特許第5746966号(P5746966)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5746966
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】粘着剤組成物
(51)【国際特許分類】
   C09J 133/02 20060101AFI20150618BHJP
   C09J 175/04 20060101ALI20150618BHJP
   C09J 133/14 20060101ALI20150618BHJP
   C09J 7/02 20060101ALI20150618BHJP
   C09J 193/04 20060101ALI20150618BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   C09J133/02
   C09J175/04
   C09J133/14
   C09J7/02 Z
   C09J193/04
   G02B5/30
【請求項の数】7
【全頁数】23
(21)【出願番号】特願2011-506055(P2011-506055)
(86)(22)【出願日】2010年3月23日
(86)【国際出願番号】JP2010054957
(87)【国際公開番号】WO2010110254
(87)【国際公開日】20100930
【審査請求日】2012年11月28日
(31)【優先権主張番号】特願2009-71597(P2009-71597)
(32)【優先日】2009年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(74)【代理人】
【識別番号】100119208
【弁理士】
【氏名又は名称】岩永 勇二
(72)【発明者】
【氏名】米田 庸佑
(72)【発明者】
【氏名】服部 慎也
(72)【発明者】
【氏名】中野 宏人
(72)【発明者】
【氏名】鴨井 彬
(72)【発明者】
【氏名】古江 直美
【審査官】 牟田 博一
(56)【参考文献】
【文献】 特開平10−204399(JP,A)
【文献】 特開平07−228852(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/111412(WO,A1)
【文献】 特開平09−263742(JP,A)
【文献】 特開平10−298528(JP,A)
【文献】 特開2005−146231(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00〜201/10
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含み、
架橋構造及び多量体が形成された後におけるゲル分が45重量%以上であり、
水酸基とロジン骨格とを有する前記化合物(C)と、前記イソシアネート化合物(B)との配合量比率が重量基準で0.3以上3以下であることを特徴とする、光学フィルムを液晶セルに貼着する際に用いる粘着剤組成物。
【請求項2】
カルボキシル基と水酸基とを含有するアクリル系共重合体(D)を更に含む請求項1に記載の粘着剤組成物(前記カルボキシル基を含有するアクリル系共重合体(A)が水酸基を含有するものは除く)。
【請求項3】
水酸基とロジン骨格とを有する前記化合物(C)が、分子内に下記式(1)で示す骨格を有する化合物である請求項1又は2に記載の粘着剤組成物。
【化1】
【請求項4】
前記アクリル系共重合体の合計量100重量部に対し、前記イソシアネート化合物(B)を5重量部以上20重量部以下含む請求項1〜3のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項5】
前記アクリル系共重合体の合計量100重量部に対し、水酸基とロジン骨格とを有する前記化合物(C)を1重量部以上20重量部以下含む請求項1〜4のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項6】
前記イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基と架橋反応する前記アクリル系共重合体の反応性官能基の合計1当量に対するイソシアネート基の当量の比率が1より大きく5以下であり、
前記反応性官能基は、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、アミド基,N−置換アミド基、三級アミノ基のいずれか1種又は2種以上である請求項1〜5のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【請求項7】
前記アクリル系共重合体(D)が、共重合体成分としてt−ブチルアクリレートを含む請求項2〜6のいずれか一項に記載の粘着剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光フィルム、位相差フィルム等の光学フィルムを、液晶セル等の被着体に貼着する際に用いる粘着剤組成物、及びこれを用いた粘着剤層を有する光学フィルムに関する。更に詳しくは、本発明は、高温高湿下においても優れた耐久性を示すと共に、白抜け抑制能力に優れた粘着剤組成物、及びこれを用いた粘着剤層を有する光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置は、通常、ガラス等の2枚の支持基板の間に、所定の方向に配向した液晶成分を挟持した液晶セルと、偏光フィルムや位相差フィルム、輝度向上フィルム等の光学フィルムとから構成されている。これら光学フィルム同士の積層や光学フィルムを液晶セルに貼着する際に粘着剤が使用されていることが多い。
【0003】
液晶表示装置は、パーソナルコンピュータやテレビジョン、カーナビゲーションなどの表示装置として広範囲に使用されている。これらは、高温高湿下のような過酷な環境下で使用されることもある。したがって、耐久性に優れ、長期間の使用においても剥がれや気泡の発生等が生じない粘着剤が要求されている。また、高温高湿下のような苛酷な環境下において、光学フィルムは収縮や膨張といった寸法変化が大きくなる。従来の粘着剤層は、かかる寸法変化によって発生する応力を緩和することができず、光学フィルムの残留応力が不均一になる。その結果、液晶表示装置の周辺部から光が漏れて白くなる、いわゆる「白抜け」が問題となっている。
【0004】
このような問題を改善する為に、粘着剤組成物に低分子量重合体を添加することで応力緩和性をもたせた粘着剤が提案されている。例えば、特許文献1(特開平10−279907号公報)には、高分子量アクリル系共重合体と、重量平均分子量が3万以下の低分子量アクリル系共重合体と、多官能性化合物とからなる偏光板用粘着剤組成物が開示されている。しかしながら、特許文献1に記載の粘着剤組成物では重量平均分子量が3万以下の低分子量アクリル系共重合体の添加量が多い為、高温高湿下での発泡や剥がれを防ぐことは難しい。
【0005】
白抜けを抑制する方法としては、特許文献1に記載の粘着剤組成物のように、偏光フィルムの寸法変化に追随し応力集中を緩和させることにより白抜けの発生を防ぐ方法と、それとは反対に、高い凝集力を有する粘着剤組成物を用い、応力が発生する領域を最小限に押しとどめることで白抜けの発生を抑える方法とがある。
【0006】
特許文献2(特開2007−112839号公報)には、粘着剤層の接着性を改善する為に、アクリル系共重合体100重量部に対し、過酸化物0.02〜2重量部、イソシアネート系架橋剤0.02〜2重量部、および軟化点が80℃以上である粘着付与樹脂1〜40重量部を含有してなる粘着剤組成物が開示されている。しかしながら、特許文献2には、白抜けに関する記載が無く、上記構成を有するだけでは白抜け発生の抑制能は不十分である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平10−279907号公報
【特許文献2】特開2007−112839号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって本発明は、白抜け抑制能力と耐久性に優れる粘着剤組成物、及びこれを用いた粘着剤層を有する光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するため、以下の構成を備える粘着剤組成物、及びこれを用いた粘着剤層を有する光学フィルムを提供する。
(1)カルボキシル基を含有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含み、架橋構造及び多量体が形成された後におけるゲル分が45重量%以上であり、水酸基とロジン骨格とを有する前記化合物(C)と、前記イソシアネート化合物(B)との配合量比率が重量基準で0.3以上3以下であることを特徴とする、光学フィルムを液晶セルに貼着する際に用いる粘着剤組成物。
(2)カルボキシル基と水酸基とを含有するアクリル系共重合体(D)を更に含む上記(1)に記載の粘着剤組成物(前記カルボキシル基を含有するアクリル系共重合体(A)が水酸基を含有するものは除く)。
(3)水酸基とロジン骨格とを有する前記化合物(C)が、分子内に下記式(1)で示す骨格を有する化合物である上記(1)または(2)に記載の粘着剤組成物。
【化1】
(4)前記アクリル系共重合体の合計量100重量部に対し、前記イソシアネート化合物(B)を5重量部以上20重量部以下含む上記(1)〜(3)の何れかに記載の粘着剤組成物。
(5)前記アクリル系共重合体の合計量100重量部に対し、水酸基とロジン骨格を有する前記化合物(C)を1重量部以上20重量部以下含む上記(1)〜(4)の何れかに記載の粘着剤組成物。
