特許第5744521号(P5744521)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744521
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】L−アミノ酸の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 41/00 20060101AFI20150618BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150618BHJP
   C07C 233/47 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   C12P41/00 AZNA
   C12N15/00 A
   C07C233/47
【請求項の数】6
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2010-535820(P2010-535820)
(86)(22)【出願日】2009年10月28日
(86)【国際出願番号】JP2009068515
(87)【国際公開番号】WO2010050516
(87)【国際公開日】20100506
【審査請求日】2012年10月3日
(31)【優先権主張番号】特願2008-277674(P2008-277674)
(32)【優先日】2008年10月29日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000000941
【氏名又は名称】株式会社カネカ
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野尻 増俊
(72)【発明者】
【氏名】西山 陶三
(72)【発明者】
【氏名】田岡 直明
【審査官】 菅原 洋平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−061642(JP,A)
【文献】 特開2008−307006(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/136500(WO,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第02566410(FR,A1)
【文献】 国際公開第2006/135280(WO,A1)
【文献】 Ayano Sakai et al.,Biochemistry,2006年 3月21日,Vol.45,pp.4455-4462
【文献】 Minoru Hayashida et al.,Proteins,2008年,Vol.71, Issue.1,pp.519-523
【文献】 Hideto Takami et al.,Nucleic Acids Research,2004年,Vol.32, No.21,pp.6292-6303
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00−15/90
C12P 1/00−41/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物にL−サクシニラーゼを作用させて、L−アミノ酸を製造する方法であって、N−アシルアミノ酸ラセマーゼの共存下に、生成させたL−アミノ酸を析出させつつ反応を行うことからなり、前記N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物は3%から50%(w/v)の仕込み濃度で添加され
上記N−サクシニルアミノ酸が一般式(I);
【化1】
(式中、Rが4−ブロモベンジル基、3−フルオロベンジル基、ナフチルメチル基、インダニル基、または6−ヘプテニル基を示す。)で表され、
上記L−アミノ酸が一般式(II);
【化2】
(式中、Rは前記と同じ置換基を表す。)で表され
ことを特徴とするL−アミノ酸の製造方法。
【請求項2】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼがゲオバチルス(Geobacillus)属或いはサーマス(Thermus)属、L−サクシニラーゼがゲオバチルス(Geobacillus)属に属する微生物由来である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼがゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)、L−サクシニラーゼがゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)由来である請求項に記載の製造方法。
【請求項4】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼがゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)NBRC102445、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8、L−サクシニラーゼがゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)NBRC102445由来である請求項に記載の製造方法。
【請求項5】
N−アシルアミノ酸ラセマーゼとL−サクシニラーゼが、N−アシルアミノ酸ラセマーゼとL−サクシニラーゼをコードするDNAを含むベクターで形質転換された形質転換体である請求項1に記載の製造方法。
【請求項6】
一般式(III);
【化3】
(式中、R1が3−フルオロベンジル基、2−ナフチルメチル基、2−インダニル基、または6−ヘプテニル基を示す。)で表されるN−サクシニルアミノ酸またはその塩。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1)N−アシルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニルアミノ酸をラセミ化する反応、及び2)L−サクシニラーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸を特異的に加水分解する反応を組み合わせることにより、N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物からL−アミノ酸を効率的に製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学活性アミノ酸、特に光学活性非天然アミノ酸は、農薬、医薬品等の合成原料及び中間体として有用な化合物である。光学活性なアミノ酸、特に非天然アミノ酸をいかにして効率的に製造するかは、産業上重要な課題となっている。
【0003】
