(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記揺動体は、前記トーションバーの長手方向軸線と平行に延在して光源からの光を反射する光反射面を有し、前記トーションバーの弾性変形を伴いつつその長手方向軸線を中心として揺動し、これにより前記揺動体の光反射面にて反射した光を前記トーションバーの長手方向軸線に対して交差する方向に振ることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の振動素子。
前記平坦部を形成するステップが前記線材の長手方向に沿ってこの線材に複数の平坦部を間欠的に形成するステップを含み、これら複数の平坦部のうちの少なくとも1つの平坦部の長手方向中央部から前記線材をその長手方向軸線と直角に切断するステップをさらに具えたことを特徴とする請求項9から請求項11の何れか1項に記載の振動素子の製造方法。
前記駆動手段が揺動体と一体に取り付けられる磁石と、この磁石と対向し、かつ交番電流が通されるコイルとを有し、前記2枚の板部材の接合面には、前記磁石を収容または保持する溝が前記トーションバーの長手方向軸線を対称軸としてそれぞれ対称に形成されていることを特徴とする請求項16に記載の光走査装置。
前記磁石の磁極は、前記トーションバーの長手方向軸線に対して直交し、かつ前記揺動体の光反射面と平行な方向に延在していることを特徴とする請求項16または請求項17に記載の光走査装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1においては、同じ肉厚の2枚の平面板ガラスの片面にそれぞれ施されたミラーコーティングを貼着して1枚の平面ミラーを形成している。また、この平面ミラーをミラーコーティングの貼着面を通る軸線を中心に揺動させることにより、平面ミラーの振れによる反射位置のずれが生じないように配慮している。この特許文献1にて提案された方法では、光が平面板ガラスの表面で反射するのではなく、平面板ガラスに入射し、ミラーコーティングの部分で反射した後、平面板ガラスの表面から出射する形態となる。この結果、平面板ガラスが光学的に透明でなければならず、金属などの光学的に不透明な材料を利用することが本質的にできない。また、平面板ガラスの表面での光の反射を抑制したり、光が多色光源の場合には色収差を補正する必要が生ずる。さらに、トーションバーの中心軸線をミラーコーティングの貼着面を通る平面ミラーの中心軸線と合致させるための何らかの位置決め手段が必要である。
【0007】
特許文献2においては、トーションバーに固定部材を介して磁石を装着し、この磁石の表面を光反射面として形成した構成が示されている。しかしながら、固定部材とこれに接合される磁石との共通重心がトーションバーの中心軸線から離れているため、磁石の表面に形成された光反射面が異常振動を起こし、光を所望の方向に走査させることができない場合がある。
【0008】
本発明の目的は、トーションバーに設けられる揺動体に異常振動が生じるのを有効に防ぐことができる振動素子およびこの振動素子を用いた光走査装置を提供することにある。
【0009】
また、トーションバーの真直度が悪い場合であっても、揺動体を効率よく揺動させることができる振動素子および光走査装置を提供することも本発明の目的に含まれる。
【0010】
本発明の他の目的は、このような光走査装置が組み込まれたコンパクトで高性能な画像形成装置ならびに画像投影装置を提供することにある。
【0011】
本発明の別な目的は、所望のトーションバーの真直度を確保しつつ、振れ角範囲を広くすることができる振動素子、光走査装置およびこれを用いた画像形成装置ならびに画像投影装置を提供することにある。
【0012】
本発明のさらなる目的は、振動素子の組み立てを簡易化すると共に部品の位置決め精度を向上させることが可能な振動素子を提供することにある。また、安定した光走査を実現する光走査装置およびこれを用いた画像形成装置ならびに画像投影装置を提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の第1の形態は、ベースと、このベースから突出するトーションバーと、このトーションバーの前記ベース側とは反対の側に設けられ、当該トーションバーを挟んで相互に接合される同一形状
の収容溝を持つ2枚の板部材を有する揺動体とを具えたことを特徴とする振動素子にある。
本発明の第2の形態は、ベースと、このベースから突出するトーションバーと、このトーションバーの前記ベース側とは反対の側に設けられ、当該トーションバーを挟んで相互に接合される同一形状を持つ2枚の板部材を有する揺動体とを具え、2枚の板部材の接合面には、トーションバーを収容する収容溝がそれぞれ形成され、これら2枚の板部材はトーションバーの長手方向軸線を対称軸とする対称形状を有していることを特徴とする振動素子にある。
【0014】
本発明の第1
または第2の形態による振動素子において、揺動体は、トーションバーの長手方向軸線と平行に延在して光源からの光を反射する光反射面を有し、トーションバーの弾性変形を伴いつつその長手方向軸線を中心として揺動し、これにより揺動体の光反射面にて反射した光をトーションバーの長手方向軸線に対して交差する方向に振るものであってよい。
【0016】
揺動体の光反射面は、2枚の板部材の少なくとも一方の板部材の接合面と反対側の面に形成されているものであってよい。
【0017】
揺動体とトーションバーとの重心を調整する重心調整部材をさらに備えることができる。
【0018】
トーションバーは、引張り加工またはしごき加工が施されたものであってよい。
【0019】
揺動体には、磁石を取り付けるための基準となる切欠き部を設けることができる。
【0020】
本発明の第
3の形態は、トーションバーと、このトーションバーに固定される揺動体と、この揺動体または前記トーションバーに固定される第1磁界発生手段と、この第1磁界発生手段が発生する磁界に対応した磁界を発生し、前記トーションバーを変形させて前記揺動体を回動させる第2磁界発生手段とを具えた振動素子であって、前記トーションバーが一定断面形状の直線状をなす線材の一部に形成された平坦部を有
すると共にこの平坦部を収容する収容溝が前記揺動体に設けられ、
前記平坦部を前記収容溝に収容した状態で前記揺動体が
前記トーションバーに接合されていることを特徴とするものである。
【0021】
本発明においては、第1磁界発生手段が発生する磁界に対応した磁界を第2磁界発生手段が発生してトーションバーを変形させ、このトーションバーの弾性変形を伴って揺動体が回動する。
【0022】
本発明の第
4の形態は、本発明の第
3の形態による振動素子の製造方法であって、一定断面形状の直線状をなす線材の表面の一部に平坦部を形成するステップと、前記線材の表面の一部に形成された平坦部に揺動体を接合するステップとを具えたことを特徴とするものである。
【0023】
本発明の第
4の形態による振動素子の製造方法において、平坦部が線材の長手方向軸線に対して回転対称形状であることが好ましい。
【0024】
また、平坦部が線材の長手方向軸線と平行な一対の平坦面を有することが好ましい。
【0025】
平坦部を形成するステップが線材の長手方向に沿ってこの線材に複数の平坦部を間欠的に形成するステップを含み、これら複数の平坦部のうちの少なくとも1つの平坦部の長手方向中央部から線材をその長手方向軸線と直角に切断するステップをさらに具えることができる。
【0026】
平坦部が線材の長手方向一端部か、あるいは長手方向中間部分に少なくとも形成されていることが好ましい。
【0027】
平坦部を形成するステップが線材に対する塑性加工または除去加工を含むものであってよい。より具体的には、押し込みなどのプレス加工や研削,切削,ウェットエッチング,引張り加工,しごき加工などで平坦部を形成することができる。
【0028】
平坦面の部分に時効硬化処理を施すステップをさらに具えることができる。
【0029】
本発明の第
5の形態は、本発明の第1または第2
または第3の形態による振動素子と、この振動素子の揺動体に設けられた光反射面に向けて光を照射する光源と、振動素子の揺動体をトーションバーの長手方向軸線を中心として揺動させる駆動手段とを具えたことを特徴とする光走査装置にある。
【0030】
本発明においては、駆動手段の作動によって揺動体がトーションバーの長手方向軸線を中心として揺動し、トーションバーが共振して繰り返しの弾性捩れ変形を受ける。これにより、光源からの光は、揺動体の光反射面により反射して走査されることとなる。
【0031】
本発明の第
