特許第5746721号(P5746721)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746721
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】同時の化学療法及び免疫療法
(51)【国際特許分類】
   A61K 39/00 20060101AFI20150618BHJP
   A61K 31/4188 20060101ALI20150618BHJP
   A61K 39/39 20060101ALI20150618BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   A61K39/00 HZNA
   A61K31/4188
   A61K39/39
   A61P35/00
【請求項の数】22
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-25374(P2013-25374)
(22)【出願日】2013年2月13日
(62)【分割の表示】特願2008-539027(P2008-539027)の分割
【原出願日】2006年11月2日
(65)【公開番号】特開2013-126994(P2013-126994A)
(43)【公開日】2013年6月27日
【審査請求日】2013年3月11日
(31)【優先権主張番号】60/732,741
(32)【優先日】2005年11月2日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】508129805
【氏名又は名称】デューク ユニバーシティー
(73)【特許権者】
【識別番号】508152917
【氏名又は名称】ザ ボード オブ リージェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ テキサス システム
(74)【代理人】
【識別番号】100102978
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 初志
(74)【代理人】
【識別番号】100119507
【弁理士】
【氏名又は名称】刑部 俊
(74)【代理人】
【識別番号】100128048
【弁理士】
【氏名又は名称】新見 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100129506
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 智彦
(74)【代理人】
【識別番号】100142929
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100114340
【弁理士】
【氏名又は名称】大関 雅人
(72)【発明者】
【氏名】サンプソン ジョン エイチ.
(72)【発明者】
【氏名】ビグナー ドレル ディー.
(72)【発明者】
【氏名】ハイムバーガー エイミー
(72)【発明者】
【氏名】ミッチェル デュアン
【審査官】 安藤 公祐
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第06251886(US,B1)
【文献】 国際公開第2005/081854(WO,A1)
【文献】 国際公開第2005/043155(WO,A1)
【文献】 HEIMBERGER,CLINICAL CANCER RESEARCH,2003年,V9,P4247-4254
【文献】 TERANDO,A. et al,On combining antineoplastic drugs with tumor vaccines,Cancer Immunol Immunother,2003年,Vol.52, No.11,p.680-5
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 39/00
A61K 31/4188
A61K 39/295
A61K 39/39
A61K 45/00
A61P 35/00
A61P 37/04
C07K 14/485
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象における腫瘍を処置するための医薬組成物であって、治療上有効な量のEGFRvIIIペプチド、及び治療上有効な量のテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩を含み、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、医薬組成物。
【請求項2】
EGFRvIIIペプチドがキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合されている、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項3】
前記EGFRvIIIペプチドと同時に投与するための有効な量のGM-CSFをアジュバントとしてさらに含む、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項4】
EGFRvIIIペプチドが、配列
H-LEEKKGNYVVTDHS-OH (SEQ ID NO: 1)を有する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項5】
EGFRvIIIペプチドが、配列
LEU-GLU-GLU-LYS-LYS-GLY-ASN-TYR-VAL-VAL-THR-ASP-HIS (SEQ ID NO: 2)
を有する、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項6】
腫瘍が悪性グリオーマである、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項7】
腫瘍が星状細胞腫である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項8】
腫瘍が肺腫瘍である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項9】
腫瘍が胸部腫瘍である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項10】
腫瘍が頭部癌及び頚部癌である、請求項1記載の医薬組成物。
【請求項11】
対象における腫瘍を処置するための医薬組成物であって、治療上有効な量のKLHに結合されたEGFRvIIIペプチド、前記EGFRvIIIペプチドと同時に投与するためのアジュバントとしての有効な量のGM-CSF、及び治療上有効な量のテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩を含み、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、医薬組成物。
【請求項12】
腫瘍が悪性グリオーマである、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項13】
