特許第5746098号(P5746098)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5746098自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746098
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置
(51)【国際特許分類】
   H02J 13/00 20060101AFI20150618BHJP
   H02J 3/38 20060101ALI20150618BHJP
   H01L 31/04 20140101ALI20150618BHJP
【FI】
   H02J13/00 301A
   H02J3/38 130
   H01L31/04
【請求項の数】10
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2012-131692(P2012-131692)
(22)【出願日】2012年6月11日
(65)【公開番号】特開2013-258796(P2013-258796A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年7月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110000213
【氏名又は名称】特許業務法人プロスペック特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森 健司
(72)【発明者】
【氏名】志賀 孝広
(72)【発明者】
【氏名】森 博子
【審査官】 宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−260944(JP,A)
【文献】 特開2010−267106(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111252(WO,A1)
【文献】 特開平07−123594(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/118766(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L31/02、
31/0216−31/0224、
31/0236、
31/0248−31/0256、
31/0352−31/036、
31/0392−31/078、
31/18、
51/42−51/48、
H02J3/00−7/12、
7/34−7/36、
13/00
H02S10/00−10/40、
30/00−99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自然エネルギーを利用して電力を発電する発電システムの劣化を診断する診断手段を備えた自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置であって、
前記診断手段は、
複数の発電システムのうち、これらの発電システムが実際に発電した発電量を時系列的に記録した発電履歴データに基づいて、実際の発電量の時系列の変化傾向が類似する発電システム同士をグルーピングし、
前記実際の発電量を比較して、前記グルーピングした発電システム間で発電量の低下が生じる劣化を判断することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項2】
請求項1に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記診断手段は、
自然エネルギーの変化に関連する気象現象を表す気象データを用いて、前記自然エネルギーを利用して発電される発電量を予測し、
前記予測した発電量を用いて、前記グルーピングした発電システム間で前記劣化を判断することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記グルーピングの対象となる前記複数の発電システムは、
少なくとも、任意の領域内に設置されていることを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項4】
請求項2に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記診断手段は、
前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比に基づいて、前記実際の発電量の変化傾向が類似するか否かを判定することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項5】
請求項2又は請求項4に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記診断手段は、
前記グルーピングした発電システムのうち、前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比が、他の発電システムにおける前記比から乖離しているときに、前記劣化が発生していると診断することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項6】
請求項5に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記診断手段は、
前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比が「1」未満であるときに、前記劣化が発生していると診断することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項7】
請求項2、請求項4、請求項5、請求項6のうちのいずれか一つに記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記診断手段は、
前記予測される発電量を、前記グルーピングした発電システムによって実際に検出された気象データと、この気象データを検出した発電システムが実際に発電した発電量との間で成立する所定の関係に基づき、前記検出された気象データとは異なる他の気象データから予測される、前記検出された気象データと同種の気象データを用いて発電量を予測することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項8】
請求項1ないし請求項7のうちのいずれか一つに記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記発電に利用される前記自然エネルギーは、
気象現象の変化に起因して変動する太陽光エネルギー、太陽熱エネルギー、風力エネルギー、潮流エネルギー及び水流エネルギーのうちの少なくとも一つの自然エネルギーであることを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項9】
請求項8に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記発電に利用される前記自然エネルギーが前記太陽光エネルギーであるとき、
