(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、一実施形態による燃料噴射制御装置を適用したディーゼルエンジンシステムを図面に基づいて説明する。
図1に示すディーゼルエンジンシステム10の構成について説明する。ディーゼルエンジンシステム10は、機関本体11、吸気部12、排気部13、EGR(Exhaust Gas Recirculation)部14、燃料噴射部15および燃料噴射制御装置としてのECU(Electronic Control Unit)16を備えている。機関本体11は、シリンダブロック17、シリンダヘッド18およびピストン19などを有している。シリンダブロック17は、内側に複数のシリンダ21を形成している。シリンダヘッド18は、シリンダブロック17の上端に設けられている。ピストン19は、シリンダブロック17が形成するシリンダ21の内側を軸方向へ往復移動する。このピストン19のシリンダヘッド18側の端面と、シリンダ21の内壁と、シリンダヘッド18のピストン19側の端面とに囲まれた空間は、燃焼室22となる。ピストン19は、図示しないクランクシャフトに接続している。ピストン19がシリンダ21の軸方向すなわち
図1の上下方向へ移動することにより、クランクシャフトは回転する。ピストン19がシリンダ21において
図1の最も上方まで移動したとき、すなわち燃焼室22の体積が最小となるとき、クランクシャフトの回転角度は上死点にある。一方、ピストン19がシリンダ21において
図1の最も下方まで移動したとき、すなわち燃焼室22の体積が最大となるとき、クランクシャフトの回転角度は下死点にある。
【0013】
吸気部12は、吸気管部材23および図示しない吸気バルブを有している。吸気管部材23は、吸気通路24を形成している。吸気通路24の一方の端部からは、図示しないエアクリーナを経由して大気が導入される。吸気通路24の他方の端部は、燃焼室22に接続している。図示しない吸気バルブは、吸気通路24と燃焼室22との間を開閉する。また、吸気通路24の途中には、吸気の流量を調整するスロットルバルブ25が設けられている。排気部13は、排気管部材26および図示しない排気バルブを有している。排気管部材26は、排気通路27を形成している。排気通路27の一方の端部は、図示しない排気浄化装置および消音装置を経由して大気に開放されている。排気通路27の他方の端部は、燃焼室22に接続している。これにより、燃焼室22の排気は、排気通路27を経由して大気中へ排出される。図示しない排気バルブは、燃焼室22と排気通路27との間を開閉する。
【0014】
機関本体11は、4サイクルのディーゼルエンジンである。機関本体11は、吸気バルブが開き、かつ排気バルブが閉じた状態でピストン19が上死点から下死点へ下降するとき、燃焼室22へ吸気を導入する吸気行程となる。そして、機関本体11は、吸気バルブおよび排気バルブがいずれも閉じた状態でピストン19が下死点および上死点へ上昇するとき、燃焼室22に吸入された吸気を圧縮する圧縮行程となる。この圧縮行程の後半で燃焼室22では燃料の燃焼が生じ、燃焼室22の圧力が上昇する。そのため、ピストン19は、再び上死点から下死点側へ下降する。このとき、機関本体11は、吸気バルブおよび排気バルブがいずれも閉じた状態でピストン19が上死点から下死点へ下降する。したがって、機関本体11は、燃焼室22の体積が増加する燃焼行程となる。燃焼行程によって下死点まで下降したピストン19は、再び上死点側へ上昇する。このとき、機関本体11は、吸気バルブが閉じ、かつ排気バルブが開いた状態でピストン19が移動する。これにより、機関本体11は、燃焼室22の燃焼ガスを排気通路27へ排出する排気行程となる。なお、吸気バルブおよび排気バルブが開閉する時期すなわちバルブタイミングは、機関本体11の運転状態に応じて上記した時期から進角側または遅角側へずらされたり、吸気バルブの開閉と排気バルブの開閉とがオーバーラップする場合がある。
【0015】