(6)前記イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基と架橋反応する前記アクリル系共重合体の反応性官能基の合計1当量に対するイソシアネート基の当量の比率が1より大きく5以下であり、前記反応性官能基は、カルボキシル基、水酸基、グリシジル基、アミド基,N−置換アミド基、三級アミノ基のいずれか1種又は2種以上である上記(1)〜(5)の何れか一項に記載の粘着剤組成物。
(7)前記アクリル系共重合体(D)が、共重合体成分としてt−ブチルアクリレートを含む上記(2)〜(6)の何れかに記載の粘着剤組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明に係る粘着剤組成物、及びこれを用いた粘着剤層を有する光学フィルムは、凝集力と応力緩和性のバランスが良好な為、高温高湿の環境下においても耐久性に優れ、白抜けを抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明者らは、鋭意研究を行った結果、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含む粘着剤組成物を用いることで、耐久性と白抜け抑制能力に優れた粘着剤組成物(以下、「単独系粘着剤組成物」ということがある。)を提供できることを見出した。また、本発明者らは、前記の課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と、前記アクリル系共重合体(A)とは異なる、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(D)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含む粘着剤組成物を用いることで、耐久性と白抜け抑制能力に優れた粘着剤組成物(以下、「混合系粘着剤組成物」ということがある。)を提供できることを見出した。
【0012】
[第1の実施の形態]
(単独系粘着剤組成物)
本発明の第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含有する。第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基とイソシアネート化合物(B)とが架橋反応すると共に、イソシアネート化合物(B)の架橋反応に寄与しなかったイソシアネート基が養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成し、それにより良好な粘着特性を有すると考えられる。
【0013】
第1の実施の形態において、アクリル系共重合体(A)とは、アクリル酸エステル単量体またはメタクリル酸エステル単量体を主成分とし、アクリル酸エステル単量体またはメタクリル酸エステル単量体と、反応性官能基を有する単量体とを共重合させた共重合体である。なお、本願において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」及び「メタクリル」の両方を示す意味で用いる。
【0014】
本発明の第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)は、(メタ)アクリル酸エステルが80重量%以上含まれる共重合体が好ましく、90重量%以上含まれる共重合体がより好ましい。
【0015】
(メタ)アクリル酸エステル単量体としては、(メタ)アクリル酸エステル構造を有するものであれば特に限定するものではなく、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−オクチル(メタ)アクリレート、i−オクチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、n−ノニル(メタ)アクリレート、i−ノニル(メタ)アクリレート、n−デシル(メタ)アクリレート、n−ドデシル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の炭素数1〜18の直鎖若しくは分枝アルキルエステル、更にはこれらの各種誘導体の1種又は2種以上を用いることができる。なかでもn−ブチルアクリレートが好適に用いられる。
【0016】
第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)の重合成分としては、アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B)とを反応させる目的で、反応性官能基を有する単量体を含む。なお、反応性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル単量体であるものも、アクリル系共重合体を定義する際の、アクリル系共重合体(A)中に共重合体成分として含有される(メタ)アクリル酸エステル単量体の量としてカウントされる。
【0017】
反応性官能基を有する単量体としては、例えば、カルボキシル基含有単量体、水酸基含有単量体、グリシジル基含有単量体、アミド基,N−置換アミド基含有単量体、三級アミノ基含有単量体等の1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
カルボキシル基含有単量体としては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、クロトン酸、イタコン酸、シトラコン酸、桂皮酸、コハク酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、マレイン酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フマル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、1,2−ジカルボキシシクロヘキサンモノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸ダイマー、ω−カルボキシ-ポリカプロラクトンモノ(メタ)アクリレート等を用いることができる。
【0019】
水酸基含有単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,1−ジメチル−3−ブチル(メタ)アクリレート、1,3−ジメチル−3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2,2,4−トリメチル−3−ヒドロキシペンチル(メタ)アクリレート、2−エチル−3−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリ(エチレングリコール−プロピレングリコール)モノ(メタ)アクリレート、N−メチロールアクリルアミド、アリルアルコール、メタリルアルコール等を用いることができる。
【0020】
グリシジル基含有単量体としては、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシルビニルエーテル、グリシジル(メタ)アリルエーテル、3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アリルエーテル等を用いることができる。
【0021】
アミド基,N−置換アミド基含有単量体としては、例えば、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチル(メタ)アクリルアミド、N−エチル(メタ)アクリルアミド、N−メトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−エトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−プロポキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド、N−tert−ブチルアクリルアミド、N−オクチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド等を用いることができる。
【0022】
三級アミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等を用いることができる。
【0023】
アクリル系共重合体(A)は、カルボキシル基含有単量体、又は、カルボキシル基含有単量体及び水酸基含有単量体を共重合体成分として含有することが好ましい。
【0024】
カルボキシル基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤の凝集力を増加させて粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上にする。また、カルボキシル基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の接着力が高くなりすぎることの抑制を目的として、アクリル系共重合体(A)に対して5重量%以下、好ましくは3重量%以下にする。
【0025】
水酸基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、白抜けを抑制することを目的として、アクリル系共重合体(A)に対して、0.001重量%以上、好ましくは0.01重量%以上にする。また、水酸基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、耐久性試験での剥がれの発生を抑制することを目的として、1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下にする。
