(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745765
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】酸化ジルコニウム及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 25/02 20060101AFI20150618BHJP
C01G 25/00 20060101ALI20150618BHJP
H01M 8/02 20060101ALI20150618BHJP
C04B 35/48 20060101ALI20150618BHJP
C04B 35/626 20060101ALI20150618BHJP
H01M 8/12 20060101ALN20150618BHJP
【FI】
C01G25/02
C01G25/00
H01M8/02 K
C04B35/48 B
C04B35/00 A
!H01M8/12
【請求項の数】35
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2009-524154(P2009-524154)
(86)(22)【出願日】2007年7月24日
(65)【公表番号】特表2010-500957(P2010-500957A)
(43)【公表日】2010年1月14日
(86)【国際出願番号】EP2007057607
(87)【国際公開番号】WO2008019926
(87)【国際公開日】20080221
【審査請求日】2010年4月12日
(31)【優先権主張番号】102006038602.7
(32)【優先日】2006年8月17日
(33)【優先権主張国】DE
(31)【優先権主張番号】102006044824.3
(32)【優先日】2006年9月20日
(33)【優先権主張国】DE
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507239651
【氏名又は名称】ハー.ツェー.スタルク ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】H.C. Starck GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】イェルク ラウベ
(72)【発明者】
【氏名】アルフレート ギューゲル
(72)【発明者】
【氏名】ラルフ オッターシュテット
【審査官】
植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2001−031424(JP,A)
【文献】
特開2006−143551(JP,A)
【文献】
米国特許第05023071(US,A)
【文献】
特開平05−310426(JP,A)
【文献】
特開2003−206137(JP,A)
【文献】
特開平02−145405(JP,A)
【文献】
特開平04−260615(JP,A)
【文献】
特開平07−118016(JP,A)
【文献】
特開平11−035322(JP,A)
【文献】
特開2000−340240(JP,A)
【文献】
特開2002−255556(JP,A)
【文献】
特開2003−020272(JP,A)
【文献】
米国特許第03525597(US,A)
【文献】
M.B. BEARDSLEY, Prepared by Catapillar Inc.,Thick thermal barrier coatings (TTBCs) for low emmission, high efficiency diesel engine components,Final Report, As part of the Ceramic Technology Project of the Materials Development Program, under contract FC05-97OR22580,26 March 2006,pp.1-20,URL,http://www.osti.gov/bridge/servlets/purl/878132-KSSOxH/878132.pdf
【文献】
O. YAMAMOTO et al.,Electrical conductivity of polycrystalline tetragonal zirconia ZrO2-M2O3 (M=Sc,Y,Yb),Journal of Materials Science Letters,1989, Vol.8,pp.198-200
【文献】
水谷 安伸 ほか,高性能電解質材料を用いた固体電解質型燃料電池の研究,エネルギー・資源学会 第13回研究発表会 講演論文集,1994年,第279〜284ページ
【文献】
A. SAMDI et al.,Pressing and sintering behaviour of yttria stabilized zirconia powders prepared from acetate solutions,Journal of the European Ceramic Society,1993, Vol.12,pp.353-360
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C04B 35/48
C04B 35/626
H01M 8/02
H01M 8/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Yb2O3 3〜10mol%を含有しており、かつASTM B 417に従い測定される、1.2〜2.5g/cm3の充填密度を有している、粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項2】
1.3〜1.9g/cm3の充填密度を有する、請求項1記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項3】
Yb2O3 3〜7mol%を含有する、請求項1または2記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項4】
5〜18m2/gのBET比表面積を有する、請求項1から3までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項5】
