(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ステップ(ii)で得られる計算パラメータが、2ab40/2ab42、3ab40/3ab42、2ab40/3ab40、2ab42/3ab42、1ab40 + 2ab40、1ab40 + 3ab40、2ab40 + 3ab40、1ab40 + 2ab40 + 3ab40、1ab42 + 2ab42、1ab42 + 3ab42、2ab42 + 3ab42、1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42、1ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 3ab42、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 2ab42 + 3ab42、(1ab40 + 2ab40)/(1ab42 + 2ab42)、(1ab40 + 3 ab40)/(1ab42 + 3 ab42)、(2ab40 + 3ab40)/(2ab42 + 3ab42)、(1ab40 + 2ab40 + 3ab40)/(1ab42 + 2ab42 + 3ab42)、(1ab42 + 2ab42)/(1ab40 + 2ab40)、(1ab42 + 3ab42)/(1ab40 + 3ab40)、(2ab42 + 3ab42)/(2ab40 + 3ab40)、(1ab42 + 2ab42 + 3ab42)/(1ab40 + 2ab40 + 3ab40)、2ab40-1ab40、2ab42-1ab42および(2ab40-1ab40)/(2ab42-1ab42)の群から選択される、請求項1に記載の方法。
(i)3ab40、2ab42および3ab42の群から選択されるパラメータの値、もしくは2ab40 + 3ab40、2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42および2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患を検出するか;
(ii)2ab40、3ab40、2ab42、および3ab42の群から選択されるパラメータの値、もしくは2ab40 + 3ab40、2ab42 + 3ab42、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40、1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42および1ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 3ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患の前の段階を検出するか;または
(iii)3ab40および2ab42の群から選択されるパラメータの値、もしくは2ab40 + 3ab40、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、および1ab40 + 2ab40 + lab42 + 2ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患を前記神経変性疾患の前の段階から識別する、
請求項1または2に記載の方法。
1ab40、1ab42、2ab40、2ab42、3ab40、3ab42のうちの少なくとも1または複数を決定するステップを、免疫学的方法により行う、請求項1から6のいずれか一項に記載の方法。
アミロイドベータペプチドのN末端領域に対する抗体が、ABETA40およびABETA42のN末端側のアミノ酸1〜7番目の範囲内に位置するエピトープに対して作られる、請求項10に記載の方法。
ELISAサンドウィッチアッセイにおける検出抗体が、アミロイドベータペプチドのC末端領域に位置するエピトープに対して特異的な抗体である、請求項9から11のいずれか一項に記載の方法。
検出抗体が、結合対の第1のメンバーに連結された前記抗体に対してアフィニティーを示す試薬を用いてさらに検出される、請求項9から13のいずれか一項に記載の方法。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明者らは、驚くべきことに、試料緩衝液により血漿を希釈すると、Aβ1-40およびAβ1-42の検出可能なレベルが結果として上昇することを見出した。理論に拘束されることを望むことなしに述べるが、血漿を希釈すると、試料中のイオン強度および分子間相互作用が結果として変化し、血漿タンパク質および他のコンポーネントに結合したAβ1-40およびAβ1-42が放出されると考えられている。
【0019】
したがって、血漿の希釈後における測定値の増分は、タンパク質および他の血漿コンポーネントから放出されるAβペプチドの検出に起因する可能性があり、血漿における全Aβレベルの推定値として解釈しうるであろう。
【0020】
いずれにせよ、これらの結果は、血中のAβペプチドレベルが、希釈されない血漿におけるそれらのレベルだけをアッセイすることにより推定されうるレベルよりはるかに高いことを示す。βAPBの全血中レベルの完全な決定は、血漿中の遊離ペプチド、血漿タンパク質に結合したペプチド、および血液細胞に結合したペプチドの定量化を包含するべきである。βAPBの異なるコンポーネントを包括的に定量化すれば、Aβの血中レベルがより正確に測定され、健常時および疾患時におけるAβペプチドの複雑な制御を確実なものとする一助となりうるであろう。さらに、前記アミロイドベータペプチドプールのレベルのほか、異なるプールの濃度を、遊離アミロイドベータペプチドの濃度と演算的に組み合わせる結果として得られる特定の計算パラメータの値を用いて、患者が神経変性疾患を患うかどうか、患者が神経変性疾患の前の段階を患うかどうかを決定し、神経変性疾患を神経変性疾患の前の段階から識別することができる。
【0021】
本発明の診断法
したがって、第1の態様では、本発明が、対象における神経変性疾患を診断するか、神経変性疾患の前の段階を検出するか、または神経変性疾患を前記神経変性疾患の前の段階から識別する方法であって、
(i) (a)前記対象の生体試料における1または複数の遊離アミロイドベータペプチドのレベル;
(b)前記対象の生体試料における1または複数の遊離アミロイドペプチド、および前記生体試料中に存在する高分子コンポーネントと会合した、前記1または複数のアミロイドベータペプチドの凝集レベルであって、前記試料を、前記生体試料中に存在するコンポーネントからの1または複数のアミロイドベータペプチドの解離を促進するのに適した条件下でタンパク質可溶化剤と接触させた後に、前記試料の細胞不含画分において、前記1または複数のアミロイドベータペプチドの量を定量化することにより決定される凝集レベル;
(c)前記対象の生体試料において細胞と会合した、1または複数のアミロイドベータペプチドのレベルであって、前記生体試料の細胞画分を単離し、前記試料の前記細胞画分を、前記試料中に存在する細胞からの1または複数のアミロイドベータペプチドの解離を促進するのに適した条件下でタンパク質可溶化剤と接触させることにより決定されるレベル
の群から選択される1または複数のパラメータを決定するステップと;
(ii)パラメータ(b)もしくは(c)のうちの少なくとも1つの値、またはパラメータ(a)〜(c)のうちの少なくとも2つを演算的に組み合わせる結果として得られる計算パラメータの値を、基準試料における、前記パラメータ(b)もしくは(c)の値、または前記計算パラメータの値に対応する基準値と比較するステップと;
(iii)前記パラメータの値または前記計算パラメータの値が、前記基準値に対して変化している場合に、神経変性疾患を診断するか、神経変性疾患の前の段階を検出するか、または神経変性疾患を前記神経変性疾患の前の段階から識別するステップと
を含む方法に関する。
【0022】
本明細書で用いられる「診断」という用語は、対象の疾患に対する感受性の評価、対象が現在疾患を有するかどうかについての決定、およびまた、疾患に罹患する対象についての予後診断を包含する。当業者により理解される通り、このような評価は正確であることが好ましいが、通常、診断される対象の100%について正確であるわけではない可能性がある。しかし、この用語は、対象のうちの統計学的に有意な部分が、疾患を患っているか、または該疾患に対する素因を有すると同定しうることを必要とする。ある部分が統計学的に有意であれば、当業者が、複数のよく知られた統計学的評価ツール、例えば、信頼区間の決定、p値の決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定などを用いさえすれば、有意性を決定することができる。詳細は、DowdyおよびWearden、「Statistics for Research」、John Wiley & Sons、New York、1983において示されている。好ましい信頼区間は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%である。p値は、0.2、0.1、または0.05であることが好ましい。
【0023】
本明細書で用いられる「対象」という用語は、哺乳動物として分類されるすべての動物に関し、家畜動物および農場動物、霊長動物およびヒト、例えば、ヒト、非ヒト霊長動物、ウシ、ウマ、ブタ、ヒツジ、ヤギ、イヌ、ネコ、またはげっ歯動物が含まれるがこれらに限定されない。対象は、任意の年齢または人種の男性または女性のヒトであることが好ましい。
【0024】
本明細書で用いられる「神経変性疾患」という用語は、細胞死に起因して神経細胞が失われることから、認知機能の低下がもたらされるか、または神経学的異常、神経変性性異常、生理学的異常、心理学的異常、もしくは行動学的異常を特徴としうる、損傷、機能不全、もしくは合併症が結果としてもたらされる、状態または障害を指す。本発明の方法により診断しうる、適切な神経変性疾患には、限定なしに述べると、加齢黄斑変性、クロイツフェルト-ヤコブ病、アルツハイマー病、放射線療法誘導性認知症、アクソン傷害、急性皮質拡延性抑制、アルファ−シヌクレイン病、脳虚血、ハンチントン病、永続性局所脳虚血、末梢神経変性、てんかん重積状態モデル(post-status epilepticus model)、脊髄傷害、孤発性神経萎縮性側索硬化症、および伝染性海綿状脳症が含まれる。
【0025】
好ましい実施形態では、神経変性疾患が、アルツハイマー病である。「アルツハイマー病」(または「老人性認知症」)とは、老人斑、神経原線維変化、および進行性の記憶障害、意識混濁、行動学的問題、自己管理不能、段階的な身体機能低下において臨床的に顕在化する進行性のニューロン喪失、ならびに、最終的には、死亡を特徴とする、特殊な変性性脳疾患と関連する精神機能の低下を指す。アルツハイマー病を患う患者は、NINCDS-ADRDA基準、CDR (臨床認知症評価尺度) = 1、MMSE (ミニメンタルステート検査)値が16〜24ポイントであること、およびScheltensスケールで、側頭葉内側部萎縮(MRIにより決定する)が> 3ポイントであることを用いて同定する。
【0026】
本明細書で用いられる「神経変性疾患の前の段階」という用語は、正常な個体と、神経変性障害を患う対象との間で生じ、該神経変性障害の徴候および症状のうちの一部の出現を特徴とするか、または該神経変性障害を患う患者において観察される徴候および症状のサブセットの出現を特徴とする遷移状況を指す。好ましい実施形態では、神経変性疾患の前の段階が、正常な老化と、早期のアルツハイマー病との間における認知障害の遷移段階を指す、軽度認知障害(以後、MCI)である。患者は通常、Mayo Clinic基準、CDR = 0.5を満たし、Scheltensスケールで、側頭葉内側部萎縮(MRIにより決定する)が3ポイントを超え、18-フルオロデオキシグルコースによる陽電子放射断層撮影(PET-FDG)において、頭頂葉および/または側頭葉の代謝低下パターンを示せば、MCIを有すると同定される。
【0027】
「神経変性疾患を神経変性疾患の前の段階から識別する」という用語は、神経変性疾患の前の段階または前駆段階にあることが判明している患者を、既に該疾患を患う患者から区別する能力を指す。神経変性疾患がアルツハイマー病である具体的症例では、本発明の方法により、アルツハイマー病と、軽度認知障害(MCI)として知られる、アルツハイマー病の前駆段階とを識別することを可能とする。
【0028】
第1のステップでは、本発明の方法が、
(a)前記対象の生体試料における1または複数の遊離アミロイドベータペプチドのレベル;
(b)前記対象の生体試料における1または複数の遊離アミロイドペプチド、および前記生体試料中に存在する高分子コンポーネントと会合した、前記1または複数のアミロイドベータペプチドの凝集レベルであって、前記試料を、前記生体試料中に存在するコンポーネントからの1または複数のアミロイドベータペプチドの解離を促進するのに適した条件下でタンパク質可溶化剤と接触させた後に、前記試料の細胞不含画分において、前記1または複数のアミロイドベータペプチドの量を定量化することにより決定される凝集レベル;
(c)前記対象の生体試料において細胞と会合した、1または複数のアミロイドベータペプチドのレベルであって、前記生体試料の細胞画分を単離し、前記試料の前記細胞画分を、前記試料中に存在する細胞からの1または複数のアミロイドベータペプチドの解離を促進するのに適した条件下でタンパク質可溶化剤と接触させることにより決定されるレベル
の群から選択される少なくとも1つのパラメータの決定を含む。
【0029】
本明細書では、「アミロイドベータペプチド」という用語が、「Aベータ」、「ベータAP」、「Aベータペプチド」、または「Aβペプチド」と互換的に用いられ、アルツハイマー病(AD)、ダウン症候群、およびオランダ型アミロイドーシスを伴う遺伝性脳出血(HCHWA-D)の患者の脳内に見出される老人斑および血管内アミロイド沈着物(アミロイド血管症)の主要な化学成分であるペプチドファミリーを指す。アミロイドベータペプチドとは、典型的には38〜43アミノ酸である、多様な数のアミノ酸を含む、βアミロイド前駆体タンパク質(APP)の断片である。
