特許第5744927号(P5744927)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744927
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】注射器
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20150618BHJP
   A61F 9/007 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 38/00 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150618BHJP
   A61M 5/28 20060101ALI20150618BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20150618BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20150618BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   A61M5/315
   A61F9/007 170
   A61K9/08
   A61K37/02
   A61K39/395 D
   A61K39/395 N
   A61M5/28
   A61M5/31
   A61P27/02
   A61P43/00 105
【請求項の数】32
【外国語出願】
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2013-12497(P2013-12497)
(22)【出願日】2013年1月25日
(65)【公開番号】特開2014-28114(P2014-28114A)
(43)【公開日】2014年2月13日
【審査請求日】2013年3月7日
【審判番号】不服2013-25422(P2013-25422/J1)
【審判請求日】2013年12月25日
(31)【優先権主張番号】12174860.2
(32)【優先日】2012年7月3日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】12189649.2
(32)【優先日】2012年10月23日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】20 2012 011 016.0
(32)【優先日】2012年11月16日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】2012101677
(32)【優先日】2012年11月16日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】2012101678
(32)【優先日】2012年11月16日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】20 2012 011 260.0
(32)【優先日】2012年11月23日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】20 2012 011 259.7
(32)【優先日】2012年11月23日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】12195360.8
(32)【優先日】2012年12月3日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】20 2013 000 688.9
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】2013100071
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】AU
(31)【優先権主張番号】2013100070
(32)【優先日】2013年1月23日
(33)【優先権主張国】AU
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】504389991
【氏名又は名称】ノバルティス アーゲー
(74)【代理人】
【識別番号】100092783
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100120134
【弁理士】
【氏名又は名称】大森 規雄
(74)【代理人】
【識別番号】100141025
【弁理士】
【氏名又は名称】阿久津 勝久
(74)【代理人】
【識別番号】100104282
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 康仁
(72)【発明者】
【氏名】ヨーガン,シグ
(72)【発明者】
【氏名】フリストフ ロイヤー
(72)【発明者】
【氏名】アンドリュー マーク ブライアント
(72)【発明者】
【氏名】ヘインリッチ マーティン バートゲン
(72)【発明者】
【氏名】マリー ピッチ
【合議体】
【審判長】 山口 直
【審判官】 関谷 一夫
【審判官】 蓮井 雅之
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2010/064667(WO,A1)
【文献】 国際公開第2010/136492(WO,A2)
【文献】 特開2001−104480(JP,A)
【文献】 特表2009−508593(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61F 9/007
A61K 9/08
A61K 38/00
A61K 39/395
A61M 5/28
A61M 5/31
A61P 27/02
A61P 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
充填済みの注射器であって、当該注射器は、ガラス製胴部と、ストッパーと、プランジャーとを含み、前記胴部は出口端部に出口を備え、前記ストッパーが前記胴部内に配置されて、前記ストッパーの前面および前記胴部が容量可変内室の境界を定め、前記内室から前記出口を通して液体を放出することができ、前記プランジャーは、第1端部にプランジャー接触面と、前記プランジャー接触面及び後部の間を伸びるロッドとを備え、前記プランジャー接触面は前記ストッパーと接触するように配置され、前記プランジャーを用いて、前記ストッパーを前記胴部の前記出口端部の方向に押すことにより、前記容量可変内室の容量を減少させる、注射器において、前記液体がVEGFアンタゴニストを含む眼科用溶液であり、
(a)前記注射器の公称最大充填容量は、約0.5mlから約1mlの間であり、
(b)前記注射器からの前記VEGFアンタゴニスト溶液の投薬量は、約0.03mlから約0.05mlの間であり、
(c)注射器外筒は、約1μg〜約100μgのシリコーンオイルを含み、前記注射器外筒が、前記シリコーンオイルの内側コーティングを有し、
