【実施例】
【0026】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。
図1は、本発明が適用された車両の左側部10を示す斜視図で、フロントガラス12、フロントドア14、フロントフェンダー16、ルーフパネル17、および固定窓18を備えている。固定窓18はガラス等の透明な部材である。
図2は、上記左側部10の車体内部構造を示す斜視図で、
図3は
図2における III−III 矢視部分の断面図、
図4は
図2におけるIV−IV矢視部分の断面図であり、フロントピラー20およびセンターピラー22を有する。フロントピラー20は、フロントピラーロア24と一対の第1の筒体26および第2の筒体28とを備えており、第1の筒体26および第2の筒体28は、フロントピラーロア24の上端部とセンターピラー22の上端部とに跨がって配設されている。すなわち、第1の筒体26および第2の筒体28は、従来のルーフサイドレールの一部を兼ねている。このフロントピラー20には前記フロントガラス12やフロントドア14、フロントフェンダー16、ルーフパネル17、固定窓18が取り付けられる。
【0027】
第1の筒体26および第2の筒体28は、何れも断面円形の高張力鋼のパイプ材にて構成されており、第1の筒体26は、前記固定窓18の上方位置を含めてフロントガラス12の側端縁に沿って設けられるとともに、車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲させられてセンターピラー22の上部に到達し、両端部がそれぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に固定されている。第2の筒体28は、固定窓18の車両後方側の端縁に沿って上下方向に設けられるとともに、上方へ向かうに従って車両後方側へ曲げられて第1の筒体26と平行になるように合流し、センターピラー22の上部に向かって第1の筒体26に沿って略平行に配設され、両端部がそれぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に固定されている。合流部分60からセンターピラー22側の端部までの間では、第1の筒体26および第2の筒体28はそれぞれ上方へ膨出するように滑らかに湾曲させられた湾曲形状を成しているとともに、第1の筒体26が第2の筒体28の上方乃至は車両内側の斜め上方になる位置関係で、互いに略平行に配設されている。第1の筒体26および第2の筒体28は、本実施例では径寸法および肉厚が同じであるが、例えば第2の筒体28の径寸法や肉厚を第1の筒体26より小さくするなど、適宜設定できる。
【0028】
フロントピラーロア24の上端は逆L字形状を成しており、車両前側の上方へ突き出す第1連結部30にブラケット32を介して第1の筒体26が溶接によって一体的に固定され、車両後側の後端角部に設けられた第2連結部34にブラケット36を介して第2の筒体28が溶接によって一体的に固定されている。第1の筒体26および第2の筒体28をフロントピラーロア24に溶接などで直接固定することもできるし、溶接した上で更にブラケットを用いて強固に固定するようにしても良い。溶接方法としては、アーク溶接や抵抗溶接が適当である。前記固定窓18は、このフロントピラーロア24の上端と第1の筒体26および第2の筒体28によって囲まれた部分に配設される。
図4から明らかなように、第1の筒体26には、インナーパネル40が溶接によって一体的に固定されているとともに、そのインナーパネル40にはアウターパネル42が一体的に固定されており、第1の筒体26はそれ等のインナーパネル40およびアウターパネル42によって形成される筒形状の内部に配設されている。インナーパネル40およびアウターパネル42の両側部は、互いに重ね合わされてアーク溶接や抵抗溶接等より相互に一体的に接合されており、その一方の接合部44にシール部材45を介してフロントガラス12が固定され、分岐内側に位置する他方の接合部46にシール部材47を介して固定窓18が固定されている。固定窓18の第2の筒体28側の取付構造も、第1の筒体26側の取付構造と同様に構成される。なお、
図4の符号48はフロントピラートリムである。
【0029】
第1の筒体26および第2の筒体28の反対側の端部は、共通のブラケット50を介してアーク溶接や抵抗溶接等によりセンターピラー22に一体的に固定されている。第1の筒体26および第2の筒体28をセンターピラー22に溶接などで直接固定することもできるし、溶接した上で更にブラケットを用いて強固に固定するようにしても良い。また、これ等の第1の筒体26および第2の筒体28は、その中間部、具体的には第2の筒体28が固定窓18の車両後側部分から曲げ成形されて第1の筒体26と略平行になる合流部分60の近傍においても、中間ブラケット52に溶接されて相互に一体的に連結されている。