【0030】
アミロイドベータペプチドは一般に、「Aβ(x〜y)」[式中、xは、アミロイドベータペプチドのアミノ末端のアミノ酸番号を表わし、yは、該カルボキシ末端のアミノ酸番号を表わす]として表わされる。例えば、Aβ(1〜40)とは、そのアミノ末端が、アミノ酸番号1で始まり、カルボキシ末端が、アミノ酸番号40で終わるアミロイドベータペプチドであり、その配列を配列番号1により示す。本発明の方法により決定されうるアミロイドベータペプチドの例には、限定なしに述べると、Aβ(1〜38) (配列番号2)、Aβ(1〜39) (配列番号3)、Aβ(1〜40) (配列番号1)、Aβ(1〜41) (配列番号4)、およびAβ(1〜42) (配列番号5)、Aβ(1〜43) (配列番号6)、Aβ(11〜42) (配列番号7)、Aβ(3〜40) (配列番号8)、Aβ(3〜42) (配列番号9)、Aβ(4〜42) (配列番号10)、Aβ(6〜42) (配列番号11)、Aβ(7〜42) (配列番号12)、Aβ(8〜42) (配列番号13)、Aβ(9〜42) (配列番号14)、Aβ(x〜40)、Aβ(x〜42)、およびAβ(x〜38)のほか、個々の分子種が区別されない複数のアミロイドベータペプチド分子種を指す、全アミロイドベータペプチドが含まれる。好ましい実施形態では、本発明の方法により検出されるアミロイドベータペプチドが、Aβ(1〜40)およびAβ(1〜42)である。
【0031】
本明細書で用いられる「Aβ(1〜42)」という用語は、APPのアミノ酸672〜713 (配列番号5)に対応し、βセクレターゼおよびγセクレターゼによる連鎖的なタンパク質分解でアミロイド前駆体タンパク質(配列番号15)が切断されることを介して生成する、42アミノ酸のペプチドに関する。
【0032】
本明細書で用いられる「Aβ(1〜40)」という用語は、アミロイド前駆体タンパク質(配列番号15)のアミノ酸672〜711 (配列番号1)に対応し、βセクレターゼおよびγセクレターゼによる連鎖的なタンパク質分解でアミロイド前駆体タンパク質が切断されることを介して生成する、40アミノ酸のペプチドに関する。
【0033】
本発明で理解される「生体試料」という用語は、(1)全血液、血清、血漿、尿、リンパ、唾液、精液、痰、涙液、粘液、汗、乳液、脳抽出物、および脳脊髄液などの体液; (2)血漿、血清、血液細胞、および血小板などの血液コンポーネント; (3)脳などの固形組織または器官から得られる抽出物;ならびに(4)ヒト初代ニューロン、およびヒトAPP遺伝子を保有するトランスジェニックマウスに由来する初代ニューロン、例えば、トランスジェニックPDAPP動物(例えば、マウス)に由来する細胞のほか、293ヒト腎臓細胞系、ヒト神経膠腫細胞系、ヒトHeLa細胞系、初代内皮細胞系(例えば、HUVEC細胞)、初代ヒト線維芽細胞系もしくは初代リンパ芽球系(APPの突然変異を伴う患者に由来する内因性細胞を含めた)、初代ヒト脳細胞混合培養物(ニューロン、星状細胞、および神経膠細胞を含めた)、またはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞系など、ヒトもしくは動物の細胞系または初代細胞の培養物に由来する抽出物が含まれる。本発明の方法は、全血液、血漿、または任意の血液コンポーネントを任意の量で含有する試料など、ヒトまたはヒト以外の動物の血液試料におけるAβを測定するのに特に適する。
【0034】
「全血液」という用語は、細胞コンポーネントおよび液体コンポーネントの両方を含有する、ヒトまたは動物に由来する血液を意味する。全血液は、凝固状態にある場合もあり、非凝固状態にある場合もある。「全血液」はまた、白血球または赤血球などの細胞コンポーネントの一部または全部を溶解させた血液も包含する。
【0035】
「血漿」という用語は、全血液の流体コンポーネントを指す。用いられる分離法に応じて、血漿は、細胞コンポーネントをまったく含有しない場合もあり、多様な量の血小板および/または少量の他の細胞コンポーネントを含有する場合もある。
【0036】
「血清」という用語は、血液凝固タンパク質であるフィブリノーゲン、および他の血液凝固因子を伴わない血漿を指す。
【0037】
本明細書で用いられる「遊離アミロイドベータペプチド」という用語は、生体試料のコンポーネントと会合しておらず、特異的抗体への結合が容易に可能である、アミロイドベータペプチドを指す。このペプチドは、生体試料を、前記ペプチドに特異的な抗体と接触させることを介する、従来の免疫学的技法により決定することができる。好ましい実施形態では、血漿において、遊離アミロイドペプチドのレベルを決定する。
【0038】
本明細書で用いられる「高分子コンポーネントに会合したアミロイドベータペプチド」という用語は、被験対象である生体試料において見出される分子に、非共有結合性の結合結合または付着したアミロイドベータペプチドを指す。このペプチドは通常、免疫学的検出が容易に可能ではないため、該コンポーネントからの該ペプチドの分離を達成するためには、生体試料の前処理を必要とする。これらの条件下において、高分子コンポーネントに結合したアミロイドベータペプチドは、前記コンポーネントから放出され、特異的抗体を用いる免疫学的検出が可能となる。生体試料は既に、ある量の遊離アミロイドベータペプチドを含有するので、該試料を、タンパク質可溶化剤と接触させた後における遊離アミロイドペプチドの総量は、元から存在する遊離アミロイドベータペプチドと、タンパク質可溶化剤により処理した際に放出されたアミロイドベータペプチドとの凝集レベルである。生体試料中に存在する高分子コンポーネントに会合したアミロイドベータペプチドのレベルを決定する必要がある場合は、タンパク質可溶化剤により処理する前の遊離アミロイドベータペプチドレベル、およびタンパク質可溶化剤により処理した後の遊離アミロイドベータペプチドレベルを決定し、第2の値から第1の値を減じることにより、これを行いうることが典型的である。本発明の目的では通常、元の遊離アミロイドベータペプチドを包含する遊離アミロイドベータペプチド、ならびにタンパク質可溶化剤により処理した後に高分子コンポーネントから放出されたアミロイドベータペプチドの凝集レベルを決定することで十分である。したがって、アミロイドペプチドを、高分子コンポーネントから解離させるように試料を処理する場合に通常決定されるパラメータは、試料中に存在する遊離ペプチドと、高分子コンポーネントに会合したペプチドとの和に対応する。
【0039】
アミロイドベータペプチドに結合する可能性があり、高分子コンポーネントに会合したアミロイドベータペプチドのプールに寄与する、試料の高分子コンポーネントには、タンパク質および脂質の両方が含まれる。該方法が血液試料または血漿試料中で実施される特定の場合では、限定なしに述べると、高分子コンポーネントに血中タンパク質および血中脂質が含まれる。例示的な血中タンパク質には、アルブミン、免疫グロブリンG、免疫グロブリンE、免疫グロブリンM、免疫グロブリンA、フィブリノーゲン(フィブリンおよびその分解生成物)、アルファ-1抗トリプシン、プレアルブミン、アルファ1酸糖タンパク質、アルファ1フェトタンパク質、ハプトグロビンアルファ2、マクログロブリン、セルロプラズミン、トランスフェリン、C3/C4ベータ2マイクログロブリン、ベータリポタンパク質、アルファグロブリン、ベータグロブリン、およびガンマグロブリン、C反応性タンパク質(CRP)、プロトロンビン、チロキシン結合タンパク質、トランスサイレチンなどが含まれる。例示的な血中脂質には、遊離脂肪酸、コレステロール、トリグリセリド、リン脂質、スフィンゴ脂質などが含まれる。高分子コンポーネントに会合したアミロイドベータペプチドの量は、生体試料の細胞不含画分を、高分子コンポーネントからの前記アミロイドベータペプチドの放出を誘導するのに適した条件下でタンパク質可溶化剤と接触させることにより決定することができる。
【0040】
本明細書において、接触させるとは、混合物中のタンパク質可溶化剤濃度が、試料中のタンパク質および細胞に結合したアミロイドベータペプチドを効果的に可溶化するのに十分となるように、タンパク質可溶化剤を含む十分な量の溶液を試料に添加することを意味する。タンパク質可溶化剤の添加が、試料のpHを実質的に改変する結果をもたらさないように、タンパク質可溶化剤が、緩衝液中で溶解して見出されることが好ましい。
【0041】
本明細書で用いられる「タンパク質可溶化剤」という用語は、その一次構造は完全なままとしながら、ポリペプチドの二次構造、三次構造、および/または四次構造を変化させることが可能な組成を有する任意の化合物を指す。これらの特性のために、タンパク質可溶化剤は、試料におけるタンパク質の可溶性を増大させることが可能なほか、タンパク質の分子間凝集および分子内凝集を防止することも可能である。本発明で用いるのに適するタンパク質可溶化剤には、限定なしに述べると、洗浄剤、カオトロピック剤、還元剤、またはこれらの混合物が含まれる。
【0042】
本明細書で用いられる「洗浄剤」という用語は、界面活性剤一般について用いられる同義語であり、液体に添加すると、液体の表面張力を、洗浄剤が存在しない場合の同じ液体と比較して低下させる、両親媒性の表面活性剤を指す。洗浄剤はまた、タンパク質の凝集を防止することが可能であり、対象のタンパク質との夾雑物の非特異的相互作用または結合を防止することも可能である。本発明で用いるのに適する洗浄剤には、限定なしに述べると、非イオン性(中性)洗浄剤、アニオン性洗浄剤、カチオン性洗浄剤、または両性イオン性洗浄剤が含まれる。
【0043】
非イオン性洗浄剤または中性洗浄剤の例には、限定なしに述べると、Tween(登録商標)20、Tween(登録商標)21、Tween(登録商標)40、Tween(登録商標)60、Tween(登録商標)61、Tween(登録商標)65、Tween(登録商標)80、Tween(登録商標)81、Tween(登録商標)85など、Tweenシリーズの洗浄剤; Span(登録商標)20など、Span(登録商標)シリーズの洗浄剤; Tergitol 15-S-12型など、Tergitolシリーズの洗浄剤; Brij(登録商標)35、Brij(登録商標)56、Brij(登録商標)72、Brij(登録商標)76、Brij(登録商標)92V、Brij(登録商標)97、Brij(登録商標)58Pなど、Brij(登録商標)シリーズの洗浄剤; Triton(登録商標)X-100、Triton(登録商標)X-114、Triton(登録商標)CF-21、Triton(登録商標)CF-32、Triton(登録商標)DF-12、Triton(登録商標)DF-16、Triton(登録商標)GR-5M、Triton(登録商標)X-102、Triton(登録商標)X-15、Triton(登録商標)X-151、Triton(登録商標)X-207、Triton(登録商標)X-165、Triton(登録商標)X-305、Triton(登録商標)X-405、Triton(登録商標)X-45、Triton(登録商標)X-705-70など、Triton(登録商標)シリーズの洗浄剤、または前記洗浄剤のうちの少なくとも1つの、非イオン性の保存的変化形が含まれる。
【0044】
アニオン性洗浄剤の例には、限定なしに述べると、コール酸およびその誘導体、タウロコール酸、Triton X-200、Triton W-30、Triton-30、Triton-770、ジオクチルスルホコハク酸、N
5N-ジメチルドデシルアミンN-オキシド、ナトリウム1-アルキルスルホネート、N-ラウロシルサルコシン、または脂肪酸塩が含まれる。
【0045】
カチオン性洗浄剤の例には、限定なしに述べると、モノメチル脂肪アミン、ジメチル脂肪アミン、アルキルトリメチルアンモニウム塩、ジアルキルジメチルアンモニウム塩、酢酸アルキルアミン、酢酸トリアルキルアンモニウム、アルキルメチルベンジルアンモニウム塩、ジアルキルメチルベンジルアンモニウム塩、ハロゲン化アルキルピリジニウムおよびアルキル(アルキル置換)ピリジニウム塩、アルキルチオメチルピリジニウム塩、アルキルアミドメチルピリジニウム塩、アルキルキノリニウム塩、アルキルイソキノリニウム塩、N,N-アルキルメチルピロリドニウム塩、1,1-ジアルキルピペリジニウム塩、4,4-ジアルキルチアモルホリニウム塩、4,4-ジアルキルチアモルホリニウム-1-オキシド塩、メチルビス(アルキルエチル)-2-アルキルイミダゾリニウムメチルスルフェート(および他の塩)、メチルビス(アルキルアミドエチル)-2-ヒドロキシエチルアンモニウムメチルスルフェート(および他の塩)、アルキルアミドプロピル-ジメチルベンジルアンモニウム塩、カルボキシアルキル-アルキルジメチルアンモニウム塩、アルキルアミンオキシド、アルキルジメチルアミンオキシド、ポリ(ビニルメチルピリジニウム)塩、ポリ(ビニルピリジン)塩、ポリエチレンイミン、トリアルキルホスホニウムバイカーボネート(および他の塩)、トリアルキルメチルホスホニウム塩、アルキルエチルメチルスルホン酸塩、およびアルキルジメチルスルホキソニウム塩が含まれる。
【0046】
両性イオン性洗浄剤の例には、限定なしに述べると、3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-1-プロパンスルホネート(CHAPS); 3-[(3-コールアミドプロピル)ジメチルアンモニオ]-2-ヒドロキシ-1-プロパンスルホネート(CHAPSO); N-(アルキル(C10〜C16))-N,N-ジメチルグリシンベタイン(EMPIGEN BB);カプリリルスルホベタイン(SB3-10); 3-[N,N-ジメチル(3-ミリストイルアミノプロピル)アンモニオ]プロパンスルホネート(アミドスルホベタイン-14; ASB-14); N-テトラデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート(ZWITTERGENT 3-14 Detergent); N-ドデシル-N,N'-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート; N-オクタデシル-N,N-ジメチル-3-アンモニオ-1-プロパンスルホネート; N-デシル-N,N-ジメチル-3-アンモニウム-1-プロパンスルホネート; ミラタインCB; ミラタインBB; ミラタイン CBR; ミラタインACS; ミラケア2MHTおよびミラケア 2MCAが含まれる。
