特許第5747006号(P5747006)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5747006
(24)【登録日】2015年5月15日
(45)【発行日】2015年7月8日
(54)【発明の名称】車体側部構造
(51)【国際特許分類】
   B62D 25/04 20060101AFI20150618BHJP
【FI】
   B62D25/04 A
   B62D25/04 B
【請求項の数】7
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-194835(P2012-194835)
(22)【出願日】2012年9月5日
(65)【公開番号】特開2014-51117(P2014-51117A)
(43)【公開日】2014年3月20日
【審査請求日】2014年6月21日
(73)【特許権者】
【識別番号】000241496
【氏名又は名称】豊田鉄工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【弁理士】
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】加納 光寿
【審査官】 鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−118633(JP,A)
【文献】 特開平6−1262(JP,A)
【文献】 特開2002−87322(JP,A)
【文献】 再公表特許第2008/123506(JP,A1)
【文献】 特開2008−62707(JP,A)
【文献】 特開2013−14186(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フロントピラーに固定窓が設けられる車体側部構造において、
前記フロントピラーは、
前記固定窓の上方位置を含めてフロントガラスの側端縁に沿って設けられるとともに、車両上方側へ膨出するように湾曲させられてセンターピラー上部に到達し、両端部がそれぞれフロントピラーロアおよび該センターピラー上部に固定される中空の第1の筒体と、
前記固定窓の車両後方側の端縁に沿って上下方向に設けられるとともに、上方へ向かうに従って車両後方側へ曲げられて前記第1の筒体と平行になるように合流し、前記センターピラー上部に向かって該第1の筒体に沿って配設され、両端部がそれぞれ前記フロントピラーロアおよび該センターピラー上部に固定される中空の第2の筒体と、を備えており、
且つ、少なくとも前記第2の筒体が前記固定窓の車両後方部分から前記第1の筒体に合流する曲げ成形部、および該第1の筒体および該第2の筒体が互いに合流する合流部分が、熱処理によって高強度化されている
ことを特徴とする車体側部構造。
【請求項2】
前記第1の筒体および前記第2の筒体の少なくとも一方には、前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間の中間位置に、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられる屈曲部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の車体側部構造。
【請求項3】
前記第1の筒体および前記第2の筒体の少なくとも一方には、前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間の中間位置に、両側が前記熱処理により高強度化されることにより局部的に低強度とされ、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられる低強度部が設けられている
ことを特徴とする請求項1に記載の車体側部構造。
【請求項4】
前記第1の筒体および前記第2の筒体には、それぞれ外周側へ突き出す突条が該筒体の長手方向に設けられている
ことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の車体側部構造。
【請求項5】
前記第1の筒体および前記第2の筒体が並んで配置される前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間では、各筒体に設けられた前記突条が互いに接するように重ね合わされて溶接されている
ことを特徴とする請求項4に記載の車体側部構造。
【請求項6】
前記第1の筒体および前記第2の筒体が互いに分岐している前記合流部分と前記フロントピラーロア側の端部との間では、各筒体に設けられた前記突条に前記固定窓が取り付けられる
ことを特徴とする請求項4または5に記載の車体側部構造。
【請求項7】
前記第1の筒体の前記突条に前記フロントガラスが取り付けられ、
前記第2の筒体の前記突条にウェザーストリップが取り付けられる
ことを特徴とする請求項4に記載の車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は車体側部構造に係り、特に、車両の前面衝突時のフロントピラーの応力集中を低減するとともにフロントピラーの死角を小さく抑える技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
