(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来技術によれば、検査対象となる領域に合わせてポイントセンサを移動する必要があるため、印刷物の検査に時間を要するという問題がある。
【0006】
ポイントセンサの代わりにラインセンサを利用することで、ポイントセンサの移動を省く方策も考えられるが、単純にセンサの種類を変更することはできない。センサの種類を変更すると、変更前のセンサ用に蓄積されてきた各印刷物用の基準データを利用できなくなるからである。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであって、センサを変更した後のセンサデータを、変更前のセンサ用の基準データと比較可能なデータに変換することができる印刷物検査用センサのデータ変換方法及び変換装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決し、目的を達成するため、本発明は、印刷物検査用センサのデータを変換するデータ変換方法であって、ラインセンサにより基準媒体の光学特性を計測したラインセンサ計測データと基準媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ用基準データとを記憶部から読み出すデータ読出工程と、ラインセンサ計測データにポイントセンサの有効計測領域より広い演算ブロック領域を設定する領域設定工程と、演算ブロック領域に含まれる画素値を重み係数によって変換して検査データを生成する検査データ生成工程と、検査データとポイントセンサ用基準データの相関値を求める相関評価値取得工程と、重み係数を形成する各係数の値をZ方向として各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に重み係数が略円錐台形状となるように各
係数を変更する係数変更工程と、検査データ生成工程、
相関評価値取得工程及び係数変更工程を繰り返して所定条件内で相関値が最大となる重み係数を決定する係数決定工程とを含んだことを特徴とする。
【0009】
また、本発明は、上記発明において、係数変更工程が、重み係数が楕円錐台形状となるように各係数を変更する工程であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明は、上記発明において、係数変更工程が、
重み係数を示す円錐台又は楕円錐台の側面形状が曲面となるように各係数を変更する工程であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明は、上記発明において、係数変更工程が、各係数を式(1)で表し、該式(1)に含まれる頂面形状に寄与するパラメータm及びnと、円柱又は円錐台の側面形状に寄与するパラメータa,b及びcとを変更することにより重み係数を形成する
各係数であるtable[X,Y]を変更し、
【数1】
係数決定工程が、所定数値範囲内の所定刻み幅で設定された
パラメータm,n,a,b及びcの全ての組み合わせから
相関値が最大となる
パラメータを求め、該パラメータ及び
式(1)によって重み係数を決定することを特徴とする。
【0012】
また、本発明は、上記発明において、領域パラメータを形成する演算ブロック領域の開始位置、チャネル幅及びライン幅を変更する領域パラメータ変更工程と、領域設定工程、検査データ生成工程、
相関評価値取得工程及び領域パラメータ変更工程を繰り返して所定数値範囲内の所定刻み幅で設定された開始位置、チャネル幅及びライン幅の全ての組み合わせから相関値を取得して該相関値が最大となる領域パラメータを決定する領域パラメータ決定工程とをさらに含んだことを特徴とする。
【0013】
また、本発明は、上記発明において、検査データ生成工程で生成したデータをさらにゲイン及びオフセットによって変換したデータを検査データとする変換工程と、変換工程で変換した検査データとポイントセンサ用基準データから回帰直線に含まれる傾き及び切片を求めて所定基準値との誤差を評価する誤差評価工程と、傾き及び切片に基づいてゲイン及びオフセットの値を変更するゲイン・オフセット変更工程と、検査データ生成工程、変換工程、誤差評価工程及びゲイン・オフセット変更工程を繰り返してゲイン及びオフセットの値と所定基準値を、誤差評価工程による誤差が所定範囲内となったときの値に決定するゲイン・オフセット決定工程とをさらに含んだことを特徴とする。
【0014】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサにより検査媒体の光学特性を計測する検査媒体計測工程と、
検査媒体計測工程により計測したラインセンサ計測データ上に領域パラメータ決定工程により決定された
領域パラメータに基づいて
演算ブロック領域を設定する工程と、演算ブロック領域に含まれる画素値を
係数決定工程で決定された重み係数と、ゲイン・オフセット決定工程で決定されたゲイン及び
オフセットとに基づいて変換して検査データを生成する工程とをさらに含んだことを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、印刷物検査用センサのデータを変換するデータ変換装置であって、ラインセンサにより基準媒体の光学特性を計測したラインセンサ計測データと基準媒体の所定検査領域の光学特性を示すポイントセンサ用基準データとを記憶する記憶部と、ラインセンサ計測データにポイントセンサの有効計測領域より広い演算ブロック領域を設定して該演算ブロック領域に含まれる画素値を重み係数によって変換して検査データを生成するとともに、パラメータ範囲、演算回数、演算時間等の所定条件内で重み係数を変更して検査データとポイントセンサ用基準データの相関値が最大となる重み係数を決定する重み係数算出部と、重み係数算出部によって決定された重み係数を含む計測データ変換情報を作成して記憶部に格納する計測データ変換情報作成部とを備え、重み係数算出部は、重み係数を形成する各係数の値をZ方向として各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に重み係数が略円錐台又は略楕円錐台形状となるように各係数を変更することを特徴とする。
【0016】
また、本発明は、上記発明において、ラインセンサによって検査媒体を計測したデータを、重み係数算出部で決定した重み係数によって変換して検査データを生成する計測データ変換部をさらに備えたことを特徴とする。
【0017】
