特許第5745819号(P5745819)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745819
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】上下式黒板用の制動装置
(51)【国際特許分類】
   B43L 1/04 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
   B43L1/04 H
【請求項の数】4
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-250616(P2010-250616)
(22)【出願日】2010年11月9日
(65)【公開番号】特開2012-101405(P2012-101405A)
(43)【公開日】2012年5月31日
【審査請求日】2013年4月3日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226183
【氏名又は名称】日学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000073
【氏名又は名称】特許業務法人プロテック
(74)【代理人】
【識別番号】100167070
【弁理士】
【氏名又は名称】狹武 哲詩
(72)【発明者】
【氏名】吉田 用親
(72)【発明者】
【氏名】吉田 朋弘
(72)【発明者】
【氏名】滝 好彦
(72)【発明者】
【氏名】赤堀 真弘
(72)【発明者】
【氏名】青木 崇
【審査官】 有家 秀郎
(56)【参考文献】
【文献】 実公昭45−008168(JP,Y1)
【文献】 登録実用新案第3044656(JP,U)
【文献】 登録実用新案第3009178(JP,U)
【文献】 実公昭34−002238(JP,Y1)
【文献】 実開昭57−050389(JP,U)
【文献】 実開平01−095387(JP,U)
【文献】 特開昭60−004098(JP,A)
【文献】 特開2010−144474(JP,A)
【文献】 登録実用新案第3080564(JP,U)
【文献】 特開平08−072483(JP,A)
【文献】 特開2008−297861(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B43L 1/00− 5/02
A47B 1/00−97/08
F16F 9/00− 9/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊下された前面および後面からなる一対の板面を、上記板面の左右の小口側に夫々設けられた対をなす平行レールに沿って交互に引き下げ、筆記の用に供する上下式黒板において、
上記前面の左右の小口に夫々、一方向にだけ回転抵抗を発生させるロータリーダンパーおよび上記ロータリーダンパーと同軸かつ一体に回転するピニオンを設け、
上記ピニオンとかみ合う上部用ラックと下部用ラックを、黒板の左右に設けられ対をなして上記黒板の前面を支承する平行レールの各内側に、それぞれ対面することのないように、且つ歯山が互いに内向きとなるように設けることにより、
上記前面を押し上げまたは引き下げる際に、上記ピニオンが上記上部用ラック又は下部用ラックとかみ合い、上記ピニオンの回転運動が上記ロータリーダンパーへ伝達されて、上記ピニオンの一方向の回転のみを妨げようとする抵抗が生じる、ことを特徴とする上下式黒板用の制動装置。
【請求項2】
上記各ラックの歯山の一方の延長線上に、上記ピニオンとのかみ合わせが可能なように歯山を設けた補助スプリングを備えることにより、
上記補助スプリングが、上記ピニオンとかみ合うときに、上記ピニオンからの力の作用方向へたわむことを特徴とする、請求項1に記載の上下式黒板用の制動装置。
【請求項3】
上記前面の小口上に、上記平行レールの両辺と接しながら回転し、上記回転の軌跡が上記ピニオンの回転の軌跡と重なり合わない、対向ローラーを備えることにより、