(d)前記VEGFアンタゴニスト溶液は、1ml当たり2個以下の直径50μm以上の粒子を含み、
前記注射器が約11N未満のストッパー始動力を有する
ことを特徴とする注射器。
【請求項2】
前記注射器の充填容量は、約0.15mlから約0.175mlの間である、請求項1に記載の充填済み注射器。
【請求項3】
前記注射器の充填容量は、約0.165mlである、請求項1または請求項2に記載の充填済み注射器。
【請求項4】
前記注射器からの前記VEGFアンタゴニスト溶液の投薬量は、約0.05mlである、請求項1から3のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項5】
前記ストッパーの所定の部位が前記注射器のプライミングマークの位置と合ったときに、投薬量が前記容量可変内室の容量により決定される、請求項1から4のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項6】
記内側コーティングは、平均厚さ約450nm以下、好ましくは400nm以下、好ましくは350nm以下、好ましくは300nm以下、好ましくは200nm以下、好ましくは100nm以下、好ましくは50nm以下、好ましくは20nm以下である、請求項1から5のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項7】
記内側コーティングは、約50μg未満のシリコーンオイル、好ましくは約25μg未満のシリコーンオイル、好ましくは約10μg未満のシリコーンオイルを有する、請求項1から6のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項8】
記内側コーティング、約3μgを超える、約5μgを超える、約7μgを超える、または約10μgを超えるシリコーンオイルを有する、請求項1から7のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項9】
前記内側コーティングは、約5μg〜約100μgまたは約10μg〜約50μgのシリコーンオイルを有する、請求項1から8のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項10】
前記シリコーンオイルがDC365エマルションである、請求項1から9のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項11】
前記VEGFアンタゴニスト溶液が、(i)1ml当たり5個以下の直径25μm以上の粒子、および(ii)1ml当たり50個以下の直径10μm以上の粒子、の1つまたは複数をさらに含む、請求項1から10のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項12】
前記VEGFアンタゴニスト溶液がUSP789に適合する、請求項1から11のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項13】
前記VEGFアンタゴニストが抗VEGF抗体である、請求項1から12のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項14】
前記抗VEGF抗体がラニビズマブである、請求項13に記載の充填済み注射器。
【請求項15】
前記ラニビズマブの濃度が10mg/mlである、請求項14に記載の充填済み注射器。
【請求項16】
前記VEGFアンタゴニストが非抗体VEGFアンタゴニストである、請求項1から12のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項17】
前記非抗体VEGFアンタゴニストがアフリベルセプトまたはコンベルセプトである、請求項16に記載の充填済み注射器。
【請求項18】
前記非抗体VEGFアンタゴニストが濃度40mg/mlのアフリベルセプトである、請求項17に記載の充填済み注射器。
【請求項19】
前記注射器が約5N未満のストッパー始動力を有する、請求項に記載の充填済み注射器。
【請求項20】
前記注射器が約11N未満のストッパー滑動力を有する、請求項1から19のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項21】
前記注射器が約5N未満のストッパー滑動力を有する、請求項20に記載の充填済み注射器。
【請求項22】
前記ストッパー始動力またはストッパー滑動力が、充填された注射器を使用して、30G×0.5インチの針を注射器に取り付けて、190mm/分のストッパー移動速度で測定される、請求項1から21のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項23】
請求項1から22のいずれか一項に記載の充填済み注射器を含むブリスターパックであって、前記注射器がHまたはEtOを使用して滅菌される、ブリスターパック。
【請求項24】
請求項23に記載の充填済み注射器を含むブリスターパックであって、前記注射器の外面が1ppm以下の残留EtOまたはHを有する、ブリスターパック。
【請求項25】
請求項23に記載の充填済み注射器を含むブリスターパックであって、前記注射器がEtOまたはHを使用して滅菌され、前記注射器の外側および前記ブリスターパックの内側に見出される残留EtOまたはHの合計が0.1mg以下である、ブリスターパック。
【請求項26】
請求項23から25のいずれか一項に記載の充填済み注射器を含むブリスターパックであって、5%以下のVEGFアンタゴニストがアルキル化されているブリスターパック。
【請求項27】
請求項23から26のいずれか一項に記載の充填済み注射器を含むブリスターパックであって、前記注射器がEtOまたはHを使用して少なくとも10−6の滅菌保証レベルで滅菌される、ブリスターパック。
【請求項28】
充填済み注射器が6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月、15ヵ月、18ヵ月、または24ヵ月以上までの製品寿命を有する、請求項23から27のいずれか一項に記載のブリスターパック。
【請求項29】
キットであって、(i)請求項1から22のいずれか一項に記載の充填済み注射器、または請求項23から28のいずれか一項に記載の充填済み注射器を含むブリスターパック、(ii)針、および場合により(iii)投与のための説明書を含む、キット。
【請求項30】
前記針が30ゲージ×1/2インチの針である、請求項29に記載のキット。
【請求項31】
治療法において使用するための、請求項1から22のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【請求項32】