腫瘍が星状細胞腫である、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項14】
腫瘍が肺腫瘍である、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項15】
腫瘍が胸部腫瘍である、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項16】
腫瘍が頭部癌及び頚部癌である、請求項11記載の医薬組成物。
【請求項17】
治療上有効な量のEGFRvIIIペプチドを含む組成物、及び治療上有効な量のテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物を含む、対象における腫瘍を処置するためのキットであって、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、キット
【請求項18】
治療上有効な量のEGFRvIIIペプチドを含む組成物が、前記EGFRvIIIペプチドと同時に投与するための有効な量のGM-CSFをアジュバントとしてさらに含む、請求項17記載のキット。
【請求項19】
治療上有効な量のKLHに結合されたEGFRvIIIペプチドおよび前記EGFRvIIIペプチドと同時に投与するためのアジュバントとしての有効な量のGM-CSFを含む組成物、及び治療上有効な量のテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩を含む組成物を含む、対象における腫瘍を処置するためのキットであって、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、キット
【請求項20】
治療上有効な量のEGFRvIIIペプチドを含む、対象における腫瘍を処置するための医薬組成物であって、テモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩の治療上有効な量とともに対象に投与されることを特徴とし、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、医薬組成物。
【請求項21】
さらにアジュバントとしての、有効な量のGM-CSFとともに対象に投与されることを特徴とする、請求項20記載の医薬組成物。
【請求項22】
KLHに結合されたEGFRvIIIペプチドの治療上有効な量を含む、対象における腫瘍を処置するための医薬組成物であって、アジュバントとしての有効な量のGM-CSF、及び治療上有効な量のテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩とともに対象に投与されることを特徴とし、EGFRvIIIペプチドがEGFRvIIIタンパク質の10〜30アミノ酸を含み、EGFRvIIIタンパク質の変異したスプライス連結部をつなぐ、医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の技術分野
本発明は、癌の免疫治療の領域に関するものである。特に、腫瘍ワクチンに対する応答を増幅することに関する。
【0002】
本発明は国立衛生研究所(National Institutes of Health)よりR01 CA097222の認可番号の元、米国政府の援助を受けて行われた。従って、米国政府は一定の権利をこの発明に対して保有する。
【0003】
この出願は、本明細書にその全内容が特に組み入れられる、2005年11月2日に出願された米国仮出願第60/732,741号についての恩典を主張する。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
積極的な外科的切除、高線量の集中的な放射線治療、及び化学療法にも拘らず、GBMと診断された患者は、診断後15ヶ月より短い生存期間中央値(median survival)を有する(Stupp et al.,Optimal role of temozolomide in the treatment of malignant gliomas. Curr Neurol Neurosci Rep. 2005 May; 5(3):198-206(非特許文献1))。治療の失敗を、少なくとも部分的には、比較的減じられた治療指数に帰することができ、そのため用量を漸増する試みは用量を制限する全身性または神経性の毒性に終わる。免疫治療の使用は、これらの腫瘍の潜在的な治療となる見込みが持たれてきたが、最近まで、臨床的効力を示すものは殆ど無かった。グリオーマ患者の樹状細胞(DC)及び酸溶出ペプチド(Ashkenazi et al., A selective impairment of the IL-2 system in lymphocytes of patients with glioblastomas: increased level of soluble IL-2R and reduced protein tyrosine phosphorylation. Neuroimmunomodulation. 1997(非特許文献2);Kolenko et al.,Tumor-induced suppression of T lymphocyte proliferation coincides with inhibition of Jak3 expression and IL-2 receptor signaling: role of soluble products from human renal cell carcinomas. J Immunol. 1997 Sep 15;159(6):3057-67(非特許文献3);Liau et al.,Dendritic cell vaccination in glioblastoma patients induces systemic and intracranial T-cell responses modulated by the local central nervous system tumor microenvironment. Clin Cancer Res. 2005 Aug 1;11(15):5515-25(非特許文献4))または、抗原特異的ペプチド(Heimberger AB, Archer GE,et al.,Dendritic cells pulsed with a tumor-specific peptide induce long-lasting immunity and are effective against murine intracerebral melanoma. Neurosurgery.2002 Jan;50(1):158-64;discussion 164-6(非特許文献5))によるワクチン接種を含む、選ばれた患者についての幾つかの臨床試験は、生存期間中央値を20〜31ヶ月の範囲に増加させ、有望性を証明した。さらに、抗原特異的免疫治療的アプローチを利用した最近完了した第II相臨床試験では、GBM患者の増殖抑制期間(time to progression; TTP)が15ヶ月に遅延され、これは、7ヶ月のTTP(Stupp et al., 2005,上述(非特許文献1))及び29ヶ月の生存期間中央値(Heimberger et al, J Transl Med. 2005 Oct 19;3:38 The natural history of EGFR and EGFRvIII in glioblastoma patients.(非特許文献6))を有する、放射線治療及びテモゾロミドからなる患者管理の基準と顕著な対照をなす。漸増的に、これらの免疫治療試験により、悪性グリオーマ患者の生来の免疫抑制にも拘らず、効力のある免疫応答を生じさせうることを示唆する。しかしながら、近来確立された患者管理の基準及び全体的に不十分な予後のため、何等かの形の化学治療でGBM患者を処置するのにためらいがある。
