(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記マッハツェンダ型光変調器を複数有し、これらの前記マッハツェンダ型光変調器が1つのマッハツェンダ型干渉計の内部に含まれる請求項10に記載の光導波路素子。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜4ではLiNbO
3や石英系の導波路を用いた導波路を想定しており、導波路は基本モードのみが伝播するように設計されている。これらの構成では、高次モードは放射モードであるから、放射する光を分離、除去、又は遮断する手法が利用されているが、Si/SiO
2導波路の比屈折率差は、LiNbO
3や石英系の導波路の比屈折率差に比べて格段に大きい。したがって、特許文献1〜4の技術をSi/SiO
2導波路に適用しようとしても、状況が大きく異なり、困難である。すなわち、Si/SiO
2導波路において基本モードのみを導波するためには、例えばクラッドがSiO
2でSiコアの厚さが220nmの導波路では、コア幅を450nm以下にする必要がある。しかし、導波路幅を小さくすると、エネルギー密度が上昇し、表面ラフネスの影響が大きくなることで導波路損失が増大する。本発明者らの検討によると、例えば、コア幅が500nmのとき導波路損失は0.16dB/mm程度であるのに対して、コア幅が400nmのとき導波路損失は0.40dB/mm程度となり、後者は前者の約2.5倍である。つまり、コア幅が狭いほど導波路損失が上昇し、表面ラフネスによる導波路特性の劣化が起こりやすい。
【0009】
導波路内で基本モードのみが導波されるために実効屈折率を低下させる手段として、導波路幅の変化だけではなく、導波路中の不純物濃度や、導波路深さを変化することなどが考えられる。しかし、不純物濃度の増加は光損失増加の原因となり、導波路深さの変化は製造プロセス上困難を伴う。このように、Si/SiO
2導波路において、基本モードのみが導波されるようにするには、導波路特性又は製造プロセス上大きな障害を伴う。
【0010】
一方、特許文献5に開示されている技術によれば、断熱遷移による分岐(分波)において高い分岐特性を得るためには、なだらかなテーパ部分が必要になる。非特許文献2の第四章のシミュレーションを参考にすると、断熱遷移による1次モード分岐に必要な分岐部の長さは、波長λを単位としておよそ1000λである。入射光の波長を1.55μmとすれば、テーパ部分の長さが約1.5mm必要になる。特許文献5の実施例1でも、入射光の波長1.5μmに対してテーパ長は2mmとされている。Si/SiO
2導波路のような比屈折率差の大きいデバイスは、高い屈折率差を利用したμmオーダーのデバイスによる光デバイスの小型化が大きな特徴であるから、特許文献5のテーパ部分のようなmmサイズのデバイスを組み込むことはできない。
さらに、製造上も問題がある。特許文献5では基本モード光と1次モード光の分離を断熱遷移で行なっているため、2つの導波路間隔は導波路幅に対して極めて小さくする必要がある。例えば、コア幅500nmのSi/SiO
2導波路の場合、導波路間隔によっては非常に困難を伴う。同様に、副導波路のテーパ構造をコア幅500nmのSi/SiO
2導波路で形成するのは製造上困難であり、大幅な製造コストの上昇を招く。
なお、非特許文献1には、偏波モードの分離が可能なデバイスについて開示されているが、モード数nの異なる伝播モードの分離(例えば基本モードと高次モードとの分離)が可能なデバイスについては開示されていない。
【0011】
本発明は、上記のような問題に鑑み、モード分離が可能なモードスプリッタを備える光導波路素子を提供することを課題とする。また、2種類以上の伝播モードが導波可能な導波路から構成されたマッハツェンダ型光変調器を備える光導波路素子において、光導波路からモード分離が可能なモードスプリッタを備える光導波路素子を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決するため、本発明は、基板上にコア及びクラッドを有する光導波路を備える光導波路素子であって、前記光導波路素子は、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な導波路を備えるマッハツェンダ型光変調器と、前記マッハツェンダ型光変調器の入力側である前段、出力側である後段、又は分波部と合波部との間である内部から選択される1箇所以上に設けられたモードスプリッタとを備え、前記コアの屈折率n
coreと前記クラッドの屈折率n
cladとの比であるn
core/n
cladが101〜250%の範囲内であり、前記モードスプリッタは、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な主導波路と、前記主導波路から一定の距離を空けて前記主導波路と平行に置かれた方向性結合器を構成する部分をもち、前記少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードのうち少なくとも1種類以上の伝播次数の異なる伝播モードを前記主導波路から分離させる副導波路とを備えることを特徴とする光導波路素子を提供する。
前記主導波路と前記副導波路が、±10%以内で略同一の幅を有することが好ましい。
前記主導波路と前記副導波路が、±10%以内で略同一の厚さを有することが好ましい。
前記方向性結合器を構成する部分の開始部分で、前記副導波路が前記主導波路になだらかに接近する構造をもつことが好ましい。
前記方向性結合器を構成する部分の終了部分で、前記副導波路が前記主導波路からなだらかに離れる構造をもつことが好ましい。
前記マッハツェンダ型光変調器を複数有し、これらの前記マッハツェンダ型光変調器が1つのマッハツェンダ型干渉計の内部に含まれてもよい。
前記副導波路が前記主導波路の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の前記副導波路の幅は、±10%以内で前記主導波路と略同一の幅を有し、前記副導波路と前記主導波路との間隔、及び前記副導波路が前記主導波路と平行に置かれた部分の長さが等しくてもよい。
前記副導波路が前記主導波路の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の前記副導波路の幅は、±10%以内で前記主導波路と略同一の幅を有し、前記副導波路と前記主導波路との間隔、又は前記副導波路が前記主導波路と平行に置かれた部分の長さが異なってもよい。