10〜16m2/gのBET比表面積を有する、請求項1から4までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項6】
単斜晶相の割合を5〜80体積%有する、請求項1から5までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項7】
単斜晶相の割合を20〜80体積%有する、請求項1から6までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項8】
単斜晶相の割合を45〜70体積%有する、請求項1から7までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウム。
【請求項9】
次の工程:
a)化学量論比の酸化ジルコニウム及びYb2O3からなる水性懸濁液を、分散剤による懸濁液の安定化を含め、準備する工程、
b)前記懸濁液を、粉砕助剤の使用下に、使用される固体1kg当たり>0.1kWhの比正味粉砕エネルギーの導入により粉砕することによって均質化する工程、
c)前記懸濁液を≧80℃の温度で乾燥させて均質な酸化物混合物を得る工程、
d)酸化物混合物を少なくとも1200℃の温度で焼結する工程、
e)懸濁液を製造し、かつ工程d)において形成された焼結生成物を、焼結生成物1kgあたり>0.1kWhの比エネルギーの導入により湿式粉砕によって粉砕する工程、
f)前記懸濁液を乾燥させる工程
を有する
ことを特徴とする、請求項1から8までのいずれか1項に記載の粉末状酸化ジルコニウムの製造方法。
【請求項10】
水性懸濁液を製造するために原料として、辺の長さが、a=20〜75nm、b=20〜90nm及びc=20〜75nmである酸化ジルコニウムのクリスタリットを使用する、請求項9記載の方法。
【請求項11】
水性懸濁液を製造するために原料として、辺の長さが、a=30〜50nm、b=45〜60nm及びc=35〜45nmである酸化ジルコニウムのクリスタリットを使用する、請求項9記載の方法。
【請求項12】
水性懸濁液を製造するために原料として、3〜30m2/gのBET比表面積を有する酸化ジルコニウムを使用する、請求項9記載の方法。
【請求項13】
水性懸濁液を製造するために原料として、6〜11m2/gのBET比表面積を有する酸化ジルコニウムを使用する、請求項9記載の方法。
【請求項14】
原料の均質化を、0.2〜1.5kWh/kg固体の比正味粉砕エネルギー導入での湿式粉砕により実施する、請求項9記載の方法。
【請求項15】
原料の均質化を、0.3〜1.0kWh/kg固体の比正味粉砕エネルギー導入での湿式粉砕により実施する、請求項9記載の方法。
【請求項16】
原料の均質化を、0.6〜0.8kWh/kg固体の比正味粉砕エネルギー導入での湿式粉砕により実施する、請求項9記載の方法。
【請求項17】
懸濁液を噴霧乾燥する、請求項9記載の方法。
【請求項18】
焼結を1200〜1350℃の温度で実施する、請求項9記載の方法。
【請求項19】
焼結を1250〜1300℃の温度で実施する、請求項9記載の方法。
【請求項20】
0.5〜2.5kWh/kg酸化物混合物の比正味粉砕エネルギー導入で焼結された酸化物混合物の湿式粉砕を実施する、請求項9記載の方法。
【請求項21】
0.7〜1.9kWh/kg酸化物混合物の比正味粉砕エネルギー導入で焼結された酸化物混合物の湿式粉砕を実施する、請求項9記載の方法。
【請求項22】
請求項1から8までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウムからなるプレス体。
【請求項23】
理論焼結密度の54〜65%の成形体密度を有する、請求項22記載のプレス体。
【請求項24】
理論焼結密度の56〜62%の成形体密度を有する、請求項22記載のプレス体。
【請求項25】
理論焼結密度の56〜58%の成形体密度を有する、請求項22記載のプレス体。
【請求項26】
請求項1から8までのいずれか1項記載の粉末状酸化ジルコニウムからなる電解質支持型セラミック燃料電池用の基板。
【請求項27】
850℃で測定される、少なくとも2.5S/mの比電気伝導率(SEL)を有する、請求項26記載の基板。
【請求項28】
850℃で測定される、少なくとも3.8S/mの比電気伝導率(SEL)を有する、請求項26記載の基板。
【請求項29】
850℃で測定される、少なくとも6.6S/mの比電気伝導率(SEL)を有する、請求項26記載の基板。
【請求項30】
電解質基板を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項記載の酸化ジルコニウムの使用。
【請求項31】
燃料電池における機能層を製造するための、請求項1から8までのいずれか1項記載の酸化ジルコニウムの使用。
【請求項32】
請求項26記載の基板を有する燃料電池。
【請求項33】
請求項1から8までのいずれか1項記載の酸化ジルコニウムを含有する少なくとも1つの機能層を有している、燃料電池。
【請求項34】
燃料極支持型セルである、請求項32又は33記載の燃料電池。
【請求項35】
電解質支持型セルである、請求項32又は33記載の燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スカンジウム、イットリウム、希土類及び/又はそれらの混合物の群からの金属酸化物を含有する粉末状酸化ジルコニウム、その製造方法、並びに燃料電池における、特にセラミック燃料電池用の電解質基板の製造のための、それらの使用に関する。
【0002】
純酸化ジルコニウム(ZrO
2)は3つの変態で存在する。立方晶高温相は、2300℃未満で準安定な正方晶酸化ジルコニウムへ転移し、かつ1200℃〜950℃の間で正方晶ZrO
2から単斜晶ZrO
2への転移が観察される。加熱及び冷却の際の単斜晶相と高温相との間の変換は、急激な体積変化と結び付いている。
【0003】