EGR部14は、排気通路27を流れる排気の一部を吸気通路24へ戻す排気再循環を実施する。EGR部14は、EGR管部28およびEGR弁29を有している。EGR管部28は、EGR通路31を形成している。EGR通路31は、一方の端部が排気通路27に接続し、他方の端部が吸気通路24に接続している。EGR弁29は、EGR通路31を開閉し、排気通路27から吸気通路24へ戻される排気の流量を制御する。
【0016】
燃料噴射部15は、コモンレール32、インジェクタ40および図示しないサプライポンプを有している。図示しないサプライポンプは、図示しない燃料タンクに貯えられている燃料を所定の圧力まで加圧する。サプライポンプで加圧された燃料は、コモンレール32に圧力を維持した状態で貯えられる。コモンレール32に貯えられている高圧の燃料は、インジェクタ40から機関本体11の燃焼室22へ噴射される。
【0017】
インジェクタ40は、周知の構成であり、
図2に示すように主にボディ41、ニードル42、駆動部43および駆動力伝達部44を有している。ボディ41は、第一ボディ45、第二ボディ46、第三ボディ47およびノズル48から構成され、内側にニードル42、駆動部43および駆動力伝達部44を収容している。ノズル48は、筒状に形成され、内側にニードル42を軸方向へ移動可能に収容するとともに、先端に燃料を噴射する噴孔49を有している。第一ボディ45、第二ボディ46、第三ボディ47およびノズル48は、リテーニングナット51によって一体に接続されている。
【0018】
ニードル42と、駆動力伝達部44のニードルストッパ52およびバランスピストン53とは、ボディ41の内側を軸方向へ一体に移動可能である。すなわち、ニードル42は駆動部43側において筒状のノズル48と摺動し、ニードルストッパ52およびバランスピストン53は筒状の第三ボディ47と摺動する。ボディ41を貫く高圧通路54は、コモンレール32から高圧の燃料が供給される。この高圧通路54は、コモンレール32とは反対側の端部がノズル48の先端、およびバランスピストン53の駆動部43側の高圧室55に接続している。ボディ41は、ピエゾピストン56のニードル42側の端部に加圧室57を形成し、ニードルストッパ52のニードル42側の端部に下部室58を形成している。この加圧室57と下部室58とは、加圧通路59を経由して接続している。また、ボディ41は、ピエゾピストン56の駆動部43側に低圧室61を形成し、ニードルストッパ52の駆動部43側に上部室62を形成している。この上部室62と低圧室61とは、低圧通路63を経由して接続している。ボディ41の低圧室61には、駆動部43のピエゾアクチュエータ64が収容されている。上部室62は、弾性部材としてのスプリング65を収容している。このスプリング65は、ニードルストッパ52をニードル42方向へ押し付ける。ピエゾピストン56は、内側に加圧室57と低圧室61とを接続する接続通路66を有するとともに、この接続通路66に加圧室57から低圧室61への燃料の流れを遮断する逆止弁67を有している。加圧室57には弾性部材としての皿ばね68が収容されており、この皿ばね68はピエゾピストン56を常にピエゾアクチュエータ64側へ押し付けている。
【0019】
ニードル42は、
図3に示すように先端の近傍に円環状のシール部71を有している。また、ノズル48は、内周面に円環状のシート部72を有している。噴孔49は、燃料の流れ方向においてこのシート部72の下流側でノズル48を貫いてノズル48の内周壁と外壁との間を接続している。ニードル42の外壁とノズルの内壁とは、
図4に示すように高圧通路54に接続する燃料通路73を形成する。シート部72にシール部71が着座すると、燃料通路73が閉じられる。そのため、高圧通路54と噴孔49との間における燃料の流れが遮断され、燃料は噴孔49から噴射されない。一方、シート部72からシール部71が離座すると、燃料通路73が開かれる。そのため、高圧通路54と噴孔49との間は、燃料通路73を経由して接続され、燃料は噴孔49から噴射される。
【0020】
さらに、インジェクタ40は、
図2に示すように圧力センサ74を有している。圧力センサ74は、高圧通路54のコモンレール32側の端部近傍に設けられており、コモンレール32から高圧通路54へ供給される燃料の圧力を検出する。圧力センサ74は、検出した燃料の圧力を電気信号としてECU16へ出力する。