【0026】
第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)は、アクリル系共重合体(A)の(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体を共重合体成分として含有することができる。(メタ)アクリル酸エステル単量体以外の単量体としては、一例として、飽和脂肪酸ビニルエステル、芳香族ビニルエステル、シアン化ビニル、マレイン酸若しくはフマル酸のジエステルを用いることができる。飽和脂肪酸ビニルエステルとしては、例えば、蟻酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、「バ−サチック酸ビニル」(商品名)等(好ましくは酢酸ビニル);芳香族ビニルとしては、例えば、スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等;シアン化ビニルとしては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル;マレイン酸もしくはフマル酸のジエステルとしては、例えば、ジメチルマレ−ト、ジ−N−ブチルマレ−ト、ジ−2−エチルヘキシルマレ−ト、ジ−N−オクチルマレ−ト、ジメチルフマレ−ト、ジ−N−ブチルフマレ−ト、ジ−2−エチルヘキシルフマレ−ト、ジ−N−オクチルフマレ−ト等を用いることができる。
【0027】
第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、気泡の発生を抑制することを目的として、70万以上、好ましくは100万以上、より好ましくは120万以上、特に好ましくは140万以上にする。また、アクリル共重合体(A)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物の塗工作業性を確保することを目的として250万以下にする。
【0028】
アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)は、下記の方法により測定された値である。
(重量平均分子量(Mw)の測定方法)
下記(1)〜(3)に従って測定する。
(1)アクリル系共重合体溶液を剥離紙に塗布し、100℃で2分間乾燥し、フィルム状のアクリル系共重合体を得る。
(2)前記(1)で得られたフィルム状のアクリル系共重合体をテトラヒドロフランにて固形分0.2%になるように溶解させる。
(3)下記条件にて、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を用いて、アクリル系共重合体の重量平均分子量(Mw)を測定する。
(条件)
GPC:HLC−8220 GPC〔東ソー(株)製〕
カラム:TSK−GEL GMHXL4本使用
移動相溶媒:テトラヒドロフラン
標準試料:標準ポリスチレン
流速:0.6ml/minカラム温度:40℃
【0029】
第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、十分な耐久性を発揮させることを目的として、−80℃以上、好ましくは−60℃以上にする。また、アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度(Tg)は、支持基板に対する十分な密着性を粘着剤組成物に発揮させ、はがれ等が生じない耐久性を発揮させることを目的として、−20℃以下、好ましくは−40℃以下にする。
【0030】
アクリル系共重合体のガラス転移温度(Tg)は下記式1の計算により求められる温度(K)を(℃)に換算した値である。
式1 1/Tg=M1/Tg1+M2/Tg2+M3/Tg3+・・・・+Mn/Tgn
式中、Tg1、Tg2、Tg3・・・及びTgnは、成分1、成分2、成分3・・・及び成分nそれぞれのホモポリマーのガラス転移温度(K)を示す。また、式中、M1、M2、M3・・・及びMnは各種成分のモル分率を示す。
【0031】
第1の実施の形態に用いられるアクリル系共重合体の重合方法は、特に制限されるものではなく、溶液重合、乳化重合、懸濁重合などの方法を用いることができる。なお、重合により得られる共重合体の混合物を用いて第1の実施の形態に係る粘着剤組成物を製造するにあたり、処理工程が比較的簡単で、且つ短時間で行えることから溶液重合により重合することが好ましい。
【0032】
溶液重合は、一般に、重合槽内に所定の有機溶媒、単量体、重合開始剤、及び、必要に応じて用いられる連鎖移動剤を仕込み、窒素気流中又は有機溶媒の還流下で、撹拌しながら数時間加熱反応させる等の方法を使用することができる。なお、第1の実施の形態に係るアクリル系共重合体(A)の重量平均分子量は、反応温度、時間、溶媒量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量にすることができる。
【0033】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、イソシアネート化合物(B)を含有する。イソシアネート化合物(B)としては、例えば、キシリレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、トリフェニルメタントリイソシアネート、トリレンジイソシアネート等の芳香族イソシアネート;例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、該芳香族イソシアネート化合物の水素添加物等の脂肪族又は脂環族イソシアネート;それらイソシアネートの2量体もしくは3量体又はそれらイソシアネートと、トリメチロールプロパンなどのポリオールとのアダクト体などの各種イソシアネートに由来するイソシアネート化合物を用いることができる。これらは単独で、あるいは組み合せて使用することが出来る。
【0034】
イソシアネート化合物(B)は、例えば「コロネートL」、「コロネートHX」、「コロネートHL−S」、「コロネート2234」〔以上日本ポリウレタン工業(株)製〕、「デスモジュールN3400」〔住友バイエルウレタン(株)製〕、「デュラネートE−405−80T」、「デュラネートTSE−100」〔旭化成工業(株)製〕、「タケネートD−110N」、「タケネートD−120N」、「タケネートM−631N」〔以上三井武田ケミカル(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0035】
なかでも、イソシアネート化合物(B)として、耐久性と白抜け性の観点から芳香族イソシアネートに由来するイソシアネート化合物が好ましく、トリレンジイソシアネートに由来するイソシアネート化合物が特に好ましい。
【0036】
アクリル系共重合体(A)100重量部に対するイソシアネート化合物(B)の使用量は、白抜けを抑制することを目的として、5重量部以上、好ましくは7重量部以上にする。また、アクリル系共重合体(A)100重量部に対するイソシアネート化合物(B)の使用量は、アクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B)の相溶性を確保し、粘着剤として十分なタック感を発生させることを目的として、20重量部以下、好ましくは15重量部以下にする。
【0037】
また、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、共重合体との架橋に寄与していないイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基が、養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成していると考えられる。イソシアネート基と、養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)との反応性は比較的高い。したがって、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基に対して過剰量にイソシアネート基を入れなくともイソシアネート基の一部は、養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成すると考えられる。第1の実施の形態に係る粘着剤組成物では、白抜けの抑制と耐久性を向上させる為に、より多くの多量体を形成させることを目的として、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基の合計1当量に対して1当量より多く、好ましくは1.2当量以上、特に好ましくは1.5当量以上のイソシアネート基を使用する。また、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物では、粘着剤として十分なタックを発生させ、剥がれが生じない耐久性を発揮させることを目的として、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基の合計1当量に対して5当量以下のイソシアネート基を使用することが好ましい。
【0038】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、イソシアネート化合物(B)以外の架橋剤を併用することも出来る。イソシアネート化合物(B)以外の架橋剤としては、アクリル系共重合体(A)と反応して架橋構造を形成するものである限り、特に限定されるものではなく、アジリジン化合物、エポキシ化合物、メラミンホルムアルデヒド縮合物、金属塩、金属キレート化合物などを挙げることができる。これらイソシアネート化合物(B)以外の架橋剤はそれぞれ単独で、又は2種以上組み合わせて使用することができる。第1の実施の形態においては、イソシアネート化合物(B)以外の架橋剤として、アジリジン化合物、及び/又はエポキシ化合物を用いることが好ましい。