二酸化ジルコニウムの焼結は、単斜晶−正方晶の可逆的な相転移の温度を明らかに上回る温度範囲内で行われる。単斜晶相への戻り転移を回避するために、外来酸化物での高温変態の安定化が必要である。安定化された酸化ジルコニウムはその後、室温から溶融温度までは同一の安定化された変態で存在する、すなわちセラミック構造部材の製造のために冷却する際の著しい体積変化が回避される、Ullmann's Encyclopedia of Industrial Chemistry, Vol. A28,1996, 556頁以降, Roempp Lexikon Chemie, 第10版 1999, 3073頁。セラミック構造部材を製造するためには、故に、安定化された又は部分安定化された酸化ジルコニウム粉末が使用される。安定剤酸化物はその際に、酸化ジルコニウムと固溶体を形成できなければならない。この要件は、アルカリ土類金属酸化物、酸化スカンジウム、酸化イットリウム並びにランタノイド及びアクチノイド(Actinoiden)の幾つかの酸化物を使用する際に満たされる。必要な安定剤の量は、所望の性質及び酸化物の種類に依存する。ZrO
2格子中の安定剤の不十分な均質性は、望ましくない単斜晶相の割合、すなわち安定化されていない相の割合の存在をまねく。安定剤酸化物の濃度、種類及び量及び使用される焼結条件に依存して、改善された性質を有するオーダーメードの(massgeschneiderte)酸化ジルコニウム原料が製造されることができ、これらは例えば現代的な機械工学における建築用部材及び構造部材において、人類医学(Humanmedizin)において、切削工具において及び断熱層において使用される。
【0004】
近年、酸化イットリウムでドープされた酸化ジルコニウムは、セラミック燃料電池の製造の際にますます使用されている。セラミック燃料電池用の酸化ジルコニウムから製造される基板の重要な性質は、燃料電池の性能に決定的な影響を及ぼす、それらの電気伝導率である。
【0005】
国際公開(WO)第03/051790号によれば、安定化された酸化ジルコニウムは通常、2つの主要な方法を通じて異なる変法で製造される。
【0006】
湿式化学的方法によれば、ジルコニウム前駆物質及び安定剤前駆物質の水溶液又は有機溶液もしくは懸濁液から、双方の金属を含有する固体が分離される。通例、前記固体の分離は、水酸化物の共沈及びろ過を通じて行われる。しかし、他の分離技術、例えばゾル−ゲル法、蒸発法、噴霧熱分解法及び水熱法も使用される。沈殿された前駆物質の分離後に、これらはついで500〜1500℃の温度でか焼される。
【0007】
米国特許第3957500号明細書には、水酸化ジルコニウム及び水酸化イットリウムから、均質な混合物を製造するための共沈殿方法が記載されている。900〜1500℃で1〜10時間かけてか焼した後に、安定化された二酸化ジルコニウムが形成される。
【0008】
類似の典型的で商業的な方法は、米国特許第4810680号明細書に記載されており、前記方法の場合に塩基性の炭酸ジルコニウム及び炭酸イットリウムが塩化水素酸中に溶解される。引き続き、アンモニア又は水酸化ナトリウムの添加により水酸化物が共沈される。水酸化物混合物は、洗浄され、乾燥され、かつ680〜980℃でか焼される。
【0009】
独国特許(DE)第10138573号明細書には、熱分解法により製造されたナノスケールの正方晶のイットリウム安定化酸化ジルコニウム(YSZ)粉末及びその製造方法が開示されている。その際に、Zr及びYの前駆物質、例えば硝酸塩及びプロピオン酸塩の水性及び/又はアルコール性の溶液は、ノズルを用いて、水素及び空気からなる爆鳴気炎を燃焼させる反応管中で噴霧され、引き続き800〜1000℃の温度で燃焼される。
【0010】
米国特許第5750459号明細書には、硝酸Y/Zr溶液を水酸化アンモニウム溶液中へ滴下することによる、ゲル又は球状もしくは微小球状の粒子の製造が記載されている。製造されたゲルもしくはアグロメレートの分離及び水でのすすぎ並びに引き続き550℃を上回る温度でのか焼後に、球状及び微小球状の安定化された二酸化ジルコニウム粉末が得られる。ゲル前駆物質の高い濾過率(Filtrationsrate)は、伝統的な水酸化物沈殿法と比較して、決定的な欠点である。
【0011】
前記の全ての湿式化学的方法の欠点は、生じる大量の廃水である。そのうえ、全ての副生物を除去するために、常に大規模な洗浄が必要である。しかし前記洗浄が不完全である場合には、前駆物質のか焼の間に、廃ガス、例えばHCl/Cl
2又はNO
xが形成される。
【0012】
安定化されたZrO
2粉末の他の製造方法は、混合酸化物法もしくは固相法である。この方法において、二酸化ジルコニウム及び安定剤からなる混合物は均質化され、引き続き焼結されて安定化されたZrO
2粉末となる。固相法は、単純にかつ費用をかけずに実施されることができる。湿式化学的な方法とは異なり、ここでは、再循環可能な水もしくは水蒸気は別として、副生物もしくは汚染された廃水及び廃ガスは生じない。
【0013】
前記方法の欠点として、>1300℃の高い焼結温度及び焼結後に単斜晶相25〜30体積%を含有する粉末の低い均質性が挙げられる。単斜晶相の割合を最小限にするために、前記生成物は、複数の段階で繰り返し粉砕されかつ熱処理され、そのことから生成物コストの有意な上昇が生じる。故に安定化されたZrO
2粉末は、混合酸化物法によってほぼ製造されない。
【0014】
米国特許第4542110号明細書には、焼結助剤としてのSiO
2及びAl
2O
3の添加下での二酸化ジルコニウム及び酸化イットリウムの混合物の湿式粉砕(Nassmahlung)及び引き続き前記混合物の乾燥及び>1300℃、好ましくは1400℃〜1500℃の温度で10〜120minの焼結による焼結体の製造方法が開示されている。引き続き混合及び熱処理を繰り返した後に、立方晶相の割合は少なくとも95体積%に上昇する。
【0015】
米国特許第4360598号明細書には、無定形の二酸化ジルコニウムと酸化イットリウム又は含イットリウム塩との混合及び引き続き焼結によるYSZセラミックの製造方法が記載されている。1000〜1550℃の温度での焼結後に、主に正方晶及び立方晶の二酸化ジルコニウムを含有するセラミック体が得られる。
【0016】
欧州特許(EP)第1076036号明細書には、高周波数炉又は中周波数炉中で2200〜3000℃の温度での前駆物質の溶融による、イットリウム又は他の金属で安定化された酸化ジルコニウムの製造が記載されている。
【0017】
東独国特許(DD)第96467号明細書には、塩基性炭酸ジルコニウム及び安定化添加剤、例え酸化ばカルシウム又は酸化イットリウムの混合及び引き続き800℃/3hでの焼結を通じて製造される完全に安定化された立方晶二酸化ジルコニウムが開示されている。
【0018】
国際公開(WO)第03/051790号には、正方晶の二酸化ジルコニウムもしくは正方晶及び立方晶の二酸化ジルコニウムの混合物の製造方法が記載されている。
