【実施例】
【0055】
材料及び方法
ヒト被験者。この試験に参加する全ての被験者、及び対照となる個人は、ミネソタ大学の被験者委員会又は参加機関により認可されたインフォームドコンセント用紙にサインした。関係のない対照DNAサンプルを、CEPHパネル、及び健常な北アメリカの住人から入手した(n=500)。DNAをPuregeneキット(Gentra Systems,Plymouth,MN)を使用して抹消静脈血から抽出した。
【0056】
染色体分離細胞系の産生。11番染色体の病気に冒された又は正常なコピーについてのマウス/ヒトのハイブリッド細胞系ハプロイドを、前述の{Papadopoulos et al.,Nat Genet 11,99−102(1995)}のように、マウスE2細胞と病気に冒されたアメリカ系家族由来のヒトリンパ芽球様細胞とを融合することによりGMPジェネティクス(Waltham,MA)で産生した。概要として、病気に冒された個人由来のリンパ芽球様細胞を、マウスE2細胞に電気融合し、そしてHATプラスジェネティシンを使用し、非融合のE2細胞とリンパ芽球様細胞とをそれぞれ選択した。生き残りのコロニーを拡大させ、そして病気に冒された又は正常な11番染色体の単一コピーのみを含むクローンを、SCA5領域をつなぐマイクロサテライトマーカーを検査することにより選択した。
【0057】
SCA5領域におけるマイクロサテライト反復マーカーのスクリーニング。マイクロサテライト反復マーカーを、[γ−33P]ATP標識されたプライマーを使用するPCRにより増大した。生成物を、4%変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、そしてオートラジオグラフィーにより視覚化した。
【0058】
単一の病気に冒された染色体の遺伝型は、非多型マーカーにおける反復拡張変異の排除を可能とした。E2マウスDNAをネガティブコントロールとして使用し、増幅された生成物がマウスDNAではなくヒトDNAに特異的であることを確認した。全ての多型マーカーを、SCA5ファミリーの各々の病気に冒されたハプロタイプを決定するために、その後使用した。
【0059】
病気に冒されたSCA5ハプロイド細胞系由来のBACライブラリーの構築、及びショットガンDNAシークエンシング。不十全なHindIII消化を、病気に冒された11番染色体を含むハプロイド細胞系由来のDNAで実施し、plndigoBAC−5ベクター(Epicentre,Madison,WI)に導入し、次いで、それを使用し、約352,000個の組み換えクローンのBACライブラリーを準備した。当該BACライブラリーを、マイクロサテライトマーカーを使用するPCRによりスクリーニングし、その後、ポジティブBACクローンをハイブリダイゼーションにより単離した。
【0060】
Lark Technologies Inc.(Houston,TX)は、ショットガン・シークエンシングを実施し、組み立てた。簡潔にいうと、ショットガン・ライブラリーを、3つのBAC(VI−C、VI−C11、IV−H4)について構築し、そして当該断片化されたDNAをpUC57ベクター中にサブクローニングすることにより、アメリカ系のSCA5ファミリーとフランス系のSCA5ファミリーとの間のハプロタイプ保存領域をつないだ。当該3つのショットガン・ライブラリーのシークエンシング反応を実施し、その後、ABI3730xlDNA配列上で分析した。当該配列データをPhred−Phrap−Consedソフトウエアを使用して組み立て(Gordon et al.,Genome Res 8,195−202(1998))、そしてインターネットサイトであるUCSCゲノムバイオインフォマティックス及び全米バイオテクノロジー情報センターを通じた有用なオンラインのデータを使用し、特異的遺伝子に対してBLASTした。
【0061】
