(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明について詳細に説明する。なお、以下に示す形態は本発明の例示であり、本発明がこれらの形態に限定されるものではない。また、特に断らない限り、数値範囲について「A〜B」という表記は「A以上B以下」を意味するものとする。かかる表記において数値Bのみに単位を付した場合には、当該単位が数値Aにも適用されるものとする。
【0014】
本発明の潤滑油組成物は、以下に説明する(A)潤滑油基油に、(B)成分及び(C)成分を含有する。
【0015】
1.(A)潤滑油基油
本発明の潤滑油組成物における(A)潤滑油基油としては、100℃における動粘度が1.5mm
2/s以上6mm
2/s以下であり、かつ、%C
Pが70以上、%C
Aが2以下である潤滑油基油(以下、「本発明に係る潤滑油基油」という。)が用いられる。
【0016】
本発明に係る潤滑油基油としては、具体的には、原油を常圧蒸留および/または減圧蒸留して得られた潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、白土処理等の精製処理のうちの1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて精製したパラフィン系鉱油、あるいはノルマルパラフィン系基油、イソパラフィン系基油などのうち、100℃における動粘度、%C
Pおよび%C
Aが上記条件を満たす基油を使用できる。
【0017】
本発明に係る潤滑油基油の好ましい例としては、以下に示す基油(1)〜(8)を原料とし、この原料油および/またはこの原料油から回収された潤滑油留分を、所定の精製方法によって精製し、潤滑油留分を回収することによって得られる基油を挙げることができる。
(1)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留による留出油。
(2)パラフィン基系原油および/または混合基系原油の常圧蒸留残渣油の減圧蒸留による留出油(WVGO)。
(3)潤滑油脱ろう工程により得られるワックス(スラックワックス等)および/またはガストゥリキッド(GTL)プロセス等により得られる合成ワックス(フィッシャートロプシュワックス、GTLワックス等)。
(4)基油(1)〜(3)から選ばれる1種または2種以上の混合油および/または当該混合油のマイルドハイドロクラッキング処理油。
(5)基油(1)〜(4)から選ばれる2種以上の混合油。
(6)基油(1)、(2)、(3)、(4)または(5)の脱れき油(DAO)。
(7)基油(6)のマイルドハイドロクラッキング処理油(MHC)。
(8)基油(1)〜(7)から選ばれる2種以上の混合油。
【0018】
なお、上記所定の精製方法としては、水素化分解、水素化仕上げなどの水素化精製;フルフラール溶剤抽出などの溶剤精製;溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう;酸性白土や活性白土などによる白土精製;硫酸洗浄、苛性ソーダ洗浄などの薬品(酸またはアルカリ)洗浄などが好ましい。本発明では、これらの精製方法のうちの1種を単独で行ってもよく、2種以上を組み合わせて行ってもよい。また、2種以上の精製方法を組み合わせる場合、その順序は特に制限されず、適宜選定することができる。
【0019】
更に、本発明に係る潤滑油基油としては、上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分について所定の処理を行うことにより得られる下記基油(9)または(10)が特に好ましい。
(9)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化分解し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をした後に蒸留することによって得られる水素化分解鉱油。
(10)上記基油(1)〜(8)から選ばれる基油または当該基油から回収された潤滑油留分を水素化異性化し、その生成物またはその生成物から蒸留等により回収される潤滑油留分について溶剤脱ろうや接触脱ろうなどの脱ろう処理を行い、または当該脱ろう処理をしたあとに蒸留することによって得られる水素化異性化鉱油。
【0020】
また、上記(9)または(10)の潤滑油基油を得るに際して、好都合なステップで、必要に応じて溶剤精製処理および/または水素化仕上げ処理工程を更に設けてもよい。
【0021】
本発明に係る潤滑油基油の100℃における動粘度は6mm
2/s以下であることが必要であり、好ましくは5.0mm
2/s以下、特に好ましくは4.5mm
2/s以下、最も好ましくは4.2mm
2/s以下である。一方、当該動粘度は、1.5mm
2/s以上であることが必要であり、2mm
2/s以上であることが好ましく、より好ましくは2.5mm
2/s以上、さらに好ましくは3mm
2/s以上、特に好ましくは3.5mm
2/s以上である。潤滑油基油成分の100℃動粘度が6mm
2/sを超える場合には、低温粘度特性が悪化し、また内燃機関に用いた場合に該内燃機関の省燃費性に十分に貢献できないおそれがある。一方、1.5mm
2/s未満の場合は潤滑箇所での油膜形成が不十分であるため潤滑性に劣り、また潤滑油組成物の蒸発損失が大きくなるおそれがあるため好ましくない。
【0022】
本発明においては、100℃における動粘度が下記の範囲にある潤滑油基油を蒸留等により分取し、使用することが好ましい。
(I)100℃における動粘度が1.5mm
2/s以上3.5mm
2/s未満、より好ましくは2.0〜3.0mm
2/sの潤滑油基油。
(II)100℃における動粘度が3.5mm
2/s以上4.5mm
2/s未満、より好ましくは3.5〜4.1mm
2/sの潤滑油基油。
(III)100℃における動粘度が4.5〜10mm
2/s、より好ましくは4.8〜9mm
2/s、特に好ましくは5.5〜8.0mm
2/sの潤滑油基油。
【0023】
また、本発明に係る潤滑油基油の40℃における動粘度は、好ましくは80mm
2/s以下、より好ましくは50mm
2/s以下、さらに好ましくは20mm
2/s以下、特に好ましくは18mm
2/s以下、最も好ましくは16mm
2/s以下である。一方、当該動粘度は、好ましくは6.0mm
2/s以上、より好ましくは8.0mm
2/s以上、さらに好ましくは12mm
2/s以上、特に好ましくは14mm
2/s以上、最も好ましくは15mm
2/s以上である。40℃動粘度が80mm