前記グルーピングの対象となる前記複数の発電システムは、
少なくとも、東西方向の距離に比して南北方向の距離が長くなるように設定された領域内に設置されていることを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載した自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置において、
前記発電に利用される前記自然エネルギーが前記太陽光エネルギーであるとき、
前記診断手段は、
前記複数の発電システムの前記実際の発電量の時間に対する変化傾向を、太陽が実際に南中する時刻を基準とする真太陽時を用いて補正することを特徴とする自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然エネルギーを利用して電力を発電する発電システムの劣化を診断する劣化診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば、下記特許文献1に示されているような太陽光発電装置は知られている。この従来の太陽光発電装置は、複数枚の太陽電池モジュールを接続して形成した太陽電池アレイと、太陽電池アレイからの直流発電電力を交流変換する変換部を有するパワーコンディショナーと、太陽電池アレイとパワーコンディショナーとを接続する接続箱と、外部の系統電力と接続される分電盤とを直列に配置するとともに、日射量及び温度をそれぞれ測定するための日射計及び温度センサをパワーコンディショナーと連結された発電量モニタに接続するようになっている。これにより、日射量及び温度に関するデータに基づいて期待発電量を算出するとともに実際の発電量と比較し、太陽電池モジュールが設置された当初から任意の測定時点までの装置の性能劣化を検出できるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−101591号公報
【発明の概要】
【0004】
ところで、上記特許文献1に示された従来の太陽光発電装置においては、期待発電量と実際の発電量とを比較することによって太陽電池モジュールの性能劣化を検出する。ここで、太陽光を利用して電力を発電する太陽電池モジュール(太陽電池パネル)は、天候(気象現象)に左右される日射量の変動によって発電量が変動することは言うまでもなく、日射量の変動以外に、太陽電池モジュール(太陽電池パネル)の表面に雪や、落ち葉、砂埃、泥、飛来物等の異物が付着することによっても発電量が変動(より詳しくは、低下)する。或いは、太陽電池モジュール(太陽電池パネル)自体や、配線、パワーコンディショナー等の補機類の不具合が生じた場合にも発電量が低下する。
【0005】
この点に関し、上記従来の太陽光発電装置では、単体で、自身の期待発電量と実際の発電量とを比較するのみであるため、発電量の変動(低下)の原因が、日射量の変動によるものなのか、或いは、異物等の付着や、太陽電池モジュール(太陽電池パネル)及び補機類等の不具合によるものなのかを正確に診断(判断)することができない可能性がある。太陽光のような自然エネルギーを利用して電力を発電する場合には、発電システムにおける発電量の変動(低下)の原因が、気象現象の変化による一時的な劣化なのか、システムの発電性能の低下による恒久的な劣化であるか否かを正確に診断(判断)できることが望まれる。
【0006】
本発明は、上記した問題に対処するためになされたものであり、その目的は、自然エネルギーを利用して発電する発電システムの劣化をより正確に診断することができる自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置を提供することにある。
【0007】
上記目的を達成するための本発明による自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置(以下、本装置と称呼する。)は、診断手段を備えている。前記診断手段は、自然エネルギーを利用して電力を発電する発電システムの劣化を診断する。
【0008】
本発明による本装置の特徴は、前記診断手段が、複数の発電システムのうち、これらの発電システムが実際に発電した発電量を時系列的に記録した発電履歴データに基づいて、実際の発電量の時系列の変化傾向が類似する発電システム同士をグルーピングし、前記実際の発電量を比較して、前記グルーピングした発電システム間で発電量の低下が生じる劣化を判断することにある。この場合、前記診断手段が、自然エネルギーの変化に関連する気象現象を表す気象データを用いて、前記自然エネルギーを利用して発電される発電量を予測し、前記予測した発電量を用いて、前記グルーピングした発電システム間で前記劣化を判断することができる。尚、これらの場合、前記診断手段が、複数の発電システムからこれらの発電システムが実際に発電した発電量を時系列的に記録した発電履歴データを取得する取得手段と、前記発電履歴データに基づいて、複数の発電システムのうち、実際の発電量の時系列の変化傾向が類似する発電システム同士をグルーピングするグルーピング手段と、前記取得手段によって取得された前記発電履歴データによって表される実際の発電量を比較して、前記グルーピング手段によってグルーピングされた発電システム間で発電量の低下が生じる劣化を判断する劣化判断手段とを備えることも可能である。又、前記診断手段が、更に、自然エネルギーの変化に関連する気象現象を表す気象データを用いて、前記自然エネルギーを利用して発電される発電量を予測する発電量予測手段を備えることができ、この場合には、前記劣化判断手段が、前記発電量予測手段によって予測された発電量を用いて、前記グルーピング手段によってグルーピングされた発電システム間で前記劣化を判断することができる。
【0009】
これらの場合、前記グルーピングに関し、前記グルーピングの対象となる前記複数の発電システムは、少なくとも、任意の領域内に設置されているとよい。そして、これらの場合には、前記診断手段は、前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比に基づいて、前記実際の発電量の変化傾向が類似するか否かを判定することができる。
【0010】
又、これらの場合、前記劣化の判断に関し、前記診断手段は、前記グルーピングした発電システムのうち、前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比が、他の発電システムにおける前記比から乖離しているときに、前記劣化が発生していると判断することができる。この場合、より具体的には、前記診断手段は、前記予測される発電量に対する前記実際の発電量の比が「1」未満であるときに、前記劣化が発生していると判断することができる。
【0011】
又、これらの場合、発電量の予測に関し、前記診断手段は、前記予測される発電量を、前記グルーピングした発電システムによって実際に検出された気象データと、この気象データを検出した発電システムが実際に発電した発電量との間で成立する所定の関係に基づき、前記検出された気象データとは異なる他の気象データから予測される、前記検出された気象データと同種の気象データを用いて発電量を予測することができる。
