特許第5746309号(P5746309)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5746309固体酸化物燃料電池の電極用ペースト、これを用いる固体酸化物燃料電池およびその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746309
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】固体酸化物燃料電池の電極用ペースト、これを用いる固体酸化物燃料電池およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/88 20060101AFI20150618BHJP
   H01M 8/12 20060101ALI20150618BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20150618BHJP
   H01M 8/02 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   H01M4/88 T
   H01M8/12
   H01M4/86 T
   H01M8/02 Z
   H01M8/02 K
【請求項の数】11
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2013-247588(P2013-247588)
(22)【出願日】2013年11月29日
(65)【公開番号】特開2014-120471(P2014-120471A)
(43)【公開日】2014年6月30日
【審査請求日】2013年11月29日
(31)【優先権主張番号】10-2012-0147556
(32)【優先日】2012年12月17日
(33)【優先権主張国】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】594023722
【氏名又は名称】サムソン エレクトロ−メカニックス カンパニーリミテッド.
(74)【代理人】
【識別番号】100088616
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 一平
(74)【代理人】
【識別番号】100089347
【弁理士】
【氏名又は名称】木川 幸治
(74)【代理人】
【識別番号】100154379
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 博幸
(74)【代理人】
【識別番号】100154829
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 成
(72)【発明者】
【氏名】ク,ボン ソク
(72)【発明者】
【氏名】チョン,ジョン ホ
(72)【発明者】
【氏名】キム,スン ハン
(72)【発明者】
【氏名】ユン,ジョン シク
【審査官】 守安 太郎
(56)【参考文献】
【文献】 仏国特許出願公開第02974452(FR,A1)
【文献】 特表2012−506127(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/091642(WO,A1)
【文献】 仏国特許出願公開第02948821(FR,A1)
【文献】 特表2005−535084(JP,A)
【文献】 特表2009−544502(JP,A)
【文献】 特開2008−257943(JP,A)
【文献】 特表2014−516461(JP,A)
【文献】 特表2013−501330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86
H01M 4/88
H01M 8/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電極、電解質層および空気電極が順次積層された燃料電極支持型の固体酸化物燃料電池の電極用ペーストであって、
前記ペーストが、原料粉末、分散剤、結合剤、溶媒および10重量%超の液相気孔形成剤からなる、固体酸化物燃料電池の電極用ペーストにおいて、
前記液相気孔形成剤が、グリコール系有機溶剤である固体酸化物燃料電池の電極用ペースト。
【請求項2】
前記液相気孔形成剤は、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤であることを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池の電極用ペースト。
【請求項3】
前記ペーストは、10〜90重量%の原料粉末、0.2〜5重量%の分散剤、1〜20重量%の結合剤、5〜70重量%の溶媒および最大35重量%の液相気孔形成剤からなることを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池の電極用ペースト。
