特許第5746276号(P5746276)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5746276工作機械の停電時保護を実現するモータ制御装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746276
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】工作機械の停電時保護を実現するモータ制御装置
(51)【国際特許分類】
   G05B 19/18 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
   G05B19/18 X
【請求項の数】5
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2013-148443(P2013-148443)
(22)【出願日】2013年7月17日
(65)【公開番号】特開2015-22402(P2015-22402A)
(43)【公開日】2015年2月2日
【審査請求日】2014年8月25日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390008235
【氏名又は名称】ファナック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100114018
【弁理士】
【氏名又は名称】南山 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100165191
【弁理士】
【氏名又は名称】河合 章
(74)【代理人】
【識別番号】100151459
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 健一
(72)【発明者】
【氏名】田嶋 大輔
【審査官】 牧 初
(56)【参考文献】
【文献】 特開平7−143780(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05B 19/18−19/416
G05B 19/42−19/46
B23Q 15/00−15/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有する工作機械の制御装置であって、
交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力とを相互電力変換する順変換器と、
前記DCリンクに接続され、前記DCリンクの直流電力と送り軸モータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する送り軸モータ用逆変換器と、
前記DCリンクに接続され、前記DCリンクの直流電力と主軸モータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する主軸モータ用逆変換器と、
前記順変換器の交流電源側の停電発生の有無を検出する停電検出手段と、
前記停電検出手段が停電を検出したとき、送り軸モータが減速するよう前記送り軸モータ用逆変換器による相互電力変換を制御する送り軸モータ減速指令を出力する送り軸モータ用減速指令手段と、
送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する判定手段と、
前記所定の判定条件を満たすと前記判定手段が判定したとき、上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が前記主軸モータ用逆変換器から主軸モータへ出力されるよう指令する励磁電流指令を出力する励磁指令手段と、
を備え
前記所定の判定条件は、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つであることを特徴とする工作機械の制御装置。
【請求項2】
前記工作機械の制御装置は
記DCリンクにおける直流電圧値を検出する電圧検出手段と
記停電検出手段が停電を検出したとき、前記電圧検出手段が検出した直流電圧値に応じて、主軸モータが加速もしくは減速するよう前記主軸モータ用逆変換器による相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令もしくは主軸モータ減速指令を出力する主軸モータ用加減速指令手段と、
前記停電検出手段が停電を検出したときに前記送り軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する送り軸モータ用逆変換器制御部および前記主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ用逆変換器制御部に駆動電力を供給する電源バックアップ手段と、
を備え、
前記判定手段は、前記停電検出手段による停電の検出の有無にかかわらず、送り軸モータの動作が前記所定の判定条件を満たすか否かを判定する請求項1に記載の工作機械の制御装置。
【請求項3】
前記主軸モータ用加減速指令手段は、前記停電検出手段が停電を検出したとき、前記電圧検出手段が検出した直流電圧値が所定の上限値より大きい場合は主軸モータが加速するよう前記主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する前記主軸モータ加速指令を、前記電圧検出手段が検出した直流電圧値が前記所定の上限値よりも小さい所定の下限値より小さい場合は主軸モータが減速するよう前記主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する前記主軸モータ減速指令を、出力する請求項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項4】
送り軸および主軸に対する動作指令を出力する数値制御部を備え、
前記判定手段および前記励磁指令手段は、前記数値制御部内に設けられる請求項1〜のいずれか一項に記載の工作機械の制御装置。
【請求項5】
前記主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ用逆変換器制御部と、
送り軸および主軸に対する動作指令を出力する数値制御部と、
を備え、
前記励磁指令手段は、前記主軸モータ用逆変換器制御部内に設けられ、
前記判定手段は、前記数値制御部内に設けられ、送り軸モータの動作が前記所定の判定条件を満たすか否かについての判定結果を前記主軸モータ用逆変換器制御部内に設けられた前記励磁指令手段に通知する請求項のいずれか一項に記載の工作機械の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有する工作機械の制御装置に関し、特に、交流電源側から供給された交流を直流に変換して出力したのちさらにモータの駆動のための交流に変換して送り軸モータおよび主軸モータへ供給し駆動する工作機械の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