上記対向ローラーが上記平行レールを押す力によって、上記平行レールに設けられた上記ラックと、上記前面の小口に設けられた上記ピニオンの、相対位置が一定に保たれることを特徴とする、請求項1または2に記載の上下式黒板用の制動装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項に記載された上下式黒板用の制動装置を備える、ことを特徴とする上下式黒板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、上下式黒板において、上下動する黒板を制動するための装置にかかるものであって、上下動する黒板が上枠または下枠へ衝突することによって生じる不快な騒音を除去し、さらに黒板と下枠に手をはさまれて負傷する危険性を除くことのできる、上下式黒板用の制動装置を提供する。
【背景技術】
【0002】
上下式黒板とは、2面の黒板を上下に移動させて、それぞれの板面を交互に利用できる黒板をいう。上下式黒板そのものは、おもに教育の現場において、多人数を収容できる講義室、理科室、音楽室、調理実習室などで広く利用されている。下へ降ろした状態で筆記した板面を上方へスライドさせ、高く掲げることができるため、教室の後方に着座した学生にも、筆記内容が視認しやすい。また、2面の黒板のローテーションが可能なので、講義の進行が、学生の書写スピードに左右されにくい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第3080564号公報
【特許文献2】特開平8−72483号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上下式黒板の基本構成は、上記の特許文献に現れている。黒板の筆記可能部分は、上下ふたつの等形、等面積、および等質量の領域に分けられる。第1領域は、筆記者寄りに位置し、これを前面と呼ぶ。また、第2領域は、第1領域の後方に位置し、これを後面と呼ぶ。前面および後面の上隅は、ワイヤで結合されている。前面および後面は、このワイヤによって吊下され、上枠付近に固定された定滑車で支持される。ワイヤの長さは、少なくとも各筆記面の縦寸法以上でなければならない。ワイヤと滑車のかわりに、チェーンとスプロケットを用いて、動力伝達を効率化する実施も広くおこなわれている。
【0005】
上下式黒板のホームポジションは、前面が下、後面が上に位置し、両方とも筆記者に板面をすべて見せている状態とする。ホームポジションから前面を上に押し上げれば、同時に後面が降下し、前面が上枠に、後面が下枠に到達して静止する。その前面を下に引き下げれば、同時に後面が上昇し、前面が下枠に、後面が上枠に到達してホームポジションに戻る。
【0006】
このような上下式黒板では、板面を押し上げるときに、吊下されている、もう一方の板面の位置エネルギーを利用できるし、板面を引き下げるときに、筆記者の体重を利用できるので、比較的に大きな黒板であっても、わずかの力を加えるだけで上下移動させることができる。しかしながら、操作の際に力を加えすぎると、板面が上枠または下枠に激しく衝突し、静粛であるべき教室にとって、不快な騒音が生じてしまう。また、急速に降下する板面と下枠とのあいだに、筆記者の指などがはさまれて、けがをするおそれがあり、安全性にも問題がある。本発明は、この騒音と安全性の問題を、いずれも解決しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上下移動する板面が、上枠または下枠に激突するのは、板面の運動量が過大であるためである。板面の質量は一定なので、その運動量を減じるには、板面の移動速度を低下させればよい。したがって、板面と枠とが衝突する前に、板面の移動にブレーキをかける制動手段を設ける。板面が、下枠へ向かって、ゆっくりと下降すれば、筆記者の指などが、はさまれて、けがをするおそれも少なくなる。
【0008】
本発明にかかる上下式黒板は、前面の左端および右端の垂直な断面 (小口) に、制動装置を備える。制動装置は、ロータリーダンパーを含む。ロータリーダンパーとは、回転に抵抗を加えて、その回転運動を抑制する器具である。制動装置に含まれるロータリーダンパーは、一方向にだけ回転抵抗を発生させる性質 (方向性) を備え、歯車 (ピニオン) が同軸かつ一体に付属する。このため、ピニオンが順方向に回れば、回転運動に抵抗が加わるが、ピニオンが逆方向に回れば、回転運動に抵抗は加わらない。
【0009】
前面の左右の小口側には、前面の上下移動を補助する平行レールが設けられている。この平行レールの内側面には、ロータリーダンパーに付属するピニオンと対になる、ラックが固定されている。前面は、平行レールに沿って上下し、この上下運動の際に、ピニオンがラックとかみ合い、回転する。ピニオンの回転運動は、同軸に設けられたロータリーダンパーへ伝達される。