【0012】
更に、これらの場合、前記発電に利用される前記自然エネルギーは、例えば、気象現象の変化に起因して変動する太陽光エネルギー、太陽熱エネルギー、風力エネルギー、潮流エネルギー及び水流エネルギーのうちの少なくとも一つの自然エネルギーとすることができる。
【0013】
そして、この場合、前記発電に利用される前記自然エネルギーが前記太陽光エネルギーであるとき、前記グルーピングの対象となる前記複数の発電システムは、少なくとも、東西方向の距離に比して南北方向の距離が長くなるように設定された領域内に設置されているとよく、この場合には、前記診断手段は、前記複数の発電システムの前記実際の発電量の時間に対する変化傾向を、太陽が実際に南中する時刻を基準とする真太陽時を用いて補正することができる。
【0014】
これらによれば、太陽光エネルギー、太陽熱エネルギー、風力エネルギー、潮流エネルギー及び水流エネルギーのうちから選択される自然エネルギーを利用して電力を発電する複数の発電システムのうち、実際の発電量の変化傾向が類似する発電システム同士をグルーピングすることができる。そして、このグルーピングされた発電システムについて、これらの発電システムが実際に発電した発電量を比較することによって、これら発電システム間で発電量の低下が生じる劣化を判断する、すなわち、発電システムの劣化の有無を診断することができる。更には、太陽光エネルギー、太陽熱エネルギー、風力エネルギー、潮流エネルギー及び水流エネルギーのうちから選択される自然エネルギーの変化に関連する気象現象を表す気象データを用いて、前記自然エネルギーを利用して発電される発電量を予測することができる。そして、この場合には、上述したようにグルーピングされた発電システムについて、予測された発電量を用いて、これら発電システム間で発電量の低下が生じる劣化を判断する、すなわち、発電システムの劣化の有無を診断することができる。
【0015】
従って、特に、自然エネルギーの変化に関連する気象現象を表す気象データを用いて予測された発電量を用いた場合には、グルーピングされた発電システムにおいて気象現象すなわち天候の変化に起因する自然エネルギーの変動の影響を良好に排除した上で、相対的に発電システムの劣化を診断することができる。これにより、例えば、自然エネルギーが太陽光エネルギーである場合には、天候、より具体的には、日射量の変化によって発電量が変動する太陽光発電システムにおいて、発電量が低下する劣化の原因として、日射量の変化による発電量の低下を排除し、例えば、着雪(積雪)、着氷、樹木の葉や異物の付着、或いは、黄砂の飛来等によって太陽電池パネルの表面が太陽光から遮られていることが劣化の原因であると精度よく診断することができる。或いは、例えば、晴天が続いているときには、発電量が低下する劣化の原因として、太陽光発電システムを構成する構成部品である太陽電池パネルの発電性能やパワーコンディショナーの変換性能等の性能低下が劣化の原因であると精度よく診断することができる。
【0016】
又、自然エネルギーが太陽光エネルギーである場合には、少なくとも、東西方向の距離に比して南北方向の距離が長くなるように設定された領域内に設置されている発電システム(太陽光発電システム)をグルーピングすることができる。これにより、南北方向に並んだ発電システム(太陽光発電システム)を優先的にグルーピングすることができ、日照時間帯がほぼ同じ、言い換えれば、発電量の変化傾向がより類似している発電システム(太陽光発電システム)をグルーピングすることができる。従って、特に、自然エネルギーが太陽光エネルギーである場合には、より精度よく、発電システム(太陽光発電システム)の劣化を診断することができる。
【0017】
又、この場合には、真太陽時を用いて、複数の発電システム(太陽光発電システム)の実際の発電量の時間に対する変化傾向、言い換えれば、日照時間帯を補正することができる。これにより、より適切に、発電量の変化傾向が類似している発電システム(太陽光発電システム)をグルーピングすることができて、グルーピングされる発電システム(太陽光発電システム)の数を適切に確保することができる。その結果、より精度よく、相対的な発電システム(太陽光発電システム)の劣化を診断することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る本装置の適用可能な劣化診断システムの構成を示す概略図である。
図2】本発明の実施形態に係り、図1の太陽光発電システムの構成を示す概略図である。
図3図2の発電モニタ装置の構成を示す概略図である。
図4図1の管理センタの構成を示す概略図である。
図5図4の制御装置(コンピュータ)によって実行されるコンピュータプログラム処理を機能的に表す機能ブロック図である。
図6】グルーピングの一例を説明するための図である。
図7】グルーピングされた太陽光発電システムの劣化の有無を説明するための図である。
図8】本装置による劣化診断を具体的に例示して説明するための図である。
図9】本装置による劣化診断を具体的に例示して説明するための図である。
図10】本発明の実施形態の変形例に係るグルーピングを説明するための図である。
図11】真太陽時を考慮せず標準時を用いた場合における発電量時系列(発電量の変化傾向)のずれを説明するための図である。
図12】真太陽時を用いて補正した場合における発電量時系列(発電量の変化傾向)を説明するための図である。
図13】本発明の実施形態の変形例に係る予測発電量の演算を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態に係る本装置について図面を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本装置の適用可能な劣化診断システムの概略構成を示している。本実施形態における劣化診断システムにおいては、本装置が、自然エネルギーである太陽光エネルギーを利用して電力を発電する太陽光発電システムの劣化を診断する。このため、本実施形態における劣化診断システムは、任意の領域内に複数存在する、例えば、家屋等の建物に設置された太陽光発電システム10と、本装置を備えた管理センタ20と、気象現象に関する各種気象データを提供する気象データ提供センタ30とを備えて構成される。そして、この劣化診断システムにおいては、複数の家屋等に設置された各太陽光発電システム10、管理センタ20及び気象データ提供センタ30が、例えば、インターネット回線網や携帯電話回線網等のネットワーク40によって互いに通信可能に接続されている。
【0021】
家屋等に設置される太陽光発電システム10は、図2に示すように、一般に家屋等の南側の屋根等に設置されていて太陽光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池パネル11(或いは、太陽電池モジュール11)を複数枚、直・並列接続して形成した太陽電池アレイ12を備えている。太陽電池アレイ12は、周知の逆流防止素子及び直流遮断器を有する接続箱13を介してパワーコンディショナー14に接続されている。パワーコンディショナー14は、太陽電池アレイ12(各太陽電池パネル11)から出力される直流発電電力を交流変換する変換部を有する、所謂、インバータである。そして、パワーコンディショナー14は、外部の系統電力と接続される分電盤15に接続され、パワーコンディショナー14によって変換された交流電力が家屋内で使用される各種電気機器に接続される。