脈絡膜血管新生、湿性加齢黄斑変性、分枝RVO(bRVO)および中心RVO(cRVO)の両方を含む網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜血管新生、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖性網膜症から選択される眼疾患の治療において使用するための、請求項1から22のいずれか一項に記載の充填済み注射器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、注射器、特に眼への注射に適した注射器などの小容量の注射器に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの医薬は、使用者が医薬を分注できる注射器で患者に送達される。医薬が注射器で患者に送達される場合には、患者または介護者が医薬を注射することがしばしば可能になる。感染、または患者に対する他の危険を回避するために、注射器および注射器の内容物が十分に滅菌されていることが、患者の安全性および医薬の完全性にとって重要である。滅菌は、典型的には、すでにまとめられて包装されている組み立てられた製品を、加熱または滅菌性ガスを使用して滅菌する最終滅菌により達成することができる。
【0003】
小容量注射器、例えば、約0.1ml以下の液体を注射することが意図される眼中に注射するための注射器に対して、滅菌は、より大きい注射器には必ずしも伴わない困難を提起することがある。注射器の内圧または外圧の変化は、注射器の部品を予想外に動かすことがあり、これは密封性を変化させて無菌性を損なう可能性がある。注射器の不適切な取り扱いは、製品の無菌性を危険に晒すこともある。
【0004】
さらに、生体分子などのある種の治療剤は、滅菌が冷ガス滅菌、加熱滅菌、または照射であっても、滅菌に特に敏感である。したがって、適当なレベルの滅菌を実施しながら、治療剤が弱体化しないように、注射器が適切に密封されたままであることを確実にするためには、注意深く均衡を保つことが求められる。いうまでもなく、注射器は、やはり使用しやすいままでなければならず、医薬を投与するためにプランジャーを押し下げるために必要な力が高すぎてはならない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Badkar et al. 2011, AAPS PharmaSciTech, 12 (2): 564-572頁
【非特許文献2】Schoenknecht, AAPS National Biotechnology Conference 2007 抄録番号NBC07-000488
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
したがって、内容物をしっかり密封するが、使用しやすさを保った新しい注射器の構造が必要である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、胴部、ストッパー(止め部)およびプランジャーを含む充填済み注射器であって、胴部は出口端部に出口を備え、ストッパーは、ストッパーの前面および胴部が容量可変内室の境界を定めるように胴部内に配置され、容量可変内室から出口を通して液体を放出することができ、プランジャーは第1端部のプランジャー接触面およびプランジャー接触面と後部との間に伸びるロッドを備え、プランジャー接触面は、プランジャーを使用してストッパーを胴部の出口端部の方向に押し、容量可変内室の容量を減少させることができるように、ストッパーと接触するように配置されている注射器において、液体が眼科用溶液を含むことを特徴とする注射器を提供する。一実施形態において、眼科用溶液は、VEGFアンタゴニストを含む。
【0008】
一実施形態において、該注射器は、眼への注射、より具体的には硝子体内注射に適し、したがって、適当な小容量を有する。注射器は、シリコーンオイルフリーであってもよく、または実質的にシリコーンオイルフリーであってもよく、または低レベルシリコーンオイルを潤滑剤として含むことができる。一実施形態において、低シリコーンオイルレベルにも拘わらず、ストッパーの始動力および滑動力は20N未満である。
【0009】
眼への注射にとって、眼科用溶液は粒子内容物が特に少ないことが特に重要である。一実施形態において、本発明の注射器は米国薬局方標準789(USP789)に適合する。
【0010】
(注射器)
注射器胴部は、実質的に円筒形(筒形)外壁であってもよく、または非円形の外形状を有する実質的に円筒形の穴部を備えることもできる。胴部の出口端は、前記内室の容量の減少に伴って、容量可変内室内に入っていた液体が通って放出され得る出口を備える。該出口は出口端部からの突起部を備えることができ、それを通って、容量可変内室より直径が小さい流路が伸びている。出口は、例えばルアーロック型接続により、針または密封装置などの他の付属品に接続するように適合させることもできる。密封装置は、容量可変内室を密封することができるが、操作もしくは取り外して、容量可変内室を開封することができ、注射器を他の付属品、例えば針などに接続することを可能にする。そのような接続は、注射器と付属品との間で直接、または密封装置を通して行うことができる。胴部は出口端部から第1軸線に沿って後端に伸びている。
【0011】
胴部は、プラスチック材料(例えば環状オレフィンポリマー)またはガラスで作製することができ、それらの表面に注射の基準として役立つ目印を付けることができる。一実施形態において胴部は、プライミングマーク(指示マーク)を含むことができる。これにより、医師が、ストッパー(例えば前面の尖端または円周リブの1つなど、後で論ずる)またはプランジャーの所定の部位をマークの位置と合わせて、注射器から過剰の眼科用溶液および空気泡を放出することが可能になる。このプライミング工程により、正確な所定の投薬量が患者に投与されることが保証される。
【0012】
ストッパーは、ゴム、シリコーンまたは他の弾力があって変形可能な適当な材料から作製することができる。ストッパーは、実質的に円筒形であってよく、ストッパーは、ストッパーの外面の周囲に1つまたは複数の円周リブを含むことができ、ストッパーおよびリブの寸法は、リブが注射器胴部の内面とともに、液体が実質的に液密のシールを形成するようにしてある。ストッパーの前面は任意の適当な形状、例えば実質的に平面、実質的に円錐形またはドーム形であってもよい。ストッパーの後面は実質的に中央の凹部を備えることができる。そのような中央の凹部は、スナップ嵌め機構またはネジ接続を使用して、知られた方法でプランジャーをストッパーに接続するために使用することができる。ストッパーは、ストッパーを通る軸に関して実質的に回転対称とすることができる。
【0013】
プランジャーは、プランジャー接触面およびプランジャー接触面から後部に伸びているロッドを備える。後部は、注射するときに使用者が触れるように適合された、使用者接触部分を含むことができる。使用者接触部分は、実質的に円板形の部分を含むことができ、円板の半径は、ロッドが伸びる軸に対して実質的に垂直に広がっている。使用者接触部分は、任意の適当な形状とすることができる。ロッドがそれに沿って伸びる軸線は第1軸線であってよく、または第1軸線と実質的に平行であってもよい。
【0014】
注射器は、胴部の後部に配置された後方ストップ(後方止め)を含むことができる。後方ストップは、注射器から取り外すことができるものであってもよい。注射器胴部が出口端部と反対の端に末端フランジを備えれば、後方ストップは、胴部の末端フランジを実質的にサンドイッチするように構成することができる。それは、これで後方ストップが第1軸線に対して平行の方向に移動することを防止されるからである。
