(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
回転軸を磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、回転軸、及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することを特徴とする請求項1記載のころがり軸受。
回転軸を磁性材料又は非磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することを特徴とする請求項1記載のころがり軸受。
ヨークの断面形状がL字状であって、該L字状の垂直部分が磁石に接し、水平部分は回転軸の表面に対向するように配設されることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載のころがり軸受。
リング状のヨークの磁石に面する側に膨出部を設け、該膨出部のころがり軸受の外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項記載のころがり軸受。
【背景技術】
【0002】
半導体製造装置等においては、例えば、真空ポンプによって高真空状態に保持された反応室内にウエハを配置して反応ガスを導入してCVD法等によって薄膜の形成を行なっている。反応室内でのワークの搬送は気密状態のままで行う必要があり、そのための搬送機構においては、反応室内においてワークを実際に把持するアーム部分と、反応室の外部からアーム部分に動力を伝達するための駆動機構との間が気密状態で完全に仕切られている必要がある。また、反応室の側は塵等の発生を極力抑える必要がある。このために、反応室内のアーム部分の駆動機構は摩耗粉、潤滑剤のミスト等が発生しない機構が望ましい。
【0003】
上記のような半導体製造装置等にあっては、例えば、
図10に示すような磁性流体シール装置が使用されている。この磁性流体シール装置は、一対の磁極片としてのポールピース102,103と、この一対のポールピース102,103に挟まれた磁力発生手段としての磁石104と、で構成される磁気回路形成手段を用いている。そして、ハウジング112に一対のポールピース102,103が密封性を向上させるOリング105,106を介して装着され、ポールピース102,103と磁石104と磁性流体107と磁性材製である軸111とで磁気回路を形成して、磁性流体107をポールピース102,103と軸111に形成された複数の環状突起先端との間に保持して密封対象側である真空側を真空状態に保持する密封機能を備えるものである(以下、「従来技術1」という。)。
【0004】
そして、このような磁性流体シール装置101の大気側に、軸受部としてのベアリング110が配置されている。このベアリング110は、一般にベアリング110から発生するダストが嫌われて、磁性流体シール装置101の大気側に配置される。ベアリング110には、アンギュラベアリング等が用いられ、このベアリング110の潤滑には、グリースを使用することが多い。
【0005】
しかし、上記従来技術1では、グリースは、一般にベースオイルに増稠剤を混合したものであり、多少ならずとも油分離は起こしてしまう。この状況は、温度が高くなる程顕著となり、
図10のように軸受が片持ちタイプの場合、分離したオイルがベアリング110から流れ出し、磁性流体107中に混入し、磁性流体107の劣化が生じ、耐圧性及び真空性に悪影響を及ぼし磁性流体シール装置101の寿命を短くする問題があった(以下「第1の問題」という。)。
また、分離したオイルがベアリング110から大気側に流れ出しドライ状態となることから、トルクが大きくなり、最悪の場合ベアリングが壊れることもある。さらに、軸受にグリースを足す場合には、装置を分解する必要があり煩雑な作業を強いられることになる。
一方、軸受を真空側に配置した両持ちタイプの磁性流体シール装置などにあっては、片持ちタイプと同様に第1の問題があり、さらに気泡や水分が真空中に放出され真空チャンバー内の真空の質を低下させたり、圧力変動が起こり問題視されている(以下「第2の問題」という。)。
【0006】
上記第1の問題に鑑み、大気側のポールピースの上面に、ハウジング側に下方へ凹むオイル受け部を備え、ベアリングでグリースが多少ならずとも油分離を起こし、分離したオイルがベアリングから流れ出した場合に、ベアリングの下部にあるオイル受け部に溜め、オイルが磁性流体中に混入することを防止するようにした装置が知られている(以下「従来技術2」という。例えば、特許文献1参照。)。
