(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0014】
図1(a),(b)は車両に搭載された電動ウィンチの基本動作を説明する説明図を、
図2は
図1の車両を上方から見たシステム構成を説明する説明図を、
図3は電動ウィンチの詳細構造を示す斜視図を、
図4は
図3の電動モータ部の内部構造を示す平面図を、
図5は
図3のギヤ部の内部構造を示す断面図を、
図6は
図3のドラム部の内部構造を示す斜視図を、
図7は
図3の電動ウィンチを構成する部材の接続関係を模式的に示す図を、
図8は電動ウィンチの電気系統を模式的に示す電気回路図をそれぞれ表している。
【0015】
図1および
図2に示すように、車両10は福祉車両であり、当該車両10の後方側(図中右側)には、被牽引物としての車椅子20を搭載可能な車椅子搭載スペース11が形成されている。車椅子搭載スペース11の車両前方側(図中左側)には、車両10の車幅方向(
図2における上下方向)に所定間隔を持って一対の電動ウィンチ30が設置されている。各電動ウィンチ30は、先端側にフック31が装着されたベルト32を備えており、ベルト32は車椅子20を牽引するようになっている。具体的には、各電動ウィンチ30から各ベルト32を引き出して、各フック31を車椅子20の左右側にある一対の前フレーム21にそれぞれ引っ掛け、その状態のもとで各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことにより、図中矢印m1に示す方向に車椅子20が移動する。
【0016】
車椅子搭載スペース11の後方側には、地面Gと車両10の床面Fとを緩やかな傾斜角度で接続するスロープ12が設置されている。スロープ12は、車両10の走行時においては、床面Fに形成された格納部(図示せず)に格納されている。一方、車両10を停車させてかつバックドア13を開いた状態とし、図示しないスロープ操作スイッチをオン操作することにより、スロープ12は格納部から車外に向けて延出されるようになっている。
【0017】
各電動ウィンチ30を同期動作させて各ベルト32を引き込むことで、
図1(b)に示すように車椅子20はスロープ12上を移動していき、やがて車椅子20は、図中破線に示すように床面F上に到達して車椅子搭載スペース11内に搭載される。また、各電動ウィンチ30により各ベルト32を送り出すことで、
図1(b)のように車椅子搭載スペース11内に搭載された車椅子20を床面Fから地面Gへ移動される。このようにスロープ12を設けることで、車椅子20の地面Gと床面Fとの間の移動を容易に誘導できるようにしている。ここで、各電動ウィンチ30は図示しない介助者(操作者)により操作され、各電動ウィンチ30の操作中においては、介助者は車椅子20の後方から当該車椅子20を支持するようにする。
【0018】
各電動ウィンチ30を制御する制御装置40は、
図2に示すように構成されている。つまり制御装置40は、各電動ウィンチ30,コントローラ50,操作パネル60およびリモコン70から構成されている。各電動ウィンチ30とコントローラ50との間、および操作パネル60とコントローラ50との間には、通信線および電源線よりなる配線14が電気的に接続して設けられている。なお、リモコン70はワイヤレス式で無線によりコントローラ50と通信自在であり、リモコン70を車外に持ち出すことで、各電動ウィンチ30を車外から操作できるようになっている。
【0019】
ここで、
図2に示すように、車両10の床面Fにはフック15を備えた一対の固定ベルト16が設置されており、各固定ベルト16の各フック15は、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20の左右側にある一対の車輪22にそれぞれ引っ掛けられるようになっている。これにより、車椅子搭載スペース11に搭載された車椅子20は、各ベルト32の各フック31および各固定ベルト16の各フック15の合計4箇所で固定され、ひいては車両10内で車椅子20が移動したりがたついたりするのを抑制している。
【0020】
操作パネル60は、車両10の車椅子搭載スペース11に設けられ、車椅子搭載スペース11および車両10の後方から操作可能となっている。操作パネル60には、主電源スイッチ,ベルトフリースイッチ,速度切替スイッチ,ブザー等(何れも図示せず)が設けられている。そして、主電源スイッチをオン操作することでシステム電源がオン状態となり、各電動ウィンチ30の操作が可能となる。一方、リモコン70は、乾電池駆動のワイヤレスリモートコントロールユニットで、操作パネル60の主電源スイッチが操作され、制御装置40のシステム電源がオン状態のときに使用可能となる。リモコン70には、リモコン電源スイッチ,入スイッチ,出スイッチ等が設けられている。
