特許第5746441号(P5746441)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746441
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】アクリル酸又はその誘導体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 51/377 20060101AFI20150618BHJP
   C07C 57/065 20060101ALI20150618BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150618BHJP
【FI】
   C07C51/377
   C07C57/065
   !C07B61/00 300
【請求項の数】15
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2014-530979(P2014-530979)
(86)(22)【出願日】2013年4月11日
(65)【公表番号】特表2014-528941(P2014-528941A)
(43)【公表日】2014年10月30日
(86)【国際出願番号】US2013036164
(87)【国際公開番号】WO2013155298
(87)【国際公開日】20131017
【審査請求日】2014年3月12日
(31)【優先権主張番号】61/623,054
(32)【優先日】2012年4月11日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/760,472
(32)【優先日】2013年2月6日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/839,986
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】13/835,187
(32)【優先日】2013年3月15日
(33)【優先権主張国】US
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】590005058
【氏名又は名称】ザ プロクター アンド ギャンブル カンパニー
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ジュアン エステバン ヴェラスケス
(72)【発明者】
【氏名】ジャネット ビラロボス リンゴーズ
(72)【発明者】
【氏名】ディミトリス イオアニス コリアス
(72)【発明者】
【氏名】ジェイン エレン ゴドルースキー
【審査官】 高橋 直子
(56)【参考文献】
【文献】 中国特許出願公開第101176847(CN,A)
【文献】 米国特許第04729978(US,A)
【文献】 特表2005−521718(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第101474572(CN,A)
【文献】 国際公開第2012/156921(WO,A1)
【文献】 THE CANADIAN JOURNAL OF CHEMICAL ENGINEERING,2008年,Vol.86,1047−1053
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 51/377
C07C 57/065
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を製造する方法であって、
ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを、触媒と接触させる工程を含み、
前記触媒が、
a.式(I)で表される一リン酸一水素アニオン:
[HPO42- (I)と、
b.式(II)で表される一リン酸二水素アニオン:
[H2PO4- (II)と、
c.少なくとも2つの異なるカチオンと、を含み、
前記触媒は中性に帯電しており、
更に、前記触媒中、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比が0.110であ
前記少なくとも2つの異なるカチオンが、
(a1)少なくともK+を含む一価カチオンと、
(b1)少なくともBa2+を含む多価カチオンと、を含む方法。
【請求項2】
前記触媒が、
下記式(III)及び(IV)の両方で表される一リン酸塩を包含するか、
IIHPO4 (III)
I2PO4 (IV)、
あるいは下記式(V)で表される一リン酸塩を包含し、
II2-xIxx(HPO42 (V)
前記式中、MIは少なくとも一部にK+を含む一価カチオンであり、MIIは少なくとも一部にBa2+を含む二価カチオンであり、xは0.2〜1.8であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記流れが、
(a)希釈剤と、
(b)空気、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、及びこれらの混合物からなる群から選択される不活性ガスと、を更に含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記流れが、前記触媒と接触する際に、ガス状混合物の形態である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記希釈剤が水を含む、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記ヒドロキシプロピオン酸が乳酸である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項7】
前記乳酸からの前記アクリル酸選択率が少なくとも80%である、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項8】
前記乳酸からのプロピオン酸選択率%未満であ
前記プロピオン酸選択率が、下記式(1):
プロピオン酸のモル収率/モル転化率)×100(%) (1)
で定義され、
前記式(1)中、プロピオン酸のモル収率が、下記式(2):
[プロピオン酸流出量(mol/分)
/ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)]×100(%) (2)
で定義され、
前記式(1)中、モル転化率が、下記式(3):
[ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)−ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流出量(mol/分)]/
[ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)]×100(%) (3)
で定義される、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記乳酸の転化率が80%を超える、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項10】
前記流れを、150℃〜500℃の温度で前記触媒に接触させる、請求項1〜のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記乳酸を、前記触媒に300℃〜450℃の温度で接触させる、請求項1〜10のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
前記ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸、又はこれらの混合物が、前記流れの合計モル数に基づいて、mol%〜10mol%の量で存在する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の方法。
【請求項13】
前記流れを、720-136,000-1のGHSVで前記触媒に接触させる、請求項1〜12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記流れを、kPa(0psig)〜3793kPa(550psig)の圧力で前記触媒に接触させる、請求項1〜13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
