【課題を解決するための手段】
【0008】
腐食挙動の改善は、カルボン酸の沈降マグネシウム塩を含む超高分子量ポリエチレン粉末組成物により達成される。
【0009】
カルボン酸のこれらの沈降マグネシウム塩は、酸掃去剤として働く。
【0010】
さらに、UHMWPE粉末の自由流動性は、これらの沈降マグネシウム塩の存在によりプラスに影響を受ける。
【0011】
カルボン酸の沈降マグネシウム塩の追加の利点は、その塩により、UHMWPEに基づく製品の目に見える部品の黄変が減少することである。
【0012】
適切なカルボン酸としては、モノ−、ジ−、またはトリカルボン酸が挙げられ、適切なマグネシウム塩としては、そのモノ−、ジ−、またはトリカルボン酸のマグネシウム塩が挙げられる。これらの酸とこれらの塩の混合物も可能である。
【0013】
この塩が190℃未満の融点を有することが好ましい。
【0014】
カルボン酸塩は飽和であっても、不飽和であってもよい。
【0015】
前記塩が飽和化合物であることが好ましい。
【0016】
前記カルボン酸が、1および40の間の炭素原子を有する飽和カルボン酸からなる群より選択されることが好ましい。
【0017】
本発明の好ましい実施の形態によれば、カルボン酸は、1および22の間の炭素原子を有する飽和カルボン酸からなる群より選択される。
【0018】
適切な酸の例としては、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキン酸および/またはベヘン酸が挙げられる。
【0019】
本発明の好ましい実施の形態によれば、カルボン酸はステアリン酸である。
【0020】
カルボン酸の沈降マグネシウム塩が沈降ステアリン酸マグネシウムであることが最も好ましい。
【0021】
最終製品の耐磨耗性および耐衝撃性などの機械的性質および粉末組成物の流動性を維持するために、添加される腐食防止剤がUHMWPE粉末中に分子レベルで均質に分散されることが重要である。その結果、腐食防止剤のアスペクト比(長さ/直径)および形態が重要な役割を果たす。この形態は、腐食防止剤の製造プロセスにより決定される。
【0022】
Plastics Additives Handbook (pages 517-520; 6th edition, Carl Hanser Verlag ; ISBN 978-1-56990-430-5) にZweifel等によって開示されたように、ステアリン酸金属塩は、直接プロセスにより、または沈降プロセスにより調製してもよい。
【0023】
本発明に適用すべきカルボン酸の固体のマグネシウム塩は、沈降プロセスによって得られる。直接プロセスにより得られる生成物は適していない。
【0024】
沈降反応により、粒径分布が均一で狭く、形状が規則正しい極めて小さい粒子が得られる。一般に、沈降プロセスにより得られるステアリン酸金属塩のフレーク状形態は、例えば、5より大きいアスペクト比(長さ/直径)を有する。対照的に、直接プロセスにより得られる生成物は、幅広い分布および約1のアスペクト比(長さ/直径)を有する。
【0025】
一般に、このカルボン酸の沈降マグネシウム塩の適用される量は、塩素の量および粉末の流動特性に関する所望の値に依存する。その量は、UHMWPE最終組成物に対して、0.1と5000ppmの間に及ぶであろう。
【0026】
本発明の好ましい実施の形態によれば、カルボン酸の沈降マグネシウム塩の量は、UHMWPEに対して1と2000ppmの間に及ぶ。この量が、UHMWPEに対して100と500ppmの間に及ぶことがより好ましい。
【0027】
一般に、腐食防止剤のUHMWPEへの添加は、バッチ式混合プロセスまたは連続混合プロセスにより行ってよい。
【0028】
バッチ式混合プロセスの場合、カルボン酸の沈降マグネシウム塩は、均質混合プロセスにより、得られたUHMWPE粉末に成分として直接添加してよい。その混合プロセスは、例えば、Harnby et al, Mixing in the Process Industries, second edition, 1992, pages 42-61(ISBN 0750611103)により記載されているように粉末ミキサで行ってよい。
【0029】
最終的なUHMWPE粉末組成物中のカルボン酸のマグネシウム塩の量は0.1と5000ppmの間に及ぶので、これらの非常に少量の直接添加は、最終的なUHMWPE粉末組成物中の腐食防止剤の不均質な分布をもたらし得る。
【0030】
本発明のさらに別の目的は、カルボン酸のマグネシウム塩を最終的なUHMWPE粉末組成物中に均質に分布させるプロセスを提供する。酸掃去剤の量は非常に少なく、この酸掃去剤自体は自由流動性ではないので、均質な混合物を得ながら、これを連続製造流中に直接添加することは難題である。
【0031】
この難題は、カルボン酸のマグネシウム塩が、カルボン酸の沈降マグネシウム塩およびバージンUHMWPE粉末を含む自由流動性のマスターフラフ(master fluff)によって、バージンUHMWPE粉末の連続混合流中に添加されるプロセスによって解決される。
【0032】
連続混合設備の適切な例は、例えば、ボルテックス形スクリューまたはリボン状の羽根を備えた推力・乱流ミキサのタイプのものである。
【0033】
自由流動性のマスターフラフ粉末混合物が、0.1と10.0質量%の間のカルボン酸の沈降マグネシウム塩および99.9と90.0質量%の間のバージンUHMWPE粉末を含むことが好ましい。
【0034】
自由流動性のマスターフラフに使用されるバージンUHMWPE粉末は、未改質であり、どのような添加剤も含まない。
【0035】
マスターフラフは、添加剤、例えば、腐食防止剤、酸掃去剤、(UV)安定剤、酸化防止剤、滑剤、抗菌剤、着色剤、顔料、増白剤、架橋剤、充填剤、かぶり防止剤、帯電防止剤および/または難燃剤を含んでもよい。
【0036】
マスターフラフは、微小規模での塊や凝集なく、バージンUHMWPE粉末およびカルボン酸の沈降マグネシウム塩を非常に均質によく分散した混合物として含む。
【0037】
マスターフラフは、優れた安定した均質性、良好な流動性、非粘着性挙動、および取扱いと貯蔵中にクラスター形成も偏析(segregation)もないことを示す。
【0038】
自由流動性のマスターフラフをバージンUHMWPE粉末に添加すると、自由流動性のUHMWPE粉末組成物が得られる。
【0039】
カルボン酸の沈降マグネシウム塩は、最終的なUHMWPE粉末組成物中に均質に分布しており、それゆえ、全てのUHMWPE粉末はその塩により処理される。