2/s以下の場合には、低温粘度特性の悪化を抑制し、また内燃機関に用いた場合に該内燃機関の省燃費性を向上させやすい。一方、6.0mm
2/s以上の場合には潤滑箇所での油膜形成が不十分となって潤滑性が低下することを抑制し、また潤滑油組成物の蒸発損失を抑えることができる。
【0024】
上記潤滑油基油(I)の粘度指数は、好ましくは120〜135、より好ましくは120〜130である。また、上記潤滑油基油(II)の粘度指数は、好ましくは120〜160、より好ましくは125〜150、更に好ましくは135〜145である。また、上記潤滑油基油(III)の粘度指数は、好ましくは120〜180、より好ましくは125〜160である。
【0025】
本発明に係る潤滑油基油の粘度指数は、110以上であることが好ましい。より好ましくは120以上、さらに好ましくは130以上、さらにより好ましくは135以上、最も好ましくは140以上である。一方当該粘度指数は、160以下であることが好ましい。粘度指数が110以上であると、粘度−温度特性および熱・酸化安定性、揮発防止性が悪化することを抑制し、粘性抵抗の上昇を抑制し、内燃機関に用いた場合に該内燃機関の省燃費性の低下を抑制する。また、粘度指数が160以下であると、低温粘度特性の低下を抑制することができる。
なお、本発明でいう粘度指数とは、JIS K2283−1993に準拠して測定された粘度指数を意味する。
【0026】
また、本発明に係る潤滑油基油の流動点は、潤滑油基油の粘度グレードにもよるが、例えば、上記潤滑油基油(I)の流動点は、好ましくは−12.5℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−20℃以下、更により好ましくは−25℃以下、もっとも好ましくは−30℃以下である。また、上記潤滑油基油(II)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−15℃以下、更に好ましくは−17.5℃以下である。また、上記潤滑油基油(III)の流動点は、好ましくは−10℃以下、より好ましくは−12.5℃以下、更に好ましくは−15℃以下である。流動点が−10℃以下であると、その潤滑油基油を用いた潤滑油全体の低温流動性の低下を抑制することができる。なお、本発明でいう流動点とは、JIS K2269−1987に準拠して測定された流動点を意味する。
【0027】
また、本発明に係る潤滑油基油における硫黄分の含有量は、先に述べた原料の硫黄分の含有量に依存する。ただし、精製工程の違いにより、基油中の硫黄量は異なる。例えば水素化分解等の過程を経たものは、5質量ppm以下となる。また、例えば、フィッシャートロプシュ反応等により得られる合成ワックス成分のように実質的に硫黄を含まない原料を用いる場合には、実質的に硫黄を含まない潤滑油基油を得ることができる。また、潤滑油基油の精製過程で得られるスラックワックスや脱ろう過程で得られるマイクロワックス等の硫黄を含む原料を用いる場合には、得られる潤滑油基油中の硫黄分は通常100質量ppm以上となる。本発明に係る潤滑油基油においては、熱・酸化安定性の更なる向上および低硫黄化の点から、硫黄分の含有量が100質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm以下であることがより好ましく、10質量ppm以下であることが更に好ましく、5質量ppm以下であることが特に好ましい。もっとも好ましくは0質量ppmである。
【0028】
また、本発明に係る潤滑油基油における窒素分の含有量は特に制限されないが、好ましくは7質量ppm以下、より好ましくは5質量ppm以下、更に好ましくは3質量ppm以下である。窒素分の含有量が7質量ppm以下であると、熱・酸化安定性の低下を抑制できる。なお、本発明でいう窒素分とは、JIS K2609−1990に準拠して測定される窒素分を意味する。
【0029】
また、本発明に係る潤滑油基油の%C
Pは70以上であることが必要であり、好ましくは80以上、より好ましくは85以上、さらに好ましくは87以上、特に好ましくは90以上である。また、好ましくは99以下、より好ましくは95以下、さらに好ましくは94以下である。潤滑油基油の%C
Pが70未満の場合、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性が低下する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が低下する傾向にある。また99を超えても良いが、99以下とすることによって添加剤の溶解性を高めやすくなる。
【0030】
また、本発明に係る潤滑油基油の%C
Aは2以下であることが必要であり、より好ましくは1以下、更に好ましくは0.8以下、特に好ましくは0.5以下であり、最も好ましくは0である。潤滑油基油の%C
Aが2を超えると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性が低下する傾向にある。
【0031】
また、本発明に係る潤滑油基油の%C
Nは40以下であることが好ましく、より好ましくは30以下、更に好ましくは20以下、特に好ましくは10以下である。また当該%C
Nは5以上であることが好ましい。潤滑油基油の%C
Nが40以下であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および省燃費性の低下を抑制できり、5以上とすると添加剤の溶解性低下を抑制できる。
【0032】
なお、本発明でいう%C
P、%C
Nおよび%C
Aとは、それぞれASTM D3238−85に準拠した方法(n−d−M環分析)により求められる、パラフィン炭素数の全炭素数に対する百分率、および芳香族炭素数の全炭素数に対する百分率を意味する。
【0033】
また、本発明に係る潤滑油基油における飽和分の含有量は、100℃における動粘度ならびに%C
Pおよび%C
Aが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは99質量%以上である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは35質量%以下であり、さらに好ましくは30質量%以下であり、特に好ましくは25質量%以下であり、最も好ましくは20質量%以下である。また、当該飽和分に占める環状飽和分の割合は、好ましくは5質量%以上であり、より好ましくは10質量%以上である。飽和分の含有量および当該飽和分に占める環状飽和分の割合がそれぞれ上記条件を満たすことにより、粘度−温度特性および熱・酸化安定性を向上することができ、また、当該潤滑油基油に添加剤が配合された場合には、当該添加剤を潤滑油基油中に十分に安定的に溶解保持しつつ、当該添加剤の機能をより高水準で発現させることができる。更に、本発明によれば、潤滑油基油自体の摩擦特性を改善することができ、その結果、摩擦低減効果の向上、ひいては省エネルギー性の向上を達成することができる。