SCA5ファミリーにおけるSPTBN2遺伝子のシークエンシング、及び対照における変異シークエンシング。病気に冒されたフランス人及びドイツ人のSCA5患者のゲノムDNAを使用し、PCRによりSPTBN2エキソンを増幅し、そして得られた産生物をシークエンシングした。アメリカ人とフランス人の変異を同定した後、家族及び1,000人の対照染色体を、PCRによりこれらの欠失変異についてスクリーンした。PCRを、[γ−33P]ATPで、各フォワードプライマーの5’末端を標識することにより実施した。当該得られた産生物を4%の変性ポリアクリルアミドゲル上で分離し、オートラジオグラフィーにより視覚化した。対立遺伝子特異的PCR分析を使用し、ドイツ人のミスセンス変異についてスクリーンした。2つのフォワードプライマーであって、1つはその3’末端で変化したヌクレオチド(C)を含み、もう1つは5’末端で19bpの尾を含む当該プライマーを、単一反応に使用し、変異のある対立遺伝子(より短い産生物)、及び正常な対立遺伝子(より長い産生物)の両方を、各々増幅した。得られた産生物を、4%のアガロースゲル上で分離し、そしてエチジウムブロマイドにより視覚化した。その後、PCRを、関係のない1000人の染色体について実施し、ドイツ人の変異についてスクリーンした。当該PCRプライマー配列とSPTBN2シークエンシング及び変異スクリーニングのために使用される条件を、表1に示す。
【0062】
【表1】
【表2】
【0063】
【表3】
【0064】
RT−PCR分析。RNAを、TRIzol(Invitrogen,Carlsbad,CA)を使用して、アメリカ人のSCA5患者、及び対照個人由来の小脳病理解剖組織の〜100mgから収穫した。第1鎖合成を、RT−PCRキットとしてInvitrogen Superscript(登録商標)第1鎖合成システム(Invitrogen,Carlsbad,CA)、及びエキソン14由来のSPTBN2遺伝子特異的プライマーを使用して実施した。当該アメリカ人のSCA5欠損領域の側面に位置するPCRプライマーを、エキソン12及び13のそれぞれの中に位置づけた。産生物を2%アガロースゲル上で分離し、そしてエチジウムブロマイドで視覚化した。当該アメリカ人のSCA5欠損のRT−PCR分析のプライマー、及び条件を表1に示す。
【0065】
免疫組織化学。アメリカ系SCA5家族、及び神経系の病気のない対照個人由来の病理解剖組織、並びに対照、及びSCA1B05遺伝子導入マウス由来の脳を、パラフィン中に埋め込み、そして5μm部分を分離した。これらの部分を0.3%H
20
2中に、30分間インキュベートし、内因性ペルオキシダーゼ活性を失活させ、次いで、pH6.0で10mMのクエン酸塩緩衝液中、スチーマーにより加熱した。当該部分を、2次抗体を産生する動物由来の5%の正常血清中でブロックした。スライドを、β−IIIスペクトリンあるいは、1:500又は1:100で各々希釈されたEAAT4抗体(Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,CA)と共に、4℃で、一晩、インキュベートした。ポジティブ染色法を、色原体としてのジアミノベンジジンと共に、アビジン−ビオチン−ペルオキシダーゼ・コンプレックス方法(Vector,Burlingame,CA)により視覚化し、そしてヘモトキシリンで対比染色した。
【0066】
免疫分析。SCA5アメリカ系家族、対照となるヒト、対照となるマウス、及びSCA1B05遺伝子導入マウス由来の小脳組織を、ウエスタン分析のために使用した。組織を、RIPA溶解バッファー(1×PBS,1%のNonidetP−40,0.5%のデオキシコール酸ナトリウム,0.1%SDS,100μg/mlのPMSF,50KIU/mlのアプロチニン,1mMのオルトバナジウム酸ナトリウム)中、Polytronホモゲナイザーで抽出した。タンパク質抽出の効率性を確実なものとするために、当該同じ小脳組織を、8M尿素、4%SDS、O.125MのTris−HCl(pH6.8)、12mMのEDTA、3%β−メルカプトエタノール、及び1×プロテアーゼ阻害剤(Complete,Roche,Indianapolis,IN)を含む、より強い溶解バッファー中で再抽出した。EEAT4がプルキンエ細胞の損失に起因して予期される量を超えて低減されるかどうか決定するために、ロードされるタンパク質の量をプルキンエ細胞特異的タンパク質カルビンジンと比較して標準化した。可溶化後、サンプルを、SDS−PAGEにより分離し、そして、ニトロセルロース膜に移し、そして4℃で一晩、それぞれ1:200又は1:6,000で希釈されたEAAT4又はカルビンジン(Sigma−Aldrich,Saint Louis,MO)抗体と共に、インキュベートした。
免疫ブロットを、ホースラディッシュ・ペルオキシダーゼ結合二次抗体で視覚化し、そして化学発光分析(Amersham Biosciences,Uppsala,Sweden)で強化した。
