特許第5745198号(P5745198)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許5745198-歯科用レジンブロックの製造方法 図000006
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745198
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】歯科用レジンブロックの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61C 5/10 20060101AFI20150618BHJP
   A61C 13/08 20060101ALI20150618BHJP
   A61C 13/20 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   A61C5/10
   A61C13/08 Z
   A61C13/20 D
【請求項の数】2
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-35767(P2015-35767)
(22)【出願日】2015年2月25日
(62)【分割の表示】特願2014-555878(P2014-555878)の分割
【原出願日】2014年8月22日
(65)【公開番号】特開2015-97854(P2015-97854A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2015年2月25日
(31)【優先権主張番号】特願2013-197115(P2013-197115)
(32)【優先日】2013年9月24日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000181217
【氏名又は名称】株式会社ジーシー
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100099645
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 晃司
(72)【発明者】
【氏名】中山 瑞樹
(72)【発明者】
【氏名】高木 暢人
【審査官】 寺澤 忠司
(56)【参考文献】
【文献】 特表2002−527365(JP,A)
【文献】 特開平10−323353(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/162286(WO,A1)
【文献】 特表2004−516066(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/154301(WO,A1)
【文献】 国際公開第2014/021343(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 5/10
A61C 13/08
A61C 13/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
科用レジンブロックを製造する方法であって、
熱可塑性樹脂又はシリコーン樹脂により形成された内外の圧力が等しくなる手段を具備する型に、前記歯科用レジンブロックとなる硬化前の材料を注入する工程と、
記歯科用レジンブロックとなる前記硬化前の材料が注入された前記型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れ、前記型及び該型に注入された前記硬化前の材料を1.0MPa以上で加圧する工程と、
前記型及び該型に注入された前記硬化前の材料を60℃以上で加熱する工程と、を含む、歯科用レジンブロックの製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂はポリプロピレンである請求項1に記載の歯科用レジンブロックの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インレー、クラウン等の歯科用補綴物をCAD/CAM装置による切削加工で作製する際に用いる歯科用レジンブロックの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
歯科治療において、インレー、クラウン等の症例のうち審美性を要求される場合には、歯科用コンポジットレジンによる充填修復、又は、セラミックインレー、レジン前装鋳造冠、陶材焼付前装鋳造冠、及びオールセラミッククラウン等の歯科用補綴物による修復、が一般的に行われている。
【0003】
