特許第5746895号(P5746895)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5746895リニアソレノイド及びそれを用いたバルブ装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746895
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】リニアソレノイド及びそれを用いたバルブ装置
(51)【国際特許分類】
   H01F 7/16 20060101AFI20150618BHJP
   F16K 31/06 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   H01F7/16 R
   F16K31/06 305Z
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2011-80838(P2011-80838)
(22)【出願日】2011年3月31日
(65)【公開番号】特開2012-216680(P2012-216680A)
(43)【公開日】2012年11月8日
【審査請求日】2014年3月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】000141901
【氏名又は名称】株式会社ケーヒン
(74)【代理人】
【識別番号】100064414
【弁理士】
【氏名又は名称】磯野 道造
(74)【代理人】
【識別番号】100111545
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】及川 直樹
【審査官】 堀 拓也
(56)【参考文献】
【文献】 特開平11−241780(JP,A)
【文献】 特開平08−004934(JP,A)
【文献】 特開平07−042863(JP,A)
【文献】 実開平01−098380(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 7/16
F16K 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルと、前記コイルの内側に設けられるとともに前記コイルに対する通電作用下に軸方向に沿って変位し固定コアに吸引される円柱状の可動コアと、前記コイルと前記可動コアとの間に設けられ非磁性の円筒体からなる連結部材と、前記可動コアと前記連結部材との間に設けられるとともに前記可動コアを摺動可能に支持する円筒状の軸受部材と、を有するリニアソレノイド部をハウジング内に備え、
前記ハウジングは、前記固定コア側を開口する有底円筒状であるとともに、径方向に沿った前記可動コアと前記連結部材との間に配置されハウジング底部から前記軸受部材側に向かって突出する円筒状突部を有し、
前記連結部材は、前記コイルと前記固定コアとの間に配置され、前記固定コアと前記円筒状突部とを同軸で連結し、
前記軸受部材の内周面は、前記円筒状突部の内周面から前記可動コア側に向かう半径内方向へ所定長突出して設けられることを特徴とするリニアソレノイド。
【請求項2】
前記連結部材は、軸方向に沿った一端が前記固定コアの外周面に圧入され、他端が前記円筒状突部の外周面に圧入されることを特徴とする請求項1に記載のリニアソレノイド。
【請求項3】
前記軸受部材は、軸方向に沿った前記可動コアと前記連結部材との間に複数設けられることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のリニアソレノイド。
【請求項4】
圧力流体が流通する複数のポートを有するバルブボデイと、
請求項1乃至3のいずれか1項に記載のリニアソレノイドと、
前記バルブボデイ内に設けられ、前記可動コアの変位によって前記複数のポート間の連通状態と非連通状態とを切り換える弁体を有する弁機構部と、
を備えることを特徴とするバルブ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通電することによって励磁作用を発揮するリニアソレノイド及びそれを用いたバルブ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、ソレノイドの励磁作用によって可動コアを変位させ、当該可動コアの変位が伝達されることによりインレットポートとアウトレットポートの連通状態と非連通状態とを切り換える弁体を有するリニアソレノイドバルブが用いられている。