【0047】
好ましい実施形態では、タンパク質可溶化剤が、洗浄剤である。さらにより好ましい実施形態では、洗浄剤が、Tween 20である。さらにより好ましい実施形態では、Tween 20が、0.5%の濃度で用いられる
【0048】
本明細書で用いられる「カオトロピック剤」とは、タンパク質間およびタンパク質内両方の水素結合および疎水性相互作用を破壊する化合物または化合物の混合物に関する。高濃度で用いると、カオトロピック剤は、タンパク質の二次構造を破壊し、他の形では可溶性とならないタンパク質を溶解させる。適切なカオトロピック剤には、限定なしに述べると、尿素、イソチオシアン酸グアニジニウム、チオシアン酸ナトリウム(NaSCN)、グアニジンHCl、塩化グアニジニウム、チオシアン酸グアニジニウム、テトラクロロ酢酸リチウム、過塩素酸ナトリウム、テトラクロロ酢酸ルビジウム、ヨウ化カリウム、またはトリフルオロ酢酸セシウムが含まれる。
【0049】
本明細書で用いられる「還元剤」という用語は、スルフヒドリル基を還元状態に維持し、分子内ジスルフィド結合または分子間ジスルフィド結合を還元する、任意の化合物または材料を指す。例として述べると、本発明の方法に適する還元剤には、スルフヒドリル還元剤およびホスフィン還元剤の両方が含まれる。スルフヒドリル還元剤の例には、ジチオスレイトール(DTT)、ジチオエリスリトール(DTE)、およびβ-メルカプトエタノールが含まれる。ホスフィン還元剤の例には、トリブチルホスフィン(TBP)およびトリス-カルボキシエチルホスフィン(TCEP)が含まれる。
【0050】
生体試料は、まず、細胞画分を除去するように処理することが典型的である。次いで、細胞不含試料を、タンパク質可溶化剤と接触させる。好ましい実施形態では、試料を、タンパク質可溶化剤を含む緩衝液を用いて希釈する。試料は、Tween 20を含む緩衝液中で5倍に希釈することが典型的である。
【0051】
本明細書で用いられる「緩衝液」とは、溶液の元の酸性度またはアルカリ性度を大きく変化させることなく、酸および塩基の両方を中和することが可能な、溶液中の任意の物質または化合物の混合物である。本発明の方法で用いるのに適する緩衝液には、限定なしに述べると、トリス緩衝液、リン酸緩衝液、ホウ酸緩衝液、炭酸緩衝液、グリシン-水酸化ナトリウム緩衝液などが含まれる。緩衝液は、リン酸緩衝生理食塩液またはPBSなど、リン酸緩衝液であることが好ましい。
【0052】
アミロイドベータペプチドの十分な解離が達成される限りにおいて、生体試料に添加されるタンパク質可溶化剤を含む溶液の量はそれほど重要ではない。例として述べると、体液は、タンパク質可溶化剤を含む溶液により、少なくとも1/2 (v/v)、1/3 (v/v)、1/4 (v/v)、1/5 (v/v)、1/6 (v/v)、1/7 (v/v)、1/8 (v/v)、1/9 (v/v)、1/10 (v/v)、1/20 (v/v)、1/50 (v/v)、1/60 (v/v)、1/80 (v/v)、1/90 (v/v)、1/100 (v/v)、またはそれ以上の希釈率で希釈することができる。当業者は、タンパク質可溶化剤の最終濃度が、所望の効果を達成するのに十分である限りにおいて、前記希釈率と、前記タンパク質可溶化剤濃度との任意の組合せを用いうることを理解するであろう。例えば、タンパク質可溶化剤を含有する溶液は、前記選択されたタンパク質可溶化剤を、0.001%〜0.5% (w/v)の範囲の濃度で含みうる。タンパク質可溶化剤を含有する前記溶液中に希釈された後で、前記体液は、前記界面活性剤を、0.1% (w/v)未満、好ましくは0.6% (w/v)未満、より好ましくは0.5% (w/v)以下、最も好ましくは0.45% (w/v)以下、およびなお最も好ましくは0.5%で含有することが典型的である。
【0053】
本発明で用いるのに適する緩衝系には、NaClまたはKClなどの塩を包含するトリス-HCl緩衝液、および場合によってBSAが含まれる。具体的な緩衝系には、限定なしに述べると、
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20、1MのGuHCl;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのKCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのKCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20、1MのGuHCl;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-80;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのKCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-80;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTriton X-100;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのKCl、0.05%のBSA、0.05%のTriton X-100;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.1%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.1%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.1%のBSA、0.1%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、1MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、1.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、2MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、2.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、3MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20、10%のDMSO;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20、0.5MのGuHCl;
50mMのトリス-HCl、pH6、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH 7、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH 9、0.5MのNaCl、0.05%のBSA、0.05%のTween-20;
50mMのトリス-HCl、pH8、0.5MのNaCl、0.05%のBSA
が含まれる。
【0054】
例えば、Tween 20をタンパク質可溶化剤として用いる場合、好ましい濃度は、0.004〜0.02%、より好ましくは0.005〜0.01% (w/v)の濃度である。
【0055】
接触させるステップは、試料中に存在するタンパク質分解活性を阻害するために、低温で実施することが好ましい。適切な温度は、摂氏約0〜10度、好ましくは摂氏約3〜5度、例えば、摂氏約4度である。
【0056】
体液を、一度タンパク質可溶化剤を含む溶液と接触させたら、両方の流体が混合し得る。混合は、好ましくは振とうすることにより、より好ましくは高速で振とうすることにより、最も好ましくはボルテックスすることにより、少なくとも5秒間にわたり、好ましくは少なくとも10秒間にわたり、より好ましくは少なくとも15秒間にわたり(例えば、15〜50秒間にわたり)、撹拌することにより、実施することができる。前記混合、撹拌、振とう、高速振とう、またはボルテックスに有利な速度は、少なくとも250rpm、好ましくは少なくとも500rpm、より好ましくは少なくとも1,000rpm、最も好ましくは約2,000〜2,500rpmの速度を含む。
【0057】
接触させるステップは、生体試料中に存在するタンパク質および脂質からの、アミロイドベータペプチドの部分的な解離、または好ましくは完全な解離を達成するのに適した条件下で実施される。条件は、当業者が、接触させるステップの前に、および、接触させるステップを行った後の異なる時点で漸進的に、検出可能なアミロイドベータペプチドの量をモニタリングすることにより、十分に決定することができる。実験部分の実施例で説明される通りに、時間経過実験を実施することができる。
【0058】
当業者は、生体試料を、タンパク質可溶化剤を含有する緩衝液で希釈することにより、アミロイドベータペプチドのレベルを決定する場合、該生体試料に既に適用した希釈率を考慮するために、免疫学的決定により得られる遊離アミロイドベータペプチドのレベルを補正しなければならないことを理解するであろう。
【0059】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法のステップ(i)で決定されるパラメータが、前記対象の生体試料における遊離ABETA40ペプチドのレベル(以後、1ab40またはUP Aβ(1〜40)として知られる)、前記で説明した通りに得られる、該生体試料における遊離ABETA40ペプチド、および前記生体試料のコンポーネントに会合したABETA40ペプチドの凝集レベル(以後、2ab40またはDP Aβ(1〜40)と称する)、該生体試料における遊離ABETA42ペプチドのレベル(以後、1ab42またはUP Aβ(1〜42)として知られる)、ならびに前記で説明した通りに得られる、該生体試料における遊離ABETA42ペプチド、および前記生体試料のコンポーネントに会合したABETA42ペプチドの凝集レベル(以後、2ab42またはDP Aβ(1〜42)と称する)の群から選択されるパラメータのうちの1または複数である。
【0060】
本明細書で用いられる「細胞に会合したアミロイドベータペプチド」とは、生体試料中に存在する細胞表面に、非共有結合により会合し、該試料に添加された抗体への結合が不可能であり、したがって、免疫学的に検出不可能である、アミロイドベータペプチドを指す。生体試料が血液である場合、アミロイドベータペプチドは、赤血球、好中球、好酸球、好塩基球、リンパ球、および単球を含めた白血球、ならびに血小板に会合することが典型的である。
【0061】
所与の試料において、細胞に会合したアミロイドベータペプチドの量を決定することができ、この値を、単独で、または本発明の方法におけるアミロイドベータペプチドと関連する他のパラメータと組み合わせて用いることができる。この目的で、生体試料から細胞画分を単離することがまず必要とされる。遠心分離、沈降、濾過など、当業者に知られる任意の技法を用いて、これを実施することができる。生体試料の細胞画分を単離したら、細胞を、タンパク質可溶化剤と接触させる。
【0062】
適切なタンパク質可溶化剤には、前記で定義した、洗浄剤、カオトロピック剤、および還元剤が含まれ、通常、十分な濃度の緩衝液中で提供される。
【0063】
適切な薬剤、緩衝液、および緩衝液中の薬剤の濃度は、前記で説明した。接触させるステップは、本質的に、生体試料のコンポーネント(タンパク質および脂質)に結合したアミロイドペプチドを放出するための方法において前記で必ず説明した通りに実施する。好ましい実施形態では、タンパク質可溶化剤が、洗浄剤である。さらにより好ましい実施形態では、洗浄剤が、Tween 20である。タンパク質可溶化剤として用いるのに適するTween 20の濃度は、前記で規定した通り、すなわち、0.004〜0.02%、より好ましくは0.005〜0.01% (w/v)である。
【0064】
接触させるステップは、試料中に存在するタンパク質分解活性を阻害するために、低温で実施することが好ましい。適切な温度は、摂氏約0〜10度、好ましくは摂氏約3〜5度、例えば、摂氏約4度である。
【0065】
接触させるステップは、生体試料中の細胞画分を、タンパク質可溶化剤を含む溶液により再懸濁させることにより実施することが典型的である。前記再懸濁は、少なくとも5秒間にわたり、好ましくは少なくとも10秒間にわたり、より好ましくは少なくとも15秒間にわたり(例えば、15〜50秒間にわたり)、上下に静かにピペッティングすることにより、撹拌することにより、好ましくは振とうすることにより、より好ましくは高速で振とうすることにより、最も好ましくはボルテックスすることにより実施することができる。前記再懸濁、撹拌、振とう、高速振とう、またはボルテックスに有利な速度は、少なくとも250rpm、好ましくは少なくとも500rpm、より好ましくは少なくとも1,000rpm、最も好ましくは約2,000〜2,500rpmの速度を含む。
【0066】
接触させるステップは、生体試料中に存在する細胞からの、アミロイドベータペプチドの部分的な、または好ましくは完全な解離を達成するのに適した条件下で実施される。条件は、当業者が、接触させるステップの前に、および接触させるステップを行った後の異なる時点で漸進的に、検出可能なアミロイドベータペプチドの量をモニタリングすることにより、十分に決定することができる。実験部分の実施例で説明される通りに、時間経過実験を実施することができる。
【0067】
したがって、好ましい実施形態では、本発明の方法のステップ(i)で決定されるパラメータが、該生体試料中に存在する細胞に会合したABETA40のレベル(以後、3ab40またはCB Aβ(1〜40)として知られる)、および該生体試料中に存在する細胞に会合したABETA42のレベル(以後、3ab42またはCB Aβ(1〜42)として知られる)の群から選択されるパラメータのうちの1または複数である。