送り軸モータと主軸モータとを有する工作機械において、主軸モータは、ツール(各種工具)が取り付けられた主軸を駆動するための駆動源として用いられ、送り軸モータは、主軸や加工対象であるワークを移動させる送り軸を駆動するための駆動源として用いられる。このような工作機械においては、制御の容易性から、三相交流電源側から入力された交流電力を直流電力に一旦変換したのちさらに交流電力に変換した上で、この交流電力を駆動軸(主軸および送り軸)ごとに設けられたモータの駆動に用いている。
【0003】
工作機械に設けられた制御装置は、主回路として、三相交流電源側から供給された交流電力を変換(整流)して直流電力を出力する順変換器と、順変換器の直流側であるDCリンク(直流リンク)に接続され、DCリンクの直流電力とモータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する逆変換器と、を備える。制御装置により、各逆変換器からの交流出力を所望の電圧および所望の周波数に制御することで、各逆変換器の交流側に接続された主軸モータおよび送り軸モータそれぞれの速度、トルク、もしくは回転子の位置を制御する。
【0004】
逆変換器については、省エネルギー化の要求から、モータ減速時に生じる回生電力をDCリンクに設けられた蓄電装置に蓄積してモータの駆動電力として再利用したり、さらに交流電源側に戻したりするため、電源回生可能なものが多く用いられている。
【0005】
一方、順変換器については、工作機械中のモータ制御装置のコストや占有スペースを低減する目的で、複数の逆変換器に対して1個が設けられることが多い。また、上述の逆変換器の場合同様、順変換器についても、省エネルギー化の要求から、モータ減速時に生じる回生エネルギーを交流電源側に戻すことができる電源回生可能なものが用いられることがある。
【0006】
モータ制御装置の順変換器の交流電源側で停電が発生した場合、上述のモータ制御装置においては送り軸モータおよび主軸モータの正常な運転を継続することができなくなる。この場合、送り軸の衝突により、モータ、当該モータを駆動するモータ制御装置、当該モータ制御装置が駆動するモータに接続されたツール、当該ツールの加工対象であるワーク、当該モータ制御装置を有する製造ラインなどが、破損したり変形するなどといった何らかの障害が生じる可能性がある。
【0007】
交流電源側の停電発生による送り軸の衝突を防止するためには、送り軸を駆動する送り軸モータの動作をできるだけ早く停止させる必要がある。そのため、整流器の交流電源側に停電判定手段を設けて交流電源側の停電発生の有無を監視し、停電発生時には送り軸モータに減速指令を与えて停止させ、上記障害を回避するかもしくは最小限に抑えることで、送り軸モータによって移動させている主軸および、そこに接続されたツール、または、当該ツールの加工対象であるワークなどを保護する保護動作が行われている。制御装置のコンピュータ部の電源が無停電電源装置(UPS)等でバックアップされていれば、交流電源側に停電が発生したとしても、当該制御装置は非常時にとるべき動作を送り軸モータ用逆変換器に対して指令することは可能であり、順変換器に設けられているキャパシタ内に蓄積されていた電荷によって送り軸モータ用逆変換器をしばらくの間は動作させることができ、送り軸モータを緊急停止させることができる。
【0008】
交流電源側における停電発生時にモータを緊急停止させるものとして、モータの減速途中から逆向きトルクを積極的に発生させてモータの早期停止を実現する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平7−143780号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、モータ減速時に生じる回生電力を交流電源側に回生する機能を有するモータ駆動装置に、交流電源側の停電の検知に連動して送り軸モータに減速指令を与えて緊急停止させる例えば特許文献1などに記載された技術を適用すると、停電発生時は、回生電力を交流電源側へ戻すことができなくなり、その結果、順変換器と逆変換器との間のDCリンクにおける直流電圧が上昇してしまう。特にモータの回生電力が大きい場合にはそれが顕著である。このため、通常、逆変換器は、その直流側であるDCリンクにおける直流電圧が上昇しすぎると逆変換器自体を保護するため「過電圧アラーム」を発行し、制御を放棄することが行われる。この場合、減速途中から逆向きトルクを積極的に発生させてモータを停止させるといったような緊急停止をすることができなくなり、結果として、交流電源側で停電が発生してからモータが停止するまで時間がかかる問題が生じる。例えば上述の送り軸モータの場合でこのような問題が生じると、送り軸の衝突を回避することができない。
【0011】
また、送り軸モータの特性や、送り軸モータが駆動する送り軸が受ける摩擦の状況によっては、送り軸モータを減速させる場合であっても送り軸モータ用逆変換器から駆動電力を送り軸モータへ供給し続ける必要がある場合がある。すなわち、この場合は、送り軸モータの減速時であっても、送り軸モータに回生電力が発生しないので送り軸モータ用逆変換器はDCリンクにエネルギーを供給せず、逆に、送り軸モータ用逆変換器はDCリンクの直流電力を交流電力に変換して送り軸モータに供給する。このような状況で、交流電源側で停電が発生し、上述のような緊急停止のための減速指令を与えると、DCリンクの直流電圧が急速に低下する。通常、逆変換器は、その直流側であるDCリンクにおける直流電圧が低下しすぎると駆動用の電力を供給できなくなるため「低電圧アラーム」を発行し、制御を放棄することが行われる。この場合、減速途中から逆向きトルクを積極的に発生させてモータを停止させるといったような緊急停止をすることができなくなり、結果として、交流電源側で停電が発生してからモータが停止するまで時間がかかる問題が生じる。例えば上述の送り軸モータの場合でこのような問題が生じると送り軸の衝突を回避することができない。
【0012】
これらを回避するため、DCリンクにおける直流電圧を監視し、この直流電圧が上昇したら、DCリンクにおける直流電圧の上昇の原因であるDCリンクにおける直流電力の上昇分を、主軸モータを加速して消費させることで、直流電圧の上昇を抑制し、一方、DCリンクにおける直流電圧が下降したら、DCリンクにおける直流電圧の低下の原因であるDCリンクにおける直流電力の減少分を、主軸モータを減速することで生じる回生電力で補うことで、DCリンクにおける直流電力の低下を抑制することが考えられる。しかしながら、主軸モータが誘導モータである場合、一般に軽負荷時には、主軸モータ(誘導モータ)の発熱を抑制するために、磁束を発生させるための励磁電流を弱めているが、この励磁電流を弱めている状態にあってかつ送り軸が有する運動エネルギーが大きいときに、交流電源側で停電が発生すると、主軸モータを最大出力にて即座に加減速制御することができない。このため、主軸モータが誘導モータである場合には、交流電源側の停電発生時に、DCリンクにおける急速な直流電圧の上昇あるいは下降を抑制できない可能性がある。