【0039】
アジリジン化合物としては、イソシアネート化合物とエチレンイミンとの反応生成物が使用でき、イソシアネート化合物としては、前記で例示したものを用いることができる。またトリメチロールプロパンやペンタエリスリトールなどのポリオールと(メタ)アクリル酸などとの多価エステルにエチレンイミンを付加させた化合物も知られており、使用することができる。
【0040】
アジリジン化合物としては、例えば、N,N’−ヘキサメチレンビス(1−アジリジンカルボアミド)、メチレンビス[N−(1−アジリジニルカルボニル))−4−アニリン]、テトラメチロールメタン−トリス(β−アジリジニルプロピオナート)、トリメチロールプロパン−トリス(β−アジリジニルプロピオナート)などを挙げることができ、これらのうち、例えば「TAZO」、「TAZM」〔以上相互薬工(株)製〕、「ケミタイトPZ−33」〔(株)日本触媒製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0041】
エポキシ化合物としては、例えばエチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリテトラメチレングリコールジグリシジルエーテル、グリセロールジグリシジルエーテル、グリセロールトリグリシジルエーテル、ジグリセロールポリグリシジルエーテル、ポリグリセロールポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、2,2−ジブロモネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエステル、フタル酸ジグリシジルエステル、トリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどを用いることができる。
【0042】
エポキシ化合物のうち、3つ以上のエポキシ基を含有するエポキシ化合物が好ましく、中でもトリス(グリシジル)イソシアヌレート、トリス(グリシドキシエチル)イソシアヌレート、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンなどのエポキシ化合物の使用がさらに好ましく、1,3−ビス(N,N−グリシジルアミノメチル)シクロヘキサン、N,N,N’,N’−テトラグリシジル−m−キシリレンジアミンの使用が特に好ましい。このようなエポキシ化合物は、例えば「TETRAD−C」、「TETRAD−X」〔三菱瓦斯化学(株)製〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0043】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)を含有する。
【0044】
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)としては、例えば、ロジンと多価アルコールとの反応物、ロジンとエポキシ化合物との反応物、ロジンフェノールを使用することが出来る。上記ロジンとしては、例えば、ウッドロジン、ガムロジン、水素添加ロジン、不均化ロジン、トール油ロジン、及びウッド系重合ロジン、ガム系重合ロジン、トール油系重合ロジンなどの重合ロジン、及びこれらの混合物などを使用することが出来る。
【0045】
上記多価アルコールとしては、2価以上のものであれば特に限定されない。例えばエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,2−ジヒドロキシプロパン、1,3−ジヒドロキシプロパン、1,2−ジヒドロキシブタン、1,3−ジヒドロキシブタン、2,3−ジヒドロキシブタン、ネオペンチルグリコール、1,4−ビス−ヒドロキシメチル−シクロヘキサン、1,6−ヘキサンジオール、オクテングリコール、ポリエチレングリコール等の2価アルコール;グリセロール、1,2,4−ブタントリオール、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、3−メチルペンタン−1,3,5−トリオール、グリセリン等の3価アルコール;ジグリセリン、ペンタエリスリトール等の4価アルコールを具体的に例示できるが、5価以上のアルコールを用いてもよい。
【0046】
上記ロジンと多価アルコールの反応は特に限定されず、各種の公知の手段を利用できる。具体的には、ロジンと多価アルコールを反応容器へ仕込み(窒素や希ガス等の不活性ガス気流下が好ましい)、通常は大気圧下で150〜300℃程度に系内を加熱し、生成する水を系外に除去しながら反応させればよい。また、反応の際にはエステル化触媒を用いてもよい。具体的には、例えば酢酸、パラトルエンスルホン酸等の酸触媒;水酸化リチウム等のアルカリ金属の水酸化物;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属の水酸化物;酸化カルシウム、酸化マグネシウム等の金属酸化物等が挙げられる。
【0047】
上記エポキシ化合物としては、各種公知のジエポキシ化合物を使用できる。具体的には、エチレングリコールジグリシジルエーテル、ジエチレングリコールジグリシジルエーテル、トリエチレングリコールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ジプロピレングリコールジグリシジルエーテル、トリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテルなどの非環状脂肪族ジグリシジルエーテル類;2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタンジグリシジルエーテル、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタンジグリシジルエーテル、2,2−ビス(4−ヒドロキシシクロヘキシル)プロパンジグリシジルエーテル、3,3’,5,5’−テトラメチル−4,4’−ジヒドロキシビフェニルジグリシジルエーテル、2,2’−ビス(4−(β−ヒドロキシプロポキシ)フェニル)プロパンジグリシジルエーテルなどの芳香族または環状脂肪族ジグリシジルエーテル類;3,4−エポキシシクロヘキシルメチル、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビニルシクロヘキセンジオキシド等の環状脂肪族環状オキシラン類が挙げられる。
【0048】
上記ロジンとエポキシ化合物の反応は特に限定されず、各種の公知の手段を利用できる。例えば、ジエポキシ化合物1モルとロジン2モルとを触媒存在下、120〜200℃で酸価5以下、好ましくは3以下となるまで開環付加反応を続行すれば良い。該触媒としては、例えばトリメチルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン、ベンジルジメチルアミン、ピリジン、2−メチルイミダゾールなどのアミン系触媒、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライドなどの第4アンモニウム塩、ルイス酸、ホウ酸エステル、有機金属化合物、有機金属塩などを使用できる。該方法で得られる反応物は、2個のロジン骨格と2個の水酸基を分子中に有する分子量分布の狭いジオール化合物である。また、前記ジオール化合物を開始剤として、エチレンオキサイドやプロピレンオキサイド、あるいはε−カプロラクトンを開環重合させて得られる重合体も、同様に使用できる。
【0049】
ロジンフェノールとしては、ロジンにフェノール類を付加反応させて得られるものや、アルカリ触媒の存在下にフェノール類及びホルムアルデヒドを付加反応させて得られるレゾール型フェノール樹脂とロジンとを反応させて得られるいわゆるロジン変性フェノール等が挙げられる。フェノール類はロジンに付加可能なものであればいずれも使用できる。具体的には、フェノール、クレゾール、β−ナフトール、パラ−t−ブチルフェノール、パラオクチルフェノール、パラノニルフェノール等が挙げられる。
【0050】
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)は、例えば、「パインクリスタルD−6011」、「パインクリスタルKE−615−3」、「パインクリスタルD−6240」、「パインクリルタルKE−359」〔荒川化学工業(株)製〕、「ネオトール125P」、「ネオトール150P」〔ハリマ化成(株)〕などの商品名により市販されているものを好適に使用することができる。
【0051】
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)としては、分子内に下記式(1)で示す骨格を有するものが好ましい。
【化2】
【0052】
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)としては、特に下記式(2)で示される化合物が好ましい。
【化3】
【0053】
アクリル系共重合体(A)100重量部に対する水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)の使用量は、白抜けの発生を抑制することを目的として、1重量部以上、好ましくは2.5重量部以上、より好ましくは5重量部以上、特に好ましくは10重量部以上にする。また、アクリル系共重合体(A)100重量部に対する水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)の使用量は、アクリル系共重合体(A)と水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)との相溶性を確保することを目的として、20重量部以下にすることが好ましい。