フロントピラーに三角窓等の固定窓が設けられる車体側部構造が知られている。特許文献1に記載の車両はその一例で、ルーフサイドレール部を含むフロントピラーには斜めにディビジョンバーが設けられ、ディビジョンバーとフロントピラーとの間に固定窓が設けられるようになっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−62707号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような従来の車体側部構造においては、ディビジョンバーの上端がフロントピラーの中間位置に連結されているため、前面衝突時等にそれ等の連結部に応力集中が生じ易く、十分な強度を確保するために大きな断面積の部材を用いると、フロントピラー部分の死角が大きくなって車両斜め前方の視認性が悪くなるという問題があった。
【0005】
本発明は以上の事情を背景として為されたもので、その目的とするところは、フロントピラーに固定窓が設けられる車体側部構造において、車両の前面衝突時のフロントピラーの応力集中を低減するとともにフロントピラーの死角を小さくして車両斜め前方の視認性を向上させることにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的を達成するために、第1発明は、フロントピラーに固定窓が設けられる車体側部構造において、(a) 前記フロントピラーは、(a-1) 前記固定窓の上方位置を含めてフロントガラスの側端縁に沿って設けられるとともに、車両上方側へ膨出するように湾曲させられてセンターピラー上部に到達し、両端部がそれぞれフロントピラーロアおよびそのセンターピラー上部に固定される中空の第1の筒体と、(a-2) 前記固定窓の車両後方側の端縁に沿って上下方向に設けられるとともに、上方へ向かうに従って車両後方側へ曲げられて前記第1の筒体と平行になるように合流し、前記センターピラー上部に向かってその第1の筒体に沿って配設され、両端部がそれぞれ前記フロントピラーロアおよびそのセンターピラー上部に固定される中空の第2の筒体と、を備えており、且つ、(b) 少なくとも前記第2の筒体が前記固定窓の車両後方部分から前記第1の筒体に合流する曲げ成形部、およびその第1の筒体および第2の筒体が互いに合流する合流部分が、熱処理によって高強度化されていることを特徴とする。
【0007】
第2発明は、第1発明の車体側部構造において、前記第1の筒体および前記第2の筒体の少なくとも一方には、前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間の中間位置に、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられる屈曲部が設けられていることを特徴とする。
【0008】
第3発明は、第1発明の車体側部構造において、前記第1の筒体および前記第2の筒体の少なくとも一方には、前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間の中間位置に、両側が前記熱処理により高強度化されることにより局部的に低強度とされ、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられる低強度部が設けられていることを特徴とする。
【0009】
第4発明は、第1発明〜第3発明の何れかの車体側部構造において、前記第1の筒体および前記第2の筒体には、それぞれ外周側へ突き出す突条がその筒体の長手方向に設けられていることを特徴とする。
【0010】
第5発明は、第4発明の車体側部構造において、前記第1の筒体および前記第2の筒体が並んで配置される前記合流部分と前記センターピラー側の端部との間では、各筒体に設けられた前記突条が互いに接するように重ね合わされて溶接されていることを特徴とする。
【0011】
第6発明は、第4発明または第5発明の車体側部構造において、前記第1の筒体および前記第2の筒体が互いに分岐している前記合流部分と前記フロントピラーロア側の端部との間では、各筒体に設けられた前記突条に前記固定窓が取り付けられることを特徴とする。
【0012】
第7発明は、第4発明の車体側部構造において、(a) 前記第1の筒体の前記突条に前記フロントガラスが取り付けられ、(b) 前記第2の筒体の前記突条にウェザーストリップが取り付けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
このような車体側部構造においては、固定窓が設けられる第1の筒体および第2の筒体が、それぞれフロントピラーロアおよびセンターピラー上部に跨がって配設されているため、前面衝突時等にそれ等の筒体の中間部分に生じる応力集中が緩和される。また、少なくとも第2の筒体の曲げ成形部、および第1の筒体および第2の筒体の合流部分が、熱処理によって高強度化されているため、応力集中が緩和されることと相まって、所定の強度を確保しつつそれ等の筒体を細くすることが可能となり、固定窓を大きくするなどして死角を小さくし、車両斜め前方の視認性を向上させることができる。
【0014】
第2発明では、第1の筒体および第2の筒体の少なくとも一方に屈曲部が設けられ、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられるが、屈曲部が設けられた中間位置は車両上方側へ膨出するように湾曲させられているため、その屈曲部が上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。第1の筒体および第2の筒体の何れか一方のみに屈曲部が設けられた場合、その一方の筒体が屈曲部を起点として車両上方側へ折れ曲がり変形させられると、他方の筒体に応力集中が生じて折れ曲がり変形させられるが、その他方の筒体も車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲しているため、一方の筒体と同様に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0015】
