【文献】
伊藤元邦、他,感音性難聴者の周波数・時間分解能測定方法に関する一検討,電子情報通信学会技術研究報告,日本,社団法人電子情報通信学会,2010年 2月25日,Vol.109,No.451,pp.105-109
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0032】
まず初めに、本発明の基本原理について、
図1を用いて説明する。
【0033】
図1(a)は、時間tを変数とする時間マスキング曲線を示す模式図である。
図1(b)は、周波数fを変数とする周波数マスキング曲線を示す模式図である。マスキング曲線よりも小さい音が受聴者に提示された場合、提示されるタイミングや周波数成分がマスカとは異なっていても、受聴者はその音を知覚していないことが、広く知られている。
【0034】
これら時間と周波数のマスキング作用を組み合わせると、
図1(c)のようなマスキング曲面を考えることができる。
【0035】
このマスキング曲面を用いると、上述の従来技術は
図2(a)のように説明できる。特許文献1の手法は、設定されたマスカとプローブの提示レベルにおいて、受聴者がプローブ音を知覚するまでマスカの周波数ギャップ幅を広げるので、周波数−レベル平面内で図中矢印のように音響特性を調節して測定しているとみなせる。
【0036】
また従来発明(非特許文献2)の手法は、
図2(b)に示すように、設定されたマスカの提示レベル、時間ギャップ幅、周波数ギャップ幅において、受聴者がプローブ音を知覚しない場合はプローブの提示レベルを上げ、知覚する場合はプローブの提示レベルを下げるので、特定の時間・周波数条件において、図中矢印のように音響特性を調節して測定しているとみなせる。ここで、周波数ギャップとは、帯域阻止フィルタ等を用いて周波数軸上で生成された無音部分であり、時間ギャップとは、レベル調整等を用いて時間軸上で生成された無音部分である。
【0037】
このように従来技術においては、受聴者の応答に応じて、ギャップ幅やプローブの提示レベルといった、一つの音響特性量を調節して測定している。このため、マスキング曲線あるいはマスキング曲面(以下、「マスキングカーブ」と総称)のうち、一点しか測定できない。
【0038】
しかし、例えば
図3に示すように、受聴者がプローブ音を知覚しない場合はマスカの周波数ギャップを広げ、知覚する場合はマスカの時間ギャップを狭めるというように、受聴者の応答に応じて異なる音響特性量を変化させれば、マスキングカーブを直接追跡することが可能となる。従って、マスキングカーブを、短時間でより正確に測定することが可能となる。
【0039】
上述したマスカの周波数ギャップ、時間ギャップの他にも、プローブやマスカの提示レベルなどの音響特性を組み合わせることにより、同様にマスキングカーブを直接的に追跡することが可能である。
【0040】
さらに
図4(a)に示すように、非特許文献2によると、周波数ならびに時間マスキング曲線の形状は、マスカの提示レベルによって変化する。そこで、例えば
図4(b)に示すように、受聴者がプローブ音を知覚できない場合はマスカの周波数ギャップを広げ、知覚できる場合はマスカの提示レベルを上げるというように、受聴者の応答に応じて異なる音響特性量を変化させれば、レベルに依存したマスキングカーブの変化を一度に測定することが可能となる。従って、マスキングカーブを、短時間でより正確に測定することが可能となる。
【0041】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、同じ要素には同じ符号を付しており、説明を省略する場合もある。また各種音響特性量の値、あるいは値の範囲は一例であり、難聴の度合い、要求される精度、測定を実施可能な時間の制限などに応じて適宜変更しても良い。
【0042】
(実施の形態1)
図5は、実施の形態1の聴覚測定装置100の構成を示すブロック図である。
【0043】
聴覚測定装置100は、測定音生成部101および測定音出力部102を備える。測定音生成部101は、聴覚測定に用いる測定音を生成する。測定音出力部102は、生成した測定音を出力する。さらに、聴覚測定装置100は、知覚判定部103、調整部104、判断部105を備える。知覚判定部103は、受聴者が、出力された測定音に含まれるプローブ(検査音)を知覚したか否かを判定する。調整部104は、測定音の音響特性量を調整する。判断部105は、測定の継続を判断する。
【0044】
測定音生成部101は、所定の音響特性量を持つプローブならびにマスカ(妨害音)を含む測定音を生成する。ここで音響特性量とは、プローブあるいはマスカの周波数特性量(中心周波数、帯域幅、周波数ギャップ幅等)、時間特性量(音の継続時間、時間ギャップ幅等)、音圧レベルといった特性量である。
【0045】
測定音出力部102は、測定音生成部101が生成した測定音をヘッドホンなどから出力する。
【0046】
知覚判定部103は、受聴者がプローブを知覚したか否かを判定する。
【0047】