【0067】
細胞下分画。細胞下分画分析を、わずかな改良を施した{Lee et al.,Neuropharmacology 41,680−692(2001)}に記載のように実施した。簡潔にいうと、アメリカ系SCA5、及び対照の病理解剖脳由来の小脳組織(各500mg)を、5mlのバッファー源{0.32Mのスクロース、5mMのTris(pH7.5),0.5mMのCaCl
2、1mMのMgCl
2、及び1×プロテアーゼインヒビター(Complete,Roche,Indianapolis,IN)}におけるPolytron均質化により再懸濁した。組織を、18ゲージ針を繰り返し通過させることによりせん断し、そして、そのライセートを500×g、10分間で、ペレットとした(P1画分)。その上清(S1)を、2つの0.5mlの分割量に分離し、そして全分割量を10,500×gで15分間、遠心した。当該分割量の1つについて、上清(S2)及びペレット(P2)を単離した。他の分割量について、10,500×g回転からのペレット(P2)を再懸濁し、(1×プロテアーゼインヒビターと共に)50μlの氷冷H
20の添加、及び10回の18ゲージ針の通過より低浸透圧で溶解した。
【0068】
この混合物を、次いで、25,000×gで20分間、遠心し、LS1(上清)、及びLP1(ペレット)画分を産生した。全てのペッレットとなり得る画分(P1、P2、及びLP1)を、8Mの尿素、4%SDS、0.125MのTris−HCl(pH6.8)、12mMのEDTA、3%のβ−メルカプトエタノール、及び1×プロテアーゼインヒビターを含む、溶解バッファー中で再懸濁した。全ての得られた画分を、次いで、SDS−PAGE、及びウエスタンブロッティングにより分析した。細胞下分画分析において試験されたタンパク質に対する抗体を、以下の希釈: EAAT4(1:200)、GluRδ2(1:1,000、BD Biosciences、San Jose、CA)、及びクラスリン軽鎖(1:1,000、Synaptic Systems、Goettingen、Germany)で使用した。
【0069】
EAAT4及びβ−IIIスペクトリンのコンストラクトのクローニング、細胞培養、及びトランスフェクション。標準的技術を、β−IIIスペクトリンの対照及び欠損コンストラクト、並びにEAAT4−GFPコンストラクトの構築において使用した。簡潔には、全長SPTBN2 pBluescriptのcDNAクローン(KIAA0302、Kazusa DNA Research Institute)を、哺乳類発現ベクターであるpcDNA3.1(Invitrogen, Carlsbad,CA)の中に再クローンし、そして重なり合うプライマーセット(セット1:SPΔ39−1f、及びSPΔ39−1r、並びにセット2:SPΔ39−2f、及びSPΔ39−2r)を使用するPCRにより修飾した。アメリカ系ファミリーの欠損を、分離PCR産物(SPΔ39プライマーセット1及び2)を産生することにより作り出し、その後、第3PCR反応(プライマーSPΔ39−1f、及びSPΔ39−2r)により、当該アメリカ系親族において見出される39bp欠損変異体(SP−Δ39)を産生した。
【0070】
これらのPCR産物を、次いで、BsmBI、及びAgeI消化を使用してサブクローンした。その後、mycタグを、野生型(SP−WT)及び変異コンストラクトの両方のATGスタートコドンのすぐ下流に、PCR(myc−f1及びmyc−r、その後、myc−f2及びmyc−rプライマー)により導入し、そして次いで、KpnI及びPmlIの消化を使用してサブクローンした。シークエンシングを実施し、当該タグ及び全CDNAの完全性を照合し、コーディングエラーを、QuikChange II XL Site−Directed Mutagenesisキット(Stratagene,La Jolla,CA)を使用して修理した。当該β−IIIスペクトリンコンストラクトを産生するためのプライマー配列、及びPCR条件を、表1に示す。
【0071】
当該EAAT4−GFPコンストラクトを、適切な制限酵素認識部位を含むプライマー、及び重複伸長PCRに基づく戦略を使用して産生した。得られたEAAT4PCR産物を、真核生物発現ベクターであるpEGFP−C2(Clonetech)中にクローンし、コーディング領域をシークエンシングにより確かめた。
