【文献】
松田好晴 他,"リチウム二次電池の負極充放電特性に及ぼす電解液中のイミド塩純度の影響",電気化学会第68回大会講演要旨集,2001年 3月25日,p.232下段
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明のフルオロスルホニルイミド塩は、不純物の含有量が極低レベルに低減されている。具体的に、本発明のフルオロスルホニルイミド塩中に不純物として含まれるK(カリウム)の含有量は、10000ppm以下(質量基準)であるところに特徴を有するものである。Kの含有量が高い場合には、フルオロスルホニルイミド塩を電気化学デバイスに備えられる電解質として使用すると、黒鉛の層間にKが挿入し、電極を劣化させるため、容量が低下するといった問題が生じ易い傾向があるが、K含有量が10000ppm以下であれば、上述のような問題は生じ難くなる傾向がある。Kの含有量は好ましくは7000ppm以下であり、より好ましくは5000ppm以下であり、さらに好ましくは1000ppm以下であり、さらに一層好ましくは500ppm以下である。なお、Kの含有量の下限は0.01ppm程度であればよく、より好ましくは0.1ppmであり、さらに好ましくは1ppmである。
【0018】
また、本発明のフルオロスルホニルイミド塩中に不純物として含まれるSi、B、Fe、Cr、Mo、Niの含有量は、それぞれ1000ppm以下(質量基準)であるのが好ましい。すなわち、上記元素が全て含まれている場合は、フルオロスルホニルイミド塩中に含まれるSi、B、Fe、Cr、MoおよびNiの各元素の含有量がそれぞれ個別に1000ppm以下である。フルオロスルホニルイミド塩中のSi、B、Fe、Cr、MoおよびNiの各元素の含有量はそれぞれ個別に800ppm以下であるのがより好ましく、さらに好ましくは500ppm以下である。
【0019】
上述のように、フルオロスルホニルイミド塩の製造過程では、反応系内にハロゲン化水素やハロゲン化物が生成する。なお、フルオロスルホニルイミド類の生成反応(フッ素化反応)は無水雰囲気下で進行するため、反応中は、反応容器や装置の腐食が進行し難い。しかしながら、後処理時には、反応系は無水雰囲気から解放されるため、反応溶液の液性が酸性に傾き易い。したがって、酸性成分を含む反応溶液との接触により反応容器が腐食され、その結果、反応容器に由来する不純物が生成物中に混入することとなる。たとえば、ガラス製の反応容器を使用した場合であればケイ素(Si)やホウ素(B)、ステンレス鋼製の反応容器の場合には、鉄(Fe)、クロム(Cr)およびニッケル(Ni)、ハステロイ(登録商標)製の反応容器の場合には、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、モリブデン(Mo)および鉄(Fe)などが、それぞれ生成物に混入することになる。
【0020】
しかしながら、後述する本発明法によれば、クロロスルホニルイミド類のフッ素化反応後、反応溶液をアルカリ水溶液と接触させるため、これにより、反応溶液中の酸性成分が速やかに中和され、その結果、反応容器の腐食を防止できるのである。また、フッ素化反応で生成する副生成物は、アルカリ水溶液中に含まれる成分と水溶性の複合体を形成する。一方、目的物であるフルオロスルホニルイミド塩は油溶性であるため、簡単な分液操作により有機層を分離することで不純物量が低減された生成物が得られるものと考えられる。
【0021】
なお、上記Siの含有量は、フルオロスルホニルイミドおよび/又はフルオロスルホニルイミド塩中800ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下である。より一層好ましくは50ppm以下であり、さらに一層好ましくは20ppm以下である。B、Fe、Cr、MoおよびNiの含有量についても同様であり、それぞれ800ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、より一層好ましくは50ppm以下であり、さらに一層好ましくは20ppm以下である。また、上記不純物の含有量は少ない程好ましく、上記不純物が本発明のフルオロスルホニルイミド塩中に含まれていないことが最も好ましいが(不純物含有量0%)、例えば、上記不純物の含有量の下限は、Si、B、Fe、Cr、MoおよびNiのいずれか一種以上の含有量(総量)が0.1ppm程度であればよい。なお、下限は0.5ppm程度であってもよく、さらに下限は1ppm程度であってもよい。不純物の含有量が上記範囲であれば、本発明のフルオロスルホニルイミド塩を後述する各種電気化学デバイスに備えられるイオン伝導体として用いても、周辺部材の腐食や、不純なイオン成分に由来する問題は生じ難い。
【0022】
上記Si、B、Fe、Cr、MoおよびNiの含有量が、それぞれ上記範囲内に低減されたフルオロスルホニルイミド塩を製造するには、後述の本発明の製造方法の中でも、フッ素化反応後の反応溶液をアルカリ水溶液中に添加させることにより両者を接触させるアルカリ接触工程を採用することが好ましい。このアルカリ接触工程により、より効率的に上記元素の含有量を低減できるからである。
【0023】
また、本発明のフルオロスルホニルイミド塩は、フッ素化工程で生成するフッ素原子を含む副生物、例えば、FSO
3NH
2(スルホニルアミド類),FSO
3Hなどの含有量も低減されたものであるのが好ましい。これら、副生物の含有量(総量)は30000ppm以下(質量基準)であるのが好ましい。より好ましくは10000ppm以下であり、さらに好ましくは5000ppm以下である。なお、これらフッ素原子を含む副生物は、本発明のフルオロスルホニルイミド塩中に含まれていないことが最も好ましいが、例えば、含有量(下限)は0.1ppm程度であればよい。より好ましくは1ppm以上である。上記FSO
3NH
2,FSO
3Hなどフッ素原子を含む副生物は、従来除去が困難であったが、後述の本発明の製造方法を採用すれば、FSO
3NH
2,FSO
3Hの含有量が上記範囲内に低減されたフルオロスルホニルイミド塩を得ることができる。
【0024】
