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特許5744684ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744684
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置
(51)【国際特許分類】
   A62D 3/34 20070101AFI20150618BHJP
   B01D 21/01 20060101ALI20150618BHJP
   C10L 1/00 20060101ALI20150618BHJP
   C07B 35/06 20060101ALI20150618BHJP
   C07C 25/18 20060101ALI20150618BHJP
   A62D 101/22 20070101ALN20150618BHJP
【FI】
   A62D3/34ZAB
   B01D21/01 105
   B01D21/01 102
   B01D21/01 110
   C10L1/00
   C07B35/06
   C07C25/18
   A62D101:22
【請求項の数】6
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-196589(P2011-196589)
(22)【出願日】2011年9月8日
(65)【公開番号】特開2013-56064(P2013-56064A)
(43)【公開日】2013年3月28日
【審査請求日】2012年1月31日
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100128277
【弁理士】
【氏名又は名称】専徳院 博
(72)【発明者】
【氏名】徳政 賢治
【審査官】 近野 光知
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−278815(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62D 3/00〜3/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
反応槽内で被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応工程と、
前記脱ハロゲン油に種晶を凝集剤として添加する凝集剤添加工程と、
前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を前記種晶を核として凝集させる凝集工程と、
凝集した前記固体状の不純物を脱ハロゲン油から分離する分離工程と、を含み、
前記ハロゲン化合物がポリ塩化ビフェニル、前記種晶が前記分離工程で分離される凝集した前記固体状の不純物であり、前記固体状の不純物が反応生成物及び未反応の金属ナトリウムからなることを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項2】
前記被処理油は、酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と前記金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする請求項1に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項3】
前記種晶が、前記分離工程で分離される凝集した前記固体状の不純物に代え、セルロースを主成分とする粒状体からなることを特徴とする請求項1又は2に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項4】
前記凝集剤添加工程において、前記種晶と共に凝集剤として少量の水を添加し、前記凝集工程において、前記脱ハロゲン油に含まれる前記固体状の不純物を前記種晶と水とで凝集させ、
添加する水の量は、前記固体状の不純物が溶液とならず、かつ添加した水が前記脱ハロゲン油中に残存しない量であることを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項5】
前記種晶の添加を、前記反応工程終了直後の反応槽に行うことを特徴とする請求項1からのいずれか1項に記載のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法。
【請求項6】
被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽と、
前記脱ハロゲン油に凝集剤として種晶、又は種晶と水とを添加し、脱ハロゲン油中の固体状の不純物を前記種晶、又は種晶と水とで凝集させる凝集生成槽と、