前記ガス状混合物中の水の分圧が69kPa(10psi)〜3448kPa(500psi)である、請求項1〜14のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を、触媒作用によりアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に転化する方法に関する。より具体的には、本発明は、脱水反応に有用な触媒を使用して、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を、高収率及び高選択率でアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物とし、短い滞留時間で、かつヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を望ましくない副生成物(例えばアセトアルデヒド、プロピオン酸、酢酸、2,3−ペンタンジオン、二酸化炭素、及び一酸化炭素)に顕著に転化させずに、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に転化する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物は、様々な工業用用途を有し、典型的にはポリマー形成に消費される。またこのポリマーは、とりわけ、例えば、接着剤、結合剤、コーティング、塗料、光沢剤、洗剤、凝集剤、分散剤、チキソトロープ剤、金属イオン封鎖剤、及び超吸収性ポリマー(例えばおむつや衛生用製品を含む使い捨て吸収物品に使用される)の製造に一般的に利用される。アクリル酸は一般に石油資源から製造される。例えば、アクリル酸は長年、プロピレンの触媒的酸化により調製されている。石油資源からのこれら及びその他のアクリル酸製造方法は、Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Vol.1,pgs.342〜369(5th Ed.,John Wiley & Sons,Inc.,2004)に記載されている。石油系アクリル酸は、石油由来の炭素成分が多いため、温室効果ガス排出の一因になっている。更に、石油は再生不可能な材料であり、自然に生成されるには何十万年もの時間がかかる一方、ごく短時間で消費されてしまう。石油化学資源はますます稀少になり、高価になり、CO2排出規制の対象となっているため、石油系のアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に代わる、バイオ系のアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に対するニーズが増大している。
【0003】
過去40〜50年にわたって、バイオ系アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を、例えば乳酸(別名2−ヒドロキシプロピオン酸)、3−ヒドロキシプロピオン酸、グリセリン、一酸化炭素とエチレンオキシド、二酸化炭素とエチレン、及びクロトン酸などの非石油資源から製造しようという試みが数多くなされてきた。これらの非石油資源のうち、今日、乳酸のみが糖から高収率(理論収量の90%以上、又はそれに相当し、糖1g当たり乳酸0.9g以上)かつ高純度で、また石油系アクリル酸に匹敵するコストでアクリル酸製造を支持し得る経済性をもって製造されている。よって、乳酸又は乳酸塩が、バイオ系アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の原材料として利用される現実的な可能性をもたらす。また、3−ヒドロキシプロピオン酸は数年以内に商業規模で製造されることになると見込まれており、よって3−ヒドロキシプロピオン酸は、バイオ系アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の原材料として利用されるもう1つの現実的な可能性をもたらす。乳酸又は乳酸塩を脱水して、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物にするにあたり、これまでに、硫酸塩、リン酸塩、硫酸塩とリン酸塩の混合物、塩基、ゼオライト又は変性ゼオライト、金属酸化物又は変性金属酸化物、及び超臨界水が様々な成功率で主触媒として使用されている。
【0004】
例えば、米国特許第4,786,756号(1988年発行)は、触媒として無機塩基水溶液で処理したリン酸アルミニウム(AlPO4)を用いて、乳酸又は乳酸アンモニウムを気相脱水してアクリル酸にすることについて記述している。一例として、特許番号第4,786,756号は、乳酸をほぼ常圧の反応器に入れたときにアクリル酸の最高収率が43.3%であり、乳酸アンモニウムをこの反応器に入れたときに同収率が61.1%であったことを開示している。両例において、アセトアルデヒドはそれぞれ収率34.7%及び11.9%で生成され、他の副生成物(例えばプロピオン酸、CO、及びCO2)も大量に存在した。塩基処理を省略したところ、この副生成物の量が増大した。別の例は、Ca3(PO42及びCa2(P27)塩を用いて、スラリー混合法で作製した複合体触媒を開発及び試験した、Hong et al.(2011)Appl.Catal.A:General 396:194〜200である。乳酸メチルからアクリル酸を最高収率で得た触媒は、50%−50%(重量比)の触媒であった。この触媒では、390℃で、68%のアクリル酸、約5%のアクリル酸メチル、約14%のアセトアルデヒドが得られた。同じ触媒で、乳酸から、54%のアクリル酸収率、14%のアセトアルデヒド収率、及び14%のプロピオン酸収率が達成された。
【0005】
乳酸又は乳酸エステルの脱水反応によるアクリル酸及び2,3−ペンタンジオンの生成については、Michigan State University(MSU)のD.Miller教授のグループが、Gunter et al.(1994)J.Catalysis 148:252〜260;及びTam et al.(1999)Ind.Eng.Chem.Res.38:3873〜3877など、数多くの論文を発表している。同グループから報告されている最高のアクリル酸収率は、乳酸を、NaOHを含浸させた低表面積及び低細孔容積のシリカの上で350℃にて脱水反応したときの約33%であった。同じ実験で、アセトアルデヒドの収率は14.7%、プロピオン酸の収率は4.1%であった。同グループが試験した他の触媒の例には、Na2SO4、NaCl、Na3PO4、NaNO3、Na2SiO3、Na427、NaH2PO4、Na2HPO4、Na2HAsO4、NaC353、NaOH、CsCl、Cs2SO4、KOH、CsOH、及びLiOHが挙げられる。全ての場合において、上に挙げた触媒は、混合物としてではなく、個別の成分として試験された。最後に、同グループは、シリカ担持体の表面積が小さく、反応温度が高く、反応圧力が低く、かつ反応物の触媒床内滞留時間が短い場合に、アクリル酸の収率が改善され、かつ副生成物の収率が抑えられることを示唆している。
【0006】
最後に、中国特許出願第200910054519.7号は、アルカリ水溶液(例えばNH3、NaOH、及びNa2CO3)又はリン酸塩(例えばNaH2PO4、Na2HPO4、LiH2PO4、LaPO4、など)で修飾したZSM−5モレキュラシーブの使用について開示している。乳酸の脱水反応で達成されたアクリル酸の最高収率は83.9%であったが、ただし、この収率は非常に長い滞留時間で得られたものであった。
【0007】
よって、上述の文献に記述されているようなプロセスによる、乳酸又は乳酸塩からの、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の製造は、1)アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の収率が70%以下であり、2)アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の選択率が低く(すなわち、例えばアセトアルデヒド、2,3−ペンタンジオン、プロピオン酸、CO、及びCO2といった望ましくない副生成物の量が顕著である)、3)触媒床での滞留時間が長く、かつ4)短いオンストリーム時間(TOS)で触媒の不活性化が生じている。副生成物は触媒に付着して汚染を生じ、触媒の早期及び急速な不活性化を引き起こす場合がある。更に、一度付着すると、これらの副生成物が他の望ましくない反応(例えば重合反応)を触媒する可能性がある。触媒への付着以外にも、これらの副生成物は、例え存在量が少量であっても、例えば超吸収性ポリマー(SAP)の製造において、アクリル酸の処理に余計なコストがかかる(反応生成物廃液中に存在する場合)。先行技術のプロセス及び触媒におけるこのような欠点から、商業的には実用可能になっていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】米国特許第4,786,756号
【特許文献2】中国特許出願第200910054519.7号
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Kirk−Othmer Encyclopedia of Chemical Technology,Vol.1,pgs.342〜369(5th Ed.,John Wiley & Sons,Inc.,2004)
【非特許文献2】Hong et al.(2011)Appl.Catal.A:General 396:194〜200
【非特許文献3】Gunter et al.(1994)J.Catalysis 148:252〜260
【非特許文献4】Tam et al.(1999)Ind.Eng.Chem.Res.38:3873〜3877
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