さらに、本発明のフルオロスルホニルイミド塩は、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素など、後述するフッ素化反応で使用するフッ化物(フッ素化剤)に由来する成分の含有量も低減されているのが好ましく、具体的に、フッ素化剤由来の金属の含有量(総量)が1000ppm以下であるのが好ましい。上記反応装置由来の不純物同様、生成物中の不純物量は少ないのが好ましく、特に、本発明のフルオロスルホニルイミド塩を各種電気化学デバイスに備えられるイオン伝導体として用いる場合には、フルオロスルホニルイミド塩中の不純なイオン成分の含有量は少ないほど好ましい。より好ましくは、フッ素化剤由来の金属元素の含有量が500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、より一層好ましくは50ppm以下であり、さらに一層好ましくは10ppm以下である。尚、後述するように、本発明に係るフルオロスルホニルイミド塩の好ましい製造方法としては、上記元素中、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、ビスマス(Bi)を含むフッ素化剤を用いる方法が挙げられるが、生成物中においては、上記フッ素化剤に由来するZn、Cu、Biよりなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量の合計が1000ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは、Zn、Cu、Biよりなる群から選択される1種以上の金属元素の含有量(総量)が500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、より一層好ましくは50ppm以下であり、さらに一層好ましくは10ppm以下である。この中でも、亜鉛(Zn)を含むフッ素化剤がもっとも好ましく用いられるため、本発明のフルオロスルホニルイミド塩中の亜鉛(Zn)の含有量が1000ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは、500ppm以下であり、さらに好ましくは100ppm以下であり、より一層好ましくは50ppm以下であり、さらに一層好ましくは10ppm以下である。なお、上記の亜鉛などの元素は、フッ素化剤として用いる出発原料に含まれる場合があるため、完全に除去することは困難な場合があり、また、過度の精製作業は生成物の収率を低下させる虞がある。したがって、その下限は0.1ppm程度であればよい。より好ましくは1ppm以上である。
【0025】
本発明のフルオロスルホニルイミド塩は、亜鉛に加えて、ハロゲン、特に、塩素(Cl)の含有量も10000ppm以下であるのが好ましい。フルオロスルホニルイミド塩中に塩素が残留する場合、各種電気化学デバイスに用いた場合に周辺部材を腐食させてしまう虞がある。より好ましくは5000ppm以下であり、より一層好ましくは1000ppm以下であり、さらに好ましくは500ppm以下であり、さらに一層好ましくは100ppm以下であり、なお一層好ましくは50ppm以下であり、最も好ましくは20ppm以下である。また、下限は0.1ppm程度であればよい。より好ましくは1ppm以上である。
【0026】
このように、不純物の含有量が低減された本発明のフルオロスルホニルイミド塩は、低温から高温まで高いイオン伝導度を示すと考えられ、また、高温時でのデバイスの安全性向上に寄与すると考えられる。
【0027】
なお、上記不純物の種類や含有量は、後述するICP発光分光分析法や、NMR測定により分析することができる。
【0028】
本発明のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法は、各種不純物量が上記範囲に低減されるものであれば特に限定はされないが、例えば、以下の製造方法を採用するのが好ましい。
【0029】
本発明のフルオロスルホニルイミド塩の製造方法とは、クロロスルホニルイミドまたはその塩のフッ素化反応後に、反応溶液をアルカリ水溶液と接触させる点に特徴を有するものである。
【0030】
上述したように、クロロスルホニルイミド類のフッ素化反応に際しては、原料やフッ化物(フッ素化剤)に由来するフッ化水素などのハロゲン化水素や、ハロゲン化物など、そのままで、あるいは水に溶解して酸性を示す物質が副生する。本発明では、フッ素化反応後の反応溶液をアルカリ水溶液と接触させるため、反応溶液中の酸成分が中和され、反応容器の腐食が防止されるものと考えられる。また、本発明により生成物中の不純物量が低減される点については、反応終了後、出発原料やフッ化物に含まれる成分が、アルカリ水溶液中に含まれる成分と複合体を生成し、これが水層へと抽出されるため、有機層を分離することで、不純物含有量の少ないフルオロスルホニルイミド塩が生成物として得られるものと考えられる。
【0031】
上述のように、本発明では、クロロスルホニルイミドまたはその塩のフッ素化反応後、反応溶液をアルカリ水溶液と混合し、反応溶液とアルカリ水溶液とを接触させる(アルカリ接触工程)。ここで、「フッ素化反応後」とは、フッ素化反応の終了直後のみに限られず、フッ素化反応後、フルオロスルホニルイミド(またはその塩)のカチオン交換反応を行った後にアルカリ接触工程を行う場合も含まれる。
【0032】
前記アルカリ水溶液としては、塩基性物質の水溶液を使用すればよい。塩基性物質としては、アンモニア;エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、2−エチルヘキシルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン等の炭素原子数1〜8のアルキル基を有する第一級、第二級または第三級のアルキルアミン、エチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミンなど炭素原子数1〜8のアルキレン基を有するアルキレンジアミンなどの脂肪族アミン;モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、モノイソプロパノールアミン、ジイソプロパノールアミン、トリイソプロパノールアミン等のアルカノールアミン;シクロヘキシルアミン、ジシクロヘキシルアミンなどの脂環式アミン;ベンジルアミン、メタキシレンジアミンなどの芳香族アミン;これらのアミンのエチレンオキサイド付加物;ホルムアミジン;グアニジン;アミジン;ジアザビシクロウンデセン、ジアザビシクロノネン、ピペリジン、モルホリン、ピペラジン、ピリミジン、ピロール、イミダゾール、イミダゾリン、トリアゾール、チアゾール、ピリジン、インドールなどの複素環式アミン;アルカリ金属(リチウム、ナトリウム、カリウムなど)、または、アルカリ土類金属(マグネシウム、カルシウム、ストロンチウムおよびバリウムなど)の水酸化物、炭酸塩、リン酸塩、ケイ酸塩、ホウ酸塩、ギ酸塩、酢酸塩、ステアリン酸塩、パルミチン酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩などが挙げられる。これらの中でも、収率の面からはアンモニア、エチルアミンなどのアミン系化合物の水溶液が好ましい。中でも、水との親和性の面から、脂肪族アミン、アルカノールアミン、これらのアミンのエチレンオキサイド付加物、複素環式アミンが塩基性物質として好ましい。特に、安価で、入手が容易である点からは、アルカリ水溶液としてアンモニア水を使用することが推奨される。