【0003】
この種のリニアソレノイドバルブに関し、本出願人は、小型化することができるとともに、ヒステリシス特性を向上させることが可能なリニアソレノイドバルブを提案している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
この特許文献1に開示されたリニアソレノイドバルブは、コイルと、前記コイルの内側に設けられるとともに前記コイルに対する通電作用下に固定コアに吸引される円柱状の可動コアと、前記コイルと前記可動コアとの間に設けられる円筒状ヨークとを有するとともに、前記円筒状ヨークの内周面に前記可動コアを摺動可能に支持する円筒状の軸受部材が圧入嵌合されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−267749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1に開示されたリニアソレノイドバルブは、コイルに電気を流した場合、コイルの内側において軸方向に磁束が発生する。ここで、当該リニアソレノイドバルブのコイルの内側には、可動コアの他に円筒状ヨークが存在していることから、可動コアだけでなく円筒状ヨークにも磁束が流通する。その結果、磁束が流通する可動コアと円筒状ヨークとが径方向に互いに力を及ぼし合ってしまう。詳細には、軸方向に沿って変位駆動すべき可動コアに対し、円筒状ヨークに向かって径方向に吸引する力(サイドフォース)が生じてしまう。その結果、特許文献1に開示されたリニアソレノイドバルブは、ヒステリシス特性を向上させることが困難となる。
また、この種のリニアソレノイドバルブに対しては、さらなるヒステリシス特性の向上や、装置(リニアソレノイドバルブ)の小型化の維持という要求が、常に存在している。
【0007】
本発明は、前記の点に鑑みてなされたものであり、小型化を維持することができるとともに、ヒステリシス特性を向上させることが可能なリニアソレノイド及びそれを用いたバルブ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記の目的を達成するため、本発明のリニアソレノイドは、コイルと、前記コイルの内側に設けられるとともに前記コイルに対する通電作用下に軸方向に沿って変位し固定コアに吸引される円柱状の可動コアと、前記コイルと前記可動コアとの間に設けられ非磁性の円筒体からなる連結部材と、前記可動コアと前記連結部材との間に設けられるとともに前記可動コアを摺動可能に支持する円筒状の軸受部材と、を有するリニアソレノイド部をハウジング内に備え、前記ハウジングは、前記固定コア側を開口する有底円筒状であるとともに、径方向に沿った前記可動コアと前記連結部材との間に配置されハウジング底部から前記軸受部材側に向かって突出する円筒状突部を有し、前記連結部材は、前記コイルと前記固定コアとの間に配置され、前記固定コアと前記円筒状突部とを同軸で連結し、前記軸受部材の内周面は、前記円筒状突部の内周面から前記可動コア側に向かう半径内方向へ所定長突出して設けられることを特徴とする。
【0009】
本発明のリニアソレノイドによれば、固定コアとハウジングの円筒状突部とを同軸で連結する連結部材を備えることにより、固定コア、ハウジング、および連結部材の軸がずれる可能性を低減させ、3つの部材の同軸度を向上させることができる。その結果、ヒステリシス特性を向上させることができる。
【0010】
また、連結部材が非磁性であることから、コイルが励磁されコイルの内側において軸方向に磁束が発生した場合に、磁束は可動コアには流通するが、連結部材には流通しない。したがって、可動コアに対し連結部材に向かって径方向に吸引する力(サイドフォース)を著しく低減することができる。その結果、ヒステリシス特性を著しく向上させることができる。
【0011】
さらに、連結部材が非磁性であることから、コイル内に生じる磁束は連結部材を流通することなく可動コアを流通するため、従来の円筒状ヨークを備えるリニアソレノイドと比較し、可動コアを流通する磁束密度が増大する。その結果、可動コアの吸引力が向上する。
【0012】