【0021】
ECU16からピエゾアクチュエータ64に駆動エネルギーが印加されると、ピエゾアクチュエータ64は軸方向へ伸張する。そのため、ピエゾアクチュエータ64に接しているピエゾピストン56は、ピエゾアクチュエータ64に押されてニードル42側へ移動し、加圧室57の体積を縮小する。逆止弁67が加圧室57から低圧室61側への燃料の流れを遮断しているため、加圧室57の圧力、および加圧通路59を経由して加圧室57に接続する下部室58の圧力は上昇する。下部室58の圧力が上昇すると、高圧室55から燃料の圧力を受けるバランスピストン53と下部室58から燃料の圧力を受けるニードルストッパ52との力のバランスは変化する。すなわち、下部室58からニードルストッパ52に加わる力は、高圧室55からバランスピストン53が受ける力とスプリング65の押し付け力との和よりも大きくなる。これにより、ニードル42を下方すなわちシール部71がシート部72に着座する方向へ押し付ける力は減少し、ニードル42は上方すなわち駆動部43側へ上昇する。その結果、シール部71はシート部72から離座し、燃料は噴孔49から噴射される。
【0022】
一方、ピエゾアクチュエータ64の駆動エネルギーを回収すると、ピエゾアクチュエータ64は軸方向へ縮小する。そのため、ピエゾアクチュエータ64に接しているピエゾピストン56は、皿ばね68の押し付け力によってピエゾアクチュエータ64とともに駆動部43側へ移動する。これにより、加圧室57の体積が増加し、加圧室57および下部室58の圧力は低下する。下部室58の圧力が低下すると、下部室58からニードルストッパ52へ加わる力は、高圧室55からバランスピストン53が受ける力とスプリング65の押し付け力との和よりも小さくなる。その結果、ニードル42を下方すなわちシール部71がシート部72へ着座する方向へ押し付ける力が増大し、ニードル42は下方すなわち駆動部43と反対側へ移動する。その結果、シール部71はシート部72に着座し、噴孔49からの燃料の噴射は停止される。
このように、ECU16からの指示に基づくピエゾアクチュエータ64への駆動エネルギーの印加または駆動エネルギーの回収によって、ニードル42は軸方向へ往復移動する。これにより、噴孔49からの燃料の噴射および停止が制御される。
【0023】
ECU16は、
図5に示すようにCPU81、ROM82およびRAM83からなるマイクロコンピュータ84で構成されている。ECU16は、ROM82に記憶されているコンピュータプログラムを実行することにより、回転角度取得部85、運転状態取得部86、噴射量設定部87、インジェクタ制御部88および噴射期間補正部89として機能する。すなわち、回転角度取得部85、運転状態取得部86、噴射量設定部87、インジェクタ制御部88および噴射期間補正部89は、ECU16でコンピュータプログラムを実行することによりソフトウェア的に実現されている。なお、これら回転角度取得部85、運転状態取得部86、噴射量設定部87、インジェクタ制御部88および噴射期間補正部89は、ハードウェア的に実現してもよい。
【0024】
ECU16は、上述の圧力センサ74に加えて、
図1および
図5に示すようにアクセル開度センサ91、吸入空気量センサ92、クランク角センサ93、圧力センサ94、吸気温度センサ95、水温センサ96および吸気圧力センサ97などの各種のセンサに接続している。アクセル開度センサ91は、図示しないアクセルペダルの踏み込み量を検出し、検出した踏み込み量を電気信号としてECU16へ出力する。吸入空気量センサ92は、吸気通路24を流れる空気の流量を検出し、検出した空気の流量を電気信号としてECU16へ出力する。クランク角センサ93は、図示しないクランクシャフトの回転角度を検出し、検出した回転角度を電気信号としてECU16へ出力する。圧力センサ94は、コモンレール32に貯えられている燃料の圧力を検出し、検出した燃料の圧力を電気信号としてECU16へ出力する。吸気温度センサ95は、吸気通路24を流れる吸気の温度を検出し、検出した吸気の温度を電気信号としてECU16へ出力する。水温センサ96は、機関本体11の冷却水の温度を検出し、検出した冷却水の温度を電気信号としてECU16へ出力する。吸気圧力センサ97は、吸気通路24を流れる空気の圧力を検出し、検出した空気の圧力を電気信号としてECU16へ出力する。圧力センサ74は、上述のようにコモンレール32からインジェクタ40へ供給される燃料の圧力を検出し、検出した燃料の圧力を電気信号としてECU16へ出力する。