第3発明では、第1の筒体および第2の筒体の少なくとも一方に低強度部が設けられ、前面衝突時の荷重で優先的に曲げ変形させられるが、低強度部が設けられた中間位置は車両上方側へ膨出するように湾曲させられているため、その低強度部が上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。第1の筒体および第2の筒体の何れか一方のみに低強度部が設けられた場合、その一方の筒体が低強度部を起点として車両上方側へ折れ曲がり変形させられると、他方の筒体に応力集中が生じて折れ曲がり変形させられるが、その他方の筒体も車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲しているため、一方の筒体と同様に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0016】
第4発明では、第1の筒体および第2の筒体にそれぞれ外周側へ突き出す突条が設けられているため、例えば第5発明のように前記合流部分とセンターピラーとの間で第1の筒体および第2の筒体が並んで配置される部分で、各筒体に設けられた突条を互いに接するように重ね合わせて溶接することにより、それ等の筒体の強度を更に高めることができる。これにより、それ等の筒体を細くして車両斜め前方の視認性を更に高めることができる。
【0017】
第6発明では、合流部分とフロントピラーロアとの間で第1の筒体および第2の筒体が互いに分岐している部分では、それ等の筒体に設けられた突条に固定窓が取り付けられるため、その取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【0018】
第7発明では、第1の筒体に設けられた突条にフロントガラスが取り付けられ、第2の筒体に設けられた突条にウェザーストリップが取り付けられるため、それ等の取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明が適用された車両の左側部を示す斜視図である。
図2図1の車両の左側部の車体内部構造を示す斜視図である。
図3図2における III−III 矢視部分の断面図である。
図4図2におけるIV−IV矢視部分の断面図である。
図5】本発明の他の実施例を説明する図で、図2に対応する車体内部構造の斜視図である。
図6】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図2に対応する車体内部構造の斜視図である。
図7】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図2に対応する車体内部構造の斜視図である。
図8図7におけるVIII−VIII矢視部分の断面図である。
図9図7におけるIX−IX矢視部分の断面図である。
図10図7におけるX−X矢視部分の断面図である。
図11】本発明の更に別の実施例を説明する図で、図2に対応する車体内部構造の斜視図である。
図12図11における XII−XII 矢視部分の断面図である。
図13図11におけるXIII−XIII矢視部分の断面図である。
図14図11における XIV−XIV 矢視部分の断面図である。
図15】前面衝突時にフロントピラーに生じるモーメントを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の車体側部構造は、車両の左右両側に設けられる一対のフロントピラー部分に適用することが可能で、その両方の車体側部構造に適用することが望ましいが、左右の車体側部構造の何れか一方に適用するだけでも差し支えない。
【0021】
中空の第1および第2の筒体としては、円筒形状のパイプ材が好適に用いられるが、鋼板等の金属板材を円筒形状に丸めたものでも良いし、断面が楕円形や四角形、多角形等の筒体を採用することもできる。これ等の筒体は、合流部分とセンターピラー上部との間において略平行に配置され、例えば第1の筒体が第2の筒体の上方(斜め上方を含む)に位置するように上下配置されるが、車両幅方向に並列して位置するように水平配置することもできる。合流部分からセンターピラー側の端部までの間では、第1の筒体および第2の筒体は、何れも車両上方側へ膨出するように湾曲させられており、例えば滑らかに湾曲するように構成されるが、全体として湾曲形状であれば良く、複数の直線部分や折れ曲がり部分を含んでいても良い。第1の筒体および第2の筒体は、合流部分とセンターピラー側の端部との間で互いに接していても良いし、所定の間隔を隔てて配置されても良い。
【0022】
第2の筒体の曲げ成形部、および第1の筒体および第2の筒体の合流部分は熱処理によって高強度化されており、例えば所定形状に曲げ成形する際の加熱および曲げ加工後の急冷による熱処理(焼入れ)で高強度化することができるが、別工程で焼入れ等の熱処理を行って高強度化することも可能である。この熱処理は、上記曲げ成形部および合流部分だけでも良いが、第1の筒体および第2の筒体の全体を熱処理で高強度化しても良い。両端の取付部分については、相手(フロントピラーロアやセンターピラー)との接触状態を確保する上で高強度化しないようにしても良い。この熱処理による高強度化は、例えば筒体として高張力鋼を用いた場合、焼入れにより引張強度を1100MPa以上にすることが可能で、1500MPa程度が望ましい。未焼入れ部の引張強度は500〜700MPa程度である。
【0023】
