特許第5747001号(P5747001)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747001
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】ウレタン系光学部材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 18/38 20060101AFI20150618BHJP
   C08G 18/79 20060101ALI20150618BHJP
   G02B 1/04 20060101ALI20150618BHJP
【FI】
   C08G18/38 Z
   C08G18/79 Z
   G02B1/04
【請求項の数】3
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-132854(P2012-132854)
(22)【出願日】2012年6月12日
(65)【公開番号】特開2013-256575(P2013-256575A)
(43)【公開日】2013年12月26日
【審査請求日】2014年7月9日
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000113263
【氏名又は名称】HOYA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(74)【代理人】
【識別番号】100119666
【弁理士】
【氏名又は名称】平澤 賢一
(72)【発明者】
【氏名】岡本 恭尚
(72)【発明者】
【氏名】上坂 昌久
【審査官】 山村 周平
(56)【参考文献】
【文献】 特開2010−083773(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/098887(WO,A1)
【文献】 国際公開第2011/016229(WO,A1)
【文献】 国際公開第2006/109765(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 18/00−18/87
G02B 1/00−1/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び下記式(1−1)で表される化合物、及び/又は、(ii)トリレンジイソシアネート及び下記式(2−1)で表される化合物と、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合するウレタン系光学部材の製造方法であって、下記式(1−1)で表される化合物及び/又は下記式(2−1)で表される化合物とポリチオール化合物とを反応させることを特徴とし、さらに、前記反応前に、他のポリイソシアネート化合物と混合、撹拌しながら加熱して行われる前記式(1−1)で表される化合物及び/又は前記式(2−1)で表される化合物を溶解させる工程を有する、ウレタン系光学部材の製造方法。
【化1】
【請求項2】
前記(i)における前記式(1−1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上、及び/又は、前記(ii)における前記式(2−1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上である、請求項に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【請求項3】
加熱温度が50〜120℃である請求項1又は2に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウレタン系光学部材及びその製造方法に関する。詳しくは、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ウレタン系光学部材の原料として、ポリチオール化合物やポリイソシアネート化合物が汎用されているが、ポリイソシアネート化合物のなかでも芳香族ポリイソシアネート化合物は、安価かつ大量に製造されており、また屈折率の向上に寄与することができるため、特に高屈折率が要求されるウレタン系光学部材の原料として好ましい。とりわけ、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDIと略す)及び2,4−トリレンジイソシアネート、2,6−トリレンジイソシアネート(TDIと略す)は、工業的にも入手しやくまた屈折率向上が容易であるとの観点から、高屈折率を有する光学部材の原料モノマーとして有用である。
例えば、特許文献1では、高屈折率を付与することができる光学用樹脂に用いる重合性組成物として、特定構造を有するチオール化合物と共に芳香族ポリイソシアネート化合物を原料とする開示がされており、実施例及び比較例において2,4−トリレンジイソシアネート及び4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネートが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010−83773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、MDI、TDIは反応性に富む化合物であり、例えばイソシアネート基の一部が大気中の水分と反応してアミンを生成し、該アミンと他分子のイソシアネート基が反応して尿素結合を生じることにより、分子同士が尿素結合で結合した化合物が形成される。そのため、光学部材の所望する屈折率が、1.65程度を超えるような高屈折率になるに従ってMDI、TDIの使用量を増やす場合、得られた光学部材に、上記尿素結合で結合した化合物が析出したと考えられる濁りやクモリが発現しやすくなり、透明性に劣るといった問題が生じていた。
