(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】5746411
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】気体分散液の製造方法
(51)【国際特許分類】
B01F 5/06 20060101AFI20150618BHJP
C02F 1/68 20060101ALI20150618BHJP
B01F 3/04 20060101ALI20150618BHJP
B01F 1/00 20060101ALI20150618BHJP
B01D 53/22 20060101ALI20150618BHJP
B01D 71/70 20060101ALI20150618BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
B01F5/06
C02F1/68 510B
C02F1/68 520B
C02F1/68 530L
B01F3/04 Z
C02F1/68 530B
B01F1/00 A
C02F1/68 540D
B01D53/22
B01D71/70
A23L2/00 F
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-223377(P2014-223377)
(22)【出願日】2014年10月31日
【審査請求日】2014年12月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】591014972
【氏名又は名称】株式会社 伊藤園
(72)【発明者】
【氏名】瀧原 孝宣
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 光
【審査官】
宮部 裕一
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−005490(JP,A)
【文献】
特開2004−344859(JP,A)
【文献】
特開平02−229590(JP,A)
【文献】
特開平10−192846(JP,A)
【文献】
特開平07−284641(JP,A)
【文献】
特開平07−000779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22
B01D 61/00−71/82
B01F 1/00− 5/26
A23L 2/00− 2/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水素、酸素、窒素、ヘリウムから選択される1種、または2種以上の気体を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過して飲料用の液体溶媒中に分散させる方法であって、上記気体で満たされた密閉空間の圧力Pが0.21MPa<P≦0.4MPaの範囲となるように加圧する加圧調整手段と、気体透過量比Ar/N2=2以上の気体透過性能を備えた非多孔質膜のシリコーンゴムからなる気体透過膜から形成され、上記液体溶媒と上記気体とを仕切る気体透過手段とを備え、上記気体透過膜を介して、上記気体を、上記液体溶媒中において粒径500nm以下の極微細気泡の形態で液相と独立した状態で分散させることを特徴とする飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項2】
上記液体溶媒が水であることを特徴とする請求項1に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項3】
上記気体透過膜が均質膜であることを特徴とする請求項1又は2に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項4】
上記気体透過膜がシリコーンゴムから形成されていることを特徴とする請求項1〜3いずれか1項に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項5】
上記気体透過膜の厚みが20〜60μmであることを特徴とする請求項1〜4いずれか1項に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項6】
