(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記温度検出手段は、前記過給機に供給される給気の温度、前記過給機から前記主機に供給される給気の温度、前記主機から前記過給機に供給される排気の温度、又は、前記廃熱回収系の入口における排気の温度を検出する、請求項1に記載の舶用発電システム。
前記負荷検出手段は、前記主機の出力軸及びそれに連れて回転する回転軸を含む軸動力系の回転数、前記過給機の回転数、前記主機への燃料噴射量、又は、前記主機からの排気の流量を検出する、請求項1に記載の舶用発電システム。
前記過給機付き主機が、第1主機及び第2主機で構成され、前記流量調整手段が前記第1主機及び前記第2主機それぞれに対応して設けられた、第1流量調整手段及び第2流量調整手段で構成され、
前記制御手段は、前記第1主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分となり、前記第2主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分となるように、前記第1流量調整手段及び前記第2流量調整手段を制御する、請求項1に記載の舶用発電システム。
前記制御手段は、前記第1主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分に満たないときに、前記第2主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力を前記船内需用電力の半分の値から増大補正するように、前記第2流量調整手段を制御する、請求項5に記載の舶用発電システム。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
廃熱回収系による回収熱量は、主機の負荷に応じて変化する。つまり、発電機の発生可能電力は、主機の負荷に応じて変化する。従来、廃熱回収系及び発電機を主機の負荷及び船内需用電力との関係でどのような仕様に設計するのかに関して、概して2つのアプローチがある。
【0005】
1つ目は、主機が低負荷域で運転されていても発電機が船内需要電力を賄えるだけの電力を発生可能なように、廃熱回収系及び発電機を設計するものである。この場合、主機が常用出力で運転されていれば、発電機が余剰電力を発生する。長期航海に供される船舶では、殆どの期間主機が常用出力で運転されることとなるので、無用な燃料消費が増大するし、システムの全体サイズが船内需用電力との関係で大型となる。
【0006】
2つ目は、主機が常用出力で運転されているときに発電機が船内需用電力を賄えるだけの電力を発生するように、廃熱回収系及び発電機を設計するものである。この場合、主機が部分負荷で運転されていれば、発電機が、船内需用電力を賄うだけの電力を発生し得ない。このため、補助ボイラを追い焚きするなど、化石燃料の燃焼を伴って蒸気生成量を嵩上げしなければならない。このように、2つ目のアプローチによっても、発電システムに廃熱回収系を付加したことによる省エネルギー効果を十二分に得ることは難しい。
【0007】
そこで本発明は、廃熱回収系を付加した舶用発電システムにおいて、船内需要電力を過不足なく発生可能な状況をなるべく広範なものとし、それにより燃料消費率の悪化を必要最小限に抑えることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本件発明者は、主機の負荷に応じて廃熱回収系による回収熱量が変化するとの知見とともに、主機の給気又は排気の温度に応じて廃熱回収系による回収熱量が変化し、温度及び負荷が同一条件下におかれていても過給機に送られる排気の流量に応じて廃熱回収系による回収熱量が変化するとの知見を得た。そこで、温度及び負荷に応じて過給機に送られる排気の流量を調整することにより、温度及び負荷の変化に関わらず廃熱回収系により回収可能な熱量が略一定に保たれ、それにより発電機の発生可能電力が略一定に保たれ得ると着想した。本件発明者は、このような知見及び着想から、下記の舶用発電システムを発明した。
【0009】
すなわち、本発明に係る舶用発電システムは、過給機付き主機の排気熱を利用して蒸気を生成する廃熱回収系と、前記廃熱回収系において生成された蒸気により駆動される発電機と、前記主機の給気又は排気の温度を検出するための温度検出手段と、前記主機の負荷を検出するための負荷検出手段と、前記主機からの排気が流れる排気通路と、前記排気通路に接続され、前記過給機を迂回して排気が流れるバイパス通路と、前記バイパス通路を流れる排気の流量と前記過給機に送られる排気の流量とを調整するための流量調整手段と、前記温度検出手段により検出される温度及び前記負荷検出手段により検出される負荷に応じて、前記発電機が船内需用電力以上の電力を発生するように前記流量調整手段を制御する制御手段と、を備える。
【0010】
前記構成によれば、温度と負荷とに応じて、過給機に送られる排気の流量及び過給機を迂回する排気の流量が調整される。そして、廃熱回収系は、発電機が船内需用電力以上の電力を発生するために必要な排気熱の供給を受けることができる。このように、本発明によれば、主機の給気又は排気の温度が変化しても、また、主機の負荷が変化しても、発電機が船内需用電力以上の電力を安定的に発電することができるようになる。したがって、温度及び負荷が変化しても、余剰電力が発生したり補助ボイラを作動させたりする状況が少なくなり、燃料消費率の悪化を好適に抑制することができる。
【0011】
前記温度検出手段は、前記過給機に供給される給気の温度、前記過給機から前記主機に供給される給気の温度、前記主機から前記過給機に供給される排気の温度、又は、前記廃熱回収系の入口における排気の温度を検出してもよい。前記構成によれば、温度に応じた流量調整制御、ひいては発生可能電力の安定化制御を好適に実行することができる。
【0012】
また、前記負荷検出手段は、前記主機の出力軸及びそれに連れて回転する回転軸を含む軸動力系の回転数、前記過給機の回転数、前記主機への燃料噴射量、又は、前記主機からの排気の流量を検出してもよい。前記構成によれば、負荷に応じた流量調整制御、ひいては発生可能電力の安定化制御を好適に実行することができる。
【0013】
前記流量調整手段は、前記バイパス通路上に開度可変にして設けられた排気バイパス弁を有し、前記制御手段は、温度及び負荷に応じて、前記発電機が船内需用電力以上の電力を発生可能となるよう前記排気バイパス弁の開度を制御してもよい。前記構成によれば、排気バイパス弁の開度を制御するだけで、温度及び負荷に応じた発生可能電力の安定化制御を好適に実行することができる。
【0014】
前記制御手段が、温度及び負荷と、前記発電機が船内需用電力以上の電力を発生するために必要な排気熱を前記廃熱回収系に供給しうる前記排気バイパス弁の開度との関係を規定した制御規則を予め記憶している記憶部を有していてもよい。前記構成によれば、温度及び負荷に応じた発生可能電力の安定化制御を好適に実行することができる。
【0015】