【0034】
なお、本発明でいう飽和分とは、ASTM D2007−93に記載された方法により測定される。
また、飽和分の分離方法、あるいは環状飽和分、非環状飽和分等の組成分析の際には、同様の結果が得られる類似の方法を使用することができる。例えば、上記の他、ASTM D2425−93に記載の方法、ASTM D2549−91に記載の方法、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)による方法、あるいはこれらの方法を改良した方法等を挙げることができる。
【0035】
また、本発明に係る潤滑油基油における芳香族分は、100℃における動粘度、%C
Pおよび%C
Aが上記条件を満たしていれば特に制限されないが、潤滑油基油全量を基準として、好ましくは5質量%以下、より好ましくは4質量%以下、更に好ましくは3質量%以下、特に好ましくは2質量%以下である。芳香族分の含有量が5質量%以下であると、粘度−温度特性、熱・酸化安定性および摩擦特性、更には揮発防止性および低温粘度特性が向上する傾向にあり、更に、潤滑油基油に添加剤が配合された場合に当該添加剤の効き目が向上する傾向にある。特に、本発明に係る潤滑油基油は芳香族分が、0質量%のものが好ましい。
【0036】
なお、本発明でいう芳香族分とは、ASTM D2007−93に準拠して測定された値を意味する。
【0037】
本発明の潤滑油組成物においては、上記本発明に係る潤滑油基油を単独で用いてもよく、また、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、本発明に係る潤滑油基油を他の基油の1種または2種以上と併用してもよい。なお、本発明に係る潤滑油基油と他の基油とを併用する場合、それらの混合基油中に占める本発明に係る潤滑油基油の割合は、30質量%以上であることが好ましく、50質量%以上であることがより好ましく、70質量%以上であることが更に好ましい。
【0038】
本発明に係る潤滑油基油と併用できる他の基油としては、例えば合成系基油を用いることができる。当該合成系基油としては、100℃における動粘度が1〜20mm
2/sである、ポリα−オレフィンまたはその水素化物、イソブテンオリゴマーまたはその水素化物、イソパラフィン、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリオキシアルキレングリコール、ジアルキルジフェニルエーテル、ポリフェニルエーテル等が挙げられ、中でも、ポリα−オレフィンが好ましい。ポリα−オレフィンとしては、典型的には、炭素数2〜32、好ましくは6〜16のα−オレフィンのオリゴマーまたはコオリゴマー(1−オクテンオリゴマー、デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンコオリゴマー等)およびそれらの水素化物が挙げられる。
【0039】
2.(B)成分
本発明の潤滑油組成物における(B)成分は、サリシレート系金属系清浄剤である。(B)サリシレート系金属系清浄剤は、金属比3以上であることが好ましい。また、(B)サリシレート系金属系清浄剤に起因する本発明の潤滑油組成物の塩酸法塩基価が6mgKOH/g以下となることが好ましい。
【0040】
(B)サリシレート系清浄剤としては、その構造に特に制限はないが、炭素数1〜40のアルキル基を1〜2個有するサリチル酸の金属塩、好ましくはアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩、特にマグネシウム塩及び/又はカルシウム塩が好ましく用いられる。
【0041】
また、(B)サリシレート系清浄剤を構成するアルキルサリチル酸金属塩におけるアルキル基としては、炭素数10〜40、好ましくは炭素数10〜19又は炭素数20〜30、さらに好ましくは炭素数14〜18又は炭素数20〜26のアルキル基、特に好ましくは炭素数14〜18のアルキル基である。これらアルキル基は直鎖状であっても分枝状であってもよく、1級アルキル基、2級アルキル基、3級アルキル基であってもよいが、本発明においては上記所望のサリチル酸金属塩を得やすい点で、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0042】
また、アルキルサリチル酸金属塩における金属としては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属等が挙げられ、カルシウム、マグネシウムであることが好ましく、カルシウムであることが特に好ましい。
【0043】
(B)成分は、公知の方法等で製造することができ、製造方法に特に制限はない。例えば、フェノール1molに対し1mol又はそれ以上の、エチレン、プロピレン、ブテン等の重合体又は共重合体等の炭素数10〜40のオレフィン、好ましくはエチレン重合体等の直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションし、炭酸ガス等でカルボキシレーションする方法、あるいはサリチル酸1molに対し1mol又はそれ以上の当該オレフィン、好ましくは当該直鎖α−オレフィンを用いてアルキレーションする方法等により得たモノアルキルサリチル酸を主成分とするアルキルサリチル酸に、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の酸化物や水酸化物等の金属塩基と反応させたり、又はナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩としたり、さらにアルカリ金属塩をアルカリ土類金属塩と置換させること等により得られる。
【0044】
(B)成分は、上記のようにして得られたアルカリ金属又はアルカリ土類金属サリシレート(中性塩)に、さらに過剰のアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩やアルカリ金属又はアルカリ土類金属塩基(アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物や酸化物)を水の存在下で加熱することにより得られる塩基性塩や、炭酸ガス又はホウ酸若しくはホウ酸塩の存在下で上記中性塩をアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物等の塩基と反応させることにより得られる過塩基性塩が好ましい。