上記気体で満たされた密閉ハウジング内に複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束からなる1つ又は2以上の中空糸膜モジュールが配置され、それぞれの中空糸膜の内側面に飲料用液体溶媒を通液する通液工程と、上記密閉空間内の圧力Pを0.21MPa<P≦0.4MPaの範囲に調整する圧力調整工程とを備え、上記中空糸膜内側面の通液量を上記中空糸膜の単位面積(m2)あたり、0.5L/min・m2〜4.5L/min・m2となるように調整する液体溶媒流速調整工程とを備えることを特徴とする請求項1〜5記載いずれか1項に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
【請求項7】
上記中空糸膜モジュールが以下の要件を満たすことを特徴とする請求項6に記載の飲料用液体溶媒中への気体分散方法。
(a) 上記中空糸膜モジュールは中空糸膜が4000本〜8000本の中空糸膜束から形成される。
(b)上記中空糸膜束の有効長が120〜450mmであること。
(c)上記中空糸膜の気相並びに液相接触面積合計が0.5〜3.0mm2である。
【請求項8】
請求項1〜7いずれか1項の方法で液体溶媒中に気体を分散させることを特徴とする飲料用気体分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の気体成分を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過した状態で、且つ長時間に亘り液体溶媒中に持続的に分散させる方法であって、特に前記気体成分を分散させた液体溶媒が、飲料液若しくはその原料となり得る、液体溶媒中への気体分散方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
我国における飲料製品は、生活スタイルの変化や飲食に対する嗜好の多様化に応えるため、その種類が年々増加し続けている。
また、昨今においては、食と健康に対する意識の高まりもあって、身体に対する生理活性機能を備えた、所謂機能性飲食品に特に注目が集まっている。
飲料製品もこの例外ではなく、既にトクホ飲料と称される製品が多種上市されている。
また、健康増進法等に定められた上記の特定保健用食品(トクホ)や、栄養機能食品の対象とは別に、一定の要件を備えることで食品への機能性表示が認められる新たな制度の検討が消費者庁において進められている。
以上のように、生理活性機能を備えた飲料は今後も需要が高まってくると予想される。
【0003】
飲料中に一定濃度で含まれることによって、生理活性機能を発揮する可能性がある成分としては、カテキン、クロロゲン酸、アントシアニン等のポリフェノール類、難消化性デキストリン等の食物繊維といったものが挙げられるが、単離した場合に固体若しくは液体の状態で成分以外にも、水素、窒素、二酸化炭素、酸素等、気体状態の溶質も想定され得る。
【0004】
これらの気体溶質を溶解させた飲料の中にあって、溶質が水素である所謂水素水と称される飲料が近年注目されている。
上記水素水に含有されている水素の具体的な挙動や、身体への作用メカニズムの詳細は不明であるものの、分子状の水素が体内の活性酸素(酸素ラジカル)を除去することにより、さまざまな健康増進作用があるものと期待されている。
【0005】
しかしながら、水素のみならず、溶質が気体である場合、一部の気体を除いて水に対して難溶解性であるものが多く、水などの液体溶媒中に溶解可能な量は非常に少ない。
例えば、水素の場合、水に対する飽和溶解量は、20℃で0.806mol/l(約1.6mg/L(1.6ppm))、0℃で0.974mol(1.9mg/L(1.9ppm))となっている。
上記のような気体が溶質である場合、可能な限り多くの量を液体溶媒中に含有させることが生理性機能を発揮しうる為には重要な課題である。
【0006】
液体溶媒に対する気体の溶解量は、ヘンリーの法則に従って液体溶媒に接する気体の圧力に比例することから、より高い圧力で気体と液体溶媒とを接触させることによって、上記気体の溶解量を増大させることが可能である。
ヘンリーの法則を利用して、標準大気圧下における飽和溶解量を超えて気体を溶解させる方法として、既に数種の方法が開示されている。