前記制御規則において、常用負荷よりも低負荷域における負荷と、前記排気バイパス弁の開度との関係が規定されていてもよい。前記構成によれば、主機が部分負荷で運転されていても、発電機が船内需用電力以上の電力を発生可能となる。補助ボイラを追い焚きしなくてはならない状況を少なくすることができ、燃料消費率を向上させることができる。
【0016】
前記制御手段は、温度が低いほど、前記排気バイパス弁の開度を大きくしてもよい。前記構成によれば、温度の低下により廃熱回収系に供給される排気熱量が小さくなりかけても、過給機を迂回する排気の流量が多くなり、これにより温度低下による排気熱量の減少分が補償される。したがって、温度が低下しても、発電機の発生可能電力が、船内需用電力以上の電力で安定する。
【0017】
前記制御手段は、負荷が低いほど、前記排気バイパス弁の開度を大きくしてもよい。前記構成によれば、負荷の低下により廃熱回収系に供給される排気熱量が小さくなりかけても、過給機を迂回する排気の流量が多くなり、これにより負荷低下による排気熱量の減少分が補償される。したがって、負荷が低下しても、発電機の発生可能電力が、船内需用電力以上の電力で安定する。
【0018】
前記過給機付き主機が、第1主機及び第2主機で構成され、前記流量調整手段が、前記第1主機及び前記第2主機それぞれに対応して設けられた第1流量調整手段及び第2流量調整手段で構成され、前記制御手段は、前記第1主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分となり、前記第2主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分となるように、前記第1流量調整手段及び前記第2流量調整手段を制御してもよい。前記構成によれば、いわゆる2機2軸型の船舶に舶用発電システムを搭載することができ、当該船舶の燃料消費率の悪化を良好に抑制することができる。
【0019】
前記制御手段は、前記第1主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力が前記船内需用電力の半分に満たないときに、前記第2主機の排気熱を利用して得られる発生可能電力を前記船内需用電力の半分の値から増大補正するように、前記第2流量調整手段を制御してもよい。前記構成によれば、主機における発生可能電力が目標とする値(例えば、船内需用電力の半分)を下回っても、他方の主機における発生可能電力を目標とする値(例えば、船内需用電力の半分)から増大させ、それにより当該一方の発生可能電力の不足分を補うことができる。このため、発電機の発電によって極力船内需用電力を賄いきることができるので、燃料消費率の悪化を良好に抑制することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、廃熱回収系を付加した舶用発電システムにおいて、船内需要電力を過不足なく発生可能な状況をなるべく広範なものとし、それにより燃料消費率の悪化を必要最小限に抑えることができる。本発明の上記目的、他の目的、特徴、及び利点は、添付図面参照の下、以下の好適な実施態様の詳細な説明から明らかにされる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態について説明する。同一又は対応する要素には全ての図を通じて同一の符号を付し、その重複する詳細な説明を省略する。
図1は、本発明の実施形態に係る舶用発電システム100の全体構成を示す概念図である。
図1に示す舶用発電システム100は、舶用ディーゼルエンジンを主機1とした船舶に搭載されている。主機1には、排気により駆動される過給機2が備え付けられている。
【0023】
舶用発電システム100は、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4を備えている。廃熱回収系3は、主機1の廃熱を回収し、蒸気を生成する。この廃熱には、主として主機1の排気熱が含まれ、他に主機1の給気又は掃気の熱も含まれる。蒸気ターボ発電機4は、廃熱回収系3で生成された蒸気により駆動される蒸気タービン5と、蒸気タービン5により駆動されて交流電力を発電する発電機6とを備えている。
【0024】
廃熱回収系3は、主として、排ガスエコノマイザ10、復水器21、給水系統22、給水加熱器23a,23b、高圧ドラム(高圧汽水分離器)24、中圧ドラム(中圧汽水分離器)25、低圧ドラム(低圧汽水分離器)26、高圧循環水系統27、蒸気系統28、中圧循環水系統29、中圧混気系統30、低圧循環水系統31、低圧蒸発器32及び低圧混気系統33を備えている。
【0025】
排ガスエコノマイザ10は、過給機2と排気出口との間に介在しており、主機1の排気系の一部を構成している。排気系は、排ガスエコノマイザ10を迂回するバイパス管7を備えている。排ガスエコノマイザ10の入口部及びバイパス管7の入口部は、第1ダンパ8及び第2ダンパ9によりそれぞれ開閉される。第1ダンパ8及び第2ダンパ9の動作を制御することにより、排ガスエコノマイザ10に供給される排気の流量及び熱量を調整することができる。
【0026】
排ガスエコノマイザ10は、上流側から順に入口管11、高圧蒸発器12、中間管13、中圧蒸発器14及び出口管15を備えている。入口管11は、排気を高圧蒸発器12に導く。中間管13は、高圧蒸発器12における熱交換後の排気を中圧蒸発器14に導く。出口管15は、中圧蒸発器14における熱交換後の排気を排気出口に導く。
【0027】
復水器21は、蒸気タービン5の蒸気出口5aと接続され、蒸気出口5aから流出した蒸気を凝縮させる。給水系統22は、復水器21を各ドラム24〜26に接続しており、復水器21で生成された復水を給水として各ドラム24〜26まで送る。給水系統22は、復水器21から延びるライン
22aと、ライン22aから分岐したライン22b,22c,22dとを有している。ライン22b,22c,22dは、高圧ドラム24、中圧ドラム25及び低圧ドラム26にそれぞれ接続されている。第1給水加熱器23a及び第2給水加熱器23bは、ライン22a及びライン22bにそれぞれ設けられている。第1給水加熱器23aは、各ドラム24〜26に送られる給水と主機1の掃気との間で熱交換させ、それにより当該給水を加熱して当該掃気を冷却する。第2給水加熱器23bは、高圧ドラム24に送られる給水と主機1の給気との間で熱交換させ、それにより当該給水を加熱して当該給気を冷却する。各ドラム24〜26は、給水を循環水として貯留し且つ循環水より得た蒸気を貯留する。
【0028】
