(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照しながら、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を適宜省略する。
【0013】
(車両用前照灯)
はじめに、本発明を適用するのに適した車両用前照灯の一態様について説明する。
図1は、本実施の形態に係る車両用前照灯の車両前後方向の断面図である。
図2は、ロービーム配光を行う状態にある灯具ユニットの斜視図である。
図3は、ハイビーム配光を行う状態にある灯具ユニットの斜視図である。
図4(a)は、シェードが
図2に示す状態にある場合のロービーム配光パターンを示す図、
図4(b)は、シェードが
図3に示す状態にある場合のハイビーム配光パターンを示す図である。
【0014】
図1に示す通り、本実施の形態に係る車両用前照灯1は、ランプボディ2と、ランプボディ2の前面開口部を覆う前面レンズ3とを備えている。ランプボディ2と前面レンズ3とで囲まれた空間は灯室Sとなる。灯室Sには、プロジェクタ型の灯具ユニット4が内蔵されている。灯具ユニット4は、エイミング機構5(正面視3か所、一部図示せず)に取り付けられることによって上下及び左右に傾動可能な状態でランプボディ2に保持される。
【0015】
灯具ユニット4は、放電バルブ6、リフレクタ7、ホルダ8、投影レンズ9、ベース10、可動型シェードユニット11などによって構成されている。
【0016】
リフレクタ7は、椀型に形成され、その内側に反射面7aを備えている。反射面7aは、車両前後方向に延びる光軸Aを中心軸とした略回転楕円面形状に形成されている。リフレクタ7の後端部には、光軸A上に放電バルブ6(メタルハライドバルブ等を使用)が取り付けられ、その光源(発光中心)6aは、リフレクタ7の第1焦点F1の近傍に配置されている。ホルダ8は、円筒状に形成され、その後端部が間に挟んだベース10とともにリフレクタ7の前端部と一体化されている。ホルダ8の前端開口部には、投影レンズ9が取り付けられている。
【0017】
次に、
図2及び
図3を参照してベース10と可動型シェードユニット11について説明する。可動型シェードユニット11は、リフレクタ7とホルダ8の間に挟持されたベース10の前面に取り付けられる。ベース10は、放電バルブ6と投影レンズ9との間に配置され、前面が光軸A(
図1参照)に垂直な板状部材から構成されている。また、ベース10は、光軸Aの方向に貫通し、リフレクタの反射光を通過させるスリット10a、エイミング機構5の固定ブラケット5aとネジ止め等によって連結するための取付け孔10b〜10e、が設けられている。ベース10の両側には、後述する可動型シェードユニット11のストッパ10f,10gが設けられ、後部には、可動型シェードユニット11の駆動源となるモータ12の取付け部10hが設けられている。
【0018】
可動型シェードユニット11は、可動型シェード13、平行リンク(14,15)、第1回動軸(16,17)、第2回動軸(18,19)によって構成される。
【0019】
本実施の形態における平行リンク(14,15)は、モータ12の駆動力を受けるモータ側リンク14と、トーションスプリング20によってモータ12の駆動力と逆方向の付勢トルクを与えられるバネ側リンク15によって構成される。
【0020】
モータ側リンク14は、中央に第1回動軸16の軸受部14a、上端部に第2回動軸18の軸受部14bを備える。またリンク14は、下端部が側方に延出した正面視略L字状に形成され、円弧状に形成された下端L字状部分14cの下面に歯部14dを備える。バネ側リンク15は、中央に第1回動軸17の軸受部15a、上端部に第2回動軸19の軸受部15bを備える。また、モータ側リンク14における軸受部(14a,14b)の中心間距離とバネ側リンク15における軸受部(15a,15b)の中心間距離は、同一となるよう各リンク(14,15)を形成する。
【0021】
第1回動軸(16,17)及び第2回動軸(18,19)は、シャフト等によって構成されている。また、第1回動軸(16,17)は、軸中心が同一の高さとなるようにベース10に取り付けられている。リンク(14,15)は、それぞれ軸受部(14a,15a)を介して、第1回動軸(16,17)に対して回動可能な状態で取り付けられることにより、ベース10に支持される。
【0022】