【0021】
ここで、リモコン70の操作は介助者によって行うようにし、介助者によりリモコン電源スイッチをオン操作し、その後、入スイッチを押すことで、各電動ウィンチ30が作動する。これにより、車椅子搭載スペース11への車椅子20の搭載が補助される。一方、出スイッチを押すと、今度は各電動ウィンチ30が逆方向に作動し、これにより、車椅子搭載スペース11からの車椅子20の降ろし動作が補助される。なお、リモコン70の操作中においては、介助者は車椅子20のグリップGR(
図1参照)を把持し、車椅子20を支持するとともに、その移動を誘導するようにする。このように、制御装置40は、各電動ウィンチ30を駆動制御することで、介助者による車椅子20の移動を補助するようになっている。
【0022】
車両10の左右側に設けられる各電動ウィンチ30は、何れも同じ形状かつ同じ構造のものを採用している。
図3ないし
図8においては、何れか一方の電動ウィンチ30のみを示しており、以下、何れか一方の電動ウィンチ30を代表して、その詳細構造について説明する。
【0023】
電動ウィンチ30は、
図3および
図7に示すように、電動モータ部80とドラム部90とを備えている。これらの電動モータ部80およびドラム部90は、図示しない複数の締結ネジにより一体化(ユニット化)されている。
【0024】
電動モータ部80は、モータ部(モータ)81とギヤ部82とを備えている。モータ部81の内部には、
図4に示すように、複数のマグネット81aが設けられ、各マグネット81aの内側には、コイル81bが巻回されたアーマチュア81cが回転自在に設けられている。アーマチュア81cの回転中心にはアーマチュア軸81dが貫通して固定されている。アーマチュア軸81dの長手方向中間部分には、一対のブラシ81eが摺接する整流子81fが設けられ、各ブラシ81eから整流子81fを介してコイル81bに駆動電流を供給することで、アーマチュア軸81dは回転するようになっている。
【0025】
アーマチュア軸81dの先端側(図中左側)には、ウォーム81gが一体に設けられ、このウォーム81gはギヤ部82の内部にまで延ばされている。ギヤ部82の内部には、ウォーム81gと噛み合うウォームホイール82aが回動自在に設けられ、これらのウォーム81gおよびウォームホイール82aは減速機構を構成している。減速機構は、アーマチュア軸81dの回転速度を減速して高トルク化し、ウォームホイール82aから出力軸83を介して外部(ドラム部90)に出力するようになっている。ここで、出力軸83は、ドラム部90に向けて突出し、ドラム部90を形成するドラム92(
図6参照)を回転させるようになっている。
【0026】
図5および
図7に示すように、ギヤ部82(ウォームホイール82a)と出力軸83との間、つまりモータ部動力伝達経路におけるドラム92とモータ部81との間には、電磁クラッチ84が設けられている。
【0027】
電磁クラッチ84は、所謂、摩擦式のクラッチであり、互いに摩擦接触可能なクラッチロータ84aとアーマチュア84bとを備えている。クラッチロータ84aとアーマチュア84bとの対向面は、それぞれ摩擦面となっており、これらの摩擦面は互いに僅かな隙間を介して対向している。
【0028】
クラッチロータ84aは、鋼材等の磁性材料により形成され、軸受84cを介して出力軸83に相対回転自在に装着されるとともに、ロータリング84dを介してウォームホイール82aに連結されて当該ウォームホイール82aとともに回転するようになっている。一方、アーマチュア84bは、鋼材等の磁性材料により形成され、ウォームホイール82aとクラッチロータ84aとの間で、かつ、ロータリング84dの内側に配置されている。
【0029】
アーマチュア84bの中心には貫通孔が形成され、当該貫通孔の内側には接続部材84eが配置されている。接続部材84eの内周側は出力軸83に固定されており、接続部材84eの外周側には板ばね84fを介してアーマチュア84bが連結されている。これにより、アーマチュア84bは板ばね84fおよび接続部材84eを介して出力軸83に動力伝達可能に連結されるとともに、板ばね84fの弾性変形により図中上下方向に移動自在となっている。
