(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746319
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】自動化されたクラッチの制御方法
(51)【国際特許分類】
F16D 25/12 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
F16D25/12 E
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-504114(P2013-504114)
(86)(22)【出願日】2011年3月24日
(65)【公表番号】特表2013-524128(P2013-524128A)
(43)【公表日】2013年6月17日
(86)【国際出願番号】DE2011000307
(87)【国際公開番号】WO2011127886
(87)【国際公開日】20111020
【審査請求日】2014年3月24日
(31)【優先権主張番号】102010014678.1
(32)【優先日】2010年4月12日
(33)【優先権主張国】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】512006239
【氏名又は名称】シェフラー テクノロジーズ アクチエンゲゼルシャフト ウント コンパニー コマンディートゲゼルシャフト
【氏名又は名称原語表記】Schaeffler Technologies AG & Co. KG
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【弁理士】
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100099483
【弁理士】
【氏名又は名称】久野 琢也
(72)【発明者】
【氏名】マルクス ベーア
(72)【発明者】
【氏名】ユルゲン ゲアハート
(72)【発明者】
【氏名】ヴィクトア フランツ
【審査官】
広瀬 功次
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−059995(JP,A)
【文献】
特開2006−336783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 25/00−39/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧力が検知されるハイドロスタティックアクチュエータ(19)を備えたハイドロリック式のクラッチ操作システムを介して操作される、自動化されたクラッチ(10)の制御方法であって、
前記ハイドロスタティックアクチュエータ(19)、前記クラッチ(10)、及び/又は前記クラッチ(10)若しくは前記アクチュエータ(19)に対応して配置されている少なくとも1つの付加装置の不都合な過負荷を認識しかつ回避するように、前記ハイドロスタティックアクチュエータ(19)の検知された圧力を使用し、
前記ハイドロスタティックアクチュエータ(19)の圧力を検知する圧力センサ(30)の圧力信号を、アクチュエータ制御部(40)において第1の圧力限界値と比較し、該第1の圧力限界値が超過された場合に、アクチュエータ駆動装置(20)を停止させ、
前記圧力信号を、パワートレイン制御部(50)において、前記第1の圧力限界値よりも小さい第2の圧力限界値と比較し、該第2の圧力限界値が超過された場合、前記ハイドロスタティックアクチュエータ(19)の圧力を減じることを特徴とする、自動化されたクラッチの制御方法。
【請求項2】
前記圧力センサ(30)により検知される圧力上昇を補償するように、前記アクチュエータ(19)を、所定のアクチュエータ駆動装置若しくは前記アクチュエータ駆動装置(20)を介して微かに動かすことを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記圧力センサ(30)でもって検知される圧力が予期せず急速に上昇する場合、前記アクチュエータ(19)の運動を前記クラッチ(10)の接続時に制動することを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
以下のクラッチ駆動制御機能、つまり、
温度に基づく現状で達成可能なアクチュエータ動力の算出、
前記クラッチ操作システム(1)における基準マークの認識、
前記クラッチ操作システム(1)の運動方向の特定、
前記アクチュエータ(19)における負荷の特定、
前記クラッチ操作システム(1)における力ヒステリシスの特定、
前記クラッチ(10)におけるモーメントヒステリシスの特定、