高圧循環水系統27は、高圧ドラム24を高圧蒸発器12に接続するライン27aと、高圧蒸発器12を高圧ドラム24に接続するライン27bとを有する。蒸気系統28は、高圧ドラム24を蒸気タービン5の蒸気入口5bに接続する。ライン27a上のポンプが動作すると、高圧ドラム24内の循環水がライン27aに沿って高圧蒸発器12へと送られ、送られた循環水が高圧蒸発器12内で排気との熱交換により蒸気となる。循環水は気液混合状態でライン27bを介して高圧ドラム24に戻され、戻された循環水は高圧ドラム24内で蒸気と液体とに分離される。高圧ドラム24内の蒸気は、蒸気系統28を介して蒸気入口5bに供給される。中圧循環水系統29は、中圧ドラム25を中圧蒸発器14に接続するライン29aと、中圧蒸発器14を中圧ドラム25に接続するライン29bとを有する。中圧混気系統30は、中圧ドラム25を蒸気タービン5の中圧混気入口5cに接続する。ライン29a上のポンプが動作すると、中圧ドラム25内の循環水がライン29aを介して中圧蒸発器14へと送られ、送られた循環水が中圧蒸発器14で排気との熱交換により蒸気となる。循環水は気液混合状態でライン29bを介して中圧ドラム25内に戻され、戻された循環水は中圧ドラム25内で蒸気と液体とに分離される。中圧ドラム25内の蒸気は、中圧混気系統30を介して中圧混気入口5cに供給される。低圧循環水系統31は、低圧ドラム26を低圧蒸発器32に接続するライン31aと、低圧蒸発器32を低圧ドラム26に接続するライン31bとを有する。低圧混気系統33は、低圧ドラム26を蒸気タービン5の低圧混気入口5dに接続する。ライン31a上のポンプが動作すると、低圧ドラム26内の循環水がライン31aを介して低圧蒸発器32へと送られる。本実施形態では、給気を冷却するためのエアクーラが低圧蒸発器32に適用されており、送られた循環水は低圧蒸発器32内で給気との熱交換により蒸気となる。循環水は気液混合状態でライン31bを介して低圧ドラム26内に戻され、戻された循環水は低圧ドラム26内で蒸気と液体とに分離される。低圧ドラム26内の蒸気は、低圧混気系統33を介して低圧混気入口5dに供給される。
【0029】
蒸気タービン5は、複数の動翼を有した多段式の蒸気タービンである。蒸気タービン5は、蒸気入口5b、中圧混気入口5c及び低圧混気入口5dに供給された蒸気及び混気により動翼を回転させ、これにより出力軸に回転出力を発生させる。発電機6は、蒸気タービン5の出力、すなわち、蒸気タービン5に供給される蒸気及び混気の流量や圧力に応じて交流電力を発電する。
【0030】
なお、蒸気系統28は、高圧ドラム24側の上流ライン28aと、蒸気タービン5側の下流ライン28bとを備えている。上流ライン28aと下流ライン28bとの間には過熱器35が介在している。蒸気系統28は、過熱器35を迂回して上流ライン28a及び下流ライン28bを接続するバイパスライン28cを更に備えている。廃熱回収系3は、高圧ドラム24からの蒸気が蒸気入口5bに送られるまでに過熱器35を経由するか否かを制御する弁ユニット34を備えている。弁ユニット34は、バイパスライン28cを介した蒸気の通流を許容又は阻止する第1開閉弁34aと、過熱器35を介した蒸気の通流を許容又は阻止する第2開閉弁34bと、過熱器35を通流した蒸気を部分的に逃がすための逃がし弁34cとを備えている。過熱器35は、排ガスエコノマイザ10の入口管11内に設けられている。蒸気が過熱器35を経由するときには、蒸気を排気との熱交換により過熱することができ、それにより蒸気タービン5の出力を大きくすることができる。また、低圧混気系統
33は、入口弁36を備えている。入口弁36の開度に応じて、低圧混気入口5dに供給される混気の流量が調整される。入口弁36が低圧混気入口5dに供給される混気の流量を大きくするよう動作したときには、蒸気タービン5の出力を大きくすることができる。
【0031】
また、高圧ドラム24は、補助ボイラ24aを備えている。補助ボイラ24aは、化石燃料の燃焼により生ずる熱で高圧ドラム24内の循環水を加熱し、それにより高圧ドラム24内で蒸気を発生することができる。この補助ボイラ24aの追い焚きによっても、蒸気タービン5の出力を大きくすることができる。中圧ドラム25及び低圧ドラム25は、加熱器25a,26aをそれぞれ備えている。各加熱器25a,26aは、蒸気系統28を介して高圧ドラム24からの蒸気の供給を受け(
図1中米印参照)、それによりドラム25,26内の循環水を加熱することができる。
【0032】
以下の説明では、補助ボイラ24aの追い焚きに頼らず、回収された廃熱のみに基づいて生成された蒸気により発生した蒸気タービン5の出力を「廃熱による蒸気タービン5の出力」と称したり、当該廃熱による蒸気タービン5の出力に基づいて発電機6を駆動したときに蒸気ターボ発電機4が発生し得る電力を、「廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力」と称したりする場合がある。
【0033】
舶用発電システム1は、コントローラ50を備えている。コントローラ50は、弁ユニット34、入口弁36、第1ダンパ8及び第2ダンパ9などの動作を制御し、運転状態に応じて廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力を制御する。特に、本実施形態に係るコントローラ50は、過給機2を迂回して排気が流れるバイパス通路46上に設けられた排気バイパス弁48の動作を制御する。コントローラ50は、排気バイパス弁48の制御を通じて、過給機2に送られる排気の流量と過給機2を迂回する排気の流量とを運転状態に応じて制御し、排ガスエコノマイザ10に供給される排気の温度及び熱量を調整する。これにより、運転状態に変化が生じても、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力又はそれよりも高い値で安定的に維持されるようになる。ここで言う「船内需用電力」は、船舶の航行中に必要とされる電力量であり、船舶の航行中に常時必要とされる電力量(いわゆる連続電力)に一時的に必要となる電力量を加算した電力量である。なお、一時的に必要となる電力量は、船舶に搭載された冷凍装置のコンプレッサを起動するときなどに発生する。
【0034】
図2は、
図1に示す舶用発電システム100の過給機周辺の構成及び制御系の構成を示す概念図である。
図2に示すように、主機1には、給気通路41及び排気通路42が接続されている。給気通路41は、吸気口より取り入れられた後に過給機2で過給された給気を主機1の燃焼室(図示せず)に送るための通路である。排気通路42は、主機1の燃焼室(図示せず)からの排気が流れる通路である。過給機2は、排気通路42上に設けられたタービン43と、給気通路41上に設けられたコンプレッサ44と、タービン43及びコンプレッサ44を接続して一体的に回転させるロータ45とを備えている。
【0035】
前述したバイパス通路46は、過給機2を迂回するようにして排気通路42に接続されている。つまり、バイパス通路46の上流端部は、排気通路42のうちタービン43よりも上流側に接続されている。バイパス通路46の下流端部は、排気通路42のうちタービン43よりも下流側であって、排ガスエコノマイザ10に向かう通路とバイパス管7に向かう通路との分岐点よりも上流側に接続されている。このため、バイパス通路46では、過給機2を迂回して排気が流れ、その排気が排ガスエコノマイザ10に供給されうる。
【0036】
