【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記の課題を解決するために、鋭意検討した結果、低級アルコールの量が少ないなかでの流動性低下に起因するレベリング性や印刷適性の改良のため、アルカリ可溶型水溶性樹脂として特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂と、水性媒体として特定量の2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを使用すること、好ましくは、更にエマルジョン型の水性樹脂を使用することにより、上記課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂及び水性媒体を含有する紙器用水性グラビア印刷インキ組成物であって、固形分濃度が15〜30質量%であり、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足し、上記水性媒体は、下記条件2を満足するものであることを特徴とする紙器用水性グラビア印刷インキ組成物である。
条件1
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、酸価100〜210mgKOH/gのスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂であり、上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂のモノマー成分であるマレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。
条件2
上記水性媒体は、水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4の低級アルコールからなり、上記炭素数1〜4の低級アルコールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が0.1〜2.5質量%である。
【0013】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、固形分濃度が20〜30質量%であり、更に、下記条件3のエマルジョン型の水性樹脂を含有することが好ましい。
条件3
上記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価が30〜50mgKOH/gであり、ガラス転移温度が15〜60℃である。
以下、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物について具体的に説明する。
【0014】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び水性媒体を必須成分として含有する。
<着色剤>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する着色剤としては、特に限定されず、通常、水性印刷インキで使用される従来公知の顔料が挙げられる。具体的には、無機顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アンチモンレッド、カドミウムイエロー、コバルトブルー、紺青、群青、カーボンブラック、黒鉛等が挙げられる。また、有機顔料としては、例えば、溶性アゾ顔料、不溶性アゾ顔料、アゾレーキ顔料、縮合アゾ顔料、銅フタロシアニン顔料、縮合多環顔料等を挙げられる。
【0015】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記着色剤の含有量は、印刷時において4〜11質量%であることが好ましい。4質量%未満であると、印刷濃度の印刷物が得られないことがあり、一方、11質量%を超えると、得られる紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度が高くなる傾向がある。
【0016】
また、本発明では、上記着色剤の分散性向上の目的で分散剤を含有しても良い。
上記分散剤としては特に限定されず、水性印刷インキで顔料等の分散性向上に使用される従来公知の分散剤が挙げられる。
また、本発明では、以下で説明する特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重体樹脂を使用しているため、乾燥性や流動性を向上さでるための体質顔料は必須ではないが、性能が低下しない範囲において、体質顔料を使用することもできる。上記体質顔料の具体例としては、例えば、炭酸カルシウム、カオリン、硫酸バリウム、水酸化アルミニウム、クレー、タルク等が挙げられる。
【0017】
<水性媒体>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する水性媒体は下記条件2を満足するものである。
(条件2)
水、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、及び、炭素数1〜4の低級アルコールからなり、上記炭素数1〜4の低級アルコールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が30質量%以下であり、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の含有量が0.1〜2.5質量%である。
すなわち、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物では、上記水性媒体は、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有するものである。これにより、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性やレベリング性の向上、また、グラビア印刷方式で印刷するときの印刷適性の向上を図ることができる。
【0018】
