【実施例】
【0013】
[薄膜太陽電池の製造装置および製造方法]
以下、本発明の実施例に係る薄膜太陽電池を連続的に製造する製造装置について、図面に基づき説明する。
【0014】
本実施例においては、薄膜太陽電池を構成するシートとして、基板シート、負極シート(電極シートの一例である)、絶縁シート、正極シート(対極シートの一例である)および透明シートを用いるようにしたもので、いずれも所定幅で長いもの、つまり帯状のものが用いられる。これらシートのうち、
図3に示すように、絶縁シートIが最も幅狭であり、次いで正極シートPが絶縁シートIよりも幅広で、基板シートK、負極シートNおよび透明シートTが略同一幅で且つ正極シートPよりも幅広である。ところで、上記基板シートKおよび透明シートTには、それぞれ透明のプラスチックが用いられる。また、上記負極シートNおよび正極シートPには、それぞれ銅箔またはアルミ箔が用いられる。さらに、絶縁シートIには、カプトン(登録商標)テープ、プラスチックテープまたはシリカ膜が用いられる。
【0015】
これらシートK,N,I,P,Tは、それぞれロールに巻き付けられており、薄膜太陽電池の製造に際しては、これらロールから引き出されて連続的に必要な加工および積層がなされて薄膜太陽電池が形成されるとともに、この薄膜太陽電池は、やはりロールに巻き取るようにされている。すなわち、一方の5つの巻出しロールから上記シートK,N,I,P,Tをそれぞれ引き出し、これら引き出されたシートK,N,I,P,Tから薄膜太陽電池が連続的に形成され、当該薄膜太陽電池を他方の1つの巻取りロールに巻き取るようにされている。したがって、製造される薄膜太陽電池は、上記シートK,N,I,P,Tと同様に帯状である。
【0016】
以下、上記帯状の薄膜太陽電池を連続的に製造する製造装置について、
図1〜
図3に基づき説明する。
上記製造装置には、
図1に示すように、細長い空間部が設けられて成る装置本体1が具備されており、この装置本体1内は、区画壁9により3つの部屋に区画されている。また、当然ながら、各区画壁9には、基板シートKを通過させ得る上流側連通口9aおよび下流側連通口9bがそれぞれ形成されている。
【0017】
すなわち、この装置本体1内には、その一端側に位置して太陽電池を構成するシートK,N,I,P,Tがそれぞれ供給される供給室2と、上記装置本体11内の他端側に位置して形成された薄膜太陽電池を回収する回収室8と、上記供給室2と回収室8との間に位置して上記シートK,N,I,P,Tから薄膜太陽電池を形成する設備が配置された中間室3とが具備されている。なお、以下では便宜上、供給室2側を上流側、回収室8側を下流側といい、
図1での奥側(下流側に向かって左側)を左側、
図1での手前側(下流側に向かって右側)を右側という。
【0018】
上記供給室2の内部には、基板シートKが巻き付けられた基板用巻出しロール21と、この基板用巻出しロール21の上流側に配置されて負極シートNが巻き付けられた負極用巻出しロール22と、この負極用巻出しロール22の上流側に配置されて絶縁シートIが巻き付けられた絶縁用巻出しロール23と、この絶縁用巻出しロール23の下方に配置されて正極シートPが巻き付けられた絶縁用巻出しロール24と、この絶縁用巻出しロール24の下方に配置されて透明シートTが巻き付けられた透明用巻出しロール25とが設けられている。また、上から基板シートK、負極シートN、絶縁シートI、正極シートPおよび透明シートTをこの順で積層して圧着する圧着ロール26が、上流側連通口9aの上流側に配置されている。
【0019】
上記中間室3内には、この中部および下部に位置して上記シートK,N,I,P,Tが通過する加工室4と、この加工室4の上側に位置して上下流方向に5つの小部屋に区画された空間とがある。これら5つの小部屋のうち、上流側から2〜4番目の小部屋は、それぞれ第1加熱室51、第2加熱室52および第3加熱室53である。これら第1加熱室51、第2加熱室52および第3加熱室53の内部には、それぞれ複数(例えば3つ)の電熱ヒータ54と、これら電熱ヒータ54の上方に配置されて当該電熱ヒータ54の熱を下方に反射するゴールドミラー55とが設けられている。また、これら第1加熱室51、第2加熱室52および第3加熱室53の下壁部(加工室4の上壁部でもある)には、電熱ヒータ54の熱を加工室4の内部に伝達させるための石英窓56がそれぞれ設けられている。すなわち、これら第1加熱室51、第2加熱室52および第3加熱室53は、それぞれ下方を150℃程度にまで加熱し得るものである。なお、詳しくは後述するが、加工室4の内部に配置された半導体成膜装置(後述する)36およびカーボンナノチューブ成膜装置(後述するが以下では略してCNT成膜装置37という)のそれぞれ上方に、第1加熱室51および第2加熱室52が位置する。