【0072】
HEK293細胞を、標準的プロトコールに従って、FuGene6(Roche,Indianapolis,IN)を使用してトランスフェクト(0.5μg/皿)した。細胞を、ガラス底の培養皿上に直接蒔き(MatTek,Ashland,MA)、トランスフェクション後24時間撮影した。
【0073】
TIRF顕微鏡検査及び分析。イオンレーザーからの光を、反転落射蛍光顕微鏡(IX81,オリンパス)に誘導し、当該光をTIRFM対物レンズ(PlanApo 60×/1.45NA,オリンパス)の後焦点面に焦点を合わせた。ガラスカバースリップ上のトランスフェクトされた細胞を、温度調節機(Harvard apparatus)を使用して37℃で維持し、10mMのHepesによりpH7.4とした。画像をMetamorph6.3(Universal Imaging)で動作されたEM電荷結合素子カメラ(オリンパス)により集めた。コマ抜き画像を、450msec毎に得た。トラッキング(異なる画像の単一射影)及び領域計算を含む分析を、Metamorphを使用して実施した。各回折点を、(高域フィルター>3ピクセル)及び(低域フィルター<30ピクセル)の2度フィルターにかけた。EAAT4の側方運動は、単一画像を重ね合わせて画像化し輸送運動の総領域を測定した、一方、回折点の総トラッキング距離を、Metamorphトラッキングモジュールを使用して計算した。
【0074】
結論
当該アメリカ系ファミリーは、エイブラハム・リンカーン大統領の父方の祖父母から降りる2つの主要分枝を有する(
図1)。家族による「リンカーン病」といわれるSCA5は、リンカーン大統領の父方の伯父であるジョサイア、及び伯母であるメアリーの子孫に見られ、このことは、リンカーン大統領の父方の祖父母のいずれかがSCA5変異を有していることを示唆する。家族のこれらの2つの分鎖を、
図1に示す。
【0075】
臨床評価、及びDNA採取を、病気に冒された90人(発病年齢4〜68歳)を含む299家族に実施した。幾人かの疾患は比較的軽く、大統領、彼の父であるトーマス、及びトーマスの子孫(1960年以後全員死亡)の臨床状態は知られていないので、大統領がSCA5変異を引き継いでいた事前確率は、25%である。遺伝子組み換えを使用し、当該危険領域を、〜100遺伝子を含む2.99メガ塩基対に絞り込んだ。家族間のハプロタイプ比較は、アメリカ系家族とフランス系家族との間で255kbの有力な保存領域を同定した。このハプロタイプは、対照の染色体の3/84(3.5%)にも見つかるけれども、この保存が共通の先祖の変異によりもたらされる可能性があるため、この領域を優先させた。
【0076】
アメリカ系SCA5変異を含むことが知られる、病気に冒された染色体分離細胞系由来のDNAを使用して、BACライブラリー、及び当該領域のコンティグを構築し、ハプロタイプ保存領域にかかる患者由来のBACクローン(VI−2、VI−C11、及びIV−H4)のショットガン・シークエンシングを、実施した(
図2b)。
【0077】
39塩基対の欠損を、β−IIIスペクトリン遺伝子(SPTBN2)のエキソン12内に見つけた、ここで当該欠損は、17スペクトリン反復の内の3番目内にフレーム単位で13アミノ酸の欠失(p.E532 M544del)を引き起こす(
図2c、3A、表2)。PCRにより検出可能な変異(
図3A)を、全90人の病気に冒された個人(試験時の年齢は、7〜80歳であって、平均45歳)、及び発病前のキャリアである35人の(試験時の年齢は、13〜67歳であって、平均34歳)に見出した。
【0078】
【表4】
【0079】
アメリカ系とフランス系ファミリーは、共通のハプロタイプを共有しているけれども、当該39bpのアメリカ系の欠失は、フランス系ファミリーには見出されなかった。当該アメリカ系のファミリーと同様に、フランス系のファミリーは、エキソン14内の15塩基対の欠失からなる同じスペクトリンの反復におけるフレーム単位の欠失を有する(c.1886−1900del;p.L629−R634delinsW)(
図2c、3B)。
【0080】
トリプトファンの挿入を除いて、この欠失は、オープンリーディングフレームの残余を中断させない(
図3B)。フランス系の変異を、全6人の病気に冒されている可能性のある個人、及び1人の明らかに発病の前段階のキャリア(24歳)中に見出した。
【0081】