【0010】
ラックは、前面を引き下げたときに、ピニオンが順方向に回転するように付設する。これを、下部ラックという。また、ラックは、前面を押し上げて、後面を降下させるときにも、ピニオンが順方向に回転するように付設する。これを、上部ラックという。したがって、平行レールには、少なくとも、下部ラックおよび上部ラックが設けられなくてはならない。
【0011】
ピニオンが、ラックとかみ合い始めるとき、それぞれの歯山がぶつかり、大きな衝撃となることがある。このため、ラックの始点部分に、弾性のある板ばねなどを付設し、ピニオンがぶつかる際の衝撃を逃がす。板ばねは、ラックと同程度のピッチで、あらかじめ歯山を形成しておくものとする。
【0012】
ピニオンとラックのかみ合いを確実にするためには、両者の間隔をつねに一定に保つ必要がある。したがって、前面が平行レールに沿って移動する際に、姿勢のゆらぎが生じないように、前面の小口に平行レールと接して回転する対向ローラーを取りつける。対向ローラーの軌道上にはラックを設けることができないので、ピニオンと対向ローラーの動作線は、重なり合わないようにしなくてはならない。
【発明の効果】
【0013】
本発明にかかる上下式黒板は、黒板を上下動させる際に、無用の騒音を生じさせることがなく、また、板面がゆっくりと動作するので、利用者に不慮のけがを負わせる心配もない。したがって、年少の児童を教える現場においても、安全に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明にかかる上下式黒板用の制動装置の基本構成を示す図である。(A) は、前面の小口側に取りつけた制動装置の斜視図であり、(B) は、平行レールに取りつけられた下部ラックと、制動装置のピニオンがかみ合っているようすを示す正面図である。
図2】本発明にかかる上下式黒板用の制動装置の、機能を説明するための図である。(A) は、前面を引き下げたときに制動装置のピニオンが下部ラックとかみ合い、回転するようすを示す正面図であり、(B) は、前面を押し上げたときに制動装置のピニオンが上部ラックとかみ合い、回転するようすを示す正面図である。
図3】本発明にかかる上下式黒板用の制動装置を搭載した、上下式黒板の構成を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
つぎに、本発明にかかる上下式黒板用の制動装置の、ひとつの実施形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。
【0016】
<制動装置の基本構成>
図1は、本発明にかかる上下式黒板用の制動装置の基本構成を示す図である。上下式黒板の前面1の、小口部分のやや下寄りに、固定金具2を取りつける。固定金具2には、対向ローラー3が設けられる。前面1は、上下式黒板の縦枠13に沿って上下運動し、その縦枠13は、1対の平行レール6で構成される。対向ローラー3は、この平行レール6に接しながら回転し、前面1とともに上下移動する。
【0017】
固定金具2には、さらにロータリーダンパー4が付属し、ロータリーダンパー4は、ピニオン5と同軸かつ一体に結合される。ピニオン5の軌跡は、対向ローラー3の軌跡とは重なり合わない。すなわち、ピニオン5と、対向ローラー3は、同一平面上では回転しないものとする。本実施例において、ロータリーダンパー4が抵抗を生じさせる順方向の回転は、時計回りであるものと仮定する。
【0018】
図2は、本発明にかかる上下式黒板の前面1が、平行レール6に沿って上下運動する状態を示す図である。平行レール6の内側下寄りには、筆記面と反対側に歯山を向けて、下部用ラック7が設けられ、平行レール6の内側上寄りには、下部用ラック7からほぼ点対称の位置に、筆記面側へ歯山を向けて、上部用ラック8が設けられる。すなわち、下部用ラック7と、上部用ラック8の歯山は、それぞれ平行レール6の内側を向いているが、両者が対面することはないものとする。
【0019】
前面1が引き下げられ、ピニオン5が下部用ラック7にかみ合うと、ピニオン5は、反作用によって時計回りの回転を始める。すると、ロータリーダンパー4は、回転を妨げようとする抵抗を生じさせるので、前面1の下降速度が低下する。したがって、前面1が下枠11と激突することはない。同様に、前面1が押し上げられ、ピニオン5が上部用ラック8にかみ合うと、ピニオン5は、反作用によって時計回りの回転を始める。すると、ロータリーダンパー4は、回転を妨げようとする抵抗を生じさせるので、前面1の上昇速度が低下し、それにともなって後面10の下降速度が低下する。したがって、後面10が下枠11と激突することはない。
