1は、マイクロニードル6の全体に配置されているが、その一部に配置することもできる。用時に、図1(a)に示すマイクロニードル6の配置されたマイクロニードル基板面を皮膚に当接し、その反対面から薬物の溶解液を流すと、各開口部7から液体が流れ出て各マイクロニードル6に伝達され、上記日本脳炎ウイルス抗原が経皮吸収される。ここで、開口部7は必須ではなく、液体は開口部7を用いることなく別の手段でマイクロニードル6に供給してもよい。また、コーティング1は外部から液体を付与することなく、マイクロニードルを皮膚に穿孔したときの体液により溶解させることで、日本脳炎ウイルス抗原を皮膚内に放出させることができる。
【0019】
マイクロニードルデバイス中のマイクロニードルは、皮膚又は粘膜に穿刺されるマイクロニードル(針)とこの針部を支持する基板からなり、マイクロニードルは基板に複数配列されている。マイクロニードルは微小構造であり、マイクロニードルの高さ(長さ)hは、好ましくは50μm〜700μmであり、より好ましくは100μm〜600μm、更に好ましくは200μm〜500μmである。ここで、マイクロニードルの長さを50μm以上とするのは日本脳炎ウイルス抗原の経皮からの投与を確実とするためであり、700μm以下とするのはマイクロニードルの神経との接触を回避し、痛みの可能性を確実に減少させることができると同時に出血の可能性を確実に回避するためである。また、その長さが700μm以下であると、皮内に入る日本脳炎ウイルス抗原の量を効率よく投与することができる。
【0020】
ここで、マイクロニードルとは、凸状構造物であって広い意味での針形状又は針形状を含む構造物を意味し、円錐状構造の場合、通常その基底における直径は50〜200μm程度である。また、マイクロニードルは、先鋭な先端を有する針形状のものに限定されるものではなく、先の尖っていない形状も含むものである。マイクロニードルは、好適には非金属製の合成または天然の樹脂素材を用いて作製される。また、マイクロニードルの形状は本例では円錐状であるが、本発明はこれに限定されず、四角錐等の多角錐でもよく、また別の形状でもよい。
【0021】
マイクロニードル基板はマイクロニードルを支持するための土台であり、その形態は限定されるものではなく、例えば図1のように貫通した穴(開口部)を備えた基板であってもよく、この場合、基板の背面から、マイクロニードルにコーティングした日本脳炎ウイルス抗原の溶解液を流すことができる他、日本脳炎ウイルス抗原を開口部およびマイクロニードルを介して流して投与することもできる。マイクロニードルあるいは基板の材質としては、シリコン、二酸化ケイ素、セラミック、金属(ステンレス、チタン、ニッケル、モリブテン、クロム、コバルト等)及び合成または天然の樹脂素材等が挙げられるが、マイクロニードルの抗原性および材質の単価を考慮すると、ポリ乳酸、ポリグリコリド、ポリ乳酸−co−ポリグリコリド、プルラン、カプロノラクトン、ポリウレタン、ポリ無水物等の生分解性ポリマーや、非分解性ポリマーであるポリカーボネート、ポリメタクリル酸、エチレンビニルアセテート、ポリテトラフルオロエチレン、ポリオキシメチレン等の合成または天然の樹脂素材が特に好ましい。また、多糖類であるヒアルロン酸、プルラン、デキストラン、デキストリン若しくはコンドロイチン硫酸等も好適である。特に、ポリ乳酸は生分解性樹脂であり、インプラント製剤としても使用実績がある(特表2002−517300号公報または、Journal of Controlled Release 104(2005)51−66)ことから、強度面、安全性からみて最も好適なマイクロニードル素材の一つである。
【0022】
マイクロニードル(針)の密度は、典型的には、針の横列は1ミリメートル(mm)当たり約1ないし10の密度が提供される様に横列間が空けられている。一般に、横列は横列内の針の空間に対し実質等しい距離だけ離れており、1cm当たり100〜10000本の針密度を有し、好ましくは100〜5000本、より好ましくは200〜2000本、更に好ましくは400〜1000本である。100本以上の針密度があると、効率良く皮膚を穿孔することができ、10000本を超える針密度では、マイクロニードルに皮膚穿孔可能な強度を付与することが難しくなる。
【0023】
マイクロニードルの製法としては、シリコン基板を用いたウエットエッチング加工又はドライエッチング加工、金属又は樹脂を用いた精密機械加工(放電加工、レーザー加工、ダイシング加工、ホットエンボス加工、射出成型加工等)、機械切削加工等が挙げられる。これらの加工法により、針部と支持部は、一体に成型される。針部を中空にする方法としては、針部を作製後、レーザー加工等で2次加工する方法が挙げられる。
【0024】
マイクロニードルへコーティングを行う際に、コーティング液の溶媒揮発による薬剤の濃度変化および物性の変化を最小限にするために、装置の設置環境の温湿度を一定に制御することもできる。溶媒の蒸散を防ぐためには、温度を下げるか湿度を上げるかのどちらかまたはその両方を制御することが好ましい。温度を制御しない場合の室温での湿度は、相対湿度として50〜100%RHであり、好ましくは70.0〜100%RHである。50%RH以下であると溶媒の蒸発が起こり、コーティング液の物性の変化が起こる場合がある。加湿方式には、目的の湿度状態が確保できれば特に限定されないが、気化式、蒸気式、水噴霧式などがある。