バイパス通路46には、バイパス通路46を流れる排気の流量と、過給機2に送られる排気の流量とを調整するための流量調整手段47が設けられている。別の言い方をすれば、流量調整手段47は、主機1からの排気の全流量に対するバイパス通路46を流れる排気の流量の割合を調整する。以下、この割合を「過給機バイパス率」と称して説明する。
【0037】
流量調整手段47は、バイパス通路46上に開度可変に設けられた排気バイパス弁48と、バイパス通路46上に設けられたオリフィス49とを備えている。排気バイパス弁48の開度が大きくなると、過給機バイパス率が増大する。つまり、排気バイパス弁48の開度を調整することによって、バイパス通路46を流れる排気の流量が調整され、過給機2に送られる排気の流量が受動的に調整される。オリフィス49は、過給機バイパス率が或る値を超えるのを制限する要素であり、過給機バイパス率のリミッタとして機能する。これにより、排気が過給機2に適切に送られ、主機1の出力が不所望に低下するのを防ぐことができる。なお、
図2では、オリフィス49が、排気バイパス弁48の下流側に配置されているが、排気バイパス弁48の上流側に配置されていてもよい。
【0038】
コントローラ50は、CPU、ROM、RAM及び入出力インターフェイスを主体として構成されたマイクロコンピュータである。コントローラ50の入力側は、温度センサ61及び過給機回転数センサ62と接続されている。温度センサ61は、給気通路41に沿って過給機2に向かって流れている給気の温度を検出する。過給機回転数センサ62は、過給機2の回転数を検出する。コントローラ50の出力側は、前述したとおり、排気バイパス弁48、第1ダンパ8、第2ダンパ9及び補助ボイラ24aと接続されている。コントローラ50のROMは、制御プログラムを記憶している。コントローラ50のCPUは、ROMに予め記憶される制御プログラムを実行し、主機1の給気の温度及び主機1の負荷に応じて、排気バイパス弁48、第1ダンパ8、第2ダンパ9及び補助ボイラ24aを操作し、それにより過給機バイパス率及び蒸気ターボ発電機4により発生される電力を制御する。
【0039】
コントローラ50は、このような制御を実行する機能部として、温度測定部51、負荷測定部52、制御マップ記憶部53、バイパス率算出部54、バイパス弁制御部55、ダンパ制御部56及び補助ボイラ制御部57を有している。
【0040】
温度測定部51は、温度センサ61からの入力に応じて主機1の給気の温度を測定する。負荷測定部52は、過給機回転数センサ62からの入力に応じて主機1の負荷を測定する。負荷測定部52により測定される負荷の測定値は、例えば、定格負荷を100%とした百分率である。制御マップ記憶部53は、主機1の給気の温度及び主機の負荷と、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力以上の値である目標発生電力となるために必要とされる過給機バイパス率との間の対応関係を規定した制御マップ65(
図3参照)を記憶している。バイパス率算出部54は、温度測定部51により測定された主機1の給気の温度と、負荷測定部52により測定された主機1の負荷とに応じて、過給機バイパス率の算出値を導出する。バイパス弁制御部55は、過給機バイパス率の算出値に応じて排気バイパス弁48を制御する。ダンパ制御部56は、過給機バイパス率の算出値に応じて第1ダンパ8及び第2ダンパ9を制御する。補助ボイラ制御部57は、過給機バイパス率の算出値に応じて補助ボイラ24aを制御する。
【0041】
図3は、
図2に示す制御マップ記憶部に記憶される制御マップ65の一例を模式的に示すグラフである。
図3の下側は、制御マップ65を模式的に示すグラフである。
図3の上側は、制御マップ65がどのようにして導出されるのかを説明するためのグラフである。何れのグラフも二次元直交座標系に表されており、何れのグラフの横軸も、定格負荷を100%とした主機負荷の百分率である。制御マップ65の縦軸は、
図3右側に示すように過給機バイパス率である。説明用グラフの縦軸は、
図3左側に示すように、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力である。細線は、給気の温度TがT1である場合、破線は、給気の温度TがT2である場合、太線は、給気の温度TがT3である場合をそれぞれ表わしており、T1、T2及びT3は、関係:T1<T2<T3 を満たす。なお、T1は、例えば、国際標準規格に準拠した摂氏25度であってもよい。菱形状のプロット(◆)が通過する線は、過給機バイパス率が0%である場合、丸形状のプロット(●)が通過する線は、過給機バイパス率が最大値である場合をそれぞれ表わしている。前述のとおり、最大値は、オリフィス49の仕様に応じて機械的に決められる。正方形状のプロット(■)が通過する線、三角形状のプロット(▲)が通過する線及びクロス状のプロット(×)が通過する線は、過給機バイパス率が0%から最大値の間の値をとる場合をそれぞれ表わしている。
【0042】
図3上側に示した説明用グラフを参照して、運転状態の変化に応じた蒸気ターボ発電機4の発生可能電力の変化について説明する。説明用グラフを構成する複数線のうち任意の一つを参照すればわかるとおり、同一温度且つ同一過給機バイパス率条件下においては、負荷が高いほど、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が高くなる。主機1の負荷が高いほど、排気の流量が増え、その分廃熱回収系3で回収可能な熱量が増えるからである。説明用グラフを構成する線同士を対比すればわかるとおり、負荷の変化に応じた蒸気ターボ発電機4の発生可能電力の変化の傾向は、温度及び過給機バイパス率への依存性が低く、温度及び過給機バイパス率に関わらず概ね同一である。
【0043】
説明用グラフを構成する複数線のうち同一形状のプロットが通過する線同士を対比すればわかるとおり、同一負荷且つ同一過給機パイパス率条件下においては、給気の温度が高いほど、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が高くなる。排ガスエコノマイザ10に供給される排気の温度及び熱量は、給気の温度に依存するからであると考えられる。説明用グラフを構成する複数線のうち同一線種の線同士を対比すればわかるとおり、同一温度且つ同一負荷条件下においては、過給機バイパス率が高いほど、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力は高くなる。過給機2を経由するよりも過給機2を迂回したほうが、排ガスエコノマイザ10に供給されるまでの排気の熱損失が小さくなるからであると考えられる。
【0044】
