(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745457
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】転圧ドラム
(51)【国際特許分類】
E01C 19/26 20060101AFI20150618BHJP
E01C 19/28 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
E01C19/26
E01C19/28
【請求項の数】4
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-105260(P2012-105260)
(22)【出願日】2012年5月2日
(65)【公開番号】特開2013-234421(P2013-234421A)
(43)【公開日】2013年11月21日
【審査請求日】2014年9月11日
(73)【特許権者】
【識別番号】000005522
【氏名又は名称】日立建機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090022
【弁理士】
【氏名又は名称】長門 侃二
(72)【発明者】
【氏名】関 誠治
(72)【発明者】
【氏名】早坂 喜憲
(72)【発明者】
【氏名】阿部 浩
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 正和
【審査官】
神尾 寧
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭64−71907(JP,A)
【文献】
特開平4−146303(JP,A)
【文献】
米国特許第4568218(US,A)
【文献】
実開平6−299511(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 19/26
E01C 19/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体フレームに対して左右が防振ゴムを介して取付けられる転圧ドラムであって、
路面に接しながら回転する略円筒形状のロール体と、
該ロール体の左右両側にそれぞれ配設されて周側面が前記ロール体の内側に溶接された略円板形状の第1及び第2の仕切壁と、
該第1及び第2の仕切壁に両端がそれぞれ密着し、前記ロール体と同心円からなる略円筒形状の内壁と、
前記第1の仕切壁を貫通し、モータにより回転する回転軸と、
前記第2の仕切壁に形成され、前記回転軸の端部を軸支する軸受けと
を備え、
前記第1及び第2の仕切壁並びに前記内壁は鋳鋼にて一体的に形成され、
前記第1の仕切壁と第2の仕切壁の一方又は双方には重心調整部が形成され、前記第1の仕切壁と第2の仕切壁とは、転圧ドラムの左右方向における重心が中央に位置するようにそれぞれ形状が異なっていることを特徴とする転圧ドラム。
【請求項2】
前記重心調整部は、前記ロール体の内面に沿って延びるリブであることを特徴とする請求項1に記載の転圧ドラム。
【請求項3】
前記重心調整部は、前記第1又は第2の仕切壁が厚み方向に増加された部分であることを特徴とする請求項1又は2に記載の転圧ドラム。
【請求項4】
前記第1及び第2の仕切壁並びに前記内壁にて形成される空間内には前記回転軸を円滑に回転させるための潤滑油が貯留され、
前記重心調整部は、前記内壁の内側に向かって突出し、長手方向に沿って徐々に突出長さが長くなるように傾斜して延びる傾斜リブであることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の転圧ドラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、路面や路盤を締め固めるための転圧ドラムに関する。
【背景技術】
【0002】
路面や路盤を締め固めるための転圧機械では、その前輪又は後輪を兼用する転圧ドラムが用いられている。一般にドラム単品の構造物は板組構造であり、接合部分は溶接されている。すなわち、金属製の板材を湾曲させて端縁同士を溶接してロール状にしている。さらに、ドラム内部の仕切壁等も溶接により接合されているため、ドラムを形成するに際しての溶接箇所や部品点数が多く、製造時間がかかり、コスト的にも高価である。
【0003】
また、転圧ドラムは車体フレームに対して防振ゴムを介して取付けられているが、この防振ゴムによって車体フレームと分離される部分である転圧ドラム(ばね下)の重心が左右方向において中央からずれていると、転圧機械の挙動が不安定になるため、ドラムの重心は中央であることが好ましい。