【0045】
なお、これらの反応は、通常、溶媒(ヘキサン等の脂肪族炭化水素溶剤、キシレン等の芳香族炭化水素溶剤、軽質潤滑油基油等)中で行われ、その金属含有量が1.0〜20質量%、好ましくは2.0〜16質量%のものを用いるのが望ましい。
【0046】
本発明における(B)成分として最も好ましいものとしては、高温清浄性と加水分解安定性並びに低温粘度特性のバランスに優れる点から、モノアルキルサリチル酸金属塩の構成比が85〜95mol%、ジアルキルサリチル酸金属塩の構成比が5〜15mol%、3−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が50〜60mol%、4−アルキルサリチル酸金属塩及び5−アルキルサリチル酸金属塩の構成比が35〜45mol%であるアルキルサリチル酸金属塩、及び/又はその(過)塩基性塩である。ここでいうアルキル基としては、2級アルキル基であることが特に好ましい。
【0047】
本発明において、(B)成分の塩基価は、通常50mgKOH/g以上、好ましくは60mgKOH/g以上、特に好ましくは100mgKOH/g以上、特に好ましくは150mgKOH/g以上であり、また通常400mgKOH/g以下であり、好ましくは300mgKOH/g以下、特に好ましくは250mgKOH/g以下である。これらの中から選ばれる1種又は2種以上を併用することもできる。なお、ここでいう塩基価とは、JIS K2501「石油製品及び潤滑油−中和価試験法」の7.に準拠して測定される過塩素酸法による塩基価を意味する。
【0048】
本発明においては、(B)成分であるサリシレート系清浄剤と共に他の金属系清浄剤を併用することもできる。当該他の金属系清浄剤としては、スルホネート系清浄剤、フェネート系清浄剤、カルボキシレート系清浄剤等が挙げられる。
【0049】
本発明の潤滑油組成物において、金属系清浄剤の含有量((B)成分以外の金属系清浄剤も併用する場合は全ての金属系清浄剤の合計含有量)は、組成物全量基準で金属量として通常0.01質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、さらに好ましくは0.1質量%以上、特に好ましくは0.15質量%以上であり、また通常0.5質量%以下であり、好ましくは0.3質量%以下、さらに好ましくは0.26質量%以下である。
【0050】
3.(C)成分
本発明の潤滑油組成物における(C)成分は、窒素含有無灰分散剤である。(C)窒素含有無灰分散剤は、後述するように、分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の全部または一部が塩基性を抑制されるように変換された構造を有している。また、当該構造は、ホウ素化変性された構造及び/又は下記一般式(1)のアミド構造に変性された構造であり、(C)窒素含有無灰分散剤がホウ素化変性された構造を含み且つ下記一般式(1)のアミド構造に変性された構造を含まない場合は、本発明の潤滑油組成物は後述する(D)分子中のアミノ基及びイミノ基が塩基性を抑制されるように変換された構造を有しない窒素含有無灰分散剤をさらに含む。
【0051】
【化2】
(ここでR
1は水素、炭素数1〜24のアルキル基、アルケニル基若しくはアルコキシ基、又は−O−(R
2O)
mHで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、R
2は炭素数1〜4のアルキレン基、mは1〜5の整数を示す。)
【0052】
(C)分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の全部または一部が塩基性を抑制されるように変換された構造を有する窒素含有無灰分散剤としては、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するアミノ基を含有する含窒素化合物を用いることができる。炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するアミノ基を含有する含窒素化合物としては、コハク酸イミド、ベンジルアミンやポリアミンを例示することができる。
【0053】
アルケニルコハク酸イミドが有するアルキル基又はアルケニル基の炭素数は、好ましくは40〜400、より好ましくは60〜350である。アルキル基又はアルケニル基の炭素数が40以上の場合は化合物の潤滑油基油に対する溶解性が向上する傾向にある。一方、アルキル基又はアルケニル基の炭素数が400以下の場合は、潤滑油組成物を内熱機関に用いた場合に低温流動性が向上する傾向にある。このアルキル基又はアルケニル基は、直鎖状でも分枝状でもよいが、好ましいものとしては、具体的には、プロピレン、1−ブテン、イソブチレン等のオレフィンのオリゴマーやエチレンとプロピレンのコオリゴマーから誘導される分枝状アルキル基あるいは分枝状アルケニル基等が挙げられる。
【0054】
本発明に係る潤滑油組成物は、モノタイプ又はビスタイプのコハク酸イミドのいずれか一方を含有してもよく、あるいは双方を含有してもよい。
【0055】
コハク酸イミドの製造方法は特に制限されないが、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができる。ポリアミンとしては、具体的には、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等が例示できる。
【0056】
ベンジルアミンとしては、具体的には下記の一般式(2)で表される化合物等が例示できる。
【0058】
一般式(2)において、R
3は、炭素数40〜400、好ましくは炭素数60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、rは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0059】
ベンジルアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンをフェノールと反応させてアルキルフェノールとした後、これにホルムアルデヒドとジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンをマンニッヒ反応により反応させることにより得ることができる。