凝集した前記固体状の不純物を沈降分離させ固体状の不純物を含まない脱ハロゲン油を回収する沈殿槽と、
前記沈殿槽から排出される凝集した前記固体状の不純物をさらに濃縮する濃縮槽と、
前記濃縮槽から排出される濃縮した前記固体状の不純物の一部を前記種晶として前記凝集生成槽に返送する種晶返送ラインと、を含み、
前記ハロゲン化合物が、ポリ塩化ビフェニルであり、前記固体状の不純物が反応生成物及び未反応の金属ナトリウムからなることを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、PCB混入絶縁油など油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで無害化するハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
PCB(ポリ塩化ビフェニル)は、不燃性で化学安定性及び電気絶縁性に優れるため、従来、電気機器の絶縁油などとして使用されていたが、その有害性から現在では使用が禁止され、保管されているPCB及びPCBを含有する廃油などについても、平成13年に制定された「ポリ塩化ビフェニル廃棄物の適正な処理の推進に関する特別措置法(PCB特措法)」により、平成28年7月までに処理を完了することが義務付けられている。
【0003】
PCBの脱塩素化技術は、これまでに多くの方法が提案されており、幾つかの方法は実用化されている。金属ナトリウムとPCBとを反応させPCBを脱塩素化させる方法は、PCB含有絶縁油の無害化処理に使用され、処理プラントも稼働中である。金属ナトリウムとPCB含有絶縁油とを反応させるとPCBが脱塩素化された処理済油が得られる。
【0004】
処理済油には、金属ナトリウムとPCBとの反応により生成した塩化ナトリウム、ビフェニル、ビフェニル重合物、水酸化ナトリウムなどの反応生成物のほか、未反応の金属ナトリウムが残存する。さらに被処理油にPCB含有絶縁油以外の不純物、例えば酸化変質油が含まれている場合には、これらが金属ナトリウムと反応して生成した反応生成物も含まれる。このため反応生成物など固体状の不純物が含まれる処理済油は、水又は溶剤が加えられ、固体状の不純物は水又は溶剤に抽出され、その後、静置分離さらには蒸留操作により油中の水が除去され精製される(例えば特許文献1参照)。このような処理済油の精製操作は、金属ナトリウム以外の他のアルカリ金属を反応剤とし、油中の多塩素化芳香族化合物を脱塩素化するプロセスにおいても同様に行われている(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2006−193482号公報
【特許文献2】特開平10−156174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
処理済油に水を加えて固体状の不純物を取り除く従来の処理済油の精製方法は、静置分離後の処理済油に含まれる水の除去に蒸留操作が必要となり、消費エネルギーが大きく、装置も大掛かりとなる。水に代え、溶剤を使用する場合も同じである。さらに通常、水を添加し処理済油を精製する場合、多量の水が添加されるため、油水分離後の水をそのまま廃棄すると廃棄量が多くなる。このため処理済油に水を加え固体状の不純物を抽出した後に中和剤を添加し中和処理し、その後に油水分離し、油水分離の後の水は乾燥機で蒸発させ回収し、水に含まれていた固体状の不純物は固形の廃棄物とする。このような方法は、水を再利用できる点で好ましい方法であるが、エネルギー消費量が大きく、さらに中和剤が廃棄物となるため廃棄物の量が多くなる。
【0007】
本発明の目的は、脱ハロゲン油中の固体状の不純物を少ないエネルギーで効率的に除去し精製油を得ることができるハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、反応槽内で被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応工程と、前記脱ハロゲン油に種晶を凝集剤として添加する凝集剤添加工程と、前記脱ハロゲン油に含まれる固体状の不純物を前記種晶を核として凝集させる凝集工程と、凝集した前記固体状の不純物を脱ハロゲン油から分離する分離工程と、を含み、前記ハロゲン化合物がポリ塩化ビフェニル、前記種晶が前記分離工程で分離される凝集した前記固体状の不純物であり、前記固体状の不純物が反応生成物及び未反応の金属ナトリウムからなることを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理方法である。