【0020】
上記加工室4の内部には、上記積層されて圧着されたシートK,N,I,P,Tを、基板シートKおよび負極シートNと、絶縁シートIと、正極シートPと、透明シートTとに分離する分離ロール31が、上流側連通口9aの下流側に配置されている。なお、以下では、基板シートKに負極シートNを積層してなるシートを積層シートK,Nといい、この積層シートK,Nは、負極シートNが基板シートKよりも左側に突出するように(
図3参照)されている。したがって、上記分離ロール31は、上記供給室2からのシートK,N,I,P,Tを、積層シートK,N、絶縁シートI、正極シートPおよび透明シートTに分離するものである。
【0021】
また、上記加工室4の内部には、分離ロール31の下流側上方に配置されて分離された積層シートK,N(基板シートKおよび負極シートN)を加工室4内の上部に案内する基板負極層案内ロール40と、この基板負極層案内ロール40の下流側に配置されて加工室4の上部に案内された積層シートK,Nに下方側(負極シートN側)からn型半導体6(半導体膜の一例である)を生成する半導体成膜装置36とが設けられている。さらに、分離ロール31の下流側に配置されて分離された絶縁シートIを積層シートK,Nの下方に案内する絶縁層案内ロール41と、この絶縁層案内ロール41の下流側に配置されて絶縁シートIを上方に転向する絶縁層転向ロール42と、この絶縁層転向ロール42の上方に配置されて上記半導体成膜装置36で生成されたn型半導体6の右側一部に絶縁シートIを積層する絶縁層積層ロール(絶縁層積層器の一例であり
図3参照)43と、絶縁層積層ロール43の下流側に配置されて上記n型半導体6および絶縁シートIにカーボンナノチューブ(CNT)膜7を生成するCNT成膜装置37とが設けられている。加えて、分離ロール31の下流側下方に配置されて分離された正極シートPを絶縁シートIの下方に案内する正極層案内ロール44と、この正極層案内ロール44の下流側に配置されて正極シートPを上方に転向する正極層転向ロール45と、この正極層転向ロール45の上方に配置されて上記CNT成膜装置37で生成されたカーボンナノチューブ膜7の右側一部において右側から突出するように正極シートPを積層する正極層積層ロール(対極層積層器の一例であり
図3参照)46とが設けられている。なお、この正極層積層ロール46で正極シートPが積層された半製品を、以下では半製品シートという。また、分離ロール31の下流側最下方に配置されて分離された透明シートTを正極シートPの下方に案内する透明層案内ロール47と、この透明層案内ロール47の下流側に配置されて透明シートTを上方に転向する透明層転向ロール48とが設けられている。さらに、正極層積層ロール46の下流側で且つ透明層転向ロール48の上方に配置されて半製品シートを下方に転向する半製品転向ロール49と、この半製品転向ロール49と正極層積層ロール46との間に配置されて半製品シートの張力制御および冷却を行う制御ロール32とが設けられている。また、半製品シートの下面に透明シートTを積層して圧着する製品形成ロール(透明層積層器の一例である)33が、上記半製品転向ロール49および透明層転向ロール48と下流側連通口9bとの間に配置されている。この製品形成ロール33で半製品シートの下面に透明シートTを積層して圧着することにより、薄膜太陽電池が形成される。
【0022】
さらに、上記加工室4の内部に雰囲気ガス(例えば、O
2とN
2との混合ガス)を供給するガス供給管34が、分離ロール31の下方の下壁部に設けられている。また、加工室4の内部からガスを排出するガス排出管35が、第3加熱室53の下流側の上壁部に設けられている。
【0023】
ところで、上記半導体成膜装置36およびCNT成膜装置37は、
図2(a)および(b)に示すように、いずれもスプレー塗布装置であり、同一の構成を有する。すなわち、
図2(a)に示すように、上記半導体成膜装置36は、n型半導体6を溶媒に溶かしてなる半導体原料を蓄えるタンク61と、このタンク61からホースを介して半導体原料を導きポンプ62で上方に噴射して塗布するスプレーノズル63と、このスプレーノズル63を左右方向に移動させ得る駆動装置64とを有する。また、
図2(b)に示すように、上記CNT成膜装置37も、カーボンナノチューブ膜7を溶媒に溶かしてなるCNT原料を蓄えるタンク71と、このタンク71からホースを介してCNT原料を導きポンプ72で上方に噴射して塗布するスプレーノズル73と、このスプレーノズル73を左右方向に移動させ得る駆動装置74とを有する。
【0024】
また、