調整部104は、受聴者がプローブを知覚したか否かの結果に基づき、測定音の音響特性量を調整する。
【0048】
判断部105は、音響特性量や判定の繰り返し回数などに基づいて、測定を終了するか否かを判断する。
【0049】
次に、聴覚測定装置100における測定処理の動作について
図6を用いて説明する。
【0050】
図6は、聴覚測定装置における測定処理の動作を示したフローチャートである。
【0051】
測定音生成部101は、プローブとマスカのうち、少なくとも一つを含む測定音を生成する(ステップS101)。
【0052】
測定音出力部102は、生成された測定音をスピーカー、ヘッドホンなどから出力する(ステップS102)。
【0053】
ここで、提示される測定音は、例えば0.1〜10秒程度の指定された継続時間で1回提示するようにしても良いし、さらに例えば0.1〜2秒程度の指定間隔を経て複数回提示するようにしても良いし、これらを組み合せても良い(以下、個別に提示する方法と呼ぶ)。また後述のとおり、異なる測定音が指定間隔を経て提示される場合もある。なお指定時間、指定間隔は受聴者の測定に対し現実的な数値であればよく、上記例示に限定したものではない。また、例えば非特許文献3に示されるベケシー法(Bekesy Tracking)のような方法を用いる場合は、連続的に提示するようにしても良い(以下、連続的に提示する方法と呼ぶ)。
【0054】
知覚判定部103は、受聴者がプローブを知覚したか否かを判定する(ステップS103)。
【0055】
具体的な判定方法の一例としては、測定音を1回、あるいは複数回提示し、プローブを知覚したか否かを受聴者に直接回答させて判定する。
【0056】
判定方法の他の一例として、受聴者はプローブを知覚している間は知覚していると回答し続け、また知覚していない間は知覚していないと回答し続けることにより判定しても良い。
【0057】
なお受聴者の回答は、例えば口頭によるものでも良いし、聞こえている場合はボタンやタッチパネルを押すといった、インタフェースを用いた方法でも良い。あるいは脳波測定のような他覚的な方法でも良い。
【0058】
また、判定方法の他の一例としては、プローブとマスカを両方含む音とマスカのみを含む音を順に提示し、どちらがプローブを含んでいたかを回答させ、その正答・誤答から判定する。この場合、ランダムに回答しても一定の割合で正答が発生するので、変形上下法などの方法を用いて判定してもよい。例えば、2回以上の所定の回数ほど連続して正答した場合はプローブを知覚したと判定し、1回誤答した場合はプローブを知覚しなかったと判定してもよい。
【0059】
知覚判定部103の判定結果に応じて、調整部104は、測定音の1つ以上の音響特性量を調整する(ステップS104)。
【0060】
ここで、受聴者がプローブを知覚したと判定した場合、プローブが知覚できなくなる方向に音響特性量を調整し、受聴者がプローブを知覚しなかったと判定した場合、プローブが知覚できる方向に音響特性量を調整する。さらに、知覚するか否かの判定結果が変化しない場合、直前に調整した音響特性量と同じ音響特性量を調整し、判定結果が変化した場合、直前に調整した音響特性量以外の音響特性量を調整する。
【0061】
ステップS104にて音響特性量を調整した後、判断部105は、調整された音響特性量や判定の繰り返し回数などに基づいて、測定を終了するか否かを判断する(ステップ105)。
【0062】
例えば、調整された音響特性量が、あらかじめ設定された範囲を外れた場合、測定を終了すると判断する。あるいは、測定の回数や測定時間が、あらかじめ設定された値を超えた場合、測定を終了すると判断する。測定を終了すると判断しなかった場合は、ステップS101に戻り測定を継続する。
【0063】
ステップS104における調整の具体例を、
図7を用いて説明する。
図7は、聴覚測定装置における音響特性量調整処理の動作の一例を示すフローチャートである。
【0064】
知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚していると判定された場合には(ステップS1041)、調整部104において、一つ以上の音響特性量(音響特性量1)を、プローブが知覚できなくなる方向に調整する(ステップS1042)。ここで、プローブが知覚できなくなる方向の調整とは、プローブ自体の調整(プローブの提示レベルを下げる、提示時間を短くする等)、あるいはマスカによるマスキング量が増大するような調整(マスカの提示レベルを上げる、周波数ギャップを狭くする、時間ギャップを狭くする等)である。
【0065】
一方、知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚していないと判定された場合には(ステップS1041)、ステップS1042とは異なる一つ以上の音響特性量(音響特性量2)を、プローブが知覚できるように調整する(ステップS1043)。ここで、プローブが知覚できるようになる方向の調整とは、プローブ自体の調整(プローブの提示レベルを上げる、提示時間を長くする等)、あるいはマスカによるマスキング量が減少するような調整(マスカの提示レベルを下げる、周波数ギャップを広くする、時間ギャップを広くする等)である。