さらにまた、例えば、ハウジングの円筒状突部の内周面からから可動コア側に向かう半径内方向へ突出する軸受部材の突出量(所定長)を適宜設定することにより、円筒状突部の内周面と可動コアの外周面との径方向における間隙である磁気ギャップを容易に且つ高精度に設定することができる。その結果、磁気ギャップを極小に設定して、可動コアに対する吸引力を向上させることができる。
【0013】
またさらに、前記のとおり、ヒステリシス特性を向上させるために、従来から用いられていた円筒状ヨークの代わりに非磁性の連結部材を用いているだけであり、その他に新たな部材を組み込んでいないことから、径方向および軸方向にリニアソレノイドが大型化することを回避し、小型化を維持することができる。
【0014】
また、本発明のリニアソレノイドの前記連結部材は、軸方向に沿った一端が前記固定コアの外周面に圧入され、他端が前記円筒状突部の外周面に圧入されることを特徴とする。
【0015】
本発明のリニアソレノイドによれば、軸方向に沿った連結部材の一端が固定コアの外周面に圧入され、他端がハウジングの円筒状突部の外周面に圧入されることから、固定コアとハウジングとは、簡便かつ高精度に組み付けることができる。
【0016】
また、本発明のリニアソレノイドの前記連結部材の前記軸受部材は、軸方向に沿った前記可動コアと前記連結部材との間に複数設けられることを特徴とする。
【0017】
本発明のリニアソレノイドによれば、複数の軸受部材が軸方向に沿った可動コアと連結部材との間に配置されるため、連結部材に対する可動コアの同軸性を容易に達成することができる。この連結部材に対する可動コアの同軸性を確保することができることにより、良好なヒステリシス特性を得ることができる。
また、複数の軸受部材を設けるようにしたので、比較的長尺な軸受部材を設けた場合と比較して、可動コアの外周面に摺接する軸受部材の接触面積を減らすことが可能となるので、摺動抵抗を小としてヒステリシス特性を良好とすることが可能となる。
【0018】
また、本発明のバルブ装置は、圧力流体が流通する複数のポートを有するバルブボデイと、前記リニアソレノイドと、前記バルブボデイ内に設けられ、前記可動コアの変位によって前記複数のポート間の連通状態と非連通状態とを切り換える弁体を有する弁機構部と、を備えることを特徴とする。
【0019】
本発明のバルブ装置によれば、小型化が維持され、しかもヒステリシス特性を向上させたリニアソレノイドを備えたバルブ装置とすることができる。その結果、バルブ装置全体の小型化・軽量化を達成するとともに、ヒステリシス特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、小型化を維持することができるとともに、ヒステリシス特性を向上させることが可能なリニアソレノイドを得ることができる。
また、本発明によれば、小型化が維持され、しかもヒステリシス特性を向上させたリニアソレノイドを備えたバルブ装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るリニアソレノイドが組み込まれた油圧制御装置(バルブ装置)の軸方向に沿った縦断面図である。
図2図1に示す油圧制御装置(バルブ装置)のリニアソレノイド部の拡大縦断面図である。
図3】(a)〜(c)は、ハウジングに対して、連結部材および固定コアが組み付けられる工程を示す説明図である。
図4】本発明の実施形態に係るリニアソレノイド部の変形例を示した拡大縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
次に、本発明の実施形態について、適宜図面を参照しながら詳細に説明する。
なお、以下の説明において、「先端」、「基端」を言うときは、図1に示す方向を基準としている。
【0023】
(バルブ装置の概略構成)
図1に示されるように、油圧制御装置(以下、適宜、バルブ装置という)10は、例えば、磁性金属材料によって有底円筒状に形成され、内部にリニアソレノイド部(リニアソレノイド)12が配設されたハウジング70と、当該ハウジング70と一体的に結合され、内部に弁機構部16が設けられたスリーブ状のバルブボデイ18とを備える。
なお、リニアソレノイド部12の可動コア22が軸方向に変位することにより、弁機構部16がバルブボデイ18の複数のポート44、46、48、50間の連通状態と非連通状態とを切り替える。
【0024】
(各部の構成)
以下、バルブ装置10の各部について説明する。