なお、略円錐台形状とは、円錐台の側面が断面形状で見た場合に直線状である場合に加えて曲線状となる場合を含む概念である。略楕円錐台についても同様に側面形状が直線又曲線で校正される場合を含む概念である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、各パラメータの値と、その組み合わせを変更しながらラインセンサにより基準媒体を計測したデータとポイントセンサ用基準データとの相関値が最大となる重み係数を決定することができる。そのため印刷物検査用のセンサをポイントセンサからラインセンサに変更した後も、計測データを重み係数で変換した検査データを生成してポイントセンサ用基準データを利用した検査を行うことができる。よってラインセンサ用の基準データを生成し直す必要がない。
【0019】
また、本発明によれば、重み係数を構成する各係数値の値をZ方向として各係数の位置をXY平面とする3次元形状で表した場合に前記重み係数が略円錐台又は略楕円錐台形状となるようにしたり、さらにその側面が曲面となるようにしたりするので、ポイントセンサによる実際の計測状況を正確に反映した重み係数を決定することができる。この重み係数を利用すればラインセンサの計測データからポイントセンサによって計測した場合のデータを精度良く再現することができる。
【0020】
また、本発明によれば、ラインセンサによる計測データ領域の開始位置、チャネル幅及びライン幅を、変換後の検査データとポイントセンサ用基準データとの相関値が最大となるように決定することとしたので、ポイントセンサによる計測で利用される光の特性やポイントセンサの取り付け状態等を正確に反映したデータ領域を決定することができる。これらの領域パラメータにより設定した計測データ領域を利用すればラインセンサによる計測データからポイントセンサによって計測した場合のデータをさらに精度良く再現することができる。
【0021】
また、本発明によれば、重み係数に加えてラインセンサによる計測データの変換に用いるゲイン及びオフセットを、変換後の検査データとポイントセンサ用基準データとが所定の誤差範囲内で一致するように決定することとしたので、変換後の検査データを補正する処理等、追加の後処理が不要である。
【0022】
また、本発明によれば、最適値として求めた領域パラメータ、重み係数、ゲイン及びオフセットを利用して検査媒体を計測したデータを変換することとしたので、ポイントセンサにより計測した場合のデータを高い精度で再現することができる。そのためポイントセンサ用基準データとの比較によって印刷物を検査することができる。またラインセンサは1回の走査で検査媒体全体を走査できるため検査にかかる時間を短縮できる。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下に添付図面を参照して、この発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法及びデータ変換装置の好適な実施例を詳細に説明する。
【0025】
本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法の概要について
図1、
図2及び
図14を用いて説明した後に、本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法及びデータ変換装置の実施例について
図3から
図13を用いて説明する。なお、以下では、同じ色や図柄等を印刷された印刷物について、検査用の基準データを生成するために利用する正常な印刷状態にある印刷物を「基準媒体」と記載し、印刷物検査の対象となる印刷物を「検査媒体」と記載する。
【0026】
本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法は、
図1(A)に示すようにラインセンサ12を利用して検査媒体101の光学特性を計測し、この計測結果を、
図1(B)に示すように基準媒体102をポイントセンサ112によって計測して生成された従来の基準データと比較可能なデータに変換する点に一つの特徴がある。
【0027】
まず、従来のポイントセンサ112による印刷物検査の概要を説明する。
図14にポイントセンサ112の構造の一例を示す。ポイントセンサ112は、従来の印刷物検査に利用されていたセンサで、発光素子112aから照射され印刷物表面で反射された反射光を単一の受光素子112bで受光し、電気信号に変換する機能を有する。例えばセンサ有効径3mm程度の受光素子112bを有するポイントセンサ112を利用して、印刷物表面の微小領域の反射光を検出し、印刷物の印刷状態を精密に検査していた。
【0028】
ポイントセンサ用の基準データは、
図1(B)に示すように、検査基準となる正常に印刷された基準媒体102の検査対象領域上を、同図の矢印で示すようにポイントセンサ112で走査することにより生成していた。
図1(E)に、このようにして生成された基準データの一例を示す。横軸は基準媒体102を走査したときの走査線上の位置であり、縦軸は検出光量である。
【0029】
印刷物検査を行うときは、
図1(C)に示すように、検査対象となる検査媒体101上で、基準データを生成した領域と同じ領域を、基準データを生成したポイントセンサ112又はこれと同構造を有するポイントセンサ112によって走査する。
図1(F)に、このようにして計測された計測データの一例を示す。
【0030】
そして、
図1(H)に示すように、同じくポイントセンサ112を利用して得られた、検査媒体101を計測したデータ(検査データ或いは計測データ)と基準媒体102を計測した基準データとを比較することにより、印刷物表面の状態を検査していた。
【0031】
なお、計測データ(検査データ)と基準データの比較は、
図1(H)に示す波形データ全体、即ち全走査領域のデータを比較して行う場合もあるし、同図に破線で示した領域R等、所定の部分領域のデータのみを比較する場合もある。また同一データ上の複数の部分領域についてデータを比較する場合もある。さらに同じ印刷物上の異なる位置に検査領域が設定されている場合は、これらの検査領域を走査して得られた複数データの各々について、全域走査領域又は部分領域のデータを比較する場合もある。媒体上のどの領域を検査するかについては、印刷された図柄等の特徴に応じて予め設定されており、設定された領域に応じて基準データが生成される。
【0032】
同じ基準媒体の同じ検査領域であっても、生成される基準データは、検査領域を計測するセンサによって変化する。具体的には、検査対象が同じであっても、発光素子によって印刷物表面に照射される光の波長や強度等の特性が異なり、反射光を検出する受光素子の感度等の特性が異なるために計測されるデータが変化する。また計測する環境の影響を受ける場合もある。構造が同じセンサの場合は、センサ間の個体差等を補正することによって対応できる。しかし、センサの構造自体を変更した場合は補正では対応できず、それまで利用されてきた基準データを利用することができない。このような場合は、新たに採用したセンサ用に基準データを生成し直す必要があった。例えば
