(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746727
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】シリンダ潤滑デバイス
(51)【国際特許分類】
F01M 1/02 20060101AFI20150618BHJP
F01M 1/06 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
F01M1/02 C
F01M1/06 E
【請求項の数】15
【外国語出願】
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2013-99785(P2013-99785)
(22)【出願日】2013年5月10日
(65)【公開番号】特開2013-238222(P2013-238222A)
(43)【公開日】2013年11月28日
【審査請求日】2013年8月7日
(31)【優先権主張番号】PA 2012 00343
(32)【優先日】2012年5月15日
(33)【優先権主張国】DK
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】サアアンスン オーレ
【審査官】
津田 健嗣
(56)【参考文献】
【文献】
特開2008−202548(JP,A)
【文献】
特開2008−51109(JP,A)
【文献】
特開2001−193430(JP,A)
【文献】
特表2009−544879(JP,A)
【文献】
特開平7−332827(JP,A)
【文献】
特開2000−213322(JP,A)
【文献】
特表2010−527425(JP,A)
【文献】
特開平7−98005(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01M 1/02
F01M 1/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリンダライナ(111)の内表面上を摺動するピストンリング(121)を有する往復ピストン(120)を各シリンダ(110)内に有する大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関用のシリンダ潤滑デバイス(1)であって、前記ピストン(120)の往復に関連して、シリンダ(110)の周縁部に分布する複数の注入ポイント(112)を介して前記シリンダライナの前記内表面に正確な分量のシリンダ潤滑流体を提供するように構成される、シリンダ潤滑デバイス(1)において:
・ 注油シリンダ(20)内を摺動可能な注油プランジャ(30)を各ピストンポンプが有する、複数のピストンポンプであって、前記注油シリンダ(20)の各々は注入排出口(21)と流体連通し、前記注入排出口(21)の各々は、前記シリンダ(110)のいずれかの注入ポイント(112)に接続可能である、複数のピストンポンプと;
・ 前記注油プランジャ(30)に接続され、前記注油プランジャ(30)を同時に移動させるように設けられるプランジャコネクタ(31)であって、構造的に決定される二つの最端位置の間の範囲を移動可能なプランジャコネクタ(31)と;
・ 前記注油プランジャ(30)または前記プランジャコネクタ(31)の位置を検出するためのポジションセンサ(44)と;
を備え、
・ 前記注油プランジャ(30)が、前記プランジャコネクタ(31)に接続されたリニアアクチュエータ(40)により駆動され、前記リニアアクチュエータ(40)が、制御信号(52)に応答して前記注油プランジャ(30)を前記範囲の中の任意の開始位置から前記範囲の中の任意の所望の終了位置まで移動させるように構成されることと;
・ 前記制御信号(52)が、前記シリンダ潤滑デバイス(1)又は前記大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関(100)に関連付けられている電子制御ユニット(50)から生じることと;
・ 前記電子制御ユニットが前記ポジションセンサに接続されていることと;
・ 前記電子制御ユニットが、閉ループ制御系において制御信号(52)を前記リニアアクチュエータ(40)に提供することと;
を特徴とする、シリンダ潤滑デバイス。
【請求項2】
前記制御信号が、前記プランジャコネクタのどの位置で注入ストロークまたは吸引ストロークが終了するかを決定する、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項3】
前記構造的に決定される最端位置が、機械的なエンドストップである、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項4】
前記リニアアクチュエータ(40)が、前記制御信号(52)に応答して直接停止させられうる、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項5】
前記リニアアクチュエータ(40)が、前記電子制御ユニット(50)により決定される位置で直接停止させられうる、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項6】
機関サイクルあたり一回の潤滑流体の注入を、実行される特定の注入に合わせて調節されたストロークの長さで提供できるように構成される、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項7】
