(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
X線発生部と、前記X線発生部に対向して配置され、複数のX線検出素子を有するX線検出部と、前記X線検出部で検出されたデータを補正する補正部と、補正後のデータを用いてCT画像を再構成する画像再構成部とを備えたX線CT装置において、
前記補正部は、所定の被検体のX線吸収特性の目標値と、ビームハードニングの影響下における前記所定の被検体のX線吸収特性との関係を表すBH補正関数に基き、前記検出されたデータを補正するビームハードニング補正部を備え、
前記ビームハードニング補正部は、仮想ファントムについて予めシミュレーションによって求めたX線吸収特性のシミュレーション計算値と前記仮想ファントムと等価なファントムを用いて実測したX線吸収特性の実測値との誤差を算出し、その誤差を用いて前記シミュレーション計算値を修正する第1修正部と、前記第1修正部で修正されたシミュレーション計算値と前記X線吸収特性の実測値との誤差を算出し、その誤差を用いて前記修正されたシミューション計算値をさらに修正する第2修正部とを備え、前記第1修正部及び第2修正部で順次修正されたシミュレーション計算値をX線吸収特性として算出するX線吸収特性算出部と、当該X線吸収特性算出部で算出されたX線吸収特性と予め計算したX線吸収特性の目標値とを用いて前記BH補正関数を算出するBH補正関数算出部とを備え、前記BH補正関数算出部で算出されたBH補正関数に基き、検査対象について計測したデータを補正することを特徴とするX線CT装置。
請求項1に記載のX線CT装置であって、さらに、前記X線吸収特性のシミュレーション計算値および前記X線吸収特性の目標値を算出する補正用データ算出部を備えたことを特徴とするX線CT装置。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態の例を図面に基づいて詳細に説明する。
【0033】
<X線CT装置の構成>
図1に、本発明の実施の形態に係るX線CT装置の正面模式図を示す。
図1において紙面左右方向、上下方向、および垂直方向をそれぞれX、Y、Z方向とする。
【0034】
本実施の形態に係るX線CT装置は、X線管1、X線検出器2、回転板3、寝台天板4、ガントリー5、線質フィルタ7、ボウタイフィルタ8、コリメータ9、制御系10、信号処理系20等から構成される。制御系10は、ディスプレイを備えた操作卓11や、撮影コントローラー12を備えている。信号処理系20は、X線検出器2が検出したデータに対し、補正や画像処理等の演算を行うもので、主として前処理等の補正のための演算を行う第一演算部21、主として画像再構成や画像処理を行う第二演算部22、メモリ23、24、およびモニタ25等を備えている。X線管1、線質フィルタ7、ボウタイフィルタ8、コリメータ9、およびX線検出器2は回転板3上に配置されており、以下ではこれらを総称して回転撮影系と呼ぶ。
【0035】
回転撮影系の全体はガントリー5の内部に格納されている。ガントリー5の中央部には開口部6が設けられており、開口部6の中心付近には被検体SBが配置される。なお本実施の形態では被検体SBとして人体を想定しており、通常、被検体SBは寝台天板4上に横たわった状態で配置される。回転板3は図示しない駆動モーターによって回転し、これにより被検体SBの全周方向からのX線透過像が撮影される。回転板3は開口部6の中心を通りZ軸に平行な回転軸を中心に回転する。また寝台天板4は図示しない駆動装置によって、その位置をZ方向に移動できる。上記回転板3の回転と上記寝台天板4の移動を同時に行うことで、公知の螺旋スキャンを行うことも可能である。
【0036】
図1において、X線管1のX線発生点とX線検出器2のX線入力面との距離の代表例は1040[mm]である。また開口部6の直径の代表例は650[mm]である。回転板3の回転速度の代表例は3[回転/秒]である。回転撮影系の1回転における撮影回数の代表例は1000回であり、回転板3が0.36度回転する毎に1回の撮影が行われる。
【0037】
線質フィルタ7は、単数素材または複数素材の金属板等を重ね合わせて構成される公知のものである。線質フィルタ7はX線管1からX線検出器2に向けて照射されるX線ビームの経路中に配置され、線質フィルタ7を透過した後のX線の線質(エネルギースペクトル)を変化させる機能を有する。特に低エネルギーのX線を遮断することで被検体SBの被曝を低減したり、BH効果の影響を軽減したりする目的で使用される。線質フィルタ7に使用される金属板の代表例としては、厚さ0.05〜0.2mm程度の銅板や厚さ数mm程度のアルミニウム板、またはこれらを重ね合わせたもの等がある。なお、本実施の形態では線質フィルタ7には複数の種類が用意されており、ユーザーは撮影用途に応じて上記種類を変更できるものとする。このとき図示しない移動機構により、指定された線質フィルタ7が撮影に先立ってX線ビームの経路中に配置される。
【0038】
ボウタイフィルタ8は、アルミニウム等の素材で形成される公知のものである。ボウタイフィルタ8はX線管1からX線検出器2に向けて照射されるX線ビームの経路中に配置される。ボウタイフィルタ8は、上記X線ビームのボウタイフィルタ8中の透過パス長が、開口部6の中央位置において最も短く、周辺位置に近づくにつれて長くなるように、その厚みが変化する形状を有している。これにより、被検体SBを透過した後にX線検出器2に入射するX線の強度がXY面方向(XY面と平行な方向、以下同じ)に均一化する。その結果、最終的に得られる被検体SBのCT画像中において、被検体中央部と周辺部におけるノイズの粒状性を均一化してCT画像の視認性を向上できる効果がある。また、被検体SBの周辺位置おける被曝を低減できる効果がある。なお、本実施の形態ではボウタイフィルタ8は被検体SBのサイズや撮影部位に応じて複数の形状のものが用意されており、ユーザーは上記種類を変更できるものとする。このとき図示しない移動機構により、指定されたボウタイフィルタ8が撮影に先立ってX線ビームの経路中に配置される。
【0039】
コリメータ9は鉛などの素材で形成される公知のX線遮蔽板であり、X線管1から照射されるX線の照射範囲をXY面方向およびZ方向に制限する。上記X線のXY面方向の照射範囲は、X線検出器2のXY面方向の入力範囲と一致するように制限される。またZ方向の照射範囲(以下、スライス幅とする)は、ユーザーが撮影目的に応じて種々変更できるようになっている。このとき図示しない移動機構はコリメータ9の位置を移動して、スライス幅を指定されたサイズに制限する。
【0040】