前記マッハツェンダ型光変調器の分波部及び合波部が、MMI型の光合分波器であってもよい。
前記マッハツェンダ型光変調器の分波部及び合波部が、Y型の光合分波器であってもよい。
前記コアの材料がSiであり、前記クラッドの材料がSiO
2であってもよい。
前記副導波路は、高次モードを前記主導波路から分離させるものでもよい。
前記高次モードの光が前記主導波路に再結合することを防ぐため、前記副導波路の終了部分の先端に、不純物を高濃度でドープした光吸収層を備えてもよい。
前記高次モードの光の光量をモニタリングするため、前記副導波路の終了部分の先端に、受光素子及びこの受光素子の電流を取り出すための電気配線を備えてもよい。
【0013】
また、本発明は、基板上にコア及びクラッドを有する光導波路を備える光導波路素子であって、前記光導波路素子は、モードスプリッタを備え、前記コアの屈折率n
coreと前記クラッドの屈折率n
cladとの比であるn
core/n
cladが101〜250%の範囲内であり、前記モードスプリッタは、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な主導波路と、前記主導波路から一定の距離を空けて前記主導波路と平行に置かれた方向性結合器を構成する部分をもち、前記少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードのうち少なくとも1種類以上の伝播次数の異なる伝播モードを前記主導波路から分離させる副導波路とを備えることを特徴とする光導波路素子を提供する。
前記主導波路と前記副導波路が、±10%以内で略同一の幅を有することが好ましい。
前記主導波路と前記副導波路が、±10%以内で略同一の厚さを有することが好ましい。
前記方向性結合器を構成する部分の開始部分で、前記副導波路が前記主導波路になだらかに接近する構造をもつことが好ましい。
前記方向性結合器を構成する部分の終了部分で、前記副導波路が前記主導波路からなだらかに離れる構造をもつことが好ましい。
前記副導波路が前記主導波路の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の前記副導波路の幅は、±10%以内で前記主導波路と略同一の幅を有し、前記副導波路と前記主導波路との間隔、及び前記副導波路が前記主導波路と平行に置かれた部分の長さが等しくてもよい。
前記副導波路が前記主導波路の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の前記副導波路の幅は、±10%以内で前記主導波路と略同一の幅を有し、前記副導波路と前記主導波路との間隔、又は前記副導波路が前記主導波路と平行に置かれた部分の長さが異なってもよい。
前記コアの材料がSiであり、前記クラッドの材料がSiO
2であってもよい。
前記副導波路は、高次モードを前記主導波路から分離させるものでもよい。
前記高次モードの光が前記主導波路に再結合することを防ぐため、前記副導波路の終了部分の先端に、不純物を高濃度でドープした光吸収層を備えてもよい。
前記高次モードの光の光量をモニタリングするため、前記副導波路の終了部分の先端に、受光素子及びこの受光素子の電流を取り出すための電気配線を備えてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の光導波路素子によれば、モードスプリッタにより、モード分離が可能になる。また、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な導波路を構成されるマッハツェンダ型光変調器において、光導波路から、モードスプリッタにより、モード分離が可能になる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、好適な実施の形態に基づき、図面を参照して本発明を説明する。
図1に、本発明の光導波路素子の第1実施形態を示す。この光導波路素子10は、
図1(d)に示すように、基板1上にコア2及びクラッド3を有する光導波路を備える。
図1(a)〜(c)では、コア2に相当する部分のみを図示し、これを光導波路として説明する。
【0017】
図1(a)に示すように、光導波路素子10は、マッハツェンダ型光変調器40を有する。このマッハツェンダ型光変調器40は、1つの入力光を2つの出力光に分波する光分波部42と、2つの入力光を1つの出力光に合波する光合波部46と、光変調部45を有する。光分波部42の1つの出力光は光変調部45を有する導波路43を介して光合波部46に入力され、光分波部42のもう1つの出力光は光変調部45を有しない導波路44を介して光合波部46に入力される。
光分波部42の前段の光導波路41から光分波部42に注入された光は2つに分波され、それぞれ別の導波路(アーム)43,44を伝播する。光変調部45は、一般に位相変調器である。光変調部45を介して伝播された光と光変調部45を介さないで伝播された光とが所定の位相差を有して光合波部46に注入されると、光合波部46で合波された光は位相差に応じて変調される。例えば、光合波部46に注入する2つの光の位相差により光信号のon状態とoff状態の切り替えを制御する。2つの光が同位相で光合波部46に注入された場合、合波された光は後段の光導波路47を基本モードで伝播し、光信号がon状態になる。それに対し、2つの光が逆位相で光合波部46に注入された場合、合波された光は後段の光導波路47に対して1次モードで伝播し、光信号がoff状態になる。導波路41,43,44,47として、マルチモード導波路のようにコア幅の広い導波路を用いると、表面ラフネスによる導波路特性の劣化が起こりにくいので好ましい。
【0018】
また、
図1の光導波路素子10は、マッハツェンダ型光変調器40の光合波部46の出力側である後段に設けられたモードスプリッタ20を備える。光合波部46の出力光は、出射側導波路47を介して、モードスプリッタ20に注入される。
マッハツェンダ型光変調器40の光分波部42及び光合波部46としては、特に限定されないが、例えばMMI型の分波器又は合波器、Y型の分波器又は合波器、方向性結合器等が挙げられる。
図1(b)に示すMMI(マルチモード干渉)型合分波器14は、導波路11,12,13よりも幅の広い所定の幅W