例えば、特許文献1には、水素を水に溶解させる方法として、圧力容器内に水素を高圧状態で充填し、上記圧力容器内にシャワー状に水を散水することよって水素と水を接触させる方法が開示されている。
また、特許文献2及び特許文献3には、気体透過膜で水と1.2〜2.0気圧(約0.12MPa〜0.20MPa)程度に加圧された水素の相とを仕切り、上記気体透過膜を介して水素を水中に溶解させる方法が開示されている。
上記特許文献1〜3に開示された手法により、水素を、飽和溶解量を超過して水に溶解させることが可能である。
【0007】
しかしながら、上記特許文献1〜3は、水素を水中に溶解させる手法であって、開示され
た手法で水素水を製造し、所定容器に封入したとしても、容器内において水素ガスが抜けていくと共に、大気圧下で容器を開封した場合は、過飽和状態となっている水素ガスがヘンリーの法則に従って短時間で飲料液から抜け出てしまう。
従って、生理活性機能が期待できる溶解量を長時間保持することは非常に困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特許3606466号公報
【特許文献2】特許4551964号公報
【特許文献3】特開2013−169153号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、所定の気体成分を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過した状態で、且つ長時間に亘り液体溶媒中に持続的に分散させる方法であって、特に前記気体成分を分散させた液体溶媒が、飲料液若しくはその原料となり得る、液体溶媒中への気体分散方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
なお、本願において「溶解」とは、液体溶媒に気体、液体、若しくは固体が混合して、「均一な液相を形成」と定義される状態をいう(化学辞典第7刷P1468 株式会社東京化学同人発行)。
また、本願において「分散」とは、ある物質系が他の液体溶媒中に細粒として均一に浮遊した状態をいい、特に液体溶媒中における上記物質系の粒径が10
−5〜10
−7cmにある系の状態と定義される状態をいう(化学辞典第7刷P1278 株式会社東京化学同人発行)。
【0011】
上述の定義を前提とすれば、上記特許文献1乃至3に記載された発明は、いずれも水素を「溶解」させる方法に係るものであり、水素を溶解させた後の液体溶媒(水)は均一の液相のみで構成されている。
従って、液体溶媒中の溶存気体はヘンリーの法則に従い、加圧により、過飽和状態まで所定気体を溶解させたとしても、容器封入後に加圧状態が解除されるか、開封によって大気圧下に置かれた場合には、封入圧若しくは大気圧に従い、当該圧の飽和溶解量にまで溶解量が急激に減少してしまうという課題を有していた。
【0012】
また、気体を溶解させる方法の他に、液体溶媒中に気体を含有させる方法として、所謂マイクロバブルと称される細かい気泡として溶媒中に気体を存在させる方法がある。
具体的な方法としては、高圧下で所定の気体を大量に溶解させた後、急激に減圧することにより、過飽和状態の気体を液体溶媒中において再気泡化させる方法(加圧減圧法)、若しくは渦流(毎秒400〜600回転)を生成し、この中に気体を巻き込むと共に、ファン等により気体を切断・粉砕することで気泡を発生させる手法(気液せん断法)等が挙げられる。
これらの方法によって、液体溶媒中に発生させた細かな気泡は、通常の気泡とは異なり、液面に向かう上昇速度が極めて遅くなる為、少なくとも数分間は液体溶媒中に浮遊した状態で存在することができ、その間、液体溶媒は当該微細な気泡によって白濁したように視認される。
【0013】
上述のマイクロバブルは、上記の定義で言えば「分散」に属する状態と言える。しかしながら、気泡の大きさは数十μm程度と大きく、例えば液体溶媒が飲料液である場合には、飲用前に容器中や、口の中で分散されていた気体が溶媒から放出されてしまうことから、気体成分を体内に取り込むことが困難であった。
従って、過飽和状態に気体が「溶解」した液体溶媒を飲用する場合と比較して、多量の気体成分を摂取できるわけではない。
【0014】