【0025】
ECU16が実現する回転角度取得部85は、クランク角センサ93から出力された電気信号に基づいて、機関本体11のクランクシャフトの回転角度を取得する。運転状態取得部86は、回転角度取得部85で取得したクランクシャフトの回転角度、およびアクセル開度センサ91から出力された電気信号に基づいて、機関本体11の負荷や回転数などの機関本体11の運転状態を取得する。噴射量設定部87は、運転状態取得部86で取得した機関本体11の運転状態に基づいてインジェクタ40からの燃料の噴射量を基礎噴射量として設定する。これとともに、噴射量設定部87は、設定した基礎噴射量を、吸入空気量センサ92、吸気温度センサ95、水温センサ96および吸気圧力センサ97などの各種センサから出力された吸入される空気量、吸気の温度、冷却水の温度および吸気の圧力などに基づいて補正し、最終的な決定噴射量Qdを設定する。噴射期間補正部89は、圧力センサ74で検出したインジェクタ40へ流入する燃料の圧力に基づいて、燃料の噴射期間を補正する。噴射期間補正部89は、例えば圧力センサ74で検出した燃料の圧力が予め設定した下限圧力より小さいとき、インジェクタ40からの燃料噴射期間を延長する。この場合、噴射期間補正部89は、ピエゾアクチュエータ64に対する駆動エネルギーの印加期間を延長する。一方、噴射期間補正部89は、例えば圧力センサ74で検出した燃料の圧力が予め設定した上限圧力より大きいとき、インジェクタ40からの燃料噴射期間を短縮する。この場合、噴射期間補正部89は、ピエゾアクチュエータ64に対する駆動エネルギーの印加期間を短縮する。
【0026】
インジェクタ制御部88は、回転角度取得部85で取得したクランクシャフトの回転角度、および噴射量設定部87で設定し噴射期間補正部89で補正した燃料の噴射量に基づいて、インジェクタ40からの燃料噴射の断続を制御する。すなわち、インジェクタ制御部88は、インジェクタ40へ出力する駆動エネルギーを制御することにより、噴孔49からの燃料の噴射を制御する。また、ECU16は、圧力センサ94で検出したコモンレール32における燃料の圧力、運転状態取得部86で取得した機関本体11の運転状態、および噴射量設定部87で設定した決定噴射量に基づいて、コモンレール32の圧力をフィードバック制御する。すなわち、ECU16は、図示しないサプライポンプから吐出される燃料の流量を制御することにより、コモンレール32における燃料の圧力を目標とする圧力に制御する。
【0027】
次に、インジェクタ制御部88について詳細に説明する。
インジェクタ制御部88は、上述のようにインジェクタ40のピエゾアクチュエータ64に出力する駆動エネルギーを制御することにより、インジェクタ40からの燃料噴射を制御する。具体的には、インジェクタ制御部88は、インジェクタ40からの燃料の噴射を、クランクシャフトの回転角度にあわせて所定の時期に実行する。本実施形態の場合、インジェクタ制御部88は、燃焼室22における一回の燃焼行程のために、
図6に示すようにパイロット噴射101、メイン噴射102およびアフター噴射103の少なくとも三回の燃料噴射を実行する。すなわち、インジェクタ制御部88は、噴射量設定部87で設定された燃料の決定噴射量Qdに基づいて、パイロット噴射101時にパイロット噴射量Qp、メイン噴射102時にメイン噴射量Qm、およびアフター噴射103時にアフター噴射量Qaを噴射する。つまり、決定噴射量Qdは、Qd=Qp+Qm+Qaとなる。なお、インジェクタ制御部88は、パイロット噴射101に先立つ予備噴射を実行する構成としてもよい。このように、インジェクタ制御部88は、これらパイロット噴射101、メイン噴射102およびアフター噴射103の時期以外にもインジェクタ40から燃料を噴射する構成としてもよい。また、パイロット噴射101、メイン噴射102およびアフター噴射103などの燃料の噴射は、各燃料噴射時期に各噴射量に相当する燃料を一段的に噴射する構成としてもよく、燃料を複数回に分けて多段的に噴射する構成としてもよい。