図1(A)に示すように、印刷物検査用センサとして、ポイントセンサ112に代えて、新たにラインセンサ12を採用した場合、計測データは同図(D)に示すような画素値41の集合となる。そのため同図(E)に示す基準データと比較して印刷物を検査することができない。
【0033】
しかし、本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換方法によれば、基準データを生成したセンサとは構造が異なるセンサを採用しながら、過去に生成された基準データを利用して印刷物の検査を行うことができる。
【0034】
具体的には、
図1(A)に示すラインセンサ12によって計測された同図(D)の計測データから、部分的に抽出した画素値に重み係数を適用して変換し、同図(G)に示すようにポイントセンサ112で計測した場合に得られる計測データを再現する印刷物検査用センサのデータ変換方法を提供するものである。こうしてポイントセンサ112により計測された場合のデータを擬似的に再現することができれば、同図(H)に示すように、従来の検査と同じポイントセンサ用基準データと比較することにより印刷物の評価を行うことができる。計測データを変換する方法の詳細については後述する。以下では、ラインセンサによって計測された計測データと区別するため、ラインセンサの計測データを変換して生成した検査に供するデータを「検査データ」と記載する。
【0035】
次に、印刷物検査方法について説明する。ここで説明する印刷物検査方法を利用して、ラインセンサ12によって計測された計測データと、ポイントセンサ112によって生成された基準データとが、本発明のデータ変換に係る処理対象となる。なお、本発明は、ポイントセンサ112に代えてラインセンサ12を採用した場合にも、従来のポイントセンサ112用の基準データを利用して印刷物の光学特性を評価できる印刷物検査用センサのデータ変換方法を提供するものである。計測対象や計測用の装置及び条件は、センサを変更する前のポイントセンサ112を利用していた際の状況に応じて決定されるもので、本発明に係る印刷物検査の方法や装置構成及び動作が以下に記載する内容に限定されるものではない。
【0036】
図2は、印刷物検査方法の概要を示す図である。同図の(A)には印刷物検査装置10の一部の俯瞰図を示している。同図(A)には、ラインセンサ12を含むヘッドユニット11を移動して印刷物100の表面を走査する態様を示したが、同図(B)に示したように、ラインセンサ12側を固定し、媒体100側を移動することにより印刷物100の表面を走査してもよい。
【0037】
図2(C)にはヘッドユニット11を印刷物100の側からみた図を示している。ヘッドユニット11には、Y軸方向に直線状に並んだLED等の発光素子12aと、CCDやフォトダイオード等の受光素子12bとによって構成されるラインセンサ12が内蔵されている。ポイントセンサ112が単一の受光素子を利用して、例えば直径数mmの有効計測領域の光学特性を計測するのに対し、ラインセンサ12は複数の受光素子102bを線状に配置したリニアアレイセンサで、数百dpiの分解能を有する高密度センサである。
【0038】
具体的には、例えばラインセンサ12の発光素子12aとして24チャンネルの発光LEDアレイが利用される。LEDから照射された光は印刷物100の表面で反射される。ラインセンサ12は、印刷物表面で反射された光を、受光素子12bとして利用するCCDアレイで受光し、反射光強度に応じた電気信号を出力する機能を有する。ラインセンサ12は、高密度光学センサであり例えば200dpiの分解能を有する。
【0039】
ラインセンサ12を構成するライン状の発光素子12a及びライン上の受光素子12bは、主走査方向がY方向となるように並設され、印刷物100の表面上をX軸方向に移動するように配設されている。ラインセンサ12は、印刷物100よりも長いセンサ有効長を有する。印刷物101の副走査方向の長さが、例えば66mmである場合、ラインセンサ12の有効長が70mm以上であることが望ましい。このようにラインセンサ12が、検査媒体の長さよりも長いセンサ有効長を有することにより1回の走査で検査媒体全域を計測できるため、計測時間を大幅に短縮することができる。
【0040】
なお、ラインセンサ12による計測には、可視光の他、赤外光や紫外光を利用することもできる。特定の波長域における光学特性を計測する場合には、発光素子12aや受光素子12bに光学フィルタを適用して所望の波長域を抽出して利用する。または、複数の波長の発光素子12aを時分割して発光させることもできる。印刷物検査に利用する光学特性は、印刷物の材質や、印刷に利用されるインク等の特性に応じて決定する。さらにラインセンサ12が印刷物の透過光を検出してもよい。反射光及び透過光のいずれを利用するかについても基準データに合わせて決定される。
【0041】
図2に示す様に、ヘッドユニット11は、5c方向(Z軸の正方向および負方向)に移動可能なZ軸用可動部2cを介して、X軸用可動部3aに接続されている。Z軸用可動部2cは、Z軸用駆動モータ1cによって移動制御される。またX軸用可動部3aは、X軸用ガイド2a上を、X軸用駆動モータ1aによって5a方向(同図のX軸の正方向および負方向)に移動制御される。即ち、ヘッドユニット11は、
図2に示したX軸およびZ軸の各々に沿って移動自在に設けられている。
【0042】
例えば
図2(A)に示した走査方向200に印刷物100を走査する場合、X座標の走査開始位置で、ラインセンサ12と印刷物100が所定距離となる位置までヘッドユニット11をZ軸方向に下降させる。そして、X軸用駆動モータ1aをX座標軸の正方向へ移動するように回転させることによって走査方向200にヘッドユニット11を移動し、印刷物100上を走査する。なお、ラインセンサ12と印刷物100との距離の制御は、例えばヘッドユニット11に設けた図示しないレーザセンサ等の距離センサを利用し、計測した距離データに基づいて行われる。また同図(B)に示すようにラインセンサ12を静止させておいて、印刷物100側を移動するときは、図示しない搬送機構を利用し、印刷物100を載置した計測台を方向200と正・逆方向に移動すればよい。
【0043】
また、ヘッドユニット11の印刷物側の面に、印刷物100へエアーを吹き付ける図示しない噴出口を備えてもよい。印刷物表面の光学特性を精密に検査するためには、ラインセンサ12と印刷物100との距離を一定に保ち、印刷物表面からの反射光を正確に検出する必要がある。噴出口から印刷物100へ向けてエアーを吹き付ければ、印刷物100の波打ちやしわを矯正しラインセンサ12と印刷物100との間隙を適正に保つことができる。
【0044】