MMIと所定の長さL
MMIを有する。
導波路11,12から光を入力した場合、合分波器14の内部で各入力光をマルチモードで導波して干渉させることにより、各入力光を合波した光を導波路13から出力する。また、導波路13から光を入力した場合、合分波器14の内部で入力光をマルチモードで導波して干渉させることにより、複数の出力光に分波して導波路11,12から出力する。導波路11,12,13として、マルチモード導波路のようにコア幅の広い導波路を用いると、表面ラフネスによる導波路特性の劣化が起こりにくいので好ましい。
【0019】
図1(c)に示すように、モードスプリッタ20は、主導波路21と、主導波路21から離れて設けられた副導波路22を有する。主導波路21は、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な導波路であることが望ましい。主導波路21として、マルチモード導波路のようにコア幅の広い導波路を用いると、表面ラフネスによる導波路特性の劣化が起こりにくい。
副導波路22は、主導波路21により導波可能な少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードのうち少なくとも1種類以上の伝播次数の異なる伝播モードを主導波路21から分離させる。そのため、主導波路21及び副導波路22は、一定の距離を空けて互いに平行に置かれた結合部分21b,22bを有し、これらの結合部分21b,22bにより長さL
0の方向性結合器が構成される。さらに、図示例のモードスプリッタ20は、方向性結合器を構成する結合部分21b,22bの前にある開始部分21a,22aで、主導波路21及び副導波路22が互いになだらかに接近する構造をもつ。また、モードスプリッタ20は、結合部分21b,22bの後にある終了部分21c,22cで、主導波路21及び副導波路22が互いになだらかに離れる構造をもつ。副導波路22は、少なくとも2種類以上の伝播次数の異なる伝播モードが導波可能な導波路であってもよい。
【0020】
本発明のモードスプリッタについて、モード結合理論に基づき、説明する。主導波路の近傍に副導波路を平行に置くことで、方向性結合器を形成することができる。方向性結合器を形成すると、一般に主導波路のどのモードも副導波路のモードと結合する。主導波路のモードから副導波路のモードへの結合の強さは、下式(1)に示す結合係数χ
21で表される。
【0022】
式(1)で、Cは規格化定数を含んだ定数であり、n
coreはコアの屈折率、n
cladはクラッドの屈折率である。サブスクリプトの1と2は、それぞれ主導波路及び副導波路の固有モード(E
1及びE
2)を表している。x及びyは導波路の幅方向及び厚さ方向であり、積分範囲は副導波路のコア断面内である。
【0023】
式(1)から分かるように、結合係数の大きさは、主導波路の固有モードの電磁界分布が副導波路のコア断面内にどれだけ広がっているかに依存する。一般に、基本モードと高次モードとを比較すると、基本モードはコアの中央を伝播するのに対し、高次モードは基本モードに比べて導波路の外側を伝播する(例えば、後述する実施例1の
図11を参照)。そのため、1次モード等の高次モードは、基本モードに比べて、副導波路に結合しやすくなることが予想される。また、一般に、方向性結合器を形成する2つの導波路の間隔(例えば、
図1(d)の間隔w
0を参照)を広げていくと、基本モードと高次モードは共に結合係数が小さくなっていくが、基本モードの結合係数の減少が、1次モード等の高次モードの結合係数の減少に比べて急である(例えば、後述する実施例1の
図12を参照)。そのため、方向性結合器を形成する2つの導波路の間隔を適切に選ぶことにより、主導波路で導波可能な2種類以上の伝播モードの間で、結合係数χ
21の違いを十分に大きくすることができる。
【0024】
上述の式(1)によれば、コアの屈折率n
core及びクラッドの屈折率n
cladに対して、結合係数χ
21はn
core2−n
clad2に比例する。このため、モード間の結合係数の差を大きくするためには、屈折率差の大きい導波路構造を採用することが好ましい。例えば、n
core/n
cladが101〜250%の範囲内であることが好ましい。
例えばコアの材料がSi(屈折率3.475程度)であり、クラッドの材料がSiO
2(屈折率1.444程度)の場合、SOI(Silicon On Insulator)基板などの半導体向け材料を導波路材料に用いることができるので好ましい。
コアの材料としては、SiO
x(屈折率1.47)、SiON、SiNや非シリコン系の半導体材料(化合物半導体)などが挙げられる。
【0025】
方向性結合器では、2つの導波路構造(材料、寸法、形状等)が完全に対称的であれば、最大パワー移行率は100%である。逆に2つの導波路構造が異なり、モードの伝播定数が異なれば、最大パワー移行率は100%にならない。よって、1次モード等の高次モードを主導波路から副導波路へ効率よく移行させることを考える場合、主導波路と副導波路との導波路構造(材料、寸法、形状等)をなるべく同じようにすることが望ましい。例えば、主導波路の幅と副導波路の幅(例えば、
図1(d)の幅w
1及びw
2を参照)が、略同一であることが好ましい。例えばSi光導波路では、安価な製造を実現するため、KrF(248nm)を光源とする旧世代の露光機も用いられることがある。一般的な導波路コアの形成方法において露光マスクのアラインメントやエッチング等に誤差が生じるおそれがある。そこで、テーパ形状等(従来技術を参照。)の意図的な導波路幅(コア幅)の変更がない導波路として、例えば±10%以内で略同一の幅を有することが好ましい。
同様に、主導波路と副導波路とが、例えば±10%以内で略同一の厚さを有することが好ましい。
【0026】
方向性結合器において、主導波路から副導波路へのパワーの移行が最大になるまでの方向性結合器の長さは結合長と呼ばれる。結合長は、結合係数χ
21の強さに依存する。一般に、結合係数χ
21が小さいほど、結合長は長くなる(例えば、後述する実施例1の
図12と
図13を参照)。
例えば、基本モードの結合長が高次モードの結合長よりも十分長くなる条件下で、方向性結合器の長さを短くする(例えば高次モードの結合長と同程度又はそれ以下とする)と、基本モードの移行の割合が小さいまま、高次モードの移行の割合を十分に大きくすると、基本モードの移行が小さく、特定の高次モード(例えば1次モード)を主導波路から副導波路に分離させることが可能なモードスプリッタを実現することができる。
