(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また微小短絡が生じる可能性が高い状態の電池又は微小短絡が生じた電池は、正常な電池と比べて電池容量が少ないため、同様に放電したとしてもSOC(State of Charge;充電状態)が相違する。そのためSOCの相違に基づくインピーダンス変化の相違から、微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態であるか否かを判断する手法がある。
【0006】
しかしながら、電荷移動抵抗領域のインピーダンス変化の相違から微小短絡に関する判定を行う場合、SOCが変化してもインピーダンス変化が小さい電池では、微小短絡が生じる可能性が高い状態又は微小短絡が生じた状態であるか否かを判定することが困難であり、判定精度が低かった。このため例えば微小短絡ではない良品の電池を不良品として判定することがあった。このような電池としては、例えばニッケル水素電池や、車載用であって抵抗値が10mΩ以下のリチウム電池が挙げられる。
【0007】
本発明は、上記実情を鑑みてなされたものであり、その目的は、微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態であるか否かを判定する電池状態判定装置の判定精度を向上することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する電池状態判定装置は、二次電池に対し微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態である微小短絡傾向状態を判定する電池状態判定装置であって、拡散抵抗領域に対応する周波数を測定周波数とし、該測定周波数の交流電圧又は交流電流を判定対象の二次電池に印加して複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンス測定部から得られた前記複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値を検出する検出部と、前記微小短絡傾向状態である二次電池の前記虚軸成分の絶対値の測定結果に基づき設定された下限閾値を記憶する記憶部と、前記検出部によって検出された前記虚軸成分の絶対値と前記下限閾値とを比較し、前記虚軸成分の絶対値が前記下限閾値よりも小さい場合に、前記判定対象の二次電池が前記微小短絡傾向状態であると判定する判定部とを備えた。
【0009】
この電池状態判定装置では、判定対象の二次電池に対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、虚軸成分の絶対値を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとする。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線のうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の二次電池は拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出した虚軸成分の絶対値と予め設定した下限閾値とを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。また特に虚軸成分の絶対値は、微小短絡傾向を最もよく反映するパラメータであり、誤差が比較的小さい。従って他のパラメータでは微小短絡傾向状態を検出しにくい電池でも、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0010】
この電池状態判定装置について、前記インピーダンス測定部は、充電状態が20%以下の前記二次電池に対し複素インピーダンス測定を行うことが好ましい。
即ち微小短絡傾向の二次電池の複素インピーダンスは、二次電池の充電状態(SOC)が「0」に近いほど大きく変化する。上記電池状態判定装置は、充電状態が20%以下の二次電池の複素インピーダンスを測定するので、微小短絡の検出精度も向上でき、判定を行うために二次電池を満充電にする必要がない。
【0011】
この電池状態判定装置について、前記検出部は、前記虚軸成分の絶対値とともに前記複素インピーダンスの実軸成分の絶対値を算出し、前記記憶部は、前記虚軸成分の絶対値に対応する第1の下限閾値とともに、前記微小短絡傾向状態である二次電池の前記実軸成分の絶対値の測定結果に基づき設定された第2の下限閾値を記憶し、前記判定部は、判定対象の二次電池の前記虚軸成分の絶対値が前記第1の下限閾値よりも小さい、又は、前記実軸成分の絶対値が前記第2の下限閾値よりも小さい場合に、判定対象の二次電池が前記微小短絡傾向状態であると判定することが好ましい。
【0012】