本願発明者らは、鋭意研究の結果、気体を液体溶媒に溶解させるのではなく、分散によって気体を液体溶媒中に保持する方法として、所定の気体透過性能要件を備えた気体透過膜を介し、且つ一定圧以上の圧力で、気体を液体溶媒中に送入することによって、当該気体は液体溶媒中に溶解するだけでなく、マイクロバブルよりも更に微小な極微細気泡の状態で、気相状態を保持したまま液体溶媒中に分散状態で存在させることが可能であることを見出した。
また、上記極微細気泡の粒子は、コロイド粒子様の性質を具備することから、液体溶媒中で帯電して互いに反発し合うことで、凝集して浮き上がりにくく、極微細気泡の状態を保ったまま、安定的に液体溶媒中で分散状態を保持しうるという新規の知見を見出した。
【0015】
即ち本願発明は、
(1)
標準大気圧下における飽和溶解量を超過する量の気体を液体溶媒中に分散させる方法であって、上記気体で満たされた密閉空間の圧力Pが0.2MPa<P≦0.4MPaの範囲にとなるように加圧する加圧調整手段と、気体透過量比Ar/N
2=2以上の気体透過性能を備えた非多孔質膜からなる気体透過膜から形成され、上記液体溶媒と上記気体とを仕切る気体透過手段とを備え、上記気体透過膜を介して、上記気体を、上記液体溶媒中において液相と独立した極微細気泡の状態で分散させることを特徴とする液体溶媒中への気体分散方法。
(2)
上記気体が水素、酸素、窒素、ヘリウムから選択される1種、または2種以上の気体を含むことを特徴とする1の液体溶媒中への気体分散方法。
(3)
上記液体溶媒が水であることを特徴とする1又は2の液体溶媒中への気体分散方法。
(4)
上記気体透過膜が均質膜であることを特徴とする1〜3いずれか1の液体溶媒中への気体分散方法。
(5)
上記気体透過膜がシリコーンゴムから形成されていることを特徴とする1〜4いずれか1の液体溶媒中への気体分散方法。
(6)
上記気体透過膜の厚みが20〜60μmであることを特徴とする1〜5いずれか1の液体溶媒中への気体分散方法。
(7)上記気体で満たされた密閉ハウジング内に複数の中空糸膜を束ねた中空糸膜束からなる1つ又は2以上の中空糸膜モジュールが配置され、それぞれの中空糸膜の内側面に液体溶媒を通液する通液工程と、上記密閉空間内の圧力Pが0.2MPa<P≦0.4MPaの範囲に調整する圧力調整工程とを備え、上記中空糸膜内側面の通液量を上記中空糸膜の単位面積(m
2)あたり、0.5L/min・m
2〜4.5L/min・m
2となるように調整する液体溶媒流速調整工程とを備えることを特徴とする1〜6いずれか1の液体溶媒中への気体分散方法。
(8)
上記中空糸膜モジュールが以下の要件を満たすことを特徴とする7の液体溶媒中への気体分散方法。
(a) 上記中空糸膜モジュールは中空糸膜が4000本〜8000本の中空糸膜束から形成される。(b)上記中空糸膜束の有効長が120〜450mmであること。
(c)上記中空糸膜の気相並びに液相接触面積合計が0.5〜3.0mm
2である。
(9)
液体溶媒中に分散した、気体の極微細気泡が粒径500nm未満に形成されることを特徴とする1〜8いずれか1の液体溶媒中への気体分散方法。
(10)
1〜9いずれか1の方法で液体溶媒中に気体を分散させることを特徴とする気体分散液の製造方法。
(11)
10の方法で得られた気体分散液を少なくとも一部に含有することを特徴とする飲料。
からなるものである。
【発明の効果】
【0016】
本願発明は上記構成を具備することによって、所定の気体成分を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過した状態で、且つ長時間に亘って液体溶媒中持続的に分散させる方法であって、特に気体成分を分散させた該液体溶媒が、飲料液若しくはその原料となり得る液体溶媒中への気体分散方法を提供することができる。
【0017】
本願発明に係る極微細気泡は、大きさが500nm以下に形成されていることから、液体溶媒中にあっても直接的に視認することはできない。従って、見かけ上は溶解している状態と区別できない。
しかしながら、それぞれの気泡は、液体溶媒の液相とは独立して、「気相」として存在していることから、液体溶媒中の気体は、上述したヘンリーの法則には従わず、飽和溶解量を超過した含有量を長時間に亘って保持することができる。