この課題を解決する方法の1つとして、ラセミ体N−アセチルアミノ酸を原料として、D−アミノアシラーゼ或いはL−アミノアシラーゼを用いることによりD体或いはL体に光学分割し、光学純度が高いアミノ酸を取得する方法がある(特許文献1)。この方法では光学活性アミノ酸の取得収率が最高で50%であり、ラセミ体の半分が無駄になる。そこで、残存するN−アセチルアミノ酸をラセミ化するN−アシルアミノ酸ラセマーゼとアミノアシラーゼを組み合わせて、収率を向上させる試みがなされてきた。ところが、N−アシルアミノ酸ラセマーゼとアミノアシラーゼを組み合わせた分割は反応性が低く、アミノ酸の収率が70から75%に留まっており、更にはN−アシル体基質が残存し、その分離工程が必要となることから実用化への障害となっていた(特許文献2、3、4、5)。
【0004】
また、N−アシルアミノ酸ラセマーゼのN−アシルアミノ酸に対する反応性が低いことが明らかであったが(非特許文献1、2、特許文献6)、近年、N−アシルアミノ酸ラセマーゼがN−アセチルアミノ酸よりもN−サクシニルアミノ酸に対する反応性のほうが高いことが報告されている(非特許文献1、2、特許文献6)。更には、天然L−アミノ酸のN−サクシニル体に対してL−サクシニラーゼが作用することも報告されている(非特許文献1、2、特許文献6)。しかしながら、N−アシルアミノ酸ラセマーゼとL−サクシニラーゼを組み合わせて、N−サクシニル−アミノ酸のエナンチオマー混合物からL−アミノ酸を効率的に製造する方法については知られていない。
【0005】
また、本製造法において使用可能な原料である一般式(III);
【0006】
【化1】
【0007】
(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいインダニル基、置換基を有していてもよいナフチルメチル基、またはフルオロベンジル基、クロロベンジル基またはブロモベンジル基を示す。)で表されるN−サクシニルアミノ酸またはその塩についてはこれまでに知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2006−254789号公報
【特許文献2】特開2001−46088号公報
【特許文献3】特開2001−314191号公報
【特許文献4】特開2002−238581号公報
【特許文献5】特開2007−82534号公報
【特許文献6】特開2008−61642号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biochemistry、2004年、43巻、224頁
【非特許文献2】Biochemistry、2006年、45巻、4455頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、従来法よりも効率的なL−アミノ酸の製造法の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、N−アシルアミノ酸ラセマーゼを用いてN−サクシニルアミノ酸をラセミ化する反応と、L−サクシニラーゼを用いてN−サクシニル−L−アミノ酸を特異的に加水分解する反応を組み合わせた反応時に、生成するアミノ酸を反応系外に析出させることによって反応性を高められることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち本発明は、N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物にL−サクシニラーゼを作用させて、L−アミノ酸を製造する方法であって、N−アシルアミノ酸ラセマーゼの共存下に、生成させたL−アミノ酸を析出させつつ反応を行うことを特徴とするL−アミノ酸の製造方法、である。
【0013】
本発明の製造方法において、好ましくは、上記L−アミノ酸の溶解濃度は1重量%以下である。
【0014】
また、本発明の製造方法において、好ましくは、基質であるN−サクシニルアミノ酸が一般式(I);
【0015】
【化2】
【0016】
(式中、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、または置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアラルキル基を示す。)で表されるN−サクシニルアミノ酸であり、製造されるL−アミノ酸が一般式 (II);
【0017】
【化3】
【0018】
(式中、Rは前記と同じ置換基を表す)で表されるL−アミノ酸である。
【0019】
本発明のより好ましい実施態様において、上記式(I)及び(II)におけるRが4−ブロモベンジル基、3−フルオロベンジル基、ナフチルメチル基、インダニル基、または6−ヘプテニル基である。
【0020】
また本発明の好ましい実施態様においては、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ及びL−サクシニラーゼとして、N−アシルアミノ酸ラセマーゼをコードするDNAとL−サクシニラーゼをコードするDNAを含むベクターで形質転換された形質転換体を使用する。
【0021】
また本発明は、一般式(III);
【0022】
【化4】
【0023】
(式中、R1は置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルキニル基、置換基を有していてもよいインダニル基、置換基を有していてもよいナフチルメチル基、またはフルオロベンジル基、クロロベンジル基またはブロモベンジル基を示す。)で表されるN−サクシニルアミノ酸またはその塩でもある。
【0024】
本発明の好ましい態様においては、上記式(III)におけるRが4−ブロモベンジル基、3−フルオロベンジル基、2−ナフチルメチル基、2−インダニル基、または6−ヘプテニル基である
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、溶解濃度が低いアミノ酸のN-サクシニル体を原料として反応を行うことで生成するアミノ酸を反応系外に析出させることを可能とし、反応阻害を回避し、効率的にL-アミノ酸を製造できることが明らかになった。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を、実施形態を用いて詳細に説明する。本発明はこれらにより限定されるものではない。
【0027】
本発明の「エナンチオマー混合物」とはD体を0%超〜100%未満の範囲で含むL体及びD体の混合物である。本発明の原料であるN−サクシニルアミノ酸は一般式(I);
【0028】
【化5】
【0029】
で表され、種々の公知方法で合成することができる。例えば、
1)アミノ酸及びアミノ酸と当量以上の無水コハク酸を酢酸中で反応後、溶媒留去を行い、酢酸エチル・メタノール中で再結晶させる方法
2)アミノ酸及びアミノ酸と当量以上の無水コハク酸を水中でpHをアルカリ側に保ちながら反応後、pHを酸性にして結晶として析出させる方法、
等によって取得できる。