方向性結合器の長さが高次モードの結合長よりも長い場合、高次モードが主導波路と副導波路との間を交互に移行する。そこで、例えば、方向性結合器の長さを基本モードの結合長と同程度としたときに、高次モードが副導波路に移行している割合が小さい構造とした場合には、基本モードを主導波路から副導波路に分離させることが可能なモードスプリッタとなることも考えられる。
【0027】
モードスプリッタが、少なくとも基本モードと1次モードを伝播可能な主導波路に対して、副導波路が1次モードを主導波路から分離させるものである場合、小型化も容易であり、好ましい。合波器後の主導波路の近傍に、主導波路と平行に、主導波路と略同一の幅を有する副導波路を置いて方向性結合器を形成し、基本モード光と高次モード光との間で結合定数が著しく異なることを利用して、方向性結合器の長さや主導波路と副導波路との間隔を適切に選ぶことにより、基本モード光の損失を抑えたまま、高次モード光のみを主導波路から副導波路に分離させることにより、基本モード光のみを出力する合波器を構成することができる。
また、詳しくは後述するが、
図3や
図4に示すように、分波器へつながる主導波路の近傍に、主導波路と平行に、主導波路と略同一の幅を有する副導波路を置いて方向性結合器を形成し、基本モード光と高次モード光との間で結合定数が著しく異なることを利用して、方向性結合器の長さや主導波路と副導波路との間隔を適切に選ぶことにより、基本モード光の損失を抑えたまま、高次モード光のみを主導波路から副導波路に分離させることにより、分波器に注入する光から、高次モード光のみを除去し、又は減少させ、分岐比の劣化を抑制することができる。
【0028】
以上、本発明を好適な実施の形態に基づいて説明してきたが、本発明は上述の形態例に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
図2(a)に示す光導波路素子のモードスプリッタ20Aにおいて、副導波路は、方向性結合器を構成する部分である結合部分22bと、結合部分22bで分離したモードの光を取り出す終了部分22cを有するものの、副導波路が主導波路になだらかに接近する構造の開始部分(
図1(c)の符号22a)を有しない。
図2(b)に示す光導波路素子のモードスプリッタ30において、主導波路は、開始部分31aから結合部分31bを経て終了部分31cに至るまで全体が直線状である。モードスプリッタ30の副導波路は、副導波路が主導波路になだらかに接近する構造の開始部分32aと、方向性結合器を構成する部分である結合部分32bと、結合部分32bで分離したモードの光を取り出す終了部分32cを有する。
図2(c)に示す光導波路素子のモードスプリッタ30Aにおいて、主導波路は、開始部分31aから結合部分31bを経て終了部分31cに至るまで全体が直線状である。モードスプリッタ30Aの副導波路は、方向性結合器を構成する部分である結合部分32bと、結合部分32bで分離したモードの光を取り出す終了部分32cを有するものの、副導波路が主導波路になだらかに接近する構造の開始部分(
図2(b)の符号32a)を有しない。
なお、後述する第2〜第10実施形態等、他の実施形態においても、各モードスプリッタを
図2(a)〜(c)に示す上述のモードスプリッタ20A,30,30Aと同様のものを用いてよい。
図2(b)及び
図2(c)では、主導波路21を直線とし、副導波路22を曲線としたが、その反対に、主導波路21を曲線とし、副導波路22を直線とすることもできる。
【0029】
主導波路と副導波路との対称性の観点からは、少なくとも方向性結合器の部分の近傍において、
図1(c)に示すように、主導波路と副導波路とが対称的な平面形状を有することが好ましい。この検討については後述の実施例2(特に
図19(a)及び
図19(b)の比較)において有限差分時間領域(Finite-Difference Time Domain:FDTD)法による電磁界シミュレーションにより比較検討されている。
図2(c)に示す光導波路素子のモードスプリッタ30Aの主導波路の終了部分31cを副導波路の終了部分32cと同様の曲げ構造で曲げることによりモードスプリッタ30Aに対称性を持たせたものが、モードスプリッタ20Aを持つ
図2(a)に示す光導波路素子である。同様に、
図2(b)に示す光導波路素子のモードスプリッタ30の主導波路の開始部分31aを副導波路の開始部分32aと同様の曲げ構造で曲げ、主導波路の終了部分31cを副導波路の終了部分32cと同様の曲げ構造で曲げることによりモードスプリッタ30に対称性を持たせたものが、
図1(c)のモードスプリッタ20を持つ
図1(a)に示す光導波路素子である。
図1(c)のモードスプリッタ20では、方向性結合器を構成する結合部分21b,22bの中間線を対称中心線(対称軸)として、主導波路の開始部分21aと副導波路の開始部分22aとが対称とされ、主導波路の結合部分21bと副導波路の結合部分22bとが対称とされ、主導波路の終了部分21cと副導波路の終了部分22cとが対称とされている。主導波路の曲線部分(21a,21c)の曲率半径が、副導波路の曲線部分(22a,22c)の曲率半径と等しいか、前者が後者より大きいか、前者が後者より小さいかは、適宜選択可能である。
主導波路と副導波路との間が十分に離れた箇所では、基板上で所望の配置をとるように導波路を延ばしたり、曲げたりすることができ、また、導波路の向きや長さ等を自由に設定できることはいうまでもない。主導波路や副導波路の幅は、方向性結合器の部分の近傍のみならず、全体的に略同一の幅にすることもできる。
【0030】
副導波路が主導波路の基本モードに及ぼす影響は小さいが、副導波路が主導波路になだらかに接近する構造の開始部分を有する場合、損失をさらに低減することができ、好ましい。この検討については後述の実施例2(特に
図19(b)及び
図19(c)の比較)においてFDTD法(上述)による電磁界シミュレーションにより比較検討されている。
図2(c)に示す光導波路素子のモードスプリッタ30Aの副導波路の開始部分を副導波路の終了部分32cと同様の曲げ構造で曲げることによりモードスプリッタ30Aになだらかな接近部分を持たせたものが、モードスプリッタ30を持つ
図2(b)に示す光導波路素子である。同様に、
