特許第5746323号(P5746323)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5746323神経構造を電気的に刺激するための3次元レイアウトを有するインプラント
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746323
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】神経構造を電気的に刺激するための3次元レイアウトを有するインプラント
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/05 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
   A61N1/05
【請求項の数】9
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2013-506721(P2013-506721)
(86)(22)【出願日】2011年4月29日
(65)【公表番号】特表2013-524970(P2013-524970A)
(43)【公表日】2013年6月20日
(86)【国際出願番号】FR2011050984
(87)【国際公開番号】WO2011135273
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月17日
(31)【優先権主張番号】1053381
(32)【優先日】2010年4月30日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】509074014
【氏名又は名称】ユニヴェルシテ・ピエール・エ・マリ・キュリ・(パリ・6)
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100064908
【弁理士】
【氏名又は名称】志賀 正武
(74)【代理人】
【識別番号】100089037
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(72)【発明者】
【氏名】アンリ・ロラッチ
(72)【発明者】
【氏名】ミラン・ジラ
(72)【発明者】
【氏名】ブレーズ・イヴェール
(72)【発明者】
【氏名】フィリップ・ベルゴンゾ
(72)【発明者】
【氏名】ガエラー・リッソーグ
(72)【発明者】
【氏名】リオネル・ルソー
(72)【発明者】
【氏名】リャド・ベンジャミン・ブノマン
(72)【発明者】
【氏名】セルジュ・ピコー
(72)【発明者】
【氏名】ジョゼ・サヘル
(72)【発明者】
【氏名】シオホイ・イエン
【審査官】 堀川 泰宏
(56)【参考文献】
【文献】 特表2007−518541(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/05
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
神経構造を電気刺激するインプラントであって、
電気絶縁基板(1)と、
前記基板の上面に形成されたキャビティ(2)のアレイと、
それぞれが前記キャビティのうちの1つの底部部分に配置された刺激電極(3)と、
前記キャビティの上側部分で接地面を形成する導電層(4)と
を備え
各キャビティ(2)が、前記キャビティの前記底部部分から、前記基板(1)の前記上面の方に向かって広がるフレア形状を有する、インプラント。
【請求項2】
前記キャビティ(2)が、15μmよりも大きい深さを有する、請求項1に記載のインプラント。
【請求項3】
前記キャビティ(2)が、50μmよりも低い深さを有する、請求項1または2に記載のインプラント。
【請求項4】
前記キャビティ(2)が、25から35μmの間の深さを有する、請求項1からのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項5】
各刺激電極(3)が、そのそれぞれのキャビティ(2)の底面において、60μm未満の寸法を有する、請求項1からのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項6】
各キャビティ(2)が、刺激電極(3)で部分的に被覆された絶縁底面を有する、請求項1からのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項7】