上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量が本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中0.1質量%未満であると、低級アルコールの含有量を抑えたときに、乾燥性やレベリング性が低下する。一方、2.5質量%を超えると、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の経時安定性が低下する傾向がある。本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の乾燥性やレベリング性がより良好であることから、上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量の好ましい下限は0.5質量%、好ましい上限は2.0質量%である。
【0019】
上記炭素数1〜4の低級アルコールとしては、従来から水性被覆剤組成物に使用されているものであれば特に限定されず、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、イソブタノール等を挙げることができる。
また、上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量が本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中30質量%を超えると、VOC排出濃度が高くなる。上記低級アルコールの含有量は、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中15〜30質量%であることが好ましく、15〜25質量%であることがより好ましい。15質量%より少ないと、印刷適性が低下するおそれがある。
【0020】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、上述したように、2−エチル−1,3−ヘキサンジオールを含有するため、後述する特定のスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂を含有するため、揮発性有機化合物である上記低級アルコールの含有量をできるだけ少なくすることができ、かつ、印刷適性、レベリング性、乾燥性に優れたものとすることができる。
【0021】
また、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記水性媒体は、水を含有する。上記水の含有量を適宜調整することで、上記水性媒体における上述した2−エチル−1,3−ヘキサンジオール及び上記炭素数1〜4の低級アルコールの含有量を上述した範囲内に調整することができる。
【0022】
<アルカリ可溶型水溶性樹脂>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を構成する上記アルカリ可溶型水溶性樹脂は、下記条件1を満足するものである。
(条件1)
酸価100〜210mgKOH/gのスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂であり、上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂のモノマー成分であるマレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エトキシエトキシエチルハーフエステルとをモル比率で100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。
【0023】
上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂の酸価が100mgKOH/g未満であると、上述した水性媒体中での溶解性が低下し、一方、210mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下してしまう。上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の酸価の好ましい下限は120mgKOH/g、好ましい上限は200mgKOH/gである。
【0024】
上記スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂は、モノマー成分として酸基含有エチレン性不飽和単量体であるマレイン酸ハーフルエステルと、スチレン系単量体と、必要に応じてその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体とを共重合して得られる、塩基性化合物の存在下で、水中に可溶となるようなスチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂、具体的には、スチレン−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂である。上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を含む場合、具体的には、例えば、スチレン−アクリル−マレイン酸ハーフエステル系共重合体樹脂等のアルカリ可溶型水溶性樹脂が挙げられる。
【0025】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において、上記マレイン酸ハーフエステルは、マレイン酸イソブチルハーフエステルとマレイン酸エチルカービトールハーフエステルとをモル比率で(マレイン酸イソブチルハーフエステル/マレイン酸エチルカービトールハーフエステル)100/0〜55/45の範囲で含有する少なくとも1種である。このような特定のマレイン酸ハーフエステルを用いることで、レベリング性や印刷適性が良好となる。
上記マレイン酸ハーフエステルにおいて、モル比率でマレイン酸イソブチルハーフエステルに対してマレイン酸エチルカービトールハーフエステルが45モルを超えると、耐水性が低下する傾向となる。
【0026】
上記スチレン系単量体としては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、それらの誘導体等のスチレン系単量体を挙げることができる。
【0027】
上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0028】
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂の含有量は、通常、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中に5〜25質量%であることが好ましい。5質量%未満であると、顔料分散性が低下する傾向となることがあり、一方、25質量%を超えると、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の設計が困難となる。