この態様によれば、複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値に加え、実軸成分の絶対値を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとする。このため検出した虚軸成分の絶対値、及び実軸成分の絶対値と、それらに対応する各下限閾値とを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。
【0013】
上記課題を解決する電池状態判定装置は、二次電池に対し微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態である微小短絡傾向状態を判定する電池状態判定装置であって、拡散抵抗領域に対応する周波数を測定周波数とし、該測定周波数の交流電圧又は交流電流を判定対象の二次電池に印加して複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンス測定部から得られた前記複素インピーダンスの実軸成分の絶対値を検出する検出部と、前記微小短絡傾向状態である二次電池の前記実軸成分の測定結果に基づき設定された下限閾値を記憶する記憶部と、前記検出部によって検出された前記実軸成分の絶対値と前記下限閾値とを比較し、前記実軸成分の絶対値が前記下限閾値よりも小さい場合に、前記判定対象の二次電池が前記微小短絡傾向状態であると判定する判定部とを備えた。
【0014】
この電池状態判定装置では、判定対象の二次電池に対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、実軸成分の絶対値を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとする。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線のうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の二次電池は拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出した実軸成分の絶対値と予め設定した下限閾値とを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。従って他のパラメータでは微小短絡傾向状態を検出しにくい電池であっても、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0015】
上記課題を解決する電池状態判定装置は、二次電池に対し微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態である微小短絡傾向状態を判定する電池状態判定装置であって、拡散抵抗領域に対応する周波数を測定周波数とし、該測定周波数の交流電圧又は交流電流を判定対象の二次電池に印加して複素インピーダンスを測定するインピーダンス測定部と、前記インピーダンス測定部から得られた前記複素インピーダンスの絶対値を検出する検出部と、前記微小短絡傾向状態である二次電池の前記複素インピーダンスの測定結果に基づき設定された下限閾値を記憶する記憶部と、前記検出部によって検出された前記複素インピーダンスの絶対値と前記下限閾値とを比較し、前記複素インピーダンスの絶対値が前記下限閾値よりも小さい場合に、前記判定対象の二次電池が前記微小短絡傾向状態であると判定する判定部とを備えた。
【0016】
この電池状態判定装置では、判定対象の二次電池に対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、該複素インピーダンスの絶対値を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとする。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線のうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の二次電池は拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出したインピーダンスの絶対値と予め設定した下限閾値とを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。従って他のパラメータでは微小短絡傾向状態を検出しにくい電池であっても、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0017】
これらの電池状態判定装置について、前記インピーダンス測定部は、充電状態が20%以下の前記二次電池に対し複素インピーダンス測定を行うことが好ましい。
即ち微小短絡傾向の二次電池の複素インピーダンスは、二次電池の充電状態(SOC)が「0」に近いほど大きく変化する。上記電池状態判定装置は、充電状態が20%以下の二次電池の複素インピーダンスを測定するので、微小短絡の検出精度も向上でき、判定を行うために二次電池を満充電にする必要がない。