【0009】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、脱ハロゲン油に種晶を添加し、反応生成物などの固体状の不純物を凝集させ分離し精製油を得る。本方法は、従来の水を使用した脱ハロゲン油の精製方法と異なり、固体状の不純物の分離に水を使用しないので、水を分離するエネルギーが不要でありエネルギー消費量が少なく、中和剤も必要としないので廃棄物の量も少ない。種晶には、分離工程で分離される凝集した固体状の不純物を使用することができるので、種晶を別途準備する必要がなく好ましい。
【0011】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、脱ハロゲン油に未反応の金属ナトリウムが残存していても、この未反応の金属ナトリウムも反応生成物といっしょに種晶を核として凝集するので、脱ハロゲン油から未反応の金属ナトリウムを分離することができる。このため別途、未反応の金属ナトリウムをクエンチングする操作が不要である。仮にクエンチング操作を行う場合であっても、未反応の金属ナトリウムの大半は分離されているので、容易に行うことができる。
【0012】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記被処理油は、酸化変質油を含み、前記固体状の不純物には、前記酸化変質油と前記金属ナトリウムとが反応して生成した反応生成物も含まれることを特徴とする。
【0013】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、例えばPCB含有絶縁油などに酸化変質油が混入しても、適用することができる。油酸化変質物が金属ナトリウム、又はさらに反応促進剤と反応し生成した反応生成物は、極性が強く金属面などに付着しやすいので、種晶を添加すれば種晶を核として容易に凝集する。
【0016】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記種晶が、前記分離工程で分離される凝集した前記固体状の不純物に代え、セルロースを主成分とする粒状体からなることを特徴とする。
【0017】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、種晶としてセルロースを主成分とする粒状体を使用することができる。セルロースを主成分とする粒状体は、比表面積も大きく、表面に多くの水酸基を有しているので、反応生成物、未反応の金属ナトリウムも吸着し易く、さらに入手も容易でかつ安価であるので種晶として好ましい。
【0018】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記凝集剤添加工程において、前記種晶と共に凝集剤として少量の水を添加し、前記凝集工程において、前記脱ハロゲン油に含まれる前記固体状の不純物を前記種晶と水とで凝集させ、添加する水の量は、前記固体状の不純物が溶液とならず、かつ添加した水が前記脱ハロゲン油中に残存しない量であることを特徴とする。
【0019】
反応生成物、未反応の金属ナトリウムが水と接すると、水は反応生成物に吸着すると共に未反応の金属ナトリウムと反応する。水が吸着した直後の反応生成物、反応直後の金属ナトリウムは、不安定な状態であるため凝集し易く、種晶を核として容易に凝集、成長する。ここでは少量の水は凝集剤として機能する。多くの水を添加し、水を吸着した反応生成物等が溶解して溶液となったり、余剰の水が脱ハロゲン油中に残存すると、これらの分離操作が別途必要となるので、添加する水の量は、反応生成物などが溶液とならず、かつ添加した水が脱ハロゲン油中に残存しない量とする。
【0020】
また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法は、前記ハロゲン化合物含有油の無害化処理方法において、前記種晶の添加を、前記反応工程終了直後の反応槽に行うことを特徴とする。
【0021】
脱ハロゲン化された直後の反応生成物等は非常に凝集し易い状態にある。このため種晶を、反応工程直後の反応槽に添加すれば反応生成物などの固体状の不純物をより効果的に凝集させることができる。
【0022】
また本発明は、被処理油中のハロゲン化合物を金属ナトリウムで脱ハロゲン化し脱ハロゲン油を得る反応槽と、前記脱ハロゲン油に凝集剤として種晶、又は種晶と水とを添加し、脱ハロゲン油中の固体状の不純物を前記種晶、又は種晶と水とで凝集させる凝集生成槽と、凝集した前記固体状の不純物を沈降分離させ固体状の不純物を含まない脱ハロゲン油を回収する沈殿槽と、前記沈殿槽から排出される凝集した前記固体状の不純物をさらに濃縮する濃縮槽と、前記濃縮槽から排出される濃縮した前記固体状の不純物の一部を前記種晶として前記凝集生成槽に返送する種晶返送ラインと、を含み、前記ハロゲン化合物が、ポリ塩化ビフェニルであり、前記固体状の不純物が反応生成物及び未反応の金属ナトリウムからなることを特徴とするハロゲン化合物含有油の無害化処理装置である。