実際の機関運転条件にもとづいて前記注油プランジャ(30)のストロークの長さを制御するように構成され、好ましくは注入イベントごとに機関運転条件に合わせて前記注油プランジャ(30)のストロークの長さを調節して制御するように構成される、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項8】
機関運転条件にもとづいて前記注油プランジャ(30)のストローク速度を制御するように構成され、好ましくは注入イベントごとに実際の機関運転条件に合わせて前記ストローク速度を調節して制御するように構成され、レートシェーピングを可能にするために注入イベントの間に前記ストローク速度が繰り返し調節されるのがより好ましい、請求項7に記載のシリンダ潤滑デバイス。
【請求項9】
特定のおよび実際のシリンダ運転条件にもとづいて前記注油プランジャ(30)のストロークの長さおよび/または速度を制御するように構成される、請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイス(1)。
【請求項10】
請求項1に記載のシリンダ潤滑デバイスを含む、クロスヘッド型大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関。
【請求項11】
シリンダライナ(111)の内表面上を摺動するピストンリング(121)を有する往復ピストン(120)を各シリンダ(110)内に有する大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関(100)用のシリンダ潤滑デバイス(1)を運転する方法であって、前記シリンダ潤滑デバイス(1)は、前記ピストン(120)の一回の往復または複数回の往復ごとに、シリンダ(110)の周縁部の等しいレベルに分布した複数の注入ポイント(112)を介して前記シリンダライナの前記内表面に正確な分量のシリンダ潤滑油を提供し、前記シリンダ潤滑デバイス(1)は、
・ 注油シリンダ(20)内を摺動可能な注油プランジャ(30)を各ピストンポンプが有する、複数のピストンポンプであって、
・ 各注油シリンダ(20)が、注入排出口(21)と流体連通し、各注入排出口(21)が、前記シリンダ(110)のうちの一つのシリンダの注入ポイント(112)に接続可能である、複数のピストンポンプと、
・ 前記注油プランジャ(30)に接続され、前記注油プランジャ(30)を同時に移動させるように設けられたプランジャコネクタ(31)であって、
・ 構造的に決定される二つの最端位置の間の範囲を移動可能な、前記プランジャコネクタ(31)と
を含み、
・ 前記注油プランジャ(30)は、前記プランジャコネクタ(31)に接続されたリニアアクチュエータ(40)により駆動され、
・ 前記方法は、選択された長さの注入ストロークを達成するために前記リニアアクチュエータ(40)に指示することであって、前記注油プランジャ(30)の位置を測定することと、フィードバックループ制御を用いて前記注油プランジャのストロークを制御することとにより、制御信号に応答して前記注油プランジャ(30)を前記範囲の中の任意の開始位置から前記範囲の中の任意の所望の終了位置まで移動させるように前記リニアアクチュエータ(40)に指示することを含む、方法。
【請求項12】
個々の注入ストロークごとの前記選択された長さを決定することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記機関(100)または該当の前記シリンダ(110)の実際の運転条件にもとづいて注入ストロークの前記選択された長さを決定することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項14】
前記機関(100)または該当の前記シリンダ(110)の実際の運転条件にもとづいて前記注油プランジャ(30)の速度を調節することをさらに含む、請求項11に記載の方法。
【請求項15】
レートシェーピングを可能にするために注入イベントの間に前記速度が繰り返し調節される、請求項14に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロスヘッド型大型低速2ストロークディーゼル機関用のシリンダ潤滑デバイス、および、シリンダ潤滑デバイスを有するクロスヘッド型大型低速2ストロークディーゼル機関に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば発電所で用いられ、または船舶の主動力として用いられるクロスヘッド型大型2ストロークディーゼル機関の分野において、機関のシリンダおよびピストンには特に正確かつ広範な潤滑が必要である。典型的にはこのような機関は重油で動き、このため、例えば硫酸に変化してシリンダライナならびにピストンおよびピストンリングの表面を腐食させる硫黄など、機関に有害な大量の粒子がシリンダに導入される。したがって、pHが低く、大型低速2ストロークディーゼル機関の燃料として典型的に用いられる重油の硫黄分により生じる燃焼生成物の酸性度を相殺する、特別なシリンダ潤滑油を使用することが必要である。
【0003】
名目指標注油率で運転する機関においてシリンダ潤滑油の消費にかかる費用は大きく、特にボアが大きい(ボアが600〜1200cmの)機関では、潤滑油の一回の注入あたりの注油量がわずかに減少しただけでも、大型機関の通常の使用時の潤滑油の消費量を大きく節減できる。したがって、申し分のないピストン/ライナ摩耗率を維持し、機関のオーバーホールの間隔を維持または改善しながら、必要最低量のシリンダ潤滑油が用いられうるように、シリンダ潤滑油の注油量を非常に正確に制御することが本発明の目的である。潤滑油の消費量の減少により排気量も低くなるため、環境にも良い影響がある。
【0004】