図1に示すように、上記半導体成膜装置36は、第1加熱室51の下方に配置されることで、当該第1加熱室51で加熱してからn型半導体6を生成するようにされており、上記CNT成膜装置37も、第2加熱室52の下方に配置されることで、当該第2加熱室52で加熱してからカーボンナノチューブ膜7を生成するようにされている。すなわち、加熱された塗布対象に原料を塗布することで、原料の塗りムラを防止できるようにされている。一方、CNT成膜装置37で生成されるカーボンナノチューブ膜7は、加工室4の内部の雰囲気ガスがO
2を含めばp型となり、H
2を含めばn型となる。また、正極層積層ロール46は、第3加熱室53の下方から下流側に配置されることで、生成したn型半導体6およびカーボンナノチューブ膜7に残留する溶媒を確実に蒸発させて除去した後に、半製品シートを形成するようにされている。
【0025】
上記回収室8の内部には、下流側連通口9bの下流側に配置されて加工室4からの帯状の薄膜太陽電池を下流側に案内する製品案内ロール81と、この製品案内ロール81の下流側に配置されて薄膜太陽電池を巻き取る巻取りロール82(製品回収ロールでもある)とが設けられている。
【0026】
以下、上記製造装置の動作、すなわち薄膜太陽電池の製造方法について、
図1〜
図4に基づき説明する。
図1に示すように、予め加工室4は、O
2とN
2との混合ガスが、ガス供給管34を介して供給されるとともに、ガス排出管35を介して排出される。すなわち、O
2とN
2との混合ガスが、加工室4の雰囲気ガスとなる。
【0027】
一方、供給室2の内部では、シートK,N,I,P,Tが各巻出しロール21〜25からそれぞれ引き出され、圧着ロール26で積層されて圧着されるとともに、加工室4に送られる。
【0028】
加工室4に送られたシートK,N,I,P,Tは、分離ロール31により、積層シートK,Nと、絶縁シートIと、正極シートPと、透明シートTとに分離される。分離ロール31で分離された積層シートK,Nは、基板シートKが上面側で負極シートNが下面側となるようにして、基板負極層案内ロール40で加工室4内の上部に案内されて、半導体成膜装置36でn型半導体6が生成される(
図3における半導体成膜装置36を参照)。また、分離ロール31で分離された絶縁シートIは、絶縁層案内ロール41で積層シートK,Nの下方に案内されるとともに、絶縁層転向ロール42で上方に転向されて、絶縁層積層ロール43でn型半導体6の右側一部に積層される(
図3における絶縁層積層ロール43を参照)。そして、CNT成膜装置37で、n型半導体6および絶縁シートIにカーボンナノチューブ膜7が生成されるとともに(
図3におけるCNT成膜装置37を参照)、第3加熱室53の下方を通過することで、n型半導体6およびカーボンナノチューブ膜7に残留する溶媒を確実に蒸発させて除去する。また、分離ロール31で分離された正極シートPは、正極層案内ロール44で絶縁シートIの下方に案内されるとともに、正極層転向ロール45で上方に転向されて、正極層積層ロール46でカーボンナノチューブ膜7の右側一部において右側から突出するように積層されて、半製品シートを形成する(
図3における正極層積層ロール46を参照)。そして、半製品シートは、制御ロール32で張力制御および冷却が行われ、半製品転向ロール49で下方に転向されるとともに、製品形成ロール33で下面に透明シートTが積層されて、薄膜太陽電池を形成する(
図3における製品形成ロール33を参照)。
図3の薄膜太陽電池におけるA−A断面を、
図4に示す。
【0029】
ここで、n型半導体6およびカーボンナノチューブ膜7のそれぞれの生成について詳細に説明するが、まずはn型半導体6の生成から説明する。
半導体成膜装置36を通過する積層シートK,Nは、
図1の第1加熱室51で150℃を限度として加熱されるとともに、
図2の駆動装置64で左右に移動するスプレーノズル63で半導体原料が噴射されて、均一に塗布される。同様に、CNT成膜装置37を通過するシート(正確には、積層シートK,Nにn型半導体6が生成されて絶縁シートIが積層されたもの)は、
図1の第2加熱室52で150℃を限度として加熱されるとともに、
図2の駆動装置74で左右に移動するスプレーノズル73でCNT原料が噴射されて、均一に塗布される。また、生成されたカーボンナノチューブ膜7は、加工室4の内部の雰囲気ガスがO
2を含むのでp型となる。
【0030】
図1に示すように、回収室8の内部では、薄膜太陽電池が製品案内ロール81で案内されて、巻取りロール82で巻き取られて回収される。
このように、上記薄膜太陽電池の製造装置および製造方法によると、帯状の薄膜太陽電池を連続的に形成していくので、大面積の薄膜太陽電池を高い生産性で製造することができる。
【0031】
また、上記薄膜太陽電池の製造装置および製造方法は簡素なものであり、製造される太陽電池には、希少金属(レアメタル)であるインジュームや白金などを用いず、流通量が豊富な元素材料であるカーボンナノチューブなどを用いるので、低コストで薄膜太陽電池を製造することができる。