【0019】
技術水準に従い混合酸化物法を通じて製造される酸化ジルコニウム粉末の欠点は、それらの、結晶格子中の安定剤の不十分な均質性である。それにもかかわらず十分な安定化を保証するためには、高い焼結温度が必要である。しかしながら、これらは、付加的に必要なプロセス工程(粗砕、分級)によっても制約される、より高い製造コストをまねく。さらに、高い焼結温度は、前記粉末の望まれないより低いBET値及びより低い焼結活性をまねく。これらの粉末は、それらの低い電気伝導率及び不十分な焼結活性のために、セラミック燃料電池中での使用に適していない。
【0020】
故に、本発明の課題は、気密体への焼結後に高い電気伝導率及び高い機械的強さを有するセラミック燃料電池において使用するための酸化ジルコニウム粉末を提供することである。
【0021】
本発明の課題はさらに、前記酸化ジルコニウム粉末の経済的な製造方法を提供することである。
【0022】
前記課題は、スカンジウム、イットリウム、希土類及び/又はそれらの混合物の群からの金属酸化物の少なくとも1つを10mol%まで含有し、かつASTM B 417に従い測定される、少なくとも1.2〜2.5g/cm
3の充填密度(Fuelldichte)を有する粉末状酸化ジルコニウムにより解決される。
【0023】
好ましくは、本発明による粉末状酸化ジルコニウムは、少なくとも1.2〜2.3g/cm
3、特に好ましくは少なくとも1.6〜2.0g/cm
3、特に好ましくは少なくとも1.3〜1.9g/cm
3及び殊に好ましくは1.5〜1.7g/cm
3の充填密度を有する。本発明による酸化ジルコニウムは、少なくとも1.5〜2.5g/cm
3、特に好ましくは少なくとも1.6〜2.3g/cm
3の充填密度により好ましくは特徴付けられる。
【0024】
本発明による酸化ジルコニウムは、セラミック燃料電池においてそれらの高い電気伝導率に基づいて使用される基板の製造用の前駆物質として特に好適である。良好な結果は、前記酸化ジルコニウムが酸化イットリウム3〜10mol%を安定剤として含有する場合に達成される。好ましくは、本発明による酸化ジルコニウムは、酸化イットリウム3〜6mol%、特に好ましくは3〜5mol%及び殊に好ましくは3〜4mol%を含有する。
【0025】
本発明による酸化ジルコニウムは、安定剤として、好ましくは3〜10mol%、より好ましくは3〜7mol%、特に好ましくは4〜6mol%の酸化イッテルビウム(Yb
2O
3)も含有していてよい。
【0026】
本発明による酸化ジルコニウムは、ASTM C 1070に従い測定される、0.5〜1.2μm、好ましくは0.5〜0.9μm、特に好ましくは0.6〜0.9μmの粉末粒子のD
90値を好ましくは有する。
【0027】
本発明による粉末は、それらの比表面積(BET)によっても特徴付けられる。好ましくは、前記粉末は、ASTM D 3663に従い測定される、5〜18m
2/g、好ましくは5〜15m
2/g、好ましくは10〜16m
2/g、好ましくは7〜13m
2/g、特に好ましくは9〜12m
2/gのBET値を有する。
【0028】
本発明による二酸化ジルコニウムは、極めて高い単斜晶相の割合を有する。意外なことに及び技術水準とは異なり、それによれば単斜晶から正方晶への可逆的な相転移に付随する体積変化に基づいて極めて低い単斜晶相の割合、最大10体積%までを有する完全安定化もしくは部分安定化された粉末がセラミック構造部材の製造に適している、本発明による酸化ジルコニウム粉末は、80体積%までの単斜晶相の割合にも関わらず、セラミック基板の製造に及び特に電解質支持型セラミック燃料電池における使用に適している。本発明による酸化ジルコニウム粉末は、5〜80体積%の単斜晶相の割合を有していてよい。好ましくは、前記粉末は、単斜晶相の割合を20〜80体積%、好ましくは20〜60体積%、特に好ましくは40〜75体積%、殊に好ましくは45〜70体積%有する。本発明による特別な粉末は、単斜晶相の割合を40〜55体積%、好ましくは45〜55体積%有する。
【0029】
本発明はさらに、本発明による酸化ジルコニウムの効率的かつ経済的な製造方法に関する。
【0030】
本発明の対象は、故に、スカンジウム、イットリウム及び希土類及び/又はそれらの混合物の群からなる金属酸化物でドープされた酸化ジルコニウムの製造方法でもあり、前記方法は次の工程:
a)所望の化学量論比の酸化ジルコニウム及びそれぞれの金属酸化物からなる水性懸濁液を、分散剤による懸濁液の安定化を含め、準備する工程;
b)前記懸濁液を、粉砕助剤の使用下に、使用される固体1kg当たり>0.1kWhの比正味粉砕エネルギーの導入により粉砕することによって均質化する工程、
c)前記懸濁液を>80℃の温度で乾燥させて均質な酸化物混合物を得る工程、
d)酸化物混合物を相形成のために少なくとも1200℃の温度で焼結する工程、
e)懸濁液を製造し、かつ工程d)において形成された焼結生成物を、粉砕助剤の使用下に焼結生成物1kgあたり>0.1kWhの比エネルギーの導入により粉砕する工程、
f)前記懸濁液を乾燥させる工程
を有する。
【0031】
図1には、本発明による方法が略示的に示されている。
【0032】
本発明による方法によれば、少なくとも95%、好ましくは>99%の純度を有する酸化ジルコニウムと、スカンジウム、イットリウム、希土類及び/又はそれらの混合物の群からの酸化物の少なくとも1つとから、所望の化学量論的比で、少なくとも50質量%の複合酸化物固体の割合を含有する水性懸濁液が製造される。原料として使用される酸化ジルコニウムは、もちろん、HfO
2を3質量%まで含有していてよい。
【0033】
酸化物粒子の凝集を予防するため、及び低粘稠でかつ良好に搬送されうる懸濁液を製造するために、この懸濁液に、ポリアクリラート、高分子電解質又はポリアクリル酸をベースとする分散助剤が添加される。良好な結果は、例えば、前記懸濁液の固体の割合を基準として、Zschimmer & Schwarz社の分散剤Dolapix CE 64及び/又はDolapix CA 1〜12質量%、好ましくは3〜8質量%の使用の際に達成された。
【0034】
酸化ジルコニウム前駆物質のモルホロジー特性は本発明による方法の場合に重要な役割を果たす。a=20〜75nm、b=20〜90nm及びc=20〜75nm、好ましくはa=30〜75nm、b=30〜75及びc=30〜75、特に好ましくはa=35〜50nm、b=45〜60nm及びc=35〜45nmのクリスタリットの辺の長さ(Kantenlaengen)(a、b、c)を有する酸化ジルコニウム前駆物質が、本発明による粉末をもたらすことが見出された。