5の形態による光走査装置において、駆動手段が揺動体と一体に取り付けられる磁石と、この磁石と対向し、かつ交番電流が通されるコイルとを有し、2枚の板部材の接合面には、磁石を収容または保持する溝がトーションバーの長手方向軸線を対称軸としてそれぞれ対称に形成されているものであってよい。
【0032】
磁石の磁極は、トーションバーの長手方向軸線に対して直交し、かつ揺動体の光反射面と平行な方向に延在させることができる。
【0033】
本発明の第
6の形態は、本発明の第
5の形態による光走査装置と、この光走査装置の光源からの光が当該光走査装置の振動素子の揺動体に設けられた光反射面を介して照射される画像形成媒体とを具えたことを特徴とする画像形成装置にある。
【0034】
本発明においては、光源からの光が振動素子の揺動体の光反射面を介して画像形成媒体に照射される。
【0035】
本発明の第
7の形態は、本発明の第
5の形態による光走査装置と、この光走査装置の振動素子の揺動体に設けられた光反射面にて反射する光源からの光をトーションバーの長手方向軸線と平行な方向に沿って偏向させる光偏向装置と、この光偏向装置により偏向する光が照射されるスクリーンとを具えたことを特徴とする画像投影装置にある。
【0036】
本発明においては、光源からの光が振動素子の揺動体の光反射面にて反射され、揺動体の揺動により走査状態となった反射光が光偏向装置によって、走査方向と交差する方向に偏向され、スクリーンに照射される。
【発明の効果】
【0037】
本発明の振動素子によると、揺動体が同一形状
の収容溝を持つ2枚の板部材を有し、これら2枚の板部材によってトーションバーを挟んで相互に接合されるので、揺動体に異常振動が生じるのを有効に防ぐことができる。
【0038】
また、揺動体がトーションバーを収容する収容溝を接合面に形成した2枚の板部材を含み、これらがトーションバーの長手方向軸線を対称軸とする対称形状を有
しているので、トーションバーに対して揺動体を正確に固定できる。また、2枚の板部材の接合面に形成される収容溝の加工によって低下する光反射面の平面度を向上させることができる。さらに、揺動体を異常振動させずに効率よくこれを揺動させることができる。
【0039】
揺動体の光反射面を2枚の板部材の少なくとも一方の板部材の接合面と反対側の面に形成した場合、平面度の良好な方を光反射面として利用することができる。
【0040】
本発明の光走査装置によると、本発明による振動素子を備えているので、揺動体を効率よく共振させることができる。
【0041】
なお、駆動手段の磁石を収容または保持する溝が2枚の板部材の接合面にトーションバーの長手方向軸線を対称軸として対称に形成されている場合、磁石を含めた揺動体の重心位置をトーションバーの長手方向軸線上に位置させることができる。また、磁石の位置決めを正確に行うことができると共に磁石を大気に晒すことによる劣化を抑制することができる。特に、磁石の磁極をトーションバーの長手方向軸線に対して直交かつ揺動体の光反射面と平行な方向に延在させた場合、無負荷状態から揺動体の一方側への振れの量と他方側への振れの量とを均一にすることができる。
【0042】
本発明の画像形成装置によると、本発明の光走査装置と、この光走査装置の光源からの光が光走査装置の振動素子の揺動体の光反射面を介して照射される画像形成媒体とを具えているので、小型で高性能な画像形成装置を実現することができる。
【0043】
本発明の画像投影装置によると、本発明の光走査装置と、光源からの光をトーションバーの長手方向軸線と平行な方向に沿って偏向させてスクリーンに照射させる光偏向装置とを具えているので、小型で高性能な画像投影装置を実現することができる。
【発明を実施するための形態】
【0045】
本発明による画像形成装置をレーザービームプリンター(以下、LBPと記述する)に応用した実施形態について、
図1〜
図10を参照しながら以下に詳細に説明する。しかしながら、本発明はこのような実施形態のみに限らず、異なる実施形態の構成を必要に応じてさらに組み合わせたり、特許請求の範囲に記載された本発明の精神に帰属する他の任意の構成を適宜採用することができることに注意されたい。
【0046】
本実施形態におけるLBPの露光部を概略的に
図1に示し、その光走査装置における振動素子の主要部を抽出して
図2に示し、そのIII−III矢視に沿った断面形状を
図3に示し、
図2中のIV−IV矢視に沿った拡大断面形状を
図4に示す。さらに、この振動素子の主要部を分解状態で
図5に示す。すなわち、本実施形態のLBP10は、本発明における画像形成媒体としての感光ドラム11と、この感光ドラム11に画像情報に対応した静電潜像を形成するための露光部12とを具えている。また、本実施形態のLBP10は、これら感光ドラム11および露光部12以外に周知の給紙部,帯電部,トナー供給部,転写部,定着部,紙搬送部(何れも図示せず)なども具えている。
【0047】
露光部12は、画像情報に対応したパルス状のレーザー光Lを発振するためのレーザー光源13を含む光走査装置14と、周知のコリメート光学系15およびfθレンズ16とを具えている。
【0048】
光走査装置14は、先のレーザー光源13と、このレーザー光源13からのレーザー光Lを走査させるための光走査用素子17と、この光走査用素子17を駆動する素子駆動部18と、この素子駆動部18の作動を制御する制御装置19とを具えている。
【0049】
本発明における振動素子としての光走査用素子17は、ベース20と、レーザー光源13からのレーザー光L等が入射する光反射面21が形成された揺動体22と、この揺動体22を保持するトーションバー23と、カバー部材25とを具えている。本実施形態におけるベース20には、本発明における駆動手段としての素子駆動部18の一部を構成する渦巻き状に形成したシートコイル26を設けた基板27が搭載されている。この基板27の周縁部には、ベース20の外周縁部を構成する枠体28が重ね合わされ、これらが一体的に接合された状態となっている。枠体28には、光学的に透明なカバー部材25が重ね合わされ、これらを一体的に接合することによって形成される内部空間Sは、減圧状態で気密に保持される。これらベース20とカバー部材25とで囲まれる内部空間Sには、ベース20から梁状に設けられた丸棒状をなすトーションバー23と、揺動体22と、素子駆動部18の一部である先のシートコイル26が形成された基板27とが収容される。このように、カバー部材25によって内部空間Sを減圧状態で気密に保持することにより、常圧下と比べて、揺動体22を主体とする振動系の特性を更に高めることができる。特に、空気抵抗の影響が低減される結果、振動特性のさらなる向上が可能である。
【0050】
揺動体22を保持するトーションバー23は、感光ドラム11の回転軸線に対して直交する軸線(以下、これをトーションバーの長手方向軸線と記述するが、図示例では
図1の紙面に対して垂直な軸線である)Aに沿って延在する。トーションバー23の基端は、片持ち状態でベース20の枠体28とカバー部材25との間に固定され、かつ末端側がこの枠体28から基板27に形成されたシートコイル26の中央部分の直近まで突出している。トーションバー23の末端に固定される揺動体22は、トーションバー23の長手方向軸線を中心としてトーションバー23の弾性変形(捩れ)を伴いつつ揺動可能である。
【0051】
ここで、例えば、本実施形態における揺動体22は、トーションバー23を挟んで相互に接合される同一形状(具体的には同一寸法形状)の2枚の矩形の板部材29,30を含み、これら2枚の板部材29,30は、トーションバー23の長手方向軸線Aを対称軸とする対称形状を有している。これら2枚の板部材29,30の接合面29a,30aは、トーションバー23の長手方向軸線Aと平行に設定され、基板27に形成されたシートコイル26の表面とほぼ平行となるようにトーションバー23に対して接合されている。従って、例えば、カバー部材25側を向く一方の板部材29の表面が光反射面21となっており、この光反射面21はアルミニウムや金などを一方の板部材29の表面に蒸着することによって形成することができる。あるいは、あらかじめ鏡面加工された板状部材を一方の板部材29の表面に貼り付けてこれを光反射面21としてもよい。なお、他方の板部材30の表面も一方の板部材29の表面と同じ加工を施しておくことにより、2つの板部材29,30の重量バランスを合致させることができ、この揺動体22を含む振動系に関してより安定した振動をもたらすことができる。また、両方の板部材29,30の表面に対して同じ加工を施すことによって、2枚の板部材29,30のうちのより平面度の良好な方を光反射面21として選択することができる。あるいは、2つの板部材29,30の表面をそれぞれ独立した光反射面として利用することも可能である。光反射面21は、トーションバー23の長手方向に沿って一直線に延在するトーションバーの長手方向軸線Aと、トーションバー23に固定される揺動体22の重心Gとを含む仮想平面に対して直交状態にある。従って、この仮想平面は