【0033】
上記、アルカリ水溶液に使用する塩基性物質としては、不純物として含まれるZn、K、Fe、Cr、Ni、Na等の金属成分の含有量が100ppm以下のものが好ましい。より好ましくは10ppm以下である。
【0034】
また、アルカリ水溶液の調製に使用する水は、Zn、K、Fe、Cr、Ni、Na等の金属成分の含有量が100ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは10ppm以下である。このような金属成分の含有量が低い水は、例えば、イオン交換樹脂、蒸留器、超純水装置により調製することができる。また、アルカリ水溶液の調製に用いる水は、電気伝導率を指標として選択してもよく、例えば、電気抵抗率が0.1MΩcm以下(25℃)の水を使用することが推奨される。
【0035】
なお、アルカリ水溶液には、有機溶媒が含まれていてもよい。有機溶媒としては、後述する反応溶媒と同様のものを用いることが出来る。有機溶媒を用いる場合、アルカリ水溶液中の有機溶媒量は、アルカリ水溶液の調製に使用する水100質量部に対して、1質量部〜50質量部とするのが好ましく、より好ましくは1質量部〜30質量部であり、さらに好ましくは1質量部〜10質量部である。
【0036】
上述の塩基性物質及び水を用いて調製したアルカリ水溶液中に含まれるZn、K、Fe、Cr、Ni、Na等の金属成分の含有量は100ppm以下であるのが好ましい。より好ましくは10ppm以下である。なお、上記不純物の種類や含有量は、後述するICP発光分光分析法により分析することができる。
【0037】
アルカリ水溶液中の上記塩基性物質の含有量は、後述するフッ素化反応で使用するフッ化物に含まれる特定の元素と複合体を形成し得る量の塩基性物質が含まれていればよい。例えば、フッ化物1molに対して0.3mol倍以上、30mol倍以下の塩基性物質が含まれているのが望ましい。より好ましくは0.5mol倍以上、さらに好ましくは1mol倍以上であり、15mol倍以下であるのが好ましく、さらに好ましくは10mol倍以下である。
【0038】
なお、アルカリ水溶液は、塩基性物質の存在量が上記範囲に含まれていればよく、その使用量は特に限定されないが、アルカリ水溶液の量が多すぎる場合には、廃水量が多くなったり、目的物がアルカリ水溶液へと流出し、抽出効率が低下する虞があるため好ましくない。したがって、アルカリ水溶液の使用量は、反応溶液100質量部に対して1質量部〜100質量部とするのが好ましい。アルカリ水溶液の使用量が少なすぎる場合には、不純物を充分に除去し難い場合があり、また、副生成物が析出する場合があるため、製造プロセス上好ましくない。アルカリ水溶液の使用量は、5質量部〜50質量部であるのがより好ましく、さらに好ましくは10質量部〜30質量部である。
【0039】
前記反応溶液は、温度5℃〜50℃のアルカリ水溶液と接触させることが推奨される。反応溶液をアルカリ水溶液に添加する際には発熱する場合があるので、より安全に生成物を得る観点からは、上記温度範囲のアルカリ水溶液を用いることが好ましい。また、アルカリ水溶液を水浴や氷浴により冷却しながら、反応溶液の添加、アルカリ水溶液との接触を行ってもかまわない。アルカリ水溶液の温度は、より好ましくは10℃〜40℃であり、さらに好ましくは20℃〜30℃である。なお、反応溶液とアルカリ水溶液との接触による発熱をより効果的に防止する観点からは、アルカリ水溶液を攪拌しながら反応溶液を添加するのが好ましい。
【0040】
反応溶液に含まれるフルオロスルホニルイミドの濃度は、1質量%〜70質量%であるのが好ましい。濃度が高すぎる場合には、反応が不均一になる虞があり、一方、低すぎる場合には、1バッチあたりの生産性が低く経済的でないからである。反応溶液に含まれるフルオロスルホニルイミドの濃度は、より好ましくは3質量%〜60質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜50質量%である。
【0041】
アルカリ接触工程は、反応溶液とアルカリ水溶液とが接触するものであればよい。たとえば、フッ素化反応後の反応溶液をアルカリ水溶液中に添加して接触させる態様;フッ素化反応後の反応溶液にアルカリ水溶液を添加して接触させる態様;フッ素化反応後の反応溶液と、アルカリ水溶液とを、異なる反応容器に同時に添加して両者を接触させる態様;などが挙げられる。これらの態様の中でも、フッ素化反応後の反応溶液をアルカリ水溶液中に添加して両者を接触させる態様が好ましい。また、反応溶液を添加する際の態様も特に限定されず、反応溶液を少量ずつ連続的にアルカリ水溶液へ注ぐ態様;所定量の反応溶液を連続的にアルカリ水溶液へ滴下する態様;反応溶液を何回かに分割して断続的にアルカリ水溶液へ注ぐまたは滴下する態様;などが挙げられるが、反応溶液の添加の態様はこれらに限定されるものではない。
【0042】
反応溶液とアルカリ水溶液との接触時間は、反応溶液とアルカリ水溶液との接触が充分なものであれば特に限定されないが、例えば、反応溶液の添加終了から1分程度(より好ましくは5分程度)、攪拌しながら、反応溶液とアルカリ水溶液とを接触させるのが好ましい。接触時間が短すぎると、生成物中に不純物が残留したり、また、酸性成分の除去が不十分となり反応容器に腐食が生じてしまう場合がある。
【0043】