【0035】
さらに、ASTM D 3663に従い測定される、3〜30m
2/g、好ましくは6〜15m
2/g、特に好ましくは6〜11m
2/gの比表面積(BET)を有する酸化ジルコニウム前駆物質が、本発明による酸化ジルコニウムをもたらすことが見出された。
【0036】
本発明による酸化ジルコニウムの製造にとって、湿式粉砕による懸濁液の集中的な均質化は決定的である。粉砕過程を実施するためには、多様な装置が使用されることができる。このためには、多様なタイプのボールミルが適している。好ましくは、前記粉砕は撹拌ボールミル中で実施される。前記酸化物混合物の湿式粉砕が、撹拌ボールミル中で、使用される固体1kgあたり0.1〜2.0kWhの有効比正味粉砕エネルギー(spezifischen effektiven Netto-Mahlenergie)の導入により、以下にエネルギー導入又は粉砕エネルギー導入(MEE)とも呼ぶ、特別な性質を有する本発明による粉末をもたらすことが見出された。
【0037】
正味粉砕エネルギー導入(E
正味)は、総粉砕エネルギー導入(E
総)及び前記ミルの空運転の際のエネルギー導入(E
空)の差として決定される。E
総は、前記ミル上に取り付けられた出力/エネルギーカウンター(Goennheimer社のD 122)を用いて記録される。E
空は、前記ミルの空運転出力(P
空)及び粉砕期間(t)の積として得られる。前記ミルが所定の回転数で粉砕体及び懸濁液を充填せずに、運転に必要とする出力を空運転出力と呼ぶ。前記ミルの出力の取り込みは、出力/エネルギーカウンターから直接読み取られることができる。
E
正味 = E
総 − E
空 (単位:kWh)、ここで
E
空 = P
空 × tである。
【0038】
有効比粉砕エネルギー導入(MEE)は、E
正味及び酸化物の使用された質量(M)の商として得られる。
MEE = E
正味/M
酸化物 (単位:kWh/kg)。
【0039】
好ましくは、有効比粉砕エネルギー導入は、0.2〜1.5kWh/kg、好ましくは0.1〜1.0kW/h、好ましくは0.2〜1.0kWh/kg、好ましくは0.3〜1.0kWh/kg、特に好ましくは0.2〜0.7kWh/kg、特に好ましくは0.6〜0.8kW/kg使用される固体及び殊に好ましくは0.2〜0.5kWh/kg使用される固体である。
【0040】
均質化及び引き続き≧80℃の温度での乾燥後に、前記酸化物混合物は少なくとも1200℃の温度で焼結される。好ましくは、前記焼結は1200〜1350℃、特に好ましくは1250〜1300℃の温度で実施される。
【0041】
焼結された粉末は引き続き、集中的な湿式粉砕にかけれられて、さらなる加工のために良好な、ないし一次粒子範囲内で分散可能な粉末が得られる。前記懸濁液中の固体濃度は、80質量%まで、好ましくは70質量%までであってよい。好ましくは、前記懸濁液中の固体濃度は、40〜70質量%、好ましくは60〜70質量%、特に好ましくは50〜60質量%である。
【0042】
好ましくは、湿式粉砕は、0.4〜2.5kWh/kg、特に好ましくは0.7〜1.9kWh/kg、特に好ましくは0.4〜1.0kWh/kg、殊に好ましくは0.4〜0.8kWh/kg及び殊に好ましくは0.4〜0.6kWh/kg固体の有効比粉砕エネルギー導入で実施される。
【0043】
粉砕後に、前記懸濁液は≧80℃の温度で乾燥される。好ましくは、前記乾燥は噴霧乾燥器中で≧80℃、好ましくは≧100℃、特に好ましくは≧110℃の温度で実施される。
【0044】
本発明による方法により製造される新規の酸化ジルコニウム粉末は、特に基板の製造に及び殊にセラミック燃料電池用の電解質基板の製造に適している。
【0045】
本発明による酸化ジルコニウム粉末は、プレスして特に緻密なプレス体(Presskoerpern)とすることができる。
【0046】
本発明の対象は、本発明による酸化ジルコニウムからなるプレス体でもある。本発明によるプレス体は、理論密度の54〜65%、好ましくは56〜62%、特に好ましくは56〜58%である成形体密度(Gruendichte)を有する。
【0047】
前記プレス体の成形体密度は、幾何学的方法に従い算出されることができる。その際に、1cm
2の面積及び5〜10mmの高さの試験体は100MPaの圧力で一軸プレスされる。その後、前記試験体は2000MPaで静水圧で後緻密化され、引き続きそれらの体積(V)は式
V=a×b×c
に従い計算され、ここでa、b、cは試験体の辺の長さを意味する。成形体密度は、試験体の質量が前記試験体の体積により除されることによって算出される。
【0048】
本発明による粉末状酸化ジルコニウムは、それらの高い焼結活性によっても特徴付けられる。本発明による酸化ジルコニウム粉末から製造されたプレス体は、これらが焼結後に高い強さを有する気密な焼結体を形成することより特徴付けられる。
【0049】
焼結されたプレス体の密度は、浮力法に従い決定されることができる。そのためには、試験体の質量は、空気中及び水中で21℃で測定され、かつ密度は式
試験片の密度 =
空気中の試験片の質量×密度(21℃での水)
空気中の試験片の質量−水中の試験片の質量
に従い決定される。
【0050】
本発明の対象は、本発明による酸化ジルコニウムからなる電解質支持型セラミック燃料電池用の焼結された基板でもある。
【0051】
本発明による焼結された基板は、それらの高い比電気伝導率により、以下にSELとも呼ぶ、特徴付けられる。比電気伝導率の大きさは、ドープ添加された金属酸化物成分の種類及び濃度及び温度に依存する。例えば、Y
2O
3 3.5mol%を有する本発明による酸化ジルコニウムからなる基板は、850℃で測定される、少なくとも2.5S/m、好ましくは少なくとも2.7S/m、特に好ましくは少なくとも2.9S/mのSELを示す。Yb
2O
3 4mol%を有する本発明による酸化ジルコニウムからなる基板は、少なくとも3.8S/m、好ましくは少なくとも4.2S/mのSELを有する。
【0052】
Yb
2O
3 6mol%を有する基板は、少なくとも6.6S/m、好ましくは6.8S/mのSELにより特徴付けられる。
【0053】
比電気伝導率は、4点直流測定を用いて測定されることができる。