図1及び図2に示されるように、ハウジング70は、軸方向に沿って長尺に形成され最も外径側に設けられた円筒部71と、円筒部71の軸方向の先端部に連続し径方向内側に延在するとともに、軸方向の厚さが円筒部71の径方向の厚さと比較して厚肉に形成されたハウジング底部73と、を備える。
【0025】
さらに、ハウジング70は、ハウジング底部73に連続し円筒部71と略平行に基端側に向かって突出する円筒状突部72と、ハウジング底部73に連続し円筒部71と略平行に先端側に延在する円筒状中間部74と、円筒状中間部74から延在し後記する第1ストッパ部材19が略中央部に固着される突出底部75とを有する。なお、円筒状突部72の内周面とハウジング底部73の内周面と円筒状中間部74の内周面とは、面一となる。
そして、円筒部71、円筒状突部72、ハウジング底部73、円筒状中間部74及び突出底部75が一体化されて形成される。
【0026】
図2に示されるように、第1ストッパ部材19は、非磁性材料で形成された縦断面略H状部材からなり、後記する可動コア22の軸方向の一端部が当接して前記可動コア22の一方の変位(先端側の変位)を規制するストッパとして機能するものである。そして、第1ストッパ部材19は、突出底部75の貫通孔21内に保持(クリアランスを介して遊嵌されてもよい)される円柱部19aと、突出底部75の内壁側に係合する一方の円板部19bと、突出底部75の外壁側に係合する他方の円板部19cとが一体的に構成される。なお、後記する可動コア22と対向する突出底部75の内壁との間には、可動コア22の一方の流路孔30aと他方の流路孔30bとを連通させる環状間隙部23が形成される。
【0027】
(リニアソレノイド部)
図1及び図2に示されるように、リニアソレノイド部(リニアソレノイド)12は、ハウジング70内に収容されるコイル組立体と、ハウジング70の円筒状突部72に結合されるとともに、コイル組立体の内部に配置される連結部材80と、ハウジング70の円筒部71の開口端部に結合されるとともに、コイル組立体の内側で軸方向に沿って連結部材80の基端部(固定コア圧入部80b)と結合される固定コア20と、連結部材80の内側に軸方向に沿って変位自在に配置された可動コア22と、連結部材80と可動コア22との間に配置されるとともに、可動コア22を変位自在に支持する軸受部材36と、を有する。
【0028】
図2に示されるように、固定コア20は、所定間隔離間して可動コア22と対向する先端側の外周面に、連結部材80の基端部(固定コア圧入部80b)の径方向の厚さ分(W)だけ縮径した縮径部20dが形成されているとともに、当該縮径部20dの外周面が先端側に向かうにしたがって徐々に縮径し(可動コア22側の外径が小さくなるように縮径し)、縦断面が鋭角状に形成された環状のテーパ部20cが形成されている。
なお、固定コア20と連結部材80との関係については、後記で詳細に説明する。
【0029】
第2ストッパ部材25は、非磁性材料によって形成され、固定コア20の凹部20aに係合する環状のフランジ部25aと、当該フランジ部25aに連続し固定コア20の孔部20b内に圧入される円筒部25bとから構成される。円筒部25bには、後記するスプール(変位伝達部材)40のシャフト部40bが挿通する挿通孔25cが設けられる。
【0030】
第2ストッパ部材25は、非磁性材料によって形成されることにより、コイル26に対する通電が停止されたとき、残留磁気の影響によって可動コア22が固定コア20に吸着されたままになることを防止する機能(貼り付き防止機能)を有する。
【0031】
この場合、図示しない電源をオンにしてコイル26に電流を流すことにより励磁作用が発生し、前記励磁作用によって可動コア22が固定コア20側に向かって一体的に変位することにより、後記するスプール40を作動(進退動作)させることができる。
【0032】
コイル組立体は、樹脂製材料によって形成され軸方向に沿って両端部にフランジを有するコイルボビン24と、当該コイルボビン24に巻回されるコイル26とから構成される。
そして、コイル26とハウジング70との間には、当該コイル26の外周面等をモールドした樹脂封止体28が設けられ、当該樹脂封止体28は、コイル26に接続されたカプラ部60を含んで樹脂製材料によって一体成形される。カプラ部60には、コイル26と電気的に接続されるターミナル61の端子部61aが露呈するように設けられる。