図3の紙面に対して平行な平面となる。
【0052】
揺動体22を構成する第1の板部材29の表面に形成される光反射面21に関し、上述したように表面反射率を向上させるため、アルミニウムや金などの薄膜を真空蒸着などによって形成することができる。この他、チタンや銅,銀などの金属薄膜を用いることも可能である。しかしながら、金属薄膜は、その表面が比較的傷付き易く、また使用する金属によっては比較的酸化し易い傾向を持つため、金属薄膜のみで光反射面21を形成すると、徐々に反射率が低下してしまう。そこで、金属薄膜を保護するための金属保護膜をさらに形成することが有効な場合がある。また、金属膜単層では光反射面21として所望の反射率が得られない可能性もある。従って、金属保護膜に増反射膜としての機能を併せ持たせ、光反射面21全体としての反射率を高めることができれば、金属薄膜を保護しつつ、光の反射効率を上げることができる。このような増反射性の金属保護膜として、例えば低屈折率誘電体と高屈折率誘電体とを組み合わせて積層したものを採用することができる。低屈折率誘電体としては、例えばSiO
2やMgF
2が知られており、高屈折率誘電体としては、TiO
2,Nb
2O
5,ZrO
2,Ta
2O
5などを挙げることができる。さらに、Al
2O
3のような中間の屈折率を持つ誘電体をこれらに積層することも有効である。なお、増反射性の金属保護膜をこれらの材料にのみ限定する必要はなく、適宜最適な材料を選択することが可能である。
【0053】
また、この揺動体22には素子駆動部18の一部を構成する丸棒状をなす磁石31が埋設されている。本実施形態においては、トーションバー23の末端部に丸棒状をなす磁石31が挿通される穴32がトーションバー23の長手方向に対して直交する方向に沿って形成され、ここに磁石31が差し込まれた状態となっている。この磁石31の一対の磁極は、トーションバー23の長手方向軸線Aに対して直交する方向に並ぶように、磁石31の向きが規定されている。
【0054】
揺動体22を構成する2枚の板部材29,30の接合面29a,30aには、あらかじめトーションバー23を挿通するためのトーションバー収容溝29b,30bと、磁石31を収容するための磁石収容溝29c,30cとが形成されている。これら2つの溝29b,30b,29c,30cは、それぞれ断面が半円形状を有し、接合面29a,30aの中央部にて相互に直交し、トーションバー23の長手方向軸線Aを対称軸とする対称位置に配されていることは言うまでもない。このような収容溝29b,30b,29c,30cを形成したことにより、トーションバー23と、揺動体22と、磁石31との相対位置を正確に決めることができ、トーションバー23と共に構成される振動系の異常振動を未然に防止することができる。
【0055】
本実施形態における素子駆動部18は、揺動体22および/またはトーションバー23に固定される磁石31と、この磁石31と隙間を隔てて対向するようにベース20側に設けられるシートコイル26と、図示しない電源とを具えている。シートコイル26には、トーションバー23,揺動体22,磁石31で構成される振動系の共振周波数に対応した交番電流が素子駆動部18の電源から与えられる。これにより、揺動体22の光反射面21をこの振動系の共振周波数にてトーションバーの長手方向軸線A回りに揺動、つまり共振状態で振れ回りさせることができる。従って、この振動系の振幅、つまり揺動体22の光反射面21の振れ角αの大きさは、シートコイル26に与えられる電流量によって調整可能である。交番電流の波形は、正弦波以外に三角波やパルス出力などであってもよい。なお、上述したようなシートコイル26に代えてヨークとなる軟磁性体を内包するコイルを用いることも可能である。また、揺動体22の光反射面21に対して干渉しない範囲で揺動体22を挟むように配される一対の磁界印加手段を設けることも可能である。
【0056】
制御装置19は、感光ドラム11の長手方向両端に近接して配される一対のBDセンサー34と、これら一対のBDセンサー34からの検出信号を受信して素子駆動部18の出力を制御する制御部35とを有する。制御部35は、光走査用素子17の揺動体22の揺動による光反射面21の振れ角αが感光ドラム11の表面の所定範囲に収まるように、一対のBDセンサー34からの検出信号に基づいて素子駆動部18の出力をフィードバック制御する。
【0057】
従って、画像信号に応じてレーザー光源13から出射するパルス状のレーザー光Lがコリメート光学系15を通って光走査用素子17の揺動体22の光反射面21に入射し、この光反射面21にて反射してfθレンズ16を介して感光ドラム11の表面に照射される。この場合、光走査用素子17の揺動体22の光反射面21がトーションバー23の共振によってトーションバーの長手方向軸線A回りに揺動することにより、レーザー光Lがトーションバーの長手方向軸線Aに対して交差する方向に走査される。つまり、レーザー光Lは感光ドラム11の回転軸線と平行な方向に感光ドラム11の表面を走査し、さらに感光ドラム11が回転することにより、画像情報、つまり静電潜像が感光ドラム11の回転方向に沿ってその表面に形成されることとなる。
【0058】
トーションバー23を構成する材料は、その断面形状が大きく分けて円形および矩形のものが一般的であり、何れもダイス加工によって所定の断面形状に加工することができる。トーションバー23の生命線である真直度を向上させるには、材料となる線材を引張りながらしごく加工を施すことが有効であり、その加工率は重要な要因である。加工率は、加工前後の材料の断面積の変化割合で示され、70〜80%の加工率を与えることによって、本発明の目的に合致した所望の真直度を得ることができる。
【0059】
このトーションバー23を構成する材料としては、例えば加工硬化処理および時効硬化処理が施された加工硬化および時効硬化型のコバルト(Co)-ニッケル(Ni)基合金が好適である。ここで言うCo-Ni基合金とは、CoおよびNiを含有する合金である。好ましくは、積層欠陥エネルギーを低下させるクロム(Cr)と、マトリクスの固溶強化や、偏析により転位を固着して時効および加工硬化能の向上に寄与する溶質元素としてモリブデン(Mo),鉄(Fe)などとを含む。より具体的には、Co-Ni-Cr-Mo合金やCo-Ni-Fe-Cr合金などを例示することができる。また、これらの合金は、ニオブ(Nb),マンガン(Mn),タングステン(W),チタン(Ti),ボロン(B)およびマグネシウム(Mg),炭素(C)などをさらに含むことができる。Nbは溶質元素として上述したMo,鉄同様の働きをし、Mnは面心立方格子相を安定化させて積層欠陥エネルギーを低下させる機能を有し、Wはマトリクスの強化と積層欠陥エネルギーの低下に寄与する。また、Tiは鋳塊組織の微細化や強度向上に寄与し、BおよびMgは熱問加工性を改善し、Cはマトリクスに固溶してCr,Mo,Nbなどと炭化物を形成し、粒界を強化する機能を発揮する。先のCo-Ni-Cr-Mo合金を用いた場合、その主要組成の重量比はCo:20.0〜50.0%,Ni:20.0〜45.0%,Cr/Mo:20.0〜40.0%(Cr:18〜26%,Mo:3〜11%)であることが好ましい。特に、Co:31.0〜37.3%,Ni:31.4〜33.4%,Cr:19.5〜20.5%,Mo:9.5〜10.5%とするのがさらに好ましい。
【0060】
より具体的には、溶製後に熱間鍛造や均質化熱処理などの工程を経て得られた少なくともCoおよびNiを含むマトリクスに置換型の溶質元素を含有する出発原料から、冷問圧延による加工硬化処理を経てCo-Ni-Cr-Mo合金材料を得る。この合金材料は、通常、圧延方向に<100>の集合組織が形成され、圧延方向と直交する方向に<110>の集合組織が形成されることとなる。このため、本実施形態のトーションバー23として用いる場合には、プレス加工,レーザー加工,ワイヤーカット加工などによって圧延方向と直交する方向がトーションバー23の長手方向となるように切り出す。あるいは、超塑性加工によって製品形状に加工し、これらの加工に伴って硬化処理を施して内部残留歪みを与えた後、真空中または還元雰囲気にて時効硬化処理を施すことによって所望の真直度を持つトーションバー23を得ることができる。この時効硬化処理は、400℃〜700℃の温度で数十分から数時間程度(例えば550℃で2時間)行うのが最適であるが、処理時間を短縮するために例えば強磁場中での熱処理を用いることも有効である。
【0061】