【0054】
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と、イソシアネート化合物(B)との配合量比率(すなわち、化合物(C)の添加量(重量部)/イソシアネート化合物(B)の添加量(重量部))は、白抜けの発生を抑制することを目的として0.3以上にする。また、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と、イソシアネート化合物(B)との配合量比率は、耐久性評価において発泡の発生を抑制することを目的として4以下とし、好ましくは3以下にする。
【0055】
本発明の第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、更にシラン化合物を使用することができる。このようなシラン化合物としては、例えば、メルカプト基含有シリコーンアルコキシオリゴマー、エポキシ基含有シリコーンアルコキシオリゴマー、アミノ基含有シリコーンアルコキシオリゴマー、フェニル基含有シリコーンアルコキシオリゴマー、メチル基含有シリコーンアルコキシオリゴマーなどの有機置換基含有シリコーンアルコキシオリゴマー;例えばγ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン、γ−メルカプトプロピルジメトキシメチルシランなどのメルカプト基含有シラン化合物;例えば、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシランなどの脂環式エポキシ基含有シラン化合物;例えば、メチルトリ(グリシジル)シラン、γ−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどのエポキシ基含有シラン化合物;例えば、3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸(又はその無水物)、3−トリメトキシシリルプロピルコハク酸(又はその無水物)、3−メチルジメトキシシリルプロピルコハク酸(又はその無水物)、3−メチルジエトキシシリルプロピルコハク酸(又はその無水物)、1−カルボキシ−3−トリエトキシシリルプロピルコハク酸無水物などのカルボキシル基含有シラン化合物;例えば、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(β−アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、N−フェニル−γ−アミノプロピルトリメトキシシランなどのアミノ基含有シラン化合物;例えば、γ−ヒドロキシプロピルトリメトキシシランなどのヒドロキシル基含有シラン化合物;例えば、γ−アミドプロピルトリメトキシシランなどのアミド基含有シラン系化合物;例えば、γ−イソシアネートプロピルトリメトキシシランなどのイソシアネート基含有シラン化合物;例えば、トリス(3−トリメトキシシリルプロピル)イソシアヌレート、トリス(3−トリエトキシシリルプロピル)イソシアヌレートなどのイソシアヌレート骨格含有シラン化合物などを用いることができる。シラン化合物を使用することは、耐久性を向上させる上で好ましい。
【0056】
アクリル系共重合体(A)100重量部に対するシラン化合物の使用量は、粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、0.01重量部以上3重量部以下、好ましくは0.01重量部以上2重量部以下、特に好ましくは0.02重量部以上1重量部以下にする。
【0057】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、上述したアクリル系共重合体(A)とイソシアネート化合物(B)、イソシアネート化合物以外の架橋剤、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)、シラン化合物の他に、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物が発揮する効果を損なわない範囲内の量で、各種添加剤、溶媒、耐候性安定剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤等を適宜配合することができる。
【0058】
耐候性安定剤、可塑剤、軟化剤、染料、顔料、無機充填剤等の配合量の範囲は、アクリル系共重合体(A)100重量部に対し、30重量部以下が好ましく、更に好ましくは20重量部以下、最も好ましくは10重量部以下にする。配合量を係る範囲内にすることにより、粘着剤組成物の接着力、濡れ性、耐熱性、糊転着性のバランスを適切に保つことができ、良好な各種物性を示す粘着剤組成物が得られる。
【0059】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基とイソシアネート化合物(B)が架橋構造を形成し、架橋反応に寄与しなかったイソシアネート基が養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成すると考えられる。架橋構造および多量体が形成された後におけるゲル分は、耐久性評価において発泡の発生を抑制することを目的として、30重量%以上、好ましくは45重量%以上、特に好ましくは60重量%以上である。また、架橋構造および多量体が形成された後におけるゲル分は、耐久性評価において剥がれの発生を抑制することを目的として、95重量%以下である。
【0060】
ゲル分は、下記方法により測定できる。
(粘着剤組成物のゲル分の測定)
下記(1)〜(6)に従って測定する。
(1)粘着剤組成物の溶液をシリコーン系離型剤で表面処理された剥離シートに、乾燥後の塗工量が25g/となるように塗布し、100℃で90秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥し、フィルム状の感圧接着剤層を形成する。
(2)形成された感圧接着剤層を23℃、湿度65%RHで10日間養生する。
(3)精秤した250メッシュの金網(100mm×100mm)に(2)で得られたフィルム状粘着剤層を約0.25g貼付し、ゲル分が漏れないように包む。その後、精密天秤にて重量を正確に測定して試料を作製する。
(4)前記の金網を酢酸エチル溶液に3日間浸漬する。
(5)浸漬後、金網を取り出して少量の酢酸エチルにて洗浄し、120℃で24時間乾燥させる。その後、精密天秤にて重量を正確に測定する。
(6)下式によりゲル分を計算する。
ゲル分(重量%)=(C−A)/(B−A)×100
但し、Aは金網の重量(g)、Bは粘着剤を貼付した金網の重量(B−Aは粘着剤重量)(g)、Cは浸漬後、乾燥させた金網の重量(C−Aはゲル樹脂重量)(g)である。
【0061】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、少なくとも、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と反応性官能基に架橋反応するイソシアネート化合物(B)と水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを混合する工程を経て製造される。そして、この混合する工程においては、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基の当量より、イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の当量が多くなる量のイソシアネート化合物(B)がアクリル系共重合体(A)に混合される。具体的には、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)を準備する工程と、反応性官能基に架橋反応するイソシアネート化合物(B)を準備する工程と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)を準備する工程と、準備したアクリル系共重合体(A)と準備したイソシアネート化合物(B)と準備した水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを混合する工程とを経て合成される。そして、イソシアネート化合物(B)を準備する工程は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基の当量より、イソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の当量が多くなる量のイソシアネート化合物(B)を準備する。
【0062】
また、第1の実施の形態に係る光学フィルムは、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物から形成された粘着剤層を有する光学フィルムである。その具体的な製造方法は、剥離シート上に第1の実施の形態に係る粘着剤組成物を塗布し乾燥することにより剥離シート上に粘着剤層を形成する。そして、剥離シート上に形成された粘着剤層を光学フィルムに転写し、次いで養生させて作製することができる。
【0063】