このように、走査方向と直交する向きに配したラインセンサ12をヘッドユニット11に対して設け、かかるヘッドユニット11を用いて印刷物100の全面を1回の走査によって計測する。
【0045】
図15に、従来のポイントセンサ112を利用した印刷物検査装置を示す。ポイントセンサ112は、印刷物全面の光学特性を1回の走査で計測することができないため、印刷物100上でY軸方向にも移動させて複数回走査する必要がある。そのため上述した構成に加えて、さらにX軸用ガイド2aがY軸用可動部3bに接続され、このY軸用可動部3bがY軸用ガイド2b上をY軸用駆動モータ1bによって5b方向(同図のY軸の正方向および負方向)に移動制御可能な構成を有している。ポイントセンサ用基準データは、このような構成を有する印刷物検査装置上で、ポイントセンサ112を印刷物100上に設定された検査領域に移動させ走査することによって生成されたものである。
【0046】
次に、本発明に係る印刷物検査用センサのデータ変換装置1の構成について説明する。
図3は、データ変換装置の構成を示すブロック図である。
図3に示すように、データ変換装置1は、制御部13と、記憶部14とを備えている。制御部13は、重み係数算出部13aと、計測データ変換情報作成部13bと、計測データ変換部13cとをさらに備えている。記憶部14は、ラインセンサ計測データ14aと、ポイントセンサ用基準データ14bと、計測データ変換情報14cとを記憶する。
【0047】
データ変換装置1が利用するラインセンサ計測データ14aは、印刷物検査用センサとして新たに採用されたラインセンサ12によって計測され、記憶部14に記憶されたデータである。またポイントセンサ用基準データ14bは、ポイントセンサ112を備える従来の印刷物検査装置で利用されてきた記憶部14に記憶済みの基準データである。
【0048】
制御部13は、ラインセンサ計測データ14a及びポイントセンサ用基準データ14bを利用して重み係数を算出するためのシミュレーション、重み係数を含む計測データ変換情報14cの作成及び記憶、重み係数を利用したラインセンサ計測データ14aの検査データへの変換といった処理を行う処理部である。
【0049】
重み係数算出部13aは、ラインセンサ12によって基準媒体102を計測したラインセンサ計測データ14aと、予め記憶済みのポイントセンサ用基準データ14bとを記憶部14から読み出し、両者から重み係数を算出する処理を行う処理部である。具体的には、基準媒体102を計測したラインセンサ計測データ14aを重み係数によって変換して検査データを生成し、当該検査データが同じ基準媒体102を計測して生成されたポイントセンサ用基準データ14bと一致するように、各種パラメータを変更しながらシミュレーションを行って最適な重み係数を算出する。パラメータ及びシミュレーションの詳細については後述する。
【0050】
計測データ変換情報作成部13bは、算出された重み係数を含む計測データ変換情報14cを記憶部14に格納する処理を行う処理部である。計測データ変換情報14cとして、重み係数を算出するときに用いられた基準媒体102に関する情報、ポイントセンサ用基準データ14bを特定する情報、ラインセンサ12を特定する情報等を、重み係数と関連付けて記憶することができる。
【0051】
具体的には、基準媒体102に関する情報には、印刷物を特定するための基準媒体102の情報や、媒体上の計測位置に関する情報等が含まれる。本発明によって決定された重み係数を利用して印刷物検査を行うときに、この基準媒体情報を参照することにより、検査媒体101の種類に応じて利用可能な重み係数を特定することができる。ラインセンサ12に関する情報には、ラインセンサ12を特定する識別子等の情報、計測に利用した光の種類や波長に関する情報、受光素子の性能や特性に関する情報等が含まれる。本発明によって決定された重み係数を利用して印刷物検査を行うときに、このラインセンサ情報を参照することにより、検査に用いたラインセンサ12に応じて利用可能な重み係数を特定することができる。即ち、ある検査媒体101をラインセンサ12で計測したときに、検査媒体101及びラインセンサ12の情報に基づいて計測データ変換情報14cを参照し、ラインセンサ12の計測データを変換するために必要な情報、重み係数、検査に用いる基準データ等を特定することができる。
【0052】
計測データ変換部13cは、検査媒体の印刷物検査を行うときに、記憶部14から読み出したラインセンサ計測データ14aを、重み係数によって変換する処理を行う処理部である。具体的には、検査に用いた検査媒体101の種類やラインセンサ12の特性に基づいて、利用可能な計測データ変換情報14cを特定する。そして計測データ変換情報14cに含まれる重み係数を利用してラインセンサ計測データ14aを変換し、検査データを生成する。
【0053】
記憶部14は、ハードディスクドライブや揮発性又は不揮発性メモリといった記憶デバイスによって構成される記憶装置である。記憶部14には、ラインセンサ計測データ14aやポイントセンサ用基準データ14b等のデータが印刷物の種類と対応付けて格納されている。そのため格納されたデータ及び印刷物のいずれか一方が特定されると、他方を特定することができる。ポイントセンサ用基準データ14b及び計測データ変換情報14cは、記憶部14内で記憶保持されて利用されるのに対し、ラインセンサ計測データ14aは、重み係数を算出するシミュレーションの間や、印刷物検査の間だけ保持されればよい。そのため、ラインセンサ計測データ14aの保存には揮発性メモリを利用してもよい。
【0054】
次に、印刷物検査用センサのデータ変換方法詳細について説明する。以下では、例として、印刷物100が
図2に示すY方向に66mmの幅を有し、これをセンサ有効径3mmのポイントセンサ112によってX方向に走査した計測データからポイントセンサ用基準データ14bが生成されたものとして説明する。またラインセンサ12は、印刷物100の幅よりも長い70mmのセンサ有効長を有し、発光素子12aから可視光を照射して印刷物表面からの反射光を200dpiの解像度で検出するものとして説明する。
【0055】
印刷物検査用センサのデータ変換を行うために必要な重み係数の決定方法について
図4から
図6を用いて説明する。
図4から
図6に示すフローチャートは重み係数の決定方法に係る一連の処理を示すもので、これらの処理は重み係数算出部13aによって行われる。
【0056】
まず、重み係数を算出するために選択されたポイントセンサ用基準データ14bを記憶部14から読み出す(ステップS1)。同様に、読み出したポイントセンサ用基準データに対応するラインセンサ計測データ14aを記憶部14から読み出す(ステップS2)。ここで読み出されるラインセンサ計測データ14aは基準媒体102をラインセンサ12によって計測したデータである。