各刺激電極(3)が、そのそれぞれのキャビティ(2)の底面上に延在する中央部と、前記キャビティの側壁に重なる周辺部(8)とを有する、請求項1からのいずれか一項に記載のインプラント。
【請求項8】
前記刺激電極(3)の前記中央部が、40μm未満の寸法を有する、請求項に記載のインプラント。
【請求項9】
前記接地面を形成する前記導電層(4)が、ネットワークの各キャビティ(2)について、前記キャビティの側壁に重なる部分(7)を備える、請求項1からのいずれか一項に記載のインプラント。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、神経構造を電気的に刺激するために使用することができるインプラントに関する。
【背景技術】
【0002】
数多くの運動障害および感覚障害、ならびに運動病理および感覚病理のために、神経構造の電気刺激が提案されてきており、さらには臨床的にも有効性が確認されてきている。こうした刺激には、例えば、パーキンソン病を治療する高周波電気刺激、聴覚消失を治療する内耳の刺激、また、より近年では、視覚消失を治療する網膜または視覚皮質の刺激が挙げられる。しかし、特に、括約筋の制御、癲癇および他の神経系疾患の治療のためには、極めて多数の応用例が想定され得る。
【0003】
この種の刺激を実施するために、インプラントが、対象となる神経構造に接触して配置される。かかるインプラントは、神経細胞を刺激するように、電位差が印加される、または電流が流される電極を有する。標的構造に有効な刺激を得るために、いくつかの電極構成が提案されてきている。
【0004】
いわゆる単極構成では、電流が、刺激電極と、(無限距離にある)遠隔帰還電極との間を流れる。この単極構成では、得られる刺激は、空間選択度の低い刺激となる。しかし、電気刺激の空間選択度は、多くの応用例において所望される特性である。例えば、電気刺激を互いに独立に実施するように、特に、網膜または視覚皮質のニューロンに鮮明な画像を伝達するように、インプラントが、微視的ユニットが並置されたアレイを有する場合、隣接する画素間の漏電(クロストーク)をできる限り低く抑えながら、これらのユニットまたは画素のそれぞれに良好に局所化された電気刺激を供給することが重要である。
【0005】
双極構成は、刺激すべき神経構造の各領域について1対の電極を使用し、これらの電極は正および負の電位によって励起される。電気刺激の局所化は単極構成に比べて改善されるが、ある応用例にとってはなおも不十分となり得る。
【0006】
実際には、双極電極には、接地面を有する電極構成がより好ましく、その理由は、その場合、帰還電極が、インプラントの全ユニットに共通となり、したがってシステムの内部配線を2分割することになるからである。非特許文献1には、表面が、刺激電極と同一平面の接地面を有する構成要素を用いて、微小刺激の集束(focusing)が改善されることが示されている。
【0007】
非特許文献2では、D.Palankerらが、ラットの網膜細胞が、電気的に不活性の多孔膜を通り抜けて移動する能力について研究し、電極が膜から突出した3次元構成のインプラントを考案した。しかし、かかるインプラントは、実際には作製が困難である。
【0008】
一般に、組織に損傷を与えずに刺激役割を果たすことが可能な局所化刺激を生成することが望ましい。臨床研究によって、標的ニューロンの応答を得ることを可能とする電流の強さは、組織の安全閾値を超え得ることが示されてきている。さらに、視覚などの応用例では、同じ全体寸法のインプラントで、電極の数を増やし、したがって電極の空間分解能を増大させる必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「Improved Focalization of Electrical Microstimulation Using Microelectrode Arrays: A Modeling Study」(PLoS ONE、www.plosone.org、第4巻、第3号、e4828、2009年3月)
【非特許文献2】「Migration of retinal cells through a perforated membrane: implications for a high−resolution prosthesis」(Investigative Ophthalmology & Visual Science、2004年9月、第45巻、第9号、3266〜3270頁)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、生成される電流の大きさ(amplitude)を制限しながら、刺激の集束を高めることが可能な電極構造体を設計することが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
