(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745300
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】雄型端子及び雄型端子の接触部の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01R 13/04 20060101AFI20150618BHJP
H01R 43/16 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
H01R13/04 C
H01R43/16
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-59681(P2011-59681)
(22)【出願日】2011年3月17日
(65)【公開番号】特開2012-195228(P2012-195228A)
(43)【公開日】2012年10月11日
【審査請求日】2014年2月28日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033318
【氏名又は名称】日本圧着端子製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】長田 剛
(72)【発明者】
【氏名】増田 聖人
【審査官】
竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2011−018568(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R 13/03 − 13/04
H01R 43/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製薄板の成形体で一軸方向に延びる平板状の基底部を共通にし対応する雌型端子に接
触する接触部と、この接触部の軸方向の一端に連なるボックス部と、このボックス部の軸方向の一端に連なり、電線に接続する接続部と、を備え、前記接触部は前記基底部と、この基底部の幅方向の一端から延出し前記基底部に重なるように折り返された曲げ部と、前記基底部と前記曲げ部との間に挟持される平坦な台座部と、を備えた雄型端子であって、
前記雄型端子は展開形状において、前記基底部を形成する予定部の軸方向に直交する展開方向の側面から展開方向に延伸した繋ぎ部と、この繋ぎ部の先端に軸方向に沿って延びる平坦な前記台座部を形成する予定部と、を備え、前記繋ぎ部を中央で折り返し、前記台座部になる予定部の表面を前記基底部になる予定部の表面に重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記台座部になる予定部を挟持するように前記曲げ部になる予定部を折り返し、前記台座部になる予定部の裏面に前記曲げ部になる予定部の表面を重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記繋ぎ部を前記基底部になる予定部の側面から切り離す工程と、によって、前記接触部が形成されるところに特徴を有する雄型端子。
【請求項2】
前記台座部の間口側の端面が前記基底部および前記曲げ部の端面を結んだ仮想線よりも内側にあるところに特徴を有する請求項1記載の雄型端子。
【請求項3】
前記台座部が前記基底部と前記曲げ部との間に挟持される全長に亘って、加工段階で加圧手段によって前記基底部および前記曲げ部間に固定されたものであることを特徴とする請求項1又は2記載の雄型端子。
【請求項4】
前記基底部を形成する予定部の軸方向に直交する展開方向の側面から展開方向に延伸した繋ぎ部と、この繋ぎ部の先端に軸方向に沿って延びる平坦な前記台座部を形成する予定部とを備えた雄型端子の接触部の形成方法であって、前記繋ぎ部を中央で折り返し、前記台座部になる予定部の表面を前記基底部になる予定部の表面に重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記台座部になる予定部を挟持するように前記曲げ部になる予定部を折り返し、前記台座部になる予定部の裏面に前記曲げ部になる予定部の表面を重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記繋ぎ部を前記基底部になる予定部の側面から切り離す工程と、からなる雄型端子の接触部の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、雄型端子及び雄型端子の接触部の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
図9の(A)は、雄型端子100の外観斜視図を示す。雄型端子100は、