従来から一般に、廃熱回収系を付加した舶用発電システムにおいて、蒸気ターボ発電機4の定格出力は船内需用電力よりも高い値に設定される。そして、主機1が常用出力(80〜90%負荷)で運転されており且つ給気の温度が所定温度(例えば、国際標準規格に準拠した摂氏25度)である場合に、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力を賄いきれるようにして、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様が設計される。従来、主機1が常用出力未満で運転されていれば、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力を賄いきれなくなり、補助ボイラ24aを即座に追い焚きする必要が生じている。また、主機1が常用出力で運転されているような場合、給気の温度が上記所定温度よりも大きくなれば、蒸気ターボ発電機4が余剰電力を発生する。このように、運転状態が変化したときに、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が変化してしまい、船内需用電力に対する過不足が生じやすい。
【0045】
これに対し、本実施形態によれば、負荷のみならず、温度及び過給機バイパス率も廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力に影響を与える因子であるとの知見に基づき、温度及び負荷が変化したときに過給機バイパス率がどのように変化すれば廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力以上の目標発生電力となるのかを示す対応関係を導出し、導出された対応関係を規定する制御マップ65を制御マップ記憶部53に予め記憶させている。
【0046】
この対応関係を導出する手順の一例とともに、この対応関係がどのようなものであるかについて説明する。まず、
図3上側に示す線図を得る。つまり、温度及び過給機バイパス率を固定し、負荷に対する廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力を解析する。この解析は、温度及び過給機バイパス率の値を変えて複数回行われる。解析は、数値シミュレーションにより算出されたデータに基づくものでもよいし、実機から取得されたデータに基づくものでもよい。解析の結果、横軸に負荷をとり縦軸に廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力をとった二次元直交座標系において、複数の右肩上がりの線を得ることができる(
図3上側参照)。勿論、得られた線のトレンドや位置は、主機1、過給機2、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様に応じて変わる。
【0047】
そして、得られた線の各々に関し、目標発生電力を得るための負荷の値を導出する。その後、横軸に負荷をとり縦軸に過給機バイパス率をとった二次元直交座標系において、導出された負荷の値に対する過給機バイパス率をプロットする(
図3下側参照)。そして、同一温度条件下のプロットを用いて、負荷に対する過給機バイパス率の対応関係を導出する。この対応関係は、右肩下がりの直線に近似して表すことができる。つまり、温度を固定した状況下で、過給機パイパス率が負荷の変化に応じて概ね線形に変化すると、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が目標発生電力で維持される。異なる温度条件同士を対比すると、近似直線の傾きは略同一である(
図3下側参照)。つまり、或る温度条件下での近似直線を横軸方向に平行移動させるだけで、別の温度条件下での負荷と過給機バイパス率との間の対応関係を導出することができる。したがって、幾つかの温度条件下における近似直線を導出しておけば、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力を目標発生電力で維持するために必要な過給機バイパス率を負荷及び温度に応じて求めるための式(1)を下記のとおり導出することができる。
【0048】
Y=aX+f(T) …(1)
ここで、aは近似直線の傾き、Tは温度、Xは負荷、Yは過給機バイパス率である。f(T)は、近似直線の補正項であり、温度に応じた近似直線の横軸方向の平行移動量を傾きaを加味して考慮したものとなっている。上記式(1)に従えば、負荷X及び温度Tが決まると、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力を目標発生電力に維持するために必要な過給機バイパス率Yを導き出すことができる。傾きaは負の値であるので、負荷が低いほど、過給機バイパス率Yは大きくなる。また、温度Tが低いほど、過給機バイパス率Yは大きくなる。ただし、過給機バイパス率Yは、ゼロ未満の値をとり得ず、また、オリフィス49により規定される最大値MAXよりも大きい値をとり得ない。そこでコントローラ50は、過給機バイパス率Yの算出値に応じて、排気バイパス弁48、ダンパ8,9及び補助ボイラ24aを下記のとおり制御する。
【0049】
図4は、
図2に示すコントローラ50により実行される制御の処理内容の一例を示すフローチャートである。
図4に示す処理は、航行中に所定の周期で繰り返し実行される。
図4に示すように、まず、温度センサ61からの入力に応じて温度測定部51が温度Tを測定する(ステップS1)。次に、過給機回転数センサ62からの入力に応じて、負荷測定部52が主機1の負荷を測定する(ステップS2)。次に、バイパス率算出部54が、温度測定部51により測定された温度と、負荷測定部52により測定された負荷とに応じて、制御マップ記憶部53に記憶されている制御マップ65を参照して、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が目標発生電力となるために必要な過給機バイパス率Yを算出する(ステップS3)。次に、バイパス率算出部54が、過給機バイパス率の算出値が、オリフィスにより規定される最大値MAXよりも大きいか否か、及び、ゼロ未満であるか否かを判断する(ステップS4,S5)。
【0050】
算出値がゼロ以上であり且つ最大値MAX以下であれば(S4:NO,S5:NO)、バイパス弁制御部55が、過給機バイパス率の算出値に応じた排気バイパス弁48の開度を算出し、算出された値となるよう排気バイパス弁48の開度を制御する(ステップS6)。
【0051】
このように、本実施形態に係る舶用発電システム100によれば、式(1)に従って算出された過給機バイパス率Yの算出値が、ゼロ以上であり且つ最大値MAX以下を満たす運転状態においては、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力を目標発生電力に維持することができる。この条件を満たす運転状態においては、蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力に対し過剰に大きくなることもないので、無用な燃料消費率の悪化を抑制することができる。そして、本実施形態では、温度TがT1、T2又はT3である3つの条件の何れにおいても、過給機バイパス率Yが最大値MAXをとるときの主機1の負荷が、常用出力での負荷XN未満となっている(
図3参照)。このように、補助ボイラ24aの追い焚きを実施せずとも蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力を賄える運転領域を常用出力XNよりも低負荷側に拡大することができ、燃料消費率の悪化を良好に抑制することができる。
