(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746559
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】通気構造
(51)【国際特許分類】
F21S 8/10 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
F21S8/10 541
【請求項の数】6
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2011-111935(P2011-111935)
(22)【出願日】2011年5月19日
(65)【公開番号】特開2012-243536(P2012-243536A)
(43)【公開日】2012年12月10日
【審査請求日】2014年2月12日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003964
【氏名又は名称】日東電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100148769
【弁理士】
【氏名又は名称】麻生 紀明
(72)【発明者】
【氏名】矢野 陽三
【審査官】
松田 長親
(56)【参考文献】
【文献】
特開2003−287150(JP,A)
【文献】
特開2007−087666(JP,A)
【文献】
特開2007−141629(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21S 8/10
F21V 31/03
F16K 24/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体の内部空間から外部空間に向かって拡径するテーパー面を有する開口が設けられた筐体と、
前記開口に嵌め込まれた、前記内部空間に開口する通気路を有する支持体、前記通気路を塞ぐ防水通気膜、および前記防水通気膜を覆うカバーを含む通気部材と、
前記通気路の周囲で前記筐体と前記支持体との間のギャップをシールするシール部材と、を備え、
前記支持体は、前記通気路を構成する貫通穴が設けられ、前記防水通気膜が接合された基部と、前記基部から突出して前記筐体の内側面に係合する、前記シール部材が装着された筒状の軸部と、前記開口内で前記シール部材を前記テーパー面に押圧する押圧部と、を有し、
前記支持体は、前記テーパー面に接触することなく前記開口に嵌め込まれている、通気構造。
【請求項2】
前記支持体は、互いに周方向に離間しながら前記防水通気膜を取り囲む複数の隔壁を有し、
前記カバーは、前記複数の隔壁に当接して前記防水通気膜に対向する主壁と、前記防水通気膜を前記外部空間から隠すように前記複数の隔壁から径方向外側に離れた位置で前記複数の隔壁同士の間の隙間を覆う複数の垂れ壁と、を有する、請求項1に記載の通気構造。
【請求項3】
前記基部は、前記開口の外で前記筐体の表面と対向するように前記開口の周囲に広がっており、
前記押圧部は、前記基部と前記軸部とで形成されるコーナーに配置されている、請求項1または2に記載の通気構造。
【請求項4】
前記押圧部に装着され、前記基部によって前記筐体に押圧される第2のシール部材をさらに備える、請求項3に記載の通気構造。
【請求項5】
前記基部は、前記防水通気膜との接合面が前記筐体の表面と同一平面上に位置するように前記開口内に収められており、
前記押圧部は、前記基部における前記軸部の周囲に張り出す部分である、請求項1または2に記載の通気構造。
【請求項6】
前記テーパー面は、前記筐体の表面につながっており、
前記カバーは、当該カバーの周縁部が前記テーパー面を延長した仮想円錐面と交わる大きさを有する、請求項5に記載の通気構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筐体の開口に通気部材が取り付けられた通気構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば自動車用ランプやECU(Electrical Control Unit)などの自動車電装部品、OA(オフィスオートメーション)機器、家電製品、医療機器などでは、電子部品や制御基板などを収容する筐体に、温度変化による筐体内の圧力変動を緩和したり筐体内を換気したりする目的で開口が設けられ、この開口に通気部材が取り付けられることが行われている。この通気部材は、筐体の内外での通気を確保しつつ筐体内への塵や水などの異物の侵入を防ぐものである。