図9の(A)に示されるように、展開形状に打ち抜かれた金属製薄板に、曲げや絞り等の加工を加えて得られる。雄型端子100は、図示しない雌型端子に電気的機械的に接続する接触部110、ハウジングに係止するための係止片を備えたボックス部120、及び電線に接続するための接続部130を備える。接続部後方の端部に備わるキャリア140は、製造工程のハンドリングに必要な把持部であって完成品では除去されている。
【0003】
接触部110はまっすぐ伸びる棒状で、
図9の(B)に示されるように、金属製薄板を折り返して得られる断面コの字の成形体である。
【0004】
近時、電線接続部の性能を満足させつつ接触部の強度を向上させる構造が求められている。すなわち、板厚みは現状厚みをほぼ維持したままで接触部の強度を要求水準まで向上させるものであるが、
図10に示されるように、幅と厚みを備えた接触部210の幅寸法(図面上で左右方向)を従来比2倍程度まで拡大することは、この要求にかなうものである。接触部210は、基底部211および曲げ部212を備え、曲げ部212は、厚み辺213および幅広辺214を備える。このとき、折り返し加工で生じた曲げ部212の曲がりを矯正し平坦面を確保するために、
図11に示されるように、図中白抜き矢印で示される方向に、横方向に可動する横型でもってプレスする方法が一般的にとられる。
しかし、この方法では曲がりは矯正されるが、厚み方向に変形可能な基底部211及び曲げ部212の自由端は、図中黒矢印で示される方向に倒れ込むという問題が新たに発生する。そして、この自由端の倒れ込みを防止するために、
図12に示されるように、矯正プレス時に両自由端の間口に横型の凸部を嵌め込み、この嵌め型でもって矯正プレスによる倒れ込みを防ぐ方法がとられている。しかし、この方法では、自由端の倒れ込みは防げるが図中黒矢印で示される方向に基底部211および幅広辺214の中央部が陥没するという問題が、また新たに発生することになる。
【0005】
このような加工時に生じる変形を解決する手段として、特許文献1及び特許文献2記載の技術が知られている。特許文献1記載の技術は、
図13に示されるように基底部〔基板部〕211と、曲げ部〔折曲重ね板部〕212との間に基底部〔基板部〕211の幅方向の側面から延設された〔平面確保板部〕215を重ね合せることで、基底部〔基板部〕211および曲げ部〔折曲重ね板部〕212の平行性と平坦性を確保するものである。
【0006】
また、特許文献2記載の技術は、特許文献1記載の技術を基礎として〔平面確保板部〕215が、基底部〔基板部〕211および曲げ部〔折曲重ね板部〕212の厚さよりも薄くされているところに特徴を有するものである。なお、〔 〕内の表現は、特許文献1記載のものを示す。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−36911号公報
【特許文献2】特開2003−157920号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1記載の技術によれば、基底部および曲げ部の自由端の倒れ込みや、中央部の陥没は生じなくなってはいるが、
図13に示されるように、基底部211から平面確保板部215につながる部分に相対的に曲率の大きな変形が形成され、この変形のため、基底部211の平坦領域は相対的に狭められることとなる。基底部の平坦面は、対応する雌型端子の接触片に接触する領域であるから、幅方向に広く確保されていることが望ましく、変形によって平坦領域が狭められていることは、コンタクトの接触信頼性が損なわれるという問題に通じる。更に、曲率の大きな曲げによって生じるしわによって、めっき層にクラックが発生することで、母材金属に腐食や欠陥等の耐久性を損なう不具合が生じる原因ともなる。なお、特許文献2記載の技術も基本的な構成は特許文献1記載の技術と共通するものなので同じ問題を孕むものである。
【0009】
本発明は、前記課題に鑑みなされたもので、基底部および曲げ部の自由端の倒れ込みや、中央部の陥没が生じず、基底部および曲げ部の変形を除き相対的に平坦領域を広範に確保することを可能にし、対応する雌型端子との接続信頼性の向上を図った雄型端子を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明は接触部の強化を図り接触部の幅を大きくした場合でも、接触部の接続信頼性を向上させるため、基底部および曲げ部の変形を除き相対的に平坦領域を広範に確保するものである。
【0011】
より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
(1)本発明の雄型端子は、