[薄膜太陽電池]
以下、上記製造装置および製造方法により製造される薄膜太陽電池について、
図5〜
図7に基づき説明する。
【0032】
図5は、薄膜太陽電池を巻き取っている巻取りロール82を、上下反転させた斜視図である。この
図5に示すように、製造される薄膜太陽電池は帯状であるから、所望の性能または長さだけ切断して用いることができる。以下、切断されたシートをシート部というとすれば、この切断された薄膜太陽電池は、
図6(a)に示すように、基板シートK部と、この基板シートK部に積層されるとともに当該基板シートK部の左側から突出した負極シートN部と、上記基板シートK部および負極シートN部に生成されたn型半導体6と、このn型半導体6の右側一部に積層された絶縁シートI部と、上記n型半導体6および絶縁シートI部に生成されたp型のカーボンナノチューブ膜7と、上記絶縁シートI部に生成されたカーボンナノチューブ膜7において右側から突出するように積層された正極シートP部と、上記n型半導体6に生成されたカーボンナノチューブ膜7および正極シートP部に積層された透明シートT部とから構成される。
【0033】
これにより、上記切断された薄膜太陽電池は、透明シートT部から入った光がp型であるカーボンナノチューブ膜7とn型半導体6との接合面に達することで、n型半導体6に発生した電子が負極シートN部に補足されるとともに、p型であるカーボンナノチューブ膜7に発生した正孔が正極シートP部に補足されて、起電力が発生するものである。また、上記切断された薄膜太陽電池の耐久性を向上させるため、
図6(b)に示すように、上流側および下流側の各切断面を、樹脂R加工(またはラミネート加工)による封止で補強してもよい。
【0034】
一方、用いられる負極シートNを正極シートPと略同一幅まで幅狭にすることで、製造される薄膜太陽電池はシースルー型となり、切断された薄膜太陽電池は、
図7に示すような構成となる。すなわち、この場合の薄膜太陽電池は、基板シートK部と、この基板シートK部の左側一部に積層されるとともに当該基板シートK部の左側から突出した負極シートN部と、上記基板シートK部および負極シートN部に生成されたn型半導体6と、このn型半導体6の右側一部に積層された絶縁シートI部と、上記n型半導体6および絶縁シートI部に生成されたp型のカーボンナノチューブ膜7と、上記絶縁シートI部に生成されたカーボンナノチューブ膜7において右側から突出するように積層された正極シートP部と、上記n型半導体6に生成されたカーボンナノチューブ膜7および正極シートP部に積層された透明シートT部とから構成される。
【0035】
これにより、上記切断された薄膜太陽電池は、透明シートT部から入った光により起電力が発生するだけでなく、一方の面から他方の面まで透けて見えるものである。
このように、上記薄膜太陽電池は、帯状をロールさせた状態で得られることから、運送および保管を容易にすることができ、また、所望の長さだけ切断して用いられることから、製品供給の自由度を高めることができる。
【0036】
さらに、負極シートNを幅狭にすることで、得られる薄膜太陽電池をシースルー型にすることができる。
ところで、上記実施例では、半導体成膜装置36およびCNT成膜装置37でそれぞれn型半導体6およびp型のカーボンナノチューブ膜7が生成されるとして説明したが、それぞれp型半導体およびn型のカーボンナノチューブ膜が生成されるようにしてもよい。この場合、半導体成膜装置36の半導体原料としてp型半導体を溶媒に溶かしてなるものを用い、雰囲気ガスとしてH
2を含むガスを用いる。
【0037】
また、上記実施例では、半導体成膜装置36およびCNT成膜装置37は、いずれもスプレー塗布装置であるとして説明したが、これに限定されるものではなく、静電塗布装置、ロールコータ装置であってもよい。さらに、半導体成膜装置36については、スパッタ装置でもよい。この場合、スパッタ装置の上方に配置された第1加熱室51は不要であり、スパッタ装置の内部の真空度を維持するために、スパッタ装置における積層シートの挿通口にシール部(ラビリンスシールなど)を設ける。
【0038】
さらに、上記実施例では、基板シートKには透明のプラスチックが用いられるとして説明したが、製造される薄膜太陽電池をシースルー型としないのであれば、ステンレス箔を用いてもよい。
【0039】
また、上記実施例では、n型またはp型のカーボンナノチューブ膜7を生成するために、雰囲気ガスとしてO
2またはN
2を含む混合ガスを供給するものとして説明したが、これらのガスに限定されるものではなく、他のガスを含む雰囲気ガスであってもよい。また、雰囲気ガスの代わりに、予めn型またはp型にされたカーボンナノチューブ膜を生成してもよい。