【0054】
前記粉末から、テープ成形(Foliengiessen)を通じて、長さ約50mm、幅10mm及び約100μmの厚さを有するセラミック試験体が製造される。テープ成形スリップは、粉末250gを、商業的に入手可能な結合剤、例えば(Ferro社、結合剤 B73208)202gと、粉砕助剤Tosoh社の3YSZ粉砕円柱418g(直径12mm)及び3YSZ粉砕円柱418g(直径10mm)を添加しながら、1l-プラスチックびん中で混合されることによって調製される。テープ成形スリップは48時間、ローラー組(Rollenbank)上で均質化される。引き続き、粉砕円柱は分離され、前記スリップは24時間、0.5l PEびん中で、ゆっくりと回転させることにより脱気される。前記スリップを、フィルターを通して平らな面上へ注ぎ、ナイフを用いて約250μmの高さに塗布する。7〜24h乾燥後に、前記テープからストリップが切断され、1500℃で1時間の焼結後に前記の試験体が得られる。
【0055】
前記試験体の高さ(H)及び幅(B)をマイクロメーターを用いて±1μmの精度で測定した後に、フリット不含の白金ペースト(Matek社、ユーリヒ)からなる4つの接点ストリップを、前記試験体の全幅に亘ってテンプレートを用いて試験体上へ施与され、かつ1200℃で1h焼き付ける。内部の接点ストリップ(L)の間隔は25.5mmである。外部の接点ストリップは、内部の接点ストリップに対して7mmの間隔で存在する。試験片の焼き付けられた白金接点は、20gの質量を有する酸化アルミニウムからなる物体を用いて、測定保持具の固定した白金接点上へ押し付ける。外部接点上で150μAの直流(I)が印加される一方で、内部接点間の電圧(U)はデジタル電圧計を用いて測定される。
【0056】
分極効果又は内部電極上の接触効果の影響を排除するために、極性及び電流の高さは変化される。分極効果又は内部電極上での接触効果への伝導率の独立性は、極性の変化及び電流の高さが伝導率の変化をもたらさないことによって保証される。
【0057】
試験片の比電気伝導率(SEL)は、式
【数1】
に従い算出される。
【0058】
本発明による基板は、それらの高い機械的強さによっても特徴付けられる。例えば、Y
2O
3 3.5mol%を有する本発明による基板は、2000〜2500MPaの強さを示す。Y
2O
3 8.9mol%を有する基板は900〜1000MPaの強さを示す。Yb
2O
3 4mol%を有する基板は2000〜2100MPaの強さを有し、Yb
2O
3 6mol%を有する基板は1050〜1150MPaの強さを有する。
【0059】
機械的強さは、DIN 52292によるボール−リング法に従い算出されることができる。
【0060】
乾燥されたグリーンテープ(Gruenfolie)から、直径約34mmの丸い試験片が打ち抜かれ、引き続き1500℃で1時間、焼結される。焼結後に、丸い試験片は、約27mmの半径(r
3)及び約100μmの厚さ(t)を有する。20個の焼結された試験片から、連続してボール−リング装置中でInstron社の試験機を用いて、破壊に必要な力Fが測定される。前記リングは5.6mmの直径(r
2)を有する。横方向の収縮率υは、0.30と仮定される。試験速度は0.5mm/minである。試験片の破壊は、超音波測定ヘッドを用いて検出される。負荷された面積の半径(r
1)は、近似的にt/3と仮定される。破壊の際に生じる半径方向の引張応力は次の式に従い計算される:
【数2】
【0061】
20の測定値から、Weibullに従い統計を作成する。実施例に記載された強さは、これらの統計学的標準評価から明らかになる。負荷された面積の直径(r
1)の常用の近似により、計算された破壊応力の系統的な過大評価が生じうる。故に、試験片の厚さが次の実施例に示されている。同じ試験片厚さの場合に、異なる試験片材料の比較が可能になる。
【0062】
本発明による酸化ジルコニウムは、燃料電池中の電解質基板及び/又は機能層を製造するのに好ましくは使用される。故に、本発明の対象は、本発明による酸化ジルコニウムからなる基板を含有する燃料電池である。本発明の対象は、本発明による酸化ジルコニウム粉末の少なくとも1つを含有する少なくとも1つの機能層を有している燃料電池でもある。好ましい一実施態様において、本発明による燃料電池は、燃料極支持型(anodengestuetzte)セル又は電解質支持型セルである。
【図面の簡単な説明】
【0063】
【
図2】例1〜6において本発明による酸化ジルコニウムから製造された基板の機械的強さ及び比電気伝導率を示す図。
【
図3】酸化イッテルビウムでドープされたZrO
2(YbSZ)からなる焼結された基板の850℃で4.21S/mの比電気伝導率を示す図。
【0064】
本発明は、以下に、実施例に基づいてより詳細に説明される。
【実施例】
【0065】
次の実施例において、分析のために次の測定方法を使用した:
・比表面積BET − ASTM D 3663、
・粒度分布 − Microtrac X100、ASTM C 1070、10min 超音波前処理を伴う、
・クリスタリットの大きさ − XRDラインプロフィール分析
・単斜晶相の割合 − Dirats / PWA-N 62に従い測定
・充填密度 − ASTM B 417。
【0066】
例1
水で冷却された二重壁受器中に、脱塩水10.74lを装入し、かつ高速撹拌機を用いて撹拌しながら、7.54m
2/gの比表面積及びa=47nm、b=58nm、c=43nmのクリスタリットの辺の長さを有するZrO
2 23.5kg並びに5.36m
2/gの比表面積を有するY
2O
3 1.56kgを懸濁させ、すなわち固体含量は70質量%であった。前記懸濁液を安定化させるために、まず最初にZschimmer & Schwarz社の2つの分散助剤グレードDolapix CE 64及びDolapix CAの1:1混合物0.37kgを添加し、それによりゼータ電位の増大が達成された。粉砕の間に、さらに分散助剤量の混合物Dolapix CA/CE64をついで連続的に計量供給して、粉砕を続けて新たに生成された表面及び電荷をさらに十分に安定化させたので、前記懸濁液は高い固体濃度にもかかわらず、粉砕中に低粘稠のままであり、かつ良好に撹拌及び搬送されることができた。前記懸濁液を、膜ポンプを介して前記受器からNetzsch Feinmahltechnik社の型式LMK 4のポリプロピレンでライニングされた撹拌ボールミルを経てポンプ輸送し、引き続き前記受器中へ返送した、すなわち粉砕は循環法において行った。前記ミルの粉砕室は、イットリウムで安定化された二酸化ジルコニウム(YSZ)からなる0.6mmの直径を有する粉砕球10kgで充填されていた。回転軸の回転数は1950min