【0007】
また、上記第2の問題に鑑み、
図11に示すように、仕切り壁120により気密状態で仕切られた真空側と大気側との間で回転力等の動力を伝達するための回転伝達装置に関して、回転出力軸121を回転自在に支持している第1および第2のボールベアリング113、114の潤滑剤として、グリースの代わりに磁性流体を用いたものが知られている(以下「従来技術3」という。例えば、特許文献2参照。)。この従来技術3は、第1および第2のボールベアリング113、114の外輪の間に挟まれた円環状の第1のスペーサ115と内輪の間に挟まれた円環状の第2のスペーサ116と、円環状段面122aと、ナット117とによって、第1および第2のボールベアリング113、114の外輪及び内輪の軸線方向の位置を規定し、磁気回路を構成するために、第1のスペーサ115はフェライト系あるいはマルテンサイト系ステンレス等の強磁性体から形成し、また、軸線方向の端がN極、S極となるように着磁し、さらに、回転出力軸121の少なくとも軸部分122は磁性体から形成し、これに加えて、ボールベアリング113、114も一般的に使用されている金属製の磁性体とし、第2のスペーサ116を非磁性体とし、ボールベアリング113、114の接触部分の周囲を磁性流体で覆われた状態に形成するようにしたものである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記従来技術2においては、オイルの混入が防止された磁性流体には劣化が生じず、耐圧性及び真空性に影響が及ばず、磁性流体シール装置の長寿命化が図れるという効果はあるが、真空中の場合、オイル受け部に溜められたオイルに含まれている気泡や水分が真空中に放出され真空チャンバー内の真空の質を低下させるという問題があった。
また、上記従来技術3のように、磁石を用いた磁気回路により潤滑性磁性流体を固定するものではボールベアリングの接触部分で発生する微小な摩耗粉等のパーティクルが少なくなると期待されていたが、実際に試験してみると、
図8および9に示すように、潤滑剤としてグリースを用いた場合に比べてパーティクル発生量がかなり多い。
ただし、この試験では、潤滑剤がグリースの場合、軸受に公知のシールドを設けてパーティクルを発生し難くしている一方、潤滑剤が磁性流体の場合、軸受にシールドを設けず、さらに磁力の弱い磁石を用いて(弱磁場)、パーティクルの発生し易い環境に設定した。
【0010】
本発明は上記のような問題を解決するためになされたものであって、ころがり軸受の潤滑剤として潤滑性磁性流体を用い、磁石を用いた磁気回路により潤滑性磁性流体を固定するものにおいて、ころがり軸受の少なくとも一側にマグネットトラップを設けることにより、ミストおよびパーティクルの発生を防止し、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の防止、または、磁性流体シール装置の劣化の防止、あるいは、グリース使用による高温時の垂れおよび高トルク化の問題の解消を図ることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述の目的を達成するために本発明のころがり軸受は、第1に、回転力等の動力を伝達するための動力伝達装置に使用されるころがり軸受において、該ころがり軸受の潤滑部を潤滑する潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するための磁石をころがり軸受の外輪の少なくとも一側に設け、さらに、該磁石の前記外輪と反対側に、磁性材料からなり、回転軸に遊嵌するリング状のヨークを設けることを特徴としている。
上記第1の特徴により、ミストおよびパーティクルの発生を防止し、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の防止、または、磁性流体シール装置の劣化の防止、あるいは、グリース使用による高温時の垂れおよび高トルク化の問題の解消を図ることができる。
【0012】
また、本発明のころがり軸受は、第2に、第1の特徴において、回転軸を磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、回転軸及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することを特徴としている。
上記第2の特徴により、磁気回路の形成が十分且つ容易にできる。
【0013】