【0066】
調整の一例としては、ステップS1042で周波数特性量あるいは時間特性量のうち一方を調整し、ステップS1043ではプローブの音圧レベルを調整するようにする。このように調整して測定を繰り返すことにより、マスキングカーブに沿った計測ができるため周波数マスキングカーブあるいは時間マスキングカーブをより正確かつより高速に測定することができる。
【0067】
調整の他の一例としては、ステップS1042で周波数特性量を調整し、ステップS1043では時間特性量を調整するようにする。あるいは、ステップS1042で時間特性量を調整し、ステップS1043では周波数特性量を調整するようにする。このように調整して測定を繰り返すことにより、マスキングカーブに沿った計測ができるため周波数と時間に関するマスキングカーブをより正確かつより高速に測定することができる。
【0068】
調整の他の一例としては、ステップS1042で周波数特性量と時間特性量の両方を調整し、ステップS1043ではプローブの音圧レベルを調整するようにする。このように調整して測定を繰り返すことにより、周波数と時間に関するマスキングカーブを高速に測定することができる。
【0069】
調整の他の一例としては、ステップS1042で周波数特性量と時間特性量のうち一方、あるいは両方を同時に調整し、ステップS1043ではマスカの音圧レベルを調整するようにする。このように調整して測定を繰り返すことにより、レベルに依存して変化するマスキングカーブの形状を、高速に測定することができる。
【0070】
ステップS104における調整の他の具体例を、
図8を用いて説明する。
【0071】
知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚しているか否かを判定し(ステップS1044)、判定した結果が前回から変化していない場合は(ステップS1044でNo)、調整部104において、前回調整した音響特性量と同じ音響特性量を選択する(ステップS1046)。
【0072】
一方、知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚しているか否かを判定し(ステップS1044)、判定した結果が前回から変化した場合は(ステップS1044でYes)、調整部104において、前回調整した音響特性量とは少なくとも一つが異なる音響特性量を選択する(ステップS1045)。
【0073】
なお、上述の変形上下法を用いた判定方法では、音響特性量の調整を行わずに同じ測定音を再度提示する場合がある。例えば、2回連続して正答した場合にはじめてプローブを知覚したと判定するのであれば、1回目の正答では音響特性量の調整を行わない。あるいは、1回目の正答における音響特性量の調整量を少なく(例えば4分の1〜半分程度)し、2回目の正答で残りの調整を行うようにしてもよい。
【0074】
次に、知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚しているか否かを判定し(ステップS1041)、受聴者がプローブを知覚していると判定された場合には(ステップS1041でYes)、調整部104において、上述の選択された音響特性量を、プローブを知覚できなくなる方向に調整する(ステップS1047)。
【0075】
一方、知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚していないと判定された場合には(ステップS1041でNo)、調整部104において、上述の選択された音響特性量を、プローブを知覚できる方向に調整する(ステップS1048)。
【0076】
以上のようにして、聴覚測定装置100は、受聴者のプローブの知覚状況に応じて、異なる音響特性量を調整することにより、従来法のようにマスキングカーブを一点ずつ測定するのではなく、直接追跡することが可能となり、マスキングカーブをより正確に、短時間で測定することができる。
【0077】
(実施の形態2)
図9は、実施の形態2の聴覚測定装置200の構成を示すブロック図である。
【0078】
聴覚測定装置200は、測定音生成部201、測定音出力部102、知覚判定部103、調整部204、判断部205、および初期値設定部206を備える。測定音生成部201は、聴覚測定に用いる測定音を生成する。測定音出力部102は、生成した測定音を出力する。知覚判定部103は、受聴者が出力された測定音を知覚したか否かを判定する。調整部204は、測定音を調整する。判断部205は、測定音の調整を判断する。初期値設定部206は、測定音の初期設定を行う。
【0079】
測定音生成部201は、調整部によって調整された音響特性量を用いて、純音であるプローブならびに帯域ノイズであるマスカを生成し、合成して測定音を生成する。
【0080】