一方、第2回動軸(18,19)は、軸の中心間距離が第1回動軸(16,17)の軸の中心間距離と同一になるように可動型シェード13に取り付けられている。リンク(14,15)は、それぞれ軸受部(14b,15b)を介して、回動可能な状態で第2回動軸(18,19)に取り付けられることにより、可動型シェード13を支持する。なお、可動型シェード13における第2回動軸(18,19)の取付け位置は、リンク(14,15)を取り付けた際に可動型シェード13の上端縁、すなわち水平カットオフライン形成部(13a,13b)が水平を保つ位置となっている。
【0023】
以上の構成により、モータ側リンク14とバネ側リンク15は、いずれか一方が第1回動軸を中心に回動すると、リンク間を平行に保ちつつ他方が第1回動軸を中心に回動する平行リンクとして機能する。そして、平行リンク(14,15)は、可動型シェード13の水平カットオフライン形成部(13a,13b)を水平に保ちつつ、光軸Aに対して略垂直に昇降させる。
【0024】
一方、平行リンク(14,15)は、モータ12とトーションスプリング20を駆動源として回動する。ベース10の後方に取り付けられたモータ12は、モータ回転軸(図示せず)の先端がベース10の前方に貫通し、その先端で回転する歯車12aを有する。モータ12から回転トルク(本実施の形態では、正面視時計回りD1方向の回転トルク)を受けた歯車12aは、モータ側リンク14の歯部14dと噛み合い、モータ側リンク14にトルク(本実施の形態では、正面視反時計回りD2方向の回転トルク)を与えることによってリンク14を第1回動軸16を中心として回転させ、併せてバネ側リンク15を第1回動軸17を中心として回転させる。
【0025】
トーションスプリング20は、軸受部15aの周囲に配置され、一端がベース10のバネ受け部10iに取り付けられ、他端がバネ側リンク15のバネ受け部15cに取り付けられている。弾性体であるトーションスプリング20は、モータ12によるトルクと逆方向のトルク(本実施の形態では、正面視時計回りD1方向の回転トルク)をバネ側リンク15に対して常時付勢するように取り付けられている。モータ12の駆動を停止した際には、スプリング20がバネ側リンク15を第1回動軸17を中心としてモータと逆方向に回転させ、併せてモータ側リンク14をモータと逆方向に回転させる。
【0026】
なお、前述の平行リンクは、リンク間を平行に保った状態で、可動型シェード13の水平カットオフライン形成部(13a,13b)を水平に保ちつつ、光軸Aに略垂直に昇降させるものであれば、2つのリンク(14,15)に限らず、三つ以上のリンクから構成されていてもよい。また、トーションスプリング20は、モータ側リンク14に取り付けることも可能であるが、リンク15側に取り付けることによってリンク15のガタ付きを低減させることができるため、リンク15に取り付ける方が望ましい。
【0027】
次に、配光パターン切替え時における可動型シェードユニット11の動作を説明する。本実施の形態の車両用前照灯1は、以下に示す構成により、モータ12を駆動させない場合、常にロービーム配光パターンを形成し、モータ12を駆動させると可動型シェード13が移動してハイビーム配光パターンに切り替わるものである。
【0028】
可動型シェードユニット11は、モータ12を駆動させない場合、可動型シェード13が
図2のロービーム配光パターン形成位置(初期位置:第1の位置に相当)となるように構成されている。初期位置においては、平行リンク(14,15)は、鉛直方向に向いた状態となり、可動型シェード13の水平カットオフライン形成部(13a,13b)は、可動域の最も高い位置である、リフレクタ7の第2焦点F2の近傍に位置する。ベース10の右側方には、初期位置において可動型シェード13の右端13cが当接するロービーム用ストッパ10fが前方に突出するように設けられている。
【0029】
初期位置にある可動型シェード13は、リンク(14,15)が正面視時計回りD1方向の回転トルクをスプリング20から受けることによって右端13cがストッパ10fに押し付けられる。したがって、リンク(14,15)は、初期位置の状態で回動不能に固定される。
【0030】
放電バルブ6の光源6a(リフレクタ7の第1焦点F1近傍)から出射した光は、リフレクタ7により、光軸Aに沿って第2焦点F2の近傍に反射され、投影レンズ9から車両用前照灯1の外部へ照射される。初期位置における可動型シェード13は、リフレクタ7からの反射光の一部を第2焦点F2の近傍で遮光し、