【0025】
本発明で用いる日本脳炎ウイルス抗原の調製は、例えばWO01/076624号を参考に行うことができる。
【0026】
マイクロニードルにコーティングするコーティング液は、日本脳炎ウイルス抗原の他、コーティング担体及び液体組成物を含み得る。また本発明コーティングとは、マイクロニードル(針)にコーティング液が留まり固着した状態が好ましく、そのためにコーティング液に乾燥工程を加えて固着させることもある。
【0027】
コーティング担体としては、日本脳炎ウイルス抗原と比較的相溶性(均一に交わる性質)のある多糖類の担体が好ましく、ポリヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリヒドロキシプロピルメチルセルロース、ポリメチルセルロース、デキストラン、ポリエチレングリコール、プルラン、カルメロースナトリウム、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸、デキストラン、アラビアゴム等が好ましく、更にヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、アラビアゴムがより好ましい。また、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC−SSL(分子量:15,000〜30,000)、HPC−SL(分子量:30,000〜50,000)、HPC−L(分子量:55,000〜70,000)、HPC−M(分子量:110,000〜150,000)、HPC−H(分子量:250,000〜400,000))、プルラン、ヒアルロン酸が更に好ましい。特に、日本脳炎ウイルス抗原との相溶性の面でプルランが最も好ましい。
【0028】
コーティング液全体のコーティング担体の含量は、1〜70重量%であり、好ましくは1〜40重量%であり、特に好ましくは3〜25重量%である。また、このコーティング担体は、液だれすることのないようある程度の粘性が必要である場合があり、粘度として100〜100000cps程度必要である。より好ましい粘度は、500〜60000cpsである。粘度がこの範囲にあることにより、マイクロニードルの材質に依存することなく、所望量のコーティング液を一度に塗布することが可能となる。また、一般的に粘度が高くなればなるほどコーティング液の量が増える傾向になる。
【0029】
マイクロニードルをコーティングするのに使用される液体組成物は、生体適合性の担体、送達されるべき日本脳炎ウイルス抗原、および場合によってはいずれかのコーティング補助物質を揮発性液体と混合することにより調製する。揮発性液体は、水、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、エタノール、イソプロピルアルコールおよびそれらの混合物等であることができる。これらの中で水が最も好ましい。液体のコーティング液もしくは懸濁液は、典型的には、0.1〜65重量%の日本脳炎ウイルス抗原濃度を有することができ、好ましくは1〜30重量%、更に好ましくは、3〜20重量%である。
他の既知の製剤補助物質は、それらがコーティングの必要な溶解性および粘度の特徴ならびに乾燥されたコーティングの性状および物性に有害な影響を及ぼさない限りは、コーティングに添加してもよい。
【0030】
マイクロニードルのコーティングの厚さは、50μm未満であり、好ましくは25μm未満、さらに好ましくは1〜10μmである。一般に、コーティングの厚さは、乾燥後にマイクロニードルの表面にわたって測定される平均の厚さである。コーティングの厚さは、一般に、コーティング担体の複数の被膜を適用することにより増大させること、すなわち、コーティング担体固着後にコーティング工程をくり返すことで増大させることができる。
【0031】
マイクロニードルの高さ(長さ)hは、上述のとおり、好ましくは50μm〜700μmである。マイクロニードルのコーティングの高さHは、マイクロニードルの高さhによって変動するが、0μm〜700μmの範囲とすることができ、通常10μm〜700μmの範囲内であり、好ましくは、30μm〜500μm程度である。
【0032】
本発明のマイクロニードルデバイスを使用して日本脳炎ウイルス抗原による免疫の惹起を増強するために、例えば、アジュバント効果のある脂肪族アルコール類を本発明マイクロニードルデバイスにより投与した部位に塗布することができる。このような脂肪族アルコール類においては、直鎖または分枝状の脂肪族アルコール類が好ましい。このような脂肪族アルコール類において、炭素数および分子量に特に限定はないが、皮膚透過性を考慮すると、炭素数8〜20であることがより好ましい。また、かかる脂肪族アルコール類は、飽和または不飽和のいずれであってもよい。
これら脂肪族アルコール類の中には経皮吸収における吸収促進剤として利用されることも多いが、本発明における脂肪族アルコール類は、WO2007/015441を参照すると吸収促進作用に加えて、アジュバント効果を期待することができる。