反応溶液とアルカリ水溶液との接触工程は、従来公知の反応容器内で行えばよく、その種類は特に限定されない。たとえば、SUS304、SUS316、SUS329、SUS430、SUS444などのステンレス鋼製;炭素鋼製;ニッケル製;チタン製;クロム製;ニッケルを主成分とし、モリブデン、クロム、ニオブおよび鉄などを少量含むニッケル基合金製(例えば、ハステロイ(登録商標)(ハステロイC22,ハステロイC276、ハステロイBなど)、インコネル(登録商標)(インコネル600、インコネル625、インコネル718、インコネル750Xなど));コバルトを主成分とし、クロム、タングステンなどを含むコバルト基合金製(例えば、ステライト(登録商標));ホウケイ酸ガラス製;内面がグラスライニングされた金属製反応容器;内面がポリテトラフルオロエチレンで処理された反応容器など、従来公知の反応容器はいずれも使用可能であり、いずれの場合も本発明の効果が得られる。
【0044】
なお、不純物の除去量が充分でない場合は、反応溶液をアルカリ水溶液と充分に接触させた後、水層を除去し、再び有機層をアルカリ水溶液と混合して洗浄してもよい(アルカリ洗浄)。ただし、過剰なアルカリ洗浄は廃液量の増加を招き、また、生成物が水層へと流出してしまう虞もあるので、アルカリ水溶液による洗浄回数の上限は10回程度とすることが推奨される。より好ましくは5回以下である。なお、アルカリ水溶液による洗浄回数の下限は特に限定されないが、少なくとも1回、より好ましくは2回以上実施することが推奨される。
【0045】
反応溶液とアルカリ水溶液との接触後、あるいは、必要に応じて行われるアルカリ洗浄の後、有機層を分離すれば生成物であるフルオロスルホニルイミド塩が得られる。なお、生成物の純度を高めるために、さらに精製を行ってもよい。
【0046】
本発明に係るフルオロスルホニルイミド塩は、水、有機溶媒、及びこれらの混合溶媒による分液抽出法で、容易に精製することができる。有機溶媒としては、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒が挙げられる。なお、分液抽出法としては、水と有機溶媒とを用いる態様が好ましい。したがって、有機溶媒としては、水と混合したときに2層に分離するものを用いるのが好ましい。もちろん、分液抽出法以外の精製法、例えば、上記溶媒による洗浄、再沈殿法、分液抽出法、再結晶法、晶析法及びクロマトグラフィーによる精製など従来公知の精製方法を採用してもよい。
【0047】
なお、本発明において使用する溶媒としては、Zn、K、Fe、Cr、Ni、Na等の金属成分の含有量が100ppm以下のものを使用するのが好ましい。より好ましくは10ppm以下である。このような有機溶媒は、例えば、金属除去フィルターや蒸留器で処理することにより調製できる。なお、上記不純物の種類や含有量は、後述するICP発光分光分析法により分析することができる。
【0048】
次いで、本発明に係るフルオロスルホニルイミドの合成方法について説明する。本発明において、フルオロスルホニルイミドを合成する方法は特に限定されず、従来公知の方法は全て採用することが出来る。例えば、特許文献3に記載の、尿素の存在下で、フルオロスルホン酸(HFSO
3)を蒸留することによって(フルオロスルホニル)イミドを得る方法、クロロスルホニルイミドからフッ素化剤を用いてフルオロスルホニルイミドを合成する方法(特許文献1、2等)などが挙げられるが、クロロスルホニルイミドからフッ素化剤を用いてフルオロスルホニルイミドを合成する方法が推奨される。以下、クロロスルホニルイミドからフルオロスルホニルイミドを合成する方法について説明する。まず、フルオロスルホニルイミドの原料となるクロロスルホニルイミドの合成方法について説明する。
【0049】
例えば、クロロスルホニルイミドを合成する方法としては、塩化シアンに無水硫酸を反応させた後、生成物(クロロスルホニルイソシアネート)とクロロスルホン酸とを反応させる方法、アミド硫酸と塩化チオニルとを反応させた後、さらにクロロスルホン酸を反応させる方法(以上、ジ(クロロスルホニル)イミドの合成方法);クロロスルホニルイソシアネートとフッ化アルキルスルホン酸またはフルオロスルホン酸とを反応させる方法(N−(クロロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド、または、N−(クロロスルホニル)−N−(フルオロスルホニル)イミドの合成方法);などが挙げられる。もちろん、市販のクロロスルホニルイミドを用いてフルオロスルホニルイミドを合成してもよい。
【0050】
次いで、クロロスルホニルイミドのフッ素化反応を行う。なお、フッ素化反応のタイミングは特に限定されず、まず、クロロスルホニルイミド(プロトン体)のフッ素化反応を行う態様;クロロスルホニルイミドのカチオン交換反応を行った後、クロロスルホニルイミド塩のフッ素化反応を行う態様;のいずれの態様であってもよい。
【0051】
クロロスルホニルイミド(プロトン体)またはクロロスルホニルイミド塩(以下、クロロスルホニルイミド類と言う)のフッ素化反応も特に限定されず、従来公知の方法はいずれも採用することができる。例えば、上記非特許文献1,2に記載のフッ素化剤(AsF
3、SbF
3)を使用して、クロロスルホニルイミドをハロゲン交換する方法、特許文献1、2に記載のKFやCsF等の1価カチオンのイオン性フルオリドをフッ素化剤として用いて、ジ(クロロスルホニル)イミドをフッ素化する方法や、クロロスルホニルイミド類を、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物(好ましくはCuF
2、ZnF
2、SnF
2、PbF
2およびBiF
3など)と反応させる方法が挙げられる。これらの中でも、クロロスルホニルイミド類を、第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素よりなる群から選ばれる少なくとも1種の元素を含むフッ化物と反応させる方法が好ましい。
【0052】
クロロスルホニルイミド類のフッ素化反応に上述のフッ化物を使用する場合には、クロロスルホニルイミド類のハロゲン(塩素からフッ素)、カチオン(プロトンまたは特定のカチオンから第11族〜第15族、第4周期〜第6周期の元素)、それぞれの交換反応を1段階で行うことができる。
【0053】