図2(a)に示す光導波路素子のモードスプリッタ20Aの副導波路の開始部分を副導波路の終了部分22cと同様の曲げ構造で曲げることによりモードスプリッタ20Aになだらかな接近部分を持たせたものが、
図1(c)のモードスプリッタ20を持つ
図1(a)に示す光導波路素子である。主導波路を通る光は、近くに副導波路が不連続的に出現すると、光の反射や擾乱を受けやすい。副導波路が主導波路になだらかに接近することで、これらの損失をさらに低下することができる。
同様に、副導波路が主導波路からなだらかに離れる構造の終了部分を有する場合、損失をさらに低減することができ、好ましい。
導波路におけるなだらかに接近、又は離れる構造は、円弧、楕円弧、放物線、双曲線などの曲線に沿って構成されることが好ましい。その曲率半径は、例えば10μm以上であることが好ましい。直線の曲率半径は∞であることから、直線部と曲線部とが連続的に接続するための曲率半径に特に上限はないが、直線部に近接する曲線部の曲率半径として、例えば数十〜数百μmが挙げられる。
図1(c)のモードスプリッタ20では、方向性結合器を構成する結合部分21b,22bに垂直な二等分線を対称中心線(対称軸)として、主導波路の開始部分21aと主導波路の終了部分21cとが対称とされ、副導波路の開始部分22aと副導波路の終了部分22cとが対称とされている。開始部分の曲率半径が、終了部分の曲率半径と等しいか、前者が後者より大きいか、前者が後者より小さいかは、適宜選択可能である。
【0031】
図3に、光導波路素子の第2実施形態を示す。この光導波路素子の場合、マッハツェンダ型光変調器40の光分波部42の前段の光導波路41にもモードスプリッタ20の主導波路21が接続されている。光分波部42に光が入力される前に1次モード光を副導波路22へ分離することにより、マッハツェンダ型光変調器40の消光比の劣化を抑制することができる。
【0032】
図4に、光導波路素子の第3実施形態を示す。この光導波路素子の場合、マッハツェンダ型光変調器40の光分波部42の前段の光導波路41のみにモードスプリッタ20の主導波路21が接続されている。光分波部42に光が入力される前に1次モード光を副導波路22へ分離することにより、マッハツェンダ型光変調器40の消光比の劣化を抑制することができる。
【0033】
図5に、光導波路素子の第4実施形態を示す。この光導波路素子の場合、マッハツェンダ型光変調器40の内部(光分波部42と光合波部46との間)の導波路43,44にもモードスプリッタ20の主導波路21が接続されている。光合波部46に光が入力される前に1次モード光を副導波路22へ分離することにより、マッハツェンダ型光変調器40の消光比の劣化を抑制することができる。
【0034】
図6に、光導波路素子の第5実施形態を示す。この光導波路素子の場合、マッハツェンダ型光変調器40の光合波部46の後段に設けられたモードスプリッタ20の副導波路22の終了部分の先端に、不純物を高濃度でドープした光吸収層23を備える。光吸収層23で高次モード光を吸収することにより、高次モード光が主導波路21に再結合することを防ぐことができる。
モードスプリッタ20が光分波部42の前段に設けられた場合(
図3,4参照)や、マッハツェンダ型光変調器40の内部の導波路43,44に設けられた場合(
図5参照)等、他の実施形態においても、副導波路22の終了部分の先端に、光吸収層23を設けてもよい。
【0035】
図7に、光導波路素子の第6実施形態を示す。この光導波路素子の場合、マッハツェンダ型光変調器40の光合波部46の後段に設けられたモードスプリッタ20の副導波路22の終了部分22cの先端部22dに、受光素子(PD:Photo Detector)24及びこのPD24の電流を取り出すための電気配線25を備える。PD24の設置により、副導波路22に分岐する高次モードの光の光量をモニタリングすることができる。このモニタリングにより、例えば経年劣化や、駆動中の温度等の環境変化による動作のずれを検出することができる。
モードスプリッタ20が光分波部42の前段に設けられた場合(
図3,4参照)や、マッハツェンダ型光変調器40の内部の導波路43,44に設けられた場合(
図5参照)等、他の実施形態においても、副導波路22の終了部分22cの先端に、PD24及び電気配線25を設けてもよい。マッハツェンダ型光変調器40においては、PD24を用いてモニタリングした結果を用いて、制御部により、光変調部45の動作条件(例えば電気制御の場合は印加電圧など)を調整してフィードバックすることができる。
PDは、基板上に配置することが好ましく、該部品を基板上に実装してもよい。半導体基板を用いた場合には、PDを半導体素子として、光導波路と同一の基板上に集積することもできる。Si/SiO
2導波路を有するSi基板上に集積可能なPDとしては、例えばゲルマニウム(Ge)PD等のIV族半導体PDやインジウムリン(InP)系のPD等やガリウム砒素(GaAs)等のIII−V族化合物半導体PDが挙げられる。
電気配線25は、例えば基板上に(必要であれば絶縁層を介して)、1つのPD24につき平行に2本設けたり、その他PD24に必要な本数設けることができる。
図7に示す例では、副導波路22と主導波路21とが互いになだらかに離れる構造の終了部分21c,22cを有し、副導波路の終了部分22cの先端部22dは、PD24に向かって徐々に曲率半径を増大させ、最終的には直線状の導波路となってPD24に接続されている。
【0036】
モニターPDへの導波光を増大するために、副導波路の終了部分22cでの曲率半径を大きくすることで、副導波路の終了部分22cでの高次モード光の曲げ損失を低減させることができる。特に曲げ損失を完全になくすためには、主導波路21の終了部分21cの曲線部を残したまま副導波路の終了部分22cを直線とすることで可能となる。この場合は、方向性結合器の対称性がなくなり主導波路21からの高次モードの除去率は下がるものの、分離した高次モード光の曲げ損失を低下することが可能である。この場合、副導波路の開始部分22aは図示したように曲げたまま、終了部分22cを、結合部分22bの延長線上に延ばしてもよい。また、副導波路の終了部分22cのうち、結合部分22bに近い部分は主導波路21からある程度離れるまで曲げ、主導波路21からある程度離れた先はPD24まで直線とする(結合部分22bの延長線に対して傾斜させる)ことも可能である。
【0037】
図6や