X線検出器2は図示しない散乱線除去コリメータ、シンチレータアレイ、およびフォトダイオードアレイ等から構成される公知のものである。X線検出器2は、
図2に示すように、多数のX線検出素子をマトリクス状に配列した2次元入力面を有しており、この入力面がX線管1に対向するように配置されている。X線検出素子の配列数の代表例は1000素子(XY面方向)×64素子(Z方向)である。X線検出素子は、X線管1に対してXY面方向に略等距離となる円弧上に配置されている。各X線検出素子のXY面方向およびZ方向のサイズの代表例は1[mm]である。
【0041】
以下の説明では、各X線検出素子をPX(i,j)で表わす。i,jはX線検出素子の位置で、iをZ軸に垂直な方向、jをZ軸に平行な方向とする。また以下では、i方向をチャネル方向、j方向をスライス方向と呼ぶ。
【0042】
操作卓11は、管電圧や管電流、回転板3の回転速度、スライス幅、線質フィルタ7やボウタイフィルタ8の種類、被検体SBの撮影範囲等の撮影条件を入力したり、動作モードの選択、開始終了などを入力するためのもので、キーボードやGUIを表示するディスプレイなどを備えている。
【0043】
撮影コントローラー12は、操作卓11から入力された撮影条件に従い、各種フィルタの移動等を行うとともに、選択された動作モードのもとで、回転板3、X線管1及びX線検出器2の動作を制御する。
【0044】
信号処理系20の第一演算部21は、リファレンス補正部、エア補正部、BH補正部などを備え、X線検出器2で検出されたローデータに対し、リファレンス補正、エア補正、BH補正などの前処理を施し、補正後のデータをメモリ23に保存する。前処理に必要なデータ(リファレンスデータ、エアデータ、BH補正係数の値など)は、予めテーブルTBL1に備えられており、第一演算部21は、これらデータをテーブルTBL1から読出し、補正を行う。また第一演算部21は、後述するBH補正係数の計算を行う機能を備えることもできる。この計算に必要なデータは、テーブルTBL2に備えられている。
【0045】
第二演算部22は、メモリ23に保存された補正後のデータを用いてCT画像を再構成し、画像データをメモリ24に保存する。第二演算部22は、記憶部24からCT画像データを読出し、ボリュームレンダリング法、MIP(Maximum Intensity Projection)法、MPR(Multi Planar Reconstruction)法等の公知の画像処理技術を用いてCT画像の表示画像を作成し、モニタ25の画面に表示する。
【0046】
なお、第一演算部21および第二演算部22には、専用演算器または公知の汎用演算器等を使用することができる。またメモリ23、メモリ24、テーブルTBL1、テーブルTBL2にはRAM(Random Access Memory)やハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の公知の記録手段、およびこれらを組み合わせたもの等が使用される。
【0047】
<X線CT装置の動作>
次に、本実施の形態に係るX線CT装置の動作を説明する。本X線CT装置には、本計測モードおよびメンテナンス計測モードの2種類の計測モードが用意されている。本計測モードおよびメンテナンス計測モードの選択は、操作卓11を通して指定される。メンテナンス計測モードは、第一演算部21で使用される補正パラメータを取得するための撮影であり、通常、メンテナンス作業員のみによって使用される。本計測モードは、検査対象のCT画像を取得するための撮像であり、一般ユーザーは本計測モードのみを使用する。なお
図1には本計測モード時におけるデータの流れを実線の矢印で、メンテナンス計測モードにおけるデータの流れを破線の矢印で示してある。
【0048】
<本計測モードの動作>
まず、本計測モードにおけるX線CT装置の動作を、
図3を参照して説明する。ユーザーは操作卓11を通して撮影条件を設定し、撮影開始を指示する。撮影開始が指示されると、撮影コントローラー12は回転板3の回転を開始し、回転板3の回転が指定された回転速度で定速状態に入った時点で、X線管1のX線照射開始およびX線検出器2の撮影開始を指示し、撮影を開始する(ステップS301)。
【0049】
撮影は、回転板3の1回転毎に複数回、典型的には1000回程度行われ、信号処理系20は撮影毎に撮影データを読み込む(ステップS302)。撮影データは、各X線検出素子PX毎のX線強度I(i,j,m)(mは撮影番号を表す)で表わされる。
【0050】
読み込んだ撮影データに対し、第一演算部21は、前処理として、リファレンス補正、エア補正、BH補正を行う(ステップS303〜S305)。リファレンス補正は、X線管1から照射されるX線の出力変動を規格化する処理であり、次式(2)により、生データI
rawをリファレンスデータI
refで除することにより行われる。
【数2】
通常、リファレンスデータI
ref(m)の値としては、被検体SBを透過することなくX線検出器2のi方向両端部付近のX線検出素子において検出されたX線の撮影データの平均値が使用される。
【0051】
エア補正は、被検体の撮影データを、被検体を配置せずに撮影したデータ(エアデータ)で正規化する演算であり、次式(3)により行う。
【数3】
エアデータI
o(i,j)は、被検体SBおよび寝台天板4を配置せずに取得した撮影データI
o(i,j,m)に対してリファレンス補正を行った後にm方向に平均化したものである。エアデータは、本X線CT装置で実現可能な複数種類の全撮影条件に対して予め計測されたものがテーブルTBL1に記録されている。第一演算部21はエア補正時に該当する撮影条件のエアデータをTBL1から読み出して式(3)の計算を行う。以下では、エア補正後のデータを投影データと呼ぶ。
【0052】
BH補正は、多色X線を用いることによって引き起こされるBH効果の影響を除く処理であり、所定の被検体について、単色X線を用いたと仮定した場合のX線吸収特性と多色X線を用いた場合のX線吸収特性との関係(BH補正関数という)に基いて、次式(4)により、投影データを補正する。
【数4】
式中、a
1(i,j),a
2(i,j),・・・,a
K(i,j)は、項数展開したBH補正関数の各項の係数(BH補正係数)であり、複数(H種類)の撮影条件に対して計算されたものがテーブルTBL1に記録されている。
【0053】
撮影条件を規定するパラメータの代表例は、X線管1の管電圧、線質フィルタ7の種類、ボウタイフィルタ8の3種類であり、これら3種類のパラメータの全組合せに対してBH補正係数が計算され、格納されている。一例として管電圧として2種類(100kV、120kV)、線質フィルタ7の種類として3種類、ボウタイフィルタ8の種類として2種類が用意された場合を想定すると、トータルの撮影条件数Hは12(=2×3×2)となる。上記3種類のパラメータはX線の線質を変化させるため、BH効果に影響を持つ。