【0003】
例えば特許文献1には、
図8に示すような通気部材100が開示されている。この通気部材100は、筐体150の開口151に嵌め込まれる全体的に管状の支持体110と、支持体110の内部空間である通気路を塞ぐ防水通気膜120と、防水通気膜120を覆うカバー130とを備えている。支持体110は、防水通気膜120が接合された基部111と、基部111から突出して開口151を通じて筐体150の内側面に係合する軸部111を有している。軸部112の根元部分にはシール部材140が装着されており、このシール部材140が基部111によって筐体150の表面に押圧されることにより支持体110と筐体150との間のギャップがシールされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007−141629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、例えば自動車電装部品では、自動車が高圧水によって洗浄されることがあり、自動車電装部品にも高圧水が噴射されることがある。しかしながら、
図8に示すような通気部材100では、シール部材140が筐体150の表面と支持体110の基部111の間から露出しているため、上記のように自動車電装部品に高圧水が噴射されると、その高圧水がシール部材140に直接かかり、これによってシール部材が変形して筐体内に水が侵入することがある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑み、外部からの水やオイルなどがシール部材に直接かかることを防止することができる通気構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は、筐体の内部空間から外部空間に向かって拡径するテーパー面を有する開口が設けられた筐体と、前記開口に嵌め込まれた、前記内部空間に開口する通気路を有する支持体、前記通気路を塞ぐ防水通気膜、および前記防水通気膜を覆うカバーを含む通気部材と、前記通気路の周囲で前記筐体と前記支持体との間のギャップをシールするシール部材と、を備え、前記支持体は、前記通気路を構成する貫通穴が設けられ、前記防水通気膜が接合された基部と、前記基部から突出して前記筐体の内側面に係合する、前記シール部材が装着された筒状の軸部と、前記開口内で前記シール部材を前記テーパー面に押圧する押圧部と、を有する、通気構造を提供する。
【発明の効果】
【0008】
上記の構成によれば、シール部材が開口内に収められるため、外部からの水やオイルなどがシール部材に直接かかることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る通気構造の縦断面図
【
図5】本発明の第2実施形態に係る通気構造の縦断面図
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、添付の図面を参照しつつ本発明の実施形態について説明する。なお、以下の説明は本発明の一例に関するものであり、本発明はこれらによって限定されるものではない。
【0011】
(第1実施形態)
図1〜3に、本発明の第1実施形態に係る通気構造1Aを示す。この通気構造1Aは、開口11が設けられた筐体10と、開口11に取り付けられた通気部材2と、通気部材2に保持されたシール部材6とを備えている。
【0012】
開口11は、軸方向の少なくとも一部の領域において、筐体10の内部空間10Aから外部空間10Bに向かって拡径するテーパー面12を有する。本実施形態では、開口11の内周面のうちの内部空間10A側の僅かな部分が円筒状になっており、残りの殆どの部分がテーパー状になっている。すなわち、テーパー面12は筐体10の表面につながっている。なお、開口11が開口する方向は特に限定されるものではなく、例えば、鉛直上向き、鉛直下向き、水平方向などどのような方向であってもよい。以下では、説明の便宜のために、開口11が開口する方向(
図1では上側)を上方、それと反対の方向(
図1では下側)を下方ということがある。
【0013】
通気部材2は、開口11に嵌め込まれた支持体3と、支持体3に支持された防水通気膜4と、防水通気膜4を覆うカバー5とを含む。支持体3には、当該支持体3を貫通する通気路30が設けられている。通気路30は、筐体10の内部空間10Aに開口しており、上方からは防水通気膜4で塞がれている。上述したシール部材6は、通気路30の周囲で筐体10と支持体3の間のギャップをシールする。
【0014】