図7に示すように、副導波路22の終了部分に、光吸収層23又はPD24を設ける場合、副導波路22の終了部分は、光吸収層23又はPD24に至るまで、略同一の幅で延ばすことが好ましい。これにより、光吸収層23又はPD24を基板上で所望の位置に配置できる上、副導波路22に分岐された高次モード光が、副導波路22から基板内に漏れることを抑制できる。
図3、
図5、
図8(a)、
図8(b)、
図9に示すように、光導波路素子が2本以上の副導波路22を有する場合、全部またはいずれか1本以上の副導波路22の終了部分の先端に、光吸収層23又はPD24を設けることができる。いずれかの副導波路22の終了部分の先端に光吸収層23を設け、さらに別の副導波路22の終了部分の先端にPD24を設ける等、任意に設計することが可能である。
【0038】
図8(a)に、光導波路素子の第7実施形態を示す。この光導波路素子は、光合波部46の後段において、副導波路22が主導波路21の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の副導波路22の幅は、±10%以内で主導波路21と略同一の幅を有する。副導波路22と主導波路21との間隔(
図1(d)の間隔w
0)、及び副導波路22が主導波路21と平行に置かれた部分の長さ(
図1(c)の結合部分21b,22bの長さL
0)が等しく、各副導波路22が主導波路21に沿った部分に、同等の波長特性を有するモードスプリッタ20が構成される。これにより、副導波路22に分離すべき光(例えば1次モード光)の除去率を高めることができる。
【0039】
図8(b)に、光導波路素子の第8実施形態を示す。この光導波路素子は、光合波部46の後段において、副導波路22が主導波路21の長手方向の異なる位置に2本以上あり、各々の副導波路22の幅は、±10%以内で主導波路21と略同一の幅を有する。副導波路22と主導波路21との間隔や、副導波路22が主導波路21と平行に置かれた部分の長さ等が異なり、各副導波路22が主導波路21に沿った部分に、異なる波長特性を有するモードスプリッタ20,200が構成される。これにより、副導波路22に分離すべき光(例えば1次モード光)の除去される波長帯域を広げることができる。例えば、
図8(b)の例では、モードスプリッタ200はモードスプリッタ20と比べて、副導波路22と主導波路21との間隔を広くしているが、特にこれに限定されない。
【0040】
図8(a)や
図8(b)に示す例は、光合波部46の後段において、副導波路22が主導波路21の長手方向の異なる位置に2本以上設けられた構成であるが、光分波部42の前段にモードスプリッタ20を設ける場合(
図3,4参照)や、マッハツェンダ型光変調器40の内部の導波路43,44にモードスプリッタ20を設ける場合(
図5参照)等、他の実施形態でも同様に、副導波路22を主導波路21の長手方向の異なる位置に2本以上設けることができる。その場合も、各々の副導波路22の幅は、±10%以内で主導波路21と略同一の幅を有することが好ましい。同等の波長特性を有する複数のモードスプリッタ20を構成した場合、副導波路22に分離すべき光(例えば1次モード光)の除去率を高めることができる。異なる波長特性を有する複数のモードスプリッタ20,200を構成した場合。これにより、副導波路22に除去される波長帯域を広げることができる。
【0041】
図9に、光導波路素子の第9実施形態を示す。この光導波路素子は、複数のマッハツェンダ型光変調器40A,40Bを有する。これらのマッハツェンダ型光変調器40A,40Bの前段に1×2の光分波部48を配置して、光分波部48に注入された光は2つに分波され、それぞれ別のマッハツェンダ型光変調器40A,40Bに注入される。また、マッハツェンダ型光変調器40A,40Bの後段に2×1の光合波部49を配置して、それぞれのマッハツェンダ型光変調器40A,40Bの主力を合波して出力することができる。このように、光分波部48と光合波部49とで構成される1つのマッハツェンダ型干渉計の内部に複数のマッハツェンダ型光変調器40A,40Bが含まれる構成にも、本発明のモードスプリッタ20を設けることができる。
【0042】
図10に、光導波路素子の第10実施形態を示す。この光導波路素子100は、マッハツェンダ型光変調器400の光分波部42及び光合波部46に用いる合分波器として、Y型合分波器15を有するほかは、
図1(a)の光導波路素子10と同様に構成されている。
図2〜
図9に示す光導波路素子等、他の実施形態においても、MMI型合分波器14の代わりにY型合分波器15を用いることができることは言うまでもない。
【実施例】
【0043】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明する。なお、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。
【0044】
<実施例1>
光導波路と光分波部及び光合波部は、クラッド領域をSiO
2、コア領域をSiとして構成した。導波路コア領域の厚さ(
図1(d)のt
0参照)は220nmとし、導波路コア領域の幅(
図1(d)のw
1及びw
2参照)は500nmとした。コアの上下には光がそれぞれ基板及び空気に触れないようにクラッドを設けた。クラッドの厚さ(
図1(d)のt
1及びt
2参照)は上下のそれぞれに2μmとした。クラッドは、コアの側方及び導波路間にも形成した。
【0045】
上記光導波路を1本単独に配置したときの、基本モード及び1次モードの電磁界分布をシミュレーションにより解析した。電磁界分布の解析結果を
図11に示す。(a)の基本モードはコアの中央を伝播するのに対し、(b)の高次モードは基本モードに比べて導波路の外側を伝播することが分かった。
【0046】
マッハツェンダ型光変調器の光合波部及び光分波部にはMMI合分波器を用いた。その幅(
図1(b)のW
MMI参照)は1.5μmで、長さ(
図1(b)のL
MMI参照)は1.7〜1.9μmとした。MMI分波器の片側には1本の導波路を結合し、反対側には、2本の導波路を結合した。
光分波部の前段(入射側)の導波路を主導波路とし、これと平行に、かつ間隔を空けて副導波路を置いた。副導波路への最大移行パワーをできる限り100%に近づけるため、副導波路の導波路幅は主導波路と同じ幅とした。主導波路と副導波路との間隔(導波路間隔)は、近すぎると主導波路から副導波路への基本モードの結合が強くなってしまい、基本モード光の損失が増大する。逆に副導波路を主導波路から離しすぎると、主導波路から副導波路への1次モードの結合が弱くなり、非常に長い副導波路長が必要になる。