【0054】
図4に、テーブルTBL1に保存されるBH補正係数のデータ内容の一例を示す。図示するように、BH補正係数は、X線管1の管電圧、線質フィルタ7の種類、ボウタイフィルタ8の種類という3種類のパラメータの組合せによって規定される撮影条件毎に小テーブル化され、TBL1−1、TBL1−2、TBL1−3、・・・、TBL1−Hという形でH種類の全撮影条件に対して保存される。各小テーブルには、X線検出素子PX(i,j)毎にそれぞれ計算されたBH補正係数a
1(i,j),a
2(i,j),・・・,a
K(i,j)が記録される。補正部(BH補正部)21は、このようなテーブルTBL1から、BH補正時に該当する撮影条件のBH補正係数を読み出して式(4)の計算を行う。
【0055】
第一演算部21は、BH補正後の撮影データp
o(i,j,m)をメモリ23に保存する(ステップS306)。ステップS302〜S305までの一連の処理はX線検出器2がm番目の新しい撮影データを取得する度に繰り返し実施される。
【0056】
設定された回数の撮影が終了し、再撮影の指示がなければ、撮影コントローラー12は、X線管1、X線検出器2および回転板3の動作を停止する。また第二演算部22は、メモリ23から全撮影回数の投影データを読出し、公知の再構成方法によりCT画像を再構成し(ステップS307)、さらに公知の画像処理技術を用いてCT画像の表示画像を作成し、モニタ25の画面に表示する(ステップS308)。
【0057】
<メンテナンス計測モードの動作>
次にメンテナンス計測モードにおける本X線CT装置の動作を説明する。メンテナンス計測モードは、本計測モードで用いるBH補正係数等の補正パラメータを計算するために必要なデータを得るために行われる。以下、ファントムが水ファントムの場合を説明する。
【0058】
水ファントムWPの形状は、典型的には
図5に示すような円筒形であり、メンテナンス計測モードでは、円筒の中心軸が回転板3の回転軸と略一致するように配置して撮影を行う。また、水ファントムWPは直径の異なるN個のものが用意されており、以下では各水ファントムWPを番号n(n=1〜N)で表すことにする。Nの代表例は4であり、このときの各水ファントムWPの直径の代表例は100mm(n=1)、200mm(n=2)、300mm(n=3)、400mm(n=4)である。
【0059】
メンテンナンス計測モードは、これらN個の水ファントムの各々に対し、H種類の全撮影条件に対して計測を行う。例えば、前掲の例で、管電圧として2種類(100kV、120kV)、線質フィルタ7の種類として3種類、ボウタイフィルタ8の種類として2種類、全撮影条件数Hは12(=2×3×2)について、BH補正係数を求めるための撮影を行う。従って、N種類の水ファントムWPに対して、それぞれ全種類の撮影条件で計測をH回ずつ実施することになり、全計測回数はN×H回となる。なお、スライス幅は、最大スライス幅(X線検出器2のZ方向の最大入力サイズに一致する値)に固定しておいてもよいが、スライス幅の変化に伴い水ファントムWP内で発生する散乱X線量が変化してBH効果が影響を受ける場合もあるため、スライス幅を上記撮影条件の4番目のパラメータとして加えてもよい。
【0060】
撮像の手順を
図6に示す。まず、メンテナンス作業員が水ファントムの撮影を開始すると(ステップS601)、はじめにファントム番号nに1が設定される(ステップS602)。次にファントム番号nが水ファントムの種類の総数Nより大きいかどうかが判定され(ステップS603)、yesと判定された場合は全撮影を終了する(ステップS609)。またステップS603においてnoと判定された場合、メンテナンス作業員はファントム番号nの水ファントムを回転板3の中央開口内に配置する(ステップS604)。このとき、水ファントムの円筒の中心軸と回転板3の回転軸とが略一致するように配置する。
【0061】
水ファントムの配置が終了すると、メンテナンス作業員は配置された水ファントムの撮影を予め指定された所定の標準撮影条件を用いて行う(ステップS605)。
【0062】
撮影は、本計測モードの撮影と同様に、まず撮影コントローラー1が回転板3の回転を開始し、回転板3の回転が所定の回転速度で定速状態に入った時点で、X線管1のX線照射開始およびX線検出器2の撮影開始を指示し、撮影を開始する。X線検出器2から出力された撮影データは、第一演算部21によって前処理(リファレンス補正およびエア補正)が行われ、エア補正後の投影データは順次メモリ23に保存される。
【0063】
次に、撮影で取得されたデータに対して、本計測モードで示した計算手順と同じ手順で前処理および再構成演算処理が実施され、水ファントムのCT画像が計算される(ステップS606)。このCT画像に基づいて、水ファントムの中心軸位置が第二演算部22により計算される(ステップS607)。中心軸位置は、CT画像中における水ファントムの重心位置として容易に計算できる。次に中心軸位置の計算結果に基づいて、水ファントムが適正位置に配置されたかどうかの判定が行われ、判定結果がモニタ25上に表示される(ステップS608)。判定基準の例としては、水ファントムの重心位置と回転板3の回転軸との距離が所定の閾値(例えば1mm)以下かそれ以外かでyes、noを判定する等の方法が用いられる。ステップS608においてnoと判定された場合は、メンテナンス作業員はステップS604に戻り水ファントムの位置を調整する。なお、ステップS604からS608に至る手順は、ステップS608においてyesと判定されるまで繰り返される。
【0064】
ステップS608においてyesと判定された場合は、次に、水ファントムの撮影がH種類の全撮影条件に対して実施される(ステップS609)。取得された撮影データは、前述したように前処理(リファレンス補正およびエア補正)により投影データに変換され、メモリ23に保存される。全撮影条件に対する撮影が終了すると、次にファントム番号nに1が加算され(ステップS610)、その後ステップS603に戻る。上記ステップS603からS610に至る手順は、ステップS603においてyesと判定されるまで繰り返される。各撮影によって得られた投影データは、全てメモリ23に保存され、メンテナンス計測モードの撮影が終了する。
メンテナンス計測モードの撮影によって得られた投影データを用いて、以下説明する、BH補正係数の計算が行われる。
【0065】