図4(a)に示すロービーム配光パターンを形成する。
図1の光線表記中、一点鎖線部分は、可動型シェード13によって遮光された反射光を示している。
図4(a)の水平カットオフラインC1は、水平カットオフライン形成部13aに対応して形成され、カットオフラインC2は、水平カットオフライン形成部13bに対応して形成された部分である。
【0031】
一方、可動型シェードユニット11は、モータ12が駆動するとリンク(14,15)が回転し、可動型シェード13を
図3に示すハイビーム配光パターンの形成位置に移動させるように構成されている。すなわち、モータ12の回転トルクがスプリング20による逆向きの付勢トルクを超えると、平行リンク(14,15)は、それぞれ正面視反時計回りD2方向に回転する。その際、可動型シェード13の水平カットオフライン形成部(13a,13b)は、水平を保ちつつ、光軸Aの近傍からリフレクタ7の反射光に干渉しない位置(ハイビーム配光パターン形成位置:第2の位置に相当)まで下降する。ベース10の左側方には、ハイビーム配光パターン形成位置において可動型シェード13の左端13dが当接するハイビーム用ストッパ10gが前方に突出するように設けられている。可動型シェードユニット11は、可動型シェード13がハイビームパターン形成位置まで移動すると、可動型シェード13の左端13dがストッパ10gに押し付けられるため、ハイビーム配光パターン形成位置で固定される。その際、リフレクタ7からの反射光は、可動型シェード13の初期位置と異なり、
図1の光線表記中の一点鎖線部分が可動型シェード13によって遮光されずに投影レンズ9から前方に出射し、
図4(b)に示すハイビーム配光パターンを形成する。
【0032】
また、リンク(14,15)は、モータ12の通電を切ると、トーションスプリング20により、第1回動軸(16,17)の周りを正面視時計回りD1方向に回転し、可動型シェード13の右端13cがロービーム用ストッパ10fに当接することによって再び初期位置で固定される。
【0033】
以上のように、本実施の形態に係る車両用前照灯1は、光源である放電バルブ6と、放電バルブ6から出射した光の一部を第1の位置において遮蔽することでロービーム配光パターンを形成するとともに、第1の位置と異なる第2の位置においてハイビーム配光パターンが形成されるように構成されている可動型シェード13と、可動型シェード13を、第1の位置から第2の位置へ向けて移動させる駆動力を発生するモータ12と、第1の位置から第2の位置へ向けて移動してきた可動型シェード13が当接することで、可動型シェード13を第2の位置で固定するためのストッパ10gと、を備える。
【0034】
また、可動型シェードユニット11は、可動型シェード13を第2の位置から第1の位置へ向けて押し戻す力を発生するトーションスプリング20を更に備えている。
【0035】
可動型シェード13は、車両前後方向ではなく光軸Aと垂直な方向にスライドするため、灯具ユニット4の奥行きを狭くでき、車両用前照灯1を車両前後方向に薄くすることができる。また、ベース10と可動型シェードユニット11は、複雑な曲げを伴わない平板部材を中心に構成した結果、比較的加工が容易で単純な構成となっている。
【0036】
なお、リンク(14,15)は、ロービームで走行する際に鉛直方向を向いているため、車両の上下振動によってリンク(14,15)が回転トルク(第1回動軸16,17周りの回転モーメント)を受けにくい。したがって、本実施の形態の車両用前照灯1は、リンク(14,15)が前記振動によって回転しにくく、ロービーム走行中の配光パターンが崩れにくい構成になっている。したがって、前述の振動によるリンク(14,15)の回転は、付勢トルクの弱いトーションスプリング20を採用しても防止することができる。したがって、モータ12は、回転トルクの小さなものを採用してもスプリング20のトルクに対抗してリンク(14,15)を回転させることができるため、本実施の形態の車両用前照灯1は、モータ12に小型のものを採用することができる。
【0037】
また、本実施の形態の可動型シェードユニット11は、車両前後方向に薄く作られているため、別の新たな可動シェードユニットを車両前後方向に重ねて配置することにより、ロービーム及びハイビーム配光以外の配光パターンを形成可能にしてもよい。その場合、可動シェードは、光軸と直交する上下方向にスライドする構成であるため、モータ12と追加した可動シェードユニットのモータは、光軸Aに対して左右対称になる位置に配置することが望ましい。