防水通気膜4は、気体の透過を許容し、液体の透過を阻止する膜(樹脂または金属からなる、職布、不織布、メッシュ、ネットなど)であれば、構造や材料は特に限定されない。例えば、防水通気膜4は、樹脂多孔質膜に補強層が積層された構成を有していてもよい。補強層を設けることにより、高強度の防水通気膜4を得ることができる。
【0015】
樹脂多孔質膜の材料には、公知の延伸法、抽出法によって製造することができるフッ素樹脂多孔質体やポリオレフィン多孔体を用いることができる。フッ素樹脂としては、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、ポリクロロトリフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体等が挙げられる。ポリオレフィンを構成するモノマーとしては、エチレン、プロピレン、4−メチルペンテン−1,1ブテン等が挙げられ、これらのモノマーを単体で重合した、または共重合して得たポリオレフィンを使用することができる。また、ポリアクリロニトリル、ナイロン、ポリ乳酸を用いたナノファイバーフィルム多孔体等を用いることもできる。中でも、小面積で通気性が確保でき、筐体内部への異物の侵入を阻止する機能の高いPTFE多孔質体が好ましい。
【0016】
なお、樹脂多孔質膜には、筐体10の使用環境に応じて撥液処理を施してもよい。撥液処理は、表面張力の小さな物質を樹脂多孔質膜に塗布し、乾燥後、キュアすることにより行うことができる。撥液処理に用いる撥液剤は、樹脂多孔質膜より低い表面張力の被膜を形成できればよく、例えば、パーフルオロアルキル基を有する高分子を含む撥液剤が好適である。撥液剤の塗布は、含浸、スプレー等で行うことができる。また十分な防水性を確保するという観点から、樹脂多孔質膜の平均孔径は、0.01μm以上10μm以下であることが望ましい。
【0017】
補強層の材料としては、樹脂多孔質膜よりも通気性に優れるものを用いることが好ましい。具体的には、樹脂または金属からなる、職布、不織布、メッシュ、ネット、スポンジ、フォーム、多孔体などを用いることができる。樹脂多孔質膜と補強層とを接合する方法としては、接着剤ラミネート、熱ラミネート、加熱溶着、超音波溶着、接着剤による接着などの方法がある。
【0018】
防水通気膜4の厚さは、強度および支持体3への固定しやすさを考慮して、例えば、1μm〜5mmの範囲で調整するとよい。樹脂多孔質膜または防水通気膜4の通気度は、ガーレー値にて0.1〜300sec/100mLであることが好ましい。
【0019】
支持体3は、中心に貫通穴が設けられた円形板状の基部31と、基部31の貫通穴と連通する内部空間を持つ筒状の軸部32を有している。すなわち、基部31の貫通穴および軸部32の内部空間は上述した通気路30を構成する。本実施形態では、基部31の貫通穴の直径は、軸部32の内径と同一に設定されており、それらの内周面は連続した壁面を形成する。ただし、基部31の構成はこれに限られるものではなく、例えば、基部31には軸部32で取り囲まれる領域に複数の貫通穴が設けられていてもよい。
【0020】
基部31は、開口11の外で筐体10の表面と対向するように開口11の周囲に広がっている。また、基部31の上面には防水通気膜4が接合されている。さらに、基部31の上面には、互いに周方向に離間しながら防水通気膜4を取り囲む複数(図例では3つ)の隔壁35が設けられている。本実施形態では、各隔壁35が防水通気膜4の輪郭に沿う円弧状をなしている。
【0021】
軸部32は、基部32の下面から突出し、開口11を通じて筐体10の内側面に係合している。具体的に、軸部32には、当該軸部32の下部が下端から複数箇所で切り込まれることにより、径方向に弾性変形可能な複数(図例では3つ)の係合片が形成されている。これらの係合片の下端には、径方向外側に突出する係合用の爪33が設けられている。
【0022】
また、軸部32には、上述したシール部材6が装着されている。シール部材6は、自然体で、テーパー面12の最小径よりも大きく、かつ、最大径よりも小さい外径を有する。シール部材6としては、Oリングやパッキンなどを用いることができる。
【0023】
さらに、支持体3には、基部31と軸部32とで形成されるコーナーに押圧部34が設けられている。押圧部34は、軸部32の根元部分を取り巻くリング状をなしており、開口11内でシール部材6をテーパー面12に押圧する。押圧部34がシール部材6と接触する下端面(押圧面)は、
図1に示すように組み合わされた状態で筐体10の表面よりも内部空間10A側に位置していることが好ましい。
【0024】