【0015】
ロッドは、出口端部から遠ざかる方向に少なくとも1つのロッド肩部を備えることができ、および後方ストップは、出口端部に向かう方向に後方ストップ肩部を備えることができ、後方ストップ肩部とロッド肩部とが接触しているときに、ロッド肩部と協働してロッドが出口端部から遠ざかって移動することを実質的に防止する。出口端部から遠ざかるロッドの移動の制限は、最終滅菌操作、または容量可変内室内または内室外の圧力が変化し得る他の操作中に無菌状態を維持することに役立つことができる。そのような操作の間に、容量可変内室内に閉じ込められたガス、または内室中の液体中に形成し得る気泡の体積が変化することがあり、それがストッパー移動の原因である。ストッパーが出口から遠ざかる移動は、ストッパーによって創り出された滅菌帯の破れを生じ得る。このことは、構成要素のサイズの許容範囲が非常に狭くかつストッパーの柔軟性が劣る、小容量の注射器にとって特に重要である。本明細書で使用する滅菌帯という用語は、注射器のいずれの端からの接近もストッパーにより封じられている注射器内の領域を指して用いられる。これは、ストッパーの、例えば出口に最も近い円周リブのシールと、ストッパーの、例えば出口から最も遠い円周リブのシールとの間の領域であってもよい。ストッパーは滅菌環境で注射器外筒に設置されるので、これら2つのシールの間の間隔が、ストッパーの滅菌帯の境界を定める。
【0016】
上記の操作中の無菌状態を維持することをさらに助けるために、ストッパーは前円周リブおよび後円周リブを含むことができ、これらのリブは、第1軸線に沿う方向で、少なくとも3mm、少なくとも3.5mm、少なくとも3.75mmまたは4mm以上離れていることができる。1つまたは複数の追加のリブ(例えば2、3、4または5個の追加リブ、または1〜10、2〜8、3〜6または4〜5個の間の追加リブ)を前リブと後リブとの間に配列することができる。一実施形態においては、合計3個の円周リブがある。
【0017】
そのような強化された滅菌帯を有するストッパーは、最終滅菌工程中にも注射用医薬の保護を提供することができる。ストッパー上のリブをさらに多く、または前リブと後リブとの間の間隔をさらに大きくすると、滅菌剤に対する医薬の曝露の可能性を低下させることができる。しかしながら、リブの数を増加すると、ストッパーと注射器胴部との間の摩擦を増大させて、使いやすさを低下させる恐れがある。これは、注射器のシリコーン化を増強することにより克服できるが、シリコーンオイルレベルのそのような増大は、眼科使用のための注射器にとって特に望ましくない。
【0018】
ロッド肩部はロッドの外径内で配置することができ、またはロッドの外径の外側に配置することもできる。ロッドの外径を越えて広がるが、それでも胴部内に収まる肩部を設けることによって、ロッド肩部は、第1軸線に垂直なロッドの動きを減少させることにより、胴部内のロッドの移動を安定化することに役立つことができる。ロッド肩部は、ロッド上に任意の適当な肩部形成要素を含んでよいが、一実施形態において、ロッド肩部はロッド上に実質的に円板形部分を含む。
【0019】
注射器の一実施形態において、プランジャー接触面がストッパーと接触するように配置されており、容量可変内室が意図された最大容量にあるとき、ロッド肩部と後方ストップ肩部との間に約2mm以下の間隙がある。幾つかの実施形態において、約1.5mm未満および場合により約1mm未満の間隙がある。この間隔は、ストッパーの過剰な後方への(出口端部から遠ざかる)移動を実質的に制限または防止するために選択される。
【0020】
一実施形態において、容量可変内室は、5mmもしくは6mmを超えるか、または3mmもしくは4mm未満の内径を有する。内径は3mmと6mmの間、または4mmと5mmの間とすることができる。
【0021】
他の実施形態において、注射器は、公称最大充填容量が約0.1mlと約1.5mlの間になるような寸法になっている。ある実施形態においては、公称最大充填容量が約0.5mlと約1mlの間である。ある実施形態においては、公称最大充填容量が約0.5mlまたは約1ml、または約1.5mlである。
【0022】
注射器の胴部の長さは、70mm未満、60mm未満、または50mm未満であってもよい。一実施形態において、注射器胴部の長さは45mmと50mmの間である。
【0023】
一実施形態において、注射器は、約0.01mlと約1.5mlの間(例えば約0.05mlと約1mlの間、約0.1mlと約0.5mlの間、約0.15mlと約0.175mlの間)のVEGFアンタゴニスト溶液を充填される。一実施形態において、注射器は、0.165mlのVEGFアンタゴニスト溶液を充填される。いうまでもなく、通常、注射器は、注射器および針内の「デッドスペース」による損耗を考慮に入れて、患者に投与すべき所望の用量を超えて充填される。医師が、患者に注射する用意のために注射器を満たすときに、ある量の損耗があることもある。
【0024】
したがって一実施形態において、注射器は、約0.01mlと約1.5mlの間(例えば約0.05mlと約1mlの間、約0.1mlと約0.5mlの間)のVEGFアンタゴニスト溶液の投薬(すなわち、患者に送達することを意図する医薬の)で満たされる。一実施形態において、投薬は約0.03mlと約0.05mlの間である。例えば、ルセンティス(Lucentis)について、投薬は、10mg/mlの注射用医薬溶液0.05mlまたは0.03ml(0.5mgまたは0.3mg)であり、アイリーアについては、投薬は40mg/mlの注射用医薬溶液0.05mlである。眼科の適応として未承認であるが、ベバシズマブはそのような眼科の適応において、25mg/mlの濃度で、典型的には投薬0.05ml(1.25mg)で適用外使用される。一実施形態において、注射器から取り出すことができる(それは注射器および針中のデッドスペースに基づく損失を考慮に入れて、充填後の注射器から取り出し得る製品の量である)は約0.09mlである。
【0025】
一実施形態において、注射器胴部の長さは約45mmと約50mmの間であり、内径は約4mmと約5mmの間であり、充填容量は約0.12mlと約0.3mlの間であり、および投薬は約0.03mlと約0.05mlの間である。
【0026】
注射器が医薬溶液を含むとき、医薬の無菌状態を維持するために、出口を可逆的に密封することができる。この封鎖は、当技術分野において知られている密封装置の使用により達成することができる。例えば、Vetter Pharma International GmbHから入手できるOVS(商標)システムがある。
【0027】