前記アクチュエータ(19)又は前記クラッチ操作システム(1)の基準マークの整合性の検査、
のうちの少なくとも1つ、複数又は全機能のために、前記圧力信号を使用することを特徴とする、請求項1から3までのいずれか一項記載の方法。
【請求項5】
前記クラッチ(10)を、マスタシリンダ(4)及びスレーブシリンダ(6)を備えた前記ハイドロスタティックアクチュエータ(19)を介して直接的に操作することを特徴とする、請求項1から4までのいずれか一項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動化されたクラッチの制御方法に関し、この自動化されたクラッチは、圧力が検知されるハイドロスタティックアクチュエータを備えたハイドロリッククラッチ操作システムを介して操作される。
【0002】
ドイツ連邦共和国特許出願公開第19700935号明細書において、自動車のパワートレインにおけるクラッチを操作する装置が公知になっている。ドイツ連邦共和国特許出願公開第102009009145号明細書において、ハイドロスタティックレリーズシステムを備えたクラッチシステムが公知になっている。この構成において、マスタシリンダピストンの操作速度に基づいて、クラッチレリーズシステムの圧力下での挙動(Druckverhalten)を算出することにより、接続開口の開放特性のずれが検知される。クラッチの操作距離に基づく圧力状況の評価は、クラッチレリーズシステム内、例えばマスタシリンダ若しくはスレーブシリンダ又は圧力管路内に組み込まれている圧力センサにより行うことができる。
【0003】
本発明の目的は、圧力が検知されるハイドロスタティックアクチュエータを備えたハイドロリッククラッチ操作システムを介して操作される自動化されたクラッチの寿命を高めることである。
【0004】
上記目的は、圧力が検知されるハイドロスタティックアクチュエータを備えたハイドロリッククラッチ操作システムを介して操作される自動化されたクラッチを制御する方法において、ハイドロスタティックアクチュエータの検知された圧力又は圧力値は、アクチュエータ、クラッチ及び/又は少なくとも1つのクラッチ若しくはアクチュエータに対応配置された付加装置の不都合な過負荷を認識しかつ回避するために使用される。ハイドロスタティックアクチュエータの圧力は、例えばハイドロスタティックアクチュエータの一部分又はエレメントであるマスタシリンダ、圧力管路又はスレーブシリンダに設けられている圧力センサにより検知される。付加装置は、例えばかみ合いベアリング(エンゲージメントベアリング)といったベアリング装置である。このベアリング装置若しくはかみ合いベアリングは、スレーブピストンとクラッチとの間に接続されている。クラッチは、好ましくは能動的に閉鎖されるクラッチとして構成されていて、特に直接的に操作されるクラッチ又は湿式クラッチとして構成されている。本発明に係る方法により、クラッチ及び/若しくはアクチュエータ又は対応配置されたハイドロスタティック部材を、簡単な形式及び簡単な方法で確実に機械的な過負荷から保護することができる。本発明の別の構成によれば、クラッチは、能動的に閉鎖される部分クラッチを備えたデュアルクラッチとして構成されている。本発明に係る方法により、簡単な形式及び簡単な方法で、過負荷を初期において認識することができる。クラッチ駆動制御部における適切な対応により、クラッチ、アクチュエータ又はクラッチ若しくはアクチュエータに対応配置された付加装置の不都合な損傷を防ぐことができる。
【0005】
上記方法の有利な構成は、ハイドロスタティックアクチュエータの圧力を検知する圧力センサの圧力信号を評価し、処理することを特徴とする。圧力センサは、例えばクラッチアクチュエータ装置のハイドロスタティックセンサ内に統合されている。圧力信号の評価及び処理は、好ましくは、クラッチ及びクラッチ操作システムが組付けられている自動車のクラッチ操作システム若しくはパワートレインに対応配置されている少なくとも1つの制御部において行われる。
【0006】
上記方法の別の有利な構成は、圧力信号を第1の圧力限界値と比較することを特徴とする。この構成において、アクチュエータ駆動装置は、第1の圧力限界値を超過した場合に停止させられる。これにより、クラッチ操作システムは、アクチュエータ装置の受動的な運動を介して負荷軽減され得るようになっている。この方法は極めて簡単であるので、簡単な形式及び簡単な方法でエラー強さを持って実行することができる。
【0007】
この方法のさらに別の有利な構成は、圧力信号をアクチュエータ制御部において第1の圧力限界値と比較することを特徴とする。アクチュエータ制御部は、例えばアクチュエータのための位置調整器が統合されている、例えばアクチュエータ制御装置を有する。このアクチュエータ制御装置は、従来のシステムにおいては、例えば監視機能を発揮する。