これにより、高強度かつ振動減衰能が低く、しかも弾性限界の高い良好な振動特性を持つ高精度なトーションバー23を得ることができる。このような非磁性で加工硬化および時効硬化型のCo-Ni-Cr-Mo合金の一例として、セイコーインスツル株式会社のSPRON510(商品名:SPRONは登録商標)を挙げることができる。このSPRON510は、Co:35%,Ni:32%,Cr:20%,Mo:10%の組成を有する。
【0062】
このようにして、共振周波数が尖鋭かつ振動が共振周波数に対して線対称となるような特性、すなわちQ値が高く(例えば1000以上)かつばね特性の非線形性が非常に小さなトーションバー23を得ることができる。このようなトーションバー23は、振動変形による最大歪みが3×10-3mm程度まで大きくなっても不安定とはならず、消費電力が少ない光走査用素子17を実現することができる。従って、本実施形態によるLBP10は、所望の疲労特性および振動特性を確保しつつ小型化することができ、ジッターなどの不安定性を低減させて安定したレーザー光Lの走査が可能であり、走査角の高精度な制御が可能である。
【0063】
なお、本実施形態では非磁性を示すCo-Ni基合金にてトーションバー23を形成したが、これは揺動体22をトーションバー23と共に揺動させる手段として、磁石31と交番磁界とを用いた場合に安定した駆動を実現することができるからである。従って、素子駆動部18として交番磁界以外の手段、例えば圧電素子などを利用した場合には、トーションバー23の材料として非磁性金属以外にの一般的なばね用材料を用いることができる。より具体的には、SUS301,302,304,316,631,632などのステンレス鋼、ばね鋼(SUP)、ピアノ線(SWP)、ばね用炭素鋼のオイルテンパー線(SWO)採用することができる。この他、ばね用シリコンクロム鋼のオイルテンパー線(SWOSC)、ばね用ベリリウム銅合金(C1700,C1720)、ばね用チタン銅合金(C1990),ばね用リン青銅(C5210),ばね用洋白(C7701)などを採用することも可能である。
【0064】
また、揺動体22と共にトーションバー23に取り付けられる磁石31は、できるだけ小型軽量であって高い保磁力を有することが好ましく、Nd-Fe-B系やSm-Co系の希土類磁石などが好適である。しかしながら、アルニコ磁石,Fe-Co-V合金磁石,Cu-Ni-Fe合金磁石,Cu-Ni-Co合金磁石,Fe-Cr-Co磁石,Pt-Co磁石,ハードフェライト(BaフェライトやSrフェライト)などの焼結磁石を採用することができる。この他、ボンド磁石やスパッター法などで形成した薄膜磁石であってもよく、材質や製造方法または形状などで特に制限されるものはない。
【0065】
揺動体22を構成する2枚の板部材29,30の材料としては、アルミナ,ジルコニア,ベリリウム,チッ化ケイ素,チッ化アルミニウム,サファイヤ,炭化ケイ素,二酸化ケイ素,ガラス,樹脂などの非磁性体を利用することができる。また、これらの表面を鏡面化することによって光反射面21として利用することも可能である。
【0066】
次に、トーションバー23として直径が240μmの先のSPRON510の線材を用い、板部材29,30として厚さが300μmのSiウェーハーをダイサーにて1mm×3mmの矩形に切断したものを用いた場合の振動特性に関し、以下のように評価を行った。これら板部材29,30の表面の平面度は20〜30nmであるが、この板部材29,30の平面度はZYGO社の表面粗さ計を用いて得られたPV値(最大測定値−最小測定値)での評価である。
【0067】
このようにして得られた板部材29,30の接合面29a,30aにトーションバー収容溝29b,30bおよび磁石収容溝29c,30cをそれぞれ形成する。トーションバー収容溝29b,30bの幅および深さは、トーションバー23の直径が240μmであるので、それぞれ120μmとなるが、この溝29b,30bの断面形状を半円形にする必要はなく、矩形断面の溝であってもかまわない。このような溝加工を板部材29,30の接合面29a,30aに施すことにより、板部材29,30の表面、つまり接合面29a,30aと反対側の面が凹形状に変形し、その平面度が50nm程度低下する結果、PV値が70〜80nmとなってしまう。しかしながら、トーションバー収容溝29b,30bにトーションバー23を収容した状態で2枚の板部材29,30の接合面29a,30aを重ね合わせて接着剤などで接合することにより、溝加工に伴う変形が矯正されることとなる。結果として、光反射面21の平面度が50〜60nmまで改善される。この状態においては、2枚の板部材29,30がトーションバー23の長手方向軸線Aを対称軸とする対称形状となり、これらの重心Gがトーションバー23の長手方向軸線A上に位置する。このため、トーションバー23の長手方向軸線Aを中心として揺動体22を安定して共振させることができる。
【0068】
比較として、厚さが200μmおよび525μmのSiウェーハーをダイサーにてそれぞれ1mm×3mmの矩形にそれぞれ切断し、厚さの異なる2枚の板部材を用意した。これら2枚の板部材の平面度は20〜30nmである。次に、肉厚が525μmの板部材の接合面にのみ幅および深さが240μmの矩形のトーションバー収容溝を形成した。これによって、肉厚が525μmの板部材の接合面と反対側の表面が凹形状に変形し、その平面度が70〜80nmまで低下していることを確認した。そして、トーションバー収容溝にトーションバー23を収容した状態で2枚の板部材の接合面を重ね合わせて接着剤にて接合し、得られた揺動体の光反射面の平面度を測定した結果、PV値が70〜80nmに低下してしまうことが判明した。なお、肉厚が525μmの板部材の表面の平面度は、肉厚が200μmの板部材を貼り合わせたことによってもほとんど改善されず、PV値が接合前のほぼ70〜80nmのままであった。その理由は、肉厚が525μmの板部材の方が200μmの肉厚を持つ板部材よりも絶対的な剛性が高いためであると考えられる。
【0069】
感光ドラム11の表面に形成されるレーザー光Lの走査軌跡は、本来、感光ドラム11の回転軸線と平行な1本の直線を描くはずである。しかしながら、トーションバー23の反りやその長手方向軸線Aに対する揺動体22の重心Gの位置ずれなどにより、高次の複雑な振動モードが発生し、波形のうねりや8の字あるいは円といった異常な走査軌跡を描く場合がある。そこで、まず揺動体22の共振周波数が2kHzとなるようにトーションバー23の長さを調整した。さらに、振れ角αを±10度,±17度,±25度,±32度,±38度,±45度,±50度となるように、交番電流の供給値を調整した。そして、この場合における感光ドラム11の表面に形成されるレーザー光Lの走査軌跡を求めた結果、すべての振れ角αにおいて異常振動は発生せず、安定した走査軌跡を描くことを確認することができた。
【0070】
本発明における振動素子として
図2〜
図5に示した光走査用素子17の主要部の構成を、必要に応じて
図6〜
図10のように変更することも可能である。すなわち、本発明の光走査用素子17の他の一実施形態の主要部の正面形状を一部破断して
図6に示し、そのVII−VII矢視に沿った断面形状を
図7に示し、その外観を分解状態で
図8に示す。また、本発明における振動素子としての光走査用素子17の別な実施形態の主要部の正面形状を一部破断して
図9に示し、その外観を分解状態で
図10に示す。
【0071】
図6〜
図8に示した実施形態は、トーションバー23の先端に抜け外れ防止と位置決めとを兼ねた円錐台形状のストッパー部36を形成したものである。矩形の棒状をなす磁石31は、このストッパー部36に臨むように揺動体22と一体に形成され、ストッパー部36に臨むその一端面が揺動体22から外部に露出した状態となっている。本実施形態における磁石31は、トーションバー23を挾むように二つ割り構造となっているが、トーションバー23が貫通する穴31aをあらかじめ形成した単一の磁石31とすることも可能である。
【0072】
図9,
図10に示した実施形態は、上の実施形態におけるストッパー部36を揺動体22内に埋設したものであり、トーションバー23に対する揺動体22の相対位置をより確実に規定することができる。本実施形態では、磁石31がトーションバー23のストッパー部36を横切ることができるように、2枚の板部材29,30に形成された磁石収容溝29c,30cに連通する切欠き部37をストッパー部36に形成している。従って、磁石31およびトーションバー23の先端部と揺動体22とをより強固に接合することが可能となる。
【0073】