【0033】
そのような脂肪族アルコール類は、例えばオクチルドデカノール、ラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコール、デカノールなどであるが、その中でもラウリルアルコール、オレイルアルコール、イソステアリルアルコールが特に好ましく、ラウリルアルコールが最も好ましい。
【0034】
ウイルス抗原に混ぜ合わせる場合には、本発明の脂肪族アルコール類は0.1〜99重量%で好ましく配合され、5〜90重量%で配合されるのがより好ましく、とくに10〜80重量%であるとさらに好ましい。最も好ましい組成中における脂肪族アルコール類の含量は15〜75重量%である。
【0035】
該アジュバントを含む医薬製剤の形態としては、経皮的に投与できる形態であれば特に限定されないが、パップ剤やパッチ製剤等の貼付剤、軟膏剤、クリーム剤、液剤、ゲル剤、ローション剤などから必要に応じて選択できるが、特にパッチ製剤が好ましい。
パッチ製剤の投与部位については特に限定されないが、抗原の投与部位に近い方が好ましく、抗原の投与部位の上部に貼付することが更に好ましい。
該経皮投与製剤は、基剤として溶解剤、溶解補助剤、pH調整剤、防腐剤、吸収促進剤、安定化剤、充填剤、増粘剤、粘着剤、湿潤剤などの任意の成分を、該アジュバントとを組み合わせて用いることによって、常法により製造することができる。
【0036】
該アジュバントを含む医薬製剤の組成は、0.1〜99重量%で好ましく配合され、5〜90重量%で配合されるのがより好ましく、とくに10〜80重量%であるとさらに好ましい。最も好ましい組成中における脂肪族アルコール類の含量は15〜75重量%である。
【実施例】
【0037】
(実験例1)
以下の通り調整したサル腎細胞(ベロ細胞)由来の抗原を含む日本脳炎ウイルス抗原をBIOMAX−10K(ミリポア社製)を用い、遠心分離により濃縮し、高分子ポリマー(プルラン)と混合の後、加湿器にて相対湿度90〜100%HRを維持しながら、マイクロニードルデバイスのポリ乳酸製マイクロニードル(高さ約300μm、密度841本/cm、四角錐形状)にコーティングした。コーティング含量は抗原2μg/patchとし、4週齢のddYマウス(メス)に麻酔下で腹部剃毛後、コーティングマイクロニードルを皮膚に2時間穿刺投与した(4例)。アジュバント投与群(5例)は、アジュバント(ラウリルアルコール)貼付剤をマイクロニードル投与部位上部に貼付した。1週間後に同条件でブーストし、その1週間後に採血後、日本脳炎ウイルス抗原特異的IgG抗体価を測定した。図2にその結果を示す。
【0038】
(抗体価の測定)
採血した血液を4℃にて一夜静置した後、遠心により血清を分離し、非働化(56℃、30分間処理)した。コーティングバッファーで5μg/mLに希釈したウイルス抗原を100μL/wellにてwellに添加し、4℃、一夜静置した。固相化したプレートを洗浄バッファー400μL/wellで3回洗浄し、ブロッキングバッファーを250μL/well添加し、37℃、1時間反応した。その後、洗浄バッファー400μL/wellで3回洗浄し、十分に液を切った後に希釈バッファーにて100倍希釈し、2倍系列で段階希釈した検体を各100μL/well添加し、37℃、2時間反応させた。
次に、洗浄バッファー400μL/wellで3回洗浄し、希釈したHRP標識抗体100μL/wellを添加し、37℃、90分間反応させた。バッファー400μL/wellで3回洗浄し、TMBZ溶液を100μL/well添加し、暗所にて室温、30分間反応後、0.3N 硫酸を100μL/well添加して反応を停止し、450nmの吸光度を測定した。
コーティングバッファー;0.05M炭酸バッファー(pH9.5)
洗浄バッファー;0.05%Tween20含有PBS(PBS−T)
ブロッキングバッファー;0.5%BSA含有PBS
希釈バッファー;0.5%BSA含有PBS−T
【0039】
図2に示すように、マイクロニードルデバイス(MN)単独において十分な日本脳炎ウイルス抗原特異的IgG抗体価が得られ、更にアジュバント(ラウリルアルコール)貼付剤を併用した場合(MN+LAtape)には更に高い日本脳炎ウイルス抗原特異的IgG抗体価を得ることができる。
【0040】
本発明は、以下のものを含む。
(1)基板に二次元状に配置され、皮膚を穿孔可能なポリ乳酸からなる、複数のマイクロニードルを備え、該マイクロニードルに、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原がコーティングされたマイクロニードルデバイス。
(2)前記マイクロニードルが円錐型または角錐型である、上記(1)に記載のマイクロニードルデバイス。
(3)前記コーティングが、コーティング担体としてプルランを含む、上記(1)または(2)に記載のマイクロニードルデバイス。
(4)前記コーティングが、室温での相対湿度70.0〜100%RHにて行われる、上記(1)から(3)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