【0022】
又、太陽光発電システム10は、パワーコンディショナー14に接続された発電モニタ装置16を備えている。発電モニタ装置16は、太陽電池アレイ12(各太陽電池パネル11)によって発電された発電量を取得してモニタするとともに、この発電量に関する情報を管理センタ20に提供するものである。
【0023】
このため、発電モニタ装置16は、図3に示すように、電子制御ユニット16a、通信ユニット16b、記憶ユニット16c及び報知ユニット16dを備えている。電子制御ユニット16aは、CPU、ROM、RAM等を主要構成部品とするマイクロコンピュータであり、各種プログラムを実行することにより、発電モニタ装置16の動作を統括的に制御する。通信ユニット16bは、ネットワーク40に接続して管理センタ20との通信を実現するものである。
【0024】
記憶ユニット16cは、ハードディスクや半導体メモリ等の記憶媒体及び同記憶媒体のドライブ装置を含むものである。そして、記憶ユニット16cは、電子制御ユニット16aが発電モニタ装置16の作動を統括的に制御するにあたって必要なプログラム及びデータを予め記憶している。更に、記憶ユニット16cは、太陽光発電システム10の仕様(具体的には、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の方位角、傾斜角、温度特性、パワーコンディショナー14の変換特性等)を表す仕様データ、太陽光発電システム10の設置場所(具体的には、経度及び緯度等)を表す地域データ、及び、太陽光発電システム10を識別するために予め割り当てられた識別データを所定記憶位置に記憶するとともに、太陽光発電システム10によって発電された日々の発電量の実績を時系列的に記録した発電履歴データを更新可能に所定記憶位置に記憶する。
【0025】
報知ユニット16dは、表示ディスプレイやスピーカ等から構成されている。そして、報知ユニット16dは、電子制御ユニット16aによる制御に従って、表示ディスプレイの画面上に文字、図形等を表示したり、音声をスピーカから出力して、後述するように管理センタ20から提供される劣化診断結果を報知するものである。
【0026】
管理センタ20は、後述するように、所定の条件を満たす太陽光発電システム10をグルーピングし、このグループに含まれる太陽光発電システム10の発電実績(発電履歴)と発電予測とに基づいて、個々の太陽光発電システム10の劣化を診断するものである。このため、管理センタ20は、図4に示すように、サーバ21と通信装置22とを備えている。
【0027】
サーバ21は、制御装置21a、記憶装置21b及び通信インターフェース21cを備えている。制御装置21aは、CPU、ROM、RAM等からなるマイクロコンピュータを主要構成部品とするものであり、太陽光発電システム10の劣化を診断するように管理センタ20(より具体的にサーバ21)の動作を統括的に制御する。記憶装置21bは、ハードディスクや半導体メモリ等の記憶媒体及び同記憶媒体のドライブ装置を含むものであり、各種プログラム及び各種データを記憶している。通信インターフェース21cは、管理センタ20内に構築された通信回線(例えば、LAN回線等)に接続するためのインターフェースである。又、記憶装置21bは、太陽光発電システム10の発電モニタ装置16から送信された仕様データ、地域データ及び識別データを互いに関連付けて検索可能に記憶するとともに、識別データと関連付けて所定の頻度によって送信される発電履歴データを検索可能に蓄積して記憶する発電実績データベース21dを備えている。尚、個々の発電モニタ装置16から送信される仕様データ、地域データ及び識別データについては、例えば、管理センタ20との最初の通信時に送信されて検索可能に記憶される(登録される)ようになっており、次回以降の通信では省略することが可能である。通信装置22は、ネットワーク40に接続されて、太陽光発電システム10の発電モニタ装置16及び気象データ提供センタ30と通信するものである。
【0028】
気象データ提供センタ30は、全国に設置された気象観測装置によって観測された種々の気象データを提供するものである。ここで、本実施形態においては、太陽光エネルギーの変化に関連する気象データとして、各観測地点における、雲量(下層雲量、中層雲量、上層雲量)、降水(降雪)量(1時間当たりの降水(降雪)量)、湿度(相対湿度)が気象観測装置によって観測されて提供される。そして、気象データ提供センタ30は、観測された上記種々の気象データをネットワーク40を介して管理センタ20に提供する。
【0029】
次に、上記のように構成した管理センタ20が太陽光発電システム10の劣化を診断する動作を、サーバ21の制御装置21a内にてコンピュータプログラム処理により実現される機能を表す図5に示す機能ブロック図を用いて詳細に説明する。制御装置21aは、入力部51と、発電量予測部52と、グルーピング部53と、劣化判断部54と、出力部55とからなる診断手段としての劣化診断処理部50を備えている。
【0030】
取得手段としての入力部51は、通信装置22を介して、家屋等に設置された太陽光発電システム10の発電モニタ装置16から送信された識別データ及び発電履歴データを取得するとともに、気象データ提供センタ30から気象データを取得する。そして、入力部51は、発電モニタ装置16から取得した識別データ及び発電履歴データを記憶装置21bが有する発電実績データベース21dの所定記憶位置に検索可能に蓄積して記憶するとともに、気象データ提供センタ30から取得した種々の気象データを記憶装置21bの所定記憶位置に蓄積して記憶する。
【0031】
発電量予測手段としての発電量予測部52は、前記入力部51によって取得された(入力された)種々の気象データと、前記入力部51によって取得された(入力された)発電履歴データを送信した太陽光発電システム10の仕様データとを用いて、種々の気象データが表す気象現象下においてこの太陽光発電システム10が発電できる発電量を予測する。尚、発電量の予測に関しては、周知の計算方法を採用することができるため、以下に例示して簡単に説明する。
【0032】
発電量予測部52においては、前記入力部51によって気象データ提供センタ30から取得された種々の気象データ、具体的には、下層雲量、中層雲量、上昇雲量、1時間当たりの降水(降雪)量及び相対湿度を用いた周知の下記式1に従って、水平面全天日射量Iを演算する。すなわち、発電量予測部52は、種々の気象データに基づき、例えば、最小二乗法によって、下記式1中の各パラメータを推定して、水平面全天日射量Iを演算する。尚、詳細は示さないが、この水平面全天日射量Iの演算においては、全天日射量を直達光、散乱光及び地上反射光に分離する方法や、ニューラルネットワーク・SVM(Support Vector Machine)等の機械学習による方法等が用いることができる。
【数1】
【0033】