【0057】
これらの処理(ステップS1及びS2)は順序が逆であってもよい。また、ポイントセンサ用基準データ14b及びラインセンサ計測データ14aのいずれか一方が、図示しない選択指示手段によって選択されると、他方が自動的に選択されてもよい。
【0058】
具体的には、先にラインセンサ計測データ14aが選択されると、記憶部14内部で対応付けられた印刷物100の種類が特定され、対応するポイントセンサ用基準データ14bが自動的に選択されてもよい。媒体上の一部の領域を計測するポイントセンサ112に関し、
図7(A)に示すように媒体上に複数の検査領域31,32及び33・・・が設定されている場合には、これらの領域に応じて、ポイントセンサ用基準データ14bが複数存在することになる。
【0059】
ここで検査領域とは、印刷物の材質、印刷に用いられるインクの特性、印刷される図柄等を考慮して、印刷状態を評価するために予め設定された領域で、ポイントセンサ用基準データ14bが生成された領域である。センサ有効径3mmの受光素子によって媒体からの反射光を計測するポイントセンサ112では、
図7に示すように、幅3mmの帯状の領域が検査領域31,32及び33を構成する。ポイントセンサ用基準データ14bは、基準媒体上の各検査領域31,32及び33をポイントセンサ112によって計測することにより生成されたデータである。
【0060】
ポイントセンサ112は、光学特性を測定できるセンサの有効計測領域が媒体に対して小さい。そのため、
図7(A)に示すように、媒体上に複数の検査領域31,32及び33が異なるY座標位置に存在する場合、各検査領域に応じてポイントセンサ112を移動させ複数回走査する必要があった。これに対し、ラインセンサ12は、検査対象となる媒体の幅よりも長いセンサ有効長を有しているため、同図(B)に示すように、1回の走査で媒体上の全域を走査することができる。そのため、計測にかかる時間を大幅に短縮することができる。
【0061】
ラインセンサ計測データ14a及びポイントセンサ用基準データ14bが選択されると重み係数を算出するためのシミュレーションが開始される。
【0062】
ラインセンサ計測データ14aは、
図8(A)に示すように基準媒体102全面を200dpiの解像度で撮像した画像データである。重み係数算出部13aは、この画像データを構成する各画素値41から、センサ有効径3mmのポイントセンサ112によって計測された基準データと所定の誤差範囲内で一致する検査データを擬似的に再現するための重み係数を決定する。
【0063】
ここで重み係数とは、ラインセンサ12によって得られた各画素値41に対して設定される係数の集合である。即ち、各画素に対応して設定された係数によって構成されるテーブルが重み係数である。このテーブルを構成する各係数と、対応する各画素値41とを乗算して総和を求める変換を行うことにより、ラインセンサ計測データ14aから、ポイントセンサ112により計測した場合の計測データを再現することができる。
【0064】
重み係数を決定するまでには3種のシミュレーション(ステップS3,S13及びS23)を行う。第1のシミュレーション(ステップS13)は、重み係数決定に利用するデータ領域を設定するための領域パラメータを決定するシミュレーションである。第2のシミュレーション(ステップS23)は、第1のシミュレーション(ステップS13)で決定した領域に含まれる画素値41を変換した検査データがポイントセンサ用基準データ14bと一致するように画素値41のゲイン及びオフセットを調整するためのシミュレーションである。そして第3のシミュレーション(ステップS33)は、第1及び第2のシミュレーション(ステップS13及びS23)で決定されたパラメータを用いて重み係数を構成する各係数の最適値を求めるためのシミュレーションである。
【0065】
まず、基準媒体102全面を計測したラインセンサ計測データ14aから、変換対象となるデータ領域を設定するための領域設定シミュレーションを行う(ステップS3)。領域設定シミュレーションで変更されるパラメータは領域の位置及び大きさである。
【0066】
領域設定シミュレーション(ステップS3)の詳細について説明する。まず、基準媒体102上の検査領域を含む演算対象領域を抽出する(
図4ステップS4)。センサ有効径が直径3mmのポイントセンサ112である場合、理想的な検査領域は、
図8(A)に示すように、幅3mmの帯状の検査領域31となる。これに対し同図(B)に示すように、検査領域31の幅よりも僅かに広い幅を有する領域を演算対象領域42として抽出する。演算対象領域42の抽出に必要な領域の開始位置P(画素位置)及びチャネル幅(画素数)Cがシミュレーション用のパラメータとなる。
【0067】
例えば、チャネル幅Cを1画素刻みで20画素から30画素(約2.5mmから3.8mm)の範囲に設定する。また開始位置Pを、演算対象領域42の中心線34と検査領域31の中心線34とが一致する位置から、1画素刻みで上下方向に各10画素(約1.3mm)移動する範囲に設定する。
【0068】
ポイントセンサ112のセンサ有効径が3mmであっても、実際には、その計測データが幅3mmの検査領域31の光学特性のみによって得られたものではない可能性がある。具体的には、計測に利用される発光素子112a、発光素子から照射される光、反射光を計測する受光素子112b等の個体差や特性によって、媒体上の検査領域外の光学特性による影響を受ける可能性がある。また基準データの計測は、基準媒体102に対するポイントセンサ112の位置を制御して行うが、制御時の誤差、ポイントセンサ112のヘッドユニット11への取付け状態、発光素子112a及び受光素子112bの状態等によって、実際に計測した領域が媒体上の検査領域31とずれている可能性がある。そのため、ポイントセンサ112のセンサ有効径と等しい幅を有する検査領域31よりも僅かに大きい領域を演算対象領域42とし、さらにその大きさや位置を変更するためのパラメータを設定してシミュレーションを行う。
【0069】
次に、演算対象領域42上で、ポイントセンサ112による計測に合わせて、ポイントセンサ用基準データ14bに対応する検査データを生成する演算ブロック領域43を設定する(
図4ステップS5)。演算対象領域42は、走査方向に長い画素幅Cの帯状の領域である。この領域上で、ポイントセンサ112の走査方向の分解能に合わせて演算ブロック領域43を設定する。即ちポイントセンサ112による1回の計測でデータを得る領域を演算ブロック領域43とし、該領域を演算対象領域42上に設定する。
【0070】
具体的には、例えばポイントセンサ112が走査方向に1mmの分解能を有する場合、1mmは200dpiの分解能を有するラインセンサ12で約8画素分に相当するため、