また、本発明のころがり軸受は、第3に、第1の特徴において、回転軸を磁性材料又は非磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することを特徴としている。
上記第3の特徴により、回転軸の材料が磁性材料に限定されないという利点がある。
【0014】
また、本発明のころがり軸受は、第4に、第1乃至第3のいずれかの特徴において、ヨークの断面形状がI字状であることを特徴としている。
上記第4の特徴により、ヨークの製造が容易にできる。
【0015】
また、本発明のころがり軸受は、第5に、第1乃至第3のいずれかの特徴において、ヨークの断面形状がL字状であって、該L字状の垂直部分が磁石に接し、水平部分は回転軸の表面に対向するように配設されることを特徴としている。
また、本発明のころがり軸受は、第6に、第5の特徴において、L字状のヨークの水平部分の回転軸の表面に対向する面に凹凸部が形成されることを特徴としている。
上記第5および第6の特徴により、パーティクル等を極めて効率よくトラップすることができる。
【0016】
また、本発明のころがり軸受は、第7に、第1乃至第6のいずれかの特徴において、リング状のヨークの磁石に面する側に膨出部を設け、該膨出部のころがり軸受の外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させることを特徴としている。
上記第7の特徴により、ヨークを寸法精度良く製造すれば磁石の寸法精度を要求するまでもなく、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することができ、また、既存のころがり軸受にも容易に適用することができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明のころがり軸受は、以下のような優れた効果を奏する。
(1)ころがり軸受の潤滑部を潤滑する潤滑性磁性流体を前記潤滑部に保持するための磁石をころがり軸受の外輪の少なくとも一側に設け、さらに、該磁石の前記外輪と反対側に、磁性材料からなり、回転軸に遊嵌するリング状のヨークを設けることにより、ミストおよびパーティクルの発生を防止し、真空側の真空の質の低下及び圧力変動の防止、または、磁性流体シール装置の劣化の防止、あるいは、グリース使用による高温時の垂れおよび高トルク化の問題の解消を図ることができる。
(2)回転軸を磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、回転軸及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することにより、磁気回路の形成が十分且つ容易にできる。
(3)回転軸を磁性材料又は非磁性材料から形成し、潤滑性磁性流体を潤滑部に保持するところの磁気回路を、磁石、ヨーク、及びころがり軸受の内輪、ボール、外輪の間で形成することにより、回転軸の材料が磁性材料に限定されないという利点がある。
【0018】
(4)ヨークの断面形状をI字状とすることにより、ヨークの製造が容易にできる。
(5)ヨークの断面形状がL字状であって、該L字状の垂直部分が磁石に接し、水平部分は回転軸の表面に対向するように配設されること、および、L字状のヨークの水平部分の回転軸の表面に対向する面に凹凸部が形成されることにより、パーティクル等を極めて効率よくトラップすることができる。
(6)リング状のヨークの磁石に面する側に膨出部を設け、該膨出部のころがり軸受の外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部を円周方向に複数設け、該凹部に磁石を嵌入させることにより、ヨークを寸法精度良く製造すれば磁石の寸法精度を要求するまでもなく、簡単な構造でころがり軸受を寸法精度良く設置することができ、また、既存のころがり軸受にも容易に適用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のころがり軸受を実施するための形態を図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されて解釈されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、当業者の知識に基づいて、種々の変更、修正、改良を加えうるものである。
【0021】
〔実施の形態1〕
図1は、本発明の実施形態1に係るころがり軸受を、磁性流体シールを備えた軸受装置に適用した例を示す正面断面図であり、