【0005】
当技術分野において、全般的な腫瘍、及び特に神経膠芽腫を処置するためのより良い方法を開発する持続的な要望がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Stupp et al.Optimal role of temozolomide in the treatment of malignant gliomas. Curr Neurol Neurosci Rep. 2005 May; 5(3):198-206
【非特許文献2】Ashkenazi et al., A selective impairment of the IL-2 system in lymphocytes of patients with glioblastomas: increased level of soluble IL-2R and reduced protein tyrosine phosphorylation. Neuroimmunomodulation. 1997
【非特許文献3】Kolenko et al.,Tumor-induced suppression of T lymphocyte proliferation coincides with inhibition of Jak3 expression and IL-2 receptor signaling: role of soluble products from human renal cell carcinomas. J Immunol. 1997 Sep 15;159(6):3057-67
【非特許文献4】Liau et al.,Dendritic cell vaccination in glioblastoma patients induces systemic and intracranial T-cell responses modulated by the local central nervous system tumor microenvironment. Clin Cancer Res. 20052005 Aug 1;11(15):5515-25
【非特許文献5】Heimberger AB, Archer GE, et al.,Dendritic cells pulsed with a tumor-specific peptide induce long-lasting immunity and are effective against murine intracerebral melanoma. Neurosurgery.2002 Jan;50(1):158-64;discussion 164-6
【非特許文献6】Heimberger et al, J Transl Med. 2005 Oct 19;3:38 The natural history of EGFR and EGFRvIII in glioblastoma patients.
【発明の概要】
【0007】
発明の概要
対象における腫瘍を処置するための方法が提供される。治療上有効な量のEGFRvIIIペプチド、及び、リンパ球減少を誘導する治療上有効な量の化学療法剤が対象に投与される。
【0008】
別の態様により、対象における腫瘍を処置するための方法が提供される。KLHに結合された、治療上有効な量のEGFRvIIIペプチドが腫瘍を持つ対象に投与される。顆粒球/マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)もアジュバントとして、有効な量でEGFRvIIIペプチドと同時に投与される。治療上有効な量のアルキル化剤もまた、対象に投与される。
【0009】
さらに別の態様により、対象における腫瘍を処置するための方法が提供される。治療上有効な量の抗腫瘍ワクチン、及びテモゾロミドまたはその薬学的に許容される塩の治療上有効な量が、対象に投与される。
【0010】
さらに別な態様により、対象における腫瘍を処置するための方法が提供される。治療上有効な量の抗腫瘍ワクチン、及びリンパ球減少を誘導する治療上有効な量の化学療法剤が対象に投与される。
【0011】
これら、及び、本明細書を読むことにより当業者に明らかなその他の態様により、治療抵抗性の腫瘍を処置するための追加の方法を当分野に提供する。
【発明を実施するための形態】
【0012】
発明の詳細な説明
化学療法及び免疫療法の同時適用は、化学療法により誘導されたリンパ球減少が免疫療法の治療効力を削減するとの懸念から、禁忌と考えられてきた。テモゾロミドは、悪性グリオーマ患者のための効果的な化学療法薬として示されてきており、免疫療法で処置するために神経膠芽腫(GBM)患者からこの薬剤を取り上げることには議論の余地がある。通説にも拘らず、本発明者らは、免疫療法の効果を打ち消すことなく、化学療法と免疫療法の両方を同時に行えることを証明する。実際、テモゾロミドにより誘導されたリンパ球減少は、ペプチドワクチンと実のところ相乗的な可能性がある。出願人は、作用機構に関し特定の理論に束縛されることを望まないが、観察された相乗作用は、エフェクター細胞傷害性CD8+T細胞の増加を可能にする、Tregs(制御性T細胞)の阻害またはTregsの回復の失敗に付随的でもよい。他の機構もまた関連してもよい。
【0013】
「EGFRvIII」または「上皮増殖因子受容体変異型III」は、上皮増殖因子受容体の公知の変異形体である。例えば、米国特許第6,503,503号を参照されたい。また、米国特許第6,900,221号、同第6,673,602号、同第6,479,286号、及び同第6,129,915号を参照されたい。vIIIタンパク質の産生を引き起こす変異は、典型的には、コドンを分断しかつ融合連結部において新たなグリシンを作る、細胞外ドメインの801塩基対由来の、一貫した(consistent)かつ腫瘍特異的なインフレーム欠失により特徴付けられる。
【0014】
本明細書中で使用される「EGFRvIIIペプチド」とは、対応するEGFRvIIIタンパク質の変異したスプライシング連結部をつなぐ、例えば、少なくとも10若しくは12アミノ酸、及び16、20若しくは30アミノ酸まで、またはより長い、好適な長さのペプチドを指す。これに限定されないが、
または「PEP-3」が例として含まれる。EGFRvIIIペプチドは、いずれの哺乳動物種のEGFRvIII由来の(または、それと配列において対応する)ものであってもよいが、好ましくはヒトのものである。EGFRの特定の野生型配列をSEQ ID NO:6〜9に示す。