図8(C)に示すように、演算対象領域42の中心線34上に8画素間隔で中心画素44a,44b…を設定する。そして、この中心画素44を中心として演算ブロック領域43a、43b…を設定する。このようにポイントセンサ112が検査領域を走査しながら基準データを構成するデータを出力する計測領域を、演算対象領域42上でポイントセンサ112の分解能に応じて所定画素分だけずらした演算ブロック領域43によって再現する。
【0071】
このとき演算ブロック領域43の走査方向の長さであるライン幅Lもシミュレーション用パラメータとする。例えば、ライン幅Lの範囲を、チャネル幅Cと同様に、1画素刻みで20画素から30画素(約2.5mmから3.8mm)に設定する。チャネル幅C及びライン幅Lで形成される矩形領域が、演算ブロック領域43を構成する。
【0072】
シミュレーション用パラメータである開始位置P、チャネル幅C及びライン幅Lの値を、設定した各パラメータの範囲内で組み合わせて演算ブロック領域43を設定し、演算ブロック領域43に含まれる各画素値41に重み係数の初期値を適用して変換し、検査データを生成する(
図4ステップS6)。
【0073】
図8(C)に示すように演算ブロック領域43aは、その領域の一部が隣り合う演算ブロック領域43bと重複するが、同図(D)に示すように、各演算ブロック領域の画素値41をポイントセンサ112の分解能に応じた1回の計測データとして利用する。即ち、演算ブロック領域43a,43b及び43cを構成する各画素値41に重み計数を乗算し、その総和から同図(E)に示すように走査方向に1mmの分解能を有するポイントセンサ112による計測データを再現し、このデータ45a,45b及び45cを検査データとする。
【0074】
初期値として利用する重み係数を視覚化したものを
図9(A)に示す。
図9(A)は、X方向及びY方向が演算ブロック領域43の画素位置を示し、Z方向が重み係数を構成する各係数の値を示している。即ち、重み係数を、構成する係数によって3次元的に表現したものである。なお、重み係数を構成する各係数は演算ブロック領域を構成する各画素に対応しているので、同図に示すX座標及びY座標は各係数の位置でもある。同図に示したように、初期値として利用する重み係数は、ポイントセンサ112の理想的な有効計測領域、即ち演算ブロック領域43の中心画素44を中心とする直径3mmの円形領域内に含まれる係数を1とし、該円形領域外の係数を0とする係数により構成される。
【0075】
次に、重み係数の初期値によって演算ブロック領域43に含まれる画素値41を変換して生成した検査データ45と、ポイントセンサ用基準データ14bとを比較して相関係数を求める(
図4ステップS7)。相関係数Rは、以下の数式1によって求められる。
【数1】
【0076】
求めた相関係数Rを記憶装置14に記憶した後、パラメータP,C及びLの組み合わせが残っている間(
図4ステップS8;No)、パラメータの組み合わせを変更して(ステップS9)、ステップS4〜S7の処理を繰り返してシミュレーションを行う。即ちシミュレーションパラメータP,C及びLの取り得る各値について、全ての組み合わせで検査データを求め、ポイントセンサ用基準データ14bとの相関を評価する。
【0077】
パラメータの全ての組み合わせについて相関係数Rを求めたら(
図4ステップS8;Yes)、相関係数Rが最大となるパラメータP,C及びLの組み合わせを領域パラメータとして決定する(ステップS10)。
【0078】
次に、変換後の検査データとポイントセンサ用基準データ14bの値が一致するように、ゲイン及びオフセットを決定するシミュレーションを行う(
図5ステップS13)。
【0079】
データ変換装置1は、印刷物検査時に、ラインセンサ12によって計測されたラインセンサ計測データ14aからポイントセンサ112によって計測されたデータに近似するデータを生成するためのデータ変換を行う装置である。計測後の処理において、検査データ45を従来のポイントセンサ112のデータと同様に取り扱うことができるように、変換後の検査データ45がポイントセンサ112から出力されるデータと一致する必要がある。即ち両者の相関が高いだけでは不十分であり値そのものの一致が要求される。そのため検査データ45がポイントセンサ用基準データ14bと所定の許容範囲内で一致するようにゲイン及びオフセットをシミュレーションにより決定する。
【0080】
変換対象となる領域を決定するためのパラメータC,P及びLは、先のシミュレーション(
図4ステップS3)によって決定されている。上述した通りCはチャンネル幅の画素数、Pは領域の始点座標、Lはライン幅の画素数である。これら決定済みの領域パラメータを利用して演算対象領域42を抽出し(ステップS14)、さらに演算ブロック領域43を設定する(ステップS15)。
【0081】
演算ブロック領域43に含まれるラインセンサ計測データ14a、即ち画素値41を重み係数で変換して検査データ45を生成するが、このとき重み係数による変換に加えて、ゲイン値Gを乗算しオフセット値Sを加算して検査データ45を生成する(ステップS16)。
【0082】
ゲインG及びオフセットSがステップS13におけるシミュレーションパラメータである。ゲインG及びオフセットSの初期値はステップS3で相関を求めたときの回帰直線の傾きと切片に基づいて決定する。重み係数はステップS3と同様に
図9(A)に示す初期値を利用する。
【0083】
次に、生成した検査データ45とポイントセンサ用基準データ14bとの相関係数Rを求める(
図5ステップS17)。このシミュレーション(ステップS13)では、重み係数と、利用する計測データ領域が同じであるため相関係数は変化せず、ゲイン及びオフセットの変更により回帰直線の傾き及び切片のみが変化する。
【0084】
次に、検査データとポイントセンサ用基準データ14bの値が所定の許容範囲内で一致するか否かを確認する(
図5ステップS18)。具体的には、検査データとポイントセンサ用基準データ14bとの相関から求めた回帰直線について、傾きIの値が1に、切片Jの値が0に、予め設定された許容範囲内で一致するか否かを確認する。回帰直線の傾きが1になり、切片Jが0になれば、重み係数による変換後の検査データ45の値がポイントセンサ用基準データ14bの値と一致することになる。検査データ45がポイントセンサ112の出力値そのものを再現したデータになれば、補正等の追加の後処理をすることなく検査データ45を用いて従来の印刷物検査に係る処理をそのまま行うことができる。
【0085】
傾きI及び切片Jが各々の理想値である1及び0と所定の誤差範囲内にないときは(ステップS18;No)、傾きI及び切片Jに対して、画素値41変換のパラメータであるゲインG及びオフセットSを調整する(ステップS19)。こうしてステップS16からS19を繰り返すときに、次の演算に用いるパラメータG及びSは、傾きI及び切片Jを用いて以下の数式2によって変更する。