【請求項4】
前記グリコール系有機溶剤は、エチレングリコールまたはプロピレングリコールであることを特徴とする、請求項2に記載の固体酸化物燃料電池の電極用ペースト。
【請求項5】
前記原料粉末は、燃料極の場合、NiO−YSZ、NiO−ScSZまたはNiO−GDCであり、空気極の場合、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(LSM)、ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト酸化物(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−マンガン酸化物(LSCM)であり、前記分散剤は、リン酸系分散剤またはα−テルピネオール(α−terpineol)であり、前記結合剤は、エチルセルロース(Ethyl Cellulose)またはポリビニルブチラール(PVB)であり、前記溶媒は、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)、エチルアルコール(Ethyl alcohol)、トルエン(Toluene)またはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項1に記載の固体酸化物燃料電池の電極用ペースト。
【請求項6】
原料粉末、分散剤、結合剤、溶媒および10重量%超の液相気孔形成剤からなるペーストを塗布して燃料電極支持体を形成する段階と、
前記燃料電極支持体上に電解質層を形成する段階と、
前記燃料電極支持体および電解質層からなる構造物を焼成する段階と、
前記電解質層上に空気電極を形成した後、これを焼成する段階と、を含む、固体酸化物燃料電池の製造方法において、
前記液相気孔形成剤が、グリコール系有機溶剤である固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項7】
前記液相気孔形成剤は、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤であることを特徴とする、請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項8】
前記ペーストは、10〜90重量%の原料粉末、0.2〜5重量%の分散剤、1〜20重量%の結合剤、5〜70重量%の溶媒および最大35重量%の液相気孔形成剤からなることを特徴とする、請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項9】
前記グリコール系有機溶剤は、エチレングリコールまたはプロピレングリコールであることを特徴とする、請求項7に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項10】
前記原料粉末は、燃料極の場合、NiO−YSZ、NiO−ScSZまたはNiO−GDCであり、空気極の場合、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(LSM)、ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト酸化物(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−マンガン酸化物(LSCM)であり、前記分散剤は、リン酸系分散剤またはα−テルピネオールであり、前記結合剤は、エチルセルロースまたはポリビニルブチラルであり、前記溶媒は、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、トルエンまたはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする、請求項6に記載の固体酸化物燃料電池の製造方法。
【請求項11】
請求項6に記載の製造方法により形成される固体酸化物燃料電池であって、
0.4〜1mmの厚さを有する多孔性燃料電極支持体、5〜20μmの厚さを有する電解質層および10〜80μmの厚さを有する多孔性空気電極が順次積層されてなり、前記多孔性空気電極の気孔率が10%〜30%である、固体酸化物燃料電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物燃料電池の電極用ペースト、これを用いる固体酸化物燃料電池およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、主なエネルギー源として広く用いられている化石燃料は、埋蔵量が限定されており、時間が経つにつれてその埋蔵量が枯渇してきて、エネルギー問題が国家的および社会的に大きな課題となっている。したがって、石油、液化天然ガス(LNG)、液化石油ガス(LPG)の燃料だけでなく、水素などの代替エネルギー源から電気などのエネルギーを発生させる燃料電池への関心が高まっている。