したがって、高収率、高選択率、及び高効率(すなわち滞留時間が短い)、かつ長寿命の触媒を用いて、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の脱水反応により、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を得るための触媒及び方法が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の製造方法が提供される。本発明の一実施形態において、本方法は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを、触媒と接触させる工程を含み、前記触媒は、
a.式(I)で表される一リン酸一水素アニオン:
[HPO42- (I)と、
b.式(II)で表される一リン酸二水素アニオン:
[H2PO4- (II)と、
c.少なくとも2つの異なるカチオンと、を含み、
前記触媒は本質的に中性に帯電しており、更に、前記触媒中、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比が約0.1〜約10である。
【0012】
本発明の別の実施形態において、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の製造方法は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを、式(III)及び(IV)の両方によって表される一リン酸塩を含有する触媒と接触させる工程を包含し:
IIHPO4 (III)
I2PO4 (IV)、
式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンである。
【0013】
本発明の別の実施形態において、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の製造方法は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを、式(V)で表される一リン酸塩を含有する触媒と接触させる工程を含み:
II2-xIxx(HPO42 (V)、
式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンであり、xは約0.2を超え約1.8未満である。
【0014】
本発明の一実施形態において、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を製造する方法は、(a)(i)乳酸と、(ii)水と、(iii)窒素とを含むガス状混合物であって、このガス状混合物の全モル数に基づいて、前記乳酸が約2.5mol%の量で存在し、前記水が約50mol%の量で存在するガス状混合物を、(b)触媒であって、BaHPO4とKH2PO4を約3:2〜約2:3のモル比で合わせて固体混合物を生成する工程と、この固体混合物を粉砕して触媒を生成する工程とを含む方法によって調製された触媒に接触させる工程を包含し、ここで、前記ガス状混合物と前記触媒の接触が、約300℃〜約450℃の温度、約7,200h-1〜約3,600h-1のGHSV及び約360psigの圧力にて、石英又はホウケイ酸ガラスからなる群から選択される材料を含む内側表面を有する反応器内において実施され、これにより、前記乳酸が前記触媒に接触した結果としてアクリル酸が生成される。
【0015】
本発明の追加的な特徴は、実施例とともに以下の詳細な説明の検討によって当業者には明らかとなる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
I定義
本明細書で使用されるとき、用語「一リン酸塩」又は「オルトリン酸塩」は、そのアニオン部分[PO43-が、中央のリン原子の周りにほぼ正四面体配列で配列された4つの酸素原子で構成されているものの任意の塩を指す。
【0017】
本明細書で使用されるとき、用語「縮合リン酸塩」は、PO4四面体の頂点共有により生成された1つ又はいくつかのP−O−P結合を含む任意の塩を指す。
【0018】
本明細書で使用されるとき、用語「ポリリン酸塩」は、PO4四面体の頂点共有による直鎖P−O−P結合を含んで有限の直鎖を形成する、任意の縮合リン酸塩を指す。
【0019】
本明細書で使用されるとき、用語「オリゴリン酸塩」は、5つ以下のPO4単位を含む任意のポリリン酸塩を指す。
【0020】
本明細書で使用されるとき、用語「シクロリン酸塩」は、2つ又は3つ以上の頂点共有PO4四面体からなる任意の環状縮合リン酸塩を指す。
【0021】
本明細書で使用されるとき、用語「超リン酸塩」は、アニオン部分の少なくとも2つのPO4四面体が、隣接する四面体と3つの頂点を共有している、任意の縮合リン酸塩を指す。
【0022】
本明細書で使用されるとき、用語「カチオン」は、正電荷を有する任意の原子又は共有結合原子群を指す。
【0023】
本明細書で使用されるとき、用語「アニオン」は、負電荷を有する任意の原子又は共有結合原子群を指す。
【0024】
本明細書で使用されるとき、用語「一価カチオン」は、+1の正電荷を有する任意のカチオンを指す。
【0025】
本明細書で使用されるとき、用語「多価カチオン」は、+2以上の正電荷を有する任意のカチオンを指す。
【0026】
本明細書で使用されるとき、用語「ヘテロポリアニオン」は、共有結合したXOpとYOrの多面体を備え、これによってX−O−Y結合、並びに可能性としてX−O−X結合及びY−O−Y結合を含む、任意のアニオンを指し、式中XとYは任意の原子を表わし、また式中pとrは任意の正の整数である。
【0027】
本明細書で使用されるとき、用語「ヘテロポリリン酸塩」は、Xがリン(P)を表わし、Yが他の任意の原子を表わす、任意のヘテロポリアニオンを指す。
【0028】
本明細書で使用されるとき、用語「リン酸塩付加物」は、1つ又は複数のリン酸アニオンと、共有結合していない1つ又は複数の非リン酸アニオンとの、任意の化合物を指す。
【0029】
本明細書で使用されるとき、用語「LA」は乳酸を指し、「AA」はアクリル酸を指し、「AcH」はアセトアルデヒドを指し、また「PA」はプロピオン酸を指す。
【0030】
本明細書で使用されるとき、用語「粒径分布」は、所与の粒子サンプルの統計的表現を表わし、(Dv,0.90−Dv,0.10)/Dv,0.50に等しい。用語「中央粒径」又はDv,0.50は、粒子の合計体積の50%がこれより下の範囲に含まれる粒径を指す。更に、Dv,0.10は、体積分画10%で粒子サンプルを分割する粒径を指し、Dv,0.90は、体積分画90%で粒子サンプルを分割する粒径を指す。
【0031】
本明細書で使用されるとき、%で示す用語「転化率」は、[ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)−ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流出量(mol/分)]/[ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)]*100として定義される。本発明の目的のため、用語「転化率」は、他に記載のない限り、モル転化率を意味する。
【0032】
本明細書で使用されるとき、%で示す用語「収率」は、[生成物流出量(mol/分)/ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の流入量(mol/分)]*100として定義される。本発明の目的のため、用語「収率」は、他に記載のない限り、モル収率を意味する。
【0033】
本明細書で使用されるとき、%で示す用語「選択率」は、[収率/転化率]*100として定義される。本発明の目的のため、用語「選択率」は、他に記載のない限り、モル選択率を意味する。
【0034】
本明細書で使用されるとき、h-1単位で表わされる用語「毎時ガス空間速度」又は「GHSV」は、60×[合計ガス流量(mL/分)/触媒床体積(mL)]として定義される。合計ガス流量は、標準温度及び圧力条件(STP、0℃及び1atm)で計算される。
【0035】
本明細書で使用されるとき、h-1単位で表わされる用語「毎時液空間速度」又は「LHSV」は、60×[合計液流量(mL/分)/触媒床体積(mL)]として定義される。
【0036】
II触媒
予期せぬことに、混合一リン酸アニオン含有触媒が、1)アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に関して高い収率及び選択率で、すなわち副生成物が低量かつ少ない種類で、2)高い効率で、すなわち短い滞留時間で、かつ3)長寿命で、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を脱水してアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物にすることが見出された。理論に束縛されるものではないが、出願者らは、少なくとも一リン一水素酸アニオン及び一リン酸二水素アニオン並びに2つの異なるカチオンを包含するこの触媒が、次のように作用すると仮定する:ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物のカルボキシレート基が、1つ又は複数のカチオン(このカチオンは一実施形態において多価である)と、1つ又は両方の酸素原子を介して結合し、その分子を触媒表面に保持して、その脱カルボニル反応を不活性化し、C−OH結合の脱離を活性化させる。次に、結果として生じたプロトン化された一リン酸アニオンは、ヒドロキシル基の一斉プロトン化、メチル基からのプロトンの除去、及び水分子としてのプロトン化ヒドロキシル基の脱離によって、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を脱水反応し、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成し、触媒を再活性化する。更に、出願者らは、一リン酸アニオンの特定のプロトン化状態が、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の脱水反応を促進するために重要であると考える。