【0004】
また、ドラム内に貯留された潤滑油は、転圧機械を使用中であっても万遍なく全体に行き渡るようにすることが好ましい。特許文献1ではドラム内部に軸受けの潤滑性向上のため、オイル攪拌用の油掻き寄せ手段を設けている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平11−6111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1の構造では、やはり部品点数が向上し、製造時間がかかってしまう。部品点数を減少させ、製造性を容易にして、かつドラムの重心を中央に位置させることができればなお好ましい。
【0007】
本発明は、上記従来技術を考慮したものであり、部品点数を減少させて製造性を向上させ、容易にドラムの重心を中央に位置することができ、ドラムの補強や潤滑油の攪拌性能までも向上させた転圧ドラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するため、本発明では、車体フレームに対して左右が防振ゴムを介して取付けられる転圧ドラムであって、路面に接しながら回転する略円筒形状のロール体と、該ロール体の左右両側にそれぞれ配設されて周側面が前記ロール体の内側に溶接された略円板形状の第1及び第2の仕切壁と、該第1及び第2の仕切壁に両端がそれぞれ密着し、前記ロール体と同心円からなる略円筒形状の内壁と、前記第1の仕切壁を貫通し、モータにより回転する回転軸と、前記第2の仕切壁に形成され、前記回転軸の端部を軸支する軸受けとを備え、前記第1及び第2の仕切壁並びに前記内壁は鋳鋼にて一体的に形成され、前記第1の仕切壁と第2の仕切壁の一方又は双方には重心調整部が形成され、前記第1の仕切壁と第2の仕切壁とは、転圧ドラムの左右方向における重心が中央に位置するようにそれぞれ形状が異なっていることを特徴とする転圧ドラムを提供する。
【0009】
好ましくは、前記重心調整部は、前記ロール体の内面に沿って延びるリブである。
好ましくは、前記重心調整部は、前記第1又は第2の仕切壁が厚み方向に増加された部分である。
【0010】
好ましくは、前記第1及び第2の仕切壁並びに前記内壁にて形成される空間内には前記回転軸を円滑に回転させるための潤滑油が貯留され、前記重心調整部は、前記内壁の内側に向かって突出し、長手方向に沿って徐々に突出長さが長くなるように傾斜して延びる傾斜リブである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、第1及び第2の仕切壁並びに内壁は鋳鋼にて一体的に形成されているので、ロール体の内部構造物を型を用いて一体的に製造することができる。したがって、部品点数が減少し、溶接箇所も少なくなるので製造性が向上する。また、第1の仕切壁と第2の仕切壁の一方又は双方には重心調整部が形成され、前記第1の仕切壁と第2の仕切壁とは、転圧ドラムの左右方向における重心が中央に位置するようにそれぞれ形状が異なっている。このため、転圧ドラムの重心位置が中央となり、転圧機械使用時の挙動が安定する。
【0012】
また、重心調整部をロール体の内面に沿って延びるリブとして形成することで、第1の仕切壁と第2の仕切壁との形状を異ならせて転圧ドラムの重心を中央にすることができるとともに、ロール体の端縁近傍における補強効果も得ることができ、結果として転圧ドラムの寿命を延ばすことができる。
【0013】
また、重心調整部を第1又は第2の仕切壁が厚み方向に増加された部分とすれば、それぞれの仕切壁の厚みを変更するだけの簡単な設計で転圧ドラムの重心を中央にすることができる。
【0014】
また、重心調整部を内壁の内側に向かって突出し、長手方向に沿って傾斜して延びる傾斜リブとすれば、第1及び第2の仕切壁と内壁によって囲まれた空間の体積を減少させることができるので、空間内に貯留される潤滑油の油量を少量にすることができる。また、傾斜リブは徐々に突出長さがなくなるように傾斜しているので、転圧機械を使用時に転圧機械が左右方向に傾いた場合でも、傾斜リブの頂面を伝って潤滑油が傾斜上側の回転軸の部位にも確実に給油される。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】本発明に係る転圧ドラムが車体フレームに取付けられた状態の概略断面図である。
【