調整部204は、受聴者がプローブを知覚したか否かの結果に基づき、マスカの音響特性量を調整する。
【0081】
判断部205は、音響特性量や判定の繰り返し回数などに基づいて、測定を終了するか否かを判断する。
【0082】
初期値設定部206は、プローブやマスカの音響特性量の初期値を設定する。
【0083】
次に、聴覚測定装置200における測定処理について
図10を用いて説明する。
【0084】
図10は、測定処理を示したフローチャートである。
【0085】
初期値設定部206は、プローブやマスカの音響特性量の初期値を設定する(ステップS207)。以下、
図11(a)、(b)を用いて、音響特性量について説明する。
【0086】
マスカ(帯域ノイズ)の提示レベル(L
m)ならびにプローブ(純音)の提示レベル(L
p)を、測定を行うレベルに設定する。このレベルは、人が通常聞くことのできるレベル(0〜120dB)の範囲内で設定する。なお、難聴者の場合はこれよりも大きく設定する必要が生じる場合もある。
【0087】
プローブの周波数(f
p)は、測定する周波数に設定する。この周波数は、人の可聴帯域(20〜20000Hz)の範囲内であれば、いずれでも良い。
【0088】
プローブの継続時間(T
p)は、人が通常知覚する長さであればいずれでも良い。例えば非特許文献2にあるように、175msと設定しても良い。あるいは、連続音としてもよい。
【0089】
マスカの中心周波数は、プローブの周波数と同じ(f
p)に設定する。ただし、マスカの非対称性について測定する場合等には、異なる中心周波数としても良い。
【0090】
マスカの帯域幅(W
m)は、プローブをマスクするのに十分な帯域幅であればいずれでも良い。例えば非特許文献2にあるように、1オクターブと設定しても良いし、この半分の2分の1オクターブ程度としても良いが、あまり狭くすると聴覚上、純音との区別がつきにくくなるので区別がつく範囲内で設定することが望ましい。ただし、後述するマスカの周波数ギャップ幅を広く設定する場合には、これよりも広くしても良いし、あるいは帯域制限しない広帯域ノイズを用いても良い。
【0091】
マスカの周波数ギャップ幅は(W
g)は、測定を行いたい最小の値に設定する。例えば、周波数ギャップが存在しない状態から測定を開始する場合は、0オクターブと設定する。
【0092】
マスカの時間ギャップ幅(T
g)は、上述のマスカ提示レベル、プローブ提示レベルならびに周波数ギャップ幅において、プローブを知覚できる程度の長さに設定するのが望ましい。健聴者に対する一例としては、マスカの提示レベルを70dB、プローブの提示レベルを20dB、プローブの周波数並びにマスカの中心周波数を1kHz、周波数ギャップ幅を0.1オクターブと設定した場合には、80msec程度とすると良い。ただし、この値は受聴者によって異なり、特に難聴者の場合は非常に大きくなることもある。あらかじめ適切な値を設定するのが困難な場合は、健聴者と同じか、あるいは2〜3倍程度に大きな値で設定しても良い。
【0093】
その他、プローブやマスカの提示レベルが急激に変化することにより、不要なクリック音を生じさせないようにするため、プローブやマスカに立ち上がり・立ち下がり部分(T
sp,T
sg)を設けても良い。例えば非特許文献2にあるように、T
spを50msと設定しても良い。なお、不要なクリック音を別のマスキンズノイズによってマスクするような場合には、この立ち上がり・立ち下がり部分を上述の値よりも小さくするか、あるいは立ち上がり・立ち下がり部分を無くしても(すなわち0msとしても)良い。
【0094】
図10のステップS103での判定処理において、知覚判定部103が、受聴者がプローブを知覚していると判定した場合には(ステップS1041でYes)、調整部204において、時間特性量を、プローブが知覚できなくなる方向に調整する(ステップS2042)。より具体的には、時間ギャップ幅(T
g)を短くする。短くする量は一定の値(例えば10msec)としても良いし、一定の割合(例えば、現在の時間ギャップ幅の10%)としても良い。また、測定に要求される精度に応じて設定しても良い。例えば、マスキングカーブの概略を確認する測定の場合は、上述の値よりもさらに大きい値としても良いし、逆にマスキングカーブの詳細を確認する測定の場合は、上述の値よりもさらに小さい値としても良い。
【0095】
一方、ステップS103での判定処理において、知覚判定部103が、受聴者がプローブを知覚していないと判定した場合には(ステップS1041でNo)、調整部204において、周波数特性量を、プローブが知覚できる方向に調整する(ステップS2043)。より具体的には、周波数ギャップ幅(W
g)を広くする。広くする量は、ステップS2042と同様に、一定の値(例えば0.1オクターブ)としても良いし、一定の割合(例えば、現在の周波数ギャップ幅の10%)としても良い。またステップS2042と同様に、測定に要求される精度に応じて設定しても良い。
【0096】