【0015】
本明細書中で使用される「輸送タンパク質」とは、本発明の組成物を受ける種に見られるタンパク質と高い相同性を持たず、そして免疫応答を惹起しないタンパク質を指す。2つのアミノ酸配列の比較に使用されるいずれかの数学的なアルゴリズム(例えば、Karlin及びAltschul、1990, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87: 2264-2268; Karlin及びAltschul、1993, Proc. Natl. Acad. Sci. USA 90: 5873-5877; Torellis及びRobotti、1994, Comput. Appl. Biosci. 10: 3-5;並びにPearson及びLipman、1988, Proc. Natl. Acad. Sci.85: 2444-8を参照されたい)により決定されるように、あるタンパク質は、あるタンパク質に対して、少なくとも75%同一、より好ましくは少なくとも85%同一、または少なくとも90%同一の場合に高い相同性を有する。好ましくは、2つのアミノ酸配列のパーセント同一性は、XBLASTプログラム、スコア(score)=50、文字長(word length)=3でのBLASTタンパク質サーチにより決定される。異種輸送タンパク質の例には、これらに限定されないが、KLH、PhoE、mLT、TraT、またはBhV-1ウイルスのgDが含まれる。例えば、米国特許第6,887,472号を参照されたい。このような輸送タンパク質を、腫瘍抗原と直接、または、1つ若しくはそれ以上(例えば、2、4、6)の介在アミノ酸(例えば、介在CYS残基)の鎖等の介在リンカー部分により、公知の技術に従って結合または連結してもよい。
【0016】
「KLH」または「キーホールリンペットヘモシアニン」とは、公知の技術に従って、別のタンパク質を結合してもよい公知の輸送タンパク質である。例えば、米国特許第6,911,204号を参照されたい。
【0017】
本明細書中で使用される「アジュバント」とは、アジュバントと同時に投与されるワクチンの治療効力を増幅する、多様な部類の化合物のいずれかを指す。ある態様では、アジュバントは、GM-CSF等の造血成長因子である。アジュバントの一般例は、これらに限定されないが、水酸化-アルミニウム、リン酸-アルミニウム、若しくは酸化-アルミニウム;例えば、BayolFo若しくはMarcol52(商標)等の鉱物油、またはビタミンEアセテート等の植物油をベースとした水中油型エマルジョンまたは油中水型エマルジョン;サポニン;BCG;M.バッカエ(M.vaccae);破傷風毒素;ジフテリア毒素;百日咳菌(Bordetella pertussis);インターロイキン2;インターロイキン12;インターロイキン4;インターロイキン7;完全フロイントアジュバント;不完全フロイントアジュバント;及び非特異的アジュバントを含む。例えば、米国特許第6,699,483号を参照されたい。
【0018】
「造血成長因子」または「HGF」は公知である。例えば、米国特許第6,863,885号を参照されたい。一般に、HGFは造血前駆細胞の増殖及び分化を調節する糖タンパク質サイトカインである。本発明における使用が意図される造血成長因子は、G-CSF(顆粒球コロニー刺激因子)、SCF(幹細胞因子)、GM-CSF(顆粒球マクロファージコロニー刺激因子)、IL-1(インターロイキン-1)、IL-3、IL-6、IL-8、IL-11、IL-12、LIF(白血病阻害因子)、FGF-ベータ(線維芽細胞成長因子ベータ)、FLT3、またはそれらの組合せである群より選択することができる。これらの成長因子は購入することもできるし(例えば、R&D Systems, Minneapolis, MN)、または、一般に当分野において示される手順及び因子について記載する刊行物中の手順に従って作成することができる。さらに、造血成長因子は、当該因子の改変された形態、または、GCSF、SCF、GM-CSF、IL-I、IL-3、IL-6、IL-8、IL-11、IL-12、LIF、FGF-ベータ及びFLT3の群から選択される造血成長因子の融合タンパク質であり得る。HGFは、当分野において公知の方法に従って作成され得る、改変された成長因子(例えば、ムテイン)及び融合タンパク質を含む。例えば、Sambrook et aI., Molecular Cloning: A Laboratory Manual第2版, Cold Spring Harbor Laboratory, Cold Spring Harbor, N.Y., 1989を参照されたい。マクロファージ機能を刺激する、GM-CSF等の造血成長因子が特に好ましい。これらをアジュバントとして使用することができる。
【0019】
「外部ビーム放射線治療」は、患者腫瘍の位置に、高エネルギーのX線ビームを当てることにより行うことができる。ビームは患者の外部で産生され、腫瘍部位を標的とする。放射活性源が患者の体内に置かれることはない。この治療は、本発明によるいずれの他の処置工程と同時に使用することができる。
【0020】
本明細書中で使用される「処置する」とは、疾病に苦しむか、または疾病にかかる危険のある対象に恩恵を分け与える、対象の状態(例えば、1つ若しくはそれ以上の症状)の改善、疾病の進行の遅延、症状の開始の遅延、若しくは症状の進行を緩める等を含むあらゆる型の処置または予防を指す。従って、「処置」という用語は、症状の開始を妨げるための、対象の予防的処置を含む。
【0021】
本明細書中で使用される「処置」及び「予防」とは、症状の治癒または完全な除去を暗示することを意図していない。むしろ、これらは、患者の状態(例えば、1つまたはそれ以上の症状)の改善、疾病の進行の遅延等を含む、疾病に苦しむ患者に恩恵を与えるあらゆる型の処置を指す。
【0022】
「治療上有効な量」とは、本明細書中で使用されるように、患者の状態(例えば、1つまたはそれ以上の症状)の改善、疾病の進行の遅延等を含む、神経膠芽腫等の癌に苦しむ患者に対し望ましい効果を作り出すのに十分な抗体の量を意味する。
【0023】
本明細書中に記載される方法による処置を必要とする対象には、神経膠芽腫または星状細胞腫に苦しむ対象と同様、肺、結腸、胸、脳、肝臓、前立腺、脾臓、筋肉、卵巣、膵臓、頭部及び頚部、皮膚(メラノーマを含む)等の他の固形腫瘍または癌に苦しむ対象が含まれる。処置を必要とする対象には、特に、EGFRvIIIを発現する脳腫瘍等の腫瘍に苦しむ対象が含まれる。腫瘍は初期腫瘍、転移性腫瘍または再発性腫瘍であってもよい。本発明の方法により処置される対象は、特には、グリオーマ、線維肉腫、骨肉腫、メラノーマ、ウィルムス腫、結腸癌腫、乳房癌腫及び肺癌腫、並びに鱗状癌腫(squamous carcinoma)を含むEGFRvIIIを発現する腫瘍に苦しむ対象を含む。本発明により処置される対象は、最も詳細には、特に多型性神経膠芽腫である神経膠芽腫、及び、嚢胞性星状細胞腫等の脳腫瘍または癌に苦しむ患者を含む。
【0024】