【0068】
本発明の方法の後続のステップは、パラメータ(b)もしくは(c)のうちの少なくとも1つの値、またはパラメータ(a)〜(c)のうちの1もしくは複数を演算的に組み合わせる結果として得られる計算パラメータの値を、基準試料における、前記パラメータ(b)もしくは(c)の値、または前記計算パラメータの値に対応する基準値と比較するステップを含み、ここで、(a)、(b)、および(c)は、前記で詳細に定義されており、それぞれ、前記対象の生体試料における遊離アミロイドベータペプチドのレベル(a)、前記対象の生体試料における遊離アミロイドペプチド、および前記生体試料中に存在する高分子コンポーネントに会合した前記アミロイドベータペプチドの凝集レベル(b)、ならびに前記対象の生体試料における、細胞に会合したアミロイドベータペプチドのレベル(c)に対応する。
【0069】
本発明の方法のステップ(ii)で用いられるパラメータは、直接的パラメータ、すなわち、前記で定義された通りに直接的に決定することが可能であり、2ab40、3ab40、2ab42、および3ab42として既に定義されたパラメータに対応するパラメータである。代替的に、計算パラメータを得るために、直接的パラメータのうちの1または複数を演算的に組み合わせることも可能である。実際、2つ以上のパラメータの演算的組合せにより、それらの加減乗除およびこれらの組合せを含む診断値による計算パラメータをもたらすことができる。本発明の方法で用いられる具体的な計算マーカーには、限定なしに述べると、2ab40/2ab42、3ab40/3ab42、2ab40/3ab40、2ab42/3ab42、1ab40 + 2ab40、1ab40 + 3ab40、2ab40 + 3ab40、1ab40 + 2ab40 + 3ab40、1ab42 + 2ab42、1ab42 + 3ab42、2ab42 + 3ab42、1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42、1ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 3ab42、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 2ab42 + 3ab42、(1ab40 + 2ab40)/(1ab42 + 2ab42)、(1ab40 + 3ab40)/(1ab42 + 3ab42)、(2ab40 + 3ab40)/(2ab42 + 3ab42)、(1ab40 + 2ab40
+ 3ab40)/(1ab42 + 2ab42 + 3ab42)、(1ab42 + 2ab42)/(1ab40 + 2ab40)、(1ab42 + 3ab42)/(1ab40 + 3ab40)、(2ab42 + 3ab42)/(2ab40 + 3ab40)、(1ab42 + 2ab42 3ab42)/(1ab40 + 2ab40 + 3ab40)、2ab40 -1ab40、2ab42-1ab42および(2ab40-1ab40)/(2ab42-1ab42)が含まれる。好ましい実施形態では、計算パラメータが、2ab40パラメータと3ab40パラメータとを足し合わせる結果(以後、T40と称する)として得られる。別の好ましい実施形態では、計算パラメータが、2ab42と3ab42とを足し合わせる結果(以後、T42と称する)として得られる。さらに別の好ましい実施形態では、計算パラメータが、2ab40と、3ab40と、2ab42と、3ab42とを足し合わせる結果(以後、T-βAPBと称する)として得られる。
【0070】
本明細書で用いられる「基準値」という用語は、比較のために用いられ、神経変性疾患に罹患していないか、または神経変性疾患の履歴を有さない対象において決定されたパラメータの値を指す。異なるパラメータおよび計算パラメータの基準値が得られる対象とは、記憶愁訴がなく、神経心理学的検査における結果が正常であり、MRIで構造的変化が認められない患者である。
【0071】
特に、85%を超える感度、および75%を超える特異度を可能とする基準値を選択する。別の好ましい実施形態では、70%を超える感度、および70%を超える特異度を得るように、基準値を選択する。少なくとも80%の確度または精度を伴う予測を得ることを可能とする基準値が好ましい。
【0072】
本発明の方法のステップ(iii)では、具体的に十分な特異性および感度レベルをもたらすマーカーまたは計算マーカーの具体的なセットを用いて、神経変性疾患を診断するか、神経変性疾患の前の段階を検出するか、または神経変性疾患を神経変性疾患の前の段階から区別する。したがって、具体例では、3ab40および2ab42の群から選択されるパラメータの値、または2ab40 + 3ab40および2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患を診断する。
【0073】
別の具体的な実施形態では、2ab40、3ab40、および2ab42の群から選択されるパラメータの値、または2ab40 + 3ab40、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 3ab40、1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 1ab42 + 2ab42 + 3ab42、1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42、および1ab40 + 3ab40 + 1ab42 + 3ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患の前の段階を検出する。
【0074】
さらに別の実施形態では、3ab40および2ab42の群から選択されるパラメータの値を比較することにより、または2ab40 + 3ab40、2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42、および1ab40 + 2ab40 + 1ab42 + 2ab42の群から選択される計算パラメータの値を比較することにより神経変性疾患を神経変性疾患の前の段階から識別する。
【0075】
本発明の異なる診断法に十分な基準値を、表1にまとめる。
【0077】
パラメータの値または計算パラメータの値を決定したら、該パラメータの値または該計算パラメータの値が、基準値に対して変化している場合に、本発明により神経変性疾患を診断するか、神経変性疾患の前の段階を検出するか、または神経変性疾患を前記神経変性疾患の前の段階から識別する。
【0078】
基準値に対して考慮する場合の「変化」という用語は、パラメータの値の統計学的に有
【0079】
本明細書で用いられる「統計学的に有意な」とは、2つ以上の結果、エンドポイント、または転帰の間に非無作為的な連関が認められる確率、すなわち、パラメータの値が、基準値と比べて、特定の患者集団と連関するということに、一定程度の数学的確実性が認められる確率についての統計学的な解析に関する。
【0080】
値の変化の統計学的有意性は、p値を用いて決定することができる。例えば、p値を用いる場合、p値が、0.1未満、好ましくは0.05未満、より好ましくは0.01未満、なおより好ましくは0.005未満、最も好ましくは0.001未満である場合、パラメータは、有意な変化を示すものとして同定される。
【0081】
考慮されるパラメータの値が、基準値と比較して、少なくとも1.1倍、1.5倍、5倍、10倍、20倍、30倍、40倍、50倍、60倍、70倍、80倍、90倍、100倍、またはこれらをなおも上回る場合は、この値を、「増大」しているものとして割り当てうることが典型的である。他方、パラメータの値が、基準値と比較して、少なくとも0.9倍、0.75倍、0.2倍、0.1倍、0.05倍、0.025倍、0.02倍、0.01倍、0.005倍、またはこれらをなおも下回る場合は、この値を、「減少」しているものとして考えることができる。具体的な実施形態では、基準値と比べたパラメータの値または計算パラメータの値の変化が、増大である。
【0082】
本発明では、ペプチドの決定に適する任意の方法を用いることができる。例として述べると、ウェスタンブロット、免疫沈降、ELISA (酵素免疫測定アッセイ)、表面プラズモン共鳴、プレシピチン反応、ゲル内拡散免疫拡散アッセイ、ラジオイムノアッセイ(RIA)、FACS (蛍光活性化細胞分取)、二次元ゲル電気泳動、キャピラリー電気泳動、質量分析(MS)、マトリックス支援レーザー脱離/イオン化飛行時間型質量分析(MALDI-TOF-MS)、表面増強レーザー脱離イオン化飛行時間型質量分析(SELDI-TOF-MS)、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)、高速タンパク質液体クロマトグラフィー(FPLC)、多次元液体クロマトグラフィー(LC)に続く、タンデム質量分析(MS/MS)、薄層クロマトグラフィー、タンパク質チップ発現解析、およびレーザー密度測定から選択される1または複数の技法を用いて、アミロイドベータペプチドの濃度を決定することができる。
【0083】
好ましい実施形態では、1ab40、1ab42、2ab40、2ab42、3ab40、および3ab42のうちの少なくとも1または複数の決定を、免疫学的方法により実施する。本明細書で用いられる、決定に適用される場合の「免疫学的方法」は、試料中に見出される他の物質を除外して、標的物質の量/濃度を決定するために、前記標的物質に特異的な1または複数の抗体の使用を伴う、任意の方法に関する。適切な免疫学的方法には、限定なしに述べると、ウェスタンブロット、免疫沈降、ELISA (酵素免疫測定法)、表面プラズモン共鳴、ラジオイムノアッセイ(RIA)が含まれる。
【0084】
当業者は、それが、試料におけるアミロイドベータペプチドの分子種を、他の物質から効果的に識別するのに十分に特異的である限りにおいて、任意の種類の抗体が、本発明による免疫学的検出法を実施するのに十分であることを理解するであろう。本発明の免疫学的方法において用いるのに適する抗体分子には、限定なしに述べると、
(i)抗原結合可変領域のほか、軽鎖定常ドメイン(CL)および重鎖定常ドメインであるCH1ドメイン、CH2ドメイン、およびCH3ドメインを含む、「完全」抗体;
(ii)完全抗体をパパイン消化する結果として得られ、単一の抗原結合部位、ならびにCL領域およびCH1領域を含む、「Fab」断片;
(iii)完全抗体をペプシン消化する結果として得られ、2つの抗原結合部位を含む、「F(ab')2」断片;
(iv)軽鎖定常ドメイン、および重鎖の第1の定常ドメイン(CH1ドメイン)を含有し、ただ1つの抗原結合部位を有する、「Fab'」断片: Fab'断片は、重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端において数個の残基が付加されており、抗体のヒンジ領域に由来する1または複数のシステインを含んでいることにより、Fab断片とは異なる;
(v)完全な抗原認識部位および抗原結合部位を含有する最小の抗体断片である、「Fv」断片:この領域は、緊密な非共有結合による、1つの重鎖可変ドメイン、および1つの軽鎖可変ドメインの二量体からなる:各可変ドメインの3つの超可変領域(CDR)が相互作用して、VH-VL二量体の表面において抗原結合部位を規定するのは、この立体構成においてである。総体として、6つの超可変領域により、抗体に抗原結合特異性が賦与される。しかし、単一の可変ドメイン(または抗原に特異的な3つの超可変領域だけを含む、Fvの半分)でもなお、結合部位全体より低いアフィニティーにおいてではあるが、抗原を認識し、これに結合する能力を有する;
(vi)抗体のVLドメインおよびVHドメインを含み、これらのドメインが、単鎖のポリペプチド内に存在する、単鎖Fv断片または「scFv」抗体断片: 好ましくは、VL領域およびVH領域は、scFvが、抗原に結合するのに所望される構造を形成することを可能とするポリペプチドリンカーにより連結される;
(vii)同じ鎖上の2つのドメイン間における対合を可能とするには短すぎるペプチドリンカーにより連結される、同じポリペプチド鎖(VH-VL鎖)上において、軽鎖可変ドメイン(VLドメイン)に連結された重鎖可変ドメイン(VHドメイン)を含む、「ダイアボディー」:ダイアボディーは、別の鎖の相補的ドメインとの対合を余儀なくさせ、2つの官能性の抗原結合部位を伴う二量体分子の構築を促進する;
(viii)2つの異なる特異的抗原結合部位を有する、単一の二価抗体(または免疫療法的に有効なそれらの断片)である、「二重特異性抗体」(BAb): 2つの抗原結合部位は、化学的に一体に連結することもでき、当技術分野で知られる遺伝子操作法により一体に連結することもできる
が含まれる。
【0085】
これらの抗体断片はすべて、当技術分野において知られる従来の技法を用いて、例えば、当技術分野において知られるアミノ酸の欠失、挿入、置換、付加、および/または組換え(および/または他の任意の修飾(例えば、グリコシル化およびリン酸化などの翻訳後修飾および化学的修飾))を、単独で、または組合せで用いることにより、さらに修飾することができる。免疫グロブリン鎖のアミノ酸配列の基底をなすDNA配列にこのような修飾を導入する方法は、当業者によく知られている(例えば、Sambrookら、「Molecular Cloning: A Laboratory Manual」、Cold Spring Harbor Laboratory Press、2版、1989、および3版、2001を参照されたい)。
【0086】