しかし、歯科用コンポジットレジンによる充填修復の場合は、ペースト状の歯科用コンポジットレジンを歯牙の窩洞内で重合硬化させるため、未重合モノマーが残留することは避けられず、その結果歯髄刺激の問題がある。また、口腔外で十分にモノマーを重合させて作製することが可能な歯科用補綴物の場合は、口腔内形状や補綴物を作製する対象部位が患者一人一人によって異なり、しかも作製した歯科用補綴物には数μm単位の極めて高い寸法精度が要求されるため技工士の熟練のみならず多大な時間と費用が必要となっている。
【0004】
このようなことから、歯科補綴物の製造に関して、近年、コンピュータを利用して画面上でクラウンやブリッジ等の歯科用補綴物の設計を行い、切削加工によって歯科用補綴物を製造するCAD/CAM装置が適用されることが多くなってきた。これにより一定の品質の歯科用補綴物を短時間で安定して供給できる。
CAD/CAM装置における切削加工では形状を切り出す前の材料として、歯科用レジンをブロック状に形成した歯科用レジンブロックが用いられる。この歯科用レジンブロックは例えば、特許文献1に記載のように、平均粒径0.001μm以上0.04μm以下の無機質充填剤を20質量%以上70質量%以下の範囲で含有した材料からなるアクリル系レジン重合体をブロック状にしたものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−323353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この方法では、重合前の歯科用レジン材料を圧力50MPa以上300MPa以下、温度100℃以上200℃以下の条件で加圧・加熱して重合・硬化させブロック状の歯科用レジン材料を得る。そのため、重合前のペーストを金型に填入し、熱プレス機を用いて加圧する必要がある。
【0007】
この歯科用レジン材料は、平均粒径0.001μm以上0.04μm以下の無機質充填剤を20質量%以上70質量%以下の範囲で含有したアクリル系レジンであるため重合(硬化)前の粘性が非常に高い。これにより上記のように加圧・加熱して重合するときに気泡を巻き込んでしまう問題があった。また、硬化に際して割れが発生することもあった。このように気泡を巻き込んだ状態、割れが発生した状態の歯科用レジンブロックは、その品質がよいとは言えず、CAMにおける切削時に細部が欠けてしまうチッピングを起こしやすく、精度の高い歯科用補綴物を得ることができなかった。
【0008】
そこで本発明は、気泡や割れが生じ難いブロック状歯科用レジンブロックの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討した結果、金属製ではない型に硬化前の組成物を入れ、型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れて加圧及び加熱をし、型の内外の圧力が等しくなるよう重合させることにより気泡及び割れの発生を抑制できるとの知見を見いだして本発明を完成させた。以下本発明を説明する。
【0010】
請求項1に記載の発明は、歯科用レジンブロックを製造する方法であって、熱可塑性樹脂又はシリコーン樹脂により形成された内外の圧力が等しくなる手段を具備する型に、歯科用レジンブロックとなる硬化前の材料を注入する工程と、歯科用レジンブロックとなる硬化前の材料が注入された型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れ、型及び該型に注入された硬化前の材料を1.0MPa以上で加圧する工程と、型及び該型に注入された硬化前の材料を60℃以上で加熱する工程と、を含む、歯科用レジンブロックの製造方法である
【0012】
請求項に記載の発明は、請求項1に記載の歯科用レジンブロックの製造方法において、熱可塑性樹脂はポリプロピレンである
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るブロック状歯科用レジンブロックの製造方法によれば、気泡及び割れを抑制することができ、歯科補綴物の形状を切削加工により製造する時にチッピングが発生しない等、品質の高いブロック状の歯科用レジンブロックを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】1つの例示に係る型の外観斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の上記した作用及び利得は、次に説明する形態から明らかにされる。ただし本発明はこれら形態に限定されるものではない。
【0016】
初めに本形態に用いられる歯科用レジン材料について説明する。その後この材料を用いた歯科用レジンブロックの製造方法について説明する。