剥離シートとしては、フッ素系樹脂、パラフィンワックス、シリコーン等の離型剤で離型処理を施したポリエステル等の合成樹脂シートを用いることができる。剥離シート上に形成される粘着剤層の厚さは、例えば、乾燥後の厚みで1μm以上100μm以下、好ましくは5μm以上50μm以下、更に好ましくは15μm以上30μm以下程度の厚さにする。
【0064】
剥離シート上に塗布された粘着剤組成物は、熱風乾燥機で70〜120℃、1〜3分程度の加熱条件で乾燥することができる。
【0065】
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物、この粘着剤組成物からなる粘着剤層を備える光学フィルムの被着体に対する接着力は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基、イソシアネート化合物(B)等の種類や量を調整することにより、所望の接着力に調整できる。
【0066】
(第1の実施の形態の効果)
第1の実施の形態に係る粘着剤組成物、この粘着剤組成物からなる粘着剤層を備える光学フィルムは、上述した構成を備えるので、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基と架橋剤の反応による化学架橋と、イソシアネート化合物(B)の架橋反応に寄与していないイソシアネート基が養生環境にある水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで生成する反応物としての多量体を形成し、アクリル系共重合体の分子鎖の動きを拘束する物理架橋とにより高い凝集力を有していると考えられる為、耐久性が良好であり、分子鎖の動きを拘束している物理架橋部分には流動性もあるために応力緩和性にも優れていると考えられ、耐久性と白抜けの抑制とを高い水準で併せ持つことができる。
【0067】
すなわち、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物においては、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基の当量よりイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基の当量が多くなる量のイソシアネート化合物(B)を用いるので、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基と架橋剤との反応による化学架橋だけではなく、アクリル系共重合体(A)に添加したイソシアネート化合物(B)のうち、アクリル系共重合体(A)に反応しなかったイソシアネート基を有するイソシアネート化合物(B)と水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)に由来する多量体が生成する。これにより、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(A)の反応性官能基と架橋剤との反応による化学架橋によって生成した分子鎖の絡み合い構造中に、イソシアネート化合物(B)と水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)の多量体が存在することとなる。したがって、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物は、反応性官能基と架橋剤との反応による化学架橋によって生成した分子鎖の絡み合い構造中に多量体が不均一に分散しており、例えば、可視光に対して良好な透明性を確保しつつ、耐久性と白抜けの抑制とを高い水準で実現できる。
【0068】
[第2の実施の形態]
(混合系粘着剤組成物)
第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(A)と、アクリル系共重合体(A)とは異なる、反応性官能基を含有するアクリル系共重合体(D)と、イソシアネート化合物(B)と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)とを含有する。すなわち、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は、アクリル系共重合体(D)を更に含有する点を除き第1の実施の形態に係る粘着剤組成物と略同一の構成を備える。したがって、相違点を除き、詳細な説明は省略する。なお、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物においても、アクリル系共重合体(A)及びアクリル系共重合体(D)の反応性官能基とイソシアネート化合物(B)とが架橋反応すると共に、イソシアネート化合物(B)のうち架橋反応に寄与しなかったイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基が養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで生成する反応物としての多量体を形成し、それにより良好な粘着特性を有すると考えられる。
【0069】
第2の実施の形態においては、共重合体成分としての各種官能基を有する単量体のうち、特にカルボキシル基含有単量体が共重合体成分としてアクリル系共重合体(A)に含まれることが好ましい。
【0070】
また、第2の実施の形態において、アクリル系共重合体(D)は、共重合体成分として(メタ)アクリル酸エステル単量体を主成分とし、(メタ)アクリル酸エステル、及び反応性官能基を有する単量体を共重合させた共重合体であり、アクリル系共重合体(A)とは異なる。第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は樹脂成分として、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物を使用することで凝集力と応力緩和性とをバランス良く調整することができる。
【0071】
第2の実施の形態に係るアクリル系共重合体(D)の共重合体成分としては、(メタ)アクリル酸エステル、反応性官能基を有する単量体、及びその他の単量体としてアクリル系共重合体(A)で例示したものと同様の共重合体成分を用いることができる。なかでも前記共重合体成分としては、粘着剤組成物の耐久性の向上、白抜けの抑制、及びアクリル系共重合体(A)との相溶性に優れることから、n−ブチルアクリレートとt−ブチルアクリレートが好適に用いられる。t−ブチルアクリレートが共重合体成分として含まれる割合は、アクリル系共重合体(D)に対して10重量%以上20重量%以下が好ましい。また、アクリル系共重合体(D)における、n−ブチルアクリレートとt−ブチルアクリレートの合計量は、98重量%以上にすることが好ましい。
【0072】
アクリル系共重合体(D)において、共重合体成分としてカルボキシル基含有単量体及び水酸基含有単量体が含まれることが好ましい。アクリル系共重合体(D)にカルボキシル基含有単量体及び水酸基含有単量体が含まれていると、高い凝集力を有すると共に、樹脂成分の凝集力と応力緩和性との調整を容易にすることができるアクリル系共重合体(D)を実現できる。
【0073】
アクリル系共重合体(D)において、共重合体成分としてカルボキシル基含有単量体が含まれる割合は、粘着剤の凝集力を増加させて粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、アクリル系共重合体(D)に対して0.1重量%以上、好ましくは0.3重量%以上、特に好ましくは0.5重量%以上にする。また、カルボキシル基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、粘着剤組成物の接着力が高くなりすぎることを抑制するために、アクリル系共重合体(D)に対して5重量%以下、好ましくは3重量%以下、特に好ましくは2重量%以下にする。
【0074】
アクリル系共重合体(D)において、共重合体成分として水酸基含有単量体が含まれる割合は、白抜けを抑制することを目的として、アクリル系共重合体(D)に対して、0.01重量%以上、好ましくは0.1重量%以上、更に好ましくは0.3重量%以上にする。また、水酸基含有単量体が共重合体成分として含まれる割合は、耐久性試験でのはがれの発生を抑制することを目的として、5重量%以下、好ましくは3重量%以下、特に好ましくは1重量%以下とする。
【0075】
第2の実施の形態に係るアクリル系共重合体(D)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与えることを目的として、好ましくは100万以上、より好ましくは120万以上、特に好ましくは140万以上にする。また、アクリル共重合体(D)の重量平均分子量(Mw)は、粘着剤組成物の塗工作業性を確保することを目的として250万以下にする。
【0076】
第2の実施の形態に係るアクリル系共重合体(D)のガラス転移温度(Tg)は、アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度と等しいか、アクリル系共重合体(A)のガラス転移温度より高いことが好ましい。アクリル系共重合体(A)のTgとアクリル系共重合体(D)のTgとが上記関係にあれば、アクリル系共重合体(D)はアクリル系共重合体(A)以上の凝集力を有しており、樹脂成分の凝集力と応力緩和性とのバランスが取り易い。より具体的には、アクリル系共重合体(D)のガラス転移温度は、粘着剤組成物に十分な凝集力を与え、十分な耐久性を発揮させることを目的として、−60℃以上、好ましくは−50℃以上にする。また、アクリル系共重合体(D)のガラス転移温度は、支持基板に対する十分な密着性を粘着剤組成物に発揮させ、はがれ等が生じない耐久性を発揮させることを目的として、0℃以下、好ましくは−30℃以下にする。