上記のとおりMDI、TDIは分子同士が尿素結合で結合した化合物を形成することが考えられるため、得られる光学部材の透明性の観点からは、TDI、MDIの使用量を少なくすることが好ましいが、その反面、高屈折率の観点からは、特定量以上のMDI、TDIを使用することが必要であり、MDI、TDIを使用することにより高屈折率と透明性との両立を図ることは困難であった。特に、高いレベルの透明性が要求されるプラスチックレンズでは、高屈折率、かつ優れた透明性を有するものが望まれており、上記問題からMDI、TDIの使用に制限があった。
【0005】
本発明は、上述の問題に鑑み、尿素結合を介し分子間で結合した化合物が混在するMDI又はTDIを原料として用いても、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材及びその製造方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意検討を進めた結果、MDI又はTDIと混在する尿素結合を介し分子間で結合した化合物を、原料のポリイソシアネート化合物中で溶解状態とした上でポリチオール化合物と反応させ、光学部材を形成する構造中に取り込むことにより、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成した。
すなわち、本発明は、下記のウレタン系光学部材及びその製造方法を提供する。
【0007】
1. 光学部材を形成する構造中に、下記の式(1)又は(2)で表される構造を少なくとも1種有することを特徴とするウレタン系光学部材。
【0008】
【化1】
【0009】
2. (i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び下記式(1−1)で表される化合物、及び/又は、(ii)トリレジンイソシアネート及び下記式(2−1)で表される化合物と、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合して得られるウレタン系光学部材であって、下記式(1−1)で表される化合物及び/又は下記式(2−1)で表される化合物の含有量が、前記モノマー組成物中0.0005質量%以上であることを特徴とする、前記1に記載のウレタン系光学部材。
【0010】
【化2】
【0011】
3. (i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び下記式(1−1)で表される化合物、及び/又は、(ii)トリレジンイソシアネート及び下記式(2−1)で表される化合物と、ポリチオール化合物とを含むモノマー組成物を重合するウレタン系光学部材の製造方法であって、下記式(1−1)で表される化合物及び/又は下記式(2−1)で表される化合物とポリチオール化合物とを反応させる工程を有することを特徴とする、ウレタン系光学部材の製造方法。
【0012】
【化3】
【0013】
4. 前記(i)における前記式(1−1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上、及び/又は、前記(ii)における前記式(2−1)で表される化合物の含有量が0.001質量%以上である、前記3に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
5. さらに、前記式(1−1)で表される化合物及び/又は前記式(2−1)で表される化合物を溶解させる工程を有する、前記3又は4に記載のウレタン系光学部材の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明のウレタン系光学部材は、MDI又はTDIそれぞれにおいて分子同士が尿素結合で結合した化合物を、光学部材を形成する構造中に共有結合を介して含むため、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有するウレタン系光学部材を提供することができ、特に、高いレベルの透明性が要求されるプラスチックレンズであっても満足できる透明性及び高屈折率とすることができる。
また、本発明の製造方法によれば、分子同士が尿素結合で結合した上記化合物を、原料モノマーとして用いるポリチオール化合物と反応させるので、上記化合物が混在したMDI及びTDIを原料モノマーとして使用しても、高屈折率及び優れた透明性を有するウレタン系光学部材を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[ウレタン系光学部材]
本発明のウレタン系光学部材は、光学部材を形成する構造中に、下記の式(1)又は(2)で表される構造を少なくとも1種有することを特徴とする。
【0016】
【化4】
【0017】
上記式(1)又は(2)で表される構造は、MDI又はTDIそれぞれの2分子が尿素結合で結合した化合物である、下記式(1−1)で表される化合物又は下記式(2−1)で表される化合物(以下、これらを2分子結合体と称すことがある)由来の構造である。上記式(1)又は(2)で表される構造は、製造方法の説明で後述するとおり、これら2分子結合体とポリチオール化合物との反応により形成される。
なお、(i)4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート及び下記式(1−1)で表される化合物は混在しており、本明細書において上記(i)の混在中における下記式(1−1)で表される化合物を、MDI中の2分子結合体と表記することがある。同様に(ii)トリレジンイソシアネート及び下記式(2−1)で表される化合物は混在しており、本明細書において上記(ii)の混在中における下記式(2−1)で表される化合物を、TDI中の2分子結合体と表記することがある。