シリンダ潤滑油は、機関サイクルにおいて効果が最適となるちょうど正確な時、すなわち注入がピストンリングの間になるような位置にピストンがある時に、シリンダに注入されなければならない。これは、今日の従来の注油装置では必ずしも可能ではない。
【0005】
典型的な注油装置は、機関の四回転毎、五回転毎、または六回転毎などに、複数か所の注入ポイントを介してシリンダに特定量の潤滑油を注入するという原理にもとづいており、機関の一回転毎または一回転おきに注入を行うことはできない。
【0006】
注入間の最低回転数は、従来の注油装置がシリンダ潤滑油を注入した後に次の注入の準備が整うまでにかかる最低時間に左右されることが多い。この時間は、空気圧システムでは注入前に注入チャンバを補充できる速度の限界ならびに注入の注油量および速度の制御の限界により決定される。
【発明の開示】
【0007】
こうしたことを背景に、先行技術の問題を克服しまたは少なくとも緩和する注油装置および注油装置を有する機関を提供することが本発明の目的である。代替的な注油装置および代替的な注油装置を有する機関を提供することが、本発明のさらなる目的である。
【0008】
この目的は、シリンダライナの内表面上を摺動するピストンリングを有する往復ピストンを各シリンダ内に有する大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関用のシリンダ潤滑デバイスを提供することにより達成される。シリンダ潤滑デバイスは、ピストンの往復に関連して、シリンダの円周のまわりに分布した複数の注入ポイントを介してシリンダライナの内表面に正確な分量のシリンダ潤滑流体を提供し、シリンダ潤滑デバイスは、注油シリンダ内を摺動可能な注油プランジャを各ピストンポンプが有する、複数のピストンポンプであって、各注油シリンダが、注入排出口と流体連通し、各注入排出口が、シリンダのうちの一つのシリンダの注入ポイントに接続可能である、複数のピストンポンプと、注油プランジャに接続され、注油プランジャを同時に移動させるように設けられたプランジャコネクタであって、構造的に決定される二つの最端位置の間の範囲を移動可能なプランジャコネクタとを含み、注油プランジャは、プランジャコネクタに接続されたリニアアクチュエータにより駆動され、リニアアクチュエータは、制御信号に応答して範囲の中の任意の開始位置から範囲の中の任意の所望の終了位置へプランジャを移動させるように構成されている。
【0009】
任意の所望の位置で直接停止されうるアクチュエータをシリンダ潤滑デバイスに提供することにより、注入ストロークの長さを一つの注入ストロークから次の注入ストロークに調節または変動させることが可能になる。これにより、シリンダ潤滑油の注油量を実際の必要に合わせて順次調節することがさらに可能になり、したがって実際に必要とされる以上の量が注入されることを避けられるため、シリンダ油を節減できる。
【0010】
一実施形態においては、制御信号が、プランジャコネクタのどの位置で注入ストロークが終了するかを決定する。
【0011】
一実施形態においては、構造的に決定される最端位置は、機械的なエンドストップである。
【0012】
一実施形態においては、リニアアクチュエータは、制御信号に応答して直接停止させられうる。
【0013】
一実施形態においては、信号は、シリンダ潤滑デバイスに関連付けられているか機関に関連付けられている電子制御ユニットから生じる。
【0014】
一実施形態においては、リニアアクチュエータは、電子制御ユニットにより決定される範囲の中の位置で、直接停止させられうる。
【0015】
一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイスは、機関サイクルあたり一回の潤滑流体の注入を、実行される特定の注入のために調節されたストロークの長さで提供できるように構成される。
【0016】
一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイスは、機関運転条件にもとづいて注油プランジャのストロークの長さを制御するように構成され、好ましくは注入イベントごとにストロークの長さを機関運転条件に合わせて調節して制御するように構成される。
【0017】
一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイスは、機関運転条件にもとづいて注油プランジャのストローク速度を制御するように構成され、好ましくは注入イベントごとにストローク速度を機関運転条件に合わせて調節して制御するように構成され、レートシェーピングを可能にするように一つの注入イベントの間にストローク速度が繰り返し調節されるのがさらに好ましい。
【0018】
一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイスは、特定のシリンダ運転条件にもとづいて注油プランジャのストロークの長さおよび/または速度を制御するように構成される。
【0019】
一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイスは、注油プランジャまたはプランジャコネクタの位置を検出するためのポジションセンサを含む。
【0020】
一実施形態においては、リニアアクチュエータは、リニア電気モータである。
【0021】
上述の目的は、本発明によるシリンダ潤滑デバイスを含む、クロスヘッド型大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関を提供することによっても達成される。
【0022】