ところで、上述したような細長いトーションバー23には、加工変質などに伴う本質的な反りがわずかながら発生しているのが一般的である。このようなトーションバー23の二次元的な反りは、揺動体22の異常振動を伴い、投入エネルギーに対して光反射面21の振れ角αが小さくなるように作用する結果を招く。つまり、反りのあるトーションバー23に固定された揺動体22の重心Gが先の理想揺動軸線A
Rに対して一致していないと、揺動体22の異常振動が起こる。この結果、所望の振れ角αにて揺動体22の光反射面21を揺動させるため、より多くの電流をシートコイル26に投入する必要が生ずる。
【0074】
このようなトーションバー23の反りの具合を誇張して
図11に示す。トーションバー23の基端をガラス定盤33の表面に押し付け、この部分を中心としてトーションバー23をガラス定盤33の上で転がし、ガラス定盤33の表面から揺動体22の重心Gまでの高さhが最大となる位置を探し出す。なお、この高さhに代えてガラス定盤33の表面からトーションバー23の末端までの高さを求めることでも可能である。この状態において、光反射面21となる一方の板部材29の表面が真上を向き、他方の板部材30の表面がガラス定盤33の表面と正対するように、トーションバー23に対して揺動体22が取り付けられる。なお、この状態において、磁石31の磁極の向きもガラス定盤33の表面と平行かつトーションバー23の長手方向軸線Aに対して直交して取り付けられるように、トーションバー23に形成される穴32の向きも規定される。
【0075】
本発明においては、トーションバー23の理想揺動軸線A
Rに対する振動系の重心が一致するように、重心位置補正部材24が揺動体22および/またはトーションバー23に取り付けられる。より具体的には、重心位置補正部材24の重心が先の仮想平面内にあって揺動体22の重心Gよりも理想揺動軸線A
R側に位置するように、本実施形態では基板27側を向く他方の板部材30の表面に重心位置補正部材24が接合される。つまり、重心位置補正部材24はトーションバー23が凸側に反った面、つまり本実施形態では他方の板部材30の表面に取り付けられている。この重心位置補正部材24は、揺動体22,磁石31,重心位置補正部材24を含めた振動系の共通重心が最終的に理想揺動軸線A
Rと合致するような質量を有していることが望ましい。これにより、揺動体22の光反射面21は、投入エネルギーに対して効率よく理想揺動軸線A
Rを中心として揺動することとなる。なお、重心位置補正部材24を理想揺動軸線A
Rに近い方に配される一方の板部材29,30とトーションバー23との間に配することも可能である。
【0076】
本実施形態における素子駆動部18は、揺動体22および/またはトーションバー23に固定される磁石31と、この磁石31と隙間を隔てて対向するようにベース20側に設けられるシートコイル26と、図示しない電源とを備えている。シートコイル26には、トーションバー23,揺動体22,磁石31,重心位置補正部材24で構成される振動系の共振周波数に対応した交番電流が素子駆動部18の電源から与えられる。これにより、揺動体22の光反射面21をこの振動系の共振周波数にて理想揺動軸線A
R回りに揺動、つまり共振状態で振れ回りさせることができる。従って、この振動系の振幅、つまり揺動体22の光反射面21の振れ角αの大きさは、シートコイル26に与えられる電流量によって調整可能である。交番電流の波形は、正弦波以外に三角波やパルス出力などであってもよい。なお、上述したようなシートコイル26に代えてヨークとなる軟磁性体を内包するコイルを用いることも可能である。また、揺動体22の光反射面21に対して干渉しない範囲で揺動体22を挟むように配される一対の磁界印加手段を設けることも可能である。
【0077】
ここで、重心位置補正部材24の質量と揺動体22の光反射面21の振れ角αとの関係を
図12に示す。これは、長さが32mmで0.35×0.15mmの矩形断面を持ち、
図6において50μmの反りを持つトーションバー23に対し、一定の交番電流をシートコイル26に流した場合の揺動体22の光反射面21の振れ角αの変化を示している。ここで用いた2枚の板部材29,30は、それぞれ0.1mmの厚みを有し、2.8×1.4mmの矩形表面を持ち、3mmの長さの磁石31を組み込んだものであり、他方の板部材30の表面に重さの異なる重心位置補正部材24を接合したものである。
図12から明らかなように、この場合においては約3mgの重さの重心位置補正部材24を接合した時、振れ角αが最大となることが確認できる。従って、揺動体22の重心Gの位置が不明であっても、トーションバー23の反りの方向さえ認識できれば、揺動体22の振れ角αが最大となるような最適な重心位置補正部材24を選択することが可能である。つまり、トーションバー23の反りの凸側の面に質量の異なる重心位置補正部材24を装着して揺動体22の振れ角αを測定すればよい。なお、トーションバー23の長手方向軸線Aに対して直交する断面形状は、円形に限らず、
図12で説明したように矩形断面など、任意の断面形状を採用することができる。
【0078】
制御装置19は、感光ドラム11の長手方向両端に近接して配される一対のBDセンサー34と、これら一対のBDセンサー34からの検出信号を受信して素子駆動部18の出力を制御する制御部35とを有する。制御部35は、光走査用素子17の揺動体22の揺動による光反射面21の振れ角αが感光ドラム11の表面の所定範囲に収まるように、一対のBDセンサー34からの検出信号に基づいて素子駆動部18の出力をフィードバック制御する。
【0079】
従って、画像信号に応じてレーザー光源13から出射するパルス状のレーザー光Lがコリメート光学系15を通って光走査用素子17の揺動体22の光反射面21に入射し、この光反射面21にて反射してfθレンズ16を介して感光ドラム11の表面に照射される。この場合、光走査用素子17の揺動体22の光反射面21がトーションバー23の共振によって理想揺動軸線A
R回りに揺動することにより、レーザー光Lが感光ドラム11の回転軸線と平行な方向に走査される。さらに、感光ドラム11の回転によって画像情報、つまり静電潜像が感光ドラム11の回転方向に沿ってその表面に形成されることとなる。
【0080】
図2〜
図5に示した光走査用素子17の主要部の構成を、必要に応じて
図13〜
図17のように変更することも可能である。すなわち、本発明における振動素子としての光走査用素子17の他の一実施形態の主要部の正面形状を一部破断して
図13に示し、そのXIV−XIV矢視に沿った断面形状を
図14に示し、
図13中のXV−XV矢視に沿った拡大断面形状を
図15に示す。また、本発明における振動素子としての光走査用素子17の別な実施形態の主要部の正面形状を一部破断して
図16に示し、そのXVII−XVII矢視に沿った断面形状を
図17に示す。
【0081】
図13〜
図15に示した実施形態は、トーションバー23の先端に抜け外れ防止と位置決めとを兼ねた円錐台形状のストッパー部36を形成したものである。磁石31は、このストッパー部36に臨むように揺動体22と一体に形成され、ストッパー部36に臨むその一端面が揺動体22から外部に露出した状態となっている。本実施形態における磁石31は、トーションバー23を挾むように二つ割り構造となっているが、トーションバー23が貫通する穴32をあらかじめ形成した単一の磁石31とすることも可能である。重心位置補正部材24は、トーションバー23の長手方向軸線Aに沿ってその基端側に向けて肉厚が漸減する楔状をなしている。
【0082】
図16,
図17に示した実施形態は、上の実施形態におけるストッパー部36を揺動体22内に埋設したものであり、トーションバー23に対する揺動体22の相対位置を確実に規定することができる。本実施形態では、磁石31を重心位置補正部材24として兼用させている。すなわち、トーションバー23の凸側に沿った面に切欠き部37を形成し、ここに磁石31を差し込み、この状態で2枚の板部材29,30を重ね合わせてストッパー部36と磁石31とを板部材29,30で挟み込むようにしている。この構造は、揺動体22を樹脂で射出成形する場合に特に好適であり、これら磁石31およびトーションバー23の先端部を一体的に接合することが可能となる。
【0083】
本発明の振動素子によると、揺動体の平面部を理想揺動軸線と揺動体の重心とを含む仮想平面に対して直交させると共に重心位置補正部材の重心を揺動体の重心よりも理想揺動軸線側に位置させたので、揺動体を効率よく共振させることができる。
【0084】
重心位置補正部材をトーションバーの理想揺動軸線側を向く面に取り付けた場合、揺動体をさらに効率よく共振させることができる。揺動体がトーションバーを挟んで相互に接合される同一寸法形状を持つ2枚の板部材を含み、重心位置補正部材を理想揺動軸線に近い方に配される一方の板部材か、この一方の板部材とトーションバーとの間に配した場合も同様である。重心位置補正部材の仮想平面に沿った厚み寸法がトーションバーの軸線に沿ってトーションバーの一端に向けて漸減する楔状をなしている場合も、揺動体をさらに効率よく共振させることができる。