【0030】
クラッチロータ84aの背面(図中下側)には、クラッチヨーク84gがケース84hに固定して設けられ、クラッチヨーク84gの内部には、クラッチコイル84iが設けられている。クラッチコイル84iは、コントローラ50(
図2参照)に電気的に接続され、コントローラ50からの駆動電流の供給によりクラッチヨーク84gには磁気吸引力が発生し、これによりアーマチュア84bがクラッチロータ84aに吸引される。
【0031】
このような構造により、クラッチコイル84iに駆動電流を供給、つまりクラッチコイル84iを通電すると、クラッチロータ84aとアーマチュア84bとの摩擦面が摩擦接触して、電磁クラッチ84は締結状態となる。よって、ウォームホイール82aの回転が電磁クラッチ84を介して出力軸83に伝達されるようになる。
【0032】
これとは逆に、クラッチコイル84iへの駆動電流の供給を停止、つまりクラッチコイル84iの通電を解除すると、アーマチュア84bは板ばね84fのばね力によりクラッチロータ84aから引き離され、電磁クラッチ84は開放状態となる。よって、ウォームホイール82aと出力軸83との間における回転の伝達が遮断されるようになる。
【0033】
このように、電磁クラッチ84はコントローラ50によりオンオフ制御され、ドラム92およびモータ部81を締結状態または開放状態とする。具体的には、電磁クラッチ84を締結状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは動力伝達可能に接続され、電磁クラッチ84を開放状態とすることで、ドラム92とモータ部81とは切り離される。
【0034】
ドラム部90は、
図3に示すようにケーシング91を備えている。ケーシング91は略箱形状に形成され、その内部には、
図6に示すドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ケーシング91の外部には、ドラム92に巻き掛けられるベルト32の弛みを取り除く弛み取りモータ95,ドラム92の回転を検出する回転センサ96,電動モータ部80や弛み取りモータ95等に駆動電流を供給するための外部コネクタ(図示せず)が接続されるコネクタ接続部97等が設けられている。
【0035】
ケーシング91の側部には、開口部91aが形成されており、当該開口部91aからは、ベルト32が出入り自在となっている。ベルト32は、ケーシング91の開口部91aの近傍に設けられた案内部材98によって出入りが案内され、これによりベルト32の捻れを防止している。また、案内部材98はフック31の通過を許さず、これによりベルト32の全てがケーシング91内に引き込まれてしまうのを防止している。
【0036】
ここで、
図3の符号STは、電動ウィンチ30を車両10の床面F(
図2参照)に固定するための一対の取付ステーであり、これらの各取付ステーSTは、図示しない複数の締結ボルトによって床面Fに強固に固定されている。これにより電動ウィンチ30は、車両10に対してがたつくこと無く強固に固定されている。
【0037】
ケーシング91の内部には、
図6に示すように、ドラム92,ラチェット機構93および弛み取り機構94が収納されている。ただし、
図6に示す弛み取りモータ95,案内部材98およびフック31については、
図3に示すようにケーシング91の外部に設けられている。
【0038】
ドラム92にはベルト32が巻き掛けられ、当該ドラム92の回転中心には、ドラム軸92aが一体回転可能に取り付けられている。ドラム軸92aには、電動モータ部80の出力軸83(
図4および
図5参照)の回転が伝達されるようになっており、ドラム軸92aおよびドラム92は、電動モータ部80の正逆方向への回転駆動に伴って正逆方向に回転駆動される。これにより、ベルト32をケーシング91内に引き込んだり、ケーシング91外に送り出したりすることができる。
【0039】
ドラム92とドラム軸92aとの間には、
図7に示すようにワンウェイクラッチ92bが設けられている。ワンウェイクラッチ92bは、ドラム軸92aがベルト32の引き込み方向(
図6において反時計方向)に向かって回転する際、そのままこの回転をドラム92に伝達するよう構成されている。一方、ドラム軸92aよりも先にドラム92がベルト32の引き込み方向に向かって回転すると、ドラム92の回転がドラム軸92aに伝達されず、ドラム92が空回りするよう構成されている。
【0040】