また、液体溶媒が飲料原料である場合、飲用時においても上記極微細気泡は口中で放出され難く、また飲用後に食道や胃などで気泡が凝集せず、対外に放出され難いという特徴がある。
従って、気体成分を液体溶媒に溶解させる場合よりも、多量に体内に取り込むことが可能であり、この結果上記気体成分が有する生理活性機能を発揮させ易い飲料を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】本発明に係る液体溶媒中への気体分散方法の一実施の形態であって、気体透過膜モジュールが中空糸膜モジュールの形態で形成される場合において、上記中空糸膜モジュール、1モジュールの構成を示す断面概略図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
以下、本発明の一実施の形態につき、液体溶媒が水であって且つ気体が水素である場合を例として説明するが、他の液体溶媒並びに気体であっても上述の本願発明の要件を満たす限りにおいて適宜に選択が可能である。
【0020】
(液体溶媒)
本発明の実施形態において、液体溶媒の種類は特に限定されないが、気体分散液が、飲料、若しくはその原料として用いられる場合、上記液体溶媒は水、果汁、野菜汁、コーヒー抽出液、茶抽出液、乳等の飲用に適した液体であることが望ましく、中でも水が最も望ましい。
また、液体溶媒が水である場合、飲用に適していれば、硬水、軟水の種類を問わないが、飲用に好適であるという点、及びコーヒー抽出液や果汁等に添加することを考慮すると、硬度(カルシウム濃度 (mg/L)×2.5 + マグネシウム濃度(mg/L)×4.5の算出値)が120未満であることが望ましい。
【0021】
(脱気処理)
本実施形態にあっては、気体を液体溶媒に溶解させずに極微細気泡の状態で存在させることから、液体溶媒の事前の脱気処理は必ずしも必須ではない。しかしながら、特定気体成分以外の成分を含有させないとの観点から液体溶媒には脱気処理水を用いることが望ましい。
【0022】
(脱イオン処理)
水に対する脱イオン処理とは、水に含まれる水素イオンと水酸化物イオン以外の陽イオン、陰イオンを除去することを意味する。
脱イオン処理により得られた水は一般的に純水と称され、特に理論上の水のイオン積(水素イオン濃度×水酸化物イオン濃度=1.0×10
−14)、導電率5.5×10
−8S/cmに近いものは超純水とも称する。
本実施形態にあっては、液体溶媒中に分散した極微細気泡を安定的に保持する為に液体溶媒中には、所定量の陽イオンが存在していることが望ましいことから、特に脱イオン処理は必要としないが、脱イオン水を用いることを制限するものではない。
【0023】
(気体)
本実施形態において、液体溶媒中に分散させる気体の種類は特に限定されないが、飲料若しくはその原料として用いる場合、少なくとも身体に取り込まれた際に毒性等、悪影響が無い気体であることが必要である。
具体的には水素、窒素、酸素、ヘリウムがあげられる。
特に、微細気泡状態で液体溶媒中に存在させることから、難溶解性の気体が適しており、特に生理活性機能があるとされる水素が好適である。
【0024】
(気体透過膜)
本実施形態において用いられる気体透過膜は、所謂均質膜に分類され従来から気体成分の分離に用いられていた。
本発明の要件である気体透過量比Ar/N
2=2以上の気体透過性能を備えた均質膜からなる気体透過膜である旨の仕様を満足していれば、具体的な種類は問わないが、加圧に対する強度を保持する為、その膜厚は20〜60μmであることが望ましく、30〜60μmがより望ましく、30〜50μmが更に望ましい。
また、気体透過膜の素材としては、ポリエチレン、ポリメチルペンテン、シリコーンゴムから選択できるが、シリコーンゴムから形成された気体透過膜が最も好適である。
なお、シリコーンゴムはポリジメチルシロキサンから形成されていることが望ましい。
【0025】
(気体透過性能)
本発明においては、気体透過膜の気体透過性能は、気体透過量比Ar(アルゴン)/N
2(窒素)が2以上のものを用いる。上記気体透過量比は、アルゴン、及び窒素を、それぞれ透過膜に接する面における圧力を1.0kgf/cm
2に保った時の気体透過量を測定しその比率を算出したものである。