【0028】
メイン噴射102では、噴射量設定部87で設定した決定噴射量Qdのうち大部分が噴射される。つまり、Qm>Qp、Qm>Qaである。また、メイン噴射102は、機関本体11のクランクシャフトの回転角度が圧縮行程の末期から燃焼行程の初期、すなわち圧縮行程においてピストンが上死点から下死点へ下降する際に実行される。このメイン噴射102を実行する時期は、機関本体11の負荷状態などによって進角側または遅角側へ変動する。パイロット噴射101は、このメイン噴射102に先立って実行される。すなわち、パイロット噴射101は、クランクシャフトの回転角度がメイン噴射102時よりも進角側にあるとき実行される。一方、アフター噴射103は、メイン噴射102に後続して実行される。すなわち、アフター噴射103は、クランクシャフトの回転角度がメイン噴射102時よりも遅角側にあるとき実行される。本実施形態の場合、アフター噴射103におけるアフター噴射量Qaは、パイロット噴射101におけるパイロット噴射量Qpよりも大きく設定している。
【0029】
パイロット噴射101は、続くメイン噴射102における燃料の着火を促進する火種となる核を形成することを目的とする。そのため、パイロット噴射101は、メイン噴射102の直前に実行される。一方、アフター噴射103は、メイン噴射102の際に生じたPMや一酸化炭素(CO)を再燃焼させることを目的とする。上述の通りメイン噴射102は、噴射量設定部87で設定した決定噴射量Qdのうち大部分が噴射される。そのため、メイン噴射102時において燃料の燃焼が不十分になると、排気にはPMやCOなどの物質が含まれる。特に、機関本体11の負荷が大きな高負荷のとき、燃料の噴射量、すなわちメイン噴射102におけるメイン噴射量Qmは増大する。そこで、メイン噴射102に後続してアフター噴射103を実行することにより、燃焼室22における未燃焼物質の燃焼が促進され、メイン噴射102において生成したPMやCOは再燃焼する。その結果、アフター噴射103を実行することにより、排気に含まれるPMおよびCOは低減される。
【0030】
ところで、このアフター噴射103を実行するとき、既にメイン噴射102による燃料は燃焼している。これにより、燃焼室22は、高温および高圧となっている。ここにアフター噴射103で燃料を噴射すると、噴射された燃料は高温および高圧の燃焼室22において噴射してすぐに、すなわち噴孔49の近傍で着火しやすい。つまり、アフター噴射103において噴射された燃料は、着火遅れが極めて小さくなる傾向にある。そのため、アフター噴射103における噴射率をメイン噴射102と同等に設定すると、噴孔49から噴射された燃料は、燃焼室22において高温の燃焼ガスに晒され、却ってPMの生成を招くおそれがある。また、アフター噴射103時において燃料の噴射率を大きくするためにコモンレール32における燃料の圧力を高めると、メイン噴射102においても燃料の噴射率が大きくなる。その結果、メイン噴射102において燃料の急激な燃焼を招き、機関本体11から発生する騒音が増大する原因となる。
【0031】
そこで、本実施形態の場合、インジェクタ制御部88は、
図7に示すようにアフター噴射103での噴射初期における燃料噴射率の変化すなわち増加割合を、メイン噴射102よりも大きく設定している。ここで、噴射初期とは、インジェクタ40から燃料の噴射が開始されてから噴射率が最大となるまでの時期を意味する。また、燃料噴射率とは、単位時間当たりの燃料噴射量である。インジェクタ40から燃料の噴射を実行するとき、燃料噴射率は、
図7に示すように噴射開始から増加し、最大値に到達した後、減少する。本実施形態の場合、このようにアフター噴射103の噴射初期における燃料噴射率の勾配、すなわち燃料噴射率の増加割合は、メイン噴射102に比較して大きい。つまり、アフター噴射103の噴射初期における燃料噴射率の立ち上がりは、メイン噴射102よりも大きい。
【0032】