【0047】
導波路間隔を求めるため、上記光導波路を2本配置した方向性結合器について、有限要素法によるモード解析の結果から結合係数を算出し、さらに、その結合係数から結合長を計算した。導波路間隔(
図12〜15で同じ。)は、0.15〜0.85μmの範囲内で0.05μmごとに設定した。
結合係数と導波路間隔との関係を求めた結果を
図12に示す。導波路間隔を広げていくと、基本モードと1次モードの結合係数χは共に小さくなっていくが、基本モードの結合係数χの減少が、1次モードの結合係数χの減少に比べて急であることが分かった。
また、結合長と導波路間隔との関係を求めた結果を
図13に示す。導波路間隔を0.5μmとすると、基本モードの結合長は504μmであるが、1次モードの結合長は16μmであった。導波路間隔によって、基本モード及び1次モードの結合効率及び結合長が決まるので、副導波路が主導波路に沿って平行となる部分の長さ(副導波路長)を1次モードの結合長と等しくした。主導波路と副導波路とが対称的であると仮定すると、副導波路長を1次モードの結合長と等しくすれば、1次モード光を100%副導波路に移行させることができる。また、このとき基本モード光が副導波路に移行する割合は、sin
2(π/2×16/504)=0.0025、すなわち0.25%の移行にとどまる。すなわち、基本モード光の損失は0.01dBであり、1次モードを完全に分離することができる。
【0048】
さらに上述の副導波路長(bypass length)について検討するため、有限差分時間領域(Finite-Difference Time Domain:FDTD)法による電磁界シミュレーションを行った。光の波長は、光通信で一般的に用いられる1.55μmとした。主導波路は直線状とし、副導波路には曲げ部を設けた。
図14〜15において、各データ系列(マーカー付き折れ線)と導波路間隔(0.15〜0.85μm)との対応はグラフ右側の枠中に示す。
【0049】
MMI型分波器の前段のモードスプリッタに基本モード光が注入される場合を想定し、複数の導波路間隔における基本モード光の強度と副導波路長との関係を求めた。その結果を
図14に示す。この結果から、導波路間隔が0.4μm以下では基本モードが副導波路へ強く結合してしまい、大きな導波路損失を生じていることが分かった。
【0050】
逆に、MMI型分波器の前段のモードスプリッタに1次モード光が注入される場合を想定し、複数の導波路間隔における1次モード光の強度と副導波路長との関係を求めた。その結果を
図15に示す。導波路間隔が狭いと、結合係数が大きく、短い副導波路長で光の最大移行点を迎え、その後、副導波路から主導波路へ光が戻ってきていることが分かる。
図15から把握される1次モードの結合長は、有限要素法で計算した
図13に示す結合長とほぼ一致する。
副導波路長が短い場合に最大パワー移行効率が小さいのは、副導波路の開始点と終点での非対称性が影響しているためと考えられる。導波路間隔が広いと、結合が小さくなり、副導波路長を長くしないと副導波路への移行が見られない。
【0051】
上述したように、導波路間隔が0.4μm以下では基本モード光の損失が大きいので、導波路間隔は0.4μmより大きいことが好ましいと考えられる。
そこで、実施例1では、導波路間隔(
図1(d)のw
0参照)を0.5μm(500nm)、副導波路長を16μmとした。1次モード光を注入したときは、副導波路に移行した光に対して主導波路に残った光は−12.5dBであった。また、基本モード光を注入したときは、主導波路に残った光に対して副導波路に移行した光は−25dBであった。
【0052】
実施例1の光分波器では、前段のモードスプリッタとして方向性結合器を用いているため、波長変化による特性の変化を検証した。上述の条件下(導波路間隔0.5μm、副導波路長16μm)で入射波長を変化させ、光分波器の直前における1次モード光のパワーの波長依存性を計算した。その結果(波長1.53〜1.61μm)を
図16に示す。長波長側で、副導波路による1次モード光の除去率の低下が見られるが、それでも−18dB以下になるまでで1次モード光を除去しており、C−band及びL−bandの全域で1次モード光の除去効果があることが分かった。
さらに、実施例1で副導波路を設けたことによる基本モード光の損失(Loss)を計算した。その結果(波長1.53〜1.61μm)を
図17に示す。基本モード光の損失は、C−band及びL−bandの全域で0.016dB以下であり、実用上問題にならないと考えられる。
【0053】
副導波路に移行した1次モード光が再度主導波路に戻らないように、副導波路の最後に、主導波路からなだらかに離れる曲げ部を設けた。曲げ部の曲率半径が小さいと1次モード光が副導波路から漏れてしまい、クラッドを経て主導波路と再結合する可能性がある。そこで、1次モード光の漏れが少なくなるように、曲げ部の曲率半径を100μmとした。
【0054】
1次モードの除去によるMMI型分波器の分岐比の変化を、FDTD法(上述)による電磁界シミュレーションによって検討した。まず、基本モード光と1次モード光を種々の比率でMMI型分波器に混入した場合の分岐比の変化の様子を
図18のグラフに示す。
モードスプリッタがないMMI型分波器の場合、わずか2%の1次モード光の混入により、分波器から右側のアームに対して左側のアームのパワーは−2.77dBとなった。
実施例1で最適化したモードスプリッタ(導波路間隔0.5μm、副導波路長16μm)をもつ場合、両アームでの分岐比は0.24dBまで改善された。このようなモードスプリッタの有無による分岐比の違いは、消光比の低下をMMI光分波器の分岐比不均等だけが原因と考えれば、消光比が5.58dBから15.5dBに改善されたことを意味する。したがって、マッハツェンダ型光変調器の分波部の前段にモードスプリッタを設けることにより、分岐比の大幅な改善が期待できる。
【0055】
<実施例2>
実施例2においても、実施例1と同様の光導波路構造を採用した。具体的には、クラッドの材料がSiO
2、コアの材料がSi、コアの厚さが220nm、コアの幅(導波路幅)が500nm、クラッドの厚さがコアの上下のそれぞれに2μmである。
【0056】