神経構造を電気刺激するインプラントであって、
−電気絶縁基板と、
−基板の上面に形成されたキャビティのアレイと、
−それぞれがキャビティのうちの1つの底部部分に配置された刺激電極と、
−キャビティの上側部分で接地面を形成する導電層と
を含む、インプラントが提案される。
【0012】
このインプラントは、基板の、接地面が取り付けられた上面を、刺激すべき神経細胞を備える組織と接触させて配置することによって、取り付けられることになり、こうした神経細胞は、多少ともそれなりの深さ、一般に約数十ミクロン(μm)の深さに位置し得る。
【0013】
接地面を有するインプラントが3次元構成であるため、キャビティ内部の標的細胞の電気刺激を集束させることが可能となる。したがって、高い空間選択度が保証され、これにより標的領域において、低い総電流で、所与のレベルの刺激を得ることが可能となり、それによって処置する組織に対する損傷が最小限に抑えられる。選択度が得られることによる別の利点は、応用例によって必要となる場合には、インプラントの刺激ユニットの数を、これらのユニットを互いに独立に制御しながら増やすことが可能となる点である。
【0014】
インプラントの実施形態では、各キャビティは、キャビティの底部部分から、基板の上面の方に向かって広がるフレア形状を有する。この形状によって、細胞がキャビティ内に貫入し、分散しやすくなる。
【0015】
キャビティの深さは、標的細胞が、刺激すべき組織内に位置すると思われる深さに応じて選択される。しばしば、グリア細胞の層が組織と電極との境界面に出現し、この層の後方に位置するニューロンが刺激されることになる。シミュレーションによって、典型的な応用例では、深さが15μm超のキャビティまたはウェルで、標的領域に対する電気刺激の集束が良好となり得ることが示されてきている。
【0016】
特に、キャビティの側壁が傾斜している場合、過度な深さのキャビティもやはり、基板上のキャビティ密度が制限されるので望ましくない。キャビティ深さを特に50μm未満に維持することが可能である。深さが25から35μmの間のキャビティが、選択度とキャビティ寸法との折合いをつけるのに最適と思われる。
【0017】
キャビティの寸法を制限するために、各刺激電極は、そのそれぞれのキャビティの底面において、60μm未満の寸法を有し得る。
【0018】
他のパラメータを調節して、インプラントの性能を最適化することができる。一構成では、各キャビティは、刺激電極で部分的に被覆された絶縁底面を有する。その場合、処置すべき組織の表面に比較的近接して細胞刺激を促進することが可能となる。
【0019】
別の構成では、各刺激電極は、そのそれぞれのキャビティの底面上に延在する中央部と、前記キャビティの側壁に重なる周辺部とを有する。刺激電極の中央部は、有利には、40μm未満の寸法(直径または辺)を有し、それによって電気刺激の集束を最大にすることが可能となる。
【0020】
別の可能性は、接地面を形成する導電層の形状を調節することである。特に、接地面を形成する導電層が、アレイの各キャビティについて、前記キャビティの側壁に重なる部分を備えるように、導電層を成形することが可能である。
【0021】
本発明の他の特徴および利点は、添付の図面を参照した、以下の非限定的な実施形態の説明から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明によるインプラントの例の斜視図である。
図2図1のインプラントのキャビティの横断面図である。
図3図2の横断面図と同様の、インプラントのキャビティの他の実施可能な実施形態に関する横断面図である。
図4図2の横断面図と同様の、インプラントのキャビティの他の実施可能な実施形態に関する横断面図である。
図5図3によるキャビティの挙動を、様々な寸法パラメータ値でシミュレートすることによって得られた結果を示すグラフである。
図6図4によるキャビティの挙動を、様々な寸法パラメータ値でシミュレートすることによって得られた結果を示すグラフである。
図7図5に示すシミュレーション結果における、あるパラメータの外乱作用を示すグラフである。