【発明の効果】
【0018】
本発明にかかる電池状態判定装置によれば、微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態であるか否かを判定する精度を向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
(第1実施形態)
以下、電池状態判定装置の第1実施形態を説明する。この装置では、車載用であって抵抗値が10mΩ以下のリチウムイオン電池、ニッケル水素電池等の二次電池に対し、微小短絡が生じた状態又は微小短絡が生じる可能性が高い状態(微小短絡傾向状態)であるか否かを判定する。微小短絡は、電池内における僅かな析出物や微小な異物の混入等を要因とする微小な短絡であり、直ちに電池が使用不可能な状態にはならない場合もある。微小短絡は短絡箇所に微小電流が流れることで瞬間的に焼切れる場合もあるが、電池の性能低下の要因となりうる他、内部短絡を招来する可能性もある。
【0021】
図1に示すように、電池状態判定装置10は、測定装置11、及び判定装置12を備えている。測定装置11は、インピーダンス測定部11a及びSOC調整部11bを有している。インピーダンス測定部11aは、判定対象である電池モジュールMに交流電圧又は交流電流を印加して、電池モジュールMの複素インピーダンスを測定する。SOC調整部11bは、電池モジュールMのSOCを調整する。電池モジュールMは、本実施形態では複数のバッテリーセルから構成されている。この電池モジュールMが複数組み合わされることによって、電池スタックが構成され、当該電池スタック及びECU等により車両等に搭載される電池パックが構成される。
【0022】
判定装置12は、CPU12a、RAM12b及びROM12c等を有し、ROM12cには、微小短絡傾向状態の判定に用いられるプログラムが格納されている。判定装置12の判定結果は、ディスプレイ、印刷装置等の出力装置13に出力される。この判定装置12は検出部、記憶部、判定部を構成する。
【0023】
判定装置12は、測定装置11から複素インピーダンス測定値を入力する。判定装置12のROM12cには、判定対象となる電池モジュールMに対し、実験等を通じて設定された測定周波数Fdif及び下限閾値Zjminが格納されている。この測定周波数Fdif及び下限閾値Zjminは、ニッケル水素電池、リチウム電池といった電池種別によって変化する。また同じ電池種別でもセル数や容量等が異なる場合には変化する。従って判定対象となる電池の種別や構成が変化する場合には、測定周波数Fdif及び下限閾値Zjminを判定対象に合わせて設定する。
【0024】
電池モジュールMの複素インピーダンスZは、ベクトル成分である実軸成分Zreal及び虚軸成分Zimgによって以下のようにあらわされる。尚、「j」は虚軸単位である。
Z=Zreal+jZimg
【0025】
図2に示す複素インピーダンス曲線Nは、複素インピーダンスの実軸成分及び虚軸成分の大きさを2次元平面にプロットしたものを模式化して示している。この複素インピーダンス曲線Nは、電池モジュールMに印加される交流電圧(又は交流電流)の周波数を変化させて測定されている。横軸は実軸成分Zrealの絶対値(|Zreal|)、縦軸は虚軸成分Zimg(|Zimg|)の絶対値である。
【0026】
複素インピーダンス曲線Nは、高周波数側から部品液抵抗領域A、円弧状の電荷移動抵抗領域B、略直線状の拡散抵抗領域Cに分けられる。部品液抵抗領域Aは、活物質や集電体内の接触抵抗、セパレータ内の電解液内のイオンが移動する際の抵抗等が表れた領域である。電荷移動抵抗領域Bは、電荷移動等における抵抗の領域であって、拡散抵抗領域Cは、物質拡散が関与したインピーダンスが表れた領域である。
【0027】
測定周波数Fdifは、この拡散抵抗領域Cに対応する周波数範囲のうち所定の周波数である。測定周波数Fdifを拡散抵抗領域Cに対応する周波数とするのは、微小短絡傾向状態の電池モジュールMは、他の領域A,Bに比べて、拡散抵抗領域Cにおけるインピーダンス変化が顕著であることによる。微小短絡傾向状態であるか否かを判定する際には、測定周波数Fdifの交流電圧又は交流電流が電池モジュールMに印加される。
【0028】
また下限閾値Zjminは、複素インピーダンスの虚軸成分の大きさの下限を示しており、下限閾値Zjmin未満の虚軸成分の絶対値が測定された電池モジュールMは、微小短絡傾向状態である不良品と判定される。
【0029】
下限閾値Zjminの具体的な値は、以下のように設定される。例えば数百個の電池モジュールMを検査対象とし、各電池モジュールMに1つずつ測定周波数Fdifの交流電圧を印加し、測定装置11等により複素インピーダンスの虚軸成分Zimgを測定する。ここで実軸成分Zrealではなく虚軸成分Zimgを測定するのは、実軸成分Zrealには、微小短絡傾向だけでなく液抵抗・部品抵抗の増加による異常も反映され、虚軸成分Zimgには微小短絡傾向が最もよく反映されるためである。
【0030】