カバー5は、支持体3の隔壁35に当接して防水通気膜4と対向する主壁51と、主壁51の周縁部から垂れ下がる複数(図例では3つ)の垂れ壁52とを有している。本実施形態では、主壁51の直径が支持体3の基部31の外径と同じに設定されている。すなわち、垂れ壁52は、隔壁35と二重の円を描くように配置されている。
【0025】
各垂れ壁52は主壁51の周縁部に沿う円弧状をなしている。また、各垂れ壁52は、防水通気膜4を外部空間10Bから隠すように、隔壁35から径方向外側に離れた位置で隔壁35同士の間の隙間を覆っている。換言すれば、垂れ壁52および隔壁35は、防水通気膜4が直接的に外部に露出しないように、防水通気膜4の周囲にラビリンスを形成する。
【0026】
各垂れ壁52の高さは、隔壁35の高さよりも高く設定されている。一方、基部31の上面には、垂れ壁52と対応する位置に、径方向外側に開口する、垂れ壁52が嵌合可能な凹部31aが設けられている。図示は省略するが、垂れ壁52の先端および凹部31a内には互いに係合可能な凹凸が設けられており、それらの係合によってカバー5が支持体3に連結される。
【0027】
以上説明した通気構造1Aでは、シール部材6が開口11内に収められるため、外部からの水やオイルなどがシール部材6に直接かかることを防止することができる。
【0028】
さらに、本実施形態では、支持体3の隔壁35およびカバー5の垂れ壁52によって防水通気膜4が直接的には外部に露出しないため、防水通気膜4に例えば高圧水が直接噴射されることがなく、防水通気膜4の破損を防止することができる。
【0029】
また、通気部材2はカバー5内に水が侵入したとしてもその水がスムーズに流れ出るように構成されているため、開口11が開口する方向がどのような方向であっても防水通気膜4上に水が留まることを抑制することができる。
【0030】
<変形例>
前記実施形態では、1つのシール部材6だけが用いられていたが、
図4に示す変形例の通気構造1Bのように、第2のシール部材7を用いることも可能である。図例では、第2のシール部材7が押圧部34に装着され、基部31によって筐体10のテーパー面12に押圧されている。ただし、第2のシール部材7は、筐体10の表面に押圧されてもよい。
【0031】
このような構成でも、シール部材6に対しては外部からの水やオイルなどから保護することができる。また、第2のシール部材7を用いることにより、たとえ筐体10が塩分によって腐食したとしても、長時間に亘って防水性を確保することができる。
【0032】
(第2実施形態)
次に、
図5〜7を参照して、本発明の第2実施形態に係る通気構造1Cを説明する。なお、本実施形態では、第1実施形態で説明した構成と同一部分には同一符号を付して、その説明を省略することがある。
【0033】
本実施形態の通気構造1Cでは、支持体3の基部31の上面(防水通気膜4との接合面)が筐体10の表面と同一平面上に位置するように基部31が開口11内に収められている。そして、基部31における軸部32の周囲に張り出す部分が押圧部34を構成している。なお、「基部31の上面が筐体10の表面と同一平面上に位置する」とは、それらが完全に一致する場合だけでなく、それらが僅かに(例えば、防水通気膜4の厚さ程度)ずれた場合を含む概念である。
【0034】
さらに、本実施形態では、カバー5の垂れ壁52が主壁51の周縁部からではなく、周縁部から少し内側に寄った位置で主壁51から垂れ下がっている。また、カバー5は、当該カバー5の周縁部がテーパー面12を延長した仮想円錐面Pと交わる大きさを有している。すなわち、主壁51の直径がテーパー面12の最大径よりも大きく設定されており、垂れ壁52の外側面で構成される円の直径がテーパー面12の最大径よりも小さく設定されている。
【0035】
本実施形態の構成でも、第1実施形態と同様の効果を得ることができる。また、本実施形態のように基部31が開口11内に収められていれば、通気部材2を小型化することができる。さらに、本実施形態では、防水通気膜4との接合面である基部31の上面が筐体10の表面と同一平面上に位置しているため、筐体10の表面からの通気部材2の突出高さを低く抑えることができる。その結果、通気部材2を他の部品と共に限られたスペースに設置する場合に、そのスペースを効率的に利用することができ、設計の自由度が増大する。
【符号の説明】
【0036】
1A〜1C 通気構造
2 通気部材
3 支持体
30 通気路
31 基部
32 軸部
33 爪
34 押圧部
35 隔壁
4 防水通気膜
5 カバー
51 主壁
52 垂れ壁
6 シール部材
10 筐体
10A 内部空間
10B 外部空間
11 開口
12 テーパー面