【0060】
ポリアミンとしては、より具体的には下記の一般式(3)で表される化合物のホウ素化物等が例示できる。
R
4−NH−(CH
2CH
2NH)
s−H (3)
一般式(3)において、R
4は、炭素数40〜400、好ましくは60〜350のアルキル基又はアルケニル基を示し、sは1〜5、好ましくは2〜4の整数を示す。
【0061】
ポリアミンの製造方法は何ら限定されるものではないが、例えば、プロピレンオリゴマー、ポリブテン、及びエチレン−α−オレフィン共重合体等のポリオレフィンを塩素化した後、これにアンモニアやエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、及びペンタエチレンヘキサミン等のポリアミンを反応させることにより得ることができる。
【0062】
(C)成分において、分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の全部または一部が塩基性を抑制されるように変換された構造は、炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有し、アミノ基及び/又はイミノ基、好ましくは少なくともアミノ基を含有する化合物と、次に列挙する化合物などとの反応によって得られる。当該化合物としては、尿素、チオ尿素、ジメルカプトチアジアゾール、二硫化炭素、アルデヒド、ケトン、カルボン酸、炭化水素置換コハク酸無水物、ニトリル、エポキシド、アルカリ土類金属塩、ホウ素化合物、カーボネートおよびリン化合物が挙げられる。処理の詳細は、米国特許第4,654,403号や特開平5−27118号公報等に記載がある。
【0063】
本発明における(C)成分において、分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の全部または一部が塩基性を抑制されるように変換された構造は、ホウ素化変性された構造及び/又はカーボネート変性された構造であり、カーボネート変性された構造であることが好ましく、ホウ素化変性された構造及びカーボネート変性された構造であることがより好ましい。
【0064】
ホウ素化変性は、一般に、前述の含窒素化合物にホウ素化合物を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部を中和することにより行われる。
例えば、ホウ素化変性コハク酸イミドの製造方法としては、特公昭42−8013号公報、特公昭42−8014号公報、特開昭51−52381号公報、及び特開昭51−130408号公報等に開示されている方法等が挙げられる。具体的には例えば、アルコール類やヘキサン、キシレン等の有機溶媒、軽質潤滑油基油等に、前述した炭素数40〜400の直鎖若しくは分枝状のアルキル基又はアルケニル基を分子中に少なくとも1個有するアミノ基を含窒する化合物と、ホウ素化合物、例えばホウ酸、ホウ酸エステル、又はホウ酸塩等のホウ素化合物とを混合し、適当な条件で加熱処理することにより得ることができる。なお、この様にして得られるホウ素化変性コハク酸イミドのホウ素含有量は通常0.1〜45質量%とすることができる。
【0065】
また、ホウ素化変性コハク酸イミド等のホウ素含有無灰分散剤を用いる場合、そのホウ素含有量については特に制限はなく、通常0.1〜3質量%であり、好ましくは0.2質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは0.8質量%以上、特に好ましくは1.0質量%以上である。また、好ましくは2質量%以下、より好ましくは1.7質量%以下、さらに好ましくは1.5質量%以下である。ホウ素含有無灰分散剤としてホウ素含有量がこの範囲内のホウ素含有コハク酸イミドを使用することが好ましく、特にホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。なお、ホウ素含有量が3質量%以下の場合、不安定化を抑制し、組成物中のホウ素量が多くなりすぎず、硫酸灰分の増加を抑えるとともに、排ガス後処理装置への影響が抑えられるため、好ましい。また、ホウ素含有量が0.1質量%以上の場合、シール材適合性改善効果を得やすい。
【0066】
また、上記ホウ素化変性コハク酸イミド等のホウ素含有無灰分散剤のホウ素/窒素質量比(B/N比)は特に制限はなく、通常0.05〜5であり、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.4以上、特に好ましくは0.7以上である。また、好ましくは2以下、より好ましくは1.5以下、さらに好ましくは1.3以下、さらに好ましくは1.1以下である。ホウ素含有無灰分散剤としてB/N比がこの範囲内のホウ素含有コハク酸イミドを使用することが好ましく、特にホウ素含有ビスコハク酸イミドを使用することが望ましい。なお、B/N比が5以下の場合、不安定化を抑制し、組成物中のホウ素量が多くなりすぎず、硫酸灰分の増加を抑えるとともに、排ガス後処理装置への影響が抑えられるため、好ましい。また、B/N比が0.05以上の場合、シール材適合性改善効果を得やすい。
【0067】
また、本発明に係る潤滑油組成物の(C)成分に起因するホウ素含有量は、本発明に係る潤滑油組成物を内熱機関に用いる場合、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、特に好ましくは0.03質量%以上である。また、好ましくは0.15質量%以下、より好ましくは0.1質量%以下、さらに好ましくは0.07質量%以下、特に好ましくは0.05質量%以下である。
【0068】
本発明に係る潤滑油組成物のホウ素含有量は組成物全量基準で、好ましくは50質量ppm以上であり、より好ましくは100質量ppm以上、さらに好ましくは200質量ppm以上、特に好ましくは250質量ppm以上である。また、本発明に係る潤滑油組成物のホウ素含有量は組成物全量基準で、好ましくは3000質量ppm以下、より好ましくは2000質量ppm以下、さらに好ましくは1500質量ppm以下、特に好ましくは1000質量ppm以下である。50質量ppm以上とするとシール材適合性改善効果を得やすく、3000質量ppm以下とすると添加剤量が多くなりすぎず、摺動部の摩擦の増大や組成物としての不安定化を抑制できる。
【0069】
