(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5744976
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】にきびの治療方法発明の分野
(51)【国際特許分類】
A61K 31/65 20060101AFI20150618BHJP
A61P 17/10 20060101ALI20150618BHJP
A61K 9/48 20060101ALI20150618BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20150618BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
A61K31/65
A61P17/10
A61K9/48
A61K47/38
A61K47/26
【請求項の数】9
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-146709(P2013-146709)
(22)【出願日】2013年7月12日
(62)【分割の表示】特願2008-518272(P2008-518272)の分割
【原出願日】2006年6月19日
(65)【公開番号】特開2013-213047(P2013-213047A)
(43)【公開日】2013年10月17日
【審査請求日】2013年7月12日
(31)【優先権主張番号】11/166,817
(32)【優先日】2005年6月24日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】502105258
【氏名又は名称】メディシス・ファーマシューティカル・コーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ワーツマン ミッチェル
(72)【発明者】
【氏名】プロット アール. トッド
(72)【発明者】
【氏名】バーティア クルジット
(72)【発明者】
【氏名】パテル ビク
【審査官】
安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】
特表2004−536046(JP,A)
【文献】
国際公開第2004/091483(WO,A1)
【文献】
特表2002−509887(JP,A)
【文献】
特開2001−278781(JP,A)
【文献】
特開2004−224754(JP,A)
【文献】
GARDNER,K.J. et al,Comparison of serum antibiotic levels in acne patients receiving the standard or a modified release formulation of minocycline hydrochloride,Clin Exp Dermatol,1997年,Vol.22, No.2,p.72-6
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/65
A61K 9/16
A61K 47/26
A61K 47/38
A61P 17/10
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者のためのにきび治療用経口投与剤であって、
前記経口投与剤が、
一日一回負荷量なしで投与されることで0.7〜1.3mg/kg/日のミノサイクリンが前記患者に与えられる量の前記ミノサイクリン、並びに、第1の乳糖一水和物、第2の乳糖一水和物、及びヒドロキシプロピルメチルセルロースを含む送達ビヒクルを含み、
前記第1の乳糖一水和物が、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースによって完全に又は部分的に被包又は被覆され、
前記第2の乳糖一水和物が、前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースによって被包又は被覆されず、
前記第2の乳糖一水和物が前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対して0.3〜0.5の質量比で存在する、
経口投与製剤。
【請求項2】
前記0.7〜1.3mg/kg/日が、1.0mg/kg/日である請求項1記載の経口投与製剤。
【請求項3】
前記ミノサイクリンは、ミノサイクリン塩酸塩である請求項1又は2に記載の経口投与製剤。
【請求項4】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースに対する前記第2の乳糖一水和物の前記質量比が、0.35〜0.45である請求項1から3のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項5】
前記質量比が、0.36〜0.40である請求項4記載の経口投与製剤。
【請求項6】
前記ヒドロキシプロピルメチルセルロースが、
前記経口投与製剤が135mgの前記ミノサイクリンを含む場合には前記経口投与製剤中に23.5重量%存在し、又は、
前記経口投与製剤が45mgの前記ミノサイクリンを含む場合には前記経口投与製剤中に27.0重量%存在する請求項1から5のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項7】
前記経口投与製剤は、患者において投与後3.0〜3.75時間でCmaxに達する速度でミノサイクリンを放出する請求項1から6のいずれかに記載の経口投与製剤。
【請求項8】