【0052】
算出値Yがゼロ未満であれば(S5:YES)、バイパス弁制御部55が、排気バイパス弁48の開度を全閉とする(ステップS7)。これにより、過給機バイパス率がゼロとなる。しかし、このままであれば、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力を超える。そこで、ダンパ制御部57が、算出値Yとゼロとの偏差に応じて、ダンパ8,9を制御する(ステップS8)。例えば、偏差が大きいときほど、第2ダンパ9の開度が大きくなるように及び/又は第1ダンパ8の開度が小さくなるようにして、第1ダンパ8及び第2ダンパ9を制御する。これにより、蒸気ターボ発電機4が余剰電力を発生するのを回避することができる。なお、
図3には、算出値Yがゼロ未満になる運転領域の一例を、P1,P2で表わしている。P1は、温度がT3である場合において、過給機バイパス率Yの算出値がゼロ未満となる負荷の範囲を表わし、P2は、温度がT2である場合において、過給機バイパス率Yの算出値がゼロ未満となる負荷の範囲を表す。
【0053】
算出値Yが最大値MAXよりも大きければ(S4:YES)、バイパス弁制御部55が、排気バイパス弁48の開度を全開に制御する(ステップS9)。これにより、過給機バイパス率は、オリフィス49により規定される最大値MAXになる。しかし、このままでは、廃熱による蒸気ターボ発電機4の発生可能電力が船内需用電力を賄いきれなくなる。そこで、補助ボイラ制御部46が、電力の不足分を補うため、補助ボイラ24aの追い焚きを実施する(ステップS10)。補助ボイラ24aが発生する熱量は、算出値と最大値との偏差に応じて決められていてもよい。このようにすることで、補助ボイラ24aを追い焚きしたときに、船内需用電力を超える余剰電力が発生するのをなるべく抑制することができ、無駄な燃料消費を良好に抑制することができる。なお、
図3には、算出値Yが最大値MAXよりも大きくなる運転領域の一例を、Q1,Q2で表わしている。Q1は、温度がT1である場合において、過給機バイパス率Yの算出値が最大値MAXよりも大きくなる負荷の範囲を表わし、Q2は、温度がT2である場合において、過給機バイパス率Yの算出値が最大値MAXよりも大きくなる負荷の範囲を表す。
【0054】
このように本実施形態によれば、廃熱による蒸気ターボ発電機の発生可能電力が船内需用電力以上の値で維持される運転領域を拡大することができ、燃料消費率の悪化を良好に抑制することができる。
【0055】
図3下側に示される制御マップ65を表すグラフは、
図3上側に示すグラフをベースにして作成されることができ、
図3上側のグラフのトレンド及び位置は、主機1、過給機2、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様に応じて変わる。言い換えれば、主機1及び過給機2の仕様が決まれば、
図3下側に示すグラフが上記作用効果を良好に発揮するようなものとなるように、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様を調整することができる。すなわち、
図3下側に示す制御マップ65の最適化を第一義的なものとする設計コンセプトの下、最適化された制御マップ65に基づいて廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様を逆算的に設計することが可能になる。このように、制御マップ65は、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の設計を支援するためのツールとしても非常に有用である。
【0056】
給気の温度は、船舶の使用状況に大きく依存する。そこで、高緯度帯を航行する機会が多いと見込まれている船舶においては、給気の温度が低くても蒸気ターボ発電機4が船内需用電力を賄えるように、
図3下側に示されるグラフが左側にシフトしていることが好ましい。逆に、低緯度帯を航行する機会が多いと見込まれている船舶においては、給気の温度が低下する機会が少ないので、
図3下側に示されるグラフを右側にシフトさせることができる。このようにして
図3下側の制御マップ65の仕様を決めたうえで、廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様を逆算的に設計することも可能になる。よって、搭載対象の船舶に想定される使用状況に応じて、舶用発電システム100の仕様を容易に最適設計可能になる。
【0057】
このように、蒸気ターボ発電機4が船内需用電力を賄う運転領域が低負荷側に拡大可能になることと、主機1及び過給機2の仕様と最適な制御マップ65とを決めれば廃熱回収系3及び蒸気ターボ発電機4の仕様を逆算的に最適設計可能になることとに照らして、従前は廃熱回収系を付加した舶用発電システムを搭載することが困難であると見られていた比較的小型の船舶にも、かかる舶用発電システムを適用しやすくなる。これにより、船舶業界における省エネルギー化を広く推進することができる。
【0058】
図5は、本発明の第2実施形態に係る舶用発電システム200の全体構成を示す概念図である。本実施形態は、いわゆる2機2軸型の推進システムを搭載した船舶に好適に適用される。以下では、一方の主機1Aに対応する構成要素の名称に序数「第1」を付すと共に当該構成要素の参照符号に「A」を付す場合がある。他方の主機1Bに対応する構成要素の名称に序数「第2」を付すと共に当該構成要素の参照符号に「B」を付す場合がある。
【0059】
図5に示すように、本実施形態に係る発電システム200は、2機の主機1A,1Bを備える船舶に搭載され、廃熱回収系203及び蒸気ターボ発電機204を備えている。蒸気ターボ発電機204は、第1実施形態のものと概ね同様であり、廃熱回収系203で生成された蒸気により駆動される1台の蒸気タービン205と、当該蒸気タービン205により駆動されて交流電力を発電する1台の発電機206とを備える。2機の主機1A,1Bそれぞれに、過給機2A,2Bと排気系とが設けられている。各排気系は、第1実施形態の排気系と同様にして、排ガスエコノマイザ10A,10B、バイパス管7A,7B、排気通路42A,42B及びバイパス通路46A,46Bを備えている。各排ガスエコノマイザ10A,10Bは、第1実施形態と同様にして、入口管11A,11B、高圧蒸発器12A,12B、中間管13A,13B、中圧蒸発器14A,14B及び出口管15A,15Bを備えている。
【0060】
廃熱回収系203は、排ガスエコノマイザ10A,10B、高圧ドラム(高圧汽水分離器)224、中圧ドラム225、高圧循環水系統227、蒸気系統228、中圧循環水系統229、中圧混気系統230を備えている。説明便宜のため
図5では図示を省略するが、廃熱回収系203は、第1実施形態と同様にして、復水器、給水系統、給水加熱器、低圧ドラム、低圧循環水系統及び低圧混気系統を備えている。高圧ドラム224は、第1実施形態のものと概ね同様であり、補助ボイラ224aを備える。中圧ドラム225も第1実施形態のものと概ね同様である。