図3から明らかなように、中間ブラケット52の上端部は前記インナーパネル40およびアウターパネル42の接合部44に挟まれた状態で、抵抗溶接等によりその接合部44に一体的に固定されており、下端部は、インナーパネル40およびアウターパネル42の下側(ドア側)の接合部56に挟まれた状態で、抵抗溶接等により相互に一体的に固定されている。そして、一方の接合部44にはシール部材45を介してフロントガラス12が固定され、或いはルーフパネル17が固定される一方、他方の接合部56にはウェザーストリップ54が取り付けられる。ウェザーストリップ54はゴム等の弾性体製で、開閉されるフロントドア14との間が液密にシールされ、水や音等の侵入が抑制される。
【0030】
一方、上記第1の筒体26および第2の筒体28は、少なくとも前記合流部分60、および第2の筒体26が固定窓18の車両後方部分から第1の筒体26に合流するように曲げられた曲げ成形部62が、熱処理によって高強度化されている。
図2において一点鎖線で囲んだ範囲QEが上記合流部分60および曲げ成形部62で、高強度化必要領域である。本実施例では、ブラケット32、36、50によってフロントピラーロア24、センターピラー22に固定される両端部を除いて、第1の筒体26および第2の筒体28の略全長に亘って熱処理が施され、高強度化されている。熱処理による高強度化は、例えば第1の筒体26、第2の筒体28を移動させながら高周波誘導加熱により局部的に900℃程度まで加熱し、強度低下した加熱部を逐次所定形状に曲げ成形した後、急冷することによって行われ、焼入れにより高強度化されるとともに形状が凍結される。加熱コイルへの通電の有無により、加熱範囲更には焼入れによる高強度化範囲を任意に設定でき、本実施例では両端部が未焼入れ状態とされる。第1の筒体26、第2の筒体28として高張力鋼のパイプ材が用いられる本実施例では、焼入れにより引張強度が1500MPa程度となり、フロントピラー20として必要な十分の強度が得られる。両端部の未焼入れ部分は引張強度が590MPa程度で、フロントピラーロア24およびセンターピラー22に密着するように変形させてブラケット32、36、50により強固に固定することができる。
【0031】
このような本実施例の車体側部構造においては、固定窓18が設けられる第1の筒体26および第2の筒体28が、それぞれフロントピラーロア24およびセンターピラー22に跨がって配設されているため、前面衝突時等にそれ等の筒体26、28の中間部分に生じる応力集中が緩和される。また、第2の筒体28の曲げ成形部62、および第1の筒体26および第2の筒体28の合流部分60が、熱処理によって高強度化されているため、応力集中が緩和されることと相まって、所定の強度を確保しつつそれ等の筒体26、28の径寸法を細くすることができる。これにより、固定窓18を大きくするなどして死角を小さくし、車両斜め前方の視認性を向上させることができる。
【0032】
次に、本発明の他の実施例を説明する。なお、以下の実施例において前記実施例と実質的に共通する部分には同一の符号を付して詳しい説明を省略する。
【0033】
図5は、前記
図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、基本的に
図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体26に屈曲部70が設けられている点が相違する。屈曲部70は、車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲している第1の筒体26が、前面衝突時に屈曲部70を起点として車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようにするためのもので、本実施例ではプレス加工やベンダー加工等により車両下方側へ滑らかに小さく凸となるように湾曲させられている。本実施例では、屈曲部70においても円筒形状が維持されているが、第1の筒体26の断面を局部的に潰すようにして屈曲部70を設けることもできる。
【0034】
上記屈曲部70は、前記合流部分60とセンターピラー22側の端部との間の中間位置であって、本実施例では前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが略釣り合う位置に設けられている。
図15は、前面衝突時の荷重Fによりフロントピラー20に生じるモーメントの解析図で、フロントガラス12が設けられる車両前側上部では車両外側へのモーメントが生じる一方、フロントドア14が配設される部分では車両内側へのモーメントが生じ、それ等の境界部分でモーメントが釣り合い、その釣り合い位置付近に屈曲部70が設けられている。このようにモーメントが釣り合う位置は、車両によって異なるが例えばフロントガラス12とルーフパネル17との境界付近である。そして、このようにモーメントが釣り合う位置に屈曲部70が設けられると、前面衝突時の荷重Fにより、第1の筒体26が一層確実に屈曲部70を起点として上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようになる。
【0035】