【0013】
したがって本発明の目的は、上記問題に鑑み、送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有する工作機械において、交流電源側の停電発生時に送り軸モータを確実に早期停止することができるとともに、通常運転時には主軸モータの発熱を抑制することができる工作機械の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を実現するために、本発明においては、送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有する工作機械の制御装置は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する判定手段と、所定の判定条件を満たすと判定手段が判定したとき、上位制御手段により指令された励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータへ出力されるよう指令する励磁電流指令を出力する励磁指令手段と、を備える。
【0015】
ここで、上記所定の判定条件は、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つである。
【0016】
また、上記工作機械の制御装置は、交流電源側の交流電力と直流側であるDCリンクの直流電力とを相互電力変換する順変換器と、DCリンクに接続され、DCリンクの直流電力と送り軸モータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する送り軸モータ用逆変換器と、DCリンクに接続され、DCリンクの直流電力と主軸モータの駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する主軸モータ用逆変換器と、順変換器の交流電源側の停電発生の有無を検出する停電検出手段と、DCリンクにおける直流電圧値を検出する電圧検出手段と、停電検出手段が停電を検出したとき、送り軸モータが減速するよう送り軸モータ用逆変換器による相互電力変換を制御する送り軸モータ減速指令を出力する送り軸モータ用減速指令手段と、停電検出手段が停電を検出したとき、電圧検出手段が検出した直流電圧値に応じて、主軸モータが加速もしくは減速するよう主軸モータ用逆変換器による相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令もしくは主軸モータ減速指令を出力する主軸モータ用加減速指令手段と、停電検出手段が停電を検出したときに送り軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する送り軸モータ用逆変換器制御部および主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ用逆変換器制御部に駆動電力を供給する電源バックアップ手段と、を備え、ここで、判定手段は、停電検出手段による停電の検出の有無にかかわらず、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する。
【0017】
また、主軸モータ用加減速指令手段は、停電検出手段が停電を検出したとき、電圧検出手段が検出した直流電圧値が所定の上限値より大きい場合は主軸モータが加速するよう主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令を、電圧検出手段が検出した直流電圧値が所定の上限値よりも小さい所定の下限値より小さい場合は主軸モータが減速するよう主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ減速指令を、出力するようにしてもよい。
【0018】
また、本発明による工作機械の制御装置は、送り軸および主軸に対する動作指令を出力する数値制御部を備え、判定手段および励磁指令手段は、数値制御部内に設けられるようにしてもよい。
【0019】
また、本発明による工作機械の制御装置は、主軸モータ用逆変換器の相互電力変換を制御する主軸モータ用逆変換器制御部と、送り軸および主軸に対する動作指令を出力する数値制御部と、を備え、励磁指令手段は、主軸モータ用逆変換器制御部内に設けられ、判定手段は、数値制御部内に設けられ、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かについての判定結果を主軸モータ用逆変換器制御部内に設けられた励磁指令手段に通知するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有する工作機械において、交流電源側の停電発生時に送り軸モータを確実に早期停止することができ、したがって交流電源側の停電発生時における送り軸の衝突を回避することができ、さらに、主軸モータの発熱を抑制することができる。すなわち本発明によれば、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つで規定される判定条件を送り軸の動作が満たす場合には、上位制御手段(すなわち上述の数値制御部)により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータへ出力されるよう指令するので、上記所定の判定条件を満たす場合において交流電源側で停電が発生しても、送り軸モータを確実に早期停止することができるとともに、通常運転時には主軸モータの発熱を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の第1の実施例による工作機械の制御装置を示すブロック図である。
図2】本発明の第1の実施例による工作機械の制御装置における励磁電流指令の生成処理を示すフローチャートである。
図3】本発明の第2の実施例による工作機械の制御装置を示すブロック図である。
図4】本発明の第2の実施例による工作機械の制御装置における励磁電流指令の生成処理を示すフローチャートである。
図5】本発明の第1および第2の実施例による工作機械の制御装置における送り軸モータ減速指令、主軸モータ加速指令および主軸モータ減速指令の生成処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
図1は、本発明の第1の実施例による工作機械の制御装置を示すブロック図である。以降、異なる図面において同じ参照符号が付されたものは、特に言及する場合を除き、同じ機能を有する構成要素であることを意味するものとする。なお、図示された送り軸モータ2および主軸モータ3の個数は一例であって、モータの個数自体は本発明を特に限定するものではない。
【0023】
本発明の第1の実施例によれば、送り軸を駆動する送り軸モータ2と主軸を駆動する主軸モータ3とを有する工作機械の制御装置1は、順変換器11と、送り軸モータ用逆変換器12と、主軸モータ用逆変換器13と、停電検出手段14と、電圧検出手段15と、制御手段としての数値制御部(CNC)16と、電源バックアップ手段17と、通信手段としての通信バス18と、送り軸モータ用減速指令手段21と、主軸モータ用加減速指令手段22と、判定手段31と、励磁指令手段32と、を備える。本発明の第1の実施例では、判定手段31および励磁指令手段32は、数値制御部16内に設けられる。