【0003】
燃料電池は、燃料の化学エネルギーを電気化学反応により電気エネルギーに直接変換させる装置であって、その中でも変換効率に優れ、様々な燃料の使用が可能な利点を有する固体酸化物燃料電池(Solid Oxide Fuel Cell、SOFC)が最近注目の的になっており、ガス会社および電力会社を中心に家庭用または発電用に商用化するための研究が活発に進められている。
【0004】
固体酸化物燃料電池は、酸素イオン伝導性の高密度の電解質層と、その両面に位置する多孔性の空気極(cathode)(若しくは「空気電極」とする)および燃料極(anode)(若しくは「燃料電極」とする)の層と、からなっている。作動原理として、多孔性の空気極では酸素が透過して電解質の面に至り、酸素の還元反応によって生成された酸素イオンが高密度の電解質を介して燃料極に移動して、また多孔性の燃料極に供給された水素と反応することで水を生成し、この際、燃料極では電子が生成され、空気極では電子が消費されて、二つの電極を互いに連結することで電気が流れる。
【0005】
このような固体酸化物燃料電池の商用化のためには、コストダウンおよびセルの耐久性向上などを図るべきであり、そのためには単位セルの性能を高めてスタックに用いられるセルの数を減少することが重要である。
【0006】
単位セルの性能を高めるためには、材料の電気伝導度を向上させ、且つ高い気孔率を有する微細構造の電極により原料および空気のスムーズな供給を維持して電極の過電位(overpotential)を低減することが最も重要である。
【0007】
従来、固体酸化物燃料電池電極の気孔率を高めるための気孔形成剤として、特許文献1のようにカーボンブラック(Carbon Black)または黒鉛(Graphite)などが主に用いられているが、カーボンブラックおよび黒鉛のような有機物気孔形成剤の場合、SOFC電極用気孔形成剤として適用するにはいくつかの欠点がある。
【0008】
第一に、カーボンブラックおよび黒鉛などは、粒径が空気極または燃料極の粒子より30倍以上大きく、粒度分布が0.1〜100μm以上と広すぎる分布を有している(図1および2参照)。第二に、気孔率を高めるためには気孔形成剤の添加量を増加させる必要があるが、カーボンブラックの場合、気孔形成剤間の凝集が発生しやすいため、均一な気孔構造を有することが困難であり(図3参照)、さらに、気孔形成剤を10wt%以上添加したときにスラリー粘度が増加してコーティング膜の厚さが増加し、そのため、後続工程において乾燥および焼結の際にコーティング膜が剥離する現象が発生している(図4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】韓国公開特許第2005−0004996号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、固体酸化物燃料電池の電極内の気孔率を向上させるために液相気孔形成剤を適用することで上述の問題点を解決することを見出し、本発明の完成に至った。
【0011】
本発明の一つの目的は、固体酸化物燃料電池の電極内に均一な気孔を形成することができ、高い気孔率を得ることができる固体酸化物燃料電池の電極用ペーストを提供することにある。
【0012】
本発明の他の目的は、前記固体酸化物燃料電池の電極用ペーストを用いて固体酸化物燃料電池の製造方法を提供することにある。
【0013】
本発明のさらに他の目的は、前記方法により製造されて高い気孔率を有する固体酸化物燃料電池を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
前記一つの目的を果たすための本発明に係る固体酸化物燃料電池の電極用ペースト(以下、「第1発明」とする)は、燃料電極、電解質層および空気電極が順次積層された燃料電極支持型の固体酸化物燃料電池の電極用ペーストであって、前記ペーストが、原料粉末、分散剤、結合剤、溶媒および液相気孔形成剤からなる。
【0015】
第1発明において、前記液相気孔形成剤は、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤またはパラフィン系有機溶剤であることを特徴とする。
【0016】
第1発明において、前記ペーストは、10〜90重量%の原料粉末、0.2〜5重量%の分散剤、1〜20重量%の結合剤、5〜70重量%の溶媒および1〜35重量%の液相気孔形成剤からなることを特徴とする。
【0017】
第1発明において、前記グリコール系有機溶剤は、エチレングリコールまたはプロピレングリコールであり、前記パラフィン系有機溶剤は、ミネラルスピリットであることを特徴とする。