<BH補正係数の計算>
BH補正係数は、単色X線を用いた場合(すなわちBH効果を含まない場合)の所定のファントムのX線吸収特性(目標値)Tと、多色X線を用いた場合(すなわちBH効果を影響を含む場合)の同ファントムのX線吸収特性Sが求められれば、その関係を表す関数(BH補正関数)から計算することができる。多色X線を用いた場合のX線吸収特性Sは、シミュレーションによって計算することができ、前述した特許文献3ではその手法を開示している。
【0066】
図7に、X線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)とX線吸収特性の目標値T(i,j,L)との関係を、X線透過パス長Lを変数にして表したグラフを示す。仮にS(i,j,L)のシミュレーション値が正確で実測値と等しいと仮定すると、BH補正は式(1)に示したBH補正関数Aを用いて、
【数5】
として表せる。このとき、BH補正係数は最小二乗法を用いて計算されるが、S(i,j,L)およびT(i,j,L)は共に多数のパス長L(=L
u(u=1〜U))に対してサンプル点を持つため、サンプル点不足による近似精度の低下を防止できる利点がある。しかし実際にはS(i,j,L)のシミュレーション値は実測値と必ずしも同一にはならず、誤差が生じる。上記誤差が生じる原因としては、シミュレーションの精度自体が不十分であることや、X線検出器2を構成する各X線検出素子の個体差や位置ずれなどに起因して生じる特性ばらつきを、シミュレーション条件に反映することが困難であること等に起因する。これらの誤差は、BH補正の精度を低下し、CT画像中の濃度むらやリング状アーチファクトの発生原因となるため、誤差の計測値に基づいてS(i,j,L)を修正する必要がある。
【0067】
そこで、本実施の形態では、予めシミュレーション計算によって求めたX線吸収特性(シミュレーション値)Sを、実際にファントムを撮影して得た実測データ(実測値)で修正することによって、高精度の多色X線の場合のX線吸収特性Sを算出し、それをもとにBH補正係数を計算する。
【0068】
<<計算に用いるテーブルTBL2>>
まず、BH補正係数の計算に用いる補正用データについて説明する。BH補正係数の計算に必要な、X線吸収特性の目標値Tおよびシミュレーション値Sは、それぞれ、本X線CT装置で可能な複数種類(H種類)の全撮影条件に対して予め求めたものが、テーブルTBL2に格納されている。またBH補正係数の計算に用いるファントムのパス長Lも、複数種のファントムについて、それぞれ、素子毎に計算したファントムのパス長がテーブルTBL2に格納されている。
【0069】
図8に、テーブルTBL2に格納されているファントムのパス長L、X線吸収特性の目標値T、シミュレーション値Sを示す。
図8中、TBL2Aは、ファントムのパス長Lを保存するテーブル、TBL2Bは、X線吸収特性の目標値Tおよびシミュレーション値Sを保存するテーブルであり、TBL2Bには、撮影条件数と同数のテーブルがある。
【0070】
水ファントムのX線透過パス長L
n(i,j)は、
図9に示すように、X線ビームの水ファントムWP中における透過パス長であり、ファントムの円筒の中心軸が回転板3の中心軸に一致するように配置した場合、X線発生点SとX線検出素子PX(i,j)を結ぶ直線が水ファントムWP内を透過する距離として幾何的に計算することできる。全てのファントム番号n(n=1〜N)に対して予め計算されたものがテーブルTBL2Aに格納されている。
【0071】
X線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)は、X線透過パス長がLであった場合にX線検出素子PX(i,j)にて検出される投影データのシミュレーション計算値を表している。シミュレーション計算は種々のL=L
1〜L
Uに対して実施され、各計算結果は撮影条件毎にテーブルTBL2B−1、TBL2B−2、・・・、TBL2B−Hという形で格納されている。L
u(u=1〜U)は、例えば5mm刻みでL
1=5mm、L
2=10mm、・・・、L
100=500mm等として計算される。
【0072】
X線吸収特性の目標値T(i,j,L)はBH補正による変換後のX線吸収特性の目標値である。T(i,j,L)もS(i,j,L)と同様に撮影条件毎に計算され、計算結果はそれぞれテーブルTBL2B−1、TBL2B−2、・・・、TBL2B−Hという形で格納されている。
【0073】
上記のX線吸収特性の目標値Tおよびシミュレーション値Sの求め方については後述することとし、まずメンテナンス計測モードの撮影によって得た投影データとこれらテーブルTBL2に保存された計算値を用いたBH補正係数の計算手順について説明する。
【0074】
<<計算手順>>
図10に、投影データに基づきBH補正係数を計算する手順を示す。この計算は、本実施の形態では、第一演算部21が行う。
【0075】
[ステップS101]
水ファントムの撮影が終了した時点では、メモリ23には投影データp
n(i,j,m)が記録されている。ここでn(=1〜N)はファントム番号を表すものとする。投影データはH種類の撮影条件に対してそれぞれ記録されており、各撮影条件に対して個別に以下の計算を実施する。まず、投影データp
n(i,j,m)をメモリ23から読み出し、次式(6)により、平均投影データP
n(i,j)を計算する。
【数6】
ただしMはトータルの撮影枚数である。通常、水ファントムは回転撮影系の1回転分の期間で撮影されるため、1回転における撮影回数を1000回とするとMの値は1000となる。ただし、平均投影データP
n(i,j)の信号ノイズを低減するために撮影を複数回転行い、Mの値を増加してもよい。
【0076】
[ステップS102]
次にテーブルTBL2より、水ファントムのX線透過パス長L
n(i,j)およびX線吸収特性シミュレーション値S(i,j,L)を読み出し、X線吸収特性の実測値−シミュレーション値間の誤差率に相当する第1誤差率を次式(7)により計算する。
【数7】
【0077】
この第1誤差率の計算は、主として、散乱X線に起因する誤差を算出するものであり、X線検出器2のスライス位置毎に計算する。計算を、X線検出器2のスライス位置毎に計算したことを表すため、第1誤差率E
j(i,L
n)には、添え字にjを用いている。
【0078】
ここで、X線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)は、(i,L)平面上の全域(正確には、L
1≦L≦L
Uの各L)に渡って計算されるが、実測投影データP
n(i,j)は、(i,L