噴射初期における燃料噴射率の勾配を大きくする場合、インジェクタ40のニードル42の駆動速度は速くする必要がある。すなわち、インジェクタ制御部88は、ピエゾアクチュエータ64へ供給する駆動エネルギーを大きくし、ピエゾアクチュエータ64の伸張速度を大きくする。ニードル42の駆動速度が大きくなると、
図7に示すように時間当たりの燃料噴射率の変化、すなわち燃料噴射率の勾配は大きくなる。
【0033】
そして、ニードル42の駆動速度を大きくすると、
図8に示すように噴孔49から噴射される燃料が形成する噴霧の粒径は小さくなる。すなわち、ニードル42の駆動速度を大きくすると、燃料の微粒化は促進される。また、ニードル42の駆動速度を大きくすると、
図9に示すように噴霧の噴霧長すなわち噴孔49から噴射された噴霧が到達する距離である貫徹力は大きくなる。これは、ニードル42の駆動速度が大きくなると、ニードル42とノズル48との間の燃料通路73を燃料が通過しやすくなるためである。すなわち、高圧通路54に供給された燃料は、ニードル42の上昇にともなってニードル42とノズル48との間の隙間、すなわち燃料通路73を経由して噴孔49へ流入する。そのため、高圧通路54から噴孔49へ流入する燃料は、燃料通路73で流路が絞られた後、噴孔49へ流入する。ここで、ニードル42の駆動速度が大きくなると、燃料通路73の断面積は、迅速に拡大し、噴孔49の断面積よりも大きくなる。その結果、噴孔49へ流入する燃料の流速は、燃料の噴射開始から早期に大きくなる。これにより、噴孔49から噴射される燃料噴霧は、微粒化が促進されるともに、速度および噴霧長つまり貫徹力が増大する。
【0034】
アフター噴射103のようにメイン噴射102に比較して少量の燃料を噴射する場合、噴射された燃料は運動量が小さく噴孔49の近傍にとどまりやすい。そのため、噴孔49の近傍にとどまっている燃料は、高温の燃焼ガスに晒され、PMを生成する原因となる。そこで、本実施形態のように噴孔49から噴射される燃料の速度および貫徹力が増大すると、噴孔49から噴射された燃料は、噴孔49の近傍にとどまることなく噴孔49から遠い位置まで到達する。これにより、本実施形態の場合、アフター噴射103によって噴孔49から噴射された燃料は、噴孔49の近傍にとどまることなく、燃焼室22内に分散する。これと同時に、本実施形態では噴孔49から噴射された燃料の微粒化が促進されるため、アフター噴射103によって噴孔49から噴射された燃料は、燃焼室22における空気との混合も促進される。そのため、アフター噴射103によって噴射された燃料は、燃焼室22の広い領域で燃焼する。その結果、メイン噴射102で生成したPMやCOなどは、アフター噴射103によって供給され燃料によって再燃焼される。
【0035】
ここで、ニードル42の駆動速度を大きくすると、上述の通りインジェクタ40から噴射される燃料の噴霧長つまり貫徹力は大きくなる。しかし、最終的な燃料噴霧の全長、すなわち燃料噴霧の到達距離は、ニードル42の駆動速度の影響をほとんど受けない。また、アフター噴射103時における燃焼室22の圧力は、メイン噴射102における燃料の燃焼によって大きくなっている。そのため、噴孔49から噴射された燃料は、ピストン19の端面やシリンダ21を形成するシリンダブロック17の壁面まで到達しにくい。
【0036】
ところで、コモンレール32における燃料の圧力は、インジェクタ40からの燃料の噴射によって変化する。すなわち、コモンレール32における燃料の圧力は、インジェクタ40から燃料が噴射されると低下し、サプライポンプからの燃料の供給によって上昇する。ここで、上述の通り燃料は、パイロット噴射101、メイン噴射102およびアフター噴射103の順で実行される。パイロット噴射101では比較的少量の燃料が噴射されるため、コモンレール32における燃料の圧力の変化が小さい。これに対し、メイン噴射102では設定された決定噴射量Qdの大部分が噴射されるため、コモンレール32における燃料の圧力の変化が大きくなる。つまり、メイン噴射102に引き続いて実行されるアフター噴射103では、メイン噴射102時に比較してコモンレール32における燃料の圧力が大きく低下している。
【0037】