【0018】
第1発明において、前記原料粉末は、燃料極の場合、NiO−YSZ、NiO−ScSZまたはNiO−GDCであり、空気極の場合、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(LSM)、ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト酸化物(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−マンガン酸化物(LSCM)であり、前記分散剤は、リン酸系分散剤またはα−テルピネオール(α−terpineol)であり、前記結合剤は、エチルセルロース(Ethyl Cellulose)またはポリビニルブチラール(PVB)であり、前記溶媒は、イソプロピルアルコール(Isopropyl alcohol)、エチルアルコール(Ethyl alcohol)、トルエン(Toluene)またはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする。
【0019】
本発明の他の目的を果たすための固体酸化物燃料電池のテープキャスティングまたはディップコーティング(dipcoating)のための電極用スラリー製造方法(以下、「第2発明」とする)は、原料粉末、分散剤、結合剤、溶媒および液相気孔形成剤からなるペーストを塗布して燃料電極支持体を形成する段階と、前記燃料電極支持体上に電解質層を形成する段階と、前記燃料電極支持体および電解質層からなる構造物を焼成する段階と、前記電解質層上に空気電極を形成した後、これを焼成する段階と、を含む。
【0020】
第2発明において、前記液相気孔形成剤は、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤またはパラフィン系有機溶剤であることを特徴とする。
【0021】
第2発明において、前記ペーストは、10〜90重量%の原料粉末、0.2〜5重量%の分散剤、1〜20重量%の結合剤、5〜70重量%の溶媒および1〜35重量%の液相気孔形成剤からなることを特徴とする。
【0022】
第2発明において、前記グリコール系有機溶剤は、エチレングリコールまたはプロピレングリコールであり、前記パラフィン系有機溶剤は、ミネラルスピリットであることを特徴とする。
【0023】
第2発明において、前記原料粉末は、燃料極の場合、NiO−YSZ、NiO−ScSZまたはNiO−GDCであり、空気極の場合、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(LSM)、ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト酸化物(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−マンガン酸化物(LSCM)であり、前記分散剤は、リン酸系分散剤またはα−テルピネオールであり、前記結合剤は、エチルセルロースまたはポリビニルブチラルであり、前記溶媒は、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、トルエンまたはこれらの2種以上の混合物であることを特徴とする。
【0024】
本発明のさらに他の目的を果たすための固体酸化物燃料電池(以下、「第3発明」とする)は、第2発明に係る製造方法により形成される固体酸化物燃料電池であって、0.4〜1mmの厚さを有する多孔性燃料電極支持体、5〜20μmの厚さを有する電解質層および10〜80μmの厚さを有する多孔性空気電極が順次積層されてなり、前記電極の気孔率が10%〜30%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明に係る固体酸化物燃料電池の電極用ペーストが液相気孔形成剤を含有することにより、電極内に均一な気孔を形成することができ、また、従来、炭素系化合物を適用した場合にはペーストに添加できる量が制限(通常、10wt%未満)されて高い気孔率を得ることが困難であったが、液相気孔形成剤は添加量が制限されず、高い気孔率の電極を作製することができる。
【0026】
本発明の特徴および利点は、添付の図面に基づく以下の詳細な説明により、さらに明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1】従来、固体酸化物燃料電池の電極用気孔形成剤として用いられたカーボンブラックの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図2】固体酸化物燃料電池の電極用気孔形成剤として用いられたカーボンブラックの粒度分布を示すグラフであり、水平軸は粒径を示し、垂直軸は粒子の頻度を示し、凡例における略語LSMはランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(La−Sr−Mn酸化物)を示す。