抗体は、ポリクローナル抗体およびモノクローナル抗体の両方を含む。ポリクローナル抗体を生成させるには、ヤギ、ウサギ、マウス、ラクダ、ヒトコブラクダ、ラマ、ヒト、トリ、および他の動物を含めた各種の宿主に、免疫原特性を有するAβ40断片またはAβ42断片に対応するペプチドを注射することにより免疫化することができる。免疫反応を増大させるために、宿主の種に応じて各種のアジュバントを用いることができる。このようなアジュバントには、フロイントによるアジュバント、水酸化アルミニウムなどの鉱物ゲル、ならびにリソレシチン、ポリアニオン、ペプチド、油エマルジョン、KLH、およびジニトロフェノールなどの表面活性物質が含まれるがこれらに限定されない。ヒトにおいて用いられるアジュバントでは、BCG (カルメット-ゲラン桿菌)、およびコリネバクテリウム・パルブム(Corynebacterium parvum)が、とりわけ好ましい。抗原がペプチドである場合は、抗原を、免疫化される種において免疫原性であるタンパク質にコンジュゲートすることが有用でありうる。二重官能性剤または誘導体化剤、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基を介するコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リシン残基を介する)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、またはSOCl
2を用いて、例えば、抗原を、スカシガイヘモシアニン(KLH)、Blue Carrier (ロコガイ(Concholepas concholepas)から単離されたヘモシアニン)、ウシサイログロビン、またはダイズトリプシン阻害剤にコンジュゲートすることができる。
【0087】
モノクローナル抗体を生成させるには、従来の技法を用いることができる。例えば、モノクローナル抗体は、Ausubel, F.M.ら(「Current Protocols in Molecular Biology」、John Wiley & Sons Inc、リング綴版、2003)のユニット11.4〜11.11において詳細に説明されている手順を用いて、Kohlerら、Nature、256: 495頁(1975)により初めて説明されたハイブリドーマ法を用いて作製することができる。代替的に、モノクローナル抗体は、McCaffertyら、Nature、348: 552〜554頁(1990)において説明されている技法を用いて生成させる抗体ファージライブラリーから、組換えDNA手順により単離することもできる。Clacksoiiら、Nature、352: 624〜628頁(1991);およびMarksら、J. Mol. Biol、222: 581〜597頁(1991)は、ファージライブラリーを用いる、マウス抗体およびヒト抗体それぞれの単離について説明している。その後の刊行物は、チェインシャフリングによる、高アフィニティー(nMの範囲)のヒト抗体の生成(Marksら、Bio/Technology、10: 779〜783頁(1992))のほか、極めて大規模なファージライブラリーを構築するための戦略として、組換え感染、およびin vivoにおける組換え(Waterhouseら、Nucl. Acids. Res.、21: 2265〜2266頁(1993))について説明している。したがって、これらの技法は、モノクローナル抗体を単離するための、従来のモノクローナル抗体のハイブリドーマ法に対する有効な代替法である。
【0088】
ポリクローナル抗体は、採血してフィブリン血栓を除去した後に、免疫化した宿主から得られる抗血清として直接に用いることができる。モノクローナル抗体は、ハイブリドーマ培養物の上清、または適切な宿主の腹腔内にハイブリドーマを植え込んだ後の腹水として直接に用いることができる。代替的に、ポリクローナルまたはモノクローナルの免疫グロブリン分子を、これらを用いる前に、アミロイドベータペプチドに由来するペプチドを用いるアフィニティー精製、非変性ゲルによる精製、HPLCもしくはRP-HPLC、サイズ除外、プロテインAカラムによる精製、またはこれらの技法の任意の組合せなど、従来の手段により精製することができる。
【0089】
本発明の免疫学的方法を実施するのに適する抗体には、限定なしに述べると、
(i) Aβ40またはAβ42のアミノ酸1〜16、1〜17、13〜28、15〜24、1〜5、および1〜11の範囲内に位置するエピトープに特異的な抗体など、アミロイドベータペプチドのN末端領域に由来する領域を認識する抗体; Aβ40またはAβ43と実質的に交差反応することなしにAβ42に特異的に結合する、Aβ42ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製された抗体;
(ii) Aβ42、Aβ39、Aβ38、Aβ41、またはAβ43と実質的に交差反応することなしにAβ40に特異的に結合する、Aβ40ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製された抗体;
(iii) Aβ40およびAβ42の両方のC末端領域を同時に認識する抗体;ならびに
(iv)アミロイドベータペプチドを、他のAPP断片から識別するのに適し、アミノ酸16および17、典型的には、アミノ酸残基13〜28にわたる範囲内に位置する、アミロイドベータペプチドの接合領域に特異的な抗体;
(v) (i)〜(iv)において言及された抗体のうちの2つ以上の組合せ
が含まれる。
【0090】
好ましい実施形態では、アミロイドベータペプチドの量の決定を、ELISAにより実施する。
【0091】
本明細書で用いられる「ELISA」という用語は、酵素免疫測定アッセイを意味し、未知量の標的物質(アミロイドベータペプチド)を表面に固定し、次いで、それが抗原に結合するように、特異的抗体を、該表面全体に流し込むアッセイに関する。この抗体を酵素に連結し、最終ステップにおいて、該酵素が何らかの検出可能なシグナルへと転換されうる物質を添加する。直接的ELISA、サンドウィッチELISA、競合的ELISA、ならびにELISAリバース法およびELISAリバースデバイス(ELISA-R m&d)を含め、異なる種類のELISAが知られており、本発明の方法に適用することができる。
【0092】
直接的ELISAは、アミロイドベータペプチドを含む被験試料を、相互作用しないタンパク質または試薬(ウシ血清アルブミン、カゼイン)の濃縮溶液で既にコーティングした固体の支持体と接触させることにより実施する。被験試料中に存在するアミロイドベータペプチドを、支持体へと吸着させたら、アミロイドベータペプチドへの結合に適した条件下で、アミロイドベータペプチドに特異的な抗体を添加する。次いで、結合した抗体を、検出可能なタグ、または基質修飾酵素へと連結した二次抗体により検出する。このとき、検出可能なタグ、または基質から結果として得られるシグナルは、支持体に結合した抗体の量に比例し、これが、試料中におけるアミロイドベータペプチドの量と正相関する。
【0093】
競合的ELISAアッセイは、未知量のアミロイドベータペプチドを含む被験試料を、前記で規定した一次抗体を接触させる第1のステップを包含する。抗体-抗原複合体を、抗原でコーティングしたウェルに添加する。支持体を洗浄して、非特異的に結合した複合体を除去したら、検出可能部分に連結した二次抗体により、一次抗体の量を検出する。この種のアッセイでは、元の抗原濃度が高いほど、結果として得られるシグナルは弱くなる。代替的な競合的ELISAは、酵素に連結した抗体ではなく、酵素に連結した抗原を包含する。標識した抗原は、一次抗体の結合部位について、試料抗原(非標識)と競合する。この種のアッセイを用いると、試料における抗原の濃度が、ウェル内に保持される標識抗原の量と逆相関し、したがって、より弱いシグナルが結果としてもたらされる。
【0094】
ELISAリバース法およびELISAリバースデバイス(ELISA-R m&d)は、4〜12の突出型オジーブを伴う、ポリスチレン製の免疫測定用ロッドから構成される斬新な固相を用いる;デバイスの全体は、回収した試料を含有する試験管内に導入するのに適し、試薬であらかじめ満たされ、シーリングされ、それらを用いるまで保存された標準的なマイクロプレートのマイクロウェル内にオジーブを浸漬することにより、後続のステップ(洗浄するステップ、インキュベートしてコンジュゲートするステップ、およびインキュベートして比色アッセイを行うステップ)が容易に実施される。
【0095】
好ましい実施形態では、ELISAアッセイが、ELISAサンドウィッチアッセイである。ELISAサンドウィッチアッセイは、アミロイドベータペプチドに特異的な一次抗体で支持体をコーティングするステップと、アミロイドベータペプチドを含有する試料を適用する結果、アミロイドベータペプチドを、該一次抗体に結合させるステップと、通常は検出可能なタグまたは基質修飾酵素に連結された、これもまたアミロイドベータペプチドに特異的な二次抗体を適用するステップとを伴う。タグまたは転換基質が発生させるシグナルは、試料における抗原の量に比例する。
【0096】
本発明の文脈では、一次抗体を、「捕捉抗体」と称するが、これは、この抗体を用いて、試料から、該抗体が特異的に結合するすべての分子種を回収することを意味する。それが、Aβ40および/またはAβ42に特異的な少なくとも1つの抗原結合部位を含有する限りにおいて、捕捉抗体として用いうる抗体の種類には、事実上何らの制限もかからない。したがって、上述の任意の抗体を、捕捉抗体として用いることができる。
【0097】
本発明の文脈では、捕捉抗体により保持された抗原の量を検出するのに用いられるので、二次抗体を、「検出抗体」と称する。捕捉抗体の場合と同様に、検出抗体として用いうる抗体の種類にも、事実上何らの制限もかからない。しかし、当業者はまた、検出抗体が、(i)捕捉抗体により覆われない抗原の領域に結合しなければならず、(ii)抗原結合部位だけでなく、捕捉抗体によって捕捉される抗原に結合する抗体の検出を可能とするように、前記抗体の高アフィニティーの結合を示す試薬により特異的に検出されうる、検出可能なタグ、基質修飾酵素またはさらなる領域(群)を含まなくてはならないことを理解し得る。
前記試薬により特異的に結合されうる、前記さらなる領域は、免疫グロブリン分子の定常領域に対応することが好ましい。
【0098】
好ましい実施形態では、捕捉抗体が、アミロイドベータペプチドのN末端領域に対して特異的な抗体である。さらにより好ましい実施形態では、前記捕捉抗体が、Abeta40またはAbeta42のアミノ酸1〜16の範囲内に位置するエピトープに対して特異的な抗体である。特に好ましい捕捉抗体は、Kim, K.S. (Neuroscience Res. Comm. 1988、2: 121〜130頁)により説明されている、6E10モノクローナル抗体である。
【0099】
別の好ましい実施形態では、検出抗体が、アミロイドベータペプチドのC末端領域に位置するエピトープに対して特異的な抗体である。前記で説明した通り、検出抗体の性質は、検出されるアミロイドベータ分子種の数に応じて、当業者が十分に選択することができる。
【0100】
Aβ40を特異的に検出または決定するために、捕捉抗体は、Aβ40のN末端領域を(および、いずれのペプチドも同一のN末端領域を有するので、また、Aβ42のN末端領域も)認識する抗体であることが可能であり、検出抗体は、Aβ42と交差反応することなしにAβ40のC末端領域を特異的に認識する抗体でありうる。代替的に、Aβ42と交差反応することなしに、Aβ40のC末端領域を認識する捕捉抗体と、Aβ40およびAβ42の両方に共通なAβ40の領域、好ましくはAβ42/Aβ40のN末端領域を認識する検出抗体とを用いて、Aβ40を特異的に検出することもできる。
【0101】
Aβ42を特異的に検出または決定するために、捕捉抗体は、Aβ42のN末端領域を(および、いずれのペプチドも同一のN末端領域を有するので、また、Aβ40のN末端領域も)認識する抗体であることが可能であり、検出抗体は、Aβ40と交差反応することなしにAβ42のC末端領域を特異的に認識する抗体でありうる。代替的に、Aβ42のC末端領域を認識する捕捉抗体と、Aβ42およびAβ40の両方に共通なAβ42の領域を認識する検出抗体とを用いて、Aβ42を特異的に検出することもできる。
【0102】
Aβ42およびAβ40を同時に検出または決定するために、捕捉抗体は、Aβ42およびAβ40に共通なN末端領域を認識する抗体であることが可能であり、検出抗体は、第1の抗体が、Aβ40と交差反応することなしにAβ42のC末端領域を特異的に認識し、第2の抗体が、Aβ42と交差反応することなしにAβ40のC末端領域を特異的に認識する、少なくとも2つの抗体の組合せでありうる。代替的に、捕捉抗体は、Aβ42およびAβ40に共通なN末端領域を認識する抗体であることも可能であり、検出抗体は、Aβ40およびAβ42の両方のC末端領域を認識する抗体であることも可能である。代替的に、Aβ40と交差反応することなしにAβ42のC末端領域を特異的に認識する第1の抗体と、Aβ42と交差反応することなしにAβ40のC末端領域を特異的に認識する第2の抗体とを含む、少なくとも2つの抗体の混合物を捕捉抗体として用い、Aβ42およびAβ40の両方に共通なN末端領域を認識する検出抗体を用いて、Aβ42およびAβ40を同時に検出することもできる。代替的に、Aβ40およびAβ42の両方のC末端領域を認識する抗体を捕捉抗体として用い、Aβ42およびAβ40の両方に共通なN末端領域を認識する検出抗体を用いて、Aβ42およびAβ40を同時に検出することもできる。
【0103】
Aβ40およびAβ42に特異的な抗体、ならびにそれらを調製する方法については、それらの内容が参照により本明細書に組み込まれる、WO2004024770およびWO2004098631において、詳細に説明されている。
【0104】
検出抗体および/または捕捉抗体は、それらを調製するのに用いられるポリペプチド配列を含むポリペプチドを用いて、アフィニティー精製しておくことができる。
【0105】
上述の通り、検出抗体は、検出可能なタグ、または基質修飾酵素へと直接的に連結することができる。検出抗体に対してアフィニティーを示す試薬を用いうることが好ましく、この場合は、検出抗体の代わりに、検出可能なタグまたは基質修飾酵素で標識された前記試薬という。さらに、抗体結合試薬を、結合対の第1のメンバーに連結することもでき、この場合、検出抗体は、検出可能なタグまたは基質修飾酵素に連結しうる結合対の第2のメンバーとなる。
【0106】