各電池モジュールMの虚軸成分Zimgを測定すると、分解解析等、公知の方法によって各電池モジュールMの微小短絡の有無、微小短絡が生じる可能性があるか否かを判断する。
【0031】
図3に示される分布図は、各電池モジュールMに測定周波数Fdifの交流電圧を印加したときの虚軸成分Zimgの分布を示すものであり、横軸が虚軸成分Zimgの絶対値、縦軸が電池モジュールMの数量である。
図3の分布図では、虚軸成分Zimgの絶対値が6.0mΩより小さい領域に不良品、虚軸成分Zimgの絶対値が6.0mΩ以上の領域に良品が分布している。従ってこの良品及び不良品の境界である6.0mΩを下限閾値Zjminとする。なお、分布図に、良品及び不良品の明確な境界が見られず、良品及び不良品が混在する領域がある場合には、その混在領域の最大値、又は、混在領域のうち良品個数が不良品個数よりも多くなる値に下限閾値Zjminを設定してもよい。
【0032】
図4は、良品の複素インピーダンス曲線N1及び不良品の複素インピーダンス曲線N2であって、SOCが低い状態の良品及び不良品の電池モジュールMに対し周波数を変化させて交流電圧を印加して測定したものである。微小短絡傾向状態のない良品は、曲線N1のうち測定周波数Fdifに対応する点P1の虚軸成分の絶対値|Zimg|が下限閾値Zjminを超えている。一方、微小短絡傾向状態である不良品は、曲線N2のうち測定周波数Fdifに対応する点P2の虚軸成分の絶対値|Zimg|が下限閾値Zjmin未満である。尚、電池モジュールMを構成する電池セルのうち1つでも微小短絡傾向状態である場合には、電池モジュールMの複素インピーダンスの虚軸成分Zimgの絶対値は、下限閾値Zjmin未満となる。
【0033】
(動作)
次に本実施形態の微小短絡傾向状態の判定方法について説明する。ここでは微小短絡傾向状態の判定は、電池状態判定装置10により自動的に行われる。
【0034】
図5に示すように、判定装置12は、測定装置11のSOC調整部11bを制御して、電池モジュールMのSOC調整を行う(ステップS1)。SOC調整部11bは、電池モジュールMの放電(又は充電)を行い、SOCを低い状態にする。具体的には電池モジュールMのSOCを20%以下にすることが好ましく、5%以下にすることが特に好ましい。このようにSOCを低い状態にすると、
図4に示すインピーダンス曲線のように、SOCが高い状態に比べインピーダンス変化が顕著となり判定しやすくなる。またSOCを5%以下にすると、インピーダンス変化が特に顕著になり、判定精度をより向上できる。
【0035】
SOC調整を行うと、判定装置12は測定装置11を制御して、インピーダンス測定部11aにより電池モジュールMの複素インピーダンス測定を行う(ステップS2)。このとき判定装置12は、測定装置11に対し、ROM12cに格納された測定周波数Fdifの交流電圧を電池モジュールMに印加するように制御する。又は測定装置11側に測定周波数Fdifを予め設定していてもよい。このとき測定周波数Fdifを所定の値に設定することにより、周波数範囲を設定する場合に比べ測定時間を短くすることができる。
【0036】
インピーダンス測定部11aは、電池モジュールMの複素インピーダンスを測定すると、測定値を判定装置12に出力する。判定装置12は、測定値に基づき複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値(|Zimg|)を算出する(ステップS3)。また、判定装置12は、ROM12cから下限閾値Zjminを読み出し(ステップS4)、虚軸成分の絶対値|Zimg|が、下限閾値Zjmin未満であるか否かを判断する(ステップS5)。
【0037】
虚軸成分の絶対値|Zimg|が、下限閾値Zjmin以上である場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態ではないとして、良品判定を行う(ステップS6)。一方、虚軸成分の絶対値|Zimg|が、下限閾値Zjmin以下である場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態の不良品であると判定する(ステップS7)。
【0038】
以上説明したように、第1実施形態によれば、以下に列挙する効果が得られるようになる。
(1)第1実施形態によれば、判定対象の電池モジュールMに対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値|Zimg|を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとして検出する。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線Nのうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の二次電池は拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出した虚軸成分の絶対値|Zimg|と予め設定した下限閾値Zjminとを比較することによって、従来に比べ微小短絡傾向状態の電池モジュールMを比較的精度よく検出できる。また特に虚軸成分の絶対値|Zimg|は、微小短絡傾向を最もよく反映するパラメータであり、誤差が比較的小さい。従って微小短絡傾向状態が生じたときに他のパラメータでは変化の小さい電池であっても、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0039】