ラチェット機構93は、ドラム92に一体回転可能に設けられたラッチギヤ93aと、ラッチギヤ93aと係合し、ドラム92のベルト32の引き込み方向(一方向)への回転を許容し、ベルト32の送り出し方向(他方向)への回転(
図6において時計方向)を阻止し得る揺動自在な歯止め93bと、歯止め93bを揺動駆動するソレノイド駆動部材(駆動部)93cとを備えている。
【0041】
ソレノイド駆動部材93cは駆動ピン93dを備えており、コントローラ50を介してソレノイド駆動部材93cに駆動電流を供給、つまりソレノイド駆動部材93cを通電することで、駆動ピン93dはピンの軸方向に移動し、引っ込むようになっている。これにより、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解除(ドラム92との係合が解除)されてリリース状態となり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向への双方向にドラム92が回転自在となる。このように、ドラム92の双方向への回転が許容され、ひいては車椅子20を車椅子搭載スペース11から降ろせるようになる。
【0042】
一方、コントローラ50を介してソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止、つまりソレノイド駆動部材93cの通電を解除することで、内蔵バネS(
図10参照)のバネ力により駆動ピン93dは突出するようになっている。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合(ドラム92と係合)してロック状態となり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20の後退が防止される。
【0043】
弛み取り機構94は、ドラム92に一体回転可能に設けられたスパーギヤ94aと、スパーギヤ94aと噛み合う小径ギヤ94bと、弛み取りモータ95により回転駆動される減速ギヤ機構94cとを備えている。弛み取りモータ95は、ドラム92がベルト32を巻き取る方向の回転力を発生し、この弛み取りモータ95の回転力は、減速ギヤ機構94c,トルクリミッタ94d,小径ギヤ94bおよびスパーギヤ94aを介してドラム92に伝達される。また、小径ギヤ94bと減速ギヤ機構94cとの間には、
図7に示すようにトルクリミッタ94dが設けられ、当該トルクリミッタ94dは一定以上のトルクの伝達をカットするようになっている。これにより弛み取りモータ95への過負荷を防止し、弛み取りモータ95を保護するようにしている。つまり、弛み取りモータ95としては、ベルト32の弛みを取ることができる程度のトルクを発生し得る小型モータを採用できるようになっている。
【0044】
図8に示すように、コントローラ50と電動ウィンチ30との間には、配線14が設けられている。配線14の一端側は、コネクタ(図示せず)を介してコントローラ50,電源51および接地部52のコネクタ接続部(図示せず)に電気的に接続されている。また、配線14の他端側は、コネクタ(図示せず)を介して電動ウィンチ30のコネクタ接続部97に電気的に接続されている。
【0045】
電動ウィンチ30の電気駆動系統を形成するモータ部81,電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cは、それぞれ電源51側に電源端子T1、および接地部52側に接地端子T2を備えている。
【0046】
電源51には、モータ部81,電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cに電力を供給するための電源供給線53が接続されている。電源供給線53は配線14の一部を形成し、その一端は電源51に接続され、他端は分岐点V2に接続されている。分岐点V2には、電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cに電力を供給するための第1リレースイッチ(リレー駆動回路)RS1の一端と、モータ部81に電力を供給するための第2リレースイッチRS2の一端とが並列に接続されている。
【0047】