ステップS2042あるいはステップS2043にて音響特性量を調整した後、判断部205は、調整された音響特性量や判定の繰り返し回数などから、測定を終了するか否かを判断する(ステップS205)。
【0097】
より具体的には、時間ギャップ幅が小さい値(健聴者の一例としては、時間ギャップを知覚できる1〜20msec程度)となった場合、あるいは周波数ギャップ幅が大きくなった場合(健聴者の一例としては、周波数マスキングが発生しない1〜2オクターブ程度、あるいはマスカの帯域幅に近い値となった場合)に、測定を終了すると判断する。あるいは、測定の回数や測定時間が、あらかじめ設定された上限値を超えた場合、測定を終了すると判断する。上限値は、例えば測定回数については30〜300回程度、測定時間については5〜30分程度と設定する。これらの上限値は、受聴者の体力的な制約や、測定の受聴者に対する負担(聴覚疲労など)を増大させないために設定すれば良い。
【0098】
ステップS205で、測定を終了すると判断した場合、測定音の生成はせず、測定を終了する。一方、ステップS205において、測定を終了すると判断しなかった場合は、ステップS201に戻り測定を継続する。
【0099】
以上のようにして、聴覚測定装置200は、受聴者がプローブを知覚した場合には時間ギャップを狭め、知覚しなかった場合には周波数ギャップを広げることにより、従来法のようにマスキングカーブを一点ずつ測定するのではなく、直接追跡することが可能となり、マスキングカーブをより正確に、短時間で測定することができる。
【0100】
なお上記においては、知覚判定部103が知覚したと判定した場合、時間ギャップを狭め、知覚しなかったと判定した場合、周波数ギャップを拡げるとして説明したが、逆に、知覚したと判定した場合、周波数ギャップを狭め、知覚しなかったと判定した場合、時間ギャップを拡げる構成であってもよい。この場合、初期値設定部206は、時間ギャップ幅を、測定を行いたい範囲の最小の値に設定し、周波数ギャップ幅を、プローブが知覚できる程度の値に設定するとよい。
【0101】
また上記においては、プローブを知覚していないと判定された場合には周波数ギャップを広げるとしたが、測定を開始した後、最初にプローブを知覚するまでは、時間ギャップ幅を広げるように構成しても良い。この構成により、適切な時間ギャップ幅の初期値をあらかじめ設定するのが困難な場合に、初期値を適応的に設定することが可能となる。
【0102】
また、測定する時間・周波数ギャップの範囲をあらかじめ設定しておき、初期値設定部206はその範囲内で(例えば、時間ギャップ幅は最大値、周波数ギャップ幅は最小値として)初期値を設定し、判断部205はその範囲を超えた段階で測定を終了すると判断しても良い。
【0103】
(実施の形態3)
聴覚測定装置200の調整部204、判断部205、初期値設定部206の他の処理例について、
図12を用いて説明する。
図12は、聴覚測定装置200の測定処理における動作を示したフローチャートである。
【0104】
初期値設定部206において、以下の通り、プローブやマスカの音響特性量の初期値を設定する(ステップS307)。
【0105】
マスカの時間ギャップ幅(T
g)を、測定を行う長さに設定する。なお、時間マスキングに関する測定を行わない場合には、0msec(時間ギャップ無し)と設定しても良い。
【0106】
プローブ(純音)の提示レベル(L
p)は、プローブを知覚できる程度の大きさに設定する。例えば、マスカの提示レベルを70dBとした場合には、40dB程度と設定する。
【0107】
その他の音響特性量については、上記の実施の形態2と同様である。
【0108】
知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚しているか否かを判定し(ステップS103)、知覚していると判定された場合には(ステップS1041でYes)、調整部204において、プローブの提示レベルを、プローブが知覚できなくなる方向に調整する(ステップS3042)。より具体的には、プローブの提示レベル(L
p)を小さくする。小さくする量は一定の値(例えば0.5dB)としても良いし、一定の割合(例えば、現在の提示レベルの10%)としても良い。またステップS2042と同様に、測定に要求される精度に応じて設定しても良い。
【0109】
ステップS3042あるいはステップS2043にて音響特性量を調整した後、判断部205は、調整された音響特性量や判定の繰り返し回数などから、測定を終了するか否かを判断する(ステップS305)。
【0110】
より具体的には、プローブの提示レベルが小さい値(例えば、0dBに近い値)となった場合、あるいは周波数ギャップ幅が大きくなった場合(例えば、マスカの帯域幅に近い値となった場合)に、測定を終了すると判断する。あるいは、ステップS205と同様に、測定の回数や測定時間が、あらかじめ設定された上限値を超えた場合、測定を終了すると判断する。
【0111】
ステップS305で、測定を終了すると判断した場合、測定音の生成はせず、測定を終了する。一方、ステップS305において、測定を終了すると判断しなかった場合は、ステップS201に戻り測定を継続する。