【0029】
これらのアルカリ可溶型水溶性樹脂は、通常、塩基性化合物の存在下で水中に溶解させて水溶性樹脂ワニスとして使用する。
上記アルカリ可溶型水溶性樹脂を水中に溶解するために使用する塩基性化合物としては、例えば、アンモニア、有機アミン、アルカリ金属水酸化物等を挙げられる。具体的には、上記有機アミンとしては、ジエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン等のアルキルアミン、モノエタノールアミン、エチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等のアルカノールアミン等を挙げることができる。上記アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。その中でも乾燥性を向上させるために、常温あるいはわずかの加温で容易に揮発するものが望ましい。
【0030】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物には、本発明の効果を低下させない範囲で、更に、上記アルカリ可溶型水溶性樹脂以外の他の水性バインダー樹脂ワニス、例えば、水性シェラックワニス、水性カゼインワニス、水性ロジンマレイン酸樹脂ワニス、水性ポリエステル樹脂ワニス、水溶性セルロースワニス等を含有していてもよい。
【0031】
なお、本発明のアルカリ可溶型水溶性樹脂において、酸価は、以下の方法により求めることができる。
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
【0032】
<エマルジョン型の水性樹脂>
また、本発明では、上記着色剤の種類に応じて、又は、固形分濃度が高い紙器用水性グラビア印刷インキ組成物とする場合、適宜、エマルジョン型の水性樹脂を含有させることが好ましい。
上記エマルジョン型の水性樹脂としては、上述したスチレン系単量体とエチレン性不飽和単量体(好ましくは、単独で重合したときに得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体、例えば、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ブチルアクリレート等)とを主成分とするエチレン性不飽和単量体混合物を、高分子乳化剤の存在下で、乳化重合して得られた樹脂、スチレン−アクリル系水性樹脂、スチレン−マレイン酸系水性樹脂、スチレン−アクリル−マレイン酸系水性樹脂等であることが好ましい。
【0033】
上記エマルジョン型の水性樹脂は、酸価が30〜50mgKOH/gであり、ガラス転移温度が15〜60℃であることが好ましい。上記エマルジョン型の水性樹脂の酸価が30mgKOH/gより小さいと、再溶解性が低下する傾向にあり、酸価が50mgKOH/gより大きいと、乾燥性が低下する傾向があり、好ましくない。また、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度が15℃未満であると、ブロッキング性が低下するおそれがあり、60℃を超えると、印刷物の耐摩性が低下するおそれがある。
【0034】
また、上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に含まれる固形分中60質量%以下の範囲であることが好ましい。
また、固形分濃度が高い紙器用水性グラビア印刷インキ組成物とするには、上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物に含まれる固形分中30〜60質量%の範囲とすることが好ましい。
【0035】
上記高分子乳化剤としては、カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体、疎水性の高い上記芳香環を有するエチレン性不飽和単量体(A)、及び、必要に応じて、その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体(B)を共重合して得られる酸価100〜200mgKOH/gの共重合樹脂を挙げることができる。
上記カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル等を挙げることができる。
上記高分子乳化剤の酸価が100mgKOH/g未満であると、高分子乳化剤の水中での溶解性が低下するおそれがある。200mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下するおそれがある。上記酸価は、150〜200mgKOH/gであることがより好ましい。
【0036】
上記高分子乳化剤を水中に溶解又は分散するために塩基性化合物を使用することができる。上記塩基性化合物としては、上述したものと同様のものが挙げられる。
【0037】
なお、上記エマルジョン型の水性樹脂において、ガラス転移温度及び酸価は、以下の方法により求めることができる。
【0038】
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは共重合体を構成する単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である)
【0039】
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
そして、上記エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度とは、乳化重合に利用される全てのエチレン性不飽和単量体を、コア部、シェル部と分けずに1度に共重合した時に得られる共重合体のガラス転移温度を表す。
また、上記酸価は、高分子乳化剤に由来するものであり、例えば、酸価100mgKOH/gの高分子乳化剤が、水性樹脂の固形分比率として10質量%含まれているときの酸価は酸価10mgKOH/gとなる。
【0040】
<その他添加剤>
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物には、使用用途に応じて、任意成分を適宜含有していてもよい。上記任意成分としては、界面活性剤、ワックス、湿潤剤、消泡剤、pH調整剤、粘度調製剤、乾燥調製剤、光沢剤、架橋剤等、種々の添加剤を挙げることができる。