本発明は、主として、男性及び女性対象、並びに、新生児、幼児、少年少女、青年、成人及び老人対象を含むヒト対象の処置に関係するが、本発明はまた、獣医目的、及び薬物スクリーニング及び薬物開発目的のマウス、ラット、イヌ、ネコ、家畜及びウマ等の、特に哺乳動物対象である動物対象に対して行ってもよい。
【0025】
本発明の薬学的組成物は、公知の技術に従って調製することができる。典型的には、活性剤は薬学的に許容される担体に含められる。例えば、水、緩衝用水、0.9%塩水、0.3%グリシン、ヒアルロン酸等などの、多種の水性担体を使用してよい。これらの組成物は、慣用の周知の滅菌技術により滅菌しても、または、滅菌濾過してもよい。得られた水性溶液は、そのまま使用のために梱包しても、または凍結乾燥してもよく、凍結乾燥製剤は投与前に滅菌溶液と組み合わされる。組成物は、生理的条件に近づけるために必要に応じ、例えば、酢酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、ソルビタンモノラウレート、トリエタノールアミンオレエート等である、緩衝剤、張度調整剤、湿潤剤等などの薬学的に許容される補助物質を含んでもよい。
【0026】
本発明の組成物及び方法は、1つまたはそれ以上のコ-アジュバント(co-adjuvant)の投与を含んでもよい。好適なコ-アジュバントは、これらに限定されないが:(1)水酸化アルミニウム、リン酸アルミニウム、硫酸アルミニウム等のアルミニウム塩(明礬);(2)例えば、(a)5%スクアレン、0.5%Tween80、及び0.5%Span85をサブミクロン粒子に調剤したMF59(PCT公開公報第WO90/14837号)、(b)10%スクアレン、0.4%Tween80、5%プルロニックブロックポリマーL121及びthr-MDPを含む、サブミクロンエマルジョンへと微小流体化した(microfluidized)、またはより大きい粒子サイズのエマルジョンへとボルテックスしたSAF(以下参照)、並びに(c)2%スクアレン、0.2%Tween80及び、1つ若しくはそれ以上の、モノホスホリルリピドA(MPL)、トレハロースジミコレート(TDM)、及び細胞壁骨格(CWS)からなる群より選択される、好ましくはMPL+CWS(Detox(商標))である細菌細胞壁成分を含むRiBi(商標)アジュバント系(RAS)(Ribi Immunochem, Hamilton, MT)等の水中油型エマルジョン製剤(ムラミルペプチド(以下参照)若しくは細菌細胞壁成分等の他の特異的免疫刺激剤を含む、または含まない)(本明細書中での使用に好適なサブミクロン水中油型エマルジョンに関してのさらなる検討については、1999年6月24日に公開されたPCT公開公報第WO99/30739号を参照されたい);(3)Stimulon(商標)(Cambridge Bioscience,Worcester, MA)等のサポニンアジュバント、またはそれから作成された、ISCOM(免疫刺激複合体)等の粒子を使用してもよい;(4)完全フロイントアジュバント(CFA)及び不完全フロイントアジュバント(IF A);(5)インターロイキン(IL-1、IL-2等)、マクロファージコロニー刺激因子(M-CSF)、腫瘍壊死因子(TNF)等のサイトカイン;(6)コレラ毒素(CT)、破傷風毒素(PT)、または、特にLT-K63(野生型アミノ酸の63位がリシンに置換された)、LT-R72(野生型アミノ酸の72位がアルギニンに置換された)、CT-SI09(野生型アミノ酸の109位がセリンに置換された)、CpGジヌクレオチド分子のCpGファミリー由来のアジュバント及びCpGを含む合成オリゴヌクレオチドモチーフ(例えば、Krieg et aI., Nature, 374:546(1995)及びDavis et aI, J. Immunol., 160:870-876 (1998)を参照されたい)及びPT-K9/GI29(野生型アミノ酸の9位がリシンに置換され、そして129位がグリシンに置換された)である大腸菌易熱性毒素(LT)等の、細菌性ADP-リボシル化毒素の解毒変異体(例えば、PCT公開公報第WO93/13202及びWO92/19265号を参照されたい);(7)組成物の有効性を増幅する免疫刺激剤として作用する他の物質(例えば、米国特許第6,534,064号を参照されたい);並びに(8)CpG及びRIBIアジュバントに加えて、細菌性フラジェリン等のToll様受容体の他のリガンド(CD4+T細胞の効果的なアジュバント;IJ Immunol. 169:3914-9(Oct. 2002))、を含む。
【0027】
活性剤は、例えば、通常の静脈内投与または動脈内投与、脳脊髄液への注射である、いかなる医学的に適当な手法により投与してもよい。ある場合には、皮内投与、体腔内投与、硬膜下腔内投与、または、腫瘍若しくは腫瘍に供給する動脈への直接投与が有利である。腫瘍またはその一部が先に手術により除去されている場合、治療剤は、予め移植された貯蔵器を介した直接的な注入により、腫瘍の部位(そして、特に、腫瘍部位の囲い込まれた体腔または「切除体腔」)へ投与してもよい。
【0028】
活性剤の適用量は、他の事柄と共に、対象の状態、処置される癌の特定の分類または型、投与経路、採用される治療剤の性質、及びその特定の治療剤に対する腫瘍の感度に依存すると考えられる。
【0029】
一般に、結合されたあらゆる担体タンパク質またはペプチドを含む、EGFRvIII等の腫瘍抗原またはワクチンの用量は、各用量につき、対象当たり10、100または500μgから、最大2または3mgである。用量は一度に与えてもよいし、任意でフォローアップまたは「ブースター」用量(例えば、1〜3週間の間隔で与えられる1、2若しくは3のフォローアップまたは「ブースター」用量)を含む。局所応答等の副作用を減らすために、望まれる場合には、異なる注射部位への投与等、用量を分割できることに留意されたい。製剤が、担体タンパク質に結合(または「結合(conjugated)」)された腫瘍抗原、及び担体タンパク質から遊離した腫瘍抗原の両方を含む場合、計算された適用量は、結合された及び遊離した両方の腫瘍抗原、並びに担体タンパク質の両者の値を含み得る。
【0030】
一般に、GM-CSF等のアジュバントの用量もまた、対象当たり10μgまたは20μgから、500μg、または最大1mg若しくは2mgであり、腫瘍抗原の用量と同じスケジュールで、または異なるスケジュールにより投与される。同じスケジュールで投与される場合、アジュバントは、腫瘍抗原と同じ担体により投与してもよい。同じ担体に組み合わされない場合、アジュバントの用量は、腫瘍抗原の用量と、その効力を増幅するのに時間的に十分に近く投与されさえすればよい(例えば、1または2時間以内、同日に等)。
【0031】
本発明を行うのに有用なアルキル化剤は(これらに限定されないが)、1,3-ビス(2-クロロエチル)-1-ニトロソウレア(BCNU)及びテトラジン誘導体、特に、テモゾロミド及びそのアナログ(その薬学的に許容される塩及びプロドラッグを含む)等の[3H]イミダゾ[5,1-d]1,2,3,5-テトラジン-4オン誘導体を含む。このような化合物は公知である。例えば、米国特許第6,096,724号、同第6,844,434号及び同第5,260,291号を参照されたい。本発明を行うのに有用なアルキル化剤の例には、[3H]イミダゾ[5,1-d]-1,2,3,5-テトラジン-4-オンアルキル化剤が含まれ、特に、一般式:
のものが含まれ、
式中R1は、水素原子;または、6個までの炭素原子を含む、直鎖アルキル若しくは有枝鎖アルキル、アルケニルまたはアルキニル基を表し、これら各基は、未置換であるか、若しくはハロゲン(即ち、臭素、ヨウ素、または好ましくは塩素若しくはフッ素)原子、4個までの炭素原子を含む直鎖若しくは有枝鎖のアルコキシ(例えば、メトキシ)、アルキルチオ、アルキルスリヒニル(alkylsullihinyl)及びアルキルスルホニル基、並びに、置換されてもよいフェニル基から選択される、1〜3個の置換基により置換されている。または、R1は、シクロアルキル基を表す。そして、Rは、窒素原子、各々4個までの炭素原子を含む直鎖及び有枝鎖のアルキルまたはアルケニル基から選択される1つ若しくは2つの基、並びにシクロアルキル基を伴うカルバモイル基を表し、例えば、メチルカルバモイルまたはジメチルカルバモイル基を表す。記号R1が、2若しくは3個のハロゲン原子により置換されたアルキル、アルケニルまたはアルキニル基を表す場合、前述のハロゲン原子は同じであっても、異なっていてもよい。記号R1が、1、2若しくは3個の任意に置換されたフェニル基により置換されたアルキル、アルケニルまたはアルキニル基を表す場合、1つまたは複数のフェニルラジカル上の任意の置換基は、例えば、4個までの炭素を含む、アルコキシ及びアルキル基(例えば、1つまたは複数のメトキシ及び/またはメチル基)、並びにニトロ基から選択してもよい。記号R1は、例えば、ベンジルまたはp-メトキシベンジル基を表してもよい。R1及びR2の記号の定義内のシクロアルキル基には、3〜8個、好ましくは6個の炭素原子が含まれる。化合物を、塩またはプロドラック、特にR1がHの場合、アルカリ金属塩として提供してもよい。例えば、米国特許第5,260,291号を参照されたい。
【0032】
5mg、20mg、100mg及び250mgのカプセルである、経口の剤形のテモゾロミドが、TEMODAR(商標)としてSchering Corporation, Kenilworth, NJ07033 USAから市販され、入手可能である。
【0033】
上述されるのと同様の手法により、腫瘍ワクチン、例えば、EGFRvIIIペプチドを含む製剤と同じまたは異なる製剤として、アルキル化剤を薬学的に許容される製剤に調製してもよい。
【0034】
好ましい態様において、アルキル化剤は、日用量のサイクルで、3、4、5、6または7日間連続して投与される。好適な日用量は、50、100または150mg/m2/用量から、200、250または300 mg/m2/用量までであり得る。このサイクルを繰り返してもよく、例えば、2、3、4または5週間ごとに、総数で6、8または10サイクルまで繰り返してもよい。最初のサイクルにおける最初のアルキル化剤の用量は、いかなる好適な時点で投与してもよい。ある態様では、アルキル化剤の最初の用量は、治療用抗体の投与の2週間または4週間前までに投与され、ある態様では、アルキル化剤の最初の用量は、治療用抗体の投与から少なくとも2、4または6週間後に投与される。外部ビーム放射治療等の追加の治療的処置も対象に適用される場合、追加の投与スケジュールを含めてもよい。
【0035】
任意で、対象は外部ビーム放射治療も受けてもよい。例えば、神経膠芽腫等の脳腫瘍について、外部ビーム放射治療を利用してもよい。外部ビーム放射治療は公知であり、公知の技術に従って行うことができる。ビームは、医療用直線加速器及びコバルト60外部ビームユニットを含む、任意の好適な手段によって生じさせることができる。放射源は、患者内部の標的領域が異なる方向から照射されるよう、患者の回りを回転するガントリー中に収納することができる。照射前に、処置は、典型的には、放射線ビームをシミュレートし、医療人員がビーム治療を計画することを可能にするアルゴリズムを用いてコンピューター上で計画される
。当業者には、本発明を行うのに使用できる多数のバリエーションの外部ビーム治療が、容易に理解できる。例えば、米国特許第6,882,702号、同第6,879,659号、同第6,865,253号、同第6,863,704号、同第6,826,254号、同第6,792,074号、同第6,714,620号及び同第5,528,650号を参照されたい。
【0036】
外部ビーム治療は好ましくは、公知の技術に従って、一連のセッションで適用され、好ましくは、セッションは治療抗体の投与から2から4週間後に始まる。例えば、外部ビーム放射線治療は、週に3、4、5、6または7日間、4、5、6または7週間の期間に亘って、0.5Gyまたは1Gyの日用量、2Gyまたは3Gyまでの日用量で、所望の総用量(例えば、30Gyまたは40Gy、50Gyまたは60Gyまで)が与えられるまで適用してよい。
【0037】
与えられる用量は、腫瘍の周囲の正常組織の端部を含む領域(例えば、全方向へ〜1、2若しくは3cmの端部)に対してであっても、または、腫瘍若しくはその一部が先に外科的に除去されている場合には、腫瘍部位の周りに対してであってもよい。
【0038】
外部ビーム放射線治療が採用された場合、患者は、放射線治療の期間中、上記とは異なる、やや低い用量の追加の化学療法剤投与のスケジュールを受けてもよい。例えば、患者は、外部ビーム治療の期間中、例えば、毎日、25または50 mg/m2/用量から、100または125 mg/m2/用量までのアルキル化剤である、日用量の化学療法剤を受けてもよい。
【0039】
抗腫瘍ワクチンとして使用し得る腫瘍抗原の例は、これらに限定されないが、サイクリン依存性キナーゼ4;β-カテニン;カスパーゼ-8;MAGE-1;MAGE-3;チロシナーゼ;表面Igイディオタイプ;Her-2/neu受容体;MUC-1;HPV E6及びE7;CD5イディオタイプCAMPATH-1、CD20;細胞表面糖タンパク質CEA、ムチン-1;細胞表面炭水化物ルイスX;CA-125;上皮増殖因子受容体;p185HER2;IL-2R;FAP-α;テネイシン;並びにメタロプロテイナーゼを含む。EGFRvIIIは腫瘍特異的抗原の例である。これらの抗原を発現する細胞もまたワクチンとして使用できる。好ましくは、前記細胞は投与前に殺される。腫瘍抗原が豊富にされた画分がワクチンとして使用されるよう、前記細胞を分別することもできる。これらの抗原は単なる例示であり、当分野において公知の、または、使用してもよい沢山の有用な抗原を包括することを意図したものではない。
【0040】
多数の前臨床的モデル系は、免疫細胞サブセットの枯渇が、幾つかの型の免疫治療アプローチの効力を破棄し得ることを証明し(Heimberger et al.,2003)、免疫治療のエフェクター段階(effector stage)の間に適用される化学療法が、効力に有害であるかもしれないことを示唆する。しかしながら、これは、前述の効果を最小にするよう適切に時期を計って、これらの剤を一緒に利用することを除外するものではない。さらに、出願人は、作用機構に関して、いかなる特定の理論に縛られることも望まないが、Tregs等のあるエフェクター細胞の枯渇は、より大きな免疫療法効力をもたらす化学療法の大いに望ましい結果であるか、または適切な腫瘍制御のための望ましいサイトカインプロファイルを促進するかもしれない。
【0041】