金属製薄板の成形体で一軸方向に延びる平板状の基底部を共通にし対応する雌型端子に接触する接触部と、この接触部の軸方向の一端に連なるボックス部と、このボックス部の軸方向の一端に連なり、電線に接続する接続部と、を備え、前記接触部は前記基底部と、この基底部の幅方向の一端から延出し前記基底部に重なるように折り返された曲げ部と、前記基底部と前記曲げ部との間に挟持される平坦な台座部と、を備えた雄型端子であって、前記雄型端子は展開形状において、前記基底部を形成する予定部の軸方向に直交する展開方向の側面から展開方向に延伸した繋ぎ部と、この繋ぎ部の先端に軸方向に沿って延びる平坦な前記台座部を形成する予定部と、を備え、前記繋ぎ部を中央で折り返し、前記台座部になる予定部の表面を前記基底部になる予定部の表面に重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記台座部になる予定部を挟持するように前記曲げ部になる予定部を折り返し、前記台座部になる予定部の裏面に前記曲げ部になる予定部の表面を重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記繋ぎ部を前記基底部になる予定部の側面から切り離す工程と、によって、前記接触部が形成されるところに特徴を有するものである。
【0012】
本発明の雄型端子は、基底部と、幅方向の一側面から延出し重なるように折り返された曲げ部との間に平坦な台座部を挟持しているので、従来技術では生じていた基底部および幅広辺の自由端の倒れ込みや中央部の陥没は生じない。また、基底部および幅広辺は平行、且つ、一側面で共有する厚み辺側から他側面の自由端側に向かって平坦に延び切るので、変形領域が除かれ相対的に平坦領域が広範に確保され、対応する雌型端子との接続信頼性の向上が達成されている。
【0013】
更に、基底部、曲げ部、及び台座部に従来技術では生じていた曲率の大きな曲げが形成されないので、めっき層にクラックが発生することが無く、母材金属の腐食等の発生のおそれは取り除かれている。
【0014】
なお、台座部は雄型端子本体と同じ金属製薄板から一体的に展開形状に形成されるものであって、生産性の向上や材料歩留まりの向上が図られ易くなる。
【0017】
更に好ましくは、
(2)本発明の雄型端子は前記台座部の間口側の端面が前記基底部および前記幅広辺の端面を結んだ仮想線よりも内側にあるところに特徴を有する
(1)記載のものである。
【0018】
本発明の雄型端子は、台座部の間口側の端面が基底部および幅広辺の端面を結んだ仮想線以内にあるので、対応する雌型端子との嵌合の際、引掛かりなくスムーズに挿入できるものである。
【0019】
更に好ましくは、(3)前記台座部が前記基底部と前記曲げ部との間に挟持される全長に亘って、加工段階で加圧手段によって前記基底部および前記曲げ部間に固定され
たものであることを特徴とする(1)又は(2)記載のものである。
【0020】
本発明の雄型端子は、台座部が基底部と曲げ部との間に挟持される全長に亘って、固定手段によって
加工段階も完成段階も固定されているので、台座部が基底部と幅広辺(曲げ部)とで形成された隙間から脱落するおそれは回避されている。固定手段は、台座部を基底部と曲げ部間に挟持した状態で挟持方向に加圧する加圧方法であってよく、また、接合剤で固定する方法であってもよく、また、溶接で固定する方法であってもよい。
【0023】
更に好ましくは、本発明の雄型端子の成形方法は、(4)前記基底部を形成する予定部の軸方向に直交する展開方向の側面から展開方向に延伸した繋ぎ部と、この繋ぎ部の先端に軸方向に沿って延びる平坦な前記台座部を形成する予定部とを備えた雄型端子の
接触部の形成方法であって、前記繋ぎ部を中央で折り返し、前記台座部になる予定部の表面を前記基底部になる予定部の表面に重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記台座部になる予定部を挟持するように前記曲げ部になる予定部を折り返し、前記台座部になる予定部の裏面に前記曲げ部になる予定部の表面を重ね合わせる工程と、重ね合わされた前記繋ぎ部を前記基底部になる予定部の側面から切り離す工程と、からなる方法である。
【0024】
本発明の雄型端子の成形方法は、基底部の軸方向に直交する展開方向の側面から展開方向に延伸した繋ぎ部を備え、この繋ぎ部の先端に軸方向に沿って延びる平坦な台座部を備えた状態の展開形状から製品形状に仕上げるものである。このとき、台座部は、繋ぎ部を折り返すことで基底部の表面に重ね合わされ、更に曲げ部が重ね合わされて基底部とこの曲
げ部によって挟持され、更に所定の位置で繋ぎ部が切り離される工程を経て最終形状が与えられる。このように本発明の雄型端子の成形方法は、繋ぎ部の折り返し及び切り離し工程を経るものなので、基底部および曲げ部はいずれも平坦、且つ、平行に形成されるものである。基底部および曲げ部の変形を除き相対的に平坦領域を広範に確保することを可能にし、対応する雌型端子との接続信頼性が高められている。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、基底部および曲げ部の自由端の倒れ込みや、中央部の陥没が生じず、基底部および曲げ部の変形を除き相対的に平坦領域を広範に確保することで、対応する雌型端子との接続信頼性の向上を図った雄型端子を提供することを目的とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】