【0085】
本発明の光走査装置によると、揺動体の光反射面を理想揺動軸線と揺動体の重心とを含む仮想平面に対して直交させると共に重心位置補正部材の重心を揺動体の重心よりも理想揺動軸線側に位置させたので、揺動体を効率よく共振させることができる。
【0086】
本発明の画像形成装置によると、本発明による光走査装置と、光源からの光が振動素子の揺動体の光反射面を介して照射される画像形成媒体とを備えているので、小型で高性能な画像形成装置を実現することができる。
【0087】
本発明の画像投影装置によると、本発明による光走査装置と、光源からの光を理想揺動軸線と平行な方向に沿って偏向させる光偏向装置と、これにより偏向する光が照射されるスクリーンとを備えているので、小型で高性能な画像投影装置を実現することができる。
【0088】
ここで、トーションバー23における反りが、このトーションバー23の支持される揺動体22の光反射面21の振れ角αに与える影響について考察する。
【0089】
先の
図11に示すように、トーションバー23の基端をガラス定盤33の表面に押し付け、この部分を中心としてトーションバー23をガラス定盤33の上で転がす。この時のトーションバー23の末端、より正確には揺動体22の重心のガラス定盤33からの高さhが最大となる位置での反り量を真直度として測定する。この反り量が0μm,50μm,100μmであるトーションバー23を試料として用意し、その末端に取り付けられた揺動体22を2kHzの共振周波数にて揺動させた。
【0090】
揺動体22の揺動の振れ角の測定の方法は、シートコイル26を流れる電流値を変化させることで、揺動体22の光反射面21、つまり反射するレーザー光Lの振れ角αが段階的に大きくなるように変化させた。光反射面21を反射したレーザー光Lは、感光ドラム11上を走査する1本の直線としての走査線を描くはずであるが、振れ角が大きくなると、曲線や8の字状または円といった異常な走査線を描く状態となる。振れ角αを段階的に大きくしていく途中で、このような状態が発生したとき、異常振動が発生したと判定する。この場合、異常振動が発生した段階での振れ角と1つ前の段階の振れ角との間でさらに小さく区切って振れ角を変化させ、異常振動が発生しない最も大きい振れ角を最大振れ角として規定した。
【0091】
このようにして測定した結果を
図18に示す。この
図18から明らかなように、反り量が0μmのトーションバー23の場合の最大振れ角は±45〜±50度となり、50μmのものでは±25〜±39度となり、100μmのものでは±17〜±25度となった。このことから、トーションバー23の反りが全くない0μmの場合に比べて、反りが50μmの場合および100μmの場合の最大振れ角は、それぞれ3割および6割程度低下することが理解される。すなわち、トーションバー23の反り、言い換えれば真直度が光走査用素子17の揺動体22の振れ角に大きな影響を及ぼすことが確認される。
【0092】
そこで、本発明では、トーションバー23の真直度を向上させるために、以下のような方法を提案する。
【0093】
トーションバー23を板状材料から加工形成する場合、プレス加工,レーザー加工,ワイヤーカット,エッチングまたは超塑性加工などで所定の形状に加工される。この場合、得られるトーションバー23の反り量のばらつきは大きく、100μm〜200μmの範囲となる。特に、ロール状材料からの加工である場合、圧延方向であるRD方向は、圧延方向と直交する方向であるTD方向に比べ、初期の反りが大きいのが一般的である。よって、トーションバー23として利用する場合、TD方向をトーションバー23の長手方向とすることが、トーションバー23の反り対策として有効である。すなわち、引張り加工によってトーションバー23を作ることで、トーションバー23の外周面には引張り加工による加工痕が形成される。その識別としては、
図19に模式的に示すように、材料表面の加工痕、つまりひき目C
Sの方向で判断することができる。すなわち、ひき目C
Sが延在する長手方向が圧延方向となる。
【0094】
また、材料の振動特性を高めるために時効硬化処理として例えば熱処理を施すが、トーションバー23をSUS304などで加工形成する場合、この熱処理に加えて炉中で必要な規定張力を材料にかけて加工処理を施す、いわゆるテンションアニールを実施することにより、その反りをほとんど無くすことが可能である。さらに、このような時効硬化処理を施してもトーションバー23に若干の反りが生じている場合、反り量、言い換えれば、真直度が略等しいトーションバーを2枚用意する。
図20に模式的に示すように、この2枚のトーションバー片23a,23bを互いに対して反るように、背中合わせにして接着剤などで接合し、1つのトーションバー23として組み立てて形成される。このようにして形成されたトーションバー23の反り量は、10μm以下となり、
図18に示すように、最大振れ角が±45度となり、広角に光走査可能な光走査用素子17を安定的に供給することができる。
【0095】
次に、トーションバー23を丸棒や角棒などの線状材料から加工したり、あるいは原料から線状に加工形成する場合、ダイス加工で所定に形状に加工される。この場合も板状材料から形成する場合と同様、得られるトーションバー23の反り量は大きい。トーションバー23の反り量を低減させる、すなわち、真直度を向上させるため、ダイス加工時に、線状材料にしごき加工を施す、すなわち、張力をかけながらしごくことが有効である。この場合の識別としては、材料表面に形成されるひき目C
Saの方向で判断することができる。すなわち、
図21,
図22に模式的に示すように、トーションバー23の長手方向に対して螺旋状のひき目C
Saが形成される。なお、ダイス加工においては、当該加工の前後のトーションバー23の断面積の比率によって決まる加工率が最も重要なファクターとなり、その最適値は70〜80%である。このようにして形成されたトーションバー23の反り量も10μm以下となり、広角に光走査可能な光走査用素子17を安定的に供給することができる。
【0096】
上述したような加工を板状材料や線状材料に対して施すことにより、トーションバー23の長手方向軸線Aと理想揺動軸線A
Rとが一致するように真直度が向上し、広角に光を走査可させ得る光走査用素子17を実現することが可能となる。このようにして本実施形態ではトーションバー23の真直度の向上を達成させているが、先の実施形態のように揺動体22に重心位置補正部材24を加えることで、さらにその真直度を向上させることができる。具体的には、揺動体22の第2の板部材30の表面に重心位置補正部材24を接合することで、
図6に示した揺動体22の重心位置をガラス定盤33の表面により近づける。これにより、トーションバー23の反りを小さくし、結果としてトーションバー23の長手方向軸線Aと理想揺動軸線A
Rとを一致させるように構成することができる。
【0097】
本発明は、上述のように構成することで、所望のトーションバーの真直度を確保するとともに、振れ角の設計範囲を広くするのに有利な振動素子と、光走査装置およびこれを用いた画像形成装置並びに画像投影装置を実現することができる。
【0098】
図23〜
図26には、
図27に模式的に示した本発明に係る振動素子の組み立て方法が概略的に示されている。なお、
図23は、振動素子を構成する部品としてのトーションバーと、揺動体(第1および第2の板部材)と、磁石とが分解状態にて示されており、方向を表すために三次元の座標軸(x,y,z)が示されている。
図23〜
図26の順に振動素子の主要部が組み立てられる。
図27〜
図29には、振動素子を構成する揺動体の内部に配置される磁石の配置位置例が模式的に示されている。
【0099】
図23〜
図26に示した実施形態においては、振動素子17を構成するトーションバー23の材料として、後述するような加工硬化および時効硬化型のCo−Ni基合金からなる線状材料から形成されている。より具体的には、トーションバー23の材料として直径が300μmの先のSPRON510の線材を採用している。なお、トーションバー23は、線状材料に限定されるものではく、板状材料から形成することも可能である。
【0100】
磁石31は、直径200μmで長さ2mmの円柱形状を有したものを採用しているが、円柱に限られるものではなく、角柱であってもよい。
【0101】