上述の目的は、シリンダライナの内表面上を摺動するピストンリングを有する往復ピストンを各シリンダ内に有する大型低速2ストロークディーゼルマルチシリンダ機関用のシリンダ潤滑デバイスを運転する方法を提供することによっても達成される。シリンダ潤滑デバイスは、ピストンの一回の往復または複数回の往復ごとに、シリンダの円周のまわりの等しいレベルに分布した複数の注入ポイントを介してシリンダライナの内表面に正確な分量のシリンダ潤滑油を提供し、シリンダ潤滑デバイスは、注油シリンダ内を摺動可能な注油プランジャを各ピストンポンプが有する、複数のピストンポンプであって、各注油シリンダが、注入排出口と流体連通し、各注入排出口が、シリンダのうちの一つのシリンダの注入ポイントに接続可能である、複数のピストンポンプと、注油プランジャに接続され、注油プランジャを同時に移動させるように設けられたプランジャコネクタであって、構造的に決定される二つの最端位置の間の範囲を移動可能なプランジャコネクタとを含み、注油プランジャは、プランジャコネクタに接続されたリニアアクチュエータにより駆動され、本方法には、選択された長さの注入ストロークを達成するために、制御信号に応答して範囲の中の任意の開始位置から範囲の中の任意の所望の終了位置へプランジャを移動させるようにリニアアクチュエータに指示することが含まれる。
【0023】
一実施形態において、本方法には、個々の注入ストロークごとの選択された長さを決定することがさらに含まれる。
【0024】
一実施形態において、本方法には、機関または該当のシリンダの実際の運転条件にもとづいて注入ストロークの選択された長さを決定することがさらに含まれる。
【0025】
一実施形態において、本方法には、機関または該当のシリンダの実際の運転条件にもとづいて注油プランジャの速度を調節することがさらに含まれる。
【0026】
一実施形態において、本方法には、送達速度の決定された適切な形にしたがって特定のシリンダに注入イベントを実行するようにシリンダ潤滑デバイスに指示することがさらに含まれる。
【0027】
本発明によるシリンダ潤滑デバイス、大型2ストロークディーゼル機関および方法のさらなる目的、機能、利点および特性は、詳細な説明から明らかになる。
【0028】
以下の本発明の詳細な説明の部分においては、図面に示される例示的実施形態を参照して本発明をさらに詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の一実施形態によるシリンダ潤滑デバイスを示した斜視図である。
【
図2】リニア電気モータが一つの最端位置にある、
図1に示されるシリンダ潤滑デバイスの詳細を示した断面図である。
【
図3】リニア電気モータがもう一つの最端位置にある、
図1に示されるシリンダ潤滑デバイスの詳細を示した断面図である。
【
図4】クロスヘッド型大型2ストロークディーゼル機関のシリンダの断面を示した概略図である。
【
図5】リニア電気モータを有する、
図1に示されるシリンダ潤滑デバイスの詳細を示した断面図である。
【0030】
以下の詳細な説明においては、本発明による大型2ストロークディーゼル機関用のシリンダ潤滑デバイスを例示的実施形態により説明する。
【0031】
本発明は、船または定置発電機関100の主推進システムを構成しうるクロスヘッド型大型低速2ストロークディーゼル機関100用の機関シリンダ潤滑デバイスおよびシステムに関する。機関100は、複数のシリンダ110、典型的には一列に設けられた三〜十四本のシリンダを有するが、他のレイアウトまたは数のシリンダを有していてもよい。各シリンダ110には、シリンダ110の内表面を形成するシリンダライナ111が備わっている。大型2ストローク機関100においては、シリンダライナ111の内径は典型的に250mm〜1200mmの間であり、シリンダライナ111内に摺動可能に設けられた往復ピストン120のストロークの長さは典型的に800〜3000mmの範囲である。したがって、潤滑化される表面は数平方メートルになりうる。往復ピストン120には、シリンダライナ111の内表面上を摺動する三〜五つの保圧ピストンリング121が備わっているのが典型的である。
図4においては、三つのピストンリング121を有するピストンが示されるが、他の数のピストンリングが使用されてもよい。ライナ111の内表面上に潤滑油膜を維持し、ピストンリング121とライナ111の内表面との間の摩擦を低減し、シリンダ壁、ピストンおよびピストンリングを強力な酸性の燃焼生成物から提供するために、シリンダ110に正確な分量のシリンダ潤滑油を繰り返し提供することが、機関のシリンダ潤滑デバイスおよびシステムの目的である。シリンダ110の燃焼チャンバでの重油の燃焼中に形成される硫酸を中和するためのアルカリ性添加剤を含む潤滑油などのシリンダ潤滑流体が、シリンダライナ111を通って形成されたシリンダライナ潤滑流体ポイントまたはクイル112を介して加えられる。シリンダライナ潤滑流体注入ポイント112(クイル)は単純な口(穴)であってもよいし、ノズルまたはインジェクタを伴って形成されてもよいし、公知技術の他の方法で形成されてもよい。四〜十二か所または四〜二十か所など、数か所のシリンダライナ潤滑流体注入ポイント112がシリンダライナ111に形成されているのが典型的であり、シリンダライナ潤滑流体注入ポイント112は、潤滑流体を等しく確実に加えるためにライナ111の円周のまわりの等しいレベルに等間隔で分布している。シリンダ110のある領域が多少摩耗しやすい場合には、その領域に対応するシリンダライナ潤滑流体注入ポイント112の密度が、それぞれ増減されうる。注入の後、注入された潤滑流体がピストンリングによりライナ111上に分配される。
【0032】
クロスヘッド型大型2ストロークディーゼル機関の構造および運転は、非常に良く知られているため、本明細書の文脈上これ以上の説明を要しないはずである。
【0033】