【0037】
一実施形態において、触媒は、
a.式(I)で表される一リン酸一水素アニオン:
[HPO42- (I)と、
b.及び、式(II)で表される一リン酸二水素アニオン:
[H2PO4- (II)と、
c.少なくとも2つの異なるカチオンと、
を包含し、前記触媒は本質的に中性に帯電しており、更に、触媒中、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比が、約0.1〜約10である。別の実施形態において、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比は約0.2〜約5である。更に別の実施形態において、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比は約1である。
【0038】
本発明の一実施形態において、触媒は、式(III)及び(IV)の両方で表される一リン酸塩を包含する:
IIHPO4 (III)
I2PO4 (IV)、
式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンである。別の実施形態において、MIIHPO4対MI2PO4のモル比は約0.1〜約10である。別の実施形態において、MIIHPO4対MI2PO4のモル比は約0.2〜約5である。更に別の実施形態において、MIIHPO4対MI2PO4のモル比は約1である。
【0039】
本発明の一実施形態において、触媒は、式(V)で表される一リン酸塩を包含する:
II2-xIxx(HPO42 (V)、
式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンであり、xは約0.2を超え約1.8未満である。本発明の別の実施形態において、xは約1である。
【0040】
別の実施形態において、式(I)で表される一リン酸一水素アニオンは、1つ以上の式[H(1-v)(1+v)(4+3v)2(1+v)-(式中、vは0以上及び1以下である)で表されるリン酸アニオンで置換される。
【0041】
別の実施形態において、式(II)で表される一リン酸二水素アニオンは、1つ以上の式[H2(1-v)PO4-v-(式中、vは0以上及び1以下である)で表されるリン酸アニオンで置換される。
【0042】
このカチオンは一価又は多価であり得る。一実施形態において、1つのカチオンは一価であり、もう一方のカチオンは多価である。別の実施形態において、一価カチオン対多価カチオンのモル比は約0.1〜約10である。別の実施形態において、一価カチオン対多価カチオンのモル比は約0.5〜約5である。本発明の更なる実施形態において、一価カチオン対多価カチオンのモル比は約1である。
【0043】
一実施形態において、多価カチオンは、二価カチオン、三価カチオン、四価カチオン、五価カチオン、及びこれらの混合物からなる群から選択される。一価カチオンの非限定的な例には、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、Ag+、Rb+、Tl+、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、この一価カチオンは、Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、及びこれらの混合物からなる群から選択され、別の実施形態において、この一価カチオンは、Na+又はK+であり、更に別の実施形態において、この一価カチオンはK+である。多価カチオンの非限定的な例は、アルカリ土類金属(すなわち、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、及びRa)、遷移金属(例えば、Y、Ti、Zr、V、Nb、Cr、Mo、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ni、Pd、Pt、Cu、Ag、及びAu)、卑金属(例えば、Zn、Ga、Si、Ge、B、Al、In、Sb、Sn、Bi、及びPb)、ランタニド(例えば、La及びCe)、及びアクチニド(例えば、Ac及びTh)である。一実施形態において、多価カチオンは、Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+、Sn2+、Pb2+、Ti3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Al3+、Ga3+、Y3+、In3+、Sb3+、Bi3+、Si4+、Ti4+、V4+、Ge4+、Mo4+、Pt4+、V5+、Nb5+、Sb5+、及びこれらの混合物からなる群から選択される。一実施形態において、この多価カチオンは、Ca2+、Ba2+、Cu2+、Mn2+、Mn3+、及びこれらの混合物からなる群から選択され、別の実施形態において、この多価カチオンは、Ca2+、Ba2+、Mn2+、及びこれらの混合物からなる群から選択され、更に別の実施形態において、この多価カチオンは、Ba2+である。
【0044】
この触媒は、次のカチオンを包含できる:(a)Li+、Na+、K+、Rb+、Cs+、又はこれらの混合物;及び(b)Be2+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Mn2+、Fe2+、Co2+、Ni2+、Cu2+、Zn2+、Cd2+、Sn2+、Pb2+、Ti3+、Cr3+、Mn3+、Fe3+、Al3+、Ga3+、Y3+、In3+、Sb3+、Bi3+、Si4+、Ti4+、V4+、Ge4+、Mo4+、Pt4+、V5+、Nb5+、Sb5+、又はこれらの混合物。一実施形態において、この触媒は、一価カチオンとしてLi+、Na+、又はK+と、多価カチオンとしてCa2+、Ba2+、Mn2+、又はMn3+を含み;別の実施形態において、この触媒は一価カチオンとしてK+と、多価カチオンとしてCa2+、Ba2+、又はMn2+を含み;更に別の実施形態において、この触媒は一価カチオンとしてK+と、多価カチオンとしてBa2+を含む。
【0045】
この触媒は、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭素、金属酸化物、及びこれらの混合物を含む材料で構成される不活性担持体を含み得る。あるいは、この担体は、触媒に接触する予定の反応混合物に対して不活性である。本明細書に明示的に記述される反応に関連して、一実施形態において、この担体は低表面積のシリカ又はジルコニアである。担体が存在する場合、これは、触媒の合計重量に対して約5重量%〜約98重量%の量を示す。一般に、不活性担持体を含む触媒は、2つの代表的な方法である含浸又は共沈のうち一方によって製造することができる。含浸方法においては、固体不活性担持体の懸濁液を、プレ触媒の溶液で処理し、結果として得られた物質を、プレ触媒からより活性の状態へと転化する条件下で活性化する。共沈方法においては、触媒成分の均一な溶液が、付加構成成分の添加により沈殿される。
【0046】
III触媒調製方法
本発明の一実施形態において、触媒を調製する方法には、少なくとも2つのリン含有化合物を混合する工程が含まれ、ここで前記化合物はそれぞれ、式(V)〜(XXV)の1つで表される化合物、又はこれらの式の任意の水和形態:
【0047】
【表1】
式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンであり、MIIIは三価カチオンであり、MIVは四価カチオンであり、aは0、1、2、又は3であり、hは0、1、2、3、又は4であり、iは0、1、又は2であり、jは0又は任意の正の整数であり、b、c、d、e、f、g、k、l、m、n、p及びqは、方程式2b=c+3d、3e=f+3g、r=2k+l、及びs=3q+pが満足されるような任意の正の整数である。別の実施形態において、この触媒の調製方法は、リン含有化合物を、混合後に、水を含むガス状混合物と接触させる工程を包含する。
【0048】
一実施形態において、この触媒は、1つ以上の式(VI)のリン含有化合物(式中、aは1である)と、1つ以上の式(VII)のリン含有化合物(式中、aは2である)とを混合することによって調製される。別の実施形態において、この触媒は、KH2PO4をBaHPO4又はCaHPO4と混合することによって調製される。
【0049】