(5)前記コーティングが、アジュバント活性を有する物質を含む、上記(1)から(4)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
(6)前記アジュバント活性を有する物質が、ラウリルアルコールである、上記(5)に記載のマイクロニードルデバイス。
(7)前記マイクロニードルデバイスの基板が、日本脳炎ウイルス抗原液または日本脳炎ウイルス抗原溶解液を伝達可能な複数の開口部を有するものである、上記(1)から(6)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
(8)前記マイクロニードルの高さが200〜500μmである、上記(1)から(7)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
(9)前記マイクロニードルが400〜1000本/cmの密度で配置される、上記(1)から(8)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイス。
(10)マイクロニードルデバイスにより日本脳炎ウイルス抗原を投与後、更にアジュバント活性を有する物質を含有する貼付剤を貼付して、日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法において、当該方法に用いられるマイクロニードルデバイスであって、基板に二次元状に配置され、皮膚を穿孔可能なポリ乳酸からなる複数のマイクロニードルを有し、当該マイクロニードルは、サル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原がコーティングされていることを特徴とするマイクロニードルデバイス。
(11)基板に二次元状に配置され、皮膚を穿孔可能なポリ乳酸からなる、複数のマイクロニードルを備え、該マイクロニードルにサル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原をコーティングしてなるマイクロニードルデバイスにより、日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(12)前記マイクロニードルが円錐型または角錐型である、上記(11)に記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏功性を上昇させる方法。
(13)前記コーティングが、コーティング担体としてプルランを含む、上記(11)または(12)に記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(14)前記コーティングが、室温での相対湿度70.0〜100%RHにて行われる、請求項11から13のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(15)前記コーティングが、アジュバント活性を有する物質を含む、上記(11)から(14)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(16)前記アジュバント活性を有する物質が、ラウリルアルコールである、上記(15)に記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(17)前記マイクロニードルデバイスの基板が、日本脳炎ウイルス抗原液または日本脳炎ウイルス抗原溶解液を伝達可能な複数の開口部を有するものである、上記(11)から(16)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(18)前記マイクロニードルの高さが200〜500μmである、上記(11)から(17)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(19)前記マイクロニードルが400〜1000本/cmの密度で配置される、上記(11)から(18)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(20)上記(11)から(19)のいずれかに記載のマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法による日本脳炎ウイルス抗原の経皮投与後、更にアジュバント活性を有する貼付剤を貼付して、更なるマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
(21)前記貼付剤のアジュバント活性を有する物質が、ラウリルアルコールである、上記(20)に記載の更なるマイクロニードルデバイスによる日本脳炎ウイルス抗原の奏効性を上昇させる方法。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は、マイクロニードルデバイスを用いることにより、効率的で、しかも簡便な操作でサル腎細胞(ベロ細胞)由来の日本脳炎ウイルス抗原からなる日本脳炎ウイルス抗原の抗原性を上昇させることを可能とするものであり、産業上の利用可能性がある。
図1
図2