(2)第1実施形態では、微小短絡傾向の電池モジュールMの複素インピーダンスは、電池モジュールMの充電状態(SOC)が「0」に近いほど大きく変化する。電池状態判定装置10は、充電状態が20%以下の二次電池の複素インピーダンスを測定するので、微小短絡の判定精度も向上でき、判定のために二次電池を満充電にする必要がない。またSOCを5%以下にした場合には、インピーダンス変化が特に顕著になり、判定精度をより向上できる。
【0040】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態を
図6にしたがって説明する。尚、第2実施形態は、第1実施形態の判定方法の手順を変更したのみの構成であるため、同様の部分については同一符号を付してその詳細な説明を省略する。
【0041】
本実施形態では、微小短絡傾向状態の判定に複素インピーダンスの実軸成分を用いる。上述したように実軸成分Zrealは、微小短絡傾向だけではなく、液抵抗・部品抵抗等の増加が反映されるが、例えば液抵抗・部品抵抗等の増加を含めて異常を判定する場合には、実軸成分Zrealを判定用のパラメータとして用いることが好ましい。
【0042】
この場合には、第1実施形態における虚軸成分Zimgの下限閾値Zjminを決める手順と同様に、実軸成分Zrealの下限閾値Zrminを決定する。即ち、数百個の電池モジュールMを検査対象とし、測定周波数Fdifの交流電圧を印加し、測定装置11により複素インピーダンスの実軸成分Zrealを測定する。そして各電池モジュールMの微小短絡の有無、微小短絡が生じる可能性があるか否かを公知の方法で判定する。そして
図3に示されるような分布図を作成し、その分布図から良品と不良品との境界となる下限閾値Zrminを設定する。
【0043】
次に本実施形態における電池状態判定装置10の動作について説明する。本実施形態の動作及び第1実施形態の動作の共通部分については、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
図6に示すように、判定装置12は、第1実施形態と同様に、測定装置11のSOC調整部11bを制御して、電池モジュールMのSOC調整を行う(ステップS1)。SOC調整部11bは、電池モジュールMの放電(又は充電)を行い、SOCを低い状態にする。具体的には電池モジュールMのSOCを20%以下にすることが好ましく、5%以下にすることが特に好ましい。このようにSOCを低い状態にすると、SOCが高い状態に比べインピーダンス変化が顕著となり判定しやすくなる。またSOCを5%以下にすると、インピーダンス変化が特に顕著になり、判定精度をより向上できる。
【0044】
また判定装置12は測定装置11を制御して、インピーダンス測定部11aにより電池モジュールMの複素インピーダンス測定を行う(ステップS2)。
インピーダンス測定部11aは、電池モジュールMの複素インピーダンスを測定すると、測定値を判定装置12に出力する。判定装置12は、測定値に基づき複素インピーダンスの実軸成分の絶対値(|Zreal|)を算出する(ステップS10)。また、判定装置12は、ROM12cから、実軸成分の絶対値の下限閾値Zrminを読み出し(ステップS11)、虚軸成分の絶対値|Zreal|が、下限閾値Zrmin未満であるか否かを判断する(ステップS12)。
【0045】
実軸成分の絶対値|Zreal|が、下限閾値Zrmin以上である場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態ではないとして、良品判定を行う(ステップS6)。即ち、ステップS6で良品判定された電池モジュールMは、微小短絡傾向状態ではなく、液抵抗・部品抵抗の増加による異常もない可能性が高い。
【0046】
一方、実軸成分の絶対値|Zreal|が、下限閾値Zrmin未満である場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態であると判定する(ステップS7)。
【0047】
以上説明したように、第2実施形態によれば、第1実施形態の(2)に記載の効果に加えて以下に列挙する効果が得られるようになる。