ただし、前記式1中のI0は大気上端水平面日射量を表し、Mはエアマスを表し、共に天文学的に計算される値である。又、前記式1中のCLは気象データ提供センタ30から取得した下層雲量を表し、CMは気象データ提供センタ30から取得した中層雲量を表し、CHは気象データ提供センタ30から取得した上層雲量を表し、それぞれ、0〜1の値とされる。又、前記式1中のRは気象データ提供センタ30から取得した1時間当たりの降水(降雪)量を表し、Hは気象データ提供センタ30から取得した相対湿度を表していて0〜1の値とされる。更に、前記式1中のα0,αL,βL,αM,βM,αH,βH,αR,βR,αW,βWはパラメータを表し、0よりも大きな値とされる。
【0034】
又、発電量予測部52は、前記入力部51によって取得された識別データを用いて発電実績データベース21dを検索し、この識別データに関連付けて記憶されている(登録されている)仕様データを取得する。そして、取得した仕様データによって表される太陽光発電システム10の太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の設置状態(方位角や傾斜角等)及びパワーコンディショナー14の変換特性等を用いて、前記式1に従って演算した水平面全天日射量Iであるときに予測される発電量Ec(以下、予測発電量Ecと称呼する。)を演算する。このようにして、発電量予測部52は、個々の太陽光発電システム10に対応する予測発電量Ecを演算すると、演算した予測発電量Ecを実績発電量データベース21dの所定記憶位置に識別データと関連付けて検索可能に記憶する。
【0035】
ここで、仕様データによって表される太陽光発電システム10の太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の設置状態(方位角や傾斜角等)及びパワーコンディショナー14の変換特性等が同等であれば、前記式1に従って演算した水平面全天日射量Iであるときに予測される予測発電量Ecが等しいとみなすことができる。従って、後述するようにグルーピングされる太陽光発電システム10に対しては、上述したように個々の太陽光発電システム10について演算した予測発電量Ecを用いることができることは言うまでもないが、同一の予測発電量Ecを用いても何ら問題ない。
【0036】
グルーピング手段としてのグルーピング部53は、本実施形態においては、発電履歴データによって表される、複数の太陽光発電システム10による発電量の変化傾向、より詳しくは、発電量の時系列変化が互いに似ている(類似している)太陽光発電システム10同士を同一グループであるとしてグルーピングする。以下、このグルーピング処理を具体的に説明する。
【0037】
まず、グルーピング部53は、発電実績データベース21dに記憶されている地域データを参照し、ある特定の地域内に存在する太陽光発電システム10を抽出する。又、グルーピング部53は、気象データ提供センタ30から取得して記憶装置21bの所定記憶位置に記憶されている過去の気象データに基づき、太陽光発電システム10による発電量に影響を及ぼす気象現象、例えば、積雪や黄砂の飛散等が一定期間無かった時期を特定する。そして、グルーピング部53は、発電実績データベース21dに蓄積されて記憶されている発電履歴データのうち、前記抽出した太陽光発電システム10の発電履歴データを検索して取得し、この取得した発電履歴データのうちで前記特定した時期の発電履歴データすなわち前記特定した時期における実際の発電量(実績値)の時系列データを取得するとともに、発電履歴データに関連付けられている識別データを取得する。尚、この場合、抽出した複数の太陽光発電システム10間の定数倍の差を無視するために、最大値や平均値等を用いて規格化しておくことが好ましい。
【0038】
次に、グルーピング部53は、前記抽出した太陽光発電システム10のうちで、互いに数キロ〜10数キロ程度以下の距離となる任意の領域内で近接する太陽光発電システム10を特定する。そして、グルーピング部53は、この特定した太陽光発電システム10の前記時系列データを参照し、互いに似ている(類似している)時系列を有する太陽光発電システム10を選択する。ここで、日射量や降雨(降雪)量等の気象条件(気象現象)は、数10キロ程度離れると地域差が大きくなるため、グルーピング処理においては、原則として、太陽光発電システム10の設置場所が互いに近いことが重要である。一方で、太陽光発電システム10の設置場所が互いに近くても、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の方位角や傾斜角、発電特性等の個体差が存在する。このため、グルーピング部53は、例えば、発電量(実績値)の時系列、すなわち、太陽光発電システム10の発電の様子(発電量の変化傾向)が似ているか否かを判定するにあたり、日積算発電量や、時間毎発電量、或いは、分毎発電量等の時系列の変化傾向が似ている(具体的には、2つの時系列間のユークリッド距離や絶対値距離が小さい、或いは、これら時系列間の比が「1」に近い)ことを基準として判定する。
【0039】
そして、グルーピング部53は、上述したように、太陽光発電システム10の設置場所が互いに近いこと、及び、発電量時系列の変化傾向が似ていることを基準として、例えば、図6に示すように、前記特定した太陽光発電システム10のうちから選択してグルーピング(クラスタリング)する。尚、このグルーピング(クラスタリング)に際しては、いくつのグループに分けるのか、どのような特徴を持ったグループに分けるのかといった情報を予め用意する必要がなく、柔軟なグループ分けが可能な「教師無しクラスタリング手法」が有効となる。尚、「教師無しクラスタリング手法」としては、階層構造を持たない周知のK−means法(K平均法)や自己組織化写像(SOM)等の方法(手法)を挙げることができる。又、「教師有りクラスタリング手法」としては、階層構造を持つ決定木等の方法を挙げることができる。
【0040】
そして、グルーピング部53は、グルーピングした太陽光発電システム10の時系列データ、すなわち、実際の発電量の実績値(以下、実績発電量Eと称呼する。)とともにグルーピングした太陽光発電システム10の識別データを劣化判断部54に出力する。
【0041】
劣化判断手段としての劣化判断部54は、グルーピング部53によってグルーピングされた太陽光発電システム10の実績発電量E及び識別データを取得するとともに、前記発電量予測部52によって演算されてグルーピングされた太陽光発電システム10に対応する予測発電量Ecを取得する。そして、劣化判断部54は、過去N日分の予測発電量Ecの積算値(以下、発電予測積算値と称呼する。)に対する過去N日分の実績発電量Eの積算値(以下、発電実績積算値と称呼する。)の比R(以下、劣化判定比Rと称呼する。)を演算し、この劣化判定比Rに基づいてグルーピングされた太陽光発電システム10のうちで劣化した太陽光発電システム10を診断する。以下、具体的に説明する。
【0042】