n(i,j))という曲線上でのみ計測される。例えば使用する水ファントムの種類の総数Nを4とすると、実測投影データは
図11に示す曲線L
1(i,j)〜L
4(i,j)上の位置においてのみ得られる。従って、式(7)に示した第1誤差率も上記曲線上の位置においてのみ計測される。
【0079】
[ステップS103]
次に、式(8)に示される第1近似関数を用いて第1誤差率E
j(i,L
n)をフィッティングする。
【数8】
式中、b
1〜b
4は近似多項式の係数であり、第1誤差率E
j(i,L
n)を第1近似関数F
j(i,L)で最小二乗近似することでb
1〜b
4の値を計算できる。なお第1近似関数は式(8)に限定されるものではなく、iおよびLを変数とする種々の多項式で置き換えてもよい。また、iまたはLを変数とする種々の関数(例えば指数関数や累乗関数等)で上記多項式の一部または全部を置き換えても良い。
【0080】
[ステップS104]
次に、ステップS103にて計算された第1近似関数F
j(i,L)を用いて、第1修正X線吸収特性を式(9)により計算する。
【数9】
式(9)からわかるように、第1修正X線吸収特性S1(i,j,L)は、S(i,j,L)が有していた誤差の(i,L)平面上における全体的な分布を修正して、実測値に近づけたものである。
【0081】
[ステップS105]
次に、ステップS104にて計算された第1修正X線吸収特性S1(i,j,L)を用いて、第2誤差率を式(10)により計算する。
【数10】
【0082】
上記第2誤差率E2
ij(L
n)はX線検出器2の個々のX線検出素子に対して計算するため、添え字にijを用いている。式(10)は式(7)に示した第1誤差率の式において、S(i,j,L)をS1(i,j,L)に置き換えたものである。シミュレーションの原理的要因に起因して発生する非ランダムな誤差成分は第1修正X線吸収特性S1(i,j,L)からは除外されているため、上記第2誤差率E2
ij(L
n)に含まれる情報は、個々のX線検出素子の特性ばらつき等によって生じるランダム誤差成分に相当する。
【0083】
[ステップS106]
次に、式(11)に示される第2近似関数を用いて第2誤差率E2
ij(L
n)をフィッティングする。
【数11】
式中、c
1〜c
3は近似多項式の係数であり、第2誤差率E2
ij(L
n)を第2近似関数G
ij(L)で最小二乗近似することでc
1〜c
3の値を計算できる。なお第2近似関数は式(11)に限定されるものではなく、Lを変数とする種々の多項式で置き換えてもよい。また、Lを変数とする種々の関数(例えば指数関数や累乗関数等)で上記多項式の一部または全部を置き換えても良い。
【0084】
第2近似関数G
ij(L)による第2誤差率E2
ij(L
n)のフィッティングの様子を
図12に示す。第1誤差率について、
図11を用いて説明したのと同様に、第2誤差率E2
ij(L
n)も(i,L)平面上において(i,L
n(i,j))という曲線上においてのみ計測される。従って第2誤差率E2
ij(L
n)は
図12に示されるように、L=L
1,L
2,・・・,L
Nにおいて離散的にサンプルされる。なお、
図12においては水ファントムの種類の総数Nを4としている。第2誤差率E2
ij(L
n)は実測された投影データP
n(i,j)と第1修正X線吸収特性S1(i,j,L)との誤差率であるため、S1(i,j,L)がある程度正確に計算されていれば、E2
ij(L
n)のL方向の変化は比較的緩やかであると考えられる。従って、式(11)に示したような低次多項式の第2近似関数G
ij(L)でも比較的高いフィッティング精度を確保できる。
【0085】
なお、
図12においては4つの位置L
1〜L
4にて第2誤差率がサンプルされている例を示したが、
図11に示されるように上記サンプル点数はチャネル方向(i方向)の両端部に近づくにつれて4点から3点、2点、1点、0点と減少して行く。サンプル点数が2点以下の場合は式(11)に示した2次多項式ではフィッティングができなくなるので、多項式の次数を減らす必要がある。具体的にはサンプル点数が2点の場合は1次多項式、1点の場合は定数、0点の場合はG
ij(L)=0として式(11)を代用する。
【0086】
[ステップS107]
ステップS106にて計算された第2近似関数G
ij(L)を用いて、第2修正X線吸収特性を式(12)により計算する。
【数12】
【0087】
式(12)からわかるように、第2修正X線吸収特性S2(i,j,L)は、S1(i,j,L)が有していた誤差のL方向の分布をX線検出素子毎に修正して、実測値に近づけたものである。このため、S2(i,j,L)は個々のX線検出素子が有する特性ばらつきを正確に反映しており、しかもL方向に多数のサンプル点L=L
u(u=1〜U)を有している。
【0088】
[ステップS108]
そこで、式(5)と同様の式(13)を用いてBH補正関数Aを計算する。
【数13】
このとき、式(1)のBH補正係数a
k(i,j)(k=1〜K)は最小二乗法を用いて計算される。またX線吸収特性の目標値T(i,j,L)はテーブルTBL2より読み出される。
【0089】
[ステップS109]
最後に、計算されたBH補正係数a
k(i,j)(k=1〜K)をテーブルTBL1に保存する(ステップS109)。
以上、ステップS101〜S109の一連の計算を、H種類の撮影条件に対して繰り返し実施し、最終的に
図4に示したようなBH補正係数のデータが保存される。
【0090】
<テーブルTBL2に保存された補正用データの計算方法>
次に上述したBH補正係数の計算に用いたX線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)、およびX線吸収特性の目標値T(i,j,L)の計算方法について説明する。
【0091】
これらの計算は、
図1に示すX線CT装置の補正部(第一演算部21)がその機能を備えるようにすることも可能であるし、
図13に示すように、X線CT装置から独立した計算機30を用いて行うことも可能である。前者の場合、これらのデータは、メンテナンス計測の度に計算する必要はなく、事前に計算したものをTBL2に保存しておけばよい。また、TBL2の値は同一仕様のX線CT装置には共通化できるため、仕様が同一であれば個々のX線CT装置毎に計算する必要もない。
【0092】
独立した計算機30或いは代表となるX線CT装置100で計算を行う場合、計算によって得たデータのテーブルをROM等の可搬媒体40に格納し、可搬媒体を各X線CT装置A〜Z101に接続することによって、或いは公知のデータ通信手段を用いて、各X線CT装置101の補正部がテーブル内のデータを読み込むようにすることができる。