図3】従来、気孔形成剤として8重量%のカーボンブラックを使用して固体酸化物燃料電池の電極を製造した場合の電極の微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図4】従来、気孔形成剤として10重量%のカーボンブラックを使用して固体酸化物燃料電池の電極をコーティングした後の電極の外観を示す写真である。
図5】本発明により液相気孔形成剤を使用して固体酸化物燃料電池の多孔性を有する電極を形成する作動原理を示す概路図である。
図6A】本発明により液相気孔形成剤の添加量による固体酸化物燃料電池の電極用ペーストシートの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図6B】本発明により液相気孔形成剤の添加量による固体酸化物燃料電池の電極用ペーストシートの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図6C】本発明により液相気孔形成剤の添加量による固体酸化物燃料電池の電極用ペーストシートの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図6D】本発明により液相気孔形成剤の添加量による固体酸化物燃料電池の電極用ペーストシートの微細構造を示す電子顕微鏡写真である。
図7】本発明により液相気孔形成剤が添加された固体酸化物燃料電池の電極用ペーストシートの通気度を測定する装置を概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明の目的、特定の利点および新規の特徴は、添付図面に係る以下の詳細な説明および好ましい実施例によってさらに明らかになるであろう。本明細書において、各図面の構成要素に参照番号を付け加えるに際し、同一の構成要素に限っては、たとえ異なる図面に示されても、できるだけ同一の番号を付けるようにしていることに留意しなければならない。また、「一面」、「他面」、「第1」、「第2」などの用語は、一つの構成要素を他の構成要素から区別するために用いられるものであり、構成要素が前記用語によって限定されるものではない。以下、本発明を説明するにあたり、本発明の要旨を不明瞭にする可能性がある係る公知技術についての詳細な説明は省略する。
【0029】
以下、添付図面を参照して、本発明の好ましい実施例を詳細に説明する。
【0030】
通常、固体酸化物燃料電池は、電解質としてジルコニア(ZrO)を使用するが、最近、イットリア(Y)をドープした安定化ジルコニア(Yttria Stabilized Zirconia、YSZ)が多く用いられており、単電池、スタックおよび動作温度に応じて様々な種類のものが開発されている。単電池は、構造的支持体に応じて電解質支持型および電極支持型に分けられ、電極支持型はまたカソード(cathode、空気極)支持型およびアノード(anode、燃料極)支持型に分けられる。
【0031】
燃料極支持型単電池は、燃料極基板に燃料極機能成層、電解質層および空気極層を順次形成した構造を有する。燃料極支持型単電池は、製造過程中に多孔性燃料極の表面欠陥が電解質の欠陥につながるため、燃料極の気孔構造を適宜制御し、且つ粗大な表面欠陥を抑制することが非常に重要である。
【0032】
上述のように、固相粒子や高分子粒子を気孔形成剤として使用して製造した多孔性燃料極は、気孔径が常に二重または三重の分布を有するだけでなく、黒鉛のような気孔形成剤を使用する場合、気孔の形状異方性が発生して電解質層の工程欠陥の発生を増加させる。このような気孔径分布の多重性や形状異方性による粗大気孔は、スクリーン印刷法により燃料極に後続して形成された電解質層の陥没や亀裂を発生させる原因として作用し、単電池の製造収率と性能を低下させる。
【0033】
大面積の単電池を製造する際に発生するさらに他の形態の工程欠陥は、構成層の間で発生する剥離や亀裂であり、このような界面欠陥は、単電池の抵抗を増加させて性能を急激に低下させるだけでなく、熱応力に対し著しく脆弱な抵抗性を有する。
【0034】
このような界面欠陥は、構成層間の焼結収縮率の差や熱膨張係数の差によって発生し、界面強度が弱い場合には欠陥の大きさが増加して製造収率を低下させ、動作の際に単電池の性能が低下し、熱応力が与えられる場合に単電池の寿命が著しく減少する原因となる。固体酸化物燃料電池の単電池における界面欠陥は、主に、燃料極の表面の構造的欠陥、スクリーン印刷法によって形成した後続の厚膜である燃料極機能成層や電解質層の充電不均一性および傾斜機能構造(微細構造的に気孔勾配(gradient)が与えられる構造、例えば、電極の気孔率が外側から内側に向かって低下する構造)を有している空気極構成層の低い界面強度に起因する。