また、本発明においてTDI中の下記式(2−1)で表される化合物は、TDIの2,4−体及び2,6−体から形成される6種の化合物から選ばれる少なくとも1種である。
【0018】
【化5】
【0019】
TDI中又はMDI中の2分子結合体が、前記式(1)又は(2)で表される構造となって光学部材を形成する構造中に含まれることにより、得られる光学部材において2分子結合体の析出を防ぎ、透明性に優れたものとすることができる。加えて、2分子結合体はそれぞれのモノマーよりも分子量が大きいことから、上記構造が光学部材中に含まれることにより、屈折率のさらなる向上も期待することができる。
【0020】
[ウレタン系光学部材の製造方法]
前記式(1)又は(2)で表される構造が含まれる本発明のウレタン系光学部材の製造方法は、2分子結合体とポリチオール化合物とを反応させることを特徴とする。本発明の製造方法は、2分子結合体とポリチオール化合物とを反応させることにより、2分子結合体は前記構造となって光学部材に共有結合を介し含まれ、透明性を有することができる。
また2分子結合体は、単離せずにMDI中又はTDI中に混在したままの状態でポリチオール化合物と反応させることができる。
【0021】
(MDI中又はTDI中に含まれる2分子結合体含有量)
前述のように2分子結合体は、イソシアネート基の一部が例えば大気中の水分と反応してアミンを生成し、該アミンと他分子のイソシアネート基が反応して尿素結合を生じることにより形成されるため、MDI及びTDIを原料モノマーとして使用する場合に、その保存状態により一定量の2分子結合体が混在していることがある。しかしながら、本発明の製造方法によれば、2分子結合体が0.001質量%以上、さらには0.005質量%以上混在するMDI又はTDIであっても原料モノマーとして使用することができる。
一方でMDI中又はTDI中に含まれる2分子結合体の含有量が多すぎる場合、MDI及びTDI自体の劣化が激しい等の理由が考えられ、この様なMDI及びTDIを原料として使用することは好ましくない。そのため、本発明において、原料モノマーとして使用するMDI中又はTDI中に含まれる2分子結合体含有量の上限値は、好ましくは0.05質量%であり、より好ましくは0.01質量%であり、さらに好ましくは0.005質量%である。
【0022】
(モノマー組成物に含まれる2分子結合体含有量)
本発明の光学部材は、原料モノマーとしてMDI又はTDIとポリチオール化合物とを少なくとも用い、上記2分子結合体含有量が0.0005質量%以上であるモノマー組成物を重合して得ることができる。たとえ組成物中の2分子結合体が0.0005質量%以上、さらには0.001質量%以上であっても、本発明の製造方法によれば優れた透明性を有する光学部材とすることが可能である。
なお、MDIとTDIを併用した場合、上記含有量はこれら2分子結合体の合計含有量とする。
【0023】
上記2分子結合体含有量の上限値は、モノマー組成物全量に対し、好ましくは0.03質量%であり、より好ましくは0.01質量%、さらに好ましくは0.005質量%である。上限値が0.03質量%であれば、MDI及びTDI自体の劣化等の要因により透明性が低下するおそれがなく、高屈折率と透明性とを両立することができる。
なお、モノマー組成物全量に対する2分子結合体の割合は、使用するMDI中又はTDI中に含まれる2分子結合体量と、そのMDI又はTDIの使用量によって算出した値である。また、MDI中又はTDI中の2分子結合体含有量は、ゲル浸透クロマトグラフィーにより測定することができる。
【0024】
(2分子結合体とポリチオール化合物との反応)
2分子結合体とポリチオール化合物との反応において、2分子結合体は固体のままではポリチオール化合物との反応性に乏しく、過酷な反応条件が必要となるため、原料のポリイソシアネート化合物中で溶解状態とした上で、ポリチオール化合物と反応させる必要がある。2分子結合体を溶解状態としてポリチオールと反応させるためには、あらかじめ2分子結合体を溶解させる工程を行うことが好ましい。
【0025】
2分子結合体を溶解させる工程としては、2分子結合体を溶解状態とすることができればその方法には制限はないが、複雑な操作を必要としない点から、MDI中又はTDI中の2分子結合体を他のポリイソシアネート化合物に溶解させる方法、あるいは、他のポリイソシアネート化合物と混合せずに、MDI中又はTDI中の2分子結合体を加熱溶解させる方法が挙げられる。
【0026】
2分子結合体を他のポリイソシアネート化合物に溶解させる方法としては、2分子結合体が混在するMDI又はTDIと他のポリイソシアネート化合物とを混合、撹拌することにより、2分子結合体を溶解すればよい。
2分子結合体を溶解させる他のポリイソシアネート化合物としては、使用する原料モノマーであれば特に制限はないが、2分子結合体との相溶性が良好であるポリイソシアネート化合物であることが好ましい。
2分子結合体との相溶性が良好であるポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、α,α,α’,α’−テトラメチルキシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、ビス(イソシアネートメチル)ジシクロへプタン等が挙げられる。これらのなかでもさらに相溶性が良好な点から、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネートが好ましい。
【0027】