【0033】
可動コア22は、その中心部を貫通する従来のシャフトが設けられていないシャフトレスの円柱体からなり、当該円柱体には、周方向に沿って約180度の離間角度で且つ軸方向に沿って貫通する複数の流路孔30a、30bが設けられる。この流路孔30a、30bによって、可動コア22の軸方向に沿った一端側の圧油と他端側の圧油を流通させることができる。
【0034】
そして、可動コア22の軸方向に沿った一端部と他端部との間の中間部には、連結部材80の内周面に圧入される単一の軸受部材36が設けられ、当該軸受部材36を介して可動コア22が軸方向に沿って摺動可能に支持される。なお、可動コア22は、後記するスプール40のシャフト部40bを含んで一体成形するようにしてもよい。
【0035】
図2に示される縦断面において、軸受部材36は、軸方向に沿って一定の内径を有する環状体によって構成される。そして、当該環状体は、例えば、SPCC(JIS規格)等の金属製材料によって形成された外径層(バックメタル層)と、青銅等を焼結して形成される青銅焼結層(中間層)と、可動コア22との摺動面であって4フッ化エチレン樹脂等の樹脂材料からなる樹脂層(内径層)とが積層されて構成されたベアリングが用いられるとよい。このベアリングとしては、例えば、自己潤滑性を有するすべり軸受けからなり、このような自己潤滑性を有するすべり軸受けを用いることにより、耐摩耗性を向上させることができる。
【0036】
可動コア22の外周面に摺接する軸受部材36の内周面は、ハウジング70の円筒状突部72の内周面から径方向に向かって所定長Tだけ突出するように設けられる(図2参照)。従って、可動コア22は、軸受部材36のみと摺接し、円筒状突部72の内周面と可動コア22の外周面との間には、前記突出量(所定長T)に対応する径方向の間隙が形成される。この径方向の間隙は、可動コア22と円筒状突部72との径方向における磁気ギャップとして機能するものである。
【0037】
(連結部材と各部材との関係)
連結部材80は、固定コア20とハウジング70の円筒状突部72とを同軸で連結する非磁性の部材である。なお、非磁性の部材とは、例えば、ステンレス鋼等である。
そして、連結部材80は、軸受部材36が内周面に圧入される軸受圧入部80cと、軸受圧入部80cから固定コア20側(基端側)に延在するとともに、拡径部80aが内周面に形成された固定コア圧入部80bと、から構成される。
【0038】
連結部材80の一端(基端側)は固定コア20の外周面に形成された縮径部20dに圧入されるとともに、他端(先端側)はハウジング70の円筒状突部72の外周面に圧入される。このように構成されることにより、固定コア20とハウジング70と連結部材80との軸がずれる可能性を低減させ、3つの部材の同軸度を向上させることができる。
【0039】
また、固定コア20の縮径部20dは、基端側に延在する固定コア20の外径と比較し、固定コア圧入部80bの径方向の厚さ分(W)だけ縮径している。一方、連結部材80の固定コア圧入部80bは、先端側に延在する軸受圧入部80cの内径と比較し、所定幅(W−W)だけ拡径している。このように構成されることにより、固定コア20と連結部材80とを連結した場合に、固定コア20の径方向外側に連結部材80が突出してしまうような事態を回避することができる。その結果、リニアソレノイド部(リニアソレノイド)12が径方向に大きくなることを防止することができる。
【0040】
固定コア20が内周面に圧入される拡径部80aと、軸受部材36とは、径方向において重畳しないように構成される。言い換えると、軸方向において、拡径部80aの先端側の端部と、軸受部材36の基端側の端部とが、所定の間隔(図2のΔX)離間するように構成される。このように構成されることにより、拡径部80aが形成される固定コア圧入部80bの径方向の厚さ(W)は、固定コア20が圧入されるために薄くなるにもかかわらず、軸受圧入部80cの径方向の厚さ(W)は、薄くならない。したがって、連結部材80が軸受部材36を径方向に適切に固定できないために、軸受部材36が可動コア22を精密に軸受することができず、ヒステリシス特性が低下してしまうといった事態を回避することができる。
【0041】
(リニアソレノイド部の変形例)