【0035】
本発明は、上述した問題を液相気孔形成剤を使用して解決することを目的とする。通常、燃料電池の電極を形成のためのスラリーは、原料粉末、分散剤、結合剤および有機溶剤からなっており、これに気孔を形成するための気孔形成剤が追加されている。本発明において好ましい原料粉末として、燃料極の場合、NiO−YSZ、NiO−ScSZまたはNiO−GDCなどが挙げられ、空気極の場合、ランタン−ストロンチウム−マンガン酸化物(LSM)、ランタン−ストロンチウム−コバルト−フェライト酸化物(LSCF)またはランタン−ストロンチウム−コバルト−マンガン酸化物(LSCM)などが挙げられる。前記分散剤の限定されていない例としては、リン酸系分散剤(商品名、BYK180、BYK2155などとして市販)またはα−テルピネオールなどが挙げられ、前記結合剤としては、エチルセルロースまたはポリビニルブチラール(PVB)などが挙げられ、これに限定されない。また、前記溶媒は、イソプロピルアルコール、エチルアルコール、トルエンまたはこれらの2種以上の混合物が好ましい。
【0036】
本発明によれば、前記成分は、混合の際に、主に原料粉末または溶媒の使用量に応じて粘度が低い状態のスラリーまたは粘度が高い状態のペーストに形成されることができる。しかし、本発明を説明および/または記述するために、前記二つの状態両方を区分せずに使用し、特に、「ペースト」を主に使用する。
【0037】
かかるスラリーまたはペーストを用いてディップ−コーティング(Dip−coating)、テープキャスティング(Tape−casting)またはスクリーンプリンティング(Screen−Printing)により電極を形成する場合、コーティング後の乾燥過程により有機溶剤は揮発し、原料粉末と気孔形成剤のみが残存する状態となる。
【0038】
このような状態で仮焼および焼成工程により気孔形成剤が除去されると、気孔形成剤で満たされていた空間が空の空間となり、電極に気孔を形成することになる。このような用途に用いられる気孔形成剤としては、カーボンブラックおよび黒鉛などの炭素系化合物が主に用いられているが、上述のように、粒度分布が広くて分散を均一に行うことが困難であり、添加量に限界があるため気孔率を高めることにおいて制限がある。また、炭素系化合物は、仮焼過程により除去することが困難であり、残炭による不良を誘発することもある。
【0039】
一方、液相気孔形成剤の場合、スラリーに用いられる有機溶剤との相溶性により均一な分散をなすことが容易であり、液相であるため添加できる量に制限がなく、気孔率を向上させることに有利であるという利点がある。しかし、産業全般において公知の液相気孔形成剤、例えば、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコール、ポリプロピレングリコールなどは、気孔形成剤の役割とともに炭化水素系結合剤のガラス転移温度を低下させる可塑剤の役割も有する。これにより、前記成分を過量添加すれば結合剤の物性を低下してシートの形態を維持することが困難になるか変形をもたらすことがある。そのため、固体酸化物燃料電池の電極用ペーストの気孔形成剤として液相気孔形成剤を適用した例はない。
【0040】
しかし、本発明では、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤またはパラフィン系有機溶剤を液相気孔形成剤として適用して結合剤の物性を低下させることなく均一な分散および高い気孔率を図ることができる。本発明において好ましい前記グリコール系有機溶剤としては、エチレングリコールまたはプロピレングリコールなどが挙げられ、前記パラフィン系有機溶剤としては、ミネラルスピリット(Mineral Spirit)などが挙げられる。
【0041】
本発明により液相気孔形成剤を適用した際の作動原理は、図5を参照すると、液相気孔形成剤10であるエチレングリコール、ミネラルスピリットなどの高沸点の溶剤の場合、沸点が120℃以上であるため、基質30にコーティングした後、乾燥過程で除去されず、コーティング膜20に残留して気孔を維持し、他の分野において公知の液相気孔形成剤より相対的に低い180以下の分子量を有することで、仮焼および焼成過程により残留物質を残すことなく容易に除去されて電極内部に気孔を均一に形成する。
【0042】
本発明の一実施例によれば、酸化ニッケルセラミックス粉末および8〜10%のモル比を有するイットリア安定化ジルコニア粉末からなる原料粉末10〜90重量%、液相気孔形成剤1〜35重量%からなる主原料を混合する際に有機結合剤1〜20重量%と分散剤0.2〜5重量%などの有機添加剤を補助的に添加して、5〜70重量%の溶媒で混合し、これを成形して電極成形体を形成し、熱処理を施して成形体を脱脂し、有機添加剤を除去した後、より高温で焼結する。この際、前記液相気孔形成剤の添加量が1重量%未満である場合には添加効果がほとんどなく、35重量%を超える場合には電極の機械的強度が低下する傾向がある。前記液相気孔形成剤以外の他の成分は、当業者が通常使用する範囲内で使用目的に応じて決定される。
