(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5745852
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】圧電セラミック多層エレメント
(51)【国際特許分類】
H01L 41/083 20060101AFI20150618BHJP
C04B 35/491 20060101ALI20150618BHJP
H01L 41/187 20060101ALI20150618BHJP
H01L 41/39 20130101ALI20150618BHJP
H01L 41/257 20130101ALI20150618BHJP
H01L 41/22 20130101ALI20150618BHJP
【FI】
H01L41/08 S
H01L41/08 Q
C04B35/49 A
H01L41/18 101D
H01L41/22 A
H01L41/22 B
H01L41/22 Z
【請求項の数】15
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2010-529412(P2010-529412)
(86)(22)【出願日】2008年10月20日
(65)【公表番号】特表2011-501880(P2011-501880A)
(43)【公表日】2011年1月13日
(86)【国際出願番号】EP2008064123
(87)【国際公開番号】WO2009050299
(87)【国際公開日】20090423
【審査請求日】2011年8月9日
【審判番号】不服2013-25132(P2013-25132/J1)
【審判請求日】2013年12月20日
(31)【優先権主張番号】102007000523.9
(32)【優先日】2007年10月18日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】511004645
【氏名又は名称】セラムテック ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング
【氏名又は名称原語表記】CeramTec GmbH
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(74)【代理人】
【識別番号】100165940
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 令子
(72)【発明者】
【氏名】ライナー ビンディヒ
(72)【発明者】
【氏名】ハンス−ユルゲン シュライナー
【合議体】
【審判長】
鈴木 匡明
【審判官】
池渕 立
【審判官】
加藤 浩一
(56)【参考文献】
【文献】
特表2001−508753(JP,A)
【文献】
特開平5−243635(JP,A)
【文献】
特開平7−302938(JP,A)
【文献】
特開平11−170547(JP,A)
【文献】
特開2006−108546(JP,A)
【文献】
特開2004−120809(JP,A)
【文献】
特開平11−121820(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L41/00-41/22
C04B35/00-35/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本材料としてのPZT材料から成る圧電セラミック多層エレメントを製造するための材料において、
前記基本材料に非導電性の焼結助剤が添加されており、
前記焼結助剤はFe2O3およびP2O5を含み、
前記圧電セラミック多層エレメントを製造するための材料の焼結温度は900℃以下である、
ことを特徴とする材料。
【請求項2】
前記基本材料はチタン酸ジルコン酸鉛である、
請求項1記載の材料。
【請求項3】
全材料中の前記焼結助剤の濃度は5重量%以下である、
請求項1または2までのいずれか1項記載の材料。
【請求項4】
前記焼結助剤の個々の材料の濃度は3重量%以下である、
請求項1から3までのいずれか1項記載の材料。
【請求項5】
基本材料としてのPZT材料から成る圧電セラミック多層エレメントを製造するための方法において、
前記基本材料に非導電性の焼結助剤を添加し、
前記焼結助剤はFe2O3およびP2O5を含み、
前記基本材料に前記焼結助剤を添加した材料を900℃以下で焼結する、
ことを特徴とする方法。
【請求項6】
前記基本材料としてチタン酸ジルコン酸鉛を選択する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
全材料中の前記焼結助剤の濃度として5重量%以下を選択する、
請求項5または6記載の方法。
【請求項8】
前記焼結助剤の個々の材料の濃度として3重量%以下を選択する、
請求項5から7までのいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
請求項1から4までのいずれか1項記載の材料から成る圧電セラミック多層エレメントの製造方法において、