【0077】
また、第2の実施の形態に用いられるアクリル系共重合体(D)の重合方法は、特に制限されるものではなく、アクリル系共重合体(A)と同様の方法で重合できる。なお、重合により得られる共重合体の混合物を用いて第2の実施の形態に係る粘着剤組成物を製造するにあたり、処理工程が比較的簡単で、且つ短時間で行えることから溶液重合により重合することが好ましい。なお、溶液重合は、第1の実施の形態と同様の方法を採用できる。そして、第2の実施の形態に係るアクリル系共重合体(D)の重量平均分子量についても、反応温度、時間、溶媒量、触媒の種類や量を調整することにより、所望の分子量にすることができる。
【0078】
アクリル系共重合体(A)の溶解性パラメーター(SPA)とアクリル系共重合体(D)の溶解性パラメーター(SPD)との差(ΔSP=SPA−SPD)は−0.5以上0.5以下が好ましく、−0.4以上0.4以下が更に好ましく、−0.2以上0.2以下が特に好ましい。溶解性パラメーターの差(ΔSP)が上記範囲内にあれば、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との相溶性が極めて優れているので好ましい。
【0079】
溶解性パラメーターはFedorの方法で計算される。Fedorの方法は、例えば「SP値 基礎・応用と計算方法」(山本秀樹著 株式会社情報機構発行、2005年)に記載されている。Fedorの方法において、溶解性パラメーターは下記式2より算出される。
式2 溶解性パラメーター=√[ΣEcoh/ΣV]
式2中、Ecohは凝集エネルギー密度、Vはモル分子容である。原子団ごとに決められたEcoh、及びVに基づき、高分子の繰り返し単位におけるEcoh、及びVの総和ΣEcoh、並びにΣVを求めることによって、溶解性パラメーターを算出することができる。共重合体の溶解性パラメーターは、上記式2によりその共重合体を構成する各構成単位のそれぞれの単独重合体の溶解性パラメーターを算出し、これらのSP値のそれぞれに各構成単位のモル分率を乗じたものを合算して算出される。
【0080】
アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)とを混合する割合は、耐久性試験でのはがれの発生を抑制することを目的として、重量比(アクリル系共重合体(A)の重量/アクリル系共重合体(D)の重量)で50/50以上、好ましくは70/30以上、特に好ましくは80/20以上にする。また、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)とを混合する割合は、耐久性試験での発泡の発生を抑制することを目的として、重量比(アクリル系共重合体(A)の重量/アクリル系共重合体(D)の重量)で99/1以下、好ましくは95/5以下、特に好ましくは90/10以下にする。
【0081】
そして、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は、イソシアネート化合物(B)を含有する。イソシアネート化合物(B)は、第1の実施の形態と同様の化合物を用いる。
【0082】
第2の実施の形態においては、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物100重量部に対するイソシアネート化合物(B)の使用量は、白抜けを抑制することを目的として、5重量部以上、好ましくは7重量部以上にする。また、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物100重量部に対するイソシアネート化合物(B)の使用量は、共重合体とイソシアネート化合物(B)との相溶性を確保し、粘着剤として十分なタックを発生させることを目的として、20重量部以下、好ましくは15重量部以下にする。
【0083】
また、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物においても、第1の実施の形態に係る粘着剤組成物と同様に共重合体との架橋に寄与していないイソシアネート化合物(B)のイソシアネート基が養生環境中の水や、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成していると考えられる。そして、第2の実施の形態では、白抜けの抑制と耐久性を向上させる為に、多くの多量体を形成させることを目的として、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との反応性官能基の合計1当量に対して1当量より多く、好ましくは1.01当量以上、さらに好ましくは1.2当量以上、特に好ましくは1.5当量以上のイソシアネート基を用いる。また、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物では、粘着剤として十分なタック感を発生させ、剥がれが生じない耐久性を発揮させることを目的として、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との反応性官能基の合計1当量に対して5当量以下のイソシアネート基を用いることが好ましい。
【0084】
第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)を含有する。水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)は、第1の実施の形態と同様の化合物を用いる。また、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物において、前記水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と、上記イソシアネート化合物(B)との配合量比は、第1の実施の形態と同様にすることが好ましい。
【0085】
第2の実施の形態においては、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物100重量部に対する水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)の使用量は、白抜けの発生を抑制することを目的として、1重量部以上、好ましくは3重量部以上、より好ましくは5重量部以上、特に好ましくは10重量部以上にする。また、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物100重量部に対する水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)の使用量は、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物と水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)との相溶性を確保することを目的として、20重量部以下にすることが好ましい。
【0086】
また、アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)との混合物100重量部に対するシラン化合物の使用量は、粘着剤組成物の耐久性を向上させることを目的として、0.01重量部以上3重量部以下、好ましくは0.01重量部以上2重量部以下、特に好ましくは0.02重量部以上1重量部以下にする。更に、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物は、上述したアクリル系共重合体(A)と、アクリル系共重合体(D)と、イソシアネート化合物(B)と、イソシアネート化合物以外の架橋剤と、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と、シラン化合物との他に、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物が発揮する効果を損なわない範囲内の量で、第1の実施の形態と同様に、各種添加剤等を適宜配合することができる。
【0087】
更に、第2の実施の形態に係る粘着剤組成物において、アクリル系共重合体(A)及びアクリル系共重合体(D)の反応性官能基とイソシアネート化合物(B)とが架橋構造を形成し、架橋反応に寄与しなかったイソシアネート基が環境中の水や水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)と反応することで多量体を形成すると考えられる。架橋構造および多量体が形成された後におけるゲル分は、耐久性評価において発泡の発生を抑制することを目的として、30重量%以上、好ましくは45重量%以上、特に好ましくは60重量%以上である。また、架橋構造、及び多量体が形成された後におけるゲル分は、耐久性評価においてはがれの発生を抑制することを目的として、95重量%以下である。
【実施例】
【0088】
以下に実施例、及び比較例を説明する(但し、実施例12は参考例である)。なお、実施例、及び比較例において用いた試験片の作製、並びに各種の試験方法、及び評価方法は以下のとおりである。
【0089】
(1)試験用光学フィルムの作製
光学フィルムの一例として偏光フィルムを使用し粘着剤層を有する偏光フィルムを作製した。シリコーン系離型剤で表面処理された剥離フィルム上に、乾燥後の塗工量が25g/cm2となるように、粘着剤組成物を塗布した。次に、100℃で90秒間熱風循環式乾燥機にて乾燥して粘着剤層を形成した。続いて、偏光ベースフィルム〔ポリビニルアルコール(PVA)フィルムを主体とする偏光子の両面にセルローストリアセテート(TAC)フィルムをラミネートしたもの;約190μm〕の裏面に粘着剤層面を貼り合せ、加圧ニップロールに通して圧着した。圧着後、23℃、65%RHで10日間養生させて粘着剤層を有する偏光フィルムを得た。