-1であった。
【0067】
正味粉砕エネルギー導入(E
正味)は、総粉砕エネルギー導入(E
総)及びミルの空運転の際のエネルギー導入(E
空)の差として決定した。E
総は、前記ミル上に取り付けられた出力/エネルギーカウンター(Goennheimer社のD 122)を用いて記録される。E
空は、前記ミルの空運転出力(P
空)及び粉砕期間(t)の積として得られる。
E
正味 = E
総 − E
空 (単位:kWh)、ここで
E
空 = P
空 × tである。
【0068】
有効比粉砕エネルギー導入(MEE)は、E
正味及び酸化物の使用された質量(M)の商として得られる。
MEE = E
正味/M
酸化物 (単位:kWh/kg)。
【0069】
当該例において、30.6kWhの総粉砕エネルギー導入まで粉砕した。1950min
-1の回転軸の所定の回転数で記録された空運転出力は1.30kWであり、かつ粉砕期間は9時間であった。すなわち、0.754kWh/kgの正味粉砕エネルギー導入が生じた。
【0070】
粉砕の終了後に前記懸濁液を噴霧乾燥させた。噴霧乾燥器の入口温度は300℃であり、出口温度は105℃であった。噴霧乾燥材料、排出材料及びサイクロン材料を合一し、かつ250μmふるいを通してふるい分けした(schutzgesiebt)。噴霧乾燥された生成物は15.91m
2/gの比表面積を有していた。
【0071】
引き続き、均質化された前駆物質混合物を、Nabertherm社の型式"NT 440"のベル型炉(Haubenofen)中で空気を吹き込みながら1300℃で2時間の保持時間で焼結させ、加熱速度及び冷却速度はその都度5K/minであった。焼結生成物を再び、撹拌ボールミル中で0.75kWh/kgの比正味粉砕エネルギー導入で粉砕し、引き続き噴霧乾燥させた。粗大な焼結されたアグロメレートを破壊するために、粉砕は今度は二段階でYSZ粉砕球を用いて実施し、その際に第一段階において、2mmの直径を有する粉砕ビーズ及び第二段階において0.6mmの粉砕ビーズを使用した。粉砕球交換は、0.3Wh/kgの比正味粉砕エネルギー導入後に行った。前駆物質粉砕とは異なり、焼結生成物の粉砕の際に、使用された固体を基準として分散助剤1%の一度の添加で十分であることが判明した。
【0072】
得られた酸化ジルコニウム粉末は、10.63m
2/gの比表面積、0.71μmのd
90値及び1.81g/cm
3の充填密度を有していた。Y
2O
3含量は3.5体積%であった。単斜晶相の割合は41体積%であった。
【0073】
前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0074】
前記プレス体は3.44g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の前記プレス体の密度は6.01g/cm
3(理論密度の98.2%)であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。850℃で焼結された前記基板は2.70S/mの比電気伝導率を示した。ボール−リング法に従い算出された、厚さ90μmの基板の機械的強さは、2413MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは、ほぼ完全に安定化されており、単斜晶相含量は<1体積%であった。
【0075】
例2
9.71m
2/gの比表面積及びa=36nm、b=46nm、c=36nmのクリスタリットの辺の長さを有するZrO
2 23.5kg及び5.36m
2/gの比表面積を有するY
2O
3 1.56kgを水10.7l中に懸濁させた。懸濁液の固体含量はその際に70質量%であった。均質化された前駆物質混合物は、噴霧乾燥後に19.28m
2/gの比表面積を示した。当該例の実施を、例1に類似して行った。
【0076】
得られた酸化ジルコニウム粉末は、9.43m
2/gの比表面積、0.57μmのd
90値及び1.84g/cm
3の充填密度を有していた。Y
2O
3含量は3.5mol%であった。前記粉末の単斜晶相の割合は39体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0077】
前記プレス体は3.49g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の前記プレス体の密度は6.01g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。焼結された基板は850℃で2.72S/mの電気伝導率(SEL)を示した。厚さ90μmの基板の機械的強さは1954MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じてもはや検出することはできなかった。
【0078】
例3
6.63m
2/gの比表面積及びa=50nm、b=59nm、c=44nmのクリスタリットの辺の長さを有するZrO
2 66kg及び3.74m
2/gの比表面積を有するY
2O
3 4.4kgを水47l中に懸濁させた。固体含量はその際に60質量%であった。前駆物質粉砕を、0.50kWh/kg固体の比正味粉砕エネルギー導入で行った。均質化された前駆物質混合物は、噴霧乾燥後に14m
2/gの比表面積を示した。当該例のさらなる実施を、例1に類似して行った。
【0079】
得られた生成物は、10.60m
2/gの比表面積、0.64μmのd
90値並びに1.72g/cm
3の充填密度を有していた。Y
2O
3含量は3.5mol%であった。前記粉末の単斜晶相の割合は50体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0080】
前記プレス体は3.46g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の密度は6.01g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。焼結された基板は850℃で2.73S/mの比電気伝導率(SEL)を示した。厚さ90μmの基板の機械的強さは2390MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じて検出することはできなかった。