【0030】
前記式(I)において、Rは置換基を有していてもよい炭素数1〜20のアルキル基、置換基を有していてもよい炭素数2〜20のアルケニル基、置換基を有していてもよい炭素数4〜20のアリール基、もしくは置換基を有していてもよい炭素数5〜20のアラルキル基を示す。
【0031】
前記炭素数1〜20のアルキル基としては、直鎖状であっても分岐鎖状であっても良く、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンタニル基、ヘキサニル基、ヘプタニル基、オクタニル基等が挙げられる。前記炭素数2〜20のアルケニル基としては、エテニル基、プロペニル基、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基等が挙げられる。
【0032】
前記炭素数2〜20のアルキニル基としては、エチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基、ヘキシニル基、ヘプチニル基、オクチニル基等が挙げられる。
【0033】
前記炭素数4〜20のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントラニル基、ピリジル基、ピリミジル基、インダニル基、インデニル基等が挙げられる。
【0034】
前記炭素数5〜20のアラルキル基としては、ベンジル基、ナフチルメチル基、アントラニルメチル基、ピリジルメチル基、ピリミジルメチル基、インダニルメチル基、インデニルメチル基等が挙げられる。
【0035】
上記アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びアラルキル基は置換基を有していても良く、置換基としては、ハロゲン原子、水酸基、アミノ基、ニトロ基等が挙げられる。
【0036】
前記式(I)で表されるN−サクシニルアミノ酸として、具体的には、N−サクシニル−DL−4−ブロモフェニルアラニン、N−サクシニル−DL−3−フルオロフェニルアラニン、N−サクシニル−DL−2−ナフチルアラニン、N−サクシニル−DL−2−インダニルグリシン、N−サクシニル−DL−6−ヘプテニルグリシン等が挙げられる。
【0037】
本発明で用いるL−サクシニラーゼとは、一般式(I)で表されるN−サクシニルアミノ酸のサクシニル基をL体選択的に加水分解(脱サクシニル化)する酵素であり、N−アシルアミノ酸ラセマーゼとは、一般式(I)で表されるN−サクシニルアミノ酸のエナンチオマーをラセミ化する酵素である。
【0038】
本発明の反応においては、N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物のうちL体のみがL−サクシニラーゼによって特異的に加水分解(脱サクシニル化)され、目的のL−アミノ酸が生成する。この際、N−サクシニル−D−アミノ酸が過剰となるので、N−アシルアミノ酸ラセマーゼによってN−サクシニル−D−アミノ酸からN−サクシニル−DL−アミノ酸へのラセミ化反応が進行する。N−アシルアミノ酸ラセマーゼにより生成したN−サクシニル−L−アミノ酸は、L−サクシニラーゼによって目的のL−アミノ酸へと変換される。
【0039】
以上のL体特異的加水分解反応とラセミ化反応の組み合わせにより、N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物を実質的に単一のエナンチオマーからなるL−アミノ酸に変換することができる。更に本発明の好ましい実施態様では、上記反応過程或いは反応終了後のL−アミノ酸の蓄積濃度がその溶解濃度以上となるとL−アミノ酸が反応系外に析出し、反応は効率的に進行する。
【0040】
なお、高活性のD−サクシニラーゼ(D体選択的に脱サクシニル化)を用いれば、本発明の上記原理を適用して、N−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物を、実質的に単一のエナンチオマーからなるD−アミノ酸へ効率的に変換することができる。ただし、N−サクシニルアミノ酸をD体選択的に加水分解する酵素としてD−アミノアシラーゼが知られている(特開2008-61642)が、実用的な活性が得られたことは示されていない。
【0041】
ここで、溶解濃度とは、反応終了後の反応液中に溶解可能なアミノ酸の重量%であり、以下に述べる方法で測定できる。反応終了後の反応液に溶けなくなるまでL−アミノ酸を添加した後に遠心処理しその上清をフィルターろ過した溶液中の生成アミノ酸を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定を行い、算出する。
【0042】
また、反応終了後の反応液中の生成アミノ酸(析出した生成アミノ酸と溶解している生成アミノ酸を含む)の重量%は以下に述べる方法で測定できる。反応終了後の反応液を析出した生成アミノ酸を含めて均一にサンプリングし、析出した生成アミノ酸を適当な溶媒を用いて可溶化しその溶液中のアミノ酸を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定を行い、算出する。
【0043】
上記溶解濃度は、好ましくは3重量%以下、より好ましくは1重量%以下である。上記溶解濃度を超えてL−アミノ酸が生成するとL−アミノ酸が析出し、その際、反応終了後の反応液中の生成アミノ酸の重量%は高いほうが好適であり、好ましくは溶解濃度の2倍以上、より好ましくは5倍以上である。
【0044】
本発明のL−アミノ酸の製造方法は、適当な溶媒中に、基質となるN−サクシニルアミノ酸のエナンチオマー混合物と、L−サクシニラーゼ及びN−アシルアミノ酸ラセマーゼとを共存させることにより実施できる。
【0045】
反応には水系溶媒を用いてもよいし、水系の溶媒と有機系の溶媒とを混合して用いてもよい。有機系溶媒としては、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸n−ブチル、ヘキサン、イソプロパノール、ジイソプロピルエーテル、メタノール、アセトン、ジメチルスルホキシド等が挙げられる。反応は例えば10℃〜70℃、好ましくは30℃〜55℃の温度で行われる。反応液のpHは例えば4〜10、好ましくは6〜9に維持する。
【0046】
反応は、バッチ方式あるいは連続方式で実施できる。バッチ方式の場合、反応基質は例えば0.1%から70%(w/v)、好ましくは3%から50%(w/v)の仕込み濃度で添加される。
【0047】
反応で生じたL−アミノ酸は、常法により、それぞれを単離、精製できる。反応で生じたL−アミノ酸を含む反応液を、クロマトグラフィー等の処理を行うことにより、単離、精製できる。或いは、反応液から微生物菌体を除去したろ液を塩酸等を用いて中和晶析し、析出した目的物をろ別することによっても単離、精製できる。また、反応液から微生物菌体を除去したろ液をそのまま次工程の反応に使用することもできる。
【0048】