使用しやすくするためには、注射器をシリコーン化する、すなわち外筒の内側にシリコーンオイルを適用することが標準的であり、それはストッパーを移動するのに要する力を減少させる。しかしながら、眼科使用のためには、眼中に注射されると見込まれるシリコーンオイル液滴を減少させることが望ましい。複数回の注射で、シリコーン液滴の量が眼中に蓄積する恐れがあり、「飛蚊症」および眼圧の上昇を含む副作用を引き起こす可能性がある。さらに、シリコーンオイルは、タンパク質の凝集を惹起し得る。典型的な1mlの注射器は100〜800μgのシリコーンオイルを外筒に含むが、メーカーの調査で通常500〜1000μgが充填済み注射器で使用されることが報告された(Badkar et al. 2011, AAPS PharmaSciTech, 12 (2): 564-572頁)。したがって、一実施形態において、本発明による注射器は、外筒に約800μg未満(すなわち約500μg未満、約300μg未満、約200μg未満、約100μg未満、約75μg未満、約50μg未満、約25μg未満、約15μg未満、約10μg未満)のシリコーンオイルを含む。注射器が低レベルのシリコーンオイルを含む場合、これは、外筒中に約1μgを超え、約3μgを超え、約5μgを超え、約7μgを超えまたは約10μgを超えるシリコーンオイルとすることができる。したがって、一実施形態において、注射器は、外筒に約1μg〜約500μg、約3μg〜約200μg、約5μg〜約100μgまたは約10μg〜約50μgのシリコーンオイルを含むことができる。そのような注射器外筒中のシリコーンオイルの量を測定する方法は、当技術分野において知られており、例えば、示差重量法および適当な溶媒中に希釈したオイルの赤外分光法による定量が挙げられる。種々のタイプのシリコーンオイルが入手できるが、典型的には、DC360(Dow Corning(登録商標)、粘度1000cP)またはDC365エマルション(Dow Corning(登録商標)、粘度350cPのDC360オイル)のいずれかが、注射器のシリコーン化のために使用される。一実施形態において、本発明の充填済み注射器はDC365エマルションを含む。
【0028】
試験中に、驚くべきことに、上で論じたものなどの寸法の小さい注射器、および特に下の図と結びつけて説明したものについて、注射器内のストッパーが始動および滑動させる力は、シリコーン化レベルを現在の標準的レベルのはるかに下の本明細書において論じたレベルまで減少させることによって、実質的に影響されないことが見出された。これは、シリコーンオイルレベルを低下すると、必要な力が増大するであろうという従来の考え(例えば、Schoenknecht, AAPS National Biotechnology Conference 2007 抄録番号NBC07-000488を参照されたい。それは400μgのシリコーンオイルが許容されるが、800μgに増加すると操作性が改善されることを示している)と著しく異なる。ストッパーを移動するためにあまり大きい力が必要であると、一部の使用者で使用中に問題が起こる可能性があり、例えば、ストッパーを移動させおよび/または移動を保つために大きい力が必要であると正確な用量設定または円滑な用量送達がさらに困難になることがある。投与中に注射器が移動することが局所的組織損傷を起こす可能性がある、眼などの敏感な組織においては、円滑な投与が特に重要である。当技術分野において知られた充填済み注射器に対する始動および滑動させる力は、典型的には20N未満の範囲内であるが、その場合充填済み注射器が約100μg〜約800μgのシリコーンオイルを含む。一実施形態において、充填済み注射器内のストッパーに対する滑動/滑動力は、約11N未満もしくは9N未満、7N未満、5N未満または約3Nから5Nの間である。一実施形態において、始動力は、約11N未満もしくは9N未満、7N未満、5N未満または約2Nから5Nの間である。そのような測定は、空の注射器ではなくて充填された注射器についてであることに注意されたい。その力は、通常190mm/分のストッパー移動速度で測定される。一実施形態において、その力は、30G×0.5インチの針を注射器に取り付けて測定される。一実施形態において、注射器は、公称最大充填容量が約0.5mlと1mlの間であり、約100μg未満のシリコーンオイルを含み、約2Nから5Nの間の始動力を有する。
【0029】
一実施形態において、注射器外筒は、平均厚さが約450nm以下(すなわち400nm以下、350nm以下、300nm以下、200nm以下、100nm以下、50nm以下、20nm以下)のシリコーンオイルの内側コーティングを有する。注射器におけるシリコーンオイルの厚さを測定する方法は、当技術分野において知られており、注射器外筒の内側のシリコーンオイルの質量を測定するためにも使用することができるrap.ID Layer Explorer(登録商標)Applicationを含む。
【0030】
一実施形態において、注射器は、シリコーンオイルフリー、または実質的にシリコーンオイルフリーである。そのような低いシリコーンオイルレベルは、未コート注射器外筒を使用することにより、および/または注射器組み立ておよび充填ラインにおいて機械部品またはポンプと接触する製品のための潤滑剤としてシリコーンオイルを使用することを避けることにより達成することができる。充填済み注射器におけるシリコーンオイルおよび無機シリカレベルを減少させるさらなる方法は、充填ライン、例えば貯蔵タンクとポンプとの間におけるシリコーン配管の使用を避けることである。
【0031】
本発明による注射器は、粒子状内容物に対するある種の要求も満たし得る。一実施形態において、眼科用溶液は、1ml当たり2個以下の直径50μm以上の粒子を含む。一実施形態において、眼科用溶液は、1ml当たり5個以下の直径25μm以上の粒子を含む。一実施形態において、眼科用溶液は、1ml当たり50個以下の直径10μm以上の粒子を含む。一実施形態において、眼科用溶液は、1ml当たり2個以下の直径50μm以上の粒子、1ml当たり5個以下の直径25μm以上の粒子および1ml当たり50個以下の直径10μm以上の粒子を含む。一実施形態において、本発明による注射器は、USP789(米国薬局方:眼科用溶液における粒子状物)に適合する。一実施形態において、注射器は、USP789に適合する注射器として十分低レベルのシリコーンオイルを有する。
【0032】
(VEGFアンタゴニスト)
・抗体VEGFアンタゴニスト
VEGFは、血管新生を刺激する、特性が十分明らかにされたシグナルタンパク質である。2種の抗体VEGFアンタゴニスト、すなわちラニビズマブ(ルセンティス(登録商標))およびベバシズマブ(アバスチン(登録商標))がヒトへの使用を承認されている。
【0033】
・非抗体VEGFアンタゴニスト
本発明の一態様において、非抗体VEGFアンタゴニストは、イムノアドヘシンである。そのようなイムノアドヘシンの1種はアフリベルセプト(アイリーア(登録商標))であり、それはヒトへの使用を最近承認され、VEGFトラップとしても知られる(Holash et al.(2002) PNAS USA 99:11393-98頁;Riely & Miller(2007) Clin Cancer Res 13:4623-7s)。アフリベルセプトは、本発明とともに使用するのに好ましい非抗体VEGFアンタゴニストである。アフリベルセプトは、ヒトIgG1のFc部分に融合したヒトVEGF受容体1および2の細胞外ドメインの複数の部分からなる組み換えヒト可溶性VEGF受容体融合タンパク質である。それは、97キロドルトン(kDa)のタンパク質分子量を有する2量体糖タンパク質であり、全分子の質量の15%の追加を構成するグリコシル化を含み、その結果合計分子量は115kDaになる。それは、組み換えCHO K1細胞中における発現により糖タンパク質として好都合に製造される。各モノマーは、以下のアミノ酸配列(配列番号:1):