本発明においては、ホウ素化無灰分散剤と共に、ホウ素化していない非ホウ素化無灰分散剤を混合して使用することがシリコーンゴムの劣化を抑制するためにより好ましい。この使用比率は、非ホウ素化無灰分散剤/ホウ素化無灰分散剤の重量割合が、0.2以上が好ましく、0.5以上がより好ましく、1以上がさらに好ましく、1.5以上がさらにより好ましく、また5以下が好ましく、3以下がより好ましく、さらに2.5以下が好ましい。0.2以上とすることで非ホウ素化無灰分散剤による清浄性の効果を得やすく、また5以下とすることでホウ素化無灰分散剤による清浄性の効果を得やすい。
【0070】
本発明における(C)成分において、分子中のアミノ基及び/又はイミノ基の全部または一部が塩基性を抑制されるように変換された構造は、下記一般式(1)のアミド構造に変性された構造であることがより好ましい。
【0071】
【化4】
(ここでR
1は水素、炭素数1〜24のアルキル基、アルケニル基若しくはアルコキシ基、又は−O−(R
2O)
mHで表されるヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレン基を示し、R
2は炭素数1〜4のアルキレン基、mは1〜5の整数を示す。)
【0072】
本発明における上記アミド構造は、アミノ基及び/又はイミノ基と含酸素有機化合物等を作用させて、残存するアミノ基及び/又はイミノ基の一部又は全部をアミド化した化合物等が挙げられる。
【0073】
作用させる含酸素有機化合物としては、具体的には、例えば、ぎ酸、酢酸、グリコール酸、プロピオン酸、乳酸、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ウンデシル酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸等の炭素数1〜30のモノカルボン酸や、シュウ酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の炭素数2〜30のポリカルボン酸及びこれらの無水物、並びにエステル化合物、炭素数2〜6のアルキレンオキサイド、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネート、アルキル環状カーボネート等が挙げられる。
【0074】
このような含酸素有機化合物を作用させることで、アミノ基又はイミノ基の一部又は全部が上記一般式(1)で示す構造になる。
【0075】
これらの中ではアミノ基又はイミノ基の全てにこれら含酸素有機化合物を作用させたものを主成分とする無灰分散剤がシリコーンの強度低下防止に優れるため好ましく用いられる。このような含酸素有機化合物を作用させたコハク酸イミド誘導体は、スラッジ分散性に優れ、特にヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートや環状カーボネートを作用させたものが好ましい。
【0076】
例えば、ヒドロキシ(ポリ)オキシアルキレンカーボネートを反応させる場合の量はアミノ基及び/又はイミノ基に基づく窒素のモル数を1として、0.2〜10が好ましい。さらに好ましくは1以上である。0.2以上であると、分散剤の塩基性の抑制効果が高く、また10以下であると、分散剤としての機能を向上させることができる。
【0077】
また、環状カーボネートを反応させる場合の量はアミノ基及び/又はイミノ基に基づく窒素のモル数を1として、0.2〜10が好ましく、1以上がより好ましく、3以上がさらに好ましい。0.2以上であると、分散剤の塩基性の抑制が不十分となることを防止しやすくなる。また、10以下であると、分散剤としての機能が低下することを防止しやすくなる。なお環状カーボネートに含まれるアルキル基の炭素数は2が好ましい。
【0078】
(C)成分の分子量は、前述した無灰分散剤のアルキル基あるいはアルケニル基の炭素数とポリアミンの構造によって決まるが、窒素含有率1質量パーセントあたりの重量平均分子量(Mw/N)が10,000以上であることが好ましく、より好ましくは15,000以上である。また当該重量平均分子量(Mw/N)は70,000以下であることが好ましく、50,000以下がさらに好ましい。10,000以上とすることでシリコーンゴムの劣化抑制作用を得やすくなり、70,000以下とすることで合成しやすくなる。
【0079】
本発明においては、(C)成分はホウ素化変性無灰分散剤とカーボネート変性無灰分散剤を混合して使用することがより好ましい。
この混合割合は、ホウ素化変性無灰分散剤の質量添加量を1としてカーボネート変性無灰分散剤の質量添加量が0.1から10が好ましい。さらに好ましくは0.5以上、さらに好ましくは0.8以上、さらにより好ましくは1.0以上であり、また8以下が好ましく5以下がさらに好ましい。0.1以上10以下とすることで、シリコーンゴムの劣化抑制に対する相乗効果を奏しやすくなる。
【0080】
また、(C)成分としてホウ素化変性無灰分散剤を含み、かつカーボネート変性無灰分散剤を含有しない場合には、(C)ホウ素化変性無灰分散剤と(D)分子中のアミノ基及びイミノ基が塩基性を抑制されるように変換された構造を有しない窒素含有無灰分散剤とを混合して使用することが好ましい。(D)分子中のアミノ基及びイミノ基が塩基性を抑制されるように変換された構造を有しない窒素含有無灰分散剤としては、例えば炭素数40〜400のアルキル基又はアルケニル基を有する化合物を無水マレイン酸と100〜200℃で反応させて得たアルキルコハク酸又はアルケニルコハク酸をポリアミンと反応させることにより得ることができるコハク酸イミド、上記一般式(3)のベンジルアミン、及びポリアミンを挙げることができる。
【0081】
本発明において(C)成分の含有量は、潤滑油組成物全量基準で、好ましくは0.01〜20質量%であり、より好ましくは0.1〜10質量%であり、さらに好ましくは2.0〜10質量%であり、特に好ましくは2.3〜10質量%である。(C)成分の含有量が0.01質量%以上の場合は清浄性効果が不十分となることを防止しやすく、一方、20質量%以下の場合は潤滑油組成物の低温流動性が大幅に悪化することを抑えることができる。
【0082】
4.その他の添加剤
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、粘度指数向上剤として、通常の一般的な非分散型または分散型ポリ(メタ)アクリレート、非分散型または分散型エチレン−α−オレフィン共重合体またはその水素化物、ポリイソブチレンまたはその水素化物、スチレン−ジエン水素化共重合体、スチレン−無水マレイン酸エステル共重合体およびポリアルキルスチレン等を更に含有することができる。