劣化判断部54は、グルーピング部53からグルーピングされた太陽光発電システム10のそれぞれの実績発電量E及び識別データを取得すると、取得した識別データを用いて実績発電量データベース21dを検索し、前記発電量予測部52によって演算されて所定記憶位置に記憶されている予測発電量Ecのうちで前記取得した識別データに関連付けられている予測発電量Ecを過去N日分に渡り取得するとともに、識別データに関連付けられて蓄積されている実績発電量Eを過去N日分に渡り取得する。そして、劣化判断部54は、取得したN日分の予測発電量Ecを加算して発電予測積算値を演算し、N日分の実績発電量Eを加算して発電実績積算値を演算する。これにより、劣化判断部54は、発電予測積算値に対する発電実績積算値の比である劣化判定比Rを演算し、例えば、図7に示すように、グルーピングされた太陽光発電システム10ごとに劣化判定比Rの時系列を生成する。
【0043】
このように、劣化判定比Rの時系列を生成することにより、図7に示すように、グルーピングされた太陽光発電システム10がほぼ同等の劣化判定比Rによって推移しているときには劣化が生じていないと判断することができ、劣化判定比Rが著しく低下している(乖離している)ときには劣化が生じていると判断することができる。尚、この場合の劣化の原因を特定するに際して、劣化判断部54は、前記入力部51によって気象データ提供センタ30から取得された気象データに基づき、例えば、降雪や暴風雨、黄砂の飛来等の気象現象が発生した場合、降雪によって太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じている、暴風雨によって太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に樹木の葉や異物が付着している、或いは、黄砂の飛来によって太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面が砂埃によって覆われている等を推定し、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面が太陽光から遮られていることが劣化の原因であると判断する。
【0044】
更に、このことを、より具体的に、例えば、気象現象(気象条件)として、降雪が有った場合を例示して説明する。
【0045】
今、グルーピング部53によって、発電の変化傾向が良く似た家屋(太陽光発電システム10)同士として、家屋A1と家屋A2がグルーピングされ、家屋B1と家屋B2がグルーピングされている状況を想定する。まず、図8に示すように、家屋A1と家屋A2とについて、例えば、過去3日分の劣化判定比Rを演算して比較し、降雪による影響を検討する。この場合、最初の降雪期間においては、家屋A1及び家屋A2共に、劣化判定比Rの値が「1」を下回っており、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じて発電実績積算値が低下している。従って、この最初の降雪期間においては、家屋A1及び家屋A2が共に劣化が生じていると判定することができる。
【0046】
次に、図8に示す長破線によって囲んだ2回目の降雪期間においては、家屋A1の劣化判定比Rの値が「1」を下回っており、家屋A2の劣化判定比Rの値が「1」以上となっている。従って、家屋A1においては、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪や着氷が生じて発電実績積算値が低下しており、劣化が生じていると判定することができる。一方、家屋A2においては、例えば、融雪等によって、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じておらず、発電実績積算値が増加しているため、劣化が生じていないと判定することができる。
【0047】
更に、図8に示す一点鎖線よって囲んだ3回目の降雪期間においては、家屋A1の劣化判定比Rの値が「1」以上となっており、家屋A2の劣化判定比Rの値が「1」を下回っている。従って、家屋A1においては、例えば、融雪等によって、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じておらず、発電実績積算値が増加しているため、劣化が生じていないと判定することができる。一方、家屋A2においては、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じて発電実績積算値が低下しており、劣化が生じていると判定することができる。又、家屋A2においては、降雪が止んだ後においても、劣化判定比Rの値が「0」となって推移しているため、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面における積雪量が多く、言い換えれば、融雪が進行しておらず、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)に太陽光が全く届いていない状態が生じていると推定することができる。
【0048】
一方、図9に示すように、家屋B1と家屋B2とについても、例えば、過去3日分の劣化判定比Rを演算して比較し、降雪による影響を検討する。この場合、最初の降雪期間においては、家屋B1及び家屋B2共に、劣化判定比Rの値が「1」を下回っており、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面に着雪が生じて発電実績積算値が低下している。従って、この最初の降雪期間においては、家屋B1及び家屋B2が共に劣化が生じていると判定することができる。尚、この場合、家屋B2の劣化判定比Rの増加傾向が遅れている。このような状況としては、例えば、家屋B2の住人が旅行等に出かけていて暖房の利用が無く、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の暖房熱による融雪が遅れていると推定することができる。
【0049】
次に、図9に示す長破線によって囲んだ2回目の降雪期間においては、家屋B1の劣化判定比Rの値が「1」以上であり、家屋B2の劣化判定比Rの値が「1」を下回っている。従って、家屋B1においては、例えば、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面における着雪が溶けやすく、発電実績積算値が増加しているため、劣化が生じていないと判定することができる。一方、家屋B2においては、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面における着雪が溶けにくくて(或いは、溶けた雪が氷となって着氷して)発電実績積算値が低下しており、劣化が生じていると判定することができる。
【0050】
更に、図9に示す一点鎖線よって囲んだ3回目の降雪期間においても、家屋B1の劣化判定比Rの値が「1」以上であり、家屋B2の劣化判定比Rの値が「1」を下回っている。従って、家屋B1においては、例えば、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面における着雪が溶けやすく、発電実績積算値が増加しているため、劣化が生じていないと判定することができる。一方、家屋A2においては、太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面における着雪が溶けにくくて(或いは、溶けた雪が氷となって着氷して)発電実績積算値が低下しており、劣化が生じていると判定することができる。
【0051】