ドイツ系ファミリーにおいて、ロイシンからプロリンへの変化(p.L253P)を引き起こすエキソン7におけるTをCとする対変異(c.758T>C)を、アクチン/ARP1結合部位を含むカルポニン相同ドメイン内に見出した。この領域は、全5人のヒトのβスペクトリンタンパク質内に見られるロイシン253残基を伴い高く保存され、チンパンジー、マウス、ラット、イヌ、及びハエについても同様である(
図3C)。当該ドイツ系の変異は、12人の病気に冒されている可能性のある個人における病気と一緒に分離される。3つのSCA5変異は、1000人の対照染色体上に見出されなかった。
【0082】
プルキンエ細胞内に高発現される2,390アミノ酸タンパク質である{Ohara et al.,Brain Res MoI Brain Res 57,181−192(1998)}、{Stankewich et al.,Proc. Natl.Acad.Sci.USA 95,14158−14163(1998)}、β−IIIスペクトリンは、ゴルジ及び小胞膜と関連するタンパク質として記載され{Stankewich et al.,Proc.Natl.Acad.Sci.USA 95,14158−14163(1998)}、及びダイナクチン・サブユニットARP1に結合することが報告され、輸送において可能性のある役割を示唆している{Holleran et al.,J.Biol Chem 276,36598−36605(2001)}。
【0083】
βスペクトリンの他の機能は、膜タンパク質の安定化である{Parkinson et al.,Nat Genet 29,61−65(2001)};特に、β−IIIスペクトリンは、プルキンエ細胞特異的グルタミン酸輸送体EAAT4を安定化する{Jackson et al.,Nature 410,89−93(2001)}。RT−PCR分析は、正常及び欠失β−IIIスペクトリン転写産物の両方が、病気に冒されている小脳病理解剖組織において発現されること(
図3D)を、SCA5における著しいプルキンエ細胞の欠損を有するSCA5及び対照の両方の小脳におけるプルキンエ細胞体、樹状突起、及び軸索の染色を示す免疫組織化学(
図3E)と共に示す。
【0084】
ウエスタン分析を小脳病理解剖組織に関して実施し、39bpスペクトリン欠失変異がEAAT4に影響を与えるのかどうか調査した。放射性免疫沈降法アッセイ(RIPA)バッファーにより抽出されるSCA5小脳におけるEAAT4のタンパク質レベルは、プルキンエ細胞特異的な対照であるカルビンジンと比較して劇的に低減された(
図4a)。驚くべきことに、より厳しい抽出バッファー(8Mの尿素、及び4%のSDS)を使用するとき、EAAT4/カルビンジンのおよそ等しい比率が、SCA5及び対照において見られ(
図4b)、そのことは、EAAT4の溶解度又は分布が、変異体βIIIスペクトリンにより影響を受けることを示唆する。
【0085】
低減されたEAAT4転写レベルは、プルキンエ細胞の欠失に先立って、SCA1トランスジェニックマウスにおいて既に報告されており{Lin et al.,Nat Neurosci 3,157−163(2000)}、EAAT4の欠失又は機能障害が共通の下流分子変化となり得ることを示唆する。SCA5におけるEAAT4の抽出性の違いがプルキンエ細胞の変性により引き起こされる非特異的変化かどうか測定するために、EAAT4抽出性を、著しくプルキンエ細胞を欠失するSCA1トランスジェニックマウスにおいて試験した(
図4c、4d)。
【0086】
以前の報告と一致するEAAT4の低減されたレベルをウエスタンにより見い出し、そしてSCA5とは対照的に、EAAT4レベルは、RIPA及び尿素抽出物において同様に低減された。
【0087】
SCA5における残りのプルキンエ細胞のEAAT4免疫染色は、樹状突起の樹の一貫した菲薄化、及び当該細胞体のより暗い染色を示し(
図4e)、一方SCA1トランスジェニック動物は、より明るい染色を除いて均一性を示した(
図4f)。これらの結果は、SCA5におけるEAA4の再分配がプルキンエ細胞の変性により引き起こされないこと、及びEAAT4はSCA1とSCA5とにおける異なる機構により変化しそうであることを示唆する。
【0088】
EAAT4をさらに試験するため、及び変異体スペクトリンがプルキンエ細胞タンパク質を結合する他の膜においても変化を引き起こすのかどうか決定するため、小脳組織の細胞下分画、そしてその後、ウエスタン分析を実施した(