投与後3.5時間で前記Cmaxに達する請求項7記載の経口投与製剤。
【請求項9】
さらに、被覆体を含む請求項1から8のいずれかに記載の経口投与製剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、単に「にきび」として一般に知られる尋常性座瘡の治療に関する。「にきび」は、皮膚の毛嚢脂腺(もうのうしせん)構造に炎症が生じ、面皰、膿疱及び小結節の形成を招く皮膚の疾患である。重症例では、にきびは永続的な瘢痕化につながる。
【背景技術】
【0002】
毛嚢脂腺構造の角質過剰増殖によって全体として又は部分的に構造の開口部が遮断され、その結果、皮脂、ケラチンで満たされた面皰、及びアクネ菌(プロピオンバクテリウム・アクネ)を生じると、にきびが発生すると一般的に考えられている。これらの病変は一般ににきびとして同定される。アクネ菌は正常な皮膚に自然に生じるが、特に、特徴的には、にきび病変に存在する。毛嚢脂腺構造の中でのアクネ菌からの代謝副生成物及び老廃物が原因となって、又はそれらが寄与してにきび病変の炎症が生じると考えられている。
【0003】
従来のにきび治療は多数の形態を取ってきた。たとえは、サリチル酸のような局所の角質溶解剤を時に使用することもある。角質溶解剤は、遮断された毛嚢脂腺構造の解放を促し、それによって炎症に都合の良い状況を減らすと考えられている。抗菌剤である過酸化ベンゾイルは、相変わらず好評で有効な治療である。アクネ菌に対して有効なクリンダマイシンのような局所抗生剤は、この生物からの代謝副生成物の形成を妨げるような目的でも使用されている。トレチノインのような局所レチノイド剤もにきびの治療に使用されている。
【0004】
にきびの全身性(すなわち、局所ではない)の治療には、さらに重症例における経口抗生剤の使用が挙げられる。これらの治療は、皮膚、特に毛嚢脂腺構造におけるアクネ菌の量の低減に向けられており、これらの生物に由来する老廃物及び代謝副生成物によって引き起こされる炎症の軽減を求めるものである。テトラサイクリン系抗生剤はこの目的で最も一般に使用される。これらには、テトラサイクリン、ミノサイクリン及びドキシサイクリンが挙げられる。時にエリスロマイシンが使用されることもある。
【0005】
小児患者におけるにきびに対するミノサイクリンによる標準的な経口療法は、4mg/kgの最初の負荷量、及びその後の12時間毎の2mg/kg用量の投与を必要とする。これは、治療の初日に6mg/kgの用量、及び以後毎日4mg/kgの用量ということになる。成人では、200mgの最初の用量にその後12時間毎の100mg用量が続く。典型的な患者では、これは、治療の初日に約4.5mg/kgの用量、以後毎日3.0mg/kgの用量ということになる。
【0006】
にきびが経口抗生剤の治療に反応しない症例では、時に経口のイソトレチノインを使用することがある。イソトレチノインは有効である一方で、強力な催奇性があり、出産可能年齢の女性は、該薬剤を服用している間は、複数の避妊法を使用することが必要とされる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
経口テトラサイクリン系抗生剤は、相変わらず、非常に好まれ、広く使用される、にきびのさらに重症例の治療ではあるが、副作用なしでは済まされない。極度の目眩及び付随する吐き気を含む前庭性の副作用は、非常に厳しくてテトラサイクリン療法の中止を招くことがある。長期の使用は、結果として膣カンジダ症、食道の糜爛、及び抗生剤耐性の感染を生じることがある。
【0008】
最近の一部の研究によって、テトラサイクリンの用量が低すぎて抗生剤効果を有さないとしても、非常に低い用量の経口テトラサイクリンがにきびの多少の改善を招きうることが指摘されている。この所見は、テトラサイクリン系化合物の抗炎症効果に起因している。この効果は、抗生剤特性を有さない化学的に改変されたテトラサイクリンを使用する場合ですら認められたことが報告されている。にきびの治療として、低すぎて抗生剤効果を有さない用量でテトラサイクリン系抗生剤を使用すること、又は抗生剤特性を有さない改変されたテトラサイクリンを使用することは、今までにどの医薬品規制機関からも認可されることはなかった。
【0009】
本発明によれは、にきび治療のために方法が提供され、たとえば、ミノサイクリンのような経口テトラサイクリンの抗生剤として有効な用量が提供される。この用量は、抗生剤の最初の負荷量がなしで、体重キログラム当たり、およそ1ミリグラム(1mg/kg)である。この抗生剤投与計画は、十分な最初の負荷量及びその後のさらに高い用量を組み入れる従来の投与計画と同じくらい有効であることが見い出された。しかしながら、本発明の投与法により生じる副作用ははるかに少ない。
【0010】
本発明の別の態様では、薬剤の即時放出又はほぼ即時放出とは対照的に、投与間で抗生剤の連続した放出を提供する投与形態にて経口テトラサイクリンが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明によれば、経口テトラサイクリン系抗生剤、好ましくはミノサイクリンを使用することによって尋常性座瘡を治療する。本抗生剤は、抗生剤として有効な量、すなわち1日当たり、体重キログラム当たり、およそ1.0ミリグラム(1.0mg/kg/日)で投与される。これは、分割された用量の使用によって達成されてもよい一方で、テトラサイクリン系抗生剤は単一の1日用量で送達されることが好ましい。本治療計画は、負荷量なしで開始され、患者のにきびが解消する又は実質的に解消するまで継続される。治療における治療単位は通常12〜60週まで続くが、患者の医療機関による通常の良好な臨床判断の行使における各患者の疾患の状況及びそのほかの医学症状に従って調整される。