本実施形態の場合、噴射期間補正部89は、インジェクタ40の圧力センサ74で検出した燃料の圧力に基づいてインジェクタ40のピエゾアクチュエータ64に対する駆動エネルギーの印加期間を調整する。噴射期間補正部89は、インジェクタ40の圧力センサ74から、コモンレール32からインジェクタ40へ供給される燃料の圧力を取得する。そして、噴射期間補正部89は、アフター噴射103のようにメイン噴射102によってコモンレール32における燃料の圧力が低下しているとき、ピエゾアクチュエータ64に対する駆動エネルギーの印加期間を延長する。これにより、コモンレール32における燃料の圧力変化が大きなメイン噴射102に後続してアフター噴射103を実行する場合でも、アフター噴射103においてインジェクタ40から噴射される燃料の量は供給される燃料の圧力に応じて適切に補正される。
【0038】
次に、上記の構成によるディーゼルエンジンシステム10の作動の流れについて
図10に基づいて説明する。
ECU16は、ディーゼルエンジンシステム10が運転されているとき、機関本体11の運転状態に基づいて決定噴射量Qdを設定する(S101)。具体的には、噴射量設定部87は、運転状態取得部86で取得した機関本体11の運転状態に基づいてインジェクタ40からの燃料の噴射量を基礎噴射量として設定する。そして、噴射量設定部87は、設定した基礎噴射量を、吸入空気量センサ92から出力された空気量、吸気温度センサ95から出力された吸気の温度、水温センサ96から出力された冷却水の温度、および吸気圧力センサ97から出力された吸気の圧力などに基づいて補正する。これにより、噴射量設定部87は、設定した基礎噴射量を補正した決定噴射量Qdを設定する。また、ECU16は、機関本体11の運転状態に基づいて噴射時期を設定する(S102)。すなわち、ECU16は、機関本体11の回転数や負荷状態などに基づいて、インジェクタ40から燃料を噴射する噴射時期を設定する。
【0039】
ECU16は、燃料の決定噴射量Qdおよび噴射時期を設定すると、コモンレール32における目標となる燃料の圧力、すなわち目標レール圧を設定する(S103)。この目標レール圧は、燃料の決定噴射量Qdおよび噴射時期などに応じて設定される。ECU16は、設定した目標レール圧に基づいて、図示しないサプライポンプから吐出する燃料の流量を制御する。ECU16は、コモンレール32の圧力センサ74で検出した燃料の圧力に基づいて、サプライポンプをフィードバック制御して、コモンレール32における燃料の圧力を目標レール圧に制御する。
【0040】
ECU16は、運転状態取得部86で取得した機関本体11の運転状態に基づいて、アフター噴射103が要求されているか否かを判断する(S104)。ECU16は、機関本体11の運転状態に基づいて、S101で決定された決定噴射量Qdをメイン噴射102において一段噴射するか、パイロット噴射101やアフター噴射103を含めて多段噴射するかを判断する。
【0041】
ECU16は、S104においてアフター噴射103が要求されていると判断すると(S104:Yes)、アフター噴射量Qaおよびアフター噴射103を実行する時期を設定する(S105)。ECU16は、決定噴射量Qdのうちアフター噴射103で噴射するアフター噴射量Qaとともに、メイン噴射102からどの程度遅角した時期にアフター噴射103を実行するかを設定する。ECU16は、アフター噴射量Qaおよびアフター噴射103の時期を設定すると、アフター噴射103におけるニードル42の移動速度を設定する(S106)。ニードル42の移動速度は、メイン噴射102における移動速度よりも大きく、アフター噴射量Qaに基づいて決定される。すなわち、アフター噴射量Qaが小さくなるほど、ニードル42の移動速度は大きく設定される。これは、アフター噴射量Qaが小さくなるほど、シール部71とシート部72との間の燃料通路73において燃料が絞られる期間の割合が増加し噴霧の長さが減少するため、ニードル42の移動速度を大きくし、十分な噴霧の長さを確保するためである。一方、ECU16は、S104においてアフター噴射103が要求されていないと判断すると(S104:No)、S105以降の処理を実行しない。
【0042】
