(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745056
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】軸方向オフセットを変化させて間隔をおいた鋸歯状の切削インサートを有するフライス
(51)【国際特許分類】
B23C 5/10 20060101AFI20150618BHJP
B23C 5/20 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
B23C5/10 D
B23C5/20
【請求項の数】6
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2013-524511(P2013-524511)
(86)(22)【出願日】2011年7月20日
(65)【公表番号】特表2013-534188(P2013-534188A)
(43)【公表日】2013年9月2日
(86)【国際出願番号】IL2011000578
(87)【国際公開番号】WO2012023126
(87)【国際公開日】20120223
【審査請求日】2014年6月4日
(31)【優先権主張番号】207625
(32)【優先日】2010年8月16日
(33)【優先権主張国】IL
(73)【特許権者】
【識別番号】306037920
【氏名又は名称】イスカーリミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ユーリ メン
(72)【発明者】
【氏名】エデュアルド アストラカン
【審査官】
足立 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許第4729697(US,A)
【文献】
実開昭58−196018(JP,U)
【文献】
特開昭49−85677(JP,A)
【文献】
実開昭59−34915(JP,U)
【文献】
特開平8−1426(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 5/10
B23C 5/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライス(10)において、
前方から後方に延びる縦軸(A)を有したカッター本体(12)であって、当該カッター本体(12)の先端面(14)に隣接し、円周方向に互いに間隔を置いて配置された少なくとも3つのインサートポケット(18)を有したカッター本体(12)と、
それぞれインサートポケット(18)に固定された交換可能な切削インサート(20)であって、それぞれの切削インサート(20)は少なくとも2つの同一の直線状ののこぎり歯状の刃(24)を有し、総ての切削インサート(20)が同一である切削インサート(20)と、を具え、
第1インサートポケット(30)は軸方向において最も前方のインサートポケットであり、
総てのインサートポケット(18)は軸方向において一方に対して他方がオフセットされており、
第2のインサートポケット(32)は、第1インサートポケット(30)から軸方向において第1のオフセット距離(d1)だけオフセットされており、この第1オフセット距離は、他の軸方向で隣接するどのインサートポケット対についてのオフセット距離(d2、d3)よりも小さいことを特徴とするフライス(10)。
【請求項2】
それぞれののこぎり歯状切刃(24)は山(26)と谷(28)からなり、これら山と谷は等間隔であることを特徴とする請求項1に記載のフライス(10)。
【請求項3】
それぞれの切削インサート(20)は、概略長方形の形であることを特徴とする請求項1に記載のフライス(10)。
【請求項4】
少なくとも2つの同一の直線状ののこぎり歯状の刃(24)は互いに平行であることを特徴とする請求項1に記載のフライス(10)。
【請求項5】
2つまたはそれ以上の、他の軸方向で隣接するインサートポケットの対は、同じ第2のオフセット距離を有し、第1のオフセット距離は第2のオフセット距離よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のフライス(10)。
【請求項6】
少なくとも4つのインサートポケットが設けられ、第1のオフセット距離は、総ての他の軸方向で隣接するインサートポケット対についてのオフセット距離よりも小さいことを特徴とする請求項1に記載のフライス(10)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の要旨は、金属切削のための鋸歯状刃先を備えた、割出し可能な切削インサートを有したフライスに関する。
【背景技術】
【0002】
金属切削の分野では、鋸歯状の切り刃を備えた切削インサートを有した多くのフライスが知られており、その鋸歯状の切り刃は、非鋸歯状の切り刃を有する切削インサートと比べてより高い切削率が可能となる。しかし、これを達成するには表面仕上げがより粗くなるという代償を払うことになる。この表面仕上げを改善するために、切削インサートを、連続する複数の切削インサートが相互にオフセットしたすなわち位相をずらした、のこぎりの歯のようにフライスに装着するものがある。このような切削インサートを備えた工具の例を、特許文献1、特許文献2、および特許文献3に見ることができる。しかし、これらのタイプの切削工具は、軸方向において最も前方の切削インサート(すなわち、フライスの面に最も近い切削インサート)の作用刃である、のこぎりの歯状配置の、軸方向最も前方の鋸歯が、その切削インサートの他の鋸歯よりも、また、他の切削インサートの鋸歯よりも露出し、そのために、磨減し、また、破損しやすくなる。
【0003】