上の開示は、本発明を一般的に記載する。本明細書中に開示される全ての文献は、参照として特に組み入れられる。本明細書中において単に例証の目的で示され、本発明の範囲を限定することを意図していない、以下の特定の実施例を参照することにより、より完全な理解が得られる。
【実施例】
【0042】
実施例1
化学療法と免疫療法が同時に適用できるという仮説を試験するために、本発明者らは、新たにGBMと診断された患者を、上皮増殖因子変異体III(EGFRvIII)を標的とするペプチドワクチン(Heimberger et al.,2006)を投与すると同時に、標準的な医療であるテモゾロミドを用いて処置した。膜貫通チロシンキナーゼ受容体(Ekstrand et al.,1991)である上皮増殖因子受容体(EGFR)の過剰発現に結びつくEGFR遺伝子の増幅は、変異体EGFR遺伝子であるEGFRvIII(Wikstrand et al.,1997)と関連する。先の仕事により、EGFR増幅が、全てのEGFRvIII発現GBMs(Heimberger et al.,2005)で明らかであり、そして、増幅されたEGFRを欠くGBMsは、EGFRvIIIタンパク質について陽性ではない(Aldape et al.,2004)。
【0043】
2005年の5月に、悪心を伴わない持続性の朝の頭痛の3週間の経歴の訴えを受け、51歳のコーカサス人男性を調べた。磁気共鳴(MR)画像から、右側頭葉の腹側面中、6.6×5.3×4.3と測定される多小葉性の不規則に増幅される病変が明らかとなった。シルヴィウス溝は上向きに曲げられ、そして6mmの中線のずれがあった。患者は大きな全切除を受け、組織構造は二相性神経膠芽腫及び悪性肉腫を示した。これらの構成要素は、肉腫構成要素中のグリア線維酸性タンパク質(GFAP)及び豊富なレチクリン産生と共に、神経膠芽腫構成要素中に陽性の免疫組織化学により確認された。三色染色により、腫瘍の二相性特性が確認された。EGFR-528及びEGFRvIII抗体免疫組織化学染色は陽性であり(Heimberger et al.,2005)、EGFR-528染色はより集中していたのに対し、EGFRvIII染色は強い広汎性の反応を示した。PTENは強く陽性であり、そしてp53反応性は、腫瘍核の30%以上に存在した。メチルグアニン-DNAメチルトランスフェラーゼ(MGMT)DNA修復遺伝子がメチル化されていた(Hegi et al.,2005)。
【0044】
手術後、患者は、30分割で6000cGyの慣用の外部ビーム放射線治療を受けた。放射線治療の間、75mg/m2のテモゾロミドが同時投与された(Stupp et al.,2005)。放射線治療の終了時に撮られたMR画像に変化はなく、進行の事実は示されなかった。その後、患者は、免疫学的モニタリング目的で十分な細胞を得るため、白血球搬出を受けた。患者は、1:1の割合(w/w)でキーホールリンペットヘモシアニン(KLH)に結合したPEPvIII-3(LEEKKGNYVVTDHC)(PEPvIII-KLH)(500μg/免疫処置)の3回の経皮(i.d.)注射を、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)(142μg/免疫処置)と共に、2週ごとに6週間の間隔に亘って受けた(誘導期)。その後、患者には、免疫学的モニタリング目的で、2度目の白血球搬出を受けた。この時点で、患者は1〜5日目に150mg/m2のテモゾロミドの管理サイクルを開始した。完全な血球算定を、各サイクルの19日目に開始し、一日おきに白血球数最下点に回復の事実があるまで監視した。最下点回復時、通常は患者の28日サイクルの23日目(範囲=19〜25)に、患者は経皮ワクチンを受けた。
【0045】
実施例2
共通惹起抗原(common recall antigen)に対する遅延型過敏症(DTH)の試験、及び、ワクチンの成分を、全ワクチンの開始前、3回目のワクチン後、及び管理サイクルの間、月ごと、26日目に評価した。ワクチンの開始前、並びに、照射及び同時テモゾロミドの完了後、患者はカンジダ属に対してのみ反応性で、ワクチンの成分、PEPvIIIまたはKLHに対してはDTH反応を有さなかった。しかしながら、3回目のワクチン接種後、患者はワクチンのKLH成分に対して反応性になった。10回目のワクチン接種後、そして、同時テモゾロミドを受けている間、患者はワクチンのPEPvIII成分に対して反応性になった。比較として、サイクル化したテモゾロミドなしでワクチンを受けた患者の内(n=22)、15%より少ない患者が、PEPvIII成分に対して結局反応性になった。最新のフォローアップ及び14回目のワクチン接種投与後、患者は、PEPvIII DTH部位が顕著に硬変していた(16×15mm)。これは、この特定の患者において、テモゾロミドがDTH応答の進展にネガティブに影響しなかったことを示唆すると考えられている。
【0046】
実施例3
PEPvIII特異的体液性応答が誘導されたかどうかを決定するため、患者から月ごとに血清を得、PEPvIII-Dynabead(登録商標)アッセイで分析する前に-20℃で保存した。PEPvIIIまたはEGFRvIIIの細胞外ドメイン(EGFRvIII-ECD)を、製造者の指示に従って磁性微粒子に共有結合し(Invitrogen, Carlsbad, CA)、患者血清からの特異的抗体を捕獲するのに使用した。全ての血清試料を、最初にリン酸緩衝食塩水(PBS)+0.5%ウシ血清アルブミン(BSA)で1:10に希釈し、そして3連で分析した。特異性を決定するため、PEPvIII結合Dynabeadsで捕獲されるであろう、あらゆる抗PEPvIIIをブロックするために500ngのPEPvIIIペプチドと、追加の試料を15分間プレインキュベートした。ヒト-マウスキメラ抗PEPvIII抗体(81-0.11ng/ml)をスタンダードとして、各アッセイで、陽性(患者試料ACT4)及び陰性(正常ドナー血清)コントロールと共に流した。フローサイトメーターは、PE-FACSマイクロビーズ及び未反応PEPvIII Dynabeadsで標準に合わせた。ワクチン投与の前に、EGFRvIIIに対する検出可能な体液性応答は無かった。ワクチン接種後、平均蛍光強度(MFI)13となる、EGFRvIIIに対するIgG応答の有意の増加があり、そして、テモゾロミド投与にも拘らず、この体液性応答は維持されていた。
【0047】
実施例4