ECU16は、ニードル42の移動速度を設定すると、アフター噴射103の期間を設定する(S107)。すなわち、ECU16は、アフター噴射103を、クランクシャフトの回転角度がどの位置からどの位置までの間に実行するかを設定する。ECU16は、アフター噴射103の期間が設定されると、アフター噴射103を実行する(S108)。具体的には、インジェクタ制御部88は、S105で設定したアフター噴射103の実行時期になると、S106で設定されたニードル42の移動速度となるようにインジェクタ40のピエゾアクチュエータ64へ駆動エネルギーを印加する。インジェクタ制御部88は、S107で設定したアフター噴射103の期間に応じてピエゾアクチュエータ64へ駆動エネルギーを印加する期間を制御する。ピエゾアクチュエータ64に駆動エネルギーが印加されると、ニードル42はピエゾアクチュエータ64側へ移動する。これにより、シール部71はシート部72から離座し、燃料は噴孔49から噴射される。インジェクタ制御部88は、S107で設定したアフター噴射103の期間が経過すると、ピエゾアクチュエータ64からエネルギーを回収する。ピエゾアクチュエータ64からエネルギーを回収すると、ニードル42は下方へ移動する。これにより、シール部71はシート部72に着座し、噴孔49からの燃料の噴射は停止される。S108においてアフター噴射103が実行されると、ECU16は、S101へリターンし、ディーゼルエンジンシステム10が運転されている間、S101以降の処理を繰り返す。以上の手順によって、インジェクタ40から燃焼室22への燃料の噴射が制御される。
【0043】
以上説明した一実施形態では、インジェクタ40から噴射される燃料は、アフター噴射103の噴射初期における燃料噴射率の変化がメイン噴射102よりも大きく設定されている。すなわち、アフター噴射103における燃料噴射率の立ち上がりは、メイン噴射102よりも大きくなる。これにより、噴孔49から噴射される燃料の流速は増大するので、噴孔49から噴射される燃料の微粒化が促進されるとともに、燃料の貫徹力が高められる。そのため、噴射された燃料は、噴孔49の近傍にとどまらず、噴孔49からより離れた位置まで到達する。これにより、噴射された燃料の噴霧は、空気との混合が促進され、希薄化が促される。その結果、着火遅れが短いアフター噴射であっても、燃料は、速やか、かつ均一な燃焼が図られる。したがって、PMにともなうスモークの発生を低減することができ、ディーゼルエンジンシステム10の性能を高めることができる。
【0044】
また、一実施形態では、インジェクタ制御部88は、アフター噴射103のとき、シート部72から離座するニードル42の移動速度をメイン噴射102に比較して大きくしている。そのため、ニードル42とシート部72との間に形成される燃料通路73はニードル42の移動開始から迅速に拡大し、噴孔49を通過する燃料の流速は増大する。その結果、燃料の微粒化および希薄化が促進される。したがって、燃料の均一な燃焼が図られ、スモークの発生を低減することができる。
【0045】
さらに、一実施形態では、インジェクタ40は、流入する燃料の圧力を検出する圧力センサ74を有している。そして、噴射期間補正部89は、圧力センサ74で検出した燃料の圧力に基づいて噴孔49からの燃料の噴射期間を補正する。すなわち、インジェクタ制御部88は、この噴射期間補正部89によって補正された燃料の噴射期間に基づいてニードル42を駆動する。これにより、メイン噴射102に続くことによってコモンレール32における燃料の圧力の変化が大きなアフター噴射103であっても、インジェクタ40からの燃料の噴射量は、供給される燃料の圧力に基づいて制御される。したがって、アフター噴射103であっても燃料の噴射量を調整することができ、ディーゼルエンジンシステム10の性能を高めることができる。
【0046】
(その他の実施形態)
上述の一実施形態では、インジェクタ40に圧力センサ74を設ける例について説明した。しかし、コモンレール32に設けられている圧力センサ94でコモンレール32における燃料の圧力を検出し、噴射期間補正部89は検出したコモンレール32の圧力に基づいて燃料の噴射期間を補正する構成としてもよい。
以上説明した本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。