【0038】
また、本実施の形態の車両用前照灯1は、動作不良時を含めてモータ12の通電が切れた場合、可動型シェード13が必ずハイビーム配光パターン形成位置からロービーム配光パターン形成配置に戻る、フェールセーフ機能を実現する構成になっている。
【0039】
なお、本実施の形態では複数のリンクを平行リンク(14,15)としているが、前記複数のリンクは、1自由度のリンク機構であれば、平行リンク以外のリンクを採用してもよい。
【0040】
(モータの異音発生メカニズム)
本実施の形態に係る車両用前照灯1が備えるモータ12は、可動型シェード13をハイビーム配光パターン形成位置まで移動させて、機械的なストッパ10gにより回転が停止(モータロック)された状態でも、ハイビーム配光パターンを形成している間は継続的に電源が供給される。つまり、可動型シェード13をハイビーム配光パターン形成位置で固定する際には通電され続けている。そして、このモータ回転停止後の電源供給により、モータが振動して異音(高周波ノイズ)が発生することが分かった。発生した異音は、モータ電源がオフとなるまで継続する。
【0041】
このような異音発生のメカニズムを、以下に説明する。
図5(a)〜
図5(d)は、モータの各回転角度位置での動作を説明するための模式図である。
図5(a)に示すモータ30は、3個の回転子巻線32a,32b,32cのそれぞれの両端が、対応する隣接した整流子片34a,34,34c間に接続されることを示している。一対のブラシ36は、180°間隔の対向配置で、整流子片に接触している。ただし、このブラシ36は摩耗していると仮定している。
図5(a)に示す位置から矢印方向に進み、
図5(b)に示す位置で、モータの回転軸と連結している部材がストッパに当たり、モータ30がロックしたとする。この状態では、依然として電源はオンになっている。次に、
図5(c)に示すように、樹脂製ギヤ等を含む停止機構が有する弾性に基づく反力でモータはわずかに逆転する。
図5(c)の状態は、
図5(a)の状態と同じであり、
図5(d)に示すように再びトルクが上がって回転する。そして、
図5(b)と同じく、ストッパに当たりモータは再びロックする。この状態は、
図5(b)に示した状態である。そして、前述の動作を繰り返す。
【0042】
このように、電源オンの間、モータは
図5(b)、
図5(c)、
図5(d)の状態を繰り返し、磁力は変化し、モータは振動して異音を発生することになる。つまり、モータがロックして、反力で逆転するとトルクが上昇し、再度ロックするまで回転する、といった上記状態を繰り返すことになる。すなわち、モータロック時のモータ回転角度位置が、高トルク位置であると、モータはその角度位置でそのまま停止するので異音は発生しないが、モータロック時のモータ回転角度位置が低トルク位置であると反力で逆転し、モータ回転角度位置が高トルク位置に達すると再度回転する。この際、上述の理由により異音が発生する。また、整流の切り替えで発生する火花によって高周波ノイズが生じることもあり、ラジオノイズとして車両の乗員に認知されてしまう場合もある。
【0043】
図6(a)、
図6(b)、
図7(a)及び
図7(b)は、モータの角度位置の変化によるトルク上昇について説明するための模式図である。
図6(a)に示すように、3個の整流子片34a,34b,34cが互いの間にスリット38を設けて配置されている。今、
図6(a)に示すように、一対のブラシ36a,36bはそれぞれ、異なる整流子片34a,34bの上に位置している。一対のブラシ36a,36bの間には、直列接続された2つの巻線32a,32bと、別の1つの巻線32cが並列接続されることになる。
図6(b)は、この状態を示す等価回路図であり、各巻線抵抗をRとすると、2つのブラシ間の合成抵抗は、2/3Rとなる。
【0044】
次に、モータが
図7(a)に示す状態まで回転したとする。このとき、対向配置されている一方のブラシ36aが、2つの整流子片34a,34cの間のスリット38の上に位置しているとする。このとき、ブラシ36aが摩耗していると、1つの巻線32bは、このブラシ36aによって短絡されているので、一対のブラシ36a,36bの間には、2つの巻線が並列接続された状態にある。