【0024】
順変換器11と送り軸モータ用逆変換器12と主軸モータ用逆変換器13とは、DCリンクを介して接続される。また、通信手段である通信バス18は、順変換器11内に設けられる順変換器制御部11Cと、送り軸モータ用逆変換器12内に設けられる送り軸モータ用逆変換器制御部12Cと、主軸モータ用逆変換器13内に設けられる主軸モータ用逆変換器制御部13Cと、数値制御部16と、を相互に通信可能に接続する機能を有する。なお、本実施例では、通信バス18のような有線方式で通信手段を実現するが、その代替例として、電波や赤外線を用いた無線方式で通信手段を実現してもよい。
【0025】
順変換器11は、力行時には商用三相の交流電源4より供給された交流電力を整流して直流電力を出力し、回生時にはモータで回生された回生エネルギーをDCリンクを介して交流電源側に回生することができる整流器である。すなわち、順変換器11は、商用三相交流電源側の交流電圧と直流側であるDCリンクにおける直流電圧とを相互電力変換するものである。順変換器11の例としては、120度通電型整流回路、あるいはPWM制御方式の整流回路などがある。
【0026】
送り軸モータ用逆変換器12は、例えばPWMインバータなどのような、内部にスイッチング素子を有する変換回路(図示せず)とこれを制御する送り軸モータ用逆変換器制御部12Cとで構成される。送り軸モータ用逆変換器12内の送り軸モータ用逆変換器制御部12Cは、数値制御部16から通信バス18を介して受信したモータ駆動指令に基づき、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、DCリンク側から供給される直流電力を送り軸モータ2を駆動するための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。送り軸モータ2は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて動作することになる。また、送り軸モータ用逆変換器制御部12Cは、数値制御部16から通信バス18を介して受信したモータ駆動指令に基づき、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、送り軸モータ2の減速時に発生した回生電力である交流電力を直流電力へ変換してDCリンクへ戻す。このように、送り軸モータ用逆変換器12は、DCリンクにおける直流電力と送り軸モータ2の駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する。
【0027】
主軸モータ用逆変換器13は、例えばPWMインバータなどのような、内部にスイッチング素子を有する変換回路(図示せず)とこれを制御する主軸モータ用逆変換器制御部13Cとで構成される。主軸モータ用逆変換器13内の主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、数値制御部16から通信バス18を介して受信したモータ駆動指令に基づき、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、DCリンク側から供給される直流電力を主軸モータ3を駆動するための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。主軸モータ3は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて動作することになる。また、主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、数値制御部16から通信バス18を介して受信したモータ駆動指令に基づき、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、主軸モータ3の減速時に発生した回生電力である交流電力を直流電力へ変換してDCリンクへ戻す。このように、主軸モータ用逆変換器13は、DCリンクにおける直流電力と主軸モータ3の駆動電力もしくは回生電力である交流電力とを相互電力変換する。
【0028】
停電検出手段14は、例えば順変換器制御部11C内に設けられ、順変換器11の交流電源側の停電発生の有無を検出する。停電検出手段14による停電発生の有無の検出は、順変換器11の交流電源側の交流電圧値、交流電流値もしくは交流周波数の変動を用いて公知の方法で実現すればよい。順変換器制御部11Cは、停電検出手段14による停電発生の有無についての検出結果を、通信バス18を介して送り軸モータ用逆変換器制御部12C、主軸モータ用逆変換器制御部13Cおよび数値制御部16に通知する。
【0029】
電圧検出手段15は、数値制御部16内に設けられ、DCリンクにおける直流電圧値を検出する。その代替例として、電圧検出手段15を、送り軸モータ用逆変換器12もしくは主軸モータ用逆変換器13内に設けてもよく、この場合は、検出したDCリンクにおける直流電圧値を通信バス18を介して数値制御部16に通知するようにすればよい。
【0030】
数値制御部16は、送り軸モータ2および主軸モータ3を当該工作機械に適した所望の回転速度や回転トルクで回転させあるいは回転子の位置を制御するべく、送り軸モータ用逆変換器12および主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御するためのモータ駆動指令を作成し、これを出力するものである。すなわち、数値制御部16は、送り軸モータ2および主軸モータ3の回転速度や回転子の位置についてのフィードバック制御(場合によってはフィードフォワード制御も含む)と、送り軸モータ2および主軸モータ3が有する各種モータ定数、モータイナーシャおよびモータ摩擦、ならびに送り軸モータ2が駆動する送り軸および主軸モータ3が駆動する主軸のイナーシャや摩擦などの各パラメータと、を用いて、工作機械の動作プログラムに従い、各モータごとのモータ駆動指令を作成する。作成されたモータ駆動指令は、通信バス18を介して、送り軸モータ用逆変換器制御部12Cおよび主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ通知される。送り軸モータ用逆変換器制御部12Cおよび主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、受信したモータ駆動指令に従い、送り軸モータ用逆変換器12および主軸モータ用逆変換器13の変換回路内部のスイッチング素子をそれぞれスイッチング動作させ、送り軸モータ用逆変換器12および主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する。このように、数値制御部16は、送り軸モータ用逆変換器制御部12Cおよび主軸モータ用逆変換器制御部13Cに対する上位制御手段としての役割を有する。