抗体結合試薬は、非共有結合により、抗体もしくは抗体断片の特定の種類に結合する場合もあり、抗体もしくは抗体断片の特定のクラスに結合する場合もあり、および/または抗体もしくは抗体断片の特定のサブクラスに結合する場合もある。代替的に、抗体結合試薬は、非共有結合により、特定の抗原に特異的な抗体に結合する場合もある。ある実施形態では、抗体結合試薬が、非共有結合により、検出抗体のFc領域またはF(ab)領域に結合する。好ましい抗体結合試薬には、プロテインA、プロテインG、プロテインV、プロテインL、抗Fc抗体または抗Fc抗体結合断片、およびFc受容体(FcR)またはその抗体結合断片が含まれる。非共有結合により検出抗体に結合しうる抗体の非限定的な例には、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、多重特異性抗体、ヒト抗体、ヒト化抗体、キメラ抗体、単一ドメイン抗体、単鎖Fv (scFv)、単鎖抗体、Fab断片、F(ab')断片、ジスルフィド結合により連結したFv (sdFv)、イントラボディー、および抗イディオタイプ(抗Id)抗体、ならびに前記のうちのいずれかのエピトープ結合断片が含まれる。Fc受容体の非限定的な例には、FcγRI、FcγRIIA、FcγRIIB、FcγRIIC、FcγRIIIAα、FcγRIIIB、FcεRIα、FcεRIξ、およびFcγRIIIAξが含まれる。
【0107】
検出において用いるのに適する結合対には、
・ハプテンまたは抗原/抗体、例えば、ジゴキシンおよび抗ジゴキシン抗体、
・ビオチンまたはビオチンアナログ(例えば、アミノビオチン、イミノビオチン、またはデスチオビオチン)/アビジンまたはストレプトアビジン、
・糖/レクチン、
・酵素および共因子、
・葉酸(folic acid/folate)、
・タンパク質/転写因子に選択的に結合する二本鎖オリゴヌクレオチド、
・核酸または核酸アナログ/相補的核酸、
・受容体/リガンド、例えば、ステロイドホルモン受容体/ステロイドホルモン
が含まれる。
【0108】
結合対についての「第1」および「第2」という用語は相対的なものであり、前記のメンバーの各々を、該結合対の第1のメンバーとみることもでき、第2のメンバーとみることもできると理解される。好ましい実施形態では、結合対の第1のメンバーが、ビオチンまたは機能的に同等なそのバリアントであり、該結合対の第2のメンバーが、アビジン、ストレプトアビジン、または機能的に同等なそのバリアントである。
【0109】
好ましい実施形態では、結合対の第2のメンバーが、ストレプトアビジンである。
【0110】
適切な検出可能なタグには、限定なしに述べると、蛍光部分(例えば、フルオレセイン、ロダミン、フィコエリトリン、クマリン、オキサジン、レソルフィン、シアニン、およびこれらの誘導体)、発光部分(例えば、Quantam Dot Corporation、Palo Alto、CAにより販売されているQdot (商標)ナノ粒子)が含まれる。
【0111】
適切な基質修飾酵素とは、例えば、活性化剤、基質、増幅剤などを添加すると、検出可能なシグナルを発生させることが可能な酵素である。本発明の検出可能なタグとして適切な酵素、および対応する基質には、
・アルカリホスファターゼ:
・比色基質: p-ニトロフェニルホスフェート(p-NPP)、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルホスフェート/ニトロブルーテトラゾリウム(BCIP/NPT)、ファーストレッド/ナフトール-AS-TSホスフェートに基づく基質;
・蛍光基質: 4-メチルウンベリフェリルホスフェート(4-MUP)、2-(5'-クロロ-2'-ホスホリルオキシフェニル)-6-クロロ-4-(3H)-キナゾリノン(CPPCQ)、3,6-フルオレセインジホスフェート(3,6-FDP)、Fast Blue BB、Fast Red TR、またはFast Red Violet LBジアゾニウム塩;
・ペルオキシダーゼ:
・2,2-アジノビス(3-エチルベンゾチアゾリン-6-スルホン酸)(ABTS)、o-フェニレンジアミン(OPT)、3,3'5,5'-テトラメチルベンジジン(TMB)、o-ジアニシジン、5-アミノサリチル酸、3-ジメチルアミノ安息香酸(DMAB)および3-メチル-2-ベンゾチアゾリンヒドラゾン(MBTH)、3-アミノ-9-エチルカルバゾール(AEC)、および3,3'-ジアミノベンジジンテトラヒドロクロリド(DAB)に基づく比色基質;
・蛍光基質:4-ヒドロキシ-3-メトキシフェニル酢酸、還元フェノキサジン、およびAmplex (登録商標) Red試薬、Amplex UltraRedを含めた還元ベンゾチアジン、および還元ジヒドロキサンテン;
・グリコシダーゼ:
・比色基質:β-D-ガラクトシダーゼに対する、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド(o-NPG)、p-ニトロフェニル-β-D-ガラクトシド、および4-メチルウンベリフェニル-β-D-ガラクトシド(MUG);
・蛍光基質:レソルフィンβ-D-ガラクトピラノシド、フルオレセインジガラクトシド(FDG)、フルオレセインジグルクロニド、4-メチルウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド、カルボキシウンベリフェリルβ-D-ガラクトピラノシド、およびフッ素化クマリンβ-D-ガラクトピラノシド;
・オキシドレダクターゼ(ルシフェラーゼ):
・発光基質:ルシフェリン
が含まれる。
【0112】
本発明のキット
本発明はまた、本発明の方法を実施するのに適するキットも提供する。したがって、別の態様では、本発明が、生体試料においてアミロイドベータペプチドを決定するためのキットであって、
(i)タンパク質可溶化剤と、
(ii)アミロイドベータペプチドに対する少なくとも1つの抗体と
を含むキットを提供する。
【0113】
キットの構成要素(i)および(ii)は、本質的に、本発明の方法に関して説明した通りである。好ましい実施形態では、タンパク質可溶化剤が、洗浄剤である。さらにより好ましい実施形態では、洗浄剤が、Tween 20である。
【0114】
別の好ましい実施形態では、アミロイドベータペプチドに対する少なくとも1つの抗体が、
(i)アミロイドベータペプチドのN末端領域に対する抗体;
(ii)アミロイドベータペプチドのC末端領域に対する抗体;および
(iii)アミロイドベータペプチドのN末端領域に対する抗体と、アミロイドベータペプチドのC末端領域に対する抗体との組合せ
の群から選択される。
【0115】
さらにより好ましい実施形態では、本発明のキットが、ABETA40およびABETA42のアミノ酸1〜16の範囲内に位置するエピトープに対する、アミロイドベータペプチドのN末端領域に対する抗体を含む。別の好ましい実施形態では、本発明のキットが、
(i) ABETA40と実質的に交差反応することなしにABETA42に特異的に結合する、ABETA42ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製されるポリクローナル抗体;
(ii) ABETA42と実質的に交差反応することなしにABETA40に特異的に結合する、ABETA40ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製されるポリクローナル抗体;
(iii) ABETA40およびABETA42両方のC末端領域を同時に認識する抗体;ならびに
(iv) (i)および(ii)の下にある抗体の組合せ
の群から選択される、アミロイドベータペプチドのC末端領域に対する抗体を含む。
【0116】
好ましい実施形態では、本発明のキットが、固体の支持体をさらに含む。本明細書で用いられる「支持体」または「表面」という用語は、ストリップ、ロッド、ラテックス粒子、磁気粒子、マイクロ粒子を含めた粒子、ビーズ、膜、マイクロ滴定ウェル、およびプラスチック製の試験管などの多数の形態のうちのいずれかを有しうる、多孔性または非多孔性の、水には不溶性の材料である固相を指す。それが、十分な量の捕捉抗体に結合することが可能である限りにおいて、原則としては任意の材料が固体の支持体として適する。したがって、固相材料の選択は、所望されるアッセイフォーマットの性能特性に基づき決定される。固体の支持体に適する材料には、ポリマー材料、特に、セルロース材料、および紙、例えば、濾紙、クロマトグラフィー用紙、グラスファイバー紙などを含有する繊維など、セルロースに由来する材料;ニトロセルロース、酢酸セルロース、ポリ(塩化ビニル)、ポリアクリルアミド、架橋デキストラン、アガロース、ポリアクリル酸、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(4-メチルブテン)、ポリスチレン、ポリメタクリル酸、ポリ(テレフタル酸エチレン)、ナイロン、ポリ(酪酸ビニル)などの合成ポリマーまたは改質天然ポリマー(これら単独で使用されるか、他の材料と組み合わせて使用される);ガラス、例えば、バイオガラスとして入手可能なガラス、セラミックス、金属などが含まれる。スチレンおよびカルボキシル化スチレンの非架橋ポリマー、アミノ基、ヒドロキシル基、ハロ基など、他の活性基により官能化されたスチレンが好ましい。場合によっては、ブタジエンなどのジエンで置換したスチレンのコポリマーも用いられる。
【0117】
固体の支持体と抗体とを、キット内で個別に提供することもでき、代替的に、支持体を、あらかじめ捕捉抗体でプレコーティングして販売することもできる。この場合は、捕捉抗体を結合させた後に、支持体を、ブロッキング液で処理しておくことができる。
【0118】
キットのさらなる構成要素には、
・患者から、解析される試料を取り出すための手段;
・アミロイドベータペプチドの検量線を作成するのに必要とされる、緩衝液および溶液;
・アッセイにおいて、固体の支持体を洗浄およびブロッキングするための緩衝液および溶液;
・固体の支持体をコーティング抗体でコーティングするための緩衝液および溶液;
・検出可能なタグから、有色シグナルまたは蛍光シグナルを発生させるための試薬;
・検出可能なタグからの、有色シグナルまたは蛍光シグナルの形成を停止させるための試薬;
・Aβ40ペプチドもしくはAβ42ペプチド、またはこれらの組合せによる原液を含有する試料
が含まれうる。
【0119】
好ましい実施形態では、本発明のキットが、ELISAサンドウィッチアッセイで用いられうる2つの抗体を含む。この場合は、抗体のうちの1つである捕捉抗体を、固体の支持体へと固定化させる。固定化は、検出される標的ポリペプチドを結合させる前に実施することもでき、ペプチド/タンパク質を捕捉抗体に結合させてから実施することもできる。いずれにせよ、固体の支持体を用いる場合は、決定される標的ポリペプチドを含有する試料を添加する前に、担体における過剰なタンパク質結合部位をブロッキングすることが好都合である。各結合反応の後で複合体を洗浄するのに用いられ、約0.05%〜10%、好ましくは1〜5%、より好ましくは約3%の濃度で高分子化合物(例えば、ウシ血清アルブミン、脱脂粉乳、ウェスタンブロット用のブロッキング試薬、カゼイン、ラクトアルブミン、オボアルブミン)を補充したものと同じ緩衝液(例えば、50mMのトリス-HCl、pH8、場合によって、Tween 20を含むPBSまたはTBS)を用いて、支持体上のペプチド結合部位のブロッキングまたはクエンチングを実施することが好ましい。
【0120】
以下では、例示的であるとだけみなされ、本発明の範囲について限定的であるとはみなされない、後続の実施例により、本発明を説明する。
【0121】
(実施例)
(実施例1)
被験集団
研究には、40例の被験者: 16例の健常対照(HC)、8例の健忘性軽度認知障害患者(MCI)、および16例のアルツハイマー病患者(AD)を組み入れた。すべての被験者が65歳を超え、各群に各性別が50%ずつ存在した。被験者の人口学的特徴を、表2にまとめる。
【0123】
健常対照は、記憶の愁訴がなく、神経心理学的検査における結果が正常であり、定量的磁気共鳴造影(MRI)で構造的変化が認められない、地元のコミュニティーに在住し、社会的に活動的なボランティア被験者から注意深く選択した。
【0124】
MCIを有する被験者は、Mayo Clinic基準を満たした。加えて、MCI被験者の選択には、CDRが0.5ポイントであり、Scheltens (J. Neurol. Neurosurg Psychiatry. 1992、55: 967〜972頁)スケールで、側頭葉内側部萎縮が3ポイントを超え、18-フルオロデオキシグルコースによる陽電子放射断層撮影(PET-FDG)により、頭頂葉および/または側頭葉において、ADへの転換を示唆する代謝低下のパターンが見られることが要件とされた。MCIを引き起こす可能性がありうる、潜在的な神経変性疾患以外の任意の精神病態または全身病態を有する患者は除外した。
【0125】
AD群に特異的な組入れ基準は、ADの蓋然性についての診断(NINCDS-ADRDA基準)、CDRが1ポイントであること、MMSEが16〜24ポイントであること、およびScheltensスケールで、側頭葉内側部萎縮が3ポイントを超えることであった。
【0126】
MCIおよびADを診断するための認知検査は、別所で説明されているACE Memory Clinicによるルーチンに従い実施した。
【0127】
すべての被験者から(または、何人かのAD患者の場合、該被験者の最近親者を介して)、説明同意文書を得た。研究プロトコールは、Ethical Committee of the Hospital Clinic i Provincial (Barcelona、Spain)により改訂され、承認された。
【0128】
(実施例2)
試料の調製
被験者から採取した血液各10mlに、Roche CompleteMiniのペレット(プロテアーゼ阻害剤)を添加する。血液は、直接スピンするか、または4℃で保存し、アッセイの当日に遠心分離する。
【0129】
細胞画分から血漿を分離し、この血漿を回収し、エッペンドルフ試験管における0.5mlずつのアリコートへと分割する。これらのアリコートは、-80℃で保存しうる。
【0130】