【0041】
以上の上記構成材料を用いて、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を製造する方法を説明する。
まず、着色剤、アルカリ可溶型水溶性樹脂、及び、必要に応じて添加する分散剤等を混合し、通常のインキ製造装置(例えば、ボールミル、アトライター、サンドミル等)を用いて攪拌、混練り後、アルカリ可溶型水溶性樹脂、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール等の水性媒体、必要に応じて、エマルジョン型の水性樹脂、ワックス、消泡剤等を添加混合して製造する方法が挙げられる。
【0042】
このようにして製造される本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、固形分濃度が15〜30質量%である。15質量%未満であると、乾燥性が低下する傾向となり、30質量%を超えると、粘度が高くなる傾向となる
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の固形分濃度は、20〜30質量%であることが好ましく、より好ましくは25〜30質量%である。固形分濃度がこの範囲にあることで、グラビア印刷に際して浅版化した刷版を使用することが可能となる。
なお、上記固形分濃度とは、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いてグラビア印刷されるときの固形分濃度である。
【0043】
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の印刷方法について説明する。
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を高品位印刷用途として使用する方法として、コート紙等の紙基材に、紙器用水性グラビア印刷インキ組成物をグラビア印刷方式で印刷する方法が例示できる。
【0044】
印刷物の製造効率を考慮すると、印刷スピードは150m/分以上が好ましい。また、上述の印刷スピードとするために、印刷後に、各種加熱乾燥装置を利用した乾燥工程を有していてもよい。
なお、印刷時、上記紙器用水性グラビア印刷インキ組成物の粘度は、ザーンカップN0.3の流出秒数が15〜19秒程度であることが好ましい。15秒未満であると、レべリグ性が低下する傾向となることがあり、19秒を超えると、印刷適性が低下する傾向となることがある。
【0045】
また、通常、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物は、濃縮の状態で保存され、印刷時に希釈剤により希釈される。上記希釈は、印刷時の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分濃度が、上述したように15〜30質量%となる範囲であるが、浅版化した刷版を使用する場合は、印刷適性及び印刷性能の観点から、印刷時の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物中の固形分濃度は、20〜30質量%、より好ましくは25〜30質量%である。
【0046】
さらに、具体的に印刷方法を説明する。
本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いて印刷した印刷物には、通常、紙器用水性オーバープリントニス組成物が塗工される。この本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を用いて印刷する工程、及び、紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工する各工程は、一連の工程で行われても良く、別々の機会に工程を分けて行われても良い。
また、例えば、6缶パックのパッケージなどは、印刷物を製造後、打ち抜き加工等の後加工が行われるが、この後加工は、印刷、塗工と一連の工程で行われても良く、別々の機会に工程を分けて行われても良い。
【0047】
このようなグラビア印刷、塗工、後加工までを一度に行える装置としては、例えば、ボブストチャンプレンレマニックグラビア輪転打抜機が挙げられる。
具体的には、紙基材を給紙部に供給し、給紙部から本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物のグラビア印刷方式による印刷後、紙器用水性オーバープリントニス組成物の塗工による被覆を、印刷・塗工スピードとして150〜200m/minで印刷及び塗工を行い、その後、打ち抜き工程を経て、目的の印刷物を得ることができる。
さらに、本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物を印刷後、及び、紙器用水性オーバープリントニス組成物を塗工後、乾燥にあたっては熱風乾燥装置を利用することにより、印刷効率、塗工効率、全体の印刷物の製造効率が高くなる。
【0048】
上記印刷方法で使用する紙器用水性オーバープリントニス組成物としては、VOC排出濃度を700ppmCまで削減する必要があるので、水性媒体及びエマルジョン型の水性樹脂を必須成分として含有する紙器用水性オーバープリントニス組成物を使用することが好ましい。
【0049】
上記水性媒体としては、水と2−エチル−1,3−ヘキサンジオールとからなる水性媒体が好適に用いられる。
上記水性媒体は、更に必要に応じて炭素数1〜4の低級アルコールを紙器用水性オーバープリントニス組成物中30質量%以下で含有させることができるが、炭素数1〜4の低級アルコールを使用する際は、VOC排出濃度を低減させるために、極力少なくすることが好ましい。上記炭素数1〜4の低級アルコールとしては、上述した本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において説明したものと同様のものが挙げられる。
【0050】
上記2−エチル−1,3−ヘキサンジオールの含有量は、紙器用水性オーバープリントニス組成物中0.1〜2.5質量%であることが好ましい。上記含有量が0.1質量%未満であると、乾燥性やレベリング性が低下することがある。一方、2.5質量%を超えると紙器用水性オーバープリントニス組成物の経時安定性が低下する傾向がある。
【0051】