このように劣化判断部54は、太陽光発電システム10の劣化の有無を判断すると、この判断内容、すなわち、太陽光発電システム10の劣化の有無と推定原因を表す劣化診断結果を出力部55に出力する。
【0052】
出力部55は、劣化判断部54から出力された劣化診断結果を、通信装置22及びネットワーク40を介して、対象となる太陽光発電システム10の発電モニタ装置16に送信する。発電モニタ装置16においては、電子制御ユニット16aが取得した劣化診断結果を報知ユニット16dに出力し、この劣化診断結果を報知するように指示する。これにより、報知ユニット16dは、表示ディスプレイ上に文字や図形を表示したり、スピーカから音声を出力して、劣化診断結果を家屋の住人等に報知する。
【0053】
以上の説明からも理解できるように、上記実施形態によれば、数キロから10数キロ程度以下となる任意の領域内に存在する複数の太陽光発電システム10のうち、実際の発電量の変化傾向が類似する太陽光発電システム10同士をグルーピングすることができる。そして、このグルーピングした太陽光発電システム10について、予測発電量Ecを用いてそれぞれの劣化判定比Rを求め、この劣化判定比Rを比較することによって太陽光発電システム10の劣化の有無を診断することができる。
【0054】
従って、グルーピングされた太陽光発電システム10において気象現象、より具体的には、日射量の変化による影響を良好に排除した上で、相対的に太陽光発電システム10の劣化を診断することができる。これにより、日射量の変化によって発電量が変動する太陽光発電システムにおいて、発電量が低下する劣化の原因として、日射量の変化による発電量の低下を排除し、例えば、着雪(積雪)、着氷、樹木の葉や異物の付着、或いは、黄砂の飛来によって太陽電池アレイ12(太陽電池パネル11)の表面が太陽光から遮られていることが劣化の原因であると精度よく診断することができる。或いは、晴天が続いているときには、発電量が低下する劣化の原因として、例えば、太陽光発電システム10を構成する構成部品である太陽電池パネル11の発電性能やパワーコンディショナー14の変換性能等の性能低下が劣化の原因であると精度よく診断することができる。
【0055】
<第1変形例>
上記実施形態においては、グルーピング部53が、太陽光発電システム10が互いに近く(数キロ〜10数キロ程度)に設置されており、発電の変化傾向が似ている(類似している)ことを基準として、太陽光発電システム10をグルーピングするように実施した。ところで、太陽光発電システム10においては、日照時間帯が発電量の変化傾向に大きな影響を与える。このため、ある太陽光発電システム10から互いに同程度の距離に設置されており、発電の変化傾向や気象条件等が似た太陽光発電システム10が複数存在する場合には、日の出・日の入が東から西へと移動することを考慮し、日照時間帯が同等となる南北方向の位置する太陽光発電システム10を優先的にグルーピングするように実施する。
【0056】
すなわち、この場合、地域データによって表される各太陽光発電システム10の設置場所の経度及び緯度に基づき、例えば、図10に概略的に示すように、東西方向の距離に比して南北方向の距離が長くなる領域(東西方向に比して南北方向に広い領域)内に存在する太陽光発電システム10を優先してグルーピングするように実施する。以下、この第1変形例を詳細に説明するが、上記実施形態と同一部分に同一の符号を付し、その説明を省略する。尚、図10においては、理解を容易とするために、設定される領域を誇張して示している。
【0057】
この第1変形例においては、グルーピング部53は、上記実施形態と同様に、気象条件(気象現象)の地域差を考慮して数キロ〜10数キロ程度以下の近接する場所に設置された太陽光発電システム10を抽出するとともに、発電の変化傾向が類似する複数の太陽光発電システム10を特定する。そして、この第1変形例においては、グルーピング部53は、日照時間帯が近い太陽光発電システム10同士、言い換えれば、南北方向に並ぶ太陽光発電システム10を優先してグルーピングする。
【0058】
具体的に、この第1変形例におけるグルーピング部53は、例えば、ある診断対象となる太陽光発電システム10を基準として、前記特定された太陽光発電システム10までの距離Lを下記式2に従って定義する。
【数2】
ただし、前記式2中のΔxは東西方向の距離(又は経度の差)を表し、前記式2中のΔyは南北方向の距離(又は緯度の差)を表す。又、前記式2中のa,bは「1」以上の値に設定される変数であり、前記式2中のn,mは「0」以上の値に設定される変数である。
【0059】
ここで、前記式2に従い、例えば、変数a及び変数bを「1」に設定するとともに変数n及び変数mを「2」に設定すると、前記式2によって決定される距離Lは、通常のユークリッド距離となる。一方、変数a及び変数bを「1」よりも大きな値に設定すると、東西方向の距離(又は経度の差)Δxが誇張される。このため、a,b>1に設定して前記式2により演算される距離Lが小さい地点同士をグルーピングすると、東西方向の距離(又は経度の差)Δxが小さい地点に設置された太陽光発電システム10の方を優先して、すなわち、見かけ上の距離よりも近い地点に設置されて南北方向に並ぶ太陽光発電システム10を優先してグルーピングすることができる。
【0060】
このことを、図10を用いて説明する。今、図10に示すように、診断対象となる太陽光発電システム10の設置場所を基準として、東西方向にて西側に家屋Cに設置された太陽光発電システム10が存在し、南北方向にて北側に家屋Dに設置された太陽光発電システム10が存在している状況を想定する。そして、診断対象となる太陽光発電システム10と家屋Cに設置された太陽光発電システム10との間の距離と、診断対象となる太陽光発電システム10と家屋Dに設置された太陽光発電システム10との間の距離がほぼ等しいとする。
【0061】
ところで、家屋Cに設置された太陽光発電システム10は、診断対象となる太陽光発電システム10よりも西側に位置する。このため、家屋Cに設置された太陽光発電システム10の日照時間帯は、診断対象となる太陽光発電システム10の日照時間帯よりも遅い時間帯となって異なる。一方、家屋Dに設置された太陽光発電システム10は、診断対象となる太陽光発電システム10のほぼ真北側に位置する。このため、家屋Dに設置された太陽光発電システム10の日照時間帯は、診断対象となる太陽光発電システム10の日照時間帯とほぼ同じとなる。従って、劣化診断の精度を向上させるためには、診断対象となる太陽光発電システム10と家屋Dに設置された太陽光発電システム10とをグルーピングすることが好ましい。
【0062】
このため、グルーピング部53は、前記式2においてa,b>1に設定して前記特定された(すなわち、診断対象の太陽光発電システム10と近接していて発電量の変化傾向が似ている)太陽光発電システム10のそれぞれの距離Lを演算し、この演算した距離Lが小さい太陽光発電システム10をグルーピングする。これにより、診断対象となる太陽光発電システム10を基準として南北方向に並んだ家屋Dに設置された太陽光発電システム10を優先的にグルーピングすることができ、日照時間帯がほぼ同じ、言い換えれば、発電量の変化傾向がより類似している太陽光発電システム10をグルーピングすることができる。
【0063】