以下で説明する通りに得られる、希釈していない清明な血漿において直接に、血漿中の遊離アミロイド(1ab40および1ab42)を決定する。以後、これらのパラメータを、Aβ(1〜40)については、1ab40またはUP (希釈していない血漿)Aβ(1〜40)、Aβ(1〜42)については、1ab42またはUP Aβ(1〜42)と称する。
【0131】
150μlの血漿を、300μlの希釈緩衝液(0.5% Tween-20を含有するPBS)中で希釈することにより得られる試料において、血漿中の遊離アミロイド、および血漿コンポーネントに会合したアミロイドに対応する、全血漿アミロイドを決定する。以後、これらのパラメータを、Aβ(1〜40)については、2ab40またはDP (希釈した血漿)Aβ(1〜40)、Aβ(1〜42)については、2ab42またはDP Aβ(1〜42)と称する。
【0132】
血漿の細胞画分を、希釈緩衝液(0.5% Tween-20を含有するPBS)中で1/5のv/vに希釈することにより、細胞に結合したアミロイドベータを決定する。以後、これらのパラメータを、Aβ(1〜40)については、3ab40またはCB (細胞に結合した)Aβ(1〜40)、Aβ(1〜42)については、3ab42またはCB Aβ(1〜42)と称する。
【0133】
(実施例3)
試料処理の条件
試料の希釈
ELISAアッセイで最高の吸光度をもたらす試料の希釈率を同定するために、異なる希釈率および緩衝液を調べた。
【0134】
試料は、1/2、1/3、1/4、1/5、および1/10に希釈した。1/4以上に希釈すると、試料の吸光度が低下することが観察された。最良の希釈率は、1/2および1/3である。
【0135】
試料の遠心分離
免疫学的検出に干渉しうる粒子コンポーネントを除去するため、13,000rpmで1分間にわたる遠心分離により、試料を清明化することができる。上清は、回収して直接調べることもでき、前記で説明した通りに希釈することもできる。
【0136】
試料の超音波処理
5分間〜10分間にわたり、試料を超音波処理することができる。超音波処理した試料をELISAアッセイで直接用いることもでき、13000rpmで1分間にわたりスピンして、上清をELISAアッセイで直接用いることもできる。超音波処理した試料はまた、前出の例で規定した十分な緩衝液を用いて希釈することもできる。
【0137】
試料のあらかじめの清明化
Fukomotoら(Arch. Neurol. 2003、60: 958〜964頁)により説明されている通り、潜在的な夾雑物を本質的に除去するため、試料に、Sepharose 4B-IgGKカラムを流過させた。
【0138】
Sepharose 4B-IgGKカラムは、以下の手順:
・500μlのIgG1k (0.6mg)および1.5mlの結合緩衝液を用いて、IgG1k (MW=150,000)を、結合緩衝液(0.1MのNaHC0
3、pH8.3および0.5MのNaCl) (300mgのアガロースに対して1.5ml)中に溶解させた;
・1mMのHCl (樹脂300mgごとに60mlずつ)で、樹脂を洗浄した;
・リガンドを、酸で洗浄した樹脂と混合し、一定の振とうを伴いながら、4℃で一晩にわたりインキュベートした(代替的に、インキュベートは、室温で2時間にわたり実施することができる);
・次いで、5カラム容量の結合緩衝液を用いて、過剰なリガンドを洗い流す;
・次いで、樹脂中で反応しなかった活性基を、0.1Mのトリス-HCl、pH8により、振とう下の室温で2時間にわたりブロッキングする;
・0.1Mのトリス-HCl、pH8 + 0.5MのNaCl、0.1Mの酢酸ナトリウム、pH4 + 0.5MのNaClを交互に用いる3つのサイクルにより、樹脂を洗浄した;
を用いて、CNBr活性化セファロースを、IgG1kと反応させることにより調製した。
【0139】
Sepharose 4B-IgGKが得られてからの試料の処理は、以下:
・300μlの血漿を、525μlの試料緩衝液、および75μlのアガロース-IgG1kと接触させ、一定に振とうしながら、4℃で2時間にわたりインキュベートするステップと;
・遠心分離(1000rpmで5分間にわたる)によりアガロースを除去するステップと;
・アミロイドベータペプチドのN末端に特異的な捕捉抗体を吸着させたマイクロ滴定プレートのウェルに、処理された試料100μlずつを添加し、4℃で一晩にわたりインキュベートしておくステップと;
・Aβ40に特異的な抗血清またはAβ42に特異的な抗血清(1/4000)を、ウェルに添加し、室温および一定の振とう下で1時間にわたりインキュベートすることによるELISAアッセイを介して、清明化した試料中に存在するアミロイドベータペプチドの量を決定するステップと;
・次いで、試料を、希釈率1/5000のビオチニル化抗ウサギ抗体と共に、室温および一定の振とう下で1時間にわたりインキュベートするステップと;
・次いで、試料を、1/4000のペルオキシダーゼを連結したストレプトアビジンと共に、室温および振とう下で1時間にわたりインキュベートするステップと;
・次いで、暗所で30分間にわたり、TMBにより反応を現像するステップと;
・停止溶液により現像反応を停止し、450nmにおける吸光度を読み取るステップと
を含む。
【0140】
アルブミンおよびIgGの除去
試料に、アルブミンに結合しIgGに結合するカラムを流過させた。アミロイドペプチドが見出される画分を同定するために、流過物をアッセイした。製造元の指示書に従い、「ProteoExtract Albumin Removal Kit」(CALBIOCHEM)を用いて、アルブミンを除去する。
【0141】
製造元の指示書に従い、プロテインAカラム(Protein A Sepharose 4 Fast Flow; Amersham Biosciences)を用いて、IgGを除去する。
【0142】
試料の濃縮
カットオフを10000とするMicroconにより、試料を濃縮した。アミロイドペプチドが、流過物中に回収されるのに対し、高分子量のタンパク質は、貯留物中に回収される。
【0143】
異なる処理プロトコールの効果は、以下の通り:
・洗浄剤: Tween-20は、吸光度値の上昇をもたらす洗浄剤である。Tween-20の濃度を0.05%から0.1%へと上昇させたところ、何らの効果も観察されなかった。
・pH:良好な結果をもたらすpH値は、7および8であった。Aβ40を決定する場合は、pH=9でもまた、十分な吸光度値が観察された。Aβ42を決定する場合は、pH9およびpH5で、十分な吸光度値が得られた。
・変性条件: 0.5Mもしくは1MのGuHCl、または10%のDMSOは、吸光度値の改善を結果としてもたらさなかった。
・塩: NaClを用いた場合は、KClを用いた場合と比較して、より高い吸光度値が得られた。
・BSA: BSA濃度を0.05 %から0.5%へと上昇させたところ、吸光度値に何らの変化も観察されなかった。
・超音波処理:吸光度を決定する前に試料を超音波処理したところ、何らの差違も観察されなかった。
・あらかじめの清明化:試料を、Sepharose 4B-IgGkで前処理したところ、何らの効果も観察されなかった。
・アルブミンおよびIgGの除去:アミロイドペプチドは、IgGとは会合するが、アルブミンとは会合しないと考えられる。
・濃度:アミロイドペプチドは、主に貯留物中に現れる。
にまとめることができる。
【0144】
(実施例4)
ビオチン-ストレプトアビジンによる増幅を伴う、比色サンドウィッチELISA
感度を増大させるため、ビオチン-ストレプトアビジンを用いて、シグナルを増幅することができる。アミロイドAβ40ペプチドおよびアミロイドAβ42ペプチドの両方におけるアミノ酸1〜17を認識する捕捉抗体である6E10 mAbを用いて、プレートをコーティングした。コーティングは、100mMの炭酸/重炭酸緩衝液、pH=9.6中に5μg/mlの濃度、4℃で一晩にわたり実施した。次いで、プレートを、300μlのブロッキング溶液(50mMのトリス-HCl、pH8、0.2%のTween-20、0.5%のBSA)により、振とうしながら室温で3時間にわたり、または37℃で2時間にわたりブロッキングした。必要な場合は、ブロッキングの後、プレートを、20mg/mlのトレハロースを含有する、50mMのトリス-HCl溶液100μl、pH8で処理することができる。トレハロースの白色のハロ特徴が現れるまで、プレートを放置して蒸発させた。このように処理したプレートを、アルミホイルで覆い、4℃で保存することができ、2年間にわたり安定である。
【0145】
検量線試料は、6E10 mAbでコーティングし、トレハロースで処理したプレート上で、200pg/mlずつのペプチドAβ40およびAβ42の原液から調製した。これらの溶液から、200、100、50、25、12.5、6.25、および3.125pg/mlの濃度をもたらすように、SDB中に1:2の希釈系列を作製した。SDB中の希釈試料(1/1,000,000)または非希釈試料の各々を100μlずつ添加し、4℃で一晩にわたり(または37℃で2時間にわたり)インキュベートする。実施例1で説明した通りに、被験試料における血漿中の遊離アミロイド、全血漿アミロイド、および細胞に結合したアミロイドを決定するための試料を調製し、検量線試料の場合と同じ条件を用いて、ELISAプレートのウェルへと添加する。SDB中で希釈した検出抗体(Aβ42を検出するか、またはAβ40を検出するかに応じて、Aβ42ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製したポリクローナル抗体、またはAβ40ペプチドのC末端領域に対応するペプチドに対して調製したポリクローナル抗体)を添加した。各ウェルに100μlずつを添加し、室温で1時間にわたりインキュベートした。次に、ビオチンで標識した抗ウサギIgG抗体(SIGMA)の、SDB中に1/5000の希釈液100μlを添加し、振とうしながら室温で1時間にわたりインキュベートした。次いで、HRPを連結したストレプトアビジン(SIGMA)の、SDB中に1/4000の希釈液100μlを各ウェルに添加し、室温で1時間にわたりインキュベートした。
【0146】
比色基質であるTMB (ZEU Immunotec) 100μlを用いて、プレートを現像した。TMBを添加し、暗所で15〜30分間にわたりインキュベートした。停止溶液として、ウェル1個当たり50μlずつの1N H
2SO
4を添加した。プレートリーダーであるSynergy HT (BioTek Instruments)により、450nmにおける吸光度を読み取った。
【0147】
調製ステップにおいて実施した希釈を相殺するために、全血漿アミロイド(血漿コンポーネントに結合したアミロイドと併せた、遊離血漿アミロイド)を決定するのに用いた試料から得られる濃度値(pg/ml)を補正した。希釈率は、典型的に1:3の希釈率(実施例1を参照されたい)としたので、血漿中の遊離アミロイド、および血漿コンポーネントに結合したアミロイドの実際の凝集濃度を決定するためには、吸光度のリードアウトから得られるpg/ml値に、3を乗じなければならなかった。同様に、調製ステップにおいて実施した希釈を相殺するために、細胞に結合したアミロイドを決定するのに用いた試料から得られた吸光度値から求められるpg/ml値を補正した。希釈率は、典型的に1:5 (実施例1を参照されたい)としたので、細胞に結合したアミロイドの実際の濃度を決定するためには、吸光度のリードアウトから得られるpg/ml値に、5を乗じなければならなかった。
【0148】
各ステップの間では、各回5回ずつのすすぎを実施するようにプログラムした自動プレート洗浄機(Elx50 BioTek Instruments)を用いて、プレートを洗浄した。洗浄液は、50mMのトリス-HCl、pH8、0.05%のTween-20、および150mMのNaCl (使用前に濾過した)を含有した。
【0149】
(実施例5)
蛍光サンドウィッチELISAアッセイ
重炭酸緩衝液中の6E10 (5μg/ml)により、4℃で一晩にわたり、プレートをコーティングした。次いで、プレートを、振とうしながら、室温で3時間にわたりブロッキングした(ウェル1個当たり300μl)。次いで、被験試料および検量線試料をプレートに添加し、4℃で一晩にわたりインキュベートした。検出抗体(抗Aβ40血清または抗Aβ42血清)の1/4000希釈液を各ウェルに添加し、振とうしながら室温で1時間にわたりインキュベートした。FITCを連結した抗体の希釈系列(1/1000、1/5000、1/10000の希釈液)を添加し、暗所の室温で1時間にわたりインキュベートした。蛍光は、485nmの励起波長、および528nmの発光波長を用いた。
【0150】
代替的には、ELISAアッセイの感度を増大させる、Quanta-Blu (PIERCE)蛍光基質を用いて、アッセイを実施する。最大励起波長は325nmであり、最大発光波長は、420nmである。315〜340nmの励起波長範囲、および370〜470nmの発光波長範囲で、蛍光を検出することができる。QuantaBlu Substrate Solutionを、QuantaBlu Stable Peroxidase Solutionと9:1で混合することにより、QuantaBlu Working Solutionを調製する(室温で24時間にわたり安定な溶液)。これを、室温で1.5分間〜90分間にわたりインキュベートすることができ、反応を停止させて読み取りを行うこともでき、反応を停止させることなしに読み取りを行うこともできる(青色が発生する)。
【0151】
プレートを、重炭酸緩衝液中の6E10 mAb (5μg/ml)により、4℃で一晩にわたりコーティングし、次いで、振とうしながら、室温で3時間にわたりブロッキングする(ウェル1個当たり300μl)。次いで、以下のAβ42ペプチドおよびAβ40ペプチドの濃度:
・1000、500、250、125、62.5、31、25、および15.65pg/mL
・200、100、50、25、12.5、6.25、および3.125pg/mL
・25、12.5、6.25、3.125、1.56、0.78、および0.39pg/mL
・10、5、2.5、1.25、0.625、0.3125、および0.156pg/mL