【0017】
用いられる歯科用レジン材料は、従来から歯科用材料に多く用いられてきたメタクリレート化合物又はアクリレート化合物を使用できる。メタクリレート化合物又はアクリレート化合物としては、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン、n−ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2−メトキシエチルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、フェニルメタクリレート、フェノキシエチルメタクリレート、2,2−ビス(メタクリロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシ−3−メタクリロキシプロポキシ)フェニル]プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン、エチレングリコールジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、トリエチレングリコールジメタクリレート、ブチレングリコールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、1,3−ブタンジオールジメタクリレート、1,4−ブタンジオールジメタクリレート、1,6−ヘキサンジオールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、トリメチロールエタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールトリメタクリレート、トリメチロールメタントリメタクリレート、ペンタエリスリトールテトラメタクリレート、ジ−2−メタクリロキシエチル−2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジカルバメート、1,3,5−トリス[1,3−ビス(メタクリロイルオキシ)−2−プロポキシカルボニルアミノヘキサン]−1,3,5−(1H,3H,5H)トリアジン−2,4,6−トリオン及びこれらのアクリレートを例示できる。これらのメタクリレート及びアクリレートは必要に応じて単独であるいは混合して使用することができる。
【0018】
また、これら化合物は重合させてブロック状として使用されるため重合触媒を使用する。本発明では加圧加熱して成型することから、重合触媒としては加熱重合触媒が好ましい。加熱重合開始剤(触媒)としては、有機過酸化物やアゾ化合物等が用いられ、具体的には、ベンゾイルパーオキサイド、ケトンパーオキサイド、パーオキシケタール、ハイドロパーオキサイド、ジアルキルパーオキサイド、ジアシルパーオキサイド、パーオキシエステル、パーオキシジカーボネート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、4,4’−アゾビス−4−シアノバレリック酸、1,1’−アゾビス−1−シクロヘキサンカーボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチラート、2,2’−アゾビス−(2−アミノプロパン)ジヒドロクロライド等が挙げられ、これらは単独若しくは混合して利用できる。
【0019】
また歯科用レジン材料には充填材が配合されることが好ましい。充填材としては平均粒径が0.01μm以上2μm以下の無機質充填剤が好ましい。平均粒径が0.01μm以上0.04μm以下の無機質充填剤としてはコロイダルシリカが一般的であり、例えば日本アエロジル株式会社のアエロジルOX−50(平均粒径0.04μm)、アエロジルR−972(平均粒径0.016μm)等が使用できる。平均粒径が0.1μm以上2μm以下の無機質充填剤としては粉砕されたガラス粉末が一般的であり、その組成は特に限定されるものではないが、石英ガラス、アルミノシリケートガラス、X線造影性を有するガラスであるカルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属原子を含むガラス、亜鉛ガラス、鉛ガラス等が好適である。ガラス粉末は表面をシラン処理して使用することが望ましく、通常、表面処理剤としてγ−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン等の有機ケイ素化合物を用いて通常の方法によりシラン化して用いられる。平均粒径が0.01μm以上0.04μm以下の無機質充填剤の含有量は、0.1質量%未満の場合には十分な増粘効果が得られ難く、一方2質量%を超えた場合には歯科用レジン材料作製時のレジンペーストが硬くなりレジン重合体に気泡が混入し易くなり適当でない。平均粒径が0.1μm以上2μm以下の無機質充填剤の含有量は、1質量%未満の場合には十分な耐摩耗強度が得られ難く、一方80質量%を超えた場合には歯科用レジン材料作製時のレジンペーストが硬くなりレジン重合体に気泡が混入し易くなり適当でない。