図3】本発明に係る転圧ドラムの概略縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る転圧ドラムを用いた転圧機械の一実施例としての振動車両について図面を参照して説明する。
図1を参照すると、転圧機械の一種である振動車両1は、車体フレームとしてのフロントフレーム2及びリアフレーム3を備え、リアフレーム3はその後部に左右一対の後輪5を有する。一方、フロントフレーム2は前輪を兼用する転圧ドラム4を有し、この転圧ドラム4はフロントフレーム2に回転可能に軸支されている。なお、フロント及びリアフレーム2、3は連結部材としてのステアリングリンク12を介して関節方式により互いに連結されている。
【0017】
リアフレーム3の上部には運転室10が設けられており、この運転室10はキャブ型に形成されている。また、運転室10内には、ハンドル、前後進操作レバー、パーキングスイッチ及び計器類等(不図示)が配置されている。作業者は、リアフレーム3の側面に形成されたステップ(不図示)を用いて運転室10に乗り降りすることができる。また、この運転室10の後方にはエンジン(不図示)が配置され、このエンジンは開閉可能なエンジンカバー9により覆われている。更に、リアフレーム3の後端にはタンク装置(不図示)が配置され、このタンク装置は、燃料タンク及び作動油タンクから構成されている。エンジンの近傍には油圧ポンプ及びチャージポンプが配置されている(不図示)。これらポンプはそれぞれエンジンにより駆動され、転圧ドラム4及び後輪5を回転させる走行モータ等の油圧機器に向け、作動油タンク内から吸い上げた作動油を供給する。なお、タンク装置に含まれる燃料タンクはエンジンの燃料を蓄えている。
【0018】
図2を参照すれば、本発明に係る転圧ドラム4は、車体フレームであるフロントフレーム2に対して左右が防振ゴム6を介して取付けられている。すなわち、転圧ドラム4を構成する部材であるか否かは、防振ゴム6を介して車体フレームと分離できる部分であるか否かにより決定される。詳述すると、フロントフレーム2は転圧ドラム4に対して左右に配され、それぞれ右フレーム2a及び左フレーム2bを有している。右フレーム2aには、ボルト11を介して右ブラケット7aが取付けられている。右ブラケット7aには、ボルト11を介して走行モータユニット8が取付けられている。走行モータユニット8は、油圧モータと減速機(不図示)にて構成されている。走行モータユニット8は、右ブラケット7aに取付けられた側と反対側にて、プレート13とボルト11を介して取付けられている。このプレート13は走行モータユニット8が有するモータの回転力を、防振ゴム6を介して転圧ドラム4に伝えるものである。すなわち、略円筒形状のロール体21が路面に接しながら回転する。防振ゴム6は、例えば6個プレート13に取付けられている。
【0019】
左フレーム2bには、ボルト11を介して左ブラケット7bが取付けられている。左ブラケット7bは、防振ゴム6を介して転圧ドラム4の一部であるブラケット14と接続されている。ブラケット14にはベアリング15が設けられていて、このベアリング15により走行モータユニット8による転圧ドラム4の回転が許容されている。ブラケット14にはさらに振動モータ16が取付けられている。振動モータ16は、転圧ドラム4に起振力を発生させるための油圧モータである。具体的には、振動モータ16の回転をソケット17を介して回転軸18に伝える。ソケット17はスプライン構造である。回転軸18の両端は、それぞれ軸受けベアリング19a、19bにて軸支されている。振動モータ16により、回転軸18は2000rpm〜3000rpmで回転する。回転軸18にはウエイト25がボルト11にて取付けられている。
【0020】
軸受けベアリング19a、19bは、それぞれ軸受けケース20a、20bに備わっている。ここで、上述したロール体21の左右両側には第1及び第2の仕切壁22、23が配設されている。第1及び第2の仕切壁22、23は、それぞれその周側面がロール体21の内側に溶接されて固定されている。軸受けケース20aは第2の仕切壁23にボルト11を介して取付けられ、軸受けケース20bは第1の仕切壁22にボルト11を介して取付けられている。したがって、軸受けケース20bを挿通される回転軸18は、第1の仕切壁22を貫通している。また、第2の仕切壁23は、軸受けケース20aを介して回転軸18の端部を軸支している。第1の仕切壁22と第2の仕切壁23は、ロール体21と同心円からなる略円筒形状の内壁24にて接続されている。すなわち、内壁24の両端は第1及び第2の仕切壁22、23にそれぞれ密着している。
【0021】