図1は、シリンダ潤滑デバイス1の例示的実施形態を示す。シリンダ潤滑デバイス1には、ハウジング10と、ハウジング10に結合された作動デバイス40とが含まれる。
【0034】
図2および
図3は、部分断面図において、二つの最端位置にある
図1のシリンダ潤滑デバイス1の詳細を示す。シリンダ潤滑デバイス1は、複数のピストンポンプを有する。各ピストンポンプは、ハウジング10内に形成された注油シリンダ20を有する。
図2および3に選択された断面図においては、二つの注油シリンダチャンバ20が見える。注油シリンダ20は、円筒状であるのが好ましい細長い形状を有し、(注油シリンダ20の長軸に対して直角の断面に見られる)仮想の円上に設けられるのが好ましい。このピストンポンプの円形の配置は、注油シリンダの排出口21の位置から認識できる。
【0035】
図1、2および3に示される実施形態においては、六つの注油シリンダ20があり、
図1ではハウジング10の前端に形成された六つの注入排出口21からそれを認識できる。好ましい実施形態では、十本の注油シリンダ20があるが、例えば二〜十二本など、他の任意の数またはそれ以上であってもよい。
【0036】
注油プランジャ30は、各注油シリンダ20内に摺動可能に受け取られる。注油シリンダ20内の注油ピストン30と排出口21に接続したポートを有する注油シリンダ20の端部との間に、ポンプチャンバ24が設けられる。注油プランジャ30は、機関シリンダ110の注入に際し、ある量のシリンダ潤滑流体を注油シリンダ20内に放出し、ある量の潤滑流体をポンプチャンバ24に充填および補充するように構成される。したがって、プランジャ30は、注油シリンダ20の内壁と(少なくともプランジャヘッド30´で)密封を形成するように設けられ、注油シリンダ20内を摺動可能である。
【0037】
注油プランジャ30は全て一端でプランジャコネクタ31に接続される。プランジャコネクタ31は、注油シリンダ20の延長上のハウジング10内に形成されたコネクタチャンバ32内に摺動可能に設けられる。したがって、プランジャコネクタ31の摺動により、全てのプランジャ30が、それぞれの注油シリンダ20内を同時に摺動する。
図2においては、注油プランジャ30およびプランジャコネクタ31はその最(最端)後退位置にあり、これは機械的なエンドストップ33により決定される。
【0038】
プランジャコネクタ31の反対側は、リニアアクチュエータ40としてもよい作動デバイスとの相互作用のために設けられたプッシュプルロッド41に接続されている。したがって、ハウジング10に対してプッシュプルロッド41が移動することにより、コネクタチャンバ32内でプランジャコネクタ31が移動し、これによりさらに注油プランジャ30がそれぞれの注油シリンダ20内で同時に移動する。
【0039】
プランジャコネクタ31は、プレート形のエレメントであればよいが、プッシュプルロッド41から伸びるアーム(図示せず)など、他の構成を有していてもよい。
【0040】
注油シリンダ20は、注油シリンダ20から注入排出口21への注入経路を通じて、ハウジング10の壁に形成された注入排出口21と流体連通する。
【0041】
図2および3に示される実施形態においては、これらの注入経路は各々、該当の注油シリンダ20からの出口または排出口を形成する第一導管11を有する。第一導管11は図のように注油シリンダ20の端壁内に形成されればよく、または、反対側のポンプチャンバ24の端の注油シリンダ20の側壁内に形成されればよい。第一導管11は、注油シリンダ20をそれぞれの中間導管12と接続する。
【0042】
図の例示的実施形態においては、中間導管12は、ハウジング10内で注入チャンバ20の縦軸に対して横向きである。中間導管12(および第一導管11)は、後述するように、潤滑油を注油シリンダ20との間で出し入れするという二つの目的に資する。
【0043】
第二導管13は、それぞれの中間導管12をそれぞれの注入導管14と接続し、注入導管14は、それぞれの注入排出口21への接続を形成する。
【0044】
機関のシリンダからの物質の逆流を防ぐため、一方向弁22が注入導管14内、第二導管13内またはその間に設けられる。したがって、一方向弁22が、注入排出口21に向かう流動のみを可能にする。
【0045】
一方向弁22は、第二導管13と注入導管14との間に形成されたチャンバ22´内に、または第二導管13内もしくは注入導管14内に形成されうる。
【0046】
したがって、
図2および3に示される実施形態では、各注入経路に、第一導管11と、中間導管12と、第二導管13と、注入導管14とが含まれる。
【0047】
ハウジング10は、
図2においては一つの物または部品として形成されるように示されているが、いくつかの構成部品によって形成されうる。上述のチャンバ、経路および導管11、12、13、14、15、16、17、18、19、20は、ハウジング内に成形された通路として、またはボアとして形成されうる。しかし、適切な管、配管、シリンダ等によって形成されてもよい。
【0048】
注入排出口21は、適切な配管(図示せず)により、シリンダライナ111内に形成されたシリンダライナ潤滑流体ポイント112(クイル)に接続される。
【0049】
注油シリンダ20に、潤滑流体供給経路を介してシリンダ潤滑流体が供給される。
図2および3に示す実施形態においては、これらの潤滑流体の供給経路は、全ての注油シリンダ20に共通の、ハウジング10に形成された入口15から開始する。入口15は、入口導管16に通じる。入口導管16は、第三導管17を通じて入口導管リング18と流体連通する。
【0050】
入口導管リング18は注油シリンダ20の縦軸に対して横向きの平面においてハウジング10内に形成され、シリンダ潤滑デバイス1の全てのポンプチャンバ24に接続するリング形の導管である。