か焼された基本材料としてのPZT材料を粉砕し、
従来技術による粉末からキャスティングスリップを準備し、該キャスティングスリップにFe2O3およびP2O5を含む焼結助剤を5重量%以下の量で添加し、
前記キャスティングスリップをドクターブレード方式により連続的なフィルムにキャスティングし、乾燥させ、フィルム切片に細分化し、
該フィルム切片に内部電極の金属ペーストでもって該内部電極の印刷レイアウトの形状を印刷し、
印刷されて乾燥された前記フィルム切片を、多層エレメントの構造が生じるように複数枚積層化し、
積層化された前記フィルムを従来技術に従い高圧下および高温下で相互に合わせ1つのラミネートにし、
該ラミネートを前記印刷レイアウトによって設定された多層エレメントの形状と数に、分割し、
約500℃の温度で多層エレメントから有機バインダを除去し、続いて900℃以下で焼結することを特徴とする、圧電セラミック多層エレメントの製造方法。
【請求項10】
請求項1から4までのいずれか1項記載の圧電セラミック多層エレメントを製造するための材料を使用して、請求項9記載の方法に従い製造されている圧電セラミック多層エレメントにおいて使用するための、少なくとも1つの金属成分として銀を有する内部電極材料において、
内部電極は主材料成分として銀を含有し、さらに、0%から最大で30%の重量比を有する非導電性材料成分および/または合わせて30重量%未満の割合の金属酸化物混合物および/または金属合金を含有することを特徴とする、内部電極材料。
【請求項11】
内部電極は主材料成分として純銀を含有する、
請求項10記載の内部電極材料。
【請求項12】
前記銀は焼結前の出発状態では球体状の粒子(粉末)として存在する、
請求項10または11記載の内部電極材料。
【請求項13】
添加される前記金属合金および/または前記金属酸化物混合物の割合は10重量%未満である、
請求項10から12までのいずれか1項記載の内部電極材料。
【請求項14】
前記金属合金および/または前記金属酸化物混合物は銀を除く貴金属から成る、
請求項10から13までのいずれか1項記載の内部電極材料。
【請求項15】
前記金属合金および/または前記金属酸化物混合物はパラジウムまたはプラチナを含む、
請求項14記載の内部電極材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電セラミック多層エレメントを製造するための材料、材料の製造方法、多層エレメントの製造方法ならびに多層エレメントにおいて使用するための内部電極材料に関する。
【図面の簡単な説明】
【0002】
【
図1】従来技術から公知の圧電セラミック多層エレメントを示す。
【0003】
従来技術から公知であるような、圧電セラミック多層エレメントが添付の図面に示されている。多層エレメント1は、圧電活性材料2、例えばチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)から成る積層化された薄層と、層間に配置されており、交番的に素子表面に案内されている、導電性の内部電極4とから構成されている。外部電極3はこれらの内部電極4と接続されている。これによって内部電極4は電気的に並列に接続され、多層エレメント1の2つの端子極7および8を表す2つのグループにまとめられる。端子極7および8に電圧が印加されると、この電圧は全ての内部電極4に並列に伝達され、活性材料の全ての層内に電界が惹起され、それにより活性材料が機械的に変形する。これら全ての機械的な変形の和は、エレメントの端面において利用可能な伸張6および/または力として提供される。
【0004】
従来技術によれば、圧電セラミック多層エレメントは空気中で約1100℃またはそれ以上の温度で焼結される。したがって、内部電極として高い溶融温度を有する貴金属しか使用することができない。卑金属では酸化が生じてしまう。したがって、通常の場合は40wt%(重量%)迄のパラジウムを有する銀−パラジウム合金が使用される。しかしながら、この銀−パラジウム合金は高い材料コストに繋がる。しかしながら内部電極材料の低い溶融温度は相応に低い焼結温度を有するセラミック材料も必要とする。
【0005】
本発明の課題は、通常よりも低い焼結温度を有するセラミック材料によって、また貴金属部分を有していない、または少なくとも非常に僅かな貴金属部分しか有していない内部電極によって、従来技術の欠点を克服し、圧電セラミック多層エレメントのコスト低減することである。
【0006】
この課題は、請求項1から10までのいずれか1項記載の基本材料としてのPZT材料からなる圧電セラミック多層エレメントを製造するための材料によって解決され、請求項11から21までのいずれか1項記載のこの材料の製造方法によって解決され、請求項22記載の多層エレメントの製造方法によって解決され、また圧電セラミック多層エレメントにおいて使用するための請求項23から28までのいずれか1項記載の内部電極材料によって解決される。
【0007】
本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0008】