図5)。P1及びS1画分内にロードされる総タンパク質量を、BCAアッセイにより決定した、各レーン内のタンパク質量は以下:P1対照(40.5μg)、S1対照(5.5μg)、P1 SCA5(71.4μg)、S1 SCA5(3.9μg)であった。タンパク質ローディングを、クラスリン軽鎖に対するウエスタンブロット膜の標準化によっても見積もった、ここで当該クラスリン軽鎖は、原形質と小胞膜とを断続的に循環し、膜リッチでペレットとなり得る画分に豊富に存在することで知られる、広く発現する調節タンパク質である。予想通り、かなり豊富なクラスリンを、予測される核画分(P1)、粗シナプトソーム画分(P2)、及び豊富なシナプトソーム画分(LP1)画分において観察した。
【0089】
SCA5 S1(3.9対5.5μg)画分においては対照と比較して僅かに少ないタンパク質であるが、P1画分(71.4対40.5μg)、P2及びLP1画分(クラスリンローディング対照を参照)においてはSCA5対対照におけるより多くのタンパク質をロードした。SCA5小脳抽出物由来のEAAT4及びGluRδ2の細胞下分画は、対照である小脳と異なる。例えば、より多くのタンパク質を、SCA5 P2及びLP1画分 対 対照P2及びLP1画分にロードした(クラスリンにより測定される)ので、もしSCA5のEAAT4及び対照ホモジネートが同じように画分化されたならば、過剰なSCA5 P2及びLP1画分において、より多くのEAAT4が検出されることが予測される。しかしながら、これらのSCA5シナプトソームリッチ画分内(P2、LP1)に見られるEAAT4は、劇的に少ない。GluRδ2の似たような再分配において、対照P2及びLP1と比較してSCA5 P2及びLP1において予測される、GluRδ2の量よりも際だって少ないことが見られた。対照と比較して、シナプス膜タンパク質であるEAAT4及びGluRδ2は、SCA5組織のシナプトソーム画分内において豊富とならなかった、このことは、変異β−IIIスペクトリンがこれらのタンパク質の細胞内局在に影響を与えることを示唆する。
【0090】
EAAT4に関する変異β−IIIスペクトリンの生理的影響をさらに特徴付けるため、一連の対照とされる細胞培養実験を実施した。HEK293細胞をeGFP−EAAT4でトランスフェクトし、そして全内部反射蛍光(TIRF)顕微鏡検査を使用して、細胞の膜上のグルタミン酸輸送体の側方運動を追跡した。当該グルタミン酸輸送体は、通常2つの主な状態間を数秒内で変化していた、ここで当該2つの主な状態とは、細胞の膜上における素早い動作とサブマイクロメーター領域内の制限された動作の期間である(
図4g〜i)。
【0091】
EAAT4を空の対照ベクターと共に発現させたとき、細胞膜で又はその付近でおよそ40%のEAAT4回折点が活発に動いており(〜4ミクロン)、一方、ゆっくりと動く回折点は、通常、固定化された小領域(1ミクロン未満)内で動作を制限された(
図4g、表3)。
【0092】
EAAT4と野生型β−IIIスペクトリンとの間の相互作用の生理的関連性をさらに調査するため、EAAT4をβ−IIIスペクトリンと共トランスフェクションし、そしてEAAT4の細胞内輸送を追跡した。以前の生化学試験{Jackson et al.,Nature 410,89−93(2001)}と一致して、野生型β−IIIスペクトリンの共発現は、膜で又はその付近でたった5%の回折点の動きを伴ってEAAT4を安定化し、大きな側方運動(>4ミクロン)を示さなかった(
図4h、表1)。しかしながら、39bpの欠失を伴う変異β−IIIスペクトリンの存在する場合、EAAT4の安定はなくなり、当該輸送体は、観察された4ミクロン超の多くの側方運動を伴う高運動性となった(
図4i、表3)。
【0093】
EAAT4とβ−IIIスペクトリンとの間の特異的相互作用を確認するために、β−IIIスペクトリンをEAAT3と共トランスフェクションした、ここで他のグルタミン酸輸送体もプルキンエ細胞内に発現していた。野生型(表3)も変異型β−IIIスペクトリンもEAAT3安定性に関していかなる実質的効果もなかった。EAAT3に関する影響の欠落は、当該変異型β−IIIスペクトリンが他の膜タンパク質に影響を与える可能性を排除しない。しかしながら、これらの試験は、変異型β−IIIスペクトリンがEAAT4の安定性を崩壊させ得る証拠を提供する、なぜならば、当該膜におけるEAAT4の発現の変化はプルキンエ細胞の損傷/分解を増大することが知られているからであり、それ故、SCA5におけるプルキンエ細胞の分解の一因となり得る{Welsh et al.,Adv Neurol 89,331−359(2002)}。