【0008】
この方法のさらに別の有利な構成は、圧力信号をパワートレイン駆動制御部において、所定の圧力限界値若しくは第1の圧力限界値又は第2の圧力限界値と比較する、ということを特徴とする。パワートレイン駆動制御部は、例えばパワートレイン駆動制御装置を有し、このパワートレイン駆動制御装置により、状況に起因した圧力信号の変化に対処することができ、走行快適性は全く損なわれないか、又は単に非本質的に損なわれるだけである。
【0009】
上記方法のさらに別の有利な構成は、第1の圧力限界値に対しては、第2の圧力限界値に対する圧力値よりも大きい圧力限界値を使用する、ということを特徴とする。第2の圧力限界値を超過した場合、好ましくは車両特性に対する作用は、全くないか又はほんの少しであるように反応する。第1の圧力限界値を超過した場合、好ましくはクラッチ若しくはクラッチ操作システムのために、非常停止といった自己防御機能が始動する。
【0010】
上記方法のさらに別の有利な構成は、圧力センサにより検知される圧力上昇を補償するために、所定の若しくは上記アクチュエータ駆動装置を介して、アクチュエータが少しだけ運動させられる、ということを特徴とする。この関係において、アクチュエータは、自動車の運転者にとって圧力補償が感知可能でないか、又はほんの少ししか感知され得ないように運動する。
【0011】
上記方法のさらに別の構成において、アクチュエータの運動は、圧力センサによって検知される圧力が、予期せず急速に上昇する場合、アクチュエータの運動がクラッチの閉鎖時に制動される、ということを特徴とする。アクチュエータに合わされた目標位置設定により、予期しない過負荷を確実に回避することができる。
【0012】
上記方法のさらに別の有利な構成は、圧力信号を、以下のクラッチ駆動制御機能のうちの少なくとも1つ、複数又は全ての機能のために使用することを特徴とする。つまり、
温度に基づく現行で達成可能なアクチュエータ動力を算出する機能。これによって、アクチュエータ動力の制限を、状況に基づいて実施することができる。
クラッチ操作システム、特にクラッチのかみ合いシステムにおける基準マーク(Referenzmarke)を認識する機能。この基準マークは、例えば作動駆動装置のインクリメンタル形エンコーダを参照するために働く。また、基準マークは、クラッチ操作システムの、距離、力又は圧力に基づく個別の状態を検知するために働く。
クラッチ操作システムの運動方向を決定する機能。
例えば負荷特性曲線を算出するための、アクチュエータにおける負荷を決定する機能。負荷特性曲線は、例えば位置調整器を予め制御するために用いることができる。
クラッチ操作システムにおける力ヒステリシスを決定する機能。クラッチにおける摩擦が小さい場合、同様にクラッチにおけるモーメントヒステリシスを算出することができる。
例えばアクチュエータ又はかみ合いシステムにおけるインクリメント式の距離測定の調整後に、アクチュエータ又はクラッチシステムの基準マークの整合性を検査(Plausibilisierung)する機能。
【0013】
上記方法のさらに別の構成は、クラッチが、マスタシリンダ及びスレーブシリンダを備えたハイドロスタティックアクチュエータを介して直接的に操作されることを特徴とする。アクチュエータの流体静力学的な圧力が、特にレバーアクチュエータを介在させることなく、クラッチに直に作用するということを直接意味する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】自動化された摩擦クラッチを操作するためのクラッチ操作システムを簡略化して示す図である。
【0015】
本発明のさらなる利点、特徴及び詳細については、図面に基づき種々異なる実施の形態を詳細に記載した以下の説明から明らかになる。
【0016】
図1に、自動化されたクラッチ10、特に自動化されたデュアルクラッチ10のためのクラッチ操作システム1を簡略化して示す。このクラッチ操作システム1は、自動車のパワートレインにおいて、摩擦クラッチとして構成されているクラッチ10に対応配置されていて、圧力管路とも称呼されるハイドロリック管路5を介してスレーブシリンダ6に接続されているマスタシリンダ4を有する。スレーブシリンダ6において、スレーブピストン7が往復運動可能である。このスレーブピストン7は操作機構を介して、好ましくはベアリングを介在させてクラッチ10を直接的に操作する。
【0017】