図1は本実施形態の接触部を備えた雄型端子の外観斜視図である。
【
図4】
図4は本実施形態の雄型端子の展開図である。
【
図5】
図5は本実施形態の接触部の成形工程を順に示した工程図である。
【
図6】
図6は他の実施形態の雄型端子の展開図である。
【
図7】
図7は他の実施形態の雄型端子の展開図である。
【
図8】
図8は他の実施形態の接触部の断面図である。
【
図9】従来技術における雄型端子の外観斜視図である。
【
図11】従来技術における接触部の加工時の倒れ込みを示す断面図である。
【
図12】従来技術における接触部の加工時の陥没を示す断面図である。
【
図13】従来技術における接触部の3層構造の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明の実施形態を添付図面に基づいて説明するが、本発明の技術的範囲は、これらの実施形態によって限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で実施することができる。
図1は、本実施形態の接触部を備えた雄型端子の外観斜視図である。
図2は、
図1におけるII−II断面図である。
図3は、
図1におけるIII−III断面図である。
図4は、本実施形態の雄型端子の展開図である。
【0028】
本発明の実施形態に係る雄型端子1は、
図1に示されるように、展開形状に打ち抜かれた金属製薄板に、曲げや絞り等の加工を加えて得られる。雄型端子1は、軸方向に延びる板状の基底部11を共通にする接触部10、ボックス部20、及び接続部30を備えている。
【0029】
ボックス部20は、
図1に示されるように、軸方向に延びた断面四角形の筒状体で、少なくとも一面に図示しないハウジングとの係止片21を備えている。
【0030】
接続部30は、
図1に示されるように、ボックス部20の軸方向の一端に基底部11を共通にして連なる。ボックス部20に近いほうには、図示しない電線の導体部に接続する導線接続部31を備え、遠いほうには、電線の絶縁被覆部を固定する被覆接続部32を備えている。導線接続部31および被覆接続部32ともに電線に接続されるまでは電線を受け入れ易い断面U字形であり、受け入れ後は、かしめによって電線を抱えた形状になる。
【0031】
接触部10は、
図1に示されるように、ボックス部20の軸方向の他端に基底部11を共通にして連なる。接触部10は、対応する図示しない雌型端子の接触片が接触するところである。接触部10は、明確な幅(
図2及び
図3で紙面に向かって左右方向)と厚み(図
2及び
図3で紙面に向かって上下方向)を有する断面四角形の成形体である。幅は、厚みに比べて大きく接触部10の強度向上が図られている。先端は、上下にテーパー面を有し左右は尖頭状にカットされスムーズな挿入を可能にしている。後端は、ボックス部20の筒状体を構成する四面に滑らかに連なり、双方の軸芯が所定の位置関係になるよう双方の連結部は巧みに絞り加工で結ばれている。
【0032】
接触部10は、
図1、
図2、及び
図3に示されるように、基底部11、曲げ部12、及び台座部15を備えている。基底部11は、軸方向に延びる平坦な板状体であり図示しない対応する雌型端子の接触片と電気的機械的に接触する部分である。曲げ部12は、基底部11の幅方向の一側面から延出し基底部11に重なるように折り返された折り返し片である。曲げ部12は、基底部11に平行で幅方向に広がる幅広辺14と、基底部11に垂直で厚み方向に広がる厚み辺13とを備えている。幅広辺14は、基底部11に平行で平坦な板状体で、図示しない対応する雌型端子の接触片と電気的機械的に接触する部分である。厚み辺13は、接触部10に明確な厚みを与える。厚み辺13は、基底部11と、幅広辺14とを平行に繋ぎ、平行面間に所定の隙間を形成する。この隙間には、軸方向に延びる板状体の台座部15が挟持されている。
【0033】
図1の接触部のII−II断面は、
図2に示されるように、略コの字を構成する基底部11および曲げ部12と、間に挟持された台座部15とからなる。台座部15は平坦な板状体で、閉塞側の端面は厚み辺13の手前に位置し、間口側の端面は基底部11および曲げ部12の端面を結んだ仮想線よりも手前に位置する。
【0034】
台座部15は、
図2に示されるように、上記した状態で基底部11と、曲げ部12との間に挟持されている。この状態は、展開状態の薄板から完成品に至る過程で順次形成されたものである。台座部15は、曲げ部12を基底部11に折り返し、明確な厚みが確保されるように、間におかれるものである。