気体透過性能を上記値以上とすることによって、本願発明における効果を発揮させることが可能となる。
(気体の透過機構)
本実施形態に係る均質膜とは、非多孔質膜の一形態であり、多孔質膜に見られるような微細孔は存在しない。
気体の透過は、
(1)気体透過膜への気体分子の溶解
(2)気体透過膜中の気体分子通過
(3)気体透過膜からの気体分子放出
の3段階の機構によって実現される。
本実施形態にあっては、液体溶媒中に分散させる気体で満たされ、且つ所定の圧力に調整された密閉空間において、液体溶媒と上記気体とを仕切るように気体透過膜が配置される。配置された気体透過膜において、気体側に接している面で、上述の(1)の溶解機構が作用して気体透過膜素材に気体が溶解する。
気体透過膜素材に溶解した気体は(2)で気体透過膜素材の分子格子の間隙を介して液体溶媒側に移動し、上記液体溶媒に接している面において上述の(3)の分子放出機構が作用して、気相状態を保持したまま、液体溶媒中に極微細気泡の形態で放出される。
気体が極微細気泡で放出される為には、気相側の圧力が本発明の要件を満たすことが必須である。
【0026】
。
(中空糸膜)
本発明に係る液体溶媒中への気体分散方法は、液体溶媒と気体とを仕切る気体透過膜を配置して、気体側から所定圧力かけることで、該気体透過膜を介して液体溶媒側に気体の極微細気泡を送出ものである。
従って、上述の構成並びに気体の圧力要件を満たす限りにおいて気体透過膜の形態等を特に制約するものではないが、透過対象である気体の接触面積を増大させるともに、装置構成が簡易であって且つ透過効率を向上させるという観点から、上記気体透過膜は、中空糸膜状の形態であることが望ましい。
中空糸膜とは気体透過膜の一利用形態であって、細いストロー状の細管に形成された膜体をいう。上記中空糸膜を多数本束ねた中空糸膜束からなる中空糸膜モジュールは、塩化ビニルの合成樹脂、若しくはアルミ等の金属で形成されたハウジング容器に密閉状態で格納されている。
一般的に個々の中空糸膜1本当たりの直径(内径)は、数mm〜100μm程度であるが、本実施形態にあっては、液体溶媒を効率良く流通させる為に500〜100μmに形成されることが望ましく、300〜100μmであることが更に望ましい。
また、それぞれの中空糸膜の長さは用途に応じて調整することができるが、長すぎると液体溶媒を流す為の圧力が高くなることから、中空糸膜束の形態で両端の固定部を除いた長さ、所謂有効長が450〜120mmに形成されていることが望ましく、300〜100mmがより望ましく、250〜150mmであることが更に望ましい。
また、中空糸膜の膜厚は10μm〜100μm程度に形成されるが、より高い濃度で水素を分散させる為、本実施形態にあっては、20〜60μmであることが望ましく、20〜50μmがより望ましく、30〜50μmが更に望ましい。
【0027】
(膜面積)
なお、本実施形態にあって膜面積の算出は、中空糸膜内外の径差を考慮し、厚みの中間部分における換算値、即ち外面部面積と内面部面積の平均値を示すものとする。
【0028】
本実施形態のように、中空糸膜を介して液体溶媒中に所定の気体を極微細気泡の形態で含有させる場合は、中空糸膜の内側面に液体溶媒を流通させ、中空糸膜の外側、即ち密閉されたハウジング容器の内部には、分散対象の気体を所定圧力で還流させること形態が望ましい。
また、上述とは逆に、中空糸膜内側面に気体を所定の圧力で還流させ、ハウジング内部に液体溶媒を流通する形態を選択することもできるが、気体の圧力調整を容易にするためには、ハウジング内部に分散対象の気体を還流させる形態が望ましい。
【0029】
(分散対象気体の加圧)
中空糸膜等の気体透過膜を介して、液体溶媒中に極微細気泡の状態で気体を送入するためには、気体側を所定以上の圧力に調整することが必要である。
上記圧力は0.2MPa〜0.4MPaであり、0.21〜0.40MPaが好ましく、0.24〜0.30MPaがより好ましく、0.25〜0.30MPaが更に望ましい。上記範囲に気体圧力を調整することによって、液体溶媒中において気体が気相状態を保持しうるように、即ち極微細気泡の状態で送出することが可能となる。
【0030】
以下、本発明の実施形態を液体溶媒が水、分散対象の気体が水素であり、水素を分散させた液体溶媒を飲料として用いる場合を例として更に詳述する。
【0031】