【0023】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理装置は、濃縮した固体状の不純物(汚泥)の一部を凝集生成槽に返送する種晶返送ラインを備えるので、簡単に精製した脱ハロゲン油を得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置は、脱ハロゲン油に凝集剤として種晶を添加し、反応生成物などの固体状の不純物を種晶を核として凝集させるので、沈殿操作等で固体状の不純物を簡単に分離し精製油を得ることができる。また本発明のハロゲン化合物含有油の無害化処理方法及び無害化処理装置は、脱ハロゲン油からの固体状の不純物の分離に、従来のように水を使用しないので水を分離するエネルギーが不要でありエネルギー消費量が少ない。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本発明の第1実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。
図2図1のPCB混入絶縁油無害化処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。
図3】紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。
図4】本発明の第2実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置2の概略的構成を示す図である。
図5図4のPCB混入絶縁油無害化処理装置2の処理手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
図1は、本発明の第1実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置1の概略的構成を示す図である。図2は、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の処理手順を示すフローチャートである。以下、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とする場合を例にとり、PCB混入絶縁油無害化処理装置1の構成及び処理手順について説明する。第1及び第2実施形態において固体状の不純物は、反応生成物、未反応の金属ナトリウムからなる。
【0027】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、SPプロセス(soduim pulverulent dispersion)法を用いてPCB混入絶縁油を無害化する装置であり、金属ナトリウムと絶縁油に混入するPCBとを反応させPCBを脱塩素化する。さらに脱塩素化された絶縁油に含まれる固体状の不純物を分離し精製油を製造する。
【0028】
PCB混入絶縁油無害化処理装置1は、被処理油を貯留する貯留タンク11、被処理油に含まれる水を除去する減圧蒸留槽13、PCBを金属ナトリウムと反応させ脱塩素化する反応槽15、PCBの脱塩素化を確認するための分解確認槽17、処理済油に含まれる固体状の不純物を凝集させる凝集生成槽19、凝集した固体状の不純物を沈降分離させる沈殿槽21、及び沈殿槽21で分離された凝集した固体状の不純物を濃縮する濃縮槽23を備える。
【0029】
被処理油は、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油と、PCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物であり、これらは貯留タンク11に貯留された後(受入工程:ステップS1)、減圧蒸留槽13に送られる。なお、被処理油はこれに限定されるものではなく、柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油のみを被処理油としてもよく、さらにPCBを多く含む絶縁油を被処理油とすることができる。
【0030】
減圧蒸留槽13は、ジャケット付き攪拌槽であり、ジャケットに加熱した熱媒を供給することで被処理油を加熱する。また減圧蒸留槽13は、槽内を減圧し被処理油に含まれる水を蒸発させ凝縮し回収する減圧装置(図示を省略)を備え、貯留タンク11から送られた被処理油は、ここで90℃程度に加熱、0.0142Mpa程度に減圧され、被処理油に含まれる水が除去される(脱水工程:ステップS2)。減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油は反応槽15に送られる。