(3)第2実施形態では、電池モジュールMに対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、複素インピーダンスの実軸成分の絶対値|Zreal|を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとして検出する。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線Nのうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の電池モジュールMは拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出した実軸成分の絶対値|Zreal|と予め設定した下限閾値Zrminとを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。従って微小短絡傾向状態が生じたときに他のパラメータでは変化の小さい電池であっても、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0048】
(第3実施形態)
次に、本発明を具体化した第3実施形態を
図7にしたがって説明する。尚、第3実施形態は、第1実施形態の判定方法の手順を変更したのみの構成である。
【0049】
本実施形態では、微小短絡傾向状態の判定に複素インピーダンスの絶対値(|Z|)を用いる。|Z|は以下のようにあらわされる。
|Z|={(Zimg)
2+(Zreal)
2}
1/2
従って、複素インピーダンスの絶対値|Z|は実軸成分Zrealを含むが、液抵抗・部品抵抗等の増加を含めて判定する場合等には、実軸成分Zrealを判定用のパラメータとして用いることが好ましく、虚軸成分Zimgが含まれる複素インピーダンスの絶対値|Z|で判定することで、微小短絡傾向状態における判定精度も向上できる。
【0050】
本実施形態の下限閾値Zminの設定方法は、第1実施形態と同様である。即ち上述した分布図の横軸となるパラメータが、複素インピーダンスの絶対値|Z|であることのみが異なる。
【0051】
次に本実施形態における電池状態判定装置10の動作について説明する。本実施形態の動作及び第1実施形態の動作の共通部分については、同一のステップ番号を付して説明を省略する。
図7に示すように、判定装置12は、第1及び第2第1実施形態と同様に、電池モジュールMのSOC調整を行う(ステップS1)。このときSOC調整部11bは、電池モジュールMの放電(又は充電)を行い、SOCを低い状態にする。具体的には電池モジュールMのSOCを20%以下にすることが好ましく、5%以下にすることが特に好ましい。このようにSOCを低い状態にすると、SOCが高い状態に比べインピーダンス変化が顕著となり判定しやすくなる。またSOCを5%以下にすると、インピーダンス変化が特に顕著になり、判定精度をより向上できる。
【0052】
また判定装置12は、インピーダンス測定部11aにより電池モジュールMの複素インピーダンス測定を行う(ステップS2)。
判定装置12は、インピーダンス測定部11aによる測定値に基づき複素インピーダンスの絶対値(|Z|)を算出する(ステップS20)。また、判定装置12は、ROM12cから、複素インピーダンスの絶対値の下限閾値Zminを読み出し(ステップS21)、複素インピーダンスの絶対値|Z|が、下限閾値Zmin以下であるか否かを判断する(ステップS22)。
【0053】
複素インピーダンスの絶対値|Z|が、下限閾値Zminよりも大きい場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態ではないとして、良品判定を行う(ステップS6)。一方、複素インピーダンスの絶対値|Z|が、下限閾値Zmin以下である場合には、判定装置12は、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態であると判定する(ステップS7)。
【0054】
以上説明したように、第3実施形態によれば、第1実施形態の(2)に記載の効果に加えて以下に列挙する効果が得られるようになる。
(4)第3実施形態では、電池モジュールMに対し、拡散抵抗領域の複素インピーダンスを測定し、複素インピーダンスの絶対値|Z|を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとして検出する。拡散抵抗領域は、複素インピーダンス曲線Nのうち低周波数側に表れる部分であって、微小短絡傾向状態の電池モジュールMは拡散抵抗領域におけるインピーダンス変化が顕著になる。このため検出した複素インピーダンスの絶対値|Z|と予め設定した下限閾値Zminとを比較することによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上できる。従って微小短絡傾向状態が生じたときに他のパラメータでは変化の小さい電池であっても、非破壊で微小短絡傾向状態を検出することができる。
【0055】
(第4実施形態)
次に、本発明を具体化した第4実施形態を
図8にしたがって説明する。尚、第3実施形態は、第1実施形態の判定方法の手順を変更したのみの構成である。
【0056】