この欠陥を解決するものとして、いくつかの工作機械メーカーによって提案されているものは、露出した鋸歯を支持するための外部部材を設けるものである。例えば、特許文献4には、支持円板の外周において角度方向に離間して配置されるリブが設けられた切削インサートであって、上記円板の軸に沿って互い違いに配置されることにより、スロットの側面がリブ付きインサートから角度方向に離隔した側切削インサートによってフライス削りされるときに、スロットの底部から横方向に離れた切りくずを取り除くリブ付き切削インサートが記載されている。しかしながら、付加的な側切削インサートは、省くことができる不要な運用コストをもたらすものである。例えば、特に付加的な切削インサートがリブ付き切削インサートと同一でない場合は、切削インサートの交換は、そのために相当の時間がかかり、また交換をするための追加の工具を必要とする作業である。さらに、付加的な切削インサートは、余分な支出となる。したがって、このような解決策は、当然、費用、労力および時間がかかるものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許第3574911号明細書
【特許文献2】米国特許第3636602号明細書
【特許文献3】米国特許第3875631号明細書
【特許文献4】米国特許第3701187号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本出願主題の目的は、上述の問題点を有意に解消するフライスおよびそのための切削インサートを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本出願の主題によれば、前方から後方に延びる縦軸を有したカッター本体であって、当該カッター本体の先端面に隣接し、円周方向に互いに間隔を置いて配置された少なくとも3つのインサートポケットを有したカッター本体を具えたフライスがていきょうされる。
【0007】
交換可能な切削インサート(20)がインサートポケット(18)に固定され、それぞれの切削インサートは少なくとも2つの同一の直線状ののこぎり歯状の刃を有している。その総ての切削インサートは同一である。
【0008】
第1インサートポケットは軸方向において最も前方のインサートポケットであり、総てのインサートポケットは軸方向において一方に対して他方がオフセットされている。
【0009】
本願の実施形態によれば、第2のインサートポケットは、第1インサートポケットから軸方向において第1のオフセット距離だけオフセットされており、この第1オフセット距離は、他の軸方向で隣接するどのインサートポケット対についてのオフセット距離よりも小さい。
【0010】
本願の実施形態によれば、それぞれののこぎり歯状切刃は山と谷からなり、これら山と谷は等間隔である。
【0011】
本出願の実施形態によれば、それぞれの切削インサートは、概略長方形の形である。
【0012】
本出願の実施形態によれば、少なくとも2つの同一の直線状ののこぎり歯状の刃は互いに平行である。
【0013】
本願のよりよい理解のために、また、本願が実際にどのように実施されるかを示すために、以下の添付図面を参照する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】3つの切削インサートを持つフライスの斜視図である。
【
図4】フライスにおける3つのインサートを相互に重ねた状態で示す模式図である。
【
図6】フライスにおける4つのインサートを相互に重ねた状態で示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下の説明では、本出願の様々な態様について説明する。特定の構成および詳細は、説明の目的で、本出願の完全な理解のために記載されるものである。しかし、それはまた、本出願が、本明細書に示された具体的な詳細がなくても実施できることは、当業者にとって明らかなことである。また、周知の機構は、本出願を不明瞭にしないように省略または簡略化する。
【0016】
図1及び
図2を参照すると、それら図に示されるフライス10は、その前後方向に延在する回転軸Aと、前端面14および後方の軸16を有するカッター本体12と、を有している。カッター本体12は、カッター本体12の前端面14に隣接し、円周方向において互いに間隔を置いた、3つのインサートポケット18を備えている。それぞれのインサートポケット18は、それに固定される、取替え可能で、また割出し可能な切削インサート20を有している。総ての切削インサート20は同一のものである。それぞれの切削インサート20は、対向する2つの同じ短い端辺22と対向する2つの同じ長い端辺24とを有した略長方形の形をしており、長い端辺24が短い端辺22よりも長い。長い端辺24は、まっすぐな、山26と谷28とからなる、のこぎり歯状の刃であり、これによって均一に配置された、のこぎり歯29が規定される。長い端辺24は、いわば総ての山26が共通の直線である接線上に位置するという、直線ののこぎり歯状の刃である。それぞれ一対の鋸歯状の刃24は、互いに平行である。換言すれば、一対ののこぎり歯24の鋸歯刃24それぞれの共通の直線である接線は平行である。フライス10の各切削インサート20は、半径方向外側の長い切れ刃24を有している。それぞれの半径方向外側の長い切れ刃24は、フライス作業時に作用切れ刃となる。それぞれの作用切れ刃である長い切れ刃24は、軸方向において最も先端の鋸歯29”を有し、この鋸歯29”は、その長い切れ刃24の他の鋸歯よりも、カッター本体12の先端面14に近い。
【0017】
3つのインサートポケット18は、軸方向において所定のオフセット距離だけ相互にオフセットされている。インサートポケット18は一方が他方に対して軸方向にオフセットされ、また、切削インサート20が同一のものであるため、切削インサート20もまた、インサートポケット18について規定されているのと同じオフセット距離だけ一方が他方に対して軸方向にオフセットされている。従って、インサートポケット18のオフセット距離は、インサートポケット18に固定される切削インサート20のオフセット距離によって示すことができ、また、その逆も同様である。