なお、リニアソレノイド部12は、図4に示されるように、複数の軸受部材36a、36bを有していてもよい。この場合は、連結部材80の基端側に軸受圧入部(基端側軸受圧入部)80c、先端側に軸受圧入部(先端側軸受圧入部)80dが形成され、それぞれの軸受圧入部80c、80dの内周面に軸受部材36a、36bが圧入される。そして、軸受部材36a、36bを軸方向に位置決めできるように、基端側軸受圧入部80cと先端側軸受圧入部80dとの間に軸受圧入部80c、80dよりも内径の小さな(円筒状突部72と同じ内径の)軸受位置決め部80eが形成される。複数の軸受部材36a、36bが軸方向に沿った可動コア22と連結部材80との間に配置されるため、連結部材80に対する可動コア22の同軸性を容易に達成することができる。この連結部材80に対する可動コア22の同軸性を確保することができることにより、良好なヒステリシス特性を得ることができる。また、複数の軸受部材36a、36bを設けるようにしたので、本実施形態の比較的長尺な軸受部材36に比較して、可動コア22の外周面に摺接する軸受部材36a、36bの接触面積を減らすことが可能となるので、摺動抵抗を小としてヒステリシス特性を良好とすることが可能となる。
なお、基端側軸受圧入部80cおよび先端側軸受圧入部80dは、拡径部80aと径方向において重畳しないように形成される。
【0042】
(弁機構部およびバルブボデイ)
図1に戻って、弁機構部16は、インレットポート44、アウトレットポート46、ドレンポート48、50がそれぞれ設けられたバルブボデイ18内に設けられ、リニアソレノイド部12の可動コア22の端面と当接し前記可動コア22によって押圧されることにより、前記バルブボデイ18内部の空間部に沿ってそれぞれ摺動可能に配設されたスプール(弁体)40を備える。
【0043】
なお、ドレンポート50は、可動コア22の進退動作に対応してハウジング70内の圧油を導入・導出するものである。また、前記インレットポート44、アウトレットポート46及びドレンポート48は、圧力流体が流通する複数のポートとして機能するものである。
【0044】
前記スプール40は、弁本体を有し、前記弁本体は、半径外方向に向かって膨出形成された複数のランドを有するランド部40aと、固定コア20の貫通孔内に進退自在に挿通され、一端部が可動コア22の端面に当接するシャフト部40bとから構成される。
【0045】
また、前記スプール40の外周面には、前記スプール40の変位位置に対応して、インレットポート44とアウトレットポート46とを連通させ、又は、アウトレットポート46とドレンポート48とを連通させる環状凹部52が形成される。
【0046】
さらに、弁機構部16は、図1に示されるように、前記スプール40の基端側の端面と対向するように配置されバルブボデイ18の空間部を閉塞する閉塞部材54と、前記スプール40と閉塞部材54との間に介装されスプール40を原位置に復帰させるリターンスプリング56とを備える。なお、前記閉塞部材54の外周面には、環状溝を介して装着部位を液密乃至気密に保持するシールリング58が設けられる。
【0047】
例えば、前記インレットポート44は、供給油路を介して油圧ポンプ等の図示しない油圧源(圧力流体供給源)にそれぞれ接続され、前記アウトレットポート46は、出力油路を介して図示しない油圧機器の油圧作動部に接続され、ドレンポート48は、図示しないリザーバタンクに接続される。なお、本実施形態では、圧油を用いて説明しているが、これに限定されるものではなく、例えば、圧縮エア等を含む圧力流体を作動媒体として用いることが可能である。
【0048】
本実施形態に係るバルブ装置10は、基本的に以上のように構成されるものであり、次に、ハウジング70に対する各部材の組み付け手順、リニアソレノイド部12に発生する磁束流れ、バルブ装置10の動作、並びに本実施形態の作用効果について説明する。
【0049】
(ハウジングに対する各部材の組み付け手順)
先ず、ハウジング70に対する連結部材80、固定コア20の組み付け手順を図3に基づいて説明する。
【0050】
ハウジング70の軸方向に沿った基端側に連結部材80を配置し(図3(a)参照)、連結部材80の軸受圧入部80cの内径よりも若干大径に形成された円筒状突部72の外周面に対して連結部材80を先端側に押圧して圧入する(図3(b)参照)。
そして、軸受部材36の外径よりも若干小径に形成された軸受圧入部80cの内周面に対して軸受部材36を先端側に押圧して圧入する(図3(b)参照)。なお、軸受部材36の連結部材80に対する組み付けは、連結部材80を円筒状突部72に圧入した後に行ってもよいし、連結部材80を円筒状突部72に圧入する前に行ってもよい。