【0051】
他の実施形態(図示せず)においては、入口導管リング18につながる二〜四つの入口15および対応する入口導管16がありうる。
【0052】
第四導管19が入口導管リング18を上述の中間導管12の各々に接続し、それらが、第一導管11を通じてそれぞれの注油シリンダ20およびそれぞれのポンプチャンバ24にさらに接続される。
【0053】
注入イベントの間にシリンダ潤滑流体が中間導管12から入口導管リング18に逆流しないようにするために、供給経路の第四導管19と中間導管12との間に一方向弁23が設けられるが、一方向弁23は、注油プランジャの吸引ストロークの間にそれぞれのポンプチャンバ24を満たすためのシリンダ潤滑流体の吸引を可能にする。一方向弁23は、第四導管19内または第四導管19と入口導管リング18との間に形成されるチャンバ23´内に形成されうる。
【0054】
したがって、図示の実施形態の供給経路の各々には、第一導管11と、中間導管12と、第四導管19と、共通入口導管リング18と、共通第三導管17と、入口導管16と、共通入口15とが含まれる。ここでは共通とは、全ての供給経路に共通という意味である。
【0055】
また、上にも述べたように、中間導管12および第一導管11は、潤滑油を注油シリンダ20との間で出し入れするという二つの目的に資するため、それぞれの注入経路だけでなくそれぞれの供給経路の両方の一部を形成する。これは以下でさらに詳述する。
【0056】
潤滑流体供給経路の入口15は、例えば潤滑油タンクなどの加圧された潤滑流体源に接続している。これは、各注油シリンダ20に潤滑流体を等しく供給するため、ならびに、個々の注油シリンダ20およびそこへの供給経路の詰まりに対するセーフティマージンを提供するために、比較的高圧の容積型システムにより加圧されるのが好ましい。
【0057】
注入経路に形成された一方向弁22および供給経路に形成された一方向弁23は、ボール弁式でありうる。あるいは、一方向弁の代わりに電子制御または油圧制御された遮断弁またはオン/オフ弁が使用されうる。
【0058】
ハウジング10は、作動デバイスに接続される。作動デバイスは、プッシュプルロッド42に作用するアクチュエータを有する。このプッシュプルロッド42は、上述のプッシュロッド41と同一であるか、上述のプッシュロッド41に接続される。
【0059】
作動デバイスは、リニアアクチュエータ40である。
図1、2および3に示される実施形態においては、リニアアクチュエータ40は、電気リニアモータ40´またはリニア油圧アクチュエータ40´´であるのが好ましい。
【0060】
以下に、シリンダ潤滑デバイス1の機能を述べる。
【0061】
注油プランジャ30は、リニアアクチュエータ40により二つの最端位置の間を移動させられ、注油プランジャ30は、これらの二つの最端位置の間の任意の位置で停止させられうる。
【0062】
図2は、最伸長位置を示す。すなわち、注油プランジャ30がその底位置にあるため、プランジャ30のプランジャヘッド30´が、第一導管11、すなわち注油シリンダ20の入口/排出口に隣接し、ポンプチャンバ24の容積が最小である。この最端伸長位置は、シリンダ潤滑デバイス1の構造により決定され、例示的実施形態においては注油シリンダ20の端壁により形成された機械的なエンドストップ34により決まる。
【0063】
図3は最後退位置を示す。すなわち、注油プランジャ30がその最上位置にあるため、プランジャ30のプランジャヘッド30´が、第一導管11、すなわち注油シリンダ20の入口/排出口から最も遠くにあり、ポンプチャンバ24の容積が最大である。この最端伸長位置は、シリンダ潤滑デバイス1の構造により決定され、例示的実施形態においては、以下にさらに詳述するコネクタチャンバ32の端壁により形成された機械的なエンドストップ33により決まる。
【0064】
注油シリンダ20にシリンダ潤滑流体を充填するためには、作動デバイス40がプッシュロッド41、42、ひいては(プランジャコネクタ31を介して)プランジャ30を、第一導管11と反対の方向へ、すなわち
図2および3の下方へ向かって移動させる。これにより、ポンプチャンバ24内の圧力が減少し、シリンダ潤滑流体の吸引が生じる。
【0065】
注入経路の一方向弁22が、潤滑流体(またはその他の材料)が注入導管14および注入排出口から中間導管12に(例えば燃焼圧により)入るのを防ぐ。
【0066】
ポンプチャンバ24内の減圧を緩和するために、加圧された潤滑流体源からの潤滑流体が、入口15から入口導管16および第三導管17を通って流れ、入口導管リング18に入り始める。潤滑流体は入口導管リング18から供給経路の一方向弁23および第四導管19を通って、中間導管12および第一導管11内から、注油シリンダ20内へと流れる。
【0067】
したがって、入口導管リング18は、一つの入口15から全ての注油シリンダ20に潤滑流体を分配する働きをする。
【0068】
戻り/吸引ストロークは、電子制御ユニット50により決定される位置で終了する。電子制御ユニット50からの指令信号により、リニアアクチュエータの移動は直ちに終了する。
【0069】
吸引されるシリンダ潤滑流体の体積は、プランジャ30を注油シリンダ20内で後退させる距離を変化させることにより調節できるが、次の注入ストロークまで十分な時間があるときには、電子制御ユニット50プランジャは、ポンプチャンバの最大容積を潤滑流体で充填するために、リニアアクチュエータ40´を最端後退位置まで動かすことを決定しうる。
【0070】