SDTGRPFVEMYSEIPEIIHMTEGRELVIPCRVTSPNITVTLKKFPLDTLIPDGKRIIWDSRKGFIISNATYKEIGLLTCEATVNGHLYKTNYLTHRQTNTIIDVVLSPSHGIELSVGEKLVLNCTARTELNVGIDFNWEYPSSKHQHKKLVNRDLKTQSGSEMKKFLSTLTIDGVTRSDQGLYTCAASSGLMTKKNSTFVRVHEKDKTHTCPPCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKTTPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPG
を有することができ、ジスルフィド架橋が、各モノマー内の残基30−79、124−185、246−306および352−410の間、ならびにモノマー間の残基211−211および214−214の間で形成され得る。
【0034】
現在前臨床開発中の他の非抗体VEGFアンタゴニスト、イムノアドヘシンは、VEGFR2/KDR由来の細胞外リガンド結合ドメイン3および4、およびVEGFR1/Flt−1由来のドメイン2を含有するVEGFトラップと同様な組み換えヒト可溶性VEGF受容体融合タンパク質であり、これらのドメインは、ヒトIgGのFcタンパク質フラグメントと融合している(Li et al., 2011 Molecular Vision 17:797-803頁)。このアンタゴニストは、イソ型VEGF−A、VEGF−BおよびVEGF−Cに結合する。該分子は、2通りの異なった製造工程を使用して調製され、最終のタンパク質上に異なったグリコシル化パターンが生ずる。2種のグリコ型はKH902(コンベルセプト)およびKH906と称される。該融合タンパク質は、以下のアミノ酸配列(配列番号:2):
MVSYWDTGVLLCALLSCLLLTGSSSGGRPFVEMYSEIPEIIHMTEGRELVIPCRVTSPNITVTLKKFPLDTLIPDGKRIIWDSRKGFIISNATYKEIGLLTCEATVNGHLYKTNYLTHRQTNTIIDVVLSPSHGIELSVGEKLVLNCTARTELNVGIDFNWEYPSSKHQHKKLVNRDLKTQSGSEMKKFLSTLTIDGVTRSDQGLYTCAASSGLMTKKNSTFVRVHEKPFVAFGSGMESLVEATVGERVRLPAKYLGYPPPEIKWYKNGIPLESNHTIKAGHVLTIMEVSERDTGNYTVILTNPISKEKQSHVVSLVVYVPPGPGDKTHTCPLCPAPELLGGPSVFLFPPKPKDTLMISRTPEVTCVVVDVSHEDPEVKFNWYVDGVEVHNAKTKPREEQYNSTYRVVSVLTVLHQDWLNGKEYKCKVSNKALPAPIEKTISKAKGQPREPQVYTLPPSRDELTKNQVSLTCLVKGFYPSDIAVEWESNGQPENNYKATPPVLDSDGSFFLYSKLTVDKSRWQQGNVFSCSVMHEALHNHYTQKSLSLSPGK
を有することができ、および、VEGFトラップと同様に、2量体として存在することができる。この融合タンパク質および関連する分子は、欧州特許第1767546号中でさらに特性が明らかにされている。
【0035】
他の非抗体VEGFアンタゴニストとして、VEGFアンタゴニスト活性を有する抗体模倣体(例えばアフィボディ(登録商標)分子、アフィリン、アフィチン、アンチカリン、アビマー、クニツドメインペプチド、およびモノボディ(monobody))が挙げられる。これは、VEGF−Aに結合して、それがVEGFR−2に結合することを防止するアンキリン反復ドメインを含む組み換え結合タンパク質を含む。そのような分子の一例は、DARPin(登録商標)MP0112である。アンキリン結合ドメインは、以下のアミノ酸配列(配列番号:3):
GSDLGKKLLEAARAGQDDEVRILMANGADVNTADSTGWTPLHLAVPWGHLEIVEVLLKYGADVNAKDFQGWTPLHLAAAIGHQEIVEVLLKNGADVNAQDKFGKTAFDISIDNGNEDLAEILQKAA
を有することができる。
VEGF−Aに結合して、それがVEGFR−2に結合することを防止するアンキリン反復ドメインを含む組み換え結合タンパク質は、WO2010/060748およびWO2011/135067でさらに詳細に説明されている。
【0036】
VEGFアンタゴニスト活性を有するさらに具体的な抗体模倣体は、40kDのPEG化されたアンチカリンPRS−050およびモノボディのアンジオセプト(angiocept)(CT−322)である。
【0037】
上で言及した非抗体VEGFアンタゴニストは、改変してそれらの薬物動態学的性質またはバイオアベイラビリティをさらに改善することができる。例えば、非抗体VEGFアンタゴニストは、化学的に改変して(例えば、PEG化した)そのインビボの半減期を延長することができる。代替として、または加えて、それはグリコシル化またはVEGFアンタゴニストが由来する天然タンパク質のタンパク質配列中には存在しないさらなるグリコシル化部位の付加により改変することができる。
【0038】
所望の用途のために改善された特性を有する、上で特化したVEGFアンタゴニストの変異体は、アミノ酸の添加または欠失により製造することができる。通常、これらのアミノ酸配列の変異体は、配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3のアミノ酸配列と、少なくとも60%、好ましくは少なくとも80%、より好ましくは少なくとも85%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%、例えば、80%、81%、82%、83%、84%、85%、86%、87%、88%、89%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%、99%、および100%を含むアミノ酸配列同一性を有するアミノ酸配列を有するであろう。この配列に関する同一性または相同性は、本明細書においては、配列をアラインして、および必要であればギャップを導入して、最大の配列同一性(%)を得た後、およびいかなる保存的置換も配列同一性の部分とみなさずに、配列番号:1、配列番号:2または配列番号:3と同一である候補配列中のアミノ酸残基のパーセンテージとして定義される。
【0039】
配列同一性は、2種のポリペプチドのアミノ酸位置における類似性を比較するために一般的に使用される標準的方法により決定することができる。BLASTまたはFASTAなどのコンピュータプログラムを使用して、2種のポリペプチドを、それらのそれぞれのアミノ酸の合致が最適になるようにアラインする(一方もしくは両方の配列の全長に沿ってまたは一方もしくは両方の配列の所定の部分に沿ってのいずれかで)。プログラムは、デフォルトのオープニングペナルティ(default opening penalty)およびデフォルトのギャップペナルティ(default gap penalty)を提供し、PAM250[標準的スコア付けマトリックス;Dayhoff et al., Atlas of Protein Sequence and Structure, vol. 5, supp. 3 (1978)を参照されたい]などのスコア付けマトリックスは、コンピュータプログラムと連携して使用することができる。例えば、その場合、同一性(%)は、同一合致の総数を100倍して、次に合致したスパン内の長い方の配列の長さと2つの配列をアラインするために、長い方の配列中に導入したギャップの数との合計により除したものとして計算することができる。