図3に示されるように、第1のインサートポケット30は、軸方向において最も前方のインサートポケットである。すなわち、第1インサートポケット30は、他のインサートポケットよりも後方の軸16から最も遠いものである。したがって、第1のインサートポケット30は、第1の切削インサート38を着座させることにより、第1切削インサート38における軸方向前方の鋸歯が、総ての切削インサートの軸方向前方の鋸歯の中で最も前方であるようにすることができる。第2のインサートポケット32は、第2の切削インサート42を着座させることにより、第2切削インサート42における軸方向前方の鋸歯が、第1切削インサート38の軸方向前方の鋸歯からオフセット距離d1だけ後方にオフセットするようにできる。第3のインサートポケット34は、第3の切削インサート46を着座させることにより、第3切削インサート46における軸方向前方の鋸歯が、第2切削インサート42の軸方向前方の鋸歯からオフセット距離d2だけ後方にオフセットするようにできる。オフセット距離d1は、オフセット距離d2よりも小さい。第1、第2、および第3切削インサートが同一であることから、側壁やクランプネジを収容するためのネジ穴などの、対応するインサートポケットの特徴が1つのインサートポケットから次のインサートポケットまでのオフセット距離が同じになり得ることが理解できる。
【0018】
図4および
図5に注目すると、3つの切削インサート20の相互のオフセット距離を示している。これらの図は、また、切削インサートの重なりを模式的に示しており、特に、フライス作業中ののこぎり歯における作用刃の重なりを示している。オフセット距離は、隣接する2つの切削インサート20の、隣接する2つの山26の間の距離として測定されるもの、すなわち、第1の切削インサート38の山36と第2の切削インサート42の山40との間の距離、または、第2の切削インサート42の山40と第3の切削インサート46の山44との間の距離である。第1の切削インサート38は、すべて切削インサート20の軸方向最も前方の切削インサートである。第2の切削インサート42は第1の切削インサート38から軸方向にオフセット距離d1だけオフセットされている。第3の切削インサート46は第2の切削インサート42から軸方向にオフセット距離d2だけオフセットされている。このオフセット距離d1はオフセット距離d2よりも小さい。この配置構成により、第1の切削インサート38における軸方向前方の鋸歯29’は、軸方向のオフセットが同じである場合よりも、第2の切削インサート42における軸方向前方の鋸歯29’と重なりが大きくなる。したがって、第1の切削インサート38の軸方向前方の鋸歯29’の露出面積が最小化される。
【0019】
カッター本体におけるインサートポケットの数は3つに限定されるものではなく、任意の数とすることができる。例えば、カッター本体12は、4つのインサートポケットを備えていてもよい。
図6および
図7に注目すると、4つの切削インサート20の相互のオフセット距離を示している。第2の切削インサート42は、第1の切削インサートから軸方向にオフセット距離d1だけオフセットされている。参照文字d1は、カッター本体12が3つのインサートポケットを持つ場合と、カッター本体12が4つのインサートポケットを持つ場合の両方の場合において、第1および第2の切削インサート38,42間のオフセット距離(あるいは、同じように、第1および第2のインサートポケット30,32間のオフセット距離)を示すために使用される。ただし、当然のことながら、d1の実際の値が2つの例において異なり得るものである。同じことが他の参照文字d2にも当てはまる。第3切削インサート46は、第二の切削インサー42から軸方向にオフセット距離d2だけオフセットされている。第4切削インサート48は第3切削インサー46トから軸方向にオフセット距離d3だけオフセットされている。オフセット距離d2、d3は必ずしも同じではある必要はない。オフセット距離d2、d3が等しくない場合は、そのうちの一つが最小のオフセット距離を定める。オフセット距離d2、d3が等しい場合、それらは両方とも最小のオフセット距離を定める。オフセット距離d1は、オフセット距離d2およびオフセット距離d3よりも小さい。換言すれば、d1は、他の対の切削インサート42、46および46、48の最小オフセット距離よりも小さい。繰り返すと、第1切削インサート38の露出領域は、第2切削インサート42よってさらに保護される。オフセット距離d2、d3は、用途、装着される切削インサート20の構成、作業上の要求に応じて、同一であってもよくあるいは異なっていてもよい。
【0020】
上述したように、フライス10は、例えば、それぞれが同一の切削インサートを着座させる、5つ、6つ、7つあるいはそれ以上の、多数のインサートポケット18を含むことができる。総てのカッター本体12は、インサートポケット18の数に関係なく、第1および第2のインサートそれぞれの軸方向前方の鋸歯の間のオフセット距離d1が、軸方向に隣接する他のどの対の切削インサートについてのオフセット距離、例えば、切削インサート対42、46や切削インサート対46、48に関するオフセット距離、のうちの最小値より小さいという特徴を有している。同様に、第1のインサートポケット30と第2のインサートポケット32の間のオフセット距離dlは、軸方向に隣接するインサートポケットは、例えば、インサートポケット対32、34との間のオフセット距離の他のペアに関連付けられたオフセットの距離よりも小さい。これにより、第1切削インサート38の軸方向前方の鋸歯29´と第2切削インサート42の軸方向前方の鋸歯29´と重なりを、総ての軸のオフセットが同じであった場合よりも、大きくすることができる。
【0021】
本出願は、ある程度の具体性を説明してきたが、それは様々な変更や修正を以下に記載の請求の範囲を逸脱することなくなされ得ることが理解されるべきである。