振動素子17を構成する揺動体22は、上述した実施態様と同様に、同一寸法形状を有する第1および第2の板部材29,30から構成される。第1および第2の板部材29,30は、それぞれ厚さが300μmのSiウェーハーを用いている。第1および第2の板部材29,30は、x方向に1mm,y方向に3mmとなった矩形をなす。揺動体22を構成する第1および第2の板部材29,30の各接合面29a,30aには、それぞれトーションバー収容溝29b,30bと、磁石収容溝29c,30c(一方の磁石収容溝30cのみ示している)とが形成される。トーションバー収容溝29b,30bは、第1の板部材29の接合面29aの略中央部分をx軸に沿った縦方向に延在するように形成される。磁石収容溝30cは、第2の板部材30の接合面30aの前方部分(
図23においてx軸方向)において、y軸に沿った横方向に延在するように形成される。また、座標軸y方向に沿った磁石収容溝30cの長さは、磁石31の長さと同じである。トーションバー収容溝29b,30bの幅は、トーションバー23の直径と同じであり、これらの深さはトーションバー23の直径の1/2である。同様に、磁石収容溝30cの幅は、磁石31の直径と同じであり、その深さは、磁石31の直径の1/2である。また、本実施態様における磁石収容溝30cの長さは、磁石31の長さと同じである。本実施形態では、磁石収容溝30cの両端が閉じているが、これに限定されるものではなく、他の実施形態に示したように、両端が開いた状態となっていてもよい。さらに、トーションバー収容溝29b,30bの断面形状は、
図23に示cような矩形形状であってもよいし、半円形状であってもよい。同様に、磁石収容溝30cの断面形状は、
図23に示すような半円形状であってもよいし、矩形形状であってもよい。
【0102】
以上の構造から理解されるように、トーションバー収容溝29b,30bおよび磁石収容溝30cは、本実施形態においては、それぞれの接合面29a,30a上で相互に直交するように交差している。なお、第1の板部材29の接合面29aにも、第2の板部材30に形成された磁石収容溝30cに対応して同じ大きさおよび形状を有する磁石収容溝29c(図示せず)が形成されていることは言うまでもない。
【0103】
次に、振動素子17の組み立て方法について説明する。トーションバー23,揺動体22を構成する第1および第2の板部材29,34aおよび磁石31を用意する。このとき、第1,第2の板部材29,34aの各接合面29a,30aのそれぞれには、縦横に直交するトーションバー収容溝29b,30bおよび磁石収容溝29c,30cが形成されている。
【0104】
続いて、揺動体22の一部を構成する第2の板部材30の磁石収容溝30c内に磁石31を組み込むことで、磁石31が揺動体22に対して所定位置に位置決めされる。続いて、この位置決めされた磁石31を基準として、トーションバー23の先端を磁石31の側面に突き当て、トーションバー23を第2の板部材30のトーションバー収容溝30b内に組み込む。それにより、トーションバー23の先端部は、揺動体22に対して所定の位置に位置決めされる。結果として、トーションバー23は、該トーションバー23の長手方向軸線Aが揺動体22の長手方向に対して直交するように配置される。最後に、第1の板部材29の接合面29aを第2の板部材30の接合面30aに対向させ、これらがトーションバー23と磁石31とを挟み込むようにして第1の板部材29を第2の板部材30に接合する。このとき、トーションバー23の露出している上半分は、第1の板部材29に形成されたトーションバー収容溝29b内に組み込まれ、磁石31の露出している上半分は、第2の板部材30の磁石収容溝30b内に組み込まれる。
【0105】
このようにして、トーションバー23と揺動体22と磁石31とが相対的な所定位置に正確に位置決めされ、磁石31は揺動体22の内部に埋め込まれた状態となる。なお、磁石31は、
図27〜
図29に示すように、揺動体22に対してx軸方向に沿った任意の位置に配することができる。例えば
図27においては前端部、
図28においては中央部、
図29においては後端部に磁石31を配している。
図28に示すように、磁石31を揺動体22の中央部に配置した場合、例えば、上述した
図2〜
図5に示した実施形態と同様な構成にすることができる。また、磁石31を揺動体22の後端部に配した場合、前述した
図9,
図10に示した実施形態と同様な構成にすることができる。これら
図27〜29の何れの場合においても、トーションバー23は、磁石31と直交した状態、つまり揺動体22の長手方向と直交した状態で配置されることが理解されよう。
【0106】
ところで、トーションバー23には、反りが少なからず存在し得るため、トーションバー23の真直度が低くなる。トーションバー23にこのような反りが存在すると、トーションバー23に支持される揺動体22の円滑な揺動運動を損ない、結果として投入エネルギーに対して光反射面21の振れ角αが小さくなるように作用する。言い換えれば、揺動体22が反りのあるトーションバー23に固定されていると、トーションバー23の長手方向軸線Aが理想揺動軸線に一致せず、揺動体22は、異常振動が発生し易くなる。この結果、揺動体22の光反射面21を所望の振れ角αで揺動させるため、より多くの電気エネルギーをシートコイル26に投入しなければならない。
【0107】
このようなトーションバー23の反りに対する対応策として、
図3〜5に示すように、揺動体22に重心位置補正部材24を加えることが考えられる。具体的には、揺動体22の第2の板部材30の表面に重さの異なる重心位置補正部材24を接合することで、
図3に示すように揺動体22の重心位置を変更する。これにより、トーションバー23の反りを小さくし、結果として、トーションバー23の長手方向軸線Aと理想揺動軸線を一致させるように構成することができる。
【0108】
本発明は、振動素子の組み立てを簡易化するとともに、振動素子を構成するトーションバー、揺動体、磁石などの部品の位置決め制度の向上を実現することができる。また、揺動体内部に磁石を配置するため、埃などの浮遊物が直接付着することを抑制、さらには防止することができる。更に、位置決め精度を向上させることにより、振動素子全体の重心ずれも低減されるため、安定した光走査を実現し得る光走査装置およびこれを用いた画像形成装置または画像投影装置を提供することができる。
【0109】
上述した実施形態では、何れも片持ち構造のトーションバー23について説明したが、トーションバー23の長手方向両端部を枠体28とカバー部材25との間に固定し、その中央部に揺動体22を固定したものであってもよい。
【0110】
このような本発明による振動素子17の別な実施形態の主要部の平面形状を
図30に示し、その外観を分解状態で
図31に示すが、先の実施形態と同一機能の要素にはこれと同一符号を記すに止め、重複する説明は省略する。
【0111】
本実施形態におけるトーションバー23は、断面が円形をなす線材から形成され、その長手方向両端部に枠体28およびカバー部材25に対する固定部となる平坦部38aと、その長手方向中央部に揺動体22との接合部となる平坦部38bとが形成されている。これらの平坦部38a,38bは、トーションバー23の長手方向軸線Aを対称軸とする回転対称構造を持ち、それぞれ相互に平行な一対の平坦面を有すると共に全ての平坦部38a,38bの平坦面が相互に平行に形成されている。このような平坦部38a,38bを揺動体22との接合部として形成したことにより、トーションバー23の円形断面の部分に揺動体22を接合する場合よりも、揺動体22とのより緊密な一体化がなされる結果、トーションバー23に対する揺動体22の剥離や位置ずれが発生しにくくなり、安定した振動特性を得ることができる。しかも、トーションバー23の固定部としての平坦部38aが接合部としての平坦部38bと位相が合致しているため、枠体28に対する揺動体22の向きを容易に設定することができる。
【0112】
本実施形態における揺動体22は、トーションバー23の平坦部38bを挟んで相互に接合される同一寸法形状の2枚の矩形の板部材29,30を含み、これら2枚の板部材29,30は、トーションバー23の長手方向軸線Aを対称軸とする対称形状を有している。これら2枚の板部材29,30の接合面29a,30aには、平坦部38bの断面形状とほぼ対応した形状を有するトーションバー収容溝29b,30bが形成されている。トーションバー23の平坦部38bを間に挟んで板部材29,30を接合した場合、トーションバー収容溝29b,30bの底面が平坦部38bの表面に密着状態で接合されるようになっている。これらの接合方法に関しては、先の実施形態で述べた種々の手段を適宜採用すればよい。
【0113】