反応溶媒は、クロロスルホニルイミド類や、上記フッ化物などの出発原料が液状であり互いに溶解している場合には、必ずしも用いる必要はないが、例えば、非プロトン性溶媒を用いるのが好ましい。具体的には、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネート、γ−ブチロラクトン、γ−バレロラクトン、ジメトキシメタン、1,2−ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、1,3−ジオキサン、4−メチル−1,3−ジオキソラン、メチルホルメート、メチルアセテート、メチルプロピオネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、アセトニトリル、スルホラン、3−メチルスルホラン、ジメチルスルホキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルオキサゾリジノン、バレロニトリル、ベンゾニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、ニトロメタン、ニトロベンゼン等の非プロトン性溶媒が挙げられる。フッ素化反応を円滑に進行させる観点からは極性溶媒を使用することが推奨され、上記例示の溶媒の中でも、バレロニトリル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル及び酢酸ブチルが好ましい。なお、精製時の作業性からは、沸点が低く、水と2層状態を形成し得る溶媒が好ましい。
【0054】
上記反応溶媒としては、上述した精製に用いる反応溶媒と同様、Zn、K、Fe、Cr、Ni、Na等の金属成分の含有量が100ppm以下のものを使用するのが好ましい。より好ましくは10ppm以下である。なお、上記不純物の種類や含有量は、後述するICP発光分光分析法により分析することができる。
【0055】
上記フッ素化反応は従来公知の反応容器中で行うことができる。例えば、上述したステンレス鋼製;炭素鋼製;ニッケル製;チタン製;クロム製;ニッケル基合金製;コバルト基合金製;ホウケイ酸ガラス製:内面がグラスライニング又はポリテトラフルオロエチレンで処理された反応容器など、従来公知の反応容器はいずれも使用可能である。
【0056】
なお、フッ素化反応の終了は、例えば、
19F−NMRなどで確認することができる。すなわち、反応の進行によりフッ素に相当するケミカルシフトにピークが出現し、さらに、そのピークの相対強度(積分値)が増大する。したがって、
19F−NMRにより反応の進行状態を追跡しながら、フッ素化反応の終了を確認すればよい。なお、反応時間が長すぎる場合には、副生物の生成が顕著となるので、目的物のピークの相対強度が最大となる時点(例えば、反応の開始から6時間〜12時間程度)でフッ素化反応を終了するのが好ましい。
【0057】
クロロスルホニルイミド類またはフルオロスルホニルイミド塩は、所望のカチオンを含む塩と反応させることで、カチオン交換することができる(カチオン交換反応工程)。カチオンとしては、Li,Na,K,Rb,Csなどのアルカリ金属、または、後述するオニウムカチオンが好ましい。アルカリ金属を含むフルオロスルホニルイミド塩は、高温で溶融、あるいは、適当な有機溶媒に溶解させることで、各種電気化学デバイスのイオン伝導体材料として使用することができるため有用である。中でも、Li、Naをカチオンとするものが好ましく、最も好ましいカチオンはLiである。また、オニウムカチオンを含むフルオロスルホニルイミド塩は、常温で溶融した状態を安定に保つ常温溶融塩となり、長期間の使用に耐える電気化学デバイスのイオン伝導体の材料や、有機合成における反応溶媒等として好適なものとなる。
【0058】
アルカリ金属を含む塩としては、LiOH,NaOH,KOH,RbOH,CsOH等の水酸化物、Na
2CO
3,K
2CO
3,Rb
2CO
3,Cs
2CO
3等の炭酸塩、LiHCO
3,NaHCO
3,KHCO
3,RbHCO
3,CsHCO
3等の炭酸水素塩、LiCl,NaCl,KCl,RbCl,CsCl等の塩化物、LiF,NaF,KF,RbF,CsF等のフッ化物、CH
3OLi、Et
2OLi等のアルコキシド化合物、及び、EtLi、BuLiおよびt−BuLi(尚、Etはエチル基、Buはブチル基を示す)等のアルキルリチウム化合物等のアルカリ金属塩が挙げられる。なお、本発明は、上記アルカリ金属を含む塩からカリウム塩を排除するものではなく、カリウム塩を使用する場合も当然本発明に含まれるが、生成物中におけるカリウムの含有量を一層厳密に制御する観点からは、カリウムを含まない塩を使用することが推奨される。カリウム以外のアルカリ金属塩を用いる場合には、カリウム含有量の少ないアルカリ金属塩を用いるのが好ましい。カリウム以外のアルカリ金属塩に含まれるカリウム量は、1000ppm以下であるのが好ましく、より好ましくは100ppm以下であり、さらに好ましくは10ppm以下である。
【0059】
一方、オニウムカチオンとしては、一般式(I);L
+−Rs(式中、Lは、C、Si、N、P、S又はOを表す。Rは、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、または、有機基であり、Rが有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。sは、2、3又は4であり、元素Lの価数によって決まる値である。尚、L−R間の結合は、単結合であってもよく、また二重結合であってもよい。)で表されるものが好適である。
【0060】
上記Rで示される「有機基」は、炭素原子を少なくとも1個有する基を意味する。上記「炭素原子を少なくとも1個有する基」は、炭素原子を少なくとも1個有してさえいればよく、また、ハロゲン原子やヘテロ原子などの他の原子や、置換基などを有していてもよい。具体的な置換基としては、例えば、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル結合を有する基、チオエーテル結合を有する基、エステル基、ヒドロキシル基、アルコキシ基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、ジスルフィド基、ニトロ基、ニトロソ基、スルホニル基などが挙げられる。
【0061】
一般式(I)で表されるオニウムカチオンとしては、具体的には下記一般式;
【0062】
【化1】