【数2】
【0086】
シミュレーションパラメータG及びSの変更によって、傾きIが1に、切片Jが0に所定の許容範囲内で一致すれば(ステップS18;Yes)、ゲインG及びオフセットSの値をこのときの値に決定する(ステップS20)。
【0087】
次に、決定した領域パラメータと、ゲイン及びオフセットとを用いて重み係数を構成する係数を決定するためのシミュレーションを行う(
図6ステップS23)。決定済みのパラメータを用いて演算対象領域43を抽出するステップ(ステップS24)から、検査データ45とポイントセンサ用基準データ14bとの相関を求めるステップ(ステップS27)までは上述した各シミュレーション(ステップS3及びS13)と同様の処理であるため説明を省略する。
【0088】
求めた相関係数Rを記憶部14に記憶し、相関係数Rが所定値以上でないときは(
図6ステップS28;No)、パラメータを変更する(ステップS29)。ここで変更するパラメータは、重み係数を構成する各係数を変更するテーブル用パラメータである。先のシミュレーション(
図4ステップS3)で領域パラメータについてチャネル幅C及びライン幅Lが同じ33画素であったものとして、以下にテーブル用パラメータの変更方法について具体的に説明する。
【0089】
チャネル幅C及びライン幅Lが決まると、
図10(A)に示すように、演算ブロック領域43が設定される。この演算ブロック領域43に含まれる各画素値41を変換するための重み係数は、同図(B)に示すように各画素値41に対応した係数T(X,Y)からなるテーブルとなる。演算ブロック領域43内で各画素位置をX軸及びY軸、係数Tの値をZ軸方向として、
図10(B)に示す重み係数を3次元表示したものが
図9である。初期値として設定された重み係数は、
図9(A)に示したように円柱形状となる。初期値では、
図10に示したテーブル設定領域46、即ち
図9(A)の円柱の頂面は、理想的なポイントセンサ112の有効計測領域である直径3mmの真円として設定されている。
【0090】
しかし、受光素子112bが真円形状を有するポイントセンサ112であっても、光を利用した計測であるため、実際には中央と周辺とでは投受光される光の強度が異なる場合がある。この場合、重み係数の分布を
図9(A)に示すように円柱形状にするよりも、同図(B)に示すように円錐台形状にした方が、検査データとポイントセンサ用基準データ14bとの相関が高くなる場合がある。また光の強度の変化によっては円錐台を構成する側面を直線状とするよりも例えば正規分布曲線に従って曲線状にする方がより高い相関を得られる場合がある。さらに、投受光する光、発光素子及び受光素子の特性や取り付け状態等による影響を受けるため、同図(C)に示すように、テーブル設定領域46、即ち円錐台の頂面を真円形状ではなく楕円形状に設定し、重み係数を楕円錐台形状にした方がより高い相関を得られる場合がある。また同図(D)に示すようにセンサ中心から周辺に向けた光量の変化についても実際のポイントセンサ112の状況に応じた曲線とすれば相関が高くなる可能性がある。これらを考慮してテーブル用パラメータを設定しシミュレーションを行う。
【0091】
具体的には、
図10(A)に示すテーブル設定領域46内の中心画素44から各画素までの距離D(X,Y)を数式3に示すように表し、この距離Dを使って同図(B)の各重み係数T(X,Y)を数式4のように設定する。
【数3】
【数4】
【0092】
数式3では、形状に寄与するパラメータm及びnの値を、例えば0から1の範囲で0.1刻みに設定する。これは、
図10(A)のテーブル設定領域46の形状、即ち
図9の頂面の形状が真円形状から楕円形状までを含むようにし、さらに長軸の向きを変えるための設定である。
【0093】
数式4では、パラメータa,b及びcの値を、例えば0から1の範囲で0.1刻みに設定する。これは
図9に示す3次元形状で表した重み係数の円柱又は円錐台の側面形状を変更するための設定で、この設定により円柱又は円錐台の頂面から係数が0となる底面に至る側面形状が
図11のように変化する。
図11は、3次元的に表した重み係数の頂面の中心から外側方向へ向けた断面形状を示している。
【0094】
このように設定したパラメータと数式3及び数式4とに基づいて、演算ブロック領域43を構成する各画素値41に対する係数Tを求めて、
図10(B)に示す重み係数を算出する。重み係数は以下の数式5に示すように正規化した後、検査データに係る処理に利用する(
図6ステップS30)。
【数5】
【0095】
なお、本願発明の印刷物検査用センサのデータ変換方法とデータ変換装置では、数式3及び数式4に基づいて、
図9に示すように重み係数を3次元形状で表したときの頂面形状に関するパラメータm及びnと、円柱又は円錐台の側面形状に関するパラメータa,b及びcを、各々0から1の範囲で0.1刻みに設定し、各設定値の全ての組み合わせから最適なパラメータを選択することを特徴とする。即ち、これら5つのシミュレーションパラメータが取り得る各値、全ての組み合わせについて検査データを求め、ポイントセンサ用基準データ14bとの相関を評価する。
【0096】
ステップS24からS30を繰り返して、パラメータの全ての組み合わせについて相関係数Rを求めたら(
図6ステップS28;Yes)、相関係数Rが最大となるテーブル用パラメータをm,n,a,b及びcの値として決定する。
【0097】
1回目のシミュレーション(ステップS3,S13及びS23)が完了したら、決定したパラメータを初期値として、再度ステップS3からの処理を開始する(
図6ステップS40;Yes)。これは初回シミュレーション時に設定した初期値が適切でなかった場合を考慮して、決定済みのパラメータを初期値として3つのシミュレーションを再度実行するものである。
【0098】
以上の処理を行って重み係数が決定される。決定された重み係数は、重み係数算出部13aから計測データ変換情報作成部13bに送られる。そして、計測データ変換情報作成部13bが、決定された重み係数を含む計測データ変換情報14cを作成し、記憶部14に保存する(
図6ステップS41)。計測データ変換情報14cには、重み係数に加えて、ステップS3で決定した領域パラメータ(P,C及びL)等、ラインセンサ計測データ14aから演算ブロック領域43を抽出するために必要な情報等も含まれる。
【0099】
なお、基準媒体102に、複数の検査領域が設定されている場合は、上述したシミュレーション(ステップS3,S13及びS23)を各検査領域について行い、その基準媒体102に最も適した重み係数を決定する。ラインセンサ12を利用する場合、1回の走査で基準媒体102全面を計測することができるため、例えば