【0031】
また、本発明の第1の実施例では、数値制御部16は、送り軸モータ用減速指令手段21、主軸モータ用加減速指令手段22、判定手段31および励磁指令手段32を有する。
【0032】
数値制御部16内の送り軸モータ用減速指令手段21は、交流電源側で停電が発生したことを示す通知を通信バス18を介して停電検出手段14から受信したとき、送り軸モータ2が減速するよう送り軸モータ用逆変換器12による相互電力変換を制御するための送り軸モータ減速指令を作成する。作成された送り軸モータ減速指令は、通信バス18を介して送り軸モータ用逆変換器制御部12Cへ出力される。送り軸モータ用逆変換器制御部12Cは、送り軸モータ減速指令を受信したら、送り軸モータ2が減速トルクを発生させるように送り軸モータ用逆変換器12の変換回路内部のスイッチング素子を制御する。これにより、送り軸モータ2は減速したのち停止することになる。
【0033】
数値制御部16内の主軸モータ用加減速指令手段22は、交流電源側で停電が発生したことを示す通知を通信バス18を介して停電検出手段14から受信したとき、電圧検出手段15が検出した直流電圧値に応じて、主軸モータ3が加速もしくは減速するよう主軸モータ用逆変換器13による相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令もしくは主軸モータ減速指令を作成する。
【0034】
より具体的には、主軸モータ用加減速指令手段22は、電圧検出手段15が検出した直流電圧値が所定の上限値より大きい場合は、主軸モータ3が加速するよう主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令を作成する。また、主軸モータ用加減速指令手段22は、電圧検出手段15が検出した直流電圧値が所定の下限値より小さい場合は、主軸モータ3が減速するよう主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する主軸モータ減速指令を作成する。ここで、上記所定の下限値は、上記所定の上限値よりも小さい値である。作成された主軸モータ加速指令もしくは主軸モータ減速指令は、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力される。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、主軸モータ減速指令を受信したら、主軸モータ用逆変換器13の変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、主軸モータ3が減速するよう主軸モータ用逆変換器13による相互電力変換を制御する。これにより、主軸モータ3の減速により発生した回生電力である交流電力は、主軸モータ用逆変換器13により直流電力へ変換されてDCリンクへ戻され、その結果、DCリンクにおける直流電圧値が上昇する。また、主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、主軸モータ加速指令を受信したら、主軸モータ用逆変換器13の変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、主軸モータ3が加速するよう主軸モータ用逆変換器13による相互電力変換を制御する。これにより、DCリンクにおける直流電力は、主軸モータ用逆変換器13により交流電力へ変換されて主軸モータ3へ供給され、その結果、DCリンクにおける直流電圧値が下降する。
【0035】
なお、さらなる変形例として、主軸モータ用加減速指令手段22については、通信バス18を介して通知された直流電圧が上記所定の下限値以上であって上記所定の上限値以下である場合には、現在の速度を維持するよう主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する指令を作成し、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力するようにしてもよい。この場合、直流電圧が上昇、下降しない間は、主軸速度が保たれるように制御が行われる。
【0036】
なお、本発明の第1の実施例および上記変形例では、送り軸モータ用減速指令手段21および主軸モータ用加減速指令手段22は数値制御部16内に設けられるとしたが、この代替例として、送り軸モータ用減速指令手段21は送り軸モータ用逆変換器制御部12C内に、主軸モータ用加減速指令手段22は主軸モータ用逆変換器制御部13C内に、それぞれ設けてもよい。この場合、送り軸モータ用逆変換器制御部12C内の送り軸モータ用減速指令手段21は、交流電源側で停電が発生したことを示す通知を通信バス18を介して停電検出手段14から受信したとき、送り軸モータ2が減速するよう送り軸モータ用逆変換器12による相互電力変換を制御するための送り軸モータ減速指令を作成し、主軸モータ用逆変換器制御部13C内の主軸モータ用加減速指令手段22は、交流電源側で停電が発生したことを示す通知を通信バス18を介して停電検出手段14から受信したとき、電圧検出手段15が検出した直流電圧値に応じて、主軸モータ3が加速もしくは減速するよう主軸モータ用逆変換器13による相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令もしくは主軸モータ減速指令を作成する。
【0037】
数値制御部16内の判定手段31は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する。ここで、上記所定の判定条件は、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つである。判定条件の詳細については次の励磁指令手段32とともに後述する。
【0038】
数値制御部16内の励磁指令手段32は、上記所定の判定条件のうちの少なくとも1つを満たすと判定手段31が判定したとき、上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータ3へ出力されるよう指令する励磁電流指令を通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力する。
【0039】
ここで、判定手段31による判定処理に用いられる判定条件と励磁指令手段32の動作について説明する。送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つが成立すれば、励磁指令手段32は励磁電流指令を次のように作成する。
【0040】