【0020】
なお、要求される性能に応じて、上記した平均粒径が0.01μm以上2μm以下の無機質充填剤を少なくとも1個の不飽和二重結合を持つメタクリレート又はアクリレートのモノマーと混合し硬化させ粉砕させて平均粒径5μm以上50μm以下に調整した有機無機複合充填剤を含有させることができる。このときの有機無機複合充填剤の含有量は1質量%以上40質量%以下が適当であり、1質量%未満の場合には表面滑沢性や耐摩耗性の向上効果が認められず、40質量%を超えた場合には機械的強度が低下してくる。
【0021】
その他、必要に応じて紫外線吸収剤、着色剤、重合禁止剤等が微量使用されてもよい。
【0022】
次に歯科用レジン材料を用いて歯科用レジンブロックを製造する方法を説明する。
【0023】
歯科用レジブロックの製造は、上記説明したペースト状の歯科用レジン材料を、所望の形状を有する型(例えば図1に一方に底1aを有する矩形箱状の型1を示した。ただし型の形状は特に限定されるものではない。)に注入し、1.0MPa以上8MPa以下の範囲で加圧し、昇圧完了とともに60℃以上200℃以下の範囲で加熱することにより重合・硬化させブロック体形状に成形するものである。
【0024】
ここで、型を構成する材料は、金属以外の材料とする。その中でも型としての寸法精度や成型性の観点から合成樹脂を材料とすることが好ましい。より好ましくは熱可塑性樹脂、シリコーン樹脂である。これにより製造される歯科用レジンブロックに亀裂が発生することを大幅に低減することができる。
用いられる熱可塑性樹脂は、従来から一般工業界にて広く用いられてきた樹脂を使用でき、中でもポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂、アクリル樹脂などが使用できる。
【0025】
型及び該型に注入された硬化前の材料を1.0MPa以上で加圧する工程、並びに型及び該型に注入された硬化前の材料を60℃以上200℃以下で加熱する工程は、金属製ではない型に組成物を入れ、型ごと全体的に所定の圧力とすることが可能な容器に入れ加圧及び加熱し、型の内外の圧力が等しくなるよう重合させる工程である。
この容器としては、産業界で使用されているオートクレイブや圧力釜等の加圧加熱容器を用いることができる。この工程において型の内外の圧力が等しくなるようにする手段としては、型に開放口を設けておいたり、例えば凹凸の合わせ型において、凹型の凹部に組成物を注ぎ浮遊状態で凸型を乗せそのままで容器内で加圧加熱したりする等がある。また、上部が開放されている直方体容器に組成物を注ぎ上面開放口から組成物上面にラップ等の薄い樹脂製膜を乗せて加圧加熱する方法でもよい。
【0026】
加圧力については、加圧力が1.0MPa未満の場合には気泡の混入を十分に抑えられず、チッピングの原因となるような気泡が発生してしまう可能性が高まる。一方、加圧力が8MPaを超えても歯科用レジンブロックの性能自体に影響はないが、加圧力を上げることによる更なる効果の向上は認められず且つ高圧を維持するのが難しくなる。
【0027】
加熱温度については、加熱温度が60℃未満の場合には未重合モノマーが残る可能性があり適当でない。ただし、重合時間が長くなることを回避して生産性を向上させる観点から80℃以上であることが好ましい。一方、200℃を超える場合は、上記した加圧及び加熱の容器に使用するパッキンの材質が制限されてしまい適当でない。
【0028】
以上のような条件で歯科用レジンブロックを製造することにより、成型性がよく、亀裂や気泡が少ない歯科用レジンブロックを得ることができる。ここでブロック体の大きさにもよるが加圧及び加熱を合わせて通常10分以上90分以下程度で重合・硬化させると品質と生産性を両立することができる。なお、ブロック体の形状は通常直方体又は円柱体を成すものである。
【0029】
このようにして得た歯科用レジンブロックを用いて例えば次のように歯科用補綴物を作製する。
先ず歯科用印象材を用いて患者の口腔内の支台歯側、及び対合歯側の印象を採得する。上下顎の印象採得は同時印象採得でも良いし、上下顎別々に印象採得を行っても良い。
次に採得した印象に基づいて石膏模型を作製する。
そして、石膏模型を接触式又は非接触式の計測器を用いて計測して口腔内形状の三次元座標データを得、これをデジタル信号としてコンピュータ内のメモリに蓄積する。