本実施例では、第1の筒体26の中間位置に屈曲部70が設けられ、前面衝突時の荷重でその屈曲部70が上方へ突き出すように優先的に折れ曲がり変形させられるため、車室内の乗員の安全性が確保される。また、このように第1の筒体26が屈曲部70を起点として車両上方側へ折れ曲がるように変形すると、第2の筒体28に応力集中が生じて略同じ位置で折れ曲がり変形させられるが、第2の筒体28も上記屈曲部70が設けられた部分では車両上方側へ膨出するように滑らかに湾曲しているため、第1の筒体26と同様に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられ、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0036】
なお、上記実施例では、第1の筒体26のみに屈曲部70が設けられていたが、第1の筒体26および第2の筒体28の両方に屈曲部を設けることもできるし、第2の筒体28のみに屈曲部を設けても良い。また、前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが釣り合う位置に屈曲部70が設けられているが、この屈曲部70を設ける中間位置は、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間において、前面衝突時に車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられる範囲内で適宜定められる。
【0037】
図6は、前記
図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、基本的に
図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体26および第2の筒体28にそれぞれ低強度部72、74が設けられている点が相違する。
図6において細かい斜線を付した部分が低強度部72、74である。この低強度部72、74は、その両側(筒体26、28の長手方向の両側)が熱処理により高強度化されることにより局部的に低強度とされ、前面衝突時に優先的に曲げ変形させられる部分で、本実施例では第1の筒体26、第2の筒体28を長手方向へ移動させながら高周波誘導加熱で900℃程度まで加熱して所定形状に曲げ成形した後、急冷して焼入れにより高強度化および形状凍結する際に、加熱コイルへの通電を中断することによって設けられる。すなわち、低強度部72、74は、部分的に焼入れによって高強度化されないようにした未焼入れ部である。加熱はそのまま行って、徐冷するようにしても良い。これ等の低強度部72、74は、
図5の実施例における屈曲部70と同様に、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間の中間位置であって、本実施例では前面衝突時にフロントピラー20に生じるモーメントが略釣り合う位置に設けられており、両筒体26、28は、前面衝突時にそれぞれ低強度部72、74を起点として上方へ突き出すように折れ曲がり変形させられる。
【0038】
本実施例では、第1の筒体26および第2の筒体28の中間位置にそれぞれ低強度部72、74が設けられ、前面衝突時の荷重でその低強度部72、74がそれぞれ上方へ突き出すように優先的に折れ曲がり変形させられるため、車室内の乗員の安全性が確保される。
【0039】
なお、上記実施例では、第1の筒体26および第2の筒体28にそれぞれ低強度部72、74が設けられていたが、第1の筒体26および第2の筒体28の何れか一方に低強度部72または74を設けるだけでも良い。
【0040】
図7は、前記
図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、
図8〜
図10は、それぞれ
図7におけるVIII−VIII矢視部分、IX−IX矢視部分、X−X矢視部分の断面図であり、基本的に
図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体80および第2の筒体82にそれぞれ外周側へ突き出す突条84、86が設けられている点が相違する。突条84、86は、第1の筒体80、第2の筒体82を曲げ形成する前にロール成形、プレス成形などで成形することが可能で、幅寸法(突出寸法)は約15mmであり、それぞれ軸方向の全長に設けられている。第1の筒体80および第2の筒体82は、前記実施例と同様に断面円形の高張力鋼のパイプ材にて構成されるが、ロール成形などで突条84、86を設けた後に所定の径寸法となるように、突条84、86の幅寸法を考慮して径寸法が設定され、前記各実施例よりも大き目の径寸法のパイプ材が用いられる。
【0041】
上記第1の筒体80は、突条84が下方へ突き出す姿勢で配置され、第2の筒体82は、突条86が上方へ突き出す姿勢で配置されており、それ等の第1の筒体80および第2の筒体82が略平行に配設される合流部分60からセンターピラー22側の部分では、
