特許第5745148号(P5745148)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5745148
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】放射性セシウムの除去方法
(51)【国際特許分類】
   G21F 9/18 20060101AFI20150618BHJP
   G21F 9/28 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   G21F9/18
   G21F9/28 521A
【請求項の数】2
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-207739(P2014-207739)
(22)【出願日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年10月9日
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】514256623
【氏名又は名称】ゼロサムアース株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126402
【弁理士】
【氏名又は名称】内島 裕
(72)【発明者】
【氏名】松本 聰
【審査官】 藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−023184(JP,A)
【文献】 特開2014−142231(JP,A)
【文献】 伊藤博久、小川秀樹、村上香、熊田淳,原木における汚染軽減技術の開発 −浸漬処理添加物質別スギ、ミズナラ材の除染効果−,平成24年度福島県林業研究センサー放射性物質関連研究成果発表会要旨,日本,福島県林業研究センサー,2013年 2月 5日,p8,URL, http://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/13330.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G21F 9/18
G21F 9/28
B09B 1/00−5/00
C12N 1/00−7/08
C12N 9/00−9/99
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐葉土に含まれるバクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つを、炭素源、窒素源およびミネラル源を含む培養液により培養して、
前記培養液中で前記バクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つがセルラーゼを産出することによりセルラーゼ含有液を得て、
前記セルラーゼ含有液に含まれる前記セルラーゼによりしいたけ原木に含まれるセルローズを膨潤させ、
前記しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着し、
前記脱着された放射性セシウムを前記セルラーゼ含有液とは異なる水を主とする洗浄液であって新しい前記洗浄液が常に流入する循環系における前記洗浄液により移動して前記しいたけ原木から除去し、
前記放射性セシウムが除去された前記しいたけ原木をしいたけの原木栽培に利用可能とする
セルラーゼ含有液を用いた放射性セシウムの除去方法。
【請求項2】
前記しいたけ原木には長さ方向に少なくとも1つ以上の穴が設けられる
請求項1記載のセルラーゼ含有液を用いた放射性セシウムの除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを脱着する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
近時、放射性セシウムの樹木、森林、牧草、土壌、腐葉土、ため池、灌漑用水路および堆肥等への蓄積が社会問題となっている。
セシウム134は半減期が約2年であり、またセシウム137は半減期が約30年であるため影響が大きく、効果的な除去技術の開発が望まれている。
【0003】
放射性セシウムが大気中へ飛散すると、大気中の放射性セシウムは雨水に溶けた形態や大気中に浮遊する微粒子に付着した形態で、植物の枝葉表面および土壌表面などに直接沈着する。枝葉表面および土壌表層に張り巡らされた根から吸収された放射性セシウムは植物内部で各部位に移行する。さらに、落葉、枯枝および樹冠通過雨などにより植物から土壌表面に移行した放射性セシウムの多くは、植物の根から吸収されて、再び植物内部に移行する。このような生物的再循環により長期にわたり放射性セシウムが植物および土壌等に滞留する。
【0004】
ところで、しいたけの栽培方法には、大別して、原木栽培と菌床栽培の2通りがある。原木栽培とは、原木に種菌を接種して屋外等で栽培する方法であり、自然条件に近い条件で栽培されるので、形、大きさ、味及び食感のいずれにおいても優れている。菌床栽培とは、原木を破砕して粉状にした菌床に種菌を接種して屋内等で栽培する方法であり、しいたけの生育が早く、害虫や有害菌等の外部要因の影響を受けにくい。
【0005】
しいたけの原木栽培には、主にナラやクヌギなどの広葉樹が用いられ、伐採された原木(以下「しいたけ原木」という。)は、取扱いの容易化のため90cmから120cm程度の長さ(直径は10cmから20cm程度)に切断され、数ヶ月間乾燥させられる。そして、しいたけ原木に種菌を植え付けて伸長・蔓延させた後に、山林などの木陰に配置しておくと、しいたけが生えて成長する。
【0006】
ナラやクヌギなどの種々の樹木の内部には、上記のように、放射性セシウムが吸着されている場合がある。そのような樹木に由来する、しいたけ原木を用いて原木栽培された、しいたけには高濃度の放射性セシウムが含有されることとなる。したがって、しいたけ原木に吸着されている放射性セシウムを脱着して除去しなければ、しいたけ原木を原木栽培に利用することができない。
【0007】
そこで、表面が放射性セシウムで汚染された木材から放射性セシウムを除去するために、当該木材に、洗浄液としての洗浄水を用いて木材の表面に付着した放射性物質を除染する技術が提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2013−178222号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかし、しいたけ原木の樹皮等の表面側から、洗浄水に長時間浸すことにより洗浄しても、また高水圧の洗浄水により洗浄しても、しいたけ原木の内部の放射性セシウムを原木栽培に利用するために十分な程度まで除去することは困難であった。
【0010】
しいたけ原木には、放射性セシウムが表面の樹皮にとどまらず、しいたけ原木の内部の樹皮に近い周縁部分から中心部分に至るまで広く浸透して吸着されている。そのような放射性セシウムは化学的に安定して、しいたけ原木の成分と強く結合しており容易には脱着しなく、除去することが困難となっている。
【0011】
なお、市販されている純粋なセルラーゼの価格は、1g700円などと非常に高価であり、コストの面からも、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを脱着するためにセルラーゼを用いることは、これまで考えられていなかった。
【0012】
本発明の目的は、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを十分に除去可能な放射性セシウムの除去方法などを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明のセルラーゼ含有液を用いた放射性セシウムの除去方法は、
腐葉土に含まれるバクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つを、炭素源、窒素源およびミネラル源を含む培養液により培養して、
培養液中でバクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つがセルラーゼを産出することによりセルラーゼ含有液を得て、
セルラーゼ含有液に含まれるセルラーゼによりしいたけ原木に含まれるセルローズを膨潤させ、
しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着し、
脱着された放射性セシウムをセルラーゼ含有液とは異なる水を主とする洗浄液であって新しい洗浄液が常に流入する循環系における洗浄液により移動してしいたけ原木から除去し、
放射性セシウムが除去されたしいたけ原木をしいたけの原木栽培に利用可能とする。
【0019】
また、本発明のセルラーゼ含有液を用いた放射性セシウムの除去方法は、しいたけ原木には長さ方向に少なくとも1つ以上の穴が設けられることであってもよい
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを十分に除去可能な放射性セシウムの除去方法などを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の第1の実施の形態を説明する。
【0022】
まず、本発明の原理を以下に説明する。しいたけ原木の繊維はセルラーゼにより膨潤させられるセルローズからなる。しいたけ原木の内部に吸着された放射性セシウムを水和させて脱着するために、セルラーゼによりしいたけ原木のセルローズを膨潤させて、しいたけ原木の内部へ洗浄液を十分に浸潤させる。
【0023】
市販されている純粋なセルラーゼは1g700円などと非常に高価であり、コストの面からも、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着するために当該純粋なセルラーゼを用いることは現実的ではない。
【0024】
そこで、体内でセルラーゼを生成するバクテリア、放線菌および糸状菌を利用する。培養液で培養して繁殖させた、バクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つにより十分な量のセルラーゼを産出させる。
【0025】
以下に、バクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つを培養液で繁殖して産出させたセルラーゼを含むセルラーゼ含有液の製造方法の一例を説明する。
【0026】
水槽に以下のものを混合して投入して培養液とする。
(1)水:約70リットル
(2)でん粉(炭素源):約1kg
(3)米ぬか(窒素源およびミネラル源):約250g(でん粉の1/4重量)
【0027】
上記の培養液中に種菌として腐葉土(バクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つを含む。)を約200g、手で細かくした後に金網でふるってさらに細かくして、添加する。
【0028】
水槽内をエアポンプで曝気して培養液中に酸素を供給する。バクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つが繁殖している場合、通常は発酵臭が生じる。
繁殖したバクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つの体内で生成されたセルラーゼは、培養液中に放出される。なお、繁殖したバクテリア、放線菌および糸状菌の少なくとも1つが産出するセルラーゼの産出量の合計は2日から3日程度でピーク量に近づく。
このようにして、水槽内に、セルラーゼ含有液、いわば粗製セルラーゼを得ることができる。
【0029】
上記のようなセルラーゼ含有液の製造方法によれば、水、でん粉、米ぬかおよび腐葉土という環境負荷が少なく地球環境に優しく、誰でもどこでも簡単に、かつ安価に入手することができる材料を用いて、短期間に十分な量のセルラーゼ含有液、いわば粗製セルラーゼを得ることができる。なお、上記のセルラーゼ含有液は、異なるまたは追加の材料を用いて製造することができる。
【0030】
そして、しいたけ原木を水槽のセルラーゼ含有液中に14日間浸す。
このとき、水槽内を、水温を35℃から40℃(至適温度)とし、また、水素イオン指数を4から4.2(至適pH)として、酵素であるセルラーゼが働きやすい環境を維持することが好ましい。
【0031】
しいたけ原木の繊維はセルラーゼにより膨潤させられるセルローズからなる。セルラーゼによりしいたけ原木のセルローズが膨潤すると、しいたけ原木の樹皮や切断面から内部の中心部分まで洗浄液としても機能するセルラーゼ含有液が十分に浸潤する。そして、水和により脱着された放射性セシウムがセルラーゼ含有液の液体中に遊離して流される(移動する)ことにより、しいたけ原木から除去される。なお、この場合、除去された放射性セシウムは、水槽内のセルラーゼ含有液中に存在することとなる。
【0032】
しいたけ原木にはセルラーゼ含有液が十分に浸潤しているため、通常は、しいたけ原木の重量はセルラーゼ含有液を含んだ分だけ重くなる。
【0033】
さらに、しいたけ原木を掛け流しの流水中に5日間置く。これは、そのまま上記の水槽の給水管および排水管等を利用して、水槽中で、掛け流しの流水中に浸すことであっても、また、所定の施設等で散水すること等により実現することであってもよい。
セルラーゼによりしいたけ原木のセルローズが膨潤しているので、しいたけ原木の樹皮や切断面から内部の中心部分まで水などの洗浄液が十分に浸潤する。そして、しいたけ原木の内部に残留している放射性セシウムが水和により脱着され、水などの洗浄液の液体中に遊離して流される(移動する)ことにより、しいたけ原木から除去される。
【0034】
[実施例1]
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0035】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木1を長さ方向に1/7程度(約15cm)切断し、その切断された短い丸太をコントロール検体(コントロール1)とする。
【0036】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木1の残り6/7の部分(試料1)について、上記の製造方法により得たセルラーゼ含有液で満たされた水槽に14日間浸す。
その後、しいたけ原木1の残り6/7の部分(試料1)について、そのまま水槽内で、掛け流しの流水中に5日間浸す。
【0037】
上記の処理が施された、しいたけ原木1の残り6/7の部分(試料1)を105℃で2日間、乾燥して含水率12%以下とする。
その後、しいたけ原木1の残り6/7の部分(試料1)を6等分に切断する。すなわち1本の長い丸太を6本の短い丸太とする。それぞれ一端部から他端部に向かって順に、試料A(一端部)、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料F(他端部)とする。
【0038】
試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fについて、測定機器として大型NaI(TI)シンチレーションスペクトロメータを用い、それぞれ測定時間550秒で3回ずつ、乾燥重量当たりの放射性セシウム濃度[Bq/kg](以下「放射性セシウム濃度」という。)を測定し、3回の測定値の平均値を算出した。なお、測定値には所定の範囲(プラスマイナス)の誤差が許容される。
【0039】
しいたけ原木1と同様の手順により得た、しいたけ原木2(コントロール2、試料2)およびしいたけ原木3(コントロール3、試料3)について、それぞれ同様の測定を実施した。
【0040】
以下の表1に、しいたけ原木1、しいたけ原木2およびしいたけ原木3の測定結果を示す。
【0041】
【表1】
【0042】
しいたけ原木1の残り6/7の部分(試料1)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である44.3Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール1)の78.7Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
また、しいたけ原木2の残り6/7の部分(試料2)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である42.0Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール2)の100.6Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
また、しいたけ原木3の残り6/7の部分(試料3)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である25.9Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール3)の48.9Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
【0043】
[比較例1]
セシウム137を吸着した、しいたけ原木4を長さ方向に1/7程度(約15cm)切断し、その切断された短い丸太をコントロール検体(コントロール4)とする。
【0044】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木4の残り6/7の部分(試料4)について、水で満たされた水槽に14日間浸す。
その後、しいたけ原木4の残り6/7の部分(試料4)について、そのまま水槽内で、掛け流しの流水中に5日間浸す。
【0045】
上記の処理が施された、しいたけ原木4の残り6/7の部分(試料4)を105℃で2日間、乾燥して含水率12%以下とする。
その後、しいたけ原木4の残り6/7の部分(試料4)を6等分に切断する。すなわち1本の長い丸太を6本の短い丸太とする。それぞれ一端部から他端部に向かって順に、試料A(一端部)、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料F(他端部)とする。
【0046】
試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fについて、測定機器として大型NaI(TI)シンチレーションスペクトロメータを用い、それぞれ測定時間550秒で3回ずつ、放射性セシウム濃度を測定し、3回の測定値の平均値を算出した。なお、測定値には所定の範囲(プラスマイナス)の誤差が許容される。
【0047】
以下の表2に、しいたけ原木4の測定結果を示す。
【0048】
【表2】
【0049】
しいたけ原木4の残り6/7の部分(試料4)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である52.4Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール1)の70.7Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度は低減しているが、十分には低減していないことがわかる。
しいたけ原木4と比較して、しいたけ原木1、しいたけ原木2およびしいたけ原木3は、いずれも、放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
なお、参考として、日本では現時点で、しいたけ原木として利用できる放射性セシウム濃度は50Bq/kg以下と規定されている。
【0050】
本実施の形態によれば、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着することができる。
また、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着し、脱着された放射性セシウムを液体により移動して、しいたけ原木から除去することができる。
【0051】
次に、本発明の第2の実施の形態を説明する。
【0052】
基本的には上記の第1の実施の形態と同様であるので、相違する点を中心に説明し、重複する説明は省略する。
【0053】
しいたけ原木に、その長さ方向に少なくとも1つ以上の穴を設ける。
この穴の直径は、約1.5cmである。通常、少なくとも約3cmまでであればしいたけの生育にほとんど影響を及ぼさない。
この穴は、しいたけ原木の中心に沿って穿孔されることが好ましい。両端から穿孔して中央部等の途中で貫通させてもよいし、ずらして貫通しない態様や短くして貫通しない態様であってもよい。
この穴は、しいたけ原木をセルラーゼ含有液中に浸す前に設けられることが好ましい。
【0054】
上記の穴を設けることにより、しいたけ原木の内部の中心部分近傍(くり抜かれた部分)に吸着されていた放射性セシウムは物理的(直接的)に取り除かれることとなり、また、このように設けられた穴にセルラーゼ含有液が流入し、当該穴により露出した、しいたけ原木の内表面にセルラーゼ含有液が接触することで、しいたけ原木の内表面側からも浸潤し、しいたけ原木の内部に吸着された放射性セシウムの水和による脱着を促進することとなる。
上記の穴を設けることにより、さらに、掛け流しの流水中に置いた際にも、水などの洗浄液が、このように設けられた穴に流入し、当該穴により露出した、しいたけ原木の内表面に水などの洗浄液が接触することで、しいたけ原木の内表面側からも浸潤し、しいたけ原木の内部に吸着された放射性セシウムの水和による脱着と、水などの洗浄液の液体中に遊離して流される(移動する)ことにより、しいたけ原木から除去されることを促進することとなる。
【0055】
なお、しいたけ原木の樹皮の表面側からしいたけ原木の幅方向や斜め方向に少なくとも1つ以上の穴を設けることであってもよい。
【0056】
[実施例2]
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこの実施例により限定されるものではない。
【0057】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木5を長さ方向に1/7程度(約15cm)切断し、その切断された短い丸太をコントロール検体(コントロール5)とする。
【0058】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木5の残り6/7の部分について、長さ方向に直径が1.5cmの穴を略中心に設けて貫通させる。
略中心がくり抜かれて直径が1.5cmの穴が設けられた、しいたけ原木5の残り6/7の部分(試料5)について、上記の製造方法により得たセルラーゼ含有液で満たされた水槽に14日間浸す。
その後、しいたけ原木5の残り6/7の部分(試料5)について、そのまま水槽内で、掛け流しの流水中に5日間浸す。
【0059】
上記の処理が施された、しいたけ原木5の残り6/7の部分(試料5)を105℃で2日間、乾燥して含水率12%以下とする。
その後、しいたけ原木5の残り6/7の部分(試料5)を6等分に切断する。すなわち1本の長い丸太を6本の短い丸太とする。それぞれ一端部から他端部に向かって順に、試料A(一端部)、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料F(他端部)とする。
【0060】
試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fについて、測定機器として大型NaI(TI)シンチレーションスペクトロメータを用い、それぞれ測定時間550秒で3回ずつ、放射性セシウム濃度を測定し、3回の測定値の平均値を算出した。なお、測定値には所定の範囲(プラスマイナス)の誤差が許容される。
【0061】
以下の表3に、しいたけ原木5の測定結果を示す。
【0062】
【表3】
【0063】
上記の第1の実施の形態のしいたけ原木1、しいたけ原木2およびしいたけ原木3と比較して、しいたけ原木5は、特に、1本の長い丸太の両端部である試料Aおよび試料F以外の、中央部分である試料B、試料C、試料Dおよび試料Eにおいても放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
また、しいたけ原木5の残り6/7の部分(試料5)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である10.8Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール1)の17.8Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
【0064】
[比較例2]
セシウム137を吸着した、しいたけ原木6を長さ方向に1/7程度(約15cm)切断し、その切断された短い丸太をコントロール検体(コントロール6)とする。
【0065】
セシウム137を吸着した、しいたけ原木6の残り6/7の部分について、長さ方向に直径が1.5cmの穴を略中心に設けて貫通させる。
略中心がくり抜かれて直径が1.5cmの穴が設けられたしいたけ原木6の残り6/7の部分(試料6)について、水で満たされた水槽に14日間浸す。
その後、しいたけ原木6の残り6/7の部分(試料6)について、そのまま水槽内で、掛け流しの流水中に5日間浸す。
【0066】
上記の処理が施されたしいたけ原木6の残り6/7の部分(試料6)を105℃で2日間、乾燥して含水率12%以下とする。
その後、しいたけ原木6の残り6/7の部分(試料6)を6等分に切断する。すなわち1本の長い丸太を6本の短い丸太とする。それぞれ一端部から他端部に向かって順に、試料A(一端部)、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料F(他端部)とする。
【0067】
試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fについて、測定機器として大型NaI(TI)シンチレーションスペクトロメータを用い、それぞれ測定時間550秒で3回ずつ、放射性セシウム濃度を測定し、3回の測定値の平均値を算出した。なお、測定値には所定の範囲(プラスマイナス)の誤差が許容される。
【0068】
以下の表4に、しいたけ原木6の測定結果を示す。
【0069】
【表4】
【0070】
しいたけ原木6の残り6/7の部分(試料6)の全体の放射性セシウム濃度として、試料A、試料B、試料C、試料D、試料Eおよび試料Fのそれぞれの上記平均値を平均した値である16.9Bq/kgを用いると、コントロール検体(コントロール1)の22.6Bq/kgと比べて、放射性セシウム濃度は低減しているが、十分には低減していないことがわかる。
しいたけ原木6と比較して、しいたけ原木5は放射性セシウム濃度が十分に低減していることがわかる。
上記の第1の実施の形態のしいたけ原木1、しいたけ原木2およびしいたけ原木3と比較しても、しいたけ原木5は放射性セシウム濃度が、より一層、十分に低減していることがわかる。
なお、参考として、日本では現時点で、しいたけ原木として利用できる放射性セシウム濃度は50Bq/kg以下と規定されている。
【0071】
本実施の形態によれば、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着することをさらに促進できる。
また、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着し、脱着された放射性セシウムを液体により移動して、しいたけ原木から除去することをさらに促進できる。
【0072】
その他、一々例示はしないが、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されてよい。
【要約】      (修正有)
【課題】しいたけ原木に吸着された放射性セシウムの脱着方法を提供する。
【解決手段】セルラーゼによりしいたけ原木に含まれるセルローズを膨潤させ、しいたけ原木に吸着された放射性セシウムを水和により脱着する。
【選択図】なし