判定手段31による判定処理に用いられる判定条件として「送り軸が早送り動作モードにあって移動中であるか否か」が用いられる場合について説明すると次の通りである。工作機械が切削加工機である場合、切削加工時においては、例えば、主軸モータ3により回転駆動される主軸に取り付けられた刃物が、送り軸に取り付けられたワークに対して適切な加工点に位置するよう、送り軸モータ2の回転動作により適宜調整されることで、所望の切削加工が行われる。一方、非切削加工時においては、刃物をワークの加工点の位置に適切に位置させる必要はなく、例えば次の切削加工プロセスに備えたりあるいは加工後のワークを取り出すために、送り軸モータ2により送り軸を早送りで移動させる動作を行う。なお、本願明細書では、このような非切削加工時において送り軸が早送りで移動するモードを「早送り動作モード」と称する。送り動作モードにあって移動中である送り軸が有する運動エネルギーは、切削加工時における運動エネルギーに比べて大きいので、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生すると、上述の送り軸モータ用減速手段21が出力する送り軸モータ減速指令により送り軸2モータが急速に減速される。この結果、送り軸モータ2では大きな回生エネルギーが発生し、この回生エネルギーは送り軸モータ用逆変換器12により直流電力に変換されてDCリンクに戻ることになるが、この状態を放置するとDCリンクにおける直流電圧値は上昇してしまう。また、早送り動作モード(非切削時)においては、主軸に取り付けられた刃物は送り軸に取り付けらえたワークから離れているので、主軸モータ3は切削加工時に比べて軽負荷となる。従来技術によれば、そのような軽負荷の動作においては誘導モータである主軸モータ3の発熱を抑制するために励磁電流を弱めており、この間に交流電源側で停電が発生すると、停電検出後に主軸モータ3を急加速させるために励磁を高めようとしても、励磁が高まるまでには時間が掛かり、その結果、送り軸が発生した回生エネルギーを即時消費できず、DCリンクにおける直流電圧の上昇を抑制できなかった。
【0041】
これに対し、本発明の第1の実施例では、励磁指令手段32は、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であると判定手段31が判定したときは、停電の発生の有無にかかわらず、上位制御手段(すなわち上述の数値制御部16)により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータ3へ出力されるよう指令する励磁電流指令を、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力する。上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流で主軸モータ3を動作させることで、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生したときの生じる回生エネルギーを主軸モータ3が急加速することで早く消費させるようにする。これにより、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生しても、DCリンクにおける直流電圧値の上昇を抑制することができる。また、工作機械が切削動作をしている間は一般には送り軸の速度は遅く、運動エネルギーもそれほど大きくはない。本発明では、切削動作中は、主軸は負荷に応じて励磁を強めたり弱めたりする最適化を行い、発熱低減を行う。主軸モータの励磁電流を大きくすると、主軸モータの発熱量は増えるが、工作機械における加工サイクルで早送り動作等の発生頻度はそれほど多くなく、増加する発熱量も少ないと言える。したがって、交流電源側の停電発生時に送り軸モータを確実に早期停止することができるとともに、通常運転時(切削動作時)には主軸モータの発熱を抑制することができる。
【0042】
早送り動作モード(非切削時)においては、交流電源側で停電がいつ発生しても対応できるようにするための、上述のように判定手段31は、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であるか否かについての判定処理を常時実行する。数値制御部16は工作機械において切削加工中であるか非切削加工中であるかを常に把握しており、したがって、数値制御部16内に設けられる判定手段31は、この制御モードに関する情報に基づいて、「送り軸が早送り動作モードにあって移動中であるか否か」について判定する。
【0043】
また、判定手段31による判定処理に用いられる判定条件として「送り軸の速度が所定の値以上であるか否か」が用いられる場合について説明すると次の通りである。送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合は、送り軸の速度は、切削加工時における速度に比べて速い。したがって、「送り軸の速度が所定の値以上であるか否か」を判定条件として用いても、上述の「送り軸が早送り動作モードにあって移動中であるか否か」を判定条件として用いる場合と同様の効果を得ることができる。数値制御部16は速度検出器を介して送り軸の速度を常に制御しており、したがって、数値制御部16内に設けられる判定手段31は、この速度情報に基づき、「送り軸の速度が所定の値以上であるか否か」について判定する。
【0044】
また、判定手段31による判定処理に用いられる判定条件として「全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であるか否か」が用られる場合について説明すると次の通りである。送り軸全体の運動エネルギーが大きい場合は、停電が発生した時にそれを急速に止めようとした場合の回生エネルギーも大きなものになる。各送り軸の負荷イナーシャがあらかじめ分かれば、速度と負荷イナーシャに関する情報を用いて、各送り軸の運動エネルギーを計算し、これらの総和を計算することができる。すなわち、運動エネルギーWは、負荷イナーシャをI、角速度をωとすると、「W=(1/2)×I×ω2」で表せる。したがって、「全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であるか否か」を判定条件として用い、停電に備えることは、上述の「送り軸が早送り動作モードにあって移動中であるか否か」を判定条件として用いる場合と同様の効果を得ることができる。数値制御部16は速度検出器を介して送り軸の速度を常に制御しており、したがって、この速度情報と送り軸の負荷イナーシャとを用いて送り軸の運動エネルギーの総和を数値制御部16にて計算しておき、数値制御部16内に設けられる判定手段31は、この運動エネルギーに関する情報に基づいて、「全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であるか否か」について判定する。
【0045】
次に、電源バックアップ手段17について説明する。
【0046】