PEPvIIIに対してCD8+細胞障害性応答が誘導されたかどうかを決定するために、各白血球搬出からの患者の末梢血単核細胞(PBMC)及び月々のPBMCを、破傷風毒素(QYIKANSKFIGITE)(SEQ ID NO:5)(10μg/ml)(陽性コントロール)、PEP-1(HDTVYCVKGNKELE)(SEQ ID NO:4)(10μg/mL)(陰性コントロール)、PEPvIII(10μg/mL)(ワクチン成分)、またはKLH(10μg/ml)(ワクチン成分)のいずれかで刺激した。1つの陰性コントロールは未刺激細胞を含んでいた。各条件について、γ-インターフェロン(IFN)分泌を含む、対応するアイソタイプコントロールを使用した。全てのウェルを37℃で6時間、細胞内輸送工程を阻止するタンパク質輸送阻害剤であるGolgiplug(商標)(Pharmingen, SanDiego, CA)とインキュベートした。インキュベーション後、細胞を洗浄し、そして精製された抗CD16抗体(Pharmingen)及びウサギ血清(Pharmingen)を用いて、非特異的結合を阻止した。細胞を表面マーカー(CD3、CD4、CD8)について、適当なフルオレセインイソチオシアネート、及びアロフィコシアニン標識蛍光標識一次抗体またはアイソタイプコントロール(Pharmingen)とインキュベートすることにより染色した。その後、細胞はCytofix/Cytoperm(BD Biosciences, San Jose, CA)で固定し、そして、γ-IFNに対するフィコエリスリン標識抗体またはアイソタイプコントロールとインキュベートした。染色後、細胞を洗浄し、Cellquestソフトウェア(BD Immunocytometry systems, San Jose, CA)を用いて、FACSCaliburフローサイトメーター上のフローサイトメトリーにより、最低1×105個の生きた、出入の制御された(gated)事象を評価した。ワクチンを受ける前、患者は未刺激コントロール及びPEP-1陰性コントロールに対し最小の応答であった。ワクチンを受けた後、及びテモゾロミド投与の間、PEPvIII特異的γ-IFN産生CD8+T細胞が増加した。
【0048】
実施例5
テモゾロミド(5/21スケジュール)及び同時投与ワクチン(この例では19日目)のサイクルの間の種々のT細胞集団の反応を特徴付けるため、本発明者らは、0、3、5、12、19、23、25及び26日目に末梢血を得た。フロー分析サイトメトリー(flow analysis cytometry)により、免疫化学療法サイクルの間の、CD8+T細胞及びCD4+CD25+FoxP3+制御T細胞サブセットの割合を調べた。FoxP3のFITC標識モノクローナル抗体(mAb)がeBioscienceにより作成されたのを除いて、全ての蛍光結合mAb(PerCP-Cy5.5-CD3、FITC-CD8、APC-CD4及びPE-CD25)を、BD Biosciencesから購入した。末梢血細胞の表面及び細胞内染色を、製造者により提供された標準的な手順に従って行った。結果をFACSCaliburフローサイトメーターで、CellquestProソフトウェア(BD Biosciences)を用いて分析した。CD8+T細胞のサブセットの減退とは対照的に、Treg集団は、3日間のテモゾロミド投与後に増加し始め、12日目に頂点(全CD4+T細胞の内の0.9%)に達した。CD8+T細胞数が回復し始めたのに対し、Tregsは、その後、降下し始め、23日目まで降下し続けた。過程の最後においては、CD8+T細胞及びTreg集団の両方が前処置レベルまで回復した。ワクチン接種は、相対的に減少したTregsの期間中のCD8+細胞障害性T細胞のブーストに結びついた。
【0049】
実施例6
過去15ヶ月に亘って、患者は、2ヶ月の間隔をおいて、完全な身体検査及び脳MR画像法を受けた。彼の検査は安定なままで、MR画像法は、再発の事実を示さなかった。彼は障害なく常勤で働いており、そして、100%のカルノフスキー活動尺度(KPS)及び30/30のミニメンタルステータス試験値を示す。彼の神経学的試験は完全に正常である。
【0050】
この報告は、化学療法の免疫療法との同時適用が、処置の時期が注意深く監視されていれば可能かもしれないことを示唆する。報告された事例では、テモゾロミドの共投与が、PEPvIII-KLHワクチンの効力に影響しなかったことを示唆する幾つかの発見がある。第一に、患者は、15ヶ月のフォローアップの時点で未だ進行していない。これは、ワクチン治療のみを受けていた患者の平均TTPであった(n=22)。従って、テモゾロミドの同時投与を受けなかった患者と比べて、臨床効力は影響を受けたようにはみえない。患者は、テモゾロミドを受けている間でも、ワクチンのPEPvIII成分に対するDTH応答を生じたが、ワクチンのみを受けていた患者はわずか15%しかこの型の応答を生じなかった。さらに、PEPvIII DTH反応性の範囲は、続いてのワクチン接種と共に増加し続けた。第三に、PEPvIIIに対するIgG特異的応答は、3回目のワクチン接種後に誘導され、続いてテモゾロミドを受ける間維持されていた。第四に、誘導されたPEP-3特異的CD3+CD8+γ-IFN産生T細胞は、同時投与されたテモゾロミドのサイクルの間、減少するようにはみえず、同時投与されたテモゾロミドの間、増幅されているように思われる。最後に、本発明者らは、単一の処置サイクルの間、CD8+T細胞及びTreg集団を追跡し、そして、Tエフェクター(CD8+T細胞)応答の時間帯と共にTregsの関連した減少があるように見て取れることが分かった。従って、テモゾロミド及びワクチンの同時投与は、本発明者らが記載した方法では、誘導された免疫応答を減少させないように思われる。
【0051】
免疫学的応答を増加するためのリンパ球減少の使用は、マウスモデル系(Berenson et al.,1975;Cheever et al.,1980;North、1982)及びヒト癌患者(Dudley et al.,2002;Dudley et al.,2005)の両方で記載されてきた。これらの増幅された抗腫瘍応答に関して、複数の機構が原因として提案されている。リンパ球減少は、抗原提示細胞の表面での競合を除き(Kedl et al.,2000)、T細胞活性を増加するIL-7及びIL-15等のサイトカインの有効性を増幅し(Gattinoni et al.,2005)、そして、免疫阻害性Tregsを枯渇させる可能性がある(Anthony et al.,2005)。化学療法もまた、免疫プライミング及び提示を増幅し(Nowak et al.,2002)、抗原発現を増幅し(Aquino et al.,1998)、及び免疫的根絶のための標的を増幅する(Ciusani et al.,2002)ことにより潜在的に免疫学的応答を増加する可能性がある。テモゾロミドの最下点の間にワクチン接種が適用された場合、本発明者らは、増幅されたエフェクター応答があるであろうとの仮説を設けた。それらのエフェクター応答は、Tregsの回復の遅延に従属的なものかもしれず、そのため、テモゾロミドなしの場合に見られたであろうよりも大きなクローン特異的(clonotypic)拡張を許す。このことは確かに、この特定の患者の監視された化学免疫治療サイクルの間に観察された。エフェクターT細胞に関連したTregsの回復の遅延は、免疫細胞応答の通常の生理的役割を考慮すれば驚くに当らない。免疫応答を高めるには、Tエフェクターは活性化し、増幅し、そしてそれらの応答を媒介する必要がある。これがTregs等の恒常性機構により抑制されなければ、T細胞増殖は衰えることなく急騰する。そのため、Treg応答の遅延は、効果的な免疫応答を許すだろうが、最終的にこの応答を下方調節/制御する。
【0052】
結果として、本事例報告は、化学療法及び免疫療法の共適用が心身に有害でない可能性があることを示唆する。
【0053】
文献
引用される各文献の開示は、本明細書中に特に組み入れられる。
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]