【0031】
反応槽15は、ジャケット付き攪拌槽であり、ここで減圧蒸留槽13で水分が除去された被処理油に金属ナトリウムが添加される。金属ナトリウムは、絶縁油中に金属ナトリウムの微粒子を分散させた金属ナトリウム分散体(SD:soduim dispersion)として反応槽15に添加される。SD中の金属ナトリウムの大きさは、平均粒子径が約6μmである。ここでは、PCBを十分に脱塩素化し、かつ分解速度(脱塩素化速度)を速めるため、PCBを脱塩素化するに必要な金属ナトリウム量を上回る量の金属ナトリウムが添加される。被処理油と金属ナトリウムとは、攪拌されながらジャケットに供給される加熱した熱媒により90℃程度まで加熱され、PCBは金属ナトリウムと反応し脱塩素化し、被処理油は無害化される(反応工程:ステップS3)。なお、金属ナトリウム分散体を添加し所定の時間経過後に、反応促進剤として所定量の水が添加される。
【0032】
本実施形態では、被処理油にPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液を含むため、被処理油中にC=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれる。C=O結合及びC−O結合を含む酸化変質油が含まれるのは、柱上変圧器に紙、木が含まれ、これらの乾留物が回収絶縁油に含まれることによる。図3は、紙木類乾留物を含む絶縁油と紙木類乾留物を含まない絶縁油をフーリエ変換赤外分光法FTIRで分析した結果を示す図である。紙木類乾留物を含む絶縁油にはC=Oのピーク1750cm−1が強く表れている。C=O結合を含む酸化変質油としては、カルボン酸、エステル、アルデヒド、ケトンがある。よって、本実施形態では、PCBと金属ナトリウムとの反応の他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応する。以下、反応槽15での代表的な反応を示す。
【0033】
【化1】
【0034】
以上の反応式からも分かるようにPCBが脱塩素化された被処理油(処理済油)には、反応生成物である塩化ナトリウム、水酸化ナトリウム、ビフェニル、ポリビフェニルの他、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤とが反応して生成した反応生成物が含まれる。さらに反応槽15には金属ナトリウムが過剰に添加されるため、処理済油には、未反応の金属ナトリウムも残存している。上記反応生成物、未反応の金属ナトリウムは、固体状となって処理済油中に分散している。
【0035】
柱上変圧器から抜き出されたPCB微量混入絶縁油とPCB微量混入絶縁油を抜き出した後の柱上変圧器を破砕しこれを真空加熱し回収される留出液との混合物を被処理油とした場合の分解確認槽17出口でサンプリングした処理済油に含まれる固体状の不純物の大きさの一例を示せば、粒径2〜11μm、平均粒径9μmであり、目開きが1μmのろ材でろ過すれば95%以上、0.1μmのろ材でろ過すれば99%以上分離することができる。また処理済油中の固体状の不純物濃度は、約0.2重量%程度であり、固体状の不純物のうち未反応の金属ナトリウムは、約10%である。
【0036】
反応槽15でPCBが脱塩素化された処理済油は、分解確認槽17に送られ、サンプリングライン18を介してサンプリングされ、処理済油中のPCB濃度が所定の濃度以下になっているか確認される(確認工程:ステップS4)。ここでPCBが所定濃度以下に達していないことが確認されると、処理済液を反応槽15に返送し再度、PCBの脱塩素化を行う。処理済油は、PCB濃度が所定の濃度以下であることが確認されると凝集生成槽19に送られる(確認工程:ステップS5)。分解確認槽17から凝集生成槽19への送油に際し、処理済油を冷却するなどの温度調整操作は不要である。
【0037】
凝集生成槽19は、攪拌槽であり、ここで処理済油に凝集剤を添加し、処理済油中の固体状の不純物を凝集させる(凝集工程:ステップS6)。凝集剤には、水と、濃縮槽23から返送される汚泥とを使用する。濃縮槽23から返送される汚泥は、処理済油中の固体状の不純物が凝集、濃縮したものである。処理済油に汚泥を投入すると、この汚泥が種晶となり、この種晶を核として処理済油に含まれる固体状の不純物が凝集、成長する。一方、処理済油に少量の水を添加すると、水は反応生成物に吸着すると共に未反応の金属ナトリウムと反応する。このように水が吸着した直後の反応生成物、反応直後の金属ナトリウムは、不安定な状態であるため凝集し易く、汚泥を核として容易に凝集、成長する。ここでは少量の水は凝集剤として機能する。汚泥の大きさは、後工程での沈殿分離操作を考えれば数百μmから数ミリ程度のものが好ましい。
【0038】