第2発明および第3発明では、第1の筒体および第2の筒体の少なくとも一方に屈曲部或いは低強度部が設けられるが、第1の筒体および第2の筒体の何れか一方に設けるだけでも良いし、両方に設けることもできる。これ等の屈曲部或いは低強度部が設けられる中間位置は、上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられることにより車室内の乗員の安全性を確保できるように適宜定められ、例えば前面衝突時にフロントピラーに生じるモーメントが釣り合う位置に設定される。第3発明の低強度部は焼入れが行われない未焼入れ部で、例えば筒体を移動させながら高周波誘導加熱により局部的に加熱し、強度低下した加熱部に逐次曲げ加工を行い、急冷して形状凍結および高強度化する際に、加熱コイルへの通電を中断したり常温冷却(徐冷)したりすることによって任意の範囲に設けることができる。
【0024】
第4発明〜第7発明では、筒体の側面に外周側へ突き出す突条が設けられるが、この突条は、高張力鋼のパイプ材の場合、例えば曲げ成形する前にロール成形やプレス成形等によって形成することができる。突条の幅寸法(突出寸法)は適宜定めることができるが、例えばフロントガラスや固定窓を取り付ける場合10mm以上が望ましく、15mm程度が適当である。
【0025】
第5発明では、合流部分とセンターピラー側の端部との間で各筒体に設けられた突条が互いに接するように重ね合わされ、アーク溶接や抵抗溶接等により溶接されるが、重ね合わせ部の全長に亘って連続的に溶接しても良いし、断続的に溶接するだけでも良く、少なくとも一部が溶接されれば良い。
【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両の左側部10を示す斜視図で、フロントガラス12、フロントドア14、フロントフェンダー16、ルーフパネル17、および固定窓18を備えている。固定窓18はガラス等の透明な部材である。図2は、上記左側部10の車体内部構造を示す斜視図で、図3図2における III−III 矢視部分の断面図、図4図2におけるIV−IV矢視部分の断面図であり、フロントピラー20およびセンターピラー22を有する。フロントピラー20は、フロントピラーロア24と一対の第1の筒体26および第2の筒体28とを備えており、第1の筒体26および第2の筒体28は、フロントピラーロア24の上端部とセンターピラー22の上端部とに跨がって配設されている。すなわち、第1の筒体26および第2の筒体28は、従来のルーフサイドレールの一部を兼ねている。このフロントピラー20には前記フロントガラス12やフロントドア14、フロントフェンダー16、ルーフパネル17、固定窓18が取り付けられる。
【0027】
第1の筒体26および第2の筒体28は、何れも断面円形の高張力鋼のパイプ材にて構成されており、第1の筒体26は、前記固定窓18の上方位置を含めてフロントガラス12の側端縁に沿って設けられるとともに、車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲させられてセンターピラー22の上部に到達し、両端部がそれぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に固定されている。第2の筒体28は、固定窓18の車両後方側の端縁に沿って上下方向に設けられるとともに、上方へ向かうに従って車両後方側へ曲げられて第1の筒体26と平行になるように合流し、センターピラー22の上部に向かって第1の筒体26に沿って略平行に配設され、両端部がそれぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に固定されている。合流部分60からセンターピラー22側の端部までの間では、第1の筒体26および第2の筒体28はそれぞれ上方へ膨出するように滑らかに湾曲させられた湾曲形状を成しているとともに、第1の筒体26が第2の筒体28の上方乃至は車両内側の斜め上方になる位置関係で、互いに略平行に配設されている。第1の筒体26および第2の筒体28は、本実施例では径寸法および肉厚が同じであるが、例えば第2の筒体28の径寸法や肉厚を第1の筒体26より小さくするなど、適宜設定できる。
【0028】
フロントピラーロア24の上端は逆L字形状を成しており、車両前側の上方へ突き出す第1連結部30にブラケット32を介して第1の筒体26が溶接によって一体的に固定され、車両後側の後端角部に設けられた第2連結部34にブラケット36を介して第2の筒体28が溶接によって一体的に固定されている。第1の筒体26および第2の筒体28をフロントピラーロア24に溶接などで直接固定することもできるし、溶接した上で更にブラケットを用いて強固に固定するようにしても良い。溶接方法としては、アーク溶接や抵抗溶接が適当である。前記固定窓18は、このフロントピラーロア24の上端と第1の筒体26および第2の筒体28によって囲まれた部分に配設される。図4から明らかなように、第1の筒体26には、インナーパネル40が溶接によって一体的に固定されているとともに、そのインナーパネル40にはアウターパネル42が一体的に固定されており、第1の筒体26はそれ等のインナーパネル40およびアウターパネル42によって形成される筒形状の内部に配設されている。インナーパネル40およびアウターパネル42の両側部は、互いに重ね合わされてアーク溶接や抵抗溶接等より相互に一体的に接合されており、その一方の接合部44にシール部材45を介してフロントガラス12が固定され、分岐内側に位置する他方の接合部46にシール部材47を介して固定窓18が固定されている。固定窓18の第2の筒体28側の取付構造も、第1の筒体26側の取付構造と同様に構成される。なお、図4の符号48はフロントピラートリムである。