また、より確実に2分子結合体を溶解させるために、他のポリイソシアネート化合物と混合、撹拌しながら温浴等の方法で加熱してもよい。
加熱する場合の温度は、上記混合物中の2分子結合体の含有量によって異なり一概にはいえないが、熱劣化するおそれがない点から、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは50〜120℃、より好ましくは70〜100℃であり、加熱時間としては、好ましくは5〜30分、より好ましくは5〜10分である。
【0028】
また、他のポリイソシアネート化合物と混合せずに、MDI中又はTDI中の2分子結合体を加熱溶解させることができる。その方法としては、2分子結合体が混在するMDI又はTDIを温浴等の方法で十分に加熱すればよい。
加熱する温度は、2分子結合体の含有量によって異なり一概にはいえないが、熱劣化するおそれがない点から、不活性ガス雰囲気下で、好ましくは50〜120℃、より好ましくは70〜100℃であり、加熱時間としては、好ましくは5〜30分、より好ましくは5〜10分である。
【0029】
MDI2分子結合体又はTDI2分子結合体とポリチオール化合物との反応は、モノマー組成物の重合工程において主に反応が進行する。
ウレタン系光学部材がプラスチックレンズである場合、注型重合法であることが好ましく、例えば、上記2分子結合体が混在するMDI又はTDI、もしくはこれら両方、及びポリチオール化合物、さらにその他の原料モノマー、並びに必要に応じ添加物を混合した混合物を、ガラス又は金属製のモールドと樹脂製のガスケットとを組み合わせたモールド型に注入して重合を行う。その際の重合温度及び重合時間は使用する原料の種類にもよるが、40〜90℃で重合を開始し、その後、5〜10時間かけて110〜130℃まで昇温し、10〜30時間加熱して硬化成形する。
【0030】
(原料モノマー)
本発明のウレタン系光学部材の製造方法に使用する原料としては、MDI及びTDIを含むポリイソシアネート化合物並びにポリチオール化合物の他に、一般的に光学部材の原料モノマーとして使用される重合性モノマーを使用してもよい。
【0031】
ポリイソシアネート化合物としては、芳香環を含むポリイソシアネート化合物、脂肪族ポリイソシアネート化合物及び脂環式ポリイソシアネート化合物等が挙げられる。
MDI及びTDI以外の芳香環を含むポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,3−フェニレンジイソシアネート、1,4−フェニレンジイソシアネート、o−キシリレンジイソシアネート、m−キシリレンジイソシアネート、p−キシリレンジイソシアネート、エチルフェニレンジイソシアネート、イソプロピルフェニレンジイソシアネート、ジエチルフェニレンジイソシアネート、ジイソプロピルフェニレンジイソシアネート、トリメチルベンゼントリイソシアネート、ベンゼントリイソシアネート、メチシレントリイソシアネート等を用いることができる。これらの芳香環を含むポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0032】
脂肪族ポリイソシアネート化合物としては、例えば、1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンエステルトリイソシアネート、1,3,6−ヘキサメチレントリイソシアネート等を用いることができ、脂環式ポリイソシアネート化合物としては、例えば、イソホロンジイソシアネート、ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ジシクロヘキシルメタン4,4’−ジイソシアネート、1,3−シクロヘキサンジイソシアネート、1,4−シクロヘキサンジイソシアネート、1,2−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,4−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、1,3,5−トリス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン、ビシクロヘプタントリイソシアネートビス(イソシアネートメチル)ジシクロへプタン等を用いることができる。これらの脂肪族及び脂環式ポリイソシアネート化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0033】
ポリチオール化合物としては、例えば、エチレングリコールビス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)、ジペンタエリスリトールヘキサキス(2−メルカプトアセテート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールエタントリス(3−メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリス(2−メルカプトアセテート)、トリメチロールプロパントリス(3−メルカプトプロピオネート)、ジクロロネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、ジブロモネオペンチルグリコールビス(3−メルカプトプロピオネート)、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン、4,5−ビスメルカプトメチル−1,3−ジチアン、ビス[(2−メルカプトエチル)チオ]−3−メルカプトプロパン、ビス(メルカプトメチル)−3,6,9−トリチアウンデカン−1,11−ジチオール、
【0034】