【0112】
以上のようにして、聴覚測定装置200は、受聴者がプローブを知覚した場合にはプローブの提示レベルを小さくし、知覚しなかった場合には周波数ギャップを広げることにより、従来法のようにマスキングカーブを一点ずつ測定するのではなく、直接追跡することが可能となり、マスキングカーブをより正確に、短時間で測定することができる。
【0113】
なお上記においては、知覚判定部103が知覚しなかったと判定した場合、周波数ギャップを拡げるとして説明したが、周波数ギャップに加え、時間ギャップを拡げる構成であってもよい。この場合、初期値設定部206は、周波数ギャップ幅だけでなく、時間ギャップ幅についても、測定を行いたい範囲の最小の値に設定するとよい。
【0114】
また、知覚判定部103が知覚したと判定した場合、プローブの提示レベルを小さくし、知覚しなかったと判定した場合、周波数ギャップを拡げるとして説明したが、逆に、知覚したと判定した場合、周波数ギャップを狭め、知覚しなかったと判定した場合、プローブの提示レベルを大きくする構成であってもよい。この場合、初期値設定部206は、プローブの提示レベルを測定を行いたい範囲の最小の値に設定し、周波数ギャップ幅を、プローブが知覚できる程度の値に設定するとよい。周波数ギャップに加え時間ギャップを拡げる構成とした場合においても同様である。
【0115】
(実施の形態4)
聴覚測定装置200の調整部204、判断部205、初期値設定部206の他の処理例について、
図13を用いて説明する。
図13は、聴覚測定装置200の測定処理における動作の他の例を示したフローチャートである。
【0116】
初期値設定部206において、以下の通り、プローブやマスカの音響特性量の初期値を設定する(ステップS407)。
【0117】
マスカの時間ギャップ幅(T
g)を、測定を行う長さに設定する。なお、時間マスキングに関する測定を行わない場合には、0msec(時間ギャップ無し)と設定しても良い。
【0118】
プローブ(純音)の提示レベル(L
p)は、プローブを知覚できる程度の大きさに設定する。例えば、マスカの提示レベルを70dBとした場合には、40dB程度と設定する。
【0119】
その他の音響特性量については、上記の実施の形態2と同様である。
【0120】
知覚判定部103において、受聴者がプローブを知覚していると判定された場合には(ステップS1041でYes)、調整部204において、マスカの提示レベルを、プローブが知覚できなくなる方向に調整する(ステップS4042)。より具体的には、マスカの提示レベル(L
p)を大きくする。大きくする量は一定の値(例えば0.5dB)としても良いし、一定の割合(例えば、現在の提示レベルの10%)としても良い。またステップS2042と同様に、測定に要求される精度に応じて設定しても良い。
【0121】
ステップS4042あるいはステップS2043にて音響特性量を調整した後、判断部205は、調整された音響特性量や判定の繰り返し回数などから、測定を終了するか否かを判断する(ステップS405)。
【0122】
より具体的には、マスカの提示レベルが大きい値(例えば、100dBに近い値)となった場合、あるいは周波数ギャップ幅が大きくなった場合(例えば、マスカの帯域幅に近い値となった場合)に、測定を終了すると判断する。あるいは、ステップS205と同様に、測定の回数や測定時間が、あらかじめ設定された上限値を超えた場合、測定を終了すると判断する。
【0123】
ステップS405で、測定を終了すると判断した場合、測定音の生成はせず、測定を終了する。一方、ステップS405において、測定を終了すると判断しなかった場合は、ステップS201に戻り測定を継続する。
【0124】
以上のようにして、聴覚測定装置200は、受聴者がプローブを知覚した場合にはマスカの提示レベルを大きくし、知覚しなかった場合には周波数ギャップを広げることにより、従来法のようにマスカの提示レベルによって変化するマスキングカーブを個別に測定するのではなく、連続的に測定することが可能となる。この結果、マスキングカーブのレベル変化をより正確に、短時間で測定することができる。
【0125】
なお上記においては、知覚判定部103が知覚しなかったと判定した場合、周波数ギャップを拡げるとして説明したが、周波数ギャップに加え、時間ギャップを拡げる構成であってもよい。この場合、初期値設定部206は、周波数ギャップ幅だけでなく、時間ギャップ幅についても、測定を行いたい範囲の最小の値に設定するとよい。
【0126】
また、知覚判定部103が知覚したと判定した場合、マスカの提示レベルを大きくし、知覚しなかったと判定した場合、周波数ギャップを拡げるとして説明したが、逆に、知覚したと判定した場合、周波数ギャップを狭め、知覚しなかったと判定した場合、マスカの提示レベルを小さくする構成であってもよい。この場合、初期値設定部206は、マスカの提示レベルを、測定を行いたい範囲の最大の値に設定し、周波数ギャップ幅を、プローブが知覚できる程度の値に設定するとよい。周波数ギャップに加え時間ギャップを拡げる構成とした場合においても同様である。