【0012】
二重盲検対照試験を行って本発明の有効性を判定した。本発明に従って、473人のにきび患者の治療を行った。偽薬を239人の患者に提供した。尋常性座瘡を治療することにおける本発明の有効性を表1に示す。
【0013】
表1 病変総数
【表1】
【0014】
炎症病変数
【表2】
【0015】
表2に示すように、にきびの治療として有効である一方で、これは偽薬で認められたもの以上にほとんど副作用を生じなかった。
【0016】
表2 有害事象を伴った被験者の%
【表3】
【0017】
にきび病変全体の軽減及び炎症病変の軽減において、にきびについての従来のテトラサイクリン系の治療の有効性に関する公表されたデータと上記有効性データを比較することによって本発明の有効性を知ることができる。たとえば、Hersel & Gisslenの「尋常性座瘡におけるミノサイクリン:二重盲検試験」Current Therapeutic Research, 1976を参照のこと。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれは、にきび治療のために方法が提供され、たとえば、ミノサイクリンのような経口テトラサイクリンの抗生剤として有効な用量が提供される。また、薬剤の即時放出又はほぼ即時放出とは対照的に、投与間で抗生剤の連続した放出を提供する投与形態にて経口テトラサイクリンが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0019】
臨床診療で遭遇する体重の変動のために、本発明を実際に行う際に、あらゆる患者に経口テトラサイクリン系抗生剤を正確に1日当たり1mg/kg提供するのは実践的ではない。しかしながら、1日当たり0.7〜1.3mg/kgが好ましく、1日当たり1.0mg/kgが理想的ではあるが、1日当たり0.5〜1.5mg/kgを患者に提供することによってこの用量を概算することは容認できる。
【0020】
1日の治療単位を引き受ける分割された用量(たとえば、1日2回又は3回)で経口テトラサイクリン系抗生剤を提供することが有効でありうる一方で、1日1回の投与が可能であるように、1日の治療単位の間、抗生剤をゆっくり放出する投与形態で経口テトラサイクリン系抗生剤を提供することが好ましい。徐放性の投与形態が当該技術で既知である一方で、それらの製剤設計は予測可能ではなく、具体的な徐放性製剤設計の選択は、徐放剤の既知の特性に基づいて数学的に予測するよりも試行錯誤によって達成される。本発明で有用な徐放性製品はこれまで知られていなかった。
【0021】
本発明に従って1日1回の投与を可能する溶解特性を得るのに、カプセル型錠剤の芯部における速溶性キャリアと遅溶性キャリアの比が重要であることが発見された。これら成分の比を特定の範囲内に保つことによって、この結果を得てもよい。
【0022】
速溶性キャリアは、たとえば、胃液のような水性の生理的媒体に迅速に溶解する、結合剤、ビヒクル又は賦形剤であり、それによって有効成分を迅速に放出する傾向がある。乳糖、その塩及び水和物は、かかる成分の良い例である。時には、遅溶性物質の顆粒においてこれら速溶性物質の完全な又は部分的な被包体又は封入体又は被覆体を結果として生じる方法で速溶性成分の一部が製剤化されることが認められている。これらの被包された物質は、上述の速溶性成分対遅溶性成分の比の算出から除外される。
【0023】
遅溶性キャリアは、数時間及びおそらく1日にわたってゆっくり溶解する結合剤、ビヒクル又は賦形剤であり、それによって有効成分の放出を遅くする。そのような成分の例は、ポリビニルピロリドン、ポリ酢酸ビニル、微結晶性セルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、又はたとえば、ステアリン酸マグネシウム若しくはステアリン酸カルシウムのような蝋状系の若しくは脂質系の錠剤である。上述の比を算出する場合、外部「腸溶性」被覆体はこの量から除外される。
【0024】
不溶性キャリアは、たとえば、胃液のような生理的液体に実践的に不溶である結合剤、ビヒクル又は賦形剤であり、たとえば、二酸化ケイ素及びタルクのような化合物が挙げられる。
【0025】
これら投与形態の精密な製剤設計は変化することができる一方で、速溶性キャリア対遅溶性キャリアの質量比が、0.30〜0.50、好ましくは0.35〜0.45となるように製剤化することが有利であることが認められている。約0.36〜0.40の比が特に好ましい。
【0026】
1時間以内に25〜52%、2時間以内に53〜89%、4時間以内に少なくとも90%の抗生剤を放出するカプセル、錠剤及びカプセル型錠剤のような投与形態は、本発明者によって意図する1日1回の投与量計画に好都合である。さらに好ましくは、1時間以内に30〜52%、2時間以内に53〜84%、4時間以内に少なくとも85%の抗生剤が放出される。
【0027】
或いは、投与後、約3.5時間(T
max)で抗生剤の最大血中濃度(C
max)に達するような方法で抗生剤を放出する投与形態で経口テトラサイクリン系抗生剤を送達してもよい。本発明の実際の態様では、C
maxには、投与後2.75〜4.0時間の間、さらに好ましくは投与後3.0〜3.75時間の間に達するべきである。そのような1日1回の製剤の例として、以下を使用してもよい。
【0028】
135mgのカプセル型錠剤
【表4】
【0029】
45mgのカプセル型錠剤
【表5】
これら成分のそれぞれが従来のやり方で配合され、打錠装置で圧縮され、次いで従来の方法で、たとえば、制限なくオパドリーIIのような好適な被覆体、及び任意に選択した着色料と共に提供される。