【0029】
第1の筒体26および第2の筒体28の反対側の端部は、共通のブラケット50を介してアーク溶接や抵抗溶接等によりセンターピラー22に一体的に固定されている。第1の筒体26および第2の筒体28をセンターピラー22に溶接などで直接固定することもできるし、溶接した上で更にブラケットを用いて強固に固定するようにしても良い。また、これ等の第1の筒体26および第2の筒体28は、その中間部、具体的には第2の筒体28が固定窓18の車両後側部分から曲げ成形されて第1の筒体26と略平行になる合流部分60の近傍においても、中間ブラケット52に溶接されて相互に一体的に連結されている。図3から明らかなように、中間ブラケット52の上端部は前記インナーパネル40およびアウターパネル42の接合部44に挟まれた状態で、抵抗溶接等によりその接合部44に一体的に固定されており、下端部は、インナーパネル40およびアウターパネル42の下側(ドア側)の接合部56に挟まれた状態で、抵抗溶接等により相互に一体的に固定されている。そして、一方の接合部44にはシール部材45を介してフロントガラス12が固定され、或いはルーフパネル17が固定される一方、他方の接合部56にはウェザーストリップ54が取り付けられる。ウェザーストリップ54はゴム等の弾性体製で、開閉されるフロントドア14との間が液密にシールされ、水や音等の侵入が抑制される。
【0030】
一方、上記第1の筒体26および第2の筒体28は、少なくとも前記合流部分60、および第2の筒体26が固定窓18の車両後方部分から第1の筒体26に合流するように曲げられた曲げ成形部62が、熱処理によって高強度化されている。図2において一点鎖線で囲んだ範囲QEが上記合流部分60および曲げ成形部62で、高強度化必要領域である。本実施例では、ブラケット32、36、50によってフロントピラーロア24、センターピラー22に固定される両端部を除いて、第1の筒体26および第2の筒体28の略全長に亘って熱処理が施され、高強度化されている。熱処理による高強度化は、例えば第1の筒体26、第2の筒体28を移動させながら高周波誘導加熱により局部的に900℃程度まで加熱し、強度低下した加熱部を逐次所定形状に曲げ成形した後、急冷することによって行われ、焼入れにより高強度化されるとともに形状が凍結される。加熱コイルへの通電の有無により、加熱範囲更には焼入れによる高強度化範囲を任意に設定でき、本実施例では両端部が未焼入れ状態とされる。第1の筒体26、第2の筒体28として高張力鋼のパイプ材が用いられる本実施例では、焼入れにより引張強度が1500MPa程度となり、フロントピラー20として必要な十分の強度が得られる。両端部の未焼入れ部分は引張強度が590MPa程度で、フロントピラーロア24およびセンターピラー22に密着するように変形させてブラケット32、36、50により強固に固定することができる。
【0031】
このような本実施例の車体側部構造においては、固定窓18が設けられる第1の筒体26および第2の筒体28が、それぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に跨がって配設されているため、前面衝突時等にそれ等の筒体26、28の中間部分に生じる応力集中が緩和される。また、第2の筒体28の曲げ成形部62、および第1の筒体26および第2の筒体28の合流部分60が、熱処理によって高強度化されているため、応力集中が緩和されることと相まって、所定の強度を確保しつつそれ等の筒体26、28の径寸法を細くすることができる。これにより、固定窓18を大きくするなどして死角を小さくし、車両斜め前方の視認性を向上させることができる。
【0032】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0033】
図5は、前記図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、基本的に図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体26に屈曲部70が設けられている点が相違する。屈曲部70は、車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲している第1の筒体26が、前面衝突時に屈曲部70を起点として車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようにするためのもので、本実施例ではプレス加工やベンダー加工等により車両下方側へ滑らかに小さく凸となるように湾曲させられている。本実施例では、屈曲部70においても円筒形状が維持されているが、第1の筒体26の断面を局部的に潰すようにして屈曲部70を設けることもできる。
【0034】
上記屈曲部70は、前記合流部分60とセンターピラー22側の端部との間の中間位置であって、本実施例では前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが略釣り合う位置に設けられている。図15は、前面衝突時の荷重Fによりフロントピラー20に生じるモーメントの解析図で、フロントガラス12が設けられる車両前側上部では車両外側へのモーメントが生じる一方、フロントドア14が配設される部分では車両内側へのモーメントが生じ、それ等の境界部分でモーメントが釣り合い、その釣り合い位置付近に屈曲部70が設けられている。このようにモーメントが釣り合う位置は、車両によって異なるが例えばフロントガラス12とルーフパネル17との境界付近である。そして、このようにモーメントが釣り合う位置に屈曲部70が設けられると、前面衝突時の荷重Fにより、第1の筒体26が一層確実に屈曲部70を起点として上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようになる。