【0081】
例4
6.63m
2/gの比表面積及びa=50nm、b=59nm、c=44nmのクリスタリットの辺の長さを有するZrO
2 93.7kg及び3.74m
2/gの比表面積を有するY
2O
3 6.2kgを水66.6l中に懸濁させた。懸濁液の固体含量はその際に60質量%であった。当該実施を、例1に類似して行った。生じる粉末は、11m
2/gの比表面積、1.16μmのd
90値並びに1.67g/cm
3の充填密度を有していた。Y
2O
3含量は3.5mol%であった。前記粉末の単斜晶相の割合は60体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0082】
前記プレス体は3.35g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の密度は6.09g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。焼結された基板は、850℃で測定される、2.83S/mの(SEL)を有していた。厚さ90μmの基板の機械的強さは2191MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じて検出することはできなかった。
【0083】
例5
7.67m
2/gの比表面積及びa=47nm、b=56nm、c=43nmのクリスタリットの辺の長さを有するZrO
2 46.5kg及び7m
2/gの比表面積を有するY
2O
3 3.2kgを水33.2l中に懸濁させた。懸濁液の固体含量はその際に60質量%であった。当該実施を、例1に類似して行った。
【0084】
生じる粉末は、11.48m
2/gの比表面積、0.7μmのd
90値並びに1.71g/cm
3の充填密度を有していた。Y
2O
3含量は3.5mol%であった。前記粉末の単斜晶相の割合は45体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0085】
前記プレス体は3.5g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の密度は6.02g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。焼結された基板は、850℃で測定される、2.87S/mの(SEL)を有していた。厚さ90μmの基板の機械的強さは2285MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じて検出することはできなかった。
【0086】
例6
例1に記載された方法により、異なるY
2O
3含量を有するドープされたZrO
2粉末を製造した。7.67m
2/gの比表面積及びa=47nm、b=56及びc=43nmのクリスタリットの辺の長さを有する酸化ジルコニウム並びに例5においても使用された7m
2/gの比表面積を有するY
2O
3を使用した。生じた粉末、プレス体及び基板の性質は、第1表に示されている。前記表中で、酸化イットリウム含量が上昇するにつれて比電気伝導率も増加することがわかる。
図2には、例1〜6において本発明による酸化ジルコニウムから製造された基板の機械的強さ及び比電気伝導率が、Y
2O
3含量に応じて示されている。
【0087】
第1表
【表1】
【0088】
例7
例1に記載された方法に相応して、Yb
2O
3 4mol%でドープされたZrO
2粉末を製造した。その際に、例5においても使用されたZrO
2 22.1kg及び3.77m
2/gの比表面積を有するYb
2O
3 2.9kgを水10.7l中で使用した。懸濁液の固体含量はその際に70質量%であった。
【0089】
得られた生成物は、10.89m
2/gの比表面積、0.79μmのd
90値並びに1.73g/cm
3の充填密度を有していた。前記粉末の単斜晶相の割合は30体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0090】
前記プレス体は3.66g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の密度は6.32g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。
【0091】
図3に示されたように、酸化イッテルビウムでドープされたZrO
2(YbSZ)からなる焼結された基板は850℃で4.21S/mの比電気伝導率を示し、これはそれゆえ、Y
2O
3 4mol%でドープされたZrO
2(YSZ)、例6からなる比較可能な基板よりも明らかに高かった。厚さ95μmの基板の機械的強さは2066MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じて検出することはできなかった。
【0092】
例8
例7に相応して、Yb
2O
3 6mol%でドープされたZrO
2粉末を、ZrO
2 20.8kg及びYb
2O
3 4.2kgから出発して製造した。
【0093】
得られた生成物は、9.07m
2/gの比表面積、0.77μmのd
90値並びに1.84g/cm
3の充填密度を有していた。前記粉末の単斜晶相の割合は13体積%であった。前記粉末を100MPaの圧力で一軸プレスしてプレス体にした。その後、前記試験体を2000MPaで静水圧で後緻密化した。
【0094】
前記プレス体は3.74g/cm
3の成形体密度を示した。1500℃/1hで焼結した後の密度は6.49g/cm
3であった。前記粉末は極めて良好に、テープ成形、乾燥及び1500℃での一時間の焼結を通じて、電解質基板に加工することができた。
【0095】
図3に示されたように、焼結された基板(6YbSZ)は850℃で6.85S/mの比電気伝導率を示し、これはそれゆえ、例6からのY
2O
3 6mol%でドープされたZrO
2からなる比較可能な基板よりも明らかに高い。厚さ95μmの基板の機械的強さは1108MPaであった。焼結された基板中の酸化ジルコニウムは完全に安定化されており、すなわち単斜晶ZrO
2相は、X線構造解析を通じて検出することはできなかった。