図7(b)は、この状態を示す等価回路図である。各巻線抵抗をRとすると、2つのブラシ間の合成抵抗は、1/2Rとなる。このように、
図7(a)に示すモータの角度位置の方が、
図6(a)に示すモータの角度位置よりも、2つのブラシ間の合成抵抗は小さく、逆に、流れる電流、すなわちトルクは大きい。
【0045】
モータがストッパでロックした時、一方のブラシが2つの整流子片の間のスリットの上に位置していると、大きなトルクが発生して逆転は起こり難いのに対して、モータがストッパでロックした後の反力で逆転した時、一方のブラシが2つの整流子片の間のスリットの上に位置していると、大きなトルクで、再び回転を始めることになる。反力で逆転した時のブラシ位置が、整流子片の間のスリットの上になければ、トルクは上がらず異音は発生しない。しかし、モータがストッパでロックした時、あるいは反力で逆転した時のブラシ位置は、確率的なものであり、ロックした時に整流子間のスリットの上に位置させ、あるいは逆転時に整流子片間のスリットの上を避けるようにモータ回転を制御することは事実上困難である。
【0046】
そこで、このような知見に基づいて、本実施の形態に係る車両用前照灯に適したモータを考案した。
【0047】
図8は、本実施の形態に係るモータ12の概略構成を示す部分断面図である。以下の説明において、2極(一対)の固定子磁極(マグネット40)及び3極の回転子磁極42を有するモータを例に挙げるが、本発明は、4極(二対)の固定子磁極及び6極の回転子磁極を有するモータに対しても適用することができる。この場合、例示した角度を、1/2倍することにより、4極の固定子磁極及び6極の回転子磁極を有するモータにも当てはまる。言い換えると、以下に例示する角度は、固定子磁極対数当たりの角度を示している。金属材料により有底中空筒状に形成されたケース44の内周面には、偶数極(例えば2極)の対構成のマグネット40が取り付けられている。このケース44の開口部は、絶縁材料で成形された(合成樹脂製)エンドベル(ケース蓋)46が嵌着されており、これによってケース44の内部が封止される。エンドベル46の中央部には、モータシャフト48を回転可能に支持する軸受50が収容されている。
【0048】
モータシャフト48の他端は、有底中空筒状のケース44の底部中央に設けられた軸受52によって支持されている。このモータシャフト48には、積層コア上に巻線を巻回することにより構成される回転子磁極42と、整流子54とが固定されており、モータシャフト48、回転子磁極42及び整流子54により有ブラシモータの回転子を構成している。そして、この整流子54に接触する一対のカーボンブラシ56のそれぞれは、エンドベル46に固定されているブラシ装置に取り付けられている。
【0049】
図9(a)は、有ブラシモータのエンドベルの一例を内部側から見た図、
図9(b)は、一方のブラシ及びブラシアームを取り出して示した図である。図示のエンドベルが嵌着されるケースの内周面に取り付けられる2極のマグネットは、
図9(a)の水平方向に配置されている。図示したように、ブラシ装置は、整流子(不図示)に摺動接触する一対のカーボンブラシ56と、これをそれぞれ圧入保持する一対のブラシアーム(支持手段)58と、このブラシアーム58とかしめ等により結合された一対のブラシベース60と、このブラシベースと接続(あるいは一体形成)されている一対のリセプタクル端子62とから構成される。ただし、図示の例においては、一方のリセプタクル端子62とカーボンブラシ56との間に直列に、PTC(正特性サーミスタ)64のような過電流を検出して焼損を防止する素子が接続されるものとして例示している。
【0050】
カーボンブラシ56は、適度なブラシ圧を得るためにバネ性を有するブラシアーム58に取り付けて、回転子の整流子54に摺動するように構成されている。このような構成のブラシ装置は、合成樹脂製のエンドベル46において、それと一体に形成された柱状部により限定される凹所内に圧入保持される。このブラシ装置への電源供給は、一対の外部端子を、外部端子挿入口66を介してエンドベルの外部より挿入して、一対のリセプタクル端子62のそれぞれに電気的に接触させることにより行われる。
【0051】
図示のカーボンブラシ56は、