第1リレースイッチRS1の他端は、分岐点V1と接続され、分岐点V1からは電磁クラッチ84の電源端子T1およびソレノイド駆動部材93cの電源端子T1へそれぞれ並列に接続されている。第2リレースイッチRS2の他端には、上流FET54が接続され、当該上流FET54を介してモータ部81の電源端子T1に電気的に接続されている。ここで、上流FET54は、コントローラ50に電気的に接続され、コントローラ50からの駆動信号によりスイッチング動作するようになっている。
【0048】
各リレースイッチRS1,RS2は、それぞれ電源供給線53から供給される電力を断続するようになっており、モータ部81,電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cに過大電流が流れた場合や、後述する下流FET56,クラッチFET57およびソレノイドFET58のオン故障を検出した場合等において、自動的にまたはコントローラ50によりオフ操作されるようになっている。
【0049】
電磁クラッチ84の接地端子T2およびソレノイド駆動部材93cの接地端子T2は、それぞれクラッチFET57およびソレノイドFET58を介して接地部52に接続されている。また、モータ部81の接地端子T2は、下流FET56を介して接地部52に接続されている。なお、下流FET56,クラッチFET57およびソレノイドFET58は、分岐点V3で互いに接続され、分岐点V3から接地部52までは配線14の一部を形成する接地配線55によって接続されている。
【0050】
なお、下流FET56,クラッチFET57およびソレノイドFET58は、それぞれコントローラ50に電気的に接続され、コントローラ50からの駆動信号によりスイッチング動作するようになっている。
【0051】
ここで、コントローラ50により、上流FET54と下流FET56とをそれぞれスイッチング動作することで、モータ部81が所定の回転数および回転トルクで、正回転または逆回転するようになっている。また、コントローラ50によりクラッチFET57をスイッチング動作することで、
図9(a),(b)に示すように、電磁クラッチ84を開放状態(通電解除状態)または締結状態(通電状態)にする。さらに、コントローラ50によりソレノイドFET58をスイッチング動作することで、
図10(a),(b)に示すように、ソレノイド駆動部材93cの通電を解除してラチェット機構93をロック状態に、またはソレノイド駆動部材93cを通電してラチェット機構93をリリース状態にする。
【0052】
次に、以上のように形成した電動ウィンチ30の動作について、図面を用いて詳細に説明する。
図9(a),(b)は電磁クラッチの動作状態を説明する
図5の破線円A部分の部分拡大図を、
図10(a),(b)はラチェット機構の動作状態を説明する動作説明図をそれぞれ表している。
【0053】
[断線故障動作]
電動ウィンチ30の使用により、配線14に外力(負荷)が掛かる等して、電源供給線53の分岐点V2から電源51側が断線すると、
図8に示すように、モータ部81,電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給が強制的に停止される。すると、モータ部81の回転駆動が停止されるとともに、電磁クラッチ84は
図9(a)に示す開放状態となる。具体的には、クラッチコイル84iへの駆動電流の供給が停止(通電解除)されるので、クラッチヨーク84gには磁気吸引力が発生しなくなる。すると、図中矢印m2に示すように、アーマチュア84bは板ばね84fのばね力により、クラッチロータ84aから引き離されて、ひいては電磁クラッチ84は開放状態となる。これにより、ウォームホイール82aの回転力が出力軸83に伝達されなくなる。
【0054】
一方、ソレノイド駆動部材93cは、駆動電流の供給が停止(通電解除)されると、
図10(a)に示すように、内蔵バネSのバネ力により駆動ピン93dが突出する(矢印M1)。これにより、ラッチギヤ93aに歯止め93bが係合して、ラチェット機構93はロック状態となる(矢印R1)。つまり、ベルト32の引き込み方向へのドラム92(
図6参照)の回転を許容しつつ、ベルト32の送り出し方向へのドラム92の回転が規制され、ひいてはスロープ12上での車椅子20(
図1参照)の後退が防止される。
【0055】
[FETオン故障動作]
上流FET54,下流FET56,クラッチFET57およびソレノイドFET58が、例えば、何らかの原因でオン故障した場合には、第1リレースイッチRS1および第2リレースイッチRS2が、自動的にまたはコントローラ50によりオフ操作されるようになっている。これにより、電源供給線53による電源51からモータ部81,電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給(電力供給)が断たれて、モータ部81の回転駆動が停止されるとともに、電磁クラッチ84は開放状態(