モードスプリッタの平面形状について、FDTD法(上述)による電磁界シミュレーションによって検討した。まず、モードスプリッタに1次モード光を注入した場合の光の伝播の様子を
図19に示す。
図19(a)は、主導波路(図中の左側)が直線状で、副導波路(図中の右側)がその終点側に副導波路が主導波路からなだらかに離れる構造をもつモードスプリッタを示す。
図19(b)は、主導波路及び副導波路がそれぞれの終点側に、相手側からなだらかに離れる構造をもつモードスプリッタを示す。
図19(c)は、主導波路及び副導波路が、それぞれの開始側に、相手側になだらかに接近する構造をもち、それぞれの終点側に、相手側からなだらかに離れる構造をもつモードスプリッタを示す。
いずれも1次モード光が副導波路に移行するが、詳しくは後述するように、
図19(a)で主導波路に残る1次モード光が若干ながら認められる。
図19(b)では主導波路に残る1次モード光は僅かであり、
図19(c)では主導波路に残る1次モード光は全く見えない。
【0057】
図20に、
図19(c)の構造で、主導波路と副導波路が平行に沿う直線部の長さに対して、分岐比がどのように変化するかを検討した結果を示す。ここでの分岐比とは、副導波路に移行する1次モード光のパワーと主導波路に残留する1次モード光のパワーとの比をデシベル(dB)表示にしたものをいう。
方向性結合器となる直線部の前後に設けられる曲げ部の曲率半径は、40μm、60μm、100μmの3種類とした。それぞれ、
図20のグラフ中では、「R=40」、「R=60」、「R=100」と表示する。
その結果、曲げ部の曲率半径を大きくしたほうが、直線部の長さを最適化したときの分岐比(各折れ線における分岐比の最大値)が良くなる傾向が示された。なお、ここでは、具体的な結果を示していないが、本発明者らの検討によれば、
図19(a)や
図19(b)の構造でも、同様に、曲げ部の曲率半径を大きくしたほうが、直線部の長さを最適化したときの分岐比が良くなる傾向が認められた。
【0058】
図21に、
図19の(a)、(b)、(c)の3種類の構造について、最適化された分岐比と曲線部の曲率半径との関係を検討した結果を示す。曲線部の曲率半径としては、20μm、40μm、60μm、100μmの中から3〜4種類を選択した。(a)に比べて(b)とすることにより、さらに(c)とすることにより、分岐比がより良くなる結果が示された。
ここでの「最適化された分岐比」とは、各構造ごとに、直線部の長さを最適化したときの分岐比をいう。したがって、
図21の(c)に挙げる分岐比は、
図20から示される「最適化された分岐比」と同一の値である。
【0059】
図19〜
図21に示す、以上の検討に基づき、
図19(c)において、直線部の長さは2μm、曲げ部の曲率半径は100μmとしたモードスプリッタにおける基本モード光の伝播の様子を検討した。その結果を
図22に示す。この結果では、副導波路に移行する基本モード光は全く見えず、基本モード光は全て主導波路を伝播した。具体的には、分岐比(損失)として−30.5dBであり、非常に低損失であった。
【0060】
<実施例3>
クラッド領域をSiO
2、コア領域をSiとして導波路及び合分波器を構成した。コアの厚さは220nmとし、コアの幅(導波路幅)は500nmとした。コアの上下には光がそれぞれ基板及び空気に触れないようにクラッドを設けた。クラッドの厚さは上下のそれぞれに2μmとした。クラッドは、コアの側方及び導波路間にも形成した。
マッハツェンダ型光変調器の光合波部及び光分波部にはMMI型の合分波器を用いた。その幅W
MMIは1.5μmで、長さL
MMIは1.8μmとした。合分波器の片側に2本の光導波路が結合する箇所では、並行する導波路の間隔を0.3μmとした。
光合波部の後段(出射側)の導波路を主導波路とし、これと平行に、かつ間隔を空けて副導波路を置いた(
図1(a)参照)。副導波路への最大移行パワーをできる限り100%に近づけるため、副導波路の導波路幅は主導波路と同じ幅とした。実施例1,2の検討に基づき、副導波路と主導波路との間隔は0.5μm(500nm)とした。
主導波路と副導波路が接近及び離れる際に、急激な変化があると導波光の揺動を起こし、損失低下をもたらすため、接近及び離れはなだらかであることが好ましい。しかし、接近部及び離れ部でも高次モードの結合は弱いながらも行われるため、なだらかにしすぎるのも適切ではない。そこで、実施例2の検討に基づき、
図19(c)や
図22に示すように、主導波路と副導波路のそれぞれに、接近部及び離れ部の曲率半径を100μmとし、直線部の長さを2μmとした。これにより、高次モードが効率よく主導波路から副導波路に移行し、しかも基本モードの移行をほとんどなくすことができる。
【0061】
<実施例4>
クラッド領域をSiO
2、コア領域をSiとして導波路及び合分波器を構成した。コアの厚さは220nmとし、コアの幅(導波路幅)は600nmとした。コアの上下には光がそれぞれ基板及び空気に触れないようにクラッドを設けた。クラッドの厚さは上下のそれぞれに2μmとした。クラッドは、コアの側方及び導波路間にも形成した。
マッハツェンダ型光変調器の光合波部及び光分波部にはMMI型の合分波器を用いた。その幅W
MMIは1.7μmで、長さL
MMIは2.4μmとした。合分波器の片側に2本の光導波路が結合する箇所では、並行する導波路の間隔を0.3μmとした。
光合波部の後段(出射側)の導波路を主導波路とし、これと平行に、かつ間隔を空けて副導波路を置いた(
図1(a)参照)。
実施例1〜3と同様に、600nmの導波路幅でも最適な導波路間隔を検討した結果、副導波路と主導波路との間隔は0.5μm(500nm)とした。また、
図19(c)や
図22に示すように、主導波路と副導波路のそれぞれに、接近部及び離れ部の曲率半径を100μmとしたとき、最適な直線部の長さをシミュレーションにより9μmと求めた。これにより、高次モードが効率よく主導波路から副導波路に移行し、しかも基本モードの移行をほとんどなくすことができる。
【0062】
<実施例5>
実施例3,4と同じ副導波路を、マッハツェンダ型光変調器の光合波部の後段(出射側)に配置する代わりに、光分波部の前段(入射側)に配置した(
図4参照)。
また、実施例3,4と同じ副導波路を、マッハツェンダ型光変調器の光分波部の前段、及び光合波部の後段の両方に配置した(
図3参照)。
また、実施例3,4と同じ副導波路を、マッハツェンダ型光変調器の内部にも配置した(
図5参照)。