・5、2.5、1.25、0.625、0.3125、0.156、および0.078pg/mL
・1、0.5、0.25、0.125、0.0625、0.03125、および0.0156pg/mL
により、異なる検量線を作成する。
【0152】
検出抗体(抗Aβ40血清または抗Aβ42血清)を(1/4000に希釈して)添加し、室温で1時間にわたり、振とうする。次いで、1/1000希釈のHRPを連結した抗ウサギIgGを添加し、振とうしながら、室温で1時間にわたりインキュベートする。反応を現像するため、100μlのQuanta-Blue Working Solutionを添加し、次いで、暗所の室温で30分間、60分間、および90分間にわたりインキュベートする。次いで、30分後、60分後、および90分後に反応を停止させずに、または停止溶液により反応を停止させて、蛍光を読み取る(励起波長: 360/40nm;発光波長: 460/40nm)。
【0153】
(実施例6)
Aβ40およびAβ42の検量線の作成
Aβ40の検量線を作成するために、ヒトAβ40の凍結乾燥させた試料を、10μg/mLへと再構築した。原液から、以下の濃度(pg/mL単位): 25,000pg/ml、2,500pg/ml、25pg/ml、12.5pg/ml、6.25pg/ml、3.125pg/ml、1.56pg/ml、0.78pg/mlを含有する試料を調製した。試料は、1mMのプロテアーゼ阻害剤AEBSFの存在下で調製した。次いで、前出の例で規定した方法に従い、試料を処理した。
【0154】
Aβ42の検量線を作成するために、ヒトAβ42の凍結乾燥させた試料を、10μg/mLへと復元した。原液から、以下の濃度(pg/mL単位): 25,000pg/ml、2,500pg/ml、25pg/ml、12.5pg/ml、6.25pg/ml、3.125pg/ml、1.56pg/ml、0.78pg/mlを含有する試料を調製した。試料は、1mMのプロテアーゼ阻害剤AEBSFの存在下で調製した。次いで、前出の例で規定した方法に従い、試料を処理した。
【0155】
(実施例7)
統計学的解析
原点を通る45度の直線(コンコーダンスライン)からのばらつきを測定することにより、同じ試料に由来する、本発明者ら自身の読み取り、および2つの外部研究室により報告される読み取りである、3つの測定値間の一致を評価する、一致相関係数(CCC)により、無作為に選択した16例の試料に由来する測定値の、研究室間再現性を評価した。異なる日に得られる、同じ個体の試料が互いに類似する程度(対象内の再現性)は、クラス内相関係数(ICC)により評価した。これらの相関係数により推定される一致度を、低度の一致(0.21〜0.40)、中程度の一致(0.41〜0.60)、実質的な一致(0.61〜0.80)、およびほぼ完全な一致(0.81〜1.00)として記載した。マン-ホイットニーによるU検定を用いて、異なる診断群におけるAβレベルを比較した。連続変数間の相関を評価するには、スピアマン解析を用いた。帰無仮説の棄却には、p < 0.05を必要とした。診断確度の尺度を含め、すべての統計学的解析は、SAS 9.1ソフトウェアにより実施した。
図1〜3のグラフは、PASW統計ソフトウェアにより作成した。
【0156】
AD患者、MCI患者、およびHC患者間のスクリーニング検査におけるアミロイドベータペプチドマーカーの妥当性および信頼性について、以下の指標を評価した。
【0157】
表示され、決定されたマーカーの各々について、以下に詳述する解析を実施し、被験者を、健常対照-AD間、健常対照-MCI間、およびMCI-AD間で分類した。
【0161】
妥当性についての特性
感度:感度とは、病者の個体を適正に分類する確率、すなわち、検査において病者の対象について陽性の結果を得る確率である。したがって、感度とは、検査が疾患を検出する能力である。
【0163】
特異度:特異度とは、健常者の個体を適正に分類する確率、すなわち、健常者の対象について陰性の結果を得る確率である。言い換えれば、健常者を検出する能力として特異度を名指すことができる。
【0165】
信頼性についての特性:
陽性適中率:陽性適中率とは、検査において陽性の結果が得られる場合に疾患を有する確率である。したがって、陽性適中率は、検査において陽性の結果を伴う患者で、最終的に病気となった患者の比率から推定することができる。
【0167】
陰性適中率:陰性適中率とは、検査において陰性の結果を伴う対象が、実際に健常である確率である。真の陰性数を、検査において陰性の結果を伴う患者の総数で除することにより、陰性適中率を推定することができる。
【0169】
感度、特異度、および適中率の概念に加えて、尤度比、確率比、またはオッズ比の概念もまた考慮される。後者は、疾患の存在または非存在に従って、特定の(陽性または陰性)の結果がそれだけ起こりやすくなる度合いを測定する。
【0170】
陽性の尤度比または陽性のオッズ比:病気の患者における陽性結果の確率を、健常者における陽性結果の確率で除することにより、陽性の尤度比または陽性のオッズ比を計算する。要するに、それは、真の陽性の割合(感度)と、偽陽性の割合(1-特異度)との比である。
【0172】
陰性の尤度比または陰性のオッズ比:疾患の存在下における陰性結果の確率を、疾患の非存在下における陰性結果の確率で除することにより、陰性の尤度比または陰性のオッズ比を計算する。したがって、それは、偽陰性の割合(1-感度)と、真の陰性の割合(特異度)との比として計算する。
【0174】
ROC曲線は、95%のCIを伴うグラフの平均、および、ROC曲線下面積により示し、95%のCIを伴う(病者/健常者の)患者についてのパラメータ、ならびに感度、特異度、陽性適中率、および陰性適中率による実際の分類は、表により示す。
【0175】
すべての統計学的検定は、0.05の有意性レベルで実施した。
【0176】
(実施例8)
Aβ測定値の検査室間における再現性
任意の被験者から無作為に選択した16例の試料および抽出物を、2つの外部検査室に送付し、測定値の検査室間における再現性を評価した。すべてのマーカーは、CCCを0.84〜0.99の範囲とする同様の形で挙動し(全体の95% ICを0.73〜0.99の範囲とする)、これは、全例において、実質的な一致〜完全な一致の一致度に対応する(
図1)。
【0177】
各検査室における6つのマーカーについて、三連ウェルについてのばらつきの係数として表現される、平均のアッセイ内の再現性は、4.31、5.83、および8.34 (表6)であった。3つの検査室における検出限界は、Aβ1-40について、5.31、3.63、および1.91pg/ml、およびAβ1-42について、2.37、2.04、および2.45pg/mlであった。
【0179】
(実施例9)
Aβ測定値の個体内の再現性
毎週採取した4つの血液回収物(BS1〜BS4)についてICCにより測定したAβ測定値の再現性は、3つの群におけるすべての直接的マーカーについて、実質的な一致〜完全な一致で変化した(表7)。3つの診断群について平均したところ、高値のICCは、DPにおけるAβ1-40およびAβ1-42の測定値(それぞれ、0.93、95% CI= 0.98〜0.80;および0.93、95% CI= 0.98〜0.78)に対応する。
【0181】
(実施例10)
診断群間における比較
測定値の対象内の再現性が高いことと符合して、被験者についての群間比較は、一部のp値がBSによって若干変化するものの、異なる日(BS1〜BS4)に回収された4つの血液試料において同じパターンに従った。以下の説明は、BS4の測定に基づく。
【0182】
第1の注目すべき結果は、いずれの診断群についても、UPにおいて測定したAβ1-40およびAβ1-42の濃度が、DPにおけるレベルの、それぞれ約1/3および1/4を占めるに過ぎない(表8)ことであった。
【0184】
第2に、血液試料の細胞画分から直接測定されたCBペプチドレベルは、DPにおいて測定されたレベルと同様であった。さらに、Aβ1-40レベルと、Aβ1-42レベルとは、UP、DP、またはCBのいずれで測定する場合にも強く相関した(それぞれ、r= 0.58、0.71、および0.71; p < 0.001)。有意な相関はまた、試料中で直接アッセイされた6つのマーカーによるいずれの対の間でも見出された(UP、DP、CBにおけるAβ1-40およびAβ1-42;表9)。
【0186】
さらに、本発明者らは、MCI患者およびAD患者では、すべてのマーカーのレベルが、健常対照群と比べて上昇することを見出した(
図2、表8)。これらの増大は、3つのAβ1-40マーカー(それぞれ、2.9倍、2.2倍、および1.8倍に増大したUPマーカー、DPマーカー、およびCBマーカー)、および2つの血漿Aβ1-42マーカー(それぞれ、3.1倍および1.8倍に増大したUPマーカーおよびDPマーカー)について、MCI群とHC群との間で統計学的な有意性に到達した。AD群におけるすべてのマーカーの平均レベルは、MCI群におけるその平均レベルと酷似しており、これらの2群の患者間では有意差が見られなかった。同様に、Aβ1-42のCBレベルを除き、AD群とHC群との間でも統計学的な有意差が見出されなかった(
図2)。この有意性の欠如は、おそらく、すべてのマーカーについて、CVがMCI群(n = 8)の1.5〜2.7倍であり、HC群(n = 16)の2.5〜5.7倍であった、AD群(n = 16)における個々の測定値の範囲の大きさ(表8)に起因する可能性が大きかった。
【0187】
Aβ1-40およびAβ1-42についての血漿マーカー(UPマーカーおよびDPマーカーではあるが、CBマーカーではない)のいずれもが、MMSEと有意に相関した(表9)が、部分的には、HC群例が高ポイントにクラスタリングしたための過大評価であった可能性がある。実際、MMSE≧26の被験者を除外すると、その差が統計学的有意性に到達するわけではない(データは示さない)ものの、重度に罹患した患者(MMSE≦21; n = 5)におけるAβ1-40レベルおよびAβ1-42レベルが、中等度に罹患した患者(MMSE: 22〜25; n = 12)におけるレベルより低くなった。加えて、Aβ1-40についてのマーカーではないが、Aβ1-42についての3つのマーカーが、右半球および左半球のいずれにおいても、側頭葉内側部萎縮度と有意に相関することが判明した(表9)。
【0188】
本発明者らはまた、試料において直接アッセイしたマーカーから計算された複数のマーカーについても考慮した。通常のAβ1-42/Aβ1-40比を別にすると、最も興味深いのは、DP Aβ1-40とCB Aβ1-40との合計、およびDP Aβ1-42とCB Aβ1-42との合計であり、これらのそれぞれを、本発明者らは、全Aβ1-40 (T40)および全Aβ1-42 (T42)と称し、これら2つの合計を、本発明者らは、全βAPB (T-βAPB)と称した。UP、DP、またはCBにおいて測定されたAβ1-42/Aβ1-40比は、群間で有意差を示さなかった。しかし、T40、T42、およびT-βAPBは、MCI群において、健常対照群と比べて、それぞれ、2.0倍、1.5倍、および1.8倍に増大した(p≦0.03) (表4)。HC者とAD患者との間でも同様の平均の増大が見出されたが、この場合に統計学的有意性に到達したのは、T42だけであった(
図2)。
【0189】
(実施例11)
直接的マーカーおよび計算マーカーの診断的特徴
前出の例で規定した方法を用いて、表10で言及される直接的パラメータおよび計算パラメータを決定した。
【0191】
前記のパラメータについての適中率を、
(i)アルツハイマー病の診断(健常者に由来する試料を、アルツハイマー病患者に由来する試料と比較すること、AD/HCによる)
(ii)軽度認知障害およびアルツハイマー病の前の段階の診断(健常者に由来する試料を、軽度認知障害を患う患者に由来する試料と比較すること、MCI/HCによる)
(iii)軽度認知障害を、アルツハイマー病から識別すること(軽度認知障害を患う患者に由来する試料を、アルツハイマー病患者に由来する試料と比較すること、MCI/ADによる)
について調べた。
【0192】
Aβ測定値についてのロジスティック解析、およびゴールドスタンダードと考えられる臨床診断により、アッセイの診断特徴を評価した。感度、特異度、陽性適中率(PPV)、陰性適中率(NPV)、確度、および受信者動作特性(ROC)曲線下面積についての結果を、表11に示す。
【0194】
いかなる実際的な見地からしても、診断を改善すべき地点であるために最大の対象となる、MCI患者とHCとの識別に適すると考えられる基準を、直接的マーカーの大半および計算マーカーのうちの2つ(T40およびT-βAPB)が満たした。したがって、CB Aβ1-42を除くすべての直接的マーカーが、ROC≧0.8を示し、これらのうちの4つ(DP Aβ1-40、CB Aβ1-40、UP Aβ1-42、およびDP Aβ1-42)が、> 80%の確度を得たが、これは、臨床におけるゴールドスタンダードと比較して、検査の80%が正確であったことを意味する(
図3)。計算によるT40およびT-βAPBが、MCIとHCとを識別するのに、直接的マーカーより同等に正確であったのに対し、T42の信頼性はこれらより低いと考えられた(
図3)。AD群内の個体によってAβ測定値のばらつきが大きいために、これらのマーカーが、許容可能な感度および特異度により、AD患者を他の2つの群から区別する切断点は見出すことができなかった(
図3)。
【0195】
(実施例12)
最高の感度および特異度を示し、本発明で用いるのに適する他のパラメータには、表12に示すパラメータが含まれる。
【0198】
該方法は、1ab40マーカー(
図4)、2ab40マーカー(
図5)、3ab40マーカー(
図6)、1ab42マーカー(
図7)、2ab42マーカー(
図8)、3ab42マーカー(
図9および10)、2ab40 + 3ab40マーカー(
図11)、2ab42 + 3ab42マーカー(
図12)、2ab42 + 3ab42マーカー(
図13)、および2ab40 + 3ab40 + 2ab42 + 3ab42マーカー(
図14)を用いて、軽度認知障害を、健常者から識別するのに特に有用であることが分かった。