図7に示したように複数の検査領域31,32及び33の各々について重み係数を決定するときも、ラインセンサ12による計測を繰り返す必要はなく、既に記憶部14に記憶済みのラインセンサ計測データ14aを利用することができる。また各検査領域31,32及び33の処理を並行して行うことができるため短時間で処理を行うことができる。重み係数は、1つの媒体に1つとしてもよいし、検査領域毎に重み係数を設けてもよい。また1つの媒体に1つの重み係数を設定する場合は、各検査領域31,32及び33を同様に取り扱う他、図柄等に応じて優先する検査領域を設定し、重要な検査領域における検査データとポイントセンサ用基準データ14bとの相関が高くなるように考慮して重み係数を決定してもよい。
【0100】
また、各パラメータの初期値、設定範囲、刻み幅及び各シミュレーションの収束条件は、上述した内容に限定されるものではなく、異なる設定としてもよい。また3つのシミュレーションの順序を変更してもよいし、3つのシミュレーションを繰り返す回数についても2回以上であっても構わない。
【0101】
例えば、パラメータの範囲及び刻み幅を設定して各値の組み合わせについて自動的にシミュレーションを行う他、上述した実際の計測状況を考慮しながら図示しない入力手段によってパラメータを手動で入力してもよい。また評価すべき値が所定値又は所定範囲となったとき、或いは全てのパラメータの組み合わせについて演算を行ったときにシミュレーションを終了する他、予め設定した所定演算回数又は所定演算時間に達したときや、演算結果の変化量が所定値以下になったときにシミュレーションを終了するようにしてもよい。
【0102】
このようにして、ポイントセンサ112の特性を考慮したパラメータを設定してシミュレーションを行うことにより、ラインセンサ12のデータを利用してポイントセンサ112による計測データを擬似的に再現するための最適な重み係数を算出することができる。
【0103】
ある印刷物を対象として、
図9(A)から(D)に視覚的に示す重み係数を用いてラインセンサ12のセンサデータを変換したときの検査データとポイントセンサ用基準データ14bとの相関関係を
図12に示す。
図9(C)に示す楕円錐台形状の重み係数を利用した場合、同図(A)に示す円柱形状の重み係数を利用した場合に比べて、検査データとポイントセンサ用基準データ14bとの相関値が高くなっている。シミュレーションで重み係数の最適値を得ることにより、
図9(A)のように理想的な条件として円柱形状の重み係数を用いたり、同図(B)のように単に円錐台形状にしたりする場合に比べて、実際のセンサや計測環境に応じた重み係数とすることで検査データとポイントセンサ用基準デー14bとの相関関係が大幅に改善される。
【0104】
次に上述した方法により決定した重み係数を利用し、実際に印刷物検査を行うときのセンサデータの変換方法を、
図3に示したデータ変換装置1のブロック図と、
図13に示したフローチャートを用いて説明する。本発明に係るデータ変換装置1は、ラインセンサ12を利用して印刷物検査を行う印刷物検査装置10の内部又は近傍に備えられ、ラインセンサ12による計測データを変換するために利用される。
【0105】
まず、検査媒体101を印刷物検査装置10に備えられたラインセンサ12によって走査した計測データを得る(
図13ステップS51)。得られた計測データは、ラインセンサ計測データ14aとして記憶部14に記憶される(ステップS52)。そして、このラインセンサ計測データ14aを、上述したシミュレーションによって決定された重み係数によって変換し、検査データを生成する(ステップS53)。
【0106】
図3に示す計測データ変換部13cが検査データを生成する処理(ステップS53)の詳細について説明する。まず記憶部14からラインラインセンサ計測データ14aと、これに対応する計測データ変換情報14cを読み出す。そして計測データ変換情報14cに含まれる情報を利用して、ラインセンサ計測データ14aから演算対象領域42を抽出し(
図13ステップS54)、さらに演算ブロック領域43を設定する(ステップS55)。そして演算ブロック領域43に含まれる各画素値41を、計測データ変換情報14cに含まれる重み係数を使って変換して検査データを生成する(ステップS56)。ここまでがデータ変換装置1によって行われる処理である。
【0107】
なお、計測データ変換部13cは、上述したように記憶部14から読み出したラインセンサ計測データ14aを利用する他、
図3に破線で示したように、検査媒体101を計測したラインセンサ12から出力される計測データを直接受け取って処理してもよい。同様に重み係数等の情報を、記憶部14から読み出して利用する他、計測データ変換情報作成部1bから直接受け取ってもよい。
【0108】
また、ゲイン及びオフセットについては、ゲイン及びオフセット決定シミュレーション(
図5ステップS13)で決定された値が重み係数に含まれており、ステップS56で重み係数による変換を行えば、決定済みのゲイン及びオフセットによる変換もなされたことになってもよいし、重み係数とゲイン及びオフセットとが別々に計測データ変換情報に含まれており、ステップS56で重み係数による変換と、ゲイン及びオフセットによる変換とを別々に行ってもよい。
【0109】
データ変換装置1でラインセンサ12による計測データを変換して生成された検査データは、印刷物検査装置10の備える検査データ評価部15によってポイントセンサ用基準データ14bと比較され、印刷物の印刷状態が評価される(
図13ステップS57)。そして印刷物検査装置10の備える表示部に、検査結果が表示される(ステップS58)。
【0110】
印刷物検査装置で利用される検査データは、本願発明のデータ変換方法を用いたデータ変換装置1によってポイントセンサ112で計測されたデータと略一致するように変換されているので、ポイントセンサ用基準データ14bを利用して検査データを評価することにより印刷物検査を行うことができる。また印刷物検査装置10が本願発明のデータ変換装置1を備えることで、検査装置自体が各種パラメータと数式3及び数式4とに基づいて重み係数を決定する機能を有するため、装置の個体差や設置環境に応じて最適な重み係数を決定し高精度な印刷物検査を行うことができる。
【0111】
このようにセンサデータを適切な重み係数によって変換すれば、印刷物評価に用いるセンサが変更された場合でも、従来の基準データを利用して印刷物を評価することができる。そのため新たなセンサ用に基準データを生成する必要がなく、基準データ生成に必要なコストや時間を削減することができる。また従来の基準データに基づいて印刷物評価の他、センサ性能評価、検査装置の性能評価等に関する様々な取り決めがなされている場合にも、これらの運用を継続することができる。