水を添加しなくても、処理済油に含まれる反応生成物、未反応の金属ナトリウムは、汚泥を核として凝集、成長するが、水を添加することでより凝集、成長し易くなる。ここで添加する水の量は、添加した全ての水が、反応生成物に吸着すると共に未反応の金属ナトリウムと反応し消費され、余剰の水が残存しない量とする。水を過剰に投入すると、反応生成物は水に完全に溶解し固体状ではなくなってしまい分離が困難となる。さらに処理済油に水が混入した状態となると、処理済油から水を分離する操作が別途必要となるので好ましくない。
【0039】
凝集剤は、処理済油に含まれる反応生成物、未反応の金属ナトリウムを凝集、成長させる機能を備えていればよく、前記汚泥に限定されるものではない。例えば、凝集剤としてセルロースを主成分とする粒状体を使用することができる。セルロースは、表面に多くの水酸基を有しているので、反応生成物、未反応の金属ナトリウムも吸着し易く、さらに入手も容易でかつ安価であるので種晶として好ましい。特に比表面の大きいセルロースを主成分とする粒状体が好ましい。後工程での沈殿分離操作を考えれば、セルロースを主成分とする粒体の大きさは、数ミリ程度のものが好ましい。またセルロースを主成分とする粒状体と少量の水とを凝集剤としてもよい。
【0040】
沈殿槽21は、いわゆるシックナーであり、凝集生成槽19から送られる処理済油中の凝集した固体状の不純物を分離する(分離工程:ステップS7)。凝集生成槽19から送られる処理済油中の固体状の不純物は、凝集、成長し大きくなっているので、比重差を利用した機械的分離で簡単に分離することができる。シックナーに代え、ろ過器、遠心分離機などを使用して固体状の不純物を分離することができることは当然であるが、固体状の不純物は、凝集、成長し大きくなっているので沈降分離でも簡単に分離させることができる。沈殿槽21の大きさは、固体状の不純物の沈降速度等に基づき適宜決定することができる。
【0041】
沈殿槽21で固体状の不純物が分離された処理済油は、精製油として回収される。一方、沈降分離した固体状の不純物は、汚泥引抜きポンプ22を介して引抜かれ、固体状の不純物をさらに濃縮させるため濃縮槽23に送られる。汚泥引抜きポンプ22は、固体状の不純物を破砕することなく圧送することができるねじポンプが好ましい。
【0042】
濃縮槽23は、いわゆるシックナーであり、沈殿槽21から送られる固体状の不純物を沈降分離させることで濃縮させる(汚泥濃縮工程:ステップS8)。濃縮槽23の大きさは、固体状の不純物の濃度、大きさ、濃縮度に応じて適宜決定することができる。濃縮された固体状の不純物は、汚泥として底部から引抜かれ、一部の汚泥は、汚泥引抜きポンプ24、種晶返送ライン26を通じて凝集生成槽19に送られる。汚泥引抜きポンプ24は、汚泥を破砕することなく圧送することができるねじポンプが好ましい。なお特定の大きさの汚泥のみを種晶とするときは、汚泥引抜きポンプ24の出口部に分級装置を設け、分級後の汚泥を凝集生成槽19に送ればよい。一方、固体状の不純物が分離された処理済油は、処理済油返送ライン28を通じて凝集生成槽19に送られる。これにより処理済油に含まれる小さい固体状の不純物を再度凝集、成長させ、分離することができる。なお、処理済油返送ライン28は、後述のPCB混入絶縁油無害化処理装置2のように沈殿槽21と結び、ここで処理済油に含まれる小さい固体状の不純物を再度凝集、成長させ、分離させてもよい。
【0043】
上記のようにPCB混入絶縁油無害化処理装置1は、固体状の不純物が凝集、濃縮した汚泥と少量の水とを凝集剤とし、処理済油中の反応生成物、未反応の金属ナトリウムを凝集、成長させた後、これを沈降分離させ精製油を得るので、従来の水を使用した脱ハロゲン油の精製方法と異なり、水を分離するエネルギーが不要でありエネルギー消費量が少ない。さらに中和剤を使用しないので廃棄物の量も少ない。また従来の水を使用した脱ハロゲン油の精製方法の場合、多量の水を使用するため水を循環使用すべく減圧乾燥機が用いられるが、トラブルが生じ易い。これに対して凝集生成槽19、沈殿槽21、濃縮槽23は、構造が単純でトラブルが生じにくく安価である。
【0044】
図4は、本発明の第2実施形態であるPCB混入絶縁油無害化処理装置2の概略的構成を示す図である。図5は、PCB混入絶縁油無害化処理装置2の処理手順を示すフローチャートである。図1に示す第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同一の構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0045】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2も第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同様に、処理済油に種晶として汚泥を添加し、処理済油に含まれる固体状の不純物を汚泥を核として凝集、成長させる。使用する汚泥は、濃縮槽23で分離された処理済油中の固体状の不純物が凝集、濃縮したものであり第1実施形態のPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同じであるが、添加する場所、添加時期が異なる。また凝集剤に水を使用しない点も、PCB混入絶縁油無害化処理装置1と異なる。