【0093】
上記計算を行う計算機或いはX線CT装置が備える機能は、
図13に示したように、シミュレーション計算手段、X線吸収特性目標値計算手段、これら計算に用いるパラメータを保存するメモリ手段である。
【0094】
<<シミュレーション値の計算>>
まずX線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)の計算方法について説明する。X線の物理過程のシミュレーション方法としては、レイトレース法やモンテカルロ法等が良く知られており、本発明ではこれらを含む公知のシミュレーション法を採用することもできるが、一例としてレイトレース法を用いた計算方法を説明する。
【0095】
S(i,j,L)は、
図14に示すように、X線発生点SとX線検出素子PX(i,j)を結ぶX線ビームBMに対する投影データであり、その計算においてはX線の線質フィルタ7、ボウタイフィルタ8、および水ファントム(容器内に水を充填した水ファントム)WP内の透過時におけるBH効果の影響が考慮される。式(2)で定義した投影データを計算するために、はじめに水ファントムWPを配置した場合の撮影データI(i,j,L)と水ファントムWPを配置しない場合のエア撮影データI(i,j,0)を計算する。撮影データI(i,j,L)は、例えば次式(14)で計算される。
【数14】
【0096】
式(14)において、εはX線のエネルギー、E(ε)はX線発生点Sより放射されるX線のエネルギースペクトル、μ
f(ε),μ
b(ε),μ
c(ε),およびμ
w(ε)はそれぞれ線質フィルタ7、ボウタイフィルタ8、水ファントムWPの容器1401、および水1400のX線吸収係数である。またL
f,L
b,L
c,およびL
wはそれぞれ線質フィルタ7、ボウタイフィルタ8、容器1401、および水1400中におけるX線ビームBMの透過パス長の合計値である。なお水ファントムWP中におけるX線ビームBMの透過パス長はL=L
c+L
wである。
【0097】
エア撮影データI(i,j,0)は、上記式(14)において、L
c=L
w=0とおくことにより計算される。
【0098】
続いて、式(2)と同様の式を用いて、I(i,j,L)、I(i,j,0)をそれぞれリファレンス補正し、リファレンス補正値I
cor(i,j,L)、I
cor(i,j,0)を計算する。
【0099】
最後に、式(3)に示される定義式(式(15))より、エア補正後の投影データのシミュレーション計算値が計算される。
【数15】
【0100】
以上の手順により、全てのX線検出素子PX(i,j)およびL=L
1〜L
Uの組合せに対してS(i,j,L)が計算される。
【0101】
なお、透過パス長Lの異なる透過データI(i,j,L)を計算する際には先に透過パス長Lが与えられるため、透過パス長をLとする半径Rの水ファントムWPが計算機上で仮想的に作られる。上記半径Rの値は、水ファントムWPの中心位置が回転板3の回転中心Oと一致することから幾何的に計算できる。また、容器1401の厚みW
cは、メンテナンス計測モードにおいて実測投影データを計測する際に用いる本物の水ファントムの厚みと同一のものとする。本物の水ファントムは、N種類ある全てのものにおいて一定の容器の厚みW
cを有するものが使用される。また計算機上で仮想的に作られる任意の半径Rの水ファントムWPにおいても、容器厚みは上記W
cと同一の一定値に固定される。ただし、半径Rが2W
cより小さくなる場合は、W
c=0.5RとしてW
cを変化させる。
【0102】
また、S(i,j,L)は、撮影条件である管電圧(X線のエネルギー)、線質フィルタ、ボウタイフィルタを異ならせた複数の組み合わせについて、それぞれ計算する。こうして計算されたS(i,j,L)が、
図8に示すようなテーブルTBL2B−1〜TBL2B−Hに保存される。
【0103】
<<X線吸収特性の目標値Tの計算>>
次にX線吸収特性の目標値T(i,j,L)の計算方法について説明する。T(i,j,L)は、
図14に示される、X線発生点SとX線検出素子PX(i,j)を結ぶX線ビームBMに対する投影データであり、X線が単色X線であると仮定した場合のBH効果の影響を受けない投影データである。X線吸収特性の目標値Tについても、上述したSと同様に、撮影パラメータを異ならせた複数の撮影条件について、それぞれ計算される。
【0104】
T(i,j,L)の値は、ファントムが100%水であれば、T(i,j,L)=μwLw(ここで、μwは単色X線に対する水のX線吸収係数、LwはX線ビームBMの水ファントムにおけるX線透過パス長である)から求めることができる。しかし実際に使用可能な水ファントムは、容器内に水を充填したものであり、式(16)により計算される。
【数16】
式中、μ
cは単色X線に対する容器X線吸収係数、α=μ
c/μ
wである。L
cはX線ビームBMの容器におけるX線透過パス長である。CT値規格化のためにμ
w=1000と設定される。
【0105】
αの値は容器のX線吸収係数と水のX線吸収係数の実質的な比率であり、実測データを用いて、またはシミュレーション計算によって導出する。αの値は撮影条件毎に異なるため、H種類ある全ての撮影条件に対してそれぞれ導出される。
【0106】
以下、容器のX線吸収係数と水のX線吸収係数との比率α=μ
c/μ
wを,実測データを用いて導出する方法を説明する。
【0107】
図15に手順を示す。まず容器に水を入れた水ファントムWPの撮影を行い、BH補正することなくCT画像を再構成する(ステップS151)。この画像再構成の手順は、BH補正を除き、
図3の手順と同様である。
図16に、水ファントムWPの撮影データに基づいて再構成されたCT画像の模式図を示す。
図16に示すように、水ファントムWPのCT画像は、エア部1600、水部1601、容器部1602から成る。
【0108】
次に、CT画像において、水ファントム(円筒)の中心Oを通る直線1603を決めて、直線1603上における、CT画像のプロファイルを求める(ステップS152、S153)。
図17にプロファイル1700の例を示す。この再構成画像は、BH補正を行っていないため、プロファイル1700は、水部において図示するような曲線形状を有している。
【0109】
プロファイル1700の水部における曲線を多項式等で近似し、外挿して容器部(
図16の1602)に相当する部分の曲線1701を得る(ステップS154)。この曲線1701は水ファントムWPの容器が水で構成されていると仮定した場合に予想されるプロファイルである。直線1603上の容器部1602の中心位置cに対応する位置Cおける曲線1701の値は、近似的にこの位置cにおける水のX線吸収係数μ