本発明に使用するN−アシルアミノ酸ラセマーゼは、前記式(I)に示されるN−サクシニルアミノ酸をラセミ化する能力を有する。そのような酵素としては、特に制限はないが、具体的には、ゲオバチルス(Geobacillus)属及びサーマス(Thermus)属などに属する微生物由来の酵素が挙げられ、好ましくは、ゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)等の微生物に由来する酵素である。より好ましくはゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacilluskaustophilus)NBRC102445、サーマス・サーモフィラス(Thermus thermophilus)HB8に由来する酵素である。ゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)NBRC102445に由来するN−アシルアミノ酸ラセマーゼのアミノ酸配列をコードする遺伝子は配列番号2で示される。
【0049】
本発明に使用するL−サクシニラーゼは、前記式(I)に示されるN−サクシニルアミノ酸のL体を加水分解する能力を有する。そのような酵素としては、特に制限はないが、代表的なものとして、ゲオバチルス(Geobacillus)属等に属する微生物由来の酵素が挙げられ、好ましくはゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)等の微生物に由来する酵素である。より好ましくはゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)NBRC102445に由来する酵素であり、そのアミノ酸配列をコードする遺伝子は配列番号1で示される。
【0050】
これらの微生物は、さまざまな寄託機関より当業者が入手可能である。寄託機関としては、各微生物を特定する受託番号に対応する機関が挙げられる。具体的には、NBRC番号で特定される微生物は、日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8にある独立行政法人製品評価技術基盤機構生物遺伝資源部門より入手可能である。また、自然界から分離することもできる。なお、これらの微生物に変異を生じさせてより本反応に有利な性質を有する株を得ることもできる。また、これらの微生物から単離した酵素遺伝子を通常の方法で各種宿主ベクター系に導入した形質転換体の利用も可能である。
【0051】
本発明においては、酵素として、上記微生物または形質転換体を適当な培地中で培養して得られる微生物培養液を使用できるほか、培養物の処理物を使用することもできる。該処理物としては、微生物培養液から遠心分離などの集菌操作によって得られる培養上清、微生物菌体、微生物菌体の破砕物、該破砕物より得られる無細胞抽出物、固定化菌体、精製された精製酵素、固定化酵素等が挙げられる。
【0052】
本明細書において記述されている、DNAの単離、ベクターの調製、形質転換等の遺伝子操作は、特に明記しない限り、Molecular Cloning 2nd Edition(Cold Spring Harbor Laboratory Press,1989)、Current Protocols in Molecular Biology(Greene Publishing Associates and Wiley-Interscience)等の成書に記載されている方法により実施できる。
【0053】
本明細書内に記載される「宿主」としては、細菌、酵母、糸状菌、植物細胞、動物細胞などが挙げられるが、導入及び発現効率から細菌が好ましく、大腸菌が特に好ましい。DNAを含むベクターは、公知の方法により宿主細胞に導入できる。宿主細胞として大腸菌を用いる場合、例えば、市販のEscherichia coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を用いることにより、当該ベクターを宿主に導入できる。
【0054】
本明細書内に記載される「ベクター」は、適当な宿主内でDNAがコードする遺伝子を発現できるものであれば、特に限定されない。このようなベクターとしては、例えば、プラスミドベクター、ファージベクター、コスミドベクターなどが挙げられ、さらに、他の宿主株との間での遺伝子交換が可能なシャトルベクターも使用できる。
【0055】
このようなベクターは、通常、lacUV5プロモーター、trpプロモーター、trcプロモーター、tacプロモーター、lppプロモーター、tufBプロモーター、recAプロモーター、pLプロモーター等の制御因子を含み、DNAと作動可能に連結された発現単位を含む発現ベクターとして好適に使用できる。例えば、pUCN18が好適に使用できる。プラスミドpUCN18は、PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No. L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミドである。
【0056】
前記制御因子は、機能的プロモーター及び、任意の関連する転写要素(例えばエンハンサー、CCAATボックス、TATAボックス、SPI部位など)を有する塩基配列をいう。上記の「作動可能に連結」という用語は、遺伝子の発現を調節するプロモーター、エンハンサー等の種々の調節エレメントと遺伝子が、宿主細胞中で作動し得る状態で連結されることをいう。制御因子のタイプ及び種類が、宿主に応じて変わり得ることは、当業者に周知の事項である。
【0057】
本明細書において記述されている「形質転換体」は、ポリペプチドをコードするDNAを、ベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することにより得られる。なお、本明細書において記述されている「形質転換体」は、培養菌体は言うまでもなく、その処理物も含まれる。ここで言う処理物とは、例えば、界面活性剤や有機溶媒で処理した細胞、乾燥細胞、破砕処理した細胞、細胞の粗抽出液等のほか、公知の手段でそれらを固定化したものを意味する。本明細書において記述されている形質転換体の培養は、それが増殖する限り、通常の、炭素源、窒素源、無機塩類、有機栄養素などを含む液体栄養培地を用いて実施できる。
【0058】
本発明の製造方法を実施するに際しては、N−アシルアミノ酸ラセマーゼをコードするDNA及びL−サクシニラーゼをコードするDNAの両者を導入され、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ及びL−サクシニラーゼの両方の活性を有する形質転換体を用いることもできる。このような形質転換体を用いれば、N−アシルアミノ酸ラセマーゼとL−サクシニラーゼをそれぞれ別個に調製する必要がなく、本発明の製造方法をより簡便に実施することができる。
【0059】