そして、軸受部材36の内周面に対して、可動コア22を組み付ける(図3(b)参照)。
【0051】
その後、ハウジング70の軸方向に沿った基端側に固定コア20を配置し(図3(b)参照)、固定コア20の縮径部20dの外径よりも若干小径に形成された連結部材80の拡径部80aに対して固定コア20を先端側に押圧して圧入する(図3(c)参照)。
【0052】
なお、図3は、コイル組立体のハウジング70への組み込み手順については考慮していないが、コイル組立体をハウジング70へ組み込む場合は、固定コア20を連結部材80の拡径部80aに圧入する前に(図3(b)と図3(c)との間に)、コイル組立体をハウジング70の円筒部71と連結部材80との間に組み込めばよい。
【0053】
(リニアソレノイド部に発生する磁束流れ)
次に、リニアソレノイド部12に発生する磁束流れを説明する。
コイル26に電流を流すと、コイル26が励磁され磁束が発生する。この磁束は、ハウジング70の円筒部71、ハウジング底部73、円筒状突部72(および円筒状中間部74)、可動コア22、固定コア20、を流通する。ここで、コイル26と軸受部材36との間に設けられる連結部材80は非磁性であるため、コイル26の内側において、磁束は可動コア22には流通するが連結部材80には流通しない。したがって、可動コア22に対し、連結部材80に向かって径方向に吸引する力(サイドフォース)を著しく低減することができる。その結果、ヒステリシス特性を著しく向上させることができる。
また、コイル26の内側を通る磁束のほとんどが可動コア22を流通するため、従来の円筒状ヨークを備えるリニアソレノイドと比較し、可動コア22を流通する磁束密度が増大する。その結果、可動コア22の吸引力が向上する。
【0054】
(バルブ装置の動作)
次に、バルブ装置10の動作について説明する。
リニアソレノイド部12の非通電時には、リニアソレノイド部12の電磁力(電磁推力)が何ら発生しないため、図1に示されるように、スプール40はリターンスプリング56のばね力によってリニアソレノイド部12側に向かって押圧された状態となる。
【0055】
したがって、リニアソレノイド部12のオフ状態では、図1に示されるように、スプール40の外周面に形成された環状凹部52によって、インレットポート44とアウトレットポート46とが連通した状態にあり(図1の太線矢印参照)、インレットポート44から導入された圧油が環状凹部52及びアウトレットポート46を経由して図示しない他の部材に供給される。
【0056】
このように、リニアソレノイド部12のオフ状態では、可動コア22が何ら変位することがなく原位置にあって、インレットポート44とアウトレットポート46とが連通したノーマルオープン状態にある。
【0057】
次に、図示しない電源によってリニアソレノイド部12へ電流を流すことにより、リニアソレノイド部12がオン状態となる。このオン状態では、コイル26へ流れる電流値に比例した電磁力によって可動コア22が軸受部材36に沿って摺動しながら固定コア20側(基端側)に向かって吸引され、可動コア22が固定コア20に設けられた第2ストッパ部材25に当接した変位終端位置で停止する。
【0058】
すなわち、リニアソレノイド部12の励磁作用による可動コア22の変位がスプール40に伝達され、前記スプール40がリターンスプリング56のばね力に抗して閉塞部材54側(基端側)に向かって接近する方向に変位する。
【0059】
従って、スプール40のランドによってインレットポート44とアウトレットポート46との連通状態が遮断されるとともに、スプール40の外周面に形成された環状凹部52によってアウトレットポート46とドレンポート48との間が連通した状態に弁位置が切り換えられる。
【0060】
この結果、アウトレットポート46は、スプール40の外周面に形成された環状凹部52を介してドレンポート48と連通した状態となり、前記アウトレットポート46に残存する圧油がドレンポート48から好適に排出される。
【0061】
以上説明した本実施形態のリニアソレノイド部12によれば、固定コア20とハウジング70の円筒状突部72とを同軸で連結する連結部材80を備えることにより、固定コア20、ハウジング70、および連結部材80の軸がずれる可能性を低減させ、3つの部材の同軸度を向上させることができる。その結果、ヒステリシス特性を向上させることができる。