【0127】
(実施の形態5)
図14は、実施の形態5の聴覚測定装置400の構成を示すブロック図である。
【0128】
聴覚測定装置400は、上記実施の形態2で説明した聴覚測定装置200の構成に加えて、記録部408をさらに備える。
図14に示すように、聴覚測定装置400は、初期値設定部206、記録部408、測定音生成部201、測定音出力部102、知覚判定部103、調整部204および判断部205。
【0129】
記録部408は、初期値設定部206によって設定された、あるいは(判断部205によって測定を終了すると判断しなかった場合は)調整部204によって調整された音響特性量を入力し、逐次記憶する。
【0130】
次に、聴覚測定装置400における測定処理について
図15を用いて説明する。
【0131】
図15は、聴覚測定装置400における測定処理の動作を示したフローチャートである。
【0132】
ステップS207によって初期値を設定された後、あるいはステップS205において測定を終了すると判断しなかった場合は、ステップS408において、設定あるいは調整された音響特性量を記録する。なお、調整により変化した差分を記録してもよい。
【0133】
より具体的には、プローブの周波数、プローブやマスカの提示レベル、周波数ギャップ幅、時間ギャップ幅といった音響特性量を逐次記録する。このとき、設定あるいは調整が行われるごとに毎回記録を行ってもよいし、受聴者がプローブを知覚したか否かの判定が変化したときのみ記録を行ってもよい。
【0134】
以上により記録されたプローブやマスカの提示レベル、周波数ギャップ幅、時間ギャップ幅より、マスキングカーブの推定が可能となる。
図16にマスキングカーブの推定例を示す。
【0135】
図16(a)は、調整部204によって調整される周波数ギャップ幅と時間ギャップ幅を示したものである。なおこのとき、マスカの提示レベルはL
m、プローブの提示レベルはL
P1としている。受聴者がプローブを知覚したか否かの判定に応じ、周波数ギャップ幅と時間ギャップ幅は調整されるが(図中「調整点」ならびに「調整・記録点」)、受聴者がプローブを知覚したか否かの判定が変化したとき、記録部408によって記録が行われる(図中「調整・記録点」)。記録された各点の中間点を結ぶ線から、マスキング曲線が測定される。ここで、中間点を結ぶ線は直線でも良いし、スプライン曲線などの曲線でも良い。また、これらの中間点に近似関数(例えば、周波数マスキングにおけるroex (rounded-exponential)関数など)を当てはめることにより、マスキング曲線を測定しても良い。
【0136】
図16(b)は、マスカレベルL
mにおけるマスキング曲面を示している。
図16(a)によって測定されるマスキング曲線は、マスキング曲面において、レベルL
P1の面に沿った部分に相当する。同様に、プローブレベルをL
P2などの値に設定して測定することにより、レベルL
P2などの異なる面のマスキング曲線も推定でき、マスキング曲面全体の測定の精度を向上させることも可能である。
【0137】
以上のようにして、聴覚測定装置400は、記録部408によってマスキングカーブの測定に必要な音響特性を記録することにより、マスキングカーブをより正確に、短時間で測定することができる。
【0138】
なお上記においては、周波数ギャップ幅と時間ギャップ幅を調整する場合について述べたが、他の音響特性量を調整する場合(例えば、実施の形態3のようにプローブの提示レベルと周波数ギャップ幅を調整する場合など)でも、同様に動作させることが可能である。
【0139】
また、調整部204によって調整されない音響特性量については、ステップS207によって初期設定された後に1回だけ記録するか、あるいは記録しなくても良い。
【0140】
また、記録部408は聴覚測定装置400が内部に備える構成としたが、外部の記憶装置を用いても良い。
【0141】
上述の各実施の形態において、プローブを知覚した、あるいはプローブを知覚しなかったという判定が連続して発生し、同じ音響特性量を連続して調整した場合は、音響特性量の再調整を行ってから、測定を継続しても良い。
【0142】
実施の形態2における動作の一例を、
図17を用いて説明する。
図17は、時間ギャップ幅と周波数ギャップ幅の変化を示す図である。
【0143】
受聴者がプローブを知覚したとする判定が連続して生じ、時間ギャップ幅を4回連続して調整した後に、さらにプローブを知覚したとする判定が生じた場合は、
図17(a)の点線にて示すように、時間ギャップ幅を、プローブを知覚したとする判定が連続して生じる前の値(T
g1)に調整する。また、周波数ギャップ幅の調整量(ΔW
g)はα(0<α<1)を乗じた値とし、周波数ギャップ量は、前回プローブを知覚しなかったと判定する前の値(W
g1)に、αΔW
gを加算した値(すなわち、W
g1+αΔW
g)に調整する。
【0144】