本発明のN−アシルアミノ酸ラセマーゼをコードするDNA及びL−サクシニラーゼをコードするDNAの両者を含む形質転換体は、N−アシルアミノ酸ラセマーゼをコードするDNA及びL−サクシニラーゼをコードするDNAの両者を同一のベクターに組み込み、これを宿主細胞に導入することによって得られるほか、これら2種のDNAを不和合性グループの異なる2種のベクターにそれぞれ組み込み、それら2種のベクターを同一の宿主細胞に導入することによっても得られる。本発明のN−アシルアミノ酸ラセマーゼをコードするDNA及びL−サクシニラーゼをコードするDNAの両者を含む形質転換体の例としては、後述するcoli HB101(pNIGHK)が挙げられる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例で本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらにより限定されるものではない。なお、以下の記載において、「%」は特に断らない限り「重量%」を意味する。
【0061】
(参考例1)L−サクシニラーゼの調製
ゲオバチルス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)NBRC102445株由来のL−サクシニラーゼ遺伝子(配列番号1)にEcoRI認識部位とBamHI認識部位を付加した遺伝子を、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(宝酒造社製)を用いたPCRを行い取得した。上記のPCRで得られたDNA断片をプラスミドpUCN18(PCR法によりpUC18(タカラバイオ社製、GenBank Accession No. L09136)の185番目のTをAに改変してNdeIサイトを破壊し、更に471−472番目のGCをTGに改変することにより新たにNdeIサイトを導入したプラスミド)のlacプロモーターの下流のEcoRI認識部位とBamHI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNHKを構築した。組換えベクターpNHKを用いて、coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、coli HB101(pNHK)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)5mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集め、5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これを、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕した後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液のサクシニラーゼ活性を測定し、サクシニラーゼ活性5Uの発現が認められた。
【0062】
(参考例2)L−サクシニラーゼの活性測定
L−サクシニラーゼのサクシニラーゼ活性は以下に述べる方法で測定した。基質となるN−サクシニル−DL−フェニルアラニン溶液250μl(終濃度50mM)、Tris−HCl(0.5M/pH7.5)230μlを混和し、この反応液に酵素液20μlを加えて30℃で反応を行い、適当な時間で1N HCl添加により反応停止させた。生成したL−フェニルアラニンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し、酵素活性を算出した。酵素活性はN−サクシニル−DL−フェニルアラニンからL−フェニルアラニンが1分間に1μmole生成された場合を1unit(U)と定義した。
【0063】
(参考例3)N−アシルアミノ酸ラセマーゼの調製
ゲオバチルス・カウストフィラスNBRC102445株由来のN−アシルアミノ酸ラセマーゼ遺伝子(配列番号2)にEcoRI認識部位とSacI認識部位を付加した遺伝子を、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(宝酒造社製)を用いたPCRを行い取得した。上記のPCRで得られたDNA断片をプラスミドpUCN18のlacプロモーターの下流のEcoRI認識部位とSacI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNIGを構築した。組換えベクターpNIGを用いて、coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、coli HB101(pNIG)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)5mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集め、5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これを、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕した後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液のN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を測定し、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性2Uの発現が認められた。 サーマス・サーモフィラスHB8株由来のN−アシルアミノ酸ラセマーゼ遺伝子(配列番号3)にNdeI認識部位とEcoRI認識部位を付加した遺伝子を、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(宝酒造社製)を用いたPCRを行い取得した。上記のPCRで得られたDNA断片をプラスミドpUCN18のlacプロモーターの下流のNdeI認識部位とEcoRI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNITを構築した。組換えベクターpNITを用いて、coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、coli HB101(pNIT)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)5mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集め、5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これを、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕した後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液のN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性を測定し、N−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性1Uの発現が認められた。