また、台座部15は、加工の際台座の働きを担い、従来技術で生じていた自由端の倒れや、中央部の陥没(
図11及び
図12参照)を効果的に防ぐものである。なお、本実施形態では、台座部15は、基底部11および曲げ部12と一体的に形成され同じ板厚みを有するものであるが、もちろん、台座部15の厚みを変えることで接触部10の厚みを望みの厚みに変えてもよい。
【0035】
台座部15は、
図2に示されるように、閉塞側の一端面が厚み辺13の手前に位置し、また間口側の他端面が基底部11および曲げ部12の端面を結んだ仮想線よりも手前に位置する。このように台座部15は、接触部10の外郭内に収まることで加工段階や完成品状態で生じるおそれのある不具合が効果的に防がれている。つまり、閉塞側の台座部15の一端面が厚み辺13の手前に位置することで、曲げ部12の折り返しの際、内壁が台座部15に干渉することがなく、また間口側の台座部15の他端面が基底部11および幅広辺14の端面を結んだ仮想線よりも手前に位置することで、組立精度等のバラツキが特定方向に偏って集積された場合でも台座部15の他端面が仮想線からはみだすおそれは回避されている。
【0036】
図1の接触部のIII−III断面は、
図3に示されるように、略コの字を構成する基底部11および曲げ部12と、間に挟持された台座部15とを備える。台座部15は、平坦な板状体で、閉塞側の一端面は、厚み辺13に向かって手前に位置する。開口側の他端面は、間口側に延び基底部11および曲げ部12の端面を結んだ仮想線上に位置する。台座部15は、ほぼIII−III断面周辺の側面で、
図4に示されるように、繋ぎ部16を介して基底部11につながっている。
また、台座部15は、基底部11と曲げ部12との間に挟持される全長に亘って基底部11および曲げ部12から強い加圧を受けて固定されている。強い加圧は、曲げ部12を
折り返し断面コの字を形成した後、前記台座部15の全長に亘る加圧によって与えられる。このように、台座部15は、全長に亘って基底部11および曲げ部12によって加圧固定されているので挟持部から脱落するおそれは回避されている。更に台座部15後端は、ボックス部20側の筒内に延びた状態で周囲が壁で囲われているので、脱落するおそれは二重三重に回避されている。
【0037】
〔成形方法〕
図4、
図5を参照しつつ接触部の成形方法について説明する。
図4は本実施形態の雄型端子の展開図である。
図5は本実施形態の接触部の成形工程を順に示した工程図である。
図4に示されるように、金属製薄板を金型で打ち抜いた展開形状で基底部11を形成する予定部の幅方向の一側面後端から幅細の繋ぎ部16が延出する。繋ぎ部16の先端は、台座部15を形成する予定部の側面後端につながっている。展開形状で基底部11を形成する予定部の幅方向の他側面には、曲げ部12を形成する予定部が延出している。基底部11を形成する予定部を共通にして、ボックス部20を形成する予定部、及び接続部30を形成する予定部が軸方向に連なる。後端は、キャリア40に連なっている。キャリア40は、製造工程のハンドリングに必要な把持部であって完成品では除去されている。台座部15になる予定部は、繋ぎ部16で本体(雄型端子1になる予定部)と一体的に形成され、且つ、平行位置に据えられ張出し量も少なくピッチ間に収められているので、台座部15を設けることによる材料コストの上昇分はなく、むしろ材料歩留まりの向上が達成されている。
【0038】
接触部10の成形工程は、
図5に示されるように、繋ぎ部16を中央で折り返し、台座部15を形成する予定部の表面が基底部11を形成する予定部の表面に重ね合わされる第1工程、重ね合わされた台座部15を形成する予定部の裏面に曲げ部12を形成する予定部を重ね合わせる第2工程、余分になった繋ぎ部16を切り離す第3工程、及び曲げ部12の形成で生じた変形を矯正し平坦にする第4工程を有している。
【0039】
第1工程で、台座部15になる予定部は、繋ぎ部16を介して基底部11になる予定部の面上に重ね合わされる。繋ぎ部16は、基底部11を形成する予定部の後方側面の一部から延出したもので、しかも、折り返し箇所は基底部11を形成する予定部の側面から離れた箇所である。その結果、折り返しによる変形等の影響は基底部11および台座部15ともに受けることはない。つまり、台座部15は、基底部11面上に無理なく平坦に、且つ、平行に重ね合わされるものである。
【0040】
第2工程で、曲げ部12を形成する予定部が折り返されて台座部15を形成する予定部が基底部11を形成する予定部との間に挟持される状態がつくられる。このとき加圧は、台座部15を挟持する方向(紙面上の上下方向)に加わる。平坦な台座部15を挟持しながら加圧されるので、加圧された基底部11および曲げ部12の加圧面は、平坦にならされ、且つ、基底部11および幅広辺14は平行に形成される。このとき、折り返しによる曲げは厚み辺13に形成されている。なお、台座部15を固定するための加圧はこの後おこなわれる。