マスタシリンダ4は、接続開口を介して補償タンクに接続可能である。マスタシリンダ4において、マスタピストン14が往復運動可能である。マスタシリンダ4、ハイドロリック管路5、スレーブシリンダ6、スレーブピストン7及びマスタピストン14は、ハイドロスタティックアクチュエータ19の一部分である。このハイドロスタティックアクチュエータ19は、アクチュエータ駆動装置とも称呼される電気モータ式の作動駆動装置20を介して駆動可能である。この作動駆動装置20は、アクチュエータ伝動装置24を介してマスタピストン14に連結されているアクチュエータモータ22を有する。アクチュエータ伝動装置24を介して、前記アクチュエータモータ22の駆動回転運動が、マスタピストン14の長手方向運動又は並進運動に変換される。
【0018】
マスタシリンダ4と、ハイドロリック管路5とスレーブシリンダ6とを有する、ハイドロリック式又はハイドロスタティック式の区間におけるハイドロリック圧は、ハイドロリック管路5に取り付けられている圧力センサ30により検知される。この圧力センサ30は、アクチュエータ圧信号とも称呼される圧力信号を送信する。
【0019】
能動的に閉鎖される部分クラッチを備えたデュアルクラッチシステムにおいては、モーメントが各部分クラッチに伝達される間はスニッフィングすることはできない。液圧媒体の熱膨張により、明らかなかみ合い距離若しくはストローク変化が生じることになり、このかみ合い距離変化は、所定のクラッチ特性曲線からの急勾配に基づき、極めて高いかみ合い力につながる。このかみ合い力は、クラッチ機構、かみ合いベアリング及び流体静力自体を損なうことがある。本発明の重要な構想によれば、圧力センサ30は、クラッチ10及びアクチュエータ19の機械的な過負荷を認識し、かつ回避するために用いられる。
【0020】
図1において、圧力センサ30の圧力信号がアクチュエータ制御部40において評価される、ということが矢印41,45により示されている。アクチュエータ制御部40は、例えばクラッチ10の位置制御及び監視のために働くアクチュエータ制御装置を有する。アクチュエータ制御部40において、圧力センサの圧力信号は、第1の制限値と比較される。第1の圧力限界値が超過されると、矢印45により示されているように、アクチュエータモータ22は停止させられ、その結果、機械的なシステムを、アクチュエータ19の受動的な運動を介して負荷から解放することができる。この方法は極めて簡単であるので、アクチュエータ制御装置においてエラー強さを持って実行され得る。1と2分の1処理コンセプト(Eineinhalb-Prozessor-Konzept)を用いた場合、第1の圧力限界値を備えたこの方法は、それどころか監視計算器により実施することができる。第1の圧力限界値の超過時に、例えばアクチュエータ電子機器のリセット又は非常停止が作動する。
【0021】
他の矢印42,43により、測定された圧力信号を、さらに処理するためにパワートレイン制御部に送られることが示されている。このパワートレイン制御部は、例えばパワートレイン制御装置を有し、本発明の別の構想によれば、状況に応じて圧力センサ30の圧力信号の変化に対応するために使用される。したがって、例えばクラッチ10の過剰な圧着を伴う走行によりもたらされる熱膨張による液圧媒体の、圧力センサ30によって検知される圧力が高まると、簡単に制御されるアクチュエータの19の動きにより、車両特性において気付かれることなく、液圧媒体の圧力、ひいてはかみ合い力を減じることができる。
【0022】
クラッチ10の接続時に、圧力センサ30によって検知される液圧媒体の圧力が、予期せず急速に上昇すると、クラッチアクチュエータ19の運動は、調節された目標位置設定を介して制動することができるので、クラッチ10の過負荷を回避することができる。パワートレイン50において、圧力センサ30によって検知された液圧媒体の圧力は、好ましくは第1の圧力限界値より小さい第2の圧力限界値と比較される。第2の圧力限界値とアクチュエータ圧力信号の比較時に、通常、車両特性への作用が全くないか、又は少しだけしかないように、応答することができる。また、第1の圧力限界値とアクチュエータ圧力信号との比較時に、アクチュエータ制御部40において重大なミスが認識される場合には、クラッチ10を備えたクラッチアクチュエータシステムは、依然として、例えば非常停止により自己を保護することができる。
【0023】
本発明に係る方法は、好ましくは、0.5〜70barの圧力測定範囲において、約0.14barの解析度及び最終値の+/−4.3%の正確性を持って実施される。
【符号の説明】
【0024】
1 クラッチ操作システム
4 マスタシリンダ
5 ハイドロリック管路
6 スレーブシリンダ
7 スレーブピストン
10 クラッチ
14 マスタシリンダ
19 アクチュエータ
20 電気モータ式の作動駆動装置
22 アクチュエータモータ
24 アクチュエータ駆動装置
30 圧力センサ
40 アクチュエータ制御部
41 矢印
42 矢印
43 矢印
45 矢印
50 パワートレイン制御部