プランジャコネクタ31がその最後退位置にある(コネクタチャンバ32の後壁22に接する)ときに、プランジャヘッド30´がまだ注油シリンダ20内にあり、注油シリンダ20の内壁としっかりと密封を形成しているように、コネクタチャンバ32の長さが、注油シリンダ20の長さに対応するように設けられるのが好ましい。
【0071】
注油シリンダ20が、潤滑流体で完全にまたは部分的に充填されると、プッシュロッド41、42を作動させて、プランジャ30の第一導管11に向かった移動を開始させることで注油シリンダ20内の圧力を高めることにより、潤滑流体の注入が開始されうる。これにより、注油シリンダ20内にある潤滑流体が放出される。こうして潤滑流体が、第一導管11および中間導管12を通って流れる。
【0072】
供給経路の一方向弁23が、入口導管リング18および入口15に向かう流動を防ぐため、潤滑流体は、第二導管13を通って注入経路の一方向弁22を通って、注入導管14を通って、注入排出口21から外へのみ流れることができる。そこから、潤滑流体は、適切な配管を介してシリンダライナ潤滑流体ポイント112に導かれる。電子制御ユニット50がリニアアクチュエータ40´に指令信号を送って注入方向に移動するのを停止させると、すなわち、注入のストロークが注入される潤滑流体の所望の体積に対応する長さに達すると、注入イベントが終了する。それから、注油シリンダ20を充填する次のサイクルが開始しうる。
【0073】
作動デバイス40は、電子制御ユニット50を含み、またはこれに接続可能である。この制御ユニット50は、一実施形態においては、シリンダ潤滑デバイス1内の、ハウジング10内またはリニアアクチュエータ40内に組み込まれうる。この場合、制御ユニット50は、機関ピストン120の位置に関する情報を提供でき、また場合によってはその他の機関運転条件に関する情報を提供できる、一組のセンサまたは機関100の何らかの他のシステムに接続可能である。当該センサは、機関シリンダ110内に置かれ、または機関100のクランクシャフトの位置に揃えられうる。
【0074】
別の実施形態では、電子制御ユニット50は、機関制御システム(ECS)である。機関制御システムは、すでに機関ピストン120の位置および他の機関運転条件に関する情報を受信するようになっており、そのため、それにしたがってシリンダ潤滑デバイス1を制御するように構築でき、例えば機関ピストン上死点(TDC:top dead center)、RPMでの機関速度、または燃料入口弁での重油の硫黄分もしくはシリンダ内の硫酸濃度、シリンダの摩耗(シリンダ内のセンサから信号が伝えられる)、シリンダライナ111の温度、シリンダ内の潤滑流体の蓄積、アルカリ性沈着物の蓄積、潤滑油BM、機関負荷等のその他の機関運転条件もしくは個別のシリンダ運転条件についての情報にもとづいて、制御するように構築できる。
【0075】
したがって、電子制御ユニット50は、機関100のシリンダ110の一部または全部のシリンダ潤滑デバイス1に接続され、これを制御するように構成されうる。
【0076】
作動デバイス40、40´、40´´またはシリンダ潤滑デバイス1のハウジング10は、上述の電子制御ユニット50に接続されて、プッシュロッド41、42またはプランジャコネクタの位置、ひいては注油シリンダ20内のプランジャ30の位置に関する情報を伝える信号51を電子制御ユニットに提供する、ポジションセンサ44をさらに備えうる。この情報を用いて、注入の精度を向上させることができ、電子制御ユニット50は、閉ループ制御システムにおいて作動デバイス40、40´に接続されて制御信号52を提供するように構成されている。電子リニアモータ40´が適用される実施形態においては、ポジションセンサが電子リニアモータ40´の一部であるのが好ましい。
【0077】
一つのシリンダ潤滑デバイス1が、機関の一つのシリンダのために働き、注油シリンダ20の数はシリンダライナ潤滑流体ポイント112の数に合わせられ、シリンダのサイズに依存する。あるいは、二つ以上のシリンダ潤滑デバイス1が一つのシリンダのために働きうる。
【0078】
一実施形態においては、電子制御ユニット50は、機関サイクルあたり少なくとも一回の潤滑流体の注入を提供するように構成される。一実施形態においては、機関ピストン120がシリンダライナ潤滑ポイント112を少なくとも一つの方向に通過したときに、二つのピストンリング121の間に注入が提供されうる。一実施形態においては、電子制御ユニット50は、機関ピストン120がシリンダライナ潤滑ポイント112を少なくとも一つの方向に通過したときに、各二対のピストンリング121の間に少なくとも一回の潤滑流体の注入を提供するように構成される。一実施形態においては、電子制御ユニットは、少なくとも機関サイクルあたり一回の潤滑流体の注入から、複数の機関サイクルにつき一回の注入を提供するように構成される。すぐ上に記載した実施形態のいずれにもあてはまるさらなる実施形態では、電子制御ユニット50は、機関のピストンの通過(上昇/下降)ごとに潤滑流体の少なくとも一回の注入を提供するように構成される。これは、機関のピストンが燃焼サイクルの回転の間にシリンダライナ潤滑ポイント112を通過するシリンダライナ111内の位置にシリンダライナ潤滑ポイント112が設けられる実施形態に適用できる。
【0079】
代替的実施形態においては、ピストン120が上死点にあるときにシリンダライナ潤滑ポイント112が最も低いピストンリング121と次に低いピストンリング121と(最も低いピストンリング対)の間のスペースと同じ高さにあるように、シリンダライナ潤滑ポイント112がシリンダライナ内に設けられる。
【0080】