次に、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を構成する水性樹脂について説明する。
上記水性樹脂は、エマルジョン型の水性樹脂である。上記エマルジョン型の水性樹脂としては、具体的には、乾燥性付与や強靭な塗膜が得られる点より、高分子乳化剤の存在下で、芳香環を有するエチレン性不飽和単量体Aを主成分とするエチレン性不飽和単量体を乳化重合させてコア部を形成し、次いで、単独で重合した時に得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体Bを重合させてシェル部を形成して得られる樹脂であり、酸価が50〜70mgKOH/gであり、ガラス転移温度が40〜70℃であることが好ましい。
【0052】
上記高分子乳化剤としては、カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体、疎水性の高い芳香環を有するエチレン性不飽和単量体A、及び、必要に応じて、その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体を共重合して得られる酸価100〜200mgKOH/gの共重合樹脂を挙げることができる。
【0053】
上記芳香環を有するエチレン性不飽和単量体Aとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、それらの誘導体等のスチレン系単量体、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸ナフチル等を挙げることができる。
【0054】
上記単独で重合した時に得られる重合体のガラス転移温度が−50℃以下であるエチレン性不飽和単量体Bとしては、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、ブチルアクリレート等を挙げることができる。
【0055】
上記カルボキシル基含有α,β−モノエチレン性不飽和単量体としては、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、フマール酸、無水マレイン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル等を挙げることができる。
【0056】
上記その他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、ブチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシステアリル(メタ)アクリレート等を挙げることができる。
【0057】
上記高分子乳化剤は、酸価が100〜200mgKOH/gであることが好ましい。酸価が100mgKOH/g未満であると、高分子乳化剤の水中での溶解性が低下するおそれがある。酸価が200mgKOH/gを超えると、得られる印刷物の耐水性が低下するおそれがある。
【0058】
上記高分子乳化剤を水中に溶解又は分散するために塩基性化合物を使用することができる。上記塩基性化合物としては、上述した本発明の紙器用水性グラビア印刷インキ組成物において説明したものと同様のものが挙げられる。
【0059】
このようなコア−シェル構造を有する水性樹脂は、例えば、下記の重合条件によりパワーフィード重合法を利用して得ることができる。
重合条件
(第一段階)
核(コア部)の形成
例えば、共重合成分として上記単量体A及び上記単量体Bを用いて、高分子乳化剤の存在下で上記単量体Aの方が上記単量体Bの添加時間より長くなる様な添加速度で添加し、乳化させることにより上記単量体Aを主成分としたコア部を形成する。
(第二段階)
第一段階の反応終了後、形成させたコア部をシードとし、上記単量体Bを添加して、乳化重合を行うことにより、柔軟な膜を形成するソフトポリマーをコア部の表面に付着させ、上記単量体Bの重合物からなるシェル部を形成し、2層構造のエマルジョンを得る。なお、柔軟な膜を形成するソフトポリマーは、コア部表面に局在化するように重合させることが好ましい。
【0060】
その他、上記コア−シェル構造を有する水性樹脂を製造する方法としては、シード重合法、コア−シェル重合法等の多段重合法が利用できる。
このような、剛性や皮膜強度に寄与するコア部と、成膜性や耐久性に寄与するシェル部との両方を有するエマルジョン型の水性樹脂を含有することにより、紙器用水性オーバープリントニス組成物として優れた性能を発揮するものとなる。
【0061】
なお、本発明において、ガラス転移温度、酸価および質量平均分子量は、以下の方法により求めることができる。
<ガラス転移温度>
ガラス転移温度は、下記のWoodの式により求めた理論ガラス転移温度である。
Woodの式:1/Tg=W1/Tg1+W2/Tg2+W3/Tg3+・・・・・・・・・+Wx/Tgx
(式中、Tg1〜Tgxは共重合体を構成する単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの単独重合体のガラス転移温度、W1〜Wxは単量体1、2、3、・・・、xのそれぞれの質量分率、Tgは理論ガラス転移温度を表す。ただし、Woodの式におけるガラス転移温度は絶対温度である)
<酸価>
共重合体1gを得るために理論上必要な各エチレン性不飽和単量体の量に対して、KOHの理論上の中和量を求め、その中和量の総和のmg数を共重合体の酸価(理論酸価)とみなす。
そして、エマルジョン型の水性樹脂のガラス転移温度とは、乳化重合に利用される全てのエチレン性不飽和単量体を、コア部、シェル部と分けずに1度に共重合した時に得られる共重合体のガラス転移温度を表す。
また、上記酸価は、高分子乳化剤に由来するものであり、例えば、酸価100mgKOH/gの高分子乳化剤が、水性樹脂の固形分比率として10質量%含まれているときの酸価は酸価10mgKOH/gとなる。
【0062】
上記エマルジョン型の水性樹脂の含有量は、紙器用水性オーバープリントニス組成物中に固形分濃度で20〜45質量%であることが好ましく、乾燥性の点から、固形分濃度が高いほうがより好ましい。
【0063】
上記紙器用水性オーバープリントニス組成物は、使用用途に応じて、ワックス、消泡剤等の任意成分を適宜含有していてもよい。
また、上記紙器用水性オーバープリントニス組成物を製造する方法としては、上記各構成材料をディスパー等の攪拌装置で均一に攪拌することにより得る方法を挙げることができる。