図8に示されるように各筒体80、82に設けられた突条84、86が互いに平行に略密着するように重ね合わされ、その全長に亘ってアーク溶接や抵抗溶接等により連続的または断続的に溶接されて一体的に接合されている。また、合流部分60からフロントピラーロア24側の分岐部分では、
図9、
図10に示されるように、それ等の突条84、86に前記アウターパネル42の側端部(分岐内側の端部)がそれぞれ密着するように重ね合わされ、連続的または断続的に溶接されて一体的に接合されており、その接合部88、90にシール部材47を介して固定窓18が取り付けられている。なお、インナーパネル40の固定窓18側の側端部(分岐内側の端部)は、第1の筒体80、第2の筒体82の円筒状部分にそれぞれ溶接により一体的に固定されている。
【0042】
本実施例では、第1の筒体80および第2の筒体82にそれぞれ外周側へ突き出す突条84、86が設けられており、合流部分60とセンターピラー22側の端部との間で第1の筒体80および第2の筒体82が上下に並んで配置される部分では、各筒体80、82に設けられた突条84、86が互いに接するように重ね合わされて溶接されているため、それ等の筒体80、82の強度が更に高められる。これにより、それ等の筒体80、82を細くして車両斜め前方の視認性を更に向上させることができる。
【0043】
また、合流部分60とフロントピラーロア24との間で第1の筒体80および第2の筒体82が互いに分岐している部分では、それ等の筒体80、82に設けられた突条84、86に固定窓18が取り付けられるため、その取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【0044】
図11は、前記
図2に対応する車両左側部10の車体内部構造の斜視図で、
図12〜
図14は、それぞれ
図11における XII−XII 矢視部分、XIII−XIII矢視部分、 XIV−XIV 矢視部分の断面図であり、基本的に
図2の実施例と同様に構成されているが、第1の筒体100および第2の筒体102にそれぞれ外周側へ突き出す突条104、106が設けられている点が相違する。突条104、106は、
図7の実施例の突条84、86と同様にロール成形やプレス成形などで成形されているとともに、幅寸法(突出寸法)は約15mmであり、それぞれ軸方向の全長に設けられている。
【0045】
上記第1の筒体100は、突条104が車両の内側へ突き出す姿勢で配置され、第2の筒体102は、突条106が下方乃至は斜め外側へ突き出す姿勢で配置されており、それ等の第1の筒体100および第2の筒体102が略平行に配設される合流部分60からセンターピラー22側の部分では、
図12に示されるように第1の筒体100の突条104に前記シール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106に前記ウェザーストリップ54が取り付けられている。第1の筒体100の突条104にはまた、ルーフパネル17が一体的に固定される。前記インナーパネル40およびアウターパネル42の側端部は、それぞれ第1の筒体100、第2の筒体102の円筒状部分に連続的または断続的に溶接されて一体的に固定されており、これにより第1の筒体100および第2の筒体102が互いに一体的に連結される。また、第1の筒体100および第2の筒体102の合流部分60からフロントピラーロア24側の分岐部分には、Y字型のブラケット108がそれ等の筒体100および102に跨がって溶接されており、互いに一体的に連結されている。
【0046】
上記合流部分60よりもフロントピラーロア24側の分岐部分では、
図13、
図14に示されるように、インナーパネル40およびアウタパネル42の分岐内側の接合部46にシール部材47を介して固定窓18が取り付けられている。第1の筒体100の突条104にシール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106にウェザーストリップ54が取り付けられている点は、それ等の筒体100、102が略平行に配置されている
図12の断面部分と同じである。
【0047】
本実施例では、第1の筒体100および第2の筒体102にそれぞれ外周側へ突き出す突条104、106が設けられており、第1の筒体100の突条104にシール部材45を介してフロントガラス12が取り付けられ、第2の筒体102の突条106にウェザーストリップ54が取り付けられているため、それ等の取付強度を維持しつつ取付構造を簡略化して車両重量を低減できる。
【0048】
なお、上記
図7〜
図14の実施例においても、
図5、
図6の実施例と同様に屈曲部や低強度部を設け、前面衝突時に第1の筒体80、100や第2の筒体82、102が車両上方側へ突き出すように折れ曲がり変形させられるようにして、車室内の安全性を向上させることができる。
【0049】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、これ等はあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。