(式中、Rは、一般式(I)と同様)で表されるものが好適である。このようなオニウムカチオンは単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、好ましいものとしては、下記のようなオニウムカチオンが挙げられる。
【0064】
【化2】
で表される9種類の複素環オニウムカチオンの内の1種。
【0066】
【化3】
で表される5種類の不飽和オニウムカチオンの内の1種。
【0068】
【化4】
で表される10種類の飽和環オニウムカチオンの内の1種。
【0069】
上記一般式中、R
1〜R
12は、同一若しくは異なって、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基の場合、これらは互いに結合していてもよい。
【0070】
(4)Rが、水素、C
1〜C
8のアルキル基、C
6〜C
12のアリール基、またはC
7〜C
13のアラルキル基である鎖状オニウムカチオン。中でも、一般式(I)において、LがNであるものが好ましい。
例えば、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、メトキシエチルジエチルメチルアンモニウム、トリメチルフェニルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ジメチルジステアリルアンモニウム、ジアリルジメチルアンモニウム、2−メトキシエトキシメチルトリメチルアンモニウム、テトラキス(ペンタフルオロエチル)アンモニウム等の第4級アンモニウム類、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、ジエチルメチルアンモニウム、ジメチルエチルアンモニウム、ジブチルメチルアンモニウム等の第3級アンモニウム類、ジメチルアンモニウム、ジエチルアンモニウム、ジブチルアンモニウム等の第2級アンモニウム類、メチルアンモニウム、エチルアンモニウム、ブチルアンモニウム、ヘキシルアンモニウム、オクチルアンモニウム等の第1級アンモニウム類、N−メトキシトリメチルアンモニウム、N−エトキシトリメチルアンモニウム、N−プロポキシトリメチルアンモニウム及びNH
4等のアンモニウム化合物等が挙げられる。これら例示の鎖状オニウムカチオンの中でも、アンモニウム、トリメチルアンモニウム、トリエチルアンモニウム、トリブチルアンモニウム、トリエチルメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウムおよびジエチルメチル(2−メトキシエチル)アンモニウムが好ましい鎖状オニウムカチオンとして挙げられる。
【0071】
上記(1)〜(4)のオニウムカチオンの中でも好ましいものは、下記一般式;
【0073】
(式中、R
1〜R
12は、上記と同様である。)で表される5種類のオニウムカチオン及び上記(4)の鎖状オニウムカチオンである。上記R
1〜R
12は、水素原子、フッ素原子、又は、有機基であり、有機基としては、直鎖、分岐鎖又は環状の炭素数1〜18の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基等が好ましく、より好ましくは炭素数1〜8の飽和又は不飽和炭化水素基、炭化フッ素基である。これらの有機基は、水素原子、フッ素原子、窒素原子、酸素原子、硫黄原子や、アミノ基、イミノ基、アミド基、エーテル基、エステル基、ヒドロキシル基、カルボキシル基、カルバモイル基、シアノ基、スルホン基、スルフィド基等の官能基を含んでいてもよい。より好ましくは、R
1〜R
12は、水素原子、フッ素原子、シアノ基及びスルホン基等のいずれか1種以上を有するものである。なお、2以上の有機基が結合している場合は、当該結合は、有機基の主骨格間に形成されたものでも、また、有機基の主骨格と上述の官能基との間、あるいは、上記官能基間に形成されたものであってもよい。
【0074】
上記オニウムカチオンを含む塩としては、上記オニウムカチオンのハロゲン化物、水酸化物、炭酸化物および炭酸水素化物などが挙げられる。
【0075】
なお、フッ素化反応工程、カチオン交換反応工程のいずれにおいても、反応溶液に含まれるスルホニルイミド骨格を有する化合物(例えば、フルオロスルホニルイミド、フルオロスルホニルイミド塩など)の濃度は、1質量%〜70質量%であるのが好ましい。濃度が高すぎる場合には、反応が不均一になる虞があり、一方、低すぎる場合には、1バッチあたりの生産性が低く経済的でないからである。より好ましくは3質量%〜60質量%であり、さらに好ましくは5質量%〜50質量%である。
【0076】
本発明の製法によれば、各種不純物の含有量が極低レベルにまで低減されたフルオロスルホニルイミド塩が得られる。また、各種不純物の含有量が極低レベルにまで低減された本発明のジ(フルオロスルホニル)イミド塩、N−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミド塩は、リチウム二次電池、キャパシタなどに用いられる電解質やイオン性液体、あるいは、フルオロスルホニル化合物の中間体などとして有用である。特に、本発明のジ(フルオロスルホニル)イミド及びN−(フルオロスルホニル)−N−(フルオロアルキルスルホニル)イミドの有機塩は、一次電池、リチウム(イオン)二次電池や燃料電池等の充電/放電機構を有する電池、電解コンデンサ、電気二重層キャパシタ、太陽電池・エレクトロクロミック表示素子等の電気化学デバイスを構成するイオン伝導体の材料として好適に用いられる。
【実施例】
【0077】
以下、実験例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実験例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0078】
[ICP発光分光分析法]
下記実験例で得られたフルオロスルホニルイミド塩0.1gを超純水9.9g(18.2MΩcm)と混合した濃度1%の水溶液を測定試料とし、マルチタイプICP発光分光分析装置(島津製作所製「ICPE−9000」)を使用して、生成物中に含まれる不純物の分析を行った。なお、定量下限は0.1ppmである。
【0079】
[NMR測定]
1H−NMR、
19F−NMRの測定は、Varian社製の「Unity Plus−400」を使用して行った(内部標準物質:トリフルオロメチルベンゼン、積算回数:16回)。
【0080】
実験例1
(フッ素化反応)