図9(a)参照)に、またラチェット機構93はロック状態(
図10(a)参照)になる。
【0056】
具体的には、電磁クラッチ84がオン故障した場合には、
図9(b)に示すように、クラッチコイル84iへの駆動電流の供給が継続(通電)され、クラッチヨーク84gは磁気吸引力を発生し続ける。つまり、図中矢印m3に示すように、アーマチュア84bがクラッチロータ84aに吸引され、クラッチロータ84aとアーマチュア84bとの摩擦面が摩擦接触する。これにより、電磁クラッチ84の締結状態が維持され、ウォームホイール82aの回転が電磁クラッチ84を介して出力軸83に伝達される。本実施の形態においては、このようなオン故障時において、第1リレースイッチRS1(
図8参照)のオフ操作により、電磁クラッチ84を
図9(a)に示す状態にする。
【0057】
一方、ソレノイド駆動部材93cがオン故障した場合には、ソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給が継続(通電)され、
図10(b)に示すように、駆動ピン93dは引っ込んだ状態(矢印M2)となり、ラッチギヤ93aと歯止め93bとの係合が解除されたリリース状態となる(矢印R2)。つまり、ベルト32の引き込み方向および送り出し方向への双方向にドラム92が回転自在となり、車椅子20のスロープ12上での後退を許容し得る状態となる。本実施の形態においては、このようなオン故障時において、第1リレースイッチRS1のオフ操作により、ラチェット機構93を
図10(a)に示す状態にする。
【0058】
以上詳述したように、本実施の形態に係る電動ウィンチ30によれば、通電によりドラム92およびモータ部81を締結状態とし、通電の解除によりドラム92およびモータ部81を開放状態とする電磁クラッチ84と、ソレノイド駆動部材93cへの通電によりリリース状態となりドラム92の一方向および他方向への回転を許容し、ソレノイド駆動部材93cへの通電の解除によりロック状態となりドラム92の一方向への回転を許容しつつ他方向への回転を規制するラチェット機構93とを備え、電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cの各電源端子T1を、一端側が電源51に接続された一の電源供給線53の他端側に、分岐点V1を介してそれぞれ電気的に接続した。
【0059】
これにより、例えば、電源供給線53が断線して電磁クラッチ84の電気系統が失陥したとしても、これに伴いソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給も停止する。よって、ラチェット機構93はロック状態となり、ドラム92の他方向への回転が規制されて車椅子20の後退を確実に防止でき、ひいては電動ウィンチ30の信頼性を向上させることができる。
【0060】
また、本実施の形態に係る電動ウィンチ30によれば、電源供給線53に、当該電源供給線53を断続する第1リレースイッチRS1を設けたので、例えば、電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cが通電状態で故障(オン故障)した場合に、第1リレースイッチRS1によって電源供給線53を断つことで、電磁クラッチ84およびソレノイド駆動部材93cへの駆動電流の供給を停止できる。よって、ラチェット機構93をロック状態として、ドラム92の他方向への回転を規制した状態にできる。
【0061】
本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。例えば、上記実施の形態においては、各FET54,56,57,58のオン故障時において、電源供給線53を断つ各リレースイッチRS1,RS2を設けたものを示したが、各FET54,56,57,58の仕様(耐久性)によっては、各リレースイッチRS1,RS2を省略することもできる。
【0062】
また、上記実施の形態においては、ラチェット機構93の駆動部として、ソレノイド駆動部材93cを採用したものを示したが、本発明はこれに限らず、ラチェット機構93の歯止め93bを揺動駆動できるものであれば、ロータリタイプのアクチュエータ、例えばステッピングモータ等を採用することもできる。