(水素水)
広く水素を含有する水を指すが明確な定義は無い。
なお、学術研究会である「分子状水素医学シンポジウム(事務局:日本医科大学大学院加齢科学専攻細胞生物学分野研究室)」において、「水素水関連消費者が開封したときに分子状水素の溶存濃度が40 μM以上存在している溶液。飽和水素濃度の5%にあたり、80 μg/L(0.08 ppm)を意味する」と定められている。
【0032】
また、水素水は飲用により体内に取り込まれた場合、含有される水素分子の還元力によって、活性酸素が除去されて体内の酸化ストレスを防止するといった効果が期待されている。
【0033】
(容器)
水素水が飲料用である場合、製造した水素水は、例えばウォーターサーバーのような形態で提供する他、所定の容器に封入した形態で提供することもできる。容器は、水素が外部に抜け難く、密封可能なガラス瓶、金属缶、金属積層フィルムを用いた所謂パウチ形態の容器が好適である。金属はアルミ缶が特に好適であり、金属積層フィルムは、アルミニウム/アルミナ蒸着フィルムが特にバリア性に優れており好適である。
【0034】
また、水素水はそのまま飲用することもできるが、本発明に係る方法で製造した水素水を、茶抽出液、コーヒー抽出液、果汁、野菜汁、乳、発酵乳等の飲料原料に添加する添加剤としても用いることができる。
これらの飲料原料に水素水を添加することによって、酸化に起因する各飲料の品質劣化を抑制する効果が期待できる。
【実施例】
【0035】
以下、本発明の実施例について、液体溶媒が水であり気体が水素である場合を一例として説明する。
【0036】
1.水素水の原料
本実施例においては以下の条件並びに装置によって水素水の製造を行った。
(1)液体溶媒
本実施例の液体溶媒には市販の天然水(エビアン:フランス・ダノン社製)を以下の条件で脱気処理したものを使用した。
(脱気水)
脱気水とは、溶存気体を除去した水をいう。溶存気体の除去方法としては任意の公知手法を選択可能であるが、例えば真空若しくは減圧環境下で加熱蒸留を行う方法を採用することができる。
本実施例にあっては、天然水を−0.08MPaの負圧環境で溶存気体の脱気を行い、その後126℃で30秒間殺菌した後、25℃まで冷却したものを使用した。
(2)分散対象気体
本実施例にあっては、液体溶媒中に分散させる気体として水素を用いた。
【0037】
2.水素水の製造方法
(中空糸膜モジュール)
本実施例にあっては、気体透過膜としてハウジング内に収納されたシリコン製の中空糸膜モジュール(永柳工業株式会社製「ナガセップ」型式:M40−6000)を使用した。
なお、本実施例にあっては、一つの中空糸膜モジュール当たりの中空糸膜本数は6000本であり、膜厚は40μmである。中空糸膜の長さ(有効長)は、140〜440mmの範囲のものを使用した。
図1は本実施例に係る中空糸膜モジュールを含む気体透過膜の構造を示す断面概略図である。上記中空糸膜モジュールは、製造規模等に応じて、上記ハウジング内に1又は複数配設することができる。なお、本実施例においてはハウジング内に4つの中空糸膜を配設した。
【0038】
液体溶媒である水の中に水素を分散させる手順を以下に示す。
図1において、10は上記シリコン製の中空糸膜モジュール(以下モジュールと記載する)、11はステンレス若しくは塩化ビニル等の素材からなるハウジング、12は分散対象の気体である水素の送入口、13は水素送出口、14は中空糸膜束、15はハウジング内部の水素、16は液体溶媒(水)の入口、17は水素分散後の液体溶媒(水)の出口をそれぞれ示している。
本モジュール10は水素水の製造ライン(図示せず)中に配設されている。
液体溶媒である脱気済みの天然水(図示せず)からなる水は、液体溶媒入口16から送入され、中空糸膜束14の各中空糸膜の管内部に流通する。
ハウジング内部に満たされた水素15は、中空糸膜束14の各中空糸膜の外側面部から膜素材であるシリコーンゴム(ポリジメチルシロキサン)に溶解して膜内を通過した後、中空糸膜の内側面部から液体溶媒である水中に微細気泡の形態で放出される。
水素が分散され液体溶媒は液体溶媒出口17から送出される。
なお、ハウジング11には、水素送入口12及び水素送出口13が設けられ、水素15は試料毎に0.24〜0.30MPaの圧力を保持しつつハウジング11内部に還流されている。