窒素雰囲気下、容量100mlのパイレックス(登録商標)製反応容器Aに酢酸ブチル18gを量り取り、ここに2.00g(9.34mmol)のジ(クロロスルホニル)イミドをゆっくりと滴下して加えた。次いで、ここに、1.01g(9.81mmol、1.05当量)のZnF
2粉末を投入し、完全に溶解するまで室温(25℃)で6時間攪拌した。
【0081】
異なる容量100mlのパイレックス(登録商標)製反応容器Bに、5.4gの25質量%アンモニア水(8.48当量、温度25℃)を量り取り、アンモニア水を攪拌しながら、ここに反応容器Aの反応溶液をゆっくりと滴下した。反応溶液の滴下終了後、攪拌を停止し、2層に分かれた反応溶液からZnCl
2などの副生物を含む水層を除去し、フルオロスルホニルイミドを含む有機層を分離した。得られた有機層に含まれるフルオロスルホニルイミドの濃度を
19F−NMR(CD
3CN)により分析した(収量(フルオロスルホニルイミドアニオン):1.36g、収率81%)。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0082】
有機層から分離した水層に含まれる成分をICP発光分析装置により確認したところ、亜鉛が50000ppm以上確認された。この結果より、フッ化物ZnF
2に由来する亜鉛は、アンモニア水との接触により、アンモニアが配位した水溶性のテトラアンミン亜鉛イオン([Zn(NH
3)
4]
2+)となり水層に抽出され、その結果、生成物中の不純なイオン成分の含有量が低減されたものと考えられる。
【0083】
(カチオン交換反応)
次いで、得られた有機層に含まれるフルオロスルホニルイミドに対して2当量のLiOH飽和水溶液(約3g)を加えて攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去し、得られた有機層から酢酸ブチルを留去し、乾固させることで、白色固体のフルオロスルホニルイミドのリチウム塩を得た(収量:1.27g、収率90%)。得られたフルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0084】
実験例2
パイレックス(登録商標)製の反応容器A、Bの代わりにハステロイ(登録商標)C22製の反応容器を使用したこと以外は、実験例1と同様にして、フルオロスルホニルイミド(収量1.35g、収率80%)およびフルオロスルホニルイミドのリチウム塩(収量1.19g、収率85%)を製造した。得られたフルオロスルホニルイミドおよびそのリチウム塩中に含まれる不純物量を、表1、表2に示す。
【0085】
実験例3
実験例1と同様にして、酢酸ブチルとジ(クロロスルホニル)イミドの混合溶液に、フッ化亜鉛粉末を添加した。フッ化亜鉛の溶解後、反応容器Aに1.35g(9.81mmol、1.05当量)のトリエチルアミン塩酸塩を加え、10分間攪拌した。
1H−NMRより、フルオロスルホニルイミドのトリエチルアミン塩が生成していることを確認した(収量1.32g、収率78%)。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
1H-NMR(CD
3CN):δ3.1(6H)、1.2(9H)
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0086】
次いで、得られたフルオロスルホニルイミドのトリエチルアミン塩を使用したこと以外は実験例1と同様にしてカチオン交換反応を行い、フルオロスルホニルイミドのリチウム塩を製造した(収量1.15g、収率84%)。得られたフルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0087】
実験例4
ジ(クロロスルホニルイミド)のフッ素化反応後、パイレックス(登録商標)製反応容器A中の反応溶液に、5.4gの25質量%アンモニア水(8.48当量、温度25℃)をゆっくりと添加したこと以外は、実験例1と同様にして、フルオロスルホニルイミド塩(収量1.32g、収率78%)、フルオロスルホニルイミドのリチウム塩を製造した(収量1.13g、収率83%)。得られたフルオロスルホニルイミドおよびそのリチウム塩中に含まれる不純物量を、表1、表2に示す。
【0088】
実験例5
ジ(クロロスルホニルイミド)のフッ素化反応後、ハステロイ(登録商標)C22製の反応容器中の反応溶液に、5.4gの25質量%アンモニア水(8.48当量、温度25℃)をゆっくりと添加したこと以外は、実験例2と同様にして、フルオロスルホニルイミド(収量1.20g、収率71%)およびフルオロスルホニルイミドのリチウム塩を製造した(収量1.06g、収率85%)。得られたフルオロスルホニルイミドおよびそのリチウム塩中に含まれる不純物量を、表1、表2に示す。
【0089】
実験例6
窒素雰囲気下、容量3lのパイレックス(登録商標)製反応容器Aに酢酸ブチル1.8kgを量り取り、ここに200g(934mmol)のジ(クロロスルホニル)イミドをゆっくりと滴下して加えた。次いで、ここに、101g(981mmol、1.05当量)のZnF
2粉末を投入し、完全に溶解するまで室温(25℃)で6時間攪拌した。
【0090】
異なる容量10lのパイレックス(登録商標)製反応容器Bに、5.4kgの25質量%アンモニア水(8.48当量、温度25℃)を量り取り、アンモニア水を攪拌しながら、ここに反応容器Aの反応溶液をゆっくりと滴下した。反応溶液の滴下終了後、攪拌を停止し、2層に分かれた反応溶液からZnCl
2などの副生物を含む水層を除去し、フルオロスルホニルイミドを含む有機層を分離した。得られた有機層に含まれるフルオロスルホニルイミドの濃度を
19F−NMR(CD
3CN)により分析した(収量133g、収率79%)。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0091】
次いで、得られた有機層に含まれるフルオロスルホニルイミドに対して2当量のLiOH飽和水溶液(約300g)を加えて攪拌した。その後、反応溶液から水層を除去し、さらに、得られた有機層から酢酸ブチルを留去し、乾固させることで、白色固体のフルオロスルホニルイミドのリチウム塩を得た(収量125g、収率90%)。フルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
19F-NMR(CD
3CN):δ56.0