【0061】
高圧循環水系統227は、高圧ドラム224を第1排ガスエコノマイザ10Aの第1高圧蒸発器12Aに接続するライン227aと、第1高圧蒸発器12Aを高圧ドラム224に接続するライン227bと、ライン227aから分岐して第2排ガスエコノマイザ10Bの第2高圧蒸発器12Bに接続するライン227cと、第2高圧蒸発器12Bを高圧ドラム224に接続するライン227dとを有している。このように、高圧ドラム224の高圧循環水系統227は、第1高圧蒸発器12A及び第2高圧蒸発器12Bを高圧ドラム224に並列接続している。
【0062】
蒸気系統228は、高圧ドラム224から延びるライン228aと、ライン228aから分岐したライン228bと、ライン228a,228bが集合して成るライン228cとを有し、ライン228cが蒸気タービン205の蒸気入口に接続されている。ライン228a,228bにはそれぞれ、第1過熱器35A及び第2過熱器35Bが接続されている。
【0063】
ライン227a上のポンプが動作すると、高圧ドラム224内の循環水の一部がライン227aを介して第1高圧蒸発器12Aへと送られ、送られた循環水は第1高圧蒸発器12A内で排ガスとの熱交換により蒸気となる。循環水は気液混合状態でライン227bを介して高圧ドラム224に戻される。また、高圧ドラム224内の循環水の一部がライン227cを介して第2高圧蒸発器12Bへと送られ、送られた循環水は第2高圧蒸発器12B内で排ガスとの熱交換により蒸気となる。循環水は気液混合状態でライン227dを介して高圧ドラム224に戻される。高圧ドラム224内の蒸気の一部は、ライン228a及びライン228cを経由して蒸気タービン205の蒸気入口に供給される。また、高圧ドラム224内の蒸気の一部は、ライン228b及びライン228cを経由して蒸気タービン205の蒸気入口に供給される。
【0064】
中圧循環水系統229は、中圧ドラム225を第1排ガスエコノマイザ10Aの第1中圧蒸発器14Aに接続するライン229aと、第1低圧蒸発器14Aを中圧ドラム225に接続するライン229bと、ライン229aから分岐して第2排ガスエコノマイザ10Bの第2中圧蒸発器14Bに接続するライン229cと、第2中圧蒸発器14Bを中圧ドラム225に接続するライン229dとを有している。このように、中圧循環水系統229は、第1中圧蒸発器14A及び第2中圧蒸発器14Bを中圧ドラム225に並列接続している。ライン229a上のポンプが動作すると、高圧循環水系統227と同様にして、中圧ドラム225内の循環水が第1中圧蒸発器14A又は第2中圧蒸発器14Bで蒸気になり、循環水が気液混合状態で中圧ドラム225に戻る。中圧混気系統230は、第1実施形態のものと概ね同様である。中圧ドラム225内の蒸気は、中圧混気系統230を介して蒸気タービン205の中圧混気入口に供給される。
【0065】
このように本実施形態においては、2機の主機1A,1Bからの排気熱が2つの排ガスエコノマイザ10A,10Bによって個別に回収される。そして、2つの排ガスエコノマイザ10A,10Bが、高圧循環水系統227を介して単一の高圧ドラム224に並列接続され、中圧循環水系統229を介して単一の中圧ドラム225に並列接続されている。この構成により、2つの排ガスエコノマイザ10A,10bに個別に高圧ドラム224及び中圧ドラム225のセットを設ける場合と比較して、廃熱回収系203の構成をコンパクトにすることができる。なお、図示省略するが、低圧循環水系統も、各主機1A,1Bに個別に設けられた2つの低圧蒸発器を低圧ドラムに並列接続しており、同様の作用効果を奏する。
【0066】
図6は、
図5に示す舶用発電システム200の過給機2A,2B周辺の構成及び制御系の構成を示す概念図である。
図6に示すように、2機の主機1A,1Bそれぞれに、給気通路41A,41B及び排気通路42A,42Bが接続されている。各過給機2A,2Bは、排気通路42A,42B上に設けられたタービン43A,43Bと、給気通路41A,41B上に設けられたコンプレッサ44A,44Bと、タービン43A,43B及びコンプレッサ44A,44Bを接続して一体的に回転させるロータ45A,45Bとを備えている。各排気通路42A,42Bに、バイパス通路46A,46Bが接続されている。各バイパス通路46A,46Bに、流量調整手段47A,47Bが設けられ、各流量調整手段47A,47Bは、排気バイパス弁48A,48Bとオリフィス49A,49Bとを備えている。
【0067】
コントローラ250の入力側は、第1温度センサ61A、第2温度センサ61B、第1過給機回転数センサ62A及び第2過給機回転数センサ62Bに接続されている。第1温度センサ61Aは、第1過給機2Aに向かう給気の温度を検出し、第2温度センサ61Bは、第2過給機2Bに向かう給気の温度を検出する。第1過給機回転数センサ62Aは、第1過給機2Aの回転数を検出し、第2過給機回転数センサ62Bは、第2過給機2Bの回転数を検出する。コントローラ250の出力側は、第1排気バイパス弁48A、第2排気バイパス弁48B、補助ボイラ224a(
図5参照)などに接続されている。コントローラ250の出力側は、第1排ガスエコノマイザ10Aに対応するダンパ8A、第1パイパス管7Aに対応するダンパ9A、第2排ガスエコノマイザ10Bに対応するダンパ8B、第2バイパス管7Bに対応するダンパ9Bにも接続されている。
【0068】
コントローラ250は、各主機1A,1Bの給気の温度及び各主機1A,1Bの負荷に応じて、第1排気バイパス弁48A及び第2排気バイパス弁48Bを制御し、それにより過給機バイパス率や蒸気ターボ発電機204により発生される電力を制御する。コントローラ250は、このような制御を実行する機能部として、第1実施形態と同様にして、温度測定部251、負荷測定部252、制御マップ記憶部253、バイパス率算出部254、バイパス弁制御部255、ダンパ制御部256及び補助ボイラ制御部257を有している。
【0069】
図7は、
図6に示す制御マップ記憶部253に記憶される制御マップ265の一例を模式的に示すグラフである。バイパス率算出部254は、
図7に示す制御マップ265を参照し、温度及び負荷に応じて、2機の主機1A,1Bごと(2つの排気バイパス弁48A,48Bごと)に過給機バイパス率を算出する。この制御マップ265を参照することで、コントローラ250は、第1主機1Aからの廃熱による発生可能電力(以下、第1発生可能電力)が船内需用電力の半分に相当し、第2主機1Bからの廃熱による発生可能電力(以下、第2発生可能電力)が船内需用電力の半分に相当するように、排気バイパス弁48A,48Bの開度を制御する。つまり、本実施形態では、2つの排気バイパス弁48A,48Bの開度が、共通の制御マップ265を用いながらも独立して制御され、それにより、各主機1A,1Bの廃熱による発生可能電力を船内需用電力Wdの半分ずつに分けるようにし、2機全体としての廃熱による発生可能電力を船内需用電力Wdにする。