【0035】
本実施例では、第1の筒体26の中間位置に屈曲部70が設けられ、前面衝突時の荷重でその屈曲部70が上方へ突き出すように優先的に折れ曲がり変形させられるため、車室内の乗員の安全性が確保される。また、このように第1の筒体26が屈曲部70を起点として車両上方側へ折れ曲がるように変形すると、第2の筒体28に応力集中が生じて略同じ位置で折れ曲がり変形させられるが、第2の筒体28も上記屈曲部70が設けられた部分では車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲しているため、第1の筒体26と同様に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0036】
なお、上記実施例では、第1の筒体26のみに屈曲部70が設けられていたが、第1の筒体26および第2の筒体28の両方に屈曲部を設けることもできるし、第2の筒体28のみに屈曲部を設けても良い。また、前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが釣り合う位置に屈曲部70が設けられているが、この屈曲部70を設ける中間位置は、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間において、前面衝突時に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられる範囲内で適宜定められる。
【0037】
図6は、前記図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、基本的に図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体26および第2の筒体28にそれぞれ低強度部72、74が設けられている点が相違する。図6において細かい斜線を付した部分が低強度部72、74である。この低強度部72、74は、その両側(筒体26、28の長手方向の両側)が熱処理により高強度化されることにより局部的に低強度とされ、前面衝突時に優先的に曲げ変形させられる部分で、本実施例では第1の筒体26、第2の筒体28を長手方向へ移動させながら高周波誘導加熱で900℃程度まで加熱して所定形状に曲げ成形した後、急冷して焼入れにより高強度化および形状凍結する際に、加熱コイルへの通電を中断することによって設けられる。すなわち、低強度部72、74は、部分的に焼入れによって高強度化されないようにした未焼入れ部である。加熱はそのまま行って、徐冷するようにしても良い。これ等の低強度部72、74は、図5の実施例における屈曲部70と同様に、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間の中間位置であって、本実施例では前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが略釣り合う位置に設けられており、両筒体26、28は、前面衝突時にそれぞれ低強度部72、74を起点として上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられる。
【0038】
本実施例では、第1の筒体26および第2の筒体28の中間位置にそれぞれ低強度部72、74が設けられ、前面衝突時の荷重でその低強度部72、74がそれぞれ上方へ突き出すように優先的に折れ曲がり変形させられるため、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0039】
なお、上記実施例では、第1の筒体26および第2の筒体28にそれぞれ低強度部72、74が設けられていたが、第1の筒体26および第2の筒体28の何れか一方に低強度部72または74を設けるだけでも良い。
【0040】
図7は、前記図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、図8図10は、それぞれ図7におけるVIII−VIII矢視部分、IX−IX矢視部分、X−X矢視部分の断面図であり、基本的に図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体80および第2の筒体82にそれぞれ外周側へ突き出す突条84、86が設けられている点が相違する。突条84、86は、第1の筒体80、第2の筒体82を曲げ形成する前にロール成形、プレス成形などで成形することが可能で、幅寸法(突出寸法)は約15mmであり、それぞれ軸方向の全長に設けられている。第1の筒体80および第2の筒体82は、前記実施例と同様に断面円形の高張力鋼のパイプ材にて構成されるが、ロール成形などで突条84、86を設けた後に所定の径寸法となるように、突条84、86の幅寸法を考慮して径寸法が設定され、前記各実施例よりも大き目の径寸法のパイプ材が用いられる。
【0041】
上記第1の筒体80は、突条84が下方へ突き出す姿勢で配置され、第2の筒体82は、突条86が上方へ突き出す姿勢で配置されており、それ等の第1の筒体80および第2の筒体82が略平行に配設される合流部分60からセンターピラー22側の部分では、図8に示されるように各筒体80、82に設けられた突条84、86が互いに平行に略密着するように重ね合わされ、その全長に亘ってアーク溶接や抵抗溶接等により連続的または断続的に溶接されて一体的に接合されている。また、合流部分60からフロントピラーロア24側の分岐部分では、図9図10に示されるように、それ等の突条84、86に前記アウターパネル42の側端部(分岐内側の端部)がそれぞれ密着するように重ね合わされ、連続的または断続的に溶接されて一体的に接合されており、その接合部88、90にシール部材47を介して固定窓18が取り付けられている。なお、インナーパネル40の固定窓18側の側端部(分岐内側の端部)は、第1の筒体80、第2の筒体82の円筒状部分にそれぞれ溶接により一体的に固定されている。