第1及び第2の仕切壁22、23並びに内壁24にて形成される空間内には回転軸18を円滑に回転させるための潤滑油26が貯留されている。この潤滑油26は冷却のためにも使用される。潤滑油26は、第2の仕切壁23を貫通して設けられたドレンプラグ27を用いて注入又はドレンされる。
【0022】
本発明に係る転圧ドラム4において、第1及び第2の仕切壁22、23並びに内壁24は鋳鋼にて一体的に形成されている。すなわち、これら第1及び第2の仕切壁22、23並びに内壁24で形成された内部構造物は、型を用いて一体的に製造することができる。したがって、部品点数が減少し、溶接箇所も少なくなるので製造性が向上する。実際には、小型振動ローラの場合、溶接量で約30%低減、段取り(ひずみ取り含む)を含めると半分以下の工数低減が見込める。
【0023】
また、本発明に係る転圧ドラム4では、第1の仕切壁と第2の仕切壁の一方又は双方には重心調整部が形成されている。具体的には、重心調整部があることにより、第1の仕切壁と第2の仕切壁22、23は、転圧ドラム4の左右方向における重心が中央に位置するようにそれぞれ形状が異なっている。このような重心調整部があることで、転圧ドラムの重心位置が中央となり、転圧機械使用時の挙動が安定する。以下、重心調整部の例について
図3を用いて説明する。
【0024】
重心調整部は、例えばロール体21の内面に沿って延びるリブである。
図3の例では、第2の仕切壁23に形成されたリブ28aの方が、第1の仕切壁22に形成されたリブ28bよりも長い。
図3の例における転圧ドラム4は、振動モータ16があるため、第1の仕切壁22側に重心が偏っている。このため、リブ28aを長くすることで、転圧ドラム4の重心を中央に位置させている。また、このようなリブ28a、28bをロール体21の内面に沿わせて形成することで、ロール体21の端部における補強の効果も期待できる。すなわち、重心調整部をロール体21の内面に沿って延びるリブ28a、28bとして形成することで、第1の仕切壁22と第2の仕切壁23との形状を異ならせて転圧ドラム4の重心を中央にすることができるとともに、ロール体の端縁近傍における補強効果も得ることができ、結果として転圧ドラムの寿命を延ばすことができる。
【0025】
他の重心調整部として、第1又は第2の仕切壁22、23が厚み方向に増加された部分としてもよい。すなわち、第1の仕切壁22と第2の仕切壁23との厚みを異なるように形成してもよい(
図3では、第2の仕切壁23の方が厚い)。このように重心調整部を形成すれば、それぞれの仕切壁22、23の厚みを変更するだけの簡単な設計で転圧ドラム4の重心を中央にすることができる。
【0026】
他の重心調整部として、内壁24の内側に向かって突出する傾斜リブ29としてもよい。このように内壁24の内側に向かって突出する傾斜リブ29を設けることで、第1及び第2の仕切壁22、23と内壁24によって囲まれた空間の体積を減少させることができる。このため、この空間内に貯留される潤滑油26の油量を少量にすることができる。傾斜リブ29は、内壁24の長手方向に沿って徐々に突出長さが長くなるように傾斜して延びている。このように傾斜リブ29を徐々に突出長さがなくなるように傾斜させれば、転圧機械を使用時に転圧機械が左右方向に傾いた場合でも、傾斜リブ29の頂面を伝って潤滑油26が傾斜上側の回転軸18の部位にも確実に給油される。例えば、
図3において転圧機械が振動モータ16側が下になるように傾いたとしても、傾斜リブ29の頂面は少なくとも略水平となるので、この頂面を伝って潤滑油26は軸受けケース20a側の端部における回転軸18にまで給油される。なお、傾斜リブ29は、
図4に示すように、少なくとも内壁24内に90°間隔で4つ設けられる。
上述した重心調整部の各例は、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【符号の説明】
【0027】
1 振動車輌
2 フロントフレーム
2a 右フレーム
2b 左フレーム
3 リアフレーム
4 転圧ドラム
5 後輪
6 防振ゴム
7a 右ブラケット
7b 左ブラケット
8 走行モータユニット
9 エンジンカバー
10 運転室
11 ボルト
12 ステアリングリンク
13 プレート
14 ブラケット
15 ベアリング
16 振動モータ
17 ソケット
18 回転軸
19a 軸受けベアリング
19b 軸受けベアリング
20a 軸受けケース
20b 軸受けケース
21 ロール体
22 第1の仕切壁
23 第2の仕切壁
24 内壁
25 ウエイト
26 潤滑油
27 ドレンプラグ
28a リブ
28b リブ
29 傾斜リブ