【0062】
また、連結部材80が非磁性であることから、コイル26が励磁されコイル26の内側において軸方向に磁束が発生した場合に、磁束は可動コア22には流通するが、連結部材80には流通しない。したがって、可動コア22に対し、連結部材80に向かって径方向に吸引する力(サイドフォース)を著しく低減することができる。その結果、ヒステリシス特性を著しく向上させることができる。
【0063】
さらに、連結部材80が非磁性であることから、コイル26内に生じる磁束は連結部材80を流通することなく可動コア22を流通するため、従来の円筒状ヨークを備えるリニアソレノイドと比較し、可動コア22を流通する磁束密度が増大する。その結果、可動コア22の吸引力が向上する。
【0064】
さらにまた、例えば、ハウジング70の円筒状突部72の内周面からから可動コア22側に向かう半径内方向へ突出する軸受部材80の突出量(所定長)を適宜設定することにより、円筒状突部72の内周面と可動コア22の外周面との径方向における間隙である磁気ギャップを容易に且つ高精度に設定することができる。その結果、磁気ギャップを極小に設定して、可動コア22に対する吸引力を向上させることができる。
【0065】
またさらに、前記のとおり、ヒステリシス特性を向上させるために、従来から用いられていた円筒状ヨークの代わりに非磁性の連結部材80を用いているだけであり、その他に新たな部材を組み込んでいないことから、径方向および軸方向にリニアソレノイド部12が大型化することを回避し、小型化を維持することができる。
【0066】
本実施形態のリニアソレノイド部12によれば、軸方向に沿った連結部材80の一端が固定コア20の外周面に圧入され、他端がハウジング70の円筒状突部72の外周面に圧入されることから、固定コア20とハウジング70とは、簡便かつ高精度に組み付けることができる。
【0067】
本実施形態のリニアソレノイド部12によれば、複数の軸受部材36が軸方向に沿った可動コア22と連結部材80との間に配置されるため、連結部材80に対する可動コア22の同軸性を容易に達成することができる。この連結部材80に対する可動コア22の同軸性を確保することができることにより、良好なヒステリシス特性を得ることができる。
また、本実施形態のリニアソレノイド部12によれば、複数の軸受部材36a、36bを設けるようにしたので、比較的長尺な軸受部材36を設けた場合と比較して、可動コア22の外周面に摺接する軸受部材36a、36bの接触面積を減らすことが可能となるので、摺動抵抗を小としてヒステリシス特性を良好とすることが可能となる。
【0068】
本実施形態のバルブ装置10によれば、小型化が維持され、しかもヒステリシス特性を向上させたリニアソレノイド部12を備えたバルブ装置10とすることができる。その結果、バルブ装置10全体の小型化・軽量化を達成するとともに、ヒステリシス特性を向上させることができる。
【0069】
以上、本発明に係る実施形態について説明したが、本発明はこれらに限定されず、発明の主旨に応じた適宜の変更実施が可能である。
例えば、連結部材80の先端側の内周面(軸受圧入部80c先端側の内周面)および基端側の内周面(固定コア圧入部80bの基端側の内周面)のうち少なくとも一方に、環状のテーパ面(端側の内径が大きくなるような環状の傾斜面)が形成されていてもよい。連結部材80に案内面として機能するテーパ面が形成されることにより、連結部材80を円筒状突部72に簡便に組み込む(圧入する)ことができ、また、固定コア20を連結部材80に簡便に組み込む(圧入する)ことができるため(図3参照)、組み付け作業が容易となって組み付け性を向上させることができる。なお、円筒状突部72の基端側の外周面に環状のテーパ面(端側の外径が小さくなるような環状の傾斜面)を形成させてもよい。
【符号の説明】
【0070】
10 バルブ装置(油圧制御装置)12 リニアソレノイド(リニアソレノイド部)
16 弁機構部 18 バルブボデイ
20 固定コア 22 可動コア
26 コイル 36 軸受部材
44 ポート(インレットポート)46 ポート(アウトレットポート)
48 ポート(ドレンポート) 50 ポート(ドレンポート)
70 ハウジング 72 円筒状突部
80 連結部材
図1
図2
図3
図4