別の実施形態において、この触媒は、(a)1つ以上の式(VI)のリン含有化合物(式中、aは1である)と、1つ以上の式(XVI)のリン含有化合物(式中、iは2である)とを混合する工程と、(b)このリン含有化合物の混合物を、水を含有するガス状混合物と接触させる工程とを包含する方法によって調製される。別の実施形態において、リン含有化合物は、KH2PO4及びBa227又はCa227である。
【0050】
別の実施形態において、この触媒は、(a)1つ以上の式(VII)のリン含有化合物(式中、aは2である)と、1つ以上の式(XIX)のリン含有化合物(式中、jは0である)とを混合する工程と、(b)このリン含有化合物の混合物を、水を含有するガス状混合物と接触させる工程とを包含する方法によって調製される。別の実施形態において、リン含有化合物は、(KPO3w及びBaHPO4又はCaHPO4(式中、wは2を超える整数である)である。
【0051】
更に別の実施形態において、この触媒は、(a)1つ以上の式(XVI)のリン含有化合物(式中、iは2である)と、1つ以上の式(XIX)のリン含有化合物(式中、jは0である)とを混合する工程と、(b)このリン含有化合物の混合物を、水を含有するガス状混合物と接触させる工程とを包含する方法によって調製される。別の実施形態において、リン含有化合物は(KPO3w及びBa227又はCa227(式中、wは2を超える整数である)である。
【0052】
本発明の一実施形態において、触媒を調製する方法は、以下のものを混合及び加熱する工程を包含する:(a)少なくとも1つのリン含有化合物であって、それぞれ式(VI)〜(XXV)の1つで表される化合物、又はこれらの式の任意の水和形態:
【0053】
【表2】
(式中、MIは一価カチオンであり、MIIは二価カチオンであり、MIIIは三価カチオンであり、MIVは四価カチオンであり、aは0、1、2、又は3であり、hは0、1、2、3、又は4であり、iは0、1、又は2であり、jは0又は任意の正の整数であり、b、c、d、e、f、g、k、l、m、n、p及びqは、方程式2b=c+3d、3e=f+3g、r=2k+l、及びs=3q+pが満足されるような任意の正の整数である);及び(b)硝酸塩、炭酸塩、酢酸塩、金属酸化物、塩化物塩、硫酸塩、及び金属水酸化物からなる群から選択される非リン含有化合物であって、式(XXVI)〜(L)の1つで表される化合物、又はこれらの式の任意の水和形態:
【0054】
【表3】
【0055】
別の実施形態において、この非リン含有化合物は、カルボン酸誘導体塩、ハロゲン化物塩、金属アセチルアセトナート、及び金属アルコキシドからなる群から選択され得る。
【0056】
別の実施形態において、この触媒の調製方法は、リン含有化合物及び非リン含有化合物を、混合後に、水を含むガス状混合物と接触させる工程を包含する。
【0057】
一実施形態において、この触媒は、1つ以上の式(VI)のリン含有化合物(式中、aは2である)と、式(VI)のリン含有化合物(式中、aは0である)(すなわち、リン酸)と、1つ以上の式(XXVII)の硝酸塩との混合及び加熱を包含する工程によって調製される。更に別の実施形態において、この触媒は、K2HPO4、H3PO4、及びBa(NO32を混合及び加熱することによって調製される。更に別の実施形態において、この触媒は、K2HPO4、H3PO4、及びCa(NO32を混合及び加熱することによって調製される。更に別の実施形態において、この触媒は、K2HPO4、H3PO4、及びMn(NO32・4H2Oを混合及び加熱することによって調製される。
【0058】
本発明の一実施形態において、この触媒の調製方法は、(a)水を含むガス状混合物を、(b)式(LI)〜(LIII)からなる群から選択される縮合リン酸アニオンを少なくとも1つ含有する化合物の混合物と接触させる工程を包含する。
【0059】
【表4】
(式中、nは少なくとも2であり、mは少なくとも1であり、前記化合物の混合物は本質的に中性に帯電しており、更に、触媒中のリンの一価及び多価カチオンに対するモル比は、約0.7〜約1.7である。別の実施形態において、リン対一価及び多価カチオンのモル比は約1である。)
【0060】
更に別の実施形態において、この触媒は、(a)水を含むガス状混合物を、(b)Ba2-y-z2y2z27、Ca2-y-z2y2z27、Mn1-y-z1+3y3z27、Mn1-y-z2+2y2z27、及びこれらの混合物;及び(KPO3wからなる群から選択される縮合リン酸塩を含有する化合物の混合物(式中、y及びzは0以上及び約0.5未満であり、wは2を超える整数である)と接触させる工程を包含する方法によって調製される。
【0061】
一実施形態において、この触媒は、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭素、金属酸化物、及びこれらの混合物を含む材料で構成される不活性担持体を含み得る。あるいは、この担体は、触媒に接触する予定の反応混合物に対して不活性である。別の実施形態において、この触媒の調製方法は、リン含有化合物を混合する前、混合する間、又は混合した後に、不活性担持体をこの触媒と混合する工程を更に含み、この不活性担持体には、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭素、金属酸化物、及びこれらの混合物が包含される。更に別の実施形態において、この触媒の調製方法は、リン含有化合物と非リン酸含有化合物とを混合及び加熱する工程の前、その間、又はその後に、不活性担体をこの触媒と混合する工程を更に含み、この不活性担持体には、ケイ酸塩、アルミン酸塩、炭素、金属酸化物、及びこれらの混合物が包含される。
【0062】
触媒の、リン含有化合物の混合、又はリン含有化合物と非リン含有化合物との混合は、例えば固体混合及び共沈が挙げられるがこれらに限定されない当業者に周知の任意の方法によって実施することができる。固体混合方法においては、様々な構成成分が、例えば、剪断、伸展、捏和、押出、及びその他の方法が挙げられるがこれらに限定されない当業者に周知の任意の方法を用いて、所望による粉砕工程を伴って物理的に混合される。共沈方法においては、1つ又は複数のリン酸塩化合物を含む様々な構成成分の水溶液又は懸濁液が調製され、次いで所望による濾過と加熱によって、溶媒及び揮発性物質(例えば水、硝酸、二酸化炭素、アンモニア、又は酢酸)が除去される。この加熱は通常、例えば、対流、伝導、放射、マイクロ波加熱、及びその他の方法が挙げられるがこれらに限定されない当業者に周知の任意の方法を用いて行われる。
【0063】
混合の後、触媒は、一実施形態において、粉砕及び篩い分けされて、より均一な生成物を与える。触媒粒子の粒径分布は、一実施形態において、約3未満の粒径分布を含み、別の実施形態において、触媒粒子の粒径分布が約2未満の粒径分布を含み、更に別の実施形態において、触媒粒子の粒径分布が約1.5未満の粒径分布を含む。本発明の別の実施形態において、この触媒は、約50μm〜約500μmの中央粒径に篩い分けられる。本発明の別の実施形態において、この触媒は、約100μm〜約200μmの中央粒径に篩い分けられる。
【0064】
触媒は、複数の化学反応を触媒するために利用できる。反応の非限定的な例としては、ヒドロキシプロピオン酸からアクリル酸への脱水反応(詳しくは後述される)、グリセリンからアクロレインへの脱水反応、脂肪族アルコールからアルケン又はオレフィンへの脱水反応、脂肪族アルコールからエーテルへの脱水素反応、その他の脱水素反応、加水分解、アルキル化、脱アルキル化、酸化、不均化、エステル化、環化、異性化、縮合、芳香化、重合及び当業者に周知であり得るその他の反応が挙げられる。
【0065】
本発明の一実施形態において、この触媒は、BaHPO4とKH2PO4とを約3:2〜約2:3のモル比で組み合わせて固体混合物を生成する工程と、この固体混合物を粉砕して触媒を生成する工程とを包含する方法によって調製される。
【0066】
本発明の別の実施形態において、触媒は、(a)BaHPO4とKH2PO4とを約3:2〜約2:3のモル比で合わせて固体混合物を生成する工程と;(b)この固体混合物を粉砕して混合粉末を生成する工程と;(c)この混合粉末を約550℃で焼成して縮合リン酸塩混合物を生成する工程と;(d)この縮合リン酸塩混合物を、水と乳酸とを含むガス状混合物に約350℃の温度及び約25barの全圧にて接触させて触媒を生成する工程(ここで、ガス状混合物中の水の分圧は約12.5barである)とを包含する方法によって調製される。
【0067】
本発明の更に別の実施形態において、触媒は、(a)K2HPO4、Ba(NO32、H3PO4、及び水を合わせて湿潤混合物を生成し、その際Ba(NO32、K2HPO4、及びH3PO4のモル比が約3:1:4である工程と;(b)この湿潤混合物を、ほぼ乾燥するまで撹拌しながら約80℃に加熱し、湿潤固体を生成する工程と;(c)この湿潤固体を、約50℃、約80℃、約120℃、及び約450℃〜約550℃で段階的に加熱して乾燥固体を生成する工程と;(d)この乾燥固体を水と乳酸とを含むガス状混合物に約350℃の温度及び約25barの全圧にて接触させて触媒を生成する工程(ここで、ガス状混合物中の水の分圧は約12.5barである)とを包含する方法によって調製される。
【0068】
IVアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物の製造方法
ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を脱水してアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物とする方法が提示される。
【0069】
別の触媒は、非リン含有アニオン、ヘテロポリアニオン、及びリン酸塩付加物からなる群から選択されるアニオンと、少なくとも2つの異なるカチオンとを含み、この触媒は本質的に中性に帯電し、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を脱水してアクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物に転化するのに利用できる。非リン含有アニオンの非限定的な例としては、ヒ酸塩、縮合ヒ酸塩、硝酸塩、硫酸塩、ホウ酸塩、炭酸塩、クロム酸塩、バナジウム酸塩、ニオブ酸塩、タンタル酸塩、セレン酸塩、及び当業者に周知のその他のモノマーオキソアニオン又はポリオキソアニオンが挙げられる。ヘテロポリアニオンの非限定的な例には、ヒ素酸リン酸塩のようなヘテロポリリン酸塩、ホスホアルミン酸塩、ホスホホウ酸塩、ホスホクロム酸塩(phosphocromates)、ホスホモリブデン酸、ホスホケイ酸塩、ホスホ硫酸塩、ホスホタングステン酸、及びその他の当業者に周知であり得るものが挙げられる。リン酸塩付加物の非限定的な例には、リン酸アニオンのテルル酸、ハロゲン化物、ホウ酸塩、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、クロム酸塩、ケイ酸塩、シュウ酸塩、これらの混合物、又は当業者に周知であり得るその他ものとの付加物が挙げられる。
【0070】
ヒドロキシプロピオン酸は、3−ヒドロキシプロピオン酸、2−ヒドロキシプロピオン酸(乳酸とも呼ばれる)、又はこれらの混合物であり得る。一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸は乳酸である。ヒドロキシプロピオン酸の誘導体は、ヒドロキシプロピオン酸の金属塩又はアンモニウム塩、ヒドロキシプロピオン酸のアルキルエステル、ヒドロキシプロピオン酸オリゴマー、ヒドロキシプロピオン酸の環状ジエステル、無水ヒドロキシプロピオン酸、又はこれらの混合物であり得る。ヒドロキシプロピオン酸の金属塩の非限定的な例には、ヒドロキシプロピオン酸ナトリウム、ヒドロキシプロピオン酸カリウム、及びヒドロキシプロピオン酸カルシウムが挙げられる。ヒドロキシプロピオン酸のアルキルエステルの非限定的な例には、ヒドロキシプロピオン酸メチル、ヒドロキシプロピオン酸エチル、ヒドロキシプロピオン酸ブチル、ヒドロキシプロピオン酸2−エチルヘキシル、又はこれらの混合物が挙げられる。ヒドロキシプロピオン酸の環状ジエステルの非限定的な例には、ジラクチドが挙げられる。
【0071】
アクリル酸誘導体は、アクリル酸の金属塩又はアンモニウム塩、アクリル酸のアルキルエステル、アクリル酸オリゴマー、又はこれらの混合物であり得る。アクリル酸の金属塩の非限定的な例には、アクリル酸ナトリウム、アクリル酸カリウム、及びアクリル酸カルシウムが挙げられる。アクリル酸のアルキルエステルの非限定的な例には、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、又はこれらの混合物が挙げられる。
【0072】
ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れには、液体流と不活性ガス(すなわち、本方法の条件下で反応混合物に対して不活性なガス)が含まれてよく、これは、流れをガス状にするために触媒反応器の上流の蒸発容器に、別々に又は一緒に供給することができる。液体流には、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物と、希釈剤とが含まれ得る。希釈剤の非限定的な例には、水、メタノール、エタノール、アセトン、C3〜C8直鎖及び分枝状アルコール、C5〜C8直鎖及び分枝状アルカン、酢酸エチル、不揮発性エーテル(ジフェニルエーテルを含む)及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、希釈剤は、水を含む。別の実施形態において、この液体流は、乳酸水溶液、あるいは、ラクチド、乳酸オリゴマー、乳酸塩、及び乳酸アルキルからなる群から選択される乳酸誘導体の水溶液を含む。一実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約2重量%〜約95重量%の乳酸又は乳酸誘導体を含む。別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約5重量%〜約50重量%の乳酸又は乳酸誘導体を含む。別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約10重量%〜約25重量%の乳酸又は乳酸誘導体を含む。別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約20重量%の乳酸又は乳酸誘導体を含む。別の実施形態において、この液体流は、乳酸誘導体を伴う乳酸の水溶液を含む。別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約30重量%未満の乳酸誘導体を含む。別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約10重量%未満の乳酸誘導体を含む。更に別の実施形態において、この液体流は、液体流の合計重量に基づいて、約5重量%未満の乳酸誘導体を含む。
【0073】
不活性ガスとは、本方法の条件下で反応混合物に対して不活性のガスである。不活性ガスの非限定的な例には、窒素、空気、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素、一酸化炭素、水蒸気、及びこれらの混合物が挙げられる。一実施形態において、この不活性ガスは窒素である。
【0074】
ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に接触する際にガス状混合物の形態であり得る。一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の濃度(STP条件下で計算)は、この流れの合計モル数に基づいて約0.5mol%〜約50mol%である。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の濃度(STP条件下で計算)は、この流れの合計モル数に基づいて約1mol%〜約10mol%である。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の濃度(STP条件下で計算)は、この流れの合計モル数に基づいて約1.5mol%〜約3.5mol%である。更に別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の濃度(STP条件下で計算)は、この流れの合計モル数に基づいて約2.5mol%である。
【0075】
一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを触媒に接触させる温度は、約120℃〜約700℃である。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを触媒に接触させる温度は、約150℃〜約500℃である。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを触媒に接触させる温度は、約300℃〜約450℃である。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れを触媒に接触させる温度は、約325℃〜約400℃である。
【0076】
一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に、約720h-1〜約36,000h-1のGHSVで接触させる。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に、約1,800h-1〜約7,200h-1のGHSVで接触させる。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に、約3,600h-1のGHSVで接触させる。
【0077】
一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に、約0psig〜約550psigの圧力で接触させる。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、触媒に、約360psigの圧力で接触させる。
【0078】
一実施形態において、希釈剤は水を含み、ガス状混合物中の水の分圧は、約10psi〜約500psiである。一実施形態において、ガス状混合物中の水の分圧は、約15psi〜約320psiである。更に別の実施形態において、ガス状混合物中の水の分圧は、約190psiである。