【0090】
(2)耐久性の評価
「(1)試験用光学フィルムの作製」において作製した偏光フィルムを、光の吸収軸に対して長辺が45゜になるようにカットした140mm×260mm(長辺)の試験片を用い、0.7mmコーニング社製無アルカリガラス板「#1737」の片面にラミネーターを用いて貼付した。次に、このサンプルにオートクレーブ処理(50℃、5kg/cm2、20分)を施し、23℃、65%RHの条件下で24時間放置した。その後、80℃DRY、105℃DRY、及び60℃90%RHの環境下にそれぞれ1000時間放置し、発泡、剥れの状態を目視観察にて評価した。評価基準は次の通りである。
【0091】
(耐久性評価基準)
a)発泡
○:発泡が全く見られない
△:発泡がほとんど見られない
×:発泡が顕著に見られる
【0092】
b)剥がれ
○:4辺において、剥がれが無いもの。
△:4辺において、外周端部から0.3mm以上の位置に剥がれが無いもの。
×:4辺のいずれか1辺に、外周端部から0.3mm以上の位置に剥がれがあるもの。
【0093】
(3)白抜け現象の評価試験
「(2)耐久性の評価」と同様のサイズの粘着剤層を有する偏光フィルムを0.7mmコーニング社製無アルカリガラス板「#1737」の両面に、偏光軸が互いに直交するように貼付した試験サンプルを作製した。次に、このサンプルにオートクレーブ処理(50℃、5kg/cm2、20分)を施し、23℃、50%RHの条件下で24時間放置した。その後、80℃、ドライの条件下に500時間、放置した。放置後、23℃、50%RHの条件下で均一光源(株式会社アイ・システム製)を使用し、EyeScale−3W(株式会社アイ・システム製)にて17×31点(527点)の輝度を測定し、それらの最大輝度値(cd/m2)と輝度が6cd/m2以上である測定点の個数を数え、下記式3により白抜け評価指数を求め、以下の評価基準により白抜け状態を評価した。
式3 白抜け評価指数=最大輝度値×(輝度が6cd/m2以上である測定点数)
(白抜け評価基準)
◎:白抜け評価指数が0以上100未満。
○:白抜け評価指数が100以上400未満。
×:白抜け評価指数が400以上。
【0094】
(アクリル系共重合体の製造)
(製造例1)
温度計、攪拌機、窒素導入管、及び還流冷却管を備えた反応器内に、n−ブチルアクリレート(BA)99重量部、アクリル酸(AA)1重量部、酢酸エチル(EAc)100重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1重量部を入れ、反応容器の空気を窒素ガスで置換した。その後、攪拌下、窒素雰囲気中で、反応容器の内容物温度を65℃に昇温させて8時間反応させた。反応終了後、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、固形分16.8重量%のアクリル系共重合体溶液を得た。アクリル系重合体の重量平均分子量は167万であった。
【0095】
(製造例2〜3、6)
製造例1で使用した共重合体組成の代わりに、共重合体組成を表1の各製造例に示した単量体組成とした以外は製造例1と同様にして重合した。表1に、各製造例の共重合体組成、固形分、ガラス転移点(Tg)、溶解性パラメーター(SP値)、重量平均分子量(Mw)を示した。
(製造例4)
温度計、攪拌機、窒素導入管、及び還流冷却管を備えた反応器内に、n−ブチルアクリレート(BA)99重量部、アクリル酸(AA)1重量部、酢酸エチル(EAc)92重量部、及びアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.1重量部を入れ、反応容器の空気を窒素ガスで置換した。その後、攪拌下、窒素雰囲気中で、反応容器の内容物温度を65℃に昇温させて8時間反応させた。反応終了後、反応混合物を酢酸エチルで希釈し、固形分18.9重量%のアクリル系共重合体溶液を得た。アクリル系重合体の重量平均分子量は214万であった。
【0096】
(製造例5)
製造例4で使用した共重合体組成の代わりに、共重合体組成を表1の製造例5に示した単量体組成とした以外は製造例4と同様にして重合した。
【0097】
【表1】
【0098】
(偏光板用感圧接着剤組成物の製造)
(実施例1)
アクリル系共重合体(A)として製造例1で合成したアクリル共重合体溶液を506重量部(アクリル系共重合体(A)として85重量部)、アクリル系共重合体(D)として製造例2で合成したアクリル系共重合体溶液を76重量部(アクリル共重合体(D)として15重量部)、イソシアネート化合物(B)としてコロネートL9.3重量部(日本ポリウレタン社製イソシアネート系化合物、有効成分7重量部)、エポキシ化合物としてTETRAD−X0.02重量部(三菱瓦斯化学社製のエポキシ化合物、有効成分0.02重量部)、水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)としてD−6011 5重量部(荒川化学工業社製のロジン含有ジオール、有効成分5重量部)、シラン化合物としてKBM−403 0.1重量部(信越化学工業社製シランカップリング剤、有効成分0.1重量部)を十分に攪拌混合して粘着剤組成物を得た。アクリル系共重合体(A)とアクリル系共重合体(D)の反応性官能基の合計1当量に対するイソシアネート基の当量(表2及び表3に、「NCO/樹脂官能基」として記載)は2.01当量であった。得られた粘着剤組成物を使用して、前記のゲル分の測定方法により試験を行い、その結果を表2に示す。更に、得られた粘着剤組成物を使用して、前記の試験用光学フィルムの作製方法により試験用光学フィルムを作製し、前記の各種測定を行い、その結果を表4に示す。
【0099】
(実施例2〜15、比較例1〜4)
実施例1における配合組成の代わりに、表2及び表3に示した各実施例、及び比較例の配合組成を採用する以外は実施例1と同様にして粘着剤組成物(実施例2乃至15に係る粘着剤組成物、及び比較例1乃至4に係る粘着剤組成物)を作製した。得られた粘着剤組成物を使用して、前記のゲル分の測定方法により試験を行い、その結果を表2及び表3に示す。更に、得られた粘着剤組成物を使用して、前記の試験用光学フィルムの作製方法により試験用光学フィルムを作製し、前記の各種測定を行い、その結果を表4及び表5に示す。
【0100】
【表2】
【0101】
【表3】
【0102】
なお、表2において、「ネオトール150P」は、ハリマ化成社製のロジンフェノールを表し、「KE−100」は、荒川化学工業社製のロジンエステル(だだし、水酸基を有さないロジンエステルである)を表す。
【0103】
なお、表2及び表3において、「NCO/樹脂官能基」は、各配合組成例でのアクリル系共重合体の反応性官能基の合計1当量に対するイソシアネート基の当量を表す。
【0104】
なお、表2及び表3における各配合物の略号は以下の通りであり、各成分の添加量は有効成分の重量部である。
(a)コロネートL「日本ポリウレタン社製のイソシアネート系化合物」
商品名;コロネートL、有効成分75%
トリメチロールプロパン変性トリレンジイソシアネート
イソシアネート化合物(B)成分
(b)TETRAD−X「三菱瓦斯化学社製のエポキシ化合物」
商品名;TETRAD−X、有効成分100%
化学名;N、N、N’、N’−テトラグリシジル−m−キシレンジアミン
エポキシ化合物
(c)D−6011「荒川化学工業社製のロジン含有ジオール」
商品名;パインクリスタルD−6011、有効成分100%
式(2)で示される水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)成分
(d)KE−359「荒川化学工業社製の水酸基含有ロジンエステル」
商品名;パインクリスタルKE−359、有効成分100%
水酸基とロジン骨格とを有する化合物(C)成分
(e)FTR−6100「三井化学社製 石油系粘着付与樹脂」
商品名;FTR−6100、有効成分100%
(f)KBM−403「信越化学工業社製のシランカップリング剤」
商品名;KBM−403、有効成分100%
化学名;3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、
シラン化合物成分
【0105】
ネオトール150P「ハリマ化成社製のロジンフェノール」
KE−100「荒川化学工業社製ロジンエステル」
商品名;パインクリスタルKE−100
【0106】
【表4】
【0107】
【表5】
【0108】
表4及び表5を参照すると分かるように、実施例1ないし15に係る全ての光学フィルムは、耐久性(80℃)、耐久性(60℃×90%RH)、白抜けの全ての項目において評価基準が「◎」又は「○」を示した。すなわち、実施例1ないし15に係る光学フィルムは、高温又は高温高湿の環境下においても耐久性に優れると共に白抜けを抑制できることが示された。
【0109】
なお、本実施の形態、及び実施例に係る光学フィルム用粘着剤を有する光学フィルムは、白抜けの抑制に優れ、高温又は高温高湿下で通常発生する剥がれや気泡の発生がないため、パーソナルコンピュータ、テレビジョン、カーナビゲーション等の表示装置に用いられる光学フィルムに適用することができる。
【0110】
以上、本発明の実施の形態、及び実施例を説明したが、上記に記載した実施の形態、及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態、及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。