図8図6に示すシミュレーション結果における、あるパラメータの外乱作用を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明によるインプラントの例示的な実施形態を、図1および2に示す。このインプラントは、上面がキャビティ2のアレイを有する電気絶縁基板1を含む。刺激電極3が、各キャビティ2の底部部分に位置する。
【0024】
別々のキャビティに共通の帰還電極4、または接地面が導電層によって形成され、図1および2の例では、この導電層が、基板1の、キャビティ2以外のほぼ全上面を被覆している。キャビティ2は、この導電層4と刺激電極3との間に、導電性材料のない側壁5を有する。
【0025】
刺激電極3と接地面4間に電位差を印加する、または電流を導通させることによって、キャビティ2内に位置する媒体に電流が伝播されることになる。キャビティ2、および電極3、4は、キャビティ2内の電界、または電流密度を、周囲の媒体への伝播を最小限に抑えることによって集束させるように、寸法設定することができる。
【0026】
図1および2の例では、キャビティ2は、頂点が切り取られた一般的な逆角錐の形状を有する。したがって、各キャビティ2は、基板1の上面に平行な平底部分を有する。この平底部分は、この例では、刺激電極3によって完全に被覆されている。
【0027】
出発構造体の設計を例えば円形、三角形、六角形、八角形などに改変することによって、様々な形状、およびプロファイルを有するキャビティもやはり想定することができる。
【0028】
キャビティの全体的な幾何形状が、図1および2の幾何形状と同様の他の電極構成を、図3および4に示す。
【0029】
図3のケースでは、刺激電極3は、キャビティ2の底部部分全体を被覆してはいない。刺激電極3は、刺激電極3の縁部と、キャビティの側壁5との間の絶縁マージン6によって取り囲まれている。キャビティの対称軸Aと刺激電極3の縁部との間隔をpとして示し、刺激電極3の縁部とキャビティ2の側壁5との間隔をpとして示す。したがって、刺激電極3は、基板1に平行な平面において、2つの垂直方向に沿って2×pの寸法を有し、かつ幅pの絶縁リング6によって取り囲まれている。接地面4の導電層は、基板1上面の平面に、各キャビティ周囲の幅pにわたって部分的に延在し、かつ各キャビティの側壁5に重なって、各壁5の上側部分で、幅pの導電ストリップ7を形成している。キャビティ2の側壁5の、導電ストリップ7の下側端部と、キャビティ2の底部部分との間の絶縁部分の幅を、pとして示す。
【0030】
図4のケースでは、接地面4は、図3のケースと同様に、上述の寸法パラメータpおよびpを有するものとして示されている。しかし、刺激電極3は、キャビティ2の、寸法が2×pの底部部分全体を被覆し、周辺部でキャビティ2の側壁5に重なっている。このケースでは、この周辺部8は、壁5に沿ってpで示す幅を有する。ここでは、キャビティ2の側壁5の絶縁部分の幅pは、導電ストリップ7の下側端部と、刺激電極3の周辺部8の上側端部との間で測定する。図1および2に示す例は、図3または4の、p=p=0である限定ケースである。
【0031】
このインプラントは、生体内で、接地面4で被覆されたその上面を神経組織に対向させた状態で、その組織に対して適用されるものである。キャビティ2が、キャビティの底部部分から、基板1の上面の方に広がるフレア形状を有することによって、神経細胞がかかるキャビティ内に貫入しやすくなる。一例として、キャビティ2を横断方向に画定する側壁5は、基板1の上面の平面と125.3°の角度を成す。言い換えれば、キャビティ2の側壁5の傾斜角は、54.7°であり、この角度は、結晶シリコン表面を結晶方位(100)にエッチングするのに好ましい角度と一致する。
【0032】
図3および4に記載の断面を有するキャビティを用い、キャビティ2が軸A周りで回転対称の形状を有するものとして、シミュレーションを実施した。このシミュレーションに使用した物理的モデルは、導電媒体の回転対称を用い、直流を用いた2次元モデルであり、以下のマクスウェル方程式
J=σ.E
∇J=Q
Q=−∇(σ.∇V)
によって定義され、式中、Jは電流密度ベクトルであり、Eは電界ベクトルであり、σは媒体の導電率であり、Qは電荷であり、Vは電位である。
【0033】