【0079】
一実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、石英、ホウケイ酸ガラス、ケイ素、ハステロイ、インコネル、人造サファイア、ステンレス鋼、及びこれらの混合物からなる群から選択される材料を含む内側表面を有する反応器内で、触媒に接触させる。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、石英又はホウケイ酸ガラスからなる群から選択される材料を含む内側表面を有する反応器内で、触媒に接触させる。別の実施形態において、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含む流れは、ホウケイ酸ガラスを含む内側表面を有する反応器内で、触媒に接触させる。
【0080】
一実施形態において、この方法は、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を少なくとも50%の収率で製造するのに十分な条件下で、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含むガス状混合物に触媒を接触させる工程を含む。別の実施形態において、この方法は、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を少なくとも約70%の収率で製造するのに十分な条件下で、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含むガス状混合物に触媒を接触させる工程を含む。別の実施形態において、この方法は、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を少なくとも約80%の収率で製造するのに十分な条件下で、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物を含むガス状混合物に触媒を接触させる工程を含む。別の実施形態において、この方法の条件は、少なくとも約50%の選択率で、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分である。別の実施形態において、この方法の条件は、少なくとも約70%の選択率で、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分である。別の実施形態において、この方法の条件は、少なくとも約80%の選択率で、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分である。別の実施形態において、この方法の条件は、不純物としてプロパン酸を伴い、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分であり、この場合プロパン酸の選択率は約5%未満である。別の実施形態において、この方法の条件は、不純物としてプロパン酸を伴い、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分であり、この場合プロパン酸の選択率は約1%未満である。別の実施形態において、この方法の条件は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の転化率が約50%超で、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分である。別の実施形態において、この方法の条件は、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシプロピオン酸誘導体、又はこれらの混合物の転化率が約80%超で、アクリル酸、アクリル酸誘導体、又はこれらの混合物を生成するのに十分である。
【0081】
上述の実施形態によって達成可能な利点の1つが、副生成物が低収率であることである。一実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から約6%未満の収率でプロピオン酸を生成するのに十分である。別の実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から約1%未満の収率でプロピオン酸を生成するのに十分である。一実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から酢酸、ピルビン酸、1,2−プロパンジオール、及び2,3−ペンタンジオンのそれぞれを約2%未満の収率で生成するのに十分である。別の実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から酢酸、ピルビン酸、1,2−プロパンジオール、及び2,3−ペンタンジオンのそれぞれを約0.5%未満の収率で生成するのに十分である。一実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から約8%未満の収率でアセトアルデヒドを生成するのに十分である。別の実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から約4%未満の収率でアセトアルデヒドを生成するのに十分である。別の実施形態において、この条件は、ガス状混合物中に存在する乳酸から約3%未満の収率でアセトアルデヒドを生成するのに十分である。これらの収率は、以前は、達成不可能な低さであると考えられていたものである。しかし、これらの利益は、下記の実施例において更に実証されているように、実際に達成可能である。
【0082】
グリセリンを脱水してアクロレインとする方法が提示される。この方法は、グリセリンを含有する流れを:(a)式(I)及び(II)で表される一リン酸一水素アニオン及び一リン酸二水素アニオン:
[HPO42- (I)、
[H2PO4- (II)と、
(b)少なくとも2つの異なるカチオンと、を含む触媒に接触させる工程を包含し、これにより、グリセリンが触媒と接触した結果としてアクロレインが生成する(触媒は本質的に中性に帯電し、更に、触媒中、一リン酸二水素アニオンに対する一リン酸一水素アニオンのモル比が約0.1〜約10である)。アクロレインは中間体であり、プロピレンをアクリル酸に転化するプロセスにおける第2酸化工程で今日使用されている条件と類似の条件を用いて、アクリル酸に転化させることができる。
【実施例】
【0083】
以下の実施例は、本発明を説明するものであり、発明の範囲を制限することを意図したものではない。実施例1〜3は、上述の様々な実施形態に従って、異なる混合縮合リン酸塩触媒の調製について記述している。
【0084】
(実施例1)
触媒調製:
リン酸水素バリウムBaHPO4(20g、85.7mmol、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号31139)を、リン酸二水素カリウムKH2PO4(7.8g、57.1mmol、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号60216)と合わせた。この混合物を、乳鉢及び乳棒を用いて、微粉末が得られるまで粉砕した。この物質を、自然対流式オーブンを用いて105℃で2時間乾燥し、触媒を生成した。最後に、得られた物質をX線回折(XRD)により分析し、BaHPO4及びKH2PO4が予想通り同定された。
【0085】
触媒試験:
触媒を、第VI節に記載した反応器システムを用いて、L−乳酸(2.4mol%)、水(49.6mol%)、及び窒素(48.0mol%)を含有するガス状混合物と接触させた。反応を350℃及び360psigで実施し、水の分圧186psiを得た。結果を第VII節の表1にまとめる。
【0086】
(実施例2)
触媒調製:
リン酸水素バリウムBaHPO4(20g、85.7mmol、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号31139)を、リン酸二水素カリウムKH2PO4(7.8g、57.1mmol、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号60216)と合わせた。この混合物を、乳鉢及び乳棒を用いて、微粉末が得られるまで粉砕した。この物質を、自然対流式オーブンを用いて550℃で27時間焼成した。焼成後、この物質を、自然冷却されるまでオーブン内に放置した。最後に、この触媒を粉砕し、約100μm〜約200μmに篩い分けを行った。この物質をXRDで分析し、α−Ba227及びKPO3を同定した。
【0087】
触媒試験:
触媒を、第VI節に記載した反応器システムを用いて、L−乳酸(2.4mol%)、水(49.6mol%)、及び窒素(48.0mol%)を含有するガス状混合物と接触させた。反応を350℃及び360psigで実施し、水の分圧186psiを得た。結果を第VII節の表1にまとめる。
【0088】
(実施例3)
触媒調製:
硝酸バリウムBa(NO32水溶液(3414mLの0.08g/mL原液、1.04mol、99.999%、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号202754)を、室温で、固体のリン酸二水素カリウムK2HPO4(60.7g、0.35mol、≧98%、Sigma−Aldrich Co.(St.Louis,MO)、カタログ番号P3786)に加えた。リン酸H3PO4(85重量%を98mL、密度=1.684g/mL、1.44mmol、Acros Organics(Geel、Belgium)、カタログ番号295700010)をこのスラリーに加え、カリウム(K+、MI)カチオンとバリウム(Ba2+、MII)カチオンとを含む溶液を得た。この懸濁液の最終pHは約1.6であった。この酸含有懸濁液を、液体が蒸発し物質がほぼ完全に乾燥状態になるまで、懸濁液を磁気的に撹拌しながら、加熱板を用いて80℃でガラスビーカー内でゆっくりと乾燥させた。蒸発後、この物質をセラミックルツボ(crushable)に移した。空気循環オーブン(N30/80HA、Nabertherm GmbH(Lilienthal、Germany))内で50℃で2時間加熱を続け、次いで80℃で10時間(勾配0.5℃/分)、120℃で2時間(勾配0.5℃/分)加熱して残留水分を除去し、更に450℃で4時間(勾配2℃/分)で焼成した。焼成後、この材料を、100℃以下になるまでオーブン内で自然に冷ましてから、オーブンから取り出した。最後に、この触媒を粉砕し、約100μm〜約200μmに篩い分けを行った。この物質をXRD及びエネルギー分散分光法−走査型電子顕微鏡(EDS/SEM)を用いて分析し、σ−Ba227、α−Ba3413、Ba(NO32、(KPO3w、及びおそらく縮合リン酸塩を顕著な量のカリウム及びバリウムと共に含む追加相を同定した。全Ba含有相内へのいくらかのKの取り込みも検出された。XRDによって同定された縮合リン酸塩中のリン(P)対カチオン(MI及びMII)のモル比は、約1〜約1.3であった。
【0089】
触媒試験:
この触媒を、第VI節に記載した反応器システムを用いて、L−乳酸(2.3mol%)と、水(49.9mol%)と、窒素(47.8mol%)とを含有するガス状混合物と接触させた。反応を350℃及び360psigで実施し、水の分圧187psiを得た。結果を第VII節の表1にまとめる。
【0090】
反応完了後、全圧を360psigに維持し、水(50.6mol%)と窒素(49.4mol%)とを含有するガス状混合物を流しながら、触媒を236℃まで冷却した。続いて、同じガス状混合物を流しながら、全圧200psigにて温度を213℃まで低下させた後、全圧100psigにて180℃まで及び10psigにて125℃までの追加の冷却工程を行った。冷却後、触媒をXRD及びEDS/SEMにより分析し、BaHPO4、見掛けの化学組成がBa2-xxx(HPO42の混合相、並びに少量のBa(H2PO42及び(KPO3w(式中、xは約1であり、wは2を超える整数である)が同定された。
【0091】
VI試験手順
XRD:STADI−P透過モード回折計(Stoe & Cie GmbH(Darmstadt、Germany))で、広角データ(WAXS)を収集した。発生器は、銅アノードロングファインフォーカス銅X線管を40kV/40mAで作動させて使用した。回折計には入射ビーム曲面ゲルマニウム結晶モノクロメーター、標準入射ビームスリットシステム、及び画像プレート位置感受性検出器(角度範囲約124°2θ)が組み込まれている。データは透過モードで収集された。サンプルは、必要に応じて、乳鉢と乳棒を用いて穏やかに均一な微粉末に粉砕してから、機器の標準サンプルホルダーに搭載した。Jade(Materials Data,Inc.v9.4.2)のSearch/Matchルーチンを使い、最新の粉末回折データベース(ICDD)を用いて、結晶相の同定が行われた。
【0092】
SEM/EDS:乾燥粉末を、銅又は炭素の両面テープに散布し、これを金属走査型電子顕微鏡(SEM)基板上に取り付けた。各検体を、Gatan Alto 2500 Cryo準備チャンバを用い、約65〜80sのAu/Pdでコーティングした。SEM画像&エネルギー分散型X線分析装置(EDS)マッピングは、Hitachi S−4700 FE−SEM又はHitachi S−5200インレンズFE−SEM(Hitachi Ltd.(日本・東京))のいずれかを用いて実施された(これらは両方とも、Bruker XFlash 30mm2 SDD検出器付きEDS(Quantax 2000システム、5030検出器付き、Bruker Corp.(Billerica、MA))を備えている)。EDSマッピングは、分析プローブ電流モードで加速電圧10kVを使用して実施された。マップは全て、Hypermapモジュール内でBruker Esprit V1.9ソフトウェアを使用して生成された。
【0093】
反応器:長さ13インチ(330mm)、内径(ID)4.0mmのステンレス鋼製ガラスライニング管(SGE Analytical Science Pty Ltd.(Ringwood、Australia))にグラスウール(床長さ3インチ/76mm)を充填し、上に触媒(床体積1.6cm3、床長さ5インチ/127mm)を乗せて、2.55cm3の充填床(8インチ/203mm)と、反応器の上側に1.6cm3(5インチ/127mm)の自由空間を形成した。この管をアルミニウム製ブロックの内部に配置し、クラムシェル炉シリーズ3210(Applied Test Systems(Butler、PA))内に、充填床の上面がアルミニウム製ブロックの上面に整列するように入れた。この反応器を下方流配置にセットアップし、Knauer Smartline 100供給ポンプ(Berlin、Germany)、Brooks 0254ガス流量コントローラー(Hatfield、PA)、Brooks背圧調製器、及びキャッチタンクを備えた。反応の過程中に反応器の壁温度が約350℃で一定に維持されるよう、クラムシェル炉を加熱した。この反応器には別個の液体供給とガス供給が備えられ、これらが混合されてから触媒床に達するようにされた。ガス供給は、約360psig、流量45mL/分の窒素分子(N2)で構成された。液体供給は、乳酸水溶液(20重量% L−乳酸)が0.045mL/分で供給された。反応器を通って流れた後、ガス状混合物を冷却し、液体をキャッチタンクに回収し、ダイオードアレイ検出器(DAD)及びWaters Atlantis T3カラム(カタログ番号186003748;Milford,MA)を備えたAgilent 1100システム(Santa Clara,CA)によるオフラインHPLC分析を、当業者により一般的に既知の方法を使用して行った。ガス状混合物を、FID検出器及びVarian CP−Para Bond Qカラム(カタログ番号CP7351、Santa Clara、CA)を備えたAgilent 7890システム(Santa Clara、CA)を使用して、GCでオンライン分析を行った。
【0094】
反応器供給物:バイオマス誘導体乳酸(88重量%、Purac Corp.(Lincolnshire、IL)の溶液(113.6g)を蒸留水(386.4g)に溶かし、乳酸の見込み濃度20重量%の溶液を得た。この溶液を95℃〜100℃で12〜30時間加熱した。結果として得られた混合物を冷却し、既知の重量標準に照らしてHPLC(上述)により分析を行った。
【0095】
VII結果
表1は、第V節に記載した種々の触媒で得られた触媒パラメータをまとめたものである。
【0096】
【表5】
【0097】
上述の記載は、理解を明確にするためにのみ与えられているものであり、当業者にとって本発明の範囲内の変更は自明のことであるので、上述の記載によって不必要な限定が行われるものではないことが理解されるべきである。
【0098】
本明細書に開示した寸法及び値は、記載された正確な数値に厳密に限定されるものと理解されるべきではない。むしろ、特に断らない限り、そのような寸法のそれぞれは、記載された値及びその値の周辺の機能的に同等の範囲の両方を意味するものとする。例えば、「40ミリメートル」として開示される寸法は、「約40ミリメートル」を意味するものである。
【0099】
任意の相互参照又は関連特許若しくは関連出願を包含する本明細書に引用される全ての文献は、明確に除外ないしは別の方法で限定されない限り、その全てを本明細書中に参照により組み込まれる。いずれの文献の引用も、こうした文献が本願で開示又は特許請求される全ての発明に対する先行技術であることを容認するものではなく、また、こうした文献が、単独で、あるいは他の全ての参照文献とのあらゆる組み合わせにおいて、こうした発明のいずれかを参照、教示、示唆又は開示していることを容認するものでもない。更に、本文書において、用語の任意の意味又は定義の範囲が、参考として組み込まれた文書中の同様の用語の任意の意味又は定義と矛盾する場合には、本文書中で用語に割り当てられる意味又は定義に準拠するものとする。
【0100】
本発明の特定の実施形態が例示され記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。
【0101】
本発明の特定の実施形態が例示され記載されてきたが、本発明の趣旨及び範囲から逸脱することなく他の様々な変更及び修正を実施できることが、当業者には自明であろう。したがって、本発明の範囲内にあるそのような全ての変更及び修正を添付の特許請求の範囲で扱うものとする。