【0094】
表3:変異型β−IIIスペクトリンは、グルタミン酸輸送体の側方細胞内輸送を変える。HEK293細胞のTIRF顕微鏡検査を実施し、画像化された細胞のデジタルムービーを、Metamorphを使用して評価した。各回折点を別々に分析した。各条件について、3〜6の異なる実験を異なるディッシュ、及び異なる日にちから記録した。当該結果は平均値±SDである。
【表5】
【0095】
我々は、SCA5に関与するβ−IIIスペクトリン遺伝子(SPTBN2)における3つの別々の変異の同定を伴う脊髄小脳性運動失調についての新規変異機構を報告する。アメリカ系及びフランス系ファミリーは、似ているが、第3スペクトリン反復内に別々のフレーム単位の欠失を有し、当該反復の高秩序のトリプル・アルファ・へリックス構造を崩壊させ、四量体アルファ−ベータ−スペクトリン複合体の全形状を変化しそうである。
【0096】
アメリカ系ファミリーとフランス系ファミリーとの間の共有のハプロタイプのいくつかの特徴は微少欠損を導くことが可能だけれども、当該共有のハプロタイプは、対照染色体の3.5%にこのハプロタイプが見られるのでより明らかに偶然の一致となりそうである。ドイツ系ファミリーは、カルポニン相同ドメイン中に1つのミスセンス変異を有し、それはスペクトリンのアクチン細胞骨格に結合する能力を崩壊させ得、そして同様に、膜タンパク質の安定性に影響を与え得るか、又はARP1及びダイニンモーター複合体への結合を崩壊させることにより輸送における変化を引き起こし得る{Holleran et al.,J.Biol.Chem 276,36598−36605)}。
【0097】
細胞画分試験は、変異型β−IIIスペクトリン(39bp欠失)がシナプトソームタンパク質であるEAAT4及びGluRδ2の局在に影響を与えることを示唆する。興味深いことに、EAAT4は、SCA1トランスジェニックマウスにおいて、転写量の下方制御にも影響を与える{Lin et al.,Nat Neurosci 3,157−163(2000)}及び{Serra et al.,Hum MoI Genet 13,2535−2543(2004)}。運動失調におけるEAAT4の可能な役割についてのさらなる証拠は、進行性失調症をもたらすラットの嚢内アンチセンス・ノックダウン実験に由来する{Raiteri et al.,Prog Neurobiol 68,287−309(2002)}。さらに、GluRδ2における変異は、lurcher及びhotfootマウスの両方において、運動失調を引き起こす{Lalouette et al.,Genomics 50,9−13(1998)}及び{Zuo et al.,Nature 388,769−773(1997)}。SCA5における細胞膜でのEAAT4及びGluRδ2の欠失は、グルタミン酸シグナル伝達異常を導き得、時間の経過により、SCA5におけるプルキンエ細胞の死を引き起こし得る。
【0098】
スペクトリンとダイナクチン−ダイニンモーター複合体との報告された相互作用は、SCA5変異が他の神経変性疾患のようにタンパク質細胞内輸送に影響を与え得ることを示唆する。これらの障害は、p150
Glued、ダイナクチン(DCTN1)のサブユニットにより引き起こされる優性遺伝性神経疾患{PuIs et al.,Nat Genet 33,455−456(2003)}、及びマウス・ダイニン重鎖遺伝子(Dnchc1)におけるミスセンス変異により引き起こされるモーター神経細胞傷害{Hafezparast et al.,Science 300,808−812(2003)}を含む。ハンチントン病において、ハンチントン/HAP1/p150
Glued複合体の変化は、輸送傷害、及び神経毒性の一因となる神経栄養援助の欠損を導き{Gauthier et al.,Cell 118,127−138(2004)}、そして軸索内輸送欠陥は、アルツハイマーの患者及びマウスのモデルに見られる{Stokin et al.,Science 307, 1282−1288)).