これらのシミュレーションでは、材料特徴および刺激特徴によって、以下の境界条件が課された。刺激電極3を形成している区画(断面で見て)について、電流の流れは内側に向かい、電流密度は、10μAに設定された強度を、刺激電極の総面積で除算したものに相当するものであった。選択度を過大評価しないように、帰還電極(すなわち接地面)は、理想的な接地面としてモデル化せずに、ゼロ電位の分布抵抗(導電率338S/m)とした。これらの導電部を除いて、モデルの他の部分は、電気絶縁体として定義した。電流密度分布を、長方形領域D=[0,0]×[300μm,600μm]で計算した。この領域の電気抵抗は、50Ω.m(光受容体がもはや機能していない変性網膜の残りの層の抵抗率の近似値)に設定した。
【0034】
このモデルについて、最良の刺激選択度を実現する最適パラメータを見つけるように、電極の幾何形状を最適化した。電極の幾何形状は、そのパラメータの組によって、長方形T=キャビティの半幅[0から20μm]×高さ[20μmから40μm]として画定される標的領域内で最も強い電流集中が生じた場合に、最適であると考えた。この標的領域の寸法は、電極と網膜組織との間の線維組織の薄い絶縁層を考慮に入れながら、機能的な標的細胞の位置にほぼ一致するように選択した。
【0035】
これらのシミュレーションでは、選択度を、標的領域内の電流密度分布の面積分を、標的領域外の電流密度分布の面積分で除算することによって定量化した。比較の目的で、平面構造体のケース(図3の構成と同様であるが、p=p=0である)でも最適化を実施した。
【0036】
最適化に使用したパラメータの範囲、および反復間のパラメータの増分段階をTable I(表1)に示し、表中、水平区間(図3のケースではp、p、およびp図4のケースではpおよびp)に関する値が、区間長さを表し、傾斜区間(図3のケースではpおよびp図4のケースではp、p、およびp)に関する値が、傾斜区間の軸Aに沿った突出長さを表す。(1)有効電極表面に対応する製造マスクの開口は、互いに少なくとも5μm間隔を置いて配置しなければならない、および(2)キャビティ深さは50μmを超えない、という追加の制約下で最適化を実施した。
【0037】
【表1】
【0038】
図3および4の特定の幾何形状のケースについて、キャビティ深さの関数としての最適パラメータをTable II(表2)にまとめている。図3のケースでは、キャビティ深さは、パラメータpおよびpの軸Aにおける突出の合計であり、図4のケースでは、キャビティ深さは、パラメータp、p、およびpの軸Aにおける突出の合計である。刺激電極3の半分の寸法を表すパラメータpと、キャビティ2の深さとの関数としての電極の選択度を、図3の電極構成について図5に示し、図4の電極構成について図6に示す。これらの図5および6では、所与のp値、およびキャビティ深さについて、パラメータp、p、p、およびpの最適値を見つけることによって各点を得た。
【0039】
【表2】
【0040】
図3に記載の構成では、選択度は、パラメータpに伴って増大し、一方図4に記載の構成では、選択度は、パラメータpに伴って減少している。両ケースとも、キャビティ2がより深くなると選択度が改善されている。キャビティ深さ(標的領域の下側縁部)が20μm未満では、深さ10μmで、ある改善が既に見られているとしても、2つの構成間で差はほとんどなく、また平面構成とも差はほとんどない。インプラントの設計では、深さの最小値として値15μmを使用することができる。
【0041】
より深くなると、図4の構成では、最良の結果が得られるが、図3の構成では、平面ケースに比べてかなりの改善が既に観察されている。電極の各3次元構成について、選択度は30μm程度の深さでその最大値に達している。しかし、深さが50μmまで増大しても、選択度の低下はほとんど観察されない。選択度と容積(bulk)間の折合いは、キャビティ深さが25から35μmの間で最も満足のいくものとなる。
【0042】
図4の構成の最適パラメータによって、最小の刺激電極寸法で最良の選択度が得られる。したがって、直径10μm(p=5μm)の電極では、平面構成に比べて、図3の構成では選択度が3程度増大し、図4の構成では選択度が10程度増大している。
【0043】
一般に、キャビティ2の底面寸法が60μm未満(すなわちp<30μm)の刺激電極3は、比較的コンパクトなキャビティ2が実現されるという利点を有し、したがって基板上で比較的高密度に作製することが可能となる。刺激電極3がその周辺部8でキャビティの側壁に重なる図4のケースでは、非常に小型の刺激電極寸法3(40μm未満、すなわちp<20μm)もやはり、図6に示すように、非常に高い選択度値をもたらす顕著な利点を有する。
【0044】