1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4−ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3,5−トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,4−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3,5−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3,4−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3,5−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4,5−テトラキス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、ビス(メルカプトメチル)スルフィド、ビス(メルカプトエチル)スルフィド、ビス(メルカプトプロピル)スルフィド、ビス(メルカプトメチルチオ)メタン、ビス(2−メルカプトエチルチオ)メタン、ビス(3−メルカプトプロピルチオ)メタン、1,2−ビス(メルカプトメチルチオ)エタン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)エタン、1,2−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)エタン、1,3−ビス(メルカプトメチルチオ)プロパン、1,3−ビス(2−メルカプトエチルチオ)プロパン、1,3−ビス(3−メルカプトプロピルチオ)プロパン、1,2−ビス(2−メルカプトエチルチオ)−3−メルカプトプロパン、3,4−チオフェンジチオール、テトラヒドロチオフェン−2,5−ビスメルカプトメチル、2,5−ジメルカプト−1,3,4−チアジアゾール、2,5−ジメルカプト−1,4−ジチアン等が挙げられる。これらのポリチオール化合物は、単独で用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0035】
(配合割合)
上記MDI及びTDIを含むポリイソシアネート化合物及びポリチオール化合物の配合割合は、NCO基/SH基のモル比が通常0.5〜2.0となる割合であればよく、好ましくは0.95〜1.05である。NCO基/SH基のモル比が0.95以上であれば未反応のNCO基がほぼ残らず、1.05以下であれば未反応のSH基がほぼ残らずに反応する。この範囲であれば未反応基の少ない理想的なポリマーを得ることができる。
【0036】
また、上記原料モノマーの他に、必要に応じて光学部材に使用される、重合触媒、離型剤、抗酸化剤、紫外線安定化剤、着色防止剤等の各種添加剤を使用してもよい。
【0037】
上述のように製造することができる本発明のウレタン系光学部材としては、例えば、眼鏡やカメラ等のプラスチックレンズ、プリズム、光ファイバー、光ディスク及び磁気ディスク等に用いられる記録媒体用基板、ワードプロセッサー等のディスプレイに付設する光学フィルターが挙げられる。
特に好適な光学部材としては、濁りやクモリのない透明性に優れたものであることから、プラスチックレンズ、とりわけ高屈折率が要求されている眼鏡用プラスチックレンズである。
【実施例】
【0038】
実施例により本発明を説明するが、本発明はこれら実施例に制限されるものではない。
実施例及び比較例において、下記の方法により物性評価を行った。
(1)外観
原料を混合した混合物の重合直前外観を目視により観察し、また重合後の得られたレンズを暗室内、蛍光灯下で目視により観察し、重合前外観及び重合後外観の色及び透明性を評価した。
<評価基準>
◎:重合直前、直後共に白濁は確認できず無色透明である
○:重合直前、直後共に白濁はほとんど確認できず略無色透明である
×:重合直前、直後共に白濁していて不透明である
(2)透過率
分光光度計「U3410」(日立製作所社製)を用いて、波長380−780nmにおける可視光線視感透過率を測定した。なお、作製したレンズの肉厚は2.00mmである。
(3)屈折率
得られたレンズの屈折率を、島津デバイス社製造製の精密屈折計(KPR−2000)を用いて、25℃、e線にて測定した。
【0039】
[実施例1]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.001質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.47g投入し、50℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度50℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0040】
[実施例2]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.005質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.48g投入し、70℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度70℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0041】
[実施例3]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.01質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.48g投入し、80℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0042】