【0043】
前記のような方法による本発明の好ましい一実施例について具体的に説明すると、まず、固体酸化物燃料電池のアノード原料の主成分となる酸化ニッケルセラミックス粉末および8%のイットリア安定化ジルコニア粉末からなる原料粉末に液相気孔形成剤としてエチレングリコールを添加する。これに、溶媒(アルコールまたはアセトン系)の存在下で結合剤(例えば、熱硬化性樹脂および熱可塑性樹脂)および分散剤を混合したスラリーを、結合剤に対する溶解度がほとんどないか、部分的な溶解が可能な非溶媒(nonsolvent)に噴霧した後、70℃以下で乾燥して、原料粉末、結合剤および液相気孔形成剤が均一に分布する顆粒を製造する。顆粒の形態は球形に近く、大きさは50〜100μmを維持することが、熱硬化モールディング過程で発生する基板の不均一性を最小化することができる。製造された顆粒を約70℃以下で乾燥した後、90〜120℃の温度範囲で熱硬化モールディングを行って約0.5〜1mmの厚さを有する平板型の燃料極支持体を得る。
【0044】
前記多孔性燃料電極支持体に5〜30μmの厚さを有する電解質層をスクリーン印刷法のような通常の方法で形成した後、これを約1,400℃で焼結してから、前記電解質層に30〜80μmの厚さを有する多孔性空気電極をスクリーン印刷法などで形成する。次に、これを約1,100℃で焼成して多層構造の燃料極−電解質−空気極の構造体を得る。前記電極の気孔率は、10〜30%の範囲を有する。
【実施例】
【0045】
以下、実施例を参照して、本発明についてより具体的に説明するが、下記例により本発明の範疇が限定されない。
【0046】
(実施例1)
酸化ニッケル粉末と8%のイットリア安定化ジルコニアが6:4の重量比で含有された原料粉末に対して、0〜20重量%の気孔形成剤としてエチレングリコールを混合し、前記混合物100重量部に対して成形補助剤である10重量部の結合剤としてPVB、4重量部の可塑剤としてジオクチルフタレート(Dioctyl Phthalate)、2重量部の分散剤としてBYK2155を混合した後、前記混合物をトルエンとエチルアルコールを5:5で混ぜた溶媒で湿式混合した。
【0047】
前記湿式混合物をテープキャスティング法で35〜50μmの厚さを有するシートに製造し、その気孔構造およびシートの通気度を測定した。
【0048】
前記シートの気孔構造は、図6Aから図6Dに示しており、シートの通気度は、下記表1のとおりである。
【0049】
図6Aは、液相気孔形成剤を添加していない(0重量%)場合を示し、図6Bは、液相気孔形成剤を5重量%添加した場合を示し、図6Cは、液相気孔形成剤を10重量%添加した場合を示し、図6Dは、液相気孔形成剤を20重量%添加した場合を示している。
【0050】
【表1】
【0051】
通気度の測定は、図7に示されたような装置において、まず密閉容器の下端中心部に設けられた多孔性ディスク(porous disk)上にシートを載せた後、シートの末端からガスが漏れないように上部容器を覆った後、強固に締結して密閉する。その後、圧力容器内において窒素を用いて所定圧力(例えば、2気圧)に下がる時間を測定した。
【0052】
前記表1および図6を参照すると、液相気孔形成剤が添加されることで焼結後に電極気孔率が増加することが分かり、成形されたシートに気孔がどの程度形成されているかを評価するためにシートの通気度を測定した結果、初期の通気度が、356secで20wt%添加した結果、48secで1/9の水準に減少したことが分かった。かかる効果は、エチレングリコールだけでなく、沸点が120℃以上であり、分子量が180以下であるグリコール系有機溶剤およびミネラルスピリットでも同様な効果が得られる。
【0053】
以上、本発明を具体的な実施例に基づいて詳細に説明したが、これは本発明を具体的に説明するためのものであり、本発明はこれに限定されず、該当分野における通常の知識を有する者であれば、本発明の技術的思想内にての変形や改良が可能であることは明白であろう。
【0054】
本発明の単純な変形乃至変更はいずれも本発明の領域に属するものであり、本発明の具体的な保護範囲は添付の特許請求の範囲により明確になるであろう。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、固体酸化物燃料電池の電極用ペースト、これを用いる固体酸化物燃料電池およびその製造方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0056】
10 液相気孔形成剤
20 コーティング膜
30 基質
図5
図7
図1
図2
図3
図4
図6A
図6B
図6C
図6D