【0083】
また、本発明の潤滑油組成物は、内燃機関に用いた場合に該内燃機関の省燃費性能を高めるために、有機モリブデン化合物を含有することができる。
本発明で用いる有機モリブデン化合物としては、モリブデンジチオホスフェート、モリブデンジチオカーバメート等の硫黄を含有する有機モリブデン化合物、モリブデン化合物と、硫黄含有有機化合物あるいはその他の有機化合物との錯体等、あるいは、上記硫化モリブデン、硫化モリブデン酸等の硫黄含有モリブデン化合物とアルケニルコハク酸イミドとの錯体等を挙げることができる。
【0084】
また、有機モリブデン化合物としては、構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物を用いることができる。構成元素として硫黄を含まない有機モリブデン化合物としては、具体的には、モリブデン−アミン錯体、モリブデン−コハク酸イミド錯体、有機酸のモリブデン塩、アルコールのモリブデン塩などが挙げられ、中でも、モリブデン−アミン錯体、有機酸のモリブデン塩およびアルコールのモリブデン塩が好ましい。
【0085】
本発明において有機モリブデン化合物としてはモリブデンジチオカーバメートが特に好ましい。
【0086】
本発明の潤滑油組成物において、有機モリブデン化合物の含有量は、潤滑油組成物全量を基準として、モリブデン元素換算で200質量ppm以上が好ましく、500質量ppm以上がより好ましい。また2000質量ppm以下が好ましく、1300質量ppm以下がより好ましい。その含有量が100質量ppm以上の場合、省燃費効果を得やすくなる。一方、含有量が2000質量ppm以下の場合、含有量に見合う省燃費効果が得られずに経済的に不合理となることを防止しやすくなる。また、潤滑油組成物の貯蔵安定性が不十分となることも防止しやすくなる。
【0087】
本発明の潤滑油組成物には、本発明の目的および効果を阻害しない限りにおいて、有機モリブデン化合物以外の他の摩擦調整剤を添加しても良い。
他の摩擦調整剤としては、潤滑油用の摩擦調整剤として通常用いられる任意の化合物が使用可能であり、例えば無灰摩擦調整剤が挙げられる。
無灰摩擦調整剤としては、例えば、炭素数6〜30のアルキル基またはアルケニル基、特に炭素数6〜30の直鎖アルキル基または直鎖アルケニル基を分子中に少なくとも1個有する、アミン化合物、脂肪酸エステル、脂肪酸アミド、脂肪酸、脂肪族アルコール、脂肪族エーテル等の無灰摩擦調整剤が挙げられる。
【0088】
本発明の潤滑油組成物における有機モリブデン化合物以外の他の無灰摩擦調整剤の含有量は、組成物全量を基準として、好ましくは0.005質量%以上、より好ましくは0.01質量%以上、更に好ましくは0.05質量%以上である。また、好ましくは3質量%以下、より好ましくは2質量%以下、更に好ましくは1質量%以下である。無灰摩擦調整剤の含有量を0.005質量%以上とすると、その添加による摩擦低減効果を得やすくなる傾向にある。また3質量%以下とすると、耐摩耗性添加剤などの効果を阻害することを抑制し、あるいは添加剤の溶解性悪化を抑制できる傾向にある。
【0089】
本発明の潤滑油組成物には、さらにその性能を向上させるために、その目的に応じて潤滑油に一般的に使用されている任意の添加剤を含有させることができる。このような添加剤としては、例えば、上記(B)成分以外の金属系清浄剤、酸化防止剤、摩耗防止剤(または極圧剤)、腐食防止剤、防錆剤、流動点降下剤、抗乳化剤、金属不活性化剤、消泡剤等の添加剤等を挙げることができる。
【0090】
本発明における(B)成分以外の金属系清浄剤としては、アルカリ金属スルホネートまたはアルカリ土類金属スルホネート、アルカリ金属フェネートまたはアルカリ土類金属フェネート等の正塩、塩基正塩または過塩基性塩等が挙げられる。本発明では、これらからなる群より選ばれる1種または2種以上のアルカリ金属系清浄剤またはアルカリ土類金属系清浄剤、特にアルカリ土類金属系清浄剤を好ましく使用することができる。特にマグネシウム塩および/またはカルシウム塩が好ましく、カルシウム塩がより好ましく用いられる。
【0091】
酸化防止剤としては、フェノール系、アミン系等の無灰酸化防止剤、銅系、モリブデン系等の金属系酸化防止剤が挙げられる。具体的には、例えば、フェノール系無灰酸化防止剤としては、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−ビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)等が、アミン系無灰酸化防止剤としては、フェニル−α−ナフチルアミン、アルキルフェニル−α−ナフチルアミン、ジアルキルジフェニルアミン等が挙げられる。
【0092】
摩耗防止剤(または極圧剤)としては、潤滑油に用いられる任意の摩耗防止剤・極圧剤が使用できる。例えば、硫黄系、リン系、硫黄−リン系の極圧剤等が使用でき、具体的には、亜リン酸エステル類、チオ亜リン酸エステル類、ジチオ亜リン酸エステル類、トリチオ亜リン酸エステル類、リン酸エステル類、チオリン酸エステル類、ジチオリン酸エステル類、トリチオリン酸エステル類、これらのアミン塩、これらの金属塩、これらの誘導体、ジチオカーバメート、亜鉛ジチオカーバメート、モリブデンジチオカーバメート、ジサルファイド類、ポリサルファイド類、硫化オレフィン類、硫化油脂類等が挙げられる。これらの中では硫黄系極圧剤の添加が好ましく、特に硫化油脂が好ましい。
【0093】
腐食防止剤としては、例えば、ベンゾトリアゾール系、トリルトリアゾール系、チアジアゾール系、またはイミダゾール系化合物等が挙げられる。
【0094】
防錆剤としては、例えば、石油スルホネート、アルキルベンゼンスルホネート、ジノニルナフタレンスルホネート、アルケニルコハク酸エステル、または多価アルコールエステル等が挙げられる。
【0095】
流動点降下剤としては、例えば、使用する潤滑油基油に適合するポリメタクリレート系のポリマー等が使用できる。
【0096】
抗乳化剤としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルフェニルエーテル、またはポリオキシエチレンアルキルナフチルエーテル等のポリアルキレングリコール系非イオン系界面活性剤等が挙げられる。
【0097】
金属不活性化剤としては、例えば、イミダゾリン、ピリミジン誘導体、アルキルチアジアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、ベンゾトリアゾールまたはその誘導体、1,3,4−チアジアゾールポリスルフィド、1,3,4−チアジアゾリル−2,5−ビスジアルキルジチオカーバメート、2−(アルキルジチオ)ベンゾイミダゾール、またはβ−(o−カルボキシベンジルチオ)プロピオンニトリル等が挙げられる。