【0064】
(参考例4)N−アシルアミノ酸ラセマーゼの活性測定
N−アシルアミノ酸ラセマーゼのラセマーゼ活性は以下に述べる方法で測定した。基質となるN−アセチル−D−メチオニン溶液を100μl(終濃度20mM)、塩化コバルト水溶液を5μl(終濃度1mM)、Tris−HCl(0.5M/pH7.5)を50μl(終濃度50mM)、滅菌蒸留水を245μlを混和し、この反応液にL−アミノアシラーゼ溶液(20mg/ml、ラセマーゼによって生成するN−アセチル−L−メチオニンを脱アシル化しL−メチオニンを生成する)50μl、及び酵素液50μlを加えて30℃で反応を行い、適当な時間で1N HCl添加により反応停止させた。生成したL−メチオニンを高速液体クロマトグラフィーにより定量し、酵素活性を算出する。酵素活性はN−アセチル−D−メチオニンからN−アセチル−L−メチオニンが1分間に1μmole生成された場合を1unit(U)と定義した。
【0065】
(実施例1)L−4−ブロモフェニルアラニンの製造
DL−4−ブロモフェニルアラニン2.2gと無水コハク酸0.99g及び酢酸20mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−4−ブロモフェニルアラニン2.1gを取得した。N−サクシニル−DL−4−ブロモフェニルアラニンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例1及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びE.coli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は8重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に4−ブロモフェニルアラニンが析出した。18時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)及び光学純度(%e.e.)を求めた結果、変換率は98.0mol%、L−4−ブロモフェニルアラニンの光学純度は100%e.e.であった。変換率より算出されるL−4−ブロモフェニルアラニンの蓄積濃度は5.5重量%であった。また、L−4−ブロモフェニルアラニンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.5重量%以下であった。
【0066】
変換率(mol%)=生成物量/(残存基質量+生成物量)×100
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(Aは対象とする鏡像異性体量でBは対応する鏡像異性体量)
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II
(4.6mmφ×250mm、ナカライ社製)
溶離液:20mM リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=8/2
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CROWNPAC CR(+)(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:過塩素酸水溶液(pH1.5)/メタノール=85/15
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm。
【0067】
N−サクシニル−DL−4−ブロモフェニルアラニンH−NMR(400MHz、CDOD)δppm:2.44−2.56(4H,m),2.94(1H,dd,J=8.6Hz,J=13.9Hz),3.14(1H,dd,J=5.4Hz,J=13.9Hz),4.62−4.66(1H,m),7.14−7.19(2H,m),7.39−7.43(2H,m)。
【0068】
(実施例2)L−3−フルオロフェニルアラニンの製造
DL−3−フルオロフェニルアラニン2.0gと無水コハク酸0.99g及び酢酸20mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−3−フルオロフェニルアラニン1.9gを取得した。N−サクシニル−DL−3−フルオロフェニルアラニンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例1及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びcoli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は8重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に3−フルオロフェニルアラニンが析出した。20時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)及び光学純度(%e.e.)を求めた結果、変換率は97.5mol%、L−3−フルオロフェニルアラニンの光学純度は100%e.e.であった。変換率より算出されるL−3−フルオロフェニルアラニンの蓄積濃度は5.1重量%であった。また、L−3−フルオロフェニルアラニンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.5重量%以下であった。
【0069】
変換率(mol%)=生成物量/(残存基質量+生成物量)×100
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(Aは対象とする鏡像異性体量でBは対応する鏡像異性体量)
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II
(4.6mmφ×250mm、ナカライ社製)
溶離液:20mM リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=8/2
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CROWNPAC CR(+)(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:過塩素酸水溶液(pH1.5)/メタノール=85/15
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm。
【0070】
(実施例3)L−2−ナフチルアラニンの製造