アレイにできる限り多くの電極を組み込むには、実施可能な最小パラメータpおよびpを取る必要があり、こうすることによって電極寸法が最小になり、したがって電極間の間隔が最小になるからである。これら2つのパラメータpおよびpの外乱の作用について研究し、図7および8にまとめている。この目的で、他の4つのパラメータを、キャビティ深さ30μmについて見出された最適値に維持しながら、パラメータpを、Table I(表1)に示す範囲内で変動させた。パラメータpについても、同じ手順を繰り返した。
【0045】
図7に示すように、図3の構成の刺激電極の寸法を変えても、選択度にはほとんど影響がない。しかし、図4の構成では、pが増大すると、選択度は低下している。したがって、この後者のケースでは、生成される電流密度が、電極材料の安全限界の範囲内に確実に留まるように、pができる限り小さくなるように選択すると有利である。プラチナは、問題なく0.35から0.40mC/cmで伝達することができ、イリジウム酸化物は、3から4mC/cmまでの安全刺激限界を有する。刺激電極寸法の小型化はまた、細胞の活性化閾値の低減においても利点を有する。しかし、pの値が小さくなりすぎると生じ得る潜在的問題に、キャビティが狭くなりすぎ得ることがある。網膜双極細胞は、10μm程度の寸法を有し、したがってキャビティ2が小さくなりすぎると、刺激すべき網膜組織が、キャビティ2に貫入することができなくなる。
【0046】
パラメータpの変動が選択度に対してほとんど影響しないこと(図8)は、刺激電流がなおも、キャビティ内にうまく閉じ込められたままであることを意味する。基板1の上面の帰還電極は、非常に限られた延在部で、電極間漏電(クロストーク)を排除するのに十分である。したがって、キャビティ2は、基板1上でほぼ一面に(edge−to−edge)組み込むことができる。pに小さい値を選択することと併せて、上記によって、高密度電極を設計することが可能となる。電極の最大数は、最終的には、電極に電力を供給する導電トラックを埋め込む能力によって制限され、というのは、これらのトラックは、考慮すべき最小幅を有するからである。
【0047】
上記で報告したシミュレーションは、提案の3次元電極構造体によって、中枢神経系または末梢神経系に属する網膜または他の神経構造向けのインプラント内での刺激の集束が改善されることを示している。
【0048】
シリコン産業の技術を用いて、上記の特徴を有するインプラントを作製することができる。その場合、単結晶シリコンウェハを型として使用する。このウェハの表面(100)上に、ウェットエッチング法により、キャビティのベース形状を再現するパターンを有するマスクを介して、例えば角錐台を形成する。エッチングは、好ましくは、面(111)に従って実施され、それによって、上述のように側壁5について角度54.7°が残り、角錐の角度付近にキンクが生じ得る。例えば、プラチナまたはイリジウム酸化物の導電層を、適切な形状のフォトレジストマスクを介して堆積させ、それによって接地面4、およびキャビティ2の底部部分(すなわち、角錐台の頂点)に刺激電極3を作製する。生体適合性ポリマーの樹脂、例えばポリイミドまたはパリレンを、その構造体上に、角錐を被覆するように堆積させ、重合化させて、基板1を形成する。この基板上に、電極の接続部を作製し、次いで、(例えば、酸化、その後の化学エッチングによって)シリコンを除去すると、上面が接地面4で被覆され、かつ所望の形状および寸法のキャビティ2を有するインプラントが得られることになる。
【0049】
シリコン技術はまた、プラズマまたは液体エッチングのいずれかによって等方性エッチングを行うことが可能となるという利点をもたらす。こうしたシリコン技術によって、キャビティに十分広い範囲の形状を得ることが可能となる。円形パターンから始めると、円錐台形キャビティを得ることが可能である。三角形パターンから始めると、角錐台形のキャビティを得ることができる、といった具合である。これらのエッチング技術によってまた、望むなら、キャビティ壁の角度を調節することが可能となる。
【0050】
本発明は、上述の特定の実施形態、またはいかなる製造方法にも限定されるものではないことを理解されたい。添付の特許請求の範囲によって規定される範囲から逸脱することなく、様々な代替形態を設計することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 電気絶縁基板
2 キャビティ
3 刺激電極
4 帰還電極/接地面/導電層
5 側壁
6 絶縁マージン/絶縁リング
7 導電ストリップ
8 周辺部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8