【0041】
第3工程で、第1工程で折り返された繋ぎ部16は、基底部11を形成する予定部および台座部15を形成する予定部の側面から切り離される。必要な切り離し領域は側面の一部の狭い範囲であり、大きな加圧を要しない。切断面はシャープであり、ほぼ垂直にカットされる。
【0042】
第4工程で、第2工程で形成された厚み辺13の曲げが矯正される。矯正方法はプレス成形である。加圧面以外の面は金型でホールドされ、厚み辺13を横方向から加圧する。加圧によって厚み辺は平坦になる。このとき、従来技術では生じていた自由端の倒れ込みや
、中央部の陥没は、基底部11と、曲げ部12との間に台座部15が載置されているため生じない。
【0043】
このようにして成形された接触部10は、基底部11および曲げ部12の自由端の倒れ込みや、中央部の陥没が生じず、基底部11および曲げ部12の変形が除かれ相対的に平坦領域が広範に確保されている。その結果、対応する雌型端子との接続信頼性の向上が図られている。更に、曲率の大きな曲げによってめっき層にクラックが発生することで、母材金属に腐食や欠陥等の耐久性を損なう不具合が生じる問題も変形箇所を切り離すことで解決されている。
【0044】
繋ぎ部は、展開状態の雄型端子の接触部を形成する予定部と、台座部を形成する予定部とを連結するものである。繋ぎ部は、完成された製品には不要な部分であり、最終的には本体から切り離される。このように最終的には本体から切り離される繋ぎ部を着想することが本発明を想到する端緒となった。雌型端子に電気的機械的に接続する部分は、その信頼性を確保する観点から平坦領域が広範に亘ることが望まれる。この望ましい状態を実現するために、本体とは切り離される部材を準備し、加工時に生じる不具合をそこに集約することで、将来不具合が生じるおそれのある部分を一切製品から切り離すことを可能にした。
【0045】
〔作用効果〕
このようにして形成された接触部は、(1)基底部及び曲げ部の自由端の倒れ込みや中央部の陥没が生じることがなく、基底部および曲げ部は平坦、且つ、平行に形成されている。
また、(2)基底部および幅広辺はほぼ平行で、曲げ領域が除かれることで平坦領域が従来技術に比べて拡大され、対応する雌型端子の接触片との接続信頼性が高められている。
【0046】
更に、(3)曲げ領域が除かれているので、曲げによって生じるめっき層のクラック発生のおそれも軽減され、結果、母材金属の腐食等がほぼ回避されている。
更に、(4)台座部は、基底部および曲げ部間に挟持され、全長に亘って加圧固定されているので、台座部が基底部および曲げ部間の隙間から脱落するおそれはほぼ回避されている。
更に、(5)台座部は、後端がボックス部側の筒内に延び周囲を壁で囲われた状態にあるので、一層台座部が基底部および幅広辺間の隙間から脱落するおそれは回避されている。
【0047】
更に、(6)台座部は、板厚みを容易に変えられるので、要求される接触部の厚みや幅に応じて台座部の厚みと幅を調整することが可能で、接触部の厚みや幅の市場要求の変化にすばやく対応することができる。
【0048】
更に、(7)基底部の幅方向の一側面に繋ぎ部および台座部を備えているので、材料歩留まりの向上が図られている。
【0049】
以上、本発明を実施形態に基づいて説明したが、本発明は上記実施形態に限られるものではなく、発明思想の範囲内で種々の変更が可能である。
【0050】
例えば、
図6は他の実施形態の雄型端子の展開図であるが、
図6に示されるように、繋ぎ部161が基底部を形成する予定部分11の一側面の先端付近から延出し、端部は台座部151の一側面の先端付近につながる構成であってよい。このような構成をとる実施形態であっても概ね上記した(1)から(7)の効果を奏しうる。
【0051】
更に例えば、
図7は他の実施形態の雄型端子の展開図であるが、
図7に示されるように、
繋ぎ部261が基底部を形成する予定部11の一側面の広範に亘る領域から延出し、端部は台座部を形成する予定部251の一側面の広範に亘る領域につながる構成であってよい。このような構成をとる実施形態であっても概ね上記した(1)から(7)の効果を奏しうる。
【0052】
また例えば、
図8は他の実施形態の接触部の断面図であるが、
図8に示されるように、台座部の厚みを変えて接触部の厚みを薄くしたり、厚くしたりできる。(A)は、台座部351の厚みを圧潰プレスなどによって薄くし、接触部の厚みを薄くしたものである。(B)は、台座部451を折り重ねて厚くし、接触部の厚みを厚くしたものである。このような構成をとる実施形態であっても概ね上記した(1)から(7)の効果を奏しうる。
【符号の説明】
【0053】
1 雄型端子
10 接触部
11 基底部
12 曲げ部
13 厚み辺
14 幅広辺
15 台座部
16 繋ぎ部
20 ボックス部
21 係止片
30 接続部
31 導線接続部
32 被覆接続部
40 キャリア