【0046】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2では、種晶返送ライン26を反応槽15と結び、汚泥を反応槽15へ戻す。PCBと金属ナトリウム、さらには反応促進剤である水とが反応して生成する反応生成物、酸化変質油と金属ナトリウム、さらには反応促進剤である水とが反応して生成する反応生成物は、生成直後は不安定な状態であり、種晶に付着し易い状態となっている。このためPCB混入絶縁油無害化処理装置2では、PCBと金属ナトリウム、さらには反応促進剤である水を添加した(反応工程:ステップS13)後に、直ちに汚泥を投入し、汚泥を種晶として反応直後の固体状の不純物を汚泥を種晶として凝集させる(凝集工程:ステップS14)。
【0047】
反応槽15に凝集剤として水を添加しないのは、反応槽15に水が付着し、あるいは反応槽15内に水が残ってしまうと、次の反応工程で金属ナトリウムが水と反応し、無駄に消費されるからである。またPCB混入絶縁油無害化処理装置2では、反応終了後の処理済油を分解確認槽17に送り、ここでPCB濃度が所定の濃度以下に達していないことが確認されると(確認工程:ステップS15、S16)、処理済油は、反応槽15へ返送されるため、このときも反応槽15内に水があると不具合を生じる。さらに反応直後の反応生成物は、凝集性に富むため水を添加しなくても十分に凝集することによる。
【0048】
汚泥が添加された処理済油は、PCB混入絶縁油無害化処理装置1と同様に、分解確認槽17に送られ、ここでPCB濃度が確認される(確認工程:ステップS15、S16)。処理済油は、PCB濃度の確認が終了するまで分解確認槽17に止まりここで緩やかに攪拌混合されているので、分解確認槽17は、固体状の不純物を凝集させる凝集生成槽としても機能する。このためPCB混入絶縁油無害化処理装置2では、PCB混入絶縁油無害化処理装置1と異なり、凝集生成槽19が設けられていない。固体状の不純物を凝集させるに必要な時間が、PCB濃度の確認に要する時間を上回るときは、固体状の不純物を凝集させるに必要な時間を得ることができるように分解確認槽17の大きさを決定してもよい。但し、固体状の不純物は、沈殿槽21へ送られた後も凝集することから、分解確認槽17を必要以上に大きくする必要はない。
【0049】
処理済油は、分解確認槽17から沈殿槽21に送られここで精製油が回収され(分離工程:ステップS17)、汚泥が濃縮槽23から回収される点(濃縮工程:ステップS18)は、PCB混入絶縁油無害化処理装置1と同じである。また、分級した汚泥、さらには汚泥に代え、凝集剤としてセルロースを主成分とする粒状体、セルロースを主成分とする粒状体と少量の水とを使用することができることもPCB混入絶縁油無害化処理装置1と同じである。
【0050】
PCB混入絶縁油無害化処理装置2では、凝集剤を反応槽15に投入しているが、分解確認槽17へ投入してもよい。但し、反応生成物の凝集性は、生成直後が高いことを考えれば、分解確認槽17よりも反応槽15の方が好ましい。
【0051】
以上、本発明の実施形態としてPCB混入絶縁油無害化処理装置1、2を示したが、本発明は固形の種晶、又は固形の種晶と少量の水とを凝集剤として、処理済油に含まれる反応生成物、未反応の金属ナトリウムを凝集させ分離することで、処理済油を精製する点に特徴があり、PCB混入絶縁油以外にも、ハロゲン化合物を含有する油を金属ナトリウムで脱ハロゲン化するプロセスに、本発明を好適に使用することができる。なお上記実施形態において、SD中の金属ナトリウムの大きさ、処理済油中の固体状の不純物の大きさ、量を数値で示したが、これは一例であり本発明は、この数値に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0052】
1 PCB混入絶縁油無害化処理装置
2 PCB混入絶縁油無害化処理装置
11 貯留タンク
13 減圧蒸留槽
15 反応槽
17 分解確認槽
18 サンプリングライン
19 凝集生成槽
21 沈殿槽
22 汚泥引抜きポンプ
23 濃縮槽
24 汚泥引抜きポンプ
26 種晶返送ライン
28 処理済油返送ライン
図1
図2
図3
図4
図5