【0042】
本実施例では、第1の筒体80および第2の筒体82にそれぞれ外周側へ突き出す突条84、86が設けられており、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間で第1の筒体80および第2の筒体82が上下に並んで配置される部分では、各筒体80、82に設けられた突条84、86が互いに接するように重ね合わされて溶接されているため、それ等の筒体80、82の強度が更に高められる。これにより、それ等の筒体80、82を細くして車両斜め前方の視認性を更に向上させることができる。
【0043】
また、合流部分60とフロントピラーロア24との間で第1の筒体80および第2の筒体82が互いに分岐している部分では、それ等の筒体80、82に設けられた突条84、86に固定窓18が取り付けられるため、その取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【0044】
図11は、前記図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、図12図14は、それぞれ図11における XII−XII 矢視部分、XIII−XIII矢視部分、 XIV−XIV 矢視部分の断面図であり、基本的に図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体100および第2の筒体102にそれぞれ外周側へ突き出す突条104、106が設けられている点が相違する。突条104、106は、図7の実施例の突条84、86と同様にロール成形やプレス成形などで成形されているとともに、幅寸法(突出寸法)は約15mmであり、それぞれ軸方向の全長に設けられている。
【0045】
上記第1の筒体100は、突条104が車両の内側へ突き出す姿勢で配置され、第2の筒体102は、突条106が下方乃至は斜め外側へ突き出す姿勢で配置されており、それ等の第1の筒体100および第2の筒体102が略平行に配設される合流部分60からセンターピラー22側の部分では、図12に示されるように第1の筒体100の突条104に前記シール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106に前記ウェザーストリップ54が取り付けられている。第1の筒体100の突条104にはまた、ルーフパネル17が一体的に固定される。前記インナーパネル40およびアウターパネル42の側端部は、それぞれ第1の筒体100、第2の筒体102の円筒状部分に連続的または断続的に溶接されて一体的に固定されており、これにより第1の筒体100および第2の筒体102が互いに一体的に連結される。また、第1の筒体100および第2の筒体102の合流部分60からフロントピラーロア24側の分岐部分には、Y字型のブラケット108がそれ等の筒体100および102に跨がって溶接されており、互いに一体的に連結されている。
【0046】
上記合流部分60よりもフロントピラーロア24側の分岐部分では、図13図14に示されるように、インナーパネル40およびアウタパネル42の分岐内側の接合部46にシール部材47を介して固定窓18が取り付けられている。第1の筒体100の突条104にシール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106にウェザーストリップ54が取り付けられている点は、それ等の筒体100、102が略平行に配置されている図12の断面部分と同じである。
【0047】
本実施例では、第1の筒体100および第2の筒体102にそれぞれ外周側へ突き出す突条104、106が設けられており、第1の筒体100の突条104にシール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106にウェザーストリップ54が取り付けられているため、それ等の取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【0048】
なお、上記図7図14の実施例においても、図5図6の実施例と同様に屈曲部や低強度部を設け、前面衝突時に第1の筒体80、100や第2の筒体82、102が車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようにして、車室内の安全性を向上させることができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0050】
10:車両の左側部 12:フロントガラス 18:固定窓 20:フロントピラー 22:センターピラー 24:フロントピラーロア 26、80、100:第1の筒体 28、82、102:第2の筒体 54:ウェザーストリップ 60:合流部分 62:曲げ成形部 70:屈曲部 72、74:低強度部 84、86、104、106:突条
図1
図2
図3
図4
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図10
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