なお、トーションバー収容溝29b,30bを形成せずに板部材29,30を接合することも可能であり、図示しない磁石は、先の実施形態の何れかの構成を採用して揺動体22またはトーションバー23に取り付けられる。
【0114】
トーションバー23を構成する材料としては、先の実施形態と同じものを使用することができ、その断面形状も円形に限らず、矩形断面の線材を用いることも可能である。また、揺動体22を構成する材料や、その光反射面21に関しても、先の実施形態と同じものを適宜採用することができる。
【0115】
このような平坦部38a,38bを有するトーションバー23の製造方法の一例を以下に説明する。この方法は、安定した振動特性を実現できる光走査用素子17を低コストにて生産性良く製造できることを意図している。
【0116】
このトーションバー23の加工前の素材は、断面が円形の線材であり、本実施形態では直径が0.24mmのものを採用している。この素材に平坦部38a,38bを加工するに先立ち、あらかじめ線材の真直度を矯正しておくことが好ましく、これによってトーションバー23の精度をさらに向上させることができる。平坦部38a,38bは、押し込み加工や引張り加工あるいはしごき加工などの塑性加工の他に、切削や研削あるいはウェットエッチングなどの除去加工などで線材の表面に形成することができる。本実施形態では、線材の中心軸線を挟んでその径方向に相互に平行に対向する成形面を有する一対のパンチを用いて線材を押し込み加工することにより、パンチの成形面に対応した平坦部38a,38bを線材に形成するようにしている。この場合、一対の平坦部38a,38bの厚みは、線材の直径の40%以上であることが好ましい。
【0117】
複数の平坦部38a,38bを同時に形成する場合、トーションバー23の長手方向軸線Aを基準とする平坦部38a,38bの相対的な位置ずれを最小限に抑えることができ、ベース20およびカバー部材25にトーションバー23を組み付ける際のこれらの位置精度を向上させることも可能となる。また、このような塑性加工を行った場合、平坦部38a,38bの幅寸法は線材の直径よりも実質的に大きくなり、線材の円形断面の部分に揺動体22を接合する場合よりも、揺動体22との密着性が改善される結果、その振動特性を高めることができる。
【0118】
図32は、複数の平坦部38a,38bを所定の間隔で形成したこのような線材の外観を模式的に示している。希望するトーションバー23の寸法形状を参酌し、線材を切断線C
Lに沿って平坦部38bの長手方向中央部からその長手方向軸線と直角に切り分け、切断後に残る平坦部38a,38bを上述した固定部および接合部として機能させることができる。このように多数の平坦部38a,38bが線材の長手方向に沿って所定間隔で間欠的に形成された線材を適切に切り分けることにより、線材の廃棄部分をなくして一本の線材から多数のトーションバー23を形成することができる。しかしながら、線材の切断工程を線材に対する平坦部38a,38bの形成前に行うことも可能である。
【0119】
また、平坦部38a,38bの形成後に時効硬化処理を施すようにしてもよい。ここで言う時効硬化処理とは、平坦部38a,38bに対する熱処理と、それ以外の部分に対する熱処理とがそれぞれ異なる温度条件下で実行される処理をいう。このような時効硬化処理を施すことにより、トーションバー23のヤング率をさらに向上させることができ、しかも平坦部38a,38bの歪みをさらに低減させることが可能となる。しかしながら、このような熱処理を平坦部38a,38bの成形前にトーションバーの素材に施すと、素材の加工性が低下したり、成形後の平坦部38a,38bの歪みが大きくなってしまう可能性があることに注意されたい。
【0120】
このように、高コストで長時間に亙る成膜工程などを経ずに線材に対する押し込み加工によって平坦部38a,38bを形成することにより、特性のバラツキが少ないトーションバー23を容易かつ大量に生産することができる。
【0121】
上述した平坦部38a,38bを有するトーションバー23を先の実施形態で示した片持ち型のものに応用することも可能である。このような主要部の側面形状を
図33に示し、その分解構造を
図34に示すが、先の実施形態と同一機能の要素にはこれと同一符号を記すに止め、重複する説明は省略する。
【0122】
本実施形態におけるトーションバー23は、平坦部38a,38bが両端部にのみ形成され、基端側の平坦部38aがベース20およびカバー部材25に対する固定部として機能し、末端側の平坦部38bが揺動体22に対する接合部として機能する。本実施形態においても、トーションバー23に対する揺動体22の剥離や位置ずれが発生しにくくなり、安定した振動特性を得ることができる。しかも、トーションバー23の固定部としての平坦部38aを接合部としての平坦部38bに対して位相を合致させることにより、枠体28に対する揺動体22の向きを容易に設定することが可能である。
【0123】
図30および
図33に示した2種類の光走査用素子17について経時的な信頼性の確認するため、共振周波数を2kHz、駆動周波数を2kHz前後に設定し、振れ角を±40度に固定して2000時間連続で光走査用素子17を駆動して信頼性の試験を行った。その結果、共振周波数が低周波数側に数Hzシフトしたものの、信頼性が良好であることを確認できた。また、異常振動も発生しなかった。このように、本実施形態では安定した振動特性を実現できる光走査用素子17を低コストで生産性良く製造することが可能である。
【0124】
本発明をオーバーヘッドプロジェクターなどの画像投影装置に適用することも可能であり、このような本発明の他の実施形態の概念を
図35に示すが、先の実施形態と同一機能の要素にはこれと同一符号を記すに止め、重複する説明を省略する。すなわち、本実施形態における画像投影装置40は、先の実施形態と基本的な構成が同じ光走査装置14と、光源41からの光を所定方向に偏向させる光偏向装置42と、この光偏向装置42により偏向した光が照射されるスクリーン43とを具えている。
【0125】
光偏向装置42は、光走査装置14の光走査用素子17の揺動体22の光反射面21にて反射した光源41からの光をトーションバーの長手方向軸線Aと平行な方向に沿って偏向させるものである。この光偏向装置42による光の偏向速度は、光走査用素子17の図示しない揺動体の振動周期よりも相対的に遅くすることができるので、本実施形態では周知のガルバノミラーを用いている。
【0126】
RGB三原色を含む光源41から出射する光は、光走査用素子17および光偏向装置42により2次元走査され、スクリーン43に映像として投射される。
【0127】
光走査用素子17の主要部を構成する揺動体22の光反射面21の振れ角αは、制御装置19から出力される制御信号に基づいて素子駆動部18により調整される。また、光偏向装置42も同様に、制御装置19からの出力に基づき、揺動体22のトーションバーの長手方向軸線Aに対して直交する軸線回りのガルバノミラーの振れ角が制御される。制御装置19には、スクリーン43に投影される画像情報が入力部44から伝達され、光源41からスクリーン43に至る光路の距離に関する情報が測距部45から入力される。制御装置19は、これら入力部44および測距部45からの情報に応じた投影画角や拡大率の設定および画像の大きさやその縦横比に基づき、光走査用素子17および光偏向装置42の走査角をそれぞれ変更する。なお、画像の拡大率は、走査角を変更せずとも光源41に対する通電のオン/オフ制御によっても可能である。しかしながら、走査角を変更することによって光源41のオフ時間を減らすことによって、高輝度の画像をスクリーン43に投影することができる。
【0128】
本実施形態の画像投影装置40においても、加工硬化および時効硬化型のCo-Ni基合金からなるトーションバー23に揺動体22を固定しているため、小型化に加えてジッターなどの不安定性を低減でき、走査角を変更した場合でも安定した動作が可能である。また、振動減衰率の歪み振幅依存性が小さいため、走査角を大きくした場合の急激な消費電力の増加も起こらない。さらに、光の有効利用によって光源41の駆動電力を低減することができる。これらにより、小型化と併せて、素子駆動部18や電源の容量を低減させることができ、小型で投影画角の大きな高性能の画像投影装置40を実現することができる。
【0129】
このように、本発明はその特許請求の範囲に記載された事項のみから解釈されるべきものであり、上述した実施形態においても、本発明の概念に包含されるあらゆる変更や修正が記載した事項以外に可能である。つまり、上述した実施形態におけるすべての事項は、本発明を限定するためのものではなく、本発明とは直接的に関係のないあらゆる構成を含め、その用途や目的などに応じて任意に変更し得るものである。