図2は、本発明の実施形態1に係るころがり軸受を、磁性流体シールのない軸受装置に適用した例を示す正面断面図である。また、
図3は、本発明の実施形態1に係るころがり軸受20を説明するための正面断面図である。
図1及び
図2においては、左側が真空側、右側が大気側である場合について説明するが、本発明のころがり軸受は、両側が大気−大気、あるいは、真空−真空であっても適用できることはいうまでもない。
【0022】
図1において、軸受装置は、ハウジング2と回転軸1との間に装着されて、ハウジング2と回転軸1との間をシールするととも回転軸1を回転自在に支持するものにであって、ハウジング2内の中央部に磁性流体シール3を配置するとともに該磁性流体シール3の両側にころがり軸受20、20を配置し、該真空側のころがり軸受20の外輪21又は内輪22と磁性流体シール3との間、及び、大気側のころがり軸受20の外輪21と磁性流体シール3との間には非磁性材料からなるスペーサ4を介在させてなるものである。
【0023】
ハウジング2の内周側の左端には段部5が形成され、該段部5にころがり軸受20が当接され、右側に向かって順に、スペーサ4、磁性流体シール3、スペーサ4およびころがり軸受20が配置され、押えリング6およびボルト7により段部5に押し付けられるようにして固定される。
一方、回転軸1には、リテイニングリング8が大気側のころがり軸受20の位置に対応してに設けられ、該ころがり軸受20の内輪22を位置決めする。磁性流体シール3は、マグネット9と、その両側に配置されたポールピース10、10とより構成される。ポールピース10、10に対向する回転軸1の外周面には、複数の凸部11が形成されている。また、ポールピース10、10の外周面にはOリング12が装着され、ハウジング2の内周面との間をシールしている。
【0024】
図2の軸受装置は、ハウジング2と回転軸1との間に装着されて、ハウジング2と回転軸1との間をシールするととも回転軸1を回転自在に支持するものにであって、ハウジング2内の中央部に非磁性材料からなるスペーサ13を配置するとともに該スペーサ13の両側にころがり軸受20、20を配置したものである。ハウジング2の内周側の左端には段部5が形成され、該段部5にころがり軸受20が当接され、右側に向かって順に、スペーサ13およびころがり軸受20が配置され、押えリング6およびボルト7により段部5に押し付けられるようにして固定される。
一方、回転軸1には、大気側のころがり軸受に対応する位置にリテイニングリング8が設けられ、該のころがり軸受20の内輪22が位置決めされている。
【0025】
図1及び
図2において、本発明の実施形態1に係るころがり軸受20は、玉軸受あるいはローラ軸受等の転動体のころがりを利用した軸受であり、外輪21がハウジング2に固定され、内輪22が回転軸1に固定される。外輪21と内輪22との間にはボール23が嵌入されている。
また、真空側のころがり軸受20の外輪21の真空側側面、及び、大気側のころがり軸受20の外輪21の大気側には、それぞれ磁石24が設けられ、さらに、該それぞれの磁石24の外輪21と反対側に、磁性材料からなり、回転軸1に遊嵌するリング状のヨーク25が設けられる。
図1において、それぞれのころがり軸受20の真空側及び大気側に磁石24及びヨーク25より構成されるマグネットトラップを設けることにより真空室及び大気中にパーティクルの流出を防止することができる。
図1の場合、マグネットトラップを、それぞれのころがり軸受20の片側にしか設けていないのはマグネットトラップを設けていない側には磁性流体シール3が設けられ、磁性流体を保持しているポールピース10と回転軸1の複数の凸部11との間でパーティクルがトラップされるからである。ただし、ころがり軸受20に用いる潤滑性磁性流体と磁性流体シールの磁性流体が異なり、相互に混入を防止する必要がある場合には、それぞれのころがり軸受20の両側にマグネットトラップを設けるのが望ましい。また、
図2において、それぞれのころがり軸受20の真空側及び大気側にしかマグネットトラップを設けていないのは、2つのころがり軸受の距離が離れており、パーティクルが真空側及び大気側に流出しようとしても、両端のマグネットトラップでトラップされ流出できないからである。このように、マグネットトラップをころがり軸受20の片側あるいは両側のいずれにに設けるかは設計的に決められる事項である。
ころがり軸受20の潤滑剤としては、グリースの代わりに、潤滑性磁性流体26が用いられ、被潤滑部分に対する潤滑が行われる。被潤滑部分の潤滑を長期間に亘って適切に行うために、潤滑性磁性流体を被潤滑部分に保持するための磁気回路を形成する必要がある。