銀は電気化学的に見れば貴金属に属するものであるが、以下の説明では銀を貴金属には分類しない。
【0009】
本発明による多層エレメントは内部電極を有し、その主材料成分はその他の貴金属部分を含有していない純銀から構成されている。銀は961℃で溶融し、この温度は圧電セラミック材料が存在するとさらに低下するので、950℃の焼結温度は超えられるべきではない。この目標は以下の3つの措置によって達成される:
a)低温で焼結するPZTセラミックが使用されなければならない。
b)PZT材料は焼結時の銀の拡散に対してロバストでなければならない。内部電極から拡散する銀は焼結温度をさらに著しく低下させる。しかしながら、材料の圧電機械的な特性に及ぼされる影響は可能な限り小さくなくてはならない。
c)内部電極はPZTの添加によって、または使用されるセラミックの種類および/または金属合金および/または金属混合物の添加によって安定化されなければならない。何故ならば、安定化されなければ内部電極がセラミック内に広範に拡散し、セラミックの特性を変化させ、導電率を失わせるからである。
【0010】
本発明によるセラミック材料は有利にはチタン酸ジルコン酸鉛、チタン酸バリウムまたはチタン酸ビスマスから成る。焼結温度の低下は、基本材料PZTに、全材料中の濃度が≦5wt%、有利には<1wt%、殊に有利には0.5wt%である、非導電性の焼結助剤が添加されることによって達成される。
【0011】
本発明によれば、以下の焼結助剤が使用される:
焼結助剤はNa
2O,K
2O,MgO,CaO,SrO,Al
2O
3,Fe
2O
3,NiO,Mn
2O
3またはCr
2O
3のような1価、2価または3価の金属酸化物から選択される。
【0012】
4価の陽イオンを含む焼結助剤、有利にはSiO
2,GeO
2,InO
2,TIO
2またはSnO
2が使用される。
【0013】
5価の陽イオンを含む焼結助剤、有利にはP
2O
5,As
2O
5,Sb
2O
5またはBi
2O
5が使用される。
【0014】
焼結助剤は、1つのグループの1つの材料または前述の材料の組み合わせ、または、種々のグループの前述の材料の組み合わせから成る。
【0015】
全材料中の焼結助剤の濃度は≦5wt%、有利には2wt%、また殊に有利には1wt%である。
【0016】
1つの焼結助剤の個々の材料の濃度は≦3wt%、有利には1wt%、また殊に有利には0.5wt%である。
【0017】
か焼前またはか焼後の原材料の混合時に添加が行われる場合には、前述の量の焼結助剤の添加を配合時に既に考慮することができる。
【0018】
前述の量の焼結助剤の添加は、原材料および処理方法の変動を考慮するために目標値への計量およびドーピングによって行われる。
【0019】
か焼前またはか焼後に焼結助剤を液状に添加することによって被覆を行うこともできる。
【0020】
本発明によるPZT材料によって、焼結温度を900℃
未満に低下させ、従来技術による貴金属を含有するエレメントと同一の特性を有する多層エレメントを製造することができる。
【0021】
圧電活性材料から成る例えば1〜1000の層を有することができる、本発明によるモノリシックな多層エレメントにおいては、活性材料内に存在する、内部電極の本発明による材料は銀、有利には純銀から成り、この材料に0%から最大で30%、有利には15%未満の重量比を有する非導電性の材料を付加的に添加することができる。内部電極の銀は焼結前の出発状態では球体状の粒子(粉末)として存在する。
【0022】
非導電性の材料として、殊に共ドーピングされた材料から成り、最大で30%まで、有利には5%〜15%の重量比を有するチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)を内部電極に添加することができる。
【0023】
内部電極の材料には、非導電性の材料以外にも30wt%未満、有利には10wt%未満、殊に有利には5wt%未満の割合の金属酸化物混合物および/または金属合金を添加することができる。したがって添加される2つの材料の割合は全体で60wt%になることも考えられ、また、それらの材料を任意の組成で相互に混合することも考えられる。しかしながら、この金属合金および/または金属酸化物混合物の割合と非導電性の材料の割合を入れ換えることもできる。金属合金および/または金属酸化物混合物として銀を除く貴金属を使用することができる。金属合金および/または金属酸化物混合物はパラジウムまたはプラチナを含むことができる。本発明による多層エレメントを製造するために、DE 19 840 488 A1から公知であるような、例えば組成0,98Pb(Zr
0,53Ti
0,47)O
3−0,02Sr(K
0,25Nb
0,75)O
3に応じた、か焼されたPZT材料が使用される。
【0024】
本発明による多層エレメントの製造を一般的に考えられる方法に基づき詳細に説明する。多層エレメントを製造するためにフィルム技術が適用される。以下において説明する方式およびパラメータは一例を表すに過ぎない。当業者には類似する方式およびパラメータは常に明らかである。
【0025】