w(θ)とみなすことができる。ここでθは、直線1603の、CT画像の座標軸Xに対する角度である。一方、位置Cにおけるプロファイル1700の値は、近似的に容器のX線吸収係数μ
c(θ)とみなすことができるので、これらμ
w(θ)、μ
c(θ)を用いて比率α(θ)(=μ
c(θ)/μ
w(θ))を計算することができる(ステップS155)。
【0110】
なおプロファイル1700に示した信号には、X線の量子ノイズやX線検出器2の回路ノイズ等に起因するランダムなノイズ成分が含まれる。これらノイズ成分に起因してαの測定値の精度が劣化するのを防ぐために、原点oを通る直線1603の角度θを変えて、種々の角度θ(0〜360度)対してα(θ)を計算し、その平均値をαの値として用いることが好ましい(ステップS156、S157)。
【0111】
次に、シミュレーション値を用いてαを計算する方法を説明する。この方法でも、再構成したCT画像からαを求めことは同様であるが、CT画像を実測した投影データ(BH補正なし)ではなく、シミュレーション計算値Sを計算するために作成したシミュレーション投影データを用いてCT画像を再構成する。シミュレーション投影データは、
図14を用いて説明したように、BH効果を考慮したシミュレーション計算によって得られたものであり、
図17と同様のプロファイルが得られる。このプロファイルの水部分の曲線を近似し、外挿して、容器部分(位置c)における水のX線吸収係数μ
wを計算すること、計算したμ
wと容器のX線吸収係数μ
cからαを計算することは、実測投影データから再構成したCT画像を用いる場合と同様である。
【0112】
ただし、シミュレーション投影データを用いた場合、CT画像にはX線の量子ノイズや回路ノイズが含まれないため、ノイズ低減のために種々の角度θについてα(θ)を計算する必要がない。従って、例えばα(0)をαの値として計算すればよく、高速にαの値を計算できる利点がある。
【0113】
以上、CT画像より導出したαの値に基づき、式(16)を用いてT(i,j,L)を計算する方法を示したが、以下ではαを用いないでT(i,j,L)を計算する別の方法を説明する。
【0114】
この方法の手順を
図18に示す。まず、
図14に示した水ファントムWPにおいて、容器の厚さが0(W
c=0)である仮想水ファントムを計算機上で作成し、仮想水ファントムを対象としてそのX線吸収特性のシミュレーション値S
o(i,j,L)を計算する(ステップS181)。このような計算は、式(14)においてL
c=0とすれば容易に実現できる。
【0115】
次に仮想水ファントムを対象にX線吸収特性の目標値T
o(i,j,L)を計算する(ステップS182)。ただしT
o(i,j,L)の値は式(16)において、L
c=0として計算される。このとき式(16)においてαの項が消滅するため、αの値を導出しなくても容易にT
o(i,j,L)の値が計算できる。
【0116】
続いて仮想水ファントムを対象に、式(13)と同様の計算式[T
o(i,j,L)=B
ij(S
o(i,j,L))]を用いて、BH補正関数B
ijを計算する(ステップS183)。この補正関数B
ijのBH補正係数b
k(i,j)(k=1〜K)を、最小二乗法を用いて計算する。このBH補正係数は、
図4に示すような、本計測モードで使用するBH補正係数と同様の構造を持つデータであり、この計算を行う計算機のテーブルTBL3(計算をX線CT装置が行う場合には、例えばテーブルTBL1)に保存される。
【0117】
続いて厚みのある容器(W
c≠0)に入った水ファントムWPを想定し、この水ファントムWPについて、X線吸収特性のシミュレーション値S(i,j,L)を計算する(ステップS184)。シミュレーション値S(i,j,L)の計算方法は、
図14を用いて既に説明したものと同一である。
【0118】
最後に、計算されたシミュレーション値S(i,j,L)に対して、ステップS183で計算したBH補正係数を用いて、T(i,j,L)=B
ij(S(i,j,L))によりBH補正を実施し、BH補正されたデータを得る。シミュレーション値Sと補正後のデータとの関係は、
図7に示す補正前のX線吸収特性SとX線吸収特性の目標値Tとの関係と同じであり、この値をX線吸収特性の目標値T(i,j,L)をとする(ステップS185)。
【0119】
以上説明した目標値Tの計算方法は、現実には作製困難である容器厚0の仮想水ファントムに対して導出したBH補正を、容器厚が0でない現実的な水ファントムに対して計算したX線吸収特性S(i,j,L)に対して実施することでT(i,j,L)を計算するものであり、計算途中でαの値を必要としない。このため、α(=μ
c/μ
w)の値を導出するための水ファントムのCT画像の再構成演算が不要であり、T(i,j,L)の値を高速に計算できる利点がある。
【0120】
X線吸収特性の目標値T(i,j,L)は、撮影条件である管電圧(X線のエネルギー)、線質フィルタ、ボウタイフィルタを異ならせた複数の組み合わせについて、それぞれ計算する。こうして計算されたT(i,j,L)は、
図8に示すようなテーブルTBL2B−1〜TBL2B−Hに保存される。
【0121】
<BH補正の効果>
図19に、BH補正を実施後の投影データに基づいて再構成された水ファントムのCT画像のプロファイル1900を示す。このプロファイルも
図16に示した直線1603上におけるものとする。
図17に示した、BH補正を実施しない場合のプロファイル1700に比べ、BH補正を実施した場合のプロファイル1900は水部におけるCT画像出力がほぼ1000となっており、水部が均一の出力を有していることがわかる。なお本画像出力値はCT値に換算する前の値を示しており、最終的なCT画像では本画像出力値から一様に1000が減算されたものが出力される。このように、BH補正を行うことで水部のCT値を均一化することが可能となり、大部分が水である人体のCT画像においても、上記均一化の効果が得られる。これにより、CT値の不均一性に起因する誤診断の低減や、CT値の定量性向上に伴う診断能の向上を実現できる。
【0122】