磁気回路の形成のため、本実施の形態においては回転軸1は磁性体から形成され、ころがり軸受20の外輪21、内輪22およびボール23も一般的に使用されている金属製であり、磁性体である。
【0026】
磁性流体としては、大別して、水ベース磁性流体、炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体の3種類あるが、本発明のころがり軸受20では、蒸気圧が低く、高温・高真空中において蒸発しにくい炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体を用いている。
そのため、本発明においては、炭化水素油ベース磁性流体及びふっ素油ベース磁性流体を、特に、潤滑性磁性流体と呼ぶこととする。
また、磁石24としては、例えば、金属又は磁石粉を充填した有機材料等からなる永久磁石が用いられる。
【0027】
図3は、
図1及び
図2に装着されたころがり軸受20を説明するためのものであって、(a)は、ころがり軸受の一方側に磁石24及びヨーク25からなるマグネットトラップを設けた場合の正面断面図、(b)は、ころがり軸受の両側に磁石24及びヨーク25からなるマグネットトラップを設けた場合の正面断面図である。
回転軸1は磁性体から形成され、ころがり軸受20の外輪21、内輪22およびボール23も磁性体であり、矢印で示す方向に磁気回路が形成される。すなわち、永久磁石である磁石24から、ヨーク25、回転軸1、内輪22、ボール23、外輪21を経由して再び磁石24に戻る磁気回路が形成される。このため、ボール23と外輪21との間、および、ボール23と内輪22との間には、潤滑性磁性流体26が保持される。
【0028】
ヨーク25は、回転軸1に遊嵌されるように、回転軸1の径より少し大きい内径を有するリング状をしており、その断面形状はL字状をなし、磁石24に接する部分はL字の垂直部分25−1であり、回転軸1の表面に対向する部分はL字の水平部分25−2であり、該水平部分25−2は内輪22に向かって延びている。
このヨーク25は、磁石24の真空側、すなわち、ボール23より真空側に配置されるため、ボール23の転動により磁性流体などのパーティクル等が発生しても、ヨーク25によりトラップし、真空側へのパーティクルの侵入を防止するものである。ヨーク25と回転軸1の表面との間にはわずかな間隙があり、この間隙を通ってパーティクルが真空側に侵入することが考えられるが、ヨーク25の水平部分25−2と回転軸1の表面との間には磁気回路が形成されているため、パーティクルは効率よくトラップされ、真空側に侵入することはできない。
【0029】
〔実施の形態2〕
図4は、本発明の実施形態2に係るころがり軸受20を説明するための正面断面図である。
実施形態2に係るころがり軸受20は、基本構造は実施の形態1と同じであり、
図4において、
図4と同じ符号は
図4の場合と同じ部材を指している。以下、実施の形態1と相違する部分について主に説明する。
【0030】
図4において、リング状のヨーク25は、実施の形態1と同じく断面形状はL字状をなし、磁石24に接する部分はL字の垂直部分25−1であり、回転軸1の表面に対向する部分はL字の水平部分25−2であり、該水平部分25−2は内輪22に向かって延びている。
図4(a)のものは、ヨーク25の水平部分25−2の回転軸1の表面に対向する面に鋸刃状の凹凸部27が形成されている。
また、
図4(b)のものは、ヨーク25の水平部分25−2の回転軸1の表面に対向する面に角ネジ状の凹凸部28が形成されている。
回転軸1の表面に対向する部分はL字の水平部分25−2の回転軸1の表面に対向する面に鋸刃状の凹凸部27または角ネジ状の凹凸部28が形成されることにより、効率的にパーティクルをトラップすることができる。
【0031】
〔実施の形態3〕
図5は、本発明の実施形態3に係るころがり軸受20を説明するための正面断面図である。
実施形態3に係るころがり軸受20は、基本構造は実施の形態1と同じであり、
図5において、
図4と同じ符号は
図4の場合と同じ部材を指している。
図5において、リング状のヨーク29は、その断面形状はI字状をなしている。
そのため、ヨーク29の製造が容易である。
【0032】
〔実施の形態4〕
図6は、本発明の実施形態4に係るころがり軸受20を説明するためのものであって、(a)は正面断面図、(b)は(a)のA−A断面図である。
実施形態4に係るころがり軸受20は、基本構造は実施の形態3と同じであり、