その後、メモリに蓄積された三次元座標データを使用して、コンピュータのCRT画面上に患者の支台歯形状をワイヤーフレーム等を使用してグラフィック表示する。対合歯との位置関係は、予め上下顎の石膏模型に或る基準点を設けておき、上顎の石膏模型の形状測定データ、下顎の石膏模型の形状測定データを用い、基準点を合わせることよりCRTにグラフィックで再現する。
【0030】
CRT上にグラフィック表示された支台歯形状と対合歯形状とを基にして、インレーやクラウンの形態を作図し設計する。なおこの際に、予め登録しておいたインレーやクラウンの標準データを用いることにより、更に容易に設計することができる。なお、必要に応じてインレーやクラウンの内面側に任意の寸法のオフセットをかけることによってセメントスペースを作製してもよい。このようにしてインレーやクラウンの設計が終了し三次元座標データが得られたらコンピュータからNC制御の加工機に加工指令を伝達する。指令を受けた加工機は、上記した歯科用レジンブロックを切削加工して指令通りにインレーやクラウンを作製する。なお、必要に応じて患者の残存歯牙との色調調整のために歯科用硬質レジンを用いてステイン等のキャラクタライズを行ってもよい。
【0031】
本発明により製造した歯科用レジンブロックによれば、亀裂や気泡が少ないので製造時においてもチッピング等の不具合を生じ難く、品質が高い歯科補綴物を製造することができる。
【実施例】
【0032】
以下に示す実施例では、実施例1から4、及びこれと比較すべき比較例1から3による歯科用レジンブロックを作製して、その品質を検証した。以下に説明する。
【0033】
<歯科用レジン材料>
ここではペースト1から4の4種類のペースト状(未硬化)の歯科用レジン材料を準備した。各ペーストはシリンジに充填され、型に注入できるようにした。
また、各ペーストについてちょう度を測定した。ちょう度(mm)測定は次のように行った。すなわち、セロファンの上にシリンジからペーストを1.0mL押し出し、静かにセロファンを被せた後、総重量750gとしたカバーガラスと錘を静かに乗せ、60秒間静置した。60秒経過後にただちにカバーガラスと錘を外し、広がったペーストの長辺と短辺の長さを測定し、平均値をちょう度(mm)とした。
表1にペーストの組成及びちょう度を表した。表1中のMPTSは、γ−メタクリロキシプロリルトリエトキシシランを意味する。
【0034】
【表1】
【0035】
表1中のモノマー1からモノマー4は次の表2の通りである。なお、表2用いた略称はそれぞれ次の化学物質を意味する。
UDMA:ウレタンジメタクリレート
TEGDMA:トリエチレングリコールジメタクリレート
BPO:ベンゾイルパーオキサイド
Bis-MEPP:2,2−ビス(4−メタクリロキシポリエトキシフェニル)プロパン
HDMP:2−ヒドロキシ−1,3−ジメタクリロキシプロパン
【0036】
【表2】
【0037】
<実施例1>
実施例1では、厚さ1mmのポリプロピレンシートを真空成型して、縦横が12mm×14mm、深さが20mmの凹型を得た。この凹型にペースト1を静かに注入して内部を隙間なく満たした。ペースト1が満たされた型をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.3MPaで3回置換して酸素濃度を1.0%未満とした。
その後窒素で2.0MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を120℃に昇温させ1時間重合硬化させた。1時間経過後、圧力を大気圧まで降下させ、炉内が60℃以下に冷めてから型を取り出し、重合した歯科用レジンブロックを当該型から抜き取った。
【0038】
<実施例2>
実施例2では、実施例1と同じ型を用い、この型にペースト2を静かに注入して内部を隙間なく満たした。ペースト2が満たされた型をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.3MPaで3回置換して酸素濃度を1.0%未満とした。
その後窒素で3.0MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を120℃に昇温させ1時間重合硬化させた。1時間経過後、圧力を大気圧まで降下させ、炉内が60℃以下に冷めてから型を取り出し、重合した歯科用レジンブロックを当該型から抜き取った。
【0039】
<実施例3>
実施例3では、縦横高さが12mm×14mm×18mmのダミーブロックを歯科用シリコーン印象材であるフュージョンIIウォッシュタイプ(株式会社ジーシー)にて包埋し、硬化後にこのダミーブロックを取り出して凹型を得た。この凹型にペースト3を静かに注入して内部を隙間なく満たした。ペースト3が満たされた型をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.3MPaで3回置換して酸素濃度を1.0%未満とした。