【0098】
消泡剤としては、例えば、25℃における動粘度が1000〜100,000mm
2/sのシリコーンオイル、アルケニルコハク酸誘導体、ポリヒドロキシ脂肪族アルコールと長鎖脂肪酸のエステル、メチルサリシレートとo−ヒドロキシベンジルアルコール等が挙げられる。
【0099】
5.潤滑油組成物の諸性能
本発明の潤滑油組成物の100℃における動粘度は4〜12mm
2/sであることが好ましく、より好ましくは10mm
2/s以下、さらに好ましくは9mm
2/s以下である。また、好ましくは5mm
2/s以上、より好ましくは6mm
2/s以上、さらに好ましくは6.5mm
2/s以上である。ここでいう100℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される100℃での動粘度を示す。100℃における動粘度が4mm
2/s以上の場合には、潤滑性不足を抑制しやすく、12mm
2/s以下の場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られなくなることを防止しやすい。
【0100】
また、本発明の潤滑油組成物の40℃における動粘度は4〜60mm
2/sであることが好ましく、より好ましくは50mm
2/s以下、さらに好ましくは45mm
2/s以下である。また、好ましくは10mm
2/s以上、より好ましくは20mm
2/s以上、さらに好ましくは25mm
2/s以上、特に好ましくは27mm
2/s以上である。ここでいう40℃における動粘度とは、ASTM D−445に規定される40℃での動粘度を示す。40℃における動粘度が4mm
2/s以上の場合には、潤滑性不足を抑制しやすく、60mm
2/s以下の場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られなることを防止しやすい。
【0101】
本発明の潤滑油組成物の粘度指数は、140〜300の範囲であることが好ましく、より好ましくは150以上、さらに好ましくは170以上である。本発明の潤滑油組成物の粘度指数が140以上の場合には、150℃のHTHS粘度を維持しながら省燃費性を向上させやすくなり、さらに−35℃における低温粘度を低減させやすくなる。また、本発明の潤滑油組成物の粘度指数が300以下の場合には、蒸発性の悪化を抑制し、更に添加剤の溶解性やシール材料との適合性が不足することによる不具合の発生を抑制することができる。
【0102】
本発明の潤滑油組成物の100℃におけるHTHS粘度は、6.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは6.0mPa・s以下、さらに好ましくは5.8mPa・s以下である。また、好ましくは3.0mPa・s以上、更に好ましくは3.5mPa・s以上、特に好ましくは4.0mPa・s以上、最も好ましくは4.2mPa・s以上である。ここでいう100℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される100℃での高温高せん断粘度を示す。100℃におけるHTHS粘度が3.0mPa・s以上の場合には潤滑性不足を抑制し、6.5mPa・s以下の場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られなくなることを防止しやすくなる。
【0103】
本発明の潤滑油組成物の150℃におけるHTHS粘度は、3.5mPa・s以下であることが好ましく、より好ましくは3.0mPa・s以下、さらに好ましくは2.8mPa・s以下、特に好ましくは2.7mPa・s以下である。また、好ましくは2.0mPa・s以上、より好ましくは2.3mPa・s以上、さらに好ましくは2.4mPa・s以上、特に好ましくは2.5mPa・s以上、最も好ましくは2.6mPa・s以上である。ここでいう150℃におけるHTHS粘度とは、ASTM D4683に規定される150℃での高温高せん断粘度を示す。150℃におけるHTHS粘度が2.0mPa・s以上の場合には潤滑性不足を抑制し、3.5mPa・s以下の場合には必要な低温粘度および十分な省燃費性能が得られなくなることを防止しやすくなる。
【0104】
本発明の潤滑油組成物は、150℃にしてシリコーンゴムを336時間浸漬した後の該シリコーンゴムの引張強度低下率を70%以下とすることができる。
すなわち本発明の潤滑油組成物は、耐熱性に優れたシリコーンゴムを使用した内燃機関に適合した、優れた特性を有する潤滑油組成物とすることができる。したがって本発明の潤滑油組成物は、省燃費ガソリンエンジン油、省燃費ディーゼルエンジン油等の省燃費エンジン油として好適に使用することができる。また本発明の潤滑油組成物を用いた潤滑方法は、耐熱性に優れたシリコーンゴムを使用した内燃機関を潤滑する方法として有効である。
【実施例】
【0105】
以下、実施例および比較例に基づき本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0106】
(実施例1
、3
、参考例2、及び比較例1、2)
表1に示すように、本発明の潤滑油組成物(実施例1
、3
、参考例2)および比較用の潤滑油組成物(比較例1、2)をそれぞれ調製した。なお、表1において、基油の含有量(mass%)は基油全量基準(基油全量を100質量%)によるものであり、添加剤の添加量(inmass%)は潤滑油組成物全量基準(潤滑油組成物全量を100質量%)によるものである。
【0107】
これらの潤滑油組成物について、40℃における動粘度、及び100℃における動粘度を測定し、シリコーンゴム適合性試験を行った。その結果を表1に示す。シリコーンゴム適合性試験はJIS K6258に準拠している。浸漬温度および浸漬時間は、ASTM D7216−08に準拠している。またシリコーンゴムは、ILSAC GF−5認証試験に使用しているVMQ−1を用いた。引張強度は、株式会社島津製作所製精密万能試験機オートグラフAGS−5KNJにて測定した。
【0108】
【表1】
【0109】
表1に示したように、実施例1
、3
、及び参考例2に係る潤滑油組成物は、比較例1、2に係る潤滑油組成物に比べてシリコーンゴムに対する高い適合性を有しており、本発明に係る潤滑油組成物がシリコーン系シール材を使用した内燃機関に好適であることがわかる。