送り軸モータ用逆変換器制御部12C、主軸モータ用逆変換器制御部13Cおよび数値制御部16は、正常時は順変換器11の三相商用交流電源4から動作のための電力の供給を制御電源ラインを通じて受けることになる。しかしながら、順変換器11の交流電源側で停電が発生するとその電力供給を受けることができなくなるので、送り軸モータ用逆変換器制御部12C、主軸モータ用逆変換器制御部13Cおよび数値制御部16の上述の動作を実現するために、停電検出手段14が停電を検出したときにおいても数値制御部16を動作させるための電力を送り軸モータ用逆変換器制御部12C、主軸モータ用逆変換器制御部13Cおよび数値制御部16へ供給するための電源バックアップ手段17が設けられる。電源バックアップ手段17は、例えば、交流電源側の交流電力を整流することにより得られた直流電力を蓄えるコンデンサもしくは蓄電装置などで構成され、常時適切な電圧に充電されており、交流電源側の停電発生時には上記制御電源ラインを介して送り軸モータ用逆変換器制御部12C、主軸モータ用逆変換器制御部13Cおよび数値制御部16に電力を供給する。
【0047】
図2は、本発明の第1の実施例による工作機械の制御装置における励磁電流指令の生成処理を示すフローチャートである。
【0048】
まず、ステップS101において、数値制御部16内の判定手段31は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する。ここで、所定の判定条件とは、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つである。ステップS101において所定の判定条件を満たすと判定されたとき、ステップS102へ進む。なお、判定手段31による判定処理に用いられる判定条件として「全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であるか否か」が用いられる場合は、ステップS101の実行前に、数値制御部16内において、速度と負荷イナーシャに関する情報を用いて送り軸の運動エネルギーの和を計算しておく。
【0049】
ステップS102では、数値制御部16内の励磁指令手段32は、上位制御手段(すなわち上述の数値制御部16)により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータ3へ出力されるよう指令する励磁電流指令を作成する。
【0050】
次いでステップS103において、数値制御部16内の励磁指令手段32により作成された励磁電流指令は、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ通知される。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、励磁指令手段32により作成された励磁電流指令に基づき、上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流で主軸モータ3を動作させるよう、主幾モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する。これにより、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生したときの生じる回生エネルギーを主軸モータ3で早く消費させ、DCリンクにおける直流電圧値の上昇を抑制することができる。
【0051】
図3は、本発明の第2の実施例による工作機械の制御装置を示すブロック図である。本発明の第2の実施例は、上述の第1の実施例では数値制御部16内に設けられていた励磁指令手段32を、これに代えて、主軸モータ用逆変換器制御部13C内に設けたものである。
【0052】
すなわち、第2の実施例によれば、数値制御部16内に設けられた判定手段31は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定し、その判定結果を、主軸モータ用逆変換器制御部13C内に設けられた励磁指令手段32に通信バス18を介して通知する。逆変換器制御部13C内に設けられた励磁指令手段32は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすとの判定結果を通信バス18を介して判定手段31から受信したとき、上位制御手段(すなわち上述の数値制御部16)により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータ3へ出力されるよう指令する励磁電流指令を作成する。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、励磁指令手段32により作成された励磁電流指令に基づき、上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流で主軸モータ3を動作させるよう、主幾モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する。これにより、上述の第1の実施例の場合と同様、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生したときに生じる回生エネルギーを主軸モータ3で早く消費させ、DCリンクにおける直流電圧値の上昇を抑制することができる。なお、これ以外の回路構成要素や判定手段31による判定処理に用いられる判定条件については図1および図2を参照して説明した第1の実施例の場合と同様であるので、詳細な説明は省略する。
【0053】
図4は、本発明の第2の実施例による工作機械の制御装置における励磁電流指令の生成処理を示すフローチャートである。
【0054】
まず、ステップS201において、数値制御部16内の判定手段31は、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすか否かを判定する。ここで、所定の判定条件とは、送り軸が早送り動作モードにあって移動中であること、送り軸の速度が所定の値以上であること、または、全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であること、のうちの少なくとも1つである。ステップS201において所定の判定条件を満たすと判定されたとき、ステップS202へ進む。なお、判定手段31による判定処理に用いられる判定条件として「全ての送り軸についての運動エネルギーの和が所定の値以上であるか否か」が用いられる場合は、ステップS201の実行前に、数値制御部16内において、速度と負荷イナーシャに関する情報を用いて送り軸の運動エネルギーの和を計算しておく。
【0055】
ステップS202では、送り軸モータの動作が所定の判定条件を満たすとの判定結果が、数値制御部16内の判定手段31からを通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13内の励磁指令手段32へ通知される。
【0056】
ステップS203では、逆変換器制御部13C内に設けられた励磁指令手段32は、上位制御手段(すなわち上述の数値制御部16)により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流が主軸モータ3へ出力されるよう指令する励磁電流指令を作成する。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、励磁指令手段32により作成された励磁電流指令に基づき、上位制御手段により指令されていた励磁電流よりも大きい励磁電流で主軸モータ3を動作させるよう、主幾モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する。これにより、上述の第1の実施例の場合と同様、送り軸が早送り動作モードにあって移動中である場合に交流電源側で停電が発生したときに生じる回生エネルギーを主軸モータ3で早く消費させ、DCリンクにおける直流電圧値の上昇を抑制することができる。