図9(b)中に矢印で示すように、ブラシが摺接する整流子の径方向Xとそれと直角の接線方向Yの2方向に移動可能に取り付けられている。これを可能にするために、ブラシアーム58は、その根本側に曲げ加工部(湾曲部68)を有している。すなわち、ブラシアーム58は、ブラシベース先端部70との固定(例えば、カシメ固定)側において、上記径方向Xと同一方向に略平行にして取り付け、その方向に所定距離だけ伸ばした後(
図9(b)中に延長部72として図示)、その固定部とは離れた位置で曲げ加工により形成した湾曲部68において、カーボンブラシ56方向に略直角に折り曲げられる。
【0052】
本実施の形態に係る整流子54は、回転子磁極に対するスリットの位置が中性位置よりも遅角側にずれた状態でモータシャフト48に固定されており、モータの整流が遅角側で行われることになる。つまり、モータ12は、モータ整流位相が遅角となるように構成されている。
【0053】
図10は、モータの整流位相が遅角の場合のトルクリップルを模式的に示した図である。横軸は、時間(角度)を示し、縦軸は発生トルクを示している。モータの整流位相が遅角の場合、
図10に示すように、整流の切替えのタイミングに近付くにつれて、モータのトルクは大きく低下し、整流の切替えの直後にトルクが急激に増大する傾向がある。
【0054】
図5を参照して前述したように、確率的に決まることであるが、モータがストッパでロックした後の反力で逆転した時、摩耗したブラシの一方が2つの整流子片の間のスリットの上に位置していると、トルクの大きさによっては、再び回転を始めることになる。しかし、このような場合であっても、モータの整流位相を上述のように設定することにより、発生トルクの上昇を抑えることができる。
【0055】
周知のように、モータ巻線には、一定値の電源電圧と、逆起電力との差電圧が印加される。ブラシが第1の整流子片に接触し始めるとき、逆起電力が低いために、実質的に大きな電圧がモータ巻線に印加される。しかし、モータ巻線はインダクタンスを有しているために、電流は、所定の時定数で立ち上がることになる。立ち上がった後の電流は、逆起電力が大きくなるにつれて低下する。トルクもまた電流に比例して低下することになる。そして、ブラシ接触線が、整流子片間のスリットに到達すると、第1の整流子片を介しての電流はオフとなり、次の第2の整流子片に対して接触をし始め、また、同様な経過をたどる。
【0056】
しかしながら、
図10に示すように、整流位相が遅角のモータがストッパでロックされた際の反力で逆転し、回転位置が戻された時、トルク上昇は生じるが、その上昇幅は小さく、発生トルクの大きさ自体も小さい。このように、遅角で整流作用が行われているモータの場合には、モータがストッパでロックした後の反力で逆転した時、一方のブラシが2つの整流子片の間のスリットの上に位置しているような状況であっても、発生トルクは小さく、それゆえに、再び回転を始めることにはならない。
【0057】
そこで、本実施の形態に係る車両用前照灯1に用いるモータ12は、供給された電力により発生する駆動力で可動型シェード13を第2の位置(ハイビーム配光パターン形成位置)へ向けて移動させて固定する場合には、モータ位相が遅角となるように構成されている。
【0058】
そのため、可動型シェード13がストッパ10gに当接し、整流が切り替わる回転位置近傍でモータ12がロックした場合、その際の反力でモータが逆転しても、モータ整流位相が進角となるモータと比べて、発生するトルクの大きさが小さく、また、その変動幅も小さい。そのため、再度モータが回転する可能性が小さく、モータのロックと再回転とが繰り返されることにより発生するモータの振動(異音)や高周波ノイズの発生を抑制することができる。
【0059】
なお、本実施の形態に係るモータ12は、トーションスプリング20が発生する力に逆らって可動型シェード13をハイビーム配光パターン形成位置へ向けて移動させることができる大きさの駆動力(トルク)を発生できるように構成されている。これにより、モータ12を駆動しなくても可動型シェード13がロービーム配光パターン形成位置へ戻れるため、モータ12の設計は一方向の回転を考慮すればよく、所定の回転方向においてモータ整流位相が遅角となるモータの設計が容易となる。
【0060】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。これら実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組合せにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。