【0099】
未知の変異を有するファミリーにおいて運動失調を引き起こすSPTBN2におけるさらなる変異の同定は、β−IIIスペクトリンの機能、及び神経変性疾患の分枝機構へのさらなる洞察を提供するだろう。特に、SPTBN2における変異が、その臨床領域がSPTBN2を含む臨床的に異なる形式の運動失調であるSCA20も引き起こすかどうか決定することが着目のものとなるだろう{Knight et al.,Brain 127,1172−1181(2004)}。
【0100】
SCA11及びSCA25の臨床領域のそれぞれに位置するSPTBN5又はSPTBN1における変異が運動失調も引き起こすのかどうかどうか決定することも重要となるだろう{Worth et al.,Am J Hum Genet 65,420−426(1999)}及び{Stevanin et al.,Ann Neurol 55,97−104(2004)}。βスペクトリンが疾患においてさらなる役割を担う可能性と一致して、ベータスペクトリン相同体における優性遺伝性変異は、C.elegansにおける非協調表現型(unc−70)を引き起こし、ヒトβ−IVスペクトリン(SPTBN4)の相同分子種である、マウス・スペクトリンβ4遺伝子(Spnb4)における劣勢変異は、後肢麻痺を伴う進行性失調症、難聴、及び震えるマウス(qv)における身震いを引き起こす{Parkinson et al.,Nat Genet 29,61−65(2001)}。
【0101】
28の優性運動失調の遺伝子座の推定は、根本的な原因を定義するために人類遺伝学の使用機会を提供し、この群の神経変性疾患を構成する共通の分子経路を提供する{Schols et al.,Lancet Neurol 3,291−304(2004)}。興味深いことに、2匹のマウス運動失調モデル、SCA1トランスジェニックマウス、及びstaggererマウス{Gold et al.,Neuron 40,1119−1131(2003)}において、SCA1におけるマイクロアレイ分析により見出されたβ−IIIスペクトリンとEAAT4の転写の両方の下方制御は、異なる変異により引き起こされる相近発病機構を示唆する。
【0102】
よく知られた細胞骨格タンパク質をコードする遺伝子におけるSCA5変異の同定は、SCA5及び他の神経変性疾患に共通する下流分子機構の洞察を提供するだろう膜タンパク質の不安定化、グルタミン酸調節異常、及び媒体細胞内輸送欠損を含む疾患発病の特定の仮定を試験することを可能とするだろう。
【0103】
リンカーンファミリーにおける運動失調の歴史は、エイブラハム・リンカーン大統領がSCA5変異を有していたかどうかという疑問を抱かせる。歴史的記述は、当該大統領は、不規則な歩行、つまり運動失調の初期の徴候を有していたことを示唆する。1861年、3月27日、ロンドンタイムズのレポーターであったウィリアム・ラッセルは、リンカーンについて、「程なく、ぐずぐずした、だらしのない、正規兵ではない、ほとんど不安定な足取りで、背が高く、やせ細ったやせ男が入ってきた」と書いた。SCA5変異の同定は、彼のDNAを含む保存された埋蔵物を使用してリンカーン大統領が変異を有するかどうか明白に決定することを、可能とさせた。1991年、マルファンの遺伝子の同定が、リンカーン大統領の高い身長がその疾患からもたらされ得たものかどうか決定するためにリンカーン大統領のDNAを試験することを考慮する論議の火付け役となった。マルファン症候群とは違い、リンカーンの家系は、リンカーン大統領がSCA5を発病する危険にさらされていたことを示唆する。SCA5に関連してリンカーン大統領の状態を判定することは、歴史的興味であり、運動失調や神経変性病の社会認識を増大するだろう。
【0104】
本明細書中に引用された全特許、特許出願、及び刊行物、並びに電子化され利用可能な材料(例えば、GenBankやRefSeqなどのヌクレオチド配列の寄託、SwissProt、PIR、PRF、PDBのアミノ酸配列寄託、及びGenBankやRefSeqの注釈されたコード領域に由来する翻訳を含む)の完全な開示を、引用によりその全内容を援用する。上記詳細な説明、及び実施例は、理解を明確にするためだけのものである。それらから理解されるものに限定するものではない。本発明は、示され記載された正確な詳細に限定されず、本発明は、当業者にとって明らかな変化について、特許請求の範囲により定義される本発明の範囲に含まれるものである。
【0105】
特段の指示がなければ、本明細書、及び特許請求の範囲において使用される構成要素、分子量などの量を表示する全数字は、「約」の条件により、すべての場合において、修正されるものとして理解される。従って、それとは反対の特段の指示がなければ、本明細書及び特許請求の範囲に説明された数値パラメーターは、本発明により得られると思われる所望の特性に依存して変化し得る概算値である。最低限でも、及び特許請求の範囲と同等の原則を制限することを意図せず、各数値パラメーターは、少なくとも、報告された重要な数字の数の観点において、及び通常の端数技術を適用することにより理解すべきである。
【0106】
広範にわたる本発明を説明する数値範囲及び数値パラメーターが概算値であるにもかかわらず、特定の実施例に説明された数値は、できるだけ正確に報告する。しかしながら、全ての数値は、本質的に、各試験の測定において見られた標準偏差からやむを得ず生ずる領域を含む。
【0107】
全見出しは、読者の利便性のためのものであり、特に特定されなければ、当該見出しの後の本文の意味を限定するために使用されるべきではない。