一実施形態においては、作動デバイスは、電子制御および駆動されたモータ等のリニアアクチュエータ40であり、電子リニアモータ40´または電気制御リニア油圧モータ40´´、例えばオン/オフ弁、比例弁55またはサーボ弁等の電子制御弁に接続された油圧シリンダであるのが好ましい。作動デバイス40は、プッシュロッド41、41´の移動を正確に制御し、指令信号を受信し次第プッシュロッド41、41´の移動を停止させることができ、その結果、注油プランジャ30の注入ストロークの長さが個々の注入の必要に合わせて調節されうるように、注油シリンダ20内の注油プランジャ30の移動が制御される。その結果、該当のシリンダの実際の運転条件で許容可能な最低量をカバーするように、個々の注入の注入分量が調節されうる。さらに、シリンダ潤滑デバイス1は、機関100の一回転または燃焼サイクルあたり一回または複数回の分量のシリンダ潤滑流体を注入でき、または、シリンダ潤滑デバイス1は、複数の機関サイクルにつき一回分量のシリンダ潤滑流体を注入できる。作動デバイス40は、機関100の同じ回転の間に一連の間欠注入を実行するように制御されうる。
【0081】
注入の前にポンプチャンバ24を一部のみ充填することにより、注油量体積を変化させうる。その結果、例えばリニアアクチュエータ40´が注油ピストンを完全後退位置まで後退させる十分な時間がないときなどに、少量の注入を実行するための準備時間が短く保たれうる。あるいは、注入チャンバを完全に(または部分的に)充填し、ポンプチャンバ24内に存在するシリンダ潤滑流体の容量の一部のみを排出することにより、注入を連続スペクトルで(ゼロからポンプチャンバ20の最大容量/容積まで)変化させうる。
【0082】
したがって、リニアアクチュエータ40したがって注油プランジャ30は、電子制御ユニット50からの信号により決定される長さの注入ストロークまたは吸引ストロークを実行するために、制御信号52に応答して注油プランジャ30がその最端位置の間でとりうる範囲の中の任意の開始位置または実際位置から、最端位置の間の任意の所望の終了位置まで移動する。したがって、制御信号52が、注油プランジャコネクタ30のどの位置で注入ストロークまたは吸引ストロークが終了するかを決定する。注油プランジャの移動の終了は、制御信号52に反応して実質的に即時である。
【0083】
したがって、リニアアクチュエータ40は、制御信号52に応答して直接停止させられうる。
【0084】
一回の注入イベントの間に注油率が時間とともに変化して個々の注入イベントのレートシェーピングが提供されうるように、作動デバイス40が、注入ストロークの間にプッシュロッド41、42を移動させる速度、したがって注油シリンダ20内の注油プランジャ30の速度も調節しうるのが好ましい。一実施形態においては、一回の注入イベントの間の注油プランジャの速度は、その注入の間一定であり、一つの注入イベントから次の注入イベントへと合わせられる。
【0085】
作動デバイス40のより迅速な応答により、各注入イベントの個別のレートシェーピングプロフィールをもった注油量および(機関ピストンの位置に関しての)タイミング調整が可能になり、これらの態様を実際の機関運転条件に合わせることが可能になる。タイミング、注油量、およびレートシェーピングプロフィールが、個々のシリンダに合うように、それぞれのシリンダの実際の運転条件にもとづいて個別に調節されるのが好ましい。
【0086】
図5は、
図2および3に関して示した実施形態と基本的に同一のシリンダ潤滑デバイス1の別の例示的実施形態を示し、同一の参照番号は同一の部品または構成要素をさすが、リニアアクチュエータは油圧シリンダの形の油圧アクチュエータであり、複動式油圧シリンダ40´´であるのが好ましい。油圧シリンダ40´´は、電子制御(電磁)比例油圧弁55を介して、高圧油圧流体源57またはタンク59に選択的に接続される。比例弁55は、電子制御ユニット50から制御信号52を受信する。油圧リニアアクチュエータ40´´を有するシリンダ潤滑デバイス1のこの実施形態の運転は、電気リニアモータ40´を有するシリンダ潤滑デバイス1の実施形態の運転と基本的に同一である。
【0087】
本発明の教示には、多数の利点がある。
【0088】
注入の注油量が正確に選択され、その結果最適化されうる、すなわちシリンダライナの内表面に正確な分量のシリンダ潤滑油が提供されうる。その結果、機関への潤滑流体の使用を最小限にし、機関システムに潤滑流体を放出することによる環境への影響を抑えることができる。
【0089】
さらに、正確な潤滑により、機関の摩耗が低減する。機関潤滑流体の正確な適用により、例えば硫黄などによる劣化が防止される。したがって本発明により、必要な機関オーバーホールの間隔も長くなる。
【0090】
本発明により、潤滑流体注入プランジャの油圧駆動部への油圧接続も省かれ、これにより、機関シリンダ潤滑デバイスを有する機関のより単純な構造が提供される。
【0091】
さらに、本発明は、その柔軟性と限られた空間要件により、既存の機関において利用されうる。
【0092】
異なる実施形態または実施態様により、以下の利点の一つ以上がもたらされうる。これが網羅的なリストではなく、本明細書に記載されていない他の利点がありうる点に留意する必要がある。本出願の教示の一つの利点は、機関潤滑デバイスを有する機関の設計および運転に高い柔軟性を提供することである。
【0093】
本出願の教示が説明の目的で記載されているが、当然のことながら、かかる詳細は説明のみを目的とし、本出願の教示の範囲を逸脱することなく当業者により変更がなされうる。
【0094】
特許請求の範囲において用いられるところの「含む」という用語は、他の構成要素またはステップを除外しない。特許請求の範囲において用いられるところの不定冠詞(「a」または「an」)は、複数を除外しない。一つのプロセッサまたは他のユニットが、特許請求の範囲において記載されるいくつかの手段の機能を果たしうる。