[実施例4]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.03質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.48g投入し、80℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0043】
[比較例1]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.2質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.50g投入した。
上記MDIについて2分子結合体を溶解させる工程を行わず、MDIは粉体のままの状態で、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、80℃窒素パージ下5分攪拌して、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07を配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。
この混合物は白濁しており、24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0044】
[実施例5]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.05質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.48g投入し、80℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0045】
[比較例2]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.05質量%であるMDIを100mlナスフラスコに13.48g投入した。
上記MDIについて2分子結合体を溶解させる工程を行わず、MDIは粉体のままの状態で、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、30℃窒素パージ下5分間混合した。ついで、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合した。
この混合物はMDIの紛体が溶けずに固体として存在し、液も白濁していた。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0046】
[実施例6]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体含有量が0.05質量%であるMDIを100mlナスフラスコに6.73g投入し、次いで1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕4.56gを投入し、80℃窒素パージ下で5分攪拌して、これらを完全に溶解した。
次に、離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合し、0.13kPa(1.0torr)で2分減圧攪拌を行い混合物とした。これを24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合しレンズを得た。本実施例における上記物性評価の結果を表1に示す。
【0047】
[比較例3]
ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC−104:昭和電工社製)にてオリゴマー成分を定量した結果、MDIの2分子結合体が0.05質量%であるMDIを100mlナスフラスコに6.73g投入し、次いで1,6−ヘキサメチレンジイソシアネート〔HDI〕4.56gを投入した。この時に溶解させないまま直ちに離型剤としてブトキシエチルアシッドフォスフェート0.015g、重合触媒としてジメチル錫ジクロライド0.012gを添加し、30℃窒素パージ下3分攪拌して、次いで2,5−ビスメルカプトメチル−1,4−ジチアン〔DMMD〕7.44g、ペンタエリスリトールテトラキス(2−メルカプトアセテート)〔PETMA〕4.07gを配合した。
この混合物は比較例2同様にMDIが固体として存在し、液も白濁している状態であった。この混合物を24時間かけて初期温度80℃から最終温度120℃の温度プログラムにて重合し樹脂を得た。本比較例における上記物性評価の結果を表1に示す。なお、白濁のため、透過率の測定はせず、また屈折率は測定不能であった。
【0048】
【表1】
【0049】
表1から、実施例1〜6では無色透明のレンズが得られたため、2分子結合体がポリチオール化合物と反応し、特定の構造を形成してレンズを形成する構造中に取り込まれたことがわかる。一方、比較例1〜3では、得られたレンズが不透明となったため、2分子結合体がポリチオール化合物と反応せず、不純物として析出したことがわかる。
さらに、実施例5と比較例2、また実施例6と比較例3から、2分子結合体含有量が同じであっても、2分子結合体を溶解しポリイソシアネート化合物と反応させることにより、透明性に優れかつ高屈折率を有するレンズが得られることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明のウレタン系光学部材及びその製造方法は、濁りやクモリがなく透明性に優れ、かつ高屈折率を有しているため、プラスチックレンズの分野、特に眼鏡用プラスチックレンズに有用である。