同様に、受聴者がプローブを知覚しなかったとする判定が連続して生じ、周波数ギャップ幅を4回連続して調整した後に、さらにプローブを知覚しなかったとする判定が生じた場合は、
図17(b)の点線にて示すように、周波数ギャップ幅を、プローブを知覚したとする判定が連続して生じる前の値(W
g1)に調整する。また、時間ギャップ幅の調整量(ΔT
g)はα(0<α<1)を乗じた値とし、時間ギャップ量は、前回プローブを知覚しなかったと判定する前の値(T
g1)に、αΔT
gを加算した値(すなわち、T
g1+αΔT
g)に調整する。
【0145】
他の実施の形態においても同様である。なお、上記の例では4回連続して同じ音響特性量を調整した場合について述べたが、2以上の別の回数としても良い。
【0146】
同じ判定が連続して発生する場合は、直前の調整量が大き過ぎたことが考えられる。上述のようにして音響特性量を再調整することにより、マスキングカーブを詳細に測定するための調整量を自律的に最適化することが可能となる。
【0147】
また、初期値設定部によって設定された、あるいは調整部によって調整された音響特性量を、外部の装置(例えば、補聴器の調整装置など)に出力する構成としてもよい。
【0148】
(その他の変形例)
なお、本発明を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本発明に含まれる。
【0149】
(1)上記の各装置の全部、もしくは一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合。前記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
【0150】
(2)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。前記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。前記マイクロプロセッサが、前記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。
【0151】
(3)上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、各装置に脱着可能なICカード又は単体のモジュールから構成されているとしてもよい。前記ICカード又は前記モジュールは、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどから構成されるコンピュータシステムである。前記ICカード又は前記モジュールは、上記の超多機能LSIを含むとしてもよい。マイクロプロセッサが、コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、前記ICカード又は前記モジュールは、その機能を達成する。このICカード又はこのモジュールは、耐タンパ性を有するとしてもよい。
【0152】
(4)本発明は、上記に示すコンピュータの処理で実現する方法であるとしてもよい。また、本発明は、これらの方法をコンピュータにより実現するコンピュータプログラムであるとしてもよいし、前記コンピュータプログラムからなるデジタル信号であるとしてもよい。
【0153】
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号をコンピュータ読み取り可能な記録媒体に記録したものとしてもよい。コンピュータ読み取り可能な記録媒体は例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、CD−ROM、MO、DVD、DVD−ROM、DVD−RAM、BD(Blu−ray Disc)、半導体メモリなどである。また、本発明は、これらの記録媒体に記録されている前記デジタル信号であるとしてもよい。
【0154】
また、本発明は、前記コンピュータプログラム又は前記デジタル信号を、電気通信回線、無線又は有線通信回線、インターネットを代表とするネットワーク、データ放送等を経由して伝送するものとしてもよい。
【0155】
また本発明は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、前記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、前記マイクロプロセッサは、前記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。
【0156】
また前記プログラム又は前記デジタル信号を前記記録媒体に記録して移送することにより、又は前記プログラム又は前記デジタル信号を、前記ネットワーク等を経由して移送することにより、独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい。
【0157】
(5)上記実施の形態及び上記変形例をそれぞれ組み合わせるとしてもよい。