【0092】
実験例7
アンモニア水に代えて、超純水5.4g(温度25℃、18.2MΩcm(全てのイオン成分量<1ppm))を使用したこと以外は実験例1と同様にして、フルオロスルホニルイミドを製造した(収量1.10g、収率66%)。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
【0093】
実験例8
アンモニア水に代えて、超純水5.4gを使用したこと以外は実験例2と同様にして、フルオロスルホニルイミドを製造した(収量1.01g、収率60%)。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
【0094】
実験例9
フルオロスルホニルイミドと超純水とを接触させた後、さらに2回、5.4gの超純水と接触させたこと以外は実験例7と同様にして、フルオロスルホニルイミド(収量0.48g、収率29%)を製造した。得られたフルオロスルホニルイミドに含まれる各種不純物量を測定した。結果を表1に示す。
【0095】
実験例10
実験例7で得られたフルオロスルホニルイミドを原料としたこと以外は実験例1と同様にしてカチオン交換反応を行って、フルオロスルホニルイミドのリチウム塩を製造した(収量0.86g、収率75%)。得られたフルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
【0096】
実験例11
実験例8で得られたフルオロスルホニルイミドを原料としたこと以外は実験例1と同様にしてカチオン交換反応を行って、フルオロスルホニルイミドのリチウム塩を製造した(収量0.77g、収率73%)。得られたフルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
【0097】
実験例12
特表2004−522681号公報の記載に基づき、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)を得た。なお、実験例12では、反応溶液とアルカリ水溶液との接触は行わなかった。得られたフルオロスルホニルイミドのリチウム塩中に含まれる不純物量を表2に示す。
【0098】
なお、表1、2中における「<1」との記載は、定量限界である0.1ppm以上、1ppm未満であることを表す。
【0099】
【表1】
【0100】
表1より、反応溶液とアルカリ水溶液との接触を行わなかった実験例7〜9では、反応容器に由来する不純物(1種の成分単独で1000ppm超)や反応副生成物(合計で30000ppm超)が生成物に多量に含まれていたのに対して、フッ素化反応後、アルカリ水溶液との接触を行った実験例1〜5およびスケールアップしてフルオロスルホニルイミドの製造を行った実験例6では、生成物に含まれる不純物量が低減されていた。
【0101】
また、実験例7および9で使用した反応容器(パイレックス(登録商標)製)の内表面は白く曇っており、使用前に見られていた光沢が失われていた。同様に、実験例8で使用した反応容器(ハステロイ(登録商標)C22製)も、その内表面は光沢が失われ曇ったような外観となっており、これを顕微鏡(八洲光学工業株式会社製USB接続デジタル顕微鏡「YDU−2」、倍率:200倍)で観察したところ、表面に多数の孔が開いており、さらに、当該部分が黒色に変化し、腐食が生じていることが確認された。なお、実験例1〜6で用いた反応容器にはこのような変化は確認されず、反応容器内表面は、反応終了後も反応開始前と同様の光沢を有していた。
【0102】
【表2】
【0103】
表1、2に示す実験例1〜6および10〜11の結果より、カチオン交換反応によって、反応容器に由来する不純物や反応副生成物量をより一層減少させられることが分かる。しかしながら、実験例7、8で得られたフルオロスルホニルイミドを原料としてカチオン交換反応を行った実験例10〜11の生成物中に含まれる各種不純物量は、アルカリ接触工程を採用した実験例1〜6と比較して多かった。すなわち、カチオン交換反応のみでは、実用可能なレベルにまで充分に各種不純物量を低減し難いが、アルカリ接触工程とカチオン交換反応とを組み合わせることによって、収率を低下させることなく生成物中の不純物量を効率的に減少させられることが分かる。
【0104】
これらの結果から、本発明によれば、反応容器等の腐食が抑制されるため、長期に亘って連続してフルオロスルホニルイミド塩を製造することができ、また、不純物の含有量が低減されたフルオロスルホニルイミド塩が得られることが分かる。
【0105】
実験例13、14 充放電試験
実験例1で得られたLiFSI(カリウム含有量1ppm未満、実験例13)、実験例12で得られたLiFSI(カリウム含有量5489ppm、実験例14)を電解質として用いてCR2032型のコインセルを作製し、充放電試験を行った。電解液は、いずれの場合も、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを1:1の体積比で混合した溶媒に、濃度が1MとなるようにLiFSIを溶解させて調製した。なお、溶媒としては、キシダ化学株式会社製のLBGグレードのEC、EMCを使用した。
【0106】
コインセルは、正極に人造黒鉛(「MAGD」、日立化成工業株式会社製)、負極にリチウム箔(厚み:0.5mm、本城金属株式会社製)を用い、この正極と負極を、セパレーター(「セルガード(登録商標)2400」、単層ポリプロピレンセパレータ、セルガード株式会社製)及びガラスフィルター(「GA−100」、アドバンテック社製)を挟んで対向させ、電極間を濃度1MのLiFSIのEC/EMC(1/1)溶液で満たして作製した。
【0107】
まず、作製したコインセルを30℃で6時間安定化させ、充放電試験装置(BS2501、株式会社計測器センター製)により、40サイクルまでの放電容量を測定した。なお、各充放電時には15分間の充放電休止時間を設け、充放電速度は0.1C、充放電範囲は0.02−3Vで行った。結果を
図1に示す。
【0108】
図1より、カリウムの含有量が1ppmである実験例1で得られたLiFSIを使用した実験例13では、カリウムを5489ppm含む実験例12で得られたLiFSIを使用した実験例14に比べて、初期容量も、40サイクル後の容量も高いものであった。なお、実験例14では、不純物であるカリウムに起因して正極が劣化したことにより、容量低下が生じたものと考えられる。