電池状態判定装置10の動作について説明する。本実施形態の動作及び第1実施形態の動作の共通部分については、同一のステップ番号を付して説明を省略する。本実施形態では微小短絡傾向状態の判定に複素インピーダンスの虚軸成分Zimg及び実軸成分Zrealを用い、これらの成分の両方が、各々設定された下限閾値Zjmin,Zrmin以上である場合に良品判定を行う。虚軸成分Zimgの下限閾値Zjminは第1実施形態と同様であり、実軸成分Zrealの下限閾値Zrminは第2実施形態と同様である。虚軸成分Zimg及び実軸成分Zrealの条件が満たされたもののみ良品判定を行うことによって、微小短絡傾向状態の判定精度を向上するとともに、液抵抗・部品抵抗等の増加による異常の有無についての評価を行うことができる。
【0057】
図8に示すように、判定装置12は、測定装置11を制御して、電池モジュールMのSOC調整を行う(ステップS1)。SOC調整部11bは、電池モジュールMの放電(又は充電)を行い、SOCを低い状態にする。具体的には電池モジュールMのSOCを20%以下にすることが好ましく、5%以下にすることが特に好ましい。このようにSOCを低い状態にすると、SOCが高い状態に比べインピーダンス変化が顕著となり判定しやすくなる。またSOCを5%以下にすると、インピーダンス変化が特に顕著になり、判定精度をより向上できる。
【0058】
また判定装置12は、電池モジュールMの複素インピーダンス測定(ステップS2)を行い、測定値に基づき複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値|Zimg|及び実軸成分の絶対値|Zreal|を算出する(ステップS30)。このとき虚軸成分の絶対値|Zimg|及び実軸成分の絶対値|Zreal|は、一回の測定から得ることができるので判定にかかる時間が極端に長くなることはない。
【0059】
また判定装置12は、ROM12cから、虚軸成分の絶対値の下限閾値Zjmin及び実軸成分の絶対値の下限閾値Zrminを読み出し(ステップS31)、虚軸成分の絶対値|Zimg|が下限閾値Zjmin未満、又は実軸成分の絶対値|Zreal|が下限閾値Zrmin未満であるか否かを判断する(ステップS32)。
【0060】
虚軸成分の絶対値|Zimg|が下限閾値Zjmin以上、且つ実軸成分の絶対値|Zreal|が下限閾値Zrmin以上であると判断すると(ステップS32においてYES)、判定対象の電池モジュールMが微小短絡傾向状態ではないとして、良品判定を行う(ステップS6)。
【0061】
一方、虚軸成分の絶対値|Zimg|が下限閾値Zjminより小さい、又は実軸成分の絶対値|Zreal|が下限閾値Zrminより小さい場合には(ステップS32においてNO)、電池モジュールMが微小短絡傾向状態であると判定する(ステップS7)。即ち、虚軸成分の絶対値|Zimg|及び実軸成分の絶対値|Zreal|の両方が下限閾値Zjmin,Zrmin以上である電池モジュールMのみ良品判定をしているため、微小短絡傾向状態であるにも関わらず、誤って良品判定することを抑制できる。
【0062】
以上説明したように、第4実施形態によれば、第1実施形態の(1),(2)に記載の効果に加えて以下に列挙する効果が得られるようになる。
(5)第4実施形態では、電池状態判定装置10は、複素インピーダンスの虚軸成分の絶対値|Zimg|に加え、実軸成分の絶対値|Zreal|を微小短絡傾向状態を判定するためのパラメータとして検出する。そして絶対値|Zimg|が虚軸成分の下限閾値Zjminより小さい、又は絶対値|Zreal|が実軸成分の下限閾値Zrminより小さい場合には微小短絡傾向と判定し、各絶対値|Zimg|,|Zreal|が各下限閾値Zjmin,Zrmin以上である場合にのみ良品判定する。このため、微小短絡傾向状態であるにも関わらず、誤って良品判定することを抑制できる。
【0063】
尚、上記実施形態は、以下のように適宜変更して実施することもできる。
・上記各実施形態では、SOCを20%以下とした電池モジュールMの複素インピーダンスを測定したが、SOCが20%超で微小短絡傾向状態が検出可能な電池であれば、電池モジュールMのSOCを20%超にした状態で測定しても構わない。
【0064】
・上記各実施形態では、電池モジュールMを判定対象とし、電池モジュールMを複数のバッテリーセルから構成したが、単数のバッテリーセルを判定対象としてもよい。また判定対象を、複数の電池モジュールMから構成される電池スタックとしてもよい。
【0065】
・上記実施形態では、測定装置11及び判定装置12を用いて、電池モジュールMの微小短絡傾向状態を判定したが、本発明の電池状態判定装置は、その構成に限定されない。例えば、測定装置11のSOC調整部11bとインピーダンス測定部11aは別の装置でもよい。
【0066】
・上記各実施形態では、SOCを測定する方法として充電電流の積算値を算出する方法を用いたが、電圧値や温度等の他のパラメータに基づき算出する方法、又は電流値を含めたそれらのパラメータを組み合わせて算出する方法を用いてもよい。