DL−2−ナフチルアラニン2.0gと無水コハク酸1.02g及び酢酸25mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−2−ナフチルアラニン2.3gを取得した。N−サクシニル−DL−2−ナフチルアラニンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例1及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びcoli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は9重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に2−ナフチルアラニンが析出した。20時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)及び光学純度(%e.e.)を求めた結果、変換率は99.8mol%、L−2−ナフチルアラニンの光学純度は100%e.e.であった。変換率より算出されるL−2−ナフチルアラニンの蓄積濃度は6.2重量%であった。また、L−2−ナフチルアラニンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.2重量%以下であった。
【0071】
変換率(%)=生成物量/(残存基質量+生成物量)×100
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(Aは対象とする鏡像異性体量でBは対応する鏡像異性体量)
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II
(4.6mmφ×250mm、ナカライ社製)
溶離液:20mM リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=8/2
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CHIROBIOTIC T(4.6mmφ×250mm、Astec社製)
溶離液:水/エタノール=3/7
流速:0.5ml/分
カラム温度:40℃
測定波長:210nm。
【0072】
N−サクシニル−DL−2−ナフチルアラニンH−NMR(400MHz、CDOD)δppm:2.38−2.50(4H,m),3.14(2H,dd,J=8.5Hz,J=13.9Hz),4.74−4.87(1H,m),7.36−7.45(3H,m),7.05−7.15(4H,m)。
【0073】
(実施例4)L−2−インダニルグリシンの製造
DL−2−インダニルグリシン2.5gと無水コハク酸1.44g及び酢酸30mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−2−インダニルグリシン3.2gを取得した。N−サクシニル−DL−2−インダニルグリシンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例11及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びcoli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は8重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に2−インダニルグリシンが析出した。20時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)及び光学純度(%e.e.)を求めた結果、変換率は100mol%、L−2−インダニルグリシンの光学純度は100%e.e.であった。変換率より算出されるL−2−インダニルグリシンの蓄積濃度は5.3重量%であった。また、L−2−インダニルグリシンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.5重量%以下であった。
【0074】
変換率(%)=生成物量/(残存基質量+生成物量)×100
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(Aは対象とする鏡像異性体量でBは対応する鏡像異性体量)
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II
(4.6mmφ×250mm、ナカライ社製)
溶離液:20mM リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=8/2
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CROWNPAC CR(+)(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:過塩素酸水溶液(pH1.5)/メタノール=85/15
流速:1.0ml/分
カラム温度:35℃
測定波長:210nm。
【0075】
N−サクシニル−DL−2−インダニルグリシンH−NMR(400MHz、CDOD)δppm:2.47−2.61(4H,m),2.79−3.31(5H,m),4.51(1H,d,J=6.8Hz),7.05−7.15(4H,m)。
【0076】
(実施例5)L−6−ヘプテニルグリシンの製造
DL−6−ヘプテニルグリシン2.0gと無水コハク酸1.29g及び酢酸20mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−6−ヘプテニルグリシン1.4gを取得した。N−サクシニル−DL−6−ヘプテニルグリシンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例1及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びcoli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は9重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に6−ヘプテニルグリシンが析出した。24時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)を求めた結果、変換率は99.6mol%であった。更に生成物を二炭酸ジtert−ブチルでN−tert−ブトキシカルボニル6−ヘプテニルグリシンへと誘導化し高速液体クロマトグラフィーにて光学純度(%e.e.)分析を行ったところ、100%e.e.であった。変換率より算出されるL−6−ヘプテニルグリシンの蓄積濃度は5.7重量%であった。また、L−6−ヘプテニルグリシンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.5重量%以下であった。