【0040】
本発明の非抗体VEGFアンタゴニストは、抗体の抗原結合ドメインに由来しない1つまたは複数のタンパク質ドメイン(単数または複数)を通してVEGFに結合していることが好ましい。本発明の非抗体VEGFアンタゴニストは、好ましくはタンパク性であるが、非タンパク性である改変(例えば、PEG化、グリコシル化)を含むこともできる。
【0041】
(治療法)
本発明の注射器は、脈絡膜血管新生、加齢黄斑変性(湿性および乾性型の両方)、分枝RVO(bRVO)および中心RVO(cRVO)の両方を含む網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜血管新生、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖性網膜症を含むが、これらに限定されない眼疾患を治療するために使用することができる。
【0042】
したがって、本発明は、脈絡膜血管新生、湿性加齢黄斑変性、分枝RVO(bRVO)および中心RVO(cRVO)の両方を含む網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜血管新生、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖性網膜症から選択される眼疾患を患う患者を治療する方法であって、本発明の充填済み注射器を使用して眼科用溶液を患者に投与するステップを含む方法を提供する。この方法は、好ましくは、医師が充填済み注射器のプランジャーを押し下げてストッパーの所定の部分をプライミングマークと合わせる初期プライミングステップをさらに含む。
【0043】
一実施形態において、本発明は、脈絡膜血管新生、湿性加齢黄斑変性、分枝RVO(bRVO)および中心RVO(cRVO)の両方を含む網膜静脈閉塞(RVO)に続発する黄斑浮腫、病的近視(PM)に続発する脈絡膜血管新生、糖尿病性黄斑浮腫(DME)、糖尿病性網膜症、および増殖性網膜症から選択される眼疾患を治療する方法であって、本発明の充填済み注射器を用いて非抗体VEGFアンタゴニストを投与するステップを含み、患者が抗体VEGFアンタゴニストを用いる治療を以前に受けたことがある、方法を提供する。
【0044】
(キット)
本発明の充填済み注射器を含むキットも提供される。一実施形態において、そのようなキットは、ブリスターパック(ブリスター包装体)中の本発明の充填済み注射器を含む。ブリスターパック自体も内側を滅菌することができる。一実施形態において、本発明による注射器は、そのようなブリスターパックの中に入れてから、滅菌、例えば最終滅菌を受けることができる。
【0045】
そのようなキットは、VEGFアンタゴニストを投与するための針をさらに含むことができる。VEGFアンタゴニストが硝子体内に投与されるのであれば、通常30ゲージ×1/2インチ針を使用するが、31ゲージおよび32ゲージの針も使用することができる。硝子体内投与のためには、33ゲージまたは34ゲージの針を、代わりに使用することができる。そのようなキットは、さらに使用説明書を含むことができる。一実施形態において、本発明は、ブリスターパック中の本発明による充填済み注射器、針および場合により投与のための説明書を入れたカートンを提供する。
【0046】
(滅菌)
上記のように、最終滅菌工程は、注射器を滅菌するために使用することができ、そのような工程としてエチレンオキシド(EtO)または過酸化水素(H)滅菌工程などの知られた工程を使用することができる。注射器で使用すべき針は、本発明によるキットと同じ方法により滅菌することができる。
【0047】
パッケージは、注射器の外側が滅菌されるまで滅菌性ガスに曝露する。上述の工程の後では、注射器の外面は、6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月、15ヵ月、18ヵ月、または24ヵ月以上(ブリスターパック中にある間)まで無菌状態のままであり得る。したがって、一実施形態において、本発明による注射器は、(ブリスターパック中にある間)6ヵ月、9ヵ月、12ヵ月、15ヵ月、18ヵ月、または24ヵ月以上までの製品寿命を有し得る。一実施形態において、100万個中1個未満の注射器が、18ヵ月貯蔵後に注射器の外側に検出可能な微生物の存在を有する。一実施形態において、充填済み注射器は、EtOを使用して、少なくとも10−6の滅菌保証レベルで滅菌されている。一実施形態において、充填済み注射器は、過酸化水素を使用して、少なくとも10−6の滅菌保証レベルで滅菌されている。いうまでもなく、有意の量の滅菌性ガスは注射器の容量可変内室に進入しないことが必要条件である。本明細書において使用する「有意の量」という用語は、容量可変内室内で眼科用溶液の許容されない改変を惹起するであろうガス量を指す。一実施形態において、滅菌工程は、10%以下(好ましくは5%以下、3%以下、1%以下)のVEGFアンタゴニストのアルキル化を引き起こす。一実施形態において、充填済み注射器は、EtOを使用して滅菌されたが、注射器外面の残留EtOは、1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下である。一実施形態において、充填済み注射器は、過酸化水素を使用して滅菌されたが、注射器外面の残留過酸化水素は1ppm以下、好ましくは0.2ppm以下である。他の実施形態において、充填済み注射器はEtOを使用して滅菌され、注射器の外側およびブリスターパックの内側で見出される残留EtOの合計は、0.1mg以下である。他の実施形態において、充填済み注射器は、過酸化水素を使用して滅菌されて、注射器の外側およびブリスターパックの内側で見出される残留過酸化水素の合計は0.1mg以下である。
【0048】
(一般的事項)
「含む(comprising)」という用語は、「含む(including)」ならびに「からなる(consisting)」を意味し、例えば組成物がX「を含む(comprising)」は、Xのみからなってもよく、または何かが加わった、例えばX+Yを含んでもよい。
【0049】
数値xに関連する「約」という用語は、例えば、x±10%を意味する。
【0050】