【0057】
図5は、本発明の第1および第2の実施例による工作機械の制御装置における送り軸モータ減速指令、主軸モータ加速指令および主軸モータ減速指令の生成処理を示すフローチャートである。
【0058】
ステップS301において、順変換器11内の停電検出手段14は、順変換器11の交流電源側の停電発生の有無を検出する。ステップS301において停電検出手段14が停電発生を検出するとステップS302へ進む。
【0059】
ステップS302において、停電検出手段14は、順変換器11の交流電源側で停電が発生したことを通信バス18を介して数値制御部16に通知する。
【0060】
ステップS303では、数値制御部16内の主軸モータ用加減速指令手段22は、通信バス18を介して通知されたDCリンクにおける直流電圧値が所定の上限値より大きいか否かを判定する。通信バス18を介して通知されたDCリンクにおける直流電圧値が所定の上限値以下である場合はステップS305へ進み、上限値より大きい場合はステップS304へ進む。
【0061】
ステップS304では、数値制御部16内の主軸モータ用加減速指令手段22は、主軸モータ3を加速させるよう主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する主軸モータ加速指令を生成する。主軸モータ用加減速指令手段22により生成された主軸モータ加速指令は、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力される。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、主軸モータ加速指令を受信すると、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、主軸モータ3を加速させるための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。主軸モータ3は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて加速されることになる。これにより、主軸モータ3をより高速に回転させDCリンクにおける直流電力を主軸モータ3で消費させるようにする。
【0062】
一方、ステップS305では、数値制御部16内の主軸モータ用加減速指令手段22は、通信バス18を介して通知されたDCリンクにおける直流電圧値が所定の下限値より小さいか否かを判定する。通信バス18を介して通知されたDCリンクにおける直流電圧値が所定の下限値より大きい場合はステップS307へ進み、下限値以下の場合はステップS306へ進む。
【0063】
ステップS306では、数値制御部16内の主軸モータ用加減速指令手段22は、主軸モータ3を減速させるよう主軸モータ用逆変換器13の相互電力変換を制御する主軸モータ減速指令を作成する。主軸モータ用加減速指令手段22により生成された主軸モータ減速指令は、通信バス18を介して主軸モータ用逆変換器制御部13Cへ出力される。主軸モータ用逆変換器制御部13Cは、主軸モータ減速指令を受信すると、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、主軸モータ3を減速させるための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。主軸モータ3は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて減速されることになる。この場合は、停電発生時にDCリンクの直流電圧値が所定の下限値より小さくなるので、主軸モータ3を減速させ、回生エネルギーによって、DCリンクにおける直流電圧を維持させるようにする。
【0064】
ステップS307では、数値制御部16内の送り軸モータ用減速指令手段21は、送り軸モータ2を減速させるよう送り軸モータ用逆変換器12の相互電力変換を制御する送り軸モータ減速指令を作成する。送り軸モータ用減速指令手段21により生成された送り軸モータ減速指令は、通信バス18を介して送り軸モータ用逆変換器制御部12Cへ出力される。送り軸モータ用逆変換器制御部12Cは、送り軸モータ減速指令を受信すると、変換回路内部のスイッチング素子をスイッチング動作させ、送り軸モータ2を減速させるための所望の電圧および所望の周波数の三相交流電力に変換する。送り軸モータ2は、供給された電圧可変および周波数可変の三相交流電力に基づいて減速されることになる。
【0065】
ステップS307の処理が終わると、ステップS301の処理に戻る。すなわち、ステップS301〜S307の処理が繰り返し実行されることで、数値制御部16は、送り軸モータ減速指令を出力するとともに、通信バス18を介して通知されたDCリンクの直流電圧と上記所定の上限値および上記所定の下限値との比較結果に応じて主軸モータ減速指令もしくは主軸モータ加速指令のいずれかを出力する。
【0066】
なお、送り軸モータ用減速指令手段21によるステップS307の処理と、主軸モータ用加減速指令手段22によるステップS303〜S306の一連の処理とは、入れ替えて実行してもよい。
【0067】
図2および図4を参照して説明した励磁電流指令の生成処理は停電発生の有無にかかわらず実行されており、したがって、送り軸の動作が所定の判定条件を満たしたと判定手段31が判定して励磁指令手段32が励磁電流指令を作成したときに、交流電源側で停電が発生すると、図5を参照して説明した送り軸モータ減速指令、主軸モータ加速指令および主軸モータ減速指令の生成処理が実行される。これにより、送り軸が所定の判定条件を満たす場合に交流電源側で停電が発生したときの生じる回生エネルギーを主軸モータ3で早く消費させ、DCリンクにおける直流電圧値の上昇を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、送り軸を駆動する送り軸モータと主軸を駆動する主軸モータとを有し、交流電源側から供給された交流を直流に変換して出力したのちさらにモータ駆動のための交流に変換して送り軸モータおよび主軸モータへ供給し駆動する工作機械の制御装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0069】
1 制御装置
2 送り軸モータ
3 主軸モータ
4 交流電源
11 順変換器
12 送り軸モータ用逆変換器
13 主軸モータ用逆変換器
14 停電検出手段
15 電圧検出手段
16 数値制御部(CNC)
17 電源バックアップ手段
18 通信バス
21 送り軸モータ用減速指令手段
22 主軸モータ用加減速指令手段
31 判定手段
32 励磁指令手段
図1
図2
図3
図4
図5