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:YMC−A303(4.6mmφ×250mm、YMC社製)
溶離液:20mMリン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=1/1
流速:1.0ml/分
カラム温度:35℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CHIRALPAK AD−RH(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:0.02% リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=65/35
流速:0.7ml/分
カラム温度:35℃
測定波長:205nm。
【0077】
N−サクシニル−DL−6−ヘプテニルグリシンH−NMR(400MHz、DMSO−d)δppm:1.25−1.38(6H,m),1.51−1.69(2H,m),2.01(2H,q,J=6.6Hz),2.32−2.44(4H,m),4.16(1H,dt,J=5.2Hz,J=8.6Hz),4.93(1H,d,J=10.2Hz),4.99(1H,d,J=17.1Hz),5.79(1H,m),8.08(1H,d,J=7.1Hz)。
【0078】
(比較例)L−フェニルアラニンの製造
DL−フェニルアラニン5.0gと無水コハク酸3.0g及び酢酸30mlを混合し、55℃で4h反応させ、濃縮後酢酸エチルでの晶析を行い、N−サクシニル−DL−フェニルアラニン4.5gを取得した。N−サクシニル−DL−フェニルアラニンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、参考例1及び参考例3と同様に培養したcoli HB101(pNHK)及びcoli HB101(pNIG)の培養液を混合し(基質の終濃度は6重量%)、45℃にて反応を行った。21時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)及び光学純度(%e.e.)を求めた結果、変換率は86.0mol%、L−フェニルアラニンの光学純度は100%e.e.であった。変換率より算出されるL−フェニルアラニンの蓄積濃度は3.2重量%であった。また、L−フェニルアラニンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、4重量%であった。
【0079】
変換率(mol%)=生成物量/(残存基質量+生成物量)×100
光学純度(%e.e.)=(A−B)/(A+B)×100(Aは対象とする鏡像異性体量でBは対応する鏡像異性体量)
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:COSMOSIL 5C18−AR−II
(4.6mmφ×250mm、ナカライ社製)
溶離液:20mM リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=8/2
流速:1.0ml/分
カラム温度:30℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CROWNPAC CR(-)(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:過塩素酸水溶液(pH2.5)
流速:1.0ml/分
カラム温度:35℃
測定波長:254nm。
【0080】
(実施例6)L−サクシニラーゼとN−アシルアミノ酸ラセマーゼ遺伝子を含むベクターで形質転換された形質転換体の作製
ゲオバチルス・カウストフィラスNBRC102445株由来のL−サクシニラーゼ遺伝子(配列番号1)の615番目のCをGに改変した遺伝子にSacI認識部位とBamHI認識部位を付加した遺伝子を、DNAポリメラーゼPrimeSTAR(宝酒造社製)を用いたPCRを行い取得した。上記のPCRで得られたDNA断片を参考例3で作製したプラスミドpNIGのSacI認識部位とBamHI認識部位の間に挿入し、組換えベクターpNIGHKを構築した。組換えベクターpNIGHKを用いて、E.coli HB101コンピテントセル(タカラバイオ社製)を形質転換し、E.coli HB101(pNIGHK)を得た。得られた形質転換体を、200μg/mlのアンピシリンを含む2×YT培地(トリプトン1.6%、イーストエキス1.0%、NaCl0.5%、pH7.0)5mlに接種し、37℃で24時間振盪培養した。遠心分離により菌体を集め、5mlの100mMリン酸緩衝液(pH7.0)に懸濁した。これを、UH−50型超音波ホモゲナイザー(SMT社製)を用いて破砕した後、遠心分離により菌体残渣を除去し、無細胞抽出液を得た。この無細胞抽出液のサクシニラーゼ活性及びN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性測定し、サクシニラーゼ活性4U及びN−アシルアミノ酸ラセマーゼ活性1Uの発現が認められた。
【0081】
(実施例7)L−サクシニラーゼとN−アシルアミノ酸ラセマーゼ遺伝子を含むベクターで形質転換された形質転換体を用いたL−6−ヘプテニルグリシンの製造
実施例5と同様にしてN−サクシニル−DL−6−ヘプテニルグリシンの基質溶液(pH8)を調製し、塩化コバルト水溶液を終濃度1mMとなるように添加後、実施例6と同様に培養したE.coli HB101(pNIGHK)の培養液を混合し(基質の終濃度は9重量%)、45℃にて反応を行ったところ、反応液中に6−ヘプテニルグリシンが析出した。24時間攪拌後、反応液中の基質及び生成物を高速液体クロマトグラフィーにて分析することにより、変換率(mol%)を求めた結果、変換率は99.6mol%であった。更に生成物を二炭酸ジtert−ブチルでN−tert−ブトキシカルボニル6−ヘプテニルグリシンへと誘導化し高速液体クロマトグラフィーにて光学純度(%e.e.)分析を行ったところ、100%e.e.であった。変換率より算出されるL−6−ヘプテニルグリシンの蓄積濃度は5.7重量%であった。また、L−6−ヘプテニルグリシンの溶解濃度を高速液体クロマトグラフィーにて定量分析測定したところ、0.5重量%以下であった。
【0082】
<高速液体クロマトグラフィー分析条件>
[変換率の分析]
カラム:YMC−A303(4.6mmφ×250mm、YMC社製)
溶離液:20mMリン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=1/1
流速:1.0ml/分
カラム温度:35℃
測定波長:210nm
[光学純度の分析]
カラム:CHIRALPAK AD−RH(4.6mmφ×150mm、ダイセル社製)
溶離液:0.02% リン酸水溶液(pH2.5)/アセトニトリル=65/35
流速:0.7ml/分
カラム温度:35℃
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]