【0070】
図8は、
図6に示すコントローラ250により実行される制御内容を示すフローチャートである。
図8に示す処理は、航行中に所定の周期で繰り返し実行される。
図8に示すように、まず、温度測定部251が、第1温度センサ61Aからの入力に応じて第1過給機2Aに対応した給気温度T1を測定し、第2温度センサ61Bからの入力に応じて第2過給機2Bに対応した給気温度T2を測定する(ステップS101)。次に、負荷測定部252が、第1過給機回転数センサ62Aからの入力に応じて第1主機1Aの負荷X1を測定し、第2過給機回転数センサ62Bからの入力に応じて第2主機1Bの負荷X2を測定する(ステップS102)。
【0071】
次に、バイパス率算出部254が、制御マップ265を参照して、給気温度T1及び負荷X1に応じて第1発生可能電力W1を船内需用電力Wdの半分以上とするために必要な第1過給機パイパス率Y1を算出する(ステップS103)。また、バイパス率算出部254が、制御マップ256を参照して、給気温度T2及び負荷X2に応じて第2発生可能電力W2を船内需用電力Wdの半分以上とするために必要な第2過給機バイパス率Y2を算出する(ステップS103)。
【0072】
次に、バイパス率算出部254が、第1発生可能電力W1と第2発生可能電力W2との和が船内需用電力Wdに達しているか否かを判断する(ステップS104)。達していれば(S104:YES)、補助ボイラ224aやディーゼル発電機等の補機を停め、第1過給機バイパス率Y1及び第2過給機パイパス率Y2がステップS103で得た値にそれぞれなるように、第1排気バイパス弁48A及び第2排気バイパス弁48Bをそれぞれ駆動する(ステップS105)。これにより、2機の主機1A,1Bからの廃熱による発生可能電力が船内需用電力を賄うことができる。
【0073】
達していなければ(S104:NO)、第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分未満であり且つ第2発生可能電力W2が船内需用電力Wdの半分未満であるのか否かを判断する(ステップS106)。また、いずれか一方のみが半分未満であれば(S106:YES)、それが第1発生可能電力W1であるのか第2発生可能電力W2であるのかを判断する(ステップS107)。
【0074】
なお、第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分未満である場合には、第1過給機バイパス率Y1はオリフィス49Aによって規定される最大値MAXに達しているにも関わらず、第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分を賄いきれないことを意味する。よって、第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分を賄いきれない場合には、既に、第1排気バイパス弁48Aの開度を増やす余地が残っていない。第2発生可能電力W2についても同様のことが言える。
【0075】
第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分未満であり且つ第2発生可能電力W2が船内需用電力Wdの半分未満であれば(S106:YES)、2機の主機1A,1B全体としての廃熱による発生可能電力が船内需用電力Wdを賄いきれないので、不足分を補うため補機を駆動する(ステップS108)。
【0076】
第1発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分未満である一方で第2発生可能電力W2が船内需用電力Wdの半分に達していれば(S106:NO,S107:YES)、第2過給機バイパス率Y2を、ステップS103で得られた値から増大させる(ステップS109)。これにより、第2発生可能電力W2が船内需要電力Wdの半分の値から増大し、それにより第1発生可能電力W1の不足分を補うことができる。次に、第1発生可能電力W1と、増大補正後の第2発生可能電力W2との和が船内需用電力Wdに達したか否かを判断する(ステップS110)。達していれば、ステップS105に進み、補機を止めた状態で蒸気ターボ発電機を駆動する。達していなければ、第2過給機バイパス率Y2が最大値MAXに達したか否か(すなわち、第2発生可能電力W2を増大させる余地がもう残っていないか否か)を判断する(ステップS111)。最大値MAXに達していなければ(S111:NO)、ステップS109に戻って、第2過給機バイパス率Y2を更に増大させ、処理を繰り返す。最大値MAXに達していれば(S111:YES)、ステップS108に進み、補機を駆動して不足分を補う。
【0077】
第2発生可能電力W1が船内需用電力Wdの半分未満である一方で第1発生可能電力W2が船内需用電力Wdの半分に達していれば(S106:NO,S107:NO)、前述同様の処理が、第1過給機バイパス率と第2過給機バイパス率とを入れ替えて行われる(ステップS112〜114)。すなわち、第1発生可能電力W1の増大補正(第1過給機バイパス率Y1の拡大補正)によって第2発生可能電力W2の不足分を極力補う。第1発生可能電力W1が最大限増大補正されてもなお、第1発生可能電力W1と第2発生可能電力W2との和が船内需用電力Wdに満たない場合には(S114:NO)、補機を駆動することによってその不足分が補われるようにする。
【0078】
このように本実施形態によれば、一方の主機からの廃熱による発生可能電力が目標とする値(船内需用電力の半分)を下回っても、他方の主機からの廃熱による発生可能電力を目標とする値(船内需用電力の半分)から増大させ、それにより、前記一方の発生可能電力の不足分を補うことができる。このため、補機をなるべく停止させた状態にして蒸気ターボ発電機204が船内需用電力を賄いきることができるので、燃料消費率の悪化を良好に抑制することができる。
【0079】
上記説明から、当業者にとっては、本発明の多くの改良や他の実施形態が明らかである。従って、上記説明は、例示としてのみ解釈されるべきであり、本発明を実行する好適な態様を当業者に教示する目的で提供されたものである。本発明の趣旨を逸脱することなく、その構造及び/又は機能の詳細を実質的に変更できる。例えば、温度センサは、過給機2に供給される給気の温度を検出するものに限定されず、過給機2から主機1に供給される給気の温度、主機1から過給機2に供給される排気の温度、又は、廃熱回収系3の入口(排ガスエコノマイザ10の入口)における排気の温度を検出するものであってもよい。主機1の負荷は、過給機の回転数に基づいて測定されるものに限定されず、主機1の出力軸及びそれに連れて回転する回転軸を含む軸動力系の回転数、主機1への燃料噴射量、主機1からの排気の流量に基づいて測定されてもよい。
【0080】
制御マップ65は、温度及び負荷に対する過給機バイパス率の対応関係を規定する制御規則であればどのような形態であってもよく、
図3に示すように直交座標系に示されるグラフ又は当該グラフを表す演算式に限定されず、ルックアップテーブルのような形態であってもよい。