図6において、
図5と同じ符号は
図5の場合と同じ部材を指している。
図6において、リング状のヨーク30は、実施の形態3と同じくその断面形状はI字状をなしている。ヨーク30の磁石24に面する側に膨出部31を設け、該膨出部31のころがり軸受の外輪側に開口する筒状又は矩形状の凹部32を円周方向に複数設け、該凹部32にそれぞれ円筒状の磁石33を嵌入させている。
ヨーク30により磁石33を保持する構造とすることにより、ヨーク30を寸法精度良く製造すれば磁石33の寸法精度を要求するまでもなく、簡単な構造でころがり軸受20を寸法精度良く設置することができ、また、既存のころがり軸受にも容易に適用することができる。
【0033】
〔実施の形態5〕
図7は、本発明の実施形態5に係るころがり軸受20を説明するための正面断面図である。
実施形態5に係るころがり軸受20は、基本構造は実施の形態1と同じであり、
図7において、
図4と同じ符号は
図4の場合と同じ部材を指している。以下、実施の形態1と相違する部分について主に説明する。
【0034】
図7において、潤滑性磁性流体を被潤滑部分に保持するための磁気回路は、矢印で示すように形成される。すなわち、磁気回路は、永久磁石である磁石24から、ヨーク25、内輪22、ボール23、外輪21を経由して再び磁石24に戻る経路に形成される。このため、回転軸1は非磁性材料から製作されるか、または、リング状のヨーク25の回転軸1の表面に対向する水平部分25−2が、回転軸1の表面から離間するように形成される。
このため、回転軸1の材料が磁性材料に限定されないという利点がある。
【0035】
図8は、通常のころがり軸受において潤滑剤としてグリースを用いた場合と、潤滑剤として磁性流体を用い、磁石を用いた磁気回路により磁性流体を固定した場合(以下、「磁性流体でマグネットトラップなしの場合」という。)との1時間当たりのパーティクルの発生量を測定したものである。
なお、この測定試験は、磁気回路により磁性流体を固定した場合におけるマグネットトラップのトラップ効果を確認するため、あえて、磁場を弱く設定し、パーティクルの発生し易い状態を作り出して行ったものである。
直径25mmのベアリングを50rpm〜300rpmの範囲で回転させて測定した結果、1時間当たり、0.1μm以上のパーティクルの発生数は、回転数が大きくなるにつれ多くなるが、いずれの回転数においても、磁性流体でマグネットトラップなしの場合の方がグリースを用いた場合に比べパーティクルの発生数は多い。
【0036】
図9は、通常のころがり軸受において潤滑剤としてグリースを用いた場合と、磁性流体でマグネットトラップなしの場合、および、潤滑剤として磁性流体を用い、磁石を用いた磁気回路により磁性流体を固定するとともに、本発明によるリング状のヨーク(マグネットトラップ)を装着した場合(以下「磁性流体でマグネットトラップありの場合」という。)における、時間経過に伴う1時間当たりのパーティクルの発生量を測定したものである。なお、測定には、直径25mmのベアリングを用い、300rpmで回転させた。
なお、この測定試験も、磁気回路により磁性流体を固定した場合におけるマグネットトラップのトラップ効果を確認するため、あえて、磁場を弱く設定し、パーティクルの発生し易い状態を作り出して行ったものである。
また、
図9(a)及び(b)は同じ測定結果を示すものであるが、
図9(b)は、磁性流体でマグネットトラップありの場合及びグリースを用いた場合のパーティクルの発生数を見やすくするため、片対数のグラフにしている。
図9(a)をみると、磁性流体でマグネットトラップなしの場合、1時間当たりのパーティクルの発生数は、経過時間に関係なく、断然多い。また、通常のころがり軸受において潤滑剤としてグリースを用いた場合、磁性流体でマグネットトラップなしの場合にくらべて、1時間当たりのパーティクルの発生数は約8分の一程度と少ないが、12時間経過の前後において発生数が突然多くなっており、その他の少ない時間帯においても1時間当たり約1000個程度発生していることがわかる。
【0037】
これに対して、磁性流体でマグネットトラップありの場合には、
図9(b)から分かるように、運転開始直後に1時間当たり約500個程度発生しているが、時間経過とともに急速に低下し、数時間後には1時間当たり数個程度まで減少し、その後は、ほとんど発生していない。
この測定結果から、本発明のリング状のヨーク(マグネットトラップ)を装着したころがり軸受においては、ヨークによるパーティクルのトラップが確実に行われていることがわかる。