か焼された出発材料は事前に細かく砕かれ、リングスリットボールミルにおいて例えば0.8μmの平均粒度に粉砕される。
【0026】
生じた粉末からキャスティングスリップが従来技術に従い準備され、焼結助剤として所期のように上述の材料のうちの1つまたは複数が添加される。キャスティングスリップは連続的なフィルムにキャスティングされ、乾燥され、巻き取られる。このために、例えばドクターブレード方式により作動するキャスティングバンドが適している。フィルムはこの方式に従い、乾燥後に例えば70μmの厚さを有し、また焼結後には60μmの厚さを有する。
【0027】
フィルムは約200×200mmの切片に細分化される。続いて、内部電極パターンが金属ペーストからシルクスクリーン法によって印刷される。印刷レイアウトの形状によって多層エレメントの後の寸法が規定される。
【0028】
内部電極ペーストを純銀粉末または例えば、上述の式に応じて与えられている組成の銀粉末とPZT粉末の混合物から製造することができる。付加的に、上述のような金属合金または金属酸化物混合物を添加することができる。しかしながら、この金属合金または金属酸化物混合物の割合と非導電性の材料の割合を入れ換えることもできる。エチルセルロースのようなバインダおよびテルピネオールのような溶媒によりペーストを良好に印刷することができる。ペーストは、内部電極の厚さが焼結後に約3μmになるように印刷される。
【0029】
印刷されて乾燥されたフィルム切片は、多層エレメントの構造が生じるように積層化される。
【0030】
積層化されたフィルムは従来技術に従い、高圧下および高温下で相互に合わされ1つのラミネートになる。
【0031】
続いて、ラミネートは印刷レイアウトによって設定された多層エレメントの形状と数に、例えば鋸引きまたは打ち抜きによって分割される。
【0032】
多層エレメントは500℃の温度で有機バインダ部分が除去され、続いて900℃で焼結される。
【0033】
焼結された多層エレメントは幅の狭い側において研磨され、接続電極を取り付けるために基本金属化部が印刷される。
【0034】
200Vの電圧が印加されることによって、多層エレメントは一方向に延びる分極が生じるように極性が与えられる。
【0035】
第1の実施例に関して、上述の方法に従い、焼結助剤として酸化鉄および五酸化リンが添加されている、7×7×30mmの寸法を有する多層エレメントが製造される。添加は、未焼結のセラミックフィルムの分析に従い、含有量がセラミック固体の重量に関して0.4%鉄および200ppmリンになるように行われる。内部電極材料として純銀粉末(90wt%)および細かく粉砕されたPZT粉末(10wt%)が使用される。混合物はエチルセルロースおよびテルピネオールと攪拌されペーストになる。このペーストは50%の混合物を含んでいる。
【0036】
多層エレメントは900℃で焼結される。セラミックフィルムの厚さは焼結後に90μmになる。構成素子は200Vの動作電圧の印加時に全長の1.7パーミルの特異拡張および40N/mm
2のブロック応力を有する。
【0037】
第2の実施例に関して、上述の方法に従い、焼結助剤として酸化鉄および五酸化リンが添加されている、7×7×30mmの寸法を有する多層エレメントが製造される。添加は、未焼結のセラミックフィルムの分析に従い、含有量がセラミック固体の重量に関して0.4%鉄および200ppmリンになるように行われる。
【0038】
内部電極材料として純銀粉末(80wt%)および細かく粉砕されたPZT粉末(20wt%)が使用される。混合物はエチルセルロースおよびテルピネオールと攪拌されペーストになる。このペーストは50%の混合物を含んでいる。
【0039】
多層エレメントは900℃で焼結される。セラミックフィルムの厚さは焼結後に60μmになる。
【0040】
構成素子は200Vの動作電圧の印加時に全長の2.0パーミルの特異拡張および56N/mm
2のブロック応力を有する。
【0041】
比較のために、上述の方法に応じるが、従来技術から公知の組成、すなわち焼結助剤が添加されていない、7×7×30mmの寸法を有する多層エレメントが製造される。内部電極材料として、金属部分においてAgPd70/30の組成を有する市販の金属ペーストが使用される。
【0042】
多層エレメントは1000℃で焼結される。セラミックフィルムの厚さは焼結後に90μmになる。
【0043】
構成素子は200Vの動作電圧の印加時に全長の1.7パーミルの特異拡張および40N/mm
2のブロック応力を有する。
【0044】
2つの実施例と従来技術を比較すると、多層エレメントの特異拡張が、AgPd70/30の内部電極が設けられている標準多層エレメントの拡張の約80%であることが分かった。しかしながらそれと同時に、本発明による多層エレメントは焼結助剤の作用によってより硬くより厚くなる。このことは機械的なブロック応力に対する不変の値および著しく高い降伏電圧に見て取れる。
【0045】
したがって、多層エレメントにおいては層厚を低減することができ、またこれによって、同一の動作電圧では、活性材料における電界強度を高め、同値またはそれを上回る多層エレメントを形成することができる。