【0020】
ホームポジションの前面1を押し上げたときも、ピニオン5は下部用ラック7にかみ合うが、ピニオン5は、反作用によって反時計回りの回転を始める。ロータリーダンパー4は、回転を妨げようとする抵抗を生じさせないので、前面1は、上昇速度が低下せず、スムーズに移動する。同様に、前面1を上枠12に接した状態から引き下げたときも、ピニオン5は上部用ラック8にかみ合うが、ピニオン5は、反作用によって反時計回りの回転を始める。ロータリーダンパー4は、回転を妨げようとする抵抗を生じさせないので、前面1は、下降速度が低下せず、スムーズに移動する。このように、前面1または後面10が下枠11から離れる際には、ブレーキがかからない。
【0021】
<ピニオンとラックの激突防止>
下部用ラック7の上端、および上部用ラック8の下端には、板ばね9を設ける。板ばね9は、ピニオン5が、下部用ラック7または上部用ラック8とかみ合い始めるとき、それぞれの歯山がぶつかって、大きな衝撃が生じるのを防ぐ役割をになう。板ばね9には、それぞれのラックと同程度のピッチで、あらかじめ歯山を形成しておくものとする。ピニオン5が板ばね9に遭遇すると、板ばね9は、その弾性によって力の作用方向へたわむ。このためピニオン5の運動量が減殺されるので、ピニオン5が、下部用ラック7または上部用ラック8と激しく衝突するのを防ぐことができる。
【0022】
<板面の姿勢制御>
平行レール6の長手方向には、対向ローラー3の移動経路となる溝が設けられる。対向ローラー3の材質は、弾性体とする。対向ローラー3は、この溝に沿って回転移動し、左右のレールへ押す力を与えて、前面1と、平行レール6との相対位置を安定させる。このため、ピニオン5と、平行レール6との間の距離は一定に保たれるので、ピニオン5と下部用ラック7、およびピニオン5と上部用ラック8は、つねに確実にかみ合うことができる。また、対向ローラー3は、前面1が平行レール6に沿って移動する際に、姿勢のゆらぎを生じさせない。このように、対向ローラー3は、板面の姿勢制御をするものでもあるから、ロータリーダンパー4の近傍以外 (たとえば後面10の小口側) にも追加的に設けてよい。ただし、板面の姿勢制御機能を維持しつつ、板面の移動を、よりスムーズにするため、ロータリーダンパー4の近傍では、対向ローラー3の厚みを、溝幅よりも、0.2ないし0.5mmていど長めとし、それ以外の場所では、対向ローラー3の厚みを、溝幅よりも、0.2mmていど短めにすることが望ましい。
【0023】
<上下式黒板への制動装置の適用>
図3は、本発明にかかる制動装置を、上下式黒板へ適用したようすを示す図である。ロータリーダンパー4を搭載する固定金具2は、前面1の両翼のやや下側に設けられる。ピニオン5の位置は、ホームポジションにおいて下部用ラック7の下端よりも上になり、かつ前面が上枠12に接したとき上部用ラック8の上端よりも下になるように選ぶことが望ましい。
【0024】
なお、ロータリーダンパー4を搭載する固定金具2は、前面1に固定すべきであり、後面10に設けることは望ましくない。上下式黒板を操作する場合は、前面を動かすのが通常である。かりに固定金具2を後面に取りつけた場合、前面を勢いよく押し上げると、後面の降下が制動されてしまうため、板面を吊下するチェーン等がたるんでしまう。このたるみは、スプロケットや滑車からの脱輪につながり、きわめて危険である。
【0025】
また、ダンパーは、スプリング式、またはロッド式のものを採用してもよいが、スプリング式では板面が振動するため、これを抑制する装置を追加的に設ける必要が生じ、機構が複雑化してしまう。ロッド式のダンパーでは、チョークの粉がロッドに付着しやすいので、ダンパーケースが痛みやすく、オイル漏れの原因となりやすい。したがって、上下式黒板の制動装置には、ロータリーダンパーを用いるのが、最も好ましい。
【符号の説明】
【0026】
1:前面
2:固定金具
3:対向ローラー
4:ロータリーダンパー
5:ピニオン
6:平行レール
7:下部用ラック
8:上部用ラック
9:板ばね
10:後面
11:下枠
12:上枠
13:縦枠
図1
図2
図3