2種のアミノ酸配列の間のパーセンテージでの配列同一性に対する言及は、アラインしたときに、2種の配列を比較してアミノ酸のパーセンテージが同じであることを意味する。このアラインメントおよび相同性または配列同一性のパーセントは、当技術分野において知られたソフトウェアプログラム、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology (F.M. Ausubel et al., eds., 1987) Supplement 30の7.7.18節に記載されているものを使用して決定することができる。好ましいアラインメントは、ギャップオープンペナルティ12およびギャップエクステンションペナルティ(gap extension penalty)2、BLOSUMマトリックス62を使用するアフィンギャップ検索を使用してSmith−Watermanの相同性検索アルゴリズムにより決定される。Smith−Waterman相同性検索アルゴリズムは、Smith & Waterman (1981) Adv. Appl. Math. 2: 482-489頁に開示されている。
【図面の簡単な説明】
【0051】
図1】注射器の側面図を示す図である。
図2】注射器の平面図の断面を示す図である。
図3】プランジャーの見取り図を示す図である。
図4】プランジャーを通る断面を示す図である。
図5】ストッパーを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0052】
ここで、単なる例として、図面を参照して、本発明をさらに説明することにする。
図1は、胴部2、プランジャー4、後方ストップ6および密封装置8を含む注射器1の側面図を示す。
【0053】
図2は、上の図1の注射器1を通る断面を示す。注射器1は、眼への注射における使用に適する。注射器1は、胴部2、ストッパー10およびプランジャー4を含む。注射器1は第1軸線Aに沿って伸びている。胴部2は出口端部14に出口12を備え、ストッパー10は、胴部2内に、ストッパー10の前面16と胴部2とが容量可変内室18の境界を定めるように配置されている。容量可変内室18は、ラニビズマブなどのVEGFアンタゴニストを含む眼科用溶液を含む注射用医薬20を含む。注射液20は、ストッパー10の出口端部14に向かう移動により出口12を通して放出することができ、それにより容量可変内室18の容量が減少する。プランジャー4は、第1端部24にプランジャー接触面22、およびプランジャー接触面22と後部25との間に伸びているロッド26を含む。プランジャー接触面22はストッパー10に接触するように配置され、その結果、ストッパー10を胴部2の出口端部14に向かって動かすためにプランジャー4を使用することができる。そのような動きは容量可変内室18の容量を減少させ、その中の液体が出口を通して放出される。
【0054】
後方ストップ6は、胴部2の末端フランジ28に連結することにより胴部2に取り付けられる。後方ストップ6は、胴部2の末端フランジ28の少なくとも一部を実質的にサンドイッチするように適合されたサンドイッチ部分30を含む。後方ストップ6は、後方ストップ6の一方の側を開いておくことにより横側から胴部2に連結されるように適合されており、その結果、後方ストップ6は注射器2にはめ込まれ得る。
【0055】
胴部2は、穴部半径を有する実質的に筒形(円筒形)の穴部(ボア)36の境界を定める。ロッド26は、出口端部14から遠ざかる方向にロッド肩部32を備える。ロッド肩部32は、第1軸線Aから、穴部半径より僅かに小さくしてあるロッド肩部半径にまで広がっており、その結果ロッド肩部は穴部36内に丁度収まる。後方ストップ6は、出口端部14に向けられた後方ストップ肩部34を含む。肩部32、34は協働して、後方ストップ肩部34とロッド肩部32とが接触しているときにロッド26が出口端部14から遠ざかる動きを実質的に防止するように構成されている。後方ストップ肩部34は、穴部半径の外側からロッド肩部半径未満の半径にまで広がっており、その結果ロッド肩部32は、第1軸線Aに沿って移動することにより後方ストップ肩部34を通過することができない。この場合、ロッド肩部32は、実質的に円板、または環形であり、後方ストップ肩部34は胴部2の後端部38の周りの円弧を含む。
【0056】
後方ストップ6は、第1軸線Aに対して実質的に垂直に胴部2から遠ざかって反対方向に伸びる2個の指状突起40も含み、使用中、注射器1の手による取り扱いを容易にする。
【0057】
この例において、注射器は、10mg/mlのラニビズマブを含む注射用溶液を含む約0.1と0.3mlの間の注射用医薬20で充填された0.5mlの胴部2を含む。注射器胴部2は、内径が約4.5mmと4.8mmの間、長さは約45mmと50mmの間である。
【0058】
プランジャー4およびストッパー10については、後の図を参照してさらに詳細に説明する。
【0059】
図3は、プランジャー4の第1端部24にあるプランジャー接触面22を示す、図1のプランジャー4の透視図を示す。ロッド26は、第1端部24から後部25にまで伸びている。後部25は、円板形のフランジ42を含み、使用者が装置を取り扱いやすくする。フランジ42は、使用者による接触のために、ロッド26のままの端部より大きい表面積を提供する。
【0060】
図4は、注射器胴部2およびロッド26を通る断面を示す。ロッド26は、4つの縦リブ44を含み、リブ間の角度は90°である。
【0061】
図5は、円錐形の前面16および実質的に円筒形の胴部58の周囲の3つの円周リブ52、54、56を示すストッパー10の詳細な見取り図を示す。第1のリブ52と最後のリブ56との間の軸線方向の間隔は約3mmである。ストッパー10の後表面60は実質的に中央の凹部62を含む。中央の凹部62は、第1直径を有する最初の穴部64を含む。最初の穴部64は、後表面60からストッパー10の中に、第1の直径より大きい第2の直径を有する内部の凹部66に通じる。
【0062】
(ストッパー移動力)
2通りの異なったストッパー設計の1つを含む、ルセンティスを充填した、100μg未満のシリコーンオイルでシリコーン化された0.5mlの注射器を、最高および平均の始動力および滑動力について試験した。試験に先立って、30G×0.5”の針を注射器に取り付けた。試験は、ストッパー速度190mm/分で10.9mmの移動長にわたって実施した。ストッパー設計2は、前円周リブと後円周リブとの間の間隔が45%長かった。
【0063】
【表1】
【0064】
両方のストッパー設計について、平均および最大の始動力は3N未満にとどまった。両方のストッパー設計について、平均および最大の滑動力は5N未満にとどまった。
【0065】
本発明が単なる例として説明されたにすぎず、本発明の範囲および精神の内にとどまりながら、改変を為すことができることは理解されるであろう。
【符号の説明】
【0066】
1 注射器
2 胴部
4 プランジャー
6 後方ストップ
8 密封装置
10 ストッパー
12 出口
14 出口端部
16 前面
18 内室
20 注射用液体
22 接触面
24 第1端部
25 後部
26 ロッド
28 末端フランジ
30 サンドイッチ部分
32 ロッド肩部
34 後方ストップ肩部
36 穴部
38 後端
40 指状突起
42 フランジ
44 縦リブ
52 円周リブ
54 円周リブ
56 円周リブ
58 胴部
60 後表面
62 凹部
64 穴部
66 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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