以上のように本実施の形態に係るX線CT装置では、BH補正に必要な基礎データを取得するためのメンテナンス計測において、少ない実計測で取得した投影データを、シミュレーション計算結果に基づいて高精度に近似することができる。これにより、高いBH補正精度を維持したまま計測するファントムの種類や測定回数を低減できるため、ファントムの製造コストや測定の作業コストを低減できる効果がある。また、ポリエチレンファントム等の水ファントム以外のファントムを使用する必要がないため、BH補正とCT値規格化のための計測を共通化して、ファントムの製造コストや測定の作業コストをより一層低減できる効果がある。更に、BH補正係数の計算に必要となるTBL2の値は事前計算されたものを利用することができる上、同一仕様のX線CT装置において共通化できるため、シミュレーション計算やCT画像の再構成演算等の複雑な計算をメンテナンス計測の度に行うことなく、高速にBH補正係数を計算できる効果がある。
【0123】
以上、本発明に係るX線CT装置の実施の形態の例を示したが、本発明は本例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々変更しうることはいうまでもない。例えば、本発明の実施の形態の例では、水ファントムの撮影データサンプルが少ない場合においてX線シミュレーション計算結果に基づいてBH補正精度を向上する方法を説明したが、ポリエチレン等の別の素材で形成されたファントムの撮影データに対して上記方法を適用しても、ファントム個数や作業量を低減するという同一の効果が得られる。
【0124】
また、本発明の実施の形態の例では水ファントムWPの中心軸の位置を回転板3の回転軸の位置に略一致させる配置について説明したが、上記位置を故意にずらして配置しても良い。この場合、回転撮影系の回転に伴い異なる複数のパス長Lに対して撮影データのサンプルを取得できるようになるため、BH補正精度をより向上できる効果が期待できる。
【0125】
更に本発明の実施の形態の例では、X線吸収特性S(i,j,L)のシミュレーション計算にレイトレースシミュレーションを用いる方法を示したが、モンテカルロシミュレーション等、他の公知のシミュレーション方法を用いても良い。また、レイトレースシミュレーションを用いる場合においても、その計算方法は式(14)に示した方法に限定されるものではなく、例えばX線検出素子によるX線検出プロセスの過程等を導入してシミュレーション精度を向上したり、逆に一部の計算過程を省略してシミュレーション速度を向上したりしても良いことは言うまでもない。
【0126】
また上記実施の形態では、X線CT装置の演算部の機能としてBH補正用データを計算する場合を説明したが、演算部の機能はX線CT装置から独立した計算装置に設けることができる。
【0127】
即ち、この計算装置は、X線CT装置におけるビームハードニング補正に用いるBH補正用データを計算する計算装置であって、容器内に水を充填した水ファントムの仮想ファントムを想定し、ビームパス長の異なる複数種類の仮想ファントムについて、それぞれ、複数の撮影条件で、ビームハードニング効果の影響を含む投影データをシミュレーション計算し、ビームパス長と投影データとの関係であるX線吸収特性のシミュレーション計算値Sを算出する第1の計算部と、複数種類の仮想ファントムに対し、ビームハードニング効果を含まないX線吸収特性の目標値Tを算出する第2の計算部とを備えたものであり、第2の計算部は、仮想被検体についてシミュレーション計算された投影データまたは仮想被検体と等価の被検体について実測された投影データを用いてCT画像を再構成する画像再構成手段を備え、CT画像のプロファイルから、仮想ファントムの容器および水のX線吸収係数の比(α)を算出し、当該比を用いて前記X線吸収特性の目標値Tを算出する計算装置である。
【0128】
或いは、X線CT装置におけるビームハードニング補正に用いるBH補正用データを計算する計算装置であって、容器内に水を充填した水ファントムの仮想ファントムを想定し、ビームパス長の異なる複数種類の仮想ファントムについて、それぞれ、複数の撮影条件で、ビームハードニング効果の影響を含む投影データをシミュレーション計算し、ビームパス長と投影データとの関係であるX線吸収特性のシミュレーション計算値Sを算出する第1の計算部と、複数種類の仮想ファントムに対し、ビームハードニング効果を含まないX線吸収特性の目標値Tを算出する第2の計算部と、仮想ファントムの容器の厚みを0に想定して前記第1の計算部が算出したシミュレーション計算値Sと、前記仮想ファントムの容器の厚みを0に想定して前記第2の計算部が算出した目標値Tとから、BH補正関数を計算する第3の計算部とを備えたものであり、第2の計算部は、仮想ファントムの容器の厚みを種々に変更した仮想ファントムについて、第1の計算部が算出したシミュレーション計算値Sに対し、第3の計算部が算出したBH補正関数を適用して、BH補正後のシミュレーション値を算出し、X線吸収特性の目標値Tとする計算装置である。
【0129】
またX線CT装置の演算部または上記計算装置で作成されたBH補正用データは汎用の記録媒体に保存し、同一仕様のX線CT装置において共通化できる。
【0130】
即ち、X線CT装置におけるビームハードニング補正に用いるBH補正用データを保存するX線CT装置用記録媒体は、X線CT装置の演算部または上記計算装置で作成されたBH補正用データであり、X線透過パス長の異なる複数種類の仮想ファントムについての、ビームハードニング効果の影響を含むX線吸収特性のシミュレーション計算値Sおよびビームハードニング効果の影響を含まないX線吸収特性の目標値T
を保存する記録媒体である。
【0131】
このX線CT装置用記録媒体は、さらに、BH補正用データが、複数種類の仮想ファントムについて、それぞれ算出された水部分のX線透過パス長を含むことができる。
【0132】
また上述したX線CT装置のメンテナンス計測モードの動作は、X線CT装置による撮影やBH補正とは独立して行うことができる。
【0133】
即ち、X線CT装置のメンテナンス方法は、複数種のファントムについて、複数の撮影条件で、撮影を行い、前記複数種のファントムのX線吸収特性の実測値を取得するステップ、前記複数種のファントムと等価の仮想ファントムについて、予めシミュレーションによって求めたX線吸収特性のシミュレーション計算値を入力し、当該シミュレーション値と、前記実測値との誤差を算出するステップ、前記誤差を用いて前記シミュレーション計算値を修正するステップ、予め算出されたX線吸収特性の目標値を入力し、当該X線吸収特性の目標値と修正後のシミュレーション計算値とを用いてBH補正係数を算出するステップ、および、算出したBH補正係数をテーブルとして保存するステップを含む。
【0134】
上記メンテナンス方法において、誤差を算出するステップは、シミュレーション計算値を、X線検出器を構成するX線検出素子の列毎に誤差を算出する第1誤差算出ステップと、X線検出器を構成するX線検出素子毎に誤差を算出する第2誤差算出ステップとを含むものとすることができる。