【0039】
(実施例試料調製)
本実施例にあっては、上記構成の中空糸膜モジュールを用い、液体溶媒である水の種類、中空糸膜束14の中空糸膜の長さ、中空糸膜中に流通する水の流速、ハウジング内に還流させる水素の圧力を変化させて、実施例試料1〜7を調整した。
【0040】
(保存形態)
調製した各試料の水素含有量の経過時間による維持状態を検証する場合、それぞれ表1に示す形態の容器に内部に大気を含ませないように封入した。
なお、パウチ形態に用いたフィルムは、アルミニウム/アルミナ蒸着フィルムであり缶容器等と同じく内部に大気を含ませないように封入したものを用い、所定時間が経過後直ちに内容液の測定を行った。
3.比較例試料の製造
比較例試料は、水素を圧力0.3MPaに調整し、液体溶媒である水が流れる管路内に直接送入し、その後ミキシングモジュール部を通過させて撹拌することで、水素を水中に溶解させたものを、上記ボトル缶形態若しくは、SOT缶に封入し、比較例試料1乃至2とし、更にハウジング内に還流させる水素の圧力が要件の下限値未満としたものを比較例試料3とした。
【0041】
調製した実施例試料1乃至8及び比較例試料1乃至2について、25℃の環境下において未開封状態で保管し、所定期間経過後における水素含有量を測定した。
各試料の調整条件及びそれぞれの試料の水素含有量の経過時間変化を表1に示す。
なお、水素の含有量測定は、ニードル型水素濃度測定器(ユニセンス社製)を用いて測定した。
【0042】
表1において、製造直後から4Lのサンプリング行い室温放置したサンプルおよび容器詰め後2週間経過後の水素含有量(ppm)を基に、評価を行った。尚、容器詰する場合は製造直後に容器に充填し、大気を含ませずに密封した。
【0043】
各試料において、製造直後〜所定時間経過後における水素含有量の変化を測定し、以下基準のもとで評価を行った。
(評価基準):水素含有量(ppm)で評価
◎:2時間後1.6ppm以上、且つ容器詰め2週間後1.2ppm以上
○:2時間後1.6ppm以上、且つ容器詰め2週間後1.0〜1.2ppm未満
△:2時間後1.6ppm以上、且つ容器詰め2週間後0.8〜1.0ppm未満
×:2時間後1.6ppm未満 或いは、容器詰め2週間後0.8ppm未満
【0044】
【表1】
【0045】
(考察)
また、本願に要件満たす限りにおいて、中空糸膜を用いて水素を分散させた場合、撹拌によって水素を溶解させた比較例試料と比べて、水素含有量が高いままの状態で長期に亘っても保持されることが確認された。
2時間後の残存量が良好であることから、製造ライン等における滞留や、様々な製造環境への適応に好適であり、また、水素水サーバーのような形態で、非容器詰飲料として提供する場合にも適していることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、所定の気体成分を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過した状態で、且つ長時間に亘り液体溶媒中に持続的に分散させる方法であって、特に前記気体成分を分散させた液体溶媒が、飲料液若しくはその原料となり得る、液体溶媒中への気体分散方法に利用可能である。
【符号の説明】
【0047】
10 中空糸膜モジュール
11 ハウジング
12 気体(水素)送入口
13 気体(水素)送出口
14 中空糸膜束
15 気体(水素)
16 液体溶媒入口
17 液体溶媒出口
【要約】
【課題】
所定の気体成分を、標準大気圧下における飽和溶解量を超過した状態で、且つ長時間に亘り液体溶媒中に持続的に分散させる方法であって、特に前記気体成分を分散させた液体溶媒が、飲料液若しくはその原料となり得る、液体溶媒中への気体分散方法を提供する。
【解決手段】
標準大気圧下における飽和溶解量を超過する量の気体を液体溶媒中に分散させる方法であって、上記気体で満たされた密閉空間を0.2MPa〜0.4MPaの範囲に加圧する加圧調整手段と、気体透過量比Ar/N
2=2以上の気体透過性能を備えた非多孔質膜からなる気体透過膜から形成され、上記液体溶媒と上記気体とを仕切る気体透過手段とを備え、上記気体透過膜を介して、上記気体を、上記液体溶媒中において液相と独立した極微細気泡の状態で分散させる。
【選択図】
図1