これにより、上述したようにグルーピングした太陽光発電システム10が存在する領域(地域)を適切に特定することができるため、この領域(地域)における予測発電量Ecを前記式1に従ってより精度よく演算することができる。従って、グルーピングした太陽光発電システム10のそれぞれの劣化判定比Rをより正確に演算することができるため、診断対象の太陽光発電システム10をより精度よく劣化診断することが可能となる。
【0064】
ところで、日照時間帯は、通常、国や地域ごとに統一されている「標準時」を用いて定義される。この場合、診断対象の太陽光発電システム10を基準として、東側に位置する太陽光発電システム10と西側に位置する太陽光発電システム10とを比較すると、厳密には「標準時」での午後12時(正午)における太陽の位置(南中)が異なる場合がある。これにより、診断対象の太陽光発電システム10を基準として、東側に存在する家屋Eに設置された太陽光発電システム10と西側に存在する家屋Fに設置された太陽光発電システム10とにおいて、全体的な発電量の変化傾向は似ていても、図11に概略的に示すように、発電量の変化傾向が時間軸方向にてずれる可能性がある。
【0065】
このため、診断対象の太陽光発電システム10が含まれる領域(地域)の各地点において太陽の南中時刻を午後12時(正午)とする「真太陽時」を用いて、日照時間帯を補正すなわち発電量の変化傾向を補正して実施することも可能である。これにより、例えば、図11に示したように「標準時」を用いた場合一見すると発電量の変化傾向が異なっている場合であっても、図12に示すように、「真太陽時」を用いたときの発電量の変化傾向が類似している場合には、グルーピング部53はこの太陽光発電システム10をグルーピングすることが可能である。これにより、同一グループを形成する太陽光発電システム10、すなわち、比較対象となる太陽光発電システム10のサンプル数を適切に増加させることができ、診断対象の太陽光発電システム10をより精度よく相対的な劣化を診断することが可能となる。
【0066】
<第2変形例>
上記実施形態においては、前記式1に従って水平面全天日射量Iを推定演算し、この水平面全天日射量Iであるときの予測発電量Ecを演算するように実施した。この場合、例えば、太陽光発電システム10にそれぞれ日射計を設けておき、この日射計によって検出される気象データとしての日射量(実績値)と発電モニタ装置16によってモニタされる発電量(実績値)とから両者間の関係を求める。そして、この求めた日射量(実績値)と発電量(実績値)との関係に対して、前記式1に従って予測演算した水平面全天日射量Iを適用して予測発電量Ecを演算するように実施することも可能である。
【0067】
この場合には、図13に示すように、日射量(実績値)と発電量(実績値)との関係に基づいて予測発電量Ecが演算されるため、予測発電量Ecの変化傾向を実績発電量Eの変化傾向に合わせることができる。従って、これら予測発電量Ecと実績発電量Eとを用いて演算される劣化判定比Rをより精度よく決定することができ、相対的な太陽光発電システム10の劣化をより精度よく診断することができる。
【0068】
<第3変形例>
上記実施形態においては、グルーピング部53が、太陽光発電システム10が互いに近く(数キロ〜10数キロ程度)に設置されており、発電の変化傾向が似ていることを基準として、太陽光発電システム10をグルーピングするように実施した。この場合、より簡便に、例えば、太陽光発電システム10による発電に影響を与えない気象現象下において、複数の太陽光発電システム10についてそれぞれの劣化判定比Rを演算し、この演算した劣化判定比Rが同等の変化傾向となる太陽光発電システム10をグルーピングするように実施することも可能である。これによっても、上記実施形態に比して、地域差による気象現象の変化の影響を受けて、若干、相対的な劣化の診断精度が劣る可能性があるものの、簡便に相対的な劣化の診断が可能となり、上記実施形態と同等の効果が期待できる。
【0069】
本発明の実施にあたっては、上記実施形態及び各変形例に限定されるものではなく、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0070】
例えば、上記実施形態及び各変形例においては、予測発電量Ecを演算し、この予測発電量Ecを用いて予測発電量Ecに対する実績発電量Eの比を表す劣化判定比Rを演算して、グルーピングした太陽光発電システム10間の劣化を判断するように実施した。この場合、グルーピングした太陽光発電システム10のそれぞれの実績発電量Eを比較することによって、グルーピングした太陽光発電システム10間の劣化を判断するように実施することも可能である。この場合においても、複数の太陽光発電システム10の実績発電量Eを互いに比較するため、相対的な劣化の診断が可能となる。
【0071】
又、上記実施形態及び各変形例においては、個々の太陽光発電システム10について予測発電量Ecを予測するように実施した。しかし、上述したように、地域差によって気象現象(気象条件)が変化しない任意の領域内に設置された太陽光発電システム10であれば、任意の領域内の各種気象データを用いて統一された予測発電量Ecを予測するように実施することも可能である。この場合にも、上記実施形態及び各変形例と同様に、グルーピングされた太陽光発電システム10に対する天候の影響を良好に排除することができて、精度よく相対的な劣化診断が可能となる。
【0072】
又、上記実施形態及び各変形例においては、自然エネルギーを利用した発電システムの劣化診断装置が、自然エネルギーとして太陽光を利用して発電する太陽光発電システム10の劣化を診断するように実施した。この場合、劣化診断装置が、気象現象(気象条件)によって変化(変動)する自然エネルギーを利用する他の発電システム、例えば、自然エネルギーとして太陽熱を利用する太陽熱発電システムや、風力を利用する風力発電システム、潮流を利用する潮流発電システム、水流を利用する水流発電システム等の劣化を診断するように実施することも可能である。このような太陽熱、風力、潮流及び水流も、太陽光と同様に、気象現象(気象条件)の変化に起因して変化(変動)するものであるため、上記実施形態及び各変形例と同様に、この変化(変動)を適切に排除して発電システムの劣化を精度よく診断することができる。
【0073】
更に、上記実施形態および各変形例においては、管理センタ20に本装置を設けて実施した。この場合、本装置を、例えば、太陽光発電システム10が設置された家屋等に設けて実施可能であることは言うまでもない。この場合には、例えば、家屋内に設けられたコンピュータ装置や発電モニタ装置に本装置を設けて実施することができる。
【符号の説明】
【0074】
10…太陽光発電システム、11…太陽電池パネル、12…太陽電池アレイ、13…接続箱、14…パワーコンディショナー、15…分電盤、16…発電モニタ装置、20…管理センタ、21…サーバ、21a制御装置、21d…発電実績データベース、22…通信装置、30…気象データ提供センタ、40…ネットワーク、50…劣化診断処理部、51…入力部、52…発電量予測部、53…グルーピング部、54…劣化判断部、55…出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13