その後窒素で3.0MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を120℃に昇温させ1時間重合硬化させた。1時間経過後、圧力を大気圧まで降下させ、炉内が60℃以下に冷めてから型を取り出し、重合した歯科用レジンブロックを当該型から抜き取った。
【0040】
<実施例4>
実施例4では、実施例1と同じ型を用い、この型にペースト4を静かに注入して内部を隙間なく満たした。ペースト4が満たされた型をオートクレーブ(株式会社協真エンジニアリング製)内に固定し、濃度99.9%の窒素を0.3MPaで3回置換して酸素濃度を1.0%未満とした。
その後窒素で4.0MPaまで昇圧し、昇圧完了と同時に炉内を120℃に昇温させ1時間重合硬化させた。1時間経過後、圧力を大気圧まで降下させ、炉内が60℃以下に冷めてから型を取り出し、重合した歯科用レジンブロックを当該型から抜き取った。
【0041】
<比較例1>
分解可能なアルミニウム製の型にペースト1を静かに注入して内部を隙間なく満たした。型の材質以外は実施例1と同じ条件で歯科用レジンブロックを製造した。
【0042】
<比較例2>
分解可能なステンレス(SUS303)製の型にペースト2を静かに注入して内部を隙間なく満たした。型の材質以外は実施例2と同じ条件で歯科用レジンブロックを製造した。
【0043】
<比較例3>
実施例4に対して、窒素で昇圧する圧力を0.9MPaとした。それ以外は実施例4と同じである。
【0044】
表3に実施例1乃至4及び比較例1乃至3の主要な条件をまとめた。
【0045】
【表3】
【0046】
各例で得た歯科用レジンブロックに対して次の試験をした。
<成型性>
取り出した歯科用レジンブロックをに空隙がなく型の内面形状に沿っており、形状が適正であるか確認した。
<亀裂・気泡>
取り出した歯科用レジンブロックを1mm厚にスライスして得られた10枚の板を7倍のルーペで観察し、亀裂や気泡の有無を観察した。
<曲げ強度>
重合から24時間以上経過した後、歯科用レジンブロックを厚さ1.2mm±0.2mm、幅4.0mm±0.2 mm、長さ14mm以上となるように切り出し、表面を耐水研磨紙1000番で均一化してから支点間距離12mm、クロスヘッドスピード1.0mm/分の条件で三点曲げ試験を行った。
結果を表4に示す。
【0047】
【表4】
【0048】
実施例1については、硬化前のペースト1はちょう度が68mmであり、最も流動性が高かった。成型性は良好で亀裂や気泡も確認されず、均一で型どおりの形状の歯科用レジンブロックが得られた。曲げ強度についてフィラー量が64質量%(シリカ粉末0.9質量%+MPTS処理アルミノシリケートガラス63.1質量%)に対して234MPaと良好な値を示した。
【0049】
実施例2については、硬化前のペースト2はちょう度が53mmであり、比較的流動性は高かった。成型性は良好で亀裂や気泡も確認されず、均一で型どおりの形状の歯科用レジンブロックが得られた。曲げ強度についてフィラー量が70.8質量%に対して218MPaと良好な値を示した。
【0050】
実施例3については、硬化前のペースト3はちょう度が47mmであり、比較的流動性は低かった。成型性は良好で亀裂や気泡も確認されず、均一で型どおりの形状の歯科用レジンブロックが得られた。曲げ強度についてフィラー量が65.8質量%に対して184MPaと良好な値を示した。
【0051】
実施例4については、硬化前のペースト4はちょう度が30mmであり、最も流動性は低かった。成型性は良好で亀裂や気泡も確認されず、均一で型どおりの形状の歯科用レジンブロックが得られた。曲げ強度についてフィラー量が65.8質量%に対して243MPaと良好な値を示した。
【0052】
比較例1については、実施例1と異なり成型性が不良で、空隙の発生した箇所が認められた。更に歯科用レジンブロックの表面または内部に亀裂が確認された。ただし歯科用レジンブロックの内部に気泡は確認されなかった。成型性が不良で亀裂も発生していたため曲げ試験を行う試験体を作製できなかった。
【0053】
比較例2については、実施例2と異なり成型性が不良で、空隙の発生した箇所が認められた。更に歯科用レジンブロック表面又は内部に亀裂が確認された。ただし歯科用レジンブロックの内部に気泡は確認されなかった。成型性が不良で亀裂も発生していたため曲げ試験を行う試験体を作製できなかった。
【0054】
比較例3については、実施例4と異なり歯科用レジンブロックの内部に気泡が多数確認された。曲